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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1394003
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-09 
確定日 2022-11-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6925098号発明「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6925098号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4〕、〔5〕について訂正することを認める。 特許第6925098号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6925098号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成27年2月20日に出願され、令和3年8月5日にその特許権の設定登録がされ、同年8月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年2月9日に特許異議申立人 伊藤 範子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、同年6月17日付けで取消理由が通知された。特許権者は、その指定期間内である同年8月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、同年8月29日付けで特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知書が通知され、その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月21日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年8月12日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、当該訂正請求書に添付した訂正した特許請求の範囲のとおり、以下の訂正事項1及び2を求めるものである。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の請求項4に係る「メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む殺虫剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫剤。」との記載を、
「メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む殺虫剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫剤(但し、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤を除く)。」(下線は訂正による変更箇所を示す。)に訂正する。

(2) 訂正事項2
本件訂正前の請求項5に係る「メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫方法。」との記載を、
「メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫方法(但し、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法を除く)。」(下線は訂正による変更箇所を示す。)に訂正する。

2 訂正の目的の適否
(1) 訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項4の「殺虫剤」について、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」の態様を除くことにより、「殺虫剤」を更に限定するものである。
したがって、上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項5の「殺虫方法」について、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」の態様を除くことにより、「殺虫方法」を更に限定するものである。
したがって、上記訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加についての判断
(1) 訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項4の「殺虫剤」について、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」の態様を除くものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

(2) 訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項5の「殺虫方法」について、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」の態様を除くものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、上記訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

4 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
前記2及び3で検討したとおり、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲を減縮したものであり、発明の対象やカテゴリーを変更するものでもないので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。

(2) 訂正事項2について
前記2及び3で検討したとおり、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲を減縮したものであり、発明の対象やカテゴリーを変更するものでもないので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。

5 小括
以上のとおり、本件訂正の訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付の訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4〕、〔5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、訂正した特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、
活性が、殺虫活性またはノックダウン活性であることを特徴とする活性増強剤。
【請求項2】
前記ノルマルパラフィンが、メンタン骨格を有する化合物の質量に対して0.3〜200倍量となるように使用される請求項1に記載の害虫に対する活性増強剤。
【請求項3】
メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを混合する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、
活性が、殺虫活性またはノックダウン活性であることを特徴とする活性増強方法。
【請求項4】
メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む殺虫剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫剤(但し、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤を除く)。
【請求項5】
メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫方法(但し、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法を除く)。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証〜甲第15号証を提出して、以下の申立ての理由1〜5を主張している。

(1) 理由1(異議申立書第7〜10頁)
(1A) 理由1A(新規性
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(1B) 理由1B(進歩性
請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 理由2(進歩性)(異議申立書第11〜16頁)
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明並びに甲第1及び3〜8号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3) 理由3(進歩性)(異議申立書第17〜21頁)
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第9号証に記載された発明並びに甲第1、8及び9号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4) 理由4(進歩性)(異議申立書第22〜24頁)
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第11号証に記載された発明並びに甲第8及び12〜15号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(5) 理由5(サポート要件)(異議申立書第25頁)
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。



「チャバネゴキブリに対する殺虫活性」と「セイヨウミツバチに対するノックダウン活性」のみの「増強効果」を、「あらゆる昆虫の殺虫活性またはノックダウン活性」の「増強効果」へ一般化ないし拡張することはできないため、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

甲第1号証:特開2009−191016号公報
甲第2号証:Canadian Journal of Plant Science,(加), 73, 1993, p.815-824
甲第3号証:米国特許出願公開第2011/0183017号明細書
甲第4号証:“日本化粧品技術者会ホームページ「トップ>ライブラリー>化粧品用語集>「り」一覧>流動パラフィン」”, [online], [令和3年12月17日検索], インターネット

甲第5号証:特開2011−126875号公報
甲第6号証:Natural Product Communications, Vol. 2(12), 2007, p.1303-1310
甲第7号証:Journal of the American Mosquito Control Association,(米), 25(2), 2009, p.168-173
甲第8号証:日本農薬学会誌, 16, 1991, p.533-543
甲第9号証:特開2005−170853号公報
甲第10号証:山梨衛公研年報, 第38号, 1994, p.65-69
甲第11号証:国際公開第2009/084580号
甲第12号証:特開平4−29903号公報
甲第13号証:特開平1−283253号公報
甲第14号証:国際公開第2011/161426号
甲第15号証:Bulletin of Environment, Pharmacology and Life Sciences,(印), Vol. 1(10), 2012, p.16-20
(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。)
なお、甲2は、理由1における補助的な文献であり、甲10は、理由3における周知技術を示す文献である。

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項4及び5に係る特許に対して、当審において令和4年6月17日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由:(新規性)請求項4及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。

刊行物1:特開2005−170853号公報(甲9)
刊行物2:Canadian Journal of Plant Science,(加), 73, 1993, p.815-824(甲2)
刊行物3:山梨衛公研年報, 第38号, 1994, p.65-69(甲10)
なお、刊行物2及び3は、本願出願時の技術常識を示す文献である。

第5 当審における判断
当審合議体は、上記取消理由で通知した理由及び申立人の申し立てた理由によっては、本件請求項1〜5に係る特許は取り消されるべきではないと判断する。
その理由は次のとおりである。

1 各甲号証及び刊行物の記載について(以下「・・・」は記載の省略を表す。)
(1) 甲1の記載
(1a) 「【請求項1】
炭素数9〜12のアルカンを有効成分としたことを特徴とする害虫の体表ワックス溶解剤。」

(1b) 「【0003】
本発明は前記のような状況を鑑みてなされたものであり、害虫の体表ワックスを十分に溶解することができる害虫の体表ワックス溶解剤を提供することにあり、これによって、殺虫成分を効率的に害虫の体内に到達させて殺虫作用を効果的に発揮させようとするものである。」

(1c) 「【0005】
本発明の害虫の体表ワックス溶解剤によって、ゴキブリ等の害虫の体表ワックスを十分に溶解させることができる。そのため殺虫成分等を併用した際に、体表ワックスにより殺虫成分の害虫の体内への到達が邪魔されることがないので、低濃度であっても十分な殺虫効果を発揮することができる。とくに殺虫性精油類では、より低濃度であっても顕著な殺虫効果を発揮させることができる。これによって、殺虫成分の使用量を軽減でき、安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の害虫の体表ワックス溶解剤(以下、「本発明の溶解剤」ともいう)は、炭素数9〜12のアルカンを有効成分としてなり、該アルカンが作用するものである。
前記アルカンとしては、ノナン(C9H20)、デカン(C10H22)、ウンデカン(C11H24)、ドデカン(C12H26)が挙げられ、これらは炭素数が一様な単独種でも炭素数が異なる混合物でもよく、また直鎖でも分岐したものでも環状(前記分子式のHは2個減じたものとなる)でもよいが、少なくとも分岐したものが存在することが好ましい。
前記アルカンが、炭素数が異なる混合物からなる場合には、デカン及びウンデカンに主ピークを有することが好ましく、直鎖と分岐したものとが混在するものがよい。具体的には、アイソパーH(エクソンモービル社製)、マルカゾールR(丸善石油社製)、IPクリーンLX(出光興産社製)、シェルゾール71(シェル社製)等が挙げられる。
さらに前記アルカンは、沸点が174〜189℃の範囲にあるものが好ましく、具体的には、アイソパーH(エクソンモービル社製)等が挙げられる。」

(1d) 「【0008】
本発明の害虫防除剤は、本発明の溶解剤のみからなるものでも各種殺虫成分、その他の添加剤を含むものでもよい。
本発明の害虫防除剤においては、本発明の溶解剤25〜75容量%に対して、殺虫成分75〜25容量%として用いることが、致死効果、ノックダウン効果に優れるので好ましい。
殺虫成分としては、本発明の溶解剤と混合しやすいものが好ましい。例えば、除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、トランスフルトリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルスリン、デルタメスリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペンスリン、シラフルオフェン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、メトプレン、ハイドロプレン、ピリプロキシフェン等の昆虫成長制御化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。
この他にも、例えば、ロテノン、ディート、P−メンタン−3,8−ジオール、エチル−ブチルアセチルアミノプロピオネート、ヒドロキシアニソール等の害虫忌避成分、ベンジルアルコール、ハッカ油、シトロネラ油、ユーカリ油、ゲラニウム油、蚊連草、オレンジオイル、テルペンレスオレンジオイル、d−リモネン、L−メントール、1,8−シネオール、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、ヒバ油、桂皮油、丁子油等の殺虫性精油類、等の1種又は2種以上を配合することができる。
本発明の溶解剤は、各種害虫の体表ワックスを溶解させることができ、とくに体表ワックスが多いとされるゴキブリに対して優れた溶解作用を有する。そして殺虫成分等を併用した際には、その体内への到達を向上させることができる。各種成分の中でも、オレンジオイル、ハッカオイル、ベンジルアルコール等の殺虫性精油類の体内への到達量をより向上させることができるので、単独では有効量に達しない低濃度の殺虫性精油類を用いても殺虫効果を得ることができる。
本発明の溶解剤は、ゴキブリの他にも、例えば、カメムシ、アリ、ダンゴムシ、ムカデ、クモ等の体表ワックスを有する害虫に対して用いることができる。」

(1e) 「【実施例】
【0009】
以下に本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0010】
1)試験例1
表1に示した検体の各々50mLにクロゴキブリ雌成虫20頭を30分間浸漬した後、前記検体を濾紙を用いて濾過して不純物を除去した。濾過後の検体をエバポレーターで減圧加熱(溶解剤が十分に蒸散する程度に減圧、加熱)して揮発させた。さらに、ホットプレートを用いて200℃で30分間加熱し、残りの検体を蒸発させ、得られた残渣の質量を測定した。結果は、表1に示した。
本試験では、本発明の溶解剤としてアイソパーH(エクソンモービル社製)を用いた。また検体2の混媒(混合溶媒)は、本発明の溶解剤7に対してエタノール9を加えて混媒としたものを用いた。なおネオチオゾール(三光化学工業社製)は、炭素数12〜17の直鎖からなるアルカンである。また従来技術として、両媒性溶剤であるエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。
【0011】
2)試験例2
クロゴキブリ雌成虫を解剖し、背中側の表皮以外を除去した。背中側表皮の外側に検体1〜5を各々200μLかけて体表ワックスを溶解させた後、濾紙上に背側を下にして置いた。そして前記クロゴキブリの腹腔内に、オレンジオイル20μLを滴下し、3分経過後、濾紙の質量を測定しオレンジオイルの体内への透過量を測定した。試験は4回繰り返して行いその平均値を求め、結果を表1に示した。
【0012】
【表1】

【0013】
本発明の溶解剤を用いた検体1〜2はいずれも目視できるほどに残渣が認められ、その質量も多かった。一方、検体4〜6ではいずれも残渣は認められず、その質量もごくわずかであった。
オレンジオイルのクロゴキブリ体内への透過量は、残渣質量に連動した傾向が見られた。ただし検体3については、理由は明らかではないが、残渣質量はある程度認められたが、オレンジオイルの透過量は少ないものであった。
【0014】
3)試験例3
表2に示した各々の検体をクロゴキブリ雌成虫の中胸部の腹側に10μL滴下し、25℃条件下に放置し3時間後の致死数を観察した。クロゴキブリは10頭を用いて行なった。試験の結果は表2に示した。
【0015】
【表2】

【0016】
オレンジオイル10μLでは、致死数は1頭であったのに対して、本発明の溶解剤と組合わせて用いることで、オレンジオイル5μLであっても6頭の致死数となった。本発明の溶解剤10μLのみでは致死数が2頭であることを鑑みれば、ゴキブリの体表ワックスが本発明の溶解剤により溶解されて、オレンジオイルがゴキブリ体内へ十分に到達した結果、致死数が増大したものと考えられる。このような結果は、他の成分では認められなかった。
以上の試験例1〜3の結果より、本発明の溶解剤のみが害虫の体表ワックスの溶解作用に優れ、かつ、殺虫成分を体内に十分に到達させることができることがわかった。
【0017】
4)試験例4
表3に示した各々の検体をクロゴキブリ雌成虫の中胸部の腹側に10μL滴下し、経時的に致死又はノックダウンした個体数を観察した。試験はクロゴキブリ10頭を用いて3回繰り返して行い、その合計数を結果として表3に示した。
【0018】
【表3】

【0019】
試験の結果、アイソパーH25〜75容量%に対して、オレンジオイル75〜25容量%とすることで、致死及びノックダウンした個体数が多く、害虫防除剤としての効果に優れることがわかった。特にアイソパーH25〜50容量%に対して、オレンジオイル75〜50容量%とするのが好適であった。
【0020】
以下、本発明の害虫防除剤の製剤例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
製剤例1(表4に示す)
【0021】
【表4】

【0022】
製剤例1において、エアゾール剤とする際には、害虫防除剤10〜50容量%、好ましくは20〜30容量%に対して、噴射剤50〜90容量%、好ましくは70〜80容量%となるように、噴射装置を備えた耐圧容器に加圧充填すればよい。
また、製剤例1において、加圧スプレー剤とするには、害虫防除剤をそのまま噴射装置を備えたスプレー容器に充填すればよい。
【0023】
製剤例2(表5に示す)
【0024】
【表5】

【0025】
製剤例2において、エアゾール剤とする際には、害虫防除剤10〜30容量%、好ましくは15〜30容量%に対して、噴射剤70〜90容量%、好ましくは70〜85容量%となるように、噴射装置を備えた耐圧容器に加圧充填すればよい。
また、製剤例2において、加圧スプレー剤とするには、害虫防除剤をそのまま噴射装置を備えたスプレー容器に充填すればよい。」

(2) 甲2(刊行物2)の記載(訳文にて示す。)
(2a) 「Murrayら(1998)は、一般的なハッカ油は理想的に約20%のメントンと8%の酢酸メンチルを含むことを示唆した。(決定注:原文の「methone」は「menthone(メントン)」の誤記とした。)」(第822頁左欄第14〜16行)

(3) 甲3の記載(訳文にて示す。)
(3a) 「[請求項1]
(a) レモングラス油及び(b) p−メンタン−3,8−ジオールを含む昆虫忌避組成物。」

(3b) 「[0015] 本明細書で使用される場合、「殺虫剤」又は「忌避剤」という用語は、あらゆる昆虫を殺すか、制御するか、又は忌避するために使用されるあらゆる物質又は物質の混合物を指す。本明細書において、定義される殺虫剤又は忌避剤は、飛翔する昆虫(例えば、蚊)を殺すか、制御するか、又は忌避するための好ましい用途を有する。しかし、記載されている殺虫剤製剤は、ダニ、ダニ(ライム病)、及び他の多くの昆虫に対しても有効である。
[0016] 本明細書で用いられる略語「PMD」は、p−メンタン−3,8−ジオールを意味する。」

(3c) 「[0032] 以下の実施例は、本発明を非限定的に説明する。
実施例1
二相製剤
昆虫忌避ローション
[0033]

[0034] 以下の実施例のローション処方物における忌避剤配合の使用レベルは、26.5重量%であった。
[0035] バニリンは最後に処方物に添加した。バニリンを添加する前に、加熱をPMDに適用し、その結果、混合物の導入に適した粘度を有するようになる。得られた組成物は、べたつかない感触を有し、ライトオイルの粘度を有している。
[0036] 使用者の皮膚に適用されるべき上記処方物の適切な量は、約2ml/肌1000cm2である。その処方物は、透明な二相製剤であり、そして適当なプラスチック容器(好ましくはPET)に充填することができ、使用者が塗る前に激しく振とうするべきである。

実施例2
一相製剤
[0037] 以下の成分を、下記の通り混合した。

手順
[0038] 1.適切な容器中で、ミネラルオイルとアイソパーL(Isopar L)とp−メンタン−3,8−ジオールを混合する。PMDは、液状であるために、僅かに加熱される必要がある(100°F)。この溶液は透明であるべきである。
[0039] 2.別の容器中で、バニリンが完全に溶解し、溶液が透明になるまで、酢酸イソノニル、レモングラス油及びバニリンを混合する。非常に僅かな加熱で、この工程は高速化される(100°F)。
[0040] 3.撹拌しながら、2.工程のものを1.工程のものに添加し、均一になるまで混合する。
[0041] 処方物は透明であるべきであり、そして適当なプラスチック容器(好ましくはPET)に充填することができる。」

(4) 甲4の記載
(4a) 「流動パラフィン[liquid paraffin]
おもに炭素数15〜35の飽和炭化水素の混合物で、無色、透明、無臭の常温で油状の液体で、ミネラルオイルともいう.」(第1、2行)

(5) 甲5の記載
(5a) 「【0048】
製剤例7
本エステル化合物A0.02部、上述の(i)〜(viii)の本環状化合物のいずれか1種の化合物0.02部及びネオチオゾール(流動パラフィン、中央化成社製)49.96部をエアゾール容器に入れ、該エアゾール容器にバルブ部分を取付け、該バルブ部分を通じて噴射剤(ジメチルエーテル/液化石油ガス1/1混合物)50部を充填してエアゾールを得る。
【0049】
製剤例8
本エステル化合物A0.02部、上述の(i)〜(viii)の本環状化合物のいずれか1種の化合物0.08部及びネオチオゾール(流動パラフィン、中央化成社製)49.90部をエアゾール容器に入れ、該エアゾール容器にバルブ部分を取付け、該バルブ部分を通じて噴射剤(ジメチルエーテル/液化石油ガス1/1混合物)50部を充填してエアゾールを得る。
【0050】
製剤例9
本エステル化合物A0.1部、上述の(i)〜(viii)の本環状化合物のいずれか1種の化合物0.4部、ミリスチン酸イソプロピル6部及びネオチオゾール(流動パラフィン、中央化成社製)23.50部をエアゾール容器に入れ、該エアゾール容器にバルブ部分を取付け、該バルブ部分を通じて噴射剤(ジメチルエーテル/液化石油ガス1/1混合物)70部を充填してエアゾールを得る。
【0051】
製剤例10
本エステル化合物A0.02部、上述の(i)〜(viii)の本環状化合物のいずれか1種の化合物0.02部、ネオチオゾール(流動パラフィン、中央化成社製)5.96部およびミリスチン酸イソプロピル3部、並びに、レオドールMO−60(オレイン酸グリセリル/プロピレングリコール、花王社製)0.8部及びレオドールTW−O120(ポリソルベート80、花王社製)0.2部を混合・溶解したものと、水40部とをエアゾール容器に入れ、該エアゾール容器にバルブ部分を取り付け、該バルブ部分を通じて噴射剤(ジメチルエーテル/液化石油ガス1/1混合物)50部を充填してエアゾールを得る。
【0052】
製剤例11
本エステル化合物A0.02部、上述の(i)〜(viii)の本環状化合物のいずれか1種の化合物0.08部、ネオチオゾール(流動パラフィン、中央化成社製)5.90部およびミリスチン酸イソプロピル3部、並びに、レオドールMO−60(オレイン酸グリセリル/プロピレングリコール、花王社製)0.8部及びレオドールTW−O120(ポリソルベート80、花王社製)0.2部を混合・溶解したものと、水40部とをエアゾール容器に入れ、該エアゾール容器にバルブ部分を取り付け、該バルブ部分を通じて噴射剤(ジメチルエーテル/液化石油ガス1/1混合物)50部を充填してエアゾールを得る。」

(6) 甲6の記載(訳文にて示す。)
(6a) 「

」(第1306頁右欄)

(7) 甲7の記載(訳文にて示す。)
(7a) 「各忌避剤の相対毒性を比較するために、各化合物をアセトンで連続的に希釈し、個々の蚊に局所投与した。」(第169頁左欄第31〜34行)

(7b) 「




」(第171〜172頁)

(8) 甲8の記載(一部訳文にて示す。)
(8a) 「そこでこれらの溶剤自身の毒性を調べるため,直接微量施用法にてイエバエおよびアカイエカに対する半数致死薬量(LD50)を求めた.結果をTable3に示す.・・・溶剤自身の毒性は殺虫剤の毒性と比べるとはるかに弱く,通常の空間噴霧殺虫試験において溶剤のみを噴霧してもほとんどノックダウン活性がみとめられないことから,各溶剤による殺虫効力の差は昆虫の表皮を通じて薬剤が体内に浸透移行する際の移行速度が溶剤によって異なることによると考えられた.溶剤自身の毒性の差も,昆虫表皮を通じての溶剤の浸透移行性の差に大きく依存していると思われるが,いくつかの溶剤では昆虫体内における生理活性自体がその他の溶剤と異なっているとも考えられた.」(第540頁左欄下から6行〜右欄最終行)

(8b) 「表3(Table3) 直接微量施用法によるイエバエ(Housefly)及びアカイエカ(Mosquito)に対する多種類の溶剤(Solvent)の毒性

」(第540頁左欄)

(8c) 「すなわち,薬剤のイエバエ皮膚透過性は溶剤により異なり,n−ドデカンは最も皮膚透過性を促進するものと考えられた.」(第542頁右欄第3〜5行)

(9) 甲9(刊行物1)の記載
(9a) 「【請求項1】
ハッカ油(A)、l−メントール(B)および灯油(C)を有効成分とするスプレー組成物であって、・・・を特徴とする殺ゴキブリ用スプレー剤。」

(9b) 「【0003】
害虫の中でもゴキブリは、食物の豊富化および暖房設備の普及に伴い、家庭内やレストラン厨房はもとより、列車の車内にまで現れている。ゴキブリは、人に非常に嫌われているのみならず、衛生性の点でも駆除されるべきである。」

(9c) 「【0016】
本発明の殺ゴキブリ用スプレー剤は、ハッカ油(A) 、l−メントール(B) および灯油(C) という安全性の高い成分を用いながらも、それらの割合を特定の範囲に設定することにより、それをゴキブリに向けてスプレーしたときに、一吹きの噴霧(噴射)のようなごく短時間のスプレーでゴキブリをノックダウンさせ、そのノックダウンと同時にまたはそのノックダウン後すみやかに死亡に至らせることができる。なお、灯油(C) は、溶剤の役割も果たしているが、ハッカ油(A) およびl−メントール(B) との相乗作用により主要な有効成分の役割を果たしている。」

(10) 甲10(刊行物3)の記載
(10a) 「灯油は炭素数が8から16付近までのn−アルカンが主成分で・・・」(第66頁左欄第27〜29行)

(11) 甲11の記載
(11a) 「[0001] 本発明は、匍匐害虫、特にゴキブリを対象とした匍匐害虫忌避剤並びに匍匐害虫の忌避方法に関するものである。」

(11b) 「[0010] 本発明では、好ましくは、p−メンタン−3,8−ジオール及び/又はp−メンタン−1,8−ジオールと、更に、沸点の中央値が160〜250℃である溶剤を効力増強剤として配合する。このような溶剤としては、グリコール、グリコールエーテル、脂肪族炭化水素系溶剤等が挙げられ、特に、グリコール、グリコールエーテル、灯油が好ましい。
具体的には、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−1,2−プロパンジオール等を例示できるが、これらに限定されない。」

(11c) 「[0030]実施例1ないし13及び比較例1ないし4
[濾紙忌避効力試験]
表1に示す各種匍匐害虫忌避剤試料(実施例1ないし13及び比較例1ないし4)を調製し、直径15cmの濾紙に所定量含浸させ風乾した。プラスチックコンテナ(40cm×60cm)にクロゴキブリ15匹(雄成虫、雌成虫、幼虫を各5匹)を放ち、前記濾紙をコンテナ内に設置するとともに、4ヶ所の出入り口(幅2cm、高さ2cm)を有する直径15cmの紙製カップを濾紙に被せた。同様に、試料処理に用いたのと同じ大きさの濾紙及び紙製カップを設置して無処理区とした。
水と実験動物用飼料を中央に置き、8時間後に両紙製カップ内に潜伏するゴキブリ数を数え、次式に従って忌避率を算出した。試験は8回繰り返しその平均値を表1に示した。
忌避率(%)=[無処理区の潜伏虫数−試料処理区の潜伏虫数]/[無処理区の潜伏虫数+試料処理区の潜伏虫数]×100
[0031][表1]



(12) 甲12の記載
(12a) 「〈産業上の利用分野〉
本発明は家庭用、業務用に適した寝具類に生息または付着したダニ類の防除方法に関するものである。」(第1頁左下欄第10〜12行)

(12b) 「実施例1
本発明の有効成分の各種ダニに対する殺ダニ効果をガス化法により調べた。また従来用いられている殺ダニ類と同様の方法で比較した。有効成分としてはイソサルフォール(以下A物質とする)、サルチル酸メチルエステル(以下B物質とする)、シトラール(以下C物質とする)、シトロネラール(以下D物質とする)、ゲラニルアセテイト(以下E物質とする)、ベンジルアセテイト(以下F物質とする)、エチルイソバネレイト(以下G物質とする)、β-フェネチルアセテイト(以下H物質とする)、l−メントール(以下I物質とする)、酢酸l-メンチル(以下J物質とする)、サルチル酸ブチル(以下K物質とする)、ベンジルプロピオネート(以下L物質とする)、イソオイゲノール(以下M物質とする)を用い、また従来用いられている殺ダニ剤としてはd-T80-レスメトリン、ペルメトリンを用いた。また、混合物についてはカッコ内に配合比率を記載した。
まずガス化法は、腰高シャーレ(φ9cm×6cm)の蓋にろ紙(2cm×2cm)を貼り付け、これに有効成分をアセトンに溶解して薬剤とし、該有効成分の含量が10mgになるよう薬剤を含浸させる。腰高シャーレ中に各種のダニを100から200頭をいれ、先の処理紙を貼付した蓋をもちいて密封する。24時間経過の時点で曝露を中止し、曝露中止後24時間経過後に実体顕微鏡下で各種ダニ類の生死を判定し、その結果を表1に示した。」(第4頁右上欄第14行〜左下欄第18行)

(12c) 「

」(第4頁右下欄)

(13) 甲13の記載
(13a) 「〔産業上の利用分野〕
本発明はp-メンタン-3,8-ジオール誘導体およびその用途、すなわち殺虫剤、有害生物忌避剤および植物生長調節剤としての用途に関する。」(第2頁左上欄下から第4〜1行)

(13b) 「〔発明が解決しようとする課題〕
p-メンタン-3,8-ジオールは、昆虫の忌避剤として広く使用されているN,N-ジエチルトルアミドと比較して同等以上の忌避効果を有し、かつ殺虫効果、植物生長調節効果を合わせ持ち、臭いがほとんどないという特徴があるが、揮発性が大きくて野外散布した場合には効果が持続しない欠点がある。」(第2頁右上欄下から第5行〜左下欄第3行)

(13c) 「実施例9.
本発明のp-メンタン-3,8-ジオール誘導体の殺虫効果を調べた。
表2に示す各試験液100gをシャーレにとり、開放したままの状態で屋外の日当りの良い場所に雨水等が混入しないように放置し、一定期間経過後に揮発減量した重量に相当するイオン交換水を補給したのち、以下の試験に供した。
ナメクジ、ヤスデ、ヨトウムシ各3匹ずつをシャーレにとり、各試験液5mlをハンドスプレーを用いて噴霧し、つぎの基準により殺虫性を評価した。
○・・・・・・ほとんど瞬間的に死滅した。
△・・・・・・死滅したが、時間がかかった。
×・・・・・・死滅しなかった。
試験結果を表3に示す。
つぎに植物への影響を確かめるために、ベゴニア・センパフローレンスとペチュニアに調製直後の各試験液を5ml噴霧し、以下の基準により評価した。
○・・・・・・全く影響がなかった。
△・・・・・・花または葉にしみがついた。
×・・・・・・枯れた部分が生じた。
試験の結果を表3に示すが、本発明のp-メンタン-3,8-ジオール誘導体が優れた殺虫性を持ち、かつ持続性が高く、植物への影響も少ないことがわかる。」(第9頁左上欄第1行〜右上欄第7行)

(14) 甲14の記載(訳文にて示す。)
(14a) 「より具体的には、本発明は、p-メンタン-3,8-ジオールを含有する殺虫剤組成物であって、特に、p-メンタン-3,8-ジオールを高濃度(例えば、70〜85重量%)含有する殺虫剤組成物に関するものである。」(第1頁第5〜7行)

(14b) 「Citrepel○R(決定注:原文は○の中にRであり、以下同様。)は、p-メンタン-3,8-ジオール(70〜85重量%溶液)」(第17頁第3行)

(14c) 「結果

これらの結果は、Citrepel○Rがイエダニの個体数の低減において非常に有望な処方剤であることを示している」(第18頁第5行〜下から第3行)

(15) 甲15の記載(訳文にて示す。)
(15a) 「表1:ハーブオイル及び粉末のリスト
Sr.No. 学名 一般名 化学成分
・・・
3 Eucalyptus globulus Eucalyptus p-メンタン-3,8-ジオール(95%)」(第17頁)

(15b) 「表2:15%濃度の異なるハーブオイル及び粉末(及び組合せ)の生物活性
ハーブオイル/粉末 コイルにおける量(%) ノックダウン時間(分)割合
KT50 KT90
・・・
Eucalyptus 15%オイルスプレー 52.91 88.99」(第19頁)

2 当審において通知した取消理由(新規性)の判断

(1) 刊行物1(甲9)に記載された発明
ア 刊行物1は、ハッカ油(A)及び灯油(C)を含む殺ゴキブリ用スプレー剤に関する特許文献であって(摘記(9a))、害虫であるゴキブリを駆除するべく(摘記(9b))、当該殺ゴキブリ用スプレー剤をゴキブリに向けてスプレーしたときに、ゴキブリをノックダウンさせ、そのノックダウンと同時にまたはそのノックダウン後すみやかに死亡に至らせることが記載されている(摘記(9c))。

イ ここで、刊行物2(甲2)における摘記(2a)を技術常識として参照すると、ハッカ油には酢酸メンチルが含まれることが理解でき、刊行物3(甲10)における摘記(10a)を技術常識として参照すると、灯油は炭素数が8から16付近までのn−アルカンが主成分であると理解できる。

ウ そうすると、上記技術常識を考慮すると、刊行物1には、以下の発明が記載されているといえる。
「酢酸メンチルおよび炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含む殺ゴキブリ用スプレー剤。」(以下「刊1発明A」という。)

また、上記スプレー剤をゴキブリに適用し死亡させることも記載されているので、以下の発明も記載されているといえる。
「酢酸メンチルおよび炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含む殺ゴキブリ用スプレー剤をゴキブリにスプレーする殺ゴキブリ方法。」(以下「刊1発明B」という。)

(2) 対比・判断

ア 本件発明4について
(ア) 本件発明4と刊1発明Aとの対比
刊1発明Aの「殺ゴキブリ用スプレー剤」は、刊行物1において、害虫であるゴキブリを殺すためものであるから(摘記(9b))、本件発明4の「殺虫剤」に相当するといえる。
また、刊1発明Aの「炭素数が8から16付近までのn−アルカン」は、本件特許明細書【0009】における「ノルマルパラフィンは、一般に石油の分留によって得られる直鎖型飽和炭化水素の単体または混合物であり、混合物には、含まれる直鎖型飽和炭化水素の種類によって種々のものが存在する」との記載を参酌すると、本件発明4で記載が引用される請求項1の「ノルマルパラフィン」に相当するものである。
そして、刊1発明Aの「酢酸メンチル」は、本件発明4の「メンタン骨格を有する化合物」であって、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチル」であることに相当する。
したがって、本件発明4と刊1発明Aとは、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含む殺虫剤であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である殺虫剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点D9−1:本件発明4は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種」であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、刊1発明Aは、そのような特定がない点

相違点D9−2:本件発明4は、殺虫剤から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」が除かれているのに対して、刊1発明Aは、そのような特定がない点

(イ) 相違点の検討
まず、相違点D9−2について検討すると、刊1発明Aは酢酸メンチルおよび炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含むスプレー剤であるものの、摘記(9a)によると、刊行物1に記載された発明は、刊1発明Aも含めて、そもそも「ハッカ油(A)、l−メントール(B)および灯油(C)を有効成分とするスプレー組成物」の「殺ゴキブリ用スプレー剤」であることが前提であって、本件発明4は当該スプレー剤を除いているから、相違点D9−2は実質的な相違点であり、相違点D9−1について検討するまでもなく、本件発明4は刊1発明Aとはいえない。

よって、本件発明4は刊行物1に記載された発明ではない。

イ 本件発明5について
(ア) 本件発明5と刊1発明Bとの対比
刊1発明Bの「殺ゴキブリ用スプレー剤」は「混合物」であり、刊1発明Bの「ゴキブリにスプレーする殺ゴキブリ方法」は、本件発明5の「害虫に噴霧する殺虫方法」に相当するといえる。
また、刊1発明Bの「炭素数が8から16付近までのn−アルカン」は、本件特許明細書【0009】における「ノルマルパラフィンは、一般に石油の分留によって得られる直鎖型飽和炭化水素の単体または混合物であり、混合物には、含まれる直鎖型飽和炭化水素の種類によって種々のものが存在する」との記載を参酌すると、本件発明5で記載が引用される請求項1の「ノルマルパラフィン」に相当するものである。
そして、刊1発明Bの「酢酸メンチル」は、本件発明5の「メンタン骨格を有する化合物」であって、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチル」であることに相当する。
したがって、本件発明5と刊1発明Bとは、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含む混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である殺虫方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点E9−1:本件発明5は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種」であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、刊1発明Bは、そのような特定がない点

相違点E9−2:本件発明5は、殺虫方法から、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法が除かれているのに対して、刊1発明Bは、そのような特定がない点

(イ) 相違点の検討
まず、相違点E9−2について検討すると、刊1発明Bは酢酸メンチルおよび炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含むスプレー剤をスプレーする方法であるものの、摘記(9a)によると、刊行物1に記載された発明は、刊1発明Bも含めて、そもそも「ハッカ油(A)、l−メントール(B)および灯油(C)を有効成分とするスプレー組成物」の「殺ゴキブリ用スプレー剤」をスプレーする方法であることが前提であって、本件発明5は当該スプレー組成物である混合物をスプレーする方法を除いているから、相違点E9−2は実質的な相違点であり、相違点E9−1について検討するまでもなく、本件発明5は刊1発明Bとはいえない。

よって、本件発明5は刊行物1に記載された発明ではない。

(3) 申立人の意見について
申立人は、令和4年9月21日提出の意見書において、「刊行物1の段落0027には、「ハッカ油(A)中に含まれるl−メントール量のみで、設定しようとする総l−メントールの割合を満たしているときは、ハッカ油(A)に外的にl−メントール(B)を配合するまでもない。」と記載されていることから、上記除外発明は、「ハッカ油および灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」であることさえあり得ます。」(第3頁最終行〜第4頁第5行)などと主張している。
しかしながら、本件発明4及び5において除いている事項は、「l−メントール」が「ハッカ油」由来であるかどうかにかかわらず、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油」が有効成分である場合を除いているのであるから、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油」を有効成分とする「殺ゴキブリ用スプレー剤」又は「混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」は、本件発明4及び5から除かれており、上記(2)ア(イ)及びイ(イ)において検討したとおり、相違点D9−2及びE9−2は、実質的な相違点である。

よって申立人の主張は採用できない。

(4) 小括
以上より、本件発明4及び5は、刊行物1に記載された発明ではない。
したがって、請求項4及び5についての取消理由は、本件訂正により解消し、理由がない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(理由1〜5)について
(1) 理由1(理由1A(新規性)及び理由1B(進歩性))について
ア 甲1に記載された発明
摘記(1a)及び(1b)によると、甲1には、殺虫作用を効果的に発揮させるための「炭素数9〜12のアルカンを有効成分としたことを特徴とする害虫の体表ワックス溶解剤」に関する発明が記載され、摘記(1e)には、実施例である試験例3及び4において、「炭素数9〜12のアルカンを有効成分」とするアイソパーHと、オレンジオイルを含有する検体が、ゴキブリの致死ノックダウン数に好適な結果を奏することが記載され、アイソパーHとともにオレンジオイル又はピレスロイド化合物を含有する製剤例1及び2において、加圧スプレー剤として噴霧することも記載されていることから、甲1には、以下の発明が記載されている。

「アイソパーHを有効成分とし、オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む害虫の殺虫スプレー剤。」又は
「アイソパーHを有効成分とし、オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む害虫の殺虫スプレー剤を害虫にスプレーする殺虫方法。」(以下、それぞれ「甲1発明A」又は「甲1発明B」といい、まとめて「甲1発明」ともいう。)

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
甲1発明の「アイソパーH」は、摘記(1c)によると、「炭素数9〜12のアルカンを有効成分」とし、「直鎖と分岐したものとが混在するものがよい」とされるものの具体例として記載されていること、及び、本件特許明細書【0009】における「ノルマルパラフィンは、一般に石油の分留によって得られる直鎖型飽和炭化水素の単体または混合物であり、混合物には、含まれる直鎖型飽和炭化水素の種類によって種々のものが存在する」との記載を参酌すると、「アイソパーH」が含有する「直鎖」の「炭素数9〜12のアルカン」は、本件発明の「ノルマルパラフィン」に相当するといえる。

したがって、本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、「ノルマルパラフィンを含有する、害虫に関する剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A1:本件発明1は、「ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」のに対して、甲1発明Aは、「アイソパーH」が有効成分であって、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む」「殺虫スプレー剤」である点

相違点A1について検討すると、甲1発明Aの「オレンジオイル又はピレスロイド化合物」は、「メンタン骨格を有する化合物」である「酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種」ではないから、相違点A1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明Aではない。

よって、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえないことに鑑みると、本件発明2も甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、摘記(1d)によると、甲1には、「殺虫成分」として、「オレンジオイル」及び「ピレスロイド化合物」以外にも、「P−メンタン−3,8−ジオール」、「ハッカ油」又は「ハッカオイル」等の多数の成分が例示として記載され、摘記(2a)によると、「ハッカ油」は「酢酸メンチル」を含有するものの、「ノルマルパラフィン」が、「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する」「殺虫活性またはノックダウン活性」の「活性増強剤」とはいえず、また、そのような「活性増強剤」とする動機付けはない。そして、摘記(1e)には実施例である試験例3として、オレンジオイルを含有する検体7や、オレンジオイル及び炭素数12〜17の直鎖からなるアルカンであるネオチオゾールというノルマルパラフィンを含有する検体12を用いた場合、ともにゴキブリ致死数は1頭であったことから、「メンタン骨格を有する化合物」ではない「オレンジオイル」が殺虫成分であるものの、ノルマルパラフィンの有無によって、殺虫効果に差が生じないことが理解できる。一方、「分岐アルカン」及び「直鎖アルカン」を含有するアイソパーH並びにオレンジオイルを含有する検体13を用いた場合、ゴキブリ致死数は6頭であったことから、アイソパーHが有効成分であることは理解できるものの、検体7及び12の結果も踏まえると、直鎖アルカンであるノルマルパラフィンが、有効成分として殺虫活性又はノックダウン活性を向上させることを、甲1の記載事項から確認することはできない。
そうすると、本件発明2の効果は、「ノルマルパラフィン」による「メンタン骨格を有する化合物」の「殺虫活性またはノックダウン活性」についての活性増強効果の点において、甲1に記載された事項から予測できるものではないし、特定の活性に基づく用途変更が容易ではなく、効果の予測性もないことから、本件発明2は、甲1発明Aに基いて当業者が容易に想到するものではない。

よって、本件発明2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到するものでもない。

(ウ) 本件発明3について
本件発明3と甲1発明Bとを対比すると、「ノルマルパラフィンを用いた、害虫に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点C1:本件発明3は、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを混合する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」「活性増強方法」であるのに対して、甲1発明Bは、「アイソパーH」が有効成分であって、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む害虫の殺虫スプレー剤を害虫にスプレーする殺虫方法」である点

相違点C1について検討すると、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物」は、メンタン骨格を有する化合物ではなく、甲1発明Bには、ほかにメンタン骨格を有する化合物は含まれていないため、混合するものが異なるから、相違点C1は実質的な相違点であり、本件発明3は甲1発明Bではない。

よって、本件発明3は甲1に記載された発明ではない。

(エ) 本件発明4について
本件発明4と甲1発明Aとを対比すると、「ノルマルパラフィンを含有する殺虫剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点D1−1:本件発明4は、「メンタン骨格を有する化合物」を含み、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種」であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、甲1発明Aは、「アイソパーH」が有効成分であって、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む」「殺虫スプレー剤」である点

相違点D1−2:本件発明4は、殺虫剤から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」が除かれているのに対して、甲1発明Aは、そのような特定がない点

まず、相違点D1−1について検討すると、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物」は、メンタン骨格を有する化合物ではなく、ほかにメンタン骨格を有する化合物も含まれていないため、殺虫剤に含まれる成分が異なるから、相違点D1−1は実質的な相違点であり、相違点D1−2について検討するまでもなく、本件発明4は甲1発明Aではない。

よって、本件発明4は甲1に記載された発明ではない。

(オ) 本件発明5について
本件発明5と甲1発明Bとを対比すると、「ノルマルパラフィンを用いた害虫の殺虫方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点E1−1:本件発明5は、「メンタン骨格を有する化合物」を含み、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種」であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」である混合物を用いているのに対して、甲1発明Bは、「アイソパーH」が有効成分であって、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物を含む害虫の殺虫スプレー剤」を用いている点

相違点E1−2:本件発明5は、殺虫方法から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」が除かれているのに対して、甲1発明Bは、そのような特定がない点

まず、相違点E1−1について検討すると、「オレンジオイル又はピレスロイド化合物」は、メンタン骨格を有する化合物ではなく、甲1発明Bには、ほかにメンタン骨格を有する化合物は含まれていないため、殺虫方法に用いる成分が異なるから、相違点E1−1は実質的な相違点であり、相違点E1−2について検討するまでもなく、本件発明5は甲1発明Bではない。

よって、本件発明5は甲1に記載された発明ではない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書及び令和4年9月21日提出の意見書において、甲1に記載の実施例では、ノルマルパラフィンであるネオチオゾールが用いられ、【0008】において、「p−メンタン−3,8−ジオール」と「ハッカ油」が例示されているから、本件発明1〜5は新規性がなく、本件発明2のノルマルパラフィンの使用する重量比に技術的意義はなく、本件発明2は進歩性がない旨の主張をしている。
しかしながら、上記イ(ア)及び(イ)で述べたとおり、甲1には、ノルマルパラフィンとメンタン骨格を有する化合物を具体的に混合することやその組合せの効果についての記載がないから、申立人の主張は採用できない。

エ まとめ
本件発明1〜5は、甲1に記載された発明ではなく、本件発明2は甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到するものではない。

(2) 理由2(進歩性)について
ア 甲3に記載された発明
摘記(3a)によると、甲3には、「(a) レモングラス油及び(b) p−メンタン−3,8−ジオールを含む昆虫忌避組成物。」に関する発明が記載され、上記(3c)には、実施例として、「レモングラス油」及び「p−メンタン−3,8−ジオール」とともに「ミネラルオイル」を含有する昆虫忌避ローションが記載されており、当該ローションは使用者の皮膚に適用することが想定されていることから、甲3には以下の発明が記載されている。

「使用者の皮膚に適用するための、レモングラス油、p−メンタン−3,8−ジオール及びミネラルオイルを含む昆虫忌避組成物。」又は
「レモングラス油、p−メンタン−3,8−ジオール及びミネラルオイルを含む昆虫忌避組成物を使用者の皮膚に適用する昆虫忌避方法。」(以下、それぞれ「甲3発明A」又は「甲3発明B」といい、まとめて「甲3発明」ともいう。)

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
甲4における摘記(4a)によると、甲3発明の「ミネラルオイル」は、「炭素数15〜35の飽和炭化水素の混合物」である「流動パラフィン」と同義であって、本件特許明細書【0009】における「ノルマルパラフィンは、一般に石油の分留によって得られる直鎖型飽和炭化水素の単体または混合物であり、混合物には、含まれる直鎖型飽和炭化水素の種類によって種々のものが存在する」との記載を参酌すると、「流動パラフィン」は本件発明の「ノルマルパラフィン」に該当するから(甲5における摘記(5a)によると、本件特許明細書に記載の「ネオチオゾール」も「流動パラフィン」である。)、甲3発明の「ミネラルオイル」は、本件発明の「ノルマルパラフィン」に相当するといえる。そして、害虫と昆虫は虫に分類されるものである。

したがって、本件発明1と甲3発明Aとを対比すると、「ノルマルパラフィンを含有する、メンタン骨格を有する化合物とともに用いる剤であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である、虫に関する剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A3:本件発明1は、「ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」であって、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」のに対して、甲3発明Aは、活性が昆虫の忌避活性であって、活性増強又はその有効成分は不明である点

相違点A3について検討すると、摘記(3b)には、用語の説明として、「「殺虫剤」又は「忌避剤」という用語は、あらゆる昆虫を殺すか、制御するか、又は忌避するために使用されるあらゆる物質又は物質の混合物を指す。・・・「PMD」は、p−メンタン−3,8−ジオールを意味する。」と殺虫についても記載されているものの、「殺虫剤」及び「忌避剤」をまとめて説明する際に、忌避活性以外についての言及があるのであって、「忌避剤」自体が「昆虫を殺すか、制御する」ことの活性を示すことを意味しないし、このことは、「文字」どおりの意味の点からも妥当である。さらに、甲3発明Aは使用者の皮膚に忌避組成物を適用することを想定し、虫に直接適用していないことから、甲3には殺虫活性またはノックダウン活性を目的とすることに対して、動機付けの記載がないことは明らかであり、ましてやミネラルオイルをp−メンタン−3,8−ジオールの殺虫活性またはノックダウン活性の活性増強剤とする動機付けもない。そして、本件発明が奏する顕著な効果は、ミネラルオイルを含むことが開示されるにすぎない甲3の記載に基づいても予測することはできない。
なお、甲6における摘記(6a)並びに甲7における摘記(7a)及び(7b)から、「p−メンタン−3,8−ジオール」が殺虫活性を示すことが公知であることや、甲1における摘記(1a)〜(1e)及び甲8における摘記(8a)〜(8c)から、ネオチオゾール(ノルマルパラフィン)の害虫への適用や、溶剤自身が昆虫に対して弱い毒性を示すことや、溶剤の昆虫への浸透性が高かったこと自体が知られていたとしても、甲3発明Aにおいて、前記動機付けがないことには変わりがない。

そうすると、本件発明1は、甲3発明A及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、本件発明1が甲3発明A及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではないことに鑑みると、本件発明2も甲3発明A及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(ウ) 本件発明3について
本件発明3と甲3発明Bとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である、虫に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点C3:本件発明3は、「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法」であって、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」のに対して、甲3発明Bは、「昆虫忌避方法」である点

相違点C3について検討すると、上記(ア)で述べた理由と同様の理由により、甲3発明Bにおいて、昆虫忌避方法を、殺虫活性またはノックダウン活性の活性増強方法に変更する動機付けがないことから、本件発明3は、甲3発明B及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(エ) 本件発明4について
上記(ア)を考慮し、本件発明4と甲3発明Aとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、虫に関する剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点D3−1:本件発明4は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物」の「害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、甲3発明Aは、活性が昆虫の忌避活性であって、活性増強又はその有効成分は不明である点

相違点D3−2:本件発明4は、殺虫剤から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」が除かれているのに対して、甲3発明Aは、そのような特定がない点

まず、相違点D3−1について検討すると、上記(ア)で述べたとおり、甲3発明Aにおいて、昆虫忌避組成物を殺虫剤に変更する動機付けがないことから、相違点D3−2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲3発明A及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(オ) 本件発明5について
上記(ア)を考慮し、本件発明5と甲3発明Bとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である組成物を用いる、虫に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点E3−1:本件発明5は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物」の「害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれる混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、甲3発明Bは、「ミネラルオイル」の作用が特定されておらず、「昆虫忌避組成物を使用者の皮膚に適用する昆虫忌避方法」である点

相違点E3−2:本件発明5は、殺虫方法から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」が除かれているのに対して、甲3発明Bは、そのような特定がない点

まず、相違点E3−1について検討すると、上記(ア)で述べた理由と同様の理由により、甲3発明Bにおいて、使用者の皮膚に適用する昆虫忌避方法を、害虫に噴霧する殺虫方法に変更する動機付けがないことから、相違点E3−2について検討するまでもなく、本件発明5は、甲3発明B及び甲1及び3〜8に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

ウ 申立人の意見について。
申立人は、特許異議申立書及び令和4年9月21日提出の意見書において、甲3における「忌避剤」が「昆虫を殺すか、コントロールする」ものも意味することを主張しているが、裏付ける証拠は何ら示されておらず、上記イ(ア)で述べたとおり、甲3における「忌避剤」は、そのような事項を意味する用語とはいえないから、申立人の主張は採用できない。

エ まとめ
本件発明1〜5は、甲3に記載された発明並びに甲1及び3〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到するものではない。

(3) 理由3(進歩性)について
ア 甲9(刊行物1)に記載された発明
甲9には、上記2(1)ウに示したとおり、「刊1発明A」及び「刊1発明B」が記載されている。

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
上記2(2)アを考慮し、本件発明1と刊1発明Aとを対比すると、「ノルマルパラフィンを含有する、メンタン骨格を有する化合物とともに用いる剤であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、剤の活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A9:本件発明1は、「ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」であるのに対して、刊1発明Aは、ノルマルパラフィンが活性を増強する有効成分であることが不明である点

相違点A9について検討すると、甲9には、殺ゴキブリ用スプレー剤をゴキブリに向けてスプレーしたときに、ゴキブリをノックダウンさせ、そのノックダウンと同時にまたはそのノックダウン後すみやかに死亡に至らせることが記載されているが(摘記(9c))、ノルマルパラフィンが、酢酸メンチルまたはp−メンタン−3,8−ジオールが奏する殺虫活性またはノックダウン活性を増強することについて記載がなく、単に、ノルマルパラフィンと、酢酸メンチルまたはp−メンタン−3,8−ジオールを含有する殺虫剤が記載されているにすぎず、かつ、当該増強についての示唆もない。
また、甲1における摘記(1a)〜(1e)及び甲8における摘記(8a)〜(8c)から、ネオチオゾール(ノルマルパラフィン)の害虫への適用や、溶剤自身が昆虫に対して弱い毒性を示すことや、溶剤の昆虫への浸透性が高かったこと自体が知られていたとしても、刊1発明Aにおいて、前記増強することに関する示唆がないことには変わりがない。

そうすると、本件発明1は、刊1発明A並びに甲1、8及び9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、本件発明1が刊1発明A並びに甲1、8及び9に記載の事項に基いて当業者が容易に想到するものではないことに鑑みると、本件発明2も刊1発明A並びに甲1、8及び9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(ウ) 本件発明3について
上記2(2)イを考慮し、本件発明3と刊1発明Bとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを混合することを含む方法であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、混合物の活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点C9:本件発明3は、ノルマルパラフィンを有効成分として含有する「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法」であるのに対して、刊1発明Bは、ノルマルパラフィンがそのような活性を増強する有効成分であることについて特定がない点

相違点C9について検討すると、上記(ア)で述べたとおり、甲9には特定の活性を増強することについての記載も示唆もないことから、本件発明3は、刊1発明B並びに甲1、8及び9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(エ) 本件発明4について
上記2(2)アに示したとおり、本件発明4は刊1発明Aではないところ、甲9には、ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤以外の殺虫剤に変更することには、その発明の前提を考慮すると、動機付けの記載がない。
また、甲1における摘記(1a)〜(1e)及び甲8における摘記(8a)〜(8c)から、ネオチオゾール(ノルマルパラフィン)の害虫への適用や、溶剤自身が昆虫に対して弱い毒性を示すことや、溶剤の昆虫への浸透性が高かったこと自体が知られていたとしても、刊1発明Aにおいて、特定の殺ゴキブリスプレー以外の殺虫剤と変更することには、動機付けがない。

よって、本件発明4は、刊1発明A並びに甲1、8及び9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(オ) 本件発明5について
上記2(2)イに示したとおり、本件発明5は刊1発明Bではないところ、上記(エ)で述べた理由と同様の理由により、本件発明5は、刊1発明B並びに甲1、8及び9に記載の事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書及び令和4年9月21日提出の意見書において、甲9に具体的に開示された組成物において、酢酸メンチルの殺虫活性およびノックダウン活性がノルマルパラフィンにより「増強」されていることが認識されていなくても、実質的に「増強」されているといえるし、例えば、ハッカ油に含まれる酢酸メンチルが殺虫活性を有することは公知であるので、ゴキブリ以外の例えばダニの殺虫に用いることは容易である旨の主張をしている。
しかしながら、ある化合物とそれ以外の化合物を組成物に単に含有していることに対して、ある化合物の特定の活性を別の化合物が増強することは、ある機能を有する剤としての用途及び対応する効果が等しいとはいえないし、ゴキブリに対する殺虫活性およびノックダウン活性が、他の害虫に対しても同様に有効であることは、甲9並びに甲1及び8に記載された事項から当業者が当然に把握できる事項ではなく、当業者が容易に想到するものとはいえない。

よって申立人の主張は採用できない。

エ まとめ
本件発明1〜5は、甲9に記載された発明並びに甲1、8及び9に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到するものではない。

(4) 理由4(進歩性)について
ア 甲11に記載された発明
摘記(11a)〜(11c)によると、甲11には、p−メンタン−3,8−ジオール及び灯油を含有する「匍匐害虫忌避剤」を用いた「匍匐害虫の忌避方法」が記載され、実施例では、濾紙に忌避剤を含浸させる濾紙忌避効力試験により効果が確認されており、甲10における摘記(10a)を技術常識として参照すると、灯油は炭素数が8から16付近までのn−アルカンが主成分であると理解できるから、甲11には、以下の発明が記載されている。

「p−メンタン−3,8−ジオール及び炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含有する匍匐害虫忌避剤。」又は
「p−メンタン−3,8−ジオール及び炭素数が8から16付近までのn−アルカンを含有する匍匐害虫忌避剤を含浸させる匍匐害虫の忌避方法。」(以下、それぞれ「甲11発明A」又は「甲11発明B」といい、まとめて「甲11発明」ともいう。)

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
甲11発明の「炭素数が8から16付近までのn−アルカン」は、本件特許明細書【0009】における「ノルマルパラフィンは、一般に石油の分留によって得られる直鎖型飽和炭化水素の単体または混合物であり、混合物には、含まれる直鎖型飽和炭化水素の種類によって種々のものが存在する」との記載を参酌すると、本件発明1の「ノルマルパラフィン」に相当するものである。

したがって、本件発明1と甲11発明Aとを対比すると、「ノルマルパラフィンを含有する、メンタン骨格を有する化合物とともに用いる剤であって、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である、害虫に関する剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A11:本件発明1は、「ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤」であって、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」のに対して、甲11発明Aは、活性が害虫の忌避活性であって、活性増強又はその有効成分が不明である点

相違点A11について検討すると、摘記(11a)〜(11c)には、忌避活性ではなく、殺虫活性またはノックダウン活性についての記載はなく、ノルマルパラフィンによって、「p−メンタン−3,8−ジオール」の殺虫活性またはノックダウン活性を増強することについて、甲11には動機付けの記載がない。すなわち、甲11では、沸点の中央値が160〜250℃である溶剤を忌避活性の効力増強剤とすることが記載されているのであって(摘記(11b))、「炭素数が8から16付近までのn−アルカン」をp−メンタン−3,8−ジオールの害虫に対する殺虫活性またはノックダウン活性の活性増強剤と特定する動機付けがあるとはいえない。そして、本件発明1は、パラフィンがイソパラフィン等に比べて特定の活性増強効果に優れるという、甲11の記載から予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
なお、甲8における摘記(8a)〜(8c)、甲12における摘記(12a)〜(12c)、甲13における摘記(13a)〜(13c)、甲14における摘記(14a)〜(14c)、甲15における摘記(15a)及び(15b)から、溶剤自身が昆虫に対して弱い毒性を示すことや、溶剤の昆虫への浸透性が高かったことや、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールに殺虫作用があったこと自体が知られていたとしても、甲11発明Aにおいて、前記動機付けがないことには変わりがない。

そうすると、本件発明1は、甲11発明A並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、本件発明1が甲11発明A並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではないことに鑑みると、本件発明2も甲11発明A並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(ウ) 本件発明3について
本件発明3と甲11発明Bとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である、害虫に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点C11:本件発明3は、「メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法」であって、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性である」のに対して、甲11発明Bは、「害虫の忌避方法」である点

相違点C11について検討すると、上記(ア)で述べた理由と同様の理由により、甲11発明Bにおいて、害虫の忌避方法を、殺虫活性またはノックダウン活性の活性増強方法に変更する動機付けがないことから、本件発明3は、甲11発明B並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(エ) 本件発明4について
上記(ア)を考慮し、本件発明4と甲11発明Aとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、害虫に関する剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点D11−1:本件発明4は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物」の「害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれるものであり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、甲11発明Aは、活性が害虫の忌避活性であって、活性増強又はその有効成分は不明である点

相違点D11−2:本件発明4は、殺虫剤から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤」が除かれているのに対して、甲11発明Aは、そのような特定がない点

まず、相違点D11−1について検討すると、上記(ア)で述べたとおり、甲11発明Aにおいて、害虫忌避剤を殺虫剤に変更する動機付けがないことから、相違点D11−2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲11発明A並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

(オ) 本件発明5について
上記(ア)を考慮し、本件発明5と甲11発明Bとを対比すると、「メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含有し、メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種である組成物を用いる、害虫に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点E11−1:本件発明5は、ノルマルパラフィンが「メンタン骨格を有する化合物」の「害虫に対する活性増強剤」の「有効成分」として含まれる混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であり、「活性が、殺虫活性またはノックダウン活性」であるのに対して、甲11発明Bは、害虫忌避剤を含浸させる害虫の忌避方法である点

相違点E11−2:本件発明5は、殺虫方法から、「ハッカ油、l−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法」が除かれているのに対して、甲11発明Bは、そのような特定がない点

まず、相違点E11−1について検討すると、上記(ア)で述べた理由と同様の理由により、甲11発明Bにおいて、害虫忌避剤を含浸させる害虫の忌避方法を、害虫に噴霧する殺虫方法に変更する動機付けがないことから、相違点E11−2について検討するまでもなく、本件発明5は、甲11発明B並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて当業者が容易に想到するものではない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書において、「p−メンタン−3,8−ジオールとノルマルパラフィンを含む組成物」は甲11に記載され、p−メンタン−3,8−ジオールの殺虫作用とノルマルパラフィンの「致死率」や「ノックダウン効力」の増強作用は甲8及び12〜15に記載されているとおり周知技術であるから、本件発明1〜5は進歩性を有さない旨の主張をしている。
しかしながら、いずれの文献にも、ノルマルパラフィンが、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種の化合物における殺虫活性またはノックダウン活性を増強することや、ノルマルパラフィンと、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種の化合物を含む組成物について、殺虫活性またはノックダウン活性を活用することについて記載されていないから、申立人の主張は採用できない。

エ まとめ
本件発明1〜5は、甲11に記載された発明並びに甲8及び12〜15に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到するものではない。

(5) 理由5(サポート要件)について
ア サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲には、上記第3に示したとおりの請求項1〜5が記載されている。

ウ 本件特許明細書の記載
(A) 「【0005】
本発明の課題は、少量でもメンタン骨格を有する化合物の害虫に対する効果が発揮されるように、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性を向上させることができる活性増強剤を提供することである。」

(B) 「【0009】
本発明に係るメンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤(以下、「害虫に対する活性増強剤」を、単に「活性増強剤」と記載する場合がある)は、ノルマルパラフィンを有効成分として含有する。」

(C) 「【0013】
メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性を向上させるために必要な本発明の活性増強剤の添加量は、特に限定されない。本発明の活性増強剤は、メンタン骨格を有する化合物の質量に対して、ノルマルパラフィンが好ましくは0.3〜200倍量、より好ましくは0.5〜100倍量の割合となるように添加される。」

(D) 「【0017】
メンタン骨格を有する化合物は、害虫に対する忌避活性、殺虫活性、ノックダウン活性、行動停止活性など種々の活性を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、例えば、下記式(II)で示される酢酸メンチル、下記式(III)で示されるL−メントール、下記式(IV)で示されるp−メンタン−3,8−ジオール、イソプレゴール、メントン、テルピネン−4−オールなどが挙げられる。」

(E) 「【0022】
本発明の殺虫剤は、種々の害虫に適用できる。例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリ、トビイロゴキブリなどのゴキブリ類;ミツバチ、スズメバチなどのハチ類;イエバエ、キイロショウジョウバエなどのハエ類;ダンゴムシ、ワラジムシ、トビズムカデなどの多足類;セアカゴケグモ、イエグモ、ハエトリグモなどのクモ類;アミメアリ、クロヤマアリ、アルゼンチンアリなどのアリ類;クサギカメムシ、アオカメムシなどのカメムシ類;ツマグロヨコバイ、ハスモンヨトウなどのガ類;アカイエカ、ヒトスジシマカなどのカ類;イエダニ、ツメダニなどのダニ類などに対して、より優れた殺虫効果を発揮する。
【0023】
本発明の殺虫剤、すなわちメンタン骨格を有する化合物と本発明の害虫に対する活性増強剤とを含む殺虫剤は、メンタン骨格を有する化合物のみを用いた場合の殺虫効果よりも向上する。さらに、ピレスロイド系など一般的な殺虫剤は、噴射後に害虫の行動量が多くなり暴れやすい。一方、本発明の殺虫剤によれば、噴射後に害虫が暴れにくく、ハチやムカデなどの特に危険な害虫であっても、安全に駆除することができる。」

(F) 「【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(試験例1)
メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとの相乗効果を検証するために、微量滴下法によって、チャバネゴキブリの致死効力試験を行った。まず、下記の活性増強成分に、下記の活性成分を溶解し、1.4〜3倍程度の公比を有する3段階の活性成分濃度の薬液を調製した。
・・・
【0028】
(実施例1〜3、比較例1〜6および参考例1〜3)
30頭のチャバネゴキブリの成虫(すべて雌)に、ジエチルエーテルを用いて麻酔し、1頭あたり2μLの薬液をチャバネゴキブリの胸部腹面両脚間に滴下した。滴下後のチャバネゴキブリ(供試虫)を、固形餌および水が備えられた清潔な容器に移した。なお、固形餌および水は自由摂取させた。24時間後における供試虫の生死を観察し、プロビット統計処理によって半数致死量(LD50)を算出した。また、活性増強成分としてアセトンを使用した薬液の効力を1とした場合の効力増強倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを含む薬液(実施例1〜3)は、メンタン骨格を有する化合物とアセトンとを含む薬液(比較例2〜4)と比べて15倍以上、特に実施例2では30倍以上も効力が増強していることがわかる。また、イソパラフィンを用いた場合は(比較例1)、アセトンを用いた場合(比較例2)と殺虫活性がほとんど変わらないことがわかる。さらに、メンタン骨格を有する化合物と構造が近似するチモールとノルマルパラフィンとを組み合わせても、2.6倍程度しか効力増強効果は発揮されなかった。このように、メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを組み合わせることによって、予測し得ないような顕著な相乗効果が発揮されたことがわかる。
【0031】
一方、参考例1〜3に示すように、ペルメトリンにノルマルパラフィンを添加したとしても、チモールと同様、アセトンを添加した場合と比べて殺虫活性が数倍向上したにすぎず、メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとの相乗効果が顕著であることが示された。
【0032】
(試験例2)
試験例1で用いた酢酸メンチルおよびノルマルパラフィン、ならびに噴射剤として液化石油ガス(0.29MPa、25℃)を、表2に示す割合で混合し、290mLのエアゾール缶に充填してエアゾール剤を調製した(実施例4、比較例7および8)。
【0033】
得られたエアゾール剤それぞれの致死効果を、図1に示すカップ法によって検証した。5頭のチャバネゴキブリの成虫(すべて雌)を、内径130mmおよび高さ100mmプラスチックカップ1(商品名:KPカップKP860、鴻池プラスチック(株)製)に入れた。
・・・
【0035】
・・・一方、実施例4のエアゾール剤は、含まれる酢酸メンチルおよびノルマルパラフィンの含有量が、それぞれ比較例7のノルマルパラフィンおよび比較例8の酢酸メンチルの半量であるにもかかわらず、比較例7および8に比べて高い致死率を示し、酢酸メンチルとノルマルパラフィンとの相乗効果が顕著であることがわかった。」

(G) 「【0049】
【表3】

【0050】
表3に示すように、ノルマルパラフィンと酢酸メンチルとを組み合わせると、いずれの害虫に対しても優れた殺虫効果が得られたことがわかる。」

(H) 「【0051】
(実施例16)
試験例1で用いた酢酸メンチル8gに上記のノルマルパラフィン(ネオチオゾール、三光化学工業(株)製、沸点226〜247℃)を添加して200mLの原液を調製した。原液の処方を表4に示す。この原液200mLおよび噴射剤として液化石油ガス(0.49MPa、25℃)200mLを、エアゾール缶に充填してエアゾール剤を調製した。エアゾール剤の噴射量は、約10g/秒であった。
【0052】
セイヨウミツバチの働き蜂1頭を、実施例14で用いた円筒形の金属ケージ(内径8cm、長さ8cm)に入れた。この金属ケージを、床面から金属ケージの中心までの距離が150cmとなるように吊るした。金属ケージから3m離れた場所から供試虫に対して、得られたエアゾール剤を3秒間噴射した。
・・・
【0057】
・・酢酸メンチルとノルマルパラフィンとを組み合わせた実施例16は、比較例9〜12と比べて、ノックダウン速度が約2倍に向上したことがわかる。酢酸メンチルまたはノルマルパラフィンのいずれか一方のみを用いても、セイヨウミツバチをノックダウンさせる効果がなく、両者を組み合わせた場合にのみ、ノックダウン効果が向上する。また、ノルマルパラフィンを用いて活性が向上した酢酸メンチルは、境界の通過回数(行動量)が少ないため、セイヨウミツバチがエアゾール剤の噴射後に暴れることなくノックダウンしたことがわかった。」

エ サポート要件の判断
(ア) 本件発明の解決すべき課題について
上記ウ(A)によると、本件発明の課題は、「少量でもメンタン骨格を有する化合物の害虫に対する効果が発揮されるように、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性を向上させること」である。

(イ) 本件発明の一般的記載と具体的記載
上記ウ(B)〜(D)によると、「ノルマルパラフィン」により「メンタン骨格を有する化合物」の「殺虫活性またはノックダウン活性」が増強されることで、「メンタン骨格を有する化合物」の使用を少量で済ませることができるものと認められ、上記ウ(E)には、多数の害虫例に対して殺虫効果を発揮することが記載されている。
さらに、上記ウ(F)及び(H)では、具体的な実施例として、「チャバネゴキブリ」に対する致死率及び「セイヨウミツバチ」に対するノックダウン効果が「ノルマルパラフィン」により増強されていることを確認するだけでなく、上記ウ(G)では、「ノルマルパラフィンと酢酸メンチル」の組合せにより、代表的といえる多種類の害虫が、24時間以内に致死に至ったことを具体的に確認している。

(ウ) 本件発明1〜3について
本件発明1〜3は、任意の害虫に対して、酢酸メンチルまたはp−メンタン−3,8−ジオールが奏する殺虫活性またはノックダウン活性が、ノルマルパラフィンにより増強されることに関する発明であるところ、上記(イ)で述べているとおり、「チャバネゴキブリ」及び「セイヨウミツバチ」については、「ノルマルパラフィン」の増強効果を確認し、多種類の害虫に対しても、24時間後の「ノルマルパラフィンと酢酸メンチル」の組合せによる殺虫性を確認しており、「ノルマルパラフィン」が多種類の害虫に対する十分な活性効果を示していることが把握できるから、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載された発明であるだけでなく、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

(エ) 本件発明4及び5について
本件発明4及び5は、任意の害虫に対する、ノルマルパラフィンと、酢酸メンチルまたはp−メンタン−3,8−ジオールを含む殺虫剤及び殺虫方法に関する発明であるところ、上記(イ)で述べているとおり、上記ウ(G)では、「ノルマルパラフィンと酢酸メンチル」の組合せにより、「チャバネゴキブリ」だけでなく、代表的といえる多種類の害虫が、24時間以内に致死に至ったことを確認しており、多種類の害虫に対して殺虫効果があることを当業者は把握できるものであるから、本件発明4及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明であるだけでなく、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

オ 申立人の主張について
本件特許明細書において実証されているのは、「チャバネゴキブリ」に対する「殺虫活性」の増強効果(【0025】〜【0035】)と、「セイヨウミツバチ」に対する「ノックダウン活性」の増強効果(【0051】〜【0058】)のみで、その他、様々な昆虫が試験に付されているが、比較がないため、ノルマルパラフィンによる殺虫活性またはノックダウン活性の増強効果は実証されておらず、「あらゆる昆虫の殺虫活性またはノックダウン活性」の「増強効果」へ一般化ないし拡張することはできない旨の主張をしている。
しかしながら、上記エ(ウ)及び(エ)で述べたとおり、本件発明1〜5は、本願発明の課題を一定程度解決できると認識できる範囲のものであることが明らかであるから、申立人の主張は採用できない。

カ まとめ
本件発明の特許請求の範囲の請求項1〜5の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(6) 小括
以上より、申立人が申し立てた理由1〜5によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の申し立てた特許異議申立理由並びに証拠によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルマルパラフィンを有効成分として含有する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、
活性が、殺虫活性またはノックダウン活性であることを特徴とする活性増強剤。
【請求項2】
前記ノルマルパラフィンが、メンタン骨格を有する化合物の質量に対して0.3〜200倍量となるように使用される請求項1に記載の害虫に対する活性増強剤。
【請求項3】
メンタン骨格を有する化合物とノルマルパラフィンとを混合する、メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であり、
活性が、殺虫活性またはノックダウン活性であることを特徴とする活性増強方法。
【請求項4】
メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む殺虫剤であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫剤(但し、ハッカ油、1−メントールおよび灯油を有効成分とする殺ゴキブリ用スプレー剤を除く)。
【請求項5】
メンタン骨格を有する化合物と請求項1または2に記載の害虫に対する活性増強剤とを含む混合物を害虫に噴霧する殺虫方法であって、
メンタン骨格を有する化合物が、酢酸メンチルおよびp−メンタン−3,8−ジオールの少なくとも1種であることを特徴とする殺虫方法(但し、ハッカ油、1−メントールおよび灯油を有効成分とする混合物を噴霧するゴキブリの殺虫方法を除く)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-14 
出願番号 P2015-032086
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 関 美祝
野田 定文
登録日 2021-08-05 
登録番号 6925098
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 メンタン骨格を有する化合物の害虫に対する活性増強剤  
代理人 深井 敏和  
代理人 深井 敏和  

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