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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1393540
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-07 
確定日 2023-01-19 
事件の表示 特願2017−546557「液晶配向剤、液晶配向膜および液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月27日国際公開、WO2017/069133〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月19日(優先権主張 平成27年10月20日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年7月31日付け 拒絶理由通知
9月24日 意見書及び手続補正書の提出
令和 3年2月26日付け 拒絶査定
6月 7日 審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜8に係る発明は、令和2年9月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本願明細書」という。)は、以下のとおりのものである。

「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子及び
(B)有機溶媒
を含有する組成物をイオン交換樹脂と接触させて得られる重合体組成物であって、
前記(A)成分が、下記式(1)〜(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、−O−、−CH2−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NH−CO−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表す;
Sは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Y1は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5〜8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2〜6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−COOR0(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)、−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Y2は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN )2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルコキシ基を表すか、又はY1と同じ定義を表す;
Xは、単結合、−COO−、−OCO−、−N=N−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい;
Couは、クマリン−6−イル基またはクマリン−7−イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−である場合、−CH=CH−が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0〜2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環 、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する、上記重合体組成物。




第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1〜8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1、2、3、4、5又は6に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
ここで、第1のとおり、本願は、平成27年10月20日を優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)とするところ、下記文献1〜12はいずれも優先日より前に公開された文献である。
よって、原査定の拒絶の理由については、「出願前」を「優先日前」と読み替える。
引用文献1 国際公開第2014/196590号
引用文献2 国際公開第2014/185413号
引用文献3 特開2014−206715号公報
引用文献4 国際公開第2014/054785号
引用文献5 特開2013−33249号公報
引用文献6 特開2008−276149号公報
引用文献7 特開2009−31319号公報
引用文献8 国際公開第2015/109777号
引用文献9 特開2004−53914号公報
引用文献10 特開2003−215592号公報
引用文献11 特開平6−51315号公報
引用文献12 特開昭59−109027号公報

第4 当審の判断
1 本願明細書の記載
本願発明は、第2のとおりであるところ、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、新規な液晶配向剤、それから得られる液晶配向膜と、それを有する液晶表示素子に関する。本発明により得られる液晶表示素子は、電気特性に優れる。」
「【0013】
以上のように、光配向法は、液晶表示素子の配向処理方法として従来から工業的に利用されてきたラビング法と比べてラビング工程そのものを不要とするため、大きな利点を備える。そして、ラビングによって配向制御能がほぼ一定となるラビング法に比べ、光配向法では、偏光した光の照射量を変化させて配向制御能を制御することができる。しかしながら、光配向法では、ラビング法による場合と同程度の配向制御能を実現しようとする場合、大量の偏光した光の照射量が必要となることがあり、安定な液晶の配向が実現できない場合がある。
・・・
【0015】
したがって、光配向法では、配向処理の高効率化や安定な液晶配向の実現が求められており、液晶配向膜への高い配向制御能の付与を高効率に行うことができる液晶配向膜や液晶配向剤が求められている。
【0016】
本発明は、高効率で配向制御能が付与され、電気特性に優れた、液晶表示素子用液晶配向膜と、液晶表示素子を提供することを目的とする。本発明はさらに、向上した電圧保持率を有する液晶配向膜を与える液晶配向剤を提供することも目的とする。」
「【発明の効果】
【0024】
本発明により、高効率で配向制御能が付与され、電気特性に優れた、液晶表示素子用液晶配向膜と、液晶表示素子を提供することができる。
また、本発明において、(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子及び(B)有機溶媒を含有する組成物をイオン交換樹脂と接触させることにより、低温焼成によっても優れた電圧保持率を有する横電界駆動型液晶素子及び該素子のための液晶配向膜を提供することができる。」
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下の知見を得て本発明を完成するに至った。
本発明の製造方法において用いられる重合体組成物は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子(以下、単に側鎖型高分子とも呼ぶ)を有しており、前記重合体組成物を用いて得られる塗膜は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子を有する膜である。この塗膜にはラビング処理を行うこと無く、偏光照射によって配向処理を行う。そして、偏光照射の後、その側鎖型高分子膜を加熱する工程を経て、配向制御能が付与された塗膜(以下、液晶配向膜とも称する)となる。このとき、偏光照射によって発現した僅かな異方性がドライビングフォースとなり、液晶性の側鎖型高分子自体が自己組織化により効率的に再配向する。その結果、液晶配向膜として高効率な配向処理が実現し、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができる。
【0026】
また、本発明における重合体組成物では、(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子及び(B)有機溶媒を含有する組成物をイオン交換樹脂と接触させて得られる。これにより電圧保持率が大幅に向上したことは、予想外のことであった。これらの現象は、イオン交換樹脂と接触させることにより、電圧保持率特性に悪影響を及ぼすイオン性の不純物、特にイオン性の低分子の不純物が除去されることによるものと、本発明者らは考えた・・・」
「【0046】
また、(A)側鎖型高分子は、下記式(21)〜(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有するのがよい。
式中、A、B、q1及びq2は上記と同じ定義を有する;
Y3は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
R3は、水素原子、−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12のアルコキシ基を表す;
lは1〜12の整数を表し、mは0から2の整数を表し、但し、式(23)〜(24)において、全てのmの合計は2以上であり、式(25)〜(26)において、全てのmの合計は1以上であり、m1、m2およびm3は、それぞれ独立に1〜3の整数を表す;
R2は、水素原子、−NO2、−CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、アルキル基、又はアルキルオキシ基を表す;
Z1、Z2は単結合、−CO−、−CH2O−、−CH=N−、−CF2−を表す。
【0047】


「【0130】
重合体組成物には、上述したものの他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的で、誘電体や導電物質、さらには、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的で、架橋性化合物を添加してもよい。」
「【0135】
<工程[III]>
工程[III]では、工程[II]で偏光した紫外線の照射された塗膜を加熱する。加熱により、塗膜に配向制御能を付与することができる。
加熱は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段を用いることができる。加熱温度は、使用する塗膜の液晶性を発現させる温度を考慮して決めることができる。
【0136】
加熱温度は、側鎖型高分子が液晶性を発現する温度(以下、液晶性発現温度という)の温度範囲内であることが好ましい。塗膜のような薄膜表面の場合、塗膜表面の液晶性発現温度は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子をバルクで観察した場合の液晶性発現温度よりも低いことが予想される。このため、加熱温度は、塗膜表面の液晶性発現温度の温度範囲内であることがより好ましい。すなわち、偏光紫外線照射後の加熱温度の温度範囲は、使用する側鎖型高分子の液晶性発現温度の温度範囲の下限より10℃低い温度を下限とし、その液晶温度範囲の上限より10℃低い温度を上限とする範囲の温度であることが好ましい。加熱温度が、上記温度範囲よりも低いと、塗膜における熱による異方性の増幅効果が不十分となる傾向があり、また加熱温度が、上記温度範囲よりも高すぎると、塗膜の状態が等方性の液体状態(等方相)に近くなる傾向があり、この場合、自己組織化によって一方向に再配向することが困難になることがある。・・・」
「【実施例】
【0151】
実施例で使用するメタクリルモノマーM1, M2を以下に示す。
・・・

【0153】
その他、本実施例で用いる試薬の略号を以下に示す。
(有機溶媒)
THF:テトラヒドロフラン。
NMP:N−エチル−2−ピロリドン。
BCS:ブチルセロソルブ
(重合開始剤)
AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル。
【0154】
<ポリマー合成例>
M1(3.98g)、M2(5.51g)をTHF(40.0g)中に溶解し、ダイアフラムポンプで脱気を行った後、AIBN(0.24g)を加え再び脱気を行った。この後、60℃で6時間反応させメタクリレートのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をメタノール(300ml)に滴下し、得られた沈殿物をろ過した。この沈澱物をメタノールで洗浄し、減圧乾燥しメタクリレートポリマー粉末P1を得た。
【0155】
<ポリマー調製>
ポリマー合成例にて得られたメタクリレートポリマー粉末P1(0.4g)にNMP(5.1g)を加え、室温で1時間攪拌して溶解させた。この溶液に、BCS(4.0g)を加え攪拌することにより、ポリマー溶液PC1を得た。
【0156】
<実施例1>
ポリマー調製例にて得られたポリマー溶液PC1に、乾燥させたオルガノ社製陽イオン交換樹脂アンバーリスト15JWET(0.4g)と、ダウ・ケミカル社製陰イオン交換樹脂ダウエックス550A(0.4g)を加え、室温にて4時間撹拌。その後、イオン交換樹脂を濾過によって除去してポリマー溶液T1を得た。
【0157】
<実施例2〜8>
表1に示すイオン交換樹脂量を実施例1と同様の方法を用いてポリマー溶液PC1を処理し実施例2〜8の液晶配向剤T2〜T8を得た。
【0158】
【表1】

【0159】
<液晶セルの作製>
実施例1で得られた液晶配向剤(T1)を0.45μmのフィルターで濾過した後、透明電極付きガラス基板上にスピンコートし、70℃のホットプレート上で90秒間乾燥後、膜厚100nmの液晶配向膜を形成した。次いで、塗膜面に偏光板を介して313nmの紫外線を15mJ/cm2照射した後に140℃のホットプレートで10分間加熱し、液晶配向膜付き基板を得た。このような液晶配向膜付き基板を2枚用意し、一方の基板の液晶配向膜面に6μmのスペーサを設置した後、2枚の基板のラビング方向が平行になるようにして組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが4μmの空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC−3019(メルク株式会社製)を注入し、注入口を封止して、液晶が平行配向した液晶セルを得た。
実施例2〜8で得られた液晶配向剤T2〜T8、比較例としてポリマー調製例で得られた液晶配向剤PC1を用いて、同様に液晶セルを作成した。
【0160】
<VHR評価>
VHRの評価は、得られた液晶セルに、70℃の温度下で1Vの電圧を60μs間印加し、50ms後の電圧を測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。液晶セル作成直後に測定した。なお、電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製の電圧保持率測定装置VHR−1を使用した。
実施例1〜8および比較例1の液晶配向剤のVHRの結果を表2に示す
【0161】
【表2】

【0162】
表2から、実施例1〜8において、ポリマー溶液をイオン交換処理することにより、イオン交換処理を行わない比較例1と比較して、VHRが向上することがわかる。」

2 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載
原査定が引用する、本願優先日前に公開された引用文献1には、以下の記載がある。
ア「[請求項1]
[I](A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子、及び
(B)有機溶媒
を含有する重合体組成物を、横電界駆動用の導電膜を有する基板上に塗布して塗膜を形成する工程;
[II][I]で得られた塗膜に、消光比10:1以上の偏光した紫外線を照射する工程;及び
[III][II]で得られた塗膜を加熱する工程;
を有することによって配向制御能が付与された横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得る、前記液晶配向膜を有する基板の製造方法。
・・・
[請求項3]
(A)成分が、下記式(1)〜(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、−O−、−CH2−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NH−CO−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表す;
Sは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Y1は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5〜8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2〜6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−COOR0(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)、−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Y2は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルコキシ基を表すか、又はY1と同じ定義を表す;
Xは、単結合、−COO−、−OCO−、−N=N−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい; Couは、クマリン−6−イル基またはクマリン−7−イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−である場合、−CH=CH−が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0〜2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する請求項1又は2に記載の方法。



「[0001]
本発明は、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板の製造方法に関する。さらに詳しくは、焼き付き特性に優れる液晶表示素子を製造するための新規な方法に関する。」

「[0033]
<10> 上記<1>〜<9>のいずれかにおいて、(A)成分が、下記式(21)〜(31)からなる群から選ばれるいずれか1種の液晶性側鎖を有するのがよい。
式中、A、B、q1及びq2は上記と同じ定義を有する;
Y3は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
R3は、水素原子、−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数1〜12のアルコキシ基を表す;
lは1〜12の整数を表し、mは0から2の整数を表し、但し、式(23)〜(24)において、全てのmの合計は2以上であり、式(25)〜(26)において、全てのmの合計は1以上であり、m1、m2およびm3は、それぞれ独立に1〜3の整数を表す;
R2は、水素原子、−NO2、−CN、ハロゲン基、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、窒素含有複素環、及び炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、アルキル基、又はアルキルオキシ基を表す;
Z1、Z2は単結合、−CO−、−CH2O−、−CH=N−、−CF2−を表す。
[0034]
[化8]



「発明の効果
[0059]
本発明により、高効率で配向制御能が付与され、焼き付き特性に優れた、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する横電界駆動型液晶表示素子を提供することができる。
本発明の方法によって製造された横電界駆動型液晶表示素子は、高効率に配向制御能が付与されているため長時間連続駆動しても表示特性が損なわれない。
また、本発明により、上記効果に加えて、高温、多湿等の過酷な条件下でも、電圧保持率等の特性が低下することのない、高い信頼性を備えた横電界駆動型液晶素子及び該素子のための液晶配向膜を提供することができる。
・・・
[0061]
・・・
本発明の製造方法において用いられる重合体組成物は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子(以下、単に側鎖型高分子とも呼ぶ)を有しており、前記重合体組成物を用いて得られる塗膜は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子を有する膜である。この塗膜にはラビング処理を行うこと無く、偏光照射によって配向処理を行う。そして、偏光照射の後、その側鎖型高分子膜を加熱する工程を経て、配向制御能が付与された塗膜(以下、液晶配向膜とも称する)となる。このとき、偏光照射によって発現した僅かな異方性がドライビングフォースとなり、液晶性の側鎖型高分子自体が自己組織化により効率的に再配向する。その結果、液晶配向膜として高効率な配向処理が実現し、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができる」

「[0132]
工程[III]では、工程[II]で偏光した紫外線の照射された塗膜を加熱する。加熱により、塗膜に配向制御能を付与することができる。
加熱は、ホットプレート、熱循環型オーブンまたはIR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段を用いることができる。加熱温度は、使用する塗膜の液晶性を発現させる温度を考慮して決めることができる。
[0133]
加熱温度は、側鎖型高分子が液晶性を発現する温度(以下、液晶発現温度という)の温度範囲内であることが好ましい。塗膜のような薄膜表面の場合、塗膜表面の液晶発現温度は、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子をバルクで観察した場合の液晶発現温度よりも低いことが予想される。このため、加熱温度は、塗膜表面の液晶発現温度の温度範囲内であることがより好ましい。すなわち、偏光紫外線照射後の加熱温度の温度範囲は、使用する側鎖型高分子の液晶発現温度の温度範囲の下限より10℃低い温度を下限とし、その液晶温度範囲の上限より10℃低い温度を上限とする範囲の温度であることが好ましい。加熱温度が、上記温度範囲よりも低いと、塗膜における熱による異方性の増幅効果が不十分となる傾向があり、また加熱温度が、上記温度範囲よりも高すぎると、塗膜の状態が等方性の液体状態(等方相)に近くなる傾向があり、この場合、自己組織化によって一方向に再配向することが困難になることがある。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の摘記アの、請求項1を引用する請求項3の「液晶配向膜を有する基板の製造方法」における「重合体組成物」に着目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子、及び
(B)有機溶媒
を含有する重合体組成物であって、
(A)成分が、下記式(1)〜(6)
(式中、A、B、Dはそれぞれ独立に、単結合、−O−、−CH2−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NH−CO−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表す;
Sは、炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Tは、単結合または炭素数1〜12のアルキレン基であり、それらに結合する水素原子はハロゲン基に置き換えられていてもよい;
Y1は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5〜8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2〜6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−COOR0(式中、R0は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)、−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Y2は、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
Rは、ヒドロキシ基、炭素数1〜6のアルコキシ基を表すか、又はY1と同じ定義を表す;
Xは、単結合、−COO−、−OCO−、−N=N−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、又は−O−CO−CH=CH−を表し、Xの数が2となるときは、X同士は同一でも異なっていてもよい; Couは、クマリン−6−イル基またはクマリン−7−イル基を表し、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に−NO2、−CN、−CH=C(CN)2、−CH=CH−CN、ハロゲン基、炭素数1〜5のアルキル基、又は炭素数1〜5のアルキルオキシ基で置換されても良い;
q1とq2は、一方が1で他方が0である;
q3は0または1である;
P及びQは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、炭素数5〜8の脂環式炭化水素、および、それらの組み合わせからなる群から選ばれる基である;ただし、Xが−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−である場合、−CH=CH−が結合する側のP又はQは芳香環であり、Pの数が2以上となるときは、P同士は同一でも異なっていてもよく、Qの数が2以上となるときは、Q同士は同一でも異なっていてもよい;
l1は0または1である;
l2は0〜2の整数である;
l1とl2がともに0であるときは、Tが単結合であるときはAも単結合を表す;
l1が1であるときは、Tが単結合であるときはBも単結合を表す;
H及びIは、各々独立に、2価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環、およびそれらの組み合わせから選ばれる基である。)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する、重合体組成物。

」(以下、「引用発明1」という。また、以下では、引用発明1の式(1)〜(6)の式及び当該式で用いられる記号の説明は省略する。)

3 対比
引用発明1の、「式(1)〜(6)」「からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖」は、本願発明の、「下記式(1)〜(6)」「からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖」と同一であるから、引用発明1の「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子」であって、「式(1)〜(6)」「からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する」「感光性の側鎖型高分子」は、本願発明の「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子」であって、「下記式(1)〜(6)」「からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する」「感光性の側鎖型高分子」に相当する。
引用発明1の「(B)有機溶媒」は、本願発明の「(B)有機溶媒」に相当する。
引用発明1の「重合体組成物」は、重合体を含む組成物である限りにおいて、本願発明の「重合体組成物」と一致する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、
「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子及び
(B)有機溶媒
を含有する重合体組成物であって、
(A)成分が、式(1)〜(6)
からなる群から選ばれるいずれか1種の感光性側鎖を有する、重合体組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
重合体組成物に関し、本願発明では、(A)成分と(B)成分を含有する組成物をイオン交換樹脂と接触させて得られるのに対して、引用発明1では、そのようなものではない点。

4 判断
(1)本願優先日における周知技術について
ア 原査定において、周知技術を示す文献として引用され、本願優先日前に公開された引用文献7、9、10及び12には、以下の記載がある。

引用文献7 特開2009―31319号公報
「【0003】
液晶配向膜は、一般的に、液晶表示素子の液晶の配向状態を決める材料であるが、同時に良好な電気特性を有する必要もあることが知られている。ここで言う良好な電気特性としては、表示のチラツキの指標である電圧保持率が高いこと、および焼き付きの指標である残留DC値が低いこと、を代表的なものとして挙げることができる。これまで一般的に、配向膜の組成等をコントロールすることで、上記特性の向上を図ってきている(特許文献2〜5参照)。しかしながら、電圧保持率や残留DC値は、現に更なる改善が求められており、また、近年特に改善要求の強い性能の一つとして、液晶表示素子の信頼性の向上も挙げられている。一般に、信頼性低下を引き起こすひとつの要因として、金属イオン等のイオン性不純物の存在が疑われている。イオン性不純物が液晶表示素子内に存在することで、電圧保持率の低下、残留DC値の上昇のみならず、表示ムラ等の表示不良の原因となることが指摘されている。そのため、上記要請から、信頼性の向上のためには、液晶表示素子中のイオン性不純物を低減する必要があると考えられ、このような観点から、液晶配向剤中のイオン性不純物成分を除去することにより、その塗膜である液晶配向膜のイオン性不純物も低減可能であり、結果として信頼性の向上が見込まれることになる。
・・・
【0004】
本発明は上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的は、液晶配向剤溶液中のイオン性不純物を除去した液晶配向剤を得る製造方法を提供することである。
・・・
【0007】
本発明によると、本発明の上記目的および利点は、第一に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって得られるポリアミック酸重合体および/またはそのイミド化重合体を含有する溶液を、イオン交換樹脂を含有する濾材またはゼータ電位が作用する濾材で処理することを特徴とする液晶配向剤の製造方法により達成される。
・・・
【0068】
[液晶表示素子の電圧保持率の測定]
60℃において液晶表示素子に5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、16.7マイクロ秒のスパンで印加した後、印加解除から16.7ミリ秒後の電圧保持率を測定した。」

引用文献9 特開2004−53914号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶パネルおよび液晶表示装置に関するものである。
・・・
【0038】
また、配向膜3A、3A’としては、通常、上記のような材料で構成された膜に、液晶層2を構成する液晶分子の配向を規制する配向機能を付与するための処理が施されたものが用いられる。配向機能を付与するための処理法としては、例えば、ラビング法、光配向法等が挙げられる。
【0039】
ラビング法は、ローラ等を用いて、膜の表面を一定の方向に擦る(ラビングする)方法である。このような処理を施すことにより、膜はラビングした方向に異方性を有するものとなり、液晶層を構成する液晶分子の配向方向を規制することが可能となる。
【0040】
光配向法は、直線偏光紫外線等の光を膜の表面付近に照射することにより、膜を構成する高分子のうち、特定方向を向いている分子のみを選択的に反応させる方法である。このような処理を施すことにより、膜は異方性を有するものとなり、液晶層を構成する液晶分子の配向方向を規制することが可能となる。
・・・
【0066】
また、配向膜中に含まれる光安定化剤は、金属イオンを除去したものであるのが好ましい。これにより、液晶パネル1Aの長期安定性がさらに向上する。金属イオンの除去は、例えば、イオン交換樹脂を用いた精製等により行うことができる。
【0067】
配向膜中の金属イオン濃度は、5ppm以下であるのが好ましく、0.5ppm以下であるのがより好ましく、0.10ppm以下であるのがさらに好ましい。このように、金属イオン濃度を十分に低くすることにより、上記のような効果はさらに顕著なものとなる。一方、配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層2等に移行し易くなり、電圧保持率の低下等の液晶層2の機能低下を生じる可能性がある。」

引用文献10 特開2003−215592号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶パネルおよび液晶表示装置に関するものである。
・・・
【0031】また、配向膜3A、4Aとしては、通常、上記のような材料で構成された膜に、液晶層2を構成する液晶分子の配向を規制する配向機能を付与するための処理が施されたものが用いられる。配向機能を付与するための処理法としては、例えば、ラビング法、光配向法等が挙げられる。
【0032】ラビング法は、ローラ等を用いて、膜の表面を一定の方向に擦る(ラビングする)方法である。このような処理を施すことにより、膜はラビングした方向に異方性を有するものとなり、液晶層を構成する液晶分子の配向方向を規制することが可能となる。
【0033】光配向法は、直線偏光紫外線等の光を膜の表面付近に照射することにより、膜を構成する高分子のうち、特定方向を向いている分子のみを選択的に反応させる方法である。このような処理を施すことにより、膜は異方性を有するものとなり、液晶層を構成する液晶分子の配向方向を規制することが可能となる。
・・・
【0058】また、配向膜中に含まれる光安定化剤は、金属イオンを除去したものであるのが好ましい。これにより、液晶パネル1Aの長期安定性がさらに向上する。金属イオンの除去は、例えば、イオン交換樹脂を用いた精製等により行うことができる。
【0059】配向膜中の金属イオン濃度は、5ppm以下であるのが好ましく、0.5ppm以下であるのがより好ましく、0.10ppm以下であるのがさらに好ましい。このように、金属イオン濃度を十分に低くすることにより、上記のような効果はさらに顕著なものとなる。一方、配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層2等に移行し易くなり、電圧保持率の低下等の液晶層2の機能低下を生じる可能性がある。」

引用文献12 特開昭59−109027号公報
「1.基板に形成した配向膜に活性炭処理,シリカゲル処理,あるいは活性アルミナ処理などイオン性物質の吸着剤による処理を行なうことを特徴とする液晶表示素子の配光膜(合議体注:「配向膜」の誤記と認められる)の精製方法。」(特許請求の範囲)
「近年、ガラス基板に代りプラスチック基板を用いた液晶表示素子が発表されている。第2図にその構成を示す。第2図に示すように、その構成は第1図に示す上下電極ガラス基板1,2の代わりにプラスチック8(例えば2軸延伸のポリエチレンテレフタレートフィルム、以下PETフィルムを略す)を用いた形状となっている。このような従来の液晶表示素子においては、配向膜に残る汚染物質が液晶材料に溶け出して特性を劣化させるという問題があった。」(1頁右下欄13行〜2頁左上欄2行)
「第3図の液晶表示素子の構成要素として、上,下基板9,10には、第4図に示すように1軸延伸のポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、また配向膜にはポリエーテルアミド系の樹脂を用いている。さらに、第3図に示すような外囲器を作成するために、シール剤としてポリエステル系樹脂を使用している。
このうち配向膜は、予め活性炭を5重量%加え室温で24時間攪拌した後、ろ過したものに、さらに中性の活性アルミナを20重量%加えて、2時間攪拌しろ過して精製したものを用いた。
そしてこのように構成した液晶表示素子と上記構成材料のうち配向膜を未精製のものを使用して同じプロセスにより形成した液晶表示素子とを液晶が介在した上下基板間に流れる電流の量の変化を測定して比較した。
一般に、構成材料に不安定な物質が含まれる場合、熱あるいは光などの条件により、劣化による分解あるいは熱拡散を起こして物質が液晶材料に溶け出すため、液晶材料をはさむ上下基板の電極間に電圧をかけると、不安定要素があればある程両電極間に流れる電流は時間とともに増加する。両素子でこのような電流を測定すると、未精製の配向膜を用いた素子は、精製した配向膜を用いた場合に比べて電流の増加率が倍以上であることがわかった。 なお、活性炭処理のほか、イオン交換樹脂,シリカゲル処理,活性アルミナ処理等各種のイオン性物質の吸着剤による処理を行なうことができる。
〔発明の効果〕
以上、上記実験結果でわかるように、本発明による配向膜の精製方法によれば、従来に比べて信頼性においてはるかに有利な液晶表示素子を提供することができる。」(2頁左下欄3行〜右下欄16行)
イ 上記アによれば、引用文献7、9、10及び12は、いずれも液晶配向膜に関する技術を開示する。
そして、引用文献7には、イオン性不純物が液晶表示素子内に存在することで、電圧保持率の低下等の原因となることが指摘されているため、液晶表示素子中のイオン性不純物を低減する必要があると考えられていること、液晶配向剤中のイオン性不純物成分を除去することにより、その塗膜である液晶配向膜のイオン性不純物も低減可能であり、結果として信頼性の向上が見込まれること、及び、液晶配向剤溶液であるポリアミック酸重合体および/またはそのイミド化重合体を含有する溶液を、イオン交換樹脂を含有する濾材で処理することにより、イオン性不純物を除去した液晶配向剤を得ることが記載されている(【0003】、【0007】)。
また、引用文献9及び10には、液晶配向膜中の金属イオン濃度を十分に低くすることが好ましいこと、及び、液晶配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層等に移行し易くなり、電圧保持率の低下等の機能低下を生じる可能性があることが記載されている(引用文献9の【0067】、引用文献10の【0059】)。
さらに、引用文献12には、液晶配向膜に残る汚染物質が液晶材料に溶け出して特性を劣化させるという問題があることを踏まえ、配向膜を形成する材料に対してイオン性物質の吸着剤による精製を行うこと、イオン性物質の吸着剤による処理はイオン交換樹脂処理でもよいこと,及び、配向膜の精製することにより、従来に比べて信頼性において有利な液晶表示素子を提供することができることが記載されている(2頁左下欄3行〜右下欄16行)。
そうすると、引用文献7、9、10及び12から、本願優先日前において、液晶配向膜及びこれを形成する液晶配向剤に関する以下の周知技術があったものと認められる。
(ア)液晶配向膜中の金属イオン等のイオン性不純物が、液晶表示素子の電圧保持率の低下などの信頼性の低下を引き起こすこと(以下「周知技術1」という)。
(イ)液晶配向剤中のイオン性不純物を低減させるために、液晶配向剤とイオン交換樹脂とを接触させること(以下「周知技術2」という)。

(2)相違点1の容易想到性について
引用発明1の「重合体組成物」は、それを基板上に塗布して塗膜を形成し、偏光紫外線の照射及び加熱を経て、横電界駆動型液晶表示素子用液晶配向膜を得るものである(2の(1)摘記ア)から、液晶配向膜を形成するために用いられるものである。
そして、液晶配向膜に関して、本願優先前に上記周知技術1及び2が存在したのであるから、当業者であれば、引用発明1の重合体組成物においても、重合体組成物中にイオン性不純物が存在すれば液晶表示素子の信頼性の低下が引き起こされることを理解し、当該重合体組成物中のイオン性不純物を低減させるために、重合体組成物とイオン交換樹脂とを接触させることは容易に想到し得たものといえる。

(3)本願発明の効果について
本願明細書の記載(特に【0024】)によれば、本願発明は、
ア 高効率で配向制御能が付与され、電気特性に優れた、液晶表示素子用液晶配向膜と、液晶表示素子を提供することができるという効果
イ 低温焼成によっても優れた電圧保持率を有する横電界駆動型液晶素子及び該素子のための液晶配向膜を提供することができるという効果
を奏することが記載されている。
そこで、上記効果について検討する。
(ア)効果アについて
効果アの「高効率で配向制御能が付与」されることに関し、本願明細書には、液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子を有する重合体組成物を用いて得られる塗膜は液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子を有する膜であり、ラビング処理を行うことなく偏光照射によって配向処理を行った後加熱する工程を経て配向制御能が付与されること、このとき、偏光照射によって発現した僅かな異方性がドライビングフォースとなり、液晶性の側鎖型高分子自体が自己組織化により効率的に再配向する結果、液晶配向膜として高効率な配向処理が実現し、高い配向制御能が付与された液晶配向膜を得ることができる旨の記載がある(【0025】)。
他方、引用文献1には、高効率で配向制御能が付与された、液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する液晶表示素子を提供することができることが記載されており、さらに、高効率で配向制御能が付与されることに関し、上記本願明細書の【0025】の記載と同様の記載がある(2(1)摘記エ)。
ここで、引用発明1の「重合体組成物」は、上記相違点1に係る点、すなわち、重合体組成物をイオン交換樹脂と接触させていない点において、本願発明の重合体組成物と異なることは上記3のとおりであるところ、本願明細書をみても、重合体組成物をイオン交換樹脂と接触させたことにより、さらに高効率で配向制御能が付与されることなどは記載されておらず、また、そのように理解すべき格別の理由もない。
そうすると、本願発明が、高効率で配向制御能が付与された、液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する液晶表紙素子を提供できるという効果を奏したとしても、そのような効果は、上記引用文献1の記載から予測しうる程度の事項である。
また、電気特性に優れた、液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する液晶配向膜を提供できるということに関して、本願明細書には、「電気特性」と「電圧保持率」とが区別して記載されていること、及び「誘電率や導電性などの電気特性」(【0130】)と記載されていることからみて、電気特性に優れるとは、電圧保持率に優れることとは別の、誘電率や導電性などが優れることを意味するものと一応理解されるが、そのように理解される「電気特性」について、何らの具体的な説明はなく、これを裏付ける実験データも記載されていない。
そうすると、単に「電気特性に優れた」という文言が記載されていることのみをもって、本願発明が、電気特性に優れた、液晶表示素子用液晶配向膜を有する基板及び該基板を有する液晶配向膜を提供できるという点において、引用発明1、引用文献1の記載から予測をすることができない効果を奏するとはいえない。
(イ)効果イについて
周知技術1及び2に照らせば、引用発明1の重合体組成物をイオン交換樹脂と接触させれば、重合体組成物中のイオン性不純物は低減され、これから形成される液晶配向膜中のイオン性不純物も低減されて、電圧保持率の低下等の信頼性の低下を回避できることは、当業者が予測し得たものと解される。
また、「低温焼成」に関して、本願発明の(A)成分が有するとよいとされる液晶性側鎖(本願明細書の【0046】、【0047】)と、引用発明1の(A)成分が有するとよいとされる液晶性側鎖(引用文献1の[0033]、[0034](2(1)摘記ウ))とは同一のものであると解されるところ、本願明細書にも、引用文献1にも、塗膜に配向制御能を付与する際の加熱温度として、側鎖型高分子が液晶性を発現する温度(液晶性発現温度)の温度範囲内であることが好ましく、使用する側鎖型高分子の液晶性発現温度の温度範囲の下限より10℃低い温度を下限とし、その液晶温度範囲の上限より10℃低い温度を上限とする範囲の温度であることが好ましいことが記載されているから(本願明細書【0135】、【0136】、引用文献1[0132]、[0133](2(1)摘記オ))、両者の想定する加熱(焼成)温度は同程度であると解される。
さらに、引用発明1も、横電界駆動型液晶素子のための液晶配向膜を得るために用いられる重合体組成物である(2(1)摘記ア)。
そうすると、本願発明が、低温焼成によっても優れた電圧保持率を有する横電界駆動型液晶素子及び該素子のための液晶配向膜を提供することができるという効果を奏したとしても、当該効果は、引用発明1、引用文献1の記載及び周知技術から当業者が予測できた程度のものである。
(ウ)よって、本願発明が、引用発明1、引用文献1の記載及び周知技術から、当業者が予測をすることができない格別の効果を奏するとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、以下のとおり主張する。
ア 引用文献1は、光配向法の技術分野に関するものであるのに対して、引用文献7、9、10及び12はラビング法の技術分野に関するものであるから、両者を組み合わせることはできない(審判請求書17頁8〜14行)。
イ 引用文献9及び10は、光安定化剤を含んだ場合にイオン交換樹脂と接触させることを開示しているだけであり、光安定化剤を含まない場合にも適用できる周知技術であるとはいえず、ラビング法における周知技術であるとすることもできない(同17頁15〜19行)。
ウ 本願発明では、光配向法に用いられる重合体組成物をイオン交換樹脂と接触させたことにより電圧保持率を20%上昇するのに対して、引用文献7では電圧保持率の良化という効果はわずか1〜2%にすぎず、引用文献7〜12のいずれも、本願発明の、液晶配向膜での電圧保持率における効果を示唆していない(同11頁23行〜12頁12行、17頁20〜24行)。
そこで、上記主張について検討する。
(ア)主張アについて
本願明細書には、電圧保持率が大幅に向上するという現象について、イオン交換樹脂と接触させることにより、電圧保持率特性に悪影響を及ぼすイオン性の不純物、特にイオン性の低分子の不純物が除去されることによるものと考えられることが記載されている(【0026】)が、イオン性の不純物による悪影響が、光配向法による液晶配向膜に特有の問題であることなどについての記載はない。
一方、確かに、引用文献7はラビング法を対象としたものであり、引用文献12も、光配向法を対象としたものではない((1)の各文献の摘記参照)が、これらの文献のいずれにも、配向膜中の金属イオン等のイオン性不純物によって液晶表示素子の信頼性低下を引きおこすという事象が、ラビング法で製造された液晶配向膜に特有のものであるなどとは記載されていない。
また、引用文献9及び10には、光配向法とラビング法の両者について記載されているところ(引用文献9の【0038】〜【0040】、引用文献10の【0031】〜【0033】)、いずれの文献にも、上記配向膜中の金属イオン等のイオン性不純物によって液晶表示素子の信頼性低下を引きおこすという事象が、ラビング法で製造された液晶配向膜に特有のものであるなどとは記載されていない。
むしろ、引用文献7は、「液晶配向剤中のイオン性不純物成分を除去することにより、その塗膜である液晶配向膜のイオン性不純物も低減可能であり、結果として信頼性の向上が見込まれることになる。」(【0003】)と記載し、引用文献9及び10は、「配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層等に移行し易くなり、電圧保持率の低下等の液晶層の機能低下を生じる可能性がある。」(引用文献9の【0067】、引用文献10の【0059】)と記載し、引用文献12は、「配向膜に残る汚染物質が液晶材料に溶け出して特性を劣化させるという問題があった。」(1頁右下欄下1行〜2頁左上欄2行)と記載していることからみると、液晶配向膜中にイオン性不純物が存在することにより起こる問題は、液晶配向膜の製造方法がラビング法であるか光配向法であるかには関係なく、液晶配向膜と液晶層が接触するという構造上の問題として認識されていたとみるのが自然である。
そうであれば、引用文献1は、光配向法の技術分野に関するものであり、引用文献7、9、10及び12はそうでないとしても、いずれも液晶配向膜の技術分野に関するものである以上、引用文献1に、引用文献7、9、10及び12から把握できる周知技術を適用することは動機づけられるというべきであり、両者を組み合わせることができないとはいえない。
よって、上記主張アは採用できない。
(イ)主張イについて
引用文献9及び10は、光安定化剤はイオン交換樹脂を用いた精製等により金属イオンを除去したものであるのが好ましいことを記載しているが(引用文献9の【0066】、引用文献10の【0058】)、同時に、「配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層等に移行し易くなり、電圧保持率の低下等の液晶層の機能低下を生じる可能性がある。」(引用文献9の【0067】、引用文献10の【0059】)ことも記載している。そして、配向膜中の金属イオン濃度が大きすぎると、金属イオンが液晶層に移行し易くなるとの問題が、光安定化剤がある場合には生じるが、光安定化剤がない場合には生じないなどと解すべき理由もない。
よって、上記主張イは採用できない。
(ウ)主張ウについて
確かに、本願明細書の実施例では、イオン交換樹脂との接触により電圧保持率が20%超上昇しているものの、本願発明が包含する重合体組成物のうちのただ一つの重合組成物を用いた実験例のみをもって、ただちに、そのような効果が本願発明全体にわたって奏され、本願発明が引用発明1、引用文献1の記載及び周知技術から予測をすることのできない効果を奏すると結論づけることはできない。
また、引用文献7で電圧保持率の良化が1〜2%であったとしても、そもそも本願明細書と引用文献7とでは電圧保持率の測定方法が異なるから(本願明細書では、70℃の温度下で1Vの電圧を60μs間印加し、50ms後の電圧を測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算(【0160】)、引用文献7では、60℃において液晶表示素子に5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、16.7マイクロ秒のスパンで印加した後、印加解除から16.7ミリ秒後の電圧保持率を測定(【0068】))、両者の測定結果を単に比較することにより、ただちに両者の優劣を決定することはできない。
よって、上記主張ウは採用できない。

5 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1と引用文献1に記載された事項及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 まとめ
以上のことから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-21 
結審通知日 2022-11-22 
審決日 2022-12-05 
出願番号 P2017-546557
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 藤井 勲
海老原 えい子
発明の名称 液晶配向剤、液晶配向膜および液晶表示素子  
代理人 田村 慶政  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 紺野 昭男  
代理人 井波 実  

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