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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B |
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管理番号 | 1393137 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-26 |
確定日 | 2023-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7041786号発明「球状シリカ粒子及びそれを用いた樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7041786号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7041786号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和3年10月20日を出願日とする出願であり、令和4年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月26日に、その請求項1〜7に係る特許を対象として特許異議申立人田中都子(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第7041786号の請求項1〜7に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 25℃/分の昇温速度で、50℃から1000℃まで球状シリカ粒子(X)を加熱した際に、前記球状シリカ粒子(X)から脱離する水分子の数が0.001〜0.010mmoL/gであり、比表面積が0.1〜2.0m2/gである、球状シリカ粒子(X)。 【請求項2】 前記球状シリカ粒子(X)の平均円形度が0.85以上である、請求項1に記載の球状シリカ粒子(X)。 【請求項3】 前記球状シリカ粒子(X)の表面フラクタル次元が1.0〜2.3である、請求項1または2に記載の球状シリカ粒子(X)。 【請求項4】 前記球状シリカ粒子(X)の平均粒子径が1〜30μmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の球状シリカ粒子(X)。 【請求項5】 前記球状シリカ粒子(X)が表面処理剤で表面処理されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の球状シリカ粒子(X)。 【請求項6】 樹脂充填用である、請求項1から5のいずれか一項に記載の球状シリカ粒子(X)。 【請求項7】 請求項1から6のいずれか一項に記載の球状シリカ粒子(X)と、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂とを含む、樹脂組成物。」 第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」とする。) (1)本件発明1〜4、6、7は、下記甲第1号証に記載された発明であって(下記甲第3号証及び甲第4号証を参考とする)、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1〜7は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証〜甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(「申立理由1−1」)。 (2)本件発明1〜7は、下記甲第2号証に記載された発明であって(下記甲第3号証及び甲第4号証を参考とする)、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1〜7は、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(「申立理由1−2」)。 記 甲第1号証:特開2014−80582号公報 甲第2号証:特開2013−10848号公報 甲第3号証:2022年3月25日付けで株式会社アドマテックスから異議申立人宛ての、品名SO−C6(ロットLCA228、数量1kg×1、平均粒径:2.2μm、比表面積:1.7m2/g、生産日:2018年1月22日)他のサンプル送付案内 甲第4号証:令和4年9月23日付け異議申立人による実験成績証明書(2022年9月2日付け 株式会社リガク 応用技術センター 粉末・薄膜解析グループ(PDX/TFX) 山本泰司による分析結果報告書、及び散乱ベクトルqと強度I(q)の関係を示す両対数グラフである「表面フラクタル次元(Ds)の指数部α及びDsの算出」と題する書面を添付) 2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)及び同法同条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由2」とする。) 本件特許は、請求項1〜7に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、特許請求の範囲の請求項1〜7の記載が同じく後記第4の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第4 当審の判断 1 申立理由1について (1)甲1〜4に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、半硬化状態となるまで加熱乾燥して形成されたプリプレグであって、前記プリプレグの動的粘弾性測定によるガラス転移温度が120〜170℃であることを特徴とするプリプレグ。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、プリプレグ、前記プリプレグを用いて形成された金属張積層板、前記金属張積層板を用いて形成されたプリント配線板及び多層プリント配線板に関するものである。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、従来のプリプレグでは、樹脂の粉落ちが発生しやすいという問題がある。またこのようなプリプレグを用いて金属張積層板を製造する場合には、熱硬化性樹脂と無機充填材とが分離して金属張積層板に外観不良が発生しやすいという問題もある。さらにこのような金属張積層板を用いて製造したプリント配線板の絶縁信頼性、導通信頼性が低下するおそれもある。 【0005】 本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、粉落ちを低減することができると共に、外観が良好な積層板を製造することができるプリプレグ、外観が良好な金属張積層板、プリント配線板及び多層プリント配線板を提供することを目的とするものである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明に係るプリプレグは、熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、半硬化状態となるまで加熱乾燥して形成されたプリプレグであって、前記プリプレグの動的粘弾性測定によるガラス転移温度が120〜170℃であることを特徴とするものである。」 (ウ)「【0018】 また無機充填材としては、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ等を用いることができる。 【0019】 また無機充填材は、樹脂組成物全量に対して60〜85質量%含有されていることが好ましい。このように、無機充填材の含有量が60質量%以上であることによって、プリプレグ、積層板(金属張積層板及びプリント配線板)の熱膨張率(CTE:coefficient of thermal expansion)を低くしたり、弾性率を上げたりすることができると共に、これらの寸法安定性も向上させることができるものである。また無機充填材の含有量が85質量%以下であれば、粘度の上昇を抑制しながら無機充填材を樹脂組成物に含有させることができると共に、プリプレグの粉落ちをより低減し、さらに外観が良好な積層板(金属張積層板及びプリント配線板)を得ることができるものである。 ・・・ 【0027】 そして、本発明に係るプリプレグは、上記の樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、これを半硬化状態となるまで加熱乾燥して製造することができるが、このようにして得られたプリプレグの動的粘弾性測定によるガラス転移温度は120〜170℃である。好ましくはプリプレグのガラス転移温度は130〜160℃であり、より好ましくは140〜160℃である。このようなガラス転移温度を示すプリプレグを得るためには、例えば、樹脂含有率、加熱温度、加熱時間等を適宜調整すればよい。具体的には、加熱温度を高く、加熱時間を長くすれば、熱硬化性樹脂の硬化が進み、プリプレグのガラス転移温度は加熱前に比べて高くなる。一例を挙げると、ガラス転移温度が100℃のプリプレグを乾燥炉内において100〜180℃で1〜6分間、追加的に加熱すれば、ガラス転移温度が120〜170℃のプリプレグを得ることができる。そして、プリプレグのガラス転移温度は、通常、金属張積層板のガラス転移温度を測定するのに使用されているDMA法(dynamic mechanical analysis method)を転用して測定することができる。」 (エ)「【0035】 (実施例1) 熱硬化性樹脂として、多官能エポキシ樹脂である日本化薬株式会社製「EPPN502H」を用いた。 【0036】 また無機充填材として、球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)を用いた。 【0037】 また硬化剤として、フェノール系硬化剤である明和化成株式会社製「MEH7600」を用いた。 【0038】 また硬化促進剤として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製)を用いた。 【0039】 また織布基材として、ガラスクロスである旭化成株式会社製「1037クロス」(厚み30μm)を用いた。 【0040】 そして、上記の熱硬化性樹脂、無機充填材、硬化剤、硬化促進剤を表1に示す配合量で配合し、さらに溶剤(メチルエチルケトン)で希釈することによって樹脂組成物のワニスを調製した。 【0041】 次に、上記の樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、これを半硬化状態となるまで100〜200℃で5〜15分間、乾燥炉内において加熱乾燥(一次加熱)することによってプリプレグを製造した。さらにこのプリプレグを120℃で2分間、追加的に加熱乾燥(二次加熱)した。 【0042】 次に、上記のプリプレグを2枚重ね、この両面に金属箔として銅箔(三井金属鉱業株式会社製「3EC−VLP」、厚み18μm)を積層して成形することによって、金属張積層板として銅張積層板(CCL)を製造した。上記の積層成形は、多段真空プレスを用いて加熱・加圧して行った。成形条件は、温度が220℃、圧力が6.0MPa、時間が160分間である。」 イ 甲2に記載された事項 (ア)「【請求項1】 熱硬化性樹脂(A)と、平均粒径が5μm以下であり、前記熱硬化性樹脂(A)と反応可能な官能基を有する表面処理剤Xで予め表面処理された球状の表面処理シリカ(B)と、前記表面処理シリカ(B)よりも小さい平均粒径を有し、表面処理剤Xで表面処理がされていない球状の未処理シリカ(C)とを含有してなる樹脂組成物。」 (イ)「【0002】 電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のさらなる高密度化が要求されており、このような高密度化の要求に応えるために、回路基板の多層化が図られている。このような多層回路基板は、例えば、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらに、これら電気絶縁層の積層と、導体層の形成と、を繰り返し行なうことにより形成される。 ・・・ 【0004】 ところで、電気絶縁層の形成に用いられる樹脂組成物への充填剤の添加に関する技術として、たとえば、エポキシ樹脂と同様、電気絶縁層を構成しうる樹脂材料として知られるノルボルネン系樹脂を用いる場合について、特許文献1には、付加型ノルボルネン系樹脂と、表面処理剤により予め表面処理された平均粒径2μm以下の球状シリカとを含有してなる樹脂組成物が開示されている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、本発明者らが検討したところ、上述した特許文献1に記載の技術では、得られる電気絶縁層は表面粗度が著しく低く、無電解めっきなどにより導体層を形成した場合に、金属めっき膜の形成性が低く、導体層を良好に形成できないという不具合があった。 【0007】 本発明の目的は、配線埋め込み性に優れ、表面粗度を低く保ちながら、無電解めっきによる導体層を良好に形成可能なフィルム及び硬化物を与える樹脂組成物、ならびに、これを用いて得られるフィルム、積層体、硬化物、及び複合体を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、熱硬化性樹脂に、平均粒径が5μm以下であり、熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を有する表面処理剤で予め表面処理された球状の表面処理シリカと、表面処理シリカよりも小さい平均粒径を有し、前記表面処理剤で表面処理がされていない球状の未処理シリカとを配合してなる樹脂組成物により、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」 (ウ)「【0083】 実施例1 (樹脂組成物) 熱硬化性樹脂(A)としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(「jER 828EL」、三菱化学社製、エポキシ当量184〜194)10部、同じく熱硬化性樹脂(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(「エピクロン(登録商標) HP7200L」、大日本インキ化学工業社製、エポキシ当量240〜250)10部、同じく熱硬化性樹脂(A)としてのジシクロペンタジエン骨格を有するノボラック型フェノール樹脂(「レヂトップ (登録商標)GDP−6095LR」、群栄化学工業社製、水酸基当量160〜175)10部、オキサゾリン基含有ポリスチレン(「エポクロス(登録商標) RPS−1005」日本触媒社製)5部、表面処理シリカ(B)としてのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカ(「アドマファイン(登録商標) SC2500−SXJ」、アドマテックス社製、平均粒径0.5μm)52部、未処理シリカ(C)としての表面未処理シリカ(「アドマファイン(登録商標) SO−C1」、アドマテックス社製、平均粒径0.25μm)13部、老化防止剤としてのトリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート(「Irganox3114」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.2部、紫外線吸収剤としての2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール0.1部、及び硬化剤としての1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール0.14部を、アニソールに混合して、配合剤濃度が65%になるように混合することで、樹脂組成物のワニスを得た。 ・・・ 【0100】 実施例2 表面処理シリカ(B)として、平均粒径0.5μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカに代えて、平均粒径2.2μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカを使用した以外には、実施例1と同様にして、樹脂組成物のワニス、フィルム成形体及び多層プリント配線板を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例2では、平均粒径2.2μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカとして、シリカ(「アドマファイン SO−C6」、アドマテックス社製、平均粒径2.2μm、「アドマファイン」は登録商標)を、アミノ基含有シランカップリング剤で処理したものを使用した。」 ウ 甲3に記載された事項 (ア)「 」 (イ)「 」 エ 甲4に記載された事項 (ア)「 」 (イ)「 」 (2) 甲1及び甲2に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 甲1の上記(1)ア(ア)には、「熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、半硬化状態となるまで加熱乾燥して形成されたプリプレグであって、前記プリプレグの動的粘弾性測定によるガラス転移温度が120〜170℃であることを特徴とするプリプレグ。」が記載され、同(エ)には、このプリプレグの実施例が記載されているところ、同(エ)の【0036】には、実施例1で用いられる無機充填材として、「球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)」が記載されている。そして、この球状シリカに着目すれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)。」 イ 甲2に記載された発明 甲2の上記(1)イ(ア)には、「熱硬化性樹脂(A)と、平均粒径が5μm以下であり、前記熱硬化性樹脂(A)と反応可能な官能基を有する表面処理剤Xで予め表面処理された球状の表面処理シリカ(B)と、前記表面処理シリカ(B)よりも小さい平均粒径を有し、表面処理剤Xで表面処理がされていない球状の未処理シリカ(C)とを含有してなる樹脂組成物。」が記載され、同(ウ)には、この樹脂組成物の実施例が記載されているところ、同(ウ)の【0100】には、この実施例2で用いられる表面処理シリカ(B)について、「平均粒径2.2μmのアミノ基含有シランカップリング剤処理シリカとして、シリカ(「アドマファイン SO−C6」、アドマテックス社製、平均粒径2.2μm、「アドマファイン」は登録商標)を、アミノ基含有シランカップリング剤で処理したものを使用した。」との記載がある。そして、このシリカに着目すれば、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「アミノ基含有シランカップリング剤で処理した、アドマテックス社製、平均粒径2.2μmのアドマファイン SO−C6。」 (3)申立理由1−1について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)。」は、本件発明1の「25℃/分の昇温速度で、50℃から1000℃まで球状シリカ粒子(X)を加熱した際に、前記球状シリカ粒子(X)から脱離する水分子の数が0.001〜0.010mmoL/gであり、比表面積が0.1〜2.0m2/gである、球状シリカ粒子(X)」と、「球状シリカ粒子(X)」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 球状シリカ粒子(X)について、本件発明1では、25℃/分の昇温速度で、50℃から1000℃まで球状シリカ粒子(X)を加熱した際に、前記球状シリカ粒子(X)から脱離する水分子の数(以下、単に「シリカ粒子から脱離する水分子の数」という。)が0.001〜0.010mmoL/gであるのに対し、甲1発明では、「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が明らかでない点。 <相違点2> 球状シリカ粒子(X)について、本件発明1では、比表面積が0.1〜2.0m2/gであるのに対し、甲1発明では、比表面積が明らかでない点。 (イ)相違点についての検討 まず、上記相違点1について、検討する。 a 甲1には、「SO−C6」について、上記相違点1に係る「シリカ粒子から脱離する水分子の数」を示す記載はないから、上記相違点1は、実質的な相違点である。 b また、甲1の上記(1)ア(ア)及び(イ)の記載によれば、甲1に記載の事項は、プリプレグを対象とし(【0001】)、従来のプリプレグでは、樹脂の粉落ちが発生しやすいという問題や、プリプレグを用いて金属張積層板を製造する場合には、熱硬化性樹脂と無機充填材とが分離して金属張積層板に外観不良が発生しやすいという問題等(【0004】)を受け、粉落ちを低減することができると共に、外観が良好な積層板を製造することができるプリプレグ、外観が良好な金属張積層板等を提供することを課題とし(【0005】)、これを、熱硬化性樹脂及び無機充填材を含有する樹脂組成物を織布基材に含浸させると共に、半硬化状態となるまで加熱乾燥して形成されたプリプレグにおいて、前記プリプレグの動的粘弾性測定によるガラス転移温度を120〜170℃とすること(【0006】)により解決したものである。そうすると、甲1に記載の事項は、何ら、「SO−C6」の物性自体に着目するものではなく、この「SO−C6」の物性に対して何らかの改良を加えようとするものではないから、甲1には、甲1発明における、「SO−C6」を、上記相違点1に係る物性値を備えるものとする動機付けはない。 c 甲2〜甲4にも、「SO−C6」の「シリカ粒子から脱離する水分子の数」に関する記載はないから、甲2〜甲4を考慮したとしても、甲1発明における、「SO−C6」を、上記相違点1に係る物性値を備えるものとすることはできない。 d ここで、特許異議申立書には、「ここで、甲1発明に係るSO−C6が本件特許発明1〜7の範囲に含まれることを明らかにする目的で株式会社アドマテックスより取り寄せたサンプルについて分析した結果を示す。 結論としては、以下の検討の結果、SO−C6は本件特許発明1〜4、6、7であることが分かった。 取り寄せたサンプルは、lot番号LCA228であり、製造年月日は、2018年1月22日である(甲第3号証参照)。 ・構成要件Aについて サンプルについて、0013段落の方法に準じて、25℃/分の昇温速度で、50℃から1000℃までSO−C6を加熱したときに36ppmの水分が発生した。この水分は1gあたりのmmol数に換算すると0.0036mmolであり、0.001〜0.010mmolの範囲内であり構成要件Aを充足することが分かった。」(第5頁下から3行〜第6頁10行)と記載され、甲1発明における「SO−C6」は、「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が本件発明1の範囲を満たすとしている。 しかしながら、上記特許異議申立書の記載内容については、例えば、正確な実験を行える者が実験を行っているのか、正確な実験を行う設備を有し客観性の担保が可能な機関で実験を行っているのか等が不明であるため、「SO−C6」の物性値を正確に表しているものとして受け入れることはできない。 そうすると、甲1発明における「SO−C6」の「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が、特許異議申立書に記載される上記の値であるとすることはできず、本件発明1の範囲にあるとすることはできないから、上記特許異議申立書の記載内容は採用することができない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であるとともに、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2〜4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 イ 本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2〜4、6、7は、甲1発明ではないし、本件発明2〜7は、甲1発明及び甲2〜4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (4)申立理由1−2について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「アドマテックス社製」の「アドマファイン SO−C6」は、甲1の上記(1)ア(エ)【0036】の「また無機充填材として、球状シリカである株式会社アドマテックス製「SO−C6」(平均粒径2μm)を用いた。」との記載によれば、球状シリカ粒子であるといえるから、甲2発明は、本件発明1の「25℃/分の昇温速度で、50℃から1000℃まで球状シリカ粒子(X)を加熱した際に、前記球状シリカ粒子(X)から脱離する水分子の数が0.001〜0.010mmoL/gであり、比表面積が0.1〜2.0m2/gである、球状シリカ粒子(X)」と、「球状シリカ粒子(X)」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点3> 球状シリカ粒子(X)について、本件発明1では、「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が0.001〜0.010mmoL/gであるのに対し、甲2発明では、「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が明らかでない点。 <相違点4> 球状シリカ粒子(X)について、本件発明1では、比表面積が0.1〜2.0m2/gであるのに対し、甲2発明では、比表面積が明らかでない点。 (イ)相違点についての検討 まず、上記相違点3について、検討する。 a 甲2には、「SO−C6」について、上記相違点3に係る「シリカ粒子から脱離する水分子の数」を示す記載はないから、上記相違点3は、実質的な相違点である。 b また、甲2の上記(1)イ(イ)の記載によれば、甲2に記載の事項は、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらに、これら電気絶縁層の積層と、導体層の形成と、を繰り返し行なう多層回路基板(【0002】)において、電気絶縁層の表面粗度が著しく低く、無電解めっきなどにより導体層を形成した場合に、金属めっき膜の形成性が低く、導体層を良好に形成できないという不具合があった(【0006】)という問題を受け、配線埋め込み性に優れ、表面粗度を低く保ちながら、無電解めっきによる導体層を良好に形成可能なフィルム及び硬化物を与える樹脂組成物等を提供すること(【0007】)を課題とし、これを、熱硬化性樹脂に、平均粒径が5μm以下であり、熱硬化性樹脂と反応可能な官能基を有する表面処理剤で予め表面処理された球状の表面処理シリカと、表面処理シリカよりも小さい平均粒径を有し、前記表面処理剤で表面処理がされていない球状の未処理シリカとを配合してなる樹脂組成物により、解決したものである(【0008】)。そうすると、甲2に記載の事項は、球状である形状を除けば、何ら「SO−C6」の物性自体に着目するものではなく、この「SO−C6」の物性に対して何らかの改良を加えようとするものではないから、甲2には、甲2発明における、「SO−C6」を、上記相違点3に係る物性値を備えるものとする動機付けはない。 c 甲3及び甲4にも、「SO−C6」の「シリカ粒子から脱離する水分子の数」に関する記載はないから、甲3及び甲4を考慮したとしても、甲2発明における、「SO−C6」を、上記相違点3に係る物性値を備えるものとすることはできない。 d ここで、特許異議申立書には、「ここで、甲2発明に係るSO−C6が、構成要件G以外の全ての構成要件を充足し、本件特許発明1〜4、6、7の範囲に含まれることは、甲第1号証の欄にて説明した通りである。」(第7頁下から3行〜末行)と記載され、甲2発明における「SO−C6」は、「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が本件発明1の範囲を満たすとしている。 しかしながら、上記(3)ア(イ)cで述べたのと同様に、甲2発明における「SO−C6」の「シリカ粒子から脱離する水分子の数」が、本件発明1の範囲にあるとすることはできず、上記特許異議申立書の記載内容を採用することはできない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点3は、実質的な相違点であるとともに、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点4を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明及び甲3、甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 イ 本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2〜7は、甲2発明ではないし、甲2発明及び甲3、甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (5)申立理由1−1及び申立理由1−2に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1〜7は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1−1及び申立理由1−2には、理由がない。 2 申立理由2(実施可能要件違反及び明確性要件違反)について (1)申立理由2の概要 申立理由2の概要は、以下のとおりである。 ・請求項1〜7 明細書及び特許請求の範囲には、BET法にて本件発明1を特定することが開示されているが吸着ガスについてはどのように選択すべきかの指標すら開示されていない。 ここで、BET法の測定においては吸着ガスの選定が測定された比表面積の値に与える影響が大きいことが技術常識である。 従って、本件発明1の構成要件についてBET法により特定することができず、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、また、発明を特定するための事項であるBET法の技術的意味を理解することができないため明確では無い。 また、本件発明2以下については本件発明1を引用しているため本件発明1と同様に明確では無い。 なお、BET法にて比表面積を測定する場合には、一般的に窒素ガスを利用するとの意見もあるが、一般的に使用されるガスが窒素であることと本願の明細書のように発明を特定する主要要素であるBET法に用いるガスが特定されていないときに一般的に使用されるガスが窒素ガスであることのみをもって窒素ガスに訂正することはできない。例えば、比表面積の測定対象として孔径が小さい孔まで含ませようとすると測定ガスとしてヘリウムガスを用いる場合もあり、測定目的によってどのような測定ガスを採用するかが決定されるため、どの測定ガスを 採用するのが一般的であるかは一義的ではない(特許異議申立書9頁18行〜10頁10行)。 (2)申立理由2についての検討 ア 上記(1)にも記載されているように、BET法にて比表面積を測定する場合、吸着ガスとして窒素ガスを用いることが一般的である。 イ そして、本件発明の球状シリカ粒子(X)の比表面積の測定方法について、本件明細書の【0046】には、「<比表面積の測定方法> 測定用セルに球状シリカ粒子を1g充填し、全自動比表面積径測定装置(Mountech社製、製品名:Macsorb HM model−1201(BETー点法))を用いて、球状シリカ粒子の比表面積を測定した。なお、測定前の脱気条件は、200℃、10分間とした。」との記載があるところ、本件発明の球状シリカ粒子(X)と同様の球状シリカ粒子の比表面積の測定について、例えば、本件出願前に公開されている国際公開第2020/195205号には、比表面積が0.4〜30m2/g、平均円形度が0.90〜0.96のシリカ粉末(後記オ(ア)及び(ウ))の比表面積の測定について、後記同(イ)には、「[0054][比表面積] 測定用セルに試料を1g充填し、Mountech社製 MacsorbHM model−1201全自動比表面積系測定装置(BET一点法)により比表面積を測定した。測定前の脱気条件は、200℃−10分とした。吸着ガスは窒素とした。」と記載されるように、本件発明の球状シリカ粒子(X)と同程度の比表面積を有する球状シリカ粒子の比表面積の測定に、本件発明の場合と同じ測定装置(Mountech社製、製品名:Macsorb HM model−1201)を用いる場合、吸着ガスとして窒素を用いることが記載されている。 ウ また、上記(1)では、「比表面積の測定対象として孔径が小さい孔まで含ませようとすると測定ガスとしてヘリウムガスを用いる場合もあ」るとされているが、本件発明が対象とする球状シリカに対して、敢えてヘリウムガス等を使用しなければならないこと、さらにその様な場合に、測定値が窒素を用いた場合と、測定値が一義的に定まらないといえる程の違いが出ることを認めるに足る証拠は提出されていない。 むしろ、甲3の上記(1)ウ(ア)の「サンプル送付案内」には、「SO−C6」について、単に「比表面積:1.7m2/g」と記載され、比表面積の測定方法、この測定方法がBET法であるとしても、比表面積を測定する場合の吸着ガスの種類の明示がないが、このことは、比表面積の表示において、BET法による場合の吸着ガスの種類の明示を含め測定方法を明示しなくとも、当業者にとって、比表面積の値を一義的に把握できないといった特段の支障までを生じていないことを示しているといえる。 エ 上記ア〜ウによれば、本件明細書において、球状シリカ粒子(X)の比表面積の測定における吸着ガスの明示がないとしても、当業者であれば、一般的に用いられる窒素ガスを用いていることを認識できると共に、本件発明が対象とする球状シリカに対して、敢えてヘリウムガス等を使用しなければならないこと、さらにその様な場合に、測定値が窒素を用いた場合と、測定値が一義的に定まらないといえる程の違いが出ることを認めるに足る証拠は提出されていないのであるから、本件発明1〜7に対応する本件明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできないし、請求項1〜7の記載が、比表面積の値が一義的に定まらないため、明確でないということはできない。 オ 国際公開第2020/195205号に記載の事項 (ア)「[0032][原料シリカ粉末1] 球状シリカ(デンカ社製:FB−5D、比表面積2.4m2/g)を加熱処理せずにそのまま、後述の実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、誘電正接低減処理をしていない原料シリカ粉末1の粉末換算誘電正接(tanδfA)は、樹脂にポリエチレン(PE)を使用した場合は2.9×10−3、ポリプロピレン(PP)を使用した場合は3.0×10−3であった。 [0033][原料シリカ粉末2] 球状シリカ(デンカ社製:SFP−30M、比表面積6.0m2/g)を加熱処理せずにそのまま、後述の実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、誘電正接低減処理をしていない原料シリカ粉末2の粉末換算誘電正接(tanδfA)は、1.2×10−2であった。 [0034][原料シリカ粉末3] 球状シリカ(デンカ社製:UFP−30、比表面積30m2/g)を加熱処理せずにそのまま、後述の実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、誘電正接低減処理をしていない原料シリカ粉末3の粉末換算誘電正接(tanδfA)は、5.0×10−2であった。 [0035][原料シリカ粉末4] 球状シリカ(デンカ社製:FB−40R、比表面積0.4m2/g)を加熱処理せずにそのまま、後述の実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、誘電正接低減処理をしていない原料シリカ粉末4の粉末換算誘電正接(tanδfA)は、3.7×10−4であった。」 (イ)「[0054][比表面積] 測定用セルに試料を1g充填し、Mountech社製 MacsorbHM model−1201全自動比表面積系測定装置(BET一点法)により比表面積を測定した。測定前の脱気条件は、200℃−10分とした。吸着ガスは窒素とした。」 (ウ)「[0058] [表1] 」 (3)申立理由2に関するまとめ 以上のとおり、本件特許は、請求項1〜7に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないし、請求項1〜7の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、上記申立理由2には、理由がない。 第5 むすび 上記第4で検討したとおり、本件特許1〜7は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1及び申立理由2では、本件特許1〜7を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1〜7を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-12-27 |
出願番号 | P2021-171456 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C01B)
P 1 651・ 113- Y (C01B) P 1 651・ 537- Y (C01B) P 1 651・ 536- Y (C01B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 原 賢一 |
登録日 | 2022-03-15 |
登録番号 | 7041786 |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 球状シリカ粒子及びそれを用いた樹脂組成物 |
代理人 | 園田・小林弁理士法人 |