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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 一部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1393974
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-23 
確定日 2022-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6790023号発明「複合材の製造方法および複合材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6790023号の明細書および特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書および訂正特許請求のとおり、訂正後の請求項6について訂正することを認める。 特許第6790023号の請求項6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6790023号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年5月18日を出願日とする特許出願であって、令和2年11月6日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和3年4月23日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(令和4年9月12日受付の名称変更届により、弁理士法人 朝日奈特許事務所に変更。以下、「特許異議申立人」という。)により、請求項6を対象として特許異議の申立てがされた。

特許異議の申立て以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和3年 7月16日付け 取消理由通知書
同 年 9月21日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同 年 同月27日付け 手続補正指令書(方式)
同 年11月 5日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)
令和4年 2月 3日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同 年 4月18日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同 年 5月11日 手続補正書
同 年 7月 4日 通知書

そして、上記通知書に対し特許異議申立人からは何ら応答がなかった。

なお、令和3年9月21日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年4月18日に提出され、同年5月11日に手続補正(下線を削除するものであり、要旨を変更しないものと認める。)がされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。(下線は、訂正箇所について当審が付したものである。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲における請求項6を、
「 複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、
前記積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、
前記繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在する複数の短繊維(炭素繊維を除く)と、
を備え、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の【0016】の記載を、
「 本発明は、複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、前記積層体 に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、前記繊維強化基材の面内方向 とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在する複 数の短繊維(炭素繊維を除く)と、を備え、前記マトリックス樹脂は、熱 硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材を提供する 。」
と訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項6の訂正について
訂正事項1による請求項6の訂正は、請求項6における「短繊維」から「炭素繊維」を除くものである。
したがって、訂正事項による請求項6の訂正は、「短繊維」を減縮するもの、すなわち、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項6の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)明細書の訂正について
訂正事項2による明細書の訂正は、特許請求の範囲を訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合をとるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2による明細書の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項6に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1による請求項6についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
また、訂正事項2による明細書の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項6について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項6について訂正することを認めるから、本件特許の請求項6に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、令和4年4月18日に提出され、同年5月11日に手続補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項6】
複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、
前記積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、
前記繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在する複数の短繊維(炭素繊維を除く)と、
を備え、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年4月23日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如)
本件発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。
・甲第1号証:特許第5967084号公報

以下、甲第1号証を「甲1」という。

第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が、令和4年2月3日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。

1 取消理由1(甲1を根拠とする新規性欠如)
本件発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は申立理由1とおおむね同旨である。

2 取消理由2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由2とおおむね同旨である。

3 新たな取消理由3(明確性
本件特許の請求項6に係る特許は、以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・本件発明は、「複合材」という物の発明であるところ、請求項6の「積層する際には前記繊維強化基材の前記面内方向に配置されている」との記載は、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されているものということができる。
ところで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
以上をふまえて本件について検討するに、本件発明について上記でいうところの不可能・非実際的事情が存在すると認めることができない。しかも、硬化後の複合材という物の発明において、上記記載が何を特定しているのか不明であるといえるのは上述のとおりである。
したがって、本件発明は明確でない。

第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、令和4年2月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)にはいずれも理由がないと判断する。

1 取消理由1(甲1を根拠とする新規性欠如)、及び2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「炭素繊維基材、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料」に関し、以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与した。以下同様。)
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維基材、それを用いて形成されたプリプレグ、および、それらを用いて形成された炭素繊維強化複合材料に関する。更に詳しくは、優れた層間破壊靭性、優れた静的強度、および、優れた導電性の全てを備えた炭素繊維強化複合材料の形成に好適な炭素繊維基材、ならびに、プリプレグに関する。また、優れた層間破壊靭性、優れた静的強度、および、優れた導電性の全てを備えた炭素繊維強化複合材料に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来技術が有する問題点に鑑み、優れた層間破壊靭性、優れた静的強度、および、優れた導電性の全てを備えた炭素繊維強化複合材料の形成に好適な炭素繊維基材、ならびに、プリプレグを提供することを目的とする。更には、優れた層間破壊靭性、優れた静的強度、および、優れた導電性の全てを備えた炭素繊維強化複合材料を提供することを目的とする。」

・「【0053】
本発明の炭素繊維基材において用いられる炭素短繊維ウェブにおいては、一定範囲の繊維長、すなわち、2乃至12mmの平均繊維長を有する炭素短繊維が、単繊維レベルで分散した状態にある。この状態により、ウェブを形成している炭素短繊維が、効果的に、隣り合う連続炭素繊維層内に貫入する状態が形成されている。この状態により、層間に導電パスが形成されて、導電性が向上すると同時に、層間の単繊維が、互いにファイバーブリッジを効率よく形成し、高い層間破壊靭性をもたらしている。」

・「【0135】
以下に記載する実施例、および、比較例において使用した材料は、次の通りである。
(1)炭素繊維CF1:
炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T700S−12K、東レ(株)製、引張弾性率:230GPa、引張強度:4900MPa)。
・・・
【0137】
・・・
(4)エポキシ樹脂ER1:
ニーダー中に、“エピクロン(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:173、DIC(株)製)を50質量部、 “jER(登録商標)”1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:1975、三菱化学(株)製)を30質量部、“エピクロン(登録商標)”HP7200L (ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:250、DIC(株)製)を20質量部、および、ビニレックK(ポリビニルホルマール、チッソ(株)製)を2質量部加え、混練しつつ、160℃の温度まで昇温し、160℃の温度で、1時間混練することで、透明な粘調液を得た。
【0138】
次いで、混練しつつ、温度を60℃まで降温させた後、硬化剤として、DICY7T(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)4質量部、および、硬化促進剤として、DCMU99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、保土ヶ谷化学社製)3質量部を加え、混練し、エポキシ樹脂ER1を得た。
(5)樹脂フィルムRF1、および、樹脂フィルムRF2:
上記のエポキシ樹脂ER1を、リバースロールコーターを使用し、離型紙上に塗布し、単位面積当たりの重量が38g/m2である樹脂フィルムRF1と、単位面積当たりの重量が20g/m2である樹脂フィルムRF2とを作製した。
(6)一方向プリプレグシートPS1:
上記の炭素繊維CF1を、単位面積当たりの重量が150g/m2になるようにシート状に一方向に配列させ、炭素繊維シートを用意した。用意した炭素繊維シートの一方の面と他方の面のそれぞれに、上記の樹脂フィルムRF1を重ね、加熱加圧して、樹脂フィルムRF1を形成しているエポキシ樹脂を、炭素繊維シートに含浸させ、繊維体積含有率57%の、一方向プリプレグシートPS1を作製した。この一方向プリプレグシートPS1は、連続した炭素繊維(炭素繊維CF1)からなる連続炭素繊維層と、そこに含浸されたエポキシ樹脂ER1から形成されていて、炭素短繊維ウェブの層が存在しないプリプレグシートである。
(7)炭素短繊維ウェブSFW:
上記の炭素繊維CF1を、カートリッジカッターで、所定の長さにカットし、チョップド炭素繊維(炭素短繊維)を作製した。水と界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名)、ナカライテクス(株)製)からなる界面活性剤の濃度が0.1質量%の分散液を作製した。この分散液と上記のチョップド炭素繊維とから、図1に示す炭素短繊維ウェブの製造装置を用いて炭素短繊維ウェブSFWを作製した。
【0139】
図1において、炭素短繊維ウェブ製造装置1は、分散槽2、抄紙槽3、メッシュコンベア4、および、搬出コンベア5から構成されている。分散槽2は、その上部に、チョップド炭素繊維(炭素短繊維)CCFを分散槽2に供給するためのチョップド炭素繊維供給開口21を有する。分散槽2の上部には、分散媒体供給管22が取り付けられ、分散槽2の下部には、分散液排出管23が取り付けられている。分散槽2の内部には、撹拌機24が設けられている。分散液排出管23には、開閉コック25が設けられている。
【0140】
分散液排出管23の下流端は、抄紙槽3に開口されている。抄紙槽3の下面は、メッシュコンベア4の上面に開口している。メッシュコンベア4の抄紙槽3とは反対側の面は、吸引装置41に向け、開口されている。搬出コンベア5は、メッシュコンベア4により搬出されるウェブを、受け取り、それを搬出する関係に、メッシュコンベア4に対して設けられている。
【0141】
炭素短繊維ウェブSFWを、炭素短繊維ウェブ製造装置1を用いて製造するに当たり、分散槽2として、直径1000mmの円筒形の容器を用いた。分散槽2と抄紙槽3とを接続する分散液排出管23には、水平から30°の角度Θで傾斜して真直ぐに延びる輸送部23aを設けた。抄紙槽3の底部に設けられているメッシュコンベア4は、幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアとした。炭素短繊維の抄紙に当り、分散液中のチョップド炭素繊維(炭素短繊維)CCFの濃度を調整することで、得られる炭素短繊維ウェブSFWにおける炭素短繊維の単位面積当たりの重量を調整した。
【0142】
抄紙して得られた炭素短繊維シート51に対し、バインダーとして、所定の濃度のポリビニルアルコール水溶液(クラレポバール、(株)クラレ製)を、滴下することにより、少量付着させ、140℃の温度の乾燥炉で1時間乾燥し、炭素短繊維ウェブSFWを製造した。
(8)プリプレグシートPS2:
上記の一方向プリプレグシートPS1の上に、上記の炭素短繊維ウェブSFWを配置し、60℃の温度に加温して、双方を圧着し、一方向プリプレグシートPS1の上に炭素短繊維ウェブSFWが配置されたプリプレグシートPS2を製造した。
・・・
【0143】
上に用意した材料を用いて、次に記載の実施例、ならびに、比較例において、炭素短繊維ウェブ、プリプレグ、および、炭素繊維強化複合材料を作製した。それぞれの特性を評価した結果は、表1乃至4に示される。」

・「【実施例1】
【0144】
炭素繊維CF1を用いて、平均繊維長3mm、単位面積当たりの重量が6g/m2の炭素短繊維ウェブSFWを作製した。表1に示す通り、炭素短繊維ウェブSFWにおける炭素短繊維は、単繊維形状で分散していた。炭素短繊維ウェブSFWは、スプリングバック特性を有していた。
【0145】
一方向プリプレグシートPS1の上に、得られた炭素短繊維ウェブSFWを配置して、プリプレグシートPS2を作製した。
【0146】
得られたプリプレグシートPS2を、連続した炭素繊維の配列方向を0度方向にして、13枚積層し、最上面に、一方向プリプレグシートPS1を積層して、層間に炭素短繊維ウェブSFWが配置された積層体を作製した。
【0147】
得られた積層体を、オートクレーブ中、0.6MPaの圧力下で、90℃の温度で30分加熱した後、135℃の温度で120分加熱して、樹脂を硬化させ、厚さ2mmの成形板を作製した。この成形板を、曲げおよび導電性の試験用の試験片とした。」
・「



・「



イ 甲1発明
甲1の、特に実施例1に関連する記載を整理すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「プリプレグシートPS1と炭素短繊維ウェブSFWとからなるプリプレグシートPS2であって、連続した炭素繊維(炭素繊維CF1)からなる連続炭素繊維層と、そこに含浸されたエポキシ樹脂ER1とから形成されていて、炭素短繊維ウェブの層が存在しない一方向プリプレグシートPS1の上に、炭素繊維CF1を用いて作製された、平均繊維長3mm、単位面積当たりの重量が6g/m2の炭素短繊維ウェブSFWを配置して、プリプレグシートPS2を作製し、
これを連続した炭素繊維の配列方向を0度方向にして、13枚積層し、最上面に、一方向プリプレグシートPS1を積層して、層間に炭素短繊維ウェブSFWが配置された積層体を作製し、
これをオートクレーブ中、0.6MPaの圧力下で、90℃の温度で30分加熱した後、135℃の温度で120分加熱して、樹脂を硬化させ作製した、厚さ2mmの成形板。」

(2)対比及び検討
ア 対比
甲1発明の「連続炭素繊維層」は、本件発明の「繊維強化基材」に相当し、甲1発明の連続炭素繊維層が、一方向プリプレグシートPS1の要素として複数積層されたものは、本件発明の「積層体」に相当する。
甲1発明の「連続炭素繊維層」に含浸された「エポキシ樹脂ER1」は、熱硬化性樹脂であるから、本件発明の「マトリックス樹脂」に相当し、甲1発明の「樹脂を硬化させ作製した、厚さ2mmの成形板」における、硬化させられた「樹脂」は、本件発明の「積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂」に相当する。
甲1発明の「炭素短繊維ウェブSFW」は、「繊維強化基材」に隣接するものであって、当然、複数の短繊維を含むものである。
上記要素の積層状態からみて、甲1発明の「成形板」は、本件発明の「複合材」に相当する。

そうすると、本件発明と甲1発明とは、
「複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、
前記積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、
複数の短繊維と、
を備え、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材。」
の点で一致し、以下の点(以下「相違点1」、「相違点2」という。)で、相違又は一応相違する。

<相違点1>
マトリックス樹脂硬化後の複合材における複数の短繊維の向きに関し、本件発明は、「前記繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在し」と特定されるのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。

<相違点2>
短繊維に関し、本件発明は「(炭素繊維を除く。)」と特定されるのに対し、甲1発明は、短繊維が炭素短繊維である点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
短繊維の材料について、本件発明は炭素繊維を除くものであるのに対し、甲1発明は炭素短繊維からなるのであるから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1には、短繊維を炭素短繊維以外のもの、すなわち、「炭素繊維を除く」ものとすることは記載も示唆もされていないから、甲1発明において、短繊維を「炭素繊維を除く」ものとする動機付けはない。

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 取消理由3(明確性)について
上記第5 3に記載のとおり、取消理由3は、請求項6の「積層する際には前記繊維強化基材の前記面内方向に配置されている」との記載に関するものである。
そして、上記記載は、令和3年9月21日にされた訂正請求において請求項6に付加されたものであるが、上記第1に記載のとおり、令和3年9月21日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなされた。また、上記第3に記載のとおり、本件発明は上記記載を有さないものとなっている。
よって、取消理由3は解消した。

3 まとめ
よって、取消理由1ないし3には理由がない。

第7 むすび
したがって、令和4年2月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項6に係る特許を取り消すべき理由もない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】 複合材の製造方法および複合材
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の製造方法および複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機、船舶、車両等の分野にて、構造体として繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)製の複合材が広く用いられている(特許文献1)。複合材は金属に比べて「軽くて強い」ことが利点とされている。FRPは、強化繊維とマトリックス樹脂とで構成される材料である。
【0003】
FRPを用いた複合材の製造方法として、ドライ強化繊維を成形型内に配置してマトリックス樹脂を注入し、該マトリックス樹脂を強化繊維に含浸させて成形する方法、および、プリプレグを積層して成形する方法が知られている。
【0004】
特許文献1では、強化繊維糸条によって形成された強化布帛を複数枚積層してなる積層体を用いて、前者の方法により複合材を製造している。
【0005】
後者で用いられる「プリプレグ」は、強化繊維に未硬化の樹脂を含浸させ、樹脂の硬化反応を途中で止めて扱いやすくしたシート状の中間材料である。当該プリプレグを任意の方向に積層し、オートクレーブで加圧硬化成形する方法が、最も信頼性が高く、かつ、高品質を得る手段とされている。
【0006】
複合材を用いた構造部品の強度設計において、荷重の入力状態別に静的な強度評価および準静的な強度評価が行われている。準静的な強度評価で重要な評価指標となるのは、破壊じん性である(以降、じん性と略す)。後者の場合、じん性は、任意の方向を向く繊維強化プリプレグを任意の方向に張り付けて、硬化させた試験片で評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2003−80607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、複合材は積層された繊維強化層(強化布帛またはプリプレグ)を含む。繊維強化層を積層した成形品は、繊維強化層と繊維強化層との間(層間)のじん性が低い。そのため、成形品は層間に亀裂が生じ、壊れてしまうことが多い。亀裂の進展方向は、多くの場合、繊維強化層の面内方向Sである。
【0009】
層間のじん性を高める方法としては、以下(1)〜(3)が挙げられる。
(1)樹脂自体にエラストマー粒子を分散させる。
(2)熱可塑性樹脂を層間に導入する。
(3)板厚方向に繊維を配向した3次元織物を適用する。
【0010】
図3に、マトリックス樹脂にエラストマー粒子(ゴム粒子)21を分散させた複合材20の厚さ方向の断面模式図を示す。エラストマー粒子21のような柔らかい材料を分散させた複合材20では、負荷がかかった際、エラストマー粒子21が弾け、生じた空隙によって樹脂の変形できる余地が生まれる。それにより、図3の複合材20は、せん断変形して破壊エネルギーを吸収できる。一方、エラストマー粒子21を分散させる場合、エラストマー粒子21の粒度および分散状態を管理および後からじん性向上剤の添加工程が必要となるため高コストとなる。さらに、マトリックス樹脂にエラストマー粒子21を添加すると、マトリックス樹脂量が相対的に少なくなるため、複合材の強度は低下する。
【0011】
図4に、繊維強化層31と繊維強化層31との層間に熱可塑性樹脂32を導入させた複合材30の厚さ方向の断面模式図を示す。挿入される熱可塑性樹脂32は、伸びが大きく熱的に安定な性質を有する。層間の熱可塑性樹脂32は、複合材のじん性向上に寄与する。熱可塑性樹脂32は、図3のエラストマー粒子21よりもじん性向上効果が高い。一方、熱可塑性樹脂32を導入する場合、熱可塑性樹脂32の粒度および分散状態を管理する必要があるため高コストとなる。さらに、熱可塑性樹脂32とマトリックス樹脂の熱的安定状態により昇温速度等の制約が厳しい等の問題がある。
【0012】
図5に、厚さ方向Tに強化繊維を配向した3次元織物の複合材40の厚さ方向の断面模式図を示す。厚さ方向に強化繊維が配向されているため、層間のじん性補強効果は高い。一方、3次元織物は、従来の織物と比較して製造にコストがかかるうえ、面内方向Sの繊維配向が減るため、複合材40としての強度が低下する。3次元織物では、厚さ方向に配向させた繊維は、面内方向Sに配向した繊維束をよけて配置させる。このとき生じる繊維束の蛇行およびズレは、複合材40の強度を低下させる要因となりうる。さらに、3次元織物は、繊維強化層を所望の形状を整えてから樹脂を含浸させるのが一般的であり、プリプレグを用いた方法の採用は難しい。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、層間強度を向上させる複合材の製造方法を提供することを目的とする。本発明は、層間強度を向上させたより安価な複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の複合材の製造方法および複合材は以下の手段を採用する。
【0015】
本発明は、繊維強化基材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させた複数のプリプレグを積層し、加熱成形する複合材の製造方法であって、マトリックス樹脂を含まない面内方向に連続した空隙層と、前記空隙層の両面に配置された樹脂層と、を備えたプリプレグを用い、隣り合うプリプレグとプリプレグとの対向面に複数の短繊維を配置し、積層した前記プリプレグを真空引きして前記空隙層を脱気した後、加熱成形する複合材の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、前記積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、前記繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在する複数の短繊維(炭素繊維を除く)と、を備え、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材を提供する。。
【0017】
上記発明によれば、プリプレグとプリプレグとの間に配置された短繊維はマトリックス樹脂に接する。短繊維は、加熱されて流動可能となったマトリックス樹脂が空隙層へ流れ込むのに乗じて配向が変わり、繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向く。これにより、短繊維が隣接する繊維強化基材間にわたるようになる。隣接する繊維強化基材間にわたって存在する短繊維は、隣接する繊維強化基材間(層間)の接合を補強する。上記発明によれば、3次元織物と同程度の層間補強効果を得られる。
【0018】
空隙層の両面に樹脂層を設けたプリプレグは、片面のみに樹脂層が設けられたプリプレグよりも積層時のプリプレグの位置決め性が良い。
【0019】
上記発明の一態様において、複数の前記プリプレグは、同じ側の面を同じ方向に向けて積層することが好ましい。それにより、複数ある層間のじん性を同程度にすることができる。
【0020】
上記発明の一態様において、前記空隙層の両面に配置された樹脂層の厚さが異なる場合、薄い方の樹脂層を積層方向上向きにして複数の前記プリプレグを積層することが好ましい。それにより、短繊維の配向がプリプレグの厚さ方向に向きやすくなる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記樹脂層に含まれるマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなることが好ましい。
【0022】
ここで「〜からなる」とは、「〜のみを含む」という意味の他に、「熱可塑性樹脂、エラストマーおよびじん性向上剤を含まず、それ以外の添加物を含む」ことを許容する。「じん性向上剤」は、ニトリルゴムを代表とするゴム類、マトリックス樹脂と相溶性がある熱可塑性樹脂(例えば、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂の場合はポリエーテルスルホン)、架橋点間を長くした長鎖状マトリックス樹脂またはマトリックス樹脂と相溶性が高い樹脂、層状に水素結合が存在し、せん断変形能が増えるベンゾオキサジン樹脂類等である。「それ以外の添加物」とは、紫外線吸収剤、難燃化剤、増粘及び粘度調整剤、内部離型剤、滑剤等である。
【0023】
熱可塑性樹脂、エラストマーおよびじん性向上剤を含まない熱硬化性樹脂は、それらを含む熱硬化性樹脂よりも安価である。じん性向上剤を含まない熱硬化性樹脂では、架橋密度が高いため、硬化温度がガラス転移温度に近くなる。熱可塑性樹脂、エラストマーおよびじん性向上剤を含まない熱硬化性樹脂は、余計な添加物が入っていない分、硬化反応が単純であるため、空隙層を備えたプリプレグの製造および複合材製造時の温度等の管理が容易である。それにより、用途に応じてユーザー側でマトリックス樹脂および強化繊維を選択できる。
【0024】
上記発明の一態様において、前記短繊維は、前記空隙層の厚さ以上の長さである。それにより、マトリックス樹脂が空隙層の厚さ分移動した場合でも、短繊維がプリプレグの厚さ方向に配向していれば、隣接する繊維強化基材間にわたって存在できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、じん性向上タイプの高価なプリプレグを使用せずに、低コストで3次元織物と同程度のじん性向上効果が得られる複合材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】 本実施形態に係る複合材の製造方法を説明する図である。
【図2】 本実施形態で用いられるプリプレグの厚さ方向の断面図である。
【図3】 従来の複合材の厚さ方向の断面模式図である。
【図4】 従来の複合材の厚さ方向の断面模式図である。
【図5】 従来の複合材の厚さ方向の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る複合材の製造方法は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の航空機の構造部品へ適用されうる。具体的には、本発明に係る複合材の製造方法は、衝撃付与後残存強度が要求される航空機の一次構造部材への適用が好適である。さらに、本発明に係る複合材の製造方法は、一次構造部材と比較して耐衝撃の要求は低いが、簡易に安く製造しさらなる軽量化が求められている航空機の二次構造部材(フェアリング、ナセルカバーなど)にも適用されうる。さらに、本発明に係る複合材の製造方法は、一般産業機械で衝撃性が要求される部品(例えば、フォークリフト、鉄道駅の乗り場に設置されるホームドア)への適用も可能である。
【0028】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る複合材の製造方法を説明する。本実施形態では、繊維強化基材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させた複数のプリプレグ10を積層し、加熱成形して、複合材を製造する。なお、図1では2つのプリプレグを積層する方法を例示するが、プリプレグの積層枚数はこれに限定されない。
【0029】
(プリプレグ積層)
プリプレグ10には、樹脂層(11a,11b)の間に空隙層12を有する半含浸プリプレグを用いる。半含浸プリプレグについては後に詳しく説明する。プリプレグ10を積層する際、隣り合うプリプレグ10とプリプレグ10との対向面に、複数の短繊維13を配置する。積層後、複数の短繊維13は、プリプレグ10のマトリックス樹脂に接触した状態となる。
【0030】
短繊維は、例えば、ナノセルロースファイバーで厚みは10ミクロン〜100ミクロンである。短繊維は、例えば、アクリル繊維、ナイロン繊維、ガラス繊維等の短繊維マット材で単位面積当たりの重量として10g/m2〜100g/m2のものある。
【0031】
例えば、一のプリプレグ10の表面に短繊維13をランダムにふりかけた後、短繊維13を挟むように一のプリプレグ10に次のプリプレグ10を積層する。2つ以上のプリプレグ10を積層する場合、上記に従い、短繊維13の配置とプリプレグ10の積層とを所定回数繰り返せばよい。
【0032】
プリプレグ10は、樹脂層11aがある表側面および樹脂層11bがある裏側面を有する。複数のプリプレグ10は、すべて同じ側の面を同じ方に向けて積層するとよい。特に、空隙層12の両面に配置された樹脂層(11a,11b)の厚さが異なる場合(プリプレグの厚さ方向Tにおいて、空隙層12がプリプレグ10のどちらかに偏って位置している場合)、薄い方の樹脂層11bを積層方向上向きにして複数のプリプレグ10を積層することが望ましい。ただし、積層させるプリプレグ10が2つの場合に限り、薄い方の樹脂層11bを対向させて積層する。
【0033】
本実施形態においてプリプレグの「厚さ方向T」は、プリプレグの面に対して略直角に交わる方向であり、概ねプリプレグの積層方向と同じ方向に相当する。
【0034】
(加熱成形)
複数のプリプレグ10が積層された積層体をバギングフィルム(不図示)に包んで内部を真空引きし、空隙層12を十分に脱気した後、加熱成形する。
【0035】
脱気は、200mmHg以下、好ましくは150mmHg以下の真空度で行う。脱気した気体が積層体に戻らないよう、成形中は常に真空引きしていることが好ましい。「十分に」とは、10分以上である。空隙層12はそれ自体が脱気回路として作用する。脱気が不十分な場合、脱気回路を塞いでしまうことがあるので好ましくない。
【0036】
加熱は、空隙層12を十分に脱気した後に開始する。加熱手段には、オートクレーブの他にオーブンまたはヒーターマット等を用いる。加熱は、常温から所定温度まで昇温させる第1加熱、所定温度から成形温度まで昇温させる第2加熱、成形温度を所定時間保持してマトリックス樹脂を硬化させる第3加熱の少なくとも3段階で実施する。
【0037】
第1加熱における昇温速度は、10℃/min以下であることが好ましい。第2加熱における昇温速度は、10℃/min以下であることが好ましい。所定温度は、100℃以上である。成形温度は、マトリックス樹脂が硬化可能な温度である。本実施形態で用いられるプリプレグは、熱可塑性樹脂およびエラストマーなどの添加物を含まないため、上記成形温度および上記所定時間は単純にマトリックス樹脂の特性に準じればよい。成形温度および所定時間は、使用するマトリックス樹脂の製造元が推奨する条件であってもよい。
【0038】
マトリックス樹脂が所定温度まで昇温されると、一旦、マトリックス樹脂の粘度が低下し流動可能となる。粘度が低下したマトリックス樹脂は空隙層12へと流れ込み、繊維強化基材の空隙を埋める。マトリックス樹脂に接している短繊維13は、マトリックス樹脂の流動に伴って近隣の繊維強化基材に引き込まれる。マトリックス樹脂は厚さ方向に流動するため、短繊維13もプリプレグ10’の面内方向Sとは異なる方向(主に、プリプレグ10’の厚さ方向T)に配向される。
【0039】
マトリックス樹脂の粘度が下がるタイミングで、プリプレグ10を(例えば、2〜3気圧で)加圧してもよい。加圧する場合、第2加熱の昇温速度が所望範囲を超えないよう加熱温度を調整する。加圧することで、空隙層12へのマトリックス樹脂の流れ込みを促進できる。
【0040】
上記実施形態に係る方法によれば、複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、複数の繊維強化基材間にわたり存在する複数の短繊維13と、を備える複合材が得られる。
【0041】
繊維強化基材の面内方向Sとは異なる方向に配向された短繊維13は、複数の繊維強化基材間にわたり存在しうる。このような複合材では、繊維強化基材と繊維強化基材との間(層間)の接合が強化され、結果として、じん性が向上する。
【0042】
次に、本実施形態の製造方法で使用する材料についてさらに詳細に説明する。
【0043】
(繊維強化基材)
繊維強化基材は、繊維束を一方向(長手方向)に引き揃えた一方向材、不織布、織物等である。繊維強化基材に用いられる繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、ガラス以外の無機繊維等である。繊維強化基材の厚さは、0.05mm以上0.5mm以下が好ましい。
【0044】
(マトリックス樹脂)
マトリックス樹脂には、高耐熱の熱硬化性樹脂を用いる。高耐熱の熱硬化性樹脂は、型材用または治具用として汎用されている樹脂材料から選択されうる。具体的に、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂等である。「高耐熱」とは、複合材の適用に応じて定義されうる。例えば、航空機の構造部材であれば150℃以上の熱に耐えうることを意味する。
【0045】
2液混合型の熱硬化性樹脂を用いる場合、マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂とその硬化剤を含んでもよい。マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂、エラストマー、長鎖状樹脂等は含まない。マトリックス樹脂は、内部離型剤、難燃剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加物を含んでもよい。添加物の添加率は、マトリックス樹脂全量の20重量%未満、好ましくは10重量%未満であり、さらに好ましくは0重量%である。
【0046】
耐熱性が高く、硬い樹脂を採用すると、プリプレグ製造時に空隙層12を残しやすくなる。耐熱性の高い樹脂を採用することで、プリプレグの保管中および複合材の成形作業中も空隙層12がつぶれにくくなる。熱可塑性樹脂およびエラストマーを含まない高耐熱の熱硬化性樹脂は、エラストマーおよび熱可塑性樹脂が混入したじん性向上タイプの樹脂と比較して安価である。
【0047】
(プリプレグ)
プリプレグは、繊維強化基材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させた中間材料である。図2に、本実施形態で用いられるプリプレグの厚さ方向の断面図を例示する。本実施形態で用いられるプリプレグ10は、半含浸プリプレグである。
【0048】
半含浸プリプレグは、空隙層12と、空隙層12の両面に配置された樹脂層(11a、11b)と、を備えている。
【0049】
空隙層12は、マトリックス樹脂を含まない繊維強化基材(不図示)で構成された層である。空隙層12は、面内方向Sに連続している。空隙層12の厚さは、0.1mmから1層厚みの半分が好ましい。図2における空隙層12の厚さは、0.1mmとする。
【0050】
樹脂層(11a、11b)は、繊維強化基材(空隙層12)の両面を覆っている。樹脂層(11a、11b)は、繊維強化基材およびそれに含浸されたマトリックス樹脂で構成された層である。図2における樹脂層11aの厚さは空隙層厚みと同等以上とする。
【0051】
半含浸プリプレグは、予め作っておいたマトリックス樹脂のフィルムを繊維強化基材の両面に貼りつけ、真空引きして熱をかけてマトリックス樹脂を繊維強化基材に含浸させ、マトリックス樹脂が繊維強化基材全体に含浸する前に、マトリックス樹脂のゲル化点付近で反応を停止することで製造されうる。
【0052】
温度、引く力、圧力を調整することで、繊維強化基材の厚さ方向に空隙(マトリックス樹脂が含浸されていない領域)を残すことができる。
【0053】
上記方法で製造した半含浸プリプレグでは、図2に示すように、空隙層12が繊維強化基材の鉛直下面側に偏って形成されることがある。これは、プリプレグ製造時、一方向に繊維を引き揃える時に繊維位置を固定し、片面のみを早く樹脂含浸するため、片面の樹脂含浸が深くなった結果、生じる偏りである。
【0054】
熱可塑性樹脂およびエラストマー等の余分な添加物をマトリックス樹脂に含ませないようにすることで、硬化反応を単純に熱硬化性樹脂の性質に依存させることができる。これにより、硬化反応の管理が容易となるため、所望の厚さの空隙層12を形成できる。
【0055】
(短繊維)
短繊維13は、腰が柔らかく、マトリックス樹脂の流動に引き込まれやすい繊維であればよい。具体的に、短繊維13は、ポリアミド繊維(例えばナイロン)、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維等である。
【0056】
短繊維13は、空隙層の厚さ以上の長さである。具体的に、短繊維13の長さは、0.1mm以上である。
【0057】
短繊維13が太すぎると、繊維強化基材内に引き込まれにくくなる。短繊維13が細すぎると、取扱い性が低下する。短繊維13が細すぎると、補強効果が低くなる。常温下、プリプレグ表面は多少なりともべたついている。よって、上記径範囲を満たす短繊維13であれば、プリプレグ表面に振りまくだけで、該べたつきによりプリプレグ表面に保持されうる。
【符号の説明】
10 プリプレグ(空隙層あり)
10’ プリプレグ(空隙層にマトリックス樹脂含浸済)
11a,11b 樹脂層
12 空隙層
13 短繊維
20,30,40 複合材
21 エラストマー粒子
31 繊維強化層
32 熱可塑性樹脂
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化基材に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させた複数のプリプレグを積層し、加熱成形する複合材の製造方法であって、
樹脂を含まない面内方向に連続した空隙層と、前記空隙層の両面に配置された樹脂層と、を備えた前記プリプレグを用い、
隣り合う前記プリプレグと前記プリプレグとの対向面に複数の短繊維を配置し、
積層した前記プリプレグを真空引きして前記空隙層を脱気した後、加熱成形する複合材の製造方法。
【請求項2】
複数の前記プリプレグは、同じ側の面を同じ方向に向けて積層する請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
前記空隙層の両面に配置された樹脂層の厚さが異なる場合、薄い方の樹脂層を積層方向上向きにして複数の前記プリプレグを積層する請求項1または請求項2に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層に含まれるマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化樹脂とその硬化剤からなる請求項1〜3のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
前記短繊維は、前記空隙層の厚さ以上の長さである請求項1〜4のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項6】
複数の繊維強化基材が積層されてなる積層体と、
前記積層体に充填された硬化後のマトリックス樹脂と、
前記繊維強化基材の面内方向とは異なる方向を向き、隣接する前記繊維強化基材間にわたり存在する複数の短繊維(炭素繊維を除く)と、
を備え、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる複合材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-10 
出願番号 P2018-096233
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B29C)
P 1 652・ 537- YAA (B29C)
P 1 652・ 113- YAA (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 平塚 政宏
三上 晶子
登録日 2020-11-06 
登録番号 6790023
権利者 三菱重工業株式会社
発明の名称 複合材の製造方法および複合材  
代理人 藤田 考晴  
代理人 三苫 貴織  
代理人 藤田 考晴  
代理人 川上 美紀  
代理人 川上 美紀  
代理人 三苫 貴織  

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