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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C04B
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C04B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1394009
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-28 
確定日 2022-11-16 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6928297号発明「銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6928297号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、〔5〜6〕について訂正することを認める。 特許第6928297号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6928297号に係る出願は、令和2年10月6日(優先権主張 令和1年12月12日)を出願日とする出願であって、令和3年8月11日にその請求項1〜6に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和4年2月28日に特許異議申立人 茂木 早苗(以下、「申立人」という。)により甲第1〜5号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年3月31日に申立人より甲第4号証の翻訳文を添付して特許異議申立書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月12日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月11日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年8月25日に申立人より甲第6〜7号証を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1〜5からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「特徴とする記載の銅/セラミックス接合体。」
と記載されているのを、
「特徴とする銅/セラミックス接合体。」
に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、
「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」
と記載されているのを、
「前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」
に訂正する(請求項2を引用する請求項3も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の本件特許明細書の段落【0014】に、
「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」
と記載されているのを、
「前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」
に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、
「前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域」
と記載されているのを、
「前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域」
に訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の本件特許明細書の段落【0020】に、
「前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域」
と記載されているのを、
「前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域」
に訂正する。

(6)一群の請求項について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2〜3は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1〜3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6は、請求項5を引用するものであるから、本件訂正前の請求項5〜6は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であり、訂正事項1、2及び4に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項所定の規定に従い、この一群の請求項1〜3、5〜6を訂正の単位として請求されたものである。
また、訂正事項3及び5に係る明細書の訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項所定の規定に従い、この一群の請求項1〜3、5〜6を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「特徴とする記載の銅/セラミックス接合体。」における「記載の」を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1に係る訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面」の記載及び同請求項5の「前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面」の記載の意味が明瞭でなかったのを、願書に添付した明細書の段落【0057】及び【図10】の記載に基づいて、それぞれ「前記セラミックス部材の接合界面」及び「前記セラミックス基板の接合界面」と訂正して記載の意味を明瞭にするものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3及び5について
訂正事項3及び5に係る訂正は、前記訂正事項2及び4に係る訂正に伴い、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項2及び同請求項5の記載と本件訂正前の明細書の段落【0014】及び【0020】の記載とがそれぞれ不整合となっていたところ、これらを整合させて記載を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、前記(2)に記載したのと同様の理由により、訂正事項3及び5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)独立特許要件について
本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 申立人意見書について
(1)申立人意見書における申立人の主張の概要は以下のとおりである。
訂正事項2及び4について、願書に添付した明細書の段落【0053】〜【0054】によれば、本件特許に係る発明における接合された「銅部材」と「セラミックス部材」の間には所定の厚さを有するろう材の接合層が存在することが推認されるのにも関わらず、本件訂正において接合層の存在を何ら特定せず、更には、接合の相手の部材も特定せずに「セラミックス部材の接合界面」と訂正することは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものである(1ページ下から10行〜2ページ8行)。

(2)申立人の主張についての当審の判断
以下、前記(1)の主張について検討すると、もともと、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び前記請求項1を引用する同請求項2においては、ろう材の接合層は特定されていない。
また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び前記請求項1を引用する請求項2の発明特定事項からみれば、前記請求項2における「セラミックス部材」の接合の相手が「銅部材」であることは明らかであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2において、ろう材の接合層の存在や接合の相手の部材が特定されていないからといって、訂正事項2及び4に係る訂正が実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるとはいえないので、前記(1)の主張は採用できない。

4 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項1〜3、5〜6について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記活性金属がTiであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記活性金属がTiであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板。」

第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書14ページ16行〜25ページ6行)。

(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書25ページ7行〜29ページ12行)。

2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「特徴とする記載の」の意味が不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明及び前記請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2〜3に係る発明は明確でない(特許異議申立書29ページ14行〜17行)。

(2)本件特許明細書の段落【0046】、【0047】、【0053】の記載を踏まえると、本件特許に係る発明のセラミックスに含有されるアルミニウムは、一般に用いられるアルミナなどの焼結助剤や、不純物に由来する程度の量では足りず、相当量のアルミニウムが含有されている必要があると推認されるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6は、「アルミニウム含有セラミックス」にどの程度のアルミニウムが含有されているのかを特定していないので、前記請求項1〜6に係る発明は明確でない(特許異議申立書29ページ18行〜30ページ8行)。

(3)本件特許明細書の段落【0056】の記載によれば、本件特許に係る発明においては、Agの濃度が0.4原子%未満のとき、粒界にAgが「無」と判断されるのに対して、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6はAgの濃度を特定していないから、「活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、」との発明特定事項が、Agの濃度が0原子%よりも大きく、0.4原子%未満の場合を含むか否かが明確でないので、前記請求項1〜6に係る発明は明確でない(特許異議申立書30ページ9行〜20行)。

(4)銅部材とセラミック部材とが接合された場合、下記図Aに示すように、銅部材とセラミック部材との間には所定の厚さを有するろう材の「接合層」が存在すると推認される。
「[図A]


そして、この場合、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面」は形成されないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」がどの範囲の領域を指すのかが明らかでない。
また、仮に、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面」が、「銅部材」又は「セラミックス部材」と接合層との接合界面をいうとしても、「セラミクス部材」と接合層との接合界面aと、「銅部材」と接合層との接合界面bのどちらの界面を意味しているのかが明らかでないから、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」がどの範囲の領域を指すのかが明らかでない。
同様に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域」も、どの範囲の領域を指すのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2、5に係る発明、及び、前記請求項2、5をそれぞれ引用する本件訂正前の請求項3、6に係る発明は明確でない(特許異議申立書30ページ21行〜31ページ最終行)。

3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1)セラミックスは、一般的に、不純物や焼結助剤の成分を含み、焼結助剤であるアルミナに由来するアルミニウム成分を含有するセラミックスも「アルミニウム含有セラミックス」といえるが、本件特許明細書では、「アルミニウム含有セラミックス」としてAlNとAl2O3しか記載されていない。
そして、本件特許明細書の段落【0046】、【0047】、【0053】の記載を踏まえると、本件特許に係る発明のセラミックスに含有されるアルミニウムは、一般に用いられるアルミナなどの焼結助剤や、不純物に由来する程度の量では足りず、相当量のアルミニウムが含有されている必要があると推認されるにもかかわらず、本件特許明細書には、「アルミニウム含有セラミックス」が焼結助剤に由来する程度の微量なアルミニウムしか含有しない場合に、どのように課題が解決されるのかが何ら記載されていないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を包含する(特許異議申立書32ページ2行〜16行)。

(2)本件特許明細書には、活性金属としてNbやHfが選択された場合の実施例が記載されていないから、活性金属としてNb又はHfが選択された場合の発明が、実質的にサポートされていない(特許異議申立書32ページ17行〜33ページ4行)。

4 証拠方法
甲第1号証:岡村 久宣ら,「Ti−AgCuろうによるAlNセラミックス接合部の組織及び接合機構」,溶接学会論文集,1991年,第9巻,第4号,p.494−501
甲第2号証:国際公開第2018/021472号
甲第3号証:長野県工業技術総合センターのホームページ(出力日:令和4年2月24日)(https://www.gitc.pref.nagano.lg.jp/seimitsu/setubi/se_shuuseki11/se_07kodo.html)
甲第4号証:Hysitron社製「TI 950 TriboIndenter」のカタログのホームページ(出力日:令和4年2月24日)(http://www.novaanalitik.com/pdf/hysitron-950.pdf)及び訳文
甲第5号証:コスモサイエンス株式会社のホームページ(出力日:令和4年2月24日)(https://www.cosmo-science.co.jp/tec/01.html)
甲第6号証:日本規格協会編,「JISハンドブック 3 非鉄」,2008年1月30日,第1版第1刷,財団法人日本規格協会,p.474,479
甲第7号証:株式会社東陽テクニカのホームページ(出力日:令和4年8月24日)(https://www.toyo.co.jp/microscopy/casestudy/detail/id=11238)

第5 取消理由の概要
1 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「特徴とする記載の銅/セラミックス接合体。」の意味が不明確であるので、前記請求項1に係る発明及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2〜3に係る発明は明確でない。

(2)本件特許明細書の段落【0053】〜【0054】によれば、本件特許に係る発明における接合された「銅部材」と「セラミックス部材」の間には所定の厚さを有するろう材の接合層が存在することが推認され、その場合、「銅部材とセラミックス部材との接合界面」は形成されないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明における「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」が、「銅部材」におけるいかなる位置をいうのかが明らかでない。
また、仮に、「銅部材とセラミックス部材との接合界面」が、「銅部材」または「セラミックス部材」と接合層との接合界面をいうものであるとしても、「セラミックス部材」と接合層との接合界面と、「銅部材」と接合層との接合界面のどちらの界面を意味しているのかが明らかでないから、前記請求項2に係る発明における「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」が、「セラミックス部材」と接合層との接合界面から「銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」をいうのか、「銅部材」と接合層との接合界面から「銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」をいうのかが明らかでない。
更に、本件特許明細書の段落【0041】、【図9A】の記載からみれば、本件特許に係る発明においては、銅板22、23及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のCuと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層41が形成されるものである。
そうすると、本件特許に係る発明における「銅部材」は、「セラミックス部材」の表面が侵食される形で、「セラミックス部材」側に形成された「活性金属化合物層」と接合するものと認められるのであって、「セラミックス部材」と接合するものとは認められないから、仮に、本件発明において、「銅部材」と「セラミックス部材」の間にろう材の接合層が存在しないとしても、「銅部材とセラミックス部材との接合界面」が形成されないことに変わりがないので、前記請求項2に係る発明における「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」が、「銅部材」におけるいかなる位置をいうのかが明らかでない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は明確でないものであり、同請求項3、5及び6について検討しても事情は同じである。

第6 特許異議申立理由及び取消理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由及び第5の取消理由についてまとめて検討する。
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項及び甲各号証に記載された発明
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には、以下の(1a)〜(1g)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「1.緒言
窒化アルミニウムセラミックス(以下,AlNと述べる)は,優れた絶縁特性だけでなく,高い熱伝導率(70〜250W/m・K)を有し,熱膨張率もシリコンに近い。…半導体装置などへAlNを適用するためには,AlN同士あるいは金属材料との信頼性の高い接合技術が必要である。これまでも,AlNの接合方法として,Ti−Pd−AuまたはTi−Ni−Auなどの薄膜メタライズ1),Moメタライズなどの厚膜メタライズ2),銅箔との直接接合方法3),活性金属ろうによる接合方法4)などが報告されている。…このため,この活性金属ろうによる接合方法は,酸化物系,窒化物系,炭化物系の各種セラミックスにその適用性が広く検討されている5,6)。…
本研究では,AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織や反応生成物の同定,並びに反応生成物の成長に及ぼすTi添加量,加熱温度,加熱時間などの影響について検討し,これらの結果から,接合機構についての考察を行った。」(495ページ左欄1行〜35行)

(1b)「2.実験方法
2.1 使用材料及び接合方法
Table 1に実験に使用したAlNの特性を示す。…このAlNを接合機構の解明用には厚さ2mm,25mm角,表面粗さ(Ra)0.3μmに,また,接合部の強度評価用には,Fig.1に示すような寸法に加工して用いた。…
AlNの接合に用いたろう材は,共晶銀ろう(72mass%Ag−28mass%Cu)粉末にTi粉末を最大20mass%添加し,さらに,これに有機バインダーを添加してペースト状にしたもので,以下,このろう材をTi−AgCuろうと述べる。
AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織及び反応生成物を調査するため,前述の寸法に加工したAlN表面にペースト状のTi−AgCuろうを100μm厚さに印刷し,これを6.6×10−3Pa(5×10−5Torr)の真空炉中でろう材の融点(約1073〜1173K)より約50K高い温度で180s間加熱した。この場合の加熱及び冷却速度は4.7〜5.0K/sである。これによって,AlN表面に厚さが50〜60μmのメタライズ層が形成される。

2.2 接合部の調査方法
前述の方法でAlN表面にTi−AgCuろうのメタライズ層が形成された試験片を接合面に直角方向に切断し,接合部の観察用試料とした。この試料について,AlNとメタライズ層との接合界面近傍を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。さらにエネルギー分散型X線分光分析法(EDX)及び波長分散型X線分光分析法(WDX)により元素分析し,接合部の組織を同定した。また,接合界面近傍の反応生成物は,X線回折法及び電子線回折法により同定し,これらの結果から,接合機構について考察した。」(495ページ左欄36行〜右欄19行)

(1c)「3 実験結果と検討
3.1 接合界面近傍の組織及び元素濃度
Fig.2にAlNと3%Ti−AgCuろうとの接合部(以下,AlN/3%Ti−AgCuろう接合部と略称)断面の光学顕微鏡写真を示す。AlNとの界面近傍に見られるろう材中の変色層は,後述するように,ろう材中のTiが接合界面に凝集して生成した反応層である。

Fig.5はAlN/3%Ti−AgCuろう接合界面近傍の各元素の分析結果を示す。接合界面近傍でTiの濃度が最も高いが,Tiに次いでCuも高い。また,Alも接合界面近傍で観察されるが,これはTi−AgCuろうとの反応によってAlNの一部が分解し,そのAlがろう材中に拡散したものと考えられる。
一方,Agは接合界面近傍ではほとんど観察されず,接合界面から約3μm以上離れたろう材の表面近傍でAgの濃度が高くなっている。この結果から,ろう材の表面近傍は,AgとCuとの共晶合金になっていることが推察される。
3.2 反応生成物の同定及び接合構造
Fig.6はAlN/3%Ti−AgCuろう接合界面近傍のTEM像を示す。Fig.7はFig.6のA部をさらに拡大したTEM像とその部分の電子線回折パターンを示す。Fig.8はB部のEDXによる元素分析結果を示す。この場合のEDXの元素分析用のビーム径は約0.3μmである。Fig.6のTEM像に示すように、AlNに接して観察される厚さ0.3μmの層(A部)は,Fig.7の電子線回折結果から多結晶のTiNと同定される。また,TiNに接して観察されるろう材側のB部では,TiとCuの他にAgとAlもわずかに検出されていることから,Cu−Ti系やAl−Cu系などの金属間化合物が生成されているものと推察される。これを確認するため,次にX線回折法による反応生成物の同定を行った。…Fig.9に示すように,TiNの他にCuTi,Cu2Ti,CuTi2,AlCu,Ti2AlNなどが同定された。これらは,Fig.6の電子線回折結果及びFig.8のEDX分析結果からも十分推察される結果である。」(495ページ右欄23行〜497ページ左欄15行)

(1d)「

」(496ページ左欄)

(1e)「

」(496ページ右欄)

(1f)「

」(497ページ左欄)

(1g)「


」(497ページ右欄)

(イ)前記(ア)(1b)〜(1f)によれば、甲第1号証には、次の事項が開示されている。
接合機構の解明用のAlNは、厚さ2mm、25mm角、表面粗さ(Ra)0.3μmに加工して用いたものである。
また、前記AlNに用いたろう材は、共晶銀ろう(72mass%Ag−28mass%Cu)粉末にTi粉末を最大20mass%添加し、さらに、これに有機バインダーを添加してペースト状にしたTi−AgCuろうであって、AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織及び反応生成物を調査するため、前述の寸法に加工したAlN表面にペースト状のTi−AgCuろうを100μm厚さに印刷し、これを6.6×10−3Pa(5×10−5Torr)の真空炉中でろう材の融点(約1073〜1173K)より約50K高い温度で180s間加熱し、この場合の加熱及び冷却速度は4.7〜5.0K/sであり、これによって、AlN表面に厚さが50〜60μmのメタライズ層として形成されるものである。
そして、前述の方法でAlN表面にTi−AgCuろうのメタライズ層が形成された試験片を接合面に直角方向に切断し、接合部の観察用試料とした試料について、AlNとメタライズ層との接合界面近傍を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、さらにエネルギー分散型X線分光分析法(EDX)及び波長分散型X線分光分析法(WDX)により元素分析して、接合部の組織を同定し、また、接合界面近傍の反応生成物をX線回折法及び電子線回折法により同定した結果から、接合機構について考察したところ、(i)AlNと3%Ti−AgCuろうとの接合部(以下、AlN/3%Ti−AgCuろう接合部と略称)断面のAlNとの界面近傍にみられるろう材中の変色層は、ろう材中のTiが接合界面に凝集して生成した反応層であり、(ii)AlN/3%Ti−AgCuろう接合界面近傍の各元素の分析結果によれば、接合界面近傍でTiの濃度が最も高いが、Tiに次いでCuも高く、また、Alも接合界面近傍で観察されるが、これはTi−AgCuろうとの反応によってAlNの一部が分解し、そのAlがろう材中に拡散したものと考えられ、一方、Agは接合界面近傍ではほとんど観察されず、接合界面から約3μm以上離れたろう材の表面近傍でAgの濃度が高くなっていることから、ろう材の表面近傍は、AgとCuとの共晶合金になっていることが推察され、(iii)更に、AlNに接して観察される厚さ0.3μmの層(A部)は、多結晶のTiNと同定され、TiNに接して観察されるろう材側のB部では、TiとCuの他にAgとAlもわずかに検出されていることから、Cu−Ti系やAl−Cu系などの金属間化合物が生成されているものと推察され、X線回折法による反応生成物の同定を行うと、TiNの他にCuTi、Cu2Ti、CuTi2、AlCu、Ti2AlNなどが同定された、という検討結果が得られた。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「接合機構の解明用のAlNであって、当該AlNは、厚さ2mm、25mm角、表面粗さ(Ra)0.3μmに加工して用いたものであり、
前記AlNの接合に用いたろう材は、共晶銀ろう(72mass%Ag−28mass%Cu)粉末にTi粉末を最大20mass%添加し、さらに、これに有機バインダーを添加してペースト状にしたTi−AgCuろうであって、AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織及び反応生成物を調査するため、前述の寸法に加工したAlN表面にペースト状のTi−AgCuろうを100μm厚さに印刷し、これを6.6×10−3Pa(5×10−5Torr)の真空炉中でろう材の融点(約1073〜1173K)より約50K高い温度で180s間加熱し、この場合の加熱及び冷却速度は4.7〜5.0K/sであり、これによって、AlN表面に厚さが50〜60μmのメタライズ層として形成されるものであり、
前述の方法でAlN表面にTi−AgCuろうのメタライズ層が形成された試験片を接合面に直角方向に切断し、接合部の観察用試料とした試料について、AlNとメタライズ層との接合界面近傍を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、さらにエネルギー分散型X線分光分析法(EDX)及び波長分散型X線分光分析法(WDX)により元素分析して、接合部の組織を同定し、また、接合界面近傍の反応生成物をX線回折法及び電子線回折法により同定した結果から、接合機構について考察したところ、
AlNと3%Ti−AgCuろうとの接合部(以下、AlN/3%Ti−AgCuろう接合部と略称)断面のAlNとの界面近傍にみられるろう材中の変色層は、ろう材中のTiが接合界面に凝集して生成した反応層であり、AlN/3%Ti−AgCuろう接合界面近傍の各元素の分析結果によれば、接合界面近傍でTiの濃度が最も高いが、Tiに次いでCuも高く、また、Alも接合界面近傍で観察されるが、これはTi−AgCuろうとの反応によってAlNの一部が分解し、そのAlがろう材中に拡散したものと考えられるものであり、一方、Agは接合界面近傍ではほとんど観察されず、接合界面から約3μm以上離れたろう材の表面近傍でAgの濃度が高くなっていることから、ろう材の表面近傍は、AgとCuとの共晶合金になっていることが推察されるものであり、
更に、AlNに接して観察される厚さ0.3μmの層(A部)は、多結晶のTiNと同定され、TiNに接して観察されるろう材側のB部では、TiとCuの他にAgとAlもわずかに検出されていることから、Cu−Ti系やAl−Cu系などの金属間化合物が生成されているものと推察され、X線回折法による反応生成物の同定を行うと、TiNの他にCuTi、Cu2Ti、CuTi2、AlCu、Ti2AlNなどが同定されたものである、接合機構の解明用のAlN。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア)甲第2号証には、以下の(2a)〜(2b)の記載がある。
(2a)「請求の範囲
[請求項1] セラミックス部材と、
接合層を介して前記セラミックス部材と接合された銅部材と、を具備し、
前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは1.0GPa以上2.5GPa以下である、接合体。」

(2b)「[0010] 図1、図2は、セラミックス−銅接合体の一例を示す図である。図1、図2は、接合体1と、セラミックス基板2と、銅板3(表銅板31、裏銅板32)と、接合層4(表面側接合層41、裏面側接合層42)と、接合層4の中心部5と、銅板3と接合層4との界面から銅板3の厚さ方向に100μmの位置の領域6と、を図示している。
[0011] 図1に示す接合体1はセラミックス基板2の片面に接合された銅板3を有する。…
[0012] セラミックス基板2の3点曲げ強度は500MPa以上であることが好ましい。…3点曲げ強度が500MPa以上のセラミックス基板としては、窒化珪素基板、高強度化した窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板等が挙げられる。

[0015] 銅板3の厚さは0.3mm以上、さらには0.7mm以上であることが好ましい。銅板3を厚くすることにより、放熱性を向上させることができる。回路基板に用いる場合に通電容量を増やすことができる。

[0017] 接合層4のナノインデンテーション硬さHITは、1.0〜2.5GPaの範囲内であることが好ましい。…

[0020] 実施形態に係る接合体は、柔らかい接合層を有する。そのため、TCTの高温側が175℃以上であっても、優れた耐久性を示す。よって、半導体回路基板に上記接合体を用いたとき、優れた信頼性を得ることができる。
[0021] 銅板3のビッカース硬さHVは100以下であることが好ましい。…
[0022] 銅板3における、銅板3と接合層4の接合界面から銅板3の厚さ方向に100μm離れた箇所6のナノインデンテーション硬さHITと接合層のナノインデンテーション硬さHITの差が0.5GPa以下であることが好ましい。…

[0024] 接合層4は、Ag−Ti化合物を有することが好ましい。接合層4は、TiCを有することが好ましい。Ag−Ti化合物またはTiCを存在させることにより、接合層4のナノインデンテーション硬さHITを制御することができる。…
[0025] 接合層4のナノインデンテーション硬さHITを制御するためには、接合ろう材を調整することが好ましい。接合ろう材としては、Ag(銀)、Cu(銅)、およびTi(チタン)を含むろう材が好ましい。接合層4は、In(インジウム)、Sn(錫)、およびC(炭素)から選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが好ましい。
[0026] Ag、Cu、Tiからなるろう材の場合、Agが40〜80質量%、Cuが15〜45質量%、Tiが1〜12質量%、Ag+Cu+Ti=100質量%、の範囲であることが好ましい。…

[0035] Tiは1〜12質量%、さらには5〜11質量%の範囲であることが好ましい。Tiは窒化珪素基板の窒素と反応してTiN(窒化チタン)相を形成する。TiN相の形成は、接合強度を向上させることができる。…

[0038] 接合工程では、上記接合ろう材ペーストを調製し、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板3を配置する。接合ろう材ペーストの塗布厚さは10〜40μmの範囲であることが好ましい。…
[0039] 次に、加熱接合を行う。加熱温度は700〜900℃の範囲である。非酸化雰囲気中、1×10−3Pa以下の圧力下で加熱接合を行うことが好ましい。加熱接合工程は加熱温度700〜900℃の範囲内で10分以上保持することが好ましい。…
[0040] 加熱工程後に冷却速度を5℃/分以上で急冷することが好ましい。…
[0041] 次に、必要に応じ、エッチング工程を行う。エッチング工程により銅板3のパターニングを行う。…」

(イ)前記(ア)(2a)によれば、甲第2号証には、セラミックス部材と、接合層を介して前記セラミックス部材と接合された銅部材と、を具備し、前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは1.0GPa以上2.5GPa以下である、「接合体」が記載されている。
そして、前記(ア)(2b)によれば、前記「接合体」は、セラミックス基板と、銅板と、接合層と、接合層の中心部と、銅板と接合層との界面から銅板の厚さ方向に100μmの位置の領域とを有し、セラミックス基板の片面に接合された銅板を有するものであり、セラミックス基板の3点曲げ強度は500MPa以上であることが好ましく、3点曲げ強度が500MPa以上のセラミックス基板としては、窒化珪素基板、高強度化した窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板等が挙げられるものであり、銅板の厚さは0.3mm以上が好ましいものであり、接合層は、ナノインデンテーション硬さHITが1.0〜2.5GPaの範囲内であることが好ましい柔らかい接合層であり、銅板のビッカース硬さHVは100以下であることが好ましいものであり、銅板における、銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITと接合層のナノインデンテーション硬さHITの差が0.5GPa以下であることが好ましいものであり、接合層は、Ag−Ti化合物を有することが好ましく、TiCを有することが好ましいものであり、接合層のナノインデンテーション硬さHITを制御するためには、接合ろう材を調整することが好ましく、接合ろう材としては、Ag(銀)、Cu(銅)、およびTi(チタン)を含むろう材が好ましいものであり、Ag、Cu、Tiからなるろう材の場合、Agが40〜80質量%、Cuが15〜45質量%、Tiが1〜12質量%、Ag+Cu+Ti=100質量%、の範囲であることが好ましいものである。
また、前記「接合体」の接合工程では、前記接合ろう材ペーストを調製し、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板を配置するものであり、接合ろう材ペーストの塗布厚さは10〜40μmの範囲であることが好ましいものであり、次に、加熱接合を行うものであり、加熱温度は700〜900℃の範囲で、非酸化雰囲気中、1×10−3Pa以下の圧力下で加熱接合を行うことが好ましく、加熱接合工程は加熱温度700〜900℃の範囲内で10分以上保持することが好ましいものであり、加熱工程後に冷却速度を5℃/分以上で急冷することが好ましいものであり、次に、必要に応じ、エッチング工程を行って、銅板のパターニングを行うものである。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第2号証には、
「セラミックス部材と、接合層を介して前記セラミックス部材と接合された銅部材と、を具備し、前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは1.0GPa以上2.5GPa以下である接合体であって、
前記接合体は、セラミックス基板と、銅板と、接合層と、接合層の中心部と、銅板と接合層との界面から銅板の厚さ方向に100μmの位置の領域とを有し、セラミックス基板の片面に接合された銅板を有するものであり、
セラミックス基板の3点曲げ強度は500MPa以上であることが好ましく、3点曲げ強度が500MPa以上のセラミックス基板としては、窒化珪素基板、高強度化した窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板等が挙げられるものであり、銅板の厚さは0.3mm以上が好ましいものであり、接合層は、ナノインデンテーション硬さHITが1.0〜2.5GPaの範囲内であることが好ましい柔らかい接合層であり、銅板のビッカース硬さHVは100以下であることが好ましいものであり、銅板における、銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITと接合層のナノインデンテーション硬さHITの差が0.5GPa以下であることが好ましいものであり、接合層は、Ag−Ti化合物を有することが好ましく、TiCを有することが好ましいものであり、接合層のナノインデンテーション硬さHITを制御するためには、接合ろう材を調整することが好ましく、接合ろう材としては、Ag(銀)、Cu(銅)、およびTi(チタン)を含むろう材が好ましいものであり、Ag、Cu、Tiからなるろう材の場合、Agが40〜80質量%、Cuが15〜45質量%、Tiが1〜12質量%、Ag+Cu+Ti=100質量%、の範囲であることが好ましいものであり、
前記接合体の接合工程では、前記接合ろう材ペーストを調製し、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板を配置するものであり、接合ろう材ペーストの塗布厚さは10〜40μmの範囲であることが好ましいものであり、次に、加熱接合を行うものであり、加熱温度は700〜900℃の範囲で、非酸化雰囲気中、1×10−3Pa以下の圧力下で加熱接合を行うことが好ましく、加熱接合工程は加熱温度700〜900℃の範囲内で10分以上保持することが好ましいものであり、加熱工程後に冷却速度を5℃/分以上で急冷することが好ましいものであり、次に、必要に応じ、エッチング工程を行って、銅板のパターニングを行うものである、接合体。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第1号証を主引用例とした場合について
ア 本件発明1〜3について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「接合機構の解明用のAlN」は、本件発明1における「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材」に相当し、甲1発明において「多結晶のTiNと同定され」る「AlNに接して観察される厚さ0.3μmの層(A部)」は、本件発明1において「セラミックス部材側」に形成される「Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層」に相当する。
すると、本件発明1と甲1発明とは、「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成」されるものである点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に」、「活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下である」「銅/セラミックス接合体。」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点1の容易想到性について検討すると、甲第2号証には、「銅/セラミックス接合体」において、活性金属化合物層の活性金属化合物粒子の最大粒子径を144nm以上180nm以下とすることは記載も示唆もされていないから、当業者は、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
してみれば、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2及び3について検討しても事情は同じである。

イ 本件発明4〜6について
(ア)前記ア(ア)と同様にして本件発明4と甲1発明とを対比すると、本件発明4と甲1発明とは、「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成」される点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明4は、「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に」、「活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下である」「絶縁回路基板」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点1’の容易想到性について検討すると、前記ア(イ)に記載したのと同様の理由により、当業者は、甲1発明において、前記相違点1’に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとするには至らないから、本件発明4は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明5及び6について検討しても事情は同じである。

ウ 小括
したがって、本件発明1〜6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲第2号証を主引用例とした場合について
ア 本件発明1〜3について
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「銅板」、「高強度化した窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板」及び「接合体」は、それぞれ、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」、「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材」及び「銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体」に相当する。
すると、本件発明1と甲2発明とは、「銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「銅/セラミックス接合体」が、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有しない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点2の容易想到性について検討すると、甲第1号証にも、「銅/セラミックス接合体」において、活性金属化合物粒子の最大粒子径を144nm以上180nm以下とすることは記載も示唆もされていないから、当業者は、甲2発明において、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
してみれば、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2及び3について検討しても事情は同じである。

イ 本件発明4〜6について
(ア)前記ア(ア)と同様にして本件発明4と甲2発明とを対比すると、本件発明4と甲2発明とは、「アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2’:本件発明4は、「絶縁回路基板」が、「前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、前記発明特定事項を有しない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点2’の容易想到性について検討すると、前記ア(イ)に記載したのと同様の理由により、当業者は、甲2発明において、前記相違点2’に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとするには至らないから、本件発明4は、甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明5及び6について検討しても事情は同じである。

ウ 小括
したがって、本件発明1〜6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
ア 特許異議申立書における、特に「活性金属化合物粒子の最大粒子径」についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(ア)甲第1号証のFig.7((1)ア(ア)(1g))にはTiN層のTEM像が記載されており、当該TEM像を用いて、本件特許明細書の段落【0034】、【図6】(下記2(2)イ(ア)b、d)に記載されたのと同様の方法によりTiN層の粒界を認定し、認定した粒界に基づいて最も大きなTiN粒子に対応する円の直径を算出すると、その値は150nmであったので、甲第1号証には、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径が150nmであることが実質的に記載されている。
また、本件発明1に係る「銅/セラミックス接合体」の製造方法と、甲1発明の製造方法とは冷却速度以外に実質的な差異はなく、本件特許明細書の段落【0038】〜【0040】(下記2(2)イ(ア)b)によれば、活性金属化合物粒子の最大粒子径は加熱温度及び温度積分値に依存し、冷却速度には依存しないとされているから、製造方法の観点からも、甲1発明は、活性金属化合物粒子の粒子径が144nm以上180nm以下であると考えられる(18ページ5行〜19ページ最終行)。

(イ)本件発明1に係る「銅/セラミックス接合体」の製造方法と甲2発明の製造方法は加圧加重を除き一致し、甲2発明において、本件発明1の製造方法を採用することに格別な困難性はないから、甲1発明において「活性金属化合物粒子の最大粒子径」を144nm以上180nm以下とすることに困難性はないので、本件発明1は、甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(25ページ下から4行〜27ページ10行)。

イ 以下、前記アの主張について検討する。
(ア)前記(1)ア(ア)(1a)によれば、甲1発明は、AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織や反応生成物を同定、並びに反応生成物の成長に及ぼすTi添加量、加熱温度、加熱時間などの影響について検討し、これらの結果から、接合機構についての考察を行うためのものであって、AlN表面にTi−AgCuろうのメタライズ層が形成された試験片にすぎず、「銅/セラミックス接合体」に係るものではない。
すると、仮に、甲第1号証に、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径が150nmであることが実質的に記載されているとしても、前記相違点1に係る発明特定事項、すなわち、「銅/セラミックス接合体」において、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径を144nm以上180nm以下とすることが記載されていないことに変わりはない。
そして、もともと接合機構についての考察を行うための試験片にすぎない甲1発明に銅部材を接合して「銅/セラミックス接合体」とする動機づけは存在しないし、仮に、甲1発明に銅部材を接合して「銅/セラミックス接合体」とすることが、当業者が容易になし得ることであるとしても、また、下記甲1方法により形成されたTi−AgCuろうのメタライズ層の活性金属化合物粒子の最大粒子径が150nmであるとしても、銅部材の接合を、単にTi−AgCuろうのメタライズ層を形成するものである下記甲1方法と同じ方法で行うことを開示する証拠はないし、そのような技術常識も存在しない。
そうすると、甲1発明に銅部材を接合して「銅/セラミックス接合体」としたとしても、そこから進んで、「銅/セラミックス接合体」の活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径を144nm以上180nm以下とすることは、当業者が容易になし得ることではない。
また、本件特許明細書の段落【0037】〜【0042】(下記2(2)イ(ア)b)によれば、本件発明1に係る「銅/セラミックス接合体」の製造方法(「本件製造方法」という。)は、低温保持工程においてCuとAlの共晶点温度以上AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲に加熱すると共に、0.098MPa以上2.94MPa以下の加圧加重により加圧するものであり、加熱工程において、AgとCuの共晶温度以上850℃以下の温度範囲に加熱すると共に、0.049MPa以上2.94MPa以下の加圧荷重により加圧するものであって、低温保持工程において、CuとAlの共晶点温度以上に保持することから、銅板及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のCuと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層が形成されるものである。
これに対して、甲1発明においては、AlNとTi−AgCuろうとの接合界面近傍の組織及び反応生成物を調査するために、AlN表面に、共晶銀ろう(72mass%Ag−28mass%Cu)粉末にTi粉末を最大20mass%添加し、さらに、これに有機バインダーを添加してペースト状にしたTi−AgCuろうを100μm厚さに印刷し、これを6.6×10−3Pa(5×10−5Torr)の真空炉中でろう材の融点(約1073〜1173K)より約50K高い温度で180s間加熱し、この場合の加熱及び冷却速度は4.7〜5.0K/sである方法(「甲1方法」という。)によって、AlN表面に厚さが50〜60μmのメタライズ層が形成されたものである。
そして、前記本件製造方法と前記甲1方法とを対比すると、これらは、少なくとも、前記本件製造方法は低温保持工程を有するのに対して、前記甲1方法は低温保持工程を有しない点、及び、前記本件製造方法においては、低温保持工程及び加熱工程において加圧加重による加圧を行うのに対して、前記甲1方法は加圧加重による加圧を行わない点で相違するし、前記甲1方法は、銅板及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のCuと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層が形成されるものではなく、単にAlN表面に厚さが50〜60μmのメタライズ層が形成されるものにすぎないから、前記本件製造方法と前記甲1方法とが、冷却速度以外に実質的な差異がないとは到底いえない。
更に、本件特許明細書の段落【0038】〜【0040】(下記2(2)イ(ア)b)には、加熱工程における加熱温度を低く抑えることにより、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径を小さく抑えることが可能となることが記載されているにすぎず、活性金属化合物粒子の最大粒子径は加熱温度及び温度積分値に依存し、冷却速度には依存しないことが記載も示唆もされるものではないから、製造方法の観点から、甲1発明における活性金属化合物粒子の粒子径が144nm以上180nm以下であるということもできない。
したがって、前記ア(ア)の主張は採用できない。

(イ)甲2発明は、「接合体」の接合工程において、接合ろう材ペーストを調製し、セラミックス部材上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板を配置するものであり、接合ろう材ペーストの塗布厚さは10〜40μmの範囲であることが好ましいものであり、次に、加熱接合を行うものであり、加熱温度は700〜900℃の範囲で、非酸化雰囲気中、1×10−3Pa以下の圧力下で加熱接合を行うことが好ましく、加熱接合工程は加熱温度700〜900℃の範囲内で10分以上保持することが好ましいものであり、加熱工程後に冷却速度を5℃/分以上で急冷することが好ましいものである。
そして、前記(ア)と同様にして、前記本件製造方法と前記接合工程とを対比すると、これらは、少なくとも、前記(ア)と同様の点で相違するから、本件発明1と甲2発明の製造方法が加圧加重を除き一致するものとはいえない。
そして、甲2発明において前記本件製造方法を採用する動機づけは存在しないし、そもそも前記本件製造方法を開示した証拠もないから、甲2発明において前記本件製造方法を採用することは当業者が容易になし得ることではないので、前記ア(イ)の主張も採用できない。

(5)まとめ
よって、特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての前記第4の1(1)及び(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)明確性要件についての当審の判断
ア 始めに、前記第4の2(1)の特許異議申立理由及び前記第5の1(1)の取消理由について検討すると、本件訂正により、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「特徴とする記載の銅/セラミックス接合体。」は「特徴とする銅/セラミックス接合体。」と訂正されたから、特許請求の範囲の請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえ、本件特許請求の範囲の請求項2〜3の記載について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(1)の特許異議申立理由及び前記第5の1(1)の取消理由はいずれも理由がない。

イ 次に、前記第4の2(2)の特許異議申立理由について検討する。
(ア)本件特許明細書には、以下のa〜eの記載がある。
a「【0012】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に形成された活性金属化合物層において、活性金属化合物の粒界にAl及びCuが存在しているので、接合材に含まれる活性金属がセラミックス部材と十分に反応しており、セラミックス部材と銅部材とが強固に接合されている。そして、反応時に生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散しているので、十分な界面反応を促進することができ、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
以上のことから、本発明の銅/セラミックス接合体によれば、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体を得ることができる。

【0014】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上とされているので、接合時に接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相が生じており、セラミックス部材と銅部材とが強固に接合されている。一方、前述の領域における最大押し込み硬さが135mgf/μm2以下に抑えられているので、接合界面近傍が必要以上に硬くなく、冷熱サイクル負荷時におけるクラックの発生を抑制することができる。

【0020】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上とされているので、接合時に接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相が生じており、セラミックス基板と銅板とが強固に接合されている。一方、前述の領域における最大押し込み硬さが135mgf/μm2以下に抑えられているので、接合界面近傍が必要以上に硬くなく、冷熱サイクル負荷時におけるクラックの発生を抑制することができる。」

b「【0030】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れたアルミニウム含有セラミックスで構成されており、本実施形態では、窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。このセラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。

【0033】
そして、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面においては、図2に示すように、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物である活性金属化合物を含む活性金属化合物層41が形成されている。
この活性金属化合物層41は、接合材に含まれる活性金属とセラミックス基板11とが反応することによって形成されたものである。
本実施形態では、活性金属としてTiが用いられており、セラミックス基板11が窒化アルミニウムで構成されていることから、活性金属化合物層41は、窒化チタン(TiN)層となる。
【0034】
ここで、活性金属化合物層41の観察結果を図3から図6に示す。図3に示すように、活性金属化合物層41の内部には、Al及びCuが存在している。また、本実施形態では、接合材に含まれるAgも存在している。
そして、図4に示すように、Al及びCu,Agは、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界に凝集して存在している。
また、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界近傍を線分析した結果、図5に示すように、粒界部分においてAl及びCu,Agの濃度が上昇していることが確認される。
さらに、本実施形態においては、図6に示すように、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下とされていることが好ましい。すなわち、活性金属化合物層41においては、粒界領域(金属相)が多く存在していることが好ましい。図6においては、TiN粒子が存在し、このTiN粒子の最大粒子径が180nm以下とされている。なお、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径は150nm以下であることがさらに好ましく、120nm以下であることがより好ましい。下限としては、例えば、4nm以上とするとよい。4nm未満の粒径とすることは製造上困難である。

【0037】
(積層工程S01)
まず、窒化アルミニウム(AlN)からなるセラミックス基板11を準備し、図8に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、接合材としてAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を配設する。
なお、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24としては、例えば、Cuを0mass%以上32mass%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5mass%以上20mass%以下の範囲で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。また、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24の厚さは、2μm以上10μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(低温保持工程S02)
次に、セラミックス基板11及び銅板22,23を積層方向に加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する。 ここで、低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされている。また、この低温保持工程S02において、上述の保持温度における温度積分値は、30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする。
また、低温保持工程S02における加圧荷重は、0.098MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
(加熱工程S03)
次に、銅板22、23とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を溶融する。
ここで、加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。なお、この加熱温度を低く抑えることにより、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径を小さく抑えることが可能となる。加熱温度の上限は845℃以下とすることが好ましく、835℃以下とすることがより好ましく、825℃以下とすることがさらに好ましい。
また、この加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値は、4℃・h以上200℃・h以下の範囲内とする。好ましくは、4℃・h以上150℃・h以下の範囲内とするとよい。
また、この加熱工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上2.94MPa以下の範囲内とする。
【0040】
(冷却工程S04)
そして、加熱工程S03の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を凝固させる。
なお、この冷却工程S04における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
上述の低温保持工程S02においては、CuとAlの共晶点温度以上に保持することから、図9Aに示すように、銅板22,23及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のCuと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生する。この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成する。これにより、図9A(a)、図9A(b)、図9A(c)の順でセラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層41が形成される。
【0042】
そして、図9Bに示すように、活性金属化合物層41において、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界には共晶液相が存在しており、この共晶液相を拡散のパスとして、セラミックス基板11側のAl及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24のAg,Cu,Tiが互いに拡散し、セラミックス基板11の界面反応が促進されることになる。
その結果、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界にAl及びCu,Agは、が凝集して存在することになる。

【0053】
(実施例1)
まず、表1に示す材質からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.3mm)を、表1に示す活性金属を含むAg−Cu系ろう材(組成:Cu28mass%,活性金属1mass%、残部がAg及び不可避不純物、厚さ:6μm)を用いて、表1に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は5×10−3Paとした。

【0059】
【表1】

【0060】
低温保持工程における温度積分値が18℃・hとされた比較例1においては、活性金属化合物層の粒界にAl及びCuが確認されず、冷熱サイクル信頼性が「C」となった。
低温保持工程における温度積分値が0℃・hとされた比較例2においては、活性金属化合物層の粒界にAl及びCuが確認されず、冷熱サイクル信頼性が「C」となった。
加熱工程における温度積分値が1.5℃・hとされた比較例3においては、銅板とセラミックス基板とを十分に接合することができなかった。このため、その他の評価を中止した。

【0062】
(実施例2)
表2に示す条件で、上述の実施例1と同様の手順により、銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、実施例1と同様の手順により、活性金属化合物層における粒界のAl及びCu、Agの有無、接合界面近傍の最大押し込み硬さ、を評価した。
また、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径、超音波接合性を、以下のようにして評価した。

【0065】
【表2】

【0066】
セラミックス基板がAlNであり、活性金属がTiである本発明例13,15,16および参考例11,12,14,17、セラミックス基板がAl2O3であり、活性金属がZrである本発明例19,20および参考例18をそれぞれ比較すると、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径が小さくなることで、超音波接合時における銅板とセラミックス基板の剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生を抑制可能であることが確認される。」

c「【図2】



d「【図6】



e「【図9A】


(イ)前記a〜c、eによれば、本件発明においては、アルミニウムを含有したセラミックス部材と銅部材との接合時に液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散しているので、十分な界面反応を促進することができるものであり、「活性金属化合物層」は、接合材に含まれる活性金属とセラミックス基板とが反応することによって形成されるものであり、セラミックス基板が窒化アルミニウムで、活性金属としてTiが用いられる場合、「活性金属化合物層」は窒化チタン(TiN)層となるものである。
すなわち、本件発明においては、銅板及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のCuと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のTiとセラミックス基板中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなる「活性金属化合物層」が形成されるものである。
すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面において」、「前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成され」る、との発明特定事項は、アルミニウムを含有したセラミックス部材と銅部材との接合時に発生した液相であるAl−Cu共晶液相を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散し、前記活性金属とセラミックス部材とが反応することで、「活性金属化合物層」が形成されることをいうものと理解するから、セラミックス部材には、銅部材との接合時に、活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散できる程度のAl−Cu共晶液相が生じるに足る量のAlが含有されるものである。
してみれば、本件発明1において、「アルミニウム含有セラミックス」にどの程度のアルミニウムが含有されているのかが特定されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1における「アルミニウム含有セラミックス」が、銅部材との接合時に、活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散できる程度のAl−Cu共晶液相が生じるに足る量のAlが含有された「セラミックス」をいうものと理解できるから、特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえ、本件特許請求の範囲の請求項2〜6の記載について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(2)の特許異議申立理由は理由がない。

ウ 更に、前記第4の2(3)の特許異議申立理由について検討すると、本件特許明細書には、更に以下の記載がある。
「【0056】
(活性金属化合物層における粒界のAgの有無)
活性金属化合物層における粒界を透過型電子顕微鏡 (FEI社製 Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧 200kV、倍率50万倍から70万倍で、粒界を横切るようにライン分析を実施した。
セラミックス基板がAlNの場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,N及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断した。
セラミックス基板がAl2O3の場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,O及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断した。」
前記記載によれば、本件発明においては、セラミックス基板がAlNの場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,N及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断し、セラミックス基板がAl2O3の場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,O及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断するものである。
このことからみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においては、Cu、Ag、セラミックス基板を構成する元素及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%のとき、粒界にAgが「有」と判断することを理解できるから、本件発明1においてAgの濃度が特定されていないとしても、本件発明1における「活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており」との発明特定事項の意味を理解できるので、特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえ、本件特許請求の範囲の請求項2〜6の記載について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(3)の特許異議申立理由は理由がない。

エ 最後に、前記第4の2(4)の特許異議申立理由及び第5の1(2)の取消理由について検討すると、本件発明においては、銅板及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のCuと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のTiとセラミックス基板中のN(窒素)とが反応してTiNが生成し、これにより、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなる「活性金属化合物層」が形成されるものであることは、前記イ(イ)に記載したとおりである。
そして、銅板及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)中のCuと、AlNからなるセラミックス基板とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生し、セラミックス基板の表面が侵食される形で、TiNからなる「活性金属化合物層」が形成されることからみれば、アルミニウムを含有したセラミックス部材と銅部材とは、前記ろう材の「接合層」を介することなく接合されるものと理解するのが妥当であるし、前記「活性金属化合物層」はセラミックス部材の一部を構成するものといえるから、本件発明2においては、銅部材と接して「セラミックス部材の接合界面」が形成されるものと解するのが合理的であるので、本件発明2の「前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」がどの範囲の領域を指すのかは明らかである。
そうすると、本件特許請求の範囲の請求項2の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないのであって、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、前記請求項2の記載は明確性要件に適合する。
更に、本件特許請求の範囲の請求項3、5及び6の記載について検討しても事情は同じであるので、前記第4の2(4)の特許異議申立理由及び第5の1(2)の取消理由はいずれも理由がない。

(3)小括
したがって、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)についての特許異議申立理由もいずれも理由がない。

3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)本件発明の課題
サポート要件の検討にあたり、本件発明の課題についてみると、本件特許明細書には、更に以下の記載がある。
「【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板に関するものである。

【0009】
ところで、最近では、絶縁回路基板の用途によっては、従来にも増してさらに厳しい冷熱サイクルが負荷されることがある。
このため、従来よりも厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル負荷時にもクラックが生じない絶縁回路基板が求められている。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板を提供することを目的とする。」
そして、前記記載によれば、本件発明は、絶縁回路基板の用途によっては、従来にも増してさらに厳しい冷熱サイクルが負荷されることがあり、このため、従来よりも厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル負荷時にもクラックが生じない絶縁回路基板が求められている、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板を提供することを目的とするものである。

(3)サポート要件についての当審の判断
ア 本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面において」、「前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成され」る、との発明特定事項は、アルミニウムを含有したセラミックス部材と銅部材との接合時に発生した液相であるAl−Cu共晶液相を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散し、前記活性金属とセラミックス部材とが反応することで、「活性金属化合物層」が形成されることをいうものと理解することは、前記2(2)イ(イ)に記載したとおりである。

イ 一方、前記2(2)イ(ア)a(段落【0012】)によれば、本件発明においては、銅部材とセラミックス部材との接合界面に形成された活性金属化合物層において、活性金属化合物の粒界にAl及びCuが存在しているので、接合材に含まれる活性金属がセラミックス部材と十分に反応しており、セラミックス部材と銅部材とが強固に接合されるものであり、反応時に生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散しているので、十分な界面反応を促進することができ、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することができ、よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができるので、本件課題を解決することができるものである。
そして、反応時に生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散して、十分な界面反応を促進することで、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することは、アルミニウムを含有したセラミックス部材と銅部材との接合時に発生した液相であるAl−Cu共晶液相を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散し、前記活性金属とセラミックス部材とが反応することで、「活性金属化合物層」が形成されること、すなわち、本件発明1の、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面において」、「前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成され」る、との発明特定事項にほかならない。

ウ 前記イによれば、当業者は、本件発明1の「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面において」、「前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成され」る、との発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、本件発明1の前記発明特定事項により本件課題を解決できることは、前記2(2)イ(ア)b(段落【0053】〜【0066】)の実施例において裏付けられている。
してみれば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本願特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するものといえ、同請求項2〜6について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。

エ 申立人は、本件特許明細書に、「アルミニウム含有セラミックス」が微量なアルミニウムを含有する場合にどのように課題が解決されるかが記載されていないから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない旨を主張している(前記第4の3(1))。
しかし、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1における「アルミニウム含有セラミックス」が、銅部材との接合時に、活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散できる程度のAl−Cu共晶液相が生じるに足る量のAlが含有された「セラミックス」をいうものと理解できることは、前記2(2)イ(イ)に記載したとおりであるから、本件発明1における「アルミニウム含有セラミックス」には、前記Al−Cu共晶液相が生じるに足る量のAlに満たない、微量なアルミニウムを含有する「セラミックス」は含まれないと解するのが妥当である。
すると、本件特許明細書に、「アルミニウム含有セラミックス」が微量なアルミニウムを含有する場合にどのように課題が解決されるかが記載されていないとしても、もともとそのような「アルミニウム含有セラミックス」は本件発明1に含まれないから、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということはできないので、前記第4の3(1)の特許異議申立理由は理由がない。

オ また、申立人は、活性金属としてNbやHfを選択した場合の実施例が記載されておらず、実質的なサポートが存在しないから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない旨を主張している(前記第4の3(2))。
しかし、前記2(2)イ(ア)b(段落【0033】、【0059】の参考例7、8参照。)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、NbやHfもまた、TiやZrと同様に活性金属化合物層を形成することを理解することができるから、活性金属としてNbやHfを選択した場合の実施例が記載されていないとしても、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないということはできないので、前記第4の3(2)の特許異議申立理由も理由がない。

(4)小括
したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)についての特許異議申立理由もいずれも理由がない。

4 申立人意見書について
ア 申立人意見書における申立人の主張の概要は以下のとおりである。
なお、申立人意見書において、申立人は、本件訂正後の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載が明確性要件、サポート要件及び実施可能要件を満たさないから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項所定の独立特許要件を満たさない旨を主張しているが、前記第2の2(4)に記載したとおり、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項所定の規定は適用されないから、前記主張は、独立特許要件に係るものではなく、本件訂正後の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載が前記明確性要件等を満たさない旨を主張するものと解して検討する。
(ア)本件発明2の「前記セラミックス部材の接合界面」が明らかでないから、「前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」も明らかでないので、本件発明2は明確性要件を満たさない(2ページ9行〜4ページ2行)。

(イ)本件発明2は、「接合時に接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相」が生じていない無酸素銅の硬さを測定した場合も含むから、サポート要件を満たさないし、「前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域」は、「接合層のみ」、「接合層及び銅部材の両方」、「銅部材のみ」のいずれかであるかが不明確であるから、明確性要件を満たさない。
また、本件発明2においてはセラミックス部材の厚さが特定されていないから、本件発明2はサポート要件を満たさない(4ページ3行〜7ページ18行)。

(ウ)本件特許明細書の記載からは、接合強度が高く、かつ冷熱サイクル信頼性に特に優れた接合体を得るためには、活性金属化合物層において、活性金属化合物の粒界にAl、Cu及びAgが共存する必要があると解されるが、本件発明1においてはこのことが特定されていないから、本件発明1はサポート要件を満たさない。
また、本件特許明細書の記載からは、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」においては接合層が必要と解されるところ、本件発明1においては接合層の存在が特定されていないので、本件発明1はサポート要件を満たさない(7ページ19行〜11ページ6行)。

(エ)本件特許明細書の段落【0060】によれば、実施例と比較例の製法の間には、温度積分値しか相違点がなく、温度積分値の相違のみによってどのように本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」が得られるのかが不明であるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない(11ページ7行〜16行)。

イ 以下、前記アの主張について検討する。
(ア)本件訂正後の特許請求の範囲の記載が明確性要件及びサポート要件に適合することは、前記2及び3で検討したとおりであり、前記ア(ア)〜(ウ)の理由により、本件特許請求の範囲の記載が明確性要件及びサポート要件を満たさないということはできないので、前記ア(ア)〜(ウ)の主張はいずれも採用できない。

(イ)また、本件特許明細書の段落【0060】(2(2)イ(ア)b)の記載は、段落【0059】の比較例について記載するものにすぎず、本件発明の実施例についての記載ではない。
そして、本件特許明細書の段落【0062】〜【0066】には、本件発明1〜6の発明特定事項を満たす実施例(本発明例13、16、19、20)が記載されているのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜6を実施できる程度に記載されているといえ、実施可能要件を満たすので、申立人の前記ア(エ)の主張も採用できない。

5 まとめ
よって、前記第4の特許異議申立理由及び第5の取消理由はいずれも理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1〜6の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1〜6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、回路層及び金属層を構成する第一の金属板及び第二の金属板を銅板とし、この銅板をDBC法によってセラミックス基板に直接接合したパワーモジュール用基板が提案されている。このDBC法においては、銅と銅酸化物との共晶反応を利用して、銅板とセラミックス基板との界面に液相を生じさせることによって、銅板とセラミックス基板とを接合している。
【0004】
また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献2においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag−Cu−Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【0005】
さらに、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅板と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス基板とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に形成されたTi化合物層内にAg粒子が分散されたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−162756号公報
【特許文献2】特許第3211856号公報
【特許文献3】特許第5757359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、DBC法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度を1065℃以上(銅と銅酸化物との共晶点温度以上)にする必要があることから、接合時にセラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった。
また、特許文献2に開示されているように、活性金属ろう付け法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度が900℃と比較的高温とされていることから、やはり、セラミックス基板が劣化してしまうといった問題があった。
【0008】
ここで、特許文献3においては、銅又は銅合金からなる銅部材と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス部材とが、Ag及びTiを含む接合材を用いて接合されており、比較的低温条件でセラミックス部材と銅部材とを接合することができ、接合時におけるセラミックス部材の劣化を抑制することが可能となる。
【0009】
ところで、最近では、絶縁回路基板の用途によっては、従来にも増してさらに厳しい冷熱サイクルが負荷されることがある。
このため、従来よりも厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル負荷時にもクラックが生じない絶縁回路基板が求められている。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴としている。
【0012】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に形成された活性金属化合物層において、活性金属化合物の粒界にAl及びCuが存在しているので、接合材に含まれる活性金属がセラミックス部材と十分に反応しており、セラミックス部材と銅部材とが強固に接合されている。そして、反応時に生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス部材側に十分に拡散しているので、十分な界面反応を促進することができ、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
以上のことから、本発明の銅/セラミックス接合体によれば、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体を得ることができる。
【0013】
また、前記活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAgが存在しているので、反応時にAl−Ag−Cu共晶液相が存在することになる。Al−Ag−Cu共晶はAl−Cu共晶よりも共晶温度が低く、系のエネルギーを低下させるため、反応がより促進することになる。
さらに、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下とされているので、前記活性金属化合物層において、相対的に硬度の低い粒界領域(金属相)が占める増加し、前記活性金属化合物層の耐衝撃性が向上する。これにより、前記活性金属化合物層におけるクラックの発生を抑制し、銅部材とセラミックス部材の剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上とされているので、接合時に接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相が生じており、セラミックス部材と銅部材とが強固に接合されている。一方、前述の領域における最大押し込み硬さが135mgf/μm2以下に抑えられているので、接合界面近傍が必要以上に硬くなく、冷熱サイクル負荷時におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記活性金属がTiであることが好ましい。
この場合、セラミックス部材と銅部材との接合界面に、活性金属化合物層として窒化チタン層又は酸化チタン層が形成されることになり、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することが可能となる。
【0017】
本発明の絶縁回路基板は、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴としている。
【0018】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に形成された活性金属化合物層において、活性金属化合物の粒界にAl及びCuが存在しているので、接合材に含まれる活性金属がセラミックス基板と十分に反応しており、セラミックス基板と銅板とが強固に接合されている。そして、反応時に生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属がセラミックス基板側に十分に拡散しているので、十分な界面反応を促進することができ、セラミックス基板と銅板とを強固に接合することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
以上のことから、本発明の絶縁回路基板によれば、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた絶縁回路基板を得ることができる。
【0019】
また、前記活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAgが存在しているので、反応時にAl−Ag−Cu共晶液相が存在することになる。Al−Ag−Cu共晶はAl−Cu共晶よりも共晶温度が低く、系のエネルギーを低下させるため、反応がより促進することになる。
さらに、前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下とされているので、前記活性金属化合物層において、相対的に硬度の低い粒界領域(金属相)が占める増加し、前記活性金属化合物層の耐衝撃性が向上する。これにより、前記活性金属化合物層におけるクラックの発生を抑制し、銅板とセラミックス基板の剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上とされているので、接合時に接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相が生じており、セラミックス基板と銅板とが強固に接合されている。一方、前述の領域における最大押し込み硬さが135mgf/μm2以下に抑えられているので、接合界面近傍が必要以上に硬くなく、冷熱サイクル負荷時におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0021】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記活性金属がTiであることが好ましい。
この場合、セラミックス基板と銅板との接合界面に、活性金属化合物層として窒化チタン層又は酸化チタン層が形成されることになり、セラミックス基板と銅板とを強固に接合することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面の拡大説明図である。
【図3】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面の観察結果である。
【図4】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面の観察結果である。
【図5】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面の観察結果である。
【図6】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層(金属層)とセラミックス基板との接合界面における活性金属化合物層のHAADF像を示す説明図である。
【図7】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【図8】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【図9A】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法における界面反応の説明図である。
【図9B】 本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法における界面反応の説明図である。
【図10】 実施例における接合界面近傍の最大押し込み硬さの測定箇所を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0026】
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(図1において下側)に配置されたヒートシンク30と、を備えている。
【0027】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材で構成されている。
【0028】
ヒートシンク30は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク30は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク30には、冷却用の流体が流れるための流路31が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク30と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層32によって接合されている。このはんだ層32は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材で構成されている。
【0029】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0030】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れたアルミニウム含有セラミックスで構成されており、本実施形態では、窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。このセラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0031】
回路層12は、図8に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図8において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板からなる銅板22がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板22の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0032】
金属層13は、図8に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図8において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板からなる銅板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板23の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0033】
そして、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面においては、図2に示すように、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物である活性金属化合物を含む活性金属化合物層41が形成されている。
この活性金属化合物層41は、接合材に含まれる活性金属とセラミックス基板11とが反応することによって形成されたものである。
本実施形態では、活性金属としてTiが用いられており、セラミックス基板11が窒化アルミニウムで構成されていることから、活性金属化合物層41は、窒化チタン(TiN)層となる。
【0034】
ここで、活性金属化合物層41の観察結果を図3から図6に示す。図3に示すように、活性金属化合物層41の内部には、Al及びCuが存在している。また、本実施形態では、接合材に含まれるAgも存在している。
そして、図4に示すように、Al及びCu,Agは、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界に凝集して存在している。
また、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界近傍を線分析した結果、図5に示すように、粒界部分においてAl及びCu,Agの濃度が上昇していることが確認される。
さらに、本実施形態においては、図6に示すように、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下とされていることが好ましい。すなわち、活性金属化合物層41においては、粒界領域(金属相)が多く存在していることが好ましい。図6においては、TiN粒子が存在し、このTiN粒子の最大粒子径が180nm以下とされている。なお、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径は150nm以下であることがさらに好ましく、120nm以下であることがより好ましい。下限としては、例えば、4nm以上とするとよい。4nm未満の粒径とすることは製造上困難である。
【0035】
また、本実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層12(金属層13)とセラミックス基板11との接合界面から回路層12(金属層13)側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、上述の最大押し込み硬さは75mgf/μm2以上であることがさらに好ましく、85mgf/μm2以上であることがより好ましい。一方、上述の最大押し込み硬さは130mgf/μm2以下であることがさらに好ましく、125mgf/μm2以下であることがより好ましい。
【0036】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、図7及び図8を参照して説明する。
【0037】
(積層工程S01)
まず、窒化アルミニウム(AlN)からなるセラミックス基板11を準備し、図8に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、接合材としてAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を配設する。
なお、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24としては、例えば、Cuを0mass%以上32mass%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5mass%以上20mass%以下の範囲で含み、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。また、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24の厚さは、2μm以上10μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(低温保持工程S02)
次に、セラミックス基板11及び銅板22,23を積層方向に加圧した状態で、真空またはアルゴン雰囲気の加熱炉内に装入して加熱して保持する。
ここで、低温保持工程S02における保持温度は、CuとAlの共晶点温度以上、かつ、AgとCuの共晶点温度未満の温度範囲とされている。また、この低温保持工程S02において、上述の保持温度における温度積分値は、30℃・h以上400℃・h以下の範囲内とする。
また、低温保持工程S02における加圧荷重は、0.098MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
(加熱工程S03)
次に、銅板22、23とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を溶融する。
ここで、加熱工程S03における加熱温度は、AgとCuの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。なお、この加熱温度を低く抑えることにより、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径を小さく抑えることが可能となる。加熱温度の上限は845℃以下とすることが好ましく、835℃以下とすることがより好ましく、825℃以下とすることがさらに好ましい。
また、この加熱工程S03において、上述の加熱温度における温度積分値は、4℃・h以上200℃・h以下の範囲内とする。好ましくは、4℃・h以上150℃・h以下の範囲内とするとよい。
また、この加熱工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上2.94MPa以下の範囲内とする。
【0040】
(冷却工程S04)
そして、加熱工程S03の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を凝固させる。
なお、この冷却工程S04における冷却速度は、特に限定はないが、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
上述の低温保持工程S02においては、CuとAlの共晶点温度以上に保持することから、図9Aに示すように、銅板22,23及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のCuと、AlNからなるセラミックス基板11とTiとの反応によって生じたAlとが共晶反応して共晶液相が発生する。この共晶液相中において、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24中のTiとセラミックス基板11中のN(窒素)とが反応してTiNが生成する。これにより、図9A(a)、図9A(b)、図9A(c)の順でセラミックス基板11の表面が侵食される形で、TiNからなる活性金属化合物層41が形成される。
【0042】
そして、図9Bに示すように、活性金属化合物層41において、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界には共晶液相が存在しており、この共晶液相を拡散のパスとして、セラミックス基板11側のAl及びAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24のAg,Cu,Tiが互いに拡散し、セラミックス基板11の界面反応が促進されることになる。
その結果、活性金属化合物(本実施形態ではTiN)の粒界にAl及びCu,Agは、が凝集して存在することになる。
【0043】
以上のように、積層工程S01と、低温保持工程S02と、加熱工程S03と、冷却工程S04とによって、セラミックス基板11と銅板22,23が接合され、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0044】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク30を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク30とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層32を介して絶縁回路基板10とヒートシンク30とをはんだ接合する。
【0045】
(半導体素子接合工程S06)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
上述の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、回路層12(金属層13)とセラミックス基板11との接合界面に形成された活性金属化合物層41において、活性金属化合物(TiN)の粒界にAl及びCuが存在しているので、接合材であるAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24に含まれる活性金属(Ti)がセラミックス基板11と十分に反応しており、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)とが強固に接合されたものとなる。
そして、低温保持工程S02において、反応によって生じた液相(Al−Cu共晶液相)を介して活性金属(Ti)がセラミックス基板11側に十分に拡散しているので、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)とを強固に接合することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態である絶縁回路基板10においては、活性金属化合物層41において、活性金属化合物の粒界にAgが存在しているので、反応時に、Al−Cu共晶よりも共晶温度が低いAl−Ag−Cu共晶液相が存在することになり、系のエネルギーを低下させることができ、反応をより促進することが可能となる。
さらに、活性金属化合物層41における活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下とされている場合には、活性金属化合物層41において相対的に硬度の低い粒界領域(金属相)が占める割合が増加して、活性金属化合物層41の耐衝撃性が向上し、活性金属化合物層41におけるクラックの発生を抑制することが可能となる。よって、端子材等を回路層12(金属層13)へ超音波接合するために、絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)に、超音波を負荷させた場合であっても、回路層12(金属層13)とセラミックス基板11の剥離や、セラミックス基板11でのクラックの発生を抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態である絶縁回路基板10において、回路層12(金属層13)とセラミックス基板11との接合界面から回路層12(金属層13)へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上とされている場合には、接合界面近傍の銅が十分に溶融して液相が発生しており、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)とがさらに強固に接合されたものとなる。
一方、上述の最大押し込み硬さが135mgf/μm2以下に抑えられている場合には、接合界面近傍が必要以上に硬くなく、冷熱サイクル負荷時におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0050】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、回路層と金属層がともに銅又は銅合金からなる銅板によって構成されたものとして説明したが、これに限定されることはない。
例えば、回路層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、金属層の材質や接合方法に限定はなく、金属層がなくてもよいし、金属層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
一方、金属層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、回路層の材質や接合方法に限定はなく、回路層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
【0051】
さらに、本実施形態では、積層工程S01において、銅板22,23とセラミックス基板11との間に、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を配設するものとして説明したがこれに限定されることはなく、他の活性金属を含有する接合材を用いてもよい。
また、本実施形態では、セラミックス基板が窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、酸化アルミニウム(Al2O3)等の他のアルミニウム含有セラミックスで構成されたものであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0053】
(実施例1)
まず、表1に示す材質からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.3mm)を、表1に示す活性金属を含むAg−Cu系ろう材(組成:Cu28mass%,活性金属1mass%、残部がAg及び不可避不純物、厚さ:6μm)を用いて、表1に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は5×10−3Paとした。
【0054】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、活性金属化合物層における粒界のAl及びCu、Agの有無、接合界面近傍の最大押し込み硬さ、冷熱サイクル信頼性を、以下のようにして評価した。
【0055】
(活性金属化合物層における粒界のAl及びCuの有無)
活性金属化合物層における粒界を透過型電子顕微鏡(FEI社製 Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率50万倍から70万倍で元素マッピングを取得し、AlとCuの共存する領域が存在した場合を、粒界にAl及びCuが「有」と判断した。
【0056】
(活性金属化合物層における粒界のAgの有無)
活性金属化合物層における粒界を透過型電子顕微鏡(FEI社製 Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率50万倍から70万倍で、粒界を横切るようにライン分析を実施した。
セラミックス基板がAlNの場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,N及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断した。
セラミックス基板がAl2O3の場合には、Agの濃度がCu,Ag,Al,0及び活性金属元素の合計値を100原子%としてAgの濃度が0.4原子%以上のとき、粒界にAgが「有」と判断した。
【0057】
(接合界面近傍の最大押し込み硬さ)
銅板とセラミックス基板との接合界面から銅板側へ10μmから50μmまでの領域において、押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス製ENT−1100a)を用いて、最大押し込み硬さを測定した。なお、図10に示すように、10μm間隔で測定を実施し、測定は50箇所で実施した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(冷熱サイクル信頼性)
以下の雰囲気を通炉させた後、SAT検査により、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査し、セラミックス割れの有無を判定した。
−78℃×2min←→350℃×2min
そして、割れ発生のサイクル数を評価した。6回未満で割れが確認されたものを「C」、6回以上8回未満で割れが確認されたものを「B」、8回以上でも割れが確認されなかったものを「A」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
低温保持工程における温度積分値が18℃・hとされた比較例1においては、活性金属化合物層の粒界にAl及びCuが確認されず、冷熱サイクル信頼性が「C」となった。
低温保持工程における温度積分値が0℃・hとされた比較例2においては、活性金属化合物層の粒界にAl及びCuが確認されず、冷熱サイクル信頼性が「C」となった。
加熱工程における温度積分値が1.5℃・hとされた比較例3においては、銅板とセラミックス基板とを十分に接合することができなかった。このため、その他の評価を中止した。
【0061】
これに対して、活性金属化合物層の粒界にAl及びCuが確認された参考例1−8においては、セラミックス基板の材質及び活性金属元素に関わらず、冷熱サイクル信頼性が「B」又は「A」となった。
特に、銅板とセラミックス基板との接合界面から銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされた参考例1−6においては、冷熱サイクル信頼性が「A」となり、特に冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0062】
(実施例2)
表2に示す条件で、上述の実施例1と同様の手順により、銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、実施例1と同様の手順により、活性金属化合物層における粒界のAl及びCu、Agの有無、接合界面近傍の最大押し込み硬さ、を評価した。
また、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径、超音波接合性を、以下のようにして評価した。
【0063】
(活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径)
活性金属化合物層を透過型電子顕微鏡(FEI社製 Titan ChemiSTEM)を用いて倍率50万倍で観察し、HAADF像を得た。
このHAADF像の画像解析により、活性金属化合物粒子の円相当径を算出した。10視野における画像解析の結果から、観察された活性金属化合物粒子の最大の円相当径を、最大粒子径として表2に示した。
【0064】
(超音波接合の評価)
絶縁回路基板に対して、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製:60C−904)を用いて、銅端子(6mm×20mm×1.5mm厚)を、荷重800N,コプラス量0.7mm,接合エリア3mm×3mmの条件で超音波接合した。なお、銅端子はそれぞれ50個ずつ接合した。
接合後に、超音波探傷装置(株式会社日立ソリューションズ製FineSAT200)を用いて、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査した。50個中5個以上で銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「D」、50個中3個以上4個以下で銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「C」、50個中1個以上2個以下で銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「B」、50個全てで銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されなかったものを「A」と評価した。評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
セラミックス基板がAlNであり、活性金属がTiである本発明例13,15,16および参考例11,12,14,17、セラミックス基板がAl2O3であり、活性金属がZrである本発明例19,20および参考例18をそれぞれ比較すると、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径が小さくなることで、超音波接合時における銅板とセラミックス基板の剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生を抑制可能であることが確認される。
【0067】
以上の実施例の結果、本発明例によれば、接合強度が高く、かつ、冷熱サイクル信頼性に特に優れた銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
10 絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)
11 セラミックス基板(セラミックス部材)
12 回路層(銅部材)
13 金属層(銅部材)
41 活性金属化合物層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材の接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記活性金属がTiであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
アルミニウム含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
この活性金属化合物層においては、活性金属化合物の粒界にAl,CuおよびAgが存在しており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が144nm以上180nm以下であることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板の接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域における最大押し込み硬さが70mgf/μm2以上135mgf/μm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記活性金属がTiであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-01 
出願番号 P2020-169086
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 855- YAA (C04B)
P 1 651・ 853- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 854- YAA (C04B)
P 1 651・ 852- YAA (C04B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 正 知晃
金 公彦
登録日 2021-08-11 
登録番号 6928297
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大浪 一徳  
代理人 寺本 光生  
代理人 寺本 光生  
代理人 松沼 泰史  
代理人 細川 文広  
代理人 細川 文広  
代理人 大浪 一徳  

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