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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1393795
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-02-21 
確定日 2023-01-12 
事件の表示 特願2020−101773「複合建具」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月 3日出願公開、特開2020−139406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月31日に出願された特願2016−73245号の一部を、令和 2年6月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 7月 8日 :手続補正書、上申書の提出
令和 3年 5月10日付け:拒絶理由通知書
(令和 3年 5月18日発送)
令和 3年 7月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年11月30日付け:拒絶査定
(令和 3年12月 7日発送)
令和 4年 2月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和4年2月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年2月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものである。本件補正の前後における特許請求の範囲における記載は、請求項1についてみれば、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)
(1)本件補正後
「【請求項1】
開口部に設けられ、金属部材と樹脂部材とを連結して構成された複合枠と、
該複合枠に納められたガラスパネルと、を備えた複合建具であって、
前記金属部材は、前記ガラスパネルの端部を支持するパネル支持溝を有し、
前記樹脂部材は、前記金属部材上であって前記パネル支持溝よりも屋内側を覆って配置され、
前記パネル支持溝の前記屋内側の面から前記金属部材の見込み面に連続して、外気の前記屋内側への通気を阻止する気密ラインが構成され、
前記樹脂部材に沿って断熱ラインが構成され、
前記気密ラインと前記断熱ラインとの間には、断熱空間が形成され、
前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間には、シーリング材が挟み込まれ、
前記金属部材及び前記樹脂部材は、前記シーリング材に当接し、
前記シーリング材は、該ガラスパネルの周縁部に設けられ、
前記パネル支持溝は、前記シーリング材を前記ガラスパネル側に押圧する金属側押圧部を有し、
前記気密ライン上に結露水排水孔が形成され、
前記結露水排水孔には、下部弁が設けられていることを特徴とする複合建具。」

(2)本件補正前(令和3年7月7日付け手続補正後)
「【請求項1】
開口部に設けられ、金属部材と樹脂部材とを連結して構成された複合枠と、
該複合枠に納められたガラスパネルと、を備えた複合建具であって、
前記金属部材は、前記ガラスパネルの端部を支持するパネル支持溝を有し、
前記樹脂部材は、前記金属部材上であって前記パネル支持溝よりも屋内側を覆って配置され、
前記パネル支持溝の前記屋内側の面から前記金属部材の見込み面に連続して、外気の前記屋内側への通気を阻止する気密ラインが構成され、
前記樹脂部材に沿って断熱ラインが構成され、
前記気密ラインと前記断熱ラインとの間には、断熱空間が形成され、
前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間には、シーリング材が挟み込まれ、
前記金属部材及び前記樹脂部材は、前記シーリング材に当接し、
前記シーリング材は、該ガラスパネルの周縁部に設けられ、
前記パネル支持溝は、前記シーリング材を前記ガラスパネル側に押圧する金属側押圧部を有することを特徴とする複合建具。」

2 補正目的
本件補正は、請求項1についてみれば、本件補正前の請求項1における「気密ライン」について、「気密ライン上に結露水排水孔が形成され」るとともに「結露水排水孔には、下部弁が設けられている」ことを限定するものである。
そのため、本件補正は、本件補正前の請求項1について、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。

3 独立特許要件
上記2のとおり、本件補正は、本件補正前の請求項1について、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる。
そのため、本件補正前の請求項1に記載された発明を限定した、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合すること(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること)を要する。
以下、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができたか否かを検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献
ア 引用文献1
(ア)記載事項
令和3年5月10日付け拒絶理由通知書において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2011−214312号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同様。)。
a 「【0002】
従来、窓枠として、窓開口に固定した金属枠の屋内側を合成樹脂製の樹脂枠で覆って構成された枠内にパネルを保持する複合窓枠が存在する。こうした複合窓枠を使用すれば、金属枠よりも熱伝導率の低い樹脂枠が屋内側に設けられているため、断熱性が向上できるとともに、屋内側への結露を防止することができる。また、こうした複合窓枠を使用すれば、屋内側に樹脂が露出するため、金属枠特有の視覚的冷たさを排除し、温かみのある意匠の窓枠を提供することができる。
【0003】
なお、こうした複合窓枠においては、高い断熱性と結露防止効果を得るために、複層ガラスが用いられることが一般的であった(例えば、特許文献1)。」

b 「【0032】
(複合窓枠の概要)
本実施例に係る複合窓枠は、図1〜6に示すように、建物外壁に形成された窓開口に納められる複合窓枠であり、方形に枠組みされた窓枠内にパネルを保持した嵌め殺しの窓である。窓枠を構成する各枠材は、複合型の枠材であり、ベースとなる金属枠10とその屋内側露出部分を覆う樹脂枠20とから構成されている。この金属枠10は、金属上枠16、金属下枠11及び左右の金属縦枠17で構成され、隣接する枠を相互にねじで締結して構成されている。また樹脂枠20は、樹脂上枠29、樹脂下枠21及び左右の樹脂縦枠30とで構成されており、樹脂上枠29は金属上枠16に、樹脂下枠21は金属下枠11に、樹脂縦枠30は金属縦枠17にそれぞれ取付けられている。
【0033】
金属枠10はアルミの押し出し型材にて成型され、また樹脂枠20及び後述する固定部材40a,40bは、合成樹脂から押し出し成型される。
【0034】
本実施形態に係る複合窓枠は、このように樹脂枠20にて金属枠10の屋内側露出部分を覆うことにより、金属による冷たい印象を隠すとともに、熱伝導率の低い樹脂によって断熱効果を向上させている。
【0035】
本実施例においては、パネルとしてガラスを使用することとし、すなわち、単層パネルとして単層ガラス31aを、複層パネルとして複層ガラス31bを用いることとして説明する。なお、本発明の実施形態としては、ガラスを使用する場合に限るものではなく、パネルとしてガラス以外を使用することとしても良い。」

c 「【0036】
そして、本実施例に係る複合窓枠は、図1に示すように、樹脂下枠21よりも屋外側において、金属下枠11に嵌合溝18が形成され、この嵌合溝18は、複層ガラス31bを嵌合可能な見込方向の幅を有するように形成されている。そして、この嵌合溝18の屋内側には、嵌合溝18に嵌合した単層ガラス31aを固定する単層ガラス用固定部材40a又は複層ガラス31bを固定する複層ガラス用固定部材40bが金属下枠11に着脱可能となっている。すなわち、後述するように、単層ガラス用固定部材40aと複層ガラス用固定部材40bとのうちから選択した任意の固定部材を使用可能に形成されていることにより、固定部材を変更するだけで、金属枠10及び樹脂枠20を変更することなく、厚さの異なるガラスを支持可能に形成されている。
【0037】
(複層ガラス31b使用時)
以下、まずは複層ガラス31bを使用した場合について、図1〜3を参照しつつ説明する。
【0038】
複層ガラス31b使用時においては、図1に示すように、嵌合溝18に複層ガラス31bが嵌合されて保持されている。この複層ガラス用固定部材40bは、屋内側からは、樹脂下枠21と複層ガラス31bとの間に設けられた複層ガラス用固定部材40bによって緩衝部材50を介して支持されており、屋外側からは、金属下枠11に設けられた屋外当接部19によって緩衝部材50を介して支持されている。
【0039】
図2は、図1の複合窓枠の下部構造の部分拡大図である。この図2が示すうに、金属下枠11の屋内側には、窓側に立設する窓側突出縁12と、屋内側に立設する屋内側突出縁13と、この窓側突出縁12と屋内側突出縁13との間に立設する中央立設部14と、が上方に向けて立設しており、これらが立設することにより、嵌合溝18よりも屋内側に2つの溝が形成されている。そして、窓側突出縁12と中央立設部14とで形成された溝には、複層ガラス用固定部材40bが嵌め込まれ、中央立設部14と屋内側突出縁13とで形成された溝には、樹脂下枠21が嵌め込まれている。」

d 「【0042】
また、樹脂下枠21の上面には、図3に示すように、結露等によりガラスに生じた水滴などを排水するための凹部26が長手方向両側に2箇所設けられている。図2及び図3に示すように、この凹部26の中央には排水孔27が設けられ、この排水孔27の周囲を覆うように排水孔カバー28が設けられている。これにより、排水用の凹部26に集められた水滴が排水孔27を通って樹脂下枠21の下に排水され、更に外部へと排水されるようになっている。詳しくは、図示しない排水用の穴が、樹脂下枠21においては排水孔27の下の位置に設けられるとともに、金属下枠11においては空隙部25の下の位置に設けられており、この穴を通って外部に排水されるようになっている。」

e 「【0044】
この複層ガラス用固定部材40bは、図2に示すように、前記樹脂下枠21の上面及び前記金属下枠11の屋外当接部19の上面と略面一となるように設けられた上面を露出させて、金属下枠11に嵌合固定されるものである。詳しくは、上部においては、押圧部42の基部下方に設けられた係合溝43に窓側突出縁12の上端が係合し、下方においては、脚部44が金属下枠11の窓側突出縁12と中央立設部14との間に嵌め込まれるようになっており、これにより、複層ガラス用固定部材40bが固定されている。
【0045】
また、押圧部42は、図2に示すように、複層ガラス31b側に略水平に突出した部分であり、この突出の先端側には図2に示すように緩衝部材50が設けられており、この緩衝部材50を介して複層ガラス31bを支持している。この緩衝部材50を取り付ける押圧部42の先端は、図2に示すように、先端側が下段となるように段差が設けられており、この段差部分に緩衝部材50を取り付けるようになっている。このように、緩衝部材50を取り付ける部分が低くなっているため、緩衝部材50を取り付けた場合でも、この緩衝部材50の上面を含め、複層ガラス用固定部材40bの上面、前記樹脂下枠21の上面、及び、前記金属下枠11の屋外当接部19の上面が、すべて略面一となるように形成されている。
【0046】
なお、この複層ガラス用固定部材40bは、図1及び図3に示すように、複合窓枠の上枠及び両側の縦枠においても同じ断面形状のものが使用されている。すなわち、金属上枠16及び両側の金属縦枠17にも、それぞれ複層ガラス用固定部材40bが嵌合固定されており、これらの複層ガラス用固定部材40bも、押圧部42の先端側に設けられた緩衝部材50を介して複層ガラス31bを支持するようになっている。」

f 「【0067】
また、本実施形態に係る固定部材40a,40bは合成樹脂製であるため、押圧部42がパネル31a、31bを弾性的に押圧して固定することができるようになっており、安全かつ強固にパネル31a、31bを固定できるようになっている。」

(イ) 図面
引用文献1の図面には、次の図示がある。
a 【図1】




b 【図2】



c 【図3】




d 【図7】(a)




(ウ) 看取される事項
a 段落【0036】の記載を踏まえて、【図1】に図示される金属下枠11と複層ガラス31bとの関係に着目すると、金属下枠11の嵌合溝18には複層ガラス31bの端部が嵌合されることが看取される。
また、【図1】に図示される金属上枠16と複層ガラス31bとの関係、及び【図3】に図示される左右の金属縦枠17と複層ガラス31bとの関係が、【図1】に図示される金属下枠11と複層ガラス31bとの関係と同様であることから、金属上枠16及び左右の金属縦枠17にも、複層ガラス31bの端部を嵌合可能な嵌合溝が形成されていることが、看取される。

b 段落【0039】の記載を踏まえて、【図1】及び【図2】に図示される、金属下枠11の嵌合溝18から嵌合溝18よりも屋内側に至るまでの構造に着目すると、金属下枠11は、嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突出縁12から、嵌合溝18よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続していることが、看取される。
また、【図1】及び【図3】に図示される金属上枠16及び左右の金属縦枠17の嵌合溝から屋内側の構造に着目すると、【図1】及び【図2】に示される金属下枠11の嵌合溝18において屋内側を構成する窓側突出縁12と同様の突出縁を有するとともに、当該突出縁から嵌合溝よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続していることから、金属上枠16及び左右の金属縦枠17も、嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から、嵌合溝よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続していることが、看取される。

c 段落【0033】及び【0034】、並びに段落【0038】の記載を踏まえて、【図1】ないし【図3】に図示される複層ガラス用固定部材40b及び樹脂枠20の配置に着目すると、合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b、及び樹脂枠20は、金属枠10の複層ガラス31bを嵌合可能な嵌合溝よりも屋内側の部分を覆って、樹脂部材の屋内側面を形成していることが、看取される。
また、上記bで看取される金属枠10の構造を踏まえて、【図1】ないし【図3】に図示される複層ガラス用固定部材40b及び樹脂枠20の配置に着目すると、金属枠10の嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から嵌合溝よりも屋内側に至る部分と、合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b及び樹脂枠20で形成される樹脂部材の屋内側面との間には、断面視で囲まれる部分が形成されることが、看取される。

d 上記bで看取される金属枠10の構造及び段落【0044】,【0046】,【0067】の記載を踏まえて、【図1】ないし【図3】に図示される複層ガラス用固定部材40b及び金属枠10の配置に着目すると、複層ガラス用固定部材40bは、パネル31bを弾性的に押圧する押圧部42に、嵌合溝の屋内側を構成する窓側突状縁12が係合して、金属下枠11に嵌合固定され、金属上枠16及び両側の金属縦枠17にも、それぞれ嵌合溝の屋内側を構成する突出縁に係合して、複層ガラス用固定部材40bが嵌合固定されていることが、看取される。

e 段落【0042】の記載を踏まえると、【図2】に図示される窓側突出縁12の位置、及び【図7】(a)に図示される空隙部25の位置から、樹脂下枠21の下に排水された、結露等によりガラスに生じた水滴などを、更に外部へと排水するための排水用の穴が形成される、金属下枠11の空隙部25の下の位置は、窓側突出縁12よりも屋内側であることが、看取される。

f 段落【0038】の記載を踏まえると、【図2】の図示より、複層ガラス31bは、金属下枠11の嵌合溝18においては、屋内側からは、樹脂下枠21と複層ガラス31bとの間に設けられた複層ガラス用固定部材40bによって緩衝部材50を介して支持され、屋外側からは、金属下枠11に設けられた屋外当接部19によって緩衝部材50を介して支持され、緩衝部材50は、複層ガラス31bの縁部に設けられることが、看取される。
また、段落【0046】に記載される、金属上枠16及び両側の金属縦枠17に嵌合固定された複層ガラス用固定部材40bによる、緩衝部材50を介した複層ガラス31bの支持が、段落【0038】に記載される、金属下枠11の嵌合溝18における、複層ガラス用固定部材40bによる緩衝部材50を介した複層ガラス31bの支持と同様であることを踏まえると、【図1】に図示される金属上枠16における複層ガラス31bの支持、及び【図3】に図示される左右の金属縦枠17における複層ガラス31bの支持が、【図1】に図示される金属下枠11における複層ガラス31bの支持と同様であることから、複層ガラス31bは、金属上枠16及び左右の金属縦枠17の嵌合溝においても、金属下枠11の嵌合溝18における支持と同様に支持がされることが、看取される。

(エ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)及び(ウ)より、引用文献1には、複層ガラス31bを用いる実施例に着目すると、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
(引用発明1)
「建物外壁に形成された窓開口に納められる複合窓枠であって、金属枠10、金属枠10の屋内側露出部分を覆う合成樹脂から押し出し成型された樹脂枠20、合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b及び窓枠内に保持される、複層ガラス31bを用いたパネルを備えた、熱伝導率の低い樹脂によって断熱効果を向上させた複合窓枠であって、
金属枠10は、金属上枠16、金属下枠11及び左右の金属縦枠17で構成され、
樹脂枠20は、樹脂上枠29、樹脂下枠21及び左右の樹脂縦枠30とで構成され、樹脂上枠29は金属上枠16に、樹脂下枠21は金属下枠11に、樹脂縦枠30は金属縦枠17にそれぞれ取付けられ、
複層ガラス用固定部材40bは、パネル31bを弾性的に押圧する押圧部42に、嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突状縁12が係合して、金属下枠11に嵌合固定され、金属上枠16及び両側の金属縦枠17にも、それぞれ嵌合溝の屋内側を構成する突出縁に係合して、複層ガラス用固定部材40bが嵌合固定されており、
金属下枠11には、複層ガラス31bを嵌合可能な嵌合溝18が形成され、金属下枠11の嵌合溝18には複層ガラス31bの端部が嵌合され、金属上枠16及び左右の金属縦枠17にも、複層ガラス31bの端部を嵌合可能な嵌合溝が形成され、
金属下枠11は、嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突出縁12から、嵌合溝18よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続しており、金属上枠16及び左右の金属縦枠17も、嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から、嵌合溝よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続しており、
合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b、及び樹脂枠20は、金属枠10の複層ガラス31bを嵌合可能な嵌合溝よりも屋内側の部分を覆って、樹脂部材の屋内側面を形成しており、
金属枠10の嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から嵌合溝よりも屋内側に至る部分と、合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b及び樹脂枠20で形成される樹脂部材の屋内側面との間には、断面視で囲まれる部分が形成され、
金属下枠11には、樹脂下枠21の下に排水された、結露等によりガラスに生じた水滴などを、更に外部へと排水するための排水用の穴が、窓側突出縁12よりも屋内側の空隙部25の下の位置に形成され、
複層ガラス31bは、金属下枠11の嵌合溝18においては、屋内側からは、樹脂下枠21と複層ガラス31bとの間に設けられた複層ガラス用固定部材40bによって緩衝部材50を介して支持され、屋外側からは、金属下枠11に設けられた屋外当接部19によって緩衝部材50を介して支持され、緩衝部材50は、複層ガラス31bの縁部に設けられ、金属上枠16及び左右の金属縦枠17の嵌合溝においても、金属下枠11の嵌合溝18における支持と同様に支持がされる、
複合窓枠。」

イ 引用文献2
(ア)記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である、実願昭58−179027号(実開昭60−84690号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a 「本考案は、以上の点に鑑がみてなされたものであり、住宅建物の屋内外間に跨がった開口部において、ドア等の開口部材の内側には、開口部下枠上面に結露受を設けるとともに、該結露受上に落下した結露水を外部へと排出する通路を敷居内部に形成し、この通路内には水流出方向にのみ開く逆止弁を設けたことを特徴とするものである。」(2頁5−11行)

b 「而して、(33)は、本考案に係る逆止弁であり、第6図にも示すように、上記通路を構成する水抜穴(20)に嵌め込み固定された弁体ホルダ(34)と、該弁体ホルダ(34)に取付けられ、水流出方向にのみ開く弁体(35a )とからなっている。」(5頁16−20行)

c 「特に、建物内外を連通する通路内に水流出方向にのみ開く逆止弁を設けたことにより、建物の気密性を損なうことなく結露水を排出することができるという利点がある。」(8頁8−11行)

(イ)引用文献2に記載された技術事項
上記(ア)より、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用技術事項2」という。)が記載されている。
(引用技術事項2)
「ドア等の開口部材の内側における結露水を外部へと排出する通路において、通路を構成する水抜穴(20)に嵌め込み固定された弁体ホルダ(34)と、該弁体ホルダ(34)に取付けられ、水流出方向にのみ開く弁体(35a )とからなっている逆止弁(33)を設けたことにより、建物の気密性を損なうことなく結露水を排出することができる点。」

ウ 引用文献3
(ア)記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である、特開2002−227546号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の屋外開口部に備えられた上下枠及び左右の縦枠にて構成される屋外用サッシの下枠上面が略フラットに形成された引違い戸の室内側に設けられた結露水の排水構造及び排水装置に関する。」

b 「【0014】結露水排水装置90の位置関係を図6に示し、排水機構を図7に示す。結露水が無い場合の下枠断面図を図7(イ)に示し、その側面図を図7(ロ)に示す。また、結露水が室内側に位置する内障子用下枠凹部に溜まった場合の排水機構の模式図を図7(ハ)及び(ニ)に示す。結露水排水装置90は、下枠凹部の底部を略長角孔に切り欠いて取り付けられていて、取り付け面の上部に突出するように集水口91a、91bが備えられ、取り付け面の下部の排水装置のサイド方向にこの集水口に連通した排水口93a、93bが設けられ、排水口の上部を支点に外側方向にのみ開閉自在に羽根状の排水弁92a、92bが取り付けられている。結露水が無い場合には、図7(ロ)に示すように細長い羽根状の排水弁がその自重にて下に垂れ下がっていて排水口を閉じている。仮に、屋外から風が侵入して羽根状の排水弁の外側に当たると羽根状の排水弁の下端が内側に入らないように排水口の下部で拘束するので気密性が保たれる。結露水が生じて下枠凹部に溜まると、図7(ハ)、(ニ)に示すように結露水が排水装置の集水口91a、91bから排水装置の内部に入り、結露水圧にて羽根状の排水弁92a、92bが外側に開き、下枠の案内中空部13に流れ、屋外排水口17より屋外に排水される。」

(イ)引用文献3に記載された技術事項
上記(ア)より、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用技術事項3」という。)が記載されている。
(引用技術事項3)
「建築物の屋外開口部に備えられた引違い戸の結露水の排水装置である結露水排水装置90において、排水口93a、93bが設けられ、排水口の上部を支点に外側方向にのみ開閉自在に羽根状の排水弁92a、92bが取り付けられ、気密性が保たれる点。」

(3)対比
本件補正発明と、引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「建物外壁に形成された窓開口」は、本件補正発明における「開口部」に相当し、引用発明1における「金属枠10」は、本件補正発明における「金属部材」に相当する。
本件補正発明において「樹脂部材」は、単一の部材であるか、複数の部材からなるものか特定されてはおらず、いずれのものも包含するから、引用発明1における「金属枠10の屋内側露出部分を覆う合成樹脂から押し出し成型された樹脂枠20」及び「合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b」は、本件補正発明における「樹脂部材」に相当する。

イ 引用発明1において、「金属枠10は、金属上枠16、金属下枠11及び左右の金属縦枠17で構成され」たうえで、「樹脂枠20は、樹脂上枠29、樹脂下枠21及び左右の樹脂縦枠30とで構成され、樹脂上枠29は金属上枠16に、樹脂下枠21は金属下枠11に、樹脂縦枠30は金属縦枠17にそれぞれ取付けられ」、また「複層ガラス用固定部材40bは、」「金属下枠11に嵌合固定され、金属上枠16及び両側の金属縦枠17にも、それぞれ」「複層ガラス用固定部材40bが嵌合固定され」た構成は、本件補正発明において、「金属部材と樹脂部材とを連結して構成された複合枠」に相当する。

ウ 引用発明1における「窓枠内に保持される、複層ガラス31bを用いたパネル」は、本件補正発明における「複合枠に納められたガラスパネル」に相当する。

エ 引用発明1における「複合窓枠」は、本件補正発明における「複合建具」に相当する。

オ 引用発明1において、「金属下枠11には、複層ガラス31bを嵌合可能な嵌合溝18が形成され、金属下枠11の嵌合溝18には複層ガラス31bの端部が嵌合され、金属上枠16及び左右の金属縦枠17にも、複層ガラス31bの端部を嵌合可能な嵌合溝が形成され」る構成は、本件補正発明において、「前記金属部材は、ガラスパネルの端部を支持するパネル支持溝を有」する構成に相当する。

カ 引用発明1において、「金属下枠11」が有する「嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突出縁12」、及び、「金属上枠16及び左右の金属縦枠17」が有する「嵌合溝の屋内側を構成する突出縁」は、本件補正発明における「前記パネル支持溝の前記屋内側の面」に相当し、引用発明1において、「金属下枠11」並びに「金属上枠16及び左右の金属縦枠17」のうち、「窓側突出縁12から、嵌合溝18よりも屋内側に至る部分」及び「突出縁から、嵌合溝よりも屋内側に至る部分」は、金属枠の金属部材が屋内側である見込み方向に向かう部分ということができるから、本件補正発明における「前記金属部材の見込み面」に相当する。

キ 引用発明1において、「合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b、及び樹脂枠20は、金属枠10の複層ガラス31bを嵌合可能な嵌合溝よりも屋内側の部分を覆って」いる構成は、本件補正発明において、「前記樹脂部材は、前記金属部材上であって前記パネル支持溝よりも屋内側を覆って配置され」た構成に相当する。

ク そして、引用発明1において、「金属下枠11は、嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突出縁12から、嵌合溝18よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続して」いる構成、及び「金属上枠16及び左右の金属縦枠17も、嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から、嵌合溝よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続して」いる構成は、金属部材が連続している箇所では外気の屋内側への通気が当該連続している金属部材によって妨げられることが明らかであることを踏まえると、本件補正発明において、「前記パネル支持溝の前記屋内側の面から前記金属部材の見込み面に連続して、外気の前記屋内側への通気を阻止する気密ラインが構成され」ることに相当する。

ケ 引用発明1において、「合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b、及び樹脂枠20」が「樹脂部材の屋内側面」を形成することは、引用発明1では「熱伝導率の低い樹脂によって断熱効果を向上」させていることを踏まえると、本件補正発明において、「前記樹脂部材に沿って断熱ラインが構成」されることに相当する。

コ そして、引用発明1において、「金属枠10の嵌合溝の屋内側を構成する突出縁から嵌合溝よりも屋内側に至る部分と、合成樹脂から押し出し成型された複層ガラス用固定部材40b及び樹脂枠20で形成される樹脂部材の屋内側面との間には、断面視で囲まれる部分が形成され」ている構成は、上記クで示したとおり、本件補正発明における「気密ライン」に相当すること、及び引用発明1において上記「断面視で囲まれる部分」が空間となっており、「熱伝導率の低い樹脂」と同様に「断熱効果を向上」させる機能を奏することが明らかであることを踏まえると、本件補正発明において、「前記気密ラインと前記断熱ラインとの間には、断熱空間が形成され」る構成に相当する。


(ア)引用発明1における「緩衝部材50」は、「金属下枠11の嵌合溝18」において、「複層ガラス31b」を、「屋内側からは、樹脂下枠21と複層ガラス31bとの間に設けられた複層ガラス用固定部材40bによって緩衝部材50を介して支持」し、また「屋外側からは、金属下枠11に設けられた屋外当接部19によって緩衝部材50を介して支持」し、「複層ガラス31bの縁部に設けられ」るものであり、「金属上枠16及び左右の金属縦枠17の嵌合溝においても、金属下枠11の嵌合溝18における支持と同様に支持がされる」から、「緩衝部材50」は「金属枠10」及び「複層ガラス用固定部材40b」と「複層ガラス31b」との間に挟み込まれ、「複層ガラス31b」の周縁部に設けられており、「金属枠10」及び「複層ガラス用固定部材40b」は「緩衝部材50」に当接しているものである。

(イ)また、引用発明1における「嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突状縁12」は、「緩衝部材50」を介して「複層ガラス31b」を支持する「複層ガラス用固定部材40b」の「パネル31b」を弾性的に押圧する「押圧部42」が、「複層ガラス用固定部材40b」が金属下枠11に嵌合固定される際に係合するものであり、「複層ガラス用固定部材40b」を介して間接的に「緩衝部材50」を押圧していると認められるため、「金属上枠16及び両側の金属縦枠17にも、それぞれ嵌合溝の屋内側を構成する突出縁に係合して、複層ガラス用固定部材40bが嵌合固定されて」いることから、「嵌合溝18」及び「嵌合溝」は、「緩衝部材50」を「複層ガラス31b」側に押圧する「窓側突状縁12」及び「窓側突状縁」を備えているものである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用発明1において、「金属枠10」及び「複層ガラス用固定部材40b」と「複層ガラス31b」との間に挟み込まれている「緩衝部材50」と、本件補正発明において「前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間」に「挟み込まれ」る「シーリング材」とは、「前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間」に「挟み込まれ」る「部材」という点で、共通している。

シ 引用発明1において、上記のとおり「緩衝部材50」に当接している「金属枠10」及び「複層ガラス用固定部材40b」と、本件補正発明において、「前記シーリング材に当接」している「前記金属部材及び前記樹脂部材」とは、「前記挟み込まれる部材に当接」している「前記金属部材及び前記樹脂部材」という点で、共通している。

ス 引用発明1において、上記のとおり「緩衝部材50」が「周縁部に設けられて」いる「複層ガラス31b」は、本件補正発明において、「前記シーリング材」が「周縁部に設けられ」る「該ガラスパネル」とは、「前記挟み込まれる部材」が「周縁部に設けられ」る「該ガラスパネル」という点で、共通している。

セ 引用発明1において、上記のとおり「緩衝部材50」を「複層ガラス31b」側に押圧する「窓側突状縁12」及び「窓側突状縁」を備えている「嵌合溝18」及び「嵌合溝」は、本件補正発明において、「前記シーリング材を前記ガラスパネル側に押圧する金属側押圧部を有」する「前記パネル支持溝」とは、「前記挟み込まれる部材を前記ガラスパネル側に押圧する金属側押圧部を有」する「前記パネル支持溝」という点で、共通している。

ソ 引用発明1において、「金属下枠11には、樹脂下枠21の下に排水された、結露等によりガラスに生じた水滴などを、更に外部へと排水するための排水用の穴が、窓側突出縁12よりも屋内側の空隙部25の下の位置に形成され」ている構成は、「排水用の穴」が設けられる位置が「窓側突出縁12よりも屋内側」であり、「嵌合溝18の屋内側を構成する窓側突出縁12から、嵌合溝18よりも屋内側に至る部分まで、断面視で金属部材が連続して」いることにより、外気の屋内側への通気が連続する金属部材によって妨げられている箇所の一部であることを踏まえると、本件補正発明において、「該気密ライン上に、結露水排水孔が形成され」る構成に相当する。

タ 以上を整理すると、本件補正発明と引用発明1とは、次の点で一致する。
「開口部に設けられ、金属部材と樹脂部材とを連結して構成された複合枠と、
該複合枠に納められたガラスパネルと、を備えた複合建具であって、
前記金属部材は、前記ガラスパネルの端部を支持するパネル支持溝を有し、
前記樹脂部材は、前記金属部材上であって前記パネル支持溝よりも屋内側を覆って配置され、
前記パネル支持溝の前記屋内側の面から前記金属部材の見込み面に連続して、外気の前記屋内側への通気を阻止する気密ラインが構成され、
前記樹脂部材に沿って断熱ラインが構成され、
前記気密ラインと前記断熱ラインとの間には、断熱空間が形成され、
前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間には、挟み込まれる部材を有し、
前記金属部材及び前記樹脂部材は、前記挟み込まれる部材に当接し、
前記挟み込まれる部材は、該ガラスパネルの周縁部に設けられ、
前記パネル支持溝は、前記挟み込まれる部材を前記ガラスパネル側に押圧する金属側押圧部を有し、
前記気密ライン上に結露水排水孔が形成される複合建具。」

チ 本件補正発明と引用発明1とは、次の2点で相違する。
<相違点1>
「前記金属部材及び前記樹脂部材と前記ガラスパネルとの間」で「挟み込まれ」る部材に関し、
本件補正発明においては、「シーリング材」と特定されているのに対し、
引用発明1においては、「緩衝材」とされ、「シーリング材」とは特定されていない点。

<相違点2>
本件補正発明においては、「前記結露水排水孔には、下部弁が設けられている」のに対し、
引用発明1においては、「下部弁」が設けられているとは特定されていない点。

(4)判断
ア 相違点1について
上記相違点1について判断する。
引用発明1において、「緩衝部材」として何を用いるかは、当業者が適宜選択し得る程度の設計的事項に過ぎないところ、引用発明1は、熱伝導率の低い樹脂によって断熱効果を向上させたものであり、複合窓枠の嵌合溝に嵌合した複層ガラス31bの屋内側及び屋外側に介在する緩衝部材50の箇所で、空気が封止されることなく通過してしまえば、高い断熱性が得られず不都合であることは明らかであることからすれば、緩衝部材50として、空気を通過させず密封する機能(シールする機能)を有し、断熱性を損なわない材質のものを選択し、もって本件補正発明における「シーリング材」に相当する構成とすることは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。

イ 相違点2について
上記相違点2について判断する。
引用技術事項2ないし3に照らして、建物の開口部に設けられる建具において、気密性を保つために、結露水を排水する排水孔に弁を設けることは、本願出願前において周知の技術(以下「周知技術」という。)である。
引用発明1においても、結露水の排水を考慮しているとともに、上記アで述べたように気密性が低下すると、高い断熱性が得られず不都合であることは明らかであることからすれば、気密性を保ちながら結露水を排水するために、「金属下枠11」の「窓側突出縁12よりも屋内側の空隙部25の下の位置に形成され」た「結露等によりガラスに生じた水滴などを、更に外部へと排水するための排水用の穴」に、上記周知技術を採用し、もって上記相違点2に係る本件補正発明の構成に相当する構成に至ることは、当業者であれば容易に想到し得た事項である。

(5)請求人の主張について
ア 請求人の主張
本件補正発明の進歩性に関し、請求人は、審判請求書において、引用文献1の金属下枠11の室内側内周面に結露水排水孔が形成されておらず、さらに結露水排水孔が形成されていないため下部弁も設けられていないことから、引用文献1に記載された発明には、本願請求項1に係る発明の「気密ライン上に結露水排水孔が形成され、結露水排水孔には下部弁が設けられている」との構成は記載も示唆もされていない旨を主張している。

イ 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張について、検討する。
本件補正発明において、「結露水排水孔」は「パネル支持溝の前記屋内側の面から前記金属部材の見込み面に連続して、外気の前記屋内側への通気を阻止する」ように構成される「気密ライン上に形成され」るものとして特定されており、「金属部材」の室内側内周面に形成されるものとは特定されてはいないため、引用文献1の金属下枠11の室内側内周面に結露水排水孔が形成されていないことを理由として、本件補正発明と引用発明1とに差異があるとする主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、採用することができない。
そして、引用発明1において、「気密ライン上に結露水排水孔が形成され」る構成を備えることは、上記(3)ソに示したとおりであり、引用発明1において「結露水排水孔には下部弁が設けられている」ように構成することについても、上記(4)イに示したとおり、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易に想到し得た事項であるから、出願人の上記アの主張は採用することができない。
したがって、請求人の上記アの主張について検討しても、上記(4)での判断を左右するものではなく、採用できない。

(6)小括
以上より、本件補正発明は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条7項の規定に違反するものであるから、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により、却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について
1 本件発明1
本件補正は、上記第2のとおり却下されたから、本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和3年7月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものとなり、本願の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に「補正前」として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、上記第2[理由]3(2)ア(エ)に示した引用発明1が記載されている。

4 原査定の理由についての判断
(1)対比
ア 本件発明1は、本件補正発明に係る「気密ライン」について、「気密ライン上に結露水排水孔が形成され」るとともに「結露水排水孔には、下部弁が設けられている」との限定(すなわち、「相違点2」である。上記第2[理由]3(3)テ参照)を省いたものである。
イ そうすると、本件発明と引用発明1の相違点は、上記第2[理由]3(3)テに示した相違点のうちの「相違点1」と同一である。

(2)判断
相違点1については、上記第2[理由]3(4)アにおいて示したとおり、引用発明1から当業者が容易に想到し得たものである。そして、本件発明1には、当業者の予測を超える、格別顕著な効果の存在を認めることはできない。したがって、本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和3年7月7日付け意見書において、本願請求項1に係る発明における「シーリング材」は、引用文献1に記載された緩衝部材50とは構成が異なり、気密性及び水密性が高いものであり、本願請求項1に係る発明は、「シーリング材」を備えることによって、屋内側の気密性を高めることができるという顕著な作用効果を奏する旨を主張している。

イ 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張について、検討する。
本件発明1の構成における「シーリング材」に関して、本願明細書の記載を確認する。本願明細書において、「第一実施形態」に関する段落【0023】には、「面クリアランス40Sには、スポンジ等の弾性材41及びシーリング材(封止材)42が設けられている。シーリング材42は不定形または定形形状であり、例えばシリコーン、変成シリコーン、ウレタン、ブチル等を採用できる。」と記載されている。そして、段落【0087】には、「・・・(前略)・・複層ガラス2とシーリング材42を挟む金属上枠10A、金属下枠20A、金属縦枠30A、金属押縁50Aのガラス受け部40との間で屋内外の外気や音の流通を阻止して気密性を確保することができる。」と記載されている。
また、本願明細書において、「第二実施形態」に関する段落【0101】には、「複層ガラス2の四辺の側端部は断面略U字状のグレージングチャンネル(封止材)43で全周に亘って連続して囲われている。」と記載され、段落【0104】には「これらヒレ部44と先端ヒレ部46とで、屋内外における複層ガラス2の両端部とグレージングチャンネル43とを気密に封止している。」と記載されている。
これらの記載から、本願明細書においても、「シーリング」という語は、日本語でいう「封止」と異なる特別な意味で用いられてはおらず、本願発明1における「シーリング材」とは、本願明細書を参照しても、空気を封止(シーリング)して気密性を確保することができる部材を意味すると理解することができる。
そして、本件発明1における「シーリング材」、第一実施形態における「シーリング材(封止材)42」、及び第二実施形態における「グレージングチャンネル(封止材)43」について、気密性を確保する性能の点で異なるものとして区別する記載は、本願明細書を参照しても見いだすことができない。また、本願発明1に係る「シーリング材」について、空気を封止(シーリング)して気密性を確保できる機能を有するものとして通常用いられている部材とは、異なるものとして区別されるものであることは、特許請求の範囲の請求項1においても特定されていない。
したがって、本件発明1における「シーリング材」とは、気密性を確保できる機能を有するものとして通常用いられている部材と異なるものではなく、空気を封止(シーリング)して気密性を確保できる部材として特定されるものである。
そして、上記第2[理由]3(4)アで判断したとおり、高い断熱性を考慮する引用発明1において、「緩衝部材50」の配置と窓枠が通常有する断熱機能からみて、空気を通過させず密封する機能(シールする機能)を有し、断熱性を損なわない材質のものを選択することは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。
したがって、上記請求人の主張は、本件発明1における「シーリング材」に関して、構成として相違する旨の主張、及び構成として容易に想到できたものではない旨をいう主張として、採用することができない。
そして、請求人の上記主張をふまえて検討しても、本件発明1の進歩性については、上記(2)のとおり判断されるべきものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明1は、原査定の理由のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-04 
結審通知日 2022-11-08 
審決日 2022-12-01 
出願番号 P2020-101773
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E06B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 土屋 真理子
藤脇 昌也
発明の名称 複合建具  
代理人 及川 周  
代理人 松本 将尚  
代理人 川渕 健一  

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