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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1393677
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-19 
確定日 2023-01-11 
事件の表示 特願2019−510135「液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日国際公開、WO2018/181733〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年3月29日(優先権主張2017年3月29日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年2月2日付けで拒絶理由(最後)が通知され、これに対して、同年3月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月13日付けで同年3月24日に提出された手続補正書が却下されると共に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し、同年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 令和3年8月13日付けの補正の却下の決定(以下「原審補正の却下の決定」という。)の適否について
審判請求人は、審判請求書において、下記「2(3)」のとおり主張しており、かつ審判請求と同時に補正がなされていないことから、令和3年8月13日付けの補正の却下の決定に対して不服の申立てがあるものと認められる。
したがって、令和3年3月24日付け手続補正書でした特許請求の範囲についての補正(以下「本件補正」という。)は、却下するとしている、令和3年8月13日付けの補正の却下の決定の適否について以下に検討する。

1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和2年8月8日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至14を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至14へと補正することを含むものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路は、第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第2共通流路は、前記第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第1方向と交差する方向を第2方向とすると、
前記第1共通流路は、前記第2方向に沿って複数配置されており、各々の前記第1共通流路の両端にそれぞれ設けられた開口は、全体として、前記第2方向に沿って延びる、第1列および第2列の2つの列を成すように配置されており、
前記第2共通流路は、前記第2方向に沿って複数配置されており、各々の前記第2共通流路の両端にそれぞれ設けられた開口は、全体として、前記第2方向に沿って延びる、第3列および第4列の2つの列を成すように配置されており、
前記第1列に沿って設けられ、前記第1列に属する開口にそれぞれ接続された、第1部分と、前記第2列に沿って設けられ、前記第2列に属する開口にそれぞれ接続された第2部分と、を有する第1統合流路を有しており、
前記第3列に沿って設けられ、前記第3列に属する開口にそれぞれ接続された、第3部分と、前記第4列に沿って設けられ、前記第4列に属する開口にそれぞれ接続された第4部分と、を有する第2統合流路を有している、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されており、
前記第1共通流路は、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部から液体を供給され、
前記第2共通流路は、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部で前記液体を回収され、
前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有しており、
前記第2個別流路は、前記第2共通流路に接続される部分に、前記加圧室に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有しており、流路抵抗が前記第1個別流路と異なっている、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記加圧室は、前記加圧部に面している加圧室本体と、該加圧室本体と吐出孔とを繋いでいる部分流路とを含んでおり、
前記第1共通流路は、前記加圧室本体に繋がっており、前記第2共通流路は、前記部分流路に繋がっていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1共通流路と前記第2共通流路とが重なって配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1共通流路と前記第2共通流路とが重なっている位置にダンパ室が配置されており、該ダンパ室の前記第1共通流路側および前記第2共通流路側の両方がダンパとなっていることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2共通流路の第1方向側の開口は、前記第1共通流路の前記第1方向側の開口よりも、前記第1方向に配置されており、
前記第2共通流路の第1方向と反対の方向である第3方向側の開口は、前記第1共通流路の前記第3方向側の開口よりも、前記第3方向に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路は、第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第2共通流路は、前記第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記加圧室は、前記加圧部に面している加圧室本体と、該加圧室本体と吐出孔を繋いでいる部分流路とを含んでおり、
前記第1共通流路と前記加圧室本体とは、第1個別流路を介して繋がっており、該第1個別流路の前記加圧室本体側の開口は、前記加圧室本体の面積重心に対して、前記部分流路の前記加圧室本体側の開口の反対側に配置されており、
前記加圧室本体の平面形状は、3回以上の回転対称性を有しており、かつ、互いにほぼ回転していない状態に配置されており、
前記第1共通流路に沿って、当該第1共通流路に繋がっている前記加圧室が、当該第1共通流路の片側に2行、両側で4行の加圧室行を構成して並んでおり、
前記4行の加圧室行を前記第1方向と交差する方向である第2方向に順に、第1加圧室行、第2加圧室行、第3加圧室行、および第4加圧室行としたとき、
前記第2、3加圧室行においては、前記部分流路の前記加圧室本体側の開口は、前記第1共通流路に対して、当該加圧室本体の面積重心よりも遠くに配置されており、
前記第1、4加圧室行における前記加圧室本体の面積重心に対する前記第1個別流路の前記加圧室本体側の開口の相対位置は、前記第2、3加圧室行における前記加圧室本体の面積重心に対する前記第1個別流路の前記加圧室本体側の開口の相対位置よりも、前記第1共通流路から離れた位置であり、
前記第1加圧室行に対応する前記第1個別流路と、前記第3加圧室行に対応する前記第1個別流路とは、互いに向かって伸びており、かつ前記第2方向において重なっておらず、
前記第2加圧室行に対応する前記第1個別流路と、前記第4加圧室行に対応する前記第1個別流路とは、互いに向かって伸びており、かつ前記第2方向において重なっていないことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する液体供給タンクを有しており、前記液体供給タンクに収容される液体の粘度が5mPa・s以上15mPa・s以下であることを特徴とする記録装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する液体供給タンクを有しており、前記液体供給タンクに液体を攪拌する攪拌部を有することを特徴とする記録装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、撮像部と、制御部とを有しており、前記撮像部は、前記液体吐出ヘッドが吐出した液体、あるいは前記液体が記録媒体に着弾して形成された画像を撮像し、前記制御部は、前記撮像部が撮像したデータに基づいて、前記液体吐出ヘッドに送る印刷データに変更を加えることを特徴とする記録装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドが収容されているヘッド室と、制御部とを有しており、該制御部は、前記ヘッド室内の、温度、湿度および気圧のうちのすくなくとも1つを制御することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体の位置を前記液体吐出ヘッドに対して相対的に移動させる可動部と、を備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項13】
前記可動部が、前記記録媒体を、100m/分以上の速度で、前記液体吐出ヘッドに対して相対的に移動可能なことを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【請求項14】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでおり、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されている液体吐出ヘッドに対して、
前記第1共通流路における、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部の両方から液体を供給し、
前記加圧部を駆動することで前記液体の一部を吐出し、
前記第2共通流路における、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部の両方から吐出しなかった前記液体を回収し、
前記液体吐出ヘッドは、前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有しており、
前記第2個別流路は、前記第2共通流路に接続される部分に、前記加圧室に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有しており、流路抵抗が前記第1個別流路と異なっている、
ことを特徴とする記録方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路は、第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第2共通流路は、前記第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第1方向と交差する方向を第2方向とすると、
前記第1共通流路は、前記第2方向に沿って複数配置されており、各々の前記第1共通流路の両端にそれぞれ設けられた開口は、全体として、前記第2方向に沿って延びる、第1列および第2列の2つの列を成すように配置されており、
前記第2共通流路は、前記第2方向に沿って複数配置されており、各々の前記第2共通流路の両端にそれぞれ設けられた開口は、全体として、前記第2方向に沿って延びる、第3列および第4列の2つの列を成すように配置されており、
前記第1列に沿って設けられ、前記第1列に属する開口にそれぞれ接続された、第1部分と、前記第2列に沿って設けられ、前記第2列に属する開口にそれぞれ接続された第2部分と、を有する第1統合流路を有しており、
前記第3列に沿って設けられ、前記第3列に属する開口にそれぞれ接続された、第3部分と、前記第4列に沿って設けられ、前記第4列に属する開口にそれぞれ接続された第4部分と、を有する第2統合流路を有している、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されており、
前記第1共通流路は、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部から液体を供給され、
前記第2共通流路は、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部で前記液体を回収され、
前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有しており、
前記第2個別流路は、前記第2共通流路に接続された第1流路と、前記加圧室に接続された第2流路と、を有しており、流路抵抗が前記第1個別流路と異なっており、
前記第1流路において、前記液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離をD1とし、前記液体が流れる方向に沿った長さをL1とし、
前記第2流路において、前記液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離をD2とし、前記液体が流れる方向に沿った長さをL2とすると、
D1<L1、D2<L2、且つD1>D2である、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記加圧室は、前記加圧部に面している加圧室本体と、該加圧室本体と吐出孔とを繋いでいる部分流路とを含んでおり、
前記第1共通流路は、前記加圧室本体に繋がっており、前記第2共通流路は、前記部分流路に繋がっていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1共通流路と前記第2共通流路とが重なって配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1共通流路と前記第2共通流路とが重なっている位置にダンパ室が配置されており、該ダンパ室の前記第1共通流路側および前記第2共通流路側の両方がダンパとなっていることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2共通流路の第1方向側の開口は、前記第1共通流路の前記第1方向側の開口よりも、前記第1方向に配置されており、
前記第2共通流路の第1方向と反対の方向である第3方向側の開口は、前記第1共通流路の前記第3方向側の開口よりも、前記第3方向に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路は、第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記第2共通流路は、前記第1方向に伸びているとともに、両端部で前記流路部材の外部に開口しており、
前記加圧室は、前記加圧部に面している加圧室本体と、該加圧室本体と吐出孔を繋いでいる部分流路とを含んでおり、
前記第1共通流路と前記加圧室本体とは、第1個別流路を介して繋がっており、該第1個別流路の前記加圧室本体側の開口は、前記加圧室本体の面積重心に対して、前記部分流路の前記加圧室本体側の開口の反対側に配置されており、
前記加圧室本体の平面形状は、3回以上の回転対称性を有しており、かつ、互いにほぼ回転していない状態に配置されており、
前記第1共通流路に沿って、当該第1共通流路に繋がっている前記加圧室が、当該第1共通流路の片側に2行、両側で4行の加圧室行を構成して並んでおり、
前記4行の加圧室行を前記第1方向と交差する方向である第2方向に順に、第1加圧室行、第2加圧室行、第3加圧室行、および第4加圧室行としたとき、
前記第2、3加圧室行においては、前記部分流路の前記加圧室本体側の開口は、前記第1共通流路に対して、当該加圧室本体の面積重心よりも遠くに配置されており、
前記第1、4加圧室行における前記加圧室本体の面積重心に対する前記第1個別流路の前記加圧室本体側の開口の相対位置は、前記第2、3加圧室行における前記加圧室本体の面積重心に対する前記第1個別流路の前記加圧室本体側の開口の相対位置よりも、前記第1共通流路から離れた位置であり、
前記第1加圧室行に対応する前記第1個別流路と、前記第3加圧室行に対応する前記第1個別流路とは、互いに向かって伸びており、かつ前記第2方向において重なっておらず、
前記第2加圧室行に対応する前記第1個別流路と、前記第4加圧室行に対応する前記第1個別流路とは、互いに向かって伸びており、かつ前記第2方向において重なっていないことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する液体供給タンクを有しており、前記液体供給タンクに収容される液体の粘度が5mPa・s以上15mPa・s以下であることを特徴とする記録装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する液体供給タンクを有しており、前記液体供給タンクに液体を攪拌する攪拌部を有することを特徴とする記録装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、撮像部と、制御部とを有しており、前記撮像部は、前記液体吐出ヘッドが吐出した液体、あるいは前記液体が記録媒体に着弾して形成された画像を撮像し、前記制御部は、前記撮像部が撮像したデータに基づいて、前記液体吐出ヘッドに送る印刷データに変更を加えることを特徴とする記録装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドが収容されているヘッド室と、制御部とを有しており、該制御部は、前記ヘッド室内の、温度、湿度および気圧のうちのすくなくとも1つを制御することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体の位置を前記液体吐出ヘッドに対して相対的に移動させる可動部と、を備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項13】
前記可動部が、前記記録媒体を、100m/分以上の速度で、前記液体吐出ヘッドに対して相対的に移動可能なことを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【請求項14】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでおり、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されている液体吐出ヘッドに対して、
前記第1共通流路における、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部の両方から液体を供給し、
前記加圧部を駆動することで前記液体の一部を吐出し、
前記第2共通流路における、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部の両方から吐出しなかった前記液体を回収し、
前記液体吐出ヘッドは、前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有しており、
前記第2個別流路は、前記第2共通流路に接続された第1流路と、前記加圧室に接続された第2流路と、を有しており、流路抵抗が前記第1個別流路と異なっており、
前記第1流路において、前記液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離をD1とし、前記液体が流れる方向に沿った長さをL1とし、
前記第2流路において、前記液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離をD2とし、前記液体が流れる方向に沿った長さをL2とすると、
D1<L1、D2<L2、且つD1>D2である、
ことを特徴とする記録方法。」

2 本件補正に関する請求人の主張
(1)令和2年8月8日に提出された意見書
「旧請求項2および旧請求項14において、記載を明確化するとともに、第1個別流路および第2個別流路に関する内容を加入しました。この補正は、例えば、当初明細書の段落番号0041、0043、0044、0071および0086ならびに当初明細書の図2および図5の記載に基づくものであり、新規事項の追加ではありません。」
(2)令和3年3月24日に提出された意見書
「この特許請求の範囲の補正では、旧請求項2、14において、第2個別流路に関する内容を加入しました。この補正は、例えば、本願の願書に最初に添付した図面(以下、当初図面と称す)の図5の記載に基づくものであり、新規事項の追加ではありません。」
(3)令和3年11月19日に提出された審判請求書
「本願の願書に最初に添付した図面(以下、当初図面と称す)の図5において、符号14(14a)の引き出し線が指し示す部分が第2流路に相当します。そして、第2流路における図5の左右方向の寸法がL2に相当し、第2流路における図5の上下方向の寸法がD2に相当します。そして、「D2<L2」という大小関係は、図5に明示的に記載されています。
なお、「D2<L2」という大小関係が当初図面の図5に明示的に記載されていることにつきましては、11月16日のお電話にて特許庁審査官の長田守夫殿に御説明して御確認頂き、確かに記載されている旨のご回答を頂いております。
このように、「D2<L2」という大小関係は、本願の当初図面に記載されているものですので、請求項2、14についての補正は新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものではありません。」

3 原審補正の却下の決定
原審補正の却下の決定の要旨は、「「D2<L2」という大小関係は、本願当初明細書等には、記載も示唆もされていない。」というものである。

4 当審の判断
(1)願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の記載
ア 「【0041】
第1共通流路20とその両側に並んでいる4行の加圧室10とは、第1個別流路12を介して繋がっている。第2共通流路22とその両側に並んでいる4行の加圧室10とは、第2個別流路14を介して繋がっている。

【0043】
第1共通流路20は、第2共通流路の上に重なるように配置されている。第1共通流路20は、第1個別流路が繋がっている範囲の外側において、第1方向の端部および第3方向の両方の端部に配置されている開口20bで第1流路部材4の外部に開口している。第2共通流路22は、第2個別流路が繋がっている範囲の外側で、かつ第1共通流路20の開口20bよりも外側において、第1方向の端部および第3方向の両方の端部に配置されている開口22bで第1流路部材4の外部に開口している。下側に配置されている第2共通流路22の開口22bが、上側に配置されている第1共通流路20の開口20bの外側に配置されていることで、空間効率がよくなる。
【0044】
第1共通流路20の第1方向側に開口20aと第3方向側に開口20aとからは、ほぼ同量の液体が供給され、第1共通流路20の中央に向かって流れていく。1つの第1共通流路20および第2共通流路22に繋がっている吐出孔8からの液体の吐出量が、場所によらずほぼ一定の場合、第1共通流路20の流れは、中央に向かうにしたがって遅くなり、ほぼ中央で0(ゼロ)になる。第2共通流路22における流れはこれと逆で、ほぼ中央で0(ゼロ)であり、外側に向かうにしたがって流れは速くなる。」
イ 「【0071】
ディセンダ10bには、第2個別流路14が繋がっており、第2個別流路14は、第2共通流路22に繋がっている。第2個別流路14はプレート4kの部分流路10bとなる円形状の孔から繋がっている、平面方向に伸びる細長い貫通溝と、プレート4jを貫通する円形状の孔とを含んでいる第1部位14a、およびプレート4iを貫通し、第2共通流路22となる貫通溝に繋がっている矩形状の孔である第2部位14bとを含んでいる。第2部位14bは、他の1つのディセンダ10bから繋がっている第2個別流路14と共用になっており、2つの第2個別流路14の第1部位14aは、プレート4iの第2部位14bで一緒になった後、第2共通流路22に繋がっている。」
ウ 「【0086】
第1個別流路12は、圧力波を反射させる部分であり、流路抵抗を高くする必要があり、細長い形状にされる。」
エ 「【図5】



(2)上記「(1)エ 【図5】」から、第2流路14の図示左右方向の寸法(L2)が、第2流路14の図示上下方向の寸法(D2)より長いことが明確に看取できる。
そうすると、本件補正における「D2<L2」は、当初明細書等に記載されている事項といえる。
(3)してみると、原審補正の却下の決定の判断は、適法なものとはいえない。


第3 本件補正の適否について
上記第2のとおり、原審補正の却下の決定の判断は、適法なものとはいえないところ、当審にて、本件補正の適否について、以下検討する。
1 補正の内容
上記「第2 1」のとおり。

2 当初明細書等の記載
上記「第2 4 (1)」のとおり。

3 当審の判断
(1)本件補正における「D1」とは、「第1流路において、液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離」、また「D2」とは、「第2流路において、液体が流れる方向に沿って配置された互いに対向する2つの内面間の距離」と特定されていることからすれば、「D1」及び「D2」とは、「第1流路」及び「第2流路」の図示上下方向で互いに対向する2つの内面間の距離、又は、「第1流路」及び「第2流路」の図示左右方向で互いに対向する2つの内面間の距離を意味するものと解される。
さらに、上記「第2 2 (3)」の審判請求書の主張を参酌すると、「D1」とは、「第1流路」の図5における図示上下方向の寸法を指し、「D2」とは、「第2流路」の図5における図示上下方向の寸法を指すものと認められる。
(2)そこで、上記「エ 【図5】」をみると、第1流路の図示上下方向の寸法と、「第2流路」の図示上下方向の寸法の大小は把握できない。
そもそも、図面とは、概略を記載したものであるところ、図面からその大小関係が明確に把握できないとなると、一方が大きい、他方が小さいというような比較を行うことは出来ないといえる。
してみると、【図5】を根拠に、第1流路の図5における図示上下方向の寸法が、第2流路の図5における図示上下方向の寸法より大きいとして「D1>D2」との事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載されたものとは認められなし、当初明細書等のその他の記載を参酌しても、「D1>D2」が記載されているとは認められない。
(3)してみると、当初明細書等には、【請求項2】の「液体吐出ヘッド」及び【請求項14】の「記録方法」の発明特定事項である「第1流路及び第2流路」について、「D1>D2」であることについては記載されていない。
また、液体吐出ヘッドの分野の優先日時点の技術常識を勘案しても、自明といえる理由はない。
(4)そして、請求人は、令和3年3月24日に提出された意見書において、「「同じ場所で液体が滞留し続けることに起因する不具合を生じ難くできるとともに、多くの吐出孔から均等に液体を吐出することができる、小型の液体吐出ヘッドを得ることができる」という特有の効果を得ることができます。」と、当初明細書等に記載されていない本件補正による新たな効果を主張する。
(5)そうすると、本件補正における請求項2及び14に記載の「D1>D2」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

4 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そうすると、原審補正の却下の決定の判断は結論において誤りはなく、これを取り消すべき違法があるということはできない。


第4 本願発明
上記第3のとおりであるから、本願の請求項1乃至14に係る発明は、上記「第2 1 (1)」に示した令和2年8月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至14に記載された事項により特定され、そのうち請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
る。
「【請求項2】
複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されており、
前記第1共通流路は、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部から液体を供給され、
前記第2共通流路は、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部で前記液体を回収され、
前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有しており、
前記第2個別流路は、前記第2共通流路に接続される部分に、前記加圧室に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有しており、流路抵抗が前記第1個別流路と異なっている、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。」


第5 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、令和3年2月2日付け拒絶理由通知の理由は、次の理由を含むものである。
進歩性)この出願の請求項2に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/114396号及び国際公開第2016/031920号に示された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 当審の判断
1 引用例
(1)引用例1
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/114396号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 本発明は、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。」
イ 「[0006] しかしながら、特許文献1の循環流路は、循環流路のインピーダンスがノズルのインピーダンスよりも2〜10倍高くなるように形成されており、インクの循環流速が最大射出時の1/100程度(射出量150000(pL/s)に対して循環量1500(pL/s))でインクを循環させることが可能であるものの、このような流速では、遅いため、気泡や異物等を、効果的に排出することは難しい場合がある。
[0007] また、特許文献2の循環流路は、空気圧で開閉する弁が設けられており、非印字中に弁を開けて供給流路を加圧し、かつ循環流路を減圧することによって、圧力室内の気泡を循環流路へ効果的に排出することが可能であるものの、印字中(インク射出時)は弁を閉じておく必要があり、インクを循環させることができないため、インク射出時に突発的に発生した気泡については排出できない。
[0008] また、従来のヘルムホルツ共振モードを用いた方式(ベンド方式やプッシュ方式)において、チャネル内に循環経路を構成する場合、圧力が循環流路に逃げてしまうため、圧力効率が低下して射出性能が低下するという問題がある。
ここで、当該射出性能の低下を抑えるために、単に循環流路を狭くして、循環流路へ圧力が逃げ難くする構成とすることも考えられるが、循環流路を狭くすれば、循環流速が低下するため、気泡や異物等を効果的に排出することが難しくなる。
[0009] また、循環流路は変えずに、例えば、ポンプ等を用いて循環流路の圧力を上げて循環速度を速めることもできるが、装置側に負荷をかけるとともに、ノズルのメニスカスがブレークし、インクがノズルから漏れてしまう等の恐れが生じる。
[0010] 本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、循環流路を設けたことによるインクの射出性能の低下を最小限に抑え、かつ装置に負荷をかけずに、ノズル近傍の気泡等を効果的に排出することができるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することである。」
ウ 「[0028] [インクジェット記録装置の概略]
インクジェット記録装置100は、プラテン101、搬送ローラー102、ラインヘッド103,104,105,106、及びインクの循環機構等を備える(図1及び図7参照)。
プラテン101は、上面に記録媒体Kを支持しており、搬送ローラー102が駆動されると、記録媒体Kを搬送方向(前後方向)に搬送する。
ラインヘッド103,104,105,106は、記録媒体Kの搬送方向(前後方向)の上流側から下流側にかけて、搬送方向に直交する幅方向(左右方向)に並列して設けられている。そして、ラインヘッド103,104,105,106の内部には、後述するインクジェットヘッド1が少なくとも一つ設けられており、例えば、シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),黒(K)のインクを記録媒体Kに向けて吐出する。
なお、インクの循環機構については、後述する(図7参照)。
[0029] [インクジェットヘッドの概略構成]
インクジェットヘッド1は、ヘッドチップ2、保持板3、接続部材4、インク流路部材5等を備える(図2及び図3等参照)。
[0030] ヘッドチップ2は、複数の基板が積層されて構成されており、最下層には、インクを射出するノズル211が設けられている。また、ヘッドチップ2の上面には、圧力発生手段としての圧電素子24が設けられており、圧電素子24の変位によって、ヘッドチップ2の内部の圧力室231に充填されたインクが加圧され、ノズル211からインクの液滴が射出される。
[0031] 保持板3は、ヘッドチップ2の強度保持のために、ヘッドチップ2上面に接着剤を用いて接合されている。また、保持板3は、中央部に開口部31を有しており、ヘッドチップ2の上面の圧電素子24が開口部31の内部に格納されるように構成されている。
[0032] 接続部材4は、例えばFPC等からなる配線部材であり、その幅方向が保持板3の左右方向に沿って保持板3の上面の後側付近に接着され、保持板3の中央に設けられた開口部31を通して、ボンディングワイヤ41によって圧電素子24と電気的に接続している。また、接続部材4は、駆動部(図示省略)に接続しており、当該駆動部から、接続部材4とボンディングワイヤ41を通じて、圧電素子24に給電することができる。
[0033] インク流路部材5は、保持板3上面の左右方向の両端部にそれぞれ1つ接合されている。また、インク流路部材5は、ヘッドチップ2の内部にインクを供給するために利用するインク供給流路501,502と、ヘッドチップ2の内部からインクを排出するために利用するインク循環流路503,504とをそれぞれ1つずつ備える。
[0034] 以下、ヘッドチップ2、保持板3及びインク流路部材5について詳細に説明する。
なお、図4は、説明の便宜のため、ヘッドチップ2内部の構成については破線で示している。また、共通供給流路25から連通孔(中間連通路)221,・・・までのインク流路については、網点で示している。
[0035] [ヘッドチップ]
ヘッドチップ2は、上面に、左右方向沿って一列に並んで設けられた圧電素子24と、インク流路部材5からヘッドチップ2の内部にインクを供給するためのインク供給口201,202と、ヘッドチップ2の内部からインク流路部材5にインクを排出するためのインク循環口203,204等を備える(図4等参照)。
また、以下において、循環流路213をノズルプレート21に形成する実施例を示すが、循環流路213は圧力室231が形成されるボディプレート23よりもノズル側に配置されれば良く、例えば中間プレート22に設けても良い。従って、ノズル近傍とは、圧力室231が形成されるボディプレート23よりもノズル側であることを示す。なお、上述した様にノズル近傍に循環流路213を設けることにより、気泡や異物による吐出不良等の問題を抑制することができるが、より吐出不良につながりやすいノズル211に近い位置の気泡や異物を除去する観点から、循環流路213はノズルプレート21に設けることが好ましい。したがって、以下においては、循環流路213をノズルプレート21に設ける場合を詳述する。
[0036] ヘッドチップ2は、内部に、下側から順にノズルプレート21、中間プレート22、ボディプレート23の3枚の基板が積層一体化されることによって構成されている(図5)。」
エ 「[0040] ボディプレート23は、圧力室層23aと、振動層23bから構成されている。
圧力室層23aは、例えば、100〜300μm程度のSi基板からなり、中間プレート22の連通孔221に連通し、平面視で略円形状である複数の圧力室231と、複数の圧力室231に対して共通にインクを供給するための共通供給流路25と、共通供給流路25と各圧力室231とを個別に連通し、共通供給流路25内のインクを圧力室231に供給するためのインレット232と、が形成されている。インレット232は、圧力室231よりも流路が狭いくびれ部を有しており、圧力室231に加えられた圧力が、インレット232側から逃げ難くなっている。なお、くびれ部は、圧力室231よりも狭い流路であれば良く、形状は適宜変更可能である。
[0041] 振動層23bは、例えば、20〜30μm程度の薄い弾性変形可能なSi基板であり、圧力室層23aの上面に積層されている。また、振動層23bにおいて、圧力室231の上面は振動板233として機能し、振動板233の上面に設けられた圧電素子24の動作に応じて振動板233が振動し、圧力室231内のインクに圧力を加えることができる。
[0042] また、中間プレート22及び圧力室層23aには、ノズル支持層21cに形成された複数の循環流路213から流れてきたインクが合流する共通循環流路26が設けられている。
また、振動層23bは、共通供給流路25の上面に形成されたダンパ234と、共通循環流路26の上面に形成されたダンパ235と、を有している。ダンパ234,235は、例えば、圧力室231に一度に圧力が加えられて共通循環流路26に一度にインクが流れてきた場合に、わずかに弾性変形できるようになっており、インク流路における急激な圧力変化を防ぐことができる。
[0043] 次に、インクの循環経路について説明する。インクは、まずインク供給口201,202から共通供給流路25に供給される。次に、インクは共通供給流路25から分岐して各ノズル211,・・・に対応するインレット232,・・・、圧力室231,・・・、連通孔221,・・・、大径部212,・・・、及び循環流路213,・・・に順々に流れる。次に、各循環流路213,・・・からのインクが共通循環流路26で合流し、インク循環口203,204からインクが排出され、インク循環流路504を通って循環用サブタンク63に戻される(図4、図5及び図7等参照)。」
オ 「[図4]


カ 「[図5]


キ 上記エ[0043]、オ[図4]及びカ[図5]より、共通供給流路25および共通循環流路26は、右方向に沿って配置されており、前記複数の圧力室231は、共通供給流路25および共通循環流路26に沿って配置されており、共通供給流路25は、前記複数の圧力室231が配置されている配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク供給口201、および前記配置範囲の外に位置する右方向の反対の方向である左方向の端部のインク供給口202から液体を供給され、共通循環流路26は、前記配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク循環口204、および前記配置範囲の外に位置する左方向の端部のインク循環口203で前記液体を回収され、共通供給流路25と圧力室231とを接続するインレット232と、共通循環流路26と圧力室231とを接続する循環流路213とを備え、各循環流路213は共通循環流路26の下面に接続されていることが認められる。


そうすると、上記記載事項ア乃至カ及び認定事項キより、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ヘッドチップ2、保持板3、接続部材4、インク流路部材5等を備えるインクジェットヘッド1であって、
ヘッドチップ2の上面には、圧力発生手段としての圧電素子24が設けられており、圧電素子24の変位によって、ヘッドチップ2の内部の圧力室231に充填されたインクが加圧され、ノズル211からインクの液滴が射出され、
ヘッドチップ2は、上面に、左右方向沿って一列に並んで設けられた圧電素子24と、インク流路部材5からヘッドチップ2の内部にインクを供給するためのインク供給口201,202と、ヘッドチップ2の内部からインク流路部材5にインクを排出するためのインク循環口203,204等を備え、
ヘッドチップ2は、内部に、下側から順にノズルプレート21、中間プレート22、ボディプレート23の3枚の基板が積層一体化されることによって構成され、
ボディプレート23は、圧力室層23aと、振動層23bから構成され、
圧力室層23aは、Si基板からなり、中間プレート22の連通孔221に連通し、平面視で略円形状である複数の圧力室231と、複数の圧力室231に対して共通にインクを供給するための共通供給流路25と、共通供給流路25と各圧力室231とを個別に連通し、共通供給流路25内のインクを圧力室231に供給するためのインレット232と、が形成され、
中間プレート22及び圧力室層23aには、ノズル支持層21cに形成された複数の循環流路213から流れてきたインクが合流する共通循環流路26が設けられ、
共通供給流路25および共通循環流路26は、右方向に沿って配置されており、前記複数の圧力室231は、共通供給流路25および共通循環流路26に沿って配置されており、共通供給流路25は、前記複数の圧力室231が配置されている配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク供給口201、および前記配置範囲の外に位置する右方向の反対の方向である左方向の端部のインク供給口202から液体を供給され、共通循環流路26は、前記配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク循環口204、および前記配置範囲の外に位置する左方向の端部のインク循環口203で前記液体を回収され、共通供給流路25と圧力室231とを接続するインレット232と、共通循環流路26と圧力室231とを接続する循環流路213とを備え、各循環流路213は共通循環流路26の下面に接続されており、
インクは、まずインク供給口201,202から共通供給流路25に供給され、次に、インクは共通供給流路25から分岐して各ノズル211,・・・に対応するインレット232,・・・、圧力室231,・・・、連通孔221,・・・、大径部212,・・・、及び循環流路213,・・・に順々に流れ、次に、各循環流路213,・・・からのインクが共通循環流路26で合流し、インク循環口203,204からインクが排出される、
インクジェットヘッド1。」

(2)引用例2
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/031920号(原審の引用文献6。以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 本発明は、液体吐出ヘッド、および記録装置に関する。」
イ 「[0005] しかしながら、加圧室に生じた圧力の一部は、加圧室に連通している第1流路および第2流路に伝幡することがある。その場合、各吐出ユニットに共通して接続された第3流路および第4流路に圧力が到達してしまい、第3流路および4流路に接続されたそれぞれの吐出ユニットの吐出に悪影響を与える場合がある。
[0006] 本発明の液体吐出ヘッドは、吐出孔、および該吐出孔と連通する加圧室、該加圧室へ液体を供給する第1流路、および前記加圧室から液体を回収する第2流路を備えている複数の吐出ユニットと、前記加圧室を加圧する加圧部と、複数の前記吐出ユニットのそれぞれの前記第1流路に共通して接続されており、該吐出ユニットへ液体を供給する第3流路と、複数の前記吐出ユニットのそれぞれの前記第2流路に共通して接続されており、該吐出ユニットから液体を回収する第4流路と、前記吐出ユニット同士を接続しており、前記第1流路および前記第2流路よりも流路抵抗の大きい第5流路と、を備えていることを特徴とする。
[0007] 本発明の記録装置は、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部を備えていることを特徴とする。
[0008] 本発明の液体吐出ヘッドによれば、圧力が吐出ユニットから第3流路および第4流路に到達する可能性を低減することができる。」
ウ 「[0093] <第4の実施形態>
図9を用いて、ヘッド本体302aについて説明する。ヘッド本体302aは、液体が通る流路の構成としては、図6に示したヘッド本体202aとほぼ同じであり、連結路317は、個別回収流路14同士を接続している。ヘッド本体302aには、ダンパ28A〜Eが設けられている。ダンパ28A〜Eを設けるため、二次流路部材304は、プレート304a〜lのプレートを積層して構成されている。なお、差異の少ない部材については同一の符号を付し、説明を省略する。」
エ 「[図9]


オ [図9]より、個別回収流路14は、二次回収流路24に接続される部分に、加圧室10に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有し、個別回収流路14は、高さが高い部分を有している分、個別供給流路12より流路抵抗が異なっていることが看取できる。

そうすると、上記記載事項ア乃至エ及び認定事項オより、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「個別回収流路14は、二次回収流路24に接続される部分に、加圧室10に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有し、個別回収流路14は、高さが高い部分を有している分、個別供給流路12より流路抵抗が異なっているヘッド本体302a。」

2 当審の判断
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 後者の「複数の圧力室231」、「複数の圧力室231に対して共通にインクを供給するための共通供給流路25」、「『圧力室231とを接続する』『共通循環流路26』」、「中間プレート22及び圧力室層23a」、「圧力発生手段としての圧電素子24」、及び「インクジェットヘッド1」は、それぞれ、前者の「複数の加圧室」、「複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路」、「複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路」、「流路部材」、「加圧室を加圧する加圧部」、及び「液体吐出ヘッド」に相当する。
イ 後者の「インクジェットヘッド1」は、「共通供給流路25および共通循環流路26は、右方向に沿って配置されており、前記複数の圧力室231は、共通供給流路25および共通循環流路26に沿って配置されており、共通供給流路25は、前記複数の圧力室231が配置されている配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク供給口201、および前記配置範囲の外に位置する右方向の反対の方向である左方向の端部のインク供給口202から液体を供給され、共通循環流路26は、前記配置範囲の外に位置する右方向の端部のインク循環口204、および前記配置範囲の外に位置する左方向の端部のインク循環口203で前記液体を回収され、共通供給流路25と圧力室231とを接続するインレット232と、共通循環流路26と圧力室231とを接続する循環流路213とを備え」ているところ、後者の「右方向」、及び「左方向」は、それぞれ、前者の「第1方向」、及び「第3方向」に対応付けられるから、前者の「液体吐出ヘッド」と、後者の「インクジェットヘッド1」とは、「第1共通流路および 第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されており、前記第1共通流路は、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部から液体を供給され、前記第2共通流路は、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部で前記液体を回収され、前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有して」いる点で一致する。

(2)本願発明と引用発明1の一致点と相違点について
上記(1)の対比を踏まえると、本願発明と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、相違点において相違する。
[一致点]
「複数の加圧室、
前記複数の加圧室と共通して繋がっている第1共通流路、
および前記複数の加圧室と共通して繋がっている第2共通流路を有する流路部材と、
前記加圧室を加圧する加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記第1共通流路および前記第2共通流路は、第1方向に沿って配置されており、
前記複数の加圧室は、前記第1共通流路および前記第2共通流路に沿って配置されており、
前記第1共通流路は、前記複数の加圧室が配置されている配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の反対の方向である第3方向の端部から液体を供給され、
前記第2共通流路は、前記配置範囲の外に位置する前記第1方向の端部、および前記配置範囲の外に位置する前記第3方向の端部で前記液体を回収され、
前記第1共通流路と前記加圧室とを接続する第1個別流路と、前記第2共通流路と前記加圧室とを接続する第2個別流路と、を有している、液体吐出ヘッド。」

[相違点]
本願発明が、「第2個別流路は、第2共通流路に接続される部分に、加圧室に接続される部分よりも流路の高さが高い部分を有しており、流路抵抗が第1個別流路と異なっている」のに対し、引用発明1は、各循環流路213は共通循環流路26の下面に接続されている点。

(3)上記相違点についての検討
ア 引用発明2の「個別回収流路14」、「二次回収流路24」、「加圧室10」は、本願発明の「第2個別流路」、「第2共通流路」、「加圧室」に相当する。
イ 引用発明2の「ヘッド本体302a」の「個別回収流路14」は、「高さが高い部分を有している分、個別供給流路12より流路抵抗が異なっている」から、本願発明の「液体吐出ヘッド」と、引用発明2の「ヘッド本体302a」とは、「第2個別流路は、流路抵抗が第1個別流路と異なっている」との概念で一致する。
ウ そうすると、引用発明2には、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項が示されているといえる。
エ ここで、引用発明1も引用発明2もインクジェットヘッドに関する技術であることから、技術分野が一致する。
オ そして、引用発明1も、引用発明2も、圧力室(加圧室)における圧力損失に起因する射出性能の低下を課題とする点でも一致する。
カ してみると、引用発明1に、引用発明2を適用する動機付けがあるといえる。
キ そして、引用発明1の各循環流路213は共通循環流路26の下面に接続されているところ、当該接続部分に、引用発明2を適用し、高さが高い部分とし、以て、本願発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。
ク そして、本願発明の効果も、引用発明1、及び引用発明2から、当業者が予測し得る程度のものといえる。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-08 
結審通知日 2022-11-15 
審決日 2022-11-29 
出願番号 P2019-510135
審決分類 P 1 8・ 55- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 古屋野 浩志
特許庁審判官 藤本 義仁
比嘉 翔一
発明の名称 液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに記録方法  
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