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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22B
管理番号 1393981
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-03 
確定日 2022-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6825738号発明「鉱物原料の付着及び詰まり防止方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6825738号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6825738号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6825738号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和2年4月9日に出願され、令和3年1月18日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人片山ナルコ株式会社(以下「異議申立人」という。)により、請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 8月 3日 :異議申立人による特許異議の申立て
令和3年10月 4日付け:取消理由通知書
令和3年12月 3日 :特許権者による訂正請求書及び意見書
令和4年 2月21日付け:取消理由通知書(決定の予告)
(令和4年 3月 1日発送)
令和4年 4月14日 :特許権者による期間延長請求書(20日の延長請求)
令和4年 4月22日 :通知書(決定の予告の発送日から80日以内に延長)
令和4年 5月20日 :特許権者による訂正請求書及び意見書
令和4年 6月21日 :特許権者による上申書
令和4年 7月20日 :面接審理(特許権者による技術説明)

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和4年5月20日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)
なお、令和4年5月20日の訂正請求書による訂正の請求によって、令和3年12月3日の訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記吸水性樹脂に該吸水性樹脂と同質量の水を添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に1分間かける振動篩試験」
と記載されているのを、
「前記吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける振動篩試験」に訂正する。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。

2 訂正の要件(下線は当審で付した。以下同様。)
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「振動篩試験」において「吸水性樹脂に」「水を添加」としていたものを「吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに」「水を霧吹きで添加」とし、さらに「振動篩に入れ」ることを特定することで、「振動篩試験」の内容をより具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、「振動篩試験」の内容を、より明確にするものであるともいえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
そして、訂正事項1による「吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに」「水を霧吹きで添加」すること、及び「振動篩に入れ」ることは、願書に添付した明細書の段落【0029】の「吸水性樹脂として「クリライン(登録商標)S−250」(栗田工業株式会社製;ポリアクリル酸ナトリウム)5.0gをシャーレ上に、ほぼ満遍なく入れ、シャーレに吸水性樹脂と同質量の純水5.0gを霧吹きで添加し、10分間吸水させた。吸水後の吸水サンプルを、篩目が9.5mmの電動篩(「ANF−30」、日陶科学株式会社製)に入れ、振動篩試験前の振動篩上の吸水サンプル(全吸水サンプル)の質量(A)を測定し、振動篩(目開き9.5mm、振動数2800rpm)に1分間かける振動篩試験を行い、」との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項1は、「振動篩試験」の内容をより具体的に限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。

3 独立特許要件
訂正事項1は、訂正前の請求項1ないし4に係るものであって、訂正前の請求項1ないし4は特許異議の申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 一群の請求項
訂正前の請求項2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に伴って訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項を構成する。

5 小括
上記2のとおり、訂正事項1に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
[本件発明1]
「鉱物原料に下記基準に適合する吸水性樹脂を接触させた原料混合物を移送処理設備にて移送乃至処理し、前記鉱物原料の前記移送処理設備での付着及び詰まりを防止する方法であって、
前記基準は、前記吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける振動篩試験を行い、前記振動篩上の吸水サンプルの残存率を下記式(1)により求め、前記残存率が50質量%以下である、鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。
残存率(質量%)=(前記振動篩試験後の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)÷(前記振動篩試験前の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)×100・・・(1)」

[本件発明2]
「前記移送処理設備が、船倉、アンローダ、スタッカ、原料ヤード、リクレーマ、配管、ベルトコンベヤ、ベルトコンベヤ乗継部、コンベヤチェーン、シュート、ホッパー、サイロ、配合槽、粉砕機、調湿炭設備、及び装炭車のうちの少なくともいずれかである、請求項1に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。」

[本件発明3]
「前記吸水性樹脂を、前記移送処理設備で移送する前又は移送途中の鉱物原料に対して散布することにより、前記原料混合物を得る工程を有する、請求項1又は2に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。」

[本件発明4]
「前記吸水性樹脂を、鉱物原料を収容した容器内に添加して撹拌混合することにより、前記原料混合物を得る工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和4年2月21日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

理由1 (明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。

理由2 (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。

1 理由1(明確性)について
異議申立人が特許異議申立書とともに提出した甲第1号証である実験証明書(令和3年7月28日作成)には、訂正前の請求項1に特定されている残存率(以下、「残存率」という。)の測定方法を、訂正前の請求項1及び本件特許の明細書の段落【0029】に記載された条件で、使用する樹脂を「サンフレッシュ ST−500D(三洋化成工業株式会社、ポリアクリル酸ナトリウム)」にして追試した結果が記載されている。

そして、上記追試による、甲第1号証の「(3)実験結果」の「表1」の記載から、残存率は、少なくともシャーレの内径、霧吹きの差異及び吸水サンプルをシャーレから振動篩へ載置する方法によって、数値がばらつくことが理解できる。

しかしながら、訂正前の請求項1〜4及び本件特許の明細書には、シャーレの内径、霧吹きの差異及び吸水サンプルをシャーレから振動篩へ載置する方法をどうするか全く記載されていない。
また、残存率の測定方法は、本件特許に係る出願時において、当業者にとって技術常識であったとも認められない。
そうすると、当業者は、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、特定の吸水性樹脂が、訂正前の請求項1の残存率の数値範囲を満たすか否かを判断することができない程度に不明確である。

よって、訂正前の請求項1に係る発明は明確でない

また、訂正前の請求項2〜4は、訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するから、訂正前の請求項2〜4に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明と同様の理由で明確でない。
したがって、訂正前の請求項1〜4に係る発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(サポート要件)について
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「鉱物原料が移送されたり処理される際、鉱物原料及び吸水性樹脂の混合物である原料混合物の移送処理設備への付着や移送処理設備の詰まり(閉塞)が生じたりするという課題を解決する」こと(明細書の段落【0009】参照)であると認められる。

そして、本件特許の明細書の、発明の詳細な説明における、段落【0034】の【表1】の記載から、吸水性樹脂として、実施例1の「「クリライン(登録商標)S−250」(栗田工業株式会社製;ポリアクリル酸ナトリウム)」及び実施例2の「クリライン(登録商標)S−260(栗田工業株式会社製:ポリアクリル酸ナトリウム)」であれば、模擬ホッパー内に付着する原料混合物試料の質量(ホッパー内付着量)を従来のものと比べて低減できることが確認できる。

しかしながら、残存率が50質量%以下のものであっても、上記実施例1及び上記実施例2以外のものが、付着する原料混合物試料の質量を従来のものと比べて低減できるかどうかは、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、不明である。
また、残存率が50質量%以下のものであれば、付着する原料混合物試料の質量が低減することは、本件特許の出願当時、当業者において技術常識であったとも認められない。

そうであれば、出願時の技術常識に照らしても、訂正前の請求項1〜4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された実施例1及び実施例2の内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

よって、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審の判断
1 理由1(明確性)について
(1)甲第1号証の記載事項
異議申立人が提出した甲第1号証である実験証明書の「5.実験内容及び結果」の「(1)実験条件概要」の記載から、表1の実験1〜5は、吸水性樹脂を「サンフレッシュ ST−500D(三洋化成工業株式会社、ポリアクリル酸ナトリウム)」とし、この「吸水性樹脂5.0gをシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける振動篩試験を行」って、振動篩上の吸水サンプルの残存率を求める実験であることが理解できる。
また、甲第1号証の第2ページの2つの写真から、内径9cmのシャーレ、内径15.5cmのシャーレいずれを使った実験であっても、吸水性樹脂5.0gをシャーレ上に満遍なく入れた状態であるといえる。

したがって、表1の実験1〜5は、「下記式(1)」を「残存率(質量%)=(前記振動篩試験後の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)÷(前記振動篩試験前の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)×100」としたとき、吸水性樹脂「サンフレッシュ ST−500D(三洋化成工業株式会社、ポリアクリル酸ナトリウム)」が、本件発明1に記載された基準である「前記吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける」という試験(以下、「本件発明1の振動篩試験」という。)と同じ条件で「振動篩試験を行い、前記振動篩上の吸水サンプルの残存率を下記式(1)により求め、前記残存率が50質量%以下である」かどうかを判別するための実験である。

そして、実験1〜5の個別の実験条件及び実験結果は、次のア〜オのとおりである。

ア 実験1
(ア)実験条件
シャーレ:内径9cmのガラス製シャーレ。
霧吹き:約5回で水5.0gを噴霧できるものを使用(液滴サイズ「大」)。
シャーレから振動篩への移載手段:刷毛(藤原産業株式会社、SK11 竹ブラシミニ No.127)により吸水サンプルをできる限り変形しないように柔らかく掃くように載置する。
実験結果
残存率:95%。

イ 実験2
(ア)実験条件
シャーレ:内径15.5cmのガラス製シャーレ。
霧吹き:約5回で水5.0gを噴霧できるものを使用(液滴サイズ「大」)。
シャーレから振動篩への移載手段:刷毛(藤原産業株式会社、SK11 竹ブラシミニ No.127)により吸水サンプルをできる限り変形しないように柔らかく掃くように載置する。
(イ)実験結果
残存率:46%。

ウ 実験3
(ア)実験条件
シャーレ:内径15.5cmのガラス製シャーレ。
霧吹き:約9回で水5.0gを噴霧できるものを使用する(液滴サイズ「小」)。
シャーレから振動篩への移載手段:刷毛(藤原産業株式会社、SK11 竹ブラシミニ No.127)により吸水サンプルをできる限り変形しないように柔らかく掃くように載置する。
(イ)実験結果
残存率:87%。

エ 実験4
(ア)実験条件
シャーレ:内径15.5cmのガラス製シャーレ。
霧吹き:約5回で水5.0gを噴霧できるものを使用する(液滴サイズ「大」)。
シャーレから振動篩への移載手段:スパチュラにより力を入れてかき取り載置する。
(イ)実験結果
残存率:87%。

オ 実験5
(ア)実験条件
シャーレ:内径9cmのガラス製シャーレ。
霧吹き:約5回で水5.0gを噴霧できるものを使用する(液滴サイズ「大」)。
シャーレから振動篩への移載手段:スパチュラにより力を入れてかき取り載置する。
(イ)実験結果
残存率:85%。

(2)甲第1号証の実験1〜5の実験結果から把握できること
ア シャーレの内径について
上記(1)の実験1と実験2の比較から、本件発明1の振動篩試験と同じ条件で、さらに霧吹きの液滴サイズが同じ(約5回で水5.0gを噴霧)であり、シャーレから振動篩への移載手段が同じ(刷毛)であっても、シャーレの内径の違いによって、振動篩試験により求められる、吸水性樹脂の残存率(内径9cmのときの残存率が95%、内径15.5cmのときの残存率が46%)に、49%という、大きな差が生ずることが把握できる。

イ 霧吹きの液滴サイズについて
上記(1)の実験2と実験3の比較から、本件発明1の振動篩試験と同じ条件で、さらにシャーレの内径が同じ(内径15.5cm)であり、シャーレから振動篩への移載手段が同じ(刷毛)であっても、霧吹きの液滴サイズの違いによって、振動篩試験により求められる、吸水性樹脂の残存率の数値(約5回で水5.0gを噴霧するときの残存率が46%、約9回で水5.0gを噴霧するときの残存率が87%)に、41%という、大きな差が生ずることが把握できる。

ウ シャーレから振動篩への移載方法ついて
上記(1)の実験1と実験5の比較から、本件発明1の振動篩試験と同じ条件で、さらにシャーレの内径が同じ(内径9cm)であり、霧吹きの液滴サイズが同じ(約5回で水5.0gを噴霧)であっても、シャーレから振動篩への移載手段の違いによって、振動篩試験により求められる、吸水性樹脂の残存率の数値(刷毛のときの残存率が95%、スパチュラのときの残存率が85%)に、10%という、大きな差が生ずることが把握できる。
同様に、実験2と実験4の比較から、本件発明1の振動篩試験と同じ条件で、さらにシャーレの内径が同じ(内径15.5cm)であり、霧吹きの液滴サイズが同じ(約5回で水5.0gを噴霧)であっても、シャーレから振動篩への移載手段の違いによって、振動篩試験により求められる、吸水性樹脂の残存率の数値(刷毛のときの残存率が46%、スパチュラのときの残存率が87%)に、41%という、大きな差が生ずることが把握できる。

エ 残存率について
甲1の実験1〜5は全て同じ樹脂1(サンフレッシュ ST−500D)の残存率を求める実験であるから、本来であればほぼ同一の値になるべきところ、上記ア〜ウのとおりであるから、少なくともシャーレの内径、霧吹きの液滴サイズ及びシャーレから振動篩への移載方法といったパラメータ(以下、「追加の試験パラメータ」という。)を特定しないならば、本件発明1における振動篩試験により求められる吸水性樹脂の残存率の数値には、大きな差が生じ得ることが理解できる。

(3)乙第1号証の記載事項
特許権者が令和4年5月20日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証である結果報告の記載から、乙第1号証の「Table 1 残存率の結果」の表は、吸水性樹脂を「サンフレッシュ ST−500D」とし、この吸水性樹脂について本件発明1の振動篩試験と同じ条件で振動篩試験を行って、振動篩上の吸水サンプルの残存率を上記式(1)により求めた実験結果の表であることが理解できる。

実験1〜5の個別の実験条件及び実験結果は、次のア〜オのとおりである。

ア 実験1
(ア)実験条件:内径9cmのガラス製シャーレ、液滴サイズ「大」、シャーレから振動篩へ刷毛により掃くように載置。
(イ)実験結果:残存率78%。

イ 実験2
(ア)実験条件:内径15.5cmのガラス製シャーレ、液滴サイズ「大」、シャーレから振動篩へ刷毛により掃くように載置。
(イ)実験結果:残存率84%。

ウ 実験3
(ア)実験条件:内径15.5cmのガラス製シャーレ、液滴サイズ「小」、シャーレから振動篩へ刷毛により掃くように載置。
(イ)実験結果:残存率95%。

エ 実験4
(ア)実験条件:内径15.5cmのガラス製シャーレ、液滴サイズ「大」、シャーレから振動篩へスパチュラにより力を入れてかぎ取り載置。
(イ)実験結果:残存率85%。

オ 実験5
(ア)実験条件:内径9cmのガラス製シャーレ、液滴サイズ「大」、シャーレから振動篩へスパチュラにより力を入れてかぎ取り載置。
(イ)実験結果:残存率74%。

(4)乙第1号証の実験1〜5の実験結果から把握できること
乙第1号証の実験1〜5の実験結果の数値(最大は実験3の95%、最小は実験5の74%)から、本件発明1で特定されている条件を全て満たしていても、追加の試験パラメータを調節することで、本来ほぼ同一の値となるべき残存率に最大21%の差が生じていることが把握でき、追加の試験パラメータを特定しないならば、本件発明1における振動篩試験により求められる吸水性樹脂の残存率の数値に、大きな差が生じ得ることが理解できる。

(5)明確性の判断について
吸水性樹脂を鉱物原料に接触させ移送処理設備での付着及び詰まりを防止する方法は異議申立人の提出した甲第2号証である特開昭61−222600号公報に記載された技術(以下、「公知技術」という。)である。そして、本件発明1は、上記公知技術に適する、塊状となりにくい吸水性樹脂を選定するための「基準」を特定するものであり、その基準として「残存率」という概念を採用したものであるから、本件発明1の振動篩試験により求められる、吸水性樹脂の「残存率が50質量%以下」であるか否かは、本件特許に係る発明の課題を解決するために最も重要な構成要件と認められる(明細書の段落【0010】〜【0012】、【0022】、【0035】等参照。)。

本件発明1の振動篩試験に則って求められる残存率の値は、同じ吸水性樹脂について求めた場合はほぼ同じ値になるべきところ、上記(2)及び(4)のとおり、本件発明1の振動篩試験に則って残存率を求めても、追加の試験パラメータを特定しないならば、残存率の数値に大きな差が生じ得る。具体的には、請求人の実験報告書である甲第1号証では上記(2)のとおり49%、41%、41%の差が生じており、被請求人の結果報告書である乙第1号証においても上記(4)のとおり最大21%の差が生じている。また、少なくとも甲第1号証の実験2及び3(上記(1)イ及びウ)並びに乙第1号証の実験2及び3(上記(3)イ及びウ参照。)からは、内径15.5cmのガラス製シャーレを用い、シャーレから振動篩へ刷毛により掃くように載置するという条件を同じにしても、液滴サイズが小さい場合には大きい場合に比べて残存率が有意に大きくなる(甲第1号証において41%の差、乙第1号証において11%の差が生じている。)ことが共通して把握できる。
乙第1号証の差の方が甲第1号証の差より小さいものの、それでも差が生じており、乙第1号証は「公正中立な立場から高度な技術に基づき、解析評価を行う第三者機関」(材料化学技術振興財団のWEBサイトより抜粋)としての業務を担っている、解析評価の専門機関による試験結果であって、恣意的な操作、測定ミス、測定誤差等によって生じた差とは考えにくいことから、これらの差は、追加の試験パラメータを変更したことによる影響であるといえる。
そうであれば、追加の試験パラメータが異なれば、本件発明1の振動篩試験に則って求められる残存率の値について、同一の値が測定できないことは明らかである。
したがって、追加の試験パラメータについて何ら特定していない本件発明1の振動篩試験によって吸水性樹脂の残存量を一意に決めることはできない。

そして、吸水性樹脂を鉱物原料に接触させ移送処理設備での付着及び詰まりを防止する方法自体は上述したとおり公知技術であるが、上記公知技術に適する吸水性樹脂を選定する方法として、ホッパー内に付着する原料混合物試料の質量(ホッパー内付着量)を実測することに代えて、「残存率」を求めることによって吸水性樹脂の適性を判断することが、本件特許の出願当時、当業者にとって周知であった証拠はないから、当該「残存率」を求める際の工程(吸水性樹脂と同質量の水を添加する工程において、液滴サイズをどの程度にするべきか等)が、本件特許の出願当時に周知でなかったことは明らかである。
したがって、追加の試験パラメータについては、本件特許明細書には何ら記載が無いし、本件発明1の振動篩試験により吸水性樹脂の残存率を求める際に追加の試験パラメータをどのように設定しておくべきかが、本件特許の出願当時、当業者において周知でも無かったことから、本件発明1は発明特定事項が不足していることが明らかである。その結果、本件発明1における「残存率が50%以下である」吸水性樹脂に、どのような吸水性樹脂が含まれるのかも明確でない。
また、上述したとおり本件発明1における「残存率」の測定方法が当業者に慣用されているとの証拠はなく、追加の試験パラメータをどのように設定しておくべきか当業者が理解できないから、本件発明1における「残存率」の測定方法を当業者が理解できない。
そうすると、特定の吸水性樹脂が、本件発明1の残存率の数値範囲を満たすか否か判断することができない程度に不明確であり、本件発明1は明確でない。
また、請求項2〜4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するから、本件発明2〜4は、本件発明1と同様の理由で明確でない。
したがって、本件発明1〜4は明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


2 理由2(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「鉱物原料が移送されたり処理される際、鉱物原料及び吸水性樹脂の混合物である原料混合物の移送処理設備への付着や移送処理設備の詰まり(閉塞)が生じたりするという課題を解決する」こと、「すなわち、本発明は、原料混合物の付着性や鉱物原料の搬送性を効率的かつ安定的に改善して、原料混合物の移送処理設備への付着及び移送処理設備の詰まり(閉塞)を防止する方法を提供すること」(明細書の段落【0009】参照)であると認められる。
上記課題を解決するための手段の1つ目として、本件特許の明細書の、発明の詳細な説明における、段落【0034】【表1】には、実施例1として吸水性樹脂S−250のホッパー内付着量が0.2gであり、実施例2として吸水性樹脂S−260のホッパー内付着量が0.3gであることが示されており、【0035】には「実施例1及び2では、・・・比較例1〜3よりも、模擬ホッパー内に付着する原料混合物試料の質量(ホッパー内付着量)を低減することが確認された。」と記載されている。したがって、鉱物原料に接触させる吸水性樹脂が、実施例1の「「クリライン(登録商標)S−250」(栗田工業株式会社製:ポリアクリル酸ナトリウム)」及び実施例2の「クリライン(登録商標)S−260(栗田工業株式会社製:ポリアクリル酸ナトリウム)」であれば、上記課題を解決できることがわかる。
また、上記課題を解決するための手段の2つ目として、本件特許の明細書の、発明の詳細な説明における【0022】及び【0029】には、鉱物原料に接触させる吸水性樹脂を、吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける振動篩試験を行い、前記振動篩上の吸水サンプルの残存率を下記式(1)により求め、前記残存率が50質量%以下である、という基準に適合する吸水性樹脂とすることが記載されている。
残存率(質量%)=(前記振動篩試験後の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)÷(前記振動篩試験前の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)×100・・・(1)
しかし、上記1で検討したとおり、追加の試験パラメータを特定しない場合、当該基準における「残存率」を一意に特定することはできないから、当該基準に適合する吸水性樹脂は、上記課題を解決し得ない吸水性樹脂を含み得ることとなる。

本件特許の請求項1〜4には、上記課題を解決するための手段のうち、2つ目の手段が記載されているのみであるため、発明の詳細な説明において模擬ホッパー内に付着する原料混合物試料の質量(ホッパー内付着量)を比較例と比べて低減できることが確認できている実施例1と実施例2以外の吸水性樹脂を含む記載になっているとともに、上記1(2)及び(4)のとおり、上記基準(本件発明1の振動篩試験)により「残存率」を求めても、追加の試験パラメータを特定しないならば、「残存率」の数値に大きな差が生じ、本件発明1の振動篩試験により、吸水性樹脂の「残存率」を一意に特定することはできないから、本件発明1の振動篩試験に則って算出した残存率が50質量%以下であっても、本件特許に係る発明の課題を解決できない場合を含み得る記載となっている。また、残存率が50質量%以下のものであれば、付着する原料混合物試料の質量を低減させることが、本件特許の出願当時、当業者において技術常識であったとも認められない。
そうであれば、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

よって、本件発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 特許権者の主張について
1 実験の信憑性について
特許権者は、令和3年12月3日に提出された意見書において、本件発明1の振動篩試験において、内径が8.8cmのシャーレを用い(同意見書5(4)(4−3)ア参照。)、水は、1回の霧吹き量が0.7gである霧吹きにて、10回で5gとなるように添加し、(同意見書5(4)(4−3)イ参照。)、スパチュラで操作回数2〜3回で、サンプルの吸水状態を壊さないようにゆっくり入れ(同意見書5(4)(4−3)ウ参照。)ることが、技術常識から当然のこと(同意見書5(4)(4−2)ア〜ウ参照。)であるところ、これらの「追加の試験パラメータ」についての要件を満たしていない甲第1号証である実験証明書に記載された実験2の実験方法は「恣意的実験」であり、実験1〜5の実験は「信頼性に欠ける」から、本件発明1〜4の明確性を否定することができない旨主張している(同意見書5(4)(4−4)及び5(4)(4−5)参照。)。
しかしながら、本件発明1では、追加の試験パラメータである振動篩試験におけるシャーレの内径、霧吹き量、シャーレから振動篩への移載方法について何ら特定されていないし、また、これらの内容が本件特許の出願当時、当業者において技術常識であったとの証拠もない。そうすると、上記実験2並びに実験1及び3〜5の実験方法は、いずれも本件発明1において特定されている要件を満たしており、恣意的なものとはいえない。
したがって、特許権者の上記の主張は採用できない。

2 サポート要件について
特許権者は、令和3年12月3日に提出された意見書において、甲第1号証の実験報告書を採用して本件発明1〜4のサポート要件は満たされないものとすることはできない旨主張している。
しかしながら、上記第5 2のとおりであるから、特許権者の上記の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物原料に下記基準に適合する吸水性樹脂を接触させた原料混合物を移送処理設備にて移送乃至処理し、前記鉱物原料の前記移送処理設備での付着及び詰まりを防止する方法であって、
前記基準は、前記吸水性樹脂5.0gを満遍なくシャーレ上に入れ、該シャーレに前記吸水性樹脂と同質量の水を霧吹きで添加して、10分間経過後の吸水サンプルを目開き9.5mm、振動数2800rpmの振動篩に入れて、該振動篩に1分間かける振動篩試験を行い、前記振動篩上の吸水サンプルの残存率を下記式(1)により求め、前記残存率が50質量%以下である、鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。
残存率(質量%)=(前記振動篩試験後の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)÷(前記振動篩試験前の前記振動篩上の吸水サンプルの質量)×100・・・(1)
【請求項2】
前記移送処理設備が、船倉、アンローダ、スタッカ、原料ヤード、リクレーマ、配管、ベルトコンベヤ、ベルトコンベヤ乗継部、コンベヤチェーン、シュート、ホッパー、サイロ、配合槽、粉砕機、調湿炭設備、及び装炭車のうちの少なくともいずれかである、請求項1に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。
【請求項3】
前記吸水性樹脂を、前記移送処理設備で移送する前又は移送途中の鉱物原料に対して散布することにより、前記原料混合物を得る工程を有する、請求項1又は2に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。
【請求項4】
前記吸水性樹脂を、鉱物原料を収容した容器内に添加して撹拌混合することにより、前記原料混合物を得る工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉱物原料の付着及び詰まり防止方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-26 
出願番号 P2020-070560
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (C22B)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 内田 博之
保田 亨介
登録日 2021-01-18 
登録番号 6825738
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 鉱物原料の付着及び詰まり防止方法  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  
代理人 青木 篤  
代理人 河原 肇  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  
代理人 三橋 真二  
代理人 高橋 正俊  
代理人 胡田 尚則  
代理人 明石 尚久  

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