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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
管理番号 1393122
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-25 
確定日 2022-12-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第7029722号発明「AR装置、方法及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7029722号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7029722号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、平成29年10月23日に出願され、令和4年2月24日にその特許権の設定登録がされ、令和4年3月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年8月25日に特許異議申立人▲高▼山嘉成(「▲」及び「▼」とその位置は、本件特許異議申立書の表示どおりに記載した。以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第7029722号の請求項1〜12の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明12」という。)。

「【請求項1】
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示する指示部と、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示する表示部と、
前記所定の3次元空間を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定する判定部と、
を有し、
前記表示部は、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、トレーニングメニュー開始時点において前記所定の3次元空間のうち前記ユーザが視認可能な空間と前記ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、
AR装置。
【請求項2】
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示する指示部と、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示する表示部と、
前記所定の3次元空間を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定する判定部と、
を有し、
前記表示部は、前記ユーザに装着され、前記撮影部を有するヘッドマウントディスプレイである、
AR装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトを表示する位置が、前記所定の3次元空間において、上下方向、前後方向及び左右方向に分散されるように、仮想オブジェクトを表示する、
請求項1又は2に記載のAR装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、トレーニングメニュー開始時点において前記ユーザが手を伸ばすことで届く範囲内の空間と、前記ユーザが手を伸ばすことでは届かない範囲の空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のAR装置。
【請求項5】
前記所定の3次元空間は、前記トレーニングメニューが開始された時点において前記ユーザの正面方向の空間である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のAR装置。
【請求項6】
前記指示部は、前記条件として、前記所定の3次元空間に表示される仮想オブジェクトのうち特定の属性に該当する仮想オブジェクトに触れるべきことを前記ユーザに指示する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のAR装置。
【請求項7】
前記特定の属性は、仮想オブジェクトの色、仮想オブジェクトの形状又は仮想オブジェクトの名称である、請求項6に記載のAR装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記指示部が前記条件を指示した後、所定の時間が経過してから、前記条件に該当する仮想オブジェクトを表示する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のAR装置。
【請求項9】
AR装置が実行する方法であって、
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示するステップと、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示するステップと、
前記所定の3次元空間を撮影するステップと、
撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定するステップと、
を含み、
前記表示するステップは、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、トレーニングメニュー開始時点において前記所定の3次元空間のうち前記ユーザが視認可能な空間と前記ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、
方法。
【請求項10】
AR装置が実行する方法であって、
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示するステップと、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを、前記ユーザに装着され、前記撮影部を有するヘッドマウントディスプレイに表示するステップと、
前記所定の3次元空間を撮影するステップと、
撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
コンピュータに実行させるプログラムであって、
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示するステップと、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示するステップと、
前記所定の3次元空間を撮影するステップと、
撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定するステップと、
を含み、
前記表示するステップは、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、トレーニングメニュー開始時点において前記所定の3次元空間のうち前記ユーザが視認可能な空間と前記ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、
プログラム。
【請求項12】
コンピュータに実行させるプログラムであって、
拡張現実を利用して認知症リスクを低下させるためのトレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示するステップと、
前記トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを、前記ユーザに装着され、前記撮影部を有するヘッドマウントディスプレイに表示するステップと、
前記所定の3次元空間を撮影するステップと、
撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定するステップと、
を含むプログラム。」

第3 申立理由の概要
申立人は、次の理由に基づき、請求項1〜12に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。なお、理由の番号は、当審にて付与した。

1 提出された証拠
申立人は、次のとおり、甲第1の1号証〜1の3号証を主たる証拠とし、従たる証拠として甲第2号証〜甲第12号証を提出した。

(1)甲第1の1号証
Motohiro SUGITA, Shizue INOUE + Tranlogue Associates、《2017年6月》先端コンテンツテクノロジー展で見つけた次の暮らしのデザイン、[online]、2017年8月7日、web magazine TRANLOGUE、インターネット、

(2)甲第1の2号証
次の、甲1の1号証のインターネットページ上の記事の画像:Motohiro SUGITA, Shizue INOUE + Tranlogue Associates、《2017年6月》先端コンテンツテクノロジー展で見つけた次の暮らしのデザイン、テクリコ、[online]平成29年(2017年)8月7日、web magazine TRANLOGUE、インターネット、

(3)甲第1の3号証
次の、甲1の1号証のインターネットページ上の記事においてYouTube動画を再生した様を記録した動画を収録したDVD−R:Motohiro SUGITA, Shizue INOUE + Tranlogue Associates、《2017年6月》先端コンテンツテクノロジー展で見つけた次の暮らしのデザイン、[online]、平成29年(2017年)8月7日、web magazine TRANLOGUE、インターネット、

(4)甲第2号証
次のURLで示されるYouTube動画をウェブブラウザ上で再生した様を記録した動画を収録したDVD−R:【第3回 先端コンテンツテクノロジー展】、テクリコ、[online]、YouTube、2017年8月7日、

(5)甲第3号証
特許第6200615号公報

(6)甲第4号証
株式会社テクリコ、MR/VRコンテンツのテクリコと関西医大がコラボ! HoloLensを用いたリハビリシステム「リハまる」を医学会で発表〜認知症予防や脳卒中ケア志向のソフトウェアサービスを、 国内外へリリース開始〜、[online]、2017年10月20日、@Press、インターネット、

(7)甲第5号証
田口周、他4名、認知機能におけるMixed Reality技術を用いた数字抹消課題の効果、第1回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会プログラム・抄録集、第1回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会、2017年9月30日、p.S86

(8)甲第6号証
特開2012−181809号公報

(9)甲第7号証
特開2016−82411号公報

(10)甲第8号証
特開2017−99686号公報

(11)甲第9号証
特開2007−267802号公報

(12)甲第10号証
石合純夫、半側空間無視−基盤となる障害と表現を修飾する問題点−、理学療法学、一般社団法人日本理学療法学連合、2007年6月20日、第34巻、第4号、p103−109

(13)甲第11号証
2017年1月13日の件名「RE:[4-5601000015233] YouTubeパートナーサポートヘのお問い合わせ」の電子メールの写し

(14)甲第12号証
陳述書

なお、以下、甲第1の1号証〜甲第12号証を、ぞれぞれ、「甲1の1」〜「甲12」という。

2 申立の理由
(1)理由1
請求項1に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(2)理由2
請求項2に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(3)理由3
請求項3に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(4)理由4
請求項4に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(5)理由5
請求項5に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(6)理由6
請求項6に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術、並びに、甲9に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(7)理由7
請求項7に係る発明は、甲1の1〜甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術、並びに、甲9に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(8)理由8
請求項8に係る発明は、甲1の1〜甲5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(9)理由9
請求項9に係る発明は、甲1の1〜甲5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(10)理由10
請求項10に係る発明は、甲1の1〜甲5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(11)理由11
請求項11に係る発明は、甲1の1〜甲5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

(12)理由12
請求項12に係る発明は、甲1の1〜甲5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明、及び、甲6〜8に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

第4 文献の記載
1 甲1の1〜甲1の3及び甲2に記載されている事項、甲1の1〜甲1の3に記載されている発明
(1)甲1の1に記載されている事項
甲1の1には次の事項が記載されている。

「MR・VRによる業界初・世界初の本格リハビリ医療ソフトウェア『リハまる(R)』。特許出願中だそうです。上の動画で体験したのは、高次脳機能障害改善リハビリアプリ。従来は作業療法士と患者が1対1で、紙と鉛筆で行ってきた注意障害改善のリハビリを、アプリで実現しました。MicrosoftのHoloLensで見るMR上で、視界のそこかしこに現れている数字を順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックしていきます。医学的エビデンスに則した本格的なコンテンツでありながら、エンターテイメント性が加わるため、実際に患者さんに行ってもらったところ喜んでいただけたとか。テクリコでは、独自開発した人工知能により、患者ごとのリハビリメニューを自動編成できるため医療従事者の省力化もはかれるそうです。医療分野でのこれからの展開に期待します。」(8頁上部の「テクリコ」との項目。なお、「(R)」は丸内に「R」を示す。以下同様。)

(2)甲1の2に記載されている事項
甲1の2には次の事項が記載されている。

ア 「



(3)甲1の3に記録されている事項
申立人は、甲1の3として、上記「第3 1(3)」に示したDVD−Rを提出したが(以下「甲1の3動画」という)、当該甲1の3動画には、その上方に甲1の1のインターネット上の記事に係るURLがみてとれるとともに、次の事項が記録され開示されていると認められる。

ア 甲1動画の「0:00:17」には、甲1の1の記事における「テクリコ」の項目名の直下において、YouTube動画が埋め込まれていることがみてとれる。





イ 甲1の3動画の「0:00:17」から、被験者の視界中に数字の5〜8が表示され、かつ、数字の5と6の間の6のやや左上方に紫色の点が表示されていることを把握できる。






ウ 甲1の3動画の「0:00:18」から、被験者の視界中に数字の5とこれに重畳して紫色の丸が表示されて、その後に数字の5が回転することを把握できる。






エ 甲1の3動画の「0:00:19」から、被験者の視界中から数字の5が消失するとともに、数字の6に重畳して紫色の丸が表示され、さらに視線の移動に伴い数字の10が被験者の視界中に新たに表示されていることを把握できる。





オ 甲1の3動画の「0:00:21」から、数字の6に重畳して紫色の丸が表示され、数字の6が回転することを把握できる。





カ 甲1の3動画において、上記「オ」のものに続いて表示される「0:00:21」から、数字の6が消失するとともに、数字の7に重畳して紫色の丸が表示されていることを把握できる。





キ 甲1の3動画の「0:00:22」から、数字の7が消失するとともに、数字の8に重畳して紫色の丸が表示されていることを把握できる。





ク 甲1の3動画の「0:00:25」から、数字の9に重畳して紫色の丸が表示されるとともに、数字の9が回転していることを把握できる。





ケ 甲1の3動画の「0:00:27」から、数字の9が消失するとともに、数字の10に重畳して紫色の丸が表示され、数字の10が回転していることを把握できる。





(4)甲11に記載されている事項
甲11には、YouTubeにアップされている画像に関して、「動画の公開日につきましては、動画をアップする際にシステムによって自動的に記録され、過去に遡った日付に後から変更することはできません。」と記載されている。

(5)甲12に記載されている事項
甲1の3及び甲2として提出された動画に係るURLである、
https://www.youtube.com/watch?v=thUgrgNwNGM
に表示されている動画における画面について、「ユーザの目線から見えている画像をディスプレイ上に表示して、その表示されたディスプレイ上の画像が撮影されたもので、ユーザの目線から見えている画像である」ことが記載されている。

(6)甲2に記録されている事項
甲2は甲1の1に係る記事に埋め込まれたYouTube動画を、YouTubeサイト上で再生できるものをキャプチャした動画(以下「甲2動画」という。)であって、甲1の3と同一の事項が記録されていると認められる。
また、甲2動画には、その動画の表示部分の下部の動画タイトルの下に、「2017/08/07」との日付が記載されている。





(7)甲1(甲1の1〜1の3)に記載された発明
上記(1)〜(2)、(5)に示した甲1の1、甲1の2、甲12の記載、及び、(3)に示した甲1の3に記録された事項からみて、リハビリ医療ソフトウェア『リハまる(R)』は、MR上に映像を表示するシステム上で実行されるものであることは明らかであるところからすると、甲1号証(甲1の1号証〜甲1の3号証)には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という)。

「MicrosoftのHoloLensで見るMR上で、高次脳機能障害改善リハビリを行うために、視界に現れている数字を順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックするリハビリ医療ソフトウェアにおいて、MRの視界には数字が表示され、紫色の点で表示されたマーカーは当該数字上に合わせると、紫色の丸として表示されるとともに、小型のコントローラのクリックにより数字が回転した後に表示が消失するものであって、MRの視界に数字の5〜8が表示されていたところ、マーカーの操作により数字の5が消失した後に、視線の移動に伴い6〜8に加え10の数字が表示される、高次脳機能障害改善リハビリを行うリハビリ医療ソフトウェアによりMR上に映像を表示するシステム」

(8)甲1の1〜甲1の3の公知日について
ア 甲1の1
甲1の1の記事には、その上部に「2017.08.07」との記載があるから、本件特許の出願日である平成29年10月23日より前である、平成29年8月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認められる。

イ 甲1の3
甲1の3動画は、その上部に甲1の1記事のURLが記載されており、YouTube動画が埋め込まれたウェブページとしては、上記「ア」と同様に平成29年8月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていると認める。
また、当該URLにより表示したウェブページ上において、上記YouTube動画部分から取得される動画のURLは、甲2動画を取得する際に用いられたURLと同一のものであり、(6)で示した甲2動画に係り記載された「2017/08/07」との日付と、(4)で示したとおり甲11にはYouTubeに動画をアップする際に動画の公開日がシステム的に自動的に記録され、かつ、過去に遡った日付に後から変更できないことが記載されていることからみて、甲1の3動画において甲1の1の記事に埋め込まれ再生される様を記録したYouTube動画においても、甲2動画と同様に「2017/08/07」との日付にアップされたものと解されるから、本件特許の出願日である平成29年10月23日より前である、平成29年8月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていると認められる。

2 甲3に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲3には、次の事項が記載されている。

(1)甲3の記載
ア「【0017】
図2に示すように、リハビリテーション支援システム200は、リハビリテーション支援サーバ210と、2つのベースステーション231、232と、ヘッドマウントディスプレイ233と、2つのコントローラ234、235とを備える。なお、ヘッドマウントディスプレイ233としては、非透過タイプでも、ビデオシースルータイプでも、オプティカルシースルータイプでも構わない。
【0018】
また、リハビリテーション支援サーバ210は、動作検出部211と表示制御部212と評価部213と更新部214と音声入出力部215と、目標データベース216および背景画像+質問/回答データベース217を備える。
【0019】
動作検出部211は、ユーザ220が手に持つコントローラ234、235の位置およびヘッドマウントディスプレイ233の位置をベースステーション231、232を介して取得し、その位置の変化によりユーザ220のリハビリテーション動作を検出する。
【0020】
表示制御部212は、検出したリハビリテーション動作に応じて動くアバター画像と、リハビリテーション動作の目標を示す目標画像と、をヘッドマウントディスプレイ233に表示させる。図3は、ヘッドマウントディスプレイ233に表示された画面301におけるアバター画像311、312の一例を示す図である。アバター画像311、312は、背景画像313に重畳表示される。この例ではアバター画像311、312は、コントローラ234、235と同じ形状をしており、コントローラ234、235の動きに合わせて画面301中を動く。また、ヘッドマウントディスプレイ233の位置や向きに応じて背景画像313は変化する。アバター画像311、312に表示されている通り、コントローラ234、235にはボタンが用意されており、各種設定操作など可能に構成されている。背景画像313として、ここでは、実際の風景を撮像して得た風景映像(例えばニューヨークの町並みを撮影した動画)を表示する。風景映像としては、リハビリ施設の周囲の道路の映像を用いても良く、異国を散歩している気分にさせたり、身近な場所を散歩している気分にさせたりすることができる。風景映像を重畳することで、患者を楽しませつつ、情報量が多い中でのトレーニングを実現することができる。
【0021】
また、表示制御部212は、例えば、図4に示すように、ヘッドマウントディスプレイ233の画面401〜403において、背景画像313に重畳して、オブジェクト411を表示する。オブジェクト411は、ユーザ220の頭上方向から下方に向けて降下してきているように表示位置および大きさを徐々に変えて表示する。ユーザ220は、コントローラ234、235を動かして、画面中のアバター画像311を、オブジェクト411に近づける。アバター画像311がオブジェクト411にぶつかると、オブジェクト411は消滅する。
【0022】
評価部213は、動作検出部211が検出したリハビリテーション動作と、表示制御部212によって表示された目標画像が表わす目標位置とを比較して、ユーザのリハビリテーション能力を評価する。具体的には、動作検出部211が検出したリハビリテーション動作に対応して移動したアバター画像311と目標画像としてのオブジェクト411とが重なったか否かを、3次元仮想空間中の位置の比較により決定する。結果的に、これらが重なれば、一つのリハビリテーション動作をクリアしたものと評価し、ポイントを加算する。オブジェクト411の奥行き方向の位置については様々な段階(例えば3段階)のものが用意され、それぞれ、異なるポイント(遠いオブジェクトには高いポイント、近いオブジェクトには低いポイント)が設定される。
【0023】
更新部214は、積算されたポイントに応じて、目標課題を更新する。例えば、課題達成率(目標達成数/課題数)などを用いて目標課題を更新してもよい。」

イ「【0032】
また、例えば、累積ポイントが所定の閾値を超えれば、図6の文字画像601に示すように、2つのコントローラ234、235のうち、左右いずれのコントローラでオブジェクト411にタッチすべきか(ここでは右)を指示する。これにより、文字を認識する認知機能が必要になる上に、動作の難易度も上がり、より高い運動機能が必要になる。つまり、認知機能と運動機能のデュアルタスク(DualTask:二重課題)が要求される。
【0033】
なお、図6では、文字で指示を行なっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、矢印や色、あるいは声で指示を行なってもよい。このように、本実施形態では、リハビリテーション動作の評価に応じて、その負荷を更新する。」
【0034】
(デュアルタスクについて)
健常者は、普段の日常で「話をしながら歩く」など2つ以上のことを同時に行っている。この様な「2つのことを同時に行う能力」は加齢とともに衰えてくる。例えば「歩行中に話しかけられると、足を止めてしまう」などといったことが起こる。高齢者が転倒する原因は、「運動機能が低下していること」だけではなく、この様な「2つのことを同時に行う能力の低下」が関与していると考えられる。実際に、リハビリテーションにより十分に運動機能が回復したと判断されても、帰宅後に転倒してしまう高齢者は大勢いる。これは、リハビリテーション動作に集中できる環境・条件を整えた状態でリハビリテーションを行なっていることが一つの要因である。つまり、生活環境では、そのように動作に集中できない要因、例えば見晴らしが悪い、障害物が存在する、会話に意識が向いている、といった条件下での動作であることが多いからである。
【0035】
そこで、注意を分散させるようなリハビリテーションを行なうことが重要と考えられ、具体的にデュアルタスクを与えてトレーニングすることが望ましい。このようなデュアルタスクトレーニングは、高齢者の転倒のみならず、認知症の予防にも有効なプログラムである。
【0036】
デュアルタスクトレーニングには、認知課題と運動課題を組み合わせたトレーニングの他、2種類の運動課題を組み合わせたトレーニングも含まれる。」

ウ「【0043】
(他のデュアルタスクトレーニング例)
図7は、他のデュアルタスクトレーニング用の画像例を示す図である。オブジェクトにハズレ(爆弾)を仕込むことにより、認知機能を要求する。または、図8に示すように、背景画面に質問画像(ここでは例としてかけ算)を重畳表示し、答えが表示されたオブジェクトの取得のみを評価してもよい。背景画面にグー・チョキ・パーのいずれかを表示し、それに勝つマークが表示されたオブジェクトの回収を要求してもよい。」

(2)甲3に記載されている事項
上記(1)の「ア」〜「ウ」の記載からみて、甲3には次の事項が記載されていると認められる(以下、「甲3に記載されている事項」という。)。

「リハビリテーション支援システム200のヘッドマウントディスプレイ233に、文字画像601による左右いずれのコントローラでオブジェクト411にタッチすべきかの指示や、背景画面に質問画像を重畳表示して、デュアルタスクトレーニングを行うこと。」

3 甲4に記載されている事項
本件特許の出願日前の2017年10月20日12時15分に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証には、以下の記載がある。

(1)「MR/VRコンテンツおよびソフトウェアの開発を手掛ける株式会社テクリコ(本社:大阪市北区代表取締役:杉山祟、以下「テクリコ」)は、10月28日(土)、29日(日)に実施される第一回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会(大阪)において、MR(Mixed Reality,複合現実)機器を用いた認知機能改善リハビリテーションシステム「リハまる」を世界に先駆けて発表し、同日よりサービス提供を開始します。」(1/4)

(2)「●「リハまる」の概要
「リハまる」は、テクリコと関西医科大学(所在地:大阪府枚方市、学長:友田幸一、以下「関西医大」)との共同研究を基盤に開発されたリハビリテーションシステムであり、認知機能・高次脳機能障害改善リハビリに特化したモデルとなっています。特に以下3点で際立った特徴があります。

<特徴1>: 3D空間内でのリハビリテーション
紙と鉛筆による2次元空間内でのリハビリから脱却し、3次元空間内での立体的リハビリヘ。

<特徴2>:業務量軽減効果の高いシステム
スタッフによる添削業務や入力作業を自動化することで、効率的な医療経営環境を提供。

<特徴3>:医学的エビデンス性
今般実施される第一回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会内において、「リハまる」のシステムを用いた臨床研究の学会発表が実施されます。また、当研究は「優秀演題賞」にノミネートされており、医学会全体から非常に高い関心を持たれたテーマとなっています。」(1/4)

4 甲5に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲5には、次の事項が記載されている。

「【背景】近年,認知症予防および進行遅延を目的としたvirtual reality(以下VR)の応用が注目され,軽度認知機能障害等への治療課題として適用されている.従来の机上課題と比較し,VRでは訓練環境を現実世界に近づけられる利点があるが,人工的な仮想現実に入り込むため,視覚と前庭覚の不一致による気分不良をきたし,課題継続が困難になる例が報告されている.一方仮想世界と現実世界を融合させたmixed reality(以下MR)では,現実世界の視覚情報が保たれるため,視覚と前庭覚の不一致が生じにくく,現実空間での認知課題を展開できる点で治療効果が期待される.そこで,Microsoft HoloLensによるMRを利用した認知課題を開発し,その効果を検討した.【方法】脳損傷の既往がない65歳以上の入院患者を対象に,MRによる数字抹消課題群(以下MR群)と視覚性抹消課題群(以下机上群)へ割り付け,10分間の課題実施前後におけるTrail Making Test part A,B(以下TMT-A, TMT-B)とSpan課題の変化を比較した.TMT実施時にはグラスウェア型視線追跡眼鏡を用いて,生理的眼振を除く課題実施中の跳躍性眼球連動(以下SEM)数を検出し,単位時間あたりのSEM数を求めた.また,課題実施前にMoCA-Jを実施した.【結果】MoCA-Jの点数は両群間に差を認めなかった.TMT-B実施前のSEM数は有意差を認めなかったが実施後にはMR群で有意に増加した.MR課題実施中および実施後に気分不良や不快感などを示した被験者は認めなかった.【結論】MRを用いた数字抹消課題は認知機能の即時的賦活効果をもたらす可能性が示唆された.」(S86)

5 甲6に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲6には、次の事項が記載されている。

「【0037】
図1は、ユーザ200がジェスチャを行ってから、仮想UIが生成されるまでの流れを示した図である。まず、段階1において、ユーザ200が操作機器204を選択するために操作機器204に触れるジェスチャを行う。段階2において、カメラ201は、ジェスチャ自体を認識すると共に、ユーザが選択した操作機器204を認識する。
【0038】
段階3において、カメラ201は認識したジェスチャとそのジェスチャにより選択された操作機器204とを示す情報をHMD202に通知する。
【0039】
段階4において、HMD202は、サーバ機器203に対して、仮想UIを生成する要求を送信する。段階5において、サーバ機器203は、操作機器204から、操作機器204が持つ機能の一覧を示す機能情報を取得する。段階6において、サーバ機器203はその機能情報に基づいて仮想UIを生成する。段階7において、サーバ機器203は、ユーザ200によって行われたジェスチャと、生成した仮想UIとを対応付けて保存する。
【0040】
図2は、図1において生成され、保存された仮想UIが表示されるまでの流れを示した図である。段階1において、ユーザ200が操作機器204を選択したときと同じジェスチャを行う。段階2において、カメラ201はそのジェスチャを認識する。段階3において、カメラ201は、認識したジェスチャをHMD202に通知する。段階4において、HMD202は、どのジェスチャが行われたかをサーバ機器203に対して通知する。段階5において、サーバ機器203は、そのジェスチャに対応する仮想UIが保存されているかを判定する。ジェスチャに対応する仮想UIが保存されている場合、段階6において、サーバ機器203は、HMD202にその仮想UIを送信する。段階7において、HMD202は、サーバ機器203から送信された仮想UIを表示する。
【0041】
図3は、仮想UIが表示されている状態において、ユーザ200が仮想UIの表示位置を指定する際の流れを示した図である。段階1において、ユーザ200がジェスチャを行う。ここでは、ユーザ200は、例えば、現実空間のある物体に指先を触れるジェスチャを行ったとする。段階2において、カメラ201は、指と物体とが接触した位置を認識する。段階3において、カメラ201は、認識した位置をHMD202に通知する。段階4において、HMD202は、表示中である仮想UIが物体に貼り付けられるように、仮想UIを現実空間の映像データに重畳する。そして、ユーザは、仮想UIを操作して、操作機器204の操作を行う。以上が本実施の形態による機器制御装置の処理の概要である。以下、本実施の形態による機器制御装置の処理を詳細に説明する。」

6 甲7に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲7には、次の事項が記載されている。

「【0019】
さらに、ヘッドマウントディスプレイ10に取り付けられたカメラ17が撮影した画像データは、画像解析部25に供給される。カメラ17は、一定のフレーム周期で画像の撮影を行い、画像解析部25は、カメラ17が撮影した画像の内容の解析を行う。具体的には、画像解析部25は、装着者の手指の動きを検出して、装着者が手又は指で行ったジェスチャーを判別する処理を行う。ジェスチャーの具体的な例については後述する。
そして、画像解析部25は、判別したジェスチャーに基づいて、表示画像の座標を変更するコマンドを作成し、その作成したコマンドをコントローラ21に供給する。コントローラ21では、供給されるコマンドに基づいて、表示画像の座標変更の処理を行う。」

7 甲8に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲8には、次の事項が記載されている。

「【0035】
(眼鏡ユニット200)
図1および図2に示すように、眼鏡ユニット200は、眼鏡フレーム210、一対の半透過ディスプレイ220および一対の表示調整機構600からなる。眼鏡フレーム210は、主にリムユニット211、テンプルユニット212を含む。
眼鏡フレーム210のリムユニット211により一対の半透過ディスプレイ220が支持される。また、リムユニット211には、一対の表示調整機構600が設けられる。さらに、リムユニット211には、赤外線検知ユニット410およびユニット調整機構500が設けられる。ユニット調整機構500の詳細については後述する。
一対の表示調整機構600は、後述するように一対の半透過ディスプレイ220の角度および位置を調整することができる。一対の表示調整機構600の詳細については、後述する。」

「【0048】
まず、図4に示すように、赤外線検知ユニット410から対象のデータを取得し、デプスマップ演算ユニット452により深さ演算を行なう(ステップS1)。次に、イメージ処理ユニット453により外形イメージデータを処理する(ステップS2)。
【0049】
次いで、解剖学的認識ユニット454により、標準的な人体の構造に基づき、ステップS2において処理された外形イメージデータから、解剖学的特徴を識別する。これにより、外形が認識される(ステップS3)。
【0050】
さらに、ジェスチャ識別ユニット456により、ステップS3で得た解剖学的特徴に基づいてジェスチャを識別する(ステップS4)。
ジェスチャ識別ユニット456は、ジェスチャデータ記録ユニット455に記録されたジェスチャデータを参照し、解剖学的特徴が識別された外形からジェスチャの識別を行なう。なお、ジェスチャ識別ユニット456は、ジェスチャデータ記録ユニット455からのジェスチャデータを参照することとしているが、参照することに限定されず、他の任意のデータを参照してもよく、全く参照することなく処理してもよい。
以上により、図5(a)に示すように、手のジェスチャを認識する。
【0051】
続いて、アプリケーションソフトユニット459およびイベントサービスユニット460は、ジェスチャ識別ユニット456により判定されたジェスチャに応じて所定のイベントを実施する(ステップS5)。
これによって、図5(b)に示すように、たとえば写真アプリによる画像が表示される。この際、当該画面には、カメラユニット303からの撮像データが表示されてよい。」

8 甲9に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲9には、次の事項が記載されている。

「【0033】
3−1.USNの評価
3−1−1.通常の臨床検査
無視を評価するために、行動性無視検査(Behavioral Inattention Test,BIT)に含まれる線分抹消試験および星印抹消試験を被験者に実施した。ここでは、Wilson等によって考案されたものを、石合等が日本人向けに一部改変し標準化したBIT日本語版を用いた。
【0034】
図8に示すように、線分抹消試験(最小0〜最大36点)については、様々な方位の線分が縦方向に6本、両側にそれぞれ計18本引かれた1枚の用紙を被験者に提示した。被験者に全ての線分を抹消するよう指示した。左側無視は右側よりも左側の線分により多く印を付けることができないことにより示される。無視の程度は線分の総数に対する省略された線分の数の割合により評価した。線分抹消試験の用紙は右側および左側の部分に分割し、まず右側、次いで左側の正答率を分析した。カットオフ値として34点を設定した。図9に示すように、星印抹消試験(最小0〜最大54点)については、A4刺激用紙は、誤った選択肢の項目が擬似的にランダムに散在する56個のターゲット(小さい星)を含み、印を付けた小さい星の合計を記録した。これらのターゲットは実際には6列に分かれており、これに加えて二つのターゲットが6列に属さない中央に位置している。検査者は、用紙の全ての内容を明確に示し、被験者に対して一例として二つの中央のターゲットに印を付けるが、これは採点対象としない。次に、被験者に残りの小さな星を抹消するように依頼した。用紙の横方向の各々の半分における省略されたターゲットの数を計算した。星印抹消試験用紙は六つの領域(左−左の領域、中央−左の領域、右−左の領域、右−右の領域、中央−右の領域、左−右の領域)に分割され、これらの六つの領域に対する正答率を分析した。カットオフ値として51点を設定した。

9 甲10に記載されている事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲10には、次の事項が記載されている。

「3.BIT行動性無視検査でみられる無視症状
半側空間無視の基本的検査法は,抹消試験,模写試験,線分二等分試験,描画試験であり,これらはBIT行動性無視検査日本版2) (BIT)の通常検査に含まれている。
1) 線分抹消試験(図4A)
Albert6)による方法に準拠しており,BITでは2本見落とせば異常と判断される。検査用紙は,中央に印の付け方を示すための4本(採点対象外)からなる列があり,その両側に縦6本の列が左右にそれぞれ3列並んでいる。最も重度の無視では右側の1〜2列にしか印を付けられず,軽度例では左下(左手前)に見落としが生じやすい7)。
2) 文字抹消試験(図4B)
水平な5行の平仮名文字列から「え」と「つ」のみを選んで印を付ける課題である。標的は40個あり6個見落とせば異常である。本検査は標的選択の負荷が高いと考えられ,左側だけでなく右側にも見落としが生じやすい。
3) 星印抹消試験(図4C)
大小の星印と仮名文字単語が散在する中から,小さい星のみに印を付けさせる課題であり.標的は54個ある。3個見落とせば異常と判断する。見落としは,軽度例では線分抹消試験と同様に左下に生じやすく,文字抹消試験ほどではないが中央付近や右側にもみられる。
複数の抹消試験を実施した場合,身体中心の座標系において無視される一定空間があるわけではないことがわかる。たとえば,線分抹消試験では左下の一部しか見落とさないのに,星印抹消試験ではきれいに左半分を見落とすということがあることに注意されたい。」(105頁)

第5 当審の判断
1 理由1について
(1)本件特許発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「MR」、「高次脳機能障害改善リハビリを行うために、視界に現れている数字を順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックする」こと、「数字」は、本件特許発明1の「拡張現実」、「トレーニングメニュー」、「仮想オブジェクト」に相当する。
また、引用発明の「小型のコントローラでマーカーを合わせクリックする」ことは、本件特許発明1の「ユーザが触れる」ことに相当する。

イ 引用発明の「MR」は、その性質からみて現実空間の映像を撮影し表示するものであるから、引用発明は、本件特許発明1の「所定の3次元空間を撮影する撮影部」及び「表示部」に相当する構成を備えているといえる。

ウ 引用発明の「数字」は、「順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックする」ものであるから、複数の数字が表示されている状態において、当該「クリックする」「順番」は、本件特許発明1の「トレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件」に相当する。
また、当該「数字」のうち、「クリックする」「順番」に合致するものについては、本件特許発明1の「条件に該当する仮想オブジェクト」に相当する一方、合致しない「数字」については、本件特許発明1の「条件に該当しない仮想オブジェクト」に相当するものであるといえる。

エ さらに、引用発明は「小型のコントローラのクリックにより数字が回転した後に表示が消失するもの」であり、数字が「順番に」「クリック」されているかを判断しているといえるから、引用発明の「条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定する判定部」を備えるものであるといえる。

オ 引用発明の「数字」は、「5〜8の数字」がMRの視界に表示される一方で、視線の移動に伴って「10の数字」が当該MRの視界に現れ表示されるものであるから、上記ウにおいて示したことを合わせてみると、引用発明は、本件特許発明1の「条件に該当する仮想オブジェクト」又は「条件に該当しない仮想オブジェクト」が、「所定の3次元空間のうち」「ユーザが視認可能な空間と」「ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する」との構成を備えているといえる。

カ 引用発明の「リハビリ医療ソフトウェアによりMR上に映像を表示するシステム」は、「MR上で」リハビリを行うものであるから、本件特許発明1の「AR装置」を構成するものであるといえる。

キ 以上より、本件特許発明1と引用発明とは、

「拡張現実を利用して、
トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示する表示部と、
前記所定の3次元空間を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザが、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定する判定部と、
を有し、
前記表示部は、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、前記所定の3次元空間のうち前記ユーザが視認可能な空間と前記ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、
AR装置。」である点において一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1が、「認知症リスクを低下させるための」ものであるのに対して、引用発明は「高次脳機能障害改善リハビリ」を行うためのものである点。

(相違点2)
本件特許発明1が「トレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示する指示部と、」を備えるのに対して、引用発明は「視界に現れている数字を順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックする」ことを「条件」とするものの、これを指示ずる構成を備えるか否かが明らかでない点。

(相違点3)
ユーザによる仮想オブジェクトに行う動作に関して、本件特許発明1がユーザの「手が」触れたかどうかを判定するものであるのに対して、引用発明は「小型のコントローラで」「クリック」するものである点。

(相違点4)
仮想オブジェクトの表示態様に関して、本件特許発明1は「トレーニングメニュー開始時点において」「所定の3次元空間のうち」「ユーザが視認可能な空間と」「ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する」ものであるのに対して、引用発明は、当該「仮想オブジェクトを表示」することが、「リハビリ」の開始時点で行われるものであるのかが明らかでない点。

(2)相違点の判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
甲3に記載されている事項の「文字画像601による左右いずれのコントローラでオブジェクト411にタッチすべきかの指示」を行うことは、上記相違点2に係る本件特許発明1の「トレーニングメニューに従って、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトに関する条件を前記ユーザに指示する」ことに相当する。
一方、引用発明は、「視界に現れている数字を順番に、小型のコントローラでマーカーを合わせクリックする」ものである一方、これ以外の操作手順をリハビリのメニューとして備えているものとみることはできないことに鑑みると、引用発明において「数字を順番に」「クリックする」趣旨の指示を表示する必要性が想定できないし、ユーザが触れるべき仮想オブジェクトの内容を「指示」することについても、表示がなされるのは次にクリックすべき数字そのものとなるから、それと重複してクリックすべき数字を含む表示を行う必要性が生じるとは認められない。
してみると、甲3に記載されている事項を、引用発明に適用する動機付けが存在するとはいえないから、本件特許発明1と引用発明との相違点2に係る構成は、引用発明及び甲3に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(3)理由1のまとめ
よって、本件特許発明1は、引用発明及び甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 理由2について
(1)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1における「前記表示部は、前記トレーニングメニューが開始されてから終了するまでの間に、前記条件に該当する仮想オブジェクト又は前記条件に該当しない仮想オブジェクトが、トレーニングメニュー開始時点において前記所定の3次元空間のうち前記ユーザが視認可能な空間と前記ユーザが視認可能ではない空間との両方に表示されるように、仮想オブジェクトを表示する、」との構成を、本件特許発明2における「前記表示部は、前記ユーザに装着され、前記撮影部を有するヘッドマウントディスプレイである、」との構成に換えたものである。

(2)本件特許発明2と引用発明との対比
本件特許発明2と引用発明とを対比すると、「1(1)」の「ア」〜「エ」及び「カ」で示した点において相当するとともに、引用発明の「MicrosoftのHoloLensで見るMR」を採用していることが、本件特許発明2の「表示部は、」「ユーザに装着され、」「撮影部を有するヘッドマウントディスプレイである」ことに相当するといえる。
したがって、本件特許発明2と引用発明とは、

「拡張現実を利用して、
トレーニングメニューに従って、所定の3次元空間の中で、前記条件に該当する仮想オブジェクト及び前記条件に該当しない仮想オブジェクトのうち少なくともいずれか一方の仮想オブジェクトを表示する表示部と、
前記所定の3次元空間を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された画像を用いて、前記所定の3次元空間において前記ユーザの手が、前記条件に該当する仮想オブジェクトに触れたか否かを判定する判定部と、
を有し、
前記表示部は、前記ユーザに装着され、前記撮影部を有するヘッドマウントディスプレイである、
AR装置。」である点において一致し、「1(1)」で示した相違点1〜3において相違する。

(3)相違点の判断
上記「1(2)」で論じたとおり、本件特許発明2と引用発明との相違点2に係る構成は、引用発明及び甲3に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(4)理由2のまとめ
よって、本件特許発明2は、引用発明及び甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 理由3〜8について
本件特許発明3〜8は、本件特許発明1または2を直接的にあるいは間接的に引用するものであるから、本件特許発明1または2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記「1」あるいは「2」において、本件特許発明1及び本件特許発明2について検討したのと同様に、引用発明及び甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 理由9〜10について
本件特許発明9は、本件特許発明1と、また、本件特許発明10は、本件特許発明2と、単にカテゴリーが異なるのみであり、上記「1」あるいは「2」において、本件特許発明1及び本件特許発明2について検討したのと同様に、引用発明及び甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 理由11〜12について
本件特許発明11は、本件特許発明1を、また、本件特許発明12は、本件特許発明2を、ぞれぞれのAR装置が実行するプログラムとして表現したものであるから、上記「1」あるいは「2」において、本件特許発明1及び本件特許発明2について検討したのと同様に、引用発明及び甲2〜甲12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-12-13 
出願番号 P2017-204448
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A63F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 古屋野 浩志
比嘉 翔一
登録日 2022-02-24 
登録番号 7029722
権利者 株式会社Splink
発明の名称 AR装置、方法及びプログラム  
代理人 田原 拓永  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 中塚 隆志  

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