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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1393847
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-03-24 
確定日 2023-01-05 
事件の表示 特願2021−118708「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和3年7月19日の出願であって、同年10月13日付けの拒絶理由の通知に対し、同年11月16日に意見書が提出されたが、令和4年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1−5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和4年3月24日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1−5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
無酸素銅で形成された、又は、少なくとも外周部を無酸素銅で形成された伝熱管を含む熱交換器と、
前記伝熱管に霜又は氷を発生させる第1の運転と、前記伝熱管に発生した霜又は氷を溶かす第2の運転と、を実行する制御部と、
を備える空気調和機。
【請求項2】
前記制御部は、さらに、前記第2の運転後に前記伝熱管を乾燥させる第3の運転を実行する請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
記制御部は、前記第1の運転を実行した後で少なくとも36.5日以下の所定期間経過した後に、再度、前記第1の運転を実行する請求項1又は2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記制御部は、所定の時間間隔で周期的に、前記第1の運転を実行する請求項3に記載の空気調和機。
【請求項5】
前記熱交換器は、室内機に設けられる請求項1乃至4の何れか1項に記載の空気調和機。」

なお、令和4年3月24日になされた手続補正は、請求項3を補正するのみであって、請求項1を補正するものではない。

第3 原査定の概要
原査定は、請求項1−5に係る発明について、引用例1−3に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用例一覧>
1.中国特許出願公開第110529973号明細書
2.国際公開第2020/080426号(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2020/148846号(周知技術を示す文献)

第4 引用例
1.引用例1
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例1には、「空調の自己洗浄制御方法、自己洗浄制御装置及び空調機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。()内は当審による訳文である。以下同様。)。

(1)引用例1の記載
ア「


(技術分野
[0001] 本発明はエアコン技術分野に関し、具体的には、空調の自己洗浄制御方法、自己洗浄制御装置および空調機に関する。)

イ「


([0121] 本実施例は降温速度と昇温速度の調整及び温度制御に対して、温度変化における力学的変化を向上させることに有利であり、さらに塵埃を蒸発器から剥離させ,洗浄効果を実現する。)

ウ「


([0123] S11、室内環境温度T内に基づいて自己洗浄のサイクル回数を決定する。まず冷凍して着霜し、昇温して除霜し、複数のサイクルを行う。)

エ「


([0136] 本発明は冷凍運転過程において、蒸発器が生成した凝縮器水を利用し、蒸発器のフィン表面及び銅管表面を湿潤させ、圧縮機の周波数及び電子膨張弁のバルブステップを調整することによって蒸発器の蒸発温度を迅速に低下させ、フィン表面及び銅管表面の凝縮器水を氷晶に形成させ、熱膨張冷収縮の原理を利用し、氷晶を生成する過程において、凝縮水はフィン及び銅管表面の汚れと共に凍結し、次に蒸発器の蒸発温度を迅速に上昇させ、フィン及び銅管上の氷晶を融解させて剥離させ、それにより汚れを除去し、自己洗浄効果を生成し、複数のサイクルでより徹底的に除塵することができ、同時に十分な凝縮器を生成して汚れを排出することに用いられる。)

オ 上記エにおいて、空調機において、蒸発器の自己洗浄のための制御を行う以上、当該制御を実行する制御部が設けられることが技術的に明らかであって、圧縮機の周波数及び電子膨張弁のバルブステップの調整は、当該制御部が行っていると認められる。

(2)引用例1に記載の発明
上記(1)からみて、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「銅管を含む蒸発器と、
冷凍運転過程において、蒸発器が生成した凝縮器水を利用して銅管表面を湿潤させ、蒸発器の蒸発温度を低下させて銅管表面の凝縮器水を氷晶に形成させ、次に蒸発器の蒸発温度を上昇させて銅管上の氷晶を融解させて剥離させる制御部と、
を備える空調機。」

2.引用例2
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例2には、「空調機の腐食進行抑制方法、空調機および冷媒管」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、「・・・」は、記載の省略を意味する。)。

(1)引用例2の記載
ア「[0001] 本発明は、空調機の腐食進行抑制方法、空調機および冷媒管に関する。
[0002] 従来から、空調機の室内機には、冷媒管とフィンとを有するフィンアンドチューブ型熱交換器が用いられている。そして、冷媒管には、熱伝導性および加工性に優れるため、JIS規定のりん脱酸銅C1220からなる銅管が用いられている。近年、熱交換器では、冷媒の漏洩をより厳しく管理することが求められ、特に銅管で発生している蟻の巣状腐食の対策がより必要となっている。
[0003] 特許文献1には、0.05〜1.5質量%のMnを含有し、酸素の含有量が100ppm以下である無酸素銅からなり、熱交換器用配管に用いられる耐蟻の巣状腐食性に優れた耐食性銅合金管が開示されている。また、特許文献2には、0.05〜5質量%のMnおよび0.05〜5質量%のMgを単独または組み合わせて含有するか、さらに0.05〜10質量%のZnを含有した銅合金からなる銅合金製チューブを使用して、耐蟻の巣状腐食性を向上させたフィンチューブ型熱交換器が開示されている。
・・・
[0005] 特許文献1の耐食性銅合金管は、りん脱酸銅管に比べ、蟻の巣状腐食に対する耐食性が大幅に向上することから、蟻の巣状腐食対策を重視するエアコン機種に採用されている。蟻巣の状腐食に対する耐食性をさらに向上させるには、特許文献2に記載されているように、Mnの含有量を1.5%を超えて含有させること等が効果的であるが、標準材であるりん脱酸銅管より、転造加工性やろう付性が低下し、製造コストが上昇する問題がある。」

イ「[0036] <室内熱交換器>
図3に示すように、室内熱交換器8は、並列された多数の直管21aと直管21aの両端部に接合された多数のリターンベンド管21bとからなる冷媒管21と、直管21aの外表面に一定間隔で並列された多数の板状のフィン22と、を備える。冷媒管21には、熱伝導性および加工性の観点から、JIS H 3300:2012(CDA10200)で規定されたりん脱酸銅C1220または無酸素銅C1020からなる銅管が用いられる。フィン22には、熱伝導性および加工性の観点から、アルミニウムフィンが用いられる。」

ウ「[0038] 室内熱交換器8では、冷房運転時または除湿運転時には、室外機2の膨張弁7から膨張された冷媒が冷媒管21の内部に供給されることによって、室内空気は冷風に熱交換され冷房運転、除湿運転が実施される。この時、室内熱交換器8の冷媒管21を流れる冷媒により、冷媒管21の外面に設置されたフィン22が室温より低温に冷却される。これにより、フィン22の周りの空気が冷却され、室内空気の露点はフィン22の温度より高いため、フィン22に結露が発生する。室内機3が設置されている雰囲気に低級カルボン酸などが含まれていると、結露水に溶け込み、冷媒管21に蟻の巣状腐食を発生させることがある。」

(2)引用例2に記載の事項
上記(1)からみて、引用例2には、以下の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

「空調機の室内熱交換器における冷媒管に、りん脱酸銅や無酸素銅からなる銅管を用いること、及び、冷媒管として、りん脱酸銅や無酸素銅などの銅管を用いた場合に、蟻の巣状腐食対策が必要であること。」

3.引用例4(特開2002−195788号公報)
当審において周知例として新たに例示する、本願の出願前に頒布された引用例4には、「銅又は銅合金製伝熱管」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用例4の記載
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はルームエアコン等のヒートポンプ式冷凍空調機器等に使用される熱交換器に好適な銅又は銅合金製伝熱管に関し、特に、内部を流れる冷媒の蒸発性能を向上させることができる銅又は銅合金製伝熱管に関する。」

イ「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明に係る銅又は銅合金製伝熱管は、銅又は銅合金製の伝熱管本体と、この伝熱管本体の内面の少なくとも一部に形成された非晶質セラミックス皮膜とを有し、前記非晶質セラミックス皮膜の表面には凹みが形成されていることを特徴とする。」

ウ「【0071】また、銅管の材質としては、無酸素銅、りん脱酸銅、タフピッチ銅、Cu?Fe?P、Cu?Mn?P、Cu?Ni?Si、Cu?Sn?P及びCu?Zn等でであるが、この他の銅合金でも管に加工できる材質であれば全て適用することができる。」

(2)引用例4に記載の事項
上記(1)からみて、引用例4には、以下の事項(以下、「引用例4記載事項」という。)が記載されている。

「空調機の熱交換器における伝熱管に無酸素銅の銅管を用いること。」

4.引用例5(特開2010−121805号公報)
当審において周知例として新たに例示する、本願の出願前に頒布された引用例5には、「伝熱管及びその製造方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用例5の記載
ア「【0001】
本発明は、空調機等に用いる伝熱管に関し、特に、管状部の外面に螺旋状のフィンを有する伝熱管およびその製造方法に関する。」

イ「【0002】
従来から、凝縮熱伝達や沸騰熱伝達を促進するために、銅または銅合金管の外面にフィンが形成された伝熱管が広く用いられている。例えば、特許文献1には、管の外面に螺旋状のフィンが形成された伝熱管で、フィン高さが1.8?3.5 mmであり、フィンピッチが1.8?2.8 mmの螺旋フィン付き伝熱管が開示されている。この伝熱管は、従来からの螺旋フィン付き管に比べて、フィン高さが高くフィンピッチが広いことから、吸収式冷凍機に用いられるような粘性の高い作動溶液に対しても沸騰伝熱性能を向上させることができるとされている。」

ウ「【0020】
無酸素銅製(JIS H3300 C1020、酸素含有量2ppm)の内面溝付管を用い、該内面溝付管の外面に本発明に係る鋤起こし切削加工を施して、管状部外面に螺旋状のフィンが一体に形成された伝熱管(実施例1)を作製した。表1に作製した伝熱管の仕様を示す。」

(2)引用例5に記載の事項
上記(1)からみて、引用例5には、以下の事項(以下、「引用例5記載事項」という。)が記載されている。

「空調機において無酸素銅製の伝熱管を用いること。」

5.引用例6(特開2021−11953号公報)
当審において周知例として新たに例示する、本願の出願前に頒布された引用例6には、「空気調和機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用例6の記載
ア「【0016】
図3は、室外熱交換器22を示す図である。図3(A)は、室外熱交換器22の概略図である。図3(B)は、室外熱交換器22の断面図である。室外熱交換器22は、冷媒が流れる伝熱管としてのパイプ22aと、パイプ22aの周囲に接続された複数のフィン22bと、を備えている。前述の通り、フィン22bには、空気調和機1の使用により、塵埃が付着する。さらに、空気調和機1が、海岸近くに設置された場合には、海水の塩分に起因した腐食によりフィン22bが溶けるといった問題がある。
【0017】
これに対し、本実施形態の空気調和機1は、フィン22bの表面に霜をつけ、この霜を溶かすことでフィン22bに付着した塵埃や塩分を洗い流す。具体的には、室内機10の室内制御部16は、室外熱交換器22を蒸発器として動作させることで、室外機20に取り込まれた空気中の水分を室外熱交換器22で凍結させる。すなわち、室内制御部16は、フィン22bの表面に霜及び氷の少なくとも一方を付着させる。室内制御部16は、その後、霜や氷を溶かす。これにより、室外熱交換器22の塵埃及び塩分を洗浄することができる。このような一連の運転を、室外熱交換器22の洗浄運転と称する。本実施形態の空気調和機1では、室内制御部16の制御の下で洗浄運転が行われる。」

イ「【0031】
以上のように、室内制御部16は、洗浄待ち期間を基準に、定期的に凍結処理を実行することができる。空気調和機1の使用に応じた塵埃の洗浄は、空気調和機1の使用時間に応じて行うことが効果的である。しかしながら、海岸近くの地域においては、使用時間によらず、空気調和機1が設置されたタイミングからの時間の経過と共に塩分が蓄積していく。これに対し、本実施形態の空気調和機1においては、室内制御部16が空調運転の有無によらず、定期的に室外熱交換器22の洗浄運転を実行するので、フィン22bの腐食が生じる前に塩分を除去することができる。したがって、室外熱交換器22の腐食による空調性能の低下を防止することができる。」

(2)引用例6に記載の事項
上記(1)からみて、引用例6には、以下の事項(以下、「引用例6記載事項」という。)が記載されている。

「空気調和機1の室外機20に取り込まれた空気中の水分を室外熱交換器22で凍結させ、その後、霜や氷を溶かすことで、室外熱交換器22の塵埃及び塩分を洗浄し、室外熱交換器22の腐食を防止すること。」

6.引用例7(特許第6749507号公報)
当審において周知例として新たに例示する、本願の出願前に頒布された引用例7には、「空気調和機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用例7の記載
ア「【0001】
本発明は、空気調和機に関する。」

イ「【0023】
そこで、第1実施形態では、後記する制御部30(図4参照)が、室外熱交換器12の下部を凍結させるようにしている。このような制御を、室外熱交換器12の「凍結洗浄」(登録商標)という。これによって、室外熱交換器12の下部を短時間で凍結させ、室外熱交換器12の下部に付着した塩分や塵埃を洗い流すことができる。以下では、塩分や塵埃を「塩分等」という。」

ウ「【0041】
また、室外熱交換器12の下部P2(図3参照)の凍結中(第1処理中)、制御部30が、通常の暖房運転時よりも膨張弁15の開度を小さくすることが望ましい。これによって、飽和温度(蒸発温度)が0℃よりも低い低圧の冷媒が、室外熱交換器12の下部P2に流入する。その結果、空気中の水分が室外熱交換器12の下部P2に着霜して凍結する。これによって、その後に室外熱交換器12の下部P2の霜や氷が溶けると、その水で、室外熱交換器12の下部P2の塩分等が洗い流される。したがって、塩分が特に残りやすい室外熱交換器12の下部P2が洗浄されるため、この下部P2の腐食を抑制できる。」

エ「【0060】
<効果>
第1実施形態によれば、制御部30が、室外熱交換器12の下部P2(図3参照)を凍結させることで、この下部P2の塩分等が洗い流される。その結果、室外熱交換器12を清潔な状態にすることができる。特に、塩害が生じやすい海岸付近に室外機Uoが設置されている場合には、室外熱交換器12の下部P2で腐食することが多い。前記した凍結洗浄によって、室外熱交換器12の下部P2の腐食を抑制できる。」

(2)引用例7に記載の事項
上記(1)からみて、引用例7には、以下の事項(以下、「引用例7記載事項」という。)が記載されている。

「空気調和機において、室外熱交換器12の下部P2において空気中の水分を凍結させ、その後溶けることでこの下部P2の塩分等を洗い流し、腐食を抑制すること。」

第5 対比・判断
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「氷晶」、「制御部」、「空調機」は、それぞれ本願発明1の「氷」、「制御部」、「空気調和機」に相当する。
引用発明において、「冷凍運転過程において、蒸発器が生成した凝縮器水を利用して銅管表面を湿潤させ、蒸発器の蒸発温度を低下させて銅管表面の凝縮器水を氷晶に形成させ」ること、及び、「蒸発器の蒸発温度を上昇させて銅管上の氷晶を融解させて剥離させる」ことは、それぞれ本願発明1の「前記伝熱管に氷を発生させる第1の運転」及び「前記伝熱管に発生した氷を溶かす第2の運転」を「実行する」ことに相当する。
空調機において、冷房運転時には室内熱交換器が蒸発器として、室外熱交換器が凝縮器としてそれぞれ機能し、暖房運転時には室外熱交換器が蒸発器として、室内熱交換器が凝縮器としてそれぞれ機能することが技術常識であることを考慮すると、引用発明における「蒸発器」は、本願発明1の「熱交換器」に相当する。そして、引用発明の「銅管」は、「銅で形成された伝熱管」という限りにおいて、本願発明1の「無酸素銅で形成された、又は、少なくとも外周部を無酸素銅で形成された伝熱管」に一致する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「銅で形成された伝熱管を含む熱交換器と、
伝熱管に氷を発生させる第1の運転と、伝熱管に発生した氷を溶かす第2の運転と、を実行する制御部と、
を備える空気調和機。」

(相違点)
「銅で形成された伝熱管」に関して、本願発明1では、「無酸素銅で形成された、又は、少なくとも外周部を無酸素銅で形成された」ものであるのに対し、引用発明では、無酸素銅で形成されたものであるかどうかについて不明な点。

(2)判断
ア 相違点について
上記相違点について検討する。
引用例2記載事項、引用例4記載事項及び引用例5記載事項にみられるように、空気調和機の熱交換器における伝熱管に無酸素銅を用いることは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
そして、引用発明において、蒸発器が含む銅管の腐食を抑止することは、内在する課題であって、自己洗浄効果により、汚れを排出して銅管の腐食を抑止できることも当業者にとって明らかである。
また、引用例2記載事項に見られるように、伝熱管がリン脱酸銅や無酸素銅などの銅管からなる場合に生じ得る蟻の巣状腐食を抑止することは、当業者にとって周知の課題であるから、共に銅管からなる伝熱管を有する引用発明と周知技術とは、銅管の腐食を抑止するという共通の課題を有するといえる。
したがって、引用発明の銅管を、銅管の腐食を抑止するという課題のもとで、周知技術の蟻の巣状腐食が生じ得る無酸素銅にすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ 本願発明が奏する効果について
引用発明は、銅管に氷晶を形成させ、その後、銅管に形成した氷を融解することで、銅管の塵埃を蒸発器から剥離させ、洗浄効果を実現するものである(上記第4 1.イを参照。)。
また、引用例6記載事項及び引用例7記載事項に見られるように、空気調和機の熱交換器に凍結及び融解からなる洗浄処置を施すことで、腐食を抑止する点は、従来周知の事項である。上記周知の課題及び周知の事項を併せてみれば、引用発明においても、凍結及び融解処置により、腐食の原因となる物質を蒸発器から剥離させることにより、伝熱管の蟻の巣状腐食の抑止効果を奏することは、当業者であれば予測し得たことである。
よって、本願発明が奏する蟻の巣状腐食の抑止という効果は、引用発明及び周知の課題並びに周知の事項から予測し得る程度のものであって、異質なものとはいえない。

次に、その効果の程度について検討する。
引用発明との関係において、本願の図6、7に示される実験結果は、リン脱酸銅であっても無酸素銅であっても洗浄措置(結露水洗浄、又は、氷結及び融解を行う実施洗浄)を施すことで無処置のものに比べ腐食を抑止するものに過ぎず、当業者が予測し得る蟻の巣状腐食の抑止効果を超えて格別顕著な効果を示すものとは認められない。

したがって、本願発明が奏する効果は、引用例1の記載や上記周知の課題から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-11-09 
結審通知日 2022-11-11 
審決日 2022-11-24 
出願番号 P2021-118708
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 白土 博之
間中 耕治
発明の名称 空気調和機  
代理人 Knowledge Partners弁理士法人  

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