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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1393982
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-10 
確定日 2022-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6834025号発明「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びインサート成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6834025号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6834025号の請求項1に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6834025号の請求項3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6834025号(以下「本件特許」という。)は、平成31年4月25日(パリ条約に基づく優先権主張 平成30年4月27日、日本国)を国際出願日とする出願(特願2019−556302号)であって、その請求項1〜5に係る発明について、令和3年2月5日に特許権の設定登録がなされ、令和3年2月24日にその特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年8月10日に、請求項1及び請求項3に係る特許に対して、特許異議申立人である東レ株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

1 特許異議申立て以降の経緯
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。

令和 3年 8月10日 :特許異議の申立て
令和 3年11月15日付け:取消理由通知
令和 4年 1月12日提出:意見書の提出(特許権者)
令和 4年 3月15日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 4月 5月19日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和 4年 6月 2日付け:通知書(申立人宛て)
なお、当該通知書に対し、申立人からの応答はなかった。

2 証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証 :特開2005−306926号公報
甲第2号証 :特開2002−129014号公報


第2 訂正の適否についての判断
令和4年5月19日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。
(以下、「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。以下、下線は当審で付与した。)

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上である、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有せず、
粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。」に訂正する。
(訂正前の請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜5も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を、訂正事項1により削除された請求項1を引用しないものに訂正する。

(4)一群の請求項
本件訂正前の請求項2〜5は、それぞれ訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正前の請求項1〜5は一群の請求項である。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による請求項1に係る訂正は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、新規事項の追加、実質は、上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用していたのを、訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、単に、訂正前の請求項2について訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、上記の訂正事項1による訂正前の請求項1の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3は、単に訂正前の請求項3について訂正前の請求項1を引用しないものとするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)本件訂正後の独立特許要件について
上記「第1 手続の経緯」で述べたとおり、本件特許異議の申立ては、本件請求項1〜5に係る特許のうち請求項1、3に係る特許に対して申立てられたものであるから、請求項2、4〜5に係る特許に対しては申立てられていない。
そして、訂正事項3による訂正前の請求項3による訂正は、上記「(3)訂正事項3について」「ア 訂正の目的」で述べたとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正前の請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4〜5も同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされたといえる。
そこで、訂正後の請求項4〜5に係る発明の独立特許要件について検討すると、下記「第6 当審の判断」で述べるように、本件訂正後の請求項3に係る発明には、特許を受けることができないとすべき理由があるとはいえず、本件訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用する本件訂正後の請求項4〜5に係る発明についても、同様に特許を受けることができないとすべき理由があるとはいえないため、本件訂正後の請求項4〜5に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定を満たす訂正であるといえる。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜3による請求項1〜5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5〜7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第6834025号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜5のとおりのものである(以下、請求項1〜5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有せず、
粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項3】
金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が請求項2に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。
【請求項4】
樹脂部材が、前記樹脂組成物の流動末端同士が接合したウェルド部、及び膨張収縮により発生する応力が集中する応力集中部をそれぞれ一以上有し、少なくとも一つのウェルド部及び応力集中部が、少なくとも一部の領域で一致している、請求項3に記載のインサート成形品。
【請求項5】
樹脂部材の少なくとも一つの応力集中部を含む表面の反対側の表面上にゲート痕が形成されている、請求項4に記載のインサート成形品。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が令和3年11月15日付けの取消理由通知及び令和4年3月15日付けの取消理由通知で通知した取消理由は同旨であり、その概要は、以下に示すとおりである。

(1)取消理由A(進歩性
本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立て理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1(新規性
申立理由1−1:本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1−2:本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
申立理由2−1:本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2−2:本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第5 本件明細書及び甲第1〜2号証に記載された事項
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びインサート成形品に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐ヒートショック性、低反り性及び流動性に優れるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びその樹脂組成物を用いたインサート成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は研究の過程で、上記従来の樹脂組成物を用いる場合でも、樹脂の流動末端同士が接合した部分であるウェルド部が、樹脂の膨張収縮により発生する応力が集中する部分である応力集中部と少なくとも一部で一致する位置に形成されているインサート成形品では、その部分が温度変化により破壊されやすく耐ヒートショック性が低下することを知見した。また、ポリアリーレンサルファイド系樹脂にオレフィン系共重合体と共に配合する無機充填剤として、板状、繊維状、及び粉粒状の3種類の無機充填剤を併用することで、樹脂部材のウェルド部が応力集中部に一致するように形成されている場合でも、耐ヒートショック性及び低反り性を両立できることを見出した。さらに、組成物中に含まれる無機充填剤の種類や組み合わせによっては樹脂の流動性が低下することにより成形性が低下する場合があるが、本発明者が見出した無機充填剤の配合では、所定の組成を有する複数のオレフィン系共重合体を組み合わせて用いることで、樹脂組成物の流動性が低下することを抑制しつつ優れた耐ヒートショック性を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐ヒートショック性、低反り性及び流動性に優れるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びその樹脂組成物を用いたインサート成形品を提供することができる。」

(本b)「【0013】
[ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物]
ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂を主成分とする樹脂を含む樹脂組成物である。「主成分とする」とは、樹脂成分中、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上であることを意味する。本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C及びオレフィン系共重合体Dを含有する。
【0014】
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂A)
ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
−(Ar−S)− ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0015】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aは、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。」

(本c)「【0021】
(無機充填剤B)
無機充填剤Bは、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3(以下、単に「無機充填剤B1〜B3」ともいう。)を含有する。無機充填剤Bとして、板状、繊維状及び粉粒状の3種類の無機充填剤B1〜B3を併用することにより、後述するような、樹脂部材のウェルド部が機械的強度の弱い応力集中部に形成されているインサート成形品でも、優れた耐ヒートショック性及び低反り性を両立可能な樹脂組成物にすることができる。
【0022】
本実施形態において、「板状」とは、異径比が4より大きく、かつ、アスペクト比が1以上500以下の形状をいい、「繊維状」とは、異径比が1以上4以下、かつ、平均繊維長(カット長)が0.01〜3mmの形状をいい、「粉粒状」とは、異径比が1以上4以下、かつ、アスペクト比が1以上2以下の形状(球状を含む。)をいう。いずれの形状も初期形状(溶融混練前の形状)である。異径比とは、「長手方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)/当該断面の短径(長径と直角方向の最長の直線距離)」であり、アスペクト比とは、「長手方向の最長の直線距離/長手方向に直角の断面の短径(当該断面における最長距離の直線と直角方向の最長の直線距離)」である。異径比及びアスペクト比は、いずれも、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができる。また、平均繊維長(カット長)はメーカー値(メーカーがカタログなどにおいて公表している数値)を採用することができる。
【0023】
板状無機充填剤B1としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ、各種の金属箔等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上併用することができる。中でも、ガラスフレーク、タルクを好ましく用いることができる。板状無機充填剤B1は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理することができる。表面処理により、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め板状無機充填剤B1に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、または材料調製の際に同時に添加してもよい。
・・・
【0025】
板状無機充填剤B1の含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、20質量部以上85質量部以下であることが好ましく、25質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。板状無機充填剤B1の含有量をポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上にすることで、樹脂組成物の収縮率の異方性を低減することができ、インサート成形品の低反り性を向上させることができる。板状無機充填剤B1の含有量をポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して90質量部以下にすることで、機械的強度や耐ヒートショック性が低下することを抑制することができる。
【0026】
繊維状無機充填剤B2としては、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ−アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質等が挙げられ、これらを1種又は2種以上併用することができる。中でも、ガラス繊維、カーボン繊維を好ましく用いることができる。繊維状無機充填剤B2は、板状無機充填剤B1と同様に表面処理されていてもよい。
・・・
【0028】
繊維状無機充填剤B2の含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、35質量部以上110質量部以下であることが好ましく、40質量部以上110質量部以下であることがより好ましい。繊維状無機充填剤B2の含有量をポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比で30質量部以上とすることで、樹脂組成物の線膨張を低減することができ、インサート成形品の耐ヒートショック性が低下することを抑制することができる。繊維状無機充填剤B2の含有量をポリアリーレンサルファイド系樹脂Aとの質量比で110質量部以下とすることで、樹脂組成物の収縮率の異方性を低減することができ、インサート成形品の低反り性を向上させることができる。
【0029】
粉粒状無機充填剤B3としては、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、各種金属粉末等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上併用することができる。中でも、炭酸カルシウム、ガラスビーズを好ましく用いることができる。
【0030】
粉粒状無機充填剤B3を含有することで、樹脂部材のウェルド部の靱性を向上させ、耐ヒートショック性を高めることができる。粉粒状無機充填剤B3を上記板状無機充填剤B1及び繊維状無機充填剤B2と組み合わせて用い、さらに各成分の組成比を調整することで、板状無機充填剤B1及び繊維状無機充填剤B2の各作用と相乗的に作用を発揮して、ウェルド部の靱性向上、線膨張係数の低下、線膨張係数の異方性の低下、補強効果、及び低反り性の全てを満足できる樹脂組成物とすることができる。これによって、インサート成形品の樹脂部材のウェルド部が機械的強度の弱い領域に形成される場合でも耐ヒートショック性及び低反り性が優れた樹脂組成物とすることができる。加えて、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、加熱溶融されると、硫酸系ガスや塩化水素系ガス等の酸性の金属腐食性ガスを発生する場合があるが、粉粒状無機充填剤B3を含有することで、こうした金属腐食性ガスの発生を抑制することもできる。その結果、金型の取り換え頻度が少なく済む。
・・・
【0032】
粉粒状無機充填剤B3の含有量の下限値は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え、21質量部以上であることが好ましく、23質量部以上であることがより好ましい。粉粒状無機充填剤B3の含有量をポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超える量とすることで、樹脂部材のウェルド部の耐ヒートショック性を向上させることができるとともに、成形時の金属腐食性ガスの発生を抑制することができる。粉粒状無機充填剤B3の含有量の上限値は、樹脂組成物の靭性が低下し、耐ヒートショック性が低下することを抑制する点で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して80質量部以下であり、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。
【0033】
上記した板状、繊維状及び粉粒状の無機充填剤B1〜B3を含む無機充填剤Bの総含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であるが、ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの特性を維持しながら上記無機充填剤B1〜B3の作用を発揮させる点で、ポリアリーレンサルファイド樹脂A100質量部に対して80質量部以上250質量部以下であることが好ましく、100質量部以上220質量部以下であることがさらに好ましい。」

(本d)「【0034】
(オレフィン系共重合体C)
オレフィン系共重合体Cは、共重合成分としてα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有する。こうしたオレフィン系共重合体Cを含有するので、インサート成形品の耐ヒートショック性を著しく高めることができる。オレフィン系共重合体Cは、中でも、さらに(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であることが好ましい。オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0035】
α−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。α−オレフィンは、上記から選択される1種又は2種以上を用いることができる。α−オレフィンに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中1質量%以上8質量%以下とすることができる。
【0036】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、以下の一般式(II)に示される構造を有するものを挙げることができる。
・・・
【0037】
上記一般式(II)で示される化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等を挙げることができる。中でも、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量は、全樹脂組成物中0.05質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに由来する共重合成分の含有量がこの範囲である場合、耐ヒートショック性を維持しつつモールドデポジットの析出をより抑制することができる。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−アミル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルを挙げることができる。中でも、アクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸エステルに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.5質量%以上3質量%以下とすることができる。
・・・
【0041】
オレフィン系共重合体Cとしては、より具体的には、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
・・・
【0044】
オレフィン系共重合体Cの含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、耐ヒートショック性の観点からは、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、9質量部以上であることがさらに好ましい。一方、流動性の観点からオレフィン系共重合体Cの含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して19質量部未満であることが好ましく、18質量部以下であることがより好ましく、17質量部以下であることがさらに好ましい。」

(本e)「【0045】
(オレフィン系共重合体D)
オレフィン系共重合体Dは、以下に記載するオレフィン系共重合体D1及びオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される1以上のオレフィン系共重合体を含む。本実施形態のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、オレフィン系共重合体Cだけでなくオレフィン系共重合体Dを含有することにより、インサート成形品の耐ヒートショック性を高めつつ、樹脂組成物として一定の流動性を有することとなる。
オレフィン系共重合体Dの含有量は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対し合計して3質量部以上30質量部以下であり、5質量部以上25質量部以下がより好ましく、6質量部以上20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0046】
(オレフィン系共重合体D1)
オレフィン系共重合体D1は、共重合成分としてエチレンとα−オレフィンとを含有する。オレフィン系共重合体D1において、α−オレフィンの炭素数は、3〜20が好ましく、5〜20がより好ましく、5〜15がさらに好ましい。なお、オレフィン系共重合体D1はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。オレフィン系共重合体D1は、エチレン5〜95質量%とα−オレフィン5〜95質量%からなる共重合体であってもよい。オレフィン系共重合体D1の具体例としては、エチレン−オクテン共重合体(EO)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブチレン共重合体、エチレン−ペンテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−ヘプテン共重合体等が挙げられ、さらにこれらの共重合体を混合しても使用できる。
【0047】
(オレフィン系共重合体D2)
オレフィン系共重合体D2は、共重合成分としてα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するものであり、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体や、その共重合体を不飽和カルボン酸及びその酸無水物及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種で変性したものであってもよい。オレフィン系共重合体D2におけるα−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。α−オレフィンは、上記から選択される1種又は2種以上を用いることができる。オレフィン系共重合体D2におけるα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等を用いることができる。
変性剤として用いられる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸メチル、無水メチルマレイン酸、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは一種または二種以上で使用される。
オレフィン系共重合体D2の具体例としては、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレンメタクリル酸メチル共重合体等のエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0048】
オレフィン系共重合体Cの含有量とオレフィン系共重合体Dの含有量は、規定範囲内であれば特に限定されないが、耐ヒートショック性の観点から、オレフィン系共重合体Cの含有量は、オレフィン系共重合体Dの含有量と同じか、それ以上であることが、より好ましい。
また、オレフィン系共重合体Dとしては、オレフィン系共重合体D1及びオレフィン系共重合体D2の中でも、オレフィン系共重合体D2を用いることが、より好ましい。」

(本f)「【0049】
(その他の添加剤等)
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ちバリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を要求性能に応じ配合することが可能である。バリ抑制剤としては、例えば、国際公開第2006/068161号や国際公開第2006/068159号等に記載されているような、溶融粘度が非常に高い分岐型ポリフェニレンサルファイド系樹脂、シラン化合物等を挙げることができる。・・・
【0050】
また、樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂成分を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な樹脂であればいずれのものでもよい。・・・
・・・
【0052】
本実施形態のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、耐ヒートショック性、低反り性及び流動性に優れた樹脂組成物であり、かかる特性を生かして、各種用途に有用である。中でも、複雑かつ樹脂部材の肉厚変化が大きい部分を有する構造である、あるいは、高低温度変化が大きい環境下で使用される自動車・車両関連のインサート部材用として、特に好ましく用いられる。・・・
【0053】
[インサート成形品]
図1(A),(B)に、本実施形態に係るインサート成形品の一例を模式的に示す。(A)は斜視図であり、(B)は(A)の平面図である。図1(A)に示すように、インサート成形品1は、インサート部材11と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材12とを有する。インサート部材11は、金属、合金又は無機固体物で形成されており、4つの角部120a〜dを有する角柱状で、一部が樹脂部材12に埋設されている。樹脂部材12は、上記したポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物で形成され、ウェルド部R及び応力集中部130a〜dをそれぞれ一以上有している。これらのうち、ウェルド部R及び応力集中部130aは、少なくとも一部の領域で一致するように形成されている。」

(本g)「【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0061】
[実施例1〜8、比較例1〜17]
以下に示す材料を用いて、表1に示す組成及び含有割合で、ポリアリーレンサルファイド系樹脂、無機充填剤、及びオレフィン系共重合体をドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して溶融混練することで、実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを得た。
【0062】
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂)
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A:ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、株式会社クレハ製「フォートロンKPS」(溶融粘度:20Pa・s(せん断速度:1216sec−1、310℃))
(ポリアリーレンサルファイド系樹脂の溶融粘度の測定)
上記ポリアリーレンサルファイド系樹脂Aの溶融粘度は以下のようにして測定した。
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1216sec−1での溶融粘度を測定した。
(無機充填剤)
板状無機充填剤B1:ガラスフレーク、平均粒子径(50%d)623μm、平均厚み5μm、日本板硝子株式会社製「フレカREFG−108」
繊維状無機充填剤B2:ガラス繊維、平均繊維径10.5μm、平均長さ3mm、日本電気硝子株式会社製「チョップドストランドECS03T−747H」
粉粒状無機充填剤B3:炭酸カルシウム、平均粒子径(50%d)25μm、旭鉱末株式会社製「MC−35W」
(オレフィン系共重合体)
オレフィン系共重合体C:住友化学株式会社製「ボンドファースト7L」、共重合成分として、エチレンを70質量%、メタクリル酸グリシジルエステルを3質量%、及びアクリル酸メチルを27質量%含む。
オレフィン系共重合体D1:エチレンオクテン共重合体、ダウ・ケミカル日本株式会社製「Engage 8440」
オレフィン系共重合体D2:エチレンエチルアクリレート共重合体、株式会社 NUC製「NUC−6570」
【0063】
[評価]
(流動性)
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1000sec−1での溶融粘度(Pa・s)を測定した。結果を表1に示す。溶融粘度が250Pa・s以下の場合、流動性に優れている。
【0064】
(耐ヒートショック性)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物と、JIS G4051:2005 機械構造用炭素鋼鋼材で規定されるS35C製のインサート部材(1.41cm×1.41cm×高さ2.4cmの角柱形状)とを用い、射出成形によりシリンダー温度320℃、金型温度150℃の条件で、図1中の表面Y側にあるゲートから樹脂組成物を金型内に流し込み、樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、図1に示すインサート成形品1を製造し試験片とした。なお、ゲートの位置は、表面Yを平面視したときに、インサート成形品の表面X側の角部の一つ(図1(A)の120a)と重なる位置であった。
この試験片について、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製)を用い、−40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するというサイクルを繰り返し、20サイクル毎にウェルド部Rを観察した。ウェルド部Rにクラックが発生したときのサイクル数を耐ヒートショック性の指標として評価した。結果を表1に示す。サイクル数が190以上である場合に耐ヒートショック性が優れており、220以上である場合に耐ヒートショック性が特に優れている。
【0065】
(低反り性)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を用いて、射出成形によりシリンダー温度320℃、金型温度150℃、保圧力70MPaの条件で、80mm×80mm×厚さ1.5mmの平板状樹脂成形品2を5枚作製した。1枚目の平板状樹脂成形品2を水平面に静置し、株式会社ミツトヨ製のCNC画像測定機(型式:QVBHU404−PRO1F)を用いて、上記平板状樹脂成形品2上の9箇所において、上記水平面からの高さを測定し、得られた測定値から平均の高さを算出した。図2中に黒丸で高さを測定した位置を示す(d1=3mm、d2=37mm)。上記水平面からの高さが上記平均の高さと同一であり、上記水平面と平行な面を基準面とした。上記9箇所で測定された高さから、基準面からの最大高さと最小高さとを選択し、両者の差を算出した。同様にして、他の4枚の平板状樹脂成形品についても上記の差を算出し、得られた5個の値を平均して、反り量の値とした。結果を表1に示す。反り量が少ない程、低反り性が優れている。
【0066】
(金属腐食性)
試験管の底部に実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを4g入れ、金属試験片(SKD−11)をペレット最上部から吊し、試験管上部に栓をして350℃で3時間保持した。その後、金属試験片を調湿箱(23℃、95%RH)中に24時間放置し、得られた金属試験片を目視にて3段階評価した。
3:腐食が確認されなかった。
2:一部に腐食が確認された。
1:大部分に腐食が確認された。
【0067】
【表1】




2 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)ガラス繊維10〜350重量部、(C)エポキシ基、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系重合体0.5〜100重量部、(D)エポキシ樹脂0.5〜100重量部、(E)(E1)ガラスフレークおよび/または(E2)炭酸カルシウム1〜300重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(F)タルクを配合してなり、(F)成分の配合量が(E)成分と(F)成分の合計に対して60重量%以下である請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(G)脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部配合してなる請求項1〜2いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(H)エポキシ基、酸無水物基のいずれの官能基も含有しないオレフィン系重合体0.5〜100重量部配合してなる請求項1〜3いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いて製造された成形体。」

(甲1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、冷熱性、低ソリ性、エポキシ樹脂との接着性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および成形体に関するものである。
「【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す。)は優れた耐熱性、剛性、寸法安定性、および難燃性などエンジニアプラスチックとしては好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに広く使用されている。
【0003】
しかしながら、PPS樹脂は他のエンジニアリングプラスチックに比べ、他樹脂との接着強度、特にエポキシ樹脂との接着強度が比較的低い。また、靱性に劣るため、金属をインサートして使用される用途などにおいて、低温と高温の繰り返しによる冷熱サイクル、あるいはサーマルショックに対して脆く、冷熱性に劣るという問題がある。さらに、ガラス繊維等の繊維状強化材で補強しているため、異方性が生じ、成形体にソリ、ねじれ等の現象が起こり、寸法特性が十分といえるものではなかった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑み、冷熱性、低ソリ性、エポキシ樹脂との接着性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および成形体を提供することを目的としたものである。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明のPPS樹脂組成物および成形体は、冷熱性、低ソリ性、エポキシ樹脂との接着性が均衡して優れている。」

(甲1c)「【0012】
本発明で用いるポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す。)とは、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0013】
【化1】


【0014】
耐熱性の点から、好ましくは上記構造式で示される繰り返し単位含む重合体を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体である。・・・
・・・
【0016】
本発明で用いられるPPSの溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、320℃、せん断速度1000sec−1の条件下の測定値として5〜2000Pa・sec、さらに好ましくは10〜200Pa・secであるのがよい。
【0017】
かかる特性を満たすPPSは、特公昭45−3368号公報で代表される製造方法により得られる比較的分子量の小さな重合体を得る方法、或いは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などの公知の方法によって製造できる。」

(甲1d)「【0021】
本発明で用いる(B)ガラス繊維としては、平均繊維径3〜15μmのものであることが好ましく、特に6〜13μmのものであることが好ましい。ガラス繊維の質としては、SiO2を45〜75重量%含有している無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス)であることが好ましい。
【0022】
かかるガラス繊維をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは耐熱性、機械的強度を高める上でより好ましい。・・・
【0023】
上記(B)ガラス繊維を用いることは、他の必須成分の配合と相俟って耐熱性、機械的強度、冷熱性を高め得る点で好ましい。
【0024】
上記(B)ガラス繊維の配合量は、(A)PPS樹脂100重量部に対して、10〜350重量部であり、好ましくは40〜250重量部、より好ましくは50〜150重量部である。
【0025】
配合量が少な過ぎると、耐熱性、機械的強度、冷熱性が不十分となる傾向にあり、配合量が多すぎると低ソリ性が不十分となる傾向にある。」

(甲1e)「【0026】
本発明で用いる(C)オレフィン系重合体とは、エポキシ基、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系重合体であり、具体的にはオレフィンを(共)重合した重合体にエポキシ基、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体成分(以下、官能基含有成分と略す。)を導入して得られるオレフィン系(共)重合体(以下変性オレフィン系(共)重合体と称することもある)などが挙げられる
・・・
【0031】
本発明で特に有用なオレフィン重合体にエポキシ基、酸無水物基などの官能基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン(共)重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。
【0032】
好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0033】
とりわけ好ましいものとしては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体などが挙げられる。
【0034】
上記(C)オレフィン系重合体を用いることは、他の必須成分の配合と相俟って冷熱性を高め得る点で好ましい。
【0035】
上記(C)オレフィン系樹脂の配合量は、(A)PPS樹脂100重量部に対して、0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは2〜30重量部である。
【0036】
配合量が少な過ぎると冷熱性が不十分の傾向にあり、配合量が多過ぎるとガスの発生量が多く、かつ流動性が不十分となる傾向にある。」

(甲1f)「【0045】
本発明で用いる(E)(E1)ガラスフレーク、(E2)炭酸カルシウムは、単独または併用で使用することが可能である。
【0046】
本発明で用いる(E1)ガラスフレークとしては、通常、厚さ1〜10μm、粒径は数平均で10〜4000μm、SiO2を45〜75重量%含有している無アルカリガラス(Eガラス)、含アルガリガラス(Cガラス)のものを使用することができる。
【0047】
かかる(E1)ガラスフレークをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは耐熱性、機械強度、冷熱性を高める上でより好ましい。
【0048】
(E1)ガラスフレークのカップリング剤付着量は、ガラスフレーク100重量部に対して、0.2〜1.0重量%であることが好ましい。なお、ガラスフレークのカップリング剤付着量はガラスフレーク5gを110℃で1時間予備乾燥する。ガラスフレークの重量を測定し、625℃の雰囲気で15分処理後、再度ガラスフレークの重量を測定する。625℃の処理による重量の減量を、処理前のガラスフレークの重量を徐してパーセント表示したものである。
【0049】
上記(E1)ガラスフレークを用いることは、低ソリ性のみならず冷熱性をも高め得る点で好ましい。
【0050】
本発明で用いる(E2)炭酸カルシウムとしては、鉱石や原石を湿式または乾式で粉砕後、分級等の処理を経て得られる重質炭酸カルシウム、化学反応工程を伴って得られる沈降炭酸カルシウムを使用することができる。これらは、単独、または併用して用いても良い。さらに、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、通常の有機酸系、すなわち脂肪酸、樹脂酸、およびこれらの誘導体、有機酸塩等の表面処理剤および/または分散剤で予備処理して使用することも可能である。
【0051】
上記(E2)炭酸カルシウムを用いることは、低ソリ性を高め得る点で好ましい。
【0052】
上記(E)(E1)ガラスフレークおよび/または(E2)炭酸カルシウムの配合量は(A)PPS樹脂100重量部に対して、1〜300重量部、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは30〜150重量部である。
【0053】
配合量が少な過ぎると低ソリ性が不十分の傾向にあり、配合量が多過ぎると冷熱性、流動性が不十分となる傾向にある。
【0054】
本発明においては、さらに(F)タルクを配合することが可能である。
【0055】
上記(F)タルクとしては、鉱石や原石を湿式または乾式で粉砕後、分級等の処理を経て得られるものを使用することができる。さらに、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、通常の有機酸系、すなわち脂肪酸、樹脂酸、およびこれらの誘導体、有機酸塩等の表面処理剤および/または分散剤で予備処理して使用することも可能である。
【0056】
上記(F)タルクを用いることは、冷熱性、エポキシ樹脂との接着性をさらに高め得る点で好ましい。
【0057】
上記(F)タルクの配合量は(E)成分と(F)成分の合計に対する(F)タルクの割合が60重量%以下であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは0.5重量〜30重量%である。」

(甲1g)「【0058】
本発明においては、さらに(G)脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を配合することが可能である。これらは、1種または2種以上で使用することも可能である。
・・・
【0064】
本発明においては、さらに(H)エポキシ基、酸無水物基のいずれの官能基も含有しないオレフィン系重合体(以下未変性オレフィン系重合体と称することもある)を配合することが可能である。これらは、1種または2種以上で使用することも可能である。
【0065】
上記未変性オレフィン系重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体、カルボン酸金属錯体などのアイオノマーを含有する単量体などが挙げられる。
【0066】
オレフィン系重合体の好適な具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体の亜鉛錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のマグネシウム錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のナトリウム錯体などが挙げられる。
【0067】
上記未変性オレフィン系重合体の配合量は、(A)PPS樹脂100重量部に対して、0.5〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは2〜30重量部である。
【0068】
上記(H)エポキシ基、酸無水物基のいずれの官能基も含有しないオレフィン系重合体を用いることは、冷熱性をさらに高める上で好ましい。」

(甲1h)「【0069】
さらに、本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリアミドエラストマ、ポリエステルエラストマ等の熱可塑性樹脂、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。
・・・
【0071】
本発明により得られたPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など各種公知の成形法により成形することが可能であり、なかでも射出成形により成形することが好ましい。」

(甲1i)「【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0074】
実施例および比較例の中で述べられる冷熱性、ソリ、エポキシ接着強度は次の方法に従った。
【0075】
[冷熱性の評価]
シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で金属ブロックをインサート成形した、図1に示す金属インサートテストピースを用いた。これを130℃×1hrで処理後、−40℃×1hrで処理することを1サイクルとして、冷熱サイクル処理し、10サイクル毎に目視によりクラック発生有無を確認した。クラック発生が認められた冷熱サイクル処理数を耐冷熱性とした。数値が高いほど冷熱性に優れていることになる。
【0076】
図1(a)は金属インサートテストピースの上面図であり図1(b)はその側面図である。
【0077】
48.6mm×48.6mm×28.6mmのインサート金属を射出成形にて、樹脂で被覆する(インサート成形)。得られたテストピースは50mm×50mm×30mmの直方体であり、モールド肉厚は0.7±0.3mmである。
【0078】
[ソリの評価]
シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で35mm×35mm×25mm、肉厚1.5mmの箱型形状の試験片を成形し、ミツトヨ(株)製3次元寸法測定機で内ソリ量を測定した。数値が低いほどソリが優れていることになる。
【0079】
[エポキシ接着強度]
シリンダ温度320℃、金型温度130℃の条件で成形したASTM1号ダンベル片を2等分して、接着面積が50mm2となるようにスペーサ(厚み2.0mm±0.2mm)およびエポキシ樹脂(長瀬チバ(株)製、一液型エポキシ樹脂、XNR3506)を挟んで固定した。これを雰囲気温度130℃で30分の条件で硬化して、歪み速度1mm/min、支点間距離80mmの条件で引張強度を測定し、強度の最大値を接着面積で割った値をエポキシ接着強度とした。数値が高いほどエポキシ樹脂との接着性に優れていることになる。
【0080】
[参考例]
(PPSの製造)
攪拌機付きオートクレーブに水硫化ナトリウム水溶液4.67kg(水硫化ナトリウム25モル)、50%水酸化ナトリウム2.00kg(水酸化ナトリウム25モル)ならびにN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す。)8kgを仕込み、撹拌しながら徐々に205℃まで昇温し、水3.8kgを含む留出水4.1リットルを除去した。残留混合物に1,4−ジクロロベンゼン3.75kg(25.5モル)ならびにNMP2kgを加えて、230℃で1時間、更に260℃で30分加熱した。反応生成物を温水で5回洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥して、230℃で5時間加熱処理して、PPS−1を得た。
【0081】
[実施例および比較例で用いた配合材]
(A)PPS樹脂:PPS−1
【0082】
(B)ガラス繊維:無アルカリガラス、繊維径13μm、カップリング剤付着量0.32重量%。旭ファイバーグラス(株)製:CS 03 MA FT523。
【0083】
(C)変性オレフィン系重合体
変性−1:エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体。住友化学工業(株)製:BF−E。
変性−2:エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体。住友化学工業(株)製:BF−7M。
【0084】
(D)エポキシ樹脂
エポキシ−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂。ジャパンエポキシレジン(株)製:エピコート1009。
【0085】
(E1)ガラスフレーク
GFL−1:無アルカリガラス、厚さ5μm、数平均粒径600μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本板硝子(株)製:REFG−112。
【0086】
(E2)炭酸カルシウム
重炭−1:重質炭酸カルシウム、平均粒径2.0μm、(株)同和カルファイン製:KSS−1000。
沈炭−1:沈降炭酸カルシウム、平均粒径0.9μm、白石工業(株)製:Vigot−HT。
【0087】
(F)タルク
タルク−1:林化成(株)製:PK−S。
【0088】
(G)添加剤
添加剤−1:エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物。共栄社化学(株)製:ライトアマイドWH−255。
添加剤−2:エチレングリコールジモンタネート。クライアントジャパン(株)製:Licowax E。
【0089】
(H)未変性オレフィン系重合体
未変性−1:エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体。三井化学
(株)製:タフマーA4085。
未変性−2:エチレン/エチルアクリレート=66/34(重量%)共重合体。三井デュポンポリケミカル(株)製:エバフレックスEEA A709。
【0090】
実施例1〜10
前述のようにして用意したPPS、ガラス繊維、変性オレフィン系重合体、エポキシ樹脂、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、タルク、添加剤、未変性オレフィン系重合体を表1に示す割合でドライブレンドした後、320℃の押出条件に設定したスクリュー式押出機により溶融混練後ペレタイズした。得られたペレットを乾燥後、射出成形機を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で射出成形することにより、所定の特性評価用試験片を得た。得られた試験片およびペレットについて、前述した方法で冷熱性、ソリ、エポキシ接着強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
ここで得られた樹脂組成物および成形体は、冷熱性、ソリ、エポキシ接着強度が均衡して優れ、実用価値の高いものであった。
・・・
【0104】
【表1】




3 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、(B)無機充填材40〜300重量部および(C)オレフィン系樹脂2.5〜40重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、上記(B)成分が(B1)ガラスフレークおよび(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材であって、(B1)成分および(B2)成分の合計に対する(B1)成分の割合が10〜70重量%、(B2)成分の割合が30〜90重量%であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の灰分が30〜65%である請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】(C)オレフィン系樹脂の少なくとも1種が、(C1)エポキシ基、酸無水物基、アイオノマーから選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系重合体である請求項1〜2いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】(C)オレフィン系樹脂が(C1)エポキシ基、酸無水物基、アイオノマーから選ばれる少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系重合体および(C2)エポキシ基、酸無水物基、アイオノマーの官能基を含有しないオレフィン系重合体である請求項1〜3いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】請求項1〜4いずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を用いて製造された成形体。」

(甲2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低ガス性、特に連続成形時の金型デポジット、冷熱性、低ソリ性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す。)は優れた耐熱性、剛性、寸法安定性、および難燃性などエンジニアプラスチックとしては好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに広く使用されている。
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる問題点に鑑み、低ガス性、特に連続成形時の金型デポジット、冷熱性、低ソリ性が均衡して優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および成形体を提供することを目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガラスフレーク、ガラスフレーク以外の無機充填材、オレフィン系樹脂含有PPS樹脂組成物において、ガラスフレークとガラスフレーク以外の無機充填材を一定範囲内の比率にすることにより、上記問題点が解決されることを見出し、本発明に想達した。」

(甲2c)「【0009】
【発明の実施の形態】本発明で用いるポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略す。)とは、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
・・・
【0011】耐熱性の点から、好ましくは上記構造式で示される繰り返し単位含む重合体を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体である。またPPSはその繰り返し単位の30モル%以下程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
・・・
【0013】本発明で用いられるPPSの溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、320℃、せん断速度1000sec-1の条件下の測定値として5〜2,000Pa・s、さらに好ましくは10〜200Pa・sであるのがよい。」

(甲2d)「【0018】本発明で用いる(B)無機充填材における(B1)ガラスフレークとしては、通常、厚さ1〜10μm、粒径は数平均で10〜4000μm、SiO2を45〜75重量%含有している無アルカリガラス(Eガラス)、含アルガリガラス(Cガラス)のものを使用することができる。また、PPS樹脂組成物および成形体中の上記(B1)の粒径は数平均で5〜500μm、特に、10〜200μであることが、冷熱性、低ソリ性を得る上で好ましい。なお、上記(B1)の数平均粒径はPPS樹脂組成物および成形体を700℃で2時間焼成した後、得られる残存粉体を電子顕微鏡にて観察し、任意の1000個について最も長い部位を測定し数平均したものである。
・・・
【0021】本発明で用いる(B)無機充填材における(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材としては、ガラスフレーク以外は特に制限はなく、繊維状であっても非繊維状であってもよい。かかる繊維状および/または非繊維状充填材は、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、ワラステナイト繊維、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、金属粉末およびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填材を2種以上併用することも可能である。
【0022】かかる(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することも可能である。
【0023】特に、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、タルクを用いることは、低ガス性、冷熱性、低ソリ性のバランスを得る上で好ましい。
【0024】上記(B)無機充填材の配合量は(A)PPS樹脂100重量部に対して、40〜300重量部、好ましくは65〜260重量部、より好ましくは80〜200重量部である。配合量が少な過ぎるあるいは配合量が多過ぎると機械的強度、冷熱性が不十分となる傾向にある。
【0025】上記(B)無機充填材における(B1)ガラスフレークおよび(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材の割合は、(B1)成分および(B2)成分の合計に対する(B1)成分の割合10〜70重量%、(B2)成分の割合が30〜90重量%であり、強度、冷熱性、低ソリ性のバランスを得る上で(B1)成分が15〜65重量%、(B2)成分が35〜85重量%であることが好ましく、(B1)成分が20〜60重量%、(B2)成分が40〜80重量%であることがより好ましい。(B)無機充填材における(B1)ガラスフレークの割合が多すぎると強度が低く、冷熱性が不十分の傾向であり、少なすぎるとソリ、冷熱性が不十分の傾向となり好ましくない。」

(甲2e)「【0026】本発明で用いる(C)オレフィン系樹脂とは、オレフィンを(共)重合した重合体であり、具体的には、オレフィン系(共)重合体、およびそれらにエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分(以下、官能基含有成分と略す。)を導入して得られるオレフィン系(共)重合体(変性オレフィン系(共)重合体)などが挙げられる。【0027】本発明においてオレフィン系樹脂は1種または2種以上で使用することも可能である。
【0028】オレフィン系重合体としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、イソブチレンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などが挙げられる。
【0029】オレフィン系重合体の好適な具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。
・・・
【0035】上記(C)オレフィン系樹脂の配合量は(A)PPS樹脂100重量部に対して、2.5〜40重量部、好ましくは4〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部である。配合量が少な過ぎると冷熱性が不十分の傾向にあり、配合量が多過ぎると流動性、低ガス性、連続成形時の金型デポジット、冷熱性が不十分となる傾向にある。」

(甲2f)「【0036】さらに、本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、・・・等の熱可塑性樹脂、・・・などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。
・・・
【0042】本発明により得られたPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など各種公知の成形法により成形することが可能であり、なかでも射出成形により成形することが好ましい。」

(甲2g)「【0044】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
・・・
【0048】[冷熱性の評価]シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で金属ブロックをインサート成形した、図1に示す金属インサートテストピースを用いた。これを130℃×1hrで処理後、−40℃×1hrで処理することを1サイクルとして、冷熱サイクル処理し、10サイクル毎に目視によりクラック発生有無を確認した。クラック発生が認められた冷熱サイクル処理数を耐冷熱性とした。数値が高いほど冷熱性に優れていることになる。
【0049】図1(a)は金属インサートテストピースの上面図であり図1(b)はその側面図である。
【0050】48.6×48.6×28.6mmのインサート金属を射出成形にて、樹脂で被覆する(インサート成形)。得られたテストピースは50×50×30mmの直方体であり、モールド肉厚は0.7±0.3mmである。
・・・
【0052】[参考例1(PPSの製造)]
PPS−1の製造
攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.205kg(2.5モル)およびNMP5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.719kg(25.3モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄し、次に100℃に加熱されNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾過のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥して、MFR600(g/10min)のPPS−1を得た。
【0053】PPS−2の製造
攪拌機付きオートクレーブに水硫化ナトリウム水溶液4.67kg(水硫化ナトリウム25モル)、50%水酸化ナトリウム2.00kg(水酸化ナトリウム25モル)ならびにN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す。)8kgを仕込み、撹拌しながら徐々に205℃まで昇温し、水3.8kgを含む留出水4.1リットルを除去した。残留混合物に1,4−ジクロロベンゼン3.75kg(25.5モル)ならびにNMP2kgを加えて、230℃で1時間、更に260℃で30分加熱した。反応生成物を温水で5回洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥して、MFR2000(g/10min)のPPS−2を得た。
【0054】PPS−3の製造
上記同様にして重合を行い、230℃で16時間加熱処理して、MFR550(g/10min)のPPS−3を得た。
【0055】[実施例および比較例で用いた配合材]
(A)PPS樹脂:PPS−1、PPS−2、PPS−3
(B1)ガラスフレーク:無アルカリガラス、厚さ5μm、数平均粒径600μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本板硝子(株)製 REFG−111。
【0056】(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材
ガラス繊維:無アルカリガラス、繊維径10μm、カップリング剤付着量0.4重量%。日本電気硝子(株)製 T−747GH。
ガラスビーズ:東芝バロティーニ(株) EGB731B2。
炭酸カルシウム:白石工業(株)製 P−10。
タルク:林化成(株)製 PK−S
(C)オレフィン系樹脂
オレフィン−1:エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(住友化学工業製:BF−E)。
オレフィン−2:エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(三井化学製:タフマーA4085)。
有機シラン化合物:2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
ジエン系エラストマ:スチレン/ブタジエン=30/70(重量%)(旭化成工業製:タフプレン200)。
【0057】実施例1〜9
前述のようにして用意したPPS、ガラスフレーク、ガラスフレーク以外の無機充填材、オレフィン系樹脂、有機シランを表1に示す割合でドライブレンドした後、320℃の押出条件に設定したスクリュー式押出機により溶融混練後ペレタイズした。得られたペレットを乾燥後、射出成形機を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で射出成形することにより、所定の特性評価用試験片を得た。得られた試験片およびペレットについて、前述した方法で灰分、金型デポジット性、冷熱性、ソリを測定した。その結果を表1に示す。
【0058】ここで得られた樹脂組成物および成形体は、低ガス性、特に金型デポジット、冷熱性、ソリのバランスに優れ、実用価値の高いものであった。
・・・
【0071】
【表1】


【0072】
【発明の効果】本発明のPPS樹脂は低ガス性、特に金型デポジット、冷熱性、低ソリ性が均衡して優れている。」


第6 当審の判断
特許異議の申立ての審理対象である請求項1、3のうち、上記「第2 訂正の適否についての判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項1は、本件訂正により削除されているので、請求項1についての申立てを却下する。

当審は、当審が通知した取消理由A及び申立人がした申立理由1−1〜1−2、2−1〜2−2によっては、いずれも、本件発明3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用するものであるが、本件発明2を引用しない形で書き下すと、以下の発明特定事項を有するものであるといえる。

「金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が、
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有せず、
粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。」

2 取消理由A(進歩性)について
申立理由1−1(新規性)、申立理由2−1(進歩性)は、取消理由Aと同様に、本件発明3を対象とする、甲第1号証を主引用文献とする理由であるから、併せて検討する。

(1)甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証の(甲1i)の記載(特に、段落【0080】〜【0090】、【0104】の【表1】。「PPS」は、(甲1b)の段落【0002】の記載からみて「ポリフェニレンスルフィド樹脂」を指すものといえる。)における、実施例6に着目すると、

「ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1) 100重量部
ガラス繊維(CS 03 MA FT523) 75重量部
エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体(BF−7M) 10重量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1009) 5重量部
ガラスフレーク(REFG−112) 25重量部
重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm) 40重量部
エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物(ライトアマイドWH−255) 0.8重量部
からなる樹脂組成物」の発明が記載され、甲第1号証の(甲1i)の段落【0074】〜【0077】には、実施例6の樹脂組成物を用いて、「インサート金属を射出成形にて、樹脂で被覆・・・(インサート成形)」して「テストピース」を得たことが記載されているから、

「ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1) 100重量部
ガラス繊維(CS 03 MA FT523) 75重量部
エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体(BF−7M) 10重量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1009) 5重量部
ガラスフレーク(REFG−112) 25重量部
重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm) 40重量部
エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物(ライトアマイドWH−255) 0.8重量部
からなる樹脂組成物を用いて、インサート金属を被覆したテストピース」 の発明(以下「甲1発明A2」という。)も記載されているといえる。

同様に、甲第1号証の(甲1i)の実施例10に着目すると、
「ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1) 100重量部
ガラス繊維(CS 03 MA FT523) 75重量部
エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(BF−E) 5重量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1009) 5重量部
重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm) 55重量部
タルク(PK−S) 8重量部
エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物(ライトアマイドWH−255) 0.8重量部
エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(タフマーA4085) 5重量部
からなる樹脂組成物」の発明が記載され、甲第1号証の上記摘記の段落【0074】〜【0077】の記載を参酌すると、
「ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS−1) 100重量部
ガラス繊維(CS 03 MA FT523) 75重量部
エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(BF−E) 5重量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1009) 5重量部
重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm) 55重量部
タルク(PK−S) 8重量部
エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物(ライトアマイドWH−255) 0.8重量部
エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(タフマーA4085) 5重量部
からなる樹脂組成物を用いて、インサート金属を被覆したテストピース」の発明(以下「甲1発明B2」という。)も記載されているといえる。

(2)甲1発明A2を引用発明とした検討
ア 対比
本件発明3と甲1発明A2とを対比する。

甲1発明A2の「ポリフェニレンスルフィド樹脂」は、甲第1号証の(甲1c)及び本件明細書の(本b)の段落【0014】〜【0015】の記載からみて、本件発明3の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」に相当する。

甲1発明A2の「ガラス繊維」は、本件明細書の(本c)の段落【0026】の記載からみて、本件発明3の「繊維状無機充填剤B2」に相当する。
また、甲1発明A2の「樹脂組成物」は、「ガラス繊維」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して75重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明A2の「エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体」は、「炭素数2」である「エチレン」と「α,β−不飽和酸のグリシジルエステル」である「グリシジルメタクリレート」を構成単位として有するものであるから、本件発明3の「炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有」する「オレフィン系共重合体C」に相当する。
また、甲1発明A2の「樹脂組成物」は、「エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=64/30/6(重量%)共重合体」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して10重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明A2の「ガラスフレーク」は、本件明細書の(本c)の段落【0026】の記載からみて、本件発明3の「板状無機充填剤B1」に相当する。
また、甲1発明A2の「樹脂組成物」は、「ガラスフレーク」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して25重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明A2の「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」は、本件明細書の(本c)の段落【0029】の「粉粒状無機充填剤B3としては、・・・。中でも、炭酸カルシウム、ガラスビーズを好ましく用いることができる」との記載からみて、本件発明3の「粉粒状無機充填剤B3」に相当するといえる。
また、甲1発明A2の「樹脂組成物」は、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して40重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明A2の「樹脂組成物」の「ガラス繊維」、「ガラスフレーク」、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」の総量は、140重量部(=75重量部+25重量部+40重量部)であるから、甲1発明A2の「樹脂組成物」は、本件発明3と同様に、「無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有」するものであり、「無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下」であるといえる。

甲1発明A2の「樹脂組成物」は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂」を主成分として含むものであるから、本件発明3の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に相当する。

そして、甲1発明A2の「インサート金属」は本件発明3の「金属を用いて形成されたインサート部材」に相当し、さらに、甲1発明A2の「樹脂組成物を用いて、インサート金属を被覆したテストピース」は本件発明3の「インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有」し、樹脂部材」が、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品」に相当するといえる。

そうすると、本件発明3と甲1発明A2とは、
「金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が、
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体Cを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1A:「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」について、本件発明3では、「オレフィン系共重合体Dを含有し」、「オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し」、「オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有しない」のに対し、甲1発明A2では、「オレフィン系共重合体D」に相当する重合体を含有していない点。

相違点1−1B:「粉粒状無機充填剤B3」の「平均粒子径」について、本件発明3では「10μm以上」であるのに対し、甲1発明A2では、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000)」の「平均粒径」が「2.0μm」である点。

イ 判断
事案に鑑み、上記相違点1−1Bについて検討する。

「粉粒状無機充填剤B3」の「平均粒子径」について、本件発明3では「10μm以上」であるのに対し、甲1発明3では「重質炭酸カルシウム(KSS−1000)」の「平均粒径」が「2.0μm」であるから、相違点1−1Bは実質的な相違点であり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点1−1Bについて、甲1発明A2及び甲第1〜2号証の記載から、容易に想到し得たといえるか否かについて検討する。

甲第1号証の(甲1f)の段落【0050】〜【0051】には「(E2)炭酸カルシウム」について記載されているが、その粒径については記載されていない。
また、甲第2号証の(甲2a)の請求項1には、「(B1)ガラスフレーク」および「(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材」を含む「ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物」について記載され、(甲2d)の段落【0021】〜【0022】には「(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材」の例として「炭酸カルシウム」について記載され、(甲2g)の実施例においては、「炭酸カルシウム:白石工業(株)製 P−10」を配合した「樹脂組成物」および「成形体」が記載されているものの、「炭酸カルシウム」を含む「(B2)ガラスフレーク以外の無機充填材」の粒径については何ら記載されていない。
そうすると、甲第1〜2号証には、甲1発明A2における「炭酸カルシウム」として、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」に代えて、「平均粒子径」が「10μm以上」のものを用いる動機付けになる記載があるとはいえない。

したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲1発明B2を引用発明とした検討
ア 対比
本件発明3と甲1発明B2とを、上記「(2)甲1発明A2を引用発明とした検討」「ア 対比」の検討を踏まえて、対比する。

甲1発明B2の「エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体」は、「炭素数2」である「エチレン」と「α,β−不飽和酸のグリシジルエステル」である「グリシジルメタクリレート」を構成単位として有するものであるから、本件発明3の「炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有」する「オレフィン系共重合体C」に相当する。
また、甲1発明B2の「樹脂組成物」は、「エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して5重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明B2の「タルク(PK−S)」は、甲第1号証の段落【0054】〜【0055】の「本発明においては、さらに(F)タルクを配合することが可能である。記(F)タルクとしては、鉱石や原石を湿式または乾式で粉砕後、分級等の処理を経て得られるものを使用することができる」との記載からみて、本件発明3の「粉粒状無機充填剤B3」に相当するといえる。
また、甲1発明B2の「樹脂組成物」は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」を55重量部、「タルク(PK−S)」を「8重量部」含有するものであるから、本件発明3と同様に、「粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明B2の「エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体」は、本件発明3の「エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1」であって「α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位」を含有しない「オレフィン系共重合体D」に相当する。
また、甲1発明B2の「樹脂組成物」は、「エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体」を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」100重量部に対して5重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲1発明B2の「樹脂組成物」の「ガラス繊維、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」、「タルク(PK−S)」の総量は、138重量部(=75重量部+25重量部+40重量部)であるから、甲1発明B2の「樹脂組成物」は、本件発明3と同様に、「無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下」であるといえる。

そうすると、本件発明3と甲1発明B2とは、
「金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が、
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有しないことを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−2A:「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」について、本件発明1では、「板状無機充填剤B1」を「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下」の範囲内で含有するのに対し、甲1発明B2では、「板状無機充填剤B1」を含有していない点。

相違点1−2B:「粉粒状無機充填剤B3」の「平均粒子径」について、本件発明3では「10μm以上」であるのに対し、甲1発明B2では、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000)」の「平均粒径」が「2.0μm」であり、「タルク(PK−S)」の平均粒径が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑み、上記相違点1−2Bについて検討する。

「粉粒状無機充填剤B3」の「平均粒子径」について、本件発明3では「10μm以上」であるのに対し、甲1発明3では「重質炭酸カルシウム(KSS−1000)」の「平均粒径」が「2.0μm」であり、「タルク(PK−S)」の平均粒径が明らかでないから、相違点1−2Bは実質的な相違点であり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点1−2Bについて、甲1発明A2及び甲第1〜2号証の記載から、容易に想到し得たといえるか否かについて検討すると、上記「(2)甲1発明A2を引用発明とした検討」「イ 判断」で述べたとおり、甲第1〜2号証には、甲1発明A2における「炭酸カルシウム」として、「重質炭酸カルシウム(KSS−1000、平均粒径2.0μm)」に代えて、「平均粒子径」が「10μm以上」のものを用いる動機付けになる記載があるとはいえない。
また、「タルク」等の「(B2)ガラスフレーク以外の充填材」についても、甲第1号証の(甲1f)の段落【0054】〜【0057】の記載や、甲第2号証の(甲2d)の段落【0021】〜【0022】、(甲2g)の実施例の記載をみても、甲1発明A2における「タルク」として「平均粒子径」が「10μm以上」のものを用いる、あるいは、「タルク」以外の「(B2)ガラスフレーク以外の充填材」として「平均粒子径」が「10μm以上」のものを用いることを動機付けになる記載があるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、取消理由A(進歩性)、申立理由1−1(新規性)及び申立理由2−1(進歩性)は、理由がない。

3 特許異議申立書に記載された申立理由1−2(新規性)及び申立理由2−2(進歩性)について
申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)のうち、上述したとおり、特許異議の申立ての対象であった請求項1、3のうち請求項1は削除され、また、請求項3に対する申立理由1−1(新規性)及び申立理由1−2(進歩性)については上記「1 取消理由A(新規性)について」において検討したから、特許異議の申立ての対象である請求項3に対する、甲第2号証を主引用文献とする申立理由1−2(新規性)及び申立理由2−2(進歩性)についてのみ、併せて、以下に検討する。

(1)甲第2号証に記載された発明について
甲第2号証の(甲2g)の記載(特に、段落【0048】〜【0050】、【0052】、【0055】〜【0057】、【0071】の【表1】。「PPS−1」は、(甲2b)の段落【0002】の記載からみて「ポリフェニレンスルフィド樹脂」を指すものといえる。)における、実施例5に着目すると、

「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂) 100重量部
ガラスフレーク(B)(REFG−111) 44重量部
ガラス繊維(T−747GH) 67重量部
オレフィン−1(エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(住友化学工業製:BF−E)) 4重量部
オレフィン−2(エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(三井化学製:タフマーA4085)) 4重量部
をドライブレンドした後、320℃の押出条件に設定したスクリュー式押出機により溶融混練後ペレタイズし、得られたペレットを乾燥後、射出成形機を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で金属ブロックをインサート成形した、インサートテストピース」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)検討
ア 対比
本件発明3と甲2発明とを対比する。

甲2発明の「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」は、甲第2号証の(甲2c)及び本件明細書の(本b)の段落【0014】〜【0015】の記載からみて、本件発明3の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A」に相当する。

甲2発明の「ペレット」は、「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」を主成分として含むものであるから、本件発明3の「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」に相当する。

甲2発明の「ガラス繊維(T−747GH)」は、本件明細書の(本c)の段落【0026】の記載からみて、本件発明3の「繊維状無機充填剤B2」に相当する。
また、甲2発明の「ペレット」は、「ガラス繊維(T−747GH)」を「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」100重量部に対して67重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲2発明の「ガラスフレーク(B)(REFG−111)」は、本件明細書の(本c)の段落【0026】の記載からみて、本件発明3の「板状無機充填剤B1」に相当する。
また、甲2発明の「ペレット」は、「ガラスフレーク(B)(REFG−111)」を「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」100重量部に対して44重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲2発明の「オレフィン−1(エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(住友化学工業製:BF−E))」は、「炭素数2」である「エチレン」と「α,β−不飽和酸のグリシジルエステル」である「グリシジルメタクリレート」を構成単位として有するものであるから、本件発明3の「炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有」する「オレフィン系共重合体C」に相当する。
また、甲2発明の「ペレット」は、「オレフィン−1(エチレン/グリシジルメタクリレート=88/12(重量%)共重合体(住友化学工業製:BF−E))」を「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」100重量部に対して4重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満」の範囲内で含んでいるといえる。

甲2発明の「オレフィン−2(エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(三井化学製:タフマーA4085))」は、本件発明3の「エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1」であって「α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位」を含有しない「オレフィン系共重合体D」に相当する。
また、甲2発明の「ペレット」は、「オレフィン−2(エチレン/ブテン−1=82/18(重量%)共重合体(三井化学製:タフマーA4085))」を「PPS−1(ポリフェニレンスルフィド樹脂)」100重量部に対して4重量部含んでいるから、本件発明3と同様に、「オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下」の範囲内で含んでいるといえる。

甲2発明の「ペレット」の「ガラス繊維(T−747GH)」、「ガラスフレーク(B)(REFG−111)」の総量は、111重量部(=67重量部+44重量部)であるから、甲2発明の「ペレット」は、本件発明3と同様に、「無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下」であるといえる。

そして、甲2発明の「金属ブロック」は本件発明3の「金属を用いて形成されたインサート部材」に相当し、さらに、甲2発明の「得られたペレットを乾燥後、射出成形機を用いて、・・・金属ブロックをインサート成形した、インサートテストピース」は本件発明3の「インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有」し、樹脂部材」が、「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品」に相当するといえる。

そうすると、本件発明3と甲2発明とは、
「金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が、
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有しないことを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点2A:「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」について、本件発明3では、「粉粒状無機充填剤B3」を「ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下」の範囲内で含有するのに対し、甲2発明では、「粉粒状無機充填剤B3」を含有していない点。

相違点2B:「粉粒状無機充填剤B3」の「平均粒子径」について、本件発明3では「10μm以上」であるのに対し、甲2発明では、「粉粒状無機充填剤B3」を含有していない点。

イ 判断
相違点2A及び相違点2Bについて併せて検討する。

「ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物」について、本件発明3では、「粉粒状無機充填剤B3」を含んでいるのに対し、甲2発明では、「粉粒状無機充填剤B3」を含有していないから、相違点2A及び相違点2Bは実質的な相違点であり、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

次に、相違点2A及び相違点2Bについて、甲2発明及び甲第1〜2号証の記載から、容易に想到し得たといえるか否かについて検討すると、甲第1号証の(甲1f)の段落【0054】〜【0057】及び(甲1i)の実施例の記載や、甲第2号証の(甲2d)の段落【0021】〜【0022】、(甲2g)の実施例の記載をみると、本件発明3の「粉粒状無機充填剤B3」に相当する「炭酸カルシウム」や「タルク」等「(B2)ガラスフレーク以外の充填材」を配合することは記載されているものの、それらの「平均粒子径」についての記載はない。
そうすると、甲2発明において、甲第1〜2号証の記載から「炭酸カルシウム」や「タルク」等「(B2)ガラスフレーク以外の充填材」を配合することは動機づけられるとしても、それらのうち「平均粒子径」が「10μm以上」のものを用いることが動機付けられるとまではいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、申立理由1−2(新規性)及び申立理由2−2(進歩性)も、理由がない。


第7 むすび
特許第6834025号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。
本件発明1に係る特許に対する申立ては、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂A、無機充填剤B、オレフィン系共重合体C、及びオレフィン系共重合体Dを含有し、
無機充填剤Bが、板状無機充填剤B1、繊維状無機充填剤B2、及び粉粒状無機充填剤B3を含有し、
オレフィン系共重合体Cが、炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含有し、
オレフィン系共重合体Dが、エチレン・炭素数3以上のα−オレフィン系共重合体D1及び炭素数2以上のα−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体D2からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体を含有し、
無機充填剤Bの総含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して70質量部を超え280質量部以下であり、
板状無機充填剤B1の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部以上90質量部以下であり、
繊維状無機充填剤B2の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して30質量部以上110質量部以下であり、
粉粒状無機充填剤B3の含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して20質量部を超え80質量部以下であり、
オレフィン系共重合体Cの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上19質量部未満であり、
オレフィン系共重合体Dの含有量が、ポリアリーレンサルファイド系樹脂A100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であり、オレフィン系共重合体Dがα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有せず、
粉粒状無機充填剤B3の平均粒子径が10μm以上であることを特徴とするポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物。
【請求項3】
金属、合金又は無機固体物を用いて形成されたインサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆う樹脂部材とを有し、樹脂部材が請求項2に記載のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とするインサート成形品。
【請求項4】
樹脂部材が、前記樹脂組成物の流動末端同士が接合したウェルド部、及び膨張収縮により発生する応力が集中する応力集中部をそれぞれ一以上有し、少なくとも一つのウェルド部及び応力集中部が、少なくとも一部の領域で一致している、請求項3に記載のインサート成形品。
【請求項5】
樹脂部材の少なくとも一つの応力集中部を含む表面の反対側の表面上にゲート痕が形成されている、請求項4に記載のインサート成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-31 
出願番号 P2019-556302
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C08L)
P 1 652・ 113- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 橋本 栄和
杉江 渉
登録日 2021-02-05 
登録番号 6834025
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物及びインサート成形品  
代理人 園田・小林弁理士法人  
代理人 伴 俊光  
代理人 細田 浩一  
代理人 園田・小林弁理士法人  

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