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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1393937
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-08-05 
確定日 2023-01-24 
事件の表示 特願2018− 33488「透明導電性フィルム積層体および透明導電性フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月 5日出願公開、特開2019−149012、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年10月13日付け:拒絶理由通知書
令和3年12月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 4月26日付け:拒絶査定
令和4年 8月 5日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和4年4月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1−2、4−6に係る発明は、以下の引用文献1、4−5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願請求項3に係る発明は、以下の引用文献1−5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2005−036205号公報
2.国際公開第2014/155982号(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2017/204228号(周知技術を示す文献)
4.特開2014−189660号公報(周知技術を示す文献)
5.国際公開第2015/125811号(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1−6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明6」という。)は、令和3年12月15日提出の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
保護樹脂フィルム、粘着剤層および透明導電性フィルムをこの順に備え、
前記透明導電性フィルムは、透明樹脂基材および透明導電層をこの順に備え、
前記保護樹脂フィルムおよび前記透明樹脂基材のそれぞれは、シクロオレフィン系樹脂を含有し、
下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする、透明導電性フィルム積層体。
Y < 0.0003X2.7 (1)
0.2 ≦ Y < 6.0 (2)
(式中、Xは、前記保護樹脂フィルムおよび前記透明樹脂基材のうち、薄い方の厚み(μm)を示す。
Yは、引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における前記粘着剤層の剥離力(N/50mm)を示す。)」

また、本願発明2−4は、本願発明1を減縮した発明である。
さらに、本願発明5は、本願発明1に対応する「透明導電性フィルムの製造方法」の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。
加えて、本願発明6は、本願発明5を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、タッチパネル、センサ、太陽電池における透明電極等の分野で広く用いられている透明導電性フィルム又は表示装置に使用される表面保護フィルム、及びこれを用いた透明導電性フィルム及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、透明導電性フィルムは、図3に示すように、ポリエステル等からなる基材フィルム2aの片面にITO、ZnO、SnO2などからなる導電性薄膜2bを、他面にハードコート層2c(又はアンチグレア層)を形成した構造を有する。このような透明導電性フィルム2において、従来、導電性薄膜2bとは反対面のハードコート層2cもしくはアンチグレア層には、異物や汚れの付着を防止するために表面保護フィルムが用いられている。前記表面保護フィルムとしては、たとえば、共押出し法によるポリエチレン/エチレン−酢酸ビニル共重合体(PE/EVA)からなる2層テープが使用されている。
【0003】
例えば、高い品質を維持しながら工数を減らし低コスト化することを目的として、プラスチックからなる透明フィルムの一方の面に透明導電膜を形成し、透明導電膜とは反対側の面に粘着剤を介して保護フィルムを積層した透明導電性フィルムにおいて、上記粘着剤は透明であって、透明フィルムに対する粘着力が8.0N/50mm以上、保護フィルムに対する粘着力が0.1N/50mm以上1.5N/50mm以下である保護フィルム付き透明導電性フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、熱による損傷もなく、透明導電性薄膜の形成された面の反対側の面の損傷もないロールプロセスで連続的に加工できる耐熱性透明導電性フィルムを提供することを目的として、ガラス転移温度が120℃以上である第一のプラスチックフィルム基体に、透明導電性を有する薄膜を積層し、該薄膜が積層されている面の反対面上に、ガラス転移温度が120℃以上で、且つ第一のプラスチックフィルムとの線膨張係数の差が20ppm/℃以内である第二のプラスチックフィルム基体に、熱分解温度が120℃以上で、かつ粘着力が50g/cm以下である粘着材層を設けた保護フィルムを粘着材層を介して貼り合わせた透明導電性フィルムが開示されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、加熱工程での反りを小さくし、熱処理工程によるカールを減らし、熱処理後の寸法安定性を向上させることを目的として、保護フィルムが、150℃30分間加熱後の熱収縮率がMD及びTD方向ともに0.5%以下である第一のフィルムと透明導電膜及び保護フィルム付きプラスチックフィルムの線膨張係数との差が40ppm/℃以下である線膨張係数を有する第二のフィルムからなり、かつ上記第一フィルムと第二フィルムをプラスティックフィルムからこの順に設ける透明導電膜及び保護フィルム付きプラスティックフィルムが開示されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、上記のような保護フィルムを透明導電性フィルムのハードコート(又はアンチグレア)処理面に貼って剥がすと、ハードコート処理面の滑り性が悪化する。そして、滑り性の悪化はタッチペンなどによる書き具合などに悪影響を与えることになる。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ハードコート処理した表面などに貼り付けられた保護フィルムを剥がしてもハードコート処理面等の滑り性を悪化させることがなく、さらには剥離後のハードコート処理面等を外観上汚染せず、粘着力も満足できる表面保護フィルムを提供することを目的とする。また本発明はこれを用いた透明導電性フィルム及び表示装置を提供することを目的とする。」

「【0020】
本発明の表面保護フィルムは、図1に示すように、基材フィルム1aの片面側に粘着剤層1bが設けられている。本発明の表面保護フィルムは、透明導電性フィルムの導電性薄膜とは反対側の表面を保護するものである。図1に示す実施形態は、透明導電性フィルム2のハードコート層2c(又は前記アンチグレア層)の表面に表面保護フィルム1を貼着した例であり、図2に示す実施形態は、透明導電性フィルム2の基材フィルム2aの表面に表面保護フィルム1を貼着した例である。
【0021】
基材フィルム1aとしては、特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレンブレンド物、ポリアミド、ポリイミド、セルロースアセテート、ポリスルフオン、ポリエーテルスルフオンなどがあげられる。なかでも、透明性や耐熱性が要求される場合には、PET、PEN、PPSが好ましい。
【0022】
基材フィルム1aの厚みは、特に制限されないが、10〜200μmとするのがよく、好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜70μmである。厚みが薄すぎると、表面保護フィルム1を剥離する際の強度や、表面保護機能が不十分となる傾向がある。厚みが厚すぎると、取り扱い性やコスト面で不利になる傾向がある。基材フィルム1aの表面には粘着剤層1bとの投錨性を考えて、フィルムにはコロナ放電、電子線照射、スパッタリングなどの処理や易接着処理が施されていることが好ましい。」

「【0041】
一方、本発明の表面保護フィルム1で保護される透明導電性フィルム2は、例えば図1又は図2に示すようなものである。即ち、本発明の透明導電性フィルムは、図1に示すように、基材フィルム2aの片面側に導電性薄膜2bを他面側にハードコート層2c(又はアンチグレア層)を備えると共に、表面保護フィルム1の粘着剤層1bを、ハードコート層2c(又はアンチグレア層)の表面に貼着してなるものである。あるいは、基材フィルム2aの片面側に導電性薄膜2bを備えると共に、表面保護フィルム1の粘着剤層1bを、基材フィルム2aの他面側の表面に貼着してなるものである。
【0042】
導電性薄膜2bは、ITO(インジウム・錫の酸化物)、錫・アンチモン、亜鉛、錫の酸化物等の金属酸化物の薄膜や、金、銀、パラジウム、アルミニウム等の金属の極薄膜により形成される。これらは真空蒸着法、イオンビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成される。導電性薄膜2bの厚さは特に制限されないが、一般的には50Å以上、好ましくは100〜2000Åである。
【0043】
基材フィルム2aは、通常、透明材料からなるフィルムが使用される。かかる透明材料としては、たとえば、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネートなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、または前記ポリマーのブレンド物などもあげられる。
【0044】
基材フィルム2aの厚さは特に制限されないが、一般的には20〜130μm程度、好ましくは30〜80μmである。」

「【0052】
実施例A
片面帯電防止層付きポリエステルフィルム(三菱化学ポリエステル(株)製、T100G、厚さ38μm)の非帯電防止面に、下記アクリル系粘着剤を乾燥後の厚みが20μmになるように塗布し、90℃で乾燥して表面保護フィルムを得た。」

「【0055】
〔評価試験〕
(1)粘着力
被着体であるITOフィルム(日東電工(株)製、G400L−TMP)のハードコート表面に、実施例および比較例の表面保護フィルムの粘着剤層をラミネータ(線圧78.5N/cm、速度0.3m/min)で貼り合わせ、常温で30分間経過後に引張速度0.3m/min及び引張速度10m/minの条件で、180°(剥離角)における粘着力(N/20mm)を測定した。また、前記ITOフィルムのハードコート表面に、実施例および比較例の表面保護フィルムの粘着剤層をラミネータ(線圧78.5N/cm、速度0.3m/min)で貼り合わせ、その後150℃で1時間加熱した。常温まで冷却後、前記と同様の測定を行った。結果を表1に示す。」

【表1】「



【図1】「



ここで、引用文献1に記載されている事項について検討する。
ア 上記【0020】の「本発明の表面保護フィルムは、図1に示すように、基材フィルム1aの片面側に粘着剤層1bが設けられている。本発明の表面保護フィルムは、透明導電性フィルムの導電性薄膜とは反対側の表面を保護するものである。図1に示す実施形態は、透明導電性フィルム2のハードコート層2c(又は前記アンチグレア層)の表面に表面保護フィルム1を貼着した例であり」との記載、上記【0041】の「本発明の表面保護フィルム1で保護される透明導電性フィルム2は、例えば図1又は図2に示すようなものである。即ち、本発明の透明導電性フィルムは、図1に示すように、基材フィルム2aの片面側に導電性薄膜2bを他面側にハードコート層2c(又はアンチグレア層)を備えると共に、表面保護フィルム1の粘着剤層1bを、ハードコート層2c(又はアンチグレア層)の表面に貼着してなるものである。」との記載及び上記【図1】の記載から、引用文献1には、「表面保護フィルムは、基材フィルム1aの片面側に粘着剤層1bが設けられ、基材フィルム1a、粘着剤層1b及び透明導電性フィルム2をこの順に備え、透明導電性フィルム2は、基材フィルム2a及び導電性薄膜2bをこの順に備える、表面保護フィルム1で保護される透明導電性フィルム2」が記載されていると認められる。

イ 上記【0020】の「本発明の表面保護フィルムは、図1に示すように、基材フィルム1aの片面側に粘着剤層1bが設けられている。」との記載、上記【0052】の「実施例A 片面帯電防止層付きポリエステルフィルム(三菱化学ポリエステル(株)製、T100G、厚さ38μm)の非帯電防止面に、下記アクリル系粘着剤を乾燥後の厚みが20μmになるように塗布し、90℃で乾燥して表面保護フィルムを得た。」との記載、上記【0055】の「被着体であるITOフィルム(日東電工(株)製、G400L−TMP)のハードコート表面に、実施例および比較例の表面保護フィルムの粘着剤層をラミネータ(線圧78.5N/cm、速度0.3m/min)で貼り合わせ、常温で30分間経過後に引張速度0.3m/min及び引張速度10m/minの条件で、180°(剥離角)における粘着力(N/20mm)を測定した。また、前記ITOフィルムのハードコート表面に、実施例および比較例の表面保護フィルムの粘着剤層をラミネータ(線圧78.5N/cm、速度0.3m/min)で貼り合わせ、その後150℃で1時間加熱した。常温まで冷却後、前記と同様の測定を行った。結果を表1に示す。」との記載及び上記【表1】の記載から、引用文献1には、「基材フィルム1aが厚さ38μmのポリエステルフィルムであり、粘着剤層1bがアクリル系粘着剤であり、常温で30分間経過後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.21(N/20mm)であり、150℃で1時間加熱し、常温まで冷却後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.93(N/20mm)である実施例A」が記載されていると認められる。

したがって、引用文献1には、特に「実施例A」について整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「表面保護フィルム1は、基材フィルム1aの片面側に粘着剤層1bが設けられ、
基材フィルム1a、粘着剤層1b及び透明導電性フィルム2をこの順に備え、
透明導電性フィルム2は、基材フィルム2a及び導電性薄膜2bをこの順に備え、
基材フィルム2aは、通常、透明材料からなるフィルムが使用され、かかる透明材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルなどがあげられ、また、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィンなどもあげられ、
基材フィルム2aの厚さは特に制限されないが、一般的には20〜130μm程度、好ましくは30〜80μmであり、
基材フィルム1aが厚さ38μmのポリエステルフィルムであり、
粘着剤層1bがアクリル系粘着剤であり、
常温で30分間経過後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.21(N/20mm)であり、
150℃で1時間加熱し、常温まで冷却後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.93(N/20mm)であることを特徴とする表面保護フィルム1で保護される透明導電性フィルム2。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0064] <実施例3>
図3と同様の層構成を持つタッチパネル30を作製した。透明基板1としてPET(50μm)を用い、両面に樹脂層2としてUV吸収剤を20wt%添加したUV硬化性透明アクリル樹脂をマイクログラビアコーティングした後、乾燥、UV硬化することで5μmの厚さで形成した。更に両面に光学調整層4として、ジルコニア粒子入りのUV硬化性アクリル樹脂を90nmの厚さで形成した。この時、光学調整層4の屈折率は1.70であった。得られた基材は更に両面に透明導電膜5としてITO(錫含有率5wt%)を真空でDCマグネトロンスパッタリングにより22nmの厚さで形成し、これを150℃、60分でアニールすることにより、片面のシート抵抗を150Ω/□で得た。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0186] なお、透明絶縁基板5は、第1面、および、第1面と対向する第2面を有する基板に該当し、第1面(表面)上に第1導電層8が配置され、第2面(裏面)上に第2導電層9が配置される。なお、図3では、透明絶縁基板5と第1導電層8および第2導電層9とが直接接している形状で示しているが、透明絶縁基板5と第1導電層8および第2導電層9との間に、密着強化層、下塗層、ハードコート層、光学調整層等の機能層を一層以上形成することもできる。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0043】
(2)軽剥離シート
本実施形態に係る基材レス両面粘着積層体10が備える軽剥離シート1は、軽剥離シート1の支持体となる軽剥離支持体1aと、軽剥離支持体1aにおける粘着剤層2に対向する側の主面上に構成された軽剥離剤層1bとを備える。軽剥離シート1における軽剥離剤層1b側の主面が剥離面をなしている。
【0044】
軽剥離シート1は、剥離シートとして安定的に機能する、つまり剥離性を安定的に示す観点から、その剥離力(軽剥離力)FLが10mN/50mm以上200mN/50mm以下とされる。また、重剥離剤層3bの粘着剤層2に対する剥離力、すなわち、重剥離力FHとの関係が後述する条件を満たしてスポットナキワカレが生じる可能性が低減していることを前提として、15mN/50mm以上150mN/50mm以下であることが好ましく、20mN/50mm以上100mN/50mm以下であることがさらに好ましい。
【0045】
軽剥離シート1は、上記の剥離力に関する条件を満たしている限り、他の構成は特に限定されない。
軽剥離シート1の支持体である軽剥離支持体1aの材質は特に限定されない。樹脂系の材料から構成されていてもよいし、紙系の材料から構成されていてもよい。樹脂系の材料から構成される場合における樹脂種は任意であり、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂などが挙げられる。軽剥離支持体1aに係る樹脂系の材料は、これらの一種類から構成されていてもよいし、複数種類から構成されていてもよい。」

「【0108】
〔実施例1〕
(1)塗工液の調製
(メタ)アクリル酸エステル系重合体を主成分とする粘着剤主剤(アクリル酸ブチル、アクリル酸を重合に用いる単量体成分として、この順に90:10の質量比で共重合した共重合体、固形分44質量%)100質量部と、エポキシ系架橋剤(三菱ガス化学製TETRAD−C)0.025質量部と、溶剤としてのメチルエチルケトン30質量部とを混合して、塗工液を調製した。
【0109】
(2)塗工品の作製
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製基材フィルムの一方の主面上に厚さ0.1μmのシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製SP−PET382150、幅長1000mm)を重剥離シートとして用意した。また、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製基材フィルムの一方の主面上に厚さ0.1μmのシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製SP−PET382120、幅長1000mm)を軽剥離シートとして用意した。
上記の重剥離シートにおける剥離剤層側の主面上に上記の塗工液をロールナイフコーターにて粘着剤幅が980mmになるように塗布し、90℃で5分間乾燥して、厚さ50μmの基材レスの粘着剤層を得た。この粘着剤層と重剥離シートとからなる積層体の粘着剤層側の主面に上記の軽剥離シートにおける剥離剤層側の主面を貼合して、重剥離シート、粘着剤層および軽剥離シートがこの順に配置されてなる積層体を得た。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0028] [実施形態1]
(1)積層フィルムの構成
図1は、実施形態1に係る積層フィルムを示した断面模式図である。実施形態1に係る積層フィルム10は、第一のセパレーターフィルム(第一の表面保護フィルム)11と、異物除去用粘着層12と、異物除去用フィルム13と、一体化用粘着層14と、第二のセパレーターフィルム(第二の表面保護フィルム)15と、基材貼り付け用粘着層16と、光学フィルム(機能性フィルム)17と、が順に設けられた構成を有する。基材への貼り付け時には、光学フィルム17が積層フィルム10の最上部に位置する。なお、光学フィルム17の基材貼り付け用粘着層16が設けられていない側の表面上に、粘着層、及び、表面保護フィルムが積層されていてもよい。
[0029] 第一のセパレーターフィルム11は、使用前の異物除去用粘着層12の表面を保護するものである。第一のセパレーターフィルム11としては特に限定されず、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム、アクリルフィルム、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム等の一般的なフィルムを使用できる。」

「[0098] [実施例1]
実施例1として、実施形態1に係る積層フィルムを実際に製造した例を示す。図35は、実施例1の積層フィルムの断面を示した模式図である。実施例1の積層フィルムは、図35に示した構成を有し、各層の材質及び厚さは、以下のとおりである。
第一のセパレーターフィルム11:PETフィルム、厚さ38μm
異物除去用粘着層12:藤森工業社製、(商品名)TFB−4T3−367AS、厚さ25μm
異物除去用フィルム13:PETフィルム、厚さ38μm
一体化用粘着層14:藤森工業社製、(商品名)ZBO−0421、厚さ21μm
第二のセパレーターフィルム15:PETフィルム、厚さ38μm
基材貼り付け用粘着層16:リンテック社製、(商品名)MO3014、厚さ50μm
光学フィルム17:モスアイフィルム、厚さ70μm
粘着層31:モスアイフィルム用粘着剤(リンテック社製)、厚さ25μm
保護フィルム33:PETフィルム、厚さ100μm」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「基材フィルム1a」は、「表面保護フィルム」の一部であり、「ポリエステルフィルム」でもあるから、本願発明1の「保護樹脂フィルム」に相当する。また、引用発明の「粘着剤層1b」は、本願発明1の「粘着剤層」に相当する。さらに、引用発明の「透明導電性フィルム2」は、本願発明1の「透明導電性フィルム」に相当する。そうすると、引用発明において、「基材フィルム1a、粘着剤層1b及び透明導電性フィルム2をこの順に備え」ていることから、本願発明1と引用発明は、「保護樹脂フィルム、粘着剤層および透明導電性フィルムをこの順に備え」る点で一致する。

イ 引用発明の「基材フィルム2a」は、「通常、透明材料からなるフィルムが使用され、かかる透明材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルなどがあげられ」ることから、本願発明1の「透明樹脂基材」に相当する。また、引用発明において、「導電性薄膜2b」は「透明導電性フィルム2」の一部であるから、透明な導電性のある層であるといえることは明らかである。そうすると、引用発明の「導電性薄膜2b」は、本願発明1の「透明導電層」に相当する。したがって、引用発明において、「透明導電性フィルム2は、基材フィルム2a及び導電性薄膜2bをこの順に備え」ていることから、上記アを踏まえると、本願発明1と引用発明は、「前記透明導電性フィルムは、透明樹脂基材および透明導電層をこの順に備え」る点で一致する。

ウ 引用発明の「表面保護フィルム1で保護される透明導電性フィルム2」は、積層体であることが明らかであるから、本願発明1の「透明導電性フィルム積層体」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「保護樹脂フィルム、粘着剤層および透明導電性フィルムをこの順に備え、
前記透明導電性フィルムは、透明樹脂基材および透明導電層をこの順に備えることを特徴とする、透明導電性フィルム積層体。」

(相違点1)
本願発明1では、「前記保護樹脂フィルムおよび前記透明樹脂基材のそれぞれは、シクロオレフィン系樹脂を含有」するのに対し、引用発明では、「基材フィルム1a」は「ポリエステルフィルム」であり、「基材フィルム2a」は「ポリエステル」又は「シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン」などの「透明材料からなるフィルム」であるが、「基材フィルム1a」及び「基材フィルム2a」のそれぞれがシクロオレフィン系樹脂を含有する構成については特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1では、「下記式(1)および(2)を満足する」のに対し、引用発明では、「基材フィルム1a」の「厚さ」は「38μm」であり、「基材フィルム2aの厚さは特に制限されないが、一般的には20〜130μm程度、好ましくは30〜80μmであり」、「常温で30分間経過後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.21(N/20mm)であり」、「150℃で1時間加熱し、常温まで冷却後の引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における粘着剤層1bの剥離力が0.93(N/20mm)である」が、下記式(1)及び(2)について特定されていない点。
「Y < 0.0003X2.7 (1)
0.2 ≦ Y < 6.0 (2)
(式中、Xは、前記保護樹脂フィルムおよび前記透明樹脂基材のうち、薄い方の厚み(μm)を示す。
Yは、引張速度10m/min、剥離角度180°の条件における前記粘着剤層の剥離力(N/50mm)を示す。)」

(2)相違点についての判断
上記相違点1、2について検討する。また、上記相違点1、2は、「保護樹脂フィルム」に関するものである点で互いに関連しているので、まとめて検討する。
引用文献2、3には、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成について記載も示唆もない。
また、上記第4の4、5の記載から、「剥離されるフィルムの材質として、シクロオレフィン系樹脂が選択肢の一つであること」は、本願の出願前に周知技術であったと認められる。しかしながら、引用文献4、5の実施例においてはシクロオレフィン系樹脂を含有するフィルムを用いられていないことも考慮すると、引用文献4、5に上記相違点1、2に係る本願発明1の構成が記載されているとはいえず、このような構成を示唆する記載もないといえる。
さらに、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成が、本願の出願前に周知技術であったとはいえない。
したがって、当業者といえども、引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項から、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2−4について
本願発明2−4は、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、上記相違点1、2に係る本願発明1の構成に対応する構成を実質的に備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明6について
本願発明6は、本願発明5と同一の構成を備えるものであるから、本願発明5と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1−6は、当業者が引用発明及び引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2023-01-10 
出願番号 P2018-033488
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 中野 裕二
石井 則之
発明の名称 透明導電性フィルム積層体および透明導電性フィルムの製造方法  
代理人 岡本 寛之  

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