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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G03F |
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管理番号 | 1394015 |
総通号数 | 14 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-11 |
確定日 | 2023-01-31 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7042892号発明「中空パッケージの製造方法及び感光性組成物の提供方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7042892号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7042892号の請求項1〜7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2020−192768号)は、令和2年11月19日を出願日とする出願であって、令和4年3月17日にその特許権の設定登録がされ、令和4年3月28日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年7月11日に、特許異議申立人 東レ株式会社(以下「特許異議申立人」という。)から、請求項1〜7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明7」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「【請求項1】 アルミニウム配線を有する基板上に、前記アルミニウム配線を収容する中空構造体を備えた中空パッケージの製造方法であって、 前記のアルミニウム配線を有する基板上に、前記アルミニウム配線を囲む側壁を形成する工程と、 前記側壁上に、天板部を形成して、前記アルミニウム配線を収容する前記中空構造体を作製する工程と、 を有し、 前記側壁及び前記天板部の双方が、ネガ型感光性組成物により形成される感光性樹脂膜を、有機系現像液で現像する操作を含む工程により形成され、 前記ネガ型感光性組成物は、カチオン部とアニオン部とからなるカチオン重合開始剤を含有し、 前記アニオン部が、下記一般式(I1−an)で表されるアニオンを含む、中空パッケージの製造方法。 【化1】 [式中、Aは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスからなる群より選択されるヘテロ原子である。Xは、ハロゲン原子である。Rは、1価の有機基である。kは、1〜6の整数である。但し、Rは、kが2以上の場合は複数存在するRが連結し、Aに配位する2価以上の有機基となってもよい。mは、0〜5の整数である。nは、1〜3の整数である。m/(k+m)は、0以上0.7未満である。] 【請求項2】 前記一般式(I1−an)における、m/(k+m)が0.5未満である、請求項1に記載の中空パッケージの製造方法。 【請求項3】 前記カチオン重合開始剤が、下記一般式(I1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の中空パッケージの製造方法。 【化2】 [式中、Rb01〜Rb04は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、又はフッ素原子である。但し、フッ素原子の個数(m’)と、置換基を有していてもよいアリール基の個数(k’)との間で、m’/(k’+m’)は0以上0.7未満の関係が成り立つ。qは、1以上の整数であって、Qq+は、q価の有機カチオンである。] 【請求項4】 前記側壁及び前記天板部の双方を形成する前記ネガ型感光性組成物は、前記カチオン重合開始剤と、エポキシ基含有化合物と、を含有するネガ型感光性組成物である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の中空パッケージの製造方法。 【請求項5】 前記ネガ型感光性組成物中の前記カチオン重合開始剤の含有量は、前記エポキシ基含有化合物100質量部に対して0.5〜5質量部である、請求項4に記載の中空パッケージの製造方法。 【請求項6】 前記の中空構造体を作製する工程の後に、前記中空構造体を封止材により封止する工程をさらに有する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の中空パッケージの製造方法。 【請求項7】 請求項1ないし6のいずれか一項に記載の中空パッケージの製造方法を実行するプロセスラインに対し、前記ネガ型感光性組成物を提供する、感光性組成物の提供方法。」 第3 特許異議申立ての概要 1 証拠 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。 (1)甲第1号証:特開2010−145522号公報 (2)甲第2号証:特開2018−36533号公報 (3)甲第3号証:再公表特許第2009/151050号 なお、甲第1号証は主引用文献、甲第2〜3号証は副引用文献である(以下、「甲第1号証」〜「甲第3号証」をそれぞれ、「甲1」〜「甲3」という。)。 2 申立て理由の概要 特許異議申立人が主張する取消しの理由は、概略、以下のとおりである。 (1)特許法29条2項(同法113条2号) 本件特許発明1〜7は、甲1に記載された発明と甲2〜3に記載された技術的事項に基づいて、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 第4 当合議体の判断 1 甲1の記載及び甲1に記載された発明 (1)甲1の記載 本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)ポリアミック酸と、(B)重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、を含有し、 前記(B)重合性化合物が、分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含む、感光性樹脂組成物。 ・・・中略・・・ 【請求項9】 基板上に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂組成物層を積層し、該感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめ、次いで、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部以外の部分を有機溶剤系の現像液を用いて除去した後、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する工程を含む、SAWフィルタの製造方法。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、感光性樹脂組成物、SAWフィルタ及びその製造方法に関する。 ・・・中略・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 この問題を解決するため、製造の低コスト化・短時間化を達成するため、セラミック代替材として、フォトリソグラフィにより容易に加工できる感光性樹脂材料の開発が望まれている(上記特許文献3及び4参照)。 【0005】 SAWフィルタは、圧電基板の表面に櫛歯状のアルミ電極(Inter Digital Transducer、IDT電極と称される)を持っており、この櫛歯状のアルミ電極が形成されている部分は、表面弾性波を伝搬するために中空空間である必要がある。そのため、感光性樹脂がセラミックの代替となるには、中空空間を形成するために厚膜を形成できる必要がある。 【0006】 また、SAWフィルタ製造工程において、上記アルミ電極がフォトリソグラフィ時の現像液にさらされる場合がある。このとき、アルカリ現像液を使用すると、アルミ電極が腐食するという問題が起こることから、有機溶剤を用いて溶剤現像可能な感光性樹脂が求められている。さらに、上記アルミ電極の腐食を防止するという点から、感光性樹脂は、吸水率が低く、高温時の耐湿性(以下、「耐湿熱性」という)に優れることが要求される。 【0007】 また、上記アルミ電極は、200℃を越える高温において帯電し、製品の特性に影響を及ぼすことから、低温硬化可能な感光性樹脂が求められている。 【0008】 高耐熱性、高信頼性を有する感光性樹脂としては、感光性ポリイミド系材料が考えられるが、硬化温度が250〜350℃と高く、また、10μm以上の厚さの膜を形成困難であるといった問題がある。 【0009】 一方、30μm程度の厚膜の形成が可能であり且つ硬化温度が150℃程度である感光性樹脂として、エポキシ系感光性樹脂が挙げられる。しかし、エポキシ系感光性樹脂は、一般に吸水率が高く、ポリイミドと比べて十分な耐湿熱性が得られないため、高温での透湿によりアルミ電極の腐食が発生するという問題がある。 【0010】 これらの問題を解決するため、200℃程度の低温硬化が可能で吸水率が低く、厚膜形成や溶剤現像が可能な感光性樹脂の開発が進められている。しかし、上記の問題は改善できても、硬化物のガラス転移温度の低下や現像時の解像度低下といった新たな問題が生じている。ガラス転移温度が低いと、SAW素子を含む中空構造が樹脂封止されるときに中空潰れの原因になることがあり、モールド耐性が不十分となりやすい。また、解像度が低いと、ファインパターンが形成できなかったり、現像残渣が発生したりといった問題が生じることとなる。 【0011】 本発明は、以上のような従来の課題を解決するためになされたものであって、溶剤現像に対応可能であり、低温硬化可能であり、吸水率が十分に低く、耐湿熱性に優れ、厚膜でも解像度に優れ、硬化物が高いガラス転移温度を有する感光性樹脂組成物、それを用いたSAWフィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 上記目的を達成するために、本発明は、(A)ポリアミック酸と、(B)重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、を含有し、上記(B)重合性化合物が、分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含む、感光性樹脂組成物を提供する。 【0013】 かかる感光性樹脂組成物は、SAWフィルタの形成用途に特に好適に用いられる。上記感光性樹脂組成物は、ポリイミド前駆体である(A)ポリアミック酸を含む上記構成を有することにより、その樹脂硬化物は、吸水率が十分に低く、優れた耐湿熱性を得ることができる。また、上記(A)ポリアミック酸を用いることで、その樹脂硬化物は優れた耐熱性・剛直性を得ることができる。また、上記構成を有する上記感光性樹脂組成物は、解像度良く厚膜形成が可能である。更に、上記感光性樹脂組成物は、(B)重合性化合物として、分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含むことで、光硬化後の樹脂が十分な耐溶剤性を発現でき、有機溶剤を用いた溶剤現像が可能となる。また、上記感光性樹脂組成物は、上記分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含有することで、比較的低温(例えば200℃以下)で硬化可能となり、SAWフィルタ製造工程においてアルミ櫛歯電極の帯電を抑制することができる。また、上記感光性樹脂組成物は、上記分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含有することで、硬化物が高いガラス転移温度を有し、封止樹脂のモールド圧に十分に耐えることができる。 ・・・中略・・・ 【0024】 本発明は更に、基板上に、上記本発明の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂組成物層を積層し、該感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめ、次いで、上記感光性樹脂組成物層の上記露光部以外の部分を有機溶剤系の現像液を用いて除去した後、上記感光性樹脂組成物層の上記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する工程を含む、SAWフィルタの製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、上記本発明の感光性樹脂組成物を用いているため、有機溶媒を用いた溶剤現像が可能であり、厚膜で解像度よく像形成が可能であるとともに、比較的低温(例えば200℃以下)で硬化して樹脂硬化物を形成することができるうえ、硬化物は高いガラス転移温度を有する。そのため、SAWフィルタの製造工程での電極の腐食や帯電、樹脂封止時の中空潰れを十分に抑制することができる。 【発明の効果】 【0025】 本発明によれば、溶剤現像に対応可能であり、低温硬化可能であり、吸水率が十分に低く、耐湿熱性に優れ、ガラス転移温度が高く、厚膜で解像度よく像形成が可能な感光性樹脂組成物、それを用いたSAWフィルタ及びその製造方法を提供することができる。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0026】 以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。 ・・・中略・・・ 【0110】 (SAWフィルタ及びその製造方法) 図1は、本発明のSAWフィルタの好適な一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように、SAWフィルタ100は、基板10と、該基板10上に形成された櫛形電極20と、基板10上の櫛形電極20が形成されている部分に中空空間を形成するためのリブ部30及び蓋部40と、櫛形電極20に電気的に接続された配線50と、を備えている。そして、リブ部30及び蓋部40は、本発明の感光性樹脂組成物からなる樹脂硬化物で構成されている。 【0111】 上記基板10としては、例えば、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、ガリウム砒素基板等の圧電性基板が用いられる。上記櫛形電極20の材質としては、例えば、アルミニウム等が用いられる。上記配線50の材質としては、例えば、鉛−スズ、はんだ等が用いられる。 【0112】 次に、上記SAWフィルタ100の製造方法について説明する。図2(a)〜(c)は、本発明のSAWフィルタ100の製造方法の好適な一実施形態を示す工程図である。 【0113】 まず、図2(a)に示すように、櫛形電極20が形成された基板10上に本発明の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂組成物層32を積層する。 ・・・中略・・・ 【0118】 次に、図2(a)に示すように、必要に応じて所望のパターンを有するネガマスク60を介して感光性樹脂組成物層32の所定部分に活性光線を照射し、露光部を光硬化せしめる。 ・・・中略・・・ 【0120】 次に、図2(b)に示すように、感光性樹脂組成物層32の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成した後、感光性樹脂組成物層32の露光部を熱硬化させ、樹脂硬化物からなるリブ部30を形成する。 【0121】 ここで、現像液としては、N−メチルピロリドン、エタノール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートのような有機溶剤を使用することができる。これらの中でも、アルミ配線の腐食をより確実に防ぐために、感光性樹脂組成物層32の現像には、シクロヘキサノンを用いることが好ましい。 ・・・中略・・・ 【0124】 次に、図2(c)に示すように、リブ部30上に蓋部40を設けて中空構造を形成する。以上の工程を経て、SAWフィルタの中空構造作製を完了する。 【0125】 ここで、蓋部40は、例えば、予め本発明の感光性樹脂組成物を成膜してフィルム化したものを用いて作製することができる。すなわち、このフィルム化した感光性樹脂組成物を、リブ30の上部に貼り付けしてから、露光、現像、熱硬化して蓋部40を形成することができる。 【0126】 また、蓋部40とリブ部30との接着は、例えば、ロールラミネーターを用いた熱圧着による接着等により行うことができる。 【0127】 なお、蓋部40は、本発明の感光性樹脂組成物以外の材料で構成されたものであってもよい。但し、蓋部40は、耐湿熱性に優れ、且つ、吸水率の低い材料で構成されていることが好ましい。また、蓋部40としては、セラミック等の封止用基板を用いることもできる。本発明の感光性樹脂組成物により形成されたパターンは、少なくともSAWフィルタの中空構造形成用のリブ材に用いられる。」 エ 「【図1】 」 オ 「【図2】 」 (2)甲1発明 甲1の請求項1を引用する請求項9には、「基板上に、請求項1・・・中略・・・に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂組成物層を積層し、該感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめ、次いで、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部以外の部分を有機溶剤系の現像液を用いて除去した後、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する工程を含む、SAWフィルタの製造方法。」が記載されている。 また、甲1の【0026】以降には、【発明を実施するための最良の形態】として、甲1の請求項9の製造方法を具現化した発明が記載されている。 そして、同【0026】以降には、「SAWフィルタ100は、基板10と、該基板10上に形成された櫛形電極20と、基板10上の櫛形電極20が形成されている部分に中空空間を形成するためのリブ部30及び蓋部40と、櫛形電極20に電気的に接続された配線50と、を備えている」(同【0110】)点、「リブ部30及び蓋部40は、本発明の感光性樹脂組成物からなる樹脂硬化物で構成」(同【0110】)される点が記載され、さらに、【0112】以降には、「SAWフィルタ100の製造法」として、「感光性樹脂組成物層32の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成した後、感光性樹脂組成物層32の露光部を熱硬化させ、樹脂硬化物からなるリブ部30を形成」(同【0120】)する点、「蓋部40は、例えば、予め本発明の感光性樹脂組成物を成膜してフィルム化したものを用いて作製することができる。すなわち、このフィルム化した感光性樹脂組成物を、リブ30の上部に貼り付けしてから、露光、現像、熱硬化して蓋部40を形成」(同【0125】)する点がそれぞれ記載されている。 上記製造工程によれば、甲1には、「リブ部」及び「蓋部」が「感光性樹脂組成物層」、すなわち、甲1の請求項9に記載の「感光性樹脂組成物層」で形成されることが記載されているといえる。 また、甲1には、「蓋部」を形成する際に「現像」(同【0125】)することが記載されている。当該「現像」の詳細は甲1に明記されていないものの、甲1の請求項9には「前記感光性樹脂組成物層の前記露光部以外の部分を有機溶剤系の現像液を用いて除去」することが記載されており、かつ、「蓋部」と同一の「感光性樹脂組成物層」を用いる「リブ部」の形成の際には「感光性樹脂組成物層32の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成」することを踏まえると、甲1には、「蓋部」についても、「リブ部」と同様に、「感光性樹脂組成物層」「の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成」することが記載されているに等しい。 加えて、同【0110】の「櫛形電極」は、同【0111】によると「材質」として「アルミニウム」が用いられているといえる。 そうしてみると、甲1には、請求項9に係る製造方法を具現化した発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「基板上に、感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂組成物層を積層し、該感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめ、次いで、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部以外の部分を有機溶剤系の現像液を用いて除去した後、前記感光性樹脂組成物層の前記露光部を熱硬化させて樹脂硬化物を形成する工程を含む、SAWフィルタの製造方法であって、 前記感光性樹脂組成物は、(A)ポリアミック酸と、(B)重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、を含有し、前記(B)重合性化合物が、分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を含む、感光性樹脂組成物であり、 前記SAWフィルタは、基板と、該基板上に形成された櫛形電極と、基板上の櫛形電極が形成されている部分に中空空間を形成するためのリブ部及び蓋部と、櫛形電極に電気的に接続された配線と、を備えており、リブ部及び蓋部は、前記感光性樹脂組成物からなる樹脂硬化物で構成されており、 前記櫛形電極の材質としては、アルミニウムが用いられ、 前記SAWフィルタの製造方法は、前記感光性樹脂組成物層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成した後、前記感光性樹脂組成物層の露光部を熱硬化させ、樹脂硬化物からなるリブ部を形成し、次に、リブ部上に蓋部を設けて中空構造を形成し、以上の工程を経て、SAWフィルタの中空構造作製を完了する方法であり、 前記蓋部は、前記感光性樹脂組成物を成膜してフィルム化した感光性樹脂組成物層を、リブの上部に貼り付けしてから、露光、現像、熱硬化して蓋部を形成するものであり、 前記蓋部の前記現像は、前記感光性樹脂組成物層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成する、 SAWフィルタの製造方法。」 2 本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりである。 ア アルミニウム配線を有する基板 甲1発明の「櫛形電極に電気的に接続された配線」は、本件特許発明1の「アルミニウム配線」と、「配線」である点で共通する。 甲1発明の「基板」は、その「基板上」に上記「配線」が形成されているので、本件特許発明1の「アルミニウム配線を有する基板」と、「配線を有する基板」である点で共通する。 イ 中空構造体を備えた中空パッケージの製造方法 甲1発明の「基板」と「基板上」「に中空空間を形成するためのリブ部及び蓋部」との組み合わせは、本件特許発明1の「中空構造体を備えた中空パッケージ」に相当する。 甲1発明の「SAWフィルタの製造方法」は、「SAWフィルタの中空構造作製を完了する方法」であるので、本件特許発明1の「アルミニウム配線を収容する中空構造体を備えた中空パッケージの製造方法」と、「中空構造体を備えた中空パッケージの製造方法」である点で共通する。 ウ 側壁を形成する工程 甲1発明は「リブ部を形成」する工程を含んでいるところ、当該「リブ部」は、「基板上の櫛形電極が形成されている部分に中空空間を形成するためのリブ部」であるため、「基板上」に形成するものである。また、甲1発明の「基板」は、上記アで述べたとおり「配線を有する基板」である。 よって、甲1発明の「リブ部を形成」する工程は、本件特許発明1の「前記のアルミニウム配線を有する基板上に、前記アルミニウム配線を囲む側壁を形成する工程」と、「配線を有する基板上に」「側壁を形成する工程」である点で共通する。 エ 中空構造体を作成する工程 甲1発明の「基板上の櫛形電極が形成されている部分に中空空間を形成するための」「リブ部上に蓋部を設けて中空構造を形成」する工程は、本件特許発明1の「前記側壁上に、天板部を形成して、前記アルミニウム配線を収容する前記中空構造体を作製する工程」と、「前記側壁上に、天板部を形成して、」「前記中空構造体を作製する工程」である点で共通する。 オ ネガ型感光性組成物により形成される感光性樹脂膜を、有機系現像液で現像する操作を含む工程 甲1発明の「感光性樹脂組成物」は、「前記感光性樹脂組成物層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去することによりパターンを形成」するものである。未露光部を現像液を用いて除去する「感光性組成物」は「ネガ型」である(本件特許明細書【0036】の記載からも明らかである。)。したがって、甲1発明の「感光性樹脂組成物層」は、本件特許発明1の「感光性樹脂膜」に相当する。また、甲1発明の「感光性樹脂組成物層」は、本件特許発明1の「感光性樹脂膜」の「ネガ型感光性組成物により形成される」という要件を満たす。 さらに、甲1発明の「感光性樹脂組成物層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去すること」は、本件特許発明1の「ネガ型感光性組成物により形成される感光性樹脂膜を、有機系現像液で現像する操作を含む工程」に相当する。 加えて、甲1発明は、「リブ部」と「蓋部」の双方について、「感光性樹脂組成物層の露光部以外の部分(未露光部)を有機溶剤系の現像液を用いて除去」している。 よって、甲1発明は、本件特許発明1の「前記側壁及び前記天板部の双方が、ネガ型感光性組成物により形成される感光性樹脂膜を、有機系現像液で現像する操作を含む工程により形成され」という要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 本件特許発明1と甲1発明は、下記アの点で一致し、下記イ(ア)〜(エ)の点で相違する。 ア 一致点 「 配線を有する基板上に、中空構造体を備えた中空パッケージの製造方法であって、 前記の配線を有する基板上に、側壁を形成する工程と、 前記側壁上に、天板部を形成して、前記中空構造体を作製する工程と、 を有し、 前記側壁及び前記天板部の双方が、ネガ型感光性組成物により形成される感光性樹脂膜を、有機系現像液で現像する操作を含む工程により形成される、 中空パッケージの製造方法。」 イ 相違点 (ア)相違点1 「基板」が、本件特許発明1は、「アルミニウム配線を有する」のに対して、甲1発明は、「配線」を有するものの「アルミニウム配線」を有しない点。 (イ)相違点2 「中空構造体」が、本件特許発明1は、「アルミニウム配線を収容する」のに対して、甲1発明は、「アルミニウム配線を収容」しない点。 (ウ)相違点3 「側壁」が、本件特許発明1は、「アルミニウム配線を囲む」のに対して、甲1発明は、「アルミニウム配線を囲む」ものではない点。 (エ)相違点4 「ネガ型感光性組成物」が、本件特許発明1は、「カチオン部とアニオン部とからなるカチオン重合開始剤を含有し、前記アニオン部が、下記一般式(I1−an)で表されるアニオンを含む」という要件を満たすのに対して、甲1発明は、「(C)光重合開始剤」を含むものの、当該「(C)光重合開始剤」が「カチオン重合開始剤」ではない点。 【化1】 [式中、Aは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスからなる群より選択されるヘテロ原子である。Xは、ハロゲン原子である。Rは、1価の有機基である。kは、1〜6の整数である。但し、Rは、kが2以上の場合は複数存在するRが連結し、Aに配位する2価以上の有機基となってもよい。mは、0〜5の整数である。nは、1〜3の整数である。m/(k+m)は、0以上0.7未満である。] (3)判断 事案に鑑み、上記相違点4に係る本件特許発明1の構成の容易想到性について検討する。 ア 動機付け 甲2(【請求項1】と【0187】〜【0190】などを参照。)や甲3(【請求項1】と【0023】〜【0024】などを参照。)には、エポキシ樹脂とカチオン重合開始剤とを含む感光性組成物であって、当該カチオン重合開始剤がカチオン部とアニオン部とからなり、アニオン部が本件特許発明1の一般式(I1−an)で表されるアニオンを含む感光性樹脂組成物が記載されている。 甲1発明の「感光性樹脂組成物」は「(B)重合性化合物が、分子内にアミド結合及び2以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物」であるところ、当該「エチレン性不飽和基」は、一般に、カチオン重合開始剤ではなくラジカル重合開始剤により「光重合」がなされる。よって、甲1発明の「光重合開始剤」のみを甲2や甲3のカチオン重合開始剤に替えたとしても「光重合」が起こらないため、仮に甲1発明に甲2や甲3に記載のカチオン重合開始剤を導入する際は、それに伴って、甲1発明の「(B)重合性化合物」も、カチオン重合開始剤に対応した化合物、すなわち、甲2や甲3に記載のエポキシ樹脂に替える必要があることは技術的にみて明らかである。 しかしながら、甲1発明は、「エポキシ系感光性樹脂は、一般に吸水率が高く、ポリイミドと比べて十分な耐湿熱性が得られないため、高温での透湿によりアルミ電極の腐食が発生するという問題」(甲1の【0009】)という「従来の課題を解決するためになされたもの」(同【0011】)であって、「感光性樹脂組成物は、ポリイミド前駆体である(A)ポリアミック酸を含む上記構成を有すること」(同【0013】)をその解決手段とした発明である。 甲1発明の上記目的と課題解決手段に照らせば、甲1発明の感光性組成物を、甲2や甲3に記載された、エポキシ樹脂と、カチオン重合開始剤とを含む感光性組成物に替えることには阻害要因がある。 したがって、甲1発明において甲2や甲3に記載されたカチオン重合開始剤を採用する動機付けは見いだし難い。 イ 効果 本件特許発明1は、「上記一般式(I1−an)で表されるアニオンを含む感光性組成物により形成されている。上記一般式(I1−an)中、m/(k+m)は、0以上0.7未満である。(I)成分のアニオンにおいて、ヘテロ原子(式中のA)に直接結合しているハロゲン原子は、容易に遊離する。これに対して、本実施形態では、中空構造体を形成する際に、そのようなヘテロ原子(式中のA)に直接結合しているハロゲン原子が少ないか、又は無いアニオンを含有する(I)成分を用いることで、ハロゲン原子が遊離する量を低減することができる。」(本件特許明細書【0217】)、及び、「中空パッケージが備えるアルミニウム配線が腐食する一因として、前記の遊離するハロゲン原子が寄与していることが考えられる。本実施形態においては、ハロゲン原子の遊離する量を低減する(I)成分を採用しているため、アルミニウム配線の腐食が抑制された中空パッケージを製造することができる。」(同【0218】)という効果を奏するところ、当該効果は、甲1〜甲3に接した当業者が予測し得たとはいえない。 よって、本件特許発明1は、上記相違点4に係る構成により、当業者において予測できない異質な効果ないし顕著な効果を奏するものである。 ウ 小括 以上のとおりであるから、甲1発明において上記相違点4に係る本件特許発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たといえない。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、「甲2や甲3には、カチオン部とアニオン部とからなるカチオン重合開始剤を含有するネガ型感光性組成物であって、アニオン部が一般式(I1−an)で表されるアニオンを含むものが記載されているから、本件特許発明1は甲1発明に甲2や甲3の記載事項を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものと言わざるを得ない。」(特許異議申立書第9頁)と主張する。 しかし、上記(3)に記載のとおり、甲1発明において甲2や甲3に記載されたカチオン重合開始剤を採用する動機付けは見出し難く、しかも、本件特許発明1は、当該カチオン重合開始剤に係る構成により当業者において予測できない異質な効果ないし顕著な効果を奏するものであるので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (5)小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と、甲2〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 3 本件特許発明2〜7について 本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜7は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。 そうしてみると、前記2と同様の理由により、本件特許発明2〜7も、甲1に記載された発明と、甲2〜3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 第5 むすび 請求項1〜7に係る特許は、いずれも、特許異議の申立ての理由及び証拠によって取り消すことはできない。また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-01-20 |
出願番号 | P2020-192768 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G03F)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 石附 直弥 |
登録日 | 2022-03-17 |
登録番号 | 7042892 |
権利者 | 東京応化工業株式会社 |
発明の名称 | 中空パッケージの製造方法及び感光性組成物の提供方法 |
代理人 | 飯田 雅人 |
代理人 | 松本 将尚 |
代理人 | 宮本 龍 |
代理人 | 棚井 澄雄 |