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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1393977
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2022-11-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6811846号発明「偏光素子、円偏光板および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6811846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜17〕について訂正することを認める。 特許第6811846号の請求項1〜3、5〜17に係る特許を維持する。 特許第6811846号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6811846号の請求項1〜17に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019−511327号)は、2018年(平成30年4月6日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年(2017年)4月7日 平成29年(2017年)6月16日)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年12月17日にその特許権の設定の登録がされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許について、その特許掲載公報発行の日から6月以内である令和3年7月5日に、特許異議申立人 浜 俊彦(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1〜17に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和3年10月29日付け:取消理由通知書
令和3年12月28日付け:訂正請求書
令和3年12月28日付け:意見書(特許権者)
令和4年 2月16日付け:意見書(特許異議申立人)
令和4年 3月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 6月 6日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和4年 6月 6日付け:意見書(特許権者)
令和4年 8月18日付け:意見書(特許権者)

なお、令和3年12月28日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6811846号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜17について訂正することを求める、というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記配向膜の波長400〜700nmにおける平均屈折率naveが1.55〜2.0である、偏光素子であって、
前記異方性光吸収膜の面内において、波長550nmにおける屈折率が最大となる方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNx550、前記配向膜の屈折率をnx550とし、」と記載されているのを、
「前記配向膜の波長400〜700nmにおける平均屈折率naveが1.55〜1.80である、偏光素子であって、
前記配向膜が、屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であり、
前記異方性光吸収膜の面内において、波長550nmにおける屈折率が最大となる方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNx550、前記配向膜の屈折率をnx550とし、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜3、5〜17についても同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550が1.55〜1.75である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であり、
前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550が1.55〜1.75である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6〜17についても同様に訂正する。)。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、前記配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の比が、1.0以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、前記配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の比が、1.0〜1.2である、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7〜17についても同様に訂正する。)。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記二色性物質の含有量が、前記異方性光吸収膜の全固形分質量に対して、8〜22質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記二色性物質の含有量が、前記異方性光吸収膜の全固形分質量に対して、8〜22質量%である、請求項1〜3、5および6のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8〜17についても同様に訂正する。)。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「前記配向膜の厚みが10nm〜100nmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記配向膜の厚みが10nm〜100nmである、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9〜17についても同様に訂正する。)。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、
「前記配向膜がアゾ基を有する光反応性基を有する光活性化合物を用いて形成された光配向膜である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記配向膜がアゾ基を有する光反応性基を有する光活性化合物を用いて形成された光配向膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10〜17についても同様に訂正する。)。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に、
「前記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を用いて形成された膜である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を用いて形成された膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13〜17についても同様に訂正する。)。

(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に、
「前記二色性物質が、下記式(II)で表される化合物を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記二色性物質が、下記式(II)で表される化合物を含む、請求項1〜3および5〜12のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14〜17についても同様に訂正する。)。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14に、
「前記異方性光吸収膜が、逆波長分散性を示す、請求項1〜13のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記異方性光吸収膜が、逆波長分散性を示す、請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15〜17についても同様に訂正する。)。

(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15に、
「前記基板、前記配向膜および前記異方性光吸収膜をこの順に有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の偏光素子。」と記載されているのを、
「前記基板、前記配向膜および前記異方性光吸収膜をこの順に有する、請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の偏光素子。」に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16〜17についても同様に訂正する。)。

(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項16に、
「請求項1〜15のいずれか1項に記載の偏光素子と、1/4波長板と、を有する、円偏光板。」と記載されているのを、
「請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子と、1/4波長板と、を有する、円偏光板。」に訂正する(請求項16の記載を引用する請求項17についても同様に訂正する。)。

(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17に、
「謂求項1〜15のいずれか1項に記載の偏光素子または請求項16に記載の円偏光板と、画像表示素子と、を有する、画像表示装置。」と記載されているのを、
「請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子または請求項16に記載の円偏光板と、画像表示素子と、を有する、画像表示装置。」に訂正する。

3 訂正の理由
(1) 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1〜17について、請求項2〜17は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1〜17に対応する訂正後の請求項1〜17は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2) 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明
ア 訂正事項1
(ア) 訂正の目的について
請求項1についての訂正事項1による訂正は、「配向膜」について、「波長400〜700nmにおける平均屈折率nave」の上限を「1.80」として範囲を限定するとともに、「屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であ」るものに限定するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。請求項2〜3、5〜17についても同様である。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおり、訂正事項1は、請求項1における「配向膜」について、「波長400〜700nmにおける平均屈折率nave」の範囲を限定し、かつ、「屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であ」るものに限定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項2〜3、5〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書の【0045】〜【0046】、【0093】〜【0094】及び【0143】には、添加剤が光配向膜形成用組成物の屈折率調整を目的として添加されること、添加剤として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が記載されている。
してみると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。請求項2〜3、5〜17についても同様である。

(エ) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1〜17について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1〜17に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 訂正事項2
(ア) 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前請求項4を削除するというものであるから、当該訂正事2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前請求項4を削除するというものであるから、当該訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、訂正前請求項4を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許精求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 訂正事項3
(ア) 訂正の目的について
請求項5についての訂正事項3による訂正は、「前記添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であ」るものに限定するとともに、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項6〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおり、訂正事項3は、「前記添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であ」るものに限定するとともに、訂正事項2による訂正に対応して記載を整合させるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項6〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書の【0045】〜【0046】には、添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であることが記載されている。
してみると、訂正事項3による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。請求項6〜17についても同様である。

(エ) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1〜17について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項5〜17に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

エ 訂正事項4
(ア) 訂正の目的について
請求項6についての訂正事項4による訂正は、「配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、前記配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の比」に、上限「1.2」を設けて範囲を限定するとともに、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項7〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項7〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書の【0023】には、配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の上限値が1.2以下であることが記載されている。
してみると、訂正事項4による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。請求項7〜17についても同様である。

(エ) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1〜17について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項6〜17に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 訂正事項5
(ア) 訂正の目的について
請求項7についての訂正事項5による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項8〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項8〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおり、訂正事項5は、訂正事項2による訂正に対応して記載を整合させるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項8〜17についても同様である。

カ 訂正事項6
(ア) 訂正の目的について
請求項8についての訂正事項6による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項9〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項9〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項9〜17についても同様である。

キ 訂正事項7
(ア) 訂正の目的について
請求項9についての訂正事項7による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項10〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項10〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項10〜17についても同様である。

ク 訂正事項8
(ア) 訂正の目的について
請求項12についての訂正事項8による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項13〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項13〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項13〜17についても同様である。

ケ 訂正事項9
(ア) 訂正の目的について
請求項13についての訂正事項9による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項14〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項14〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項14〜17についても同様である。

コ 訂正事項10
(ア) 訂正の目的について
請求項14についての訂正事項10による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項15〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項15〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項15〜17についても同様である。

サ 訂正事項11
(ア) 訂正の目的について
請求項15についての訂正事項11による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項16〜17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項16〜17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項16〜17についても同様である。

シ 訂正事項12
(ア) 訂正の目的について
請求項16についての訂正事項12による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。請求項17についても同様である。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項17についても同様である。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。請求項17についても同様である。

ス 訂正事項13
(ア) 訂正の目的について
請求項17についての訂正事項13による訂正は、訂正事項2による訂正により、請求項4が削除されたため、引用する請求項から請求項4を除いて記載を整合させるものであるから、当該訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)のとおりであるから、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

4 まとめ
本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6811846号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜17〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1〜3、5〜17に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明3」、「本件特許発明5」〜「本件特許発明17」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3、5〜17に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
配向膜と、二色性物質を用いて形成された異方性光吸収膜と、を有し、
前記異方性光吸収膜の配向度Sが0.92以上であり、
前記配向膜の波長400〜700nmにおける平均屈折率naveが1.55〜1.80である、偏光素子であって、
前記配向膜が、屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であり、
前記異方性光吸収膜の面内において、波長550nmにおける屈折率が最大となる方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNx550、前記配向膜の屈折率をnx550とし、
前記異方性光吸収膜の面内における屈折率が最大となる方向に面内で直交する方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNy550、前記配向膜の屈折率をny550としたときに、下記式(1)を満たす、偏光素子。
|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|<0.3 式(1)
【請求項2】
前記配向膜の面内の波長550nmにおける屈折率異方性Δnが0.10以上である、請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記屈折率異方性Δnが0.20以上である、請求項2に記載の偏光素子。」
「 【請求項5】
前記添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であり、
前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550が1.55〜1.75である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、前記配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の比が、1.0〜1.2である、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項7】
前記二色性物質の含有量が、前記異方性光吸収膜の全固形分質量に対して、8〜22質量%である、請求項1〜3、5および6のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項8】
前記配向膜の厚みが10nm〜100nmである、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項9】
前記配向膜がアゾ基を有する光反応性基を有する光活性化合物を用いて形成された光配向膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項10】
前記光活性化合物が、下記式(I)で表される化合物である、請求項9に記載の偏光素子。
【化1】

式(I)中、R21、R22、R23およびR24はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。ただし、R21、R22、R23およびR24の少なくとも1つは、カルボキシ基、スルホ基またはそれらの塩を表す。
式(I)中、mは1〜4の整数を表し、nは1〜4の整数を表し、oは1〜5の整数を表し、pは1〜5の整数を表す。m、n、oおよびpが2以上の整数である場合、複数個のR21、R22、R23およびR24はそれぞれ、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【請求項11】
前記光配向膜が、屈折率1.50〜1.60のバインダー成分を含み、
前記バインダー成分の含有量が、前記光配向膜の全固形分質量に対して、10質量%以上である、請求項9または10に記載の偏光素子。
【請求項12】
前記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を用いて形成された膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項13】
前記二色性物質が、下記式(II)で表される化合物を含む、請求項1〜3および5〜12のいずれか1項に記載の偏光素子。

式(II)中、R31、R32、R33、R34およびR35はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R36およびR37はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、Q31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基またはシクロヘキサン環基を表し、L31は2価の連結基を表し、A31は酸素原子または硫黄原子を表す。R36、R37およびQ31は、置換基としてラジカル重合性基を有していてもよい。
【請求項14】
前記異方性光吸収膜が、逆波長分散性を示す、請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項15】
さらに基板を有し、
前記基板、前記配向膜および前記異方性光吸収膜をこの順に有する、請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項16】
請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子と、1/4波長板と、を有する、円偏光板。
【請求項17】
請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子または請求項16に記載の円偏光板と、画像表示素子と、を有する、画像表示装置。」

第4 取消しの理由の概要
1 本件特許の請求項1〜17に係る特許に対して、当合議体が令和3年10月29日付け取消理由通知書で特許権者に通知した取消しの理由は、以下の理由を含む。

●理由1:(新規性進歩性)本件特許の請求項1乃至請求項17に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、本件特許の請求項1乃至請求項17に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(当合議体注:上記「先の出願」は最先のものをいう。以下同じ。)

●理由2:(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許の請求項1乃至17に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

2 本件特許の請求項1〜17に係る特許に対して、当合議体が令和4年3月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消しの理由は、以下の理由を含む。

●理由1:(新規性進歩性)本件特許の請求項1乃至請求項17に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、本件特許の請求項1乃至請求項17に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(引用例等一覧)
引用例1:特開2013−210624号公報(甲1)
引用例2:甲第6号証(安藤慎治,「光学ポリマーの屈折率制御:理論予測と分子設計の手法」,光学,公益社団法人応用物理学会,2015年8月,第44巻,第8号,298〜303頁)(甲6)
引用例3:大塚保治,「高分子材料の光学的性質」,日本ゴム協会誌,1988年,第61巻,第12号,805〜812頁)(甲4)
引用例4:特開2002−169021号公報
引用例5:国際公開第2015/012347号(甲7)
引用例6:特開2014−186248号公報(甲8)
引用例7:特表2015−527615号公報(甲9)
引用例8:大阪有機化学工業株式会社のウエブページ,[online],令和4年3月29日検索,ホーム>事業・製品>化成品>多官能>ビスコート#300,PETA,インターネット<URL:https://www.ooc.co.jp/products/chemical/multifunctional/PETA>(甲10)
引用例9:特開2013−50583号公報
引用例10:特開2017−14381号公報
(当合議体注:引用例1は主引用例であり、引用例2〜10は、副引用例、あるいは、技術常識を例示するための文献である。)

3 特許権者の提出した乙号証
令和3年12月28日付け意見書において特許権者は以下の乙第1号証〜乙第5号証を提出した。

乙第1号証:Sebastian GAUZA et al., "Super High Birefringence Isothiocyanato BiphenylBistolane Liquid Crystals", Japanese Journal of Applied Physics, 10 November 2004, Vol.43, No.11A, p.7634?7638,[online],[令和4年11月1日検索],インターネット<URL:https://iopscience.iop.org/article/10.1143/JJAP.43.7634/pdf>
乙第2号証:Yuki Arakawa et al., "Synthesis of diphenyl-diacetylene-based nematic liquid crystals and their high birefringence properties", Journal of Materials Chemistry, 15 March 2012, Vol.22, No.17, p.8394-8398
乙第3号証:Maria Losurdo et al., "Anisotropy of optical properties of conjugated polymer thin films by spectroscopic ellipsometry", Journal of Applied Physics, 15 October 2003, Vol.94, No.8, p.4923-4929,[online],[令和4年10月31日検索],インターネット<URL:https://aip.scitation.org/doi/pdf/10.1063/1.1610236>
乙第4号証:Aotmane En Naciri et al., "Spectroscopic ellipsometry of anisotropic materials: application to the optical constants of HgI2", Applied Optics, 1 February 1999, Vol.38, No.4, p.647-654
乙第5号証:R. M. A. Azzam et al., "Application of generalized ellipsometry to anisotropic crystals*", Journal of The Optical Society of America, February 1974, Vol.64, No.2, p.128-133

第5 理由1(進歩性進歩性)についての当合議体の判断
1 引用例の記載
令和4年3月30日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された特開2013−210624号公報(以下「引用例1」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性液晶化合物から形成される重合体と、該重合体中に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380〜550nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも1種の二色性色素(1)と、波長550〜700nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも2種の二色性色素(2)とを含む偏光膜。
・・・略・・・
【請求項10】
透明基材上に、請求項1〜9のいずれか記載の偏光膜を設けてなる偏光子。
【請求項11】
請求項10記載の偏光子の製造方法であり、
透明基材上に配向膜を備えた積層体を準備する工程と、
前記積層体の前記配向膜上に、重合性液晶化合物と、該重合性液晶化合物から形成される重合体中に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380〜550nmの範囲に吸収極大を有する二色性色素(1)を1種と、波長550〜700nmの範囲に吸収極大を有する二色性色素(2)を2種と、溶剤とを含む組成物を塗布する工程と、
前記組成物に含まれる前記重合性液晶化合物を重合させる工程と
を有する製造方法。」

(2) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜、円偏光板及びそれらの製造方法などに関する。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヨウ素染色PVAからなる偏光膜は、黄色味を帯びやすく、いわゆるニュートラルな色相性に劣るという問題があった。また、ヨウ素染色PVAからなる偏光膜は薄膜化が困難であり、より薄型化が求められる昨今の表示装置に適用するうえでは、限界があった。そこで、本発明の目的は、薄膜化が容易であり、ニュートラルな色相性に優れる偏光膜、当該偏光膜を含む偏光子及びその製造方法などを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明を含む。
[1] 重合性液晶化合物から形成される重合体と、該重合体中に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380〜550nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも1種の二色性色素(1)と、波長550〜700nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも2種の二色性色素(2)とを含む偏光膜。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄膜化が容易で、ニュートラルな色相性に優れた偏光膜、当該偏光膜を含む偏光子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の偏光膜(以下、場合により「本偏光膜」という。)は、重合性液晶化合物から形成される重合体と、特定の3種以上の二色性色素とを含むことを特徴とする。本偏光膜は、重合性液晶化合物と、前記3種以上の二色性色素とを含む組成物(以下、場合により「偏光膜形成用組成物」という。)から形成されたものが好ましい。まず、偏光膜形成用組成物について説明する。
【0009】
1.偏光膜形成用組成物
本発明の偏光膜形成用組成物は上記のとおり、重合性液晶化合物と、特定の3種以上の二色性色素とを含み、さらに溶剤を含むと好ましい。このような偏光膜形成用組成物から形成される本偏光膜は、薄膜化が容易である。まずは、偏光膜形成用組成物に含まれる構成成分の各々について説明する。
【0010】
1−1.二色性色素
偏光膜形成用組成物に含まれる二色性色素は、重合性液晶化合物から形成された重合体に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380〜550nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも1種の二色性色素(1)と、同様の測定において、波長550〜700nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも2種の二色性色素(2)とを含む。
【0011】
1−1−1.二色性色素(1)
二色性色素(1)は重合性液晶化合物から形成された重合体に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380〜550nmの範囲に吸収極大を有する。
・・・略・・・
【0024】
1−1−2.二色性色素(2)
二色性色素(2)は、前記測定を実施したとき、波長550〜700nmの範囲に吸収極大を有する。吸収極大の測定方法は、二色性色素(1)の場合と同様である。
【0025】
二色性色素(2)は偏光膜形成用組成物中に2種以上が含まれるものであるが、中でも、波長550〜600nmの範囲に吸収極大を有する二色性色素(2−1)と、波長600〜700nmの範囲に吸収極大を有する二色性色素(2−2)とを含むとより好ましい。
・・・略・・・
【0026】
二色性色素(2)としては、例えば、アゾ化合物が挙げられる。二色性色素(2)は、前記式(2)で表される化合物(以下、場合により「化合物(2)」という。)であると好ましい。
・・・略・・・
【0032】
ここで、化合物(2)を具体的に示すと、式(2−11)〜式(2−39)でそれぞれ表される化合物などが挙げられる。
【0033】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0034】

・・・略・・・
【0036】

・・・略・・・
【0037】


・・・略・・・
【0044】
1−2.重合性液晶化合物
重合性液晶化合物は、配向したまま重合することができる液晶化合物であり、分子内に重合性基を有する。
・・・略・・・
【0048】
以下、偏光膜形成用組成物に用いる重合性液晶化合物として好ましいものの具体例を挙げる。
好ましい重合性液晶化合物としては、例えば、式(4)で表される化合物(以下、場合により「化合物(4)」という)が挙げられる。
U1−V1−W1−X1−Y1−X2−Y2−X3−W2−V2−U2 (4)
[式(4)中、
X1、X2及びX3は、互いに独立に、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基又は置換基を有していてもよいシクロヘキサン−1,4−ジイル基を表す。ただし、X1、X2及びX3のうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基である。置換基を有していてもよいシクロへキサン−1,4−ジイル基を構成する−CH2−は、−O−、−S−又は−NR−に置き換わっていてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基である。
Y1及びY2は、互いに独立に、−CH2CH2−、−CH2O−、−COO−、−OCOO−、単結合、−N=N−、−CRa=CRb−、−C≡C−又は−CRa=N−を表す。Ra及びRbは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。
U1は、水素原子又は重合性基を表す。
U2は、重合性基を表す。
W1及びW2は、互いに独立に、単結合、−O−、−S−、−COO−又は−OCOO−を表す。
V1及びV2は、互いに独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルカンジイル基を表し、該アルカンジイル基を構成する−CH2−は、−O−、−S−又は−NH−に置き換わっていてもよい。]
・・・略・・・
【0056】
化合物(4)としては、式(4−1)〜式(4−43)で表される化合物などが挙げられる。かかる化合物(4)の具体例が、シクロヘキサン−1,4−ジイル基を有する場合、かかるシクロヘキサン−1,4−ジイル基は、トランス体であることが好ましい。
【0057】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0065】
1−3.溶剤
偏光膜形成用組成物は、溶剤を含むことが好ましい。溶剤としては、重合性液晶化合物ならびに二色性色素を完全に溶解し得る溶剤が好ましい。また、偏光膜形成用組成物に含まれる重合性液晶化合物の重合反応に不活性な溶剤であることが好ましい。
・・・略・・・
【0068】
1−4.その他の添加剤
本発明における偏光膜形成用組成物は、二色性色素、重合性液晶化合物及び溶剤以外の添加剤を任意に含む。
【0069】
1−4−1.重合反応助剤
・・・略・・・
【0078】
1−4−2.光増感剤
・・・略・・・
【0080】
1−4−3.重合禁止剤
・・・略・・・
【0083】
1−4−4.レベリング剤
・・・略・・・
【0087】
2.本偏光膜の形成方法
次に、偏光膜形成用組成物から本偏光膜を形成する方法について説明する。かかる方法では、偏光膜形成用組成物を基材に、好ましくは透明基材に塗布することにより本偏光膜を形成する。
【0088】
2−1.透明基材
・・・略・・・
【0095】
2−2.配向膜
本偏光膜の製造に用いる基材には、配向膜が形成されていることが好ましい。その場合、偏光膜形成用組成物は配向膜上に塗布することとなる。このため該配向膜は、偏光膜形成用組成物の塗布などにより溶解しない程度の溶剤耐性を有することが好ましい。また、溶剤の除去や液晶の配向のための加熱処理における耐熱性を有することが好ましい。かかる配向膜は、配向性ポリマーにより形成することができる。
・・・略・・・
【0102】
また、いわゆる光配向膜も利用することができる。光配向膜とは、光反応性基を有するポリマー又はモノマーと、溶剤とを含む組成物(以下、場合により「光配向層形成用組成物」という)を基材に塗布し、偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することによって配向規制力を付与した配向膜のことをいう。光反応性基とは、光を照射すること(光照射)により液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光を照射することで生じる分子の配向誘起又は異性化反応、二量化反応、光架橋反応、あるいは光分解反応のような、液晶配向能の起源となる光反応を生じるものである。当該光反応性基の中でも、二量化反応又は光架橋反応を起こすものが、配向性に優れ、偏光膜形成時のスメクチック液晶状態を保持する点で好ましい。以上のような反応を生じうる光反応性基としては、不飽和結合、特に二重結合を有するものが好ましく、炭素−炭素二重結合(C=C結合)・・・略・・・からなる群より選ばれる少なくとも一つを有する基が特に好ましい。
【0103】
C=C結合を有する光反応性基としては例えば、・・・略・・・シンナモイル基などが挙げられる。
・・・略・・・
中でも、光二量化反応を起こしうる光反応性基が好ましく、シンナモイル基・・・略・・・が、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向膜が得られやすいため好ましい。さらにいえば、光反応性基を有するポリマーとしては、当該ポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものが特に好ましい。
・・・略・・・
【0105】
光配向層形成用組成物に対する、光反応性基を有するポリマー又はモノマーの濃度は、当該光反応性基を有するポリマー又はモノマーの種類や製造しようとする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、固形分濃度で表して、少なくとも0.2質量%とすることが好ましく、0.3〜10質量%の範囲が特に好ましい。また、光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、該光配向層形成用組成物には、ポリビニルアルコ−ルやポリイミドなどの高分子材料、光増感剤が含まれていてもよい。」

(3) 「【実施例】
【0187】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部である。
【0188】
本実施例においては、下記の二色性色素(1)を用いた。
【0189】
化合物(1−1)(下記(1−1)で表される化合物)の製造

・・・略・・・
【0192】
化合物(1−7)(下記(1−7)で表される化合物)の製造

・・・略・・・
【0195】
本実施例においては、下記の重合性液晶化合物を用いた。
化合物(4−6)(下記式(4−6)で表される化合物)
・・・略・・・

・・・略・・・
【0197】
化合物(4−8)(下記式(4−8)で表される化合物)
・・・略・・・

・・・略・・・
【0199】
化合物(4−22)(下記式(4−22)で表される化合物)
・・・略・・・

・・・略・・・
【0201】
化合物(4−25)(下記式(4−25)で表される化合物)
・・・略・・・

・・・略・・・
【0203】
実施例1〔偏光膜形成用組成物(A)の調製〕
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、偏光膜形成用組成物(A)を得た。なお、ここで用いる二色性色素の「化合物(1−7)」とは、前記式(1−7)で表される化合物を意味し、他の二色性色素として用いる化合物もその式番号に準じる。以下も同様とする。
重合性液晶化合物;化合物(4−6) 75部
化合物(4−8) 25部
二色性色素; 化合物(1−7) 3.0部
化合物(2−17) 2.5部
化合物(2−29) 1.5部
化合物(2−32) 2.0部
重合開始剤;
2−ジメチルアミノ−2−ベンジル−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア369;チバスペシャルティケミカルズ社製)
6部
レベリング剤;
ポリアクリレート化合物(BYK−361N;BYK−Chemie社製)
1.2部
溶剤;トルエン 250部
・・・略・・・
【0205】
2.透明フィルム上への光配向膜の作製
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(KC8UX2M、コニカミノルタ(株)製)を用い、下記式(3)で表される光配向ポリマーをトルエンに5%溶解させた液をバーコート法により塗布して、120℃で乾燥して乾燥被膜を得た。この乾燥被膜上に偏光UVを照射して光配向膜を得た。偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJの条件で行った。

【0206】
3.偏光膜の作製
前記のようにして得た光配向膜付きフィルム上に、偏光膜形成用組成物(A)をバーコート法(#5 17mm/s)により塗布し、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥した後、室温まで冷却した。次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量2000mJ/cm2(365nm基準)の紫外線を、偏光膜形成用組成物から形成された層に照射することにより、該乾燥被膜に含まれる重合性液晶化合物を、前記重合性液晶化合物の液晶状態を保持したまま重合させ、該乾燥被膜から偏光膜を形成した。この際の偏光膜の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、1.6μmであった。かくして得られたものは、偏光膜と透明基材とを含む偏光子である。
【0207】
4.偏光度、透過率、色相の測定
偏光子の有用性を確認するため、以下のようにして視感度補正偏光度、視感度補正透過率、色度a*値、色度b*値、直交a*及び直交b*を測定した。
波長380nm〜780nmの範囲で透過軸方向の透過率(T1)及び吸収軸方向の透過率(T2)を、分光光度計(島津製作所株式会社製 UV−3150)に偏光子付フォルダーをセットした装置を用いてダブルビーム法で測定した。該フォルダーは、リファレンス側は光量を50%カットするメッシュを設置した。下記式(式1)ならびに(式2)を用いて、各波長における単体透過率、偏光度を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い、視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)を算出した。また、同様に測定した単体透過率からC光源の等色関数を用いて、L*a*b*(CIE)表色系における色度a*及びb*を算出した。さらに、同様に測定した直交透過率からC光源の等色関数を用いて、L*a*b*(CIE)表色系における直交a*及び直交b*を算出した。色度a*、色度b*、直交a*及び直交b*は値が0に近いほど、ニュートラルな色相であると判断できる。これらの結果を表4に示す。
単体透過率(%)= (T1+T2)/2 ・・・(式1)
偏光度(%) = (T1−T2)/(T1+T2)×100 ・・・(式2)
・・・略・・・
【0210】
1.偏光膜の作製
偏光膜形成用組成物(A)を偏光膜形成用組成物(B)に変え、さらにバーコーターのバーのワイヤー幅ならびに塗工速度を変えた(#5 25mm/s)以外は実施例1と同様にして、偏光膜を作製した。この際の偏光膜の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、1.7μmであった。
2.偏光度、透過率、色相の測定
作製した偏光膜の視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)および色度a*、色度b*、直交a*及び直交b*を実施例1と同様の方法で測定した結果を表4に示す。
・・・略・・・
【0213】
実施例6〔偏光膜形成用組成物(C)の調製〕
下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、偏光膜形成用組成物(C)を得た。
重合性液晶化合物;化合物(4−6)75部
化合物(4−8)25部
二色性色素;化合物(1−1)3.6部
化合物(2−15)3.0部
化合物(2−18)1.5部
化合物(2−27)2.0部
化合物(2−32)1.5部
重合開始剤;
2−ジメチルアミノ−2−ベンジル−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア369;チバスペシャルティケミカルズ社製)
6部
レベリング剤;
ポリアクリレート化合物(BYK−361N;BYK−Chemie社製)
1.2部
溶剤;トルエン250部
【0214】
1.偏光膜の作製
偏光膜形成用組成物(A)を偏光膜形成用組成物(C)に変え、さらにバーコーターのバーのワイヤー幅ならびに塗工速度を変えた(#7 20mm/s)以外は実施例1と同様にして、偏光膜を作製した。この際の偏光膜の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、2.0μmであった。
【0215】
2.偏光度、透過率、色相の測定
作製した偏光膜の視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)および色度a*、色度b*、直交a*及び直交b*を実施例1と同様の方法で測定した結果を表4に示す。
・・・略・・・
【0220】
【表4】

【0221】
表4からわかるように、実施例1〜7の偏光膜はいずれも従来のヨウ素−PVA偏光子よりも薄型であった。また、実施例1〜7の偏光膜はいずれもニュートラルな色相性を示した。
【0222】
実施例8
1.位相差フィルム上への光配向膜の作製
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(KC8UX2M、コニカミノルタ(株)製)の代わりに位相差フィルム(一軸延伸フィルムWRF−S(変性ポリカーボネート系樹脂)、位相差値137.5nm、厚み50μm、帝人化成(株)製)を用いて、前記式(3)で表される光配向ポリマーをシクロペンタノンに5%溶解させた液をバーコート法により塗布し、120℃で乾燥して乾燥被膜を得た。この乾燥被膜上に偏光UVを照射して光配向膜を得た。偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJの条件で行った。また、この際、偏光UVの照射方向は、位相差フィルムの遅相軸に対して45°となるように実施した。
【0223】
2.円偏光板の作製
作製した光配向膜付き位相差フィルムの光配向膜上に偏光膜形成用組成物(C)をバーコート法(#7 20mm/s)により塗布し、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥した後、室温まで冷却した。次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量2000mJ/cm2(365nm基準)の紫外線を、偏光膜形成用組成物から形成された層に照射することにより、該乾燥被膜に含まれる重合性液晶化合物を、前記重合性液晶化合物の液晶状態を保持したまま重合させ、該乾燥被膜から偏光膜を形成することで円偏光板を作製した。この際の偏光膜の膜厚をレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製 OLS3000)により測定したところ、2.0μmであった。」


2 引用発明
(1) 引用例1(甲1)でいう「本発明」は「偏光膜、円偏光板」「などに関する」(【0001】)ものであり、発明が解決しようとする課題は、「薄膜化が容易であり、ニュートラルな色相性に優れる偏光膜、当該偏光膜を含む偏光子」「を提供する」ことであるところ、引用例1の【0213】〜【0214】には、「実施例6」が記載されている。
また、【0214】に、「実施例6」の「偏光膜の作製」について、「偏光膜形成用組成物(A)を偏光膜形成用組成物(C)に変え、さらにバーコーターのバーのワイヤー幅ならびに塗工速度を変えた(#7 20mm/s)以外は実施例1と同様にして、偏光膜を作製した」と記載されているところ、「実施例1」については、【0203】、【0205】〜【0206】に記載され、【0206】には、「実施例1」により「偏光膜と透明基材とを含む偏光子」が「得られた」ことが記載されている。
さらに、「実施例6」の「偏光膜形成用組成物(C)」における「化合物(2−15)」、「化合物(2−18)」、「化合物(2−27)」及び「化合物(2−32)」については、【0033】、【0034】、【0036】及び【0037】に具体的に構造式が示されている。

(2) 【0215】には、「実施例6」で「作製した偏光膜の視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)および色度a*、色度b*、直交a*及び直交b*を実施例1と同様の方法で測定した結果を表4に示す」と記載されているところ、「実施例1と同様の方法」とされる「偏光膜の視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)および色度a*、色度b*、直交a*及び直交b*」の測定については、【0207】に記載されている。
また、【0220】【表4】によれば、「実施例6」の偏光膜の、「視感度補正偏光度Py」は「98.0%」、「視感度補正単体透過率Ty」は「43.0%」、「色度a*」は「−0.5」、「色度b*」は「2.5」、「直交a*」は「1.3」、「直交b*」は、「−0.8」であると理解できる。

(3) 上記1(1)〜(3)と上記(1)〜(2)より、引用例1には、「実施例6」で「得られた」「偏光膜と透明基材とを含む偏光子」の発明(以下「引用発明」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。

「 下記の成分を混合し、80℃で1時間攪拌することで、偏光膜形成用組成物(C)を得て、
重合性液晶化合物;化合物(4−6) 75部
化合物(4−8) 25部
二色性色素; 化合物(1−1) 3.6部
化合物(2−15) 3.0部
化合物(2−18) 1.5部
化合物(2−27) 2.0部
化合物(2−32) 1.5部
重合開始剤;
2−ジメチルアミノ−2−ベンジル−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン(イルガキュア369;チバスペシャルティケミカルズ社製)
6部
レベリング剤;
ポリアクリレート化合物(BYK−361N;BYK−Chemie社製)
1.2部
溶剤;トルエン 250部
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(KC8UX2M、コニカミノルタ(株)製)を用い、式(3)で表される光配向ポリマーをトルエンに5%溶解させた液をバーコート法により塗布して、120℃で乾燥して乾燥被膜を得、この乾燥被膜上に偏光UVを照射して光配向膜を得て、透明フィルム上へ光配向膜を作製し、ここで偏光UV処理は、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、波長365nmで測定した強度が100mJの条件で行い、
前記のようにして得た光配向膜付きフィルム上に、偏光膜形成用組成物(C)をバーコート法(バーコーターのバーのワイヤー幅ならびに塗工速度は(#7 20mm/s))により塗布し、120℃の乾燥オーブンにて1分間加熱乾燥した後、室温まで冷却した、次いで、UV照射装置(SPOT CURE SP−7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、露光量2000mJ/cm2(365nm基準)の紫外線を、偏光膜形成用組成物から形成された層に照射することにより、該乾燥被膜に含まれる重合性液晶化合物を、前記重合性液晶化合物の液晶状態を保持したまま重合させ、該乾燥被膜から偏光膜を形成して得られた、
偏光膜と透明基材とを含む偏光子であって、
偏光膜の膜厚は2.0μmであり、
視感度補正偏光度Pyは98.0%、視感度補正単体透過率Tyは43.0%、色度a*は−0.5、色度b*は2.5、直交a*は1.3、直交b*は、−0.8である、偏光子。
ここで、化合物(4−6)、化合物(4−8)、化合物(1−1)、化合物(2−15)、化合物(2−18)、化合物(2−27)、化合物(2−32)、及び式(3)は、以下のものである。
化合物(4−6)

化合物(4−8)

化合物(1−1)

化合物(2−15)

化合物(2−18)

化合物(2−27)

化合物(2−32)

式(3)

視感度補正偏光度Py、視感度補正単体透過率Ty、色度a*、色度b*、直交a*、直交b*は、以下の定義による。
波長380nm〜780nmの範囲で透過軸方向の透過率(T1)及び吸収軸方向の透過率(T2)を、分光光度計(島津製作所株式会社製 UV−3150)に偏光子付フォルダーをセットした装置を用いてダブルビーム法で測定した。下記式(式1)ならびに(式2)を用いて、各波長における単体透過率、偏光度を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い、視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)を算出した。単体透過率からC光源の等色関数を用いて、L*a*b*(CIE)表色系における色度a*及びb*を算出し、直交透過率からC光源の等色関数を用いて、L*a*b*(CIE)表色系における直交a*及び直交b*を算出した。
単体透過率(%)=(T1+T2)/2 ・・・(式1)
偏光度(%)=(T1−T2)/(T1+T2)×100・・・(式2)」

3 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 「配向膜」
引用発明の製造工程からみて、引用発明の「光配向膜」は、「式(3)で表される光配向ポリマー」からなる。
ここで、式(3)の光配向ポリマーの、「屈折率計(株式会社アタゴ製「多波長アッベ屈折計DR−M4」)用いてJIS K7142に準じて測定した」、屈折率は、1.55である(特許異議申立人が提出した甲3号証(特開2018−22152号公報)の【0142】及び【0151】等を参照。)
引用発明の「光配向膜」は、本件特許発明1の「配向膜」に相当する。
そうすると、引用発明の「光配向膜」と、本件特許発明1の「配向膜」とは、「配向膜の屈折率」「が1.55〜1.80である」点で共通する。

イ 「異方性光吸収膜」
(ア) 引用発明の製造工程からみて、引用発明の「偏光膜」は、「重合性液晶化合物」である「化合物(4−6)」及び「化合物(4−8)」と、「二色性色素」である「化合物(1−1)」、「化合物(2−15)」、「化合物(2−18)」、「化合物(2−27)」及び「化合物(2−32)」とにより形成されたものといえる。
引用発明の「二色性色素」は、本件特許発明1の「二色性物質」に相当する。

(イ) 引用発明の「偏光子」の「視感度補正偏光度Py」は「98.0%」、「視感度補正単体透過率Ty」は「43.0%」である。
そうすると、引用発明の「偏光膜」は、異方性の光吸収を有する膜ということができる。
そうすると、上記(ア)より、引用発明の「偏光膜」は、本件特許発明1の、「二色性物質を用いて形成された」とされる、「異方性光吸収膜」に相当する。

ウ 「偏光素子」
引用発明の製造工程から理解される構造より、引用発明は、「光配向膜」と、「偏光膜」とを有しているということができる。
上記アとイより、引用発明の「偏光子」は、本件特許発明1の「偏光素子」に相当し、両者は、「配向膜と」、「異方性光吸収膜と、を有し」ている点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「配向膜と、二色性物質を用いて形成された異方性光吸収膜と、を有し、
前記配向膜の屈折率が1.55〜1.80である、偏光素子。」

イ 相違点
本件特許発明1と引用発明は、次の構成で相違、又は一応相違する。
(相違点1−1)
異方性光吸収膜の配向度Sについて、本件特許発明1は「0.92以上」と特定しているのに対し、引用発明はそのようなものであるかどうか分からない点。

(相違点1−2)
「1.55〜1.80である」配向膜の屈折率について、本件特許発明1は「波長400〜700nmにおける平均屈折率nave」により特定しているのに対し、引用発明(甲第3号証による「1.55」の値)は、「屈折率計(株式会社アタゴ製「多波長アッベ屈折計DR−M4」)用いてJIS K7142に準じて測定されたものである点。

(相違点1−3)
配向膜が、本件特許発明1は、「屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であ」るのに対して、引用発明は、「式(3)で表される光配向ポリマーをトルエンに5%溶解させた液」は、「屈折率調整のための添加剤」(「(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物」)を含んでいない点。
(当合議体注:式(3)は、上記「2 引用発明」(3)に記載のとおり。)

(相違点1−4)
|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|の値について、本件特許発明1は「0.3」未満に特定しているが、引用発明はそのようなものであるかどうか分からない点。
(合議体注:「Nx550」、「nx550」、「Ny550」、「ny550」の定義は、本件特許の請求項1に記載のとおりである。)

(3) 判断
新規性について
本件特許発明1と、引用発明は、相違点1−3で相違する。
してみると、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明であるということはできない。

進歩性について
光配向膜形成用組成物の組成が変われば、光配向膜の屈折率及びその異方性も変化するため、相違点1−3と相違点1−4とをまとめて検討する。
(ア) 令和4年8月18日に特許権者が提出した意見書に添付された甲第11号証(特開2010−175931号公報)には、
光学異方体の液晶配向膜として有用な光配向膜用組成物、及び、該光配向膜用組成物からなる層上に重合性液晶化合物を含有する層を積層し配向させた状態で重合させて得られる光学異方体に関し(【0001】)、
光配向膜材料として、アゾベンゼン誘導体のように光異性化反応をする化合物、シンナメート、クマリン、カルコン等の光二量化反応を生じる部位を有する化合物やポリイミドなど異方的な光分解を生じる化合物があるが、光二量化反応を用いる材料は一般的に高温で行う必要があり、基材がプラスチックの場合には適していない一方(【0009】)、比較的低温で光配向膜を形成でき、かつ、液晶配向能に優れる光配向膜材料としてアゾ化合物が知られている(【0010】)が、アゾ化合物を使用した光配向膜は低分子化合物であるため、光学異方体製造時の光配向膜上に重合性液晶組成物溶液を塗布する工程において、塗布溶液に使用する溶剤等によって、既に作成後の液晶配向膜層が侵されることもあり、膜のはがれ、あるいは均一な光学特性が得られないことがある(【0011】)こと、
光配向膜として感度の高いアゾ化合物(【0028】〜【0039】等)と、該アゾ化合物と相溶性の良好な極性基を有するポリマー(【0047】〜【0052】等)と、該アゾ化合物と相溶するような親水性基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(【0040】〜【0047】等)とを混合した光配向膜溶組成物とする(【請求項1】、【0021】等)ことにより、親水性基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の重合前は、アゾ化合物の感度や液晶配向能を保つことができ、重合後は、アゾ化合物の周りを囲み、有機溶剤等により配向性が乱れたり、はがれが生じることがなく(【0020】等)、極性基を有するポリマーや親水性基を有する化合物により、プラスチック基材との密着性を高めることができる(【0015】〜【0016】、【0020】等)こと、が記載されている。

(イ) 上記(ア)によれば、甲第11号証に記載された、親水性基と(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む光配向膜用組成物は、光配向膜材料がアゾ化合物であることが前提となっていると理解できる。
一方、引用発明の光配向膜の下記の式(3)で表される光配向ポリマーは、アゾ化合物ではなく(アゾ基を有していない)、甲第11号証の【0009】において、「光二量化反応を用いる材料は一般的に高温で行う必要があり、基材がプラスチックの場合には適していない」とされる、シンナメート化合物である。

式(3)


そうすると、引用例1の【0095】に「該配向膜は、偏光膜形成用組成物の塗布などにより溶解しない程度の溶剤耐性を有することが好ましい」との記載、示唆があるとしても、当業者は、甲第11号証に記載の、光配向材料がアゾ化合物であることが前提となっている技術を採用しようとは考えない。
してみると、引用発明において、甲第11号証に記載された技術に基づいて、相違点1−3に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ) 仮に、引用例1の【0095】の記載に基づき、引用発明の光配向膜の溶剤耐性を考慮して、甲第11号証に記載された光配向膜形成用組成物に(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を添加する構成を採用できたとしても、光配向膜の屈折率及びその異方性は、(A)(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の材料(屈折率)、(B)光配向膜形成用組成物における式(3)の光配向ポリマーと(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物の重量比、及び、(C)乾燥条件やUV照射量などの製造条件によって変化するところ、引用発明の式(3)の光配向ポリマーの屈折率が1.55である(上記(1)ア参照)としても、耐溶剤性を考慮して式(3)の光配向ポリマーに(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を添加した光配向膜の屈折率及びその異方性がどの程度となるのか分からない。
してみると、引用例3にも示されているように、有機ポリマー材料の屈折率は一般に1.5〜1.8の範囲に限られているとしても、上記の添加剤に係る設計変更を施した引用発明の光配向膜において、|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|の値が0.3未満となるということはできない。
そして、令和4年3月30日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用例4には、透明基板1と、透明基板1上に配置された配向膜2と、配向膜2上に積層された複数のコレステリック液晶層3、4、5、6と、を備えた偏光反射素子8(【0018】、図2)において、各コレステリック液晶層と配向膜との屈折率の差によって、入射光の界面反射が生じて、出射光の偏光度を悪くする成分が現れるため、界面反射は小さい方が望ましい(【0025】)こと、コレステリック液晶層3の屈折率に対して、積層する各コレステリック液晶層および配向膜の屈折率は95%〜105%であることが望ましい(【0026】)ことが記載されているものの、配向膜と異方性光吸収膜とを有する偏光素子において、|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|の値を0.3未満とすることは記載も示唆もされていない。
令和4年3月30日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用例2、引用例3、引用例5〜引用例10を検討しても、配向膜と異方性光吸収膜とを有する偏光素子において、|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|の値を0.3未満とすることは記載も示唆もされていない。
そうすると、引用発明において、引用例2〜引用例10に記載された技術及び甲第11号証に記載された技術に基づいて、相違点1−4に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(エ) 令和4年8月18日付けの意見書における特許異議申立人の主張について
a 同意見書の「(3−1)添加剤について」において、特許異議申立人は、
「配向膜が光配向膜形成用組成物から形成されること、当該光配向膜形成用組成物が添加剤を含むこと、及び、当該添加剤として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が用いられることは、いずれも従来当業者に知られていたことであって、これらを採用することは容易に想到することができたことである。
一例として、甲第11号証・・・を示す。」、
「甲第11号証の当該記載に接した当業者であれば、甲第1号証の偏光子が備える配向膜の溶剤耐性を高めるべく、添加剤として甲第11号証に開示されている「(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物」を採用することは容易になし得たことである。」と主張する。

b しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲第11号証に記載された光配向材料としてアゾ化合物を前提とする技術を、アゾ化合物ではない式(3)の光配向ポリマーを光配向材料として用いている引用発明に採用しようとは当業者は考えない。また、上記(ウ)で述べたとおり、仮に、引用発明に、甲第11号証に記載の技術を採用できたとしても、|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|の値を0.3未満とすることが、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(オ) 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、相違点1−1〜相違点1−4に係る構成を具備することにより、画像表示装置に適用した際に反射防止機能に優れる偏光素子を提供できる。」(本件特許明細書【0009】)、「高配向度の異方性光吸収膜を用いた場合であっても、反射防止機能に優れた偏光素子が得られる。」(同【0020】)、「波長550nmの光は人の目に視認されやすい波長の光である。そのため、異方性光吸収膜の配向度が高く屈折率の異方性が大きい場合であっても、上記式(1)を満たすことで、反射光がより視認されにくくなるので、異方性光吸収膜と配向膜との界面反射をより抑制できる。そのため、上記式(1)を満たす偏光素子は、画像表示装置に適用した際により優れた反射防止機能を発揮できる。」(同【0079】)という、優れた効果を奏するものである。

(カ) 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明であるということはできない。
また、相違点1−1〜相違点1−2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2〜引用例10に記載された技術及び甲第11号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

4 本件特許発明2、3、5〜17について
特許請求の範囲の請求項2、3、5〜17は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2、3、5〜17は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そうすると、前記(2)のとおり、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明であるということはできない、あるいは、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2〜引用例10に記載された技術及び甲第11号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、本件特許発明2、3、5〜17は、引用例1に記載された発明であるということはできない、あるいは、引用例1に記載された発明、引用例2〜引用例10に記載された技術及び甲第11号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 理由2(実施可能要件)についての当合議体の判断
1 本件特許発明は、「第3 本件特許発明」に記載のとおりであるところ、その異方性光吸収膜の屈折率(Nx、Ny)の測定方法に関し、本件特許明細書の【0013】には、「Woollam社製分光エリプソメトリM−2000U」を用いて測定することが記載されている。

2 ここで、光吸収を有する膜において、エリプソメトリによる屈折率異方性の解析は当業者にとって技術常識である。例えば、乙第3号証〜乙第5号証では、光吸収のある膜の屈折率の波長分散結果が示されており、エリプソメトリにより屈折率及び消衰係数を解析できることが理解できる。

3 そして、上記2の技術常識を備えた当業者であれば、「Woollam社製分光エリプソメトリM−2000U」を用いれば、支持体層、配向膜、異方性光吸収膜がこの順に積層された偏光素子の異方性光吸収膜の屈折率解析を、本件特許明細書の【0109】に記載された「配向度S」の測定のように「偏光素子から異方性光吸収膜を剥離し」なくても、行うことができる。
具体的には、下記の(図A)のように、吸収軸側の空気と異方性光吸収膜との界面の反射光a、透過軸側の空気と異方性光吸収膜との界面の反射光b、配向膜と異方性光吸収膜との界面の反射光c(なお、反射光cは透過軸方向の光である)、及び、配向膜と支持体層との界面の反射光d(なお、反射光dは透過軸方向の光である)、が足し合わされた光の偏光特性を測定し、この偏光特性を再現する光学モデルを探索することで、異方性光吸収膜の吸収軸および透過軸の屈折率、消衰係数を求めることができる。
(図A)


4 そうすると、発明の詳細な説明には、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

第7 むすび
1 請求項1〜3、5〜17に係る特許は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3、5〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

2 本件特許の請求項4は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向膜と、二色性物質を用いて形成された異方性光吸収膜と、を有し、
前記異方性光吸収膜の配向度Sが0.92以上であり、
前記配向膜の波長400〜700nmにおける平均屈折率naveが1.55〜1.80である、偏光素子であって、
前記配向膜が、屈折率調整のための添加剤を含む光配向膜形成用組成物を用いて形成され、前記添加剤が(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物であり、
前記異方性光吸収膜の面内において、波長550nmにおける屈折率が最大となる方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNx550、前記配向膜の屈折率をnx550とし、
前記異方性光吸収膜の面内における屈折率が最大となる方向に面内で直交する方向において、前記異方性光吸収膜の屈折率をNy550、前記配向膜の屈折率をny550としたときに、下記式(1)を満たす、偏光素子。
|Nx550−nx550|+|Ny550−ny550|<0.3 式(1)
【請求項2】
前記配向膜の面内の波長550nmにおける屈折率異方性Δnが0.10以上である、請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
前記屈折率異方性Δnが0.20以上である、請求項2に記載の偏光素子。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記添加剤の波長550nmにおける屈折率が1.40〜1.60であり、
前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550が1.55〜1.75である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
前記配向膜の波長550nmにおける平均屈折率n550に対する、前記配向膜の波長450nmにおける平均屈折率n450の比が、1.0〜1.2である、請求項1〜3および5のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項7】
前記二色性物質の含有量が、前記異方性光吸収膜の全固形分質量に対して、8〜22質量%である、請求項1〜3、5および6のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項8】
前記配向膜の厚みが10nm〜100nmである、請求項1〜3および5〜7のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項9】
前記配向膜がアゾ基を有する光反応性基を有する光活性化合物を用いて形成された光配向膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項10】
前記光活性化合物が、下記式(I)で表される化合物である、請求項9に記載の偏光素子。
【化1】

式(I)中、R21、R22、R23およびR24はそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。ただし、R21、R22、R23およびR24の少なくとも1つは、カルボキシ基、スルホ基またはそれらの塩を表す。
式(I)中、mは1〜4の整数を表し、nは1〜4の整数を表し、oは1〜5の整数を表し、pは1〜5の整数を表す。m、n、oおよびpが2以上の整数である場合、複数個のR21、R22、R23およびR24はそれぞれ、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【請求項11】
前記光配向膜が、屈折率1.50〜1.60のバインダー成分を含み、
前記バインダー成分の含有量が、前記光配向膜の全固形分質量に対して、10質量%以上である、請求項9または10に記載の偏光素子。
【請求項12】
前記配向膜が、ポリアミック酸およびポリイミド化合物の一方または両方を用いて形成された膜である、請求項1〜3および5〜8のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項13】
前記二色性物質が、下記式(II)で表される化合物を含む、請求項1〜3および5〜12のいずれか1項に記載の偏光素子。
【化2】

式(II)中、R31、R32、R33、R34およびR35はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、R36およびR37はそれぞれ独立に水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表し、Q31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基またはシクロヘキサン環基を表し、L31は2価の連結基を表し、A31は酸素原子または硫黄原子を表す。R36、R37およびQ31は、置換基としてラジカル重合性基を有していてもよい。
【請求項14】
前記異方性光吸収膜が、逆波長分散性を示す、請求項1〜3および5〜13のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項15】
さらに基板を有し、
前記基板、前記配向膜および前記異方性光吸収膜をこの順に有する、請求項1〜3および5〜14のいずれか1項に記載の偏光素子。
【請求項16】
請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子と、1/4波長板と、を有する、円偏光板。
【請求項17】
請求項1〜3および5〜15のいずれか1項に記載の偏光素子または請求項16に記載の円偏光板と、画像表示素子と、を有する、画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-09 
出願番号 P2019-511327
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉山 輝和
特許庁審判官 井口 猶二
河原 正
登録日 2020-12-17 
登録番号 6811846
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 偏光素子、円偏光板および画像表示装置  
代理人 三橋 史生  
代理人 三橋 史生  
代理人 伊東 秀明  
代理人 伊東 秀明  

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