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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1393833
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-11 
確定日 2023-01-13 
事件の表示 特願2019−539409「データ管理システム、データ管理方法、およびデータ管理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月 7日国際公開、WO2019/044621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月22日(優先権主張 2017年(平成29年)8月30日)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月27日に手続補正がされ、令和3年4月23日付けの拒絶理由の通知に対し、同年7月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年12月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して令和4年3月11日に審判請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 令和4年3月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月11日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むものであり、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。以下、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。)。

(本件補正発明)
「複数の検査の検査名を含む検査項目、検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所、および各検査に要する検査所要時間を少なくとも含む検査情報と、医療機関の地図情報と、患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報とを記憶する記憶部と、
検査対象となる患者を識別するための識別子と、重症度を示す前記患者の状態に関する情報とを含む患者情報を取得する取得部と、
前記患者情報と、前記検査情報と、前記地図情報と、前記速度情報とに基づいて、終了した検査または診察が行われた検査場所または診察場所から、前記検査または診察の次の検査または診察が行われる次の検査場所または診察場所までの距離および前記患者の状態に応じて移動するために必要な移動時間を算出する算出部と、
前記検査情報、前記患者情報、および前記移動時間に基づいて、前記検査所要時間に対して前記移動時間をマージンとして付加して、前記患者に検査待ち時間が発生しないように、前記患者の検査スケジュールを生成する生成部とを備える、データ管理システム。」

(2) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明
本件補正前の令和3年7月6日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「複数の検査の検査名を含む検査項目、検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所、および各検査に要する検査所要時間を少なくとも含む検査情報を記憶する記憶部と、
検査対象となる患者を識別するための識別子と、重症度を示す前記患者の状態に関する情報とを含む患者情報を取得する取得部と、
前記患者情報と、前記検査情報とに基づいて、前記患者の状態に応じて、終了した検査または診察が行われた検査場所または診察場所から、前記検査または診察の次の検査または診察が行われる次の検査場所または診察場所に移動するために必要な移動時間を算出する算出部と、
前記検査情報、前記患者情報、および前記移動時間に基づいて、前記検査所要時間に対して前記移動時間をマージンとして付加して、前記患者に検査待ち時間が発生しないように、前記患者の検査スケジュールを生成する生成部とを備える、データ管理システム。」

2 補正の適否
上記1のとおり、補正前の請求項1に記載された発明に係る本件補正は、発明を特定するために必要な事項である「記憶部」について、「医療機関の地図情報と、患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報」を記憶することを付加して限定するとともに、「算出部」について、「前記患者情報と、前記検査情報」に加え「前記地図情報と、前記速度情報」にも基づくことによって、「患者の状態」に応じるだけではなく、「終了した検査または診察が行われた検査場所または診察場所から、前記検査または診察の次の検査または診察が行われる次の検査場所または診察場所までの距離」にも応じて「移動時間を算出する」ことを付加して限定するものである。
そして、当該付加して限定した事項は、出願当初明細書の【0022】〜【0025】に記載された事項であって、新規事項を追加するものではなく、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明(本件補正発明)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、補正前の請求項1に記載された発明に係る本件補正は、特許法17条の2・5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載、引用発明
ア 引用文献1の記載及び引用発明
(ア) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に公開された特開2016―126694号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線加筆。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、病院施設に設置された電子カルテシステムを利用して、複数のオーダが出された患者の検査及び診察の待ち時間が最も短くなる検査順を提案する検査及び診察の待ち時間短縮システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病院施設において複数の検査や診察(以下、「検査等」と表記することもある。)を受ける場合、それぞれの検査場所や診察室において待ち時間が発生する。このような待ち時間は、患者にとって大きな負担となる。例えば、特許文献1には、検査結果説明などの診察内容を考慮して待ち時間を正確に予測するための手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−217389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、患者に待ち時間を予測して伝えることができるが、患者の待ち時間が短縮されるわけではない。また、看護師をはじめとするスタッフが各検査室の状況を把握し、患者を振り分けなければならず、スタッフにも負担がかかる。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案することが可能な待ち時間短縮システム等を提供することである。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明により、待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案することが可能な待ち時間短縮システム等を提供できる。」

「【0011】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。最初に、図1を参照しながら、全ての実施形態に共通する待ち時間短縮システム1の概要について説明する。図1に示す通り、待ち時間短縮システム1は、電子カルテシステムを実現する電子カルテサーバ2と、診察室や診察受付などに設置されるPC(Personal Computer)端末3や携帯端末4とによって構成されている。電子カルテサーバ2と、PC端末3や携帯端末4とは、LAN(Local Area Network)等のネットワーク9を介して接続されている。
【0012】
電子カルテサーバ2は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウエアとソフトウエアとが協働することによって構成される電子カルテ処理部5、ハードディスク等の記憶媒体によって構成され、電子カルテの情報を記憶する電子カルテDB(DataBase)7や、本発明において利用される情報を記憶する待ち時間短縮DB8等によって構成される。
【0013】
電子カルテ処理部5は、患者情報を管理する機能、処方、検査、処置などのオーダを管理する機能、検査の予約情報を管理する機能、診療録や看護記録などの診療情報を管理する機能等に加えて、検査及び診察の待ち時間を短縮する処理(図6参照)を実行する待ち時間短縮処理部10を備える。」

「【0015】
<第1の実施形態>
以下、図2〜図12を参照しながら、第1の実施形態について説明する。
【0016】
図2に例示する患者情報テーブル21は、電子カルテDB7に含まれる。患者情報テーブル21は、患者の個人情報等に関する内容を保持する。例えば、図2に示すように、患者情報テーブル21は、患者ID、患者氏名、カナ氏名の他に、移動方法22のデータ項目を有する。移動方法22は、患者の移動時間の計算に用いられるものであり、例えば、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等である。
【0017】
図3に例示するオーダ情報テーブル31は、電子カルテDB7に含まれる。オーダ情報テーブル31は、医療従事者による患者へのオーダ情報に関する内容であって、電子カルテシステムにおいて使用可能なオーダ情報を保持する。例えば、図3に示すように、オーダ情報テーブル31は、オーダ種ID32、オーダ名33、実施場所34、所要時間35等のデータ項目を有する。オーダ名33は、例えば、「採血」、「採尿」、「単純放射線」、「頭部CT」等である。実施場所34は、オーダが行われる場所であり、例えば、「採血」であれば、「処置室、検査室」である。所要時間35は、オーダに要する時間であり、例えば、「採血」であれば、「2分」である。
【0018】
所要時間35については、例えば、待ち時間短縮処理部10が、オーダ種IDごとに、過去N回(Nは自然数)の所要時間の平均値を算出し、オーダ情報テーブル31に保存しても良い。また、病院施設の管理者が、オーダ種IDごとに、任意の値を登録しても良い。
【0019】
図4に例示する移動時間情報テーブル41は、待ち時間短縮DB8に含まれる。移動時間情報テーブル41は、検査室セット42、所要時間43等のデータ項目を有する。検査室セット42は、2か所の検査室や診察室の組合せである。所要時間43は、検査室セット42が示す2か所の検査室等の移動に要する時間であり、移動方法22ごとの値を保持する。例えば、検査室セット42が{診察室、超音波検査室}の場合、所要時間43は、[{独歩:3分、杖移動:5分、車椅子移動:4分}]である。所要時間43は、病院施設の管理者が、検査室セット42ごとに、任意の値を登録すれば良い。
【0020】
図5に例示する予定兼実績テーブル51は、待ち時間短縮DB8に含まれる。予定兼実績テーブル51は、オーダID52、実施場所53、実施日54、患者ID55、開始予定時刻56、終了予定時刻57、開始時刻58、終了時刻59、進捗60等のデータ項目を有する。
【0021】
開始時刻58は、例えば、患者が検査室等にて受付を行った時刻又は到着した時刻とする。受付を行った時刻又は到着した時刻は、患者に所持させた紙又は電子媒体のバーコード情報やID情報を読み取った時刻でも良いし、患者の到着を確認した医療従事者がPC端末3又は携帯端末4を介して電子カルテサーバ2に登録した時刻でも良い。終了時刻59は、例えば、診察の場合には医師がPC端末3等を介して電子カルテサーバ2に診察終了の登録を行った時刻とし、検査や処置の場合には医療従事者がPC端末3等を介して電子カルテサーバ2にオーダの実施登録を行った時刻とする。進捗60のステータスは、例えば、「未実施」、「実施中」、「実施済」等である。
【0022】
尚、オーダ情報テーブル31、移動時間情報テーブル41及び予定兼実績テーブル51は、電子カルテシステム及び待ち時間短縮システム1のいずれから参照できるようにしても良い。また、ID等で紐付けられているテーブル同士は、互いに即座に参照することができる。
【0023】
図6は、第1の実施形態における待ち時間短縮システム1の処理の流れを示すフローチャートである。電子カルテサーバ2は、例えば、患者が病院施設の窓口で受付を行ったとき、患者の診察が中断したとき、患者の診察や検査が終了したとき、などのタイミングにおいて、図6に示す処理を開始する。
【0024】
電子カルテサーバ2は、移動を要する検査や処置のオーダがあるか否か判定する(ステップ101)。ない場合(ステップ101のNo)、電子カルテサーバ2は、何もせずに処理を終了する。ある場合(ステップ101のYes)、電子カルテサーバ2は、対象のオーダを予定兼実績テーブル51に登録するとともに、対象のオーダIDとオーダ数nを記憶し、ステップ102に進む。このとき、電子カルテサーバ2は、開始予定時刻56、終了予定時刻57、開始時刻58、終了時刻59を、NULL又は「−−:−−」などの時間が特定できない値で予定兼実績テーブル51に登録する。
【0025】
次に、電子カルテサーバ2は、各オーダの所要時間を、オーダ情報テーブル31の所要時間35から取得する(ステップ102)。尚、図示はしていないが、電子カルテサーバ2には、オーダIDとオーダ種IDとを紐付ける情報が記憶されており、電子カルテサーバ2は、オーダIDに基づいて、オーダ情報テーブル31を検索し、所要時間35を取得することが可能である。
【0026】
次に、電子カルテサーバ2は、患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得し、各オーダに伴う検査室等の間の移動時間を、移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得する(ステップ103)。図2及び図4を参照すると、例えば、患者IDが「0000001」の患者の移動方法22は「独歩」であるため、診察室と超音波検査室との間の移動時間として「3分」を取得する。
【0027】
次に、電子カルテサーバ2は、各オーダの順序を入れ替えた全パターンを算出する(ステップ104)。n個のオーダの順序を入れ替えたパターン数は、nの階乗(n!)通りであるから、電子カルテサーバ2は、各パターンを「パターン1」〜「パターンn!」とする。
【0028】
次に、電子カルテサーバ2は、ステップ105〜ステップ110において、全パターンの総所要時間を算出する。
【0029】
まず、電子カルテサーバ2は、各変数に初期値を代入する(ステップ105)。具体的には、電子カルテサーバ2は、iに「1」、min_patternに「1」、min_timeに「99:99」を代入する。
【0030】
次に、電子カルテサーバ2は、i>n!を満たすか否か判定する(ステップ106)。満たす場合(ステップ106のYes)、電子カルテサーバ2は、ステップ111に進む。満たさない場合(ステップ106のNo)、電子カルテサーバ2は、ステップ102において取得される各オーダの所要時間、予定兼実績テーブル51の登録内容、ステップ103において取得される患者の移動時間に基づいて、パターンiにおける総所要時間(total_time)を算出する(ステップ107)。電子カルテサーバ2は、予定兼実績テーブル51の登録内容を参照し、各オーダの重複予約が発生しないように、オーダの開始予定時刻及び終了予定時刻を特定し、総所要時間を算出する。
【0031】
次に、電子カルテサーバ2は、min_time>total_timeを満たすか否か判定する(ステップ108)。満たす場合(ステップ108のYes)、電子カルテサーバ2は、min_timeにtotal_timeの値、min_patternにiの値を代入し(ステップ110)、iにi+1の値を代入し(ステップ109)、ステップ106から処理を繰り返す。満たさない場合(ステップ108のNo)、電子カルテサーバ2は、iにi+1の値を代入し(ステップ109)、ステップ106から処理を繰り返す。
【0032】
ステップ105〜ステップ110の処理が終了すると、電子カルテサーバ2は、最も短い総所要時間(min_time)のパターン(min_pattern)を選択し、そのパターン(min_pattern)の予約を予定兼実績テーブル51に登録する(ステップ111)。具体的には、電子カルテサーバ2は、ステップ101において時間が特定できない値で登録されている開始予定時刻56、終了予定時刻57を、総所要時間が最も短いパターン(min_pattern)に基づいて更新登録する。
【0033】
次に、電子カルテサーバ2は、総所要時間が最も短いパターン(min_pattern)のルート及び各所要時間の見込みを電子媒体又は紙媒体に出力する(ステップ112)。」

上記引用文献1の記載によれば、次のことがいえる。

a 待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案する待ち時間短縮システム1は、電子カルテシステムを実現する電子カルテサーバ2と、診察室や診察受付などに設置されるPC端末3や携帯端末4とによって構成され、電子カルテサーバ2は、電子カルテ処理部5、ハードディスク等の記憶媒体によって構成され、電子カルテの情報を記憶する電子カルテDB7、利用される情報を記憶する待ち時間短縮DB8等によって構成される(【0005】、【0011】〜【0012】)。

b 電子カルテDB7には、患者ID、患者氏名、カナ氏名の他に、移動方法22のデータ項目を有する患者情報テーブル21が含まれ、移動方法22は、患者の移動時間の計算に用いられるものであって、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等である(【0016】)。

c また、電子カルテDB7には、オーダ種ID32、オーダ名33、実施場所34、所要時間35等のデータ項目を有するオーダ情報テーブル31が含まれ、オーダ名33は、「採血」、「採尿」、「単純放射線」、「頭部CT」等であり、実施場所34は、オーダが行われる場所であって、「採血」であれば、「処置室、検査室」であり、所要時間35は、オーダに要する時間であって、「採血」であれば、「2分」である(【0017】)。

d 待ち時間短縮DB8には、検査室セット42、所要時間43等のデータ項目を有する移動時間情報テーブル41が含まれ、検査室セット42は、2か所の検査室や診察室の組合せであり、所要時間43は、検査室セット42が示す2か所の検査室等の移動に要する時間であって、移動方法22ごとの値を保持するものであり、検査室セット42が{診察室、超音波検査室}の場合、所要時間43は、[{独歩:3分、杖移動:5分、車椅子移動:4分}]である(【0019】)。

e 電子カルテサーバ2は、患者が病院施設の窓口で受付を行ったとき、患者の診察が中断したとき、患者の診察や検査が終了したとき、などのタイミングにおいて処理を開始するものである(【0023】)。

f 電子カルテサーバ2は、移動を要する検査や処置のオーダがあるか否か判定し、ある場合、対象のオーダを予定兼実績テーブル51に登録するとともに、対象のオーダIDとオーダ数nを記憶する(【0024】)。

g 電子カルテサーバ2は、各オーダの所要時間を、オーダ情報テーブル31の所要時間35から取得する(【0025】)。

h 電子カルテサーバ2は、患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得して、各オーダに伴う検査室等の間の移動時間を、移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得する(【0026】)。

i 電子カルテサーバ2は、各オーダの順序を入れ替えた全パターンを算出する(【0027】)。

j 電子カルテサーバ2は、取得される各オーダの所要時間、予定兼実績テーブル51の登録内容、取得される患者の移動時間に基づいて、パターンiにおける総所要時間を算出する(【0030】)。

k 電子カルテサーバ2は、最も短い総所要時間のパターンを選択して、予定兼実績テーブル51に、開始予定時刻56、終了予定時刻57をそのパターンに基づいて更新登録する(【0032】)。

l 電子カルテサーバ2は、総所要時間が最も短いパターンのルート及び各所要時間の見込みを電子媒体又は紙媒体に出力する(【0033】)。

(イ) 引用発明
上記(ア)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「電子カルテシステムを実現する電子カルテサーバ2と、診察室や診察受付などに設置されるPC端末3や携帯端末4とによって構成される、待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案する待ち時間短縮システム1において、
電子カルテサーバ2は、電子カルテ処理部5、ハードディスク等の記憶媒体によって構成され、電子カルテの情報を記憶する電子カルテDB7、利用される情報を記憶する待ち時間短縮DB8等によって構成され、
電子カルテDB7には、患者ID、患者氏名、カナ氏名の他に、移動方法22のデータ項目を有する患者情報テーブル21が含まれ、移動方法22は、患者の移動時間の計算に用いられるものであって、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等であり、
また、電子カルテDB7には、オーダ種ID32、オーダ名33、実施場所34、所要時間35等のデータ項目を有するオーダ情報テーブル31が含まれ、オーダ名33は、「採血」、「採尿」、「単純放射線」、「頭部CT」等であり、実施場所34は、オーダが行われる場所であって、「採血」であれば、「処置室、検査室」であり、所要時間35は、オーダに要する時間であって、「採血」であれば、「2分」であり、
待ち時間短縮DB8には、検査室セット42、所要時間43等のデータ項目を有する移動時間情報テーブル41が含まれ、検査室セット42は、2か所の検査室や診察室の組合せであり、所要時間43は、検査室セット42が示す2か所の検査室等の移動に要する時間であって、移動方法22ごとの値を保持するものであり、検査室セット42が{診察室、超音波検査室}の場合、所要時間43は、[{独歩:3分、杖移動:5分、車椅子移動:4分}]であり、
電子カルテサーバ2は、患者が病院施設の窓口で受付を行ったとき、患者の診察が中断したとき、患者の診察や検査が終了したとき、などのタイミングにおいて処理を開始するものであり、
移動を要する検査や処置のオーダがあるか否か判定し、ある場合、対象のオーダを予定兼実績テーブル51に登録するとともに、対象のオーダIDとオーダ数nを記憶し、
各オーダの所要時間を、オーダ情報テーブル31の所要時間35から取得し、
患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得して、各オーダに伴う検査室等の間の移動時間を、移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得し、
各オーダの順序を入れ替えた全パターンを算出し、取得される各オーダの所要時間、予定兼実績テーブル51の登録内容、取得される患者の移動時間に基づいて、パターンiにおける総所要時間を算出し、
最も短い総所要時間のパターンを選択して、予定兼実績テーブル51に、開始予定時刻56、終了予定時刻57をそのパターンに基づいて更新登録し、
総所要時間が最も短いパターンのルート及び各所要時間の見込みを電子媒体又は紙媒体に出力する、
待ち時間短縮システム1。」

イ 引用文献2の記載及び引用文献2記載事項
(ア) 引用文献2の記載
周知技術を示す文献として提示する、本願の優先日前に公開された特開2017−27528号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「【0013】
施設は、例えば、市役所や区役所などの役所、病院や診療所などの医療機関である。また、施設は、例えば、商業施設、遊園地、イベント会場などであってもよい。窓口は、手続の受付を行う所であり、例えば、役所内の各課の窓口や、医療機関内の各診療科の窓口などである。また、窓口は、例えば、商業施設の各飲食店の受付、イベント会場の各ブースの受付、遊園地の各アトラクションの受付などであってもよい。」

「【0060】
<移動速度テーブル800の記憶内容>
図8は、移動速度テーブル800の記憶内容の一例を示す説明図である。図8において、移動速度テーブル800は、各年齢区分について、「健常者」、「車椅子」、「視覚障害者」、「健常者+車椅子」および「健常者+視覚障害者」の移動速度(単位:m/分)を記憶する。
【0061】
「健常者」の移動速度は、各年齢区分について、健常者が単独で役所内を移動する場合の移動速度を示す。例えば、若年層の健常者が単独で役所内を移動する場合の移動速度は「80[m/分]」である。
【0062】
「車椅子」の移動速度は、各年齢区分について、車椅子使用者が単独で役所内を移動する場合の移動速度を示す。例えば、若年層の車椅子使用者が単独で役所内を移動する場合の移動速度は「50[m/分]」である。
【0063】
「視覚障害者」の移動速度は、各年齢区分について、視覚障害者が単独で役所内を移動する場合の移動速度を示す。例えば、若年層の視覚障害者が単独で役所内を移動する場合の移動速度は「40[m/分]」である。
・・・
【0071】
<距離テーブル1000の記憶内容>
図10は、距離テーブル1000の記憶内容の一例を示す説明図である。図10において、距離テーブル1000は、役所内の場所間の距離(単位:m)を記憶する。場所としては、例えば、手続課、総合窓口、待合所、出入り口などが設定される。例えば、役所内のA課とB課との間の距離は「30m」である。」

「【0099】
算出部1303は、来庁者の現在位置から移動先までの移動にかかる予測移動時間を算出する。ここで、移動先とは、例えば、来庁者が次に手続を行う手続課、すなわち、予約部1302によって予約された手続課である。具体的には、例えば、まず、算出部1303は、来庁者に同伴者がいるか否かを判定する。
・・・
【0102】
つぎに、算出部1303は、例えば、距離テーブル1000(図10参照)を参照して、来庁者の現在位置から次の手続課までの移動距離を特定する。そして、算出部1303は、特定した移動距離を、特定した移動速度で除算することにより、来庁者の現在位置から次の手続課までの移動にかかる予測移動時間を算出する。」

(イ) 引用文献2記載事項
上記(ア)によれば、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

(引用文献2記載事項)
「市役所や区役所などの役所、病院や診療所などの医療機関において、算出部が、特定した移動距離を、特定した移動速度で除算することにより、来庁者の現在位置から次の手続課までの移動にかかる予測移動時間を算出すること。」

ウ 引用文献3の記載及び引用文献3記載事項
(ア) 引用文献3の記載
周知技術を示す文献として提示する、本願の優先日前に公開された特開2010−286958号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

「【0039】
所要時間算出部14aは、位置情報POに基づいて、患者が予約した診療科の診察室や検査室(サービスの提供場所)までの所要時間RTを算出する。より具体的には、所要時間算出部14aは、まず、現在位置から病院までの施設外所要時間RT2を算出し、施設内所要時間RT1との和を所要時間RTとして算出する。
【0040】
患者が病院から徒歩圏内にいる場合には、例えば図7に示すように、現在位置から病院までの道程Lを歩行速度Sで除算することによって、施設外所要時間RT2を算出することができる。また、道程Lは、現在位置から病院までの直線距離の√2倍としたり、地図情報などを利用して算出したりすることができる。一方、患者が病院から徒歩圏外にいる場合には、例えば交通機関の経路情報などを利用して、施設外所要時間RT2を算出することができる。そして、各病棟の玄関から各診療科の診察室や検査室までの施設内所要時間RT1に施設外所要時間RT2を加算することによって、所要時間RTを算出することができる。」

(イ) 引用文献3記載事項
上記(ア)によれば、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

(引用文献3記載事項)
「・現在位置から病院までの施設外所要時間を算出するために、所要時間算出部が、現在位置から病院までの道程Lを歩行速度Sで除算すること。
・道程Lは、地図情報などを利用して算出することができること。」

(3)対比
本件補正発明と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「電子カルテの情報を記憶する電子カルテDB7」に含まれる「オーダ情報テーブル31」には、「「採血」、「採尿」、「単純放射線」、「頭部CT」等」の「オーダ名33」、「オーダが行われる場所であって、「採血」であれば、「処置室、検査室」であ」る「実施場所34」、「オーダに要する時間」である「所要時間35」が含まれている。また、「利用される情報を記憶する待ち時間短縮DB8」に含まれる「移動時間情報テーブル41」の「検査室セット42」は、「2か所の検査室や診察室の組合せであ」り、「診察室」が含まれている。
そして、引用発明の「電子カルテの情報を記憶する電子カルテDB7」及び「利用される情報を記憶する待ち時間短縮DB8」は、いずれも情報を記憶するものであるから、本件補正発明の「記憶部」に相当し、当該「記憶部」に記憶される、引用発明の「「採血」、「採尿」、「単純放射線」、「頭部CT」等」の「オーダ名33」は、本件補正発明の「複数の検査の検査名を含む検査項目」に相当し、引用発明の「オーダが行われる場所であって、「採血」であれば、「処置室、検査室」であ」る「実施場所34」及び「2か所の検査室や診察室の組合せであ」る「検査室セット42」の「診査室」は、本件補正発明の「検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所」に相当し、引用発明の「オーダに要する時間」である「所要時間35」は、本件補正発明の「各検査に要する検査所要時間」に相当する。
そうすると、引用発明の「記憶部」に記憶される「オーダ名33」、「実施場所34」及び「検査セット42」の「診査室」、「所要時間35」は、本件補正発明の「記憶部」に記憶される「検査情報」に相当する。
したがって、引用発明の「オーダ名33」、「実施場所34」及び「検査室セット42」の「診査室」、「所要時間35」を記憶する「記憶部」(「電子カルテDB7」及び「待ち時間短縮DB8」)と、本件補正発明の「複数の検査の検査名を含む検査項目、検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所、および各検査に要する検査所要時間を少なくとも含む検査情報と、医療機関の地図情報と、患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報とを記憶する記憶部」とは、「複数の検査の検査名を含む検査項目、検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所、および各検査に要する検査所要時間を少なくとも含む検査情報とを記憶する記憶部」で共通する。

イ 引用発明の「電子カルテDB7」は、「患者ID、患者氏名、カナ氏名の他に、移動方法22のデータ項目を有する患者情報テーブル21が含まれ、移動方法22は、患者の移動時間の計算に用いられるものであって、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等であ」るところ、患者情報である「患者ID」は、本件補正発明の「検査対象となる患者を識別するための識別子」に相当する。
そして、本件補正発明の「患者の状態」について検討するに、本願明細書の発明の詳細な説明の【0016】によれば、「さらに、取得部120が取得する患者の状態は、患者の麻痺状態、運動機能、年齢、意識レベル、認知レベルに限定されない。具体的には、取得部120が取得する患者の状態には、患者がある検査場所または診察場所から次の検査場所または診察場所に移動するために必要な移動時間に、影響を与える情報が含まれていればよい。」と記載されているところ、引用発明の「移動方法22」も、上述のとおり「患者の移動時間の計算に用いられるものであって、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等」であり、それぞれの移動方法に応じて移動速度が異なるから、患者が移動するために必要な移動時間に影響を与える情報であるといえる。
そうすると、引用発明の「移動方法22」は、本件補正発明の「患者の状態」に相当し、引用発明の「移動方法22」に含まれる「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等の各情報は、本件補正発明の「患者の状態に関する情報」に相当する。
また、引用発明は、「患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得して」いるから、「患者の状態に関する情報」(「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等の各情報)を取得する取得部を備えているといえる。
なお、引用発明は、「電子カルテサーバ2は、患者が病院施設の窓口で受付を行ったとき、患者の診察が中断したとき、患者の診察や検査が終了したとき、などのタイミングにおいて処理を開始するものであり」、その後、「患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得して」いるところ、患者の「移動方法22」を取得するためには、「検査対象となる患者を識別するための識別子」(患者ID)が必要であるから、「検査対象となる患者を識別するための識別子」(患者ID)を取得する取得部を備えていることは明らかである。
したがって、引用発明の「患者ID」と「患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得」する取得部と、本件補正発明の「検査対象となる患者を識別するための識別子と、重症度を示す前記患者の状態に関する情報とを含む患者情報を取得する取得部」とは、「検査対象となる患者を識別するための識別子と、前記患者の状態に関する情報とを含む患者情報を取得する取得部」で共通する。

ウ 上記アのとおり、引用発明の「オーダ名33」、「実施場所34」及び「検査室セット42」の「診査室」、「所要時間35」は、本件補正発明の「検査情報」に相当する。また、上記イのとおり、引用発明の「患者ID」、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等の各情報は、本件補正発明の「患者情報」に相当する。
そして、引用発明では、これらの情報に基づいて、「各オーダの所要時間を、オーダ情報テーブル31の所要時間35から取得し」、「患者の移動方法を、患者情報テーブル21の移動方法22から取得して、各オーダに伴う検査室等の間の移動時間を、移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得し」、「取得される各オーダの所要時間、予定兼実績テーブル51の登録内容、取得される患者の移動時間に基づいて、パターンiにおける総所要時間を算出」しているから、「総所要時間を算出」するために、「所要時間35」に対して「移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得」した「移動時間」を、本件補正発明と同様に、マージンとして付加しているといえる。
なお、引用発明の「待ち時間短縮システム1」は、「待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案する」システムであり、そのために「総所要時間が最も短いパターン」を算出しているから、本件補正発明と同様、「患者に検査待ち時間が発生しないように」、「患者の検査スケジュールを生成する」生成部を備えるシステムであるといえる。
したがって、引用発明の「オーダ名33」、「実施場所34」及び「検査室セット42」、「所要時間35」、「患者ID」、「独歩」、「車椅子移動」、「杖移動」等の患者の各情報、「移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得」した「移動時間」に基づいて、「所要時間35」に対して「移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得」した「移動時間」を、マージンとして付加して、「患者に検査待ち時間が発生しないように」、「患者の検査スケジュールを生成する」生成部と、本件補正発明の「前記検査情報、前記患者情報、および前記移動時間に基づいて、前記検査所要時間に対して前記移動時間をマージンとして付加して、前記患者に検査待ち時間が発生しないように、前記患者の検査スケジュールを生成する生成部」とは、「前記検査情報、前記患者情報、および移動時間に基づいて、前記検査所要時間に対して前記移動時間をマージンとして付加して、前記患者に検査待ち時間が発生しないように、前記患者の検査スケジュールを生成する生成部」で共通する。

エ 引用発明の「待ち時間短縮システム1」は、「患者ID、患者氏名、カナ氏名の他に、移動方法22のデータ項目を有する患者情報テーブル21」や「オーダ種ID32、オーダ名33、実施場所34、所要時間35等のデータ項目を有するオーダ情報テーブル31」を含む「電子カルテDB7」や、「検査室セット42、所要時間43等のデータ項目を有する移動時間情報テーブル41」を含む「待ち時間短縮DB8」から構成される「電子カルテサーバ2」等から構成されるものであり、各種データを管理していることから、「データ管理システム」といえる。
したがって、引用発明の「待ち時間短縮システム1」は、後述の[相違点]を除き、本件補正発明の「データ管理システム」に相当する。

以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

[一致点]
複数の検査の検査名を含む検査項目、検査が行われる検査場所、診察が行われる診察場所、および各検査に要する検査所要時間を少なくとも含む検査情報を記憶する記憶部と、
検査対象となる患者を識別するための識別子と、前記患者の状態に関する情報とを含む患者情報を取得する取得部と、
前記検査情報、前記患者情報、および移動時間に基づいて、前記検査所要時間に対して前記移動時間をマージンとして付加して、前記患者に検査待ち時間が発生しないように、前記患者の検査スケジュールを生成する生成部とを備える、データ管理システム。

[相違点]
[相違点1]
「患者の状態」について、本件補正発明は、「重症度を示す」ものであるのに対し、引用発明は、「患者の移動方法」であって、「重症度を示す」ものではない点。

[相違点2]
本件補正発明は、「記憶部」が「医療機関の地図情報」と「患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報」とを記憶し、「前記患者情報と、前記検査情報と、前記地図情報と、前記速度情報とに基づいて、終了した検査または診察が行われた検査場所または診察場所から、前記検査または診察の次の検査または診察が行われる次の検査場所または診察場所までの距離および前記患者の状態に応じて移動するために必要な移動時間を算出する算出部」を備えているのに対し、引用発明は、「待ち時間短縮DB8」の「移動時間情報テーブル41」が「検査室等の間の移動時間」である「所要時間43」を記憶することによって、「総所要時間が最も短いパターンのルート及び各所要時間の見込み」を生成しているところ、本件補正発明のように「医療機関の地図情報」と「患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報」を記憶していないし、上記「算出部」も備えていない点。

(4)判断
ア [相違点1]について
引用発明は、「患者の状態」(患者の移動方法)を「患者情報テーブル21の移動方法22から取得して、各オーダに伴う検査室等の間の移動時間を、移動時間情報テーブル41の所要時間43から取得」するものであるところ、引用発明において、「患者の状態」として「患者の移動方法」という項目の情報を取得するのは、「患者の移動方法」(独歩、車椅子移動、杖移動)に応じた移動速度が、検査室間の移動時間に影響を与えているという、病院施設の管理者等の知見に基づくものであると認められる。
そして、このような検査室間の移動時間に影響を与える項目として、上記「患者の移動方法」のほかにも、例えば、病状が重く看護師等の補助を受けなければ移動することができない患者、病状はそれほど重くなく自身で移動できる患者、病状は比較的軽く移動に影響はない患者等、患者の病状の重症度に応じた情報があることは、病院施設の管理者等であれば、容易に理解できることである。
そうすると、引用発明における「患者の状態」として、「患者の移動方法」に代えて患者の重症度に応じた情報、すなわち、「重症度を示す」ものを採用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

イ [相違点2]について
引用発明において、「2か所の検査室等の移動に要する時間」である「所要時間43」は、「[{独歩:3分、杖移動:5分、車椅子移動:4分}]」という「移動方法22ごとの値を保持する」ものであるところ、これらの「3分」、「5分」及び「4分」という値は、上記アのとおり、「患者の移動方法」(独歩、車椅子移動、杖移動)に応じた移動速度が、検査室間の移動時間に影響を与えているという、病院施設の管理者等の知見に基づくものであり、病院施設の管理者等によって登録された移動時間であると認められる。一方、移動体が、ある場所から他の場所まで移動するために必要な移動時間(min)を求める場合、移動距離(m)を移動体の移動速度(m/min)で除算して求めることは一般的な公式としてよく知られており、例えば、上記(2)イ(イ)の引用文献2記載事項や、同ウ(イ)の引用文献3記載事項のように、病院内外での移動時間の算出にも用いられている周知技術である。したがって、引用発明において、「2か所の検査室等の移動に要する時間」である「所要時間43」について、「[{独歩:3分、杖移動:5分、車椅子移動:4分}]」のように、「移動方法22ごとの値を保持する」のではなく、「検査室セット42が示す2か所の検査室等」の移動距離と「移動方法22ごと」の移動速度を記憶し、移動時間を除算により求めるようにすることは、引用文献1に接した者であれば、普通に想起し得るものである。
そして、上記アのとおり、「患者の状態」としては、「重症度を示す」ものが容易に理解できるところ、引用発明の「待ち時間短縮システム1」は、「待ち時間の少ない検査等の順番を自動的に提案する」システムであり、そのためには、ある程度の正確性を持った移動時間の算出が不可欠であるから、算出に利用する移動速度として、ある一人の患者の移動速度を利用するのではなく、病院施設の管理者等の知見に基づく、それぞれの患者の状態に応じた平均的な移動速度を利用するのがよいことは明らかである。
なお、移動時間を算出(移動距離を移動速度で除算)する際の移動距離について、地図情報などを利用して算出することは、一般的に行われることであり(上記(2)ウ(イ)の引用文献3記載事項参照)、何ら格別なことではなく、どのような地図情報を利用するかは、算出の対象に応じて、例えば、病院等の医療機関までの地図情報や医療機関の地図情報を利用すればよいものである。
そうすると、引用発明において、「記憶部」(待ち時間短縮DB8)の「移動時間情報テーブル41」が「検査室等の間の移動時間」である「所要時間43」を記憶することに代えて、「医療機関の地図情報」と「患者の状態に応じた平均的な移動速度に関する速度情報」とを記憶し、「前記患者情報と、前記検査情報と、前記地図情報と、前記速度情報とに基づいて、終了した検査または診察が行われた検査場所または診察場所から、前記検査または診察の次の検査または診察が行われる次の検査場所または診察場所までの距離および前記患者の状態に応じて移動するために必要な移動時間を算出する算出部」を備えるように構成することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

ウ 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上によれば、本件補正は、特許法17条の2・6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
令和4年3月11日にされた手続補正(本件補正)は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
本願発明についての原査定の拒絶の理由は、概略、本願の優先日前に日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3 引用文献の記載、引用発明
原査定の理由で引用された引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2の2(2)アのとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の2のとおり、本件補正発明から「記憶部」及び「算出部」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2のとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-10 
結審通知日 2022-11-16 
審決日 2022-12-01 
出願番号 P2019-539409
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 梶尾 誠哉
松田 直也
発明の名称 データ管理システム、データ管理方法、およびデータ管理プログラム  
代理人 佐々木 敬  
代理人 佐々木 敬  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  

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