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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
管理番号 1393975
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-26 
確定日 2022-11-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6781355号発明「洞房結節様ペースメーカー心筋細胞および心室様心筋細胞を作製および使用するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6781355号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜16、22〕、〔17〜21〕について訂正することを認める。 特許第6781355号の請求項1〜7、9〜10、12、15〜22に係る特許を維持する。 特許第6781355号の請求項8、11、13〜14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6781355号の請求項1〜22に係る特許についての出願は、平成28年2月17日(パリ条約による優先権主張 2015年2月17日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017−560845号の一部を令和2年6月24日に新たに特許出願されたものであって、同年10月19日にその特許権の設定登録がされ、同年11月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜22に係る特許について、令和3年4月26日に特許異議申立人 山崎 浩一郎により特許異議の申立てがされた。
その後の手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年 9月21日付け : 取消理由通知書
同年12月22日 : 訂正請求書、意見書(特許権者)
令和4年 3月8日付け : 通知書(特許異議申立人宛)
同年 4月11日 : 意見書(特許異議申立人)
同年 7月 5日付け : 取消理由通知書
同年 9月15日 : 手続補正書、意見書(特許権者)

第2 補正の適否
令和4年9月15日提出の手続補正書による補正は、令和3年12月22日提出の訂正請求書を補正するとともに、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲を、以下のように補正するものである。
(1)補正事項1
補正前の請求項9に、「請求項1〜7の何れか1項」と記載されているのを「請求項2〜7の何れか1項」に補正する。
(2)補正事項2
補正前の請求項12に、「請求項1〜10の何れか1項」と記載されているのを「請求項1〜7および9〜10の何れか1項」に補正し、補正前の訂正請求書の「(2)訂正事項」に新たな訂正事項13として追加し、「(3)訂正の理由」に新たな訂正事項13に関する説明を追加する。
(3)補正事項3
補正事項2の補正に伴い、追加される訂正事項13より後の訂正事項の番号を補正する。
(3)補正事項4
補正前の請求項17に、「工程と含む」と記載されているのを「工程とを含む」に補正する。
(5)補正事項5
補正前の訂正請求書の「(3−2−9)訂正事項9」に、「対応関係明確」と記載されているのを「対応関係を明確」に補正する。
補正事項1は、引用請求項から請求項1を削除するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
補正事項2は、請求項8の削除に伴う整合をとるために、新たな訂正事項13(請求項8の削除に伴う請求項12の引用請求項からの請求項8の削除)を追加するものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
補正事項3は、形式的な補正をするものであり、各訂正事項について実質的な内容を変更するものではないので、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
補正事項4は、明らかな誤記を補正するものであり、訂正事項17について実質的な内容を変更するものではないので、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
補正事項5は、明らかな誤記を補正するものであり、訂正事項9について実質的な内容を変更するものではないので、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、令和4年9月15日になされた訂正請求書の補正は、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項に適合する。

第3 訂正の適否
上記第2のとおり、令和4年9月15日にされた訂正請求書の補正は適法なものと認められるので、以下、令和4年9月15日提出の手続補正書により補正された訂正請求書に記載された訂正事項について検討する。

1 訂正の内容
令和4年9月15日提出の手続補正書により補正された訂正請求書の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;」を、「心筋細胞集団を産生する方法であって、」と「a.心血管中胚葉細胞を」との間に追加する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「a.心血管中胚葉細胞を」と記載されているのを「c.前記心血管中胚葉細胞を」に訂正し、「心血管前駆細胞を生成し」と記載されているのを「心血管前駆細胞を生成する工程と」に訂正し、「「b.」と記載されているのを「d.」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方を含む心臓誘導培地中」と記載されているのを「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に、「前記心血管中胚葉細胞が、多能性幹細胞(PSC)から生成される、請求項1に記載の方法であって、 a.前記PSCを、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程 を含む方法に従って、心血管中胚葉細胞が生成される、」と記載されているのを削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に、「e.前記心筋細胞集団からSIRPA陽性で、CD90陰性の心筋細胞を単離し、NKX2−5の発現について陽性の心筋細胞を選択して、心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の」を、「方法。」の前に追加する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、「更に、前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)集団を単離する工程であって、NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する工程を含む」と記載されているのを、「前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程において、前記NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項8に記載の方法」と記載されているのを、「請求項2〜7の何れか1項に記載の方法」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、「前記心臓誘導培地は、更にVEGFを含む」と記載されているのを削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9に、「前記心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団は、少なくとも70%のVLCMを含む」を、「、請求項」の前に追加する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項8又は9」と記載されているのを、「請求項9」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項12に、「請求項1〜10の何れか1項に記載の方法」と記載されているのを、「請求項1〜7および9〜10の何れか1項に記載の方法」に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項12に、「更にSB−431542を含む」と記載されているのを、「SB−431542を含む」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(17)訂正事項17〜19
特許請求の範囲の請求項17に、「前記心血管中胚葉細胞が、多能性幹細胞(PSC)から生成される、請求項12に記載の方法であって、 a.前記PSCを、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と を含む方法に従って、心血管中胚葉細胞が生成される、方法。」と記載されているのを、「心筋細胞集団を産生する方法であって、 a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と; c.前記心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびSB−431542を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と; d.VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートし、NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する工程とを含む、方法。」に訂正する。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項2〜22は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1〜3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜22は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項について請求されたものである。
また、本件訂正請求のうち、訂正後の請求項17〜21について、当該請求項についての訂正が認められた場合には、訂正後の請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求めるものである。

3 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無、独立特許要件

(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に、「a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;」を追加するものであり、発明特定事項の直列的付加に該当するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項の直列的付加に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正前の請求項2に、「前記心血管中胚葉細胞が、多能性幹細胞(PSC)から生成される、請求項1に記載の方法であって、 a.前記PSCを、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程 を含む方法に従って、心血管中胚葉細胞が生成される」と記載されており、また、特許明細書の段落【0015】には、「a.BMP成分、随意にBMP4を含み、随意にRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤をさらに含む胚様体培地中で、hPSCを一定期間インキュベートして胚様体を生成する工程; b.BMP成分、随意にBMP4、およびアクチビン成分、随意にアクチビンAおよび随意にFGF成分、随意にbFGFを含む中胚葉誘導培地中で、胚様体を一定期間インキュベートして心血管中胚葉細胞を生成する工程」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載されている「a.心血管中胚葉細胞を」の前に、「a.・・・・・・工程と; b.・・・・・・、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;」を追加したことに伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするために、「a.心血管中胚葉細胞を」と記載されているのを「c.前記心血管中胚葉細胞を」に訂正し、「b.」と記載されているのを「d.」に訂正するものであり、また、他の記載との整合性を図るために「心血管前駆細胞を生成し」と記載されているのを「心血管前駆細胞を生成する工程と」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項2は、明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、訂正前の請求項1に、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方を含む心臓誘導培地中」と記載されているのを、択一的記載を両方の成分を含む記載にし、更に追加の成分を含むように、「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項3は、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方を含む心臓誘導培地中」と記載されているのを、「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正前の請求項1に、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方を含む心臓誘導培地」と記載され、請求項8に、「前記心臓誘導培地は、WNT阻害剤を含む」と記載され、請求項9に、「前記心臓誘導培地は、更にVEGFを含む」と記載され、請求項11に「前記心臓誘導培地は、更にFGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤の少なくとも1種を含む」と記載されており、また、特許明細書の段落【0009】には、「1または複数のWNT阻害剤、随意にIWP2、およびVEGF;ならびに随意にFGF成分および/またはアクチビン/ノーダル阻害剤、随意にSB−431542を含む心臓誘導培地中で;一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成し」と記載され、特許明細書の段落【0041】には、「用語「心臓誘導培地」は、本明細書において、例えばWNT阻害剤、随意にIWP2、VEGFおよび/または随意にアクチビン/ノーダル阻害剤、随意にSB−431542を含むStemPro−34最少培地などの心筋前駆細胞を支持する培地である。望ましい細胞型に応じて、心臓誘導培地はBMP成分、レチノイン酸、FGF阻害剤またはFGF成分をも含んでよい。」と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、訂正前の請求項1に、「a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;」を追加したことに伴い、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、訂正前の請求項2に、「前記心血管中胚葉細胞が、多能性幹細胞(PSC)から生成される、請求項1に記載の方法であって、 a.前記PSCを、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程 を含む方法に従って、心血管中胚葉細胞が生成される、」と記載されているのを削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。、

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項4は、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、「前記心血管中胚葉細胞が、多能性幹細胞(PSC)から生成される、請求項1に記載の方法であって、 a.前記PSCを、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と; b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程 を含む方法に従って、心血管中胚葉細胞が生成される、」を削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項4は、明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5は、訂正前の請求項2に、「e.前記心筋細胞集団からSIRPA陽性で、CD90陰性の心筋細胞を単離し、NKX2−5の発現について陽性の心筋細胞を選択して、心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程をさらに含む、」を追加するものであり、発明特定事項の直列的付加に該当するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項5は、発明特定事項の直列的付加に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正前の請求項14に、「前記心筋細胞集団を単離する工程は、シグナル調節タンパク質α(SIRPA)および胸腺細胞分化抗原1(THY−1/CD90)を使用して行う」と記載されており、また、特許明細書の段落【0099】には、「SANLCMを実質的に欠く心筋細胞集団を単離することは: a.SIRPAマーカー陽性心筋細胞を単離すること;および/または b.NKX2−5発現に対して陽性かつ/またはCD90発現に対して陰性の心筋細胞を選択する」と記載され、特許明細書の段落【0102】には、「本明細書に記載されるようにFGFを含む心臓誘導培地で処置した培養からNKX2−5陽性細胞を選択することにより心室様心筋細胞が濃縮されることが本明細書において実証される。・・・・・・SANLCMを実質的に欠く集団を作製するために、本明細書に記載される方法に従って(例えば、心臓誘導段階のVEGFおよびIWP2を使用して)処置された心筋細胞集団のアリコートを試験して、NKX2−5発現のレベルが高いことを確認することができる。」と記載されているから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、訂正前の請求項2に、「e.前記心筋細胞集団からSIRPA陽性で、CD90陰性の心筋細胞を単離し、NKX2−5の発現について陽性の心筋細胞を選択して、心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程をさらに含む、」を追加したことに伴い、訂正後の請求項2の記載との整合性を図るために、「更に、前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)集団を単離する工程であって、NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する工程を含む」と記載されているのを、「前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程において、前記NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する」に訂正することにより明瞭でない記載を明瞭にするために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項6は、訂正後の請求項2の記載との整合性を図るために、明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項6は、明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項7は、請求項の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項7は、請求項の削除であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項7に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8は、訂正前の請求項8に、「請求項1〜7の何れか1項に記載の方法」と記載されていたが、訂正前の請求項8の削除に伴い、訂正後の請求項2〜7の記載との整合性を図るために、訂正前の請求項9に「請求項8に記載の方法」と記載されているのを、「請求項2〜7の何れか1項に記載の方法」に訂正することにより、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項8は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項8は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9は、訂正前の請求項1に、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方を含む心臓誘導培地中」と記載されているのを「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中」に訂正したことに伴い、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、訂正前の請求項9に、「前記心臓誘導培地は、更にVEGFを含む」と記載されているのを削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項9は、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、「前記心臓誘導培地は、更にVEGFを含む」を削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項9は、明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項10は、訂正前の請求項9に、「前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団は、少なくとも70%のVLCMを含む」を追加するものであり、発明特定事項の直列的付加に該当するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項10は、発明特定事項の直列的付加に該当するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
特許明細書の段落【0114】には、「VLCMに富む心筋細胞集団は、少なくとももしくは約15%のVLCM、少なくとももしくは約20%のVLCM、少なくとももしくは約30%のVLCM、少なくとももしくは約50%のVLCM、少なくとももしくは約70%のVLCM、または少なくとももしくは約90%のVLCMを含む。」と記載されているから、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項11は、訂正前の請求項10が、訂正前の「請求項8又は9」を引用する記載であったものを、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするために訂正後の「請求項9」を引用する記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項11は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項11は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項11に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(12)訂正事項12について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項12は、訂正前の請求項11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項12は、請求項の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項12は、請求項の削除であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項12に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(13)訂正事項13
ア 訂正の目的の適否
訂正事項13は、訂正前の請求項12が、訂正前の「請求項1〜10の何れか1項」を引用する記載であったものを、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするために訂正後の「請求項1〜7および9〜10の何れか1項」を引用する記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項13は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項13は、訂正前の請求項8の削除に伴い生じる明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項13に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(14)訂正事項14について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項14は、訂正前の請求項12に、「更にSB−431542を含む」と記載されているのを、訂正後の請求項1が、アクチビン/ノーダル阻害剤が必須成分として規定されたことに伴い、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、「更に」を削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項14は、訂正後の請求項1の記載との整合性を図るために、「更に」を削除することにより明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項14は、明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項14に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(15)訂正事項15について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項15は、訂正前の請求項13を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項15は、請求項の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項15は、請求項の削除であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項15に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(16)訂正事項16について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項16は、訂正前の請求項14を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項16は、請求項の削除であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項16は、請求項の削除であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項16に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(17)訂正事項17〜19について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項17〜19は、訂正前の請求項17が訂正前の請求項12を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項12を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
さらに、前記目的に加え、訂正事項17〜19に含まれる、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方」との記載を「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分および」にする訂正は、択一的記載を両方の成分を含む記載にし、更に追加の成分を含むようにするものであり、また、「NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成する」との記載を「NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する」にする訂正は、発明特定事項の直列的付加に該当するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項17〜19は、請求項12を引用しないものとするための訂正であって、何ら実質的な内容の変更を伴うものではなく、また、上記(3)イ.及び(5)イ.で述べたとおり、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方」との記載を「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分および」にする訂正、「NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成する」との記載を「NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する」にする訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項追加の有無
訂正事項17〜19は、請求項12を引用しないものとするための訂正であり、また、上記(3)ウ.及び(5)ウ.で述べたとおり、「WNT阻害剤、VEGFまたはその両方」との記載を「WNT阻害剤、VEGF、FGF成分および」にする訂正、「NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成する」との記載を「NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する」にする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、すべての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項17〜19に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜16、22〕、〔17〜21〕について訂正することを認める。

第4 訂正後の本件発明
上記第3のとおり、本件訂正は認容されるので、本件訂正請求により訂正された請求項1〜22に係る発明(以下、「本件発明1〜22」という。)は、令和4年9月15日提出の手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。下線は訂正箇所を示すものである。

「【請求項1】
心筋細胞集団を産生する方法であって、
a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と;
b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;
c.前記心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と;
d.VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートして、NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
e.前記心筋細胞集団からSIRPA陽性で、CD90陰性の心筋細胞を単離し、NKX2−5の発現について陽性の心筋細胞を選択して、心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PSCがヒトPSC(hPSC)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記hPSCが、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)またはヒト胚幹細胞(hESC)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記hPSCが、NKX2−5レポーター構築物を含むhPSCである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程において、前記NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記NKX2−5レポーター構築物が、蛍光NKX2−5レポーター構築物である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団は、少なくとも70%のVLCMを含む、請求項2〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記WNT阻害剤は、IWP2である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記心臓誘導培地は、SB−431542を含む、請求項1〜7および9〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】
前記胚様体培地中のBMP成分が、BMP4であり、前記中胚葉誘導培地中のBMP成分が、BMP4である、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記胚様体培地は、更にRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、前記中胚葉誘導培地中のアクチビン成分は、アクチビンAであり、前記中胚葉誘導培地は、更にbFGFを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
心筋細胞集団を産生する方法であって、
a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と;
b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;
c.前記心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびSB−431542を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と;
d.VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートし、NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する工程とを含む、方法。
【請求項18】
前記胚様体培地中のBMP成分が、BMP4であり、前記中胚葉誘導培地中のBMP成分が、BMP4である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記胚様体培地は、更にRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、前記中胚葉誘導培地中のアクチビン成分は、アクチビンAであり、前記中胚葉誘導培地は、更にbFGFを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記PSCがヒトPSC(hPSC)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記hPSCが、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)またはヒト胚幹細胞(hESC)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記蛍光NKX2−5レポーター構築物が、NKX2−5:GFPレポーター構築物である、請求項7に記載の方法。」

第5 取消理由の概要
1 令和3年9月21日付け取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1〜22に係る特許に対して、令和3年9月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

(1)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
請求項1〜4、8〜15、17〜18に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、8〜15、17〜18に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、請求項5〜7、11、16、19〜22に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5〜7、11、16、19〜22に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲第2号証を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
請求項1〜4、8〜12、15〜21に係る特許は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、8〜12、15〜21に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、請求項5〜7、11、13〜14、22に係る特許は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3〜4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5〜7、11、13〜14、22に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
ア 心臓誘導培地の成分について
発明の詳細な説明に、心臓誘導培地として実施例等により具体的に記載されているのは、WNT阻害剤、VEGFおよびアクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地だけであり、WNT阻害剤のみを含む培地、VEGFのみを含む培地、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含まない培地を用いて、心血管前駆細胞を生成することができることを裏付ける記載は何ら示されていないから、請求項1〜22に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、請求項1〜22に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 心血管中胚葉細胞の由来について
発明の詳細な説明に、心血管中胚葉細胞として実施例等により具体的に記載されているのは、多能性幹細胞から胚様体を生成し、該胚様体を培養して得られた心血管中胚葉細胞だけであり、それ以外の心血管中胚葉細胞を用いて、心血管前駆細胞を生成することができることを裏付ける記載は何ら示されていないし、また、多能性幹細胞から胚様体を生成し、該胚様体を培養して得られた心血管中胚葉細胞以外の心血管中胚葉細胞をどのようにして取得するのか何ら具体的に記載されていないから、請求項1、8〜16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、請求項1、8〜16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 令和4年7月5日付け取消理由通知に記載した取消理由について
補正前の請求項9、12、17に係る特許に対して、令和4年7月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
補正前の請求項9の「請求項1〜7の何れか1項」、補正前の請求項12の「請求項1〜10の何れか1項」、補正前の請求項17の「工程と含む」という記載は不明確であるので、請求項9、12、17に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第6 甲号証の記載
甲第1号証〜甲第5号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されている証拠は、日本語訳で摘記する。)。

1 甲第1号証:Nat.Biotechnol.(2014.Oct.)Vol.32,No.10,p.1026−1035 and ONLINE METHODS

(甲1−1)「hPSC培養の維持と分化
hESCとhiPSCは、以前報告21、38、48されたように維持された。
・・・・・・・・・・・・
0日目に、hESCを解離させ、StemPro−34培地(Life Technologies,cat.no.10640019)で、組換えヒト(rh)BMP4(0.5ng/ml,R&D,cat.no.314−BP)の存在下で胚様体を生成した。24時間後、rhBMP4(3ng/ml)、rhアクチビンA(2ng/ml,R&D,cat.no.338−AC)、rhbFGF(5ng/ml,R&D,cat.no.233−FB)を添加したStemPro−34で胚様体を培養し、中胚葉形成を誘導した。分化4日目(補足図3bに示すようにhiPSCは3日目)に、TrypLE(Invitrogen)を用いて胚様体を解離させ、rhDKK1(150ng/ml,R&D,cat.no.5439−DK/FC)、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542(5.4μM,Sigma,cat.no.S−4317)、rhVEGF(5ng/ml)を添加したStemPro−34を用いて、ゼラチンコートしたプレート上に1×105細胞/ウェルで単層培養した。6日目に、培地をrhVEGF(5ng/ml)を添加したStemPro−34に変更し、2日ごとに培地を変更しながら分化15日目までこの培地で培養した。WNTシグナルを含む実験では、CHIR−99021(Stemgent,cat.no.04−004)、XAV−939(R&D,cat.no.3748)またはIWP2(R&D,cat.no.3533)を示された濃度で使用した。」(オンライン方法、「hPSC培養の維持と分化」の項)

(甲1−2)「

図1 BMPはhESC由来の中胚葉から心筋細胞への分化を特定する。
(a)hESCを心筋細胞系統に分化させるために使用したプロトコールの3つの主要な発達段階を強調したスキーム。1)中胚葉誘導、2)心血管特定化、3)成熟。
・・・・・・・・・・・・
(b)D4およびD5中胚葉集団におけるKDR+PDGFRA+細胞の頻度、およびD4中胚葉を無因子(無処理)、BMP4(10ng/ml)またはノギン(400ng/ml)で処理して生成したD15集団におけるCTNT+細胞の頻度のフローサイトメトリー解析。・・・・・・」(図1)

(甲1−3)「

図2 BMP4処理がWT1+細胞を特定する。
(a)BMP(10ng/ml)処理、ノギン(400ng/ml)処理、または追加因子なしで培養して生成した細胞集団の示された日(D)の培養物における、心筋遺伝子TNNT2とNKK2−5および心外膜遺伝子WT1とTBX18のqRT−PCRによる発現解析・・・・・・」(図2)

(甲1−4)「フローサイトメトリーと細胞選別
・・・・・・・・・・・・
抗SIRPA−PE−Cy7
・・・・・・・・・・・・
抗CD90−APC
・・・・・・・・・・・・
FACSのために、細胞は5%FCSを含むIMDMに106細胞/mlの濃度で懸濁し、セルソーターをFACSAriaTMII(BD Biosciences社)を用いて選別した。」(オンライン方法、「フローサイトメトリーと細胞選別」の項)

(甲1−5)「hPSCの心筋細胞系統への分化は、3段階を通じて進行する。(i)KDRおよびPDGFRAの発現で定義される心血管中胚葉の誘導、(ii)心血管中胚葉の心筋細胞への特定化、(iii)特定化された前駆細胞の機能的な心筋細胞への成熟(図1a)。」(第1027頁右欄第3行〜第8行)

(甲1−6)「WNT阻害剤DKK1及びアクチビン/ノーダル/TGFβ阻害剤SB−431542」(第1027頁右欄第26行〜第27行)

(甲1−7)「WNTシグナリング・・・・・・低分子アンタゴニストXAV939(XAV)及びIWP2」(第1030頁左欄第3行〜第5行)

2 甲第2号証:国際公開第2014/185358号

(甲2−1)「[請求項1]多能性幹細胞から心筋細胞を製造する方法であって、次の(1)から(4)の工程を含む方法;
(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程、
(2)(1)の工程で得られた胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程、
(3)(2)の工程で得られた胚様体を解離する工程、および
(4)(3)の工程で得られた細胞をVEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養して胚様体に再凝集させる工程。
[請求項2]さらに以下の工程を含む、請求項1に記載された方法。
(5)(4)の工程で得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程。
・・・・・・・・・・・・
[請求項7]前記Wnt阻害剤が、IWP−3またはIWP−4である、請求項1から6のいずれか1項に記載された方法。
[請求項8]前記工程(4)に用いられる培養液が、BMP阻害剤および/またはTGFβ阻害剤をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載された方法。
[請求項9]前記BMP阻害剤が、Dorsomorphinであり、前記TGFβ阻害剤が、SB431542である、請求項8に記載された方法。」(請求項1〜2、請求項7〜9)

(甲2−2)「[0047]本発明において、Wnt阻害剤とは、Wntの受容体への結合からβカテニンの蓄積へと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるFrizzledファミリーへの結合を阻害する物質、またはβカテニンの分解を促進する物質である限り特に限定されず、例えば、DKK1タンパク質(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_012242)、スクレロスチン(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_025237)、IWR−1(Merck Millipore)、IWP−2(Sigma−Aldrich)、IWP−3(Sigma−Aldrich)、IWP−4(Sigma−Aldrich)、PNU−74654(Sigma−Aldrich)、XAV939(Sigma−Aldrich)およびこれらの誘導体などが例示される。」([0047])

(甲2−3)「[0069]心筋細胞誘導法(比較例:図1A)
分化誘導の3日前(day−3)に201B7細胞株をCollagenase type B溶液(Roche)で5分処理後、溶液を除去し、続いて0.25% Trypsin−EDTA(invitrogen)で2〜3分処理した。PBS溶液(ナカライテスク)で洗浄後、得られたiPS細胞をセルスクレーパーによって剥離させて回収し、マトリゲルコート6well プレートの1wellに播種し、MEF(マウス胎仔線維芽細胞)馴化培地(MEF−CM)で3日間培養した。
[0070]続いて(day0)、Collagenase type B溶液で10分処理後溶液を除去し、続いて0.25% Trypsin−EDTAで1〜2分処理した後、セルスクレーパーを用いてiPS細胞を剥離し、1% L−Glutamine(invitrogen)、150μg/mL Transferrin(Roche)、50μg/mL Ascorbic Acid(sigma)、3.9×10−3%MTG (1−Thyoglycerol)(sigma)、10μM Rock inhibitor(Y−27632、Wako)および2ng/mL BMP4(R&D)を添加したSTEMPRO 34(invitrogen)を加え、ピペッティングで小塊にして低接着6well プレートの1well分に移し、37℃・5%酸素条件下で培養し胚様体(EB)を作製した。
[0071]翌日(day1)、EBを遠心分離により回収し、低接着24well プレートの4well分へ移し、1%L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL BMP4、5ng/mL bFGF(R&D)および6ng/mL Activin A(R&D)を添加したSTEMPRO 34中で3日間、37℃・5%酸素条件下で培養した。
[0072]続いて(day4)、培地を除去し1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL VEGF(R&D)および1μM IWP−3(Stemolecule)を添加したSTEMPRO 34中で、4日間、37℃・5%酸素条件下で培養した。
[0073]続いて(day8)、培地を除去し1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL VEGFおよび5ng/mL bFGFを添加したSTEMPRO 34P中で、4日間、37℃・5%酸素条件下で培養した。この時、2 日に1度同じ条件の培地に交換した。
[0074]続いて(day12)、通常の酸素濃度のインキュベーターに移し、8日間培養した。この時、2 日に1度同じ条件の培地に交換した。
[0075]培養後(day20)、得られた細胞を評価したところ、cTNTの陽性細胞の含有率は58.6%であった(図1B)。また、day8頃から拍動が認められた。
[0076]さらに、day4でのIWP−3をIWP−4に変更しても同様の結果が得られた。」([0069]〜[0076])

(甲2−4)「実施例1
[0077]改変心筋細胞誘導法
201B7細胞株をCTK solution(ReproCELL)で2分処理後、溶液を除去し、続いてAccumax(Innovative Cell Technologies)で5分処理後、ピペッティングによりシングルセルへと解離した。遠心分離により細胞を回収し、1wellあたり2500 cells/wellを低接着96wellディッシュ(Corning)へ播種し、1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid(sigma)、3.9×10−3%MTG、10μM Rock inhibitorおよび2ng/mL BMP4(R&D)、0.50% Matrigel(Growth Factor Reduced)を添加したSTEMPRO 34中、37℃・5%酸素条件下にて培養して、EBを形成させた(day0)。この時、1wellあたり1000cells以下または4000cells以上によりEB細胞を形成させると心筋細胞の誘導効率が下がることが確認された。
[0078]翌日(day1)、1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、18ng/mL BMP4、10ng/mL bFGFおよび12ng/mL Activin Aを添加したSTEMPRO 34を等量、EBの培養を行っている96wellプレート中に加え、37℃・5%酸素条件にて3日間培養した。
[0079]続いて(day4)、得られたEBを自然落下させ培地を除去し、Accumaxを添加し5分後、ピペティングによりシングルセルへ解離し、IMDM(invitrogen)を5ml加え、遠心分離により培地を除去した。10000cells/wellを低接着96wellディッシュ(Corning)へ播種し、1%L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL VEGFおよび1μM IWP−3を添加したSTEMPRO 34中で、37℃・5%酸素条件下で、4日間培養した。
[0080]続いて(day8)、得られたEBを回収し、1wellあたりのEB数が10個を上回らないように24wellディッシュへと移した。1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL VEGFおよび5ng/mL bFGFを添加したSTEMPRO 34中で、4日間、37℃・5%酸素条件下で培養した。この時、2 日に1度同じ条件の培地に交換した。
[0081]続いて(day12)、通常の酸素濃度のインキュベーターに移し、8日間培養した。この時、2 日に1度同じ条件の培地に交換した。
[0082]培養後(day20)、得られた細胞を評価したところ、cTNTの陽性細胞の含有率は82.9%であった(図2B右図)。
[0083]さらに、day4でのIWP−3をIWP−4に変更しても同様の結果が得られた。また、day4において、5.4μM SB431542(sigma)および0.6μM Dorsomorphin(sigma)をさらに培地へ添加することによっても同様の結果が得られた。
[0084]ここで、day4にてシングルセルへの解離を行わず、1% L−Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10−3%MTG 、10ng/mL VEGFおよび1μM IWP−3を添加したSTEMPRO 34への培地交換のみを行い同様の培養を行ったところ、20日目でのcTNTの陽性細胞の含有率は、69.3%であった(図2B左図)。このことより、day4でのシングルセルへの解離は、心筋細胞の誘導において効率を高めることが確認された。」([0077]〜[0084])

(甲2−5)「

」(図1)

(甲2−6)「[0009]図1Aは、多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導するプロトコールを示す。図1Bは、iPS細胞(201B7)から従来法によって得られた細胞におけるTNT陽性細胞の含有率をフローサイトメトリーで評価した結果を示す。」([0009])

(甲2−7)「[0013]<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。・・・・・・本発明の心筋分化誘導プロトコールに対して適応性が高い細胞は、別段限定されることはないが、例えば、ES細胞について、KhES1、KhES3等、iPS細胞について、201B7、610B1、MYH、409B2、427F1、606A1、610B1、457C1、604A1、648A1等の細胞株が挙げられる。・・・・・・
[0019]ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES−1、KhES−2およびKhES−3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。」([0013]〜[0019])

3 甲第3号証:Nature(2008)Vol.453,No.7194,p.524−528 and Methods

(甲3−1)「

図1 ヒトES細胞からの心臓系統への特化
a ヒトES細胞の心臓系統への分化に使用されたプロトコールの概要
・・・・・・・・・・・・
c 示されたようにWntシグナル経路を操作した後の14日目の胚様体におけるCTNT+細胞の陽性率。コントロールはWNTもDKK1も加えない培養である。
・・・・・・・・・・・・
f 各分化段階での胚様体の遺伝子発現解析
・・・・・・・・・・・・」(図1)

(甲3−2)「6日目の胚様体から単離されたKDRlow/C−KITneg細胞はVEGF(25ngml−1)、bFGF(25ngml−1)およびDKK1(150ngml−1)の存在下で2〜3日間凝集させた。」(方法、右欄第3行〜第5行)

(甲3−3)「VEGFとDKK1で10〜12日間培養したKDRlow/C−KITneg由来の接着集団をフローサイトメトリーで解析したところ、ほぼ90%がSMAを発現し、50%がCTNTを発現し、4%がCD31を発現していた(図3b)。この培養物にbFGFを添加すると、CTNT+細胞とSMA+細胞の割合がそれぞれ30%と80%に減少し、CD31+の亜集団が30%に増加した。」(第526頁右欄第18行〜第24行)

4 甲第4号証:Stem Cell Reports(2014 Dec)Vol.3,No.6,p.1132−1146

(甲4−1)「NKX2.5−GFPレポーター系統(Elliottら,2011)を利用して、静懸濁培養におけるヒトPSC凝集体のWnt調節剤に基づいたCM分化を生じさせるためにマルチウェルスクリーニングアッセイが確立された。」(第1133頁左欄第28行〜第31行)

(甲4−2)「

」(表1)

(甲4−3)「

図2 回転エルレンマイヤーフラスコにスケールアップしたプロトコール
(A)75rpmで回転させたフラスコでの培養スキーム
・・・・・・・・・・・・
(D)7〜10日目のフローサイトメトリーは約55%のGFP陽性細胞を示した。・・・
(E)10日目の胚様体由来細胞の代表的なフローサイトメトリーヒストグラム」(図2)

5 甲第5号証:特表2013−535975号公報

(甲5−1)「【請求項1】
細胞の集団を心筋細胞および心筋細胞前駆細胞について濃縮する方法であって:
(a)心筋細胞および心筋細胞前駆細胞が単離される予定の該細胞の集団を提供する工程;ならびに
(b)該集団からSIRPAを発現している細胞を単離する工程;
を包含し、ここで、該細胞の集団は、心筋細胞および心筋細胞前駆細胞に分化するように誘導されたヒト多能性幹細胞の集団を含む、方法。
【請求項2】
前記ヒト多能性幹細胞が、胚性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト多能性幹細胞が、細胞分化を誘導するのに有効な量の少なくとも1つの誘導因子に曝露される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの誘導因子の量が、前記集団中のSIRPA濃度に基づいて最適化される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの誘導因子が、サイトカインを含む、請求項4および5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの誘導因子が、好ましくは40ng/mlまでの濃度、さらに好ましくは約6ng/mlまたは約30ng/mlの濃度の、アクチビンAを含む、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの誘導因子が、好ましくは40ng/mlまでの濃度、さらに好ましくは約10ng/mlの濃度の、骨形成タンパク質4を含む、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト多能性幹細胞が、さらに骨形成タンパク質インヒビターに曝露される、請求項4〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記骨形成タンパク質インヒビターが、Dorsomorphin、Nogginおよび可溶性骨形成タンパク質レセプターからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒト多能性幹細胞が、さらにVEGF、DKKおよびbFGFのうちの少なくとも1つに曝露される、請求項4〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト多能性幹細胞が、約1日間〜約5日間、好ましくは約3日間、前記誘導因子に曝露される、請求項4〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト多能性幹細胞の誘導の開始と前記SIRPAを発現している細胞を単離する工程との間の時間が、約5日間〜約45日間、好ましくは約8日間〜約25日間である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記SIRPAを発現している細胞が、該細胞によるNkx2.5発現の開始時点ごろに現われる、該細胞によるSIRPAの発現の開始後に単離される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
SIRPA細胞表面抗原を有する前記細胞が、該細胞によるNkx2.5発現の開始時と、該細胞による収縮および心臓特異的構造タンパク質発現の開始時との間に単離される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
CD90、CD31、CD140BおよびCD49Aのうちの少なくとも1つを発現している細胞を前記集団から枯渇させる工程をさらに包含する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
CD90、CD31、CD140BおよびCD49Aのうちの1つを発現している前記細胞が、対応する抗体を用いて枯渇される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記SIRPAを発現している細胞が、SIRPA特異的リガンドを用いて単離される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記SIRPAを発現している細胞が、抗SIRPA抗体もしくは抗体フラグメントまたは抗体様分子、好ましくは抗SIRPA抗体を用いて単離される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記SIRPAを発現している細胞が、磁気ビーズを用いて単離される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記SIRPAを発現している細胞が、フローサイトメトリーを用いて単離される、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。」(請求項1〜21)

(甲5−2)「【0073】
ヒト人工多能性幹細胞からの心筋細胞の精製
SIRPAの発現が、他のhPSC由来集団中の心臓系統を特徴付けるか否かを決定するために、本発明者らは次に、2つの異なるhiPSC株であるMSC−iPS1(Y2−1としても知られる)および38−2から作製したEBを解析した13,14。cTNT+細胞の割合によって実証されるように、両方の株からの心臓分化の効率は低かった(MSC−iPS1:12.2%±5.6、38−2:26.7%±5.7;図4a)。同様の低レベルのSIRPA発現が、両方のEB集団において検出された。両方のiPSC株由来のSIRPA+細胞のFACSは、cTNT+心筋細胞について有意に濃縮された集団をもたらした(SIRPA+:MSC−iPS1(67.0%±3.6)、38−2(71.4%±3.8);SIRPA−:MSC−iPS1(4.9%±2.1)、38−2(6.2%±0.9))(図4a,b)。これらのSIRPA+集団は、対応するSIRPA−細胞よりも有意に高いレベルのNKX2−5、MYH6、MYH7、MYL2およびMYL7を発現した。hESC由来細胞を用いたときに観察されたように、DDR2、PDGFRB、THY1およびNEURODを含む非筋細胞マーカーは、SIRPA−画分に分離した(図4b、cおよびデータ示さず)。これらのデータは、このプロトコルを用いたときの、心臓系統に効率的に分化しない細胞株を含む一連の多能性幹細胞株から濃縮された心臓集団をもたらすためのこのマーカーの有用性を明らかに実証するものである。」(【0073】)

(甲5−3)「

」(図4)

第7 当審の判断
1 令和3年9月21日付け取消理由通知に記載した取消理由について

(1)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲第1号証を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)

ア 本件発明1について
上記記載事項(甲1−6)から、上記記載事項(甲1−1)中の「DKK1」は、WNT阻害剤に該当することは明らかであるから、甲第1号証には、hESC(ヒト胚幹細胞)またはhiPSC(ヒト誘導多能性幹細胞)であるhPSC(ヒト多能性幹細胞)を、BMP4を含む培地中で培養して、胚様体を生成し、24時間後、BMP4、アクチビンA、bFGFを含む培地中で胚様体を培養して、中胚葉形成を誘導し、分化4日目(hESCの場合。hiPSCの場合は分化3日目)に、WNT阻害剤DKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地中で培養して、6日目に、VEGFを添加した培地に変更し、分化15日目までVEGFを含む培地中で培養して、心筋細胞に分化させる方法が記載されており(上記記載事項(甲1−1)、(甲1−2)の図1(a))、また、WNT阻害剤DKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地中で2日間培養すると、NKX2−5を発現する細胞を生成すること(上記記載事項(甲1−3))、VEGFを含む培地中で9日間培養すると、NKX2−5陽性の心筋細胞またはcTnT陽性の心筋細胞を生成することが記載されている(上記記載事項(甲1−2)の図1(b)、(甲1−3))。
上記記載事項(甲1−5)、(甲1−2)の図1(a)から、BMP4、アクチビンA、bFGFを含む培地中で胚様体を24時間培養すると、心血管中胚葉形成が誘導され、心血管中胚葉細胞が生成し、また、WNT阻害剤DKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地中で2日間培養すると、心血管前駆細胞が生成するといえるから、甲第1号証には、「心筋細胞集団を産生する方法であって、多能性幹細胞(PSC)を、BMP4を含む培地中で培養して、胚様体を生成し、24時間後、BMP4、アクチビンA、bFGFを含む培地中で胚様体を培養して、心血管中胚葉細胞を生成し、分化4日目(hESCの場合。hiPSCの場合は分化3日目)に、心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地中で、2日間培養して、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成し、VEGFを含む培地中で前記心血管前駆細胞を9日間培養して、NKX2−5陽性の心筋細胞集団またはcTnT陽性の心筋細胞集団を生成する、方法。」の発明が記載されていると認められる。
甲第1号証に記載された発明の「BMP4」は、本件発明1の「BMP成分」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「アクチビンA」は、本件発明1の「アクチビン成分」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「WNT阻害剤、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地」は、本件発明1の「WNT阻害剤、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地」に相当し、甲第1号証に記載された発明の「VEGFを含む培地」は、本件発明1の「VEGFを含む基礎培地」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「心筋細胞集団を産生する方法であって、多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と、前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と、心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGFおよびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と、VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートして、心筋細胞集団を生成する工程とを含む、方法。」に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)WNT阻害剤、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地として、本件発明1は、更にFGF成分を含むのに対し、甲第1号証に記載された発明は、そのような特定はされていない点。
(相違点2)本件発明1は、NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成するのに対し、甲第1号証に記載された発明は、NKX2−5陽性の心筋細胞集団またはcTnT陽性の心筋細胞集団を生成する点。

相違点1について検討する。
甲第3号証には、6日目の胚様体から単離されたKDRlow/C−KITneg細胞に、DKK1、VEGFに加えて、bFGFの存在下で培養することが記載されている(上記記載事項(甲3−1)〜(甲3−2))が、bFGFを添加すると、内皮細胞が増加し、心筋細胞が減少することが示されている(上記記載事項(甲3−3))から、甲第3号証の記載が、甲第1号証に記載された発明において、WNT阻害剤であるDKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることの動機付けになるとはいえない。また、甲第2、4〜5号証を参照しても、甲第1号証に記載された発明において、WNT阻害剤であるDKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることの動機付けがあるとはいえない。
よって、甲第2〜5号証の記載から、甲第1号証に記載された発明において、WNT阻害剤であるDKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22について
本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明17について
本件発明17は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明18〜21について
本件発明18〜21は、本件発明17を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明17と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項(甲第2号証を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如)

ア 本件発明1について
甲第2号証には、多能性幹細胞から心筋細胞を製造する方法であって、多能性幹細胞を、BMP4を含む培地中で1日培養して、胚様体を生成する工程、得られた胚様体を、BMP4、アクチビンAおよびbFGFを含む培地中で3日間培養する工程、得られた細胞を、WNT阻害剤およびVEGFを含む培地中で4日間培養して胚様体に再凝集させる工程、得られた細胞を、VEGFおよびbFGFを含む培地中で12日間培養して、心筋細胞を生成する工程、を含む方法が記載されており(上記記載事項(甲2−1)、(甲2−3)、(甲2−4))、また、VEGFおよびbFGFを含む培地中で12日間培養すると、cTnT陽性細胞に富む心筋細胞集団を生成することが記載されている(上記記載事項(甲2−5)、(甲2−6))。
そうすると、甲第2号証には、「心筋細胞集団を産生する方法であって、多能性幹細胞を、BMP4を含む培地中で1日培養して、胚様体を生成する工程、得られた胚様体を、BMP4、アクチビンAおよびbFGFを含む培地中で3日間培養する工程、得られた細胞を、WNT阻害剤およびVEGFを含む培地中で4日間培養して胚様体に再凝集させる工程、得られた細胞を、VEGFおよびbFGFを含む培地中で12日間培養して、cTnT陽性細胞に富む心筋細胞集団を生成する工程、を含む方法。」の発明が記載されていると認められる。
甲第2号証に記載された発明の「多能性幹細胞を、BMP4を含む培地中で1日培養して、胚様体を生成する工程、得られた胚様体を、BMP4、アクチビンAおよびbFGFを含む培地中で3日間培養する工程」により得られた細胞は、本件発明1の「心血管中胚葉細胞」に相当するものと認められ、また、甲第2号証に記載された発明の「得られた細胞を、WNT阻害剤およびVEGFを含む培地中で4日間培養して胚様体に再凝集させる工程」により得られた細胞は、本件発明1の「心血管前駆細胞」に相当するものと認められる。
そして、甲第2号証に記載された発明の「WNT阻害剤およびVEGFを含む培地」は、本件発明1の「WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地」に相当し、甲第2号証に記載された発明の「VEGFおよびbFGFを含む培地」は、本件発明1の「VEGFを含む基礎培地」に相当するから、本件発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「心筋細胞集団を産生する方法であって、心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、心血管前駆細胞を生成し、VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートして、心筋細胞集団を生成する工程と含む、方法。」に係る発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地として、本件発明1は、更にFGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含むのに対し、甲第2号証に記載された発明は、そのような特定はされていない点。
(相違点2)本件発明1の心血管前駆細胞は、NKX2−5を発現するのに対し、甲第2号証に記載された心血管前駆細胞は、そのような特定はされていない点。
(相違点3)本件発明1は、NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成するのに対し、甲第2号証に記載された発明は、cTnT陽性細胞に富む心筋細胞集団を生成する点。

相違点1について検討する。
甲第3号証には、6日目の胚様体から単離されたKDRlow/C−KITneg細胞に、DKK1、VEGFに加えて、bFGFの存在下で培養することが記載されている(上記記載事項(甲3−1)〜(甲3−2))が、bFGFを添加すると、内皮細胞が増加し、心筋細胞が減少することが示されている(上記記載事項(甲3−3))から、甲第3号証の記載が、甲第2号証に記載された発明において、WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることの動機付けになるとはいえない。また、甲第1、4〜5号証を参照しても、甲第2号証に記載された発明において、WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることの動機付けがあるとはいえない。
よって、甲第1、3〜5号証の記載から、甲第2号証に記載された発明において、WNT阻害剤、VEGFを含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点2、3について検討するまでもなく、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22について
本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明17について
本件発明17は、本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明18〜21について
本件発明18〜21は、本件発明17を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明17と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3〜5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
ア 心臓誘導培地の成分について
訂正された請求項1は、心臓誘導培地として、WNT阻害剤、VEGFおよびアクチビン/ノーダル阻害剤SB−431542を含む培地に特定されているから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。請求項2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。請求項17及びそれらを直接又は間接的に引用する請求項18〜21は、請求項1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明17〜21は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

イ 心血管中胚葉細胞の由来について
訂正された請求項1は、心血管中胚葉細胞として、多能性幹細胞から胚様体を生成し、該胚様体を培養して得られた心血管中胚葉細胞に特定されているから、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。請求項2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2〜7、9〜10、12、15〜16、22は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。請求項17及びそれらを直接又は間接的に引用する請求項18〜21は、請求項1の発明特定事項と同様の発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明17〜21は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

(4)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和4年4月11日付け意見書において、甲第3号証の図3bの結果から、心臓誘導培地に、DKK1、VEGFに加えてbFGFを添加した場合に、cTnT陽性細胞の割合が約50%から約30%に減少することが示されているにすぎず、cTnT陽性細胞が全く誘導されないわけではないし、図1aの心筋プロトコールでは、Day8以降に心臓誘導培地に、DKK1、VEGFに加えてbFGFを添加しているので、甲第3号証の記載が、心臓誘導培地に、DKK1、VEGFに加えてbFGFを添加することの阻害要因になるとまでいえない旨主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたように、甲第3号証の図3bに示された結果が、WNT阻害剤であるDKK1、VEGF、アクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地として、更にbFGFを含むものを用いることの動機付けになるとはいえないし、また、甲第3号証の図1aに示されたプロトコールは、心臓系統プロトコールであり、BMP4、アクチビンA、bFGFを含む培地中で培養した細胞を、DKK1、VEGFを含む培地中で2日間培養した後に得られた細胞を、Day8以降にDKK1、VEGF、bFGFを含む培地中で培養しており、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして生成した心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中で培養する方法である本件発明とは異なるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

2 令和4年7月5日付け取消理由通知に記載した取消理由について
訂正された請求項9は、「請求項2〜7の何れか1項」と、訂正された請求項12は、「請求項1〜7および9〜10の何れか1項」と、訂正された請求項17は、「工程とを含む」と記載されているので、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立の理由によっては、本件請求項1〜7、9〜10、12、15〜22に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1〜7、9〜10、12、15〜22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項8、11、13〜14に係る特許は、上記第2のとおり、訂正により削除されたので、請求項8、11、13〜14に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞集団を産生する方法であって、
a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と;
b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;
c.前記心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびアクチビン/ノーダル阻害剤を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と;
d.VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートして、NKX2−5poscTnTpos細胞に富む心筋細胞集団を生成する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
e.前記心筋細胞集団からSIRPA陽性で、CD90陰性の心筋細胞を単離し、NKX2−5の発現について陽性の心筋細胞を選択して、心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PSCがヒトPSC(hPSC)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記hPSCが、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)またはヒト胚幹細胞(hESC)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記hPSCが、NKX2−5レポーター構築物を含むhPSCである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記心筋細胞集団から心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団を単離する工程において、前記NKX2−5レポーター構築物の発現に従って、NKX2−5陽性心筋細胞を選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記NKX2−5レポーター構築物が、蛍光NKX2−5レポーター構築物である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記心室様心筋細胞(VLCM)に富む集団は、少なくとも70%のVLCMを含む、請求項2〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記WNT阻害剤は、IWP2である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記心臓誘導培地は、SB−431542を含む、請求項1〜7および9〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】
前記胚様体培地中のBMP成分が、BMP4であり、前記中胚葉誘導培地中のBMP成分が、BMP4である、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記胚様体培地は、更にRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、前記中胚葉誘導培地中のアクチビン成分は、アクチビンAであり、前記中胚葉誘導培地は、更にbFGFを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
心筋細胞集団を産生する方法であって、
a.多能性幹細胞(PSC)を、BMP成分を含む胚様体培地中で一定期間インキュベートして、胚様体を生成する工程と;
b.前記胚様体を、BMP成分およびアクチビン成分を含む中胚葉誘導培地中で一定期間インキュベートして、心血管中胚葉細胞を生成する工程と;
c.前記心血管中胚葉細胞を、WNT阻害剤、VEGF、FGF成分およびSB−431542を含む心臓誘導培地中で、一定期間インキュベートして、NKX2−5を発現する心血管前駆細胞を生成する工程と;
d.VEGFを含む基礎培地中で前記心血管前駆細胞を一定期間インキュベートし、NKX2−5poscTnTpos細胞を選択して心室様心筋細胞(VLCM)に富む心筋細胞集団を生成する工程とを含む、方法。
【請求項18】
前記胚様体培地中のBMP成分が、BMP4であり、前記中胚葉誘導培地中のBMP成分が、BMP4である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記胚様体培地は、更にRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、前記中胚葉誘導培地中のアクチビン成分は、アクチビンAであり、前記中胚葉誘導培地は、更にbFGFを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記PSCがヒトPSC(hPSC)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記hPSCが、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)またはヒト胚幹細胞(hESC)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記蛍光NKX2−5レポーター構築物が、NKX2−5:GFPレポーター構築物である、請求項7に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-08 
出願番号 P2020-108719
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 113- YAA (C12N)
P 1 651・ 536- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 宮岡 真衣
高堀 栄二
登録日 2020-10-19 
登録番号 6781355
権利者 ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
発明の名称 洞房結節様ペースメーカー心筋細胞および心室様心筋細胞を作製および使用するための方法  
代理人 理士法人浅村特許事務所  
代理人 弁理士法人浅村特許事務所  

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