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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1393840
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-22 
確定日 2023-01-13 
事件の表示 特願2020− 87522「双方向放送方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年11月25日出願公開、特開2021−182696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和2年5月19日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 5月18日付け:拒絶理由通知書
令和3年 6月11日 :意見書および手続補正書の提出
令和3年10月12日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和3年11月 2日 :意見書および手続補正書の提出
令和3年12月22日付け:令和3年11月2日の手続補正についての
補正の却下の決定および拒絶査定
令和4年 3月22日 :審判請求書および手続補正書の提出


第2 令和4年3月22日になされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年3月22日になされた手続補正を却下する。

[理由]
1 令和4年3月22日になされた手続補正の内容
(1)段落【0012】の補正
令和4年3月22日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、明細書および特許請求の範囲についてするものであり、そのうち、明細書の段落【0012】の補正は、次に示すとおり、本件補正前の段落【0012】(本願の願書に添付された明細書の段落【0012】)の記載を、本件補正後の段落【0012】の記載とするものである。
なお、下線は、補正された箇所を示す。

・本件補正前の段落【0012】
「更に、ネットを通した無観客ライブ演奏に対する費用等が不確定であるためイベント業者、演奏者にとっては経済的に有利とはいえないと言う欠点もある。」

・本件補正後の段落【0012】
「更に、ネットを通した無観客ライブ演奏に対する費用等が不確定であるためイベント業者、演奏者にとっては経済的に有利とはいえないと言う欠点もある。また、ネットを通した無観客ライブは、ライブ会場内の座席について考慮されていない。即ち、ライブ会場の座席に応じて料金を設定し、座席に応じた音声・映像を楽しむことについて何等考慮されていない。」

(2)請求項1の補正
また、本件補正のうち、特許請求の範囲の請求項1の補正は、次に示すとおり、本件補正前の請求項1(令和3年6月11日付け手続補正書による請求項1)の記載を、本件補正後の請求項1の記載とするものである。
なお、補正前後の請求項1について、当審にて(1A)ないし(1D)、並びに、(1B’)および(1C’)に分説し、以下それぞれ「発明特定事項1A」ないし「発明特定事項1D」、並びに、「発明特定事項1B’」および「発明特定事項1C’」という。また、下線は、補正された箇所を示す。

・本件補正前の請求項1
「【請求項1】
(1A) テレビカメラ及びスピーカを備えたライブ会場における映像及び音声を伴うライブ配信を、モニターを通して楽しめる双方向ライブ放送方法であって、
(1B)前記ライブ会場内の座席情報を含む情報を視聴者情報として視聴者のアカウントと共に前記視聴者に配信しておき、
(1C)当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応音声をリアルタイムに収集し、通信回線を介して当該ライブ配信を行っているライブ会場に設置された前記スピーカに、前記ライブ配信に対する各視聴者のリアルタイムの反応音声をアナログ音響信号として出力し、当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応をリアルタイムにライブ出演者に報知する
(1D)ことを特徴とする双方向放送方法。」

・本件補正後の請求項1
「【請求項1】
(1A) テレビカメラ及びスピーカを備えたライブ会場における映像及び音声を伴うライブ配信を、モニターを通して楽しめる双方向ライブ放送方法であって、
(1B’)前記ライブ会場内の座席に関する情報を視聴者情報として視聴者のアカウントと共に登録しておき、
(1C’) 前記ライブ配信に対する前記視聴者の反応音声をリアルタイムに収集し、通信回線を介して当該ライブ配信を行っているライブ会場に設置された前記スピーカに、前記ライブ配信に対する各視聴者のリアルタイムの反応音声をアナログ音響信号として出力し、当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応をリアルタイムにライブ出演者に報知すると共に、前記視聴者のアカウント及び前記視聴者情報の前記座席に関する前記情報に基づき、前記ライブ会場内の座席位置を前記視聴者毎にバーチャルに決定する
(1D)ことを特徴とする双方向放送方法。」

2 本件補正の適否
(1)段落【0012】の補正について
本件補正のうち、段落【0012】の補正が、特許法第17条の2第3項の規定に違反するか否かについて、以下に検討する。

ア 本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲または図面に記載の事項
段落【0012】の補正に関連して、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲または図面(以下、これらを「当初明細書等」という。)には、以下の(ア)ないし(エ)に示す記載がある。なお、下線は、強調のために当審にて付した。

(ア)「【技術背景】
【0002】
新型コロナウィルス(COVID−19)の感染の影響を少なくするために自宅待機が要請されている。このため、スポーツ、音楽、芸能等のエンターテインメントのライブは軒並み中止または延期となっている。したがって、これらエンターテインメントに携わる企業、組織、個人は、当該イベントの出演者である演奏者、スポーツ選手、タレント (以下、出演者等と呼ぶ)と共に経済的に窮地に追い込まれている。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、無観客ライブ放送では視聴者の反応をリアルタイムに出演者等に報知できないため、出演者等は演奏、試合等に対して必ずしも注力できない部分もある。
【0012】
更に、ネットを通した無観客ライブ演奏に対する費用等が不確定であるためイベント業者、演奏者にとっては経済的に有利とはいえないと言う欠点もある。」

(ウ)「【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、無観客にも拘わらず、ライブ会場に観客が多数来場している場合と同様な臨場感を出演者等は得ることができる。更に、無観客のライブを視聴している場合にも、視聴者は出演者等の行うパフォーマンスに対して感動等を出演者等に伝えることができる。無観客ライブの映像、音声及びユーザ音声をも含めて記録・販売・課金することにより、ライブ演奏等の盛り上がりをユーザに知らせることができる。また、視聴者を限定することにより無観客ライブに伴うチケット等を前売りでネット販売することにより、演奏者、企画会社等の収入を安定化できる。」

(エ)「【0038】
また、無観客のライブ配信の開始前に、視聴者のアカウント等をセンタサーバ等により識別すると共に視聴者情報を登録しておき、ライブ配信前に視聴者の数等を特定すれば、ライブ配信に伴う視聴者から料金を前もって徴収することができ、出演者等に対する経済的な不安を除くことができる。この場合、視聴者のアカウント及び視聴者情報に基づき、座席に相当するライブ会場内の位置を視聴者毎に決定するようにすれば、より臨場感にあふれたライブ配信を楽しむことができる。更に、ライブ配信の放送をデータベースに記憶しておき、ライプ配信後、視聴者の要求に応じて、ライブに伴う映像、音声を後日配信することも可能であるし、別の記憶媒体に記憶して当該記憶媒体を販売することも可能である。尚、本発明は必ずしも無観客ライブ配信に限定されるものではなく、少数の観客のライブ配信の際にも適用できる。」

イ 判断
(ア)段落【0012】の補正により追加された事項について
段落【0012】の補正は、上記1(1)において下線で示したとおり、当初明細書等の記載に、「また、ネットを通した無観客ライブは、ライブ会場内の座席について考慮されていない。即ち、ライブ会場の座席に応じて料金を設定し、座席に応じた音声・映像を楽しむことについて何等考慮されていない。」という事項を追加する補正である。
ここで、段落【0012】は、段落【0011】とともに、発明が解決しようとする課題を記載した段落である。そして、「ライブ会場の座席に応じて料金を設定」するのは、ライブの主催者側であり、「座席に応じた音声・映像を楽しむ」のは、ライブの視聴者側であるから、段落【0012】の補正は、換言すれば、「ネットを通した無観客ライブにおいて、ライブ会場の座席に応じて料金を設定することについて考慮されていない」という事項(以下「本件補正事項a」という。)を追加する補正、および、「ネットを通した無観客ライブは、ライブ会場の座席に応じた音声・映像を楽しむことについて考慮されていない」という事項(以下「本件補正事項b」という。)を追加する補正の2つの補正を含むものであると認められる。

(イ)当初明細書等の記載との対比
当初明細書等には、上記ア(ア)のとおり、技術背景として「ライブは軒並み中止または延期となっている。エンターテインメントに携わる企業、組織、個人は、出演者等と共に経済的に窮地に追い込まれている」という背景が記載されており、また、本願発明が解決しようとする課題として、上記ア(イ)のとおり、「ネットを通した無観客ライブ演奏に対する費用等が不確定であるためイベント業者、演奏者にとっては経済的に有利とはいえないと言う欠点もある」という課題が記載されている。また、上記ア(ウ)のとおり「無観客ライブの映像、音声及びユーザ音声をも含めて記録・販売・課金することにより、ライブ演奏等の盛り上がりをユーザに知らせることができる」という効果、「視聴者を限定することにより無観客ライブに伴うチケット等を前売りでネット販売することにより、演奏者、企画会社等の収入を安定化できる」という効果が記載されている。当初明細書等に記載されたこれらの課題および効果は、無観客ライブの主催者側における経済的な課題および効果である。
ここで、有観客のライブではライブ会場の座席に応じて料金を設定することは常識といえる事項であるものの、当初明細書等には、有観客のライブのようにライブ会場の座席に応じて料金を設定することを無観客ライブでも行うことは記載されておらず、また、無観客のライブにおける経済的な課題は記載されているものの、本件補正事項aである「ネットを通した無観客ライブにおいて、ライブ会場の座席に応じて料金を設定することが考慮されていない」という事項は記載されておらず、また、自明または記載されているに等しい事項であるともいえない。
よって、これらの記載は、本件補正事項aを追加する補正の根拠となる記載とはいえない。

また、当初明細書等には、上記ア(エ)のとおり「視聴者のアカウント及び視聴者情報に基づき、座席に相当するライブ会場内の位置を視聴者毎に決定するようにすれば、より臨場感にあふれたライブ配信を楽しむことができる」と記載されており、この記載から、無観客ライブにおいて、座席に相当するライブ会場内の位置を視聴者毎に決定することにより、より臨場感にあふれたライブ配信を楽しむことができるという効果が記載されているといえる。この記載は、無観客ライブにおいて観客側における臨場感に関する課題についてのものであるから、本件補正事項bの根拠となる記載である。
一方で、本件補正事項aについて検討すると、有観客のライブではライブ会場の座席に応じて料金を設定することは常識といえる事項であるものの、当初明細書等には、実施の態様として、有観客のライブのようにライブ会場の座席に応じて料金を設定することを無観客ライブでも行うことは記載されていない。また、当初明細書等には、無観客のライブにおける臨場感に関する課題が記載されているものの、本件補正事項aである「ネットを通した無観客ライブにおいて、ライブ会場の座席に応じて料金を設定することが考慮されていない」という事項は記載されていない。
よって、この記載は、本件補正事項aを追加する補正の根拠となる記載とはいえない。

(ウ)まとめ
上記(ア)および(イ)のとおり、当初明細書等の上記アの(ア)ないし(エ)の記載は、いずれも本件補正事項aを追加する補正の根拠となる記載とはいえないから、本件補正事項aは、当初明細書等に記載されていたとはいえない。また、本件補正事項aは、当初明細書等の記載に基づいて、自明または記載されているに等しい事項であるともいえない。
よって、本件補正事項aを追加する補正を含む本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

ウ 請求人の主張
請求人は、ライブ配信における座席と料金に関連して、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(5)ライブ配信について:」において、「また、座席に応じた料金を設定しておけば、主催者側はライブ配信においても、リアルライブと同様に、ライブに必要な公演費用等が回収できると言う利点があるのである」と主張している。
しかし、上記主張は、その根拠となる「ネットを通した無観客ライブにおいて、ライブ会場の座席に応じて料金を設定する」との技術事項が、当初明細書等に記載されていた事項であることを裏付けるものではなく、また、記載されているに等しい事項であることを裏付けるものでもない。また、上記イのとおり、「ネットを通した無観客ライブにおいて、ライブ会場の座席に応じて料金を設定することについて考慮されていない」という事項を追加する補正の根拠となる記載とはいえない。
よって、請求人の上記主張は、当初明細書等の記載に基づく主張ではないから、採用できない。

エ 段落【0012】の補正についてのまとめ
上記アないしウのとおり、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)請求項1の補正について
本件補正のうち、請求項1の補正が、特許法第17条の2第5項の規定に違反するか否かについて、以下に検討する。
本件補正による請求項1の補正は、以下に示す、本件補正前の請求項1の発明特定事項1Bおよび1Cから、本件補正後の請求項1の発明特定事項1B’および1C’に補正する補正を含むものである。なお、下線は、強調のために当審で付した。

・本件補正前の請求項1の発明特定事項1Bおよび1C
「前記ライブ会場内の座席情報を含む情報を視聴者情報として視聴者のアカウントと共に前記視聴者に配信しておき、当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応音声をリアルタイムに収集し、通信回線を介して当該ライブ配信を行っているライブ会場に設置された前記スピーカに、前記ライブ配信に対する各視聴者のリアルタイムの反応音声をアナログ音響信号として出力し、当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応をリアルタイムにライブ出演者に報知する」

・本件補正後の請求項1の発明特定事項1B’および1C’
「前記ライブ会場内の座席に関する情報を視聴者情報として視聴者のアカウントと共に登録しておき、
前記ライブ配信に対する前記視聴者の反応音声をリアルタイムに収集し、通信回線を介して当該ライブ配信を行っているライブ会場に設置された前記スピーカに、前記ライブ配信に対する各視聴者のリアルタイムの反応音声をアナログ音響信号として出力し、当該ライブ配信に対する前記視聴者の反応をリアルタイムにライブ出演者に報知すると共に、前記視聴者のアカウント及び前記視聴者情報の前記座席に関する前記情報に基づき、前記ライブ会場内の座席位置を前記視聴者毎にバーチャルに決定する」

してみると、本件補正のうち、請求項1の補正は、「視聴者情報」に関連して、「座席情報を含む情報」を「前記視聴者に配信」するとの発明特定事項を削除し、「座席に関する情報」を「登録」するとの発明特定事項を追加する補正を含むものである。この補正は、補正の前後の発明特定事項に係る動作が、互いに異なる動作であり、かつ、補正の後の発明特定事項に係る「登録する」との動作が、補正の前の発明特定事項に係る「配信する」との動作に含まれるものではないから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)に該当しないものである。
また、この補正は、請求項の削除(同項第1号)、誤記の訂正(同項第3号)、および、明瞭でない記載の釈明(同項第4号)のいずれにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正のうち、請求項1の補正は、特許法第17条の2第5項の各号に該当するものでないから、請求項1の補正を含む本件補正は、同項の規定に違反するものである。

3 補正の却下についてのむすび
上記2の(1)および(2)とおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項および第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願の明細書、特許請求の範囲および図面
令和4年3月22日になされた手続補正は、上記「第2」のとおり却下され、また、令和3年12月22日付け補正の却下の決定により、同年11月2日の手続補正について補正の却下が決定されているから、本願の明細書、特許請求の範囲および図面は、当初明細書等に対して、同年6月11日になされた手続補正による補正(以下「原審補正」という。)がなされたものである。


第4 原査定の拒絶の理由
原査定である令和3年12月22日付け拒絶査定の概要は次のとおりである。

(理由)令和3年6月11日付け手続補正書でした補正(原審補正)は、以下の(1)ないし(5)の各点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1について、請求項1に関する補正は、「前記ライブ会場内の座席情報を含む情報を視聴者情報として視聴者のアカウントと共に前記視聴者に配信しておき」という技術事項を新たに追加するものである。
(2)請求項2ないし5について、請求項2に関する補正は、ライブ会場が「複数の座席を有する」という技術事項を新たに追加するものである。
(3)請求項2ないし5について、請求項2に関する補正は、「前記ライブ会場の座席位置をあらわす情報を含む視聴者情報を識別するセンタサーバ」という技術事項を新たに追加するものである。
(4)請求項3ないし5について、請求項3に関する補正は、「前記ライブ会場における前記映像及び前記音声は前記視聴者の座席位置に応じた前記テレビカメラと前記マイクロフォンから出力される」という技術事項を新たに追加するものである。
(5)明細書の段落【0038】について、段落【0038】に関する補正は、「座席に隣接したテレビカメラ及びマイクロフォンから映像及び音声を出力することができる」という技術事項を新たに追加するものである。


第5 原査定の拒絶の理由についての当審の判断
上記「第4」に示した原査定の拒絶の理由において、その理由に含まれる(1)ないし(5)のうち、(5)に対応する明細書の段落【0038】について、以下に検討する。

1 原審補正の内容
原審補正は、明細書および特許請求の範囲についてするものであり、そのうち、明細書の段落【0038】について、下記(1)に示す原審補正前の段落【0038】を、下記(2)に示す原審補正後の段落【0038】とする補正を含むものである。なお、下線は、補正により追加された箇所を示す。

(1)原審補正前の段落【0038】
「また、無観客のライブ配信の開始前に、視聴者のアカウント等をセンタサーバ等により識別すると共に視聴者情報を登録しておき、ライブ配信前に視聴者の数等を特定すれば、ライブ配信に伴う視聴者から料金を前もって徴収することができ、出演者等に対する経済的な不安を除くことができる。この場合、視聴者のアカウント及び視聴者情報に基づき、座席に相当するライブ会場内の位置を視聴者毎に決定するようにすれば、より臨場感にあふれたライブ配信を楽しむことができる。更に、ライブ配信の放送をデータベースに記憶しておき、ライプ配信後、視聴者の要求に応じて、ライブに伴う映像、音声を後日配信することも可能であるし、別の記憶媒体に記憶して当該記憶媒体を販売することも可能である。尚、本発明は必ずしも無観客ライブ配信に限定されるものではなく、少数の観客のライブ配信の際にも適用できる。」

(2)原審補正後の段落【0038】
「また、無観客のライブ配信の開始前に、視聴者のアカウント等をセンタサーバ等により識別すると共に視聴者情報を登録しておき、ライブ配信前に視聴者の数等を特定すれば、ライブ配信に伴う視聴者から料金を前もって徴収することができ、出演者等に対する経済的な不安を除くことができる。この場合、視聴者のアカウント及び視聴者情報に基づき、座席に相当するライブ会場内の位置を視聴者毎に決定するようにすれば、座席に隣接したテレビカメラ及びマイクロフォンから映像及び音声を出力することができるため、より臨場感にあふれたライブ配信を楽しむことができる。更に、ライブ配信の放送をデータベースに記憶しておき、ライプ配信後、視聴者の要求に応じて、ライブに伴う映像、音声を後日配信することも可能であるし、別の記憶媒体に記憶して当該記憶媒体を販売することも可能である。尚、本発明は必ずしも無観客ライブ配信に限定されるものではなく、少数の観客のライブ配信の際にも適用できる。」

2 原審補正の適否
原審補正が、特許法第17条の2第3項の規定に違反するか否かについて、以下に検討する。

(1)当初明細書等に記載の事項
原審補正の段落【0038】に関連して、当初明細書等には、特に、ライブ会場に設置されるテレビカメラおよびマイクロフォンについて、以下のアないしウに示す記載がある。なお、下線は、強調のために当審にて付した。

ア 「【図1】


なお、本願の明細書には【図面の簡単な説明】として段落【0019】に「【図1】本発明の一実施例に係る双方向放送システムの一例を示すブロック図である。」と記載されている。

イ 「【0021】
図1に示されたライブ会場12には、複数のテレビカメラ14、複数のマイクロフォン16、及びスピーカ18が会場側装置として備えられている。図示されたテレビカメラ14及びマイクロフォン16はライブ放送発信部20に接続され、他方、スピーカ18は音声受信部22に接続されている。」

ウ 「【0023】
ここで、会場側インターフェース24はデジタル化された映像、音声信号をインターネット10に合致した形式で送信する機能を備えている。更に、会場側インターフェース24はユーザ端末111〜11nからのデジタル音声信号を多重化すると共に、多重化されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するD/A変換部を含んでいる。この場合、複数のユーザ端末111〜11nからのデジタル音声信号が合成された形で、音声受信部22に送られる。この結果、音声受信部22は会場側インターフェース24からの複数のアナログ音声信号を合成してスビーカ18を駆動し、会場内に多くのユーザからの声援、歓声、拍手等のアナログ音響信号を会場内に出力する。この場合、会場内で再生されたアナログ音声信号はマイクロフォン16によって拾われライブ放送発信部20でデジタル音声信号に変換され、会場側インターフェース24に送られても良い。」

(2)判断
原審補正の段落【0038】の補正は、上記1(2)に下線で示したとおりであり、無観客のライブ配信におけるライブ会場において、「座席に隣接したテレビカメラ及びマイクロフォンから映像及び音声を出力することができる」という技術事項(以下「原審補正事項1」という。)を追加する補正を含んでいる。
一方で、当初明細書等には、上記(1)のアないしウで示したとおり、本願の発明に係るシステムにおいて、ライブ会場12には、複数のテレビカメラ14および複数のマイクロフォン16が設置されていることが記載されている。
しかし、これらの記載はいずれも、ライブ会場の「座席に隣接した」テレビカメラおよびマイクロフォンを開示するものではないから、原審補正事項1が当初明細書等に記載されていたとはいえない。
そして、原審補正事項1である「無観客のライブ配信におけるライブ会場において、座席に隣接したテレビカメラ及びマイクロフォンから映像及び音声を出力することができる」という技術事項は、出願時のライブにおける慣行を勘案しても、自明な事項ではない。
よって、原審補正事項1を含む原審補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)請求人の主張
請求人は、原審補正事項1について、令和3年11月2日付けの意見書において「1−5. 明細書の段落[0038]:」とした段落で述べているが、新規事項の追加であるとの判断に対しては、反論していない。
なお、請求人は、同日付けの手続補正書による補正によって、段落【0038】から「座席に隣接したテレビカメラ及びマイクロフォンから映像及び音声を出力する」との記載を削除している。

(4)原審補正の適否についてのまとめ
上記(1)ないし(3)のとおり、原審補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


第6 むすび
上記「第5」のとおり、本願の令和3年6月11日になされた手続補正(原審補正)は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-14 
結審通知日 2022-11-16 
審決日 2022-11-29 
出願番号 P2020-087522
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H04N)
P 1 8・ 561- Z (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 木方 庸輔
川崎 優
発明の名称 双方向放送方法及びシステム  
代理人 池田 憲保  

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