• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1393676
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-19 
確定日 2023-01-04 
事件の表示 特願2017−140629「キャリッジおよび記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019− 18498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月20日の出願であって、令和3年3月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月7日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して、同年8月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月17日付けで同年8月6日に提出された手続補正書でした補正が却下されると共に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1乃至6に係る発明は、令和3年5月26日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定され、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
インク滴を吐出するノズルが設置されたノズル面を備えたヘッドと、
前記ノズル面に沿って流動する気流を加えるプラズマアクチュエーターと、
前記ヘッドと前記プラズマアクチュエーターとを支持する本体部と、
を備え、
前記本体部において前記ノズル面に沿って流れる気体が流れる面である気流面には凹部または凸部の少なくとも一方が配置され、
前記凹部または前記凸部の少なくとも一方は、重力方向において、前記ノズル面の上流に配置されることを特徴とするキャリッジ。」


第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、令和3年6月7日付け拒絶理由通知の理由は、次の理由を含むものである。
進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明、引用文献2、3等に記載された周知技術及び引用文献5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2016−175241号公報
2.特開2015−193219号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2016−175402号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2012−196792号公報


第4 当審の判断
1 引用例
(1)引用例1
本願の出願日前に頒布された公開公報である特開2016−175241号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付した。以下、同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドと記録媒体との間の領域に気流を吹き出して吐出された液滴による着弾位置のばらつきを少なく抑える液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているインクジェット記録装置では、渦を記録ヘッドと記録媒体との間の領域から除去するのに、比較的大きな流量の吹き出しが必要とされる。必要とされる吹き出しの流量が大きくなると、吹き出しを発生させるための吹き出し発生手段がそれだけ大型化してしまう。従って、インクジェット記録装置が大型化してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、吹き出しの流量が少なく抑えられつつ、液体の吐出の際の着弾位置の精度が高く維持される液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。」
ウ 「【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドとしての記録ヘッド及び記録ヘッドを備えた液体吐出装置としてのインクジェット記録装置の構成について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置1の主要部についての構成の概要を示す斜視図である。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド3から記録媒体にインク等の液体を吐出することで記録を行う。記録ヘッド3は、インクを吐出する吐出口を複数有している。記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2に不図示のキャリッジモータによって発生する駆動力を伝達機構より伝え、キャリッジ2を往復移動させる。
【0011】
インクジェット記録装置1のキャリッジ2には、記録ヘッド3が搭載される。また、キャリッジ2には、記録ヘッド3が搭載されると共に、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6が搭載される。インクタンク6は、キャリッジ2に対して着脱自在に搭載されている。記録ヘッド3は、3つのインクタンク6のそれぞれからのインクが供給されるように構成されている。なお、記録ヘッド3とインクタンク6とは、それぞれの色ごとに一体に形成されてインクカートリッジを構成していても良い。
【0012】
図1に示したインクジェット記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2には3つのインクタンクが搭載されている。これら3つのインクタンクは、それぞれ独立に着脱可能である。3つのインクタンクから一つの記録ヘッド3にそれぞれの色のインクが供給される。
【0013】
キャリッジ2と記録ヘッド3とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド3は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口4からインクを選択的に吐出して記録を行う。
【0014】
本実施形態の記録ヘッド3は、不図示の電気熱変換素子が配置された基板と、吐出口4が形成されたオリフィスプレート5とを有している。オリフィスプレート5における記録媒体の側を向いた面が、記録ヘッド3の吐出口形成面8として構成されている。基板には、電気熱変換素子を選択的に駆動させるためのスイッチングトランジスタ等の半導体素子が配置されている。そして、基板とオリフィスプレート5とが接合されることで、それらの間に液体としてのインクを貯留可能な液室が画成される。また、基板には、記録ヘッド3にインクを供給するインク供給口が、液室に連通するように形成されている。インク供給口を介してインクタンク6から記録ヘッド3にインクが供給される。」
エ 「【0019】
図2(a)、(b)に、本実施形態のインクジェット記録装置1のキャリッジ2に搭載される記録ヘッド3について示す。図2(a)は、記録ヘッド3における吐出口4の形成された吐出口形成面をプラテン側から見た平面図であり、図2(b)は、液体吐出ヘッドの吐出口周辺の部分について示した断面図である。
【0020】
図2(a)、(b)に示されるように、本実施形態の記録ヘッドでは、1つの記録ヘッドに、インクを吐出する吐出口が複数配置されていると共に、複数の吐出口が列状に配置されて吐出口列9が形成されている。本実施形態では、吐出口を複数備えた吐出口列9が複数配列されており、記録ヘッド3には、3つのインクタンク6の数に対応して、3列の吐出口列9が形成されている。
【0021】
記録ヘッド3には、気流を吹き出すことが可能な吹き出し口10が形成されている。本実施形態では、吐出口形成面8に吹き出し口10が開口されて形成されている。吹き出し口10は、3列の吐出口列9のそれぞれに対応して形成され、それぞれの吹き出し口10は、対応するそれぞれの吐出口列9の、記録ヘッド走査方向の後方側に形成されている。つまり、吹き出し口10は、記録ヘッド3における、吐出口4よりも、記録媒体に対する相対移動の移動方向の前方側に配置されている。吹き出し口10は、吐出口列9の配列された配列方向に平行な方向に延在して形成されている。吹き出し口10は、吐出口列9の配列方向に沿って、記録ヘッド走査方向の前方の側で、吐出口列9を全体に亘って覆うように、吐出口列9よりも長く形成されている。
【0022】
インクジェット記録装置1は、吹き出し口10から気体の吹き出しを行うために、吹き出し口10に吹き出しのための気体を供給する吹き出し機構を備えている。本実施形態では、吹き出し口10から空気が吹き出される。
【0023】
本実施形態のインクジェット記録装置1で用いられる吹き出しのために、空気を吹き出し口10に供給する供給装置30(図4(a))について説明する。吹き出し口10は記録ヘッド3に接続された供給ホース31を通して、供給装置30に接続されている。本実施形態では、供給装置30は、所望の流量の気流を安定的に吹き出し口10へ供給できるように、コンプレッサ、ガス溜め、弁などを有して構成されている。また、本実施形態では、供給装置30は、インクジェット記録装置1の本体側に取り付けられている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、供給装置30が記録ヘッドに取り付けられる構成としても構わない。また、インクジェット記録装置1の外部に設置された別体の供給装置から、空気等の気体が記録ヘッド3の吹き出し口10に供給されることとしてもよい。」
オ 「【0025】
また、本実施形態の記録ヘッド3では、記録ヘッド3における吐出口形成面8に、吐出口形成面8から記録媒体に向かう方向に突出した突起部(突出部)11が設けられている。図2(a)、(b)に示されるように、突起部11は、オリフィスプレート5の吐出口形成面8に、吐出口列9が延びている方向に平行に延在して形成されている。」
カ 「【0033】
これに対し、本実施形態では、図4(a)に示されるように、記録ヘッド3における吐出口形成面8に、吹き出し口10が形成されていると共に、突起部11が形成されている。記録ヘッド3の吐出口形成面8に突起部11が形成されているので、吐出口4から液滴が吐出されて吐出口4よりも記録ヘッド走査方向の前方に渦20が形成されたとしても、渦20に対し突起部11が抵抗として働く。そのため、渦20が小さくされると共に渦20が弱められる。記録ヘッド3における吐出口形成面8に突起部11が設けられると、渦20の形成されている領域において、突起部11の無い場合と比べて、記録媒体から記録ヘッド3側の壁面までの距離を短くすることができる。突起部11の無い場合は、インク滴が吐出されることで生成される渦20は、記録媒体から記録ヘッド3の吐出口形成面8までの領域にすっぽり収まる大きさで生成される。本実施形態では、記録ヘッド3の吐出口形成面8に突起部11が形成されているので、渦20は、突起部11と記録媒体との間の領域で生成される。渦20の生成される領域において、記録ヘッド3の吐出口形成面8に突起部11が形成されているので、突起部11の分だけ渦20の生成される領域の高さが減少している。そのため、そこで生成される渦20の直径が小さく抑えられる。これにより、渦20を一定以下の強さ・大きさに保つことができる。」
キ 「【0075】
第5実施形態では、図11に示されるように、吐出口形成面8と記録媒体との間の空間に空気を吹き出す吹き出し口10fが、記録ヘッド3dのオリフィスプレート5に形成されているわけではない。吹き出し口10fが、記録ヘッド3dとは別の部材として構成された部材に形成されており、記録ヘッド3dの外部に設けられている。第1実施形態ないし第4実施形態では、吹き出し口が記録ヘッドにおけるオリフィスプレートの吐出口形成面に設けられている。そのため、オリフィスプレートを微細に加工する必要がある。これに対し、本実施形態では、吹き出し口10fが別の部材に形成されているので、オリフィスプレート5に細かい加工を行う必要がなく、吹き出し口10を有するインクジェット記録装置の製造が容易になる。」

そうすると、上記記載事項ア乃至キより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「記録ヘッド3が搭載されるインクジェット記録装置1のキャリッジ2であって、
記録ヘッド3は、複数の吐出口4からインクを選択的に吐出して記録を行い、
吹き出し口10は、3列の吐出口列9のそれぞれに対応して形成され、記録媒体に対する相対移動の移動方向の前方側に配置され、
吹き出し口10は供給ホース31を通して、所望の流量の気流を安定的に供給できる供給装置30に接続され、
吐出口形成面8には気流を吹き出すことが可能な吹き出し口10が開口されて形成され、
吹き出し口10は、吐出口列9の配列方向に沿って、記録ヘッド走査方向の前方の側で、吐出口列9を全体に亘って覆うように、吐出口列9よりも長く形成され、
記録ヘッド3における吐出口形成面8に、吐出口形成面8から記録媒体に向かう方向に突出した突起部11が設けられ、吐出口4から液滴が吐出されて吐出口4よりも記録ヘッド走査方向の前方に形成される渦20に対し突起部11が抵抗として働き、渦20が弱められ、
吐出口形成面8と記録媒体との間の空間に空気を吹き出す吹き出し口10fが、記録ヘッド3dとは別の部材として構成された部材に形成されている、キャリッジ2。」

(2)引用例2
本願の出願日前に頒布された公開公報である特開2012−196792号公報(原審の引用文献5。以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、噴射ヘッドからインクを噴射する場合、噴射ヘッドと記録媒体とを相対的に移動させるため、当該噴射ヘッドと記録媒体との間に乱気流が発生する場合がある。このような乱気流が生じると、インクミストが欄気流に乗って拡散するおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、ミスト状の液体の拡散を抑制することができる液体噴射装置を提供することを目的とする。」
ウ 「【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る印刷装置PRT(液体噴射装置)の概略構成を示す図である。本実施形態では、印刷装置PRTとしてインクジェット型の印刷装置を例に挙げて説明する。」
エ 「【0026】
ヘッドHのノズル形成面Haには、複数のノズルNZが形成されている。複数のノズルNZは、X方向に並んで配置されており、ノズル列が形成されている。ノズル列は、Y方向に4つ設けられている(図3参照)。各ノズル列からは、同一色のインクが噴射されるようになっている。
【0027】
キャリッジ4は、ヘッドHの−Z側端部を支持すると共に、ヘッドHの周囲を囲うように配置されている。キャリッジ4のうち−Z側の面(キャリッジ底面)4aは、ヘッドHのノズル形成面Haに一致するように形成されている。キャリッジ底面4aには、気流調整部60が設けられている。
【0028】
気流調整部60は、ノズル形成面Haと媒体Mとの間の空間の気流を調整する。つまり、複数のノズルNZに接する空間の気流を調整する。気流調整部60は、キャリッジ底面4aのうち複数のノズルNZをY方向に挟む位置に配置されている。このように、気流調整部60は、複数のノズルNZの周囲に配置されている。
【0029】
気流調整部60は、キャリッジ底面4aから−Z側へ突出した複数の凸部61を有している。複数の凸部61は、それぞれ同一形状に形成されている。本実施形態では、各凸部61は菱形に形成されている(図3参照)。各凸部61は、長手方向がY方向に沿うように配置されている。このように、各凸部61は、Y方向の両端部へ向けて先細りとなるように形成されている。したがって、各凸部61は、Y方向に対して傾いた斜面を有する構成となっている。
【0030】
気流調整部60は、ヘッドHの+Y側及び−Y側に、それぞれ5つずつの凸部61を有している。ヘッドHの+Y側に設けられる5つの凸部61の配置と、ヘッドHの+Y側に設けられる5つの凸部61の配置とは、X軸に対して線対称となっている。このため、ヘッドHの+Y側と−Y側とで気流が同様に調整されるようになっている。」
オ 「【0033】
次に、上記のように構成された印刷装置PRTの動作を説明する。
ヘッドHによる印刷動作を行う場合、制御装置CONTは、搬送部CVによって媒体MをヘッドHの−Z側に配置させる。媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、ヘッドHを移動させつつ、印刷する画像の画像データに基づいてノズルNZに係る駆動信号発生器92から圧電振動子38に駆動信号を入力する。圧電振動子38に駆動信号が入力されると、圧電振動子38が伸縮し、ノズルNZからインクが噴射される。ノズルNZから噴射されたインクによって、媒体Mに所望の画像が形成される。
【0034】
ヘッドHからインクを噴射する際に、当該インクの噴射動作に伴う風圧などによってインクミストが発生する場合がある。このインクミストは、ヘッドHと媒体Mとの間に乱気流が生じると、当該乱気流に乗って拡散する場合がある。例えば図5に示すように、印刷動作中は、ヘッドHを移動させることにより、ヘッドHと媒体Mとの間にはZ方向に振動する気流70や、ヘッドHの一部で渦を形成する気流71などの乱気流が発生する。このような乱気流70及び71によって拡散されたインクミストが印刷装置PRTの各部に付着すると、印刷品質の低下を引き起こしたり、動作不良の原因になったりする。
【0035】
これに対して、本実施形態では、図6に示すように、ヘッドHと媒体Mとの間に気流調整部60が設けられているため、当該気流調整部60によってヘッドHと媒体Mとの間の空間の気流が調整されることになる。具体的には、ノズル形成面Ha側の気流72が凸部61の斜面に衝突し、斜面に沿って流れることにより、当該気流72が凸部61の間を流れることとなる。このように気流72を凸部61の斜面に沿わせることにより、気流72のZ方向の乱流が抑制されることになる。このため、媒体M側の気流73についてもZ方向への乱れが抑制される。この結果、ヘッドHと媒体Mとの間の空間には、Y方向に沿った一定速度の気流72及び73が形成されることとなる。」
カ 「【0045】
図12に示すように、凹部66及び67は、X方向に平行に形成されている。凹部66は、キャリッジ底面4aに溝状に形成されている。また、凹部67は、キャリッジ底面4aの角部を切り落とした状態に形成されている。このように、凹部66及び67を形成することにより、ヘッドHと媒体Mとを近接させる場合であっても、ヘッドHが媒体Mに接触するのを防ぐことができる。」
キ 【図12】


ク 図12より、凹部66は、ノズル形成面Haより重力方向において、上方に位置していることが看取できる。

そうすると、上記記載事項ア乃至キ及び認定事項クより、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ヘッドHの−Z側端部を支持すると共に、−Z側の面4aは、ヘッドHのノズル形成面Haに一致するように形成されているキャリッジ4であって、
ノズル形成面Haと媒体Mとの間の空間には気流が発生し、
凹部66が、キャリッジ底面4aに溝状に形成され、ノズル形成面Haより重力方向において、上方に位置している、キャリッジ4。」

(3)引用例3
本願の出願日前に頒布された公開公報である特開2015−193219号公報(原審の引用文献2。以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドからインク等の液体を吐出する液体吐出装置および液体吐出方法に関するものである。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の記録装置は、吹出し孔と吸込み孔との間において形成される気流がノズルの位置を横切ることになる。そのため、その気流の影響により、ノズルから吐出されて記録媒体に着弾するインク滴の着弾位置がずれて、画像の記録品位を損ねるおそれがある。一方、吹出し孔と吸込み孔との間に形成される気流の流量が少ない場合には、インクミストの回収が難しくなる。
【0006】
本発明の目的は、液体吐出ヘッドから吐出される液体のミストの飛散を抑制することができる液体吐出装置および液体吐出方法を提供することにある。」
ウ 「【0035】
(第6の実施形態)
本実施形態においては、図11のように、吹出し孔7からの気体の吹出、および吸込み孔8からの気体の吸込みのために、誘電体と交流電圧源を含むプラズマアクチュエータを用いる。吹出し孔7に備わる誘電体51を挟む電極52、53に交流電源54から交流電圧を掛けることにより、吹出し孔7から吹き出る気流が生じる。また、吸込み孔8に備わる誘電体55を挟む電極56、57に交流電源58から交流電圧を掛けることにより、吸込み孔8に吸込まれる気流が生じる。このようなプラズマアクチュエータを用いることにより、狭いスペースにおいても気流を生じることができ、ポンプ等の大きな機械装置が不要となり、記録装置全体の小型化を図ることが可能となる。」

(4)引用例4
本願の出願日前に頒布された公開公報である特開2016−175402号公報(原審の引用文献3。以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出手段による液体の吐出を行うと共に、記録媒体と液体吐出手段との間に発生するミストを除去可能とする液体吐出装置に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の装置では、空気の吸込みおよび吹出しにより多くの気流が発生した場合には、記録ヘッドから吐出された液滴の着弾位置が気流の影響を受けて適正な着弾位置からずれてしまい、画像品位が損なわれることがある。また逆に、空気の吸込み量および吹出し量が少ない場合には、十分にミストを除去できず、ミストによる汚損を発生させることがある。
【0007】
また、特許文献2に開示の装置では、隣接する記録ヘッドの間に設けた吸込み孔と吹出し孔とを併用してミストを除去することにより、画像を乱す気流の発生を抑制することが開示されている。しかし、特許文献2に開示の技術にあっても、空気の吸込み量、吹出し量がある一定の範囲内にあるときは、ミストを除去できず、ミストの付着による各部の汚損が十分に解消されない。
【0008】
このように、最適な吸込み動作と吹出し動作の双方を行いつつミストの除去を行うようにした従来の液体吐出装置にあっては、実機やシミュレーションによる試行錯誤が必要であり、明確な指標等は見つかっていない。
【0009】
本発明は、液体吐出手段と記録媒体との間に発生したミストを効率的に除去することが可能な液体吐出装置の提供を目的とする。」
ウ 「【0057】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態を説明する。この第5実施形態は、図11に示すように、ミストを吸込み孔7から吸引する気流を発生させる吸気手段と、吹出し孔8から空気を送気する送気手段を、それぞれプラズマアクチュエータ131と132を用いて構成したものである。プラズマアクチュエータ131と132は、ミスト除去ヘッド14の吸込み孔7、吹出し孔8のそれぞれの内面に設けられている。プラズマアクチュエータ131、132は、誘電体134を一対の電極135、136で挟むと共に、交流電源としての高周波発生装置137から出力された交流電圧を電極135、136の間に印加するよう構成されている。これによれば、吸い込み孔7および吹出し孔8に対して一定向の気流を発生させことが可能になる。
【0058】
このように、第5実施形態では、一方のプラズマアクチュエータ131によって、吸込み孔7の内面に沿って内方へと空気を流動させ、他方のプラズマアクチュエータ132によって、吹出し孔8の内面に沿って空気を吹き出させるように構成されている。なお、吸込み孔7および吹出し孔8のそれぞれの内周面に沿って誘電体を円筒状に配置し、その誘電体の内外両周面に沿って複数の電極を配置するようにすることも可能である。
【0059】
このプラズマアクチュエータ132、133を用いることにより、狭いスペースにおいても気流を発生させることが可能となる。さらに、この第5実施形態によれば、ポンプ等の大型な機械装置が不要となり、液体吐出装置1を小型に構成することができる。また、プラズマアクチュエータ131、132による空気の流量は、電極に印加する電圧値、および周波数を制御することにより、容易に調整することが可能になる。」

2 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 後者の「『吐出口4』から『吐出』される『インク』」、「吐出口4」、「吐出口形成面8」、「記録ヘッド3」、「『吐出口形成面8』にが設けられた『吐出口形成面8から記録媒体に向かう方向に突出した突起部(突出部)11』」及び「キャリッジ2」は、それぞれ、前者の「インク滴」、「ノズル」、「ノズル面」、「ヘッド」、「『ノズル面に沿って流れる気体が流れる面である気流面』に『配置され』た『凸部』」及び「キャリッジ」に相当する。
イ 後者の「キャリジ2」は、「記録ヘッド3」が搭載されるから、後者の「キャリッジ2」は、ヘッドを支持する本体部を備えるといえる。
ウ 後者の「供給装置30」は、吹き出し口10に、所望の流量の気流を安定的に供給して、吐出口形成面8に気流を吹き出すものであるから、前者の「プラズマアクチュエーター」と後者の「供給装置30」とは、「ノズル面に沿って流動する気流を加える」手段との概念で共通する。

(2)本願発明と引用発明1の一致点と相違点について
上記アの対比を踏まえると、本願発明と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、相違点において相違する。
[一致点]
「インク滴を吐出するノズルが設置されたノズル面を備えたヘッドと、
前記ノズル面に沿って流動する気流を加える手段と、
前記ヘッドを支持する本体部と、
を備えるキャリッジ。」

[相違点1]
本願発明が、ノズル面に沿って流動する気流を加える手段として「プラズマアクチュエーター」を備え、本体部は、「プラズマアクチュエーター」を支持しているのに対し、引用発明1は、ノズル面に沿って流動する気流を加える手段として「供給装置30」を備え、供給装置30に接続された供給ホース31及び吹き出し口10が記録ヘッド3に設けられている点。

[相違点2]
本願発明が、「本体部においてノズル面に沿って流れる気体が流れる面である気流面には凹部または凸部の少なくとも一方が配置され、前記凹部または前記凸部の少なくとも一方は、重力方向において、前記ノズル面の上流に配置される」ているのに対し、引用発明1は、吐出口形成面8に、吐出口形成面8から記録媒体に向かう方向に突出した突起部(突出部)11が設けられているものである点。

(3)上記各相違点についての検討
ア [相違点1]について
ミストを除去するための送気手段としてプラズマアクチュエーターを使用する技術は、引用例3及び引用例4に記載されているように、周知の技術手段(以下「周知技術」という。)である。
ここで、引用発明1も、上記周知技術も液体噴射装置の技術分野に属する点で共通する。
また、引用発明1も、上記周知技術も、記録ヘッドと記録媒体間に発生する気流の影響による吐出液滴の着弾位置ずれを解消するという課題を有する点で共通する。
そうすると、引用発明1に、上記周知技術を適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明1の記録ヘッド3の吐出口形成面8には、供給装置30に接続された供給ホース31の吹き出し口10が形成されているところ、供給装置30、供給ホース31、及び吹き出し口10に替えて、上記周知技術を適用し、プラズマアクチュエータを採用すれば、吐出口形成面8にプラズマアクチュエータが備わることとなり、記録ヘッド3が搭載されるキャリッジ2にプラズマアクチュエータが支持されることとなって、上記相違点1に係る本願発明の構成となる。
よって、引用発明1に、上記周知技術を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明は、当業者が容易に想到し得るものである。

イ [相違点2]について
引用発明2の「凹部66」及び「ノズル形成面Ha」は、本願発明の「凹部」及び「ノズル面」に相当する。
引用発明2の「キャリッジ4」は、ノズル形成面Haと媒体Mとの間の空間に気流が発生するものであるから、引用発明2の「ノズル形成面Ha」は、本願発明の「気流面」にも相当する。
また、引用発明2の「凹部66」は、ノズル形成面Haより重力方向において、上方に位置しているから、本願発明の「凹部」と引用発明2の「凹部66」とは、「重力方向において、前記ノズル面の上流に配置」しているとの概念で共通する。
してみると、引用発明2には、上記相違点2に係る本願発明の構成が示されているといえる。
ここで、引用発明1も、引用発明2も液体噴射装置の技術分野に属する点で共通する。
また、引用発明1も、引用発明2も記録ヘッドと記録媒体との間で発生する渦(乱気流)の影響を低減することを課題とする点で共通する。
そうすると、引用発明1に、引用発明2を適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明1は、突起部11が渦20を弱めているところ、該突起部11に替えて、引用発明2の凹部66を適用すれば、上記相違点2に係る本願発明の構成となる。
よって、引用発明1に、引用発明2を適用することにより、相違点2に係る本願発明を構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の効果も、引用発明1、上記周知技術及び引用発明2から、当業者が予測し得る程度のものといえる。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-31 
結審通知日 2022-11-01 
審決日 2022-11-16 
出願番号 P2017-140629
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 古屋野 浩志
特許庁審判官 藤本 義仁
比嘉 翔一
発明の名称 キャリッジおよび記録装置  
代理人 松岡 宏紀  
代理人 仲井 智至  
代理人 今村 真之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ