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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C11C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C11C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C11C |
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管理番号 | 1393118 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-03 |
確定日 | 2022-12-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6991653号発明「油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6991653号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許(特許第6991653号)に係る出願は、平成29年9月25日(優先権主張 平成29年9月15日(以下「本件優先日」という。) 日本国)の出願であって、令和3年12月10日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、令和4年2月3日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜6に係る特許に対し、同年8月3日に特許異議申立人 加藤 三千代(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された以下のとおりのものである(請求項1〜6に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明6」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。 「【請求項1】 油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、 油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95質量%であり、 該高オレイン酸大豆油がグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%であり、 高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である、油脂組成物。 【請求項2】 油脂組成物のヨウ素価が65〜92である、請求項1に記載の油脂組成物。 【請求項3】 油脂組成物中の高オレイン酸大豆油のヨウ素価が100以下である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。 【請求項4】 油脂組成物中の高オレイン酸大豆油に含有されるδ−トコフェロール量は、高オレイン酸大豆油に含有される全トコフェロール量の20〜40質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂組成物。 【請求項5】 前記2種以上の油脂が、高オレイン酸大豆油以外に、パーム油、パーム油の分別油、菜種油、大豆油、米油、ひまわり油、コーン油、紅花油、オリーブ油から選ばれる1種以上を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂組成物。 【請求項6】 油脂組成物が、20℃で液状である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の油脂組成物。」 第3 特許異議申立理由の概要 本件特許は、下記2〜4のとおり、特許法第113条第2号及び第4号に該当するから、取り消すべきものである。 1 甲号証の一覧 申立人が提示した甲号証は、次のとおりである。以下、申立人の提示した甲第1号証を「甲1」などという。 甲1:米国特許出願公開第2004/0049813号明細書 甲2:特表平11−508961号公報 甲3:米国特許出願公開第2007/0082112号明細書 甲4:米国特許出願公開第2013/0053442号明細書 甲5:Kathleen W., et. al, ”Potato Chip Quality and Frying Oil Stability of High Oleic Acid Soybean Oil”, Journal of Food Science,2005,Vol.70,Nr.6,p.395〜400 甲6:特開2004−27091号公報 甲7:国際公開第2016/065144号 甲8:本件出願の意見書、令和3年7月30日(提出日) 甲9:Caiping Su., et. al, ”Frying Stability of High−Oleate and Regular Soybean Oil Blends”, Journal of the American Oil Chemists’ Society (JAOCS),2004,Vol.81,No.8,p.783〜788 2 申立理由1(新規性欠如) 本件特許発明1、5は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」ともいう。)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由2(進歩性欠如) (1)本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2、甲3、甲4、甲5又は甲7に示された本件優先日前の公知技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)本件特許発明2〜4は、甲1発明、及び甲2、甲7又は甲9に示された本件優先日前の公知技術に基いて、当業者が容易に想到することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)本件発明5は、甲1発明、及び甲3、甲6又は甲7に示された本件優先日前の周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)本件特許発明6は、甲1発明、及び甲3に示された本件優先日前の周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由3(サポート要件違反) 本件特許発明1〜6は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第4 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について 1 各甲号証の記載 (1)甲1の記載 甲1には、次の記載がある。なお、日本語訳は、甲1の対応JPファミリー文献である、特表2002−514428号公報の対応箇所の記載に基づく。 ア「 ・・・ ・・・ ・・・ 」(第22〜23頁) (日本語訳: 【請求項1】 全種子脂肪酸プロフィールが21%より多いC16:0及びC18:0総合含有量、60%より多いC18:1含有量並びに7%未満のC18:2及びC18:3総合含有量を含んでなる成熟種子を作るダイズ植物。 ・・・ 【請求項4】 請求項1の植物の種子から得られる油。 ・・・ 【請求項9】 請求項4、5または6の油を含んでなるマーガリンまたはスプレッド製品を製造するために適当なブレンドされた脂肪生成物。 ・・・ 【請求項11】 完全に水素化されたダイズ油、完全に水素化された綿実油、完全に水素化されたヤシ油、部分的に水素化されたダイズ油、部分的に水素化された綿実油、部分的に水素化されたヤシ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヤシ油、カノラ油、ヒマワリ油、ラッカセイ油、ベニバナ油またはそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの成分をさらに含んでなる請求項9のブレンドされた脂肪生成物。) イ「 」 (日本語訳:【0001】 発明の分野 本発明は、ダイズ種子の新規な脂質組成をもたらす新規な遺伝子組み合わせ及びそのようなダイズ種子から抽出される油に関する。これらの新規なダイズ遺伝子組み合わせ物は、より高価な油の製造及び特定の機能品質及び健康特性を与えるための油の化学的改変に対する別法を提供する。) ウ「 ・・・」 (日本語訳:【0003】 植物脂質は、トリアシルグリセロールの形態で食用油としてそれらの主要な用途がある。食用油の特定の性能及び健康特性は主としてそれらの脂肪酸組成により決定される。商業的植物変種から得られる大部分の植物油は、主としてパルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)及びリノレン酸(18:3)から成る。パルミチン酸及びステアリン酸は、それぞれ、16及び18炭素長の飽和脂肪酸である。オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸は、それぞれ、1、2及び3個の二重結合を含有する18炭素長の不飽和脂肪酸である。オレイン酸はモノ不飽和脂肪酸と呼ばれ、一方、リノール酸及びリノレン酸はポリ不飽和脂肪酸と呼ばれる。・・・) エ「 」 (日本語訳:【0073】 当業者は、本発明において記述した油の水素化、分別、エステル交換反応または加水分解から得られる生成物をマーガリンまたはスプレッド製品を製造するために使用できることを認識する。さらに、マーガリンまたはスプレッド製品を製造するために他の成分と組み合わせて、天然の状態または水素化、分別、エステル交換反応及び/もしくは加水分解により改変したいずれかの、本発明の分別されたまたは分別されていない油を利用して以下に記述するようにブレンドされた製品を作ることができる。) オ「 ・・・ 」 (日本語訳:【0096】 実施例3 高ステアリン酸ダイズ油の固体脂肪含有量 ・・・ 【0102】 表5及び6は、15%〜22%のステアリン酸の範囲の高ステアリン酸ダイズ油の組成及び機能特性を示す。さらに、これらの油のうち4つは高いレベルのオレイン酸を有する。22%のステアリン酸及び通常のオレイン酸含有量を含む油は、ソフトタブマーガリンに必要とされる明細事項を満たすために十分な固体性をもたなかった(図1参照)。しかしながら、22%のステアリン酸、高オレイン酸の組み合わせのSFCプロフィールは、市販のソフトタブマーガリンに対して公開された範囲内に入った。本明細書に提示する高オレイン酸と組み合わせた高ステアリン酸の油並びに類似した組成を有する油は、25℃で20未満、好ましくは25℃で15未満、より好ましくは25℃で10未満、最も好ましくは25℃で5未満、そして10℃で20より大きい、好ましくは10℃で20〜50の間、最も好ましくは10℃で20〜35の間のSFCプロフィールを有する脂肪生成物を製造できると考えられる。 【0103】 22%未満のステアリン酸を有する油は、マーガリン及びスプレッド製品と一致するSFCプロフィールをもたなかった。従って、少なくとも22%のステアリン酸濃度と組み合わせて高オレイン酸濃度を有するブレンドされていない油からマーガリン及びスプレッド製品と一致するSFCプロフィールを得ることができた。 【0104】 ・・・ 【0105】 ・・・ 【0106】 実施例4 トランス脂肪酸異性体を欠くマーガリンを製造するためのベース油ブレンド マーガリンのSFC必要条件を満たし且つトランス脂肪酸異性体を含有しない脂肪を製造するために高ステアリン酸油をヤシ油または完全に水素化されたダイズフレーク(Dritex PST Hydrogenated Soybean Flakes,AC HUMKO,525W.1st Avenue,Columbus OH)のいずれかと(表7に示すように)ブレンドした。得られたブレンドを脂肪酸組成、様々な温度での固体脂肪含有量及び酸化安定性に関して分析した。表7は、これらのブレンドの各々の脂肪酸組成及びOSI値を示す。図2に図式表示を示す。高ステアリン酸/高オレイン酸油で作られたブレンドは、通常のオレイン酸レベルを有する高ステアリン酸油で作られたブレンドより4−7倍大きい酸化安定性値を示す。ブレンドされていない形態及びブレンドされた形態の本明細書に提示する高オレイン酸で高ステアリン酸の油並びに類似した組成を有する油は、15より大きい、好ましくは25より大きい、最も好ましくは35より大きいOSI(110)を有する脂肪生成物を製造できると考えられる。表8は、これらのブレンドの各々の固体脂肪含有量を示す。高い酸化安定性を示す高ステアリン酸/高オレイン酸油のブレンドされた形態(HSHO C+ヤシ油、及びHSHO D+完全に水素化されたダイズ油)は図3において示されるようにそれらのSFCプロフィールも改善しており、今度はソフトタブマーガリンの曲線と適合する。ブレンドされていない形態及びブレンドされた形態の本明細書に提示する高オレイン酸で高ステアリン酸の油並びに類似した組成を有する油は、25℃で20未満、好ましくは25℃で15未満、より好ましくは25℃で10未満、最も好ましくは25℃で5未満、そして10℃で20より大きい、好ましくは10℃で20〜50の間、最も好ましくは10℃で20〜35の間のSFCプロフィールを有する脂肪生成物を製造できると考えられる。 【0107】 ・・・ 【0108】 ・・・ ) カ「 」 (日本語訳:【0115】 実施例7 高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズ (高オレイン酸含有量のための)D2T遺伝子を含有するダイズ系統と(低パルミチン酸含有量のための)fap1対立遺伝子及びfap3対立遺伝子の両方を含有するダイズ系統間で交配を実施してF1子孫を得た。次に、F1子孫を次の世代において自殖させてF2種子及びF2:3ファミリーを得た。次に、最小のパルミチン酸含有量及び最大のオレイン酸含有量を含むF2:3ファミリーを選択し、植え、自家受粉させてF3:4子孫を得た。次に、個々のF3:4表現型を決定できるように各F3植物からのF4種子のサンプル(F3:4種子)をGC分析に供した。次に、共通のF2植物祖先に由来するF3:4植物表現型を平均してF2に由来するファミリーの平均表現型(F2:4ファミリー平均)を得た。パルミチン酸含有量が最も低く且つオレイン酸含有量が最も高い単一植物及びファミリー平均を表11に示し、全種子脂肪酸中の増加するパルミチン酸の順に示す。低パルミチン酸含有量の選択は1/10%までの精度を必要とするので、表11中のパルミチン酸値はそのレベルの精度まで示され、一方、他の脂肪酸の値は最も近い整数の%に四捨五入される。 【0116】 ・・・ 【0117】 実施例8 高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズ 高オレイン酸含有量のためのD2T遺伝子を含有するダイズ系統と低リノレン酸含有量のためのfan対立遺伝子またはD3A遺伝子のいずれかを含有するダイズ系統間で交配を実施してF1子孫を得た。次に、F1子孫を次の世代において自殖させてF2種子及びF2:3ファミリーを得た。次に、最小のリノレン酸含有量及び最大のオレイン酸含有量の両方を含むF2:3ファミリーを選択し、植え、自家受粉させてF3:4子孫を得た。次に、個々のF3:4表現型を決定できるように各F3植物からのF4種子のサンプル(F3:4種子)をGC分析に供した。次に、共通のF2植物祖先に由来するF3:4植物表現型を平均してF2に由来するファミリーの平均表現型(F2:4ファミリー平均)を得た。リノレン酸含有量が最も低く且つオレイン酸含有量が最も高い単一植物及びファミリー平均を表12に示し、増加するリノレン酸の順に示す。低リノレン酸含有量の選択は1/10%までの精度を必要とするので、表12中のリノレン酸値はそのレベルの精度まで示され、一方、他の脂肪酸の値は最も近い整数の%に四捨五入される。 【0118】 ・・・ ) キ「 」 (日本語訳: (2)甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 ア「【特許請求の範囲】 1.油中の脂肪酸部分の65%より高いC18:1含量、油中の脂肪酸部分の20%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量、ならびに50時間より大きい活性酸素誘導期を含んで成る高い酸化安定性を有する高オレイン酸大豆油であって、該酸化安定性が酸化防止剤の添加無しに達成される上記高オレイン酸大豆油。 2.上記油が、ブレンド油製品を作成するためのブレンド供給源として有用な、請求の範囲第1項に記載の高い酸化安定性を有する高オレイン酸大豆油。 ・・・ 7.請求の範囲第1項に記載の油を用いて作られたブレンド油生成物。」(第2頁) イ「 発明の要約 本発明は、高い酸化安定性を有する高オレイン酸大豆油を対象とし、これは油中の脂肪酸部分の65%より高いC18:1含量、油の脂肪酸部分の20%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量、ならびに50時間より大きい活性酸素法誘導期を含んでなり、ここで該酸化安定性は酸化防止剤を添加することなく達成される。本発明の油は、ブレンドした油製品を作成するためのブレンド供給源として使用することができる。これは食品の製造に使用できる。」(第6頁第8〜14行) ウ「高オレイン酸のダイズ種子は、オレイン酸が油中の脂肪酸部分の65パーセントより多くを占め、好ましくは油中の脂肪酸部分の75パーセントより多くを占めるダイズ種子である。好適な高オレイン酸大豆油の出発材料は、国際公開第94/11516号明細書に開示され、その開示は引用により本明細書に編入する。本発明に使用するダイズは、以下の実施例1に記載する。 本発明の高オレイン酸大豆油は、脂肪酸部分の65−85%のC18:1含量、脂肪酸部分の20%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量を有する。好ましくは本発明の油は、脂肪酸部分の約70%より高いC18:1含量、脂肪酸の15%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量を有する。さらに好ましくは本発明の油は、脂肪酸部分の約75%より高いC18:1含量、脂肪酸部分の10%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量を有する。一層好ましくは本発明の油は、脂肪酸部分の約80%より高いC18:1含量、脂肪酸の10%未満のC18:2およびC18:3を合わせた含量を有する。」(第7頁第8〜19行) エ「 実施例3 組成分析 実施例2で調製した油を、組成について以下に記載するように分析した。油に関する組成データを表2に示す。 脂肪酸組成:脂肪酸組成は、本質的にAOCS Ce 1c−89 に記載されている方法により測定した。脂肪酸メチルエステルは、以下のように調製した。10μlの油を1mLのヘキサンおよび0.25mLの3%ナトリウムメトキシド溶液と、30分間混合した。酢酸(10%溶液を0.1mL)を加え、サンプルを混合し、そして遠心により層を分離した。ヘキサン層から抽出した生成した脂肪酸メチルエステルを、ガスクロマトグラフィー(GC)により解析した。ヒューレットパッカード(Hewlett Packard)5890GC(ウィルミントン、デラウエア州)は、SP2340カラム(60m、0.25mm ID、0.2ミクロンのフィルム厚)(スペルコ:Supelco、ベルホンテ、ペンシルバニア州)を装備していた。カラム温度は注入時に150℃であり、そして40分間にわたって2℃/分で150−200℃にプログラムされた。注入器および検出器は、それぞれ215℃および230℃であった。 ・・・ 」(第21頁第4行〜第23頁第1行) オ「 」(第28頁) カ「 実施例9 組成の関数としての高オレイン酸大豆油の安定性 引き続き成長期間中に生育した高オレイン酸ダイズ種子から油を収穫し、そして油を抽出し、そして実施例2で説明した条件により処理した。組成データは、実施例3に記載の方法を使用して得た。これら生成物に由来する高オレイン酸大豆油は、脂肪酸組成、トコフェロール含量およびAOM/OSI誘導期について、表8に示すようにわずかに変動した。 」(第31頁第8行〜最終行) (3)甲4の記載 甲4には、次の記載がある。なお、日本語訳は、申立人が提出した抄訳に基づく。 ア「 」(第20頁右欄第16〜23行) (日本語訳: カーギル社の高オレイン酸ヒマワリ油は、約82%のオレイン酸、8〜9%のリノール酸および8〜9%の飽和脂肪酸を含み、デュポン社の高オレイン酸大豆油は、約84%のオレイン酸、3%のリノール酸、および13%の飽和脂肪酸を含んでいる。所望により、リノール酸を実質的に含む様々な植物油、例えば、標準または商品大豆、サフラワー、ヒマワリ、および/またはコーン油のいずれかを添加することにより、リノール酸をさらに寄与させることができる。) (4)甲5の記載 甲5には、次の記載がある。なお、日本語訳は、当審が作成した。 ア「 」(第396頁右欄) (日本語訳: 表1−綿実油(CSO)、高オレイン酸大豆油(HOSBO)、低リノレン酸大豆油(LLSBO)、及びHOSBOとLLSBOの1:1ブレンド油の脂肪酸組成(%)) (5)甲7の記載 甲7には、次の記載がある。なお、日本語訳は、甲7の対応JPファミリー文献である、特表2017−533315号公報の対応箇所の記載に基づく。 ア「 」(第6頁第26行〜第7頁第2行) (日本語訳:【0035】 「HO大豆油」、「高オレイン酸大豆油」または「高オレイン酸大豆種子油」という用語は、高オレイン酸大豆種子の加工から製造される大豆油を指す。高オレイン酸大豆種子油は、油中に、全脂肪酸の少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、および95%のオレイン酸含有量を有する油である。高オレイン酸大豆油の例は、その開示を参照によって本明細書に援用する、国際公開第1994/011516号パンフレットで開示される。) (6)甲9の記載 甲9には、次の記載がある。なお、日本語訳は、申立人が提出した抄訳に基づく。 ア「 」(第784頁左欄第16〜22行) (日本語訳: フライ安定性については、先ほどの3つの大豆油(対照、低リノレン酸大豆油、79%高オレイン酸大豆油)をそのまま試験したものと、以下のように調製した3つのオイルブレンドを含む、6つの大豆油を処理したものを評価した。(i)対照75%(重量)と高オレイン酸大豆油25%(37%高オレイン酸大豆油)、(ii)対照50%と高オレイン酸大豆油50%(51%高オレイン酸大豆油)、(iii)対照25%と高オレイン酸大豆油75%(65%高オレイン酸大豆油)。) イ「 」(第785頁) (日本語訳: ) (7)甲3の記載 甲3には、次の記載がある。なお、日本語訳は、申立人が提出した抄訳に基づく。 ア「 」 (日本語訳:[0017] 本発明は、新規な食用油及びそれらの食用油の新規な調製方法に関する。新規な方法は、改良された食用油、例えば、この特許開示に記載されているように、正規化および/または実質的にトランスフリーであり、および/または他の望ましい特性を有する食用油の製造のために提供される。本食用油ブレンドは、典型的には、第1の食用油および第2の食用油(および任意選択で、第3の食用油、第4の食用油、または追加の食用油)を含む。例えば、第1の食用油は、低リノレン性大豆油であることができ、第2の食用油は、パーム油(パームオレインまたはパームステアリンなど)であることができ、そして場合により、食用油ブレンドは、高オレイン酸キャノーラ油などの第3の食用油を含む。あるいは第2、第3、または追加の食用油は、キャノーラ油、綿実油、サフラワー油、大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油、パーム油、MCT油、部分水素化大豆油、およびトリオレイン油から選択することができる。このような食用油ブレンドを製造および使用するための方法も提供される。) イ「 ・・・」 (日本語訳:[0039] 本方法は、1つ以上の望ましい特性を有する食用油ブレンドを提供することができる。食品用途に望ましい特性の中には、味、酸化安定性、および構造などの機能特性(例えば、本明細書に記載の液体油が1つ以上の固体脂肪とブレンドされて短縮を生じる場合)、ならびに栄養価、1つまたは複数の多価不飽和脂肪酸の一価不飽和脂肪酸に対する割合、および必須脂肪酸の利用性などの栄養特性も含まれる。例えば、本方法は、商品食用油(例えば大豆、キャノーラ、およびパーム油)に基づく、または実質的に同等の市販の揚げ物性能を有する食用油を提供する。・・・) ウ「 」 (日本語訳:[0104] ) エ「・・・ ・・・ ・・・ ・・・」(第17〜18頁) (日本語訳: ・・・ [請求項7] 低リノレン酸大豆油約92%、パームステアリン約8%からなる、請求項1記載の食用油ブレンド。 ・・・ [請求項20] 所望の脂肪酸含量を有する食用油ブレンドを調製する方法であって、目標脂肪酸含量を選択すること;及び目標脂肪酸含量を有する食用油ブレンドを提供するのに十分な量の第1の食用油及び第2の食用油をブレンドすることであって、第1の食用油が低リノレン酸大豆油である、方法。 ・・・ [請求項25] 第2の食用油が、カノーラ油、綿実油、サフラワー油、大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油、パーム油、MCT油、部分水素化大豆油、及びトリオレイン油からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。 ・・・) 2 甲1発明の認定 (1)甲1の表7(前記1(1)の摘記オ)には、「HSHO油C+ヤシ油(50%)のブレンド」(blend of HSHO oil C+palm oil(50%))というブレンドされた油が記載されており、その組成は、ヤシ油が50%で、残りの50%がHSHO油Cといえる。また、ここで使用される「HSHO油C」(HSHO oil C)は、同表5に記載の「高ステアリン酸/高オレイン酸油C」(high stearic/high oleic oil C)を指すと解される(前記1(1)の摘記オ参照)。 (2)甲1の段落[0121](前記1(1)の摘記オ)の「高ステアリン酸ダイズ油の固体脂肪含有量」、同[0128](前記1(1)の摘記オ)の「表5及び6は、15%〜22%のステアリン酸の範囲の高ステアリン酸ダイズ油の組成及び機能特性を示す。さらに、これらの油のうち4つは高いレベルのオレイン酸を有する。」との記載より、同表5に記載の「高ステアリン酸/高オレイン酸油C」(high stearic/high oleic oil C)は、ダイズ油といえる。 (3)甲1の表5(前記1(1)の摘記オ)の「18:1」の列は、前記1(1)の摘記ウによればオレイン酸の含有率を示す列であるから、「高ステアリン酸/高オレイン酸油C」(high stearic/high oleic oil C)の脂肪酸組成は、オレイン酸含有率が67.6%であるといえる。 (4)そうすると、甲1の表7に開示される「HSHO油C+ヤシ油(50%)のブレンド」として、甲1から次の発明(以下、「甲1発明」という。)が認定できる。 (5)甲1発明 「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)50%とヤシ油50%のブレンド油であって、 該高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)の脂肪酸組成は、オレイン酸含有率が67.6%である、ブレンド油。」 3 本件特許発明1について (1)対比 甲1発明と本件特許発明1を対比する。 ア 甲1発明の「ブレンド油」は、本件特許発明1の「油脂組成物」に相当する。 イ 甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)」は、本件特許発明1の「高オレイン酸大豆油」に相当する。 ウ 甲1発明の「ヤシ油」は、本件特許発明1の「高オレイン酸大豆油以外の油脂」かつ「パーム油」に相当する。 エ 甲1発明のブレンド油は、「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)50%とヤシ油50%のブレンド油」であるから、本件特許発明1の「油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し」、「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95質量%であり」、「高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である」を充足する。 (2)一致点及び相違点 そうすると、甲1発明と本件特許発明1は、 「油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、 油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95質量%であり、 高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である、油脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> 本件特許発明1は、高オレイン酸大豆油のグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が「75〜95質量%」であるのに対し、甲1発明は、高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)の脂肪酸組成につき、オレイン酸含有率が「67.6%」である点。 (3)相違点の検討 前記相違点について、甲1の記載及び他の甲号証の記載に基づき検討する。 ア 甲1の記載に基づく検討 甲1の実施例7及び表11には、高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズとして、脂肪酸中のオレイン酸(18:1)含有率が88〜90%であるダイズが記載されており、実施例8及び表12には、高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズとして、脂肪酸中のオレイン酸(18:1)含有率が82〜88%であるダイズが記載されている(前記1(1)の摘記カ参照)。そのため、前記相違点に係る構成は、一見すると甲1の実施例7〜8及び表11〜12に記載されているとも解し得る。 しかしながら、甲1に記載された各種交配により種々の脂肪酸組成を有する複数種のダイズ及びダイズ油は、それぞれ独立した並列関係で記載されたものであって、その実施例3及び表5には、高ステアリン酸ダイズ油又は高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油が記載され、同実施例4及び表7には、表5に記載の各高ステアリン酸ダイズ油又は高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油と他の油のブレンドが記載され、同実施例7及び表11には、高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズが記載され、実施例8及び表12には、高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズが記載されているものの、それぞれの関係は並列的なものにとどまっている(前記1(1)の摘記オ、カ参照)。そして、甲1には、このように並列的に記載された、種々の脂肪酸組成を有する各々のダイズ又はダイズ油を組み合わせたり置換したりすることを示唆する記載等は一切見当たらず、各々のダイズ又はダイズ油の成分の都合の良い部分のみを恣意的に組み合わせた発明を、甲1に記載された発明として認定することはできない。 したがって、甲1の表7に開示される「HSHO油C+ヤシ油(50%)のブレンド」から認定される甲1発明と、本件特許発明1を対比したときの前記相違点は、実質的な相違点である。 さらに、甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油」は、高オレイン酸大豆油といえるものであると同時に、高ステアリン酸大豆油といえるものでもあることを要するところ、甲1の実施例7及び表11に記載される「高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズ」に由来する油や、同実施例8及び表12に記載される「高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズ」に由来する油は、表11〜12の脂肪酸組成を踏まえると、いずれも高オレイン酸大豆油といえるものの、同時に高ステアリン酸大豆油といえるものではない。そして、前述のとおり、甲1の実施例7及び表11に記載される「高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズ」に由来する油や、同実施例8及び表12に記載される「高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズ」に由来する油を、甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油」の代わりに用いることができるものであることを示唆する記載等は、甲1に一切見当たらない。 加えて、前記2で認定したとおり、甲1発明のブレンド油は、甲1の表7に開示される「HSHO油C+ヤシ油(50%)のブレンド」であり、このブレンド油は、甲1の実施例4及び図3に記載されるように、マーガリンのSFC(固体脂肪含有量)必要条件を満たす油脂として製造され、SFC(固体脂肪含有量)プロフィールが改善し、ソフトタブマーガリンの曲線と適合するものである(前記1(1)の摘記オ、キ参照)。ここで、本件優先日における当業者の技術常識を考慮すれば、SFC(固体脂肪含有量)プロフィールをはじめとする油脂の融解特性は、油脂を構成する脂肪酸の組成、より具体的には、飽和脂肪酸(パルミチン酸及びステアリン酸)、モノ不飽和脂肪酸(オレイン酸)、ポリ不飽和脂肪酸(リノール酸及びリノレン酸)に分類される各脂肪酸の含有率、油脂全体における脂肪酸の不飽和度によって変化するといえる。そうすると、甲1発明において、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「67.6%」である「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)」の代わりに、甲1の実施例7及び表11に記載される「高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズ」に由来する油や、同実施例8及び表12に記載される「高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズ」に由来する油を使用すれば、ブレンド油の融解特性が変化し、マーガリンとして適当なSFC(固体脂肪含有量)プロフィールを示さなくなる恐れがある。 したがって、甲1発明において、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「67.6%」である「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)」の代わりに、甲1の実施例7及び表11に記載される「高オレイン酸及び低パルミチン酸含有量を有するダイズ」に由来する油や、同実施例8及び表12に記載される「高オレイン酸及び低リノレン酸含有量を有するダイズ」に由来する油を使用することにより、相違点に係る構成を備えるものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。 イ 甲1以外の甲号証の記載に基づく検討 甲2の表2、表5及び表8には、脂肪酸組成においてオレイン酸(C18:1)含有率が85.6%、84.0%、81.7%、又は82.6%である、高オレイン酸大豆油が記載されている(前記1(2)の摘記エ〜カ参照)。 甲4の第20頁右欄第16〜23行には、デュポン社の高オレイン酸大豆油が約84%のオレイン酸を含んでいることが記載されている(前記1(3)の摘記ア参照)。 甲5の表1には、脂肪酸組成においてオレイン酸(C18:1)含有率が85.1%である、高オレイン酸大豆油(HOSBO)が記載されている(前記1(4)の摘記ア参照)。 甲7の第6頁第26行〜第7頁第2行には、「HO大豆油」、「高オレイン酸大豆油」又は「高オレイン酸大豆種子油」は、高オレイン酸大豆種子の加工から製造される大豆油を指し、油中に、全脂肪酸の少なくとも・・・、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、及び95%のオレイン酸含有量を有する油であることが記載されている(前記1(5)の摘記ア参照)。 甲9の第784頁左欄第16〜22行及び表1には、脂肪酸組成においてオレイン酸(18:1)含有率が79.0%である高オレイン酸大豆油(79%OA)が記載されている(前記1(6)の摘記ア〜イ参照)。 このように、脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%程度の高オレイン酸大豆油は、公知である。 しかしながら、甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油」は、高オレイン酸大豆油といえるものであると同時に、高ステアリン酸大豆油といえるものでもあることを要するところ、これらの甲号証(甲2、甲4、甲5、甲7、甲9)に記載されているものは、いずれも高オレイン酸大豆油といえるものではあるが、同時に、高ステアリン酸大豆油といえるものでもあるか否かは不明である。そして、オレイン酸の含有割合を増加すればその分ステアリン酸の含有割合は減少することになるから、これらの高オレイン酸大豆油は、高ステアリン酸大豆油とはいえないものである蓋然性が高いし、少なくとも、これらの高オレイン酸大豆油が甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油」に該当するものであるか否かは不明である。さらに、甲2、甲4、甲5、甲7、甲9をみても、これらの高オレイン酸大豆油を、甲1発明の「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油」の代わりに用いることができるものであることを示唆する記載等は一切見当たらない。 加えて、前記アでも述べたとおり、甲1発明のブレンド油は、マーガリンのSFC(固体脂肪含有量)必要条件を満たす油脂として製造され、SFC(固体脂肪含有量)プロフィールが改善し、ソフトタブマーガリンの曲線と適合するものであるところ(前記1(1)の摘記オ、キ参照)、甲1発明において、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「67.6%」である「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)」の代わりに、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「75〜95質量%」とより高い高オレイン酸大豆油を使用すれば、ブレンド油の融解特性が変化し、マーガリンとして適当なSFC(固体脂肪含有量)プロフィールを示さなくなる恐れがある。 したがって、甲1発明において、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「67.6%」である「高ステアリン酸/高オレイン酸ダイズ油C(HSHO油C)」の代わりに、脂肪酸中のオレイン酸含有率が「75〜95質量%」とより高い高オレイン酸大豆油を使用することにより、相違点に係る構成を備えるものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。 また、甲3の表8には、低リノレン酸大豆油とパーム油(オレイン画分)のブレンドが記載されている(前記1(7)の摘記ウ参照)。しかしながら、ここで使用される低リノレン酸大豆油の脂肪酸組成は、オレイン酸(C18:1)含有率が25.3%であり(前記1(7)の摘記ウ参照)、前記相違点に係る構成である、オレイン酸含有率が「75〜95質量%」である「高オレイン酸大豆油」については、甲3に記載も示唆もされていない。 したがって、甲3の記載を参酌しても、甲1発明において、前記相違点に係る構成を備えるものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。 (4)申立人の主張及びその検討 ア 申立人の主張 申立人は異議申立書において、本件特許発明1の発明特定事項を「(a)油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、」、「(b)油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95質量%であり、」、「(c)該高オレイン酸大豆油がグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%であり、」、「(d)高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である、」、「(e)油脂組成物。」の5つに分節した上で(第10頁第18行〜第11頁第1行)、以下の旨を主張する。 (ア)新規性について 発明特定事項(a)、(b)、(d)、(e)については、甲1の表7に記載されており、発明特定事項(c)については、甲1の表11〜12に記載されている。したがって、発明特定事項(a)、(b)、(d)、(e)及び発明特定事項(c)からなる本件特許発明1は、甲1に記載された発明であり、発明の新規性を有しない。(第19頁第2行〜第21頁第7行) (イ)進歩性について 発明特定事項(a)、(e)については、甲1の表7に記載されており、発明特定事項(b)については、甲3、甲4、甲7に記載されるように公知技術であり、発明特定事項(c)については、甲2、甲4、甲5、甲7に記載されるように周知技術であり、発明特定事項(d)については、甲3、甲7に記載されるように公知技術である。したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3、甲4、甲5又は甲7に示される本件優先日前の公知技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、発明の進歩性を有しない。(第38頁第25行〜第42頁第23行) また、本件発明の課題は「酸化上昇を抑制する油脂組成物を得ること」であるが、甲1、甲2、甲3、甲7の課題も同様又は類似するものである。そうすると、「本件発明の課題は公知であり、当業者に知られていた課題である」とともに、「本件発明の課題は本件優先日前に出願された特許出願の課題に一致し、その技術分野も一致する」と云える。したがって、本件発明の課題と甲第1号証〜甲3号証及び甲第7号証の課題には、「技術分野の関連性」があり、さらに「課題の共通性」があることから、当業者が請求項に係る発明を導く動機付けがある根拠となりうる。(第48頁第23行〜第50頁第11行) イ 申立人の主張の検討 (ア)新規性について 前記2(1)で認定したとおり、甲1の表7における「HSHO油C」(HSHO oil C)は、表5に記載の「高ステアリン酸/高オレイン酸油C」(high stearic/high oleic oil C)を指すと解され、その脂肪酸組成が表11〜12に開示されるダイズの脂肪酸組成と異なることは、表5及び表11〜12の記載から明らかである。 そして、前記(3)アで検討したとおり、甲1には、並列的に記載された、種々の脂肪酸組成を有する各々のダイズ又はダイズ油を組み合わせたり置換したりすることを示唆する記載等は一切見当たらず、各々のダイズ又はダイズ油の成分の都合の良い部分のみを恣意的に組み合わせた発明を、甲1に記載された発明として認定することはできない。 そのため、発明特定事項(a)、(b)、(d)、(e)が甲1の表7に記載され、発明特定事項(c)が甲1の表11〜12に記載されていることで、本件特許発明1の全構成が揃ったとしても、甲1の異なる箇所に記載された各構成を恣意的に組み合わせて甲1に記載された発明を認定し、本件特許発明1との間に相違点が存在しないと認めることはできない。 したがって、申立人の前記主張は採用できない。 (イ)進歩性について 前記主張は、要するに、発明特定事項(a)、(e)を備えた甲1記載の発明に、甲3、甲4、甲7に記載されるような発明特定事項(b)に関する公知技術、甲2、甲4、甲5、甲7に記載されるような発明特定事項(c)に関する周知技術、及び甲3、甲7に記載されるような発明特定事項(d)に関する公知技術を適用することで、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張し、当該公知技術及び周知技術を適用する動機付けとして、「技術分野の関連性」と「課題の共通性」を挙げるものである。 しかしながら、前記(3)で検討したとおり、甲1発明において、発明特定事項(c)に係る構成とする動機付けはなく、発明特定事項(c)に係る構成とするには阻害要因がある。 したがって、発明特定事項(b)に関する公知技術、及び発明特定事項(d)に関する公知技術の適用の可否について検討するまでもなく、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、申立人の前記主張は採用できない。 (5)小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明に対して新規性、進歩性を有するものであり、本件特許発明1に係る特許を、申立理由1又は2によって取り消すべきものとすることはできない。 4 本件特許発明2〜6について 本件特許発明2〜6は、いずれも本件特許発明1に従属し、本件特許発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。 したがって、本件特許発明2〜6は、前記3と同様の理由により、甲1発明に対して新規性、進歩性を有するものであり、本件特許発明2〜6に係る特許を、申立理由1又は2によって取り消すべきものとすることはできない。 第5 申立理由3(サポート要件)について 1 本件特許明細書の記載 本件特許明細書には、以下の記載がある。 (1)「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0008】 そこで、本発明は、油脂及び油脂を含有する食品の酸化上昇を抑制する油脂組成物、特に保存時の酸化上昇を抑制する油脂組成物を提供することを目的とする。」 (2)「【0019】 <油脂組成物> (油脂) 本発明の油脂組成物は、油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、1種はグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%である高オレイン酸大豆油であり、同範囲の油脂を用いることで、酸化安定性を高めることができる。酸化安定性の点から、該オレイン酸含有率は高いほうが好ましいが、高オレイン酸大豆油は、気候により、前記オレイン酸含有率の範囲で変動する。・・・」 (3)「【0021】 本発明の油脂組成物は、油脂組成物中に2種以上の油脂を含有するので、前述の高オレイン酸大豆油以外に、1種以上の高オレイン酸大豆油以外の油脂を含有する。・・・パーム油、パーム油の分別油、菜種油、大豆油、米油、ひまわり油、コーン油、紅花油、オリーブ油から選ばれる1種以上を用いることが、好ましい。・・・また、パーム油及びその分別油を用いることも、より好ましい。最も好ましくは、パームオレインを用いることである。なお、室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。・・・」 (4)「【0022】 本発明の油脂組成物は、油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量は10〜95質量%であることが好ましい。これらの範囲であれば、高オレイン酸大豆油を配合しない場合に比べて、高い酸化安定性を得ることができる。・・・」 (5)「【実施例】 【0030】 以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0031】 (サンプル) 搾油された大豆粗油、搾油された高オレイン酸大豆粗油を脱ガム(85%リン酸溶液0.05質量%添加、80℃、10分)、アルカリ脱酸(水酸化ナトリウム:過剰率110%)、脱色(白土1%、110℃、減圧、20分)、脱臭(255℃、533Pa、60分)を行い、それぞれ大豆油(精製大豆油:ヨウ素価131.2、構成脂肪酸:オレイン酸含有量23.7質量%、リノール酸含有量52.9質量%、リノレン酸6.1質量%、トコフェロール:α−トコフェロール 127ppm、β−トコフェロール 15ppm、γ−トコフェロール 700ppm、δ−トコフェロール 187ppm、全トコフェロール 1029ppm)、HO大豆油(精製高オレイン酸大豆油:、ヨウ素価:85.2、構成脂肪酸:オレイン酸含有量80.8質量%、リノール酸含有量5.7質量%、リノレン酸1.6質量%、トコフェロール:α−トコフェロール 70ppm、β−トコフェロール 21ppm、γ−トコフェロール 437ppm、δ−トコフェロール 195ppm、全トコフェロール 723ppm)を得た。 【0032】 大豆油、HO大豆油、菜種油(精製キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価113.5)、PL67(精製パームオレイン:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価67)、米油(精製米油:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価102.8)、HOLL(精製高オレイン酸低リノレン酸菜種油:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価97.3)、HOヒマワリ油(精製高オレイン酸ヒマワリ油:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価84.2)、コーン油(精製コーン油:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価124.9)を表1又は表2の配合(質量比2:8、5:5、8:2)になるように配合し、例1〜20の油脂組成物を得た。 【0033】 (CDM(Conductometric Determination Method)試験) 例1〜20の油脂組成物2.5gをそれぞれCDM装置(自動油脂安定性試験装置Rancimat743型、メトロームジャパン株式会社製:120℃、空気吹込み20.1(L/h))で測定した。伝導率が急激に変化する変曲点までの時間(h)をCDM値とし、表1、2に記載した。なお、CDM値が大きいほど、酸化安定性が高い油脂である。 【0034】 (脂肪酸組成) 油脂組成物の脂肪酸組成を日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)に準拠して測定した。パルミチン酸とステアリン酸の合計値(C16+C18 質量%)、及び、オレイン酸とリノール酸、リノレン酸の合計値(C18不飽和 質量%)を表1、2に記載した。 【0035】 (ヨウ素価:IV) 油脂組成物のヨウ素価を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.4.1−1996 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)に準拠して測定した。ヨウ素価(IV)の値が大きいほど、二重結合が多い。結果を表1、2に記載した。 【0036】 (トコフェロール含有量) 油脂組成物に含まれるトコフェロールの含有量を、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.4.10−2003 トコフェロール(蛍光検出器−高速液体クロマトグラフ法)」に準拠して、α−トコフェロール(α−T.質量ppm)、β−トコフェロール(β−T. 質量ppm)、γ−トコフェロール(γ−T.質量ppm)、δ−トコフェロール(δ−T. 質量ppm)及びそれらの合計量(全T.質量ppm)を測定した。結果を表1、2に記載した。 【0037】 【表1】 【0038】 【表2】 【0039】 表1、2から、例1〜10に比べて、高オレイン酸大豆油を含む例11〜20はCDM値が良好であった。同油脂組成物は、保存安定性(酸化安定性)が良好であることがわかり、同油脂組成物を含油する食品の保存安定性(酸化安定性)も高いことが期待できる。」 2 本件特許発明の課題 本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0008】(前記1(1))の記載より、「油脂及び油脂を含有する食品の酸化上昇を抑制する油脂組成物、特に保存時の酸化上昇を抑制する油脂組成物を提供すること」と認められる。 3 当審の判断 本件特許明細書の段落【0019】(前記1(2))には、油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、1種はグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%である高オレイン酸大豆油であり、同範囲の油脂を用いることで、酸化安定性を高めることができる旨、同【0021】(前記1(3))には、本発明の油脂組成物は、高オレイン酸大豆油以外に、1種以上の高オレイン酸大豆油以外の油脂を含有し、パーム油及びその分別油を用いることがより好ましく、最も好ましくは、パームオレインを用いることである旨、同【0022】(前記1(4))には、油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量は10〜95質量%であることが好ましく、その範囲であれば、高オレイン酸大豆油を配合しない場合に比べて、高い酸化安定性を得ることができる旨が記載されている。 また、本件特許明細書の実施例には、例14〜16として、HO大豆油(精製高オレイン酸大豆油、オレイン酸含有量80.8質量%)とPL67(精製パームオレイン:日清オイリオグループ株式会社製)をそれぞれ質量比8:2、5:5、2:8で配合した油脂組成物が記載されており、表1〜2を参照すると、HO大豆油の代わりに大豆油を配合した油脂組成物(例1〜10、特に例4〜6)や、PL67の代わりに他の油脂を配合した油脂組成物(例11〜13、17〜20)に比べて、CDM値が比較的大きく、酸化安定性が高いことが把握できる(前記1(5)参照)。ところで、段落【0032】の「PL67(精製パームオレイン:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価67)」という表記から、例14〜16で配合される「PL67」は、少なくとも本件特許発明1の「パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上」に相当する油脂と認められる。そうすると、例14〜16の油脂組成物は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて充足する実施例といえ、これらの油脂組成物は酸化安定性が高いことから、前記2で示した課題が解決できることを理解できる。 本件特許明細書のこれらの記載を総合すると、当業者は本件特許発明1の構成を備えることで、前記2で示した課題が解決できることを十分認識できるといえる。 したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。 また、本件特許発明2〜6は、いずれも本件特許発明1の油脂組成物をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様、前記2で示した課題が解決できることを十分認識できるものであって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえない。 したがって、本件特許発明1〜6に係る特許を、申立理由3によって取り消すべきものとすることはできない。 4 申立人の主張及びその検討 (1)申立人の主張 ア 本件特許発明1 本件特許発明1に関し、申立人は異議申立書において以下の旨を主張する。 (ア)「本件特許の請求項1において「油脂組成物中に2種以上の油脂を含有し、」と記載されている。しかし、本件明細書の実施例において効果が具体的に示されている例1〜例20において、油脂を3種以上含有した例は示されていない。すなわち、本件発明1の「油脂組成物中に3種以上の油脂を含有した」油脂組成物についての発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、実施例においてその効果も示されていない。つまり、本件特許の請求項1に記載される「2種以上の油脂を含有した油脂組成物」の内「3種以上の油脂を含有した油脂組成物」の範囲まで拡張又は一般化することはできない。したがって、本件発明1に記載された「油脂組成物中に2種以上の油脂を含有した」油脂組成物の発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない。」(第51頁第11〜20行) (イ)「本件特許の請求項1において「高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である」と記載されている。 ここで、本件明細書の段落【0030】以降に記載される【実施例】の記載において本件発明の効果が具体的に示されている「例」の例1〜例20に「高オレイン酸大豆油」と「パーム油及びパーム油の分別油」の配合例があるかを確認する。 本件明細書の【実施例】の「例」とする例1〜例20のうち、例11〜例20に配合されているHO大豆油は、段落【0031】の記載から「高オレイン酸大豆油」とわかる。また、「パーム油及びパーム油の分別油」について述べる。本件明細書の段落【0031】に「PL67(精製パームオレイン)」と記載がある。しかしながら、「PL67(精製パームオレイン)」、「パーム油」及び「パーム油の分別油」との関係が本件明細書に記載されていない。よって、「PL67(精製パームオレイン)」は「パーム油」及び「パーム油の分別油」とは別のものと云える。つまり、本件発明1に相当する「パーム油」及び「パーム油の分別油」を含有する油脂組成物は実施例にないと云える。 ここで、出願人は、甲第8号証の意見書において、「PL67」は「パーム分別油」であると主張している。ただし、「パーム分別油」は「パーム油」及び「パーム油の分別油」と記載が相違する。そして、本件明細書に「パーム油」、「パーム油の分別油」及び「パーム分別油」の定義及びこれらと「PL67」との関係を示す記載がない。ゆえに、依然として本件発明1に相当する「パーム油」及び「パーム油の分別油」が含有する油脂組成物は実施例にないと云える。したがって、本件発明1に記載された「パーム油」及び「パーム油の分別油」の発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない。」(第51頁第21行〜第52頁第16行) (ウ)「上述したように、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではなく、上述したように『高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である、油脂組成物。』は発明の詳細な説明に記載したものとして認められない。しかし、仮に本件特許の請求項1で示される「油脂組成物」が「高オレイン酸大豆油以外の油脂が、PL67である」と訂正される場合、本件の実施例は例14〜例16となる。この場合、例14〜例16の油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量は、80%(例14)、50%(例15)、20%(例16)である。つまり、本件発明1の『油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95質量%であり、』と記載されている高オレイン酸大豆油の含有量の内、10%〜20%未満及び80%超〜95%についての発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、実施例においてその効果も示されておらず、臨界的意義について本件明細書に記載はない。つまり、本件特許の請求項1について効果が示される「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が20〜80%である」範囲を「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量が10〜95%である」範囲まで拡張又は一般化することはできない。したがって、本件発明1に記載された「油脂組成物の高オレイン酸大豆油の含有量の内、10%〜20%未満及び80%超〜95%」の範囲の発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない。」(第52頁第17行〜第53頁第6行) (エ)「本件特許の請求項1において「該高オレイン酸大豆油がグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%であり、」と記載されている。しかし、本件明細書の実施例において効果が具体的に示されているのは、HO大豆油(高オレイン酸大豆油)のみであり、かつ、そのオレイン酸含有量は80.8質量%の1例しか記載されていない。つまり、本件発明1の『該高オレイン酸大豆油がグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が75〜95質量%であり、』と記載されているオレイン酸含有率の内、80.8質量%を除く範囲についての発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、実施例においてその効果も示されておらず、臨界的意義について本件明細書に記載はない。つまり、本件特許の請求項1に記載される「脂肪酸中のオレイン酸含有率が75質量%〜80.8質量%未満及び80.8質量%超〜95質量%」の範囲まで拡張又は一般化することはできない。したがって、本件発明1に記載された「脂肪酸中のオレイン酸含有率が75質量%〜80.8質量%未満及び80.8質量%超〜95質量%」の範囲の発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない。」(第53頁第7〜21行) イ 本件特許発明2〜4 本件特許発明2〜4に関し、申立人は異議申立書において要するに、「油脂組成物のヨウ素価」、「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油のヨウ素価」、「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油に含有されるδ−トコフェロール量の、高オレイン酸大豆油に含有される全トコフェロール量に対する質量%」について、各発明で特定される数値範囲のうち特定の値である場合の実施例しか本件明細書には記載されておらず、各発明で特定される全数値範囲にまで拡張又は一般化することはできない旨を主張する(第53頁第22行〜第55頁第13行)。 ウ 本件特許発明5 本件特許発明5に関し、申立人は異議申立書において要するに、実施例を含め「発明の詳細な説明」には3種の油を含有した例が1つも記載されていないため、3種目の油を含有した本件請求項5に記載された発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない旨、第2の油について、本件明細書の実施例に記載されて効果が示されている例は、「菜種油、米油、ひまわり油、コーン油」のみであり、本件特許発明5で他に選択肢として挙げられる「パーム油、パーム油の分別油、大豆油、紅花油、オリーブ油」については、実施例においてその効果が示されておらず、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない旨を主張する(第55頁第14行〜第56頁第9行)。 エ 本件特許発明6 本件特許発明6に関し、申立人は異議申立書において要するに、本件明細書の実施例に示す油脂組成物が液体であることを示す記載がなく、固体脂指数及び固体脂肪含有量を測定した記載もないため、20℃で液体である油脂組成物であるとする本件請求項6に記載された発明は、「発明の詳細な説明」に記載された発明ではない旨を主張する(第56頁第10〜19行) (2)申立人の主張の検討 ア 前記(1)ア(ア)、ウの主張について 本件特許発明1の油脂組成物は、「高オレイン酸大豆油以外の油脂が、パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上である」と特定されていることから、本件特許発明1の油脂組成物は、「高オレイン酸大豆油」と「パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上」の他に別の油脂を含有することのないものである。また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明5についても同様のことがいえる。 そうすると、本件特許発明の油脂組成物が、「高オレイン酸大豆油」と「パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上」の他に別の油脂を含有することを前提とした申立人の前記(1)ア(ア)、ウの主張は、採用できない。 イ 前記(1)ア(イ)の主張について 前記3で述べたとおり、段落【0032】の「PL67(精製パームオレイン:日清オイリオグループ株式会社製、ヨウ素価67)」という表記から、例14〜16で配合される「PL67」は、少なくとも本件特許発明1の「パーム油、パーム油の分別油から選ばれる1種以上」に相当する油脂と認められ、例14〜16の油脂組成物は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて充足する実施例といえる。 したがって、申立人の前記(1)ア(イ)の主張は、採用できない。 ウ 前記(1)ア(ウ)〜(エ)、イの主張について これらの主張は、「組成物中の高オレイン酸大豆油の含有量」、「高オレイン酸大豆油がグリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率」、「油脂組成物のヨウ素価」、「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油のヨウ素価」、「油脂組成物中の高オレイン酸大豆油に含有されるδ−トコフェロール量の、高オレイン酸大豆油に含有される全トコフェロール量に対する質量%」(以下、「各パラメータ」という。)について、各発明で特定される数値範囲のうち特定の値である場合の実施例しか本件明細書には記載されておらず、各発明で特定される全数値範囲にまで拡張又は一般化することはできない旨主張するものである。 当業者の技術常識を考慮すれば、確かに前記各パラメータによって酸化安定性は変化し、前記2で示した課題解決の可否に影響し得ると推認される。しかしながら、前記各パラメータの値が増加又は減少するにつれて、酸化安定性は徐々に変化するものであり、実施例で酸化安定性が高いことが実際に確かめられた前記各パラメータの値の近傍においても、同様に酸化安定性は高く、前記2で示した課題は解決できると解される。 そして、申立人は、実施例における特定の値を、各発明で特定される全数値範囲にまで拡張又は一般化することはできない旨主張するのみで、例えば各発明で特定される数値範囲の中で急激に酸化安定性が低下する範囲があるといった、各発明の範囲内に現実に課題が解決できない部分があることを何ら具体的に主張、立証していない。 したがって、申立人の前記(1)ア(ウ)〜(エ)、イの主張は、採用できない。 エ 前記(1)エの主張について 本件特許明細書の段落【0021】(前記1(3))には、「なお、室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。」との記載がある。この記載を踏まえれば、本件特許発明6の「油脂組成物が、20℃で液状である」という発明特定事項は、使用時に加熱により溶解させる必要のない好ましい態様を特定したにすぎず、前記2で示した課題の解決と直接関係する事項とはいえない。 そのため、本件明細書の実施例に示す油脂組成物が20℃で液体であることを示す明示的記載がないとしても、当業者は前記2で示した課題が解決できることを十分認識できるといえる。 したがって、申立人の前記(1)エの主張は、採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-12-13 |
出願番号 | P2017-183744 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C11C)
P 1 651・ 121- Y (C11C) P 1 651・ 113- Y (C11C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
関根 裕 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 田澤 俊樹 |
登録日 | 2021-12-10 |
登録番号 | 6991653 |
権利者 | 日清オイリオグループ株式会社 |
発明の名称 | 油脂組成物 |