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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1393669
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-11 
確定日 2023-01-16 
事件の表示 特願2018−504554「半導体発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日国際公開、WO2017/154975〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)3月8日(優先権主張2016年3月8日(以下「優先日」という。)、日本)を国際出願日とする出願であり、その後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成30年 9月 7日 :特許協力条約第19条補正の写し提出書
令和 3年 2月 5日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月31日 :意見書
令和 3年 7月 5日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 8月19日 :意見書
令和 3年 9月27日付け:拒絶査定
令和 3年11月11日 :審判請求書

第2 本願発明
本願の請求項1〜10に係る発明は、特許協力条約第19条補正の写し提出書に係る補正書の写しにより補正がされたものとみなされた特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
第1面と、前記第1面の反対側に設けられた第2面と、前記第2面に対して段差を形成して前記第1面の反対側に設けられた第3面とをもつ半導体層であって、前記第1面と前記第3面との間に発光層を含む半導体層と、
前記第2面に接する第1電極と、
前記第3面の面内に設けられた第2電極であって、前記第3面に接するコンタクト部と、前記第3面に接しない端部とを有し、銀を含む第2電極と、
前記第2電極の前記端部と、前記第3面との間に設けられた絶縁膜と、
前記第1電極に接続された第1配線部と、
前記第2電極に接続された第2配線部と、
を備え、
前記絶縁膜と前記第3面とのコンタクト面積は、前記第2電極の前記コンタクト部と前記第3面とのコンタクト面積よりも小さい半導体発光装置。」

第3 令和3年9月27日付け拒絶査定の拒絶の理由
上記拒絶査定(以下「原査定」という。)の理由は、次の内容を含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1 特開2006−245232号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1(特開2006−245232号公報)の記載
原査定が引用した引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【請求項1】
第1導電型半導体層と、第2導電型半導体層とを有し、
前記第1導電型半導体層に接続された第1電極と、前記第2導電型半導体層に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と第2電極とは前記第1導電型半導体層の同一面側に配置されて構成される半導体素子であって、
前記第2電極は、銀又は銀合金を含む第1金属膜と、銀とは異なる金属からなる第2金属膜とを有し、
該第2金属膜は、前記第1金属膜上で該第1金属膜と接続され、前記第1金属膜から露出された第2導電型半導体層上の少なくとも一部の領域において絶縁膜を介して配置されており、かつ該絶縁膜の第1金属膜側面側の膜厚よりも、第1金属膜端部から第2金属膜端部までの距離が長くなるように、第1金属膜の外方に延設されてなることを特徴とする半導体素子。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の半導体発光素子は、上述したように、少なくとも、第1導電型半導体層(以下、単に「半導体層」と記す場合がある)及び第2導電型半導体層がこの順に積層された半導体層と、第1及び第2導電型半導体層上にそれぞれ接続された第1及び第2電極とから構成される。また、通常、第1及び第2導電型半導体層間には、発光層が配置されている。
ここで、第1導電型とは、p型又はn型を指し、第2導電型とは、第1導電型とは異なる導電型、つまりn型又はp型を示す。好ましくは、第1導電型半導体層がn型を示し、第2導電型半導体層がp型を示す。
【0015】
これらの半導体層は、通常、基板の上に形成されている。
基板としては、例えば、サファイア、スピネル、SiC、GaN、GaAs等の公知の絶縁性基板及び導電性基板を用いることができる。なかでも、サファイア基板が好ましい。
絶縁性基板は、最終的に取り除いてもよいし、取り除かなくてもよい。絶縁性基板を取り除く場合、p電極及びn電極は、同一面側に形成されていてもよいし、異なる面に形成されていてもよい。絶縁性基板を取り除かない場合、通常、p電極およびn電極はいずれも半導体層上の同一面側に形成されることになる。」

「【0025】
これらの半導体層によって構成される半導体発光素子は、平面視が、通常、四角形又は略これに近い形状であり、第1導電型半導体層は、1つの半導体発光素子の一部の領域において、第2導電型半導体層及び発光層、任意に第1導電型半導体層の深さ方向の一部が除去されて、その表面が露出している。」

「【0027】
この露出した第1導電型半導体層の表面には、第1電極が形成されている。
第1電極は、その材料及び膜厚は限定されるものではなく、通常、電極として用いることができる導電性材料の単層膜又は積層膜により形成することができる。なお、第1電極は、第2導電型半導体層との距離を離して配置されていることが好ましい。それらの距離は、得ようとする半導体発光素子の大きさ、第1電極及び第2電極の材料、大きさ及び配置等によって適宜調整することができる。第1電極と第2導電型半導体層との最短距離は、例えば、5μm程度以上、10〜20μm程度が挙げられる。」

「【0029】
第2電極は、銀又は銀合金からなる第1金属膜と、第2金属膜とにより構成されている。第1金属膜は、第2導電型半導体層にオーミック接続されて効率的な電流の投入を図るとともに、発光層からの光を効率よく反射させることを意図するものであるため、後述する、第2導電型半導体層及び第2金属膜との関係を満たす限り、第2導電型半導体層上の略全面に、広い面積で形成されることが好ましい。」

「【0039】
第2金属膜は、第1金属膜及び第1電極の形状によって、半導体発光素子内における位置、大きさ等を適宜調整することができるが、第2電極、厳密には第2金属膜は、第1電極に対向する第1領域と、第2領域とを有していることが好ましい。例えば、図2(a)〜図3(h)に示すように、半導体発光素子Hにおいては、第2電極又は2金属膜の縁を含んでそれに隣接する領域のうち、第1電極Eに対向する第1領域aと、それ以外の領域、つまり第1電極Eには対向しない第2領域bとを有していることが好ましい。いいかえると、第2領域とは、半導体発光素子の縁に対向する領域である。なお、図2(a)〜図3(h)では、第2導電型半導体層等P上に形成される第2電極は省略し、第1導電型半導体層N上に形成された第1電極Eのみを表している。
【0040】
特に、第2金属膜は、例えば、図1に示すように、第1金属膜6端部から第2金属膜7端部までの距離Aが、第1金属膜6側面側の絶縁膜8の膜厚Dよりも、長くなるように、第1金属膜6の外方に延設されていることが好ましい。この距離Aは、例えば、3〜10μm程度が適当である。また、第2導電型半導体層の端部から第2金属膜の端部までの距離は、例えば、3〜10μm程度、第2導電型半導体層の端部から第1金属膜の端部までの距離は、例えば、6〜20μm程度が適当である。このような第2金属膜の配置は、第1電極に対向する第1領域において実現されていることが好ましい。これにより、半導体発光素子内で最も強電界となる領域の電界強度を緩和させることができる。
なお、この場合、絶縁膜は、少なくとも第1電極に対向する第1領域において、好ましくは、第2電極の全外周において、少なくとも第1金属膜外周(第1金属膜の側面側)、好ましくは第1金属膜外周から第1金属膜上の一部を被覆するように形成されている。また、絶縁膜は、半導体層の側面全面、第1電極上の一部の領域を除く第1導電型半導体層の露出面にわたって形成されていることが好ましい。
【0041】
本発明の半導体発光素子では、例えば、図1に示すように、第2領域bにおいては、第1金属膜6端部から第2金属膜7端部までの距離Bが、絶縁膜8の膜厚D以下であるか、あるいは、負の値(第2金属膜端部が第1金属膜端部の内側に配置されている)とすることができる。これにより、第1金属膜での発光層からの光の反射面積をより確保することができ、第2金属膜での光の吸収を最小限に止めることができる。しかも、第1金属膜の第2導電型半導体層への接触面積が大きくなることから、接触抵抗を低下させ、駆動電圧を低減させることができる。特に、第2金属膜端部が第1金属膜端部の内側に位置する場合には、この領域における発光層からの光は、全て第1金属膜で反射されることとなり、反射効率を向上させることができる。なお、第2領域においては、第2導電型半導体層の端部から第2金属膜端部の距離は、例えば、6〜20μm程度、第2導電型半導体層の端部から第1金属膜の端部の距離は、例えば、3〜10μm程度が適当である。」

「【0078】
実施例1
この実施例の半導体発光素子を図1に示す。」
・・・(略)・・・
【0081】
p型半導体層5上には、膜厚1000Å のAg膜からなる第1金属膜6が形成されており、この第1金属膜6の縁部近傍と、p型半導体層5の上面及び側面、さらにn 型半導体層3の露出面とを被覆する絶縁膜8が、膜厚6000Å のSiN により形成されている。さらに、第1金属膜6の上から、絶縁膜8を介してその一部がp 型半導体層5 上にまで及ぶ膜厚1000ÅのP t膜からなる第2金属膜7が形成され、第1金属膜6と第2金属膜7とで第2電極を構成している。
【0082】
なお、第1金属膜6は、平面視において、n電極9に対向する端部領域( 図1(a)及び(b)中、領域a)で、第1金属膜6端部から第2金属膜7端部までの距離A が、絶縁膜8 の膜厚D よりも大きい。また、n電極9に対向しない端部領域(図1(a)及び(b)中、領域b)で、第1金属膜6端部から第2金属膜7端部までの距離Bが、絶縁膜8の膜厚Dよりも小さい。つまり、図1(a)及び(b)において、第1電極に対向する第1領域aの第1金属膜6 端部から第2金属膜7端部までの距離Aは5μm、第1電極に対向しない第2領域bの第1金属膜6端部から第2金属膜7端部までの距離Bは0μm(同一パターン)である。」

「【0084】
このような半導体発光素子は、以下の製造方法により形成することができる。
・・・(略)・・・
【0087】
<パッド電極の形成>
絶縁膜、n電極9及びp電極の上に、レジストにより所定のパターンを有するマスクを形成し、第2の金属膜のPt上に、W層、Pt層およびAu層をこの順に積層し、リフトオフ法により、ボンディング用のパッド電極(図示せず)を総膜厚7000Åで形成した。
得られたウェハを所定の箇所で分割することにより、半導体発光素子1を得た。」

「【0096】
実施例6
この実施例では、図5に示したように、実施例1に示した半導体発光素子1を、実装基体201に、フリップチップ実装することにより発光装置を形成した。
この発光装置は、リード203が固定された実装基体201を含むパッケージ212の凹部202に、接着層204を介してサブマウント基板205に載置されたLEDチップ1が実装されて構成されている。凹部202の側面は反射部206として機能し、実装基体201は放熱部として機能し、外部放熱器(図示せず)に接続されている。また、実装基体201には、凹部202の外部にテラス部207が形成されており、ここに、保護素子(図示せず)が実装されている。実装基体201の凹部202の上方には、光取り出し部208として開口部が形成されており、この開口部に、透光性の封止部材209が埋設されて封止されている。
このような構成により、p電極のAg膜により高効率で光を反射させることができ、半導体発光素子の基板側からの光の取り出し効率を一層向上させることができる。」

(2) 図1及び図5は、次のとおりである。
「【図1】


【図5】



(3)ア 図1(a)によれば、n電極(第1電極)9が形成されている第1導電型半導体層3の表面と、第1金属膜6及び第2金属膜7(第2電極)が形成されている第2導電型半導体層5の表面との2つの表面は、半導体層3・4・5からみて、基板2と反対側に存在する面であることが見て取れる。

イ 図1(b)は、半導体発光素子の平面図である(【0117】)ところ、半導体発光素子の略右下領域にn電極9が存在しており、概ねその余の領域に、第1金属膜6及び第2金属膜7からなるp電極が存在しているといえる。ここで、当該p電極が存在している領域は、4本の閉曲線により描かれているところ、当該各閉曲線の意味するところは、図1(b)に付された図面番号に加えて図1(a)との対比にも照らせば、一番外側の線(以下「第1線」という。)がp型半導体層5の外縁を表しており、第1線の一つ内側の線(以下「第2線」という。)が第2金属膜7の外縁を表しており、第2線の一つ内側の線(以下「第3線」という。)が第1金属膜6の外縁を表しており、第3線の一つ内側の線、つまり、一番内側の線(以下「第4線」という。)が絶縁膜8の内縁を表しているといえる。
そして、第3線(第1金属膜6の外縁)により囲まれた面積は、第1線(p型半導体層5の外縁)と第3線(第1金属膜6の外縁)とにより囲まれた面積よりも大きいことが見て取れる。

引用発明の認定
上記1からみて、引用文献1には、実施例1(図1)に係る半導体発光素子について、次の発明(以下「引用発明」という。なお、括弧内に、参考までに、関連する図面番号を適宜補足説明とともに示し、さらに、認定の根拠とした段落番号なども示してある。)が記載されていると認められる。
「第1導電型(n型)半導体層(3)と、第2導電型(p型)半導体層(5)とを有し、
前記第1導電型(n型)半導体層に接続された第1電極(9,n電極)と、前記第2導電型(p型)半導体層に接続された第2電極(6・7,p電極)とを備え、
前記第1電極(9,n電極)と第2電極(6・7,p電極)とは前記第1導電型(n型)半導体層(3)の同一面側に配置されて構成される半導体素子であって、
前記第2電極(p電極)は、銀又は銀合金を含む第1金属膜(6,Ag)と、銀とは異なる金属からなる第2金属膜(7,Pt)とを有し、
該第2金属膜(7,Pt)は、前記第1金属膜(6,Ag)上で該第1金属膜(6,Ag)と接続され、前記第1金属膜(6,Ag)から露出された第2導電型(p型)半導体層(5)上の少なくとも一部の領域において絶縁膜(8)を介して配置されており、かつ該絶縁膜の第1金属膜(6,Ag)側面側の膜厚(D)よりも、第1金属膜(6,Ag)端部から第2金属膜(7,Pt)端部までの距離(A)が長くなるように、第1金属膜(6,Ag)の外方に延設されてなる半導体素子であり、(【請求項1】)
半導体素子は半導体発光素子であって、(【0014】)
第1導電型(n型)半導体層(3)及び第2導電型(p型)半導体層(5)がこの順に積層されており、(【0014】)
第1導電型(n型)半導体層(3)及び第2導電型(p型)半導体層(5)間には、発光層(4)が配置されており、(【0014】)
これらの半導体層(3・4・5)は、基板(2)の上に形成されており、(【0015】)
第1導電型(n型)半導体層(3)は、1つの半導体発光素子の一部の領域において、第2導電型(p型)半導体層(5)及び発光層(4)、任意に第1導電型(n型)半導体層(3)の深さ方向の一部が除去されて、その表面が露出しており、(【0025】)
この露出した第1導電型(n型)半導体層(3)の表面には、第1電極(9,n電極)が形成されており、(【0027】)
第1電極(9,n電極)が形成されている第1導電型(n型)半導体層(3)の表面と、第2電極(6・7,p電極)が形成されている第2導電型(p型)半導体層(5)の表面との2つの表面は、半導体層(3・4・5)からみて、基板(2)と反対側の面であり、(上記1(3)ア)
第1金属膜(6,Ag)は、第2導電型(p型)半導体層(5)にオーミック接続されて効率的な電流の投入を図るとともに、発光層(4)からの光を効率よく反射させることを意図するものであり、第2導電型(p型)半導体層(5)及び第2金属膜(7,Pt)のそれぞれとの端部間の距離の関係を満たす限り、第2導電型(p型)半導体層(5)上の略全面に、広い面積で形成されており、(【0029】)
第1金属膜(6,Ag)端部から第2金属膜(7,Pt)端部までの距離(A)は、例えば、3〜10μm程度が適当であり、また、第2導電型(p型)半導体層(5)の端部から第2金属膜(7,Pt)の端部までの距離は、例えば、3〜10μm程度、第2導電型(p型)半導体層(5)の端部から第1金属膜(6,Ag)の端部までの距離は、例えば、6〜20μm程度が適当であり、このような第2金属膜(7,Pt)の配置は、第1電極(9,n電極)に対向する第1領域(a)において実現されていることが好ましく、これにより、半導体発光素子内で最も強電界となる領域の電界強度を緩和させることができ、(【0040】)
距離(A)は5μmであり、(【0082】)
第1電極(9,n電極)には対向しない第2領域(b)においては、(【0039】)
第1金属膜(6,Ag)端部から第2金属膜(7,Pt)端部までの距離(B)が、絶縁膜(8)の膜厚(D)以下であるとすることができ、これにより、第1金属膜(6,Ag)での発光層からの光の反射面積をより確保することができ、第2金属膜(7,Pt)での光の吸収を最小限に止めることができ、(【0041】)
距離(B)は0μmであり、(【0082】)
絶縁膜(8)は、第2電極(7,Pt)の全外周において、少なくとも第1金属膜(6,Ag)外周(第1金属膜(6,Ag)の側面側)を被覆するように形成されており、(【0040】)
第2導電型(p型)半導体層(5)上には、膜厚1000ÅのAg膜からなる第1金属膜(6,Ag)が形成されており、この第1金属膜(6,Ag)の縁部近傍と、第2導電型(p型)半導体層(5)の上面(表面)及び側面、さらに第1導電型(n型)半導体層(3)の露出面とを被覆する絶縁膜(8)が、膜厚6000ÅのSiNにより形成されており、(【0081】)
絶縁膜(8)、第1電極(9,n電極)及び第2電極(6・7,p電極)の上に、レジストにより所定のパターンを有するマスクを形成し、第2金属膜(7,Pt)上に、W層、Pt層およびAu層をこの順に積層し、リフトオフ法により、ボンディング用のパッド電極が形成されており、得られたウェハを所定の箇所で分割することにより、半導体発光素子(1)を得るものであり、(【0087】)
フリップチップ実装することにより発光装置を形成しうる、(【0096】)
半導体素子。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 本願発明の「第1面と、前記第1面の反対側に設けられた第2面と、前記第2面に対して段差を形成して前記第1面の反対側に設けられた第3面とをもつ半導体層であって、前記第1面と前記第3面との間に発光層を含む半導体層と」との特定事項について
(1)引用発明の「発光層(4)」は、本願発明の「発光層」に相当する。そして、引用発明では、「第1導電型(n型)半導体層(3)」、「第2導電型(p型)半導体層(5)」及びこれらの両層の間に配置されている上記「発光層(4)」がまとまって「半導体層(3・4・5)」を構成しているところ、当該「半導体層(3・4・5)」は、本願発明の「半導体層」に相当する。

(2)引用発明の「半導体層(3・4・5)」は、「基板(2)の上に形成されて」いるところ、当該「半導体層(3・4・5)」における「基板(2)」側の面は、本願発明の「第1面」に相当する。

(3)引用発明では、「第1電極(9,n電極)が形成されている第1導電型(n型)半導体層(3)の表面と、第2電極(6・7,p電極)が形成されている第2導電型(p型)半導体層(5)の表面との2つの表面は、半導体層(3・4・5)からみて、基板(2)と反対側の面」であるところ、当該「第1電極(9,n電極)が形成されている第1導電型(n型)半導体層(3)の表面」及び当該「第2電極(6・7,p電極)が形成されている第2導電型(p型)半導体層(5)の表面」は、それぞれ、本願発明の「第2面」及び「第3面」に相当し、いずれも、本願発明でいう「前記第1面の反対側に設けられた」ものといえる。
そして、引用発明の「第1導電型(n型)半導体層(3)」は、「1つの半導体発光素子の一部の領域において、第2導電型(p型)半導体層(5)及び発光層(4)、任意に第1導電型(n型)半導体層(3)の深さ方向の一部が除去されて、その表面が露出して」いるものであるから、当該「第1導電型(n型)半導体層(3)」の「表面」(本願発明の「第2面」に相当。)は、「第2(p型)導電型半導体層(5)」の表面(本願発明の「第3面」に相当。)との間で本願発明でいう「段差」が形成されているといえる。

(4)引用発明では、「第1導電型(n型)半導体層(3)及び第2導電型(p型)半導体層(5)間には、発光層(4)が配置されて」いるから、上記(2)及び(3)を踏まえると、当該「発光層」が、本願発明でいう「前記第1面と前記第3面との間に」あることは明らかである。

(5)以上によれば、引用発明は、上記特定事項を満たす。

2 本願発明の「前記第2面に接する第1電極と」との特定事項について
引用発明の「第1電極(9,n電極)」は「前記第1導電型(n型)半導体層に接続され」ているところ、当該「第1電極(9,n電極)」は、本願発明の「第1電極」に相当し、本願発明でいう「前記第2面に接する」ことは明らかである。
よって、引用発明は、上記特定事項を満たす。

3 本願発明の「前記第3面の面内に設けられた第2電極であって、前記第3面に接するコンタクト部と、前記第3面に接しない端部とを有し、銀を含む第2電極と」との特定事項について
(1)引用発明の「第2電極(6・7,p電極)」は「前記第2導電型(p型)半導体層に接続され」ているところ、当該「第2電極(6・7,p電極)」は、本願発明の「第2電極」に相当する。そして、当該「第2電極(6・7,p電極)」が、本願発明でいう「前記第3面の面内に設けられ」ているのは明らかであり、このことは、引用文献1の図1(b)からも首肯できる。

(2)引用発明の「第2電極(6・7,p電極)」は、「銀又は銀合金を含む第1金属膜(6、Ag)と、銀とは異なる金属からなる第2金属膜(7,Pt)とを有」するものであるから、本願発明でいう「銀を含む」ものといえる。
そして、当該「第2電極(6・7,p電極)」のうちの当該「第1金属膜(6,Ag)」は、「第2導電型(p型)半導体層(5)にオーミック接続されて効率的な電流の投入を図る」ものであるから、当該「第1金属膜(6,Ag)」は、本願発明の「コンタクト部」に相当し、これが本願発明でいう「前記第3面に接する」ことは明らかである。
また、当該「第2電極(6・7,p電極)」のうちの当該「第2金属膜(7,Pt)」は、「前記第1金属膜(6,Ag)上で該第1金属膜(6,Ag)と接続され、前記第1金属膜(6,Ag)から露出された第2導電型(p型)半導体層(5)上の少なくとも一部の領域において絶縁膜(8)を介して配置されて」いるから、当該「第2金属膜(7,Pt)」は、その端部において、「絶縁膜(8)」に接する一方で、「第2導電型(p型)半導体層(5)」の表面(本願発明の「第3面」に相当。)とは接しない部位が存在するといえる。そして、当該「第2の金属膜(7,Pt)」の「端部」は「第2電極(6・7,p電極)」の「端部」でもある。そうすると、引用発明の「第2電極(6・7,p電極)」は、本願発明でいう「前記第3面に接しない端部」を有するといえる。

(3)以上によれば、引用発明は、上記特定事項を満たす。

4 本願発明の「前記第2電極の前記端部と、前記第3面との間に設けられた絶縁膜と」との特定事項について
(1)引用発明の「絶縁膜(8)」は本願発明の「絶縁膜」に相当する。

(2)上記3(2)のとおり、引用発明の「第2の金属膜(7,Pt)」は、その端部において、「絶縁膜(8)」に接する一方で、「第2導電型(p型)半導体層(5)」の表面とは接しない部位が存在するから、これを「絶縁膜(8)」を中心に整理すると、当該「絶縁膜(8)」は、「第2の金属膜(7,Pt)」の端部(本願発明の「第2電極」の「端部」に相当。)と「第2導電型(p型)半導体層(5)」の表面(本願発明の「第3面」に相当。)との間に設けられているといえる。

(3)以上によれば、引用発明は、上記特定事項を満たす。

5 本願発明の「前記第1電極に接続された第1配線部と」との特定事項について
引用発明が、本願発明の「前記第1電極に接続された第1配線部」に相当するものを有するのか明らかではない。

6 本願発明の「前記第2電極に接続された第2配線部と」との特定事項について
引用発明は、「第2金属膜(7,Pt)上に、W層、Pt層およびAu層をこの順に積層し、リフトオフ法により、ボンディング用のパッド電極が形成されており、得られたウェハを所定の箇所で分割することにより、半導体発光素子(1)を得るものであ」るから、当該「第2金属膜(7,Pt)」上に形成された「ボンディング用のパッド電極」は、本願発明の「前記第2電極に接続された第2配線部」に相当する。

7 本願発明の「前記絶縁膜と前記第3面とのコンタクト面積は、前記第2電極の前記コンタクト部と前記第3面とのコンタクト面積よりも小さい」との特定事項について
(1)引用発明の「第2電極(6・7,p電極)」(本願発明の「第2電極」に相当。)のうち「銀又は銀合金を含む第1金属膜(6,Ag)」(本願発明の「コンタクト部」に相当。)の面積、つまり、図1(b)における第3線(第1金属膜(6,Ag)の外縁)で囲まれた面積は、本願発明の「前記第2電極の前記コンタクト部と前記第3面とのコンタクト面積」(以下「第2電極・第3面コンタクト面積」ということがある。)に相当する。

(2)引用発明では、「該第2金属膜(7,Pt)は、前記第1金属膜(6,Ag)上で該第1金属膜(6,Ag)と接続され、前記第1金属膜(6,Ag)から露出された第2導電型(p型)半導体層(5)上の少なくとも一部の領域において絶縁膜(8)を介して配置されて」いるところ、当該「絶縁膜(8)」は、「第2導電型(p型)半導体層(5)」の表面において、「第1金属膜(6,Ag)」が存在する領域以外の領域に存在していると解される。換言すれば、当該「絶縁膜(8)」は、「第2導電型(p型)半導体層(5)」の表面(本願発明の「第3面」に相当。)に接する部位を備えるのであり、その接する部位の面積、つまり、図1(b)における第1線(p型半導体層5の外縁)と第3線(第1金属膜(6,Ag)の外縁)とにより囲まれた面積は、本願発明の「前記第2電極の前記コンタクト部と前記第3面とのコンタクト面積」(以下「絶縁膜・第3面コンタクト面積」ということがある。)に相当する。

(3)しかし、引用発明では、第2電極・第3面コンタクト面積と絶縁膜・第3面コンタクト面積との大小関係は特定されていない。

8 本願発明の「半導体発光装置」との特定事項について
引用発明の「半導体素子」は、「半導体発光素子」であるから、本願発明の「半導体発光装置」に相当する。
よって、引用発明は、上記特定事項を満たす。

9 一致点及び相違点の認定
以上によれば、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違するか又は相違する。

<一致点>
「第1面と、前記第1面の反対側に設けられた第2面と、前記第2面に対して段差を形成して前記第1面の反対側に設けられた第3面とをもつ半導体層であって、前記第1面と前記第3面との間に発光層を含む半導体層と、
前記第2面に接する第1電極と、
前記第3面の面内に設けられた第2電極であって、前記第3面に接するコンタクト部と、前記第3面に接しない端部とを有し、銀を含む第2電極と、
前記第2電極の前記端部と、前記第3面との間に設けられた絶縁膜と、
前記第2電極に接続された第2配線部と、
を備える、
半導体発光装置。」

<相違点1>
本願発明は「前記第1電極に接続された第1配線部」を備えるのに対して、引用発明はそうであるのか不明である点。

<相違点2>
本願発明は「前記絶縁膜と前記第3面とのコンタクト面積は、前記第2電極の前記コンタクト部と前記第3面とのコンタクト面積よりも小さい」のに対して、引用発明はそうであるとは特定されていない点。

第6 判断
1 相違点1について
引用発明に係る「半導体素子」は、「フリップチップ実装することにより発光装置を形成しうる」ものであるところ、フリップチップ実装を行う際に、当該実装用のパッド電極を半導体発光素子に形成してこれを行うことは例示するまでもなく技術常識であると認められる。
よって、引用発明において、上記技術常識を踏まえて、「第1電極(9,n電極)」にフリップチップ実装用のパッド電極を形成して上記相違点1に係る本願発明の構成をなすことは、当業者が適宜なし得たことである。

2 相違点2について
引用発明が相違点2に係る本願発明の構成を満たしているというためには、引用発明における第2電極・第3面コンタクト面積、つまり、引用文献の図1(b)における第3線(第1金属膜(6,Ag)の外縁)により囲まれた面積が、絶縁膜・第3面コンタクト面積、つまり、同図における第1線(第2導電型(p型)半導体層(5)の外縁)と第3線(第1金属膜(6,Ag)の外縁)とにより囲まれた面積よりも大きければ足りる。
そこで検討すると、上記第4の1(3)イで説示したとおり、当該図1(b)からみて、第3線により囲まれた面積が、第1線と第3線とにより囲まれた面積よりも大きいことが、一見して明らかである。この点、同図が、併記された図1(a)とともに模式図であって、その寸法や形状等を正確に示すものではないとしても、当業者であれば、これらの各線をその技術的意味を踏まえて理解するのが当然である。しかるに、第3線は第1金属膜(6,Ag)の外縁であるところ、当該第1金属膜(6,Ag)は、「第2導電型(p型)半導体層(5)にオーミック接続されて効率的な電流の投入を図る」ためのものであって、しかも、「発光層(4)からの光を効率よく反射させることを意図するもの」であるから、発光に直接寄与する部分、つまり、半導体発光素子の本来的な機能を発揮するための部分であるといってよい。そうだとすれば、当業者は、第3線で囲まれた領域に着目するといえるともに、この領域が、上記の本来的な機能を発揮する部分であるからこそ、第1線(第2導電型(p型)半導体層(5)の外縁)で囲まれた領域のうちの大部分を占めていると理解するのであり、これを逆からいえば、当業者は、第1線で囲まれた領域のうち第3線で囲まれた領域以外の領域は、さほど大きくないと理解するといえる。
このように、引用発明に係る図1(b)では、第3線で囲まれた面積が、第1線と第3線とにより囲まれた面積よりも大きいことが一見して明らかであるとともに、そのように看取できた内容は、半導体発光素子における技術的合理性にも沿うから、当該図が図1(a)を含めて模式図であるとしても、引用発明は、第3線で囲まれた面積が第1線と第3線とにより囲まれた面積よりも大きいといえるのであり、よって、相違点2に係る本願発明の構成を満たしている。そして、以上の理解は、引用発明では、「第1金属膜(6,Ag)」が、「第2導電型(p型)半導体層(5)上の略全面に、広い面積で形成されて」いることからも首肯できる。
したがって、相違点2は実質的なものではない。仮に、相違点2が実質的であるとしても、引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、半導体発光素子の本来的な機能をより発揮させようとするために、当業者が適宜なし得たことである。

3 本願発明の奏する作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、引用文献1の図1に係る半導体発光素子についての引用発明が、本願発明の絶縁膜・第3面コンタクト面積は第2電極・第3面コンタクト面積「よりも小さい」という構成(以下「面積関係構成」ということがある。)を満たしていない旨主張し、その根拠として、引用文献1の図1(a)及び(b)は、縮尺が整合していないから、これらの図面は模式的なものにすぎないし、このような不整合な図面の一方のみから導ける事項は、引用文献1の記載から一義的に導ける事項ではないから、これをもって、引用発明とすることができないこと、を挙げる。
しかしながら、上記2で説示したとおり、図1が模式図であるとしても、当業者は、引用発明が面積関係構成を満たしていることを理解できる。

(2)請求人は、原査定が、引用発明に係る半導体発光素子のスケール(約320μm四方や1×2mmと同様のスケール)を算出した上で、Aが3〜10μm程度であることに基づいて、引用発明が面積関係構成を満たしている旨説示したのに対して、原査定の上記説示が誤っている旨主張し、その根拠として、(i)原査定が上記スケールを算出する際に用いた引用文献1の記載(【0095】・【0106】)が、引用発明に係る実施例1とは異なる実施例(実施例4・8)に係るものであること、(ii)引用文献1には、これらの実施例以外の実施例も記載されているのにも関わらず、これらの実施例だけを上記算出の根拠とすることはできないこと、(iii)原査定が認定した上記スケールを前提としても、引用発明において、Aが3〜10μm程度であることからは、絶縁膜コンタクト面積もコンタクト部コンタクト面積も算出できないこと、(iv)原査定が認定した上記スケールを前提としつつ、Aを3〜10μmとすると、図1(a)及び(b)の各部分の大きさの忠実性が失われるため、図1からは、絶縁膜コンタクト面積及びコンタクト部コンタクト面積を推測することはできないこと、(v)引用文献1には、面積関係構成を開示しようとする意図がないこと、を挙げる。
しかしながら、上記原査定の説示は、結局のところ、半導体発光素子の本来的な機能を発揮するための部分の面積(第3線で囲まれた面積)が、それ以外の部分の面積(第1線と第3線とにより囲まれた面積)よりも小さいという、技術的にみればごく自然に理解される事項を、種々の事情に基づいて説明しようとしただけのものといえる。そして、当該各事情には、個々としてみると、面積関係構成を満たしているとは言い切れない余地があるとしても、面積関係構成を満たしている方向性の事情であるといえる。
以上によれば、請求人の主張をもって、上記2の認定判断が左右されることはない。

(3)よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。

5 小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-17 
結審通知日 2022-11-18 
審決日 2022-12-05 
出願番号 P2018-504554
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 吉野 三寛
金高 敏康
発明の名称 半導体発光装置  
代理人 日向寺 雅彦  

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