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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F24F
管理番号 1393933
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-07-27 
確定日 2023-01-31 
事件の表示 特願2017−149580「セントラル空調システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019− 27720、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年8月2日の出願であって、その手続の主な経緯は、以下のとおりである。
令和3年5月31日付けで拒絶理由通知
令和3年8月16日に意見書及び手続補正書の提出
令和3年10月15日付けで拒絶理由通知(最後)
令和4年1月28日に意見書及び手続補正書の提出
令和4年4月28日付けで令和4年1月28日付けの手続補正に対する補正の却下の決定及び拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和4年7月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和4年4月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1 理由1(進歩性)について
(1)本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願請求項2及び3に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明並びに引用文献3に例示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2016−90151号公報
2.登録実用新案第3178089号公報
3.特開2010−223460号公報

第3 令和4年7月27日にされた手続補正について
令和4年7月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)が適法に行われたものであるか、以下検討する。
1 請求項1の補正について
本件補正後の請求項1において、本件補正前の「前記ダクト用換気扇から住宅内の各区画空間に延びる断熱ダクト」を「前記蓄熱室内に配備されて前記ダクト用換気扇に連結される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの接続口に接続されて、前記蓄熱室から住宅内の各区画空間に延びる複数の断熱ダクト」とするとともに、本件補正前の「前記ダクト用換気扇から前記断熱ダクトを通って前記各区画空間に給気される」を「前記ダクト用換気扇から前記分岐チャンバーを介して前記断熱ダクトを通って前記各区画空間に給気される」とする補正(以下、「補正1」という。)は、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)における請求項3、段落【0014】〜【0016】並びに図1及び2の記載に基づくものである。
また、本件補正前の「蓄熱室」が「小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口を有してい」るのを「前記蓄熱室は、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有し」とする補正(以下、「補正2」という。)は、当初明細書等における段落【0014】〜【0016】並びに図1及び2の記載に基づくものであるから、本件補正における請求項1の補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、本件補正における請求項1の補正は、補正1及び補正2の内容からみて、特許法第17条の2第4項に規定する要件に違反するものではない。
さらに、本件補正における請求項1の補正は、補正1により複数の断熱ダクトを蓄熱室内で分岐チャンバーを介してダクト用換気扇と接続することを特定して、ダクト用換気扇と断熱ダクトとの接続関係を限定するものであり、また、補正2により蓄熱室について、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有することを限定するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、下記の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1及び2に係る発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する(独立特許要件を満たす)ものである。

2 請求項3を削除をする補正について
本件補正の本件補正前の請求項3を削除する補正は、特許法第17条の2第5項第1号の特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当し、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、特許法17条の2第4項に規定する要件に違反するものではない。

3 明細書の補正について
本件補正の明細書の段落【0007】についての補正は、上記1の請求項1についての補正と整合させたものであり、また、同明細書の段落【0009】についての補正は、上記2の請求項3についての補正と整合させたものであるから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は適法に行われたものである。

第4 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和4年7月27日にした手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
小屋裏に配置される断熱材で包囲された蓄熱室と、前記蓄熱室内に配備されるエアコン及びダクト用換気扇と、前記蓄熱室内に配備されて前記ダクト用換気扇に連結される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの接続口に接続されて、前記蓄熱室から住宅内の各区画空間に延びる複数の断熱ダクトとから成り、
前記蓄熱室は、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有し、
温度調整されて前記エアコンから出る温冷気が前記蓄熱室内において前記ダクト用換気扇内に取り込まれ、前記ダクト用換気扇から前記分岐チャンバーを介して前記断熱ダクトを通って前記各区画空間に給気されるようにしたことを特徴とするセントラル空調システム。
【請求項2】
前記蓄熱室の内面がアルミ蒸着シートで被装されている、請求項1に記載のセントラル空調システム。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1には、次の記載がある。(なお、下線は理解の一助として当審において付したものである。以下、同様)
「【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係る空調システム10を高気密高断熱住宅20に設置した状態を表すものである。この空調システム10は、空調を行う空調室11を備えており、この空調室11で空調した空調空気を屋内の居住空間21における複数の場所、例えば、各部屋や廊下に送風するものである。空調室11には、空調機12が設置されている。空調機12としては、例えば、エアコンが挙げられ、空調室11に例えば1台が設置される。空調室11は、建物のどこに設置してもよいが、本実施の形態では、例えば、2階の一部分に設けられている。また、空調室11は、屋内の非居住空間22に対して一部が開口されている。非居住空間22というのは、例えば、屋根裏や天井懐や床下であり、本実施の形態では、屋根裏に対して開口されている。
【0012】
この空調システム10は、また、空調室11から屋内の居住空間21における複数の場所に空調空気を案内する複数の空調空気流路13を備えている。空調空気流路13は、例えば、ダクトにより構成されている。各空調空気流路13の一端部は、例えば、空調室11に対してそれぞれ配設され、他端部は、例えば、居住空間21の各場所に設けられた吹出口に個別に対応してそれぞれ配設されている。空調室11には、例えば、送風機14が各空調空気流路13に個別に対応してそれぞれ設けられており、各空調空気流路13の一端部が個別に連結され、各空調空気流路13を介して屋内の各場所に空調空気を送るようになっている。なお、空調空気流路13は、居住空間21に加えて、非居住空間22、例えば床下にも空調空気を案内するように配設されていてもよい。
・・・
【0016】
この空調システム10は、更に、空調室11が開口された屋内の非居住空間22に屋外の空気を導入する屋外空気導入手段16と、空調室11が開口された屋内の非居住空間22に屋内の居住空間の空気を導入する居住空間空気導入手段17とを備えている。これにより、この空調システム10では、各送風機14により空調空気を居住空間21の各場所に送り、空調室11が負圧になると、空調室11が開口された非居住空間22に、屋外空気導入手段16を介して屋外の空気が導入されると共に、居住空間空気導入手段17を介して居住空間の空気が導入され、混合されて、空調室11に流入するようになっている。空調室11に至る前に屋外の空気と居住空間の空気を十分に混合することができ、温度むらを小さくすることができるからである。
【0017】
屋外空気導入手段16は、例えば、一端部が屋外に対して連通されたダクトにより構成されている。屋外空気導入手段16には、また、熱交換器16Aを設け、屋外から導入した空気と、後述する排気手段19により排出する居住空間21の排出空気との間で熱交換をするようにすることが好ましい。居住空間空気導入手段17は、例えば、居住空間の天井に設けられたガラリにより構成されている。
・・・
【0019】
この空調システム10は、加えて、例えば、屋内の居住空間21の空気を屋外に排出する排気手段19を備えていることが好ましい。排気手段19は、例えば、ダクトにより構成されている。居住空間21は、空調空気流路13を介して空調空気が送られて加圧状態となっており、それにより居住空間21の空気の一部が排出空気として排気手段19を介して屋外に排出されるようになっている。排気手段19には、例えば、上述した熱交換器16Aが設けられており、排出空気と屋外空気導入手段16により導入された屋外の空気との間で熱交換をするように構成されていることが好ましい。なお、排気手段19は、居住空間21に加えて、非居住空間22、例えば床下の空気を屋外に排出するように配設されていてもよい。
【0020】
この空調システム10は、例えば、次のように作動する。まず、例えば、空調機12により空調室11の空気を空調する。すなわち、例えば、空調室11の空気の温度や湿度を調節する。空調機12により空調された空調空気は、例えば、空調室11の内部を仕切部材15により案内されて下側に迂回したのち、各送風機14に吸い込まれる。各送風機14に吸い込まれた空調空気は、例えば、各送風機14により、各空調空気流路13を通って居住空間21の各場所に送風される。また、各送風機14により空調空気が送風されると空調室11は負圧となり、空調室11が開口された非居住空間22に、屋外空気導入手段16を介して屋外の空気が導入されると共に、居住空間空気導入手段17を介して居住空間21の空気が導入され、混合されて、空調室11に流入する。
【0021】
このように本実施の形態によれば、屋内の非居住空間22において屋外の空気と屋内の居住空間21の空気とを混合して空調室11に流入させるようにしたので、屋外の空気と居住空間21の空気を空調室11に至る前に混合することができる。よって、空調空気の温度むら、すなわち居住空間21の温度むらを小さくすることができる。また、非居住空間22を利用して屋外の空気と居住空間21の空気を混合するので、空調室11の大きさを混合のために大きくする必要がなく、空調室11の大きさを小さくすることができる。
・・・
【0024】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、他の構成要素を備えていてもよい。また、各構成要素は、他の構成を有していてもよい。更に、上記実施の形態では、空調室11を2階の一部分に設ける場合について説明したが、例えば、図2に示したように、1階の居住空間21の空調室11を1階と2階との間の天井懐に設け、2階の居住空間21の空調室11を2階と屋根との間の屋根裏に設けるようにしてもよい。」





そして、図2の記載から、非居住空間22の屋根裏に配置される空調室11は、空調機12が設置された右側の側壁、左側の側壁、前側の側壁、後ろ側の側壁、送風機14が設置された上側の壁及び2階の居住空間21の天井壁で構成された底壁から画定された室であり、空調機12が設置された右側の側壁と上側の壁との間において、室内の空気と屋外の空気が混合された空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有することが認められる。

(2)引用発明
上記(1)から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「非居住空間22の屋根裏に配置される空調室11と、前記空調室11内に配備される空調機12及び送風機14と、前記送風機14の接続口に接続されて、前記空調室11から高気密断熱住宅20内の2階の居住空間21に延びる空調空気流路13を構成するダクトとから成り、
前記空調室11は、空気取り入れ口として非居住空間22の屋根裏内に流入する居住空気導入手段17から導入された室内の空気と屋外空気導入手段18から導入された屋外の空気が混合された空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有し、
温度調整されて前記空調機12から出る空調空気が前記空調室11内において前記送風機14内に取り込まれ、前記送風機14から前記空調空気流路13を構成するダクトを通って前記2階の居住空間21に給気されるようにした空調システム。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献2には、次の記載がある。
「【0025】
本実施形態の空気調和システム1は、図1乃至図4に示すように、空気調和空間7が内部に形成された空気調和室8と、空気調和空間7に設置された家庭用のエアコン9(冷暖房装置に相当)と、空気調和空間7及び住宅Hの床下空間10を連通させる一本の床下用ダクト11と、空気調和空間7及び住宅Hの天井裏空間12を連通させる一本の天井用ダクト13と、エアコン9によって暖められた空気調和空間7の空気(暖気3)を床下用ダクト11を通じて床下空間10に送出するため、及び、エアコン9によって冷却された空気調和空間7内の空気(冷気4)を天井用ダクト13を通じて天井裏空間12に送出するための一台の送風機14と、空気調和室8の室内に設置され、住宅Hの外部から取込んだ外部空気(外部冷気15及び外部暖気16に相当)、及び、住宅Hの室内空間38から回収された室内空気(室内暖気17及び室内冷気18)の間で熱交換を行う熱交換装置19とを具備している。
【0026】
さらに、具体的に説明すると、空気調和室8は、住宅Hの二階フロアSFの一角に設置された略筐体状の小部屋であり、送風機14によって床下空間10または天井裏空間12に送出する前にエアコン9を用いて暖気3または冷気4を生成するための空間である。なお、空気調和室8の周囲にガラスウール等の断熱材を被覆することで、エアコン9によって生成された暖気3または冷気4が空気調和室8の室外の外気温によって変化することを防ぐことができる。また、空気調和室8は、空気調和空間7及び床下空間10を連通させるために床下用ダクト11が挿通された床下用開口20、空気調和空間7及び天井裏空間12を連通させるために天井用ダクト13が挿通された天井裏用開口21、外部空気を空気調和空間7に取込むための外部空気取込口22、及び熱交換後の室内空気を住宅Hの外部に排出するための室内空気排出口23の四つの開口箇所を備えている。
・・・
【0028】
床下用ダクト11は、空気調和室8の床下用開口20にダクト一端11aの近傍が挿通され、空気調和室8から住宅壁W等に沿って延設され、ダクト他端11bが住宅Hの床下空間10まで到達した内部に暖気3等の流通可能なダクト空間が形成された管状(パイプ状)の部材である。これにより、空気調和空間7及び床下空間10の間を暖気3の移動が可能となる。なお、床下用ダクト11は、プラスチック樹脂材料により構成されている。また、空気調和空間7から床下空間10に暖気3を送出する際の熱損失を防ぐため、床下用ダクト11のダクト周壁面に保温材(断熱材)を巻付ける対策を講じたものであってもよい。ここで、本実施形態の空気調和システム1において、空気調和室8の空気調和空間7と住宅Hの床下空間10を連通させる構成は、一本の床下用ダクト11のみである。
【0029】
一方、天井用ダクト13は、空気調和室8の天井裏用開口21にダクト一端13aの近傍が挿通され、空気調和室8から住宅壁Wの間等に沿って延設され、ダクト他端13bが住宅Hの天井裏空間12まで到達した内部に冷気4等が移動するダクト空間が形成された管状(パイプ状)の部材であり、床下用ダクト11と長さ及び曲げ方向等が異なるものの、基本的に同一の構成のものである。また、空気調和空間7から天井裏空間12に冷気4を送出する際に、ダクト周囲の温度によって冷気4の温度が上昇することを防ぐため、床下用ダクト11と同様にダクト周壁面に保温材等を巻付けたものであっても構わない。天井用ダクト13も床下用ダクト11と同様に、空気調和空間7及び天井裏空間12を連通させる構成は、一本の天井用ダクト13のみである。
・・・
【0033】
さらに、本実施形態の空気調和システム1は、その他の構成として、床下用ダクト11のダクト他端11bに接続されたチャンバー34と、チャンバー34から枝別れして延設され、それぞれのダクト開口部35が床下空間10の異なる位置で開口した複数の床下分枝ダクト36とを具備している。ここで、チャンバー34は、空気室として機能し、各床下分枝ダクト36に暖気3を流れを乱すことなく送出すためのものである。これにより、1本の床下用ダクト11を通じて送出された暖気3を住宅Hの床下空間10の全体に亘って偏りなく分配することができる。なお、係る床下分枝ダクト36は、室内冷気18を回収する際の回収用ダクトとしての機能も有している。なお、天井用ダクト13のダクト他端13bにも上記と同様にチャンバー34が設置され、天井裏空間12の複数箇所に冷気4を分配し、かつ室内暖気17を回収することができる天井裏分枝ダクト40が設けられている。但し、一般に床下空間10に対して、天井裏空間12は狭いため、天井裏空間12については天井裏分枝ダクト40を設置しないものであっても構わない。
【0034】
次に、本実施形態の空気調和システム1を冬期に使用し、住宅Hの室内空間38を暖房する場合について、図1及び図2に基づいて説明する。ここで、室内空間38の室内温度は、空気調和システム1の稼働前は、送出される暖気3よりも低い温度となっている。このとき、空気調和室8内の送風機14は、ダクト接続部27が床下用ダクト11のダクト一端11aと接続され、天井用ダクト13のダクト一端13aが熱交換装置19の室内空気回収部29と接続されている。係る状態でエアコン9、送風機14、及び熱交換装置19をリビング等の室内からリモートコントロール装置を用いて操作し、稼働状態にする。これにより、エアコン9によって空気調和空間7が設定された温度(例えば、22℃)の暖気に調整される。すなわち、暖気3の生成が行われる。そして、暖気3を送出空気取込部26から送風機14の内部に取込み、接続された床下用ダクト11を介して床下空間10まで送出する。
【0035】
床下空間10に到達した暖気3は、ダクト他端11bに設けられたチャンバー34を通じ、複数に分岐した床下分枝ダクト36に沿って床下空間10の複数の箇所に分配され、ダクト開口部35から床下空間10に導入される。暖気3は、上方に移動する性質を有するため、床下空間10からガラリ37を通じて一階フロアFFの室内空間38に流出する。また、熱交換装置19の室内空気回収部29によって室内空間38の室内暖気17が天井用ダクト13から吸引されている。そのため、室内空間38における暖気3及び室内暖気17は上方に向かって移動することになる。なお、本実施形態の空気調和システム1の稼働前の室内空間38の室内温度は、暖気3よりも低くなっている。これにより、暖気3による室内空間38の暖房が行われる。室内空間38の暖気3は、一階フロアFF、吹抜構造2、及び二階フロアSFの順で上方に移動し、最終的に二階フロアSFの二階天井39の近辺に到達する。このとき、室内空間38の上方への移動によって暖気3は徐々に熱が奪われ、床下空間10への送出直後に比べて温度が低下している。そして、熱交換装置19の室内空気回収部29を用いて、この温度が低下した室内暖気17を空気調和室8まで回収する。具体的に説明すると、室内空気回収部29の吸引機能によってガラリ37から天井裏空間12に当該室内暖気17を吸引し、さらに天井裏分枝ダクト40及び天井用ダクト13を通して回収が行われる。これにより、住宅Hの室内空間38及び空気調和室8の間で暖気3及び室内暖気17の流通が行われる。
・・・
【0038】
次に、空気調和システム1を夏期に使用し、住宅Hの室内空間38を冷却する場合について図3及び図4に基づいて説明する。ここで、室内空間38の室内温度は、空気調和システム1の稼働前は、送出される冷気4の温度よりも高い温度となっている。なお、上述した冬期の場合の空気調和室8及び送風機14の接続と異なり、送風機14のダクト接続部27が天井用ダクト13のダクト一端13aと接続され、床下用ダクト11のダクト一端11aが熱交換装置19の室内空気回収部29と接続されている。この状態でエアコン9、送風機14、及び熱交換装置19を上記と同様に稼働させる。このとき、エアコン9によって空気調和空間7が設定された温度(例えば、18℃)の冷気に調整される。すなわち、冷気4の生成が行われる。そして、冷気4を送出空気取込部26から送風機14の内部に取込み、接続された天井用ダクト13を介して天井裏空間12まで送出する。
【0039】
天井裏空間12に到達した冷気4は、ダクト他端13bに設けられたチャンバー34を通じ、複数に分岐した天井裏分枝ダクト40に沿って天井裏空間12の複数箇所に分配され、ダクト開口部35から天井裏空間12に導入される。冷気4は、その特性により下方に移動する性質を有するため天井裏空間12からガラリ37を通じて二階フロアSFの室内空間38に流出する。また、熱交換装置19の室内空気回収部29によって室内空間38の室内冷気18が床下用ダクト11から吸引されている。そのため、室内空間38における冷気4及び室内冷気18は下方に向かって移動することになる。これにより、冷気4による室内空間38の冷房が行われる。室内空間38の冷気4は、二階フロアSF、吹抜構造2、及び一階フロアFFの順で下方に移動し、最終的に一階フロアFFの床面近傍に到達する。このとき、室内空間38の下方への移動によって冷気4は徐々に熱を吸収し、天井裏空間12への送出直後に比べて温度が上昇している。そして、熱交換装置19の室内空気回収部29を用いて、この温度が上昇した室内冷気18を空気調和室8まで回収する。具体的に説明すると、室内空気回収部29の吸引機能によってガラリ37から床下空間10に当該室内冷気18を吸引し、さら床下分枝ダクト36及び床下用ダクト11を通して回収が行われる。これにより、住宅Hの室内空間38及び空気調和室8の間で冷気4及び室内冷気18の流通が行われる。」

「【図1】


【図2】


【図3】


【図4】



(2)引用文献2の技術的事項
上記(1)から、上記引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「空気調和システム1において、
天井裏空間12の一部に設けられた周囲にガラスウール等の断熱材を被覆した空気調和室8と、前記空気調和室8内に設置されたエアコン9及び送風機14と、前記送風機14に接続された床下用ダクト11又は天井用ダクト13と、床下空間10に設置された前記床下用ダクト11のダクト他端11bに設けられたチャンバー34又は天井裏空間12に設置された天井用ダクト13のダクト他端13bに設けられたチャンバー34と、前記床下用ダクト11のダクト他端11bに設けられた前記チャンバー34から枝別れして延設された複数の床下分枝ダクト36又は前記天井裏空間12に設置された前記チャンバー34に設けられた天井裏分枝ダクト40とから成り、
冬期に、前記床下空間10に到達した暖気3が、前記床下用ダクト11のダクト他端11bに設けられたチャンバー34を通じ、複数に分岐した前記床下分枝ダクト36に沿って前記床下空間10の複数の箇所に分配され、ダクト開口部35から前記床下空間10に導入され、
夏期に、前記天井裏空間12に到達した冷気4が、前記天井用ダクト13のダクト他端13bに設けられたチャンバー34を通じ、複数に分岐した前記天井裏分枝ダクト40に沿って前記天井裏空間12の複数箇所に分配され、ダクト開口部35から前記天井裏空間12に導入されるようにしたこと。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献3には、次の記載がある。
「【0024】
図1は、本実施形態に係る空調機を用いた天井輻射構造を示した全体図、図2は同じく詳細図である。これらの図でわかるように、本実施形態に係る空調機を用いた天井輻射構造1は、下方天井体2及び上方天井体3からなる二重天井4を建物5内に配置するとともに、上方天井体3の一部に上方に凹んだ凹部6を形成することにより、該凹部の頂部3aとその下方に配置された下方天井体2aとの間に流路制御空間8を形成するとともに、上方天井体3の他の部分3bとその下方に位置する下方天井体2bとの間に二重天井空間9を形成してある。
【0025】
流路制御空間8には、空調機の室内機10を設置できるようになっており、該室内機からの冷温風が二重天井空間9を流れるようになっている。
【0026】
下方天井体2は、透湿性及び通気性を有する素材、例えば和紙やポリエステルシートで構成するのが望ましく、例えば木製の天井格子に和紙を張って構成することができる。
【0027】
かかる構成によれば、室内機10からの冷温風の一部が下方天井体2を通り抜けて居室7へと流れるとともに、該居室内の空気が下方天井体2を逆方向に通り抜ける循環路が形成されることとなり、輻射式冷暖房に加えて、冷温風吹出し式の冷暖房方式も兼ね備えることが可能となる。
【0028】
なお、居室7内で生じた湿気は、居室7内の空気に連行される形で室内機10に到達し該室内機で除湿されるため、下方天井体2での結露は未然に防止される。
【0029】
上方天井体3は、室内機10から吹き出された冷温風の熱が逃げないよう、合板や石膏ボードの背面に断熱材を適宜敷き込んで構成するようにし、上述した凹部6は、かかる上方天井体3の一部を折り上げて構成する。
【0030】
ここで、高い冷暖房効率を確保すべく、上方天井体3のみならず、二重天井空間9や流路制御空間8を取り囲む部位には、下方天井体2を除いて、できるだけ断熱材を配置するのが望ましく、例えば軒桁下方の壁断面等にも断熱材を適宜充填するのが望ましい。同様に、二重天井空間9や流路制御空間8に面する部位は、下方天井体2を除き、アルミ蒸着材等の高放射率の材質で構成するのが望ましい。
・・・
【0035】
本実施形態に係る空調機を用いた天井輻射構造1及びシステムにおいては、二重天井4を構成する上方天井体3の一部に上方に凹んだ凹部6を形成し、該凹部の頂部3aとその下方に配置された下方天井体2aとの間に流路制御空間8を形成するとともに、該流路制御空間のうち、二重天井空間9から離隔した側の空間22に室内機10を設置する。
【0036】
室内機10を設置するにあたっては、その吹出し口24が仕切板23の下方位置となり、吸込み口25が仕切板23の上方位置となるように据え付ける。
【0037】
かかる状態で室内機10を作動させると、室内機10の吹出し口24から流れ出した吹出し空気は図3に示したように、仕切板23の下方空間26を経て二重天井空間9に流れ込むとともに、該二重天井空間からの戻り空気は、室内機10の側方に位置する還流空間28,28を介して仕切板23の上方空間27に流れ込んだ後、室内機10の吸込み口25に還流する。」







(2)引用文献3の技術的事項
上記(1)から、上記引用文献3には、次の技術的事項(以下、「引用文献3の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「下方天井体2及び上方天井体3からなる二重天井4を建物5内に配置するとともに、前記上方天井体3の一部に上方に凹んだ凹部6を形成することにより、該凹部の頂部3aとその下方に配置された下方天井体2aとの間に流路制御空間8を形成するとともに、前記上方天井体3の他の部分3bとその下方に位置する下方天井体2bとの間に二重天井空間9を形成し、前記流路制御空間8には、空調機の室内機10を設置しており、該室内機10の吹出し口24から流れ出した冷温風が仕切板23の下方空間26を経て前記二重天井空間9を流れるようになっており、前記室内機10からの冷温風の一部が前記下方天井体2を通り抜けて居室7へと流れるとともに、該居室7内の空気が前記下方天井体2を逆方向に通り抜ける循環路が形成され、前記二重天井空間9からの戻り空気は、前記室内機10の側方に位置する還流空間28,28を介して前記仕切板23の上方空間27に流れ込んだ後、室内機10の吸込み口25に還流するようになっている、空調機を用いた天井輻射構造において、
前記二重天井空間9や前記流路制御空間8に面する部位は、前記下方天井体2を除き、アルミ蒸着材等の高放射率の材質で構成すること。」

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載
令和4年4月28日付けでされた令和4年1月28日付けの手続補正に対する補正の却下の決定において引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012−57880号公報(以下、引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0018】
(実施例1)
図1〜図8を参照して実施例1を説明する。
図1は、本発明に係るセントラル空調システムS1が適用された高気密・高断熱住宅(以下、住宅)を示す。
高気密とは、住宅内に隙間風が入ってこないようにすることであり、高断熱とは、住宅の外部と接する部分である外壁・屋根・窓などから、冬なら暖気を逃さないように、夏なら熱が入らないようにすることである。それ故、高気密・高断熱住宅は、気密性を高めるために、微細な隙間も埋められる。また、断熱性を高めるために断熱性能の高い断熱材が使用され、窓には複層ガラス入りサッシなどが使用される。
【0019】
(セントラル空調システム)
セントラル空調システム(以下、空調システム)S1は、このような住宅の優れた熱的性能を生かすためのものである(図1、2参照)。
【0020】
そのための重要な要素として次の構成要件を含む。
すなわち、図1〜3からわかるように、空調システムS1は、屋根裏に設置された空調機室1と、空調機室1に設置されるエアコン2と、外気OAを空調機室1に送気する送気ダクト31と、空調機室1の外の空気(屋根裏の空気)を空調機室1に取り込む外部空気吸込口としての屋根裏空気吸込口400と、空調機室1に向けて流れる外気OA、及びエアコン2から流出する空気(以下、エアコン空気)を空調機室1内で混合させて、空調機室1の空気温度を均一にするための混合部33と、混合部33によって均一温度にされた空気を住宅の各部屋にそれぞれ導く複数の給気ダクト3と、空調機室1内において各給気ダクト3にそれぞれ設けられた給気送風機4と、屋外に室内空気を排気するための排気ダクト32と、を備える。
【0021】
(空調機室1)
空調機室1は、住宅と同様、高気密・高断熱の造りにされている。これにより、エアコン2の吹き出し口から流出した冷気や暖気が、空調機室1の外に漏れにくくなる。さらに、空調機室1には、送気ダクト31の一方の口が嵌合されている外気導入口311と、通風口としてのガラリ15と、点検口17(図2、3、5参照)とを備える。
・・・
【0025】
(エアコン2)
図1〜5、8に示すに、エアコン2は、空調機室1の一側壁111に設置されている。そして、エアコン2は、送気ダクト31から空調機室1に流入した外気で空調機室1の空調を行う。エアコン2は、冷暖房機能を併せもつ家庭用に市販されているもので十分である。エアコン2は、空調機室1の内部に設置される室内機21と、空調機室1の外部に設置される室外機22と、室内機21及び室外機22の間でフロンガスを循環させるために配管される図示しない配管パイプと、を備える。
・・・
【0027】
(屋根裏空気吸込口400)
図1〜3(特に図3)に示すように、エアコン2の上部には、屋根裏空気吸込口400が設けられている。
【0028】
屋根裏空気吸込口400は、空調機室1の一側壁111のうち天井近くの上方部に形成されている。また、屋根裏空気吸込口400は、長方形状をした大穴であり、ここから屋根裏空気を空調機室1内に吸い込むようになっている。そのため、屋根裏空気吸込口400の横幅は、側壁111の長手方向に端から2/3位まで延びる程度の寸法になっている。但し、側壁の横幅一杯の長さでもよい。
・・・
【0030】
そして、天井裏には、通常、粉塵が存在する。そこで、粉塵を空調機室1内に取り込まないよう除去する必要がある。そのため、屋根裏空気吸込口400の全面は粉塵を除去する粉塵除去フィルター401で覆われている。
なお、屋根裏空気吸込口400及び外気導入口311のことを空調機室外の空気を取り込むための外部空気取込口ということにする。
【0031】
図3に示すように、屋根裏空気吸込口400の形成されている側壁111において、屋根裏空気吸込口400のほぼ真下でその長手方向における中央部には、エアコン2が設置されている。エアコン2の能力(以下、エアコン能力)は、冷暖房負荷計算により決定する。また、エアコン能力は、住宅の構造・施工に大きく依存し、実績に基づく経験値から機器選定を行う。
【0032】
例えば、断熱区分4地域の通常(140m2程度)の住宅ではエアコンの能力は1台(5kw相当)設置すればよい。しかし、住宅の形状、住まい方により、2台以上設置することもある。エアコンを複数台並べるときは、屋根裏空気吸込口400のほぼ真下でその長手方向に沿って直列すると好適である。
【0033】
(混合部33)
図3〜5、7及び8に示すように、混合部33は、空調機室1の天井面に垂れ壁6を垂下することで画成されてなる区切り部屋の一方の部屋である。垂れ壁6は、図3及び4からわかるように、空調機2及び送風機4の間に位置する。混合部33には、送気ダクト31経由で外気を取り込む外気導入口311が位置する(図1〜3参照)。
【0034】
外気導入口311はエアコン2の設置されている側壁111におけるエアコン2の脇に設けてもよい。また外気導入口311はエアコンの上方に設置してもよい。なお、垂れ壁6を境にして混合部33の反対側の部屋は、住宅の居室に空調機室の空気を給気送風機4で分散するための部屋であるので、分散室ということにする。分散室を符号100で示す。
【0035】
(垂れ壁6)
図3、4で示す垂れ壁6は、外気導入口311から取り込まれる外気、屋根裏空気吸込口400から取り込まれる屋根裏空気及びエアコン空気が、前記給気ダクト3へ向けて送気される前に、それらの空気の進行を阻んで混在させるために設置された壁である。垂れ壁6により混合部が形成されるので、垂れ壁6を混合部形成部材ということにする。
【0036】
また、垂れ壁6は、空調機室1の内部空間を分断することにより空調機室1を二分する画成板でもある。
さらに、垂れ壁6は、空調機室1に垂下されたときに、空調機室1の床面16との間に30〜50センチ程度の狭路である通風空間Sを形成できるような寸法とされている。
【0037】
そして、空調機室1において、垂れ壁6を境にその一方の空間にエアコン2が配置されるとともに、空調機室1の一壁面111には、既述のように屋根裏空気吸込口400が形成される。そして、垂れ壁6の他方の側における部屋では給気送風機4が配置されている。
加えて、空調機室1の一壁面111に形成されている点検口17に対向して、垂れ壁6にも点検口17が形成されている。
【0038】
(給気送風機4)
図3、4で示すように、給気送風機4は、垂れ壁6と平行になるように天井面から垂下されている給気送風機取り付け壁44に取り付けられている。給気送風機取り付け壁44は格子状をしている。そして、この実施例では、給気送風機4が、給気送風機取り付け壁44に対し、離隔状態の上下2段で、片段6基の合計12基が取り付けられている。給気送風機取り付け壁44のうち、垂れ壁6のある側と反対の側は、給気ダクト3の配管スペース102として確保されている。
【0039】
また、複数ある給気送風機4は、それぞれが給気ダクト3の一方の口に対してそれぞれ設けられている。そして、住宅の複数の部屋へ給気ダクト3を介して給気をする。
給気送風機4は、直流(DC)モータを駆動源として回転される。その設置数は、空調対象の居室42の数と同じである。そして、空調機室1の壁面12bや床面16には、空調対象の居室42の数だけ給気ダクト3の通る図示しない通し孔が形成されている。これらの通し孔に給気ダクト3を通してから、給気ダクト3の一方の口を各給気送風機4に接続する。
【0040】
(給気ダクト3)
図1に示すように給気ダクト3は、空調機室1で空調された空気を住宅の各部屋に供給する。
給気ダクト3は、低圧損フレキシブルダクトであることが望ましい。そして、その中を通風するにあたり、空気に抵抗(通風抵抗)ができるだけ掛からないよう、給気ダクト3は、直線的に又は大きな曲率を有する曲線形状で配管されている。
【0041】
またこの実施例では、給気ダクト3の一方の口は、給気送風機4と接続されたが、給気ダクト3の他方の口は、住宅の空調対象の部屋である複数の居室42と床下36に案内され、それぞれに設けられた吹出しグリル50とつなげられる。そして、吹出しグリル50からは、空調機室1で空調された空気(以下、給気SA)が給気ダクト3経由で、居室42や床下36に向けて吹き出す。
・・・
【0054】
(作用・効果)
次に作用効果について述べる。
空調システムS1によれば、既述のように、エアコン空気、屋根裏空気及び外気OAはいずれも、垂れ壁6に衝突し、その後跳ね返るため、これら3空気は混合しあう。
【0055】
その結果、夏場や冬場に関わらず、混合部33(図3、4参照)は一様な温度の空気(以下、混合空気)で満たされる。そして、すでに給気送風機4が直流モータで駆動しているので、混合空気は、給気送風機4に向けて流れる。
【0056】
そして、給気送風機4に向けて流れる途中にある、30〜50センチ程度の狭路である通風空間Sがあり、かつ複数の給気送風機4によって混合部33側から通風空間Sを経由して給気送風機4側に至る空気の流れができるようになる。したがって、空調機室1内(特に通風空間Sの部位)では乱流が発生する。乱流が発生するから、エアコン空気、屋根裏空気及び外気OAは一層混合する。
【0057】
給気送風機4は、空調気室1と住宅の居室42その他の各部屋とを結ぶ複数のダクトの一方の口とつながっているので、当該ダクトを介して、ほぼ一様な温度の空気である混合空気が、各部屋に送気され、かつ住宅全体で環流する。」






【図3】





(2)引用文献4の技術的事項
上記(1)から、上記引用文献4には、次の技術的事項(以下、「引用文献4の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「セントラル空調システムS1において、
屋根裏に設置された高気密・高断熱の造りにされた空調機室1と、前記空調機室1内に配備されるエアコン2及び複数の給気送風機4と、前記複数の給気送風機4に一方の口が接続されて、他方の口が前記空調機室1から住宅内の複数の居室42に案内され、それぞれに設けられた吹出しグリル50とつなげられた複数の給気ダクト3とから成り、
前記空調機室1の天井面に垂れ壁6を垂下することで画成されてなる混合部33で、外気を取り込む外気導入口311及び屋根裏空気を吸い込む屋根裏空気吸込口400が形成された前記空調機室1の一側壁111に前記エアコン2が設置され、外気導入口311から取り込まれた外気と、屋根裏空気吸込口400から吸い込まれた屋根裏空気と、前記エアコン2から流出する空気とが混合され、
混合されて均一温度にされた空気が、垂れ壁6と前記空調機室1の床面16との間に形成された通風空間Sを経由して、前記住宅の複数の居室42に前記空調機室1の空気を送風機4で分散するための部屋である分散室100に導入され、
前記分散室100内の混合空気が、前記分散室100と配管スペース102を仕切る給気送風機取り付け壁44に取り付けられた前記複数の給気送風機4に向けて流れ、前記配管スペース102内で前記複数の給気送風機4に接続された前記複数の給気ダクト3により前記住宅内の複数の居室42に案内されて吹出しグリル50から吹き出されること。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
ア 後者の「非居住空間22の屋根裏」は、前者の「小屋裏」に相当し、以下同様に、「空調機12」は「エアコン」に、「送風機14」は「ダクト用換気扇」に、「高気密断熱住宅20」は「住宅」に、「空気取り入れ口」は「空気取り入れ口」に、「空調空気」は「温冷気」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「空調室11」と、前者の「断熱材で包囲された蓄熱室」とは、「空調用の室」という限りにおいて一致する。
よって、後者の「非居住空間22の屋根裏に配置される空調室11と、前記空調室11内に配備される空調機12及び送風機14」と、前者の「小屋裏に配置される断熱材で包囲された蓄熱室と、前記蓄熱室内に配備されるエアコン及びダクト用換気扇」とは、「小屋裏に配置される空調用の室と、前記空調用の室内に配備されるエアコン及びダクト用換気扇」という限りにおいて一致する。
さらに、後者の「温度調整されて前記空調機12から出る空調空気が前記空調室11内において前記送風機14内に取り込まれ」ることと、前者の「温度調整されて前記エアコンから出る温冷気が前記蓄熱室内において前記ダクト用換気扇内に取り込まれ」ることとは、「温度調整されて前記エアコンから出る温冷気が前記空調用の室内において前記ダクト用換気扇内に取り込まれ」ることという限りにおいて一致する。

ウ 後者の「2階の居住空間21」と、前者の「各区画空間」とは、「区画空間」という限りにおいて一致する。
さらに、後者の「空調空気流路13を構成するダクト」と、前者の「複数の断熱ダクト」とは、「ダクト」という限りにおいて一致する。
そして、後者の「前記送風機14の接続口に接続されて、前記空調室11から高気密断熱住宅20内の2階の居住空間21に延びる空調空気流路13を構成するダクトとから成」ることと、前者の「前記蓄熱室内に配備されて前記ダクト用換気扇に連結される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの接続口に接続されて、前記蓄熱室から住宅内の各区画空間に延びる複数の断熱ダクトとから成」ることとは、「前記空調用の室から住宅内の区画空間に延びるダクトとから成」るという限りにおいて一致する。

エ 後者の「居住空気導入手段17から導入された室内の空気と屋外空気導入手段18から導入された屋外の空気が混合された空気」は、空調の対象が2階の居住空間21内の空気、すなわち、室内の空気であることを考慮すると、屋外の空気が混合された室内の空気といえるから、前者の「室内空気」に相当する。
そして、後者の「前記空調室11は、空気取り入れ口として非居住空間22の屋根裏内に流入する居住空気導入手段17から導入された室内の空気と屋外空気導入手段18から導入された屋外の空気が混合された空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有」と、前者の「前記蓄熱室は、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有」することとは、「前記空調用の室は、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有」するとの限りにおいて一致する。

オ 後者の「前記送風機14から前記空調空気流路13を構成するダクトを通って前記2階の居住空間21に給気される」ことと、前者の「前記ダクト用換気扇から前記分岐チャンバーを介して前記断熱ダクトを通って前記各区画空間に給気される」とは、「前記ダクト用換気扇から前記ダクトを通って前記区画空間に給気される」という限りにおいて一致する。

カ 後者の「空調システム」と、前者の「セントラル空調システム」とは、「空調システム」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「小屋裏に配置される空調用の室と、前記空調用の室内に配備されるエアコン及びダクト用換気扇と、前記空調用の室から住宅内の区画空間に延びるダクトとから成り、
前記空調用の室は、空気取り入れ口として小屋裏内に流入する室内空気を取り入れる空気取り入れ口のみを有し、
温度調整されて前記エアコンから出る温冷気が前記空調用の室内において前記ダクト用換気扇内に取り込まれ、前記ダクト用換気扇から前記ダクトを通って前記区画空間に給気されるようにした空調システム。」

[相違点1]
「空調用の室」に関し、本願発明1では、「断熱材で包囲された蓄熱室」であるのに対して、引用発明では、「空調室11」であり、断熱材で包囲されたことまでは、特定されていない点。

[相違点2]
「ダクト」に関し、本願発明1では、「断熱ダクト」であるのに対して、引用発明では、「ダクト」であるものの、断熱ダクトであることまでは、特定されていない点。

[相違点3]
「前記空調用の室から住宅内の区画空間に延びるダクトとから成」ることに関し、
本願発明1では、「前記蓄熱室内に配備されて前記ダクト用換気扇に連結される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの接続口に接続されて、前記蓄熱室から住宅内の各区画空間に延びる複数の断熱ダクトとから成」るのに対して、
引用発明では、「前記送風機14の接続口に接続されて、前記空調室11から高気密断熱住宅20内の2階の居住空間21に延びる空調空気流路13を構成するダクトとから成」るものの、「分岐チャンバー」や「複数の断熱ダクト」を備えていない点。

[相違点4]
「前記ダクト用換気扇から前記ダクトを通って前記区画空間に給気されるようにした空調システム」に関し、
本願発明1では、「前記ダクト用換気扇から前記分岐チャンバーを介して前記断熱ダクトを通って前記各区画空間に給気されるようにした」「セントラル空調システム」であるのに対して、
引用発明では、「前記送風機14から前記空調空気流路13を構成するダクトを通って前記2階の居住空間21に給気されるようにした空調システム」であるものの、「分岐チャンバー」や「複数の断熱ダクト」を備えておらず、「セントラル空調システム」ではない点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
引用文献2の記載事項は、エアコン9からの暖気3又は冷気4が、空気調和室8内に設置された送風機14、床下用ダクト11又は天井用ダクト13、床下空間10に設置されたチャンバー34又は天井裏空間12に設置されたチャンバー34、床下空間10に設置されたチャンバー34に設けられた複数の床下分枝ダクト36又は天井裏空間12に設置されたチャンバー34に設けられた天井裏分枝ダクト40の順に流れるものであり、ダクト用換気扇の下流に分岐チャンバーが配備されたものとはいえず、また、蓄熱室内に分岐チャンバーが配備されたものとはいえないから、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を示すものではない。
また、引用文献3の記載事項は、本願の請求項2において新たに特定された事項に対応するものであり、ダクト用換気扇の下流に分岐チャンバーが配備されたものとはいえず、また、蓄熱室内に分岐チャンバーが配備されたものとはいえないから、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を示すものではない。
さらに、引用文献4の記載事項は、外気導入口311から取り込まれた外気と、屋根裏空気吸込口400から吸い込まれた屋根裏空気と、エアコン2から流出する空気とが混合されて均一温度にされた空気が、分散室100、複数の給気送風機4、複数の給気ダクト3、吹出しグリル50の順に流れるものであり、ダクト用換気扇の下流に分岐チャンバーが配備されたものとはいえず、また、蓄熱室内に分岐チャンバーが配備されたものとはいえないから、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を示すものではない。
そうすると、引用文献2、引用文献3及び引用文献4の記載事項には、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、なんら示されておらず、これらの引用文献2〜4の記載事項のいずれかを引用発明に適用したとしても、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本願発明1は、当該発明特定事項とすることによって、「シンプルな構成で大掛かりな工事を要することなく、比較的低コストで設置可能で、室内の各区画空間に快適な温度環境を実現し得るセントラル空調システムを提供する」(本願明細書の段落【0006】)という所期の目的を達成するものである。
したがって、本願発明1は、相違点1、2及び4について検討するまでもなく、引用発明、引用文献2、引用文献3及び引用文献4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明とを、上記1(1)の対比を踏まえて対比すると、両者は相違点1〜4に加えて次の点で相違する。
[相違点5]
本願発明2では、「前記蓄熱室の内面がアルミ蒸着シートで被装されている」のに対して、引用発明では、そのような構成を有していない点。

(2)判断
本願発明2は、相違点3に係る本願発明1の発明特定事項を含むものであり、本願発明1についての上記1(2)の判断を踏まえると、相違点1、2、4及び5について検討するまでもなく、引用発明、引用文献2、引用文献3及び引用文献4の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由1(進歩性)について
本件補正により本願発明1及び2は、「前記蓄熱室内に配備されて前記ダクト用換気扇に連結される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの接続口に接続されて、前記蓄熱室から住宅内の各区画空間に延びる複数の断熱ダクト」という発明特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定の理由において引用された引用文献1及び2に記載された発明並びに引用文献3に記載された周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件補正により請求項3は削除されたため、上記第2の1(2)に示した請求項3についての理由は対象が存在しないものとなった。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-01-19 
出願番号 P2017-149580
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F24F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 間中 耕治
槙原 進
発明の名称 セントラル空調システム  
代理人 齋藤 晴男  
代理人 齋藤 貴広  

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