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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1393130
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-07 
確定日 2023-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7047976号発明「ウレタン樹脂組成物、及び、皮革シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7047976号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第7047976号に係る出願は、令和2年9月10日を国際出願日とする国際出願であって、令和4年3月28日に特許権の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年9月7日に、本件の請求項1〜6に係る特許に対して、特許異議申立人高橋 和秀(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2017−119755号公報
甲第2号証 特開2018−62675号公報
甲第3号証 特開平11−335975号公報
甲第4号証 特開平5−239430号公報
甲第5号証 特開2011−140560号公報
甲第6号証 特開2013−253159号公報
以下、甲第1号証〜6号証を、それぞれ「甲1」〜「甲6」という。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」といい、これらをまとめて、「本件発明」という。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)及びアミノ基を有する鎖伸長剤を原料とする、アニオン性基とノニオン性基とを有するウレタン樹脂(A)、ノニオン性乳化剤(B)、及び、水(C)を含有し、前記ウレタン樹脂(A)の前記ノニオン性基が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むものであり、前記オキシエチレン基(EO)、及び、前記オキシプロピレン基(PO)のモル比(EO/PO)が、20/80〜90/10の範囲であることを特徴とするウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネートポリオール(a1)が、更にブタンジオールを原料とするものである請求項1記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネートポリオール(a1)における、前記ブタンジオール(C4)と前記バイオマス由来のデカンジオール(C10)とのモル比[(C4)/(C10)]が、5/95〜95/5の範囲である請求項2記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記オキシエチレン基、及び、前記オキシプロピレン基が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を有するポリオールにより供給されるものである請求項1〜3のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ノニオン性乳化剤(B)が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を有するものである請求項1〜4のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
繊維基材中に、請求項1〜5のいずれか1項記載のウレタン樹脂組成物の凝固物が存在することを特徴とする皮革シート。

第3 申立理由の概要
1 申立理由1
本件発明1〜6は、甲1に記載の発明及び甲2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、あるいは少なくとも甲1に記載された発明、甲2及び3に記載された事項並びに甲4〜6の周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである
2 申立理由2
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
すなわち、
(1)バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)のポリオール中の比率が特定されていない本件発明1〜6について、本件明細書の記載から、あらゆる比率において本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえない。
(2)ウレタン樹脂(A)が有するアニオン性基とノニオン性基のそれぞれの含有量が特定されていない本件発明1〜6について、本件明細書の記載から、あらゆる含有量において本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえない。

第4 甲号証の記載
1 甲1
(1)
「【請求項1】
1,10−デカンジオールに由来する構造単位を含有するポリカーボネートジオール及び官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールを含むポリオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物である末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物により鎖伸長したものであることを特徴とする水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
前記ポリオールがポリエーテル系ポリオールを更に含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
繊維基材と、該繊維基材に付着した、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物に由来するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とを含有することを特徴とする繊維製品。」

(2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、従来のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂で処理した繊維製品の欠点とも言える、風合の硬さを克服し、ポリカーボネートジオールを用いて得られる水分散型ポリウレタン樹脂であるにも拘わらず、繊維基材に柔軟な風合い及び反発感を付与することが可能であり、さらに、耐染色性が良好なため、得られた繊維製品に染色処理を施しても熱や揉み等の力による樹脂の破断や脱落が起きず、染色後でも柔軟な風合い及び反発感を十分に維持することが可能な水分散型ポリウレタン樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の構造単位を含有するポリカーボネートジオールと官能基としてヒドロキシル基のみを含有する多価アルコールとを含むポリオールを原料として調製した水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を用いて繊維基材を処理することによって、風合いが柔軟でかつ反発感を有する繊維製品が得られ、さらに、この繊維製品に染色処理を施した場合でも、柔軟な風合い及び反発感が維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(3)
「【発明の効果】
【0015】
本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物によれば、ポリカーボネートジオールを用いて得られる水分散型ポリウレタン樹脂組成物であるにも拘わらず、繊維基材に柔軟な風合い及び反発感を付与することが可能となる。また、本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は耐染色性が良好なため、得られた繊維製品に染色処理を施した際に熱や揉み等の力による樹脂の破断や脱落が起きず、染色後でも柔軟な風合い及び反発感を十分に維持することが可能となる。」

(4)
「【0017】
<水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物>
本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、1,10−デカンジオールに由来する構造単位を含有するポリカーボネートジオール及び官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールを含むポリオールと有機ポリイソシアネートとの反応生成物である末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物により鎖伸長したものである。【0018】
〔ポリオール〕
本発明に用いられるポリオールは、1,10−デカンジオールに由来する構造単位を含有するポリカーボネートジオール(以下、「デカンジオール由来ポリカーボネートジオール」という。)及び官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールを含むものである。
【0019】
本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの数平均分子量としては、500〜4500が好ましく、1800〜3400がより好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの数平均分子量が前記下限未満になると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0020】
また、本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの水酸基価(OHV)としては、25〜220mgKOH/gが好ましく、33〜120mgKOH/gがより好ましく、33〜63mgKOH/gが特に好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの水酸基価が前記下限未満になると、デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にある。
【0021】
さらに、本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの60℃における粘度としては、700〜40000mPa・sが好ましく、5000〜40000mPa・sがより好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの60℃における粘度が前記下限未満になると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0022】
また、本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの引火点としては、220〜280℃が好ましく、245〜270℃がより好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの引火点が前記下限未満になると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0023】
さらに、本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの融点としては、40〜60℃が好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの融点が前記下限未満になると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0024】
また、本発明に用いられるデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの酸価(AV)としては、0.5mgKOH/g以下が好ましい。デカンジオール由来ポリカーボネートジオールの酸価が前記上限を超えると、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明においては、このようなデカンジオール由来ポリカーボネートジオールとして、三菱化学(株)製の商品名「BENEBiOLTM NL3010DB、NL2010DB、NL1010DB」等を使用することができる。
【0026】
このようなデカンジオール由来ポリカーボネートジオールの全ポリオール中に占める割合としては、得られる繊維製品の柔軟性と反発感と耐染色性の観点から、50〜99質量%が好ましく、70〜99質量%より好ましい。【0027】
本発明に用いられる官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。このような官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、本発明においては、前記官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールと、その他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコールとを併用することもできる。その他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコールとしては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等のカルボキシル基と2個以上のヒドロキシル基とを含有する分子量400以下の多価アルコールが挙げられる。このようなカルボキシル基と2個以上のヒドロキシル基とを含有する分子量400以下の多価アルコールを使用する場合には、カルボキシル基は適宜中和して使用することもできる。
【0029】
本発明においては、得られる繊維製品の柔軟性と反発感の十分な両立の観点から、前記官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールの含有量は、分子量400以下の全多価アルコール中の50モル%以上であることが好ましく、多ければ多いほどよく、分子量400以下の多価アルコールの全てが前記官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコールであることが最も好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリオールは、ポリエーテル系ポリオールを更に含むことが好ましい。このポリエーテル系ポリオールは、分子量が400を超えるものである。このようなポリエーテル系ポリオールとしては、分子量400超過4000以下のポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール、低分子量多価アルコール又は低分子量ポリアルキレンポリアミンに1種又は2種以上のアルキレンオキサイドを付加した付加物等が挙げられる。前記低分子量多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。前記低分子量ポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリオールは、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明に用いられるポリオールが前記ポリエーテル系ポリオールを更に含む場合、オキシエチレン基の全ポリオール中に占める割合としては、0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。オキシエチレン基の割合が前記下限未満になると、得られるポリウレタン樹脂組成物の粒子径が粗くなり、乳化分散状態が不安定なものとなる傾向にあり、得られる繊維製品の柔軟性、反発感、耐染色性が悪化する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、安定な乳化分散物が得られるものの、成膜性等の物性面で劣る傾向にあり、柔軟性、反発感、耐染色性が悪化する傾向にある。
【0032】
本発明においては、ポリオールとして、前記デカンジオール由来ポリカーボネートジオール、前記分子量400以下の多価アルコール、前記ポリエーテル系ポリオール以外のその他のポリオールを併用することができる。前記その他のポリオールは、分子量が400を超えるものである。このようなその他のポリオールとしては、ポリエステル系ポリオール、前記デカンジオール由来ポリカーボネートジオール以外のその他のポリカーボネートジオール等の高分子ポリオールが挙げられる。」

(5)
「【0042】
〔乳化分散〕
本発明においては、このような末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水に乳化分散させる。このとき、乳化剤として、従来慣用の多くの界面活性剤を用いることが可能である。このような界面活性剤としては、炭素数8〜24のアルコール類、炭素数8〜24のアルケノール類、多環フェノール類、炭素数8〜44のアミン類、炭素数8〜44のアミド類、炭素数8〜24の脂肪酸類、多価アルコール脂肪酸エステル類、油脂類及びポリプロピレングリコールの、アルキレンオキサイド付加物等の非イオン界面活性剤(非イオン界面活性剤中に2種以上のアルキレンオキサイドが付加している場合、ブロック付加であってもランダム付加であってもよい。);アルコール類、アルケノール類及び前記非イオン界面活性剤のような各種アルキレンオキサイド付加物の、アニオン化物等のアニオン界面活性剤;炭素数8〜24のモノアルキルトリメチルアンモニウム塩、炭素数8〜24のジアルキルジメチルアンモニウム塩、炭素数8〜24のモノアルキルアミン酢酸塩、炭素数8〜24のジアルキルアミン酢酸塩、炭素数8〜24のアルキルイミダゾリン4級塩等のカチオン界面活性剤;等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0043】
これらの中でも、他の成分との混合性の観点から、非イオン界面活性剤が好ましく、多環フェノール類のアルキレンオキサイド付加物(例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤)、プルロニック型非イオン界面活性剤が特に好ましい。

(6)
「【0054】
本発明の繊維製品は、引張り、引裂き、摩耗等の各種強度に優れている。また、このような本発明の繊維製品は、耐染色性、耐光性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性、耐洗濯性、耐ドライクリーニング性等の各種耐久性の面で非常に優れていることから、本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、これらの諸物性の要求度が高い合成皮革や人工皮革分野で、しかも産業資材用途分野への利用価値が高いものである。」

(7)
「【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、特に限定しない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
・・・
【0071】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、前記デカンジオール由来ポリカーボネートジオールとして数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール(三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」)76.3部、前記ヒドロキシル基のみ含有する分子量400以下の多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.9部及び1,4−ブタンジオール0.9部、前記ポリエーテル系ポリオールとしてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール((株)ADEKA製、商品名「アデカポリエーテルPR−3007」、数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)3.0部、溶媒としてメチルエチルケトン32.8部を量り取り、均一に混合した後、有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート17.3部、触媒としてビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)0.03部を加え、80±5℃で90分間反応させ、ウレタンプレポリマー中の遊離イソシアネート基含有量が1.69%の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に反応抑制剤として燐酸二水素ナトリウム0.5部、乳化剤としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤4.4部を添加し、均一に混合した後、水150部を徐々に加えて攪拌し、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを乳化分散させた。この乳化分散液に、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物(鎖伸長剤)としてピペラジンの20%水溶液6.2部(ピペラジンとして1.24部)及びジエチレントリアミンの20%水溶液1.9部(ジエチレントリアミンとして0.38部)を添加し、40±5℃で90分間攪拌した後、減圧下に40℃で脱溶剤(脱メチルエチルケトン)を行い、樹脂分:40.0%、粘度(20℃):40mPa・s、平均粒子径:0.3μmの安定な水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0072】
このようにして得られた水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を使用して繊維基材であるポリエステル不織布(目付:150g/m2)にパディング処理(1dip−1nip、ピックアップ:100%)を施した後、この処理布を相対湿度:60%、温度:90℃の雰囲気下に静置して湿熱凝固処理を行い、次いで130℃で5分間乾熱乾燥処理を行い、染色前繊維製品を得た。この染色前繊維製品を下記条件で染色した後、下記条件でRCソーピングを行い、染色繊維製品を得た。
・・・
【0076】
実施例及び比較例で得られた染色前繊維製品及び染色繊維製品について、風合い(柔軟性)、反発感、耐染色性について検討した。
【0077】
(1)風合い(柔軟性)
得られた繊維製品の風合いを、触感により下記の基準に従い評価した。その結果を表1〜表4に示す。なお、各級の中間の評価の場合は、「1−2」のように記載した。
6級:極めて柔軟な風合い。
5級:柔軟な風合い。
4級:やや柔軟な風合い。
3級:やや粗硬な風合い。
2級:粗硬な風合い。
1級:極めて粗硬な風合い。
【0078】
(2)反発感
得られた繊維製品の反発感を、触感により下記の基準に従い評価した。その結果を表1〜表4に示す。なお、各級の中間の評価の場合は、「1−2」のように記載した。
6級:極めて反発弾性に富む風合い。
5級:反発弾性に富む風合い。
4級:やや反発弾性に富む風合い。
3級:ややペーパーライクな風合い。
2級:ペーパーライクな風合い。
1級:極めてペーパーライクな風合い。
【0079】
(3)耐染色性
得られた繊維製品の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、ポリウレタン樹脂の付着状態を下記の基準に従い評価した。その結果を表1〜表4に示す。なお、各基準の中間の評価の場合は、「B−C」のように記載した。A:樹脂の脱落、破断は見られない。
B:20%未満の樹脂に脱落、破断が見られる。
C:20%以上50%未満の樹脂に脱落、破断が見られる。
D:50%以上の樹脂に脱落、樹脂が見られる。
【0080】
【表1】

・・・
【0084】
表1〜表3に示した結果から明らかなように、本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を用いて繊維基材を処理した場合(実施例1〜14)には、風合いが柔軟でかつ反発感を有する染色前繊維製品が得られた。また、この染色前繊維製品に染色処理を施した場合でも、柔軟な風合い及び反発感は維持されており、耐染色性も十分なものであった。したがって、本発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、成膜性、耐水性、耐熱水性に優れていることがわかった。」

2 甲2
(1)
「【請求項1】
下記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び下記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールであって、水酸基価が20mg−KOH/g以上450mg−KOH/g以下であることを特徴とするポリカーボネートジオール。
HO−R1−OH・・・(A)
HO−R2−OH・・・(B)
(上記式(A)中、R1は置換若しくは無置換の炭素数3〜炭素数5の二価のアルキレン基を示し、上記式(B)中、R2は置換若しくは無置換の炭素数8〜炭素数20の二価のアルキレン基を示す。)
・・・
【請求項6】
前記式(A)で表される化合物が、1,3−プロパンジオール及び1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール。
【請求項7】
前記式(B)で表される化合物が、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール及び1,12−ドデカンジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネートジオール。
・・・
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネートポリオールを用いてなるポリウレタン。」

(2)
「【発明の効果】
【0015】
本発明のポリカーボネートジオールを用いて製造されたポリウレタンは、耐薬品性、低温特性、耐熱性のバランスに優れた特長を有し、弾性繊維、合成または人工皮革、塗料、高機能エラストマー用途に適しており、産業上極めて有用である。」

(3)
「【0027】
本発明のポリカーボネートジオールは前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含む。前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むことにより、ポリウレタンにしたときの良好な耐薬品性と低温特性を得ることができる。更に前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位と前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位との割合(以下「(A):(B)」と称す場合がある。)は、モル比率で、(A):(B)=50:50〜99:1が好ましく、60:40〜97:3がより好ましく、70:30〜95:5がさらに好ましく、80:20〜90:10が最も好ましい。前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が多くなりすぎると、ポリウレタンとしたときの低温特性が十分でなくなる場合がある。前記式(A)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合が少なくなりすぎると、ポリウレタンとしたときの耐薬品性が十分ではない可能性がある。」

(4)
「【0033】
前記式(B)で表される化合物は1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール等が挙げられる。中でもポリウレタンとしたときの耐薬品性、低温特性のバランスが優れることより、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールが好ましく、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールがより好ましく、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールがさらに好ましく、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールが特に好ましく、1,10−デカンジオールが最も好ましい。尚、前記式(B)で表される化合物は1種であっても複数種であってもよい。
・・・
【0035】
前記式(A)で表される化合物は植物由来であることが、環境負荷低減の観点から好ましい。植物由来として適用可能な前記式(A)で表される化合物としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−プロパンジオール等が挙げられる。
前記式(B)で表される化合物は植物由来であることが、環境負荷低減の観点から好ましい。植物由来として適用可能な前記式(B)で表される化合物としては、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール等が挙げられる。」

(5)
「【0083】
<2−10.水系ポリウレタンエマルション>
本発明のポリカーボネートジオールを用いて、水系ポリウレタンエマルションを製造する事も可能である。
その場合、ポリカーボネートジオールを含むポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させてプレポリマーを製造する際に、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物を混合してプレポリマーを形成し、親水性官能基の中和塩化工程、水添加による乳化工程、鎖延長反応工程を経て水系ポリウレタンエマルションとする。【0084】
ここで使用する少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物の親水性官能基とは、例えばカルボキシル基やスルホン酸基であって、アルカリ性基で中和可能な基である。また、イソシアネート反応性基とは、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基等の一般的にイソシアネートと反応してウレタン結合、ウレア結合を形成する基であり、これらが同一分子内に混在していてもかまわない。
【0085】
少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物としては、具体的には、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2−メチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。また、ジアミノカルボン酸類、例えば、リジン、シスチン、3,5−ジアミノカルボン酸等も挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらを実際に用いる場合には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等のアミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ性化合物で中和して用いることができる。」

(6)
「【0090】
水系ポリウレタンエマルションの具体的な用途としては、例えば、コーティング剤、水系塗料、接着剤、合成皮革、人工皮革への利用が好適である。特に本発明のポリカーボネートジオールを用いて製造される水系ポリウレタンエマルションは、ポリカーボネートジオール中に前記式(B)で表される化合物に由来する構造単位を有していることから、柔軟性がありコーティング剤等として従来のポリカーボネートジオールを使用した水系ポリウレタンエマルションに比べて有効に利用する事が可能である。」

(7)
「【0101】
<2−15.耐オレイン酸性>
本発明のポリウレタンは、例えば後述の実施例の項に記載される方法での評価において、オレイン酸に浸漬前のポリウレタン試験片の重量に対する、オレイン酸に浸漬後のポリウレタン試験片の重量の変化率(%)が、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、45%以下が特に好ましく40%以下が最も好ましい。
この重量変化率が上記上限超過では十分な耐オレイン酸性が得られない場合がある。」

3 甲3
(1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)(A−1)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有する水系ウレタン樹脂、及び/又は(A−2)分子内にカルボキシル基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で強制分散してなる水系ウレタン樹脂、
(B)無機塩、
(C)曇点を持つノニオン性界面活性剤とから成る(イ)水系樹脂組成物を、(ロ)繊維材料基体に含浸又は塗布し、(ハ)スチームで感熱凝固させることを特徴とする繊維シート状複合物の製造方法。
【請求項2】 請求項1記載の製造方法で得られた人工皮革。」

(2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、配合液(即ち、水系樹脂組成物)安定性に優れる水系樹脂組成物を繊維材料基体に含浸又は塗布し、スチームで感熱凝固させる繊維材料基体に含浸又は塗布し、スチームで感熱凝固させる繊維シート状複合物の製造方法に関するものである。
・・・
【0004】
・・・
2(当審注:2は丸囲み数字)特公昭59−1823号公報に開示されているような、アニオン性界面活性剤で乳化して、カルボキシル基を持つウレタン樹脂を作成し、後で少量のノニオン性界面活性剤を添加し貯蔵安定性を有したポリウレタンエマルジョンに、感熱凝固剤を付与したポリウレタンエマルジョン配合液を含浸または塗布したのち、熱風または熱水で加熱し加熱乾燥する方法もある。
・・・
【0005】
・・・
2(当審注:2は丸囲み数字)においては樹脂組成物が主にアニオン性であるため、感熱ゲル化促進剤の無機塩(特に2価以上の金属塩)を添加した場合、樹脂組成物の安定性が非常に悪く配合上問題がある。
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、配合液(水系樹脂組成物)が安定で低濃度から高濃度までウレタン樹脂濃度亘ってシャープな感熱ゲル化性を有し、かつ繊維間に充填した水系ウレタン樹脂が均一なマイクロポーラスを形成し、しかも風合いが柔軟でマイクロポーラスのない繊維シート状複合物の製造方法及びその人工皮革にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決する繊維シート状複合物特に人工皮革の製造方法について鋭意研究の結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】即ち、本発明は(A)(A−1)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有する水系ウレタン樹脂、及び/又は(A−2)分子内にカルボキシル基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で強制分散してなる水系ウレタン樹脂、(B)無機塩、(C)曇点を持つノニオン性界面活性剤とから成る水系樹脂組成物(イ)を、(ロ)繊維材料基体に含浸又は塗布し、(ハ)スチームで感熱凝固させることを特徴とする繊維シート状複合物の製造方法、それで得られた人工皮革を提供するものである。
【0009】本発明の目的である、低濃度から高濃度のウレタン樹脂濃度に亘ってシャープな感熱ゲル化性を有し、かつ繊維間に充填した水系ウレタン樹脂が均一なマイクロポーラスを形成し、しかも風合いが柔軟な繊維シート複合物は、(A)(A−1)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有する水系ウレタン樹脂及び/又は(A−2)分子内にカルボキシル基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で強制分散してなる水系ウレタン樹脂、無機塩(B)、曇点を持つ界面活性剤(C)及びスチームで感熱凝固(ハ)の組み合わせによってのみはじめて実現可能であり、これら構成因子のいずれか一つでも欠けると本発明の目的は達成されない。」

(3)
「【0012】本発明の水系ウレタン樹脂の製造において用いられるイソシアネート基と反応し得る活性水素含有化合物は、好ましくは平均分子量300〜10,000、より好ましくは500〜5,000の高分子量活性水素含有化合物と、平均分子量300以下の低分子量活性水素含有化合物に分けられる。
【0013】上記高分子量活性水素含有化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等が挙げられる。
・・・
【0016】ポリカーボネートポリオールとしては、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールとジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジフェニルカーボネート、ホスゲンとの反応により得られる化合物が挙げられる。
【0017】上記低分子量活性水素含有化合物としては、分子量300以下の分子内に少なくとも2個以上の活性水素を含有する化合物で、例えば、ポリエステルポリオールの原料として用いたグリコール成分;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物等があり、この他に更にエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドラジン類、酸ヒドラジド類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミンが挙げられる。
【0018】本発明の水系ポリウレタン樹脂は、分子内にそれ単独では水に安定に分散する事ができない程度のカルボキシル基を含有し、かつ最終的に水に安定に分散させるために必要な分子内に結合したノニオン性親水基あるいはノニオン性乳化剤を併用している事が必須である。すなわち、カルボキシル基だけで水に安定に分散させた水系ウレタン樹脂では、本発明の水性樹脂組成物の配合安定性が不十分なため繊維材料基体への含浸あるいは塗工ができず、またノニオン性親水基だけで水に安定に分散させた水系ウレタン樹脂では、感熱ゲル化はするもののシャープさに欠けるため、スチーム凝固時に樹脂の脱落があったり、また均質なマイクロポーラスの形成はできず不適当である。
【0019】従って、本発明の水系ポリウレタン樹脂の分子内に結合したカルボキシル基の含有量は、最終的に得られるウレタン樹脂固形分中の酸価として、好ましくは少なくとも0.5〜15、より好ましくは1〜10であることが必要である。酸価が0.5未満では、十分な感熱ゲル化性が得られず、また逆に酸価が15を越えると、本発明の(イ)水系樹脂組成物の配合安定性が不安定になり、安定な品質の繊維シート状複合物が得られず、更に耐水性などの耐久性が著しく低下するため好ましくない。
【0020】また前記カルボキシル基と併用することにより安定な水系ポリウレタン樹脂を得るために必要なノニオン性親水基の含有量は、最終的に得られるウレタン樹脂固形分100重量部当り好ましくは0〜20重量部、更に好ましくは0〜10重量部にすることが好ましい。またノニオン性乳化剤の量は、ウレタン樹脂固形分100重量部当たり好ましくは0〜20重量部、更に好ましくは0〜10重量部である。ただしこれらノニオン性親水基及び/又はノニオン性乳化剤のエチレンオキシド単位は、最終的に得られるウレタン樹脂固形分100重量部当り好ましくは少なくとも2〜20重量部、更は好ましくは3〜15重量部であり、ノニオン性親水基とノニオン性乳化剤を併用しても差し支えない。
【0021】本発明の水系ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入するために用いられる原料としては、例えば、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつカルボン酸の塩、カルボン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つのカルボキシル基を含有する化合物が挙げられる。かかるカルボキシル基含有化合物としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物及びこれらの誘導体又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0022】本発明の水系ウレタン樹脂にノニオン性親水基を導入するために用いられる原料としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、エチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基を含有するノニオン性の化合物が挙げられる。かかるノニオン性親水基含有化合物としては、エチレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30重量%以上含有し、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素を含有する分子量300〜20,000のポリオキシエチレングリコール又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそのモノアルキルエーテル等のノニオン基含有化合物又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0023】また本発明において用いられるノニオン性乳化剤としては、一般に乳化剤として使用するものは全て使用可能である。例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン長鎖アルキルエーテル類;ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル類;ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート等、あるいはポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレングリコールのブロックあるいはランダムポリマー、ポリアミンのポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレン付加物等も挙げられる。
・・・
【0025】本発明の水系ウレタン樹脂の製造方法としては、従来からよく知られているいずれの方法でもよく、例えば次のような方法が挙げられる。
・・・
【0028】4(当審注:丸付き数字)活性水素含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ノニオン性親水基含有化合物と、ポリイソシアネートを反応させて得られた親水基含有末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに、中和剤を含む水溶液と混合するか、または予めプレポリマー中に中和剤を加えた後水を混合して水に分散させた後、ポリアミンと反応させて水系分散体を得る方法。」

(4)
「【0049】
【実施例】以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中の部は重量部を示す。
・・・
【0052】(合成例C)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で乳化分散させた水系ウレタン樹脂の合成1.6−HGポリカーボネートジオール(分子量2,000)、ポリオキシテトラメチレングリコール(分子量2,000)、トリメチロールプロパン、ジメチロールプロピオン酸、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルと4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから得られるイソシアネート末端プレポリマーにトリエチルアミンを添加して中和した後、ノニオン性乳化剤の水溶液と混合しホモミキサーで撹拌して乳化分散液を得た後、更にイソホロンジアミンを添加して、酸価2.5、エチレンオキシド含有量6重量%の水系ウレタン樹脂を得た。
・・・
【0060】(実施例3)合成例Cの水系ウレタン樹脂(カルボキシル基及びノニオン性親水基含有ウレタン樹脂をリニオン性乳化剤で強制乳化した水系ウレタン樹脂)を、無機塩としてCaCl2 0.3部と曇点を持つノニオン性界面活性剤として曇点47℃のアルキルフェノール−ホルマリン縮合物のアルキレンオキシド付加物2部が水系樹脂組成物中に含まれるよう予め添加した水で希釈し、ウレタン樹脂濃度が5%、20%となるよう調整した水系樹脂組成物を作成した。この水系樹脂組成物を実施例1と同様に加工した。
・・・
【0072】
【表1】

・・・
【0075】<評価方法>
配合液安定性 :配合液を調整する際にゲル状物の生成または固化に至るか否かを目視観察した。更に、配合液を室温にて1時間静置し、状態変化を観察したが、配合時に安定であったものは1時間後の状態変化は認められなかった為に、配合時の安定性のみ記載した。
【0076】
<判定>○:配合時安定 ×:配合時ゲル化または固化
・・・
【0081】一方、表2に記載した比較例1〜5の通り、無機塩(B)、曇点を持つ界面活性剤(C)及びスチームで感熱凝固(ハ)の組み合わせを行った場合でも、水系ウレタン樹脂が(A)(A−1)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有する水系ウレタン樹脂及び/又は(A−2)分子内にカルボキシル基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で強制分散してなる水系ウレタン樹脂を使用しない場合には、配合液(組成物)の安定性が著しく悪く加工が不可能であったり、また、低濃度(5%)に於いて、シャープな感熱ゲル化性を示さず、水系ウレタン樹脂がマイグレーションを起こし、更に、マイクロポーラスを形成することなく、極めて風合いの硬い繊維シート複合物しか得ることが出来なかった。」

4 甲4
(1)
「【請求項1】 カルボキシル基およびエチレンオキサイドを含有するポリエーテル成分を末端または側鎖に有するポリウレタン水性分散体を含有することを特徴とする植毛用接着剤組成物。」

(2)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、現在のポリウレタン水性分散体は親水成分として親水性アニオン基のみを含有するポリウレタン水性分散体が主流であり、この様なポリウレタン水性分散体は混合する他種樹脂水性分散体によっては著しく不安定化することがある。アクリル系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン等は弱酸性を示すものが多く、上記のポリウレタン水性分散体との混合に際しては、混和不良、ゲル状沈澱物の発生あるいは固体状沈澱物の発生等が起こることがある。また植毛用接着剤組成物に添加される増粘剤、架橋剤、架橋触媒等の添加剤にも、親水性カチオン基を持つものあるいは酸性を示すもの等、上記のポリウレタン水性分散体との混和性が悪いものがあり、添加ショックによるゲル状沈澱物あるいは固体状沈澱物の発生が起こることがある。他種樹脂水性分散体との混合あるいは添加剤の添加等によって沈澱物等を生じないものであっても均質に混合するために、長時間あるいは強力な撹拌が必要である。
・・・
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、かかる観点から上記欠点を克服するため鋭意研究を進めた結果、ポリウレタン水性分散体と他種樹脂水性分散体とを含有して成る植毛用接着剤組成物を製造するに際し、ポリウレタン水性分散体として、親水性イオン基と親水性非イオン基とを有するポリウレタン水性分散体を使用することにより、上記欠点を克服した植毛用接着剤組成物が得られることを見いだし本発明に達した物である。
【0007】すなわち本発明は、カルボキシル基およびエチレンオキサイドを含有するポリエーテル成分を末端または側鎖に有するポリウレタン水性分散体を含有することを特徴とすることを特徴とする植毛用接着剤組成物を提供する。」

(3)
「【0049】〔実施例1〕分子量2,000のポリエステルジオール(1,6−ヘキサンジオール/ネオペンチルグリコール/アジピン酸)276部、1,4−ブタンジオール12部、2,2’−ジメチロールプロピオン酸12部、分子量4,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル33部、トリレンジイソシアネート94部、メチルエチルケトン200部から得られたイソシアネート末端プレポリマー溶液に、メチルエチルケトオキシム30部を加え80℃で2時間攪拌してブロックドイソシアネート末端プレポリマー溶液を得た。これをイソホロンジアミン23部、トリエチルアミン9部、水695部からなる水溶液に混合して分散させ、得られたブロックドイソシアネート末端プレポリマー水性分散体を75℃で2時間攪拌して鎖伸長せしめポリウレタン水性分散体を得た。続いて、この水性分散体中の有機溶剤をバッチ方式で減圧留去して、有機溶剤を殆ど含まない、固形分45%のポリウレタン水分散体を得た。
【0050】〔比較例1〕分子量2,000のポリエステルジオール(1,6−ヘキサンジオール/ネオペンチルグリコール/アジピン酸)297部、1,4−ブタンジオール11部、2,2’−ジメチロールプロピオン酸16部、トリレンジイソシアネート100部、メチルエチルケトン195部から得られたイソシアネート末端プレポリマー溶液に、メチルエチルケトオキシム33部を加え80℃で2時間攪拌してブロックドイソシアネート末端プレポリマー溶液を得た。これをイソホロンジアミン26部、トリエチルアミン12部、水675部からなる水溶液に混合して分散させ、得られたブロックドイソシアネート末端プレポリマー水性分散体を65℃で8時間攪拌して鎖伸長せしめたところポリウレタン水性分散体を得た。続いて、この水性分散体中の有機溶剤を減圧留去して、有機溶剤を殆ど含まない、固形分45%のポリウレタン水分散体を得た。
・・・
【0052】実施例1及び比較例1のポリウレタン水性分散体と、アクリル系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョンあるいは合成ゴム系ラテックスのいずれかを混合した樹脂水性分散体の安定性の比較を表1に示す。・・・
【0055】
【表1】


・・・
【0058】注1)大日本インキ化学工業(株)製品アクリル酸エステル系共重合エマルジョン、固形分45%
注2)大日本インキ化学工業(株)製品エチレン−酢酸ビニル系共重合エマルジョン、固形分53%
注3)大日本インキ化学工業(株)製品
NBR系共重合ラテックス、固形分45%
注4)○:撹拌棒による混合撹拌で容易に混和し、凝集物、ゲル物等を生じない
△:長時間の撹拌で混和して、外観上凝集物、ゲル物等は見られない
×:混和せず凝集物、ゲル物等を生ずる
注5)混合物100gを80メッシュナイロン布で濾過し、濾過残査を100℃で1時間乾燥した物の重量」

5 甲5
(1)
「【請求項1】
アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)及び水系媒体を含有することを特徴とする水性ウレタン樹脂組成物。」

(2)
「【0001】
本発明は、例えばインクジェット印刷等に使用するインクのバインダーをはじめ、コーティング剤や接着剤等の様々な用途に使用可能な水性ウレタン樹脂組成物に関する。」

(3)
「【0029】
前記ウレタン樹脂(A)は、前記アニオン性基(a1)及びポリアルキレンオキサイド鎖(a2)によって水系媒体(B)中に安定して溶解または分散することができる。そのため、本発明の水性ウレタン樹脂組成物であれば、それをインクジェット印刷用インクのバインダーに用いた場合であってもインク吐出ノズルを詰まらせにくい。」

(4)
「【0041】
前記ウレタン樹脂(A)としては、ポリオール(B)とポリイソシアネート(C)とを反応させて得られるものを使用することができる。ここで、前記ポリオール(B)としては、ウレタン樹脂(A)にアニオン性基を導入する観点からアニオン性基含有ポリオール(b1)を使用することが好ましい。
【0042】
また、前記ポリオール(B)としては、ウレタン樹脂(A)の側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する観点から、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオール(b2)を使用することが好ましい。
【0043】
前記アニオン性基含有ポリオール(b1)としては、例えば2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2’−ジメチロールブタン酸、2,2’−ジメチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有ポリオールや、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のスルホン酸基含有ポリオールを使用することができる。また、前記親水性基含有ポリオールとしては、前記した低分子量の親水性基含有ポリオールと、例えばアジピン酸等の各種ポリカルボン酸とを反応させて得られる親水性基含有ポリエステルポリオール等を使用することもできる。
【0044】
前記アニオン性基含有ポリオール(b1)は、前記ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール(B)及びポリイソシアネート(C)の合計量に対して、0.5〜30質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0045】
また、前記ポリオール(B)に使用可能な側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオールとしては、例えば、ポリアルキレンオキサイド鎖の分子量が600〜3000程度であるポリオールを使用することが好ましく、600〜1000のポリオールを使用することがより好ましい。また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖がポリエチレンオキサイド鎖であるポリオールを使用することが好ましい。
【0046】
前記側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオールとしては、例えばパーストープ社が商品名「YmerN120」として市販しているものを使用することが特に好ましい。
【0047】
前記ポリオール(b2)が有するポリアルキレンオキサイド鎖は、例えばポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとの共重合体構造であってもよい。」

(5)
「【0109】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)123.8質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸14.1質量部、Ymer N120(パーストープ社)16.0質量部及びイソホロンジイソシアネート 40.4質量部を、有機溶剤としてのメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0110】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.2質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.8質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0111】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
・・・
【0142】
(インクジェット顔料インクの配合割合)
・調製例1で得たキナクリドン系顔料水系分散体(顔料濃度14.9質量%);26.8g
・2−ピロリジノン;8.0g
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル;8.0g
・グリセリン;3.0g
・界面活性剤(サーフィノール440、エアープロダクツ社製);0.5g・イオン交換水;48.7g
・前記実施例1〜6または比較例1〜2で得た水性ウレタン樹脂組成物;5.0g
【0143】
〔インクの保存安定性の評価〕
前記で得たインクジェット印刷用インクの粘度と、該インク中の分散粒子の粒子径に基づいて評価した。前記粘度測定は東機産業(株)製のVISCOMETER TV−22を使用し、前記粒子径の測定は、日機装(株)社製のマイクロトラック UPA EX150を使用した。
【0144】
次に、前記インクをスクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で4週間の加熱試験を行った後の、前記インクの粘度と、該インク中の分散粒子の粒子径を、前記と同様の方法で測定した。
【0145】
前記加熱試験前のインクの粘度及び粒子径に対する、加熱試験後の粘度及び粒子径の変化を、それぞれ下記式に基づいて算出し、顔料インクの保存安定性を評価した。
【0146】
(式I)
[(加熱試験後のインク中の分散粒子の粒子径)/(加熱試験前のインク中の分散粒子の粒子径)]×100
【0147】
[判定基準]
○: 粒子径の変化の割合が、5%未満
△: 粒子径の変化の割合が、5%以上10%未満
×: 粒子径の変化の割合が、10%以上
【0148】
(式II)
[(加熱試験後のインクの粘度)/(加熱試験前のインクの粘度)]×100
【0149】
[判定基準]
○: 粘度の変化の割合が、2%未満
△: 粘度の変化の割合が、2%以上5%未満
×: 粘度の変化の割合が、5%以上
・・・



6 甲6
(1)
「【請求項1】
メルカプト基及びカルボニル基を有する化合物(A1)、ならびにイソシアネート基と反応性を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてなるか、又は化合物(A)と化合物(B)とポリオール化合物(C)とを反応させてなる、カルボニル基と、チオエーテル基及び/又はチオウレタン基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)。」

(2)
「【0001】
本発明は、カルボニル基と、チオエーテル基及び/又はチオウレタン基とを含有する変性ウレタン樹脂、その水分散体、及び、該水分散体を含む水性塗料組成物に関する。」

(3)
「【0068】
本発明の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体は、変性ウレタン樹脂(X)を、水又は水を含む媒体(以下、「水性媒体」と記す)に分散させたものである。上記水分散体は、水性媒体中に乳化分散してなるものであり、アニオン性、ノニオン性またはカチオン性のいずれのタイプであってもよいが、水分散体の貯蔵安定性、形成塗膜の耐酸性などの観点から、アニオン性、ノニオン性、又はアニオン性とノニオン性との両方を有するタイプが好ましい。さらに、より具体的には、変性ウレタン樹脂(X)をノニオン性又はアニオン性のポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分の存在下に乳化分散したもの、或いは親水性のノニオン性基及び/又はアニオン性基を該変性ウレタン樹脂に導入したものを乳化分散したもの等が適している。
・・・
【0074】
親水性のノニオン性基及び/又はアニオン性基を該変性ウレタン樹脂に導入する方法としては、例えば、ポリオール化合物(C)として、その成分の少なくとも一部としてポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体等のポリオキシアルキレン鎖の両末端に水酸基を有するポリオール、又は側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有するポリオールを含むものを用いて変性ウレタン樹脂(X)を得る方法、或いはポリオール化合物(C)として、その成分の少なくとも一部としてカルボキシル基含有ポリオールまたはスルホン酸基含有ポリオールを含むものを用いて変性ウレタン樹脂(X)を得る方法が好適である。
上記方法において、化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)と上記化合物(C)との反応は、任意の順に反応させてもよく、例えば、化合物(A)と化合物(B)とを先に反応させてから化合物(C)を加えて反応、化合物(B)と化合物(C)とを先に反応させてから化合物(A)を加えて反応、又は化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)と上記化合物(C)とを一緒に混合して反応させてもよい。」

第5 当審の判断(申立理由1(進歩性)について)
1 甲1に記載された発明
甲1には、第4の1で摘記した事項が記載されているところ、摘記(7)の実施例1に着目すれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール76.3部、トリメチロールプロパン0.9部、1,4−ブタンジオール0.9部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール(数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)3.0部、及びメチルエチルケトン32.8部を均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート17.3部、ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)0.03部を加えて反応させて得た末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液に、燐酸二水素ナトリウム0.5部及びポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤4.4部を添加し、均一に混合した後、水150部を徐々に加えて末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの乳化分散液を得、これに、ピペラジン水溶液(ピペラジンとして1.24部)及びジエチレントリアミン水溶液1.9部(ジエチレントリアミンとして0.38部)を添加し、脱溶剤して得た、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

2 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明の対比
ア 「ウレタン樹脂(A)について」
(ア)甲1発明の「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」における「ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂」(以下、「甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)という。)は、「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール」、「トリメチロールプロパン」、「1,4−ブタンジオール」、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール(数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)」、「ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート」、「ピペラジン」及び「ジエチレントリアミン」を原料とする。
(イ)上記(ア)の原料のうち、「数平均分子量3,000のデカンジオール由来ポリカーボネートジオール」は、「三菱化学(株)製、商品名「BENEBiOLTM NL3010DB」」(甲1摘記(7))であり、本件明細書に記載の実施例1で使用された「三菱化学株式会社製「ベネビオールNL−3010DB」、1,4ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10−デカンジオールを原料とするもの、数平均分子量;3000」と同一のものであると認められるから、本件発明1の「バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)」に相当する。
(ウ)上記(ア)の原料のうち、ピペラジン及びジエチレントリアミンは、「1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物(鎖延長剤)」であるから(甲1摘記(7))、「アミノ基を有する鎖延長剤」である。
(エ)上記(ア)のとおり、甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール(数平均分子量:3,000、オキシエチレン基含有量:70%)」を原料としているから、ノニオン性基であるオキシエチレン基及びオキシプロピレン基を含み、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基におけるオキシエチレン基含有量は70%である。ここで、甲1発明のオキシエチレン基含有量「70%」は、甲1摘記(7)によれば(【0056】)、「70質量%」を意味する。
(オ)上記(ア)〜(エ)より、甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、本件発明1の「バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)及びアミノ基を有する鎖伸長剤を原料とする、アニオン性基とノニオン性基とを有するウレタン樹脂(A)」であって、「ウレタン樹脂(A)の前記ノニオン性基が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むものであり、前記オキシエチレン基(EO)、及び、前記オキシプロピレン基(PO)のモル比(EO/PO)が、20/80〜90/10の範囲である」「ウレタン樹脂(A)」と、「バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール及びアミノ基を有する鎖伸長剤を原料とする、ノニオン性基を有するウレタン樹脂」であって、「ウレタン樹脂のノニオン性基が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むものである」点で共通する。
イ 甲1発明の、「ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル型非イオン界面活性剤」は、乳化剤として配合されたものであり(甲1摘記(7))、本件発明1の「ノニオン性乳化剤」に相当する。
ウ 甲1発明の、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」は、水を含む。
エ 甲1発明の、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」は、ウレタン樹脂組成物である。
オ 上記ア〜エより、本件発明1と甲1発明とは、
「バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)及びアミノ基を有する鎖伸長剤を原料とする、ノニオン性基とを有するウレタン樹脂(A)、ノニオン性乳化剤(B)、及び、水(C)を含有し、前記ウレタン樹脂(A)の前記ノニオン性基が、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むものであるウレタン樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ウレタン樹脂に関して、本件発明1は、アニオン性基とノニオン性基とを有するのに対して、甲1発明はノニオン性基を有するが、アニオン性基は有さない点。
<相違点2>
ウレタン樹脂が有するノニオン性基の、オキシエチレン基(EO)、及び、オキシプロピレン基(PO)の量比について、本件発明1では、モル比(EO/PO)が、20/80〜90/10であるのに対して、甲1発明では、オキシエチレン基含有量が70質量%である点。

(2)相違点1についての判断
ア 甲1発明において、ウレタン樹脂がノニオン性基に加えさらにアニオン性基も有するものとすることが、当業者にとって容易であったかについて検討する。
イ 甲1は、「1,10−デカンジオールに由来する構造単位を含有するポリカーボネートジオール」と「官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコール」を含むポリオールと、「有機ポリイソシアネート」との反応生成物であるウレタンプレポリマーを、鎖伸長した「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を開示し(甲1摘記(1))、甲1発明はその具体例である実施例1であるところ、甲1のいずれの箇所にも、ウレタン樹脂に関して、ノニオン性基に加え、さらにアニオン性基を含有させることについての明記はない。
甲1には、「官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコール」と、「その他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコール」を併用してもよいことが記載され、「その他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコール」として、「2,2―ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等のカルボキシル基と2個以上のヒドロキシル基を含有するその他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコール」が挙げられている(甲1摘記(4)【0027】、【0028】)が、「官能基としてヒドロキシル基のみを含有する分子量400以下の多価アルコール」と「その他の官能基を有する分子量400以下の多価アルコール」を併用することの技術的意義については何ら記載されていないし、当該併用を行ったことについての実施例等による具体的な記載もないから、甲1の上記記載のみをもって、甲1発明において、ポリオールとして、上記2,2−ジメチロールプロピオン酸等を使用することが動機づけられるとはいえない。
ウ 甲2は、1,4−ブタンジオール等の式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び1,10−デカンジオール等の式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオール、並びにこれを用いてなる、耐薬品性、低温特性、耐熱性のバランスに優れた特長を有し、弾性繊維、合成または人工皮革、塗料、高機能エラストマー用途に適したポリウレタンを開示し(甲2摘記(1)、(2))、上記式(A)及び(B)で表される化合物は植物由来であることが好ましいことについても開示する(甲2摘記(4)【0035】)。
そして、上記ポリカーボネートジオールを用いて、水系ポリウレタンエマルションを製造することも可能であり、その場合は、ポリカーボネートジオールを含むポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させてプレポリマーを製造する際に、「少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物」を混合してプレポリマーを形成し、親水性官能基の中和塩化工程、水添加による乳化工程、鎖延長反応工程を経て水系ポリウレタンエマルションとすること、上記「少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物」としては、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2−メチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等が挙げられることが記載されている(甲2摘記(5))。
すなわち、甲2の上記記載から、1,4−ブタンジオール等の、式(A)で表される化合物に由来する構造単位及び、1,10−デカンジオール等の式(B)で表される化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネートジオールを用いて水系ポリウレタンエマルションを製造するには、プレポリマー製造の際に、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2−メチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等の、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物を混合すればよいことが理解できる。
これに対して、甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、すでに、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成しているし、甲1は、「風合の硬さを克服し、ポリカーボネートジオールを用いて得られる水分散型ポリウレタン樹脂であるにも拘わらず、繊維基材に柔軟な風合い及び反発感を付与することが可能であり、さらに、耐染色性が良好なため、得られた繊維製品に染色処理を施しても熱や揉み等の力による樹脂の破断や脱落が起きず、染色後でも柔軟な風合い及び反発感を十分に維持することが可能な水分散型ポリウレタン樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする」ものであり(甲1摘記(2)【0007】)、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成する際に格別の問題があったなどとする記載もみあたらない。
そうすると、すでに水分散型である甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を、甲1発明が規定する手法以外の手法で水に分散させることの動機付けがあるとはいえないから、甲1発明及び上記甲2の記載を併せ考えても、甲1発明において、甲2に記載された手法を採用して、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を製造する際に、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2−メチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等の、少なくとも1個の親水性官能基と少なくとも2個のイソシアネート反応性の基を有する化合物を使用することが動機づけられるとはいえない。
エ 甲3は、「(A−1)分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有する水系ウレタン樹脂」「をノニオン性乳化剤で強制分散してなる水系ウレタン樹脂」「(B)無機塩」、及び「(C)曇点を持つノニオン性界面活性剤」とから成る水系樹脂組成物を、繊維材料基体に含浸又は塗布し、スチームで感熱凝固して、人工皮革を製造することを開示し(甲3摘記(1))、従来技術の問題点として、感熱ゲル化性促進剤の無機塩を添加した場合、樹脂組成物の安定性が非常に悪く配合上問題があることなどを記載したうえで、課題として、配合液(水系樹脂組成物)が安定であることなどを記載する(甲3摘記(2)【0005】、【0006】)。
そして、カルボキシル基だけで水に安定に分散させた水系ウレタン樹脂では、水性樹脂組成物の配合安定性が不十分なため繊維材料基体への含浸あるいは塗工ができず、ノニオン性親水基だけで水に安定に分散させた水系ウレタン樹脂では、感熱ゲル化はするもののシャープさに欠けるため、スチーム凝固時に樹脂の脱落があったり、均質なマイクロポーラスの形成はできず不適当であること、水系ウレタン樹脂の製造方法で用いられるイソシアネート基と反応し得る活性水素含有化合物は、高分子量活性水素含有化合物と、低分子量活性水素化合物に分けられ、高分子量活性水素含有化合物として、ポリカーボネートポリオールが挙げられること、水系ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入するために用いられる原料としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸が挙げられ、ノニオン性親水基を導入するために用いられる原料としては、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合対グリコールが挙げられることが記載されている(甲3摘記(3)【0012】、【0013】、【0018】、【0021】、【0022】)。
さらに、具体例として、分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で乳化分散させた水系ウレタン樹脂を合成し、これを、無機塩としてのCaCl2 0.3部と曇点を持つノニオン性界面活性剤としてのアルキルフェノール−ホルマリン縮合物のアルキレンオキシド付加物を添加した水で希釈し、水系樹脂組成物を作成したことが記載され、当該水系樹脂組成物の安定性を、配合液を調製時及び配合液を室温にて1時間静置後の状態変化を目視観察することによって評価したところ、配合時に安定であり、1時間静置後でも状態変化は認められなかったことが記載されている(甲3摘記(4)【0050】〜【0060】、【0075】、【0076】、【表1】)。
すなわち、甲3の上記記載から、分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で乳化分散させた水系ウレタン樹脂は、無機塩及びノニオン性界面活性剤と混合して配合液を製造する際にゲル化や固化が起こらず、安定であり、従来技術の問題点であった、配合上の問題が解決されたものであることが理解できる。
これに対して、甲1発明の水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物は、そのまま繊維基材であるポリエステル不織布にパディング処理された後、湿熱凝固処理及び乾燥処理を施されるものであり、甲3に記載されるように無機塩及びノニオン性界面活性剤と混合されるものではない(甲1摘記(7)【0072】)。また、甲1のいずれの箇所をみても、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物を、無機塩及びノニオン性界面活性剤と混合することについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明に、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物に無機塩及びノニオン性界面活性剤を混合して配合液とする際の安定性を改善することの動機付けは見いだせないから、甲3の上記記載を合わせ考えても、甲1発明において、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂に、ノニオン性基に加えて、アニオン性基も含有させるようにすることは、動機づけられない。
オ 甲4には、カルボキシル基およびエチレンオキサイドを含有するポリエーテル成分を末端または側鎖に有するポリウレタン水性分散体を含有する植毛用接着剤組成物に関し(甲4摘記(1))、親水性アニオン基のみを含有するポリウレタン水性分散体は混合する他種樹脂水性分散体によっては著しく不安定化することがあることや、植毛用接着剤組成物に添加される増粘剤、架橋剤、架橋触媒等の添加剤にもポリウレタン水性分散体との混和性が悪いものがあり、添加ショックによるゲル状沈澱物あるいは固体状沈澱物の発生が起こることがあること、カルボキシル基およびエチレンオキサイドを含有するポリエーテル成分を末端または側鎖に有するポリウレタン水性分散体は当該欠点を克服することを記載され(甲4摘記(2))、実際に、2,2’−ジメチロールプロピオン酸及びポリエチレングリコールモノメチルエーテルを原料に含むポリウレタン水性分散体は安定性に優れていたことが記載されている(甲4摘記(3))。
甲5には、インクジェット印刷等に使用するインクのバインダー、コーティング剤、接着剤等の用途に使用可能な水性ウレタン樹脂組成物に関し、アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)及び水系媒体(B)を含有する水性ウレタン樹脂組成物に関して(甲5摘記(1)、(2))、ウレタン樹脂(A)は、アニオン性基(a1)及びポリアルキレンオキサイド鎖(a2)によって水系媒体(B)中に安定して溶解または分散することができることが記載され(甲5摘記(3))、具体的には、ポリカーボネートポリオール、2,2−ジメチロールプロピオン酸、YmerN120(甲5摘記(4)【0046】によれば、ポリアルキレンオキサイド鎖を側鎖に有するポリオール)を原料として用いた、水性ウレタン樹脂組成物を用いて形成されたインクは、保存安定性に優れていたことが記載されている(甲5摘記(5))。
甲6には、変性ウレタン樹脂、その水分散体、及び該水分散体を含む水性塗料組成物に関し、メルカプト基及びカルボニル基を有する化合物(A1)、ならびにイソシアネート基と反応性を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを反応させてなるか、又は化合物(A)と化合物(B)とポリオール化合物(C)とを反応させてなる、カルボニル基と、チオエーテル基及び/又はチオウレタン基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体に分散させた水分散体は、貯蔵安定性、形成塗膜の耐酸性などの観点から、親水性のノニオン性基及び/又はアニオン性基を、該変性ウレタン樹脂に導入したものを乳化分散したもの等が適していることが記載されている(甲6摘記(1)〜(3))。
上記甲4〜6の記載によれば、甲4〜6は、ポリウレタン樹脂の水分散体の安定性について記載している点では共通しているものの、それぞれ異なる技術分野に属する技術を開示しており、これらの記載から、何らかの周知技術が直ちに導けるといえるものではない。
仮に、甲4〜6の記載から、ウレタン樹脂水分散体に関し、ウレタン樹脂にアニオン性基とノニオン性基を持たせること、及びそれによって当該水分散体の安定性が向上することが周知の技術であるといえたとしても、上記ウのとおり、甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、すでに、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成しており、甲1には、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成する際に格別の問題があったなどとする記載はないから、甲1発明において、上記周知技術を採用する動機付けはない。
カ 以上のとおりであるから、相違点1に係る事項は、甲1発明及び甲1〜6のいずれの記載を合わせ考えても、容易に想到しうるものではない。

(3)本件発明1の効果について
ア 上記(2)のとおり、相違点1に係る事項は、容易に想到しうるものではないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないが、以下、念のため、本件発明1の効果についても検討する。
イ 本件発明1は、環境対応型であり、耐オレイン酸性、風合い、及び、配合液安定性に優れるという効果を奏する(【0009】)。
(ア)「配合液安定性」について
「配合液安定性」に関して、本件明細書には、「ウレタン樹脂組成物に対し、固形分が20質量%となるように水で希釈し、この配合液100質量部に対して、塩化ナトリウム1質量部を加え」て得た配合液を「40℃の雰囲気下で1週間静置し」たものについて、「「A」;外観に変化なし、「B」;若干の沈殿物が確認される、「C」;多くの沈殿物が確認される」の三段階で評価された(【0068】)と記載されているから、本件発明1の「配合液安定性」という効果は、そのように評価されるものであると理解することができる。
これに対して、甲1、2、4〜6のいずれも、ウレタン樹脂組成物を、水で希釈して塩化ナトリウムを加えることについては記載も示唆もされていない。
甲3の記載からは、上記(2)エのとおり、分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有するウレタン樹脂をノニオン性乳化剤で乳化分散させた水系ウレタン樹脂は、無機塩及びノニオン性界面活性剤と混合して配合液を製造する際にゲル化や固化が起こらず、安定であり、従来技術の問題点であった、配合上の問題が解決されたものであることが理解できるものの、甲3には、ウレタン樹脂の製造において用いられるポリカーボネートポリオールを形成するポリオールとして、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールが挙げられているにとどまり(甲3摘記(3)【0016】)、バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオールについては記載も示唆もされていない。また、甲3では、配合液の安定性を、配合時及び、1時間静置後に確認したのみである(甲3摘記(4)【0075】)。
そうすると、甲3の記載をみても、バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオールを用いたウレタン樹脂組成物についても、配合液安定性に優れることが予測できるとはいえないし、ましてや、このような特定のポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタン樹脂組成物を用いた配合液を、40℃の雰囲気下で1週間静置しても安定であることなどは予測できない。
よって、本件発明1の、配合安定性についての効果は、当業者が甲1〜6の記載から当業者が予測することができたものではない。
したがって、その他の効果を検討するまでもなく、本件発明1の効果は、当業者が甲1〜6の記載から予測することができたものではない。

(4)小括
よって、本件発明1は、甲1発明及び、甲1〜6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明1が、甲1発明及び、甲1〜6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2〜6も同様に、甲1発明及び、甲1〜6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 申立人の主張について
ア 申立人は、甲1と甲2とは、技術分野及び基本的な構成において共通するものであるため、甲1発明において、水に分散させるポリウレタン樹脂の親水性を高めるとの当該技術分野において自明な課題のもと、同じ技術分野に属する甲2の記載内容及び甲1の【0028】のウレタン樹脂がノニオン性基とともにアニオン性基を有してもよいことの示唆に基づき、ポリオールとして「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール」とともに、2,2’−ジメチロールプロピオン酸などのアニオン性基を有するポリオールを用い、これにより甲1発明のウレタン樹脂がノニオン性樹脂とともにアニオン性基を有するものとすることは当業者が容易に想到し得ることであると主張する(申立書19頁23行〜21頁10行)
しかしながら、水に分散させるポリウレタン樹脂の親水性を高めるという課題が自明のものであるという根拠はないし、仮にそれが自明の課題であったとしても、上記2(2)ウのとおり、甲1発明のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、すでに、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成しており、甲1には、「水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物」を形成する際に格別の問題があったなどとする記載はないのだから、甲1発明において、水に分散させるポリウレタン樹脂の親水性を高めるとの課題があったということはできない。
そして、甲1の【0028】の記載や甲2をみても、甲1発明において、ポリオールとして「2,2’−ジメチロールプロピオン酸」等を用いることが動機づけられないことも、上記2(2)イ及びウのとおりである。
よって、上記主張は採用できない。

イ 申立人は、甲3には、ウレタン樹脂にアニオン性基とノニオン性基を導入することにより水系ポリウレタンエマルションを用いて調製した配合液の安定性が向上することが記載されており、甲1発明において、繊維基材に処理するための配合液の保存安定性を向上するとの製造現場における自明な課題のもと、同じ技術分野に属する甲3の記載内容及び甲1の【0028】の、ウレタン樹脂がノニオン性基とともにアニオン性基を有してもよいことの示唆に基づき、ポリオールとして「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合対グリコール」とともに、ジメチロールプロピオン酸などのアニオン性基を有するポリオールを用い、これにより甲1発明のウレタン樹脂がノニオン性基とともにアニオン性基を有するものとすることは当業者が容易に想到し得ることであると主張する(申立書21頁11〜22頁20行)。
しかしながら、繊維基材に処理するための配合液の保存安定性を向上するとの課題が自明であるとする根拠はない。
そもそも、甲3は、無機塩を添加した場合に樹脂組成物の安定性が非常に悪く配合上問題があったこと(甲3摘記(2)【0005】)を記載したうえで、配合時の安定性及び1時間後の状態変化を確認したことが記載されているのだから、甲3において、「配合液安定性」を課題としているということはできても、「配合液の保存安定性」を課題としているなどとはいえない。
また、甲1にも「配合液の保存安定性」を改良することが課題であるなどとは記載されていないし、甲3のいう配合液安定性は、水系ウレタン樹脂を無機塩とノニオン性界面活性剤を含む水で希釈して配合液としたときの安定性であるところ(甲3摘記(4)【0060】、【0075】)、甲1には、水分散型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂組成物と、無機塩及びノニオン性界面活性剤と混合することなど記載されていないから、甲1に、配合液安定剤を向上するとの課題があるともいえない。
そして、甲1の【0028】の記載や甲3の記載をみても、甲1発明において、ポリオールとしてジメチロールプロピオン酸などのアニオン性基を有するポリオールを用いることが動機づけられないことは、上記2(2)イ及びエのとおりである。
よって、上記主張は採用できない。

ウ 申立人は、本件発明の「配合安定性に優れる」との効果は、甲3の、水系ウレタン樹脂の分子内にカルボキシル基とノニオン性親水基を含有させることにより無機塩を含む配合液における安定性に優れることが記載されていることから、格別顕著なものであるとはいえないと主張する(申立書23頁12〜15行)
しかしながら、そのような記載があったとしても、これに基づき、本件発明の「配合安定性に優れる」との効果が、予測できたといえないことは、上記2(3)イ(ア)のとおりであり、上記主張は採用できない。

エ 申立人は、水系ポリウレタンエマルションにおいて、ウレタン樹脂にアニオン性基とノニオン性基をともに持たせること、及び、それによりエマルションの安定性が向上することは、甲4〜6に記載されているように周知・慣用技術にすぎず、このような周知・慣用技術に鑑みても、甲1発明において、水系ポリウレタンエマルションの安定性を向上するために、ウレタン樹脂にノニオン性基とともにアニオン性基を導入することは当業者が容易に想到し得ることであると主張する(申立書23頁19行〜24頁15行)。
しかしながら、甲4〜6から、何らかの周知技術が直ちに導けるといえるものではないこと、仮に、甲4〜6の記載から、ウレタン樹脂にアニオン性基とノニオン性基を持たせること及びそれにより当該水分散体の安定性が向上することが周知の技術であるといえるとしても、甲1発明において、当該周知技術を採用する動機付けは見当たらないことは上記2(2)オのとおりである。

5 まとめ
よって、本件発明1〜6は、甲1発明すなわち甲1に記載された発明及び甲1〜6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1は、理由がない。

第6 当審の判断(申立理由2(サポート要件)について)
1 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

2 サポート要件についての検討
(1)本件発明の課題
本件発明の課題は、「水を含有するウレタン樹脂組成物において、バイオマス原料を用い、優れた耐オレイン酸性、風合い、及び配合液安定性を有するウレタン樹脂組成物を提供すること」(【0006】)である。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
「【0010】
本発明のウレタン樹脂組成物は、バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を原料とする、アニオン性基とノニオン性基とを有するウレタン樹脂(A)、ノニオン性乳化剤(B)、及び、水(C)を含有するものである。
【0011】
本発明で用いるウレタン樹脂(A)は、優れた耐オレイン酸性、及び、風合いを得るため、バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を用いることが必須である。また、前記デカンジオールは、バイオマス由来の原料でもあるため、環境に更に優しい材料を提供することができる。前記ポリカーボネートポリオール(a1)としては、例えば、バイオマス由来のデカンジオールを含むグリコール化合物と、炭酸エステル及び/又はホスゲンとの反応物を用いることができ、具体的には、特開2018−127758号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0012】
前記デカンジオールとしては、より一層優れた耐オレイン酸性、風合い、及び、低温屈曲性が得られる点から、1,10−デカンジオールを用いることが好ましい。
【0013】
前記デカンジオール以外に用いることができるグリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ε−カプロラクトン、ネオペンチルグリコール等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐オレイン酸性、風合い、及び、低温屈曲性が得られる点から、ブタンジオールを用いることが好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましい。
・・・
【0015】
また、前記バイオマス由来のデカンジオール(C10)と、ブタンジオール(C4)とを併用する場合には、そのモル比[(C4)/(C10)]としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、5/95〜95/5の範囲であることが好ましく、50/50〜98/2の範囲がより好ましく、70/30〜95/5の範囲が更に好ましい。
【0016】
前記炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。【0017】 前記ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、500〜100,000の範囲が好ましく、700〜5,000の範囲がより好ましい。なお、前記ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
・・・
【0019】
前記ウレタン樹脂(A)は、優れた風合いと配合液安定性とを両立するうえで、アニオン性基とノニオン性基とを有することが必須である。前記アニオン性基とノニオン性基は、それぞれアニオン性基を有する化合物(a2)、及び、ノニオン性基を有する化合物(a3)から供給される。
・・・
【0022】
本発明で用いるウレタン樹脂(A)が有する前記ノニオン性基としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むことが好ましく、これらの低結晶成分をウレタン樹脂(A)の主鎖に取り込むことで、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むポリオールから供給されることが好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがより好ましい。
【0023】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの数平均分子量としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、500〜10,000の範囲が好ましく、1,000〜4,000の範囲がより好ましい。なお、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0024】
前記ウレタン樹脂(A)中におけるオキシエチレン基(EO)、及び、オキシプロピレン基(PO)のモル比(EO/PO)としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、20/80〜90/10の範囲が好ましく、40/60〜85/15の範囲がより好ましい。
【0025】
前記ノニオン性基を有する化合物(a3)の使用量としては、より一層優れた耐加水分解性、風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)を構成する原料中0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0026】
前記ウレタン樹脂(A)は、具体的には、例えば、前記ポリオーカーボネートポリオール(a1)を含むポリオール、前記アニオン性基を有する化合物(a2)、前記ノニオン性基を有する化合物(a3)、ポリイソシアネート(a4)の反応物を用いることができる。
・・・
【0028】
前記ポリオールには、必要に応じて、数平均分子量が50〜450の範囲の鎖伸長剤を併用してもよい。なお、前記鎖伸長剤の数平均分子量は化学構造式から算出される値を示す。
【0029】
前記鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の水酸基を有する鎖伸長剤;エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた耐加水分解性、耐光性が得られる点から、前記アミノ基を有する鎖伸長剤が好ましい。また、前記より一層優れた風合いが得られる点から、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3官能以上の化合物も用いないことが好ましい。
・・・
【0034】
前記ウレタン樹脂(A)の酸価としては、より一層優れた耐加水分解性、柔軟性、及び、風合いが得らえる点から、0.1〜15mgKOH/gの範囲の範囲が好ましく、1〜8mgKOH/gの範囲の範囲がより好ましい。なお、前記ウレタン樹脂(A)の酸価は、前記アニオン性基を有する化合物(a2)の量により調整することができ、その測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0035】
前記ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量としては、より一層優れた耐加水分解性、耐光性、耐熱性が得られる点から、50,000〜700,000の範囲であることが好ましく、100,000〜500,000の範囲がより好ましい。なお、前記ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0036】
前記ノニオン性乳化剤(B)は、優れた風合い、及び、配合液安定性を得るうえで必須の成分である。
【0037】
前記ノニオン性乳化剤(B)としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート等のオキシエチレン基を有する乳化剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等のオキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を有する乳化剤などを用いることができる。これらのノニオン性乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらの中でも、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を有する乳化剤を用いることが好ましい。前記オキシエチレン基の平均付加モル数としては、5〜100の範囲が好ましく、10〜50の範囲がより好ましい。前記オキシプロピレン基の平均付加モル数としては、5〜50の範囲が好ましく、10〜40の範囲がより好ましい。
【0039】
前記ノニオン性乳化剤(B)の曇点としては、優れた配合液安定性を維持したまま、加熱した際にシャープに凝固してよりソフトな風合いが得られる点から、40〜80℃の範囲が好ましく、50〜80℃の範囲がより好ましい。なお、前記ノニオン性乳化剤(B)の曇点は、成書(新・界面活性剤入門、藤本武彦著、三洋化成工業、1992)に倣い、次の方法に従って行った。すなわち、ノニオン性乳化剤の5質量%水溶液を一定の温度で30分間保持し、溶液からノニオン乳化剤が不溶化するかを観察する。温度を上昇させていったときに、ノニオン性乳化剤が不溶化しはじめた温度を曇点とした。
【0040】
前記ノニオン性乳化剤(B)の配合量としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、前記ウレタン樹脂(A)(固形分)100質量部に対して、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、1〜6質量%の範囲がより好ましい。
・・・
【0044】
以上、本発明のウレタン樹脂組成物は、水を含有するものであり、更に、バイオマス原料を用いるものであるため、環境対応型のものである。また、前記ウレタン樹脂組成物は、耐オレイン酸性、風合い、及び、配合液安定性に優れるものである。よって、前記ウレタン樹脂組成物は、繊維基材の含浸用樹脂として特に好適に使用することができる。
・・・
【実施例】
・・・
【0054】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオマス由来ポリカーボネートポリオール(三菱化学株式会社製「ベネビオールNL−3010DB」、1,4−ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10−デカンジオールを原料とするもの、数平均分子量;3,000、以下、「バイオPC(1)」と略記する。)400質量部、ジメチロールプロピオン酸(以下「DMPA」と略記する。)6.2質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量;1,750、EO/PO=50/50、以下「EOPO(1)」と略記する。)32質量部、メチルエチルケトン516質量部を加え、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下「H12MDI」と略記する。)78質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの乳化剤(オキシエチレン基の平均付加モル数;25、オキシプロピレン基の平均付加モル数;30、曇点;58℃、以下「EOPO乳化剤(1)」と略記する。)16質量部を加え混合した後、イオン交換水797質量部を加えて、イソホロンジアミンを15質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−1)を含むウレタン樹脂組成物(X−1)(ウレタン樹脂(A−1)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;280,000)を得た。
【0055】
[実施例2]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオマス由来ポリカーボネートポリオール(三菱化学株式会社製「ベネビオールNL−3030DB」、1,4−ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10−デカンジオールを原料とするもの、数平均分子量;3,000、以下、「バイオPC(2)」と略記する。)400質量部、DMPA6.2質量部、EOPO(1)32質量部、メチルエチルケトン516質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI78質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、EOPO乳化剤(1)16質量部を加え混合した後、イオン交換水797質量部を加えて、イソホロンジアミンを15質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−2)を含むウレタン樹脂組成物(X−2)(ウレタン樹脂(A−2)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;310,000)を得た。
【0056】
[実施例3]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、DMPA6.2質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量;1,400、EO/PO=75/25、以下「EOPO(2)」と略記する。)32質量部、メチルエチルケトン518質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI80質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、EOPO乳化剤(1)16質量部を加え混合した後、イオン交換水788質量部を加えて、ピペラジンを7.8質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−3)を含むウレタン樹脂組成物(X−3)(ウレタン樹脂(A−3)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;280,000)を得た。
【0057】
[実施例4]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、DMPA6.2質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量;3,000、EO/PO=75/25、以下「EOPO(3)」と略記する。)32質量部、メチルエチルケトン790質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI75質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、EOPO乳化剤(1)15質量部を加え混合した後、イオン交換水790質量部を加えて、イソホロンジアミンを15質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−4)を含むウレタン樹脂組成物(X−4)(ウレタン樹脂(A−4)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;260,000)を得た。
【0058】
[実施例5]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、DMPA6.2質量部、EOPO(1)32質量部、メチルエチルケトン516質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI78質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの乳化剤(オキシエチレン基の平均付加モル数;20、オキシプロピレン基の平均付加モル数;20、曇点;70℃、以下「EOPO乳化剤(2)」と略記する。)16質量部を加え混合した後、イオン交換水797質量部を加えて、イソホロンジアミンを15質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−5)を含むウレタン樹脂組成物(X−5)(ウレタン樹脂(A−5)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;240,000)を得た。
【0059】
[実施例6]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、DMPA6.2質量部、EOPO(1)32質量部、メチルエチルケトン510質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI39質量部、イソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」と略記する。)33質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、EOPO乳化剤(1)16質量部を加え混合した後、イオン交換水788質量部を加えて、イソホロンジアミンを15質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(A−6)を含むウレタン樹脂組成物(X−6)(ウレタン樹脂(A−6)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;250,000)を得た。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、バイオPC(1)に代え、常温固体のポリカーボネートポリオール(宇部興産株式会社製「エタナコールUH−200」、数平均分子量;2,000、以下「非バイオPC」と略記する。)を用いた以外は、実施例1と同様にしてウレタン樹脂(AR−1)を含むウレタン樹脂組成物(XR−1)を得た。
【0061】
[比較例2]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、EOPO(1)32質量部、メチルエチルケトン492質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI60質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にEOPO乳化剤(1)16質量部を加え混合した後、イオン交換水755質量部を加えて、イソホロンジアミンを12質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(AR−2)を含むウレタン樹脂組成物(XR−2)(ウレタン樹脂(AR−2)の酸価;0mgKOH/g、重量平均分子量;270,000)を得た。
【0062】
[比較例3]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4ツ口フラスコに、窒素気流下、バイオPC(1)400質量部、DMPA6.2質量部、メチルエチルケトン477質量部を加え、均一に混合した後、H12MDI71質量部を加え、次いでオクチル酸ビスマス0.1質量部を加え、70℃で約1時間反応させ、ウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、前記方法で得られたウレタンポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン5質量部、EOPO乳化剤(1)16質量部を加え混合した後、イオン交換水736質量部を加えて、イソホロンジアミンを14質量部加えた後、メチルエチルケトンを減圧下留去することによって、ウレタン樹脂(AR−3)を含むウレタン樹脂組成物(XR−3)(ウレタン樹脂(AR−3)の酸価;5mgKOH/g、重量平均分子量;250,000)を得た。
【0063】
[比較例4]
実施例1において、前記EOPO乳化剤(1)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、ウレタン樹脂(AR−4)を含むウレタン樹脂組成物(XR−4)を得た。
・・・
【0068】
[配合液安定性の評価方法]
実施例、及び、比較例で得られたウレタン樹脂組成物に対し、固形分が20質量%となるように水で希釈し、この配合液100質量部に対して、塩化ナトリウムを1質量部を加え、配合液を得た。得られた配合液を40℃の雰囲気下で1週間静置し、以下のように評価した。
「A」;外観に変化なし。
「B」;若干の沈殿物が確認される。
「C」;多くの沈殿物が確認される。
【0069】
[含浸不織布の作製方法]
実施例、及び、比較例で得られたウレタン樹脂組成物に対し、固形分が20質量%となるように水で希釈し、この配合液100質量部に対して、塩化ナトリウムを1質量部を加え、配合液を得た。得られた配合液をポリエステル繊維200g/m2からなる不織布に含浸し、マングルでピックアップ100%となるように絞った。次いで、100℃の飽和水蒸気中に2分静置し、100℃の乾燥機で20分間乾燥し、含浸不織布(皮革様シート)を作製した。
【0070】
[耐オレイン性の評価方法]
得られた含浸不織布を、オレイン酸に浸漬した状態で、80℃の条件下で一晩静置し、目視により以下のように評価した。
「A」;外観に変化なし。
「B」;若干の膨潤が生じた。
「C」;大きな膨潤が生じた。
【0071】
[風合いの評価方法]
得られた含浸不織布を触感により、以下のように評価した。
「A」;ソフトで柔軟性に富む。
「B」;若干の柔軟性を有する。
「C」;柔軟性に劣る。
・・・
【0073】
【表1】


【0074】
【表2】


【0075】
【表3】


【0076】
本発明のウレタン樹脂組成物である実施例1〜6は、配合液安定性、風合い、耐光性、及び、耐オレイン性に優れることが分かった。
【0077】
一方、比較例1は、ポリカーボネートポリオール(a1)の代わりに、非バイオマスのポリカーボネートポリオールを用いた態様であるが、風合い、及び、耐オレイン酸性が不良であった。
【0078】
比較例2は、アニオン性基を有しないウレタン樹脂を用いた態様であるが、配合液安定性が不良であった。
【0079】
比較例3は、ノニオン性基を有しないウレタン樹脂を用いた態様であるが、風合い、及び、配合液安定性が不良であった。
【0080】
比較例4は、ノニオン性乳化剤(B)を用いない態様であるが、風合い、及び、配合液安定性が不良であった。」

(3)判断
ア 上記(2)によれば、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明で用いるウレタン樹脂(A)は、優れた耐オレイン酸性、及び、風合いを得るため、バイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を用いることが必須であること(【0011】)、当該デカンジオールは、バイオマス由来の原料でもあるため、環境に更に優しい材料を提供することができること(【0011】)、デカンジオールとしては、より一層優れた耐オレイン酸性、風合い、及び、低温屈曲性が得られる点から、1,10−デカンジオールを用いることが好ましいこと(【0012】)、デカンジオール以外に用いることができるグリコール化合物としては、より一層優れた耐オレイン酸性、風合い、及び、低温屈曲性が得られる点から、ブタンジオールを用いることが好ましく、1,4−ブタンジオールがより好ましいこと(【0013】)、バイオマス由来のデカンジオール(C10)と、ブタンジオール(C4)とを併用する場合には、そのモル比[(C4)/(C10)]としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、5/95〜95/5の範囲であることが好ましく、50/50〜98/2の範囲がより好ましく、70/30〜95/5の範囲が更に好ましいこと(【0015】)、ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量としては、より一層優れた耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、500〜100,000の範囲が好ましく、700〜5,000の範囲がより好ましいこと(【0017】)、ウレタン樹脂(A)は、優れた風合いと配合液安定性とを両立するうえで、アニオン性基とノニオン性基とを有することが必須であること(【0019】)、ウレタン樹脂(A)が有するノニオン性基としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むことが好ましく、これらの低結晶成分をウレタン樹脂(A)の主鎖に取り込むことで、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を含むポリオールから供給されることが好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがより好ましいこと(【0022】)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの数平均分子量としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、500〜10,000の範囲が好ましく、1,000〜4,000の範囲がより好ましいこと(【0023】)、前記ウレタン樹脂(A)中におけるオキシエチレン基(EO)、及び、オキシプロピレン基(PO)のモル比(EO/PO)としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、20/80〜90/10の範囲が好ましく、40/60〜85/15の範囲がより好ましいこと(【0024】)、ノニオン性基を有する化合物(a3)の使用量としては、より一層優れた耐加水分解性、風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、ウレタン樹脂(A)を構成する原料中0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜15質量%の範囲がより好ましいこと(【0025】)、ウレタン樹脂(A)の酸価としては、より一層優れた耐加水分解性、柔軟性、及び、風合いが得らえる点から、0.1〜15mgKOH/gの範囲の範囲が好ましく、1〜8mgKOH/gの範囲の範囲がより好ましいこと(【0034】)、ノニオン性乳化剤(B)は、優れた風合い、及び、配合液安定性を得るうえで必須の成分であること(【0036】)、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、オキシエチレン基、及び、オキシプロピレン基を有する乳化剤を用いることが好ましいこと(【0038】)、ノニオン性乳化剤(B)の曇点としては、優れた配合液安定性を維持したまま、加熱した際にシャープに凝固してよりソフトな風合いが得られる点から、40〜80℃の範囲が好ましく、50〜80℃の範囲がより好ましいこと(【0039】)、ノニオン性乳化剤(B)の配合量としては、より一層優れた風合い、及び、配合液安定性が得られる点から、前記ウレタン樹脂(A)(固形分)100質量部に対して、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、1〜6質量%の範囲がより好ましいこと(【0040】)を理解する。
イ すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明の課題である、バイオマス原料を用い、優れた耐オレイン性、風合い、及び配合液安定性の各性質を有するウレタン樹脂組成物を提供するためには、少なくとも、(i)ウレタン樹脂(A)がバイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を用いたものであること(【0011】)、(ii)ウレタン樹脂(A)がアニオン性基とノニオン性基とを有すること(【0019】)及び(iii)ウレタン樹脂組成物がノニオン性乳化剤(B)を含むこと(【0036】)が必須であること、並びに、ウレタン樹脂組成物を構成する各構成成分の種類や配合量を好ましいものにすることによって、上記各性質をより好ましいものにすることができると理解する。
実際に、実施例をみると、上記(i)〜(iii)を全て満たす実施例1〜6のウレタン樹脂組成物は、配合液安定性、風合い、耐オレイン性のいずれにも優れるが、上記(i)〜(iii)のいずれかを1つでも満たさない比較例1〜4のウレタン樹脂組成物は、配合液安定性、風合い、耐オレイン性のいずれか1つまたはそれ以上の点で劣っていることが理解できる。
ウ そして、本件発明は、上記(i)〜(iii)の全てを発明特定事項としているのだから、本件発明は、当業者が、上記(1)の本件発明の課題を解決すると理解する範囲のものである。

3 申立人の主張について
ア ポリカーボネートポリオールの量について
第3の2(1)のとおり、申立人は、バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)のポリオール中の比率が特定されていない本件発明1〜6について、本件明細書の記載から、あらゆる比率において本件発明の課題を解決できることを直ちに認識できるとはいえないと主張する(申立書27頁24行〜28頁29行)。
しかしながら、申立人は、(a1)の比率がごく少量の場合に、優れた耐オレイン酸性及び風合いを得るとの課題が解決できるとはいえないことの具体的根拠をあげていない。
そして、本件明細書の記載に接した当業者が、本件発明の課題を解決するためには、少なくとも(i)ウレタン樹脂(A)がバイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を用いたものであること、(ii)ウレタン樹脂(A)がアニオン性基とノニオン性基とを有すること、及び(iii)ウレタン樹脂組成物がノニオン性乳化剤(B)を含むことが必須であり、ウレタン樹脂組成物を構成する各構成成分の種類や配合量を好ましいものにすることによって、上記各性質をより好ましいものにすることができると理解することは、上記2(3)のとおりであるところ、バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)の比率が少なくなると、耐オレイン酸性や風合いが急激に悪化すると解すべき根拠もないから、バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)の比率がごく少量であっても、これを含まない場合と比較すれば、耐オレイン酸性及び風合いに優れ、課題を解決するものと理解できる。
よって、上記主張は採用できない。

イ アニオン性基とノニオン性基の量について
第3の2(2)のとおり、申立人は、ウレタン樹脂(A)のノニオン性基の含有量について、ノニオン性基を有する化合物の使用量が、好ましいとされた「ウレタン樹脂(A)を構成する原料中0.1〜20質量%」、より好ましいとされた「0.5〜15質量%」(【0025】)の範囲から大きく外れる場合、また、アニオン性基の含有量について、ウレタン樹脂(A)の酸価が好ましいとされた「0.1〜15mgKOH/g」、より好ましいとされた「1〜8mgKOH/g」(【0034】)から大きく外れる場合に、風合いや配合安定性等の課題が解決できるとはいえないと主張する。
しかしながら、申立人は、ウレタン樹脂(A)のノニオン性基及びアニオン性基の含有量に関して、ノニオン性基を有する化合物の使用量やウレタン樹脂(A)の酸価が好ましいとされた範囲から外れる場合には、風合いや配合安定性等の課題が解決できるとはいえないことの具体的根拠をあげていない。
そして、本件明細書の記載に接した当業者が、本件発明の課題を解決するためには、少なくとも(i)ウレタン樹脂(A)がバイオマス由来のデカンジオ−ルを原料とするポリカーボネートポリオール(a1)を用いたものであること、(ii)ウレタン樹脂(A)がアニオン性基とノニオン性基とを有すること及び(iii)ウレタン樹脂組成物がノニオン性乳化剤(B)を含むことが必須であり、ウレタン樹脂組成物を構成する各構成成分の種類や配合量を好ましいものにすることによって、上記各性質をより好ましいものにすることができると理解することは上記2(3)のとおりであるところ、ノニオン性基の含有量及びアニオン性基の含有量が、多くなったり少なくなったりすると、風合いや配合安定性が急激に悪化すると解すべき根拠もないから、ノニオン性基の含有量及びアニオン性基の含有量がどのようなものであっても、ノニオン性基及びアニオン性基のいずれか一方しか有さない、あるいは、両方とも有さないウレタン樹脂を用いた場合に比較すれば、風合い及び配合安定性に優れ、課題を解決するものと理解できる。
よって、上記主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2は、理由がない。

第7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-12-22 
出願番号 P2021-531398
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 海老原 えい子
藤代 亮
登録日 2022-03-28 
登録番号 7047976
権利者 DIC株式会社
発明の名称 ウレタン樹脂組成物、及び、皮革シート  
代理人 岩本 明洋  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  

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