• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1393094
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-02 
確定日 2022-10-31 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6913891号発明「タイル施工方法及び接着剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6913891号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、〔6−10〕について訂正することを認める。 特許第6913891号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6913891号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、令和2年7月2日に出願され、令和3年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行された。
その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年2月 2日 :特許異議申立人鈴木幸子(以下「申立人」とい
う。)による請求項1ないし10に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和4年4月28日付け:取消理由通知
同年7月11日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年8月10日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和4年7月11日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「施工面に、硬化後の23℃における貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、」
とあるのを、
「施工面に、硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に、
「硬化後の23℃における貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、」
とあるのを、
「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、」
に訂正する(請求項6の記載を直接的または間接的に引用する請求項7〜10も同様に訂正する)。

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の貯蔵弾性率について、訂正前の「硬化後の23℃における」ものであることに加えて「測定周波数1Hzでの」ものであることを特定して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
願書に添付した明細書(以下、特許請求の範囲及び図面の記載と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0107】には、
「3.評価
(1)貯蔵弾性率
組成物を用い、厚み1.5mmの塗膜を作製し、この塗膜について、湿気硬化組成物では23℃、50%RHで28日間養生処理を行い、熱硬化組成物では100℃で60分硬化処理を行った。硬化処理後の塗膜から、幅5mm、長さ30mm〜40mmの試験片を作製した。動的粘弾性測定装置(セイコーインスツル社製、DMS6100)を用い、下記に示す条件で、この試験片の23℃における貯蔵弾性率を測定した。
・・・
周波数:1Hz」との記載がある。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アのとおり、発明を特定する事項を限定付加する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項6の貯蔵弾性率について、訂正前の「硬化後の23℃における」ものであることに加えて「測定周波数1Hzでの」ものであることを特定して減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記(1)イ及びウにおいて検討したとおり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正の単位について
訂正前の請求項1〜5について、請求項2〜5は、これらの請求項が直接又は間接的に引用する請求項1の記載を訂正する訂正事項1によって連動して訂正されるから、訂正前の請求項1〜5に対応する訂正後の請求項1〜5は、特許法120条の4第4項に規定する一群の請求項である。そうすると、訂正事項1は、一群の請求項1〜5についてされている。
また、訂正前の請求項6〜10について、請求項7〜10は、これらの請求項が直接又は間接的に引用する請求項6の記載を訂正する訂正事項2によって連動して訂正されるから、訂正前の請求項6〜10に対応する訂正後の請求項6〜10は、特許法120条の4第4項に規定する一群の請求項である。そうすると、訂正事項2は、一群の請求項6〜10についてされている。
したがって、訂正事項1、訂正事項2は一群の請求項ごとにされている。

3 小括
以上のとおり、本件訂正における訂正事項1及び2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕、〔6−10〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に合わせて「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
施工面に、硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、
前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるタイル施工方法。
【請求項2】
前記施工面が継ぎ目を有し、
前記タイルを前記継ぎ目に重ねて接着する請求項1に記載のタイル施工方法。
【請求項3】
前記継ぎ目にはシーリング材が充填されたシーリング部が形成されており、
前記タイルを前記シーリング部に重ねて接着する請求項2に記載のタイル施工方法。
【請求項4】
前記タイルを目地の間隔をあけて施工面に接着し、前記目地に前記接着剤組成物の硬化物が露出する請求項1から3のいずれか一項に記載のタイル施工方法。
【請求項5】
前記接着剤組成物のJIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上であり、かつ凝集破壊率が75%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載のタイル施工方法。
【請求項6】
JIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上かつ凝集破壊率が75%以上であり、硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、
空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であり、
タイルの接着に用いられる接着剤組成物。
【請求項7】
架橋性シリル基を有する重合体を含有し、
前記重合体が、ポリオキシレン骨格及びポリ(メタ)アクリレート骨格の少なくとも一方と、1分子中に1.3個以上の架橋性シリル基とを有し、
空気中の湿気で硬化する請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
可塑剤をさらに含有し、前記重合体100質量部に対する前記可塑剤の割合が30質量部以上80質量部以下である請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
エポキシ化合物及びアミノシラン化合物の少なくとも一方をさらに含有する請求項7又は8に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
エポキシ化合物及びケチミン化合物をさらに含有する請求項7又は8に記載の接着剤組成物。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし10に係る発明に対して、証拠として、以下の甲第1号証ないし甲第15号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てた。
(1)本件特許の訂正前の請求項1、4ないし10に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)本件特許の訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証ないし甲第15号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(証拠一覧)
甲第1号証 :橋向秀治他、
「弾性接着剤を用いた床タイル張り仕上げの性能評価」、
日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、
第907〜908頁、2014年9月
甲第2号証 :秋本雅人、「内・外装タイル張り用弾性接着剤」、
日本接着学会誌、第42巻第5号188〜193頁、
平成18年5月1日
甲第3号証 :特開2015−222007号公報
甲第4号証 :特開平6−101319号公報
甲第5号証 :特開2008−255216号公報
甲第6号証 :一般財団法人日本規格協会編、「JIS A5557:2
006 外装タイル張り用有機系接着剤」及び「A555
7:2010 外装タイル張り用有機系接着剤(追補1)
」、JISハンドブック 29 接着 2020、
第673〜685頁、2020年1月31日
甲第7号証 :特開2008−31277号公報
甲第8号証 :特開2004−124092号公報
甲第9号証 :特開2019−199781号公報
甲第10号証:特開平10−195151号公報
甲第11号証:一般社団法人 全国タイル業協会、
「TILE DETAIL 木造外壁タイル張りの手引き
」、2018年6月発行
甲第12号証:特開2012−207393号公報
甲第13号証:特開平11−190117号公報
甲第14号証:特開昭63−236856号公報
甲第15号証:実公平2−4192号公報
(以下、「甲第1号証」を「甲1」等ということがある。)

2 取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が令和4年4月28日付けで本件訂正前の本件特許の請求項1〜10について特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許の訂正前の請求項1、5及び6に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)本件特許の訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、または、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 取消理由通知で通知した取消理由についての当審の判断
1 各証拠及び参考文献の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「1.はじめに
床タイル張り仕上げの問題点として、施工性や躯体ひび割れに伴うタイルのひび割れが上げられる。弾性接着剤で床タイル施工をすることで、躯体ひび割れによるタイル割れを抑制が可能である1)。しかし、外部衝撃による割れに関しては、弾性接着剤での施工の場合発生しやすい。
本報では、床タイル張り用弾性接着剤の適用性を確認した。」(第907頁左欄上段)
(イ)「2.試験方法
2.1 使用接着剤
表1に示す6種の接着剤にて試験を実施した。

」(第907頁左欄中段)

イ 甲1に記載された発明
上記アからみて、甲1には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲1発明
「成分が1液系変性シリコン樹脂であり、
粘弾性測定装置DMS6100(エスエスアイナノテクノロジー製)にて養生23℃50%RH44日で測定した弾性率が8.7MPa/23℃であり、
用途が内外装タイル用である弾性接着剤。」
(イ)甲1方法発明
甲1は、用途が「内外装タイル用」であり、タイルを施工面に接着剤を用いて接着することは自明であるから、甲1には、実質的に、施工面に、タイルを接着するタイル施工方法が記載されていると認められる。
そうすると、甲1には、以下の甲1方法発明が記載されていると認められる。
「施工面に、タイルを接着するタイル施工方法であって、
接着剤は、
成分が1液系変性シリコン樹脂であり、
粘弾性測定装置DMS6100(エスエスアイナノテクノロジー製)にて養生23℃50%RH44日で測定した弾性率が8.7MPa/23℃であり、
用途が内外装タイル用である弾性接着剤である、タイル施工方法。」

(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には次の事項が記載されている。
(ア)「1.はじめに
・・・本報では,こうした弾性接着剤による内・外装タイル張りの現状を報告する。」(第188頁左欄第1行〜最下行)
(イ)「2.内外装タイル用弾性接着剤の構成
2.1 弾性接着剤の基本構成
弾性接着剤は,ゴム状弾性を有することを特徴とした接着剤である。現在までこの「ゴム状弾性」について数値的な定義はないが,おおよそヤング率1.0〜100N/mm2程度の物性値を有するものが一般的である2,3)。化学的には,・・・ポリエーテル,ポリシロキサン,ポリサルファイド等を主骨格とし,反応性シリル基,イソシアネート基などを導入することにより常温で架橋反応可能なポリマーを主成分として構成されている。」(第188頁右欄第1〜11行)
(ウ)「2.2 変性シリコーン樹脂系弾性接着剤
内・外装タイル用弾性接着剤としては,ポリオキシプロピレンを主骨格としジメトキシシリル基を反応基として持つ変性シリコーン樹脂が使用された歴史も古く,最も広く一般に使用されている。図1に変性シリコーン樹脂の一般式を示す。

変性シリコーン樹脂系接着剤については,一定の比率でエポキシ樹脂を併用して硬化させることにより,変性シリコーンの柔軟なマトリックス相の中にエポキシ樹脂ドメインが分散した海島構造を形成させることが出来る。・・・
この系統の接着剤は,・・・エポキシ樹脂の硬化剤としてエナミン,ケチミンといったポットライフの非常に長いブロック型の硬化剤を用いることで,常温で安定な一成分型の接着剤を得ることが出来る4)。・・・
また,ポリマーとしての安定性と種々の樹脂に対する幅広い相溶性から,配合可能な樹脂,可塑剤,希釈剤,充填材などの幅が広く,難燃性,高対候性などといった付加価値を比較的容易に製品に与えることが出来る。・・・」(第188頁右欄第12行〜第189頁左欄最下行)
(エ)「3.5 接着剤の物性変化
弾性接着剤については,その普及にともない,実建物において一定時間経過後の接着剤サンプルが入手できるようになった。図6及び図7は,こうした建物から採取した弾性接着剤自身のサンプルを使用して動的粘弾性挙動を測定したものである。・・・図7は変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤である。いずれにおいても,初期と比較して粘弾性挙動に大きな変化は認められなかった。・・・」(第192頁右欄第25〜33行)
(オ)図7は以下のとおり。


」(第193頁左欄下段)

上記図7からは、引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度であることが看取される。

イ 甲2に記載された発明
上記アからみて、甲2には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲2発明
「弾性接着剤による内・外装タイル張りに関し、建物から採取した弾性接着剤であって、変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤であり、動的粘弾性挙動を測定した結果、引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度である、弾性接着剤。」
(イ)甲2方法発明
甲2は、「弾性接着剤による内・外装タイル張り」の現状を報告する論文であり、タイルを施工面に接着剤を用いて接着することは自明であるから、実質的に、施工面に、タイルを接着するタイル施工方法が記載されているといえる。
そうすると、甲2には、以下の甲2方法発明が記載されていると認められる。
「施工面に、タイルを接着するタイル施工方法であって、建物から採取した弾性接着剤は、変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤であり、動的粘弾性挙動を測定した結果、引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度である、タイル施工方法。」

(3)甲3
ア 甲3の記載
甲3には次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイド及び硬化触媒を含有する湿気硬化型接着剤100重量部に水0.5〜10重量部を添加する水添加工程と、上記水が添加された上記湿気硬化型接着剤を金属パネルに塗工し、上記金属パネル上に上記湿気硬化型接着剤を介してタイルを貼り合わせる貼合工程と、上記湿気硬化型接着剤を加熱、硬化させる硬化工程とを含むことを特徴とする外壁パネルの製造方法。
・・・
【請求項3】
エポキシ樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の外壁パネルの製造方法。
【請求項4】
加水分解性シリル基を有する(メタ)アクリル系重合体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の外壁パネルの製造方法。」
(イ)「【0011】
湿気硬化型接着剤は、加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイドを含有する。ポリアルキレンオキサイドが有している加水分解性シリル基は、湿気などの水分によって加水分解してシラノール基を形成した後、硬化触媒の作用によりシラノール基同士が縮重合することによってシロキサン結合を形成することができる。これにより、ポリアルキレンオキサイドが架橋構造を形成して、湿気硬化型接着剤が硬化することにより、ゴム状の弾性体が得られる。なお、シラノール基とは、ケイ素原子に直接結合しているヒドロキシ基(≡Si−OH)を意味する。
【0015】
加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイドには、湿気硬化型接着剤が硬化し易くなり、硬度も発現し易くなるので、1分子中に数平均で2個以上の加水分解性シリル基を有していることが好ましい。加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイドにおいて、1分子中における加水分解性シリル基の数平均は、湿気硬化型接着剤を硬化させた硬化物の架橋密度が高くなりすぎるのを防止して優れた湿気透過性を維持して、湿気硬化型接着剤の優れた硬化速度を維持することができるので、2.0〜4.0個が好ましく、2.0〜3.0個がより好ましい。」
(ウ)「【0062】
1分子中に数平均で2.2個の加水分解性シリル基を有している加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイド(カネカ社製商品名「MSポリマーS−303」、数平均分子量:20000)100重量部、(メタ)アクリル系重合体30重量部、有機錫系化合物(日東化成社製商品名「ネオスタンU−130」)2重量部、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 商品名「エピコート828」)10重量部、ケチミン化合物(日東化成社製商品名「エポニットK−100」)5重量部、接着付与剤としてグリシドキシトリメトキシシラン(信越化学社製 商品名「KBM−403」)4重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]2重量部及び充填材としてコロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製商品名「CCR」)70重量部をプラネタリーミキサーに供給して真空雰囲気下にて60分間に亘って混練して湿気硬化型接着剤を得た。得られた湿気硬化型接着剤は、その粘度が45Pa・s、チクソトロピー指数が44であった。
【0063】
得られた湿気硬化型接着剤100重量部に表1に示した量の水を添加した上で湿気硬化型接着剤を混練して、湿気硬化型接着剤中に水を均一に分散させた。湿気硬化型接着剤中に水を分散させてから10分以内に、湿気硬化型接着剤を溶融亜鉛メッキ鋼板上に厚み0.6mmにて塗工した。次に、溶融亜鉛メッキ鋼板上に湿気硬化型接着剤を塗工した後直ちに、湿気硬化型接着剤上に一辺が4.5cmの平面正方形状の磁器製モザイクタイルを縦横に互いに1cm間隔を存して碁盤目状に貼り合わせて積層体を作製した。上述と同様の要領で積層体を5個作製した。湿気硬化型接着剤に水を添加してから、湿気硬化型接着剤上に磁器製モザイクタイルを貼り合わせて積層体を作製するまでに要した時間は15分であった。
【0064】
しかる後、積層体をそれぞれ、表1に示した加熱温度に表1に示した加熱時間に亘って加熱して、湿気硬化型接着剤を加熱硬化促進し、溶融亜鉛メッキ鋼板上に湿気硬化型接着剤の硬化物を介して磁器製モザイクタイルを一体化してなる外壁パネルを作製した。」

イ 甲3に記載された発明
上記アからみて、甲3には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲3方法発明
「金属パネル上に湿気硬化型接着剤を介してタイルを貼り合わせる外壁パネルの製造方法であって、
溶融亜鉛メッキ鋼板上に湿気硬化型接着剤を塗工した後直ちに、湿気硬化型接着剤上に一辺が4.5cmの平面正方形状の磁器製モザイクタイルを縦横に互いに1cm間隔を存して碁盤目状に貼り合わせて外壁パネルを作製する、
外壁パネルの製造方法。」
(イ)甲3発明
「甲3方法発明に用いる湿気硬化型接着剤。」

(4)甲4
ア 甲4の記載
甲4には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 外壁の表面に耐候性湿気硬化型接着剤を一定の厚さに塗付して表面化粧板を接着し、そのまま目地を打たずに外壁として使用することを特徴とする外壁の化粧方法。
・・・
【請求項3】 上記耐候性湿気硬化型接着剤が、a)分子中に1個以上の反応性珪素基を有する高分子化合物(A)及びその硬化促進剤(B)よりなるシリコーン系及び/又は変成シリコーン系接着剤、及び/又はb)上記(A)及び/又は(B)とエポキシ基を有する化合物(C)およびその硬化剤(D)の混合物よりなる変成シリコーン系エポキシ接着剤であり、上記a)及び/又はb)に、さらにc)分子末端に反応性珪素を有するアクリル酸エステル系重合体または共重合体及び/又はメタクリル酸エルテル系重合体または共重合体、及び/またはd)分子中に少なくとも1個以上の反応性珪素と1個以上のアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含む下記式(I)で示される化合物(E)を配合することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。」
(イ)「【0023】図1は、本発明方法によって形成した外壁の断面構造の一例を示すもので、基材(外壁下地又は建材パネル)2の表面に耐候性湿気硬化型接着剤14を一定の厚さに均一に塗付し、タイル、石材等の表面化粧板4を接着し、そのまま目地を打たずに外壁として使用する。」
(ウ)【図1】は以下のとおり。



上記(イ)の記載を踏まえると、上記【図1】からは、基材である外壁下地2の表面に耐候性湿気硬化型接着剤14を一定の厚さに均一に塗付し、タイル等の表面化粧板4を、目地の間隔をあけて接着し、目地に耐候性湿気硬化型接着剤14の組成物の硬化物が露出することが看取される。

イ 甲4に記載された発明
上記アから、甲4には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲4方法発明
「基材である外壁下地2の表面に耐候性湿気硬化型接着剤14を一定の厚さに均一に塗付し、タイル等の表面化粧板4を接着する方法であって、
耐候性湿気硬化型接着剤が、a)分子中に1個以上の反応性珪素基を有する高分子化合物(A)及びその硬化促進剤(B)よりなるシリコーン系及び/又は変成シリコーン系接着剤、及び/又はb)上記(A)及び/又は(B)とエポキシ基を有する化合物(C)およびその硬化剤(D)の混合物よりなる変成シリコーン系エポキシ接着剤である、
方法。」
(イ)甲4発明
「甲4方法発明に用いる耐候性湿気硬化型接着剤。」

(5)甲5
ア 甲5の記載
甲5には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
エチレン性不飽和結合を有するポリオールと触媒とを含有する成分(A)と、有機イソシアネート化合物及び/又はイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを含有する成分(B)からなり、有機溶剤を含まず、成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基の当量比がOH/NCO=0.8〜1.1である2成分ウレタン系硬化性組成物。」
(イ)「【0059】
本発明の2成分ウレタン系硬化性組成物が反応硬化した後の硬化物は、JIS A硬度が30〜70であり、好ましくは40〜60である。また前記硬化物の5℃における貯蔵弾性率(E’)が2.5〜50.0MPa、23℃おける貯蔵弾性率(E’)が2.5〜50.0MPa、35℃おける貯蔵弾性率(E’)が2.5〜50.0MPaである。このようにすることで、床材及び補修箇所は歩行時軟らかく沈み込む感触や硬い感触などの違和感のない歩行感に優れたものとなり、さらには繰返し荷重に耐える耐久性を保持し、補修した後においてもその補修箇所が起点となり再度剥離したり破壊(潰れ)したりすることがなく、また、補修箇所周囲に前記不具合が拡大していくことがないものとなる。5℃における貯蔵弾性率(E’)が2.5MPa未満、23℃における貯蔵弾性率(E’)が2.5MPa未満、35℃における貯蔵弾性率(E’)が2.5MPa未満では、床材及び補修箇所の軟らかく沈み込む感触があり、5℃における貯蔵弾性率(E’)が50MPaを超え、23℃における貯蔵弾性率(E’)が50MPaを超え、35℃における貯蔵弾性率(E’)が50MPaを超えると硬い感触などの違和感がのこり歩行感に優れたものとなり難い。」
(ウ)「【0061】
次に、本発明の床材の施工方法について説明する。本発明の施工方法を適用する下地は、各種素材によって形成される建造物の下地であり、本発明の2成分ウレタン系硬化性組成物は、具体的には、モルタル、コンクリート、繊維強化セメント板、合板又は各種樹脂発泡成型体などにより形成された建造物下地に好適に適用することができる。本発明の施工方法に適した床材や防水材は、樹脂製や木質製のものであり、例えば形状としては大小のタイル状、シート状、長尺シート状などの各種形状があり、材質としてはポリ塩化ビニル製、軟質ポリ塩化ビニル製、ポリプロピレンやポリスチレンなどのポリオレフィン系、ポリウレタン系、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム系、ポリカーボネート系、ポリフェニレンオキサイド系、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系、メラミン樹脂系、天然ゴム系、ABS樹脂などの各種樹脂製(発泡体も含む)のものが挙げられ、また表層が前記の各種樹脂でできていて、バッキング材(裏打材)としてポリウレタン、ポリオレフィン、合成ゴムなどの各種樹脂(発泡体も含む)を1層又は複数層積層させているものも挙げられる。所謂フローリング材なども挙げられる。本発明の2成分ウレタン系硬化性組成物は、定量混合し、下地に塗布し、次いで床材をその上に敷き、押圧して接着してもよく、また、床材側に塗布し、次いで接着剤塗布側から下地上に敷いて、押圧して接着してもよく、更に、下地と床材の両方の面に塗布し、次いで接着剤塗布面同士を接合させ押圧して接着してもよいが、作業しやすさの点から、下地表面にのみ予め接着剤を塗布して接着する方法が好ましい。さらに、床材にバッキング材(裏打材)がある場合、床材側に塗布する量を多くし、またはバッキング材(裏打材)に含浸させて使用することも可能である。具体的には、本発明の2成分ウレタン系硬化性組成物を下地に塗布した後、圧着するのが好ましい。塗布方法としては、櫛目ゴテなどのコテ類、ヘラ類、刷毛類、ロールコーターなどを使用して塗布する方法、或いは、専用のスタティックミキサー型のノズルを備えたガンを使用してビード状又は点状に塗布する方法、スプレー塗布する方法などの方法を用いることができる。本発明の2成分ウレタン系硬化性組成物の塗布量は、100〜1000g/m2、更には150〜500g/m2であることが好ましい。」
(エ)「【0067】
実施例1
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながらひまし油変性ポリオール(伊藤製油社製URIC H−30、水酸基価160.9、平均官能基数2.7)732gとジブチル錫ジラウレート1.30gを仕込んだ。室温で攪拌混合後、更に室温で15分減圧脱泡し、成分(A)を作製した。次に、前記と同様の装置にDINP(フタル酸ジイソノニル)650.0gとMR200(日本ポリウレタン工業社製クルードMDI、NCO%:31.5)350.0gを仕込んだ。室温で攪拌混合後、更に室温で15分減圧脱泡し、成分(B)を作製した。続いて、この成分(A)と成分(B)を、成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基の当量比が、OH/NCO=0.8になるように配合して2成分ウレタン系硬化性組成物を作製し、各試験に供した。」
(オ)「【0079】
・・・
[弾性率]
2成分ウレタン系硬化性組成物を標準状態(23℃50%RH)で2日間硬化養生し、厚さ2mmのシートを作製した。動的粘弾性測定装置(オリエンテック社製、RHEOVIBRONDDV−01/25FP)を用いて動的粘弾性スペクトル(試料形状;下記の長さ(L)幅(W)厚さ(t)、測定温度;−100℃〜+100℃、測定周波数;11Hz、昇温速度;2℃/分)を測定し、5℃、23℃、35℃における貯蔵弾性率(E’)(MPa)を求めた。
・・・
【0081】
【表2】


(カ)成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基の当量比が、OH/NCO=0.8〜1.1になるように配合された、甲5の請求項に係る発明(上記(ア))の実施例(実施例1ないし5)及び該当量比OH/NCOが0.7及び1.2であって0.8〜1.1との数値範囲外である比較例1、2について、上記(オ)の表2からは、実施例1ないし5の硬化物の貯蔵弾性率(MPa)が23℃で、それぞれ、4.66、3.75、2.54、15.5、4.94であり、比較例1、2のそれが、5.28、2.08であったことが読み取れる。

イ 甲5に記載された発明
上記アから、甲5には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲5方法発明
「床材の施工方法について、
下地は、建造物の下地であり、
床材は形状としては大小のタイル状などの各種形状があり、
2成分ウレタン系硬化性組成物は、定量混合し、下地に塗布し、次いで床材をその上に敷き、押圧して接着するものであり、
ひまし油変性ポリオールとジブチル錫ジラウレートを攪拌混合して成分(A)を作製し、
フタル酸ジイソノニルとMR200を攪拌混合して成分(B)を作製し、
この成分(A)と成分(B)を、成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基の当量比が、OH/NCO=0.8〜1.1になるように配合して2成分ウレタン系硬化性組成物を作製し、
2成分ウレタン系硬化性組成物を標準状態(23℃50%RH)で2日間硬化養生し、厚さ2mmのシートを作製し、
動的粘弾性スペクトルを、測定周波数;11Hzで測定し、23℃における貯蔵弾性率(E’)を求めたところ、硬化物の貯蔵弾性率(MPa)が23℃で4.66、3.75、2.54、15.5、4.94のいずれかであった、
床材の施工方法。」
(イ)甲5発明
「甲5方法発明に用いる2成分ウレタン系硬化性組成物。」

(6)甲6
ア 甲6の記載
甲6には次の事項が記載されている(表2の四角枠は異議申立人が付した。)
(ア)タイトル


」(第673頁上段)
(イ)表2


」(第674頁上段)

(7)参考文献6
申立人が令和4年8月10日付け意見書(以下「申立人意見書」という。)に添付して提出した参考文献6(国際公開2019/235332号)には、以下の記載がある。
ア 「[0091](接着方法における接着剤の特性)
ここで、本発明の接着方法の加熱工程後、構造体を常温(23℃、50%RH)で養生する場合、養生する時間の経過により、本発明に係る接着剤の貯蔵弾性率は増加する特性を有する。すなわち、本発明の接着剤は、加熱工程後の貯蔵弾性率が、加熱工程後に所定時間経過した後における貯蔵弾性率よりも低い特性を有する。なお、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定(DMA)装置(セイコーインスツルメンツ社製DMS6100)を用い、下記条件で測定することができる。
[0092](貯蔵弾性率の測定条件)
測定周波数:1Hz、測定モード:引張り、昇温速度:5℃/min」

(8)参考文献7
申立人が申立人意見書に添付して提出した参考文献7(特開2007−112989号公報)には、以下の記載がある。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面への賦形が容易なシート材料、特に高アスペクト比の構造体を大面積で高速賦形可能なシート材料、および該シート材料を用いる表面賦形方法並びにその成形品に関するものである。」

イ「【0092】
[特性の評価方法]
A.動的貯蔵弾性率E’、動的貯蔵弾性率E”、ガラス転移温度Tg
動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”は、JIS−K7244(1999)に従って、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置”DMS6100”を用いて求めた。引張モード、駆動周波数は1Hz、チャック間距離は5mm、昇温速度は2℃/minの測定条件にて、各シートの粘弾性特性の温度依存性を測定した。この測定結果から、室温、及びTg+30℃での動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”を求めた。また、tanδが極大となるときの温度をガラス転移温度Tgとした。なお、易表面賦形性シート積層体の場合は、表面層の材料を用いて単膜を作製し、上述の方法に従って測定した。」

新規性進歩性の判断(甲1を主引例とする場合)
(1)本件訂正発明1
ア 対比
(ア)甲1方法発明の「弾性接着剤」を構成する組成物は、本件訂正発明1の「接着剤組成物」に相当するといえ、本件訂正発明1の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物」と、甲1方法発明の「粘弾性測定装置DMS6100(エスエスアイナノテクノロジー製)にて養生23℃50%RH44日で測定した弾性率が8.7MPa/23℃であ」る「弾性接着剤」を構成する組成物とは、「硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物」の点で共通する。
(イ)甲1方法発明の「施工面に、タイルを接着するタイル施工方法」は、本件訂正発明1の「施工面に、接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法」に相当する。
(ウ)甲1方法発明の「成分が1液系変性シリコン樹脂であ」り、「用途が内外装タイル用」である「弾性接着剤」の組成物は、その用途及び成分からして空気中の湿気で硬化する組成物と認められるから、甲1方法発明は、本件訂正発明1の「前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方である」との構成を備える。
(エ)そうすると、本件訂正発明1と甲1方法発明とは、
「施工面に、硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、
前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるタイル施工方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、弾性率が「測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されていない点。

新規性についての判断
本件訂正発明1と甲1方法発明とは、上記相違点1において相違するから、本件訂正発明1と甲1方法発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
上記相違点1について検討する。
(ア)粘弾性測定装置で測定される貯蔵弾性率、損失弾性率等の弾性率の値が、測定周波数に依存することは例示するまでもない技術常識であるから、測定周波数が示されていない甲1方法発明の「粘弾性測定装置DMS6100(エスエスアイナノテクノロジー製)にて養生23℃50%RH44日で測定した弾性率が8.7MPa/23℃」であることが、本件訂正発明1の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下」に相当するとはいえない。
(イ)甲2方法発明の「引張り弾性率」は、動的粘弾性挙動を測定したものであるから、本件訂正発明1の「貯蔵弾性率」と「弾性率」の点で共通する。しかし、甲2方法発明は、甲1方法発明同様、測定周波数が特定されておらず、甲2方法発明の「引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度である」ことが、本件訂正発明1の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ことに相当するとはいえない。
(ウ)甲5方法発明は、「2成分ウレタン系硬化性組成物」について、測定周波数;11Hzで測定し、23℃における貯蔵弾性率(E’)を求めたところ、「4.66、3.75、2.54、15.5、4.94のいずれか」であったものである。
しかし、甲5方法発明も「測定周波数;11Hzで測定」したものであって、「測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率」ではない。
また、貯蔵弾性率(E’)が実施例(実施例1〜5)において上記値であるとともに、比較例において「5.28、2.08」であり、(上記1(5)ア(カ))、貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であることに有利な点があるものでもない。そうすると、甲5発明において示された「硬化後の23℃における貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」例が、仮に、測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率と同視できる値であるとしても、甲1方法発明において、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ものとする動機付けはない。
(エ)甲3、甲4、甲6ないし15にも、甲1方法発明の接着剤組成物を「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率1.5MPa以上10MPa以下である」ものとすることについて、記載も示唆もない。
(オ)よって、本件訂正発明1は、甲1方法発明及び甲2ないし15に記載した事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

エ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、測定周波数について、申立人意見書において、概略以下の主張をしている。
上記参考資料5〜8に記載されるように、「粘弾性測定装置 DMS6100」を用いて弾性率を測定する際には、測定周波数を1Hzとすることが一般的あり、参考資料6、7に記載されるように、引張モードで弾性率を測定する際には、測定周波数を1Hzとすることが一般的であり、また、特許権者も意見書で主張するように、接着剤組成物の「硬化後の貯蔵弾性率」の測定条件は、タイルが接着した建材等が置かれる日常的な環境(温度、振動等)を考慮して決定されるものであることから、当業者であれば甲第1号証及び甲第2号証の弾性率の測定周波数は、1Hzが採用されていると理解することが一般的であり、甲第1号証及び甲第2号証において、弾性率を測定する際の測定周波数は、1Hzであることがが明らかである。(申立人意見書第8頁第3〜13行)
(イ)主張の検討
参考資料6、参考資料7には、貯蔵弾性率を引張モードにおいて測定周波数1Hzで測定することが記載されており、引張モードで弾性率を測定する際には、測定周波数を1Hzとすることが一般的に行われているとはいえる。
しかし、引張モードで弾性率を測定する際に測定周波数を1Hzとすることが一般的に行われていることであっても、甲1方法発明の測定周波数が1Hzであることを示すことにはならないから、甲1方法発明の弾性率が測定周波数1Hzで測定されたものであるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、甲1方法発明及び甲2ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし5
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2ないし5は、甲1に記載された発明ではなく、甲1方法発明及び甲2ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明6
ア 対比
本件訂正発明6と甲1発明とを対比する。
(ア)甲6に掲載された「JIS A5557 外装タイル張り用有機系接着剤」によれば、「外装タイル張り用」の「接着剤」は、「表2の品質に適合しなければならない」ものであり、表2には、試験項目が標準養生の接着強さにおいて、品質は「0.6N/mm2以上、凝集破壊率が75%以上」と規定されている。
(イ)一方、甲1発明は「用途が内外装タイル用である弾性接着剤」であるから、甲6の表2の「接着強さ」が「0.6N/mm2以上、凝集破壊率が75%以上」との品質を当然満たしているものと理解できる。
(ウ)そうすると、甲1発明の「用途が内外装タイル用である弾性接着剤」の組成物は、本件訂正発明6の「接着剤組成物のJIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上であり、かつ凝集破壊率が75%以上である」に相当する構成を備えるといえる。
(エ)本件訂正発明6の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ことと、甲1発明の「粘弾性測定装置DMS6100(エスエスアイナノテクノロジー製)にて養生23℃50%RH44日で測定した弾性率が8.7MPa/23℃であ」ることとは、「硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」点で共通する。
(オ)甲1発明の「成分が1液系変性シリコン樹脂であ」り、「用途が内外装タイル用」である「弾性接着剤」の組成物は、その用途及び成分からして空気中の湿気で硬化する組成物と認められるから、甲1発明は、本件訂正発明6の「前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方である」との構成を備える。
(カ)甲1発明の「用途が内外装タイル用である弾性接着剤」を構成する組成物は、本件訂正発明6の「タイルの接着に用いられる接着剤組成物」に相当する。
(キ)そうすると、本件訂正発明6と甲1発明とは、
「JIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上かつ凝集破壊率が75%以上であり、硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、
空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であり、
タイルの接着に用いられる接着剤組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1’)
本件訂正発明6は、弾性率が「測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

新規性についての判断
本件訂正発明6と甲1発明とは、上記相違点1’において相違するから、本件訂正発明6と甲1発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点1’は、上記(1)で検討した相違点1と同様の点であり、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲1発明及び甲2ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明6は、甲1発明及び甲2ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明7ないし10
本件訂正発明7ないし10は、本件訂正発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件訂正発明7ないし10は、甲1に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲2ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

新規性進歩性の判断(甲2を主引例とする場合)
(1)本件訂正発明1
ア 対比
本件訂正発明1と甲2方法発明とを対比する。
(ア)本件訂正発明1の「硬化後の23℃における測定周波数が1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤」と、甲2方法発明の「引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度である、弾性接着剤」は、「硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤」の点で共通する。また、甲2方法発明の「弾性接着剤」を構成する組成物は、本件訂正発明1の「接着剤組成物」に相当するといえる。
(イ)甲2方法発明の「施工面に、タイルを接着するタイル施工方法」は、本件訂正発明1の「施工面に、接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法」に相当する。
(ウ)甲2方法発明の「建物から採取した弾性接着剤」であって「変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤」の組成物は、タイルを接着していたものであり、その成分からして空気中の湿気で硬化する組成物と認められるから、甲2方法発明は、本件訂正発明1の「前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方である」に相当する構成を備える。
(エ)そうすると、本件訂正発明1と甲2方法発明とは、
「施工面に、硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、
前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるタイル施工方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2)
本件訂正発明1は、弾性率が「測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率」と特定されているのに対し、甲2方法発明は、そのように特定されていない点。

新規性についての判断
本件訂正発明1と甲2方法発明とは、上記相違点2において相違するから、本件訂正発明1と甲2方法発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点2は、上記2(1)で検討した相違点1と同様の点であり、上記2(1)と同様の理由により、本件訂正発明1は、甲2方法発明及び甲1、甲3ないし甲15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、甲2方法発明及び甲1、甲3ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし5
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2ないし5は、甲2に記載された発明ではなく、甲2方法発明及び甲1、甲3ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明6
ア 対比
本件訂正発明6と甲2発明とを対比する。
(ア)甲6に掲載された「JIS A5557 外装タイル張り用有機系接着剤」によれば、「外装タイル張り用」の「接着剤」は、「表2の品質に適合しなければならない」ものであり、表2には、試験項目が標準養生の接着強さにおいて、品質は「0.6N/mm2以上、凝集破壊率が75%以上」と規定されている。
(イ)一方、甲2発明の「弾性接着剤」は「タイル施工」に用いられていた「変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤」であるから、甲6の表2の「接着強さ」が「0.6N/mm2以上、凝集破壊率が75%以上」との品質を当然満たしているものと理解できる。
(ウ)そうすると、甲2発明の「変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤」の組成物は、本件訂正発明6の「接着剤組成物のJIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上であり、かつ凝集破壊率が75%以上であ」ることに相当する構成を備えるといえる。
(エ)本件訂正発明6の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ことと、甲2発明の、変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤の動的粘弾性挙動を測定した結果、「引張り弾性率(Pa)が23℃で2.5×106〜3.0×106程度である」こととは、「硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」点で共通する。
(オ)甲2発明の「タイル施工」に用いられていた「変性シリコーン樹脂系1成分型接着剤」の組成物は、その用途及び成分からして空気中の湿気で硬化する組成物と認められるから、甲2発明は、本件訂正発明6の「前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方である」に相当する構成を備える。
(カ)そうすると、本件訂正発明6と甲2発明とは、
「JIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上かつ凝集破壊率が75%以上であり、硬化後の23℃における弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、
空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であり、
タイルの接着に用いられる接着剤組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2’)
本件訂正発明6は、弾性率が「測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。

新規性についての判断
本件訂正発明6と甲2発明とは、上記相違点2’において相違するから、本件訂正発明6と甲2発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点2’は、上記(1)で検討した相違点2と同様の点であり、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲2発明及び甲1、甲3ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明6は、甲2発明及び甲1、甲3ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明7ないし10
本件訂正発明7ないし10は、本件訂正発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件訂正発明7ないし10は、甲2に記載された発明ではなく、甲2発明及び甲1、甲3ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
新規性進歩性の判断(甲3を主引例とする場合)
(1)本件訂正発明1
ア 対比
本件訂正発明1と甲3方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。

(相違点3)
接着剤組成物について、本件訂正発明1は、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」と特定されるのに対し、甲3方法発明では、そのように特定されない点。

新規性についての判断
本件訂正発明1と甲3方法発明とは、少なくとも上記相違点3において相違するから、本件訂正発明1と甲3方法発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
上記第5の1(1)において検討したように、接着剤組成物の弾性率を測定周波数1Hzで測定し、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ことは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、甲3方法発明において、接着剤組成物を「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、甲3方法発明及び甲1、甲2、甲4ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし5
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2ないし5は、甲3に記載された発明ではなく、甲3方法発明及び甲1、甲2、甲4ないし甲15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明6
ア 対比
本件訂正発明6と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。

(相違点3’)
接着剤組成物について、本件訂正発明6は、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」と特定されるのに対し、甲3発明では、そのように特定されない点。

新規性についての判断
本件訂正発明6と甲3発明とは、上記相違点3’において相違するから、本件訂正発明6と甲3発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点3’は、上記(1)で検討した相違点3と同様の点であり、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲3発明及び甲1、甲2、甲4ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明6は、甲3発明及び甲1、甲2、甲4ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明7ないし10
本件訂正発明7ないし10は、本件訂正発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件訂正発明7ないし10は、甲3に記載された発明ではなく、甲3発明及び甲1、甲2、甲4ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

新規性進歩性の判断(甲4を主引例とする場合)
ア 対比
本件訂正発明1と甲4方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。

(相違点4)
接着剤組成物について、本件訂正発明1は、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」と特定されるのに対し、甲4方法発明では、そのように特定されない点。

新規性についての判断
本件訂正発明1と甲4方法発明とは、少なくとも上記相違点4において相違するから、本件訂正発明1と甲4方法発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
上記第5の1(1)において検討したように、接着剤組成物の弾性率を測定周波数1Hzで測定し、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ことは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、甲4方法発明において、接着剤組成物を「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」ものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲4に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、甲4方法発明及び甲1ないし甲3、甲5ないし甲15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし5
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2ないし5は、甲4に記載された発明ではなく、甲4方法発明及び甲1ないし3、甲5ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明6
ア 対比
本件訂正発明6と甲4発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。

(相違点4’)
接着剤組成物について、本件訂正発明6は、「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である」と特定されるのに対し、甲4発明では、そのように特定されない点。

新規性についての判断
本件訂正発明6と甲4発明とは、上記相違点4’において相違するから、本件訂正発明6と甲4発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点4’は、上記(1)で検討した相違点4と同様の点であり、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲4発明及び甲1ないし3、甲5ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、甲4に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明6は、甲4発明及び甲1ないし3、甲5ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明7ないし10
本件訂正発明7ないし10は、本件訂正発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件訂正発明7ないし10は、甲4に記載された発明ではなく、甲4発明及び甲1ないし甲3、甲5ないし甲15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

新規性進歩性の判断(甲5を主引例とする場合)
(1)本件訂正発明1
ア 対比
(ア)甲5方法発明の「床材」を「押圧して接着する」「2成分ウレタン系硬化性組成物」は、本件訂正発明1の「接着剤組成物」に相当するといえ、本件訂正発明1の「硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物」と、甲5方法発明の「測定周波数;11Hzで測定し、23℃における貯蔵弾性率(E’)を求めたところ、硬化物の貯蔵弾性率(MPa)が23℃で「4.66」、「3.75」、「2.54」、「4.94」のいずれかであった「2成分ウレタン系硬化性組成物」とは、「硬化後の23℃における貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物」の点で共通する。
(イ)甲5方法発明の「建造物」の「下地」に「2成分ウレタン系硬化性組成物」を「定量混合」して「塗布」し、「タイル状」の「床材」を「その上に敷き、押圧して接着する」「床材の施工方法」は、本件訂正発明1の「施工面に、接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法」に相当する。
(ウ)そうすると、本件訂正発明1と甲5方法発明とは、
「施工面に、硬化後の23℃における貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点5A)
貯蔵弾性率が、本件訂正発明1は、「測定周波数1Hzでの」ものであるのに対し、甲5方法発明は、「測定周波数11Hzでの」ものである点。

(相違点5B)
接着剤組成物が、本件訂正発明1は、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるのに対し、甲5方法発明は、ひまし油変性ポリオールとジブチル錫ジラウレートを攪拌混合した成分(A)とフタル酸ジイソノニルMR200を攪拌混合して成分(B)とを定量混合して硬化する2成分ウレタン系硬化性組成物である点。

新規性についての判断
本件訂正発明1と甲5方法発明とは、上記相違点5A及び5Bにおいて相違するから、本件訂正発明1と甲5方法発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
事案に鑑み、まず、上記相違点5Bについて検討する。
(ア)甲1ないし甲4に示されるように、接着剤組成物として、空気中の湿気で硬化する組成物は周知のものといえる。また、接着剤組成物として、熱で硬化する組成物も、例を挙げるまでもなく周知のものであるといえる。
(イ)しかし、甲5方法発明は、ひまし油変性ポリオールとジブチル錫ジラウレートを攪拌混合した成分(A)とフタル酸ジイソノニルMR200を攪拌混合して成分(B)とを定量混合して硬化する2成分ウレタン系硬化性組成物において、成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基の当量比(OH/NCO)の数値範囲を特定することによって、作業性、接着性等に優れたものとする発明であるから、「空気中の湿気で硬化する組成物」及び「熱で硬化する組成物」が周知のものであるとしても、甲5方法発明において、接着剤組成物を「空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方」とする動機付けはない。
(ウ)よって、本件訂正発明1は、甲5方法発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載した事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

エ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、2成分ウレタン系硬化性組成物が空気中の湿気で硬化する組成物であることについて、特許異議申立書において、概略以下の主張をしている。
甲5の段落0052に、組成物中に水分と反応するセル化合物を貯蔵安定性改良剤として配合してもよいことが記載されていること、段落0056に「添加剤として接着性向上剤を含む成分(A)の場合や成分(B)は、湿気に触れると反応して加水分解や増粘を起こすため、反応合成の攪拌・混合は湿気に触れないように密封状態、窒素ガス雰囲気下などの湿気を遮断した状態においておこなうのが好ましい」ことが記載されていること、一般にイソシアネート基は空気中の湿分で硬化性を示し、さらに加熱することによっても硬化性を示すことが周知であることを踏まえると、甲5方法発明の硬化性組成物は、「空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方」である接着剤組成物に相当する。(特許異議申立書第62頁第15〜24行)
(イ)主張の検討
申立人は、一般にイソシアネート基は空気中の湿分で硬化性を示し、さらに加熱することによっても硬化性を示すことが周知であることから、甲5方法発明の硬化性組成物は「空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方」である接着剤組成物に相当すると主張する。しかし、本件訂正発明1は、接着剤組成物が空気中の湿気で硬化する組成物であると特定しているのであって、甲5方法発明における接着剤組成物の一成分(イソシアネート基を含む成分(B))が湿気で硬化するものであったとしても、上記のとおり、甲5方法発明の接着剤組成物は、成分(B)とポリオールを含む成分(A)とによって反応するものであるから、「空気中の湿気で硬化する組成物」であるとはいえない。
そして、甲5方法発明の2成分ウレタン系硬化性組成物は、ひまし油変性ポリオールとジブチル錫ジラウレートを攪拌混合した成分(A)とフタル酸ジイソノニルMR200を攪拌混合して成分(B)とを定量混合して硬化するものであって、成分(A)の水酸基と成分(B)のイソシアネート基との反応により接着するものであるから、空気中の湿気で硬化する組成物ではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲5に記載された発明ではない。
また、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲5方法発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2ないし5
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2ないし5は、甲5に記載された発明ではなく、甲5方法発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明6
ア 対比
本件訂正発明6と甲5発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。

(相違点5B’)
接着剤組成物が、本件訂正発明6は、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるのに対し、甲5発明は、ひまし油変性ポリオールとジブチル錫ジラウレートを攪拌混合した成分(A)とフタル酸ジイソノニルMR200を攪拌混合して成分(B)とを定量混合して硬化する2成分ウレタン系硬化性組成物である点。

新規性についての判断
本件訂正発明6と甲5発明とは、上記相違点5B’において相違するから、本件訂正発明6と甲5発明とは同一ではない。

進歩性についての判断
相違点5B’は、上記(1)で検討した相違点5Bと同様の点であり、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲5発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、甲5に記載された発明ではない。
また、本件訂正発明6は、甲5発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正発明7ないし10
本件訂正発明7ないし10は、本件訂正発明6の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件訂正発明7ないし10は、甲5に記載された発明ではなく、甲5発明及び甲1ないし4、甲6ないし15に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工面に、硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下である接着剤組成物によりタイルを接着するタイル施工方法であって、
前記接着剤組成物が、空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であるタイル施工方法。
【請求項2】
前記施工面が継ぎ目を有し、
前記タイルを前記継ぎ目に重ねて接着する請求項1に記載のタイル施工方法。
【請求項3】
前記継ぎ目にはシーリング材が充填されたシーリング部が形成されており、
前記タイルを前記シーリング部に重ねて接着する請求項2に記載のタイル施工方法。
【請求項4】
前記タイルを目地の間隔をあけて施工面に接着し、前記目地に前記接着剤組成物の硬化物が露出する請求項1から3のいずれか一項に記載のタイル施工方法。
【請求項5】
前記接着剤組成物のJIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上であり、かつ凝集破壊率が75%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載のタイル施工方法。
【請求項6】
JIS−A5557:2010に準拠して測定される接着強さが0.3N/mm2以上かつ凝集破壊率が75%以上であり、硬化後の23℃における測定周波数1Hzでの貯蔵弾性率が1.5MPa以上10MPa以下であり、
空気中の湿気で硬化する組成物及び熱で硬化する組成物の少なくとも一方であり、
タイルの接着に用いられる接着剤組成物。
【請求項7】
架橋性シリル基を有する重合体を含有し、
前記重合体が、ポリオキシレン骨格及びポリ(メタ)アクリレート骨格の少なくとも一方と、1分子中に1.3個以上の架橋性シリル基とを有し、
空気中の湿気で硬化する請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
可塑剤をさらに含有し、前記重合体100質量部に対する前記可塑剤の割合が30質量部以上80質量部以下である請求項7に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
エポキシ化合物及びアミノシラン化合物の少なくとも一方をさらに含有する請求項7又は8に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
エポキシ化合物及びケチミン化合物をさらに含有する請求項7又は8に記載の接着剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-20 
出願番号 P2020-115185
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 住田 秀弘
土屋 真理子
登録日 2021-07-15 
登録番号 6913891
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 タイル施工方法及び接着剤組成物  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ