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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1394010
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-22 
確定日 2022-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6938149号発明「検査用カバーフィルム、検査部材、および検査部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6938149号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 特許第6938149号の請求項1、2、4ないし8に係る特許を維持する。 特許第6938149号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6938149号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成28年12月22日に出願され、令和3年9月3日にその特許権の設定登録がされ、同年9月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜8に係る特許について、令和4年3月22日に特許異議申立人 安藤宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審より、同年5月31日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年7月29日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)をしたところ、本件訂正請求に対して、申立人は、同年9月20日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルムであって、
前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し、
前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であり、
前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2 …(1)
ことを特徴とする検査用カバーフィルム。」
と記載されているのを、
「基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルムであって、
前記基材を構成する材料が、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し、
前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であり、
前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2 …(1)
ことを特徴とする検査用カバーフィルム。」
との記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4および5も同様に訂正するとともに、請求項5の記載を引用する請求項6〜8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1から3のいずれか1項に記載の検査用カバーフィルム」と記載されているのを、「請求項1または2に記載の検査用カバーフィルム」との記載に訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1から4のいずれか一項に記載の検査用カバーフィルム」と記載されているのを、「請求項1、2および4のいずれか一項に記載の検査用カバーフィルム」との記載に訂正する。

なお、訂正前の請求項1〜8について、請求項2〜8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜8は一群の請求項である。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
以下、上記各訂正事項に係る訂正の適否について検討する。なお、訂正前の全ての請求項について特許異議申立ての対象とされているので、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「基材」を構成する材料が特定されていなかったのを、「前記基材を構成する材料が、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種であ」るという記載により、「基材」の内容をより具体的に特定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項1は、訂正前の請求項3における「前記基材を構成する材料が、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種である」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正事項2において訂正前の請求項3が削除されたのに伴い、訂正前の請求項4が、訂正前の請求項1から3のいずれか1項を引用する記載であり、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項1から4のいずれか1項を引用する記載であったのを、訂正により、それぞれ請求項3を引用しないものとするものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするとともに明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項3は、訂正前の請求項4が、訂正前の請求項1から3のいずれか1項を引用する記載であり、訂正前の請求項5が、訂正前の請求項1から4のいずれか1項を引用する記載であったのを、それぞれ請求項3を引用しないものとするものであるから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜8に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルムであって、
前記基材を構成する材料が、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し、
前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であり、
前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2 …(1)
ことを特徴とする検査用カバーフィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg2)が、35℃以上、150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の検査用カバーフィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記検査用カバーフィルムの厚さが、30.5μm以上、330μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の検査用カバーフィルム。【請求項5】
少なくとも1つ以上の溝が片面に設けられた基板と、前記基板における前記溝が設けられた面側に積層された、請求項1、2および4のいずれか一項に記載の検査用カバーフィルムとを備え、前記溝に収容された検体に対して光学的な検査を行うための検査部材。
【請求項6】
前記検査用カバーフィルムが、前記検査において使用される光に対して透過性を有することを特徴とする請求項5に記載の検査部材。
【請求項7】
前記基板が、前記検査において使用される光に対して透過性を有することを特徴とする請求項5または6に記載の検査部材。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の検査部材の製造方法であって、
前記基板における前記溝が設けられた面と、前記検査用カバーフィルムにおける前記熱可塑性樹脂層側の面とを、前記溝が前記熱可塑性樹脂層によって埋まることがなく熱融着し、前記基板と前記検査用カバーフィルムとを接着する工程を備えることを特徴とする検査部材の製造方法。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜8に係る特許に対して、当審が令和4年5月31日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

新規性)請求項1、2、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
進歩性)請求項1〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1発明及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2013−164311号公報
甲第2号証:特開2004−325172号公報
甲第3号証:国際公開第2012/060186号
以下、甲第1号証〜甲第3号証を、「甲1」〜「甲3」という。

2 当審の判断
(1)各甲号証の記載
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同様)。
(ア)「【背景技術】
【0002】
近年、生化学や分析化学などの科学分野または医学分野において、タンパク質や核酸(例えばDNA)などの微量な物質の分析を高精度かつ高速に行うために、マイクロ分析システムが使用されている。
【0003】
マイクロ分析システムに用いるマイクロ流路チップ(流体取扱装置)として、2枚の樹脂基板を接着剤で貼り合わせた構造のマイクロ流路チップが提案されている(例えば、特許文献1(当審注:特開2000?248076号公報のこと)参照)。特許文献1には、一方の面に溝が形成された第1樹脂基板と、第1樹脂基板の溝が形成されている面上に配置された第2樹脂基板と、第1樹脂基板と第2樹脂基板とを接着する接着剤層とを有するマイクロ流路チップが開示されている。特許文献1のマイクロ流路チップでは、第1樹脂基板および第2樹脂基板として、同一の厚さのアクリル樹脂基板を使用している。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマイクロ流路チップでは、第1樹脂基板および第2樹脂基板として、同一の厚さのアクリル樹脂基板を使用しているが、製造性の向上および製造コストの低減の観点から、第2樹脂基板として樹脂フィルム(アクリル樹脂フィルム)を使用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、アクリル樹脂フィルムは、傷やフィッシュアイ(塊)などの欠陥が生じやすいという問題がある。そこで、本発明者は、アクリル樹脂フィルムの代わりに、良品質で安価なポリエチレンテレフタレート(PET)からなるPETフィルムを使用することを検討した。ところが、従来の製造方法によりPETフィルムを用いて流体取扱装置を製造したところ、PETフィルムと樹脂基板との接着強度が不十分であったり、溝に接着剤が入り込んで流路が狭くなってしまったりして、高精度かつ高強度の流体取扱装置を効率よく製造することができなかった。【0007】 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、流路に接着剤を入り込ませることなく、かつ樹脂基板に対してPETフィルムを強固に接着することができる流体取扱装置の製造方法、およびそれにより得られる流体取扱装置を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0015】
・・・樹脂基板120は、透明な略矩形の基板であり、2つの貫通孔と、これらの貫通孔を繋ぐ溝129とを有する。・・・溝129は、樹脂基板120の一方の面に形成され、第1貫通孔121および第2貫通孔122を連通する。溝129は、PETフィルム140によりその開口部が閉塞されることで、第1凹部125および第2凹部126を連通する流路130となる。
・・・
【0018】
PETフィルム140は、樹脂基板120の一方の面上に配置された、透明な略矩形のPET製の樹脂フィルムである。たとえば、PETフィルム140は、接着剤層160を介して樹脂基板120の溝129が形成されている面に接着されており、溝129の開口部を覆う。・・・PETフィルム140の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm程度である。なお、PETフィルム140を構成する樹脂(PET)の一般的なガラス転移温度(TgB)は約70℃であり、融点(TmB)は約200℃である。
【0019】
接着剤層160は、樹脂基板120とPETフィルム140との間に配置されており、所定の接着温度(Tp)で加熱されることにより樹脂基板120とPETフィルム140を接着する。・・・接着剤層160は、樹脂基板120とPETフィルム140の密着性向上の観点から、アクリル樹脂成分とウレタン樹脂成分を含むことが必要である。
・・・
【0022】
接着剤層160の厚みは、特に限定されないが、3〜4μm程度であることが好ましい。接着剤層160の厚みが3μm未満の場合、樹脂基板120とPETフィルム140を十分に接着させることができず、樹脂基板120からPETフィルム140が剥離しやすくなる。一方、接着剤層160が4μm超の場合、熱圧着の際に接着剤層160が流路130内に入り込んでしまうおそれがある。
・・・
【0026】
本発明のマイクロ流路チップ100は、1)樹脂基板120を準備する第1の工程と、2)接着剤層160が配置されたPETフィルム140を準備する第2の工程と、3)樹脂基板120と、接着剤層160が配置されたPETフィルム140とを積層する第3の工程と、4)樹脂基板120とPETフィルム140とを接着する第4の工程とを有する。
【0027】
図3Aは、第1の工程および第2の工程を示す図である。図3に示されるように、第1の工程では、樹脂基板120を準備する。たとえば、射出成型により、2つの貫通孔と、これらの貫通孔を繋ぐ溝129とを有するPMMA製の樹脂基板120を作製する。
【0028】
同図に示されるように、第2の工程では、一方の面にアクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む接着剤層160が配置されたPETフィルム140を準備する。・・・PETフィルム140上に接着剤層160を配置する方法は、特に限定されない。たとえば、PETフィルム140の表面にアクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む樹脂組成物を塗布してもよいし(塗布法)、PETフィルム140の表面にアクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む樹脂フィルムを積層してもよい(ラミネート法)。接着剤層160は、ガラス転移温度が40〜50℃となるように調整されている。
【0029】
図3Bは、第3の工程および第4の工程を示す図である。図3に示されるように、第3の工程では、樹脂基板120の一方の面上に、接着剤層160が樹脂基板120とPETフィルム140との間に位置するようにPETフィルム140を配置する。たとえば、溝129が形成された面を上に向けた樹脂基板120に対して、接着剤層160が下側に向くようにしたPETフィルム140を上方から積層する。
【0030】
同図に示されるように、第4の工程では、接着剤層160を所定の接着温度で加熱して、樹脂基板120とPETフィルム140とを接着する。たとえば、熱圧着により接着剤層を軟化させた状態で、樹脂基板120に対してPETフィルム140を接合して、マイクロ流路チップ100を形成する。熱圧着は、90℃程度の温度で、10秒間以上行うことが好ましい。熱圧着する時間が10秒未満の場合、樹脂基板120とPETフィルム140が十分に接着されないおそれがある。
・・・
【0032】
以上のように、本発明のマイクロ流路チップ100の製造方法は、1)TgC <Tp<TgA<TmBを満たすこと、および2)接着剤層160がアクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含むこと、を特徴とする。これにより、流路に接着剤を入り込ませることなく、かつ樹脂基板120に対してPETフィルム140を強固に接着することができる。このように製造された本発明のマイクロ流路チップ100は、高精度かつ高強度であり、流路130から試料が漏出してしまうことがなく、かつ高精度に試料を分析することができる。」
(エ)図3




上記(ア)〜(エ)によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「樹脂基板120は、透明な略矩形の基板であり、2つの貫通孔と、これらの貫通孔を繋ぐ溝129とを有し、
アクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む接着剤層160が配置されたPETフィルム140は、樹脂基板120の一方の面上に配置された、透明な略矩形のPET製の樹脂フィルムであり、厚さは、100μm程度であり、PETフィルム140を構成する樹脂(PET)の一般的なガラス転移温度(TgB)は約70℃であり、
接着剤層160は、樹脂基板120とPETフィルム140との間に配置されており、厚みは、3〜4μm程度であり、接着剤層160は、ガラス転移温度が40〜50℃となるように調整されており、
溝129が形成された面を上に向けた樹脂基板120に対して、接着剤層160が下側に向くようにしたPETフィルム140を上方から積層し、熱圧着により接着剤層を軟化させた状態で、樹脂基板120に対してPETフィルム140を接合して、マイクロ流路チップ100を形成することにより、流路に接着剤を入り込ませることなく、かつ樹脂基板120に対してPETフィルム140を強固に接着することができる、
マイクロ流路チップ100の製造方法。」

イ 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
液体試料が流動する微細な流路を有する下部基板と、上部基板とを少なくとも有する、液体試料の電気的及び/又は光学的計測を行うためのマイクロチップであって、これら基板のうち、少なくとも下部基板が下記式(1)で表される炭化水素系重合体の水素化体である透明炭化水素系重合体からなることを特徴とするマイクロチップ。」
(イ)「【0031】
本発明における下部基板と上部基板の形状は特に限定はされないが、通常は平板状である。下部基板の厚さは通常10〜5000μmである。一方、上部基板の厚さは通常1〜500μmであり、好ましくは1〜100μmである。下部基板、上部基板の何れも本発明の透明炭化水素系重合体からなることが好ましい。但し、下部基板に比べて上部基板は薄いため、蛍光のバックグラウンドによる検出感度の低下が著しくない範囲で上部基板として透明炭化水素系重合体以外もの、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)を使用することも可能である。
・・・
【0037】
上記上部基板と下部基板を貼り合わせ流路を形成する方法として、超音波融着、熱融着、ホットメルト接着剤やUV接着剤による接着、粘着剤による粘着、直接または薄い弾性シートを介しての圧接等の方法を挙げることができる。その中でも厚さ0.03mm程度のPE平膜を上部基板と下部基板の熱融着材として用い、120℃付近の温度で速度0.1〜1m/minでラミネーターを用い熱圧着する方法は簡便で好ましい。
・・・
【0067】
上部基板として厚さ0.03mmのPET平膜を用い、接着層として厚さ0.03mmの低密度ポリエチレン(PE)平膜を用いて、接着層を挟んで上部基板と厚さ0.1mmの下部基板を積層し、温度125℃、速度0.2m/min、ロール間に25kgの力を加えラミネータで熱圧着してマイクロチップを得た。上記の方法で電気浸透流を測定した結果、5.02×10−8m2s−1V−1の値を示した。
・・・
【0071】
【発明の効果】
本発明によって、透明で、紫外線領域における吸収の少ない、耐割れ性、耐衝撃性等の力学的性質が良好な樹脂製のマイクロチップを安価に提供することができる。」

上記(ア)〜(イ)によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2発明)
「液体試料が流動する微細な流路を有する下部基板と、上部基板とを有する、液体試料の光学的計測を行うためのマイクロチップであって、
上部基板として厚さ0.03mmのPET平膜を用い、接着層として厚さ0.03mmの低密度ポリエチレン(PE)平膜を用いて、接着層を挟んで上部基板と厚さ0.1mmの下部基板を積層し、ラミネータで熱圧着して得た、
透明で、紫外線領域における吸収の少ない、耐割れ性、耐衝撃性等の力学的性質が良好な樹脂製のマイクロチップ。」

ウ 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
(ア)「[0001] 本発明は、PCRに利用可能なマイクロチップ、及び、マイクロチップの製造方法に関する。
・・・
[0041](1−4.検出部)
検出部16は、発光ダイオード(LED)やレーザ等の光源と、フォトダイオード(PD)やフォトマル等の受光部などとで構成され、マイクロチップ2内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロチップ2上の所定位置(後述の検出領域200)で光学的に検出する。光源と受光部との配置には透過型と反射型とがあり、必要に応じて決定されればよい。
・・・
[0044] 図3Aおよび図3Bに示すように、マイクロチップ2は、互いに貼り合わされた基板3とフィルム4とを備えている。
[0045] 基板3は、フィルム4に対する接合面(以下、内側面3Aとする)に流路用溝30及び反応室用凹部301を有している。この流路用溝30は、基板3とフィルム4とが貼り合わされた場合に、フィルム4と協働して微細流路20を形成する。また、反応室用凹部301は、基板3とフィルム4とが貼り合わされた場合に、フィルム4と協働してPCRを行う反応室201を形成する。この反応室201は、微細流路20により連通されている。微細流路20には、検査装置1の検出部16による標的物質の検出対象領域として、検出領域200が設けられている。・・・
・・・
[0047] 本実施形態において、フィルム4は、流路用溝や反応室凹部を塞ぐためのカバー部材として用いられる。このフィルム4は、基板3における内側面3Aの側から順番に、低耐熱性フィルム4a、接着層4c、及び、高耐熱性フィルム4bにより構成される。これらの低耐熱性フィルム4a、接着層4c、及び、高耐熱性フィルム4bは、それぞれシート状となっており、接着層4cを構成する接着剤によって低耐熱性フィルム4aと高耐熱性フィルム4bとが接合されている。・・・
・・・
[0049] ・・・流路用溝30を有する基板3の板厚は、成形性を考慮して、0.2mm〜5mmが好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。流路用溝を覆うための蓋(カバー部材)として機能するフィルム4の厚さは、全体で30μm〜300μmであることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
[0050] また、基板3、低耐熱性フィルム4a、及び、高耐熱性フィルム4bは、樹脂によって形成される。基板3、低耐熱性フィルム4a、及び、高耐熱性フィルム4bに用いられる樹脂に関しては、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線や可視光に対する自家蛍光の発生効率が低いことなどが条件として挙げられる。例えば、低耐熱性フィルム4aや高耐熱性フィルム4bには熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサン、環状ポリオレフィンなどを用いることが好ましい。特に好ましいのは、PMMA、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンを用いることである。
・・・
[0055] 低耐熱性フィルム4aと高耐熱性フィルム4bは、接着層4cを構成する接着剤により接合される。接着層4cに用いられる接着剤に関しては、異なる機械物性(熱膨張率、弾性率、ポアソン比、ヤング率など)のフィルムに対して接着強度が確保できること、高温下でも接合強度が確保できること、透明性が高いこと、紫外線や可視光に対する自家蛍光の発生効率が低いことなどが条件として挙げられる。この接着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤を用いることができる。この接着層4cは、接着剤の光透過性および自家蛍光の発生効率を考慮して、低耐熱性フィルム4a及び高耐熱性フィルム4bに比して薄く形成されている。この接着層4cの厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。また、接着層4cは、前述のように1層で構成されていても良いし、基材(例えば、薄いポリエステルフィルム)の両側に薄い接着層を形成した3層構造のものであっても良い。低耐熱性フィルム4aと高耐熱性フィルム4bとを、接着剤を介さずに、例えば、熱ラミネータで熱融着させることも可能である。接着剤、熱融着、又は、それ以外の方法でフィルム4を作製しても良い。
[0056] 低耐熱性フィルム4aの厚さについては、低耐熱性フィルムの機能の一つが基板3との接合力をPCR温度条件下において確保することなので、50μm以上とすることが望ましい。これより薄いと加熱時の接合強度が不足する恐れがある。また、厚くしすぎると、熱伝導性及び透明性の低下や、自家蛍光の発生効率の上昇を招くことから、200μm以下とすることが望ましい。より好ましくは、50μm以上100μm以下である。高耐熱性フィルム4bの厚さについては、高耐熱性フィルム4bは、直接ヒータに接触して熱的負荷がかかること、或いは、ヒータその他装置部分に接触して機械的負荷がかかることがあるため、50μm以上が望ましい。また、厚くしすぎると、熱伝導性及び透明性の低下や自家蛍光の発生効率の上昇を招くことから、200μm以下が望ましい。より好ましくは、50μm以上100μm以下である。
・・・
[0058] [実験例1]
縦40mm、横30mmのサイズで、深さ18μm、幅40μmの流路用溝とこれに接続する深さ18μm、体積40mm3の反応室用凹部(反応室)が表面に設けられた厚さ1.5mmのPMMA樹脂(旭化成製デルペット70NH(商品名))からなる基板を成形により作製した。一方、厚さ125μmのPMMA樹脂フィルム(三菱レイヨン製アクリプレンHBS−006(商品名)、荷重たわみ温度77℃)と、厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンFE−2000(商品名)、荷重たわみ温度145℃)とを、ポリエステル基材にアクリル系粘着剤を使用した厚さ10μmの3層構成の接着層により接合して、カバー部材となるフィルムを作製した。そして、このフィルムのPMMA樹脂フィルム側が上記基板の流路用溝形成面に向き合うように重ねて、86℃、4kNの条件で熱融着させてマイクロチップを作製した。」
(イ)図3B



上記(ア)、(イ)によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「マイクロチップ2内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロチップ2上の所定位置で光学的に検出し、
マイクロチップ2は、互いに貼り合わされた基板3とフィルム4とを備え、基板3は、フィルム4に対する接合面に流路用溝30を有し、この流路用溝30は、基板3とフィルム4とが貼り合わされた場合に、フィルム4と協働して微細流路20を形成し、
微細流路20には、検査装置1の検出部16による標的物質の検出対象領域として、検出領域200が設けられ、
フィルム4は、基板3における内側面3Aの側から順番に、低耐熱性フィルム4a、接着層4c、及び、高耐熱性フィルム4bにより構成され、
流路用溝を覆うための蓋(カバー部材)として機能するフィルム4の厚さは、全体で30μm〜300μmであることが好ましく、
低耐熱性フィルム4aや高耐熱性フィルム4bには熱可塑性樹脂が用いられ、熱可塑性樹脂として特に好ましいのは、PMMA、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンであり、
接着層4cに用いられる接着剤は、接着強度が確保できること、透明性が高いことなどが条件として挙げられ、
低耐熱性フィルム4aと高耐熱性フィルム4bとを、接着剤を介さずに、熱ラミネータで熱融着させることも可能であり、
低耐熱性フィルム4aの厚さは、低耐熱性フィルムの機能の一つが基板3との接合力をPCR温度条件下において確保することなので、50μm以上とすることが望ましく、これより薄いと加熱時の接合強度が不足する恐れがあり、
縦40mm、横30mmのサイズで、深さ18μm、幅40μmの流路用溝とこれに接続する深さ18μm、体積40mm3の反応室用凹部(反応室)が表面に設けられた厚さ1.5mmのPMMA樹脂からなる基板を成形により作製し、一方、厚さ125μmのPMMA樹脂フィルム(荷重たわみ温度77℃)と、厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(荷重たわみ温度145℃)とを、接着層により接合して、カバー部材となるフィルムを作製し、
このフィルムのPMMA樹脂フィルム側が上記基板の流路用溝形成面に向き合うように重ねて、86℃、4kNの条件で熱融着させて作成したマイクロチップ。」

(2)甲1発明を主引用発明とする新規性について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「アクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む接着剤層160が配置されたPETフィルム140」は、「PETフィルム140」、「接着剤層160」は、それぞれ本件発明1における「基材」、「熱可塑性樹脂層」といえ、「接着剤層160が配置されたPETフィルム140」は、「樹脂基板120の一方の面上に配置され」て「マイクロ流路チップ100」を構成する。
したがって、甲1発明における「アクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む接着剤層160が配置されたPETフィルム140」は、本件発明1における「基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルム」に相当する。
(イ)甲1発明における「接着剤層160が配置されたPETフィルム140」は、本件発明1の「検査用カバーフィルム」に相当しているから、甲1発明の「接着剤層160」が「PETフィルム140」に「配置され」ていることは、本件発明1における「前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し」ていることに相当する。
(ウ)甲1発明において、「接着剤層160」の「厚みは、3〜4μm程度であ」ることは、本件発明1における「前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であ」ることに相当する。
(エ)甲1発明における「PETフィルム140」(基材)の「ガラス転移温度(TgB)は約70℃であり、」「接着剤層160」(熱可塑性樹脂層)の「ガラス転移温度が40〜50℃となるように調整されて」いることは、本件発明1において、「前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2 …(1)」ことに相当する。

上記(ア)〜(エ)によれば、本件発明1と甲1発明の検査用カバーフィルムとは、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
(一致点)
基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルムであって、
前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し、
前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であり、
前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2 …(1)
ことを特徴とする検査用カバーフィルム。
【相違点1】
「検査用カバーフィルム」における「基材を構成する材料」が、本件発明1では、「ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種である」のに対し、甲1発明では、「PET製」の樹脂フィルムである点で相違する。

イ 小括
以上のとおり、本件発明1と甲1発明との間には相違点1が存在するから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、特許法29条1項3号に該当しない。
本件発明1の構成を全て備える本件発明2、4についても同様である。

(3)甲1発明を主引用発明とする進歩性について
ア 相違点1についての判断
上記(2)アで検討したとおり、本件発明1と甲1発明との間には相違点1が存在するので、この点について検討する。
甲2には、マイクロチップを構成する下部基板に比べて薄い上部基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を使用することも可能であることが記載され、甲3には、マイクロチップにおいて流路用溝を覆うための蓋(カバー部材)に用いられ熱可塑性樹脂として特に好ましいのは、PMMA、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンであることが記載されており、甲2及び甲3には、「基材を構成する材料」について、PETと同列に相違点1に係る「ポリカーボネート」が記載されている。
しかし、甲1発明は、マイクロ流路チップにおける第2樹脂基板(本件発明における「基材」に相当)として、アクリル樹脂フィルムを使用することが考えられたものの、傷やフィッシュアイ(塊)などの欠陥が生じやすいという問題があることから、アクリル樹脂フィルムの代わりに良品質で安価なPETフィルムを使用することを前提に、流路に接着剤を入り込ませることなく、かつ樹脂基板に対してPETフィルムを強固に接着することができるようにしたものであるから(【0005】〜【0007】)、甲1発明において、「基材を構成する材料」として用いている「PET製」の樹脂フィルムに代えて、甲2及び甲3に記載されている「ポリカーボネート」を採用する動機付けがあるとは認められない。

また、甲1〜3のほかに、申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して以下の甲第4号証〜甲第8号証(以下「甲4」〜「甲8」という。)を提出している。
甲第4号証:国際公開第2009/131070号
甲第5号証:特開2015−166707号公報
甲第6号証:特開2007−190909号公報
甲第7号証:特開2002−347185号公報
甲第8号証:“マイクロ化学チップの技術と応用”、化学とマイクロ・ナ
ノシステム研究会、平成16年9月20日、p.1〜4
しかし、上記のとおり、甲1発明は、マイクロ流路チップにおける第2樹脂基板として、PETフィルムを使用することを前提に、その課題を解決することに特徴を有するものであるから、甲4〜甲8の記載を参酌したとしても上記判断は変わるものではない。

したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たものということはできない。

イ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者が甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1の構成を全て備える本件発明2、4〜8についても同様である。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について

1 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
上記「第4」で検討したもののほか、申立人は、申立書において、以下の特許異議申立理由を申し立てている。
(理由1−2)訂正前の本件発明1、3〜7は、甲第2号証に記載された発明と同一である。
(理由2−2)訂正前の本件発明1〜8は、甲第2号証に記載された発明および甲第1、6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由2−3)訂正前の本件発明1〜8は、甲第3号証に記載された発明および甲第1、4、7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 甲2に記載された発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)対比
本件発明1と甲2発明(上記「第4」「2(1)イ」を参照)とを対比すると、甲2発明の「上部基板」、「接着層」が、それぞれ、本件発明1の「基材」、「熱可塑性樹脂層」に相当することを踏まえると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
【相違点2】
本件発明1は、「構成する材料が、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種であ」る「基材」の「片面側に積層された熱可塑性樹脂層」を備えた「検査用カバーフィルム」であるのに対し、
甲2発明は、上部基板(基材)がPET平膜であり、接着層(熱可塑性樹脂層)としての低密度ポリエチレン平膜を挟んで下部基板と積層されるものの、上部基板を構成する材料が「ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種」でなく、上部基板(基材)の片面側に積層された接着層(熱可塑性樹脂層)を備えた検査用カバーフィルムであることは特定されていない点。

(2)相違点2についての判断
甲2の段落【0031】には、「上部基板として・・・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)・・・を使用することも可能である」との記載があることから、甲2発明において上部基板(基材)として用いるPET平膜に代えて、相違点2に係る「ポリカーボネート(PC)」を用いることは当業者が容易になし得ることといえる。
しかし、甲2には、接着剤について、段落【0037】に「記上部基板と下部基板を貼り合わせ流路を形成する方法として、超音波融着、熱融着、ホットメルト接着剤やUV接着剤による接着、粘着剤による粘着、直接または薄い弾性シートを介しての圧接等の方法を挙げることができる」と記載されるように、上部基板と下部基板を貼り合わせることを前提とした記載があるのみで、予め上部基板(基材)の片面側に積層された接着層(熱可塑性樹脂層)を備えた検査用カバーフィルムとすることは記載も示唆もされていない。
申立人は、令和4年9月20日付け意見書において、熱圧着を用いたマイクロチップの製造において上部基板及び接着層を予め貼り合わせてカバーフィルムとすることは、甲1に記載されるように周知技術であると主張するが(2頁7〜10行)、甲1発明における「PETフィルム140」(基材)、「アクリル樹脂成分およびウレタン樹脂成分を含む接着剤層160」(熱可塑性樹脂層)の厚さは、それぞれ「100μm程度」、「3〜4μm程度」であるのに対し、甲2発明における「PET平膜」(基材)、「低密度ポリエチレン(PE)平膜」(熱可塑性樹脂層)の厚さはいずれも「30μm」であり、両者において熱可塑性樹脂層に要求される機能等が異なっており、甲2発明において、上部基板(基材)として用いるPET平膜に代えて、相違点2に係る「ポリカーボネート(PC)」を用いる際に、甲1に記載された技術的事項を採用して予め上部基板(基材)の片面側に積層された接着層(熱可塑性樹脂層)を備えた検査用カバーフィルムとすることが当業者に容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人が申立書に添付して提出したその他の証拠の記載を参酌しても上記判断を変えるべき事情を見いだせない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1と甲2発明との間には相違点2が存在するから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、当業者が甲2発明及び甲1、甲3ないし甲8に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1の構成を全て備える本件発明2、4〜8についても同様である。

3 甲3に記載された発明を主引用発明とする進歩性について
(1)対比
本件発明1と甲3発明(上記「第4」「2(1)ウ」を参照)とを対比すると、甲3発明の「厚さ100μmのポリカーボネートフィルム(荷重たわみ温度145℃)」、「厚さ125μmのPMMA樹脂フィルム(荷重たわみ温度77℃)」が、それぞれ、本件発明1の「基材」、「熱可塑性樹脂層」に相当することを踏まえると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
【相違点3】
本件発明1の「前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であ」るのに対し、甲3発明の「PMMA樹脂フィルム(荷重たわみ温度77℃)」(熱可塑性樹脂)は、厚さが「125μm」である点。

(2)相違点3についての判断
甲3発明の「PMMA樹脂フィルム(荷重たわみ温度77℃)」である低耐熱性フィルムについて、甲3の段落[0056]には、「低耐熱性フィルム4aの厚さについては、低耐熱性フィルムの機能の一つが基板3との接合力をPCR温度条件下において確保することなので、50μm以上とすることが望ましい。これより薄いと加熱時の接合強度が不足する恐れがある」との記載があることから、甲3発明の「PMMA樹脂フィルム(荷重たわみ温度77℃)」である低耐熱性フィルムの厚さを「0.5μm以上、30μm以下」とすることには阻害要因が存在する。
申立人は、令和4年9月20日付け意見書において、甲1の段落【0022】には、熱圧着によりマイクロチップを製造する際の接着剤層の厚みに関し、十分な接着性の確保および接着剤層の流路内への入り込み防止の観点から厚みを3〜4μmにすることが記載されており、甲4の段落【0055】には、熱圧着によりマイクロプレートを製造する際の接着層の厚みに関し、薄型化の観点から好ましくは30μm以下に形成することが記載されていると主張するが(2頁30行〜最終行)、甲3に上記記載がある以上、甲1、甲4に上記のような記載があるとしても甲1や甲4に記載の技術的事項の採用を検討することはない。
また、申立人が申立書に添付して提出したその他の証拠の記載を参酌しても上記判断を変えるべき事情を見いだせない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者が甲3発明及び甲1、甲2、甲4ないし甲8に記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明1の構成を全て備える本件発明2、4〜8についても同様である。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面側に積層された熱可塑性樹脂層とを備えた検査用カバーフィルムであって、
前記基材を構成する材料は、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、シクロオレフィン樹脂およびアクリル樹脂の少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂層は、前記検査用カバーフィルムの片側の最外層を構成し、
前記熱可塑性樹脂の厚さは、0.5μm以上、30μm以下であり、
前記基材を構成する材料のガラス転移温度をTg1とし、前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg2とした場合、下記式(1)を満たす
Tg1>Tg2…(1)
ことを特徴とする検査用カバーフィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg2)が、35℃以上、150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の検査用カバーフィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記検査用カバーフィルムの厚さが、30.5μm以上、330μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の検査用カバーフィルム。
【請求項5】
少なくとも1つ以上の溝が片面に設けられた基板と、前記基板における前記溝が設けられた面側に積層された、請求項1、2および4のいずれか一項に記載の検査用カバーフィルムとを備え、前記溝に収容された検体に対して光学的な検査を行うための検査部材。
【請求項6】
前記検査用カバーフィルムが、前記検査において使用される光に対して透過性を有することを特徴とする請求項5に記載の検査部材。
【請求項7】
前記基板が、前記検査において使用される光に対して透過性を有することを特徴とする請求項5または6に記載の検査部材。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載の検査部材の製造方法であって、
前記基板における前記溝が設けられた面と、前記検査用カバーフィルムにおける前記熱可塑性樹脂層側の面とを、前記溝が前記熱可塑性樹脂層によって埋まることがなく熱融着し、前記基板と前記検査用カバーフィルムとを接着する工程を備えることを特徴とする検査部材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-11-07 
出願番号 P2016-250108
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 樋口 宗彦
長井 真一
登録日 2021-09-03 
登録番号 6938149
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 検査用カバーフィルム、検査部材、および検査部材の製造方法  
代理人 飯田 理啓  
代理人 村雨 圭介  
代理人 飯田 理啓  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  

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