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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1393110
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-24 
確定日 2023-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7045186号発明「基板の接合方法、透明基板積層体及び基板積層体を備えるデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7045186号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7045186号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成29年12月28日の出願であって、令和4年3月23日にその特許権の設定登録がされ、令和4年3月31日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜8に係る特許に対し、令和4年5月24日に特許異議申立人野田弥和(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」〜「本件発明8」という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも一方が透明基板である一対の基板の両方の接合表面に対して、エネルギー粒子を照射することと、
前記エネルギー粒子が照射された前記接合表面に、金属酸化物の薄膜を形成することと、
前記金属酸化物の薄膜の表面に対して、実質的に不活性ガスと酸素ガスとからなる混合ガスのエネルギー粒子を照射することと、
前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させること、
を備える、基板の接合方法。
【請求項2】
前記接合表面に前記金属酸化物の薄膜を形成することは、金属をターゲットとし、実質的に不活性ガスと酸素とからなる混合ガスで行うイオンビームスパッタ法により成膜することを含む、請求項1に記載の基板の接合方法。
【請求項3】
少なくとも、前記金属酸化物の薄膜を形成することから、前記接合面を互いに接触させることまでを真空中で行う、請求項1又は2に記載の基板の接合方法。
【請求項4】
前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させることの後に、加熱処理を行うことを更に備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項5】
前記加熱処理は200℃以下で行う、請求項4に記載の基板の接合方法。
【請求項6】
前記透明基板はガラス基板である、請求項1から5のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項7】
前記接合される基板の一方の基板は透明なガラス基板であり、他方の基板は光学素子を含む基板である、請求項1から6のいずれか一項に記載の基板の接合方法。
【請求項8】
前記接合される基板の少なくとも一方の接合面が実質的に高分子材料からなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の基板の接合方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第12号証(以下「甲1」等という。)を提出し、次の申立理由1〜理由4を主張している。
(証拠方法)
甲1:特開2014−123514号公報
甲2:畑朋延、「反応性スパッタリングによる酸化物薄膜の作製」、表面技術、1995年7月、Vol.46 No7 1995、p,590-593
甲3:馬来国弼、「スパッタリングにより形成された薄膜の内部応力」、表面技術、1992年7月、Vol.43 No7 1992、p.635-640
甲4:国際公開第2013/154107号
甲5:今村鉄平ほか、「Au−Au表面活性化接合法における物理的および化学的プラズマ活性化法の比較」、2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、2007年9月、p.1103-1104
甲6:多喜川良ほか、「Auマイクロバンプを用いた表面活性化接合法における大気圧プラズマ活性化法の検討」、第23回エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集、2009年、p.1-2
甲7:H. Takagiほか、「Room-temperature Bonding of Oxide Wafers by Ar-beam Surface Activation」、ECS Transactions,16(8)531-537(2008)
甲8:特開2015−207615号公報
甲9:特開2017−157611号公報
甲10:部家彰、「有機ELの保護膜形成技術−高性能フレキシブルディスプレイの実現に向けて−」、いしかわ工試 技術ニュース、[online]、2004年1月1日、[令和4年12月15日検索]、インターネット
<URL:https://www.irii.jp/randd/infor/2004_0101/topics2_1.htm>
甲11:「画期的な高耐熱性有機EL材料の開発について」、日鉄ケミカル&マテリアルのウェブサイトの「旧・新日鉄住金化学 過去のニュース」、[online]、2002年3月19日、[令和4年12月15日検索]、インターネット
<URL:https://www.nscm.nipponsteel.com/news/pdf/020319.pdf>
甲12:デジタル大辞泉の「かいめん【界面】」の画面

1 申立理由1(新規性
本件発明1〜8は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜8に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件発明1〜8は、甲1に記載された発明及び甲4〜甲12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

3 申立理由3(明確性)及び申立理由4(サポート要件)
本件発明1〜8は、以下の点で、その特許請求の範囲が同法第36条第6項第2号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないため、本件発明1〜8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(1)請求項1の「一対の基板の両方の接合表面」が一対の基板のそれぞれの片面の接合表面の「両方」という意味か、一対の基板のそれぞれの両面の接合表面の「両方」という意味か、不明確である。
(2)請求項1の「金属酸化物の薄膜を形成する」「前記接合表面」が、エネルギー粒子が照射された「両方」の接合表面か「一方」の接合表面か、不明確である。仮に後者の意味であるのならば、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていない構成を含むこととなる。
(3)請求項1、2及び8は、範囲を不明確とさせる「実質的」という表現を含むため不明確である。
(4)請求項1の「前記接合面」は、「接合面」という記載は前記されていないし、前記されている「接合表面」を指しているのか不明確である。因みに、請求項1の「前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させる」との記載が、薄膜が形成された接合(表)面と薄膜が形成されていない接合(表)面を接触させるという意味を含むのならば、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていない構成を含むこととなる。
(5)請求項8の「一方の接合面」が請求項1,3,4に記載されている「接合面」を指しているのか不明確である。
(6)上記(1)〜(4)について、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜8も同様に不明確であり、請求項2〜8に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていない。

第4 甲各号証の記載
1 甲1の記載、甲1発明
(1)甲1の記載(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)
「【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明は、有機EL素子などの電子素子を封止するための、封止性能を高め、封止構造の接合部の額幅を狭くする、封止方法又は封止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0011】
上記電子素子を封止する方法は、無機接着層の形成後に、環状接合部とこれに対応する封止基板上の環状接合部との少なくとも一方の表面に対して、表面活性化処理を行うことを更に有するようにしてもよい。このように、接合面に対して表面活性化処理を行うことで、従来必要だった有機接着材を用いなくても、無機材料を用いて比較的低温で基板を接合することができる。これにより、熱処理に敏感な有機EL素子などの電子素子への影響を小さくすることができる。表面活性化処理を粒子ビームの照射により行う場合には、粒子ビームに鉄やクロムなどの金属、特に遷移金属を無機接着層等の表面にドープすることができ、これにより接着強度を向上させることができる。
【0012】
上記電子素子を封止する方法は、無機接着層の形成前に、無機接着層が形成される表面に対して、表面活性化処理を行うことを更に有するようにしてもよい。これにより、無機接着層の基板への接着強度が上がり、密着度が向上するので、接合界面での密封性を向上させることができる。表面活性化処理を粒子ビームの照射により行う場合には、粒子ビームに鉄やクロムなどの金属、特に遷移金属を無機接着層が形成される基板表面にドープすることができ、これにより接着強度を向上させることができる。」

「【0039】
<1. 第一の実施形態>
・・・
【0040】
本願発明の第一の実施形態によれば、ステップS1において、素子基板10の接合面11上の環状接合部12に囲まれた領域内、又は有機EL素子形成領域内に、有機EL素子30を形成し(図2(a)及び(b))、ステップS2において、封止基板20の接合面21上の環状接合部22に囲まれた領域内に、封止基板20を貫通して、有機EL素子30を封止構造の外部と電気的に連結するための貫通電極50を形成し(図2(d)及び(e))、ステップS3において、素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に、無機接着層13,23を形成し(図2(c)及び(f))、ステップS4において、無機接着層13,23が形成された、素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に対して、所定の運動エネルギーを有する粒子60を衝突させることで表面活性化処理を行い(図3(g))、そして、ステップS5において、素子基板10の環状接合部12と封止基板20の環状接合部22とを無機接着層13,23を介して互いに接触させて接合することで、素子基板10と封止基板20との間に有機EL素子30を封止する(図3(f))。
【0041】
以下、上記各ステップについて、より詳細に説明する。
【0042】
<有機EL素子の形成>
まず、本実施形態のステップS1について説明する。本願においては、有機EL素子30が形成される素子基板10についても、封止基板20についても、封止後に封止構造の内部に向く面を接合面11,21と呼ぶ。素子基板10と封止基板20の接合面11,21上には、他の基板と接触して接合されるための接合部12,22が規定されている。
・・・
【0046】
本実施形態においては、素子基板10と封止基板20の双方がガラスで形成されている。高分子材料はガス(気体)透過性が比較的高いのに対し、ガラス材料は、ガス(気体)透過性が極めて高いので有機EL素子などのための封止構造の形成に適している。しかし、基板の材質はガラス材料に限られない。基板は、フレキシブル基板でもよい。
【0047】
また、封止基板10と素子基板20とのうち、有機EL素子から発せられた光が封止構造から放射されていく際に通過する基板は、この光に対して透明であることが好ましい。他方の基板は、透明でなくても構わない。ここで、「透明」とは、有機EL素子から発光される光が、封止構造から目的に応じて十分な量の光が透過できるという意味である。」

「【0058】
<無機接着層の形成>
本実施形態において、ステップS3において、無機接着層13,23は、素子基板10と封止基板20との環状接合部12,22の表面上に、ガス透過性の低い無機材料により形成される。当該無機接着層13,23は、接合した際に、封止性能上の欠陥を生じさせないように形成される。たとえば、環状に形成された無機接着層13,23は、環構造の断絶や多数の孔の形成などの欠陥がなく、密に連続した微細構造を有するように形成される。
【0059】
たとえば、無機接着層13,23の材料として、アルミニウム(Al)やニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、金(Au)や白金(Pt)などの遷移金属を含む金属、スズ(Sn)、銀(Ag)を含むはんだ合金又はこれらの合金、シリコン(Si)などの半導体、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiNx)、酸化窒化ケイ素(SiNxOy)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)など炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)などの窒化物、窒化酸化物、酸化物又は炭化物を採用することができる。
【0060】
無機接着層13,23を、上記の材料により各層が形成された多層膜として形成してもよい。
【0061】
無機接着層13,23は、プラズマ促進化学気相成長法(PECVD)やスパッタ蒸着など堆積方法で形成されることが好ましいが、これに限られない。無機接着層13,23を形成する際に、所定のマスクで環状接合部以外の領域を覆うことにより、環状接合部の表面上にのみ無機接着層13,23を形成してもよい。
【0062】
また、所定の無機接着層13,23をプラズマ促進化学気相成長法(PECVD)やスパッタ蒸着などで所定の無機材料を堆積させることで無機接着層13,23を形成する際に、当該所定の無機材料以外の無機材料を混合させてもよい。たとえば、粒子ビームをスパッタターゲットに照射することで、スパッタターゲットの所定の無機材料を当該スパッタターゲットから放出させてスパッタ蒸着を行う際に、粒子ビームの経路に当該所定の無機材料以外の無機材料からなるターゲットを配置してもよい。これにより、所定の無機材料に当該所定の無機材料以外の無機材料が混合した混合無機材料をスパッタ蒸着することができる。たとえば、上記所定の無機材料をシリコン(Si)とし、上記所定の無機材料以外の無機材料を鉄(Fe)などの遷移金属とすることが好ましい。これにより、無機接着層13,23の接合力が高まり、強度が高く封止性能の高い接合界面を形成することができる。
【0063】
なお、本実施形態を説明する図2及び図3では、封止基板10と素子基板20の両方の環状接合部12,22に無機接着層13,23が形成されているが、封止基板10と素子基板20との片方のみに、無機接着層が形成されてもよい。
【0064】
<表面活性化処理>
ステップS4において、環状接合部12,22の表面活性化処理は、所定の運動エネルギーを有した粒子を環状接合部12,22の表面に対して衝突させることで行う(図3(g))。
・・・
【0066】
所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させて、接合面を形成する物質を物理的に弾き飛ばす現象(スパッタリング現象)を生じさせることで、酸化物や汚染物など表面層を除去し、表面エネルギーの高い、すなわち活性な無機材料の新生表面を露出させることができる。
【0067】
表面活性化処理に用いる粒子として、例えば、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガスを採用することができる。これらの希ガスは、衝突される接合面を形成する物質と化学反応を起こしにくいので、化合物を形成するなどして、接合面の化学的性質を大きく変化させることはない。
・・・
【0079】
なお、実質的に表面活性化処理を行わずに基板同士の接触又は接合(ステップS5)を行ってもよい。例えば真空中で蒸着などにより形成された無機接着層13,23は、その表面において酸化や不純物による汚染などが進んでおらず、表面エネルギーが高い状態にある。この無機材料層13,23の表面同士を接触させることで、比較的強度の高い接合界面を形成することができる。この場合には、無機接着層の形成(ステップS3)と表面活性化処理(ステップS4)とが一つのステップにより行われたと考えることができる。
【0080】
また、表面活性化処理は、無機材料層の形成(ステップS3)の前に、無機材料層が形成される基板の表面に対して行われてもよい。これにより、無機接着層の基板への接着強度が上がり、密着度が向上するので、接合界面での密封性を向上させることができる。上述のように表面活性化処理を粒子ビームの照射により行う場合には、この粒子ビームに、所定の金属粒子を混ぜることで、表面活性化される表面を当該金属でドープすることができる。このドープにより表面活性化された表面による接着強度は飛躍的に向上させることができる。ドーパントとしての上記所定の金属は、遷移金属であることが好ましい。当該遷移金属として、鉄やクロムを用いてもよい。
【0081】
<接合>
ステップS5において、表面活性化処理された環状接合部12,22は、無機接着層13,23を介して接触されて、接合される(図3(h))。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



(2)甲1発明
上記(1)のうち、特に「第一の実施形態」に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に、無機接着層13,23を形成し、無機接着層13,23が形成された、素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に対して、所定の運動エネルギーを有する粒子60を衝突させることで表面活性化処理を行い、素子基板10の環状接合部12と封止基板20の環状接合部22とを無機接着層13,23を介して互いに接触させて接合する、電子素子の封止方法であって、
前記素子基板10と封止基板20の双方がガラスであり、
表面活性化処理に用いる粒子は、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガスである、
電子素子の封止方法。」

2 甲2の記載
甲2には、「反応性スパッタリングによる酸化物薄膜の作製」に関して、以下の記載がある。
「これらの薄膜を堆積するのにスパッタリング法がよく用いられている。これにはターゲットの選び方に二通りあり,一つは所望の薄膜と同じ組成のセラミックスをターゲットとする方法で,ガス成分の欠乏した膜になりやすい。そこで不活性ガスに酸素など活性なガスを添加して欠乏する元素を補い,目的とする組成の薄膜を形成する方法である。もう一つは,単一元素や合金などの金属ターゲットを不活性ガスでスパッタし,酸素など活性なガスを添加して,金属と酸素などの化合物薄膜を堆積するこれから述べる方法である。これらはいずれも反応性スパッタリングと呼ばれている。」(590ページ左欄の本文5〜16行)

「3.1 酸化物ターゲットの問題点
薄膜化したい酸化物材料をターゲットとして,高周波スパッタ法を用いて直接スパッタする方法は,高速中性粒子の照射により種々の問題が生じる。・・・高エネルギー粒子(多くは中性粒子)の膜表面への衝撃に起因すると考え,・・・。ターゲットに衝突したAr+イオンと運動量を交換して飛び出したO−,O2−イオンはターゲット前面の陰極降下電圧でAr+イオンとは逆に基板方向に加速される。一部はそのまま高速O−イオンとして前方へ突進するが,多くの負イオンは雰囲気ガス分子と電荷を交換して高速中性O,O2粒子として基板や膜に衝撃を与えるとしている。」(590ページ右欄の本文下から14行〜591ページ左欄の本文11行)

3 甲3の記載
「スパッタリングさせるために不可欠なArなどの希ガスイオンがターゲットなどで反射する際に中性子化して薄膜に飛び込むことである。また,蒸発原子がプラズマ中を拡散するためにイオン化されそれらが成長表面に到達することもあろう。」(636ページ右欄13〜17行)

4 甲4の記載
「[0002] 電子機器分野において、薄型大面積の電子デバイスの開発が進んでいる。例えば、有機EL素子を用いたフラットパネルディスプレーでは、有機EL素子が2枚のガラスなどの無機材料基板の間に挟まれて配置される構造を採ることが一般的である。・・・
[0003] 近年、更に、薄型大面積の電子デバイスはフレキシブル化することが要求されている。この要求に応えるために、デバイスの基板として、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子フィルムを基板として用いることが提唱されている。」

「[0008] 上述の課題を解決するために、本願発明は、有機系接着剤を用いずに、高分子フィルムを他の高分子フィルム又は無機材料基板に低温で強固に低コストで接合する方法を提供することを目的とする。」

「[0059] <実施例1>
第一の実施形態の一実施例として、高分子フィルムにPETを採用し、無機材料層にアルミニウム(Al)、銅(Cu)又はケイ素(Si)を採用した場合の接合について、それぞれ説明する。
・・・
[0062] ・・・ライン型高速原子ビーム源から、プラズマにより発生されて1.2kVの電位差で加速されたアルゴン(Ar)粒子を、アルミニウム(Al)又はケイ素(Si)のスパッタターゲットに対して照射した。・・・上記条件で、高分子フィルム上に10nm程度のアルミニウム(Al)又はケイ素(Si)の層が形成された。」

「[0091] ・・・。上記実施例では、スパッタリングや表面活性化処理のための粒子として、アルゴン(Ar)を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、キセノン(Xe)などの希ガス、窒素、酸素、又はこれらの混合ガスを採用することもできる。」

5 甲5の記載
「本研究では、これまで用いてきたアルゴン減圧プラズマに加え、あらたに表面活性化のプロセスとして酸素大気圧プラズマを用いた表面活性化接合の実験を行った。・・・一方で、酸素大気圧プラズマ照射は酸素ラジカルを不活性ガス(アルゴン)で大気圧に希釈した混合ガスを試料表面に噴射するものである。酸素ラジカルの高い反応性を利用し、Au電極表面に吸着した有機物中の炭素原子を二酸化炭素化することにより除去する科学的表面洗浄法である。」(1103ページ左欄の下から10行〜最終行)

6 甲6の記載
「大気圧プラズマ照射は活性なラジカルをサンプル表面に高速に吹き付けることにより、表面を洗浄化する。反応ガスとして、アルゴンガスに酸素を混合したものを用いることにより有機汚染物層が酸素ラジカルと反応して二酸化炭素となり除去される。」(1ページ右欄16〜20行)

7 甲7の記載(当審訳)
「Arビームスパッタエッチングによる表面活性化接合(SAB)は、さまざまな半導体ウェーハを室温で接合できることが証明されている。・・・要約すると、酸化物ウェーハは室温でSABによって正常に結合されたが、ただし、その強度は酸化物材料に依存する。」(531ページ概要1〜15行)

「酸化物と酸化物の結合には、SiO2、LiNbO3、及びLiTaO3の平坦なウェーハを使用した。他の酸化物の結合を評価するために、金属ターゲットを使用してAr/O2ガス環境でSiO2ウェーハにAl2O3、TiO2、ZrO2、HfO2膜がスパッタされ堆積される。」(532ページ下から2行〜533ページ1行)

8 甲8の記載
「【0028】
本実施形態に適した直接接合方式としては、表面活性化接合、原子拡散接合、水酸基接合などがある。表面活性化接合は、超高真空中で不活性イオンを接合界面に照射することにより、表面を清浄、活性化し接合する。原子拡散接合は、同じく超高真空中で金属をスパッタリングし、その金属の拡散により接合する。スパッタ膜を非常に薄くすることで、光取り出しに影響なく接合できることも確認されている。水酸基接合は接合界面に水酸基を形成し、水酸基の水素結合で接合する。常温接合においては、必要に応じて加熱処理を行うことで結合力が増す場合がある。その場合、加熱は、400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下で加熱してもよい。また、他の適した直接接合方式としては、電界中で低温接合する陽極接合方式がある。」

9 甲9の記載
「【0045】
本実施形態に適した直接接合方式としては、表面活性化接合、原子拡散接合、水酸基接合等が挙げられる。
表面活性化接合は、超高真空中で不活性イオンを接合界面に照射することにより、表面を清浄、活性化し接合する。
原子拡散接合は、同じく超高真空中で金属をスパッタリングし、その金属の拡散により接合する。スパッタ膜を非常に薄くすることで、光取り出しに影響なく接合できることも確認できている。
水酸基接合は接合界面に水酸基を形成し、水酸基の水素結合で接合する。
上記した3つの常温接合であるが、必要に応じて加熱処理を行うことで結合力が増す場合がある。その場合、加熱は、400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下まで、加熱してもよい。」

10 甲10の記載
「一般に有機EL材料の耐熱温度である80℃以下で形成した従来の保護膜の品質が悪いため、80℃以下で形成できる高品質な保護膜材料の開発が求められています。」(本文16〜17行)

11 甲11の記載
「当社(社長:西 恒美)は、有機ELディスプレイに使用する発光材料、正孔輸送材料、正孔注入材料等の各種製品の品揃えを進めてきましたが、このほど、正孔輸送材料について、既存の材料と同等の電気的性能を維持しつつ、現状(80〜90度)のものよりも、約40度も耐熱性の高い材料の開発に成功しました。」(本文1〜4行)

第5 当審の判断
事案に鑑み、まず申立理由3及び4について判断し、次に申立理由1及び2について判断する。

1 申立理由3(明確性)及び申立理由4(サポート要件)について
(1)請求項1の「一対の基板の両方の接合表面」という記載について、後段の「前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させる」との記載を併せると、請求項1の記載全体として、一対の基板のそれぞれの「片面」の接合表面の「両方」を意味することは明らかであるから、本件発明は明確である。
(2)請求項1の「金属酸化物の薄膜を形成する」「エネルギー粒子が照射された前記接合表面」という記載について、当該記載箇所の前段において、「一対の基板の両方の接合表面に対して、エネルギー粒子を照射する」と特定されており、「エネルギー粒子が照射された前記接合表面」とは、「一対の基板の両方の接合表面」であるので、上記(1)で述べたとおり、本件発明は明確である。
そうすると、申立人のサポート要件に係る主張は、本件発明の上記記載が不明確であることを前提にするものであるから、採用できるものではない。
(3)請求項1及び2の「実質的に不活性ガスと酸素とからなる混合ガス」という記載については、例えば、不活性ガスと酸素以外の不可避ないし他の少量の物質を含むことを許容するという程度の文言として理解できる。
そして、請求項8の「実質的に高分子材料からなる」についても同様である。
したがって、本件発明は明確である。
(4)請求項1の「接合面」と「接合表面」という記載について、本件特許明細書の記載、例えば「金属酸化物の薄膜を基板の接合表面に形成することは、イオンビームアシストスパッタ法で行われてもよい。・・・金属をスパッタすることで、金属と酸素の混合物又は金属の酸化物、金属酸化物を接合面上に形成することができる。」(【0024】)との記載や、「接合される基板の少なくとも一方の接合面が実質的に高分子材料からなっていてもよい。」(【0012】)との記載を踏まえると、請求項1の「接合面」及び「接合表面」は何れも、基板において接合される表面のことを指していることは明らかである。
そして、上記(2)で示したように、「一対の基板の両方の接合表面」に、金属酸化物の薄膜が形成されており、請求項1の「前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させる」との記載は、接合表面の両方の金属酸化物の薄膜を互いに接触させるという意味であるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
(5)請求項8の「前記接合される基板の少なくとも一方の接合面」という記載について、請求項1,3,4で特定されている「接合面」と同一の「接合面」を指していることは明らかである。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件発明は、明確であり、且つ、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。

甲1発明の「素子基板10の環状接合部12と封止基板20の環状接合部22とを無機接着層13,23を介して互いに接触させて接合する、電子素子の封止方法」と、本件発明1の「前記金属酸化物の薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させること、を備える、基板の接合方法。」は、「前記薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させること、を備える、基板の接合方法。」である限りで一致する。

甲1発明の「前記素子基板10と封止基板20の双方がガラスであり、」「素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に、無機接着層13,23を形成」することと、本件発明1の「少なくとも一方が透明基板である一対の基板の」「前記接合表面に、金属酸化物の薄膜を形成すること」は、「少なくとも一方が透明基板である一対の基板の」「接合表面に、薄膜を形成すること」という限りで一致する。

甲1発明の「無機接着層13,23が形成された、素子基板10上の環状接合部12と封止基板20上の環状接合部22との表面に対して、所定の運動エネルギーを有する粒子60を衝突させることで表面活性化処理を行い、」「表面活性化処理に用いる粒子は、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガスである」ことと、本件発明1の「前記金属酸化物の薄膜の表面に対して、実質的に不活性ガスと酸素ガスとからなる混合ガスのエネルギー粒子を照射すること」は、「前記薄膜の表面に対して、ガスのエネルギー粒子を照射すること」という限りで一致する。

以上を総合すると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「少なくとも一方が透明基板である一対の基板の接合表面に、薄膜を形成することと、
前記薄膜の表面に対して、ガスのエネルギー粒子を照射することと、
前記薄膜を介して、前記一対の基板の前記接合面を互いに接触させること、
を備える、基板の接合方法。」

<相違点1>
薄膜の形成前において、本件発明1は、「両方の接合表面に対して、エネルギー粒子を照射する」のに対し、甲1発明は、エネルギー粒子を照射することが特定されていない点。

<相違点2>
接合表面に形成される薄膜が、本件発明1は、「金属酸化物の薄膜」であるのに対し、甲1発明は、「無機接着層13,23」である点。

<相違点3>
薄膜の表面に照射するエネルギー粒子が、本件発明1は、「実質的に不活性ガスと酸素ガスとからなる混合ガス」であるのに対し、甲1発明は、「ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス又は不活性ガス」である点。

イ 理由1(新規性)についての判断
上記相違点1〜相違点3は実質的なものである。
よって、本件発明1は、甲1発明ではない。

ウ 理由2(進歩性)についての判断
事案に鑑み相違点2及び相違点3について検討する。
薄膜の表面に照射するエネルギー粒子に関して、本件特許明細書の「酸素ガスを含まずに希ガスだけを用いたエネルギー粒子ビームを照射すると、金属酸化物の表面近傍で酸素が金属に対して欠乏する場合がある。この際に、金属の量が比較的に増加することにより、可視光などの光の透過率が低下する場合がある。・・・したがって、接合面に対して照射するエネルギー粒子ビームは、酸素を含むことで、この酸素が金属酸化物表面に結合し、酸素の欠乏を回避又は低減させることができると考えられる。これにより、十分な接合された透明基板の積層体の光透過率を得ることが可能になると考えられる。」(【0042】)との記載を踏まえると、本件発明1は、接合表面に形成される薄膜が金属酸化物であることを前提として、当該薄膜に照射するエネルギー粒子に酸素を含むことで金属酸化物の表面の酸素欠乏を回避し、それにより、接合された透明基板の積層体が十分な光透過率を得るという技術的意義を有するものである。
他方、甲1には、「無機接着層13,23の材料として、・・・酸化アルミニウム(Al2O3)・・・などの窒化物、窒化酸化物、酸化物又は炭化物を採用することができる。」(【0059】)と記載されるものの、甲1発明は、「表面活性化処理に用いる粒子」として「希ガス又は不活性ガス」を用いるものであり、その技術的意義が「所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させて、接合面を形成する物質を物理的に弾き飛ばす現象(スパッタリング現象)を生じさせることで、酸化物や汚染物など表面層を除去し、表面エネルギーの高い、すなわち活性な無機材料の新生表面を露出させる」(【0066】)ものであることを考慮すると、「希ガス又は不活性ガス」に「酸素」を追加して表面活性化処理を行うといった着想は得られず、むしろ、その適用に阻害要因があるといえる。
そうすると、甲1発明において、薄膜の材料として多数の選択肢の中から「金属酸化物」を選ぶことを前提に、表面活性化処理に用いる希ガス又は不活性ガス粒子に「酸素」を追加するといった動機付けはなく、むしろ、「酸素」を追加することの阻害要因があることから、甲1発明において、甲2〜甲12に記載された事項を採用して、相違点2及び相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2〜甲12に記載された事項から当業者が容易になし得たものでもない。

(2)本件発明2〜8について
本件発明2〜8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜8は、甲1発明ではなく、当業者が甲1発明及び甲2〜甲12に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものでもない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-12-23 
出願番号 P2017-254137
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 石田 智樹
稲葉 大紀
登録日 2022-03-23 
登録番号 7045186
権利者 須賀 唯知 ランテクニカルサービス株式会社
発明の名称 基板の接合方法、透明基板積層体及び基板積層体を備えるデバイス  
代理人 赤津 豪  
代理人 赤津 豪  

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