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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A47K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47K
管理番号 1394016
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-21 
確定日 2023-02-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第7006754号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7006754号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7006754号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和2年10月22日に出願され、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、同年1月24日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年7月21日に特許異議申立人金山 愼一(以下「申立人」という。)により請求項1〜5に係る発明の特許に対する特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」〜「本件発明5」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1〜5の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であり、
前記シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であり、
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に前記トイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であり、
前記ティシューソフトネス測定装置TSAにより、前記試料台に前記トイレットロールのロール内側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7内面は、前記TS7外面よりも大きく、30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることを特徴とするトイレットロール。
【請求項2】
前記トイレットペーパーは、紙質が異なる2枚のシートを用いて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
前記トイレットペーパーは、前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成されたダブルエンボスが付されており、および前記2枚のシートは、それぞれのエンボス凹部が前記トイレットペーパーの両面に位置するように重ね合わされていることを特徴とする請求項1または2に記載のトイレットロール。
【請求項4】
前記トイレットペーパーは、紙面全域にシングルエンボスが付されており、およびエンボス凹部がロール外側となるように巻き取られていることを特徴とする請求項1または2に記載のトイレットロール。
【請求項5】
前記TS7内面と前記TS7外面との比R(TS7内面/TS7外面)は、1.80以上2.20以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のトイレットロール。」

なお、以下、特許異議申立書の記載にならい、本件発明1の発明特定事項を次のように分説し、順に[構成要件A]〜[構成要件E]として引用することがある。
[構成要件A] 2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られたトイレットロールであって、
[構成要件B] 前記トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であり、
[構成要件C] 前記シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であり、
[構成要件D] ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に前記トイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であり、
[構成要件E] 前記ティシューソフトネス測定装置TSAにより、前記試料台に前記トイレットロールのロール内側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7内面は、前記TS7外面よりも大きく、30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることを特徴とするトイレットロール。


第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各証拠を提出している。
1 取消理由1:進歩性(特許法29条2項
本件発明1〜5は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2〜9号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2 取消理由2:サポート要件(特許法36条6項1号
本件特許の請求項1〜5は、請求項1に記載された「TS7内面」が「30dBV2rms以上40dBV2rms以下である」ことが本件特許の課題を解決することが当業者が認識できる範囲を超えており、また、請求項1に記載された「巻長」、「巻直径」、「坪量」、「TS7外面」及び「TS7内面」の数値範囲の全てについて本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、その発明に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 取消理由3:実施可能要件(特許法36条4項1号
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例において「TS7内面」が「30dBV2rms以上40dBV2rms以下である」ことによりシートが柔らかさに優れているように実施できるが不明であり、実施例の5例以外で、「巻長」、「巻直径」、「坪量」、「TS7外面」及び「TS7内面」の数値範囲の条件を満たすトイレットロールを実施できるか不明であるから、当業者が請求項1〜5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、その発明に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 取消理由4:明確性(特許法36条6項2号
本件特許の請求項2〜5に係る発明は、請求項2に記載された「紙質」並びに請求項3に記載された「エンボス加工の条件」及び「エンボス加工の条件が異なるエンボス」が表すものが明確でなく、特許を受けようとする発明が明確でないから、その発明に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠>
甲第1号証:特開2014−188342号公報
甲第2号証:特開2020−137868号公報
甲第3号証:特開2017−196272号公報
甲第4号証:特開2009−219562号公報
甲第5号証:特開2019−010366号公報
甲第6号証:特開2019−092671号公報
甲第7号証:特開2019−146879号公報
甲第8号証:「ティシューソフトネス測定装置 ティシューの柔らかさを分析するための新しくて客観的な測定技術」、独国emtec社日本総代理店 日本ルフト株式会社、2011年1月11日
甲第9号証:「うんちはすごい Vol.20 もう間違えない!トイレットペーパーの表裏の見分け方」、NPO法人日本トイレ研究所、加藤篤、2018年5月21日


第4 証拠の記載
1 甲1
(1) 甲1の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審合議体が付与した。以下同様である。)。
ア 特許請求の範囲請求項1及び2
「【請求項1】
2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74〜93m、巻直径が100〜130mmである衛生薄葉紙ロール。

【請求項2】
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した前記積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、
TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が12〜27dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が13〜22dBV2rmsであり、
前記TS750の値を1とした時、前記積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したときのTS750の値が1.06〜2.30である請求項1記載の衛生薄葉紙ロール。」

イ 明細書段落【0001】
「【0001】
この発明は、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールに関するものである。」

ウ 明細書段落【0004】
「【0004】
しかしながら、ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。一方、これらの不具合を補うために紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を弱めると、柔らかさや滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに収まり難くなる問題がある。また、エンボス処理を強めると、紙厚が高くなりすぎたり、紙の表裏の使用感の差が大きくなるなどの問題がある。また、坪量を下げずに、カレンダー処理を強くして紙厚を薄くすると、ロール径を小さくすることはできるが、柔らかさがなく、品質が劣る問題がある。
従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。」

エ 明細書段落【0009】
「【0009】
この発明によれば、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールを得ることができる。」

オ 明細書段落【0011】〜【0018】
「【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態につき説明するが、これらは例示の目的で掲げたものでこれらにより本発明を限定するものではない。 図1に示すように、本発明の実施形態に係る衛生薄葉紙ロール10は、2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体10xをロール状に巻き取ってなり、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、ロールの巻長(巻き取り長さ)が74〜93m、巻直径DRが100〜130mmである。巻直径DRは、好ましくは100〜125mmである。
1枚当りの衛生薄葉紙の坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、詳しくは後述するが、衛生薄葉紙の原紙ウェブのカレンダー条件(カレンダー処理後の紙厚及び比容積、カレンダー処理前後の紙厚差)及びエンボス条件(エンボス処理後の紙厚及び比容積、エンボス処理前後の紙厚差)を規定する。
【0012】
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2以下であるか、又は紙厚が0.6mm/10枚以下であると、強度が低下すると共に使用感(嵩高さ)も低下する。衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が17g/m2を超えるか、又は紙厚が1.1mm/10枚を超えると、積層体が厚くなり、これを74m以上巻いたロールの巻直径が130mmを超え、トイレットペーパーホルダーに収まり難くなったり、紙の表裏の使用感の差が大きくなる。
ロールの巻長が74m未満であると、1ロール当りの巻長が短くなり、保管時の省スペースが図れない。ロールの巻長が93mを超えるものは、巻直径DR(ロールの外径)が130mmを超えてしまい、トイレットペーパーホルダー等に収まり難くなる。 衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が好ましくは14.0〜16.0g/m2であり、紙厚が好ましくは0.60〜0.80mm/10枚である。
【0013】
ティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)により、試料台に設置した積層体(2枚重ねの衛生薄葉紙)10xのロール外側の表面10aを上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が好ましくは12〜27dBV2rms、より好ましくは12〜22dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が好ましくは13〜22dBV2rms、より好ましくは13〜19dBV2rmsである。又、積層体の表面を上にした上記TS750の値(これを「TS750t」と表記する)を1とした時、積層体10xのロール内側の裏面10bを上にして試料台に設置したときのTS750の値(これを「TS750b」と表記する)で表される比R(TS750b/TS750t)が好ましくは1.06〜2.30、より好ましくは1.06〜1.60である。
積層体の表面を上にしたサンプルについて、TS7の数値が上記範囲より高いと、十分なやわらかさが得られず、上記範囲より低いと、柔らかさだけが際立ち、良好な触感を得ることができない場合がある。TS750(TS750t)の数値が上記範囲より高いと、滑らかさに劣り、上記範囲より低いと、滑らかではあっても、エンボス処理が十分ではなく、プレイ剥がれが起こる場合がある。
【0014】
積層体にはエンボスが付与され、ロール外側となる表面のTS750tは、ロール内側となる裏面のTS750bより低くなる。これは、表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているため、裏面の方が粗く感じてTS750の値が高くなるためである。
そして、上記比Rは積層体の表裏面の触感の差を表し、比Rが2.30を超えると、表裏面の触感の差(滑らかさの表裏差)が大きくなり過ぎる。一方、比Rが1.06未満であると、エンボス深さが浅くなってエンボスが弱く、プライが剥がれやすくなる。
【0015】
剛性(D)は、TSAにより、試料台に設置したサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される。
Dが2.3〜3.5mm/Nであることが好ましく、2.7〜3.5mm/Nであることがより好ましい。 Dが上記範囲の下限値より低いと、しなやかさに劣り、上記範囲の上限値より高いとしなやかさが際立ちすぎる一方、DMDTが低くて破れやすく、又、滑らかさが劣り、全体の品質のバランスを欠く。
【0016】
ここで、図2に示すように、ティシューソフトネス測定装置TSA210は、紙試料(サンプル)206の上から、回転したブレード付きロータ204を押付けたときの各種センサで検知した振動データを、振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、紙のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであり、ドイツのエムテック(Emtec Electronic GmbH、日本代理店は日本ルフト株式会社)社製の商品名である。
TSAを用いた具体的な測定は、(i)円形の試料台205を外側から覆うようサンプル206(emtec社のサンプルパンチを使用して直径が約112.8mmの円形に加工したサンプル)を設置し、サンプル206の外周をサンプル固定リング208で保持し、(ii)ブレード付きロータ204を100mNの押し込み圧力でサンプル206の上から押し込んだ後、ロータ204を回転数2.0(/sec)で回転させ、(iii) 試料台205の振動を、試料台205内部に設置した振動センサ203で測定し、振動周波数を解析する。(iv)次に、押し込み圧力100mNと600mNで、ロータ204を回転させずにそれぞれサンプル206を変形させたときの上下方向の変形変位量(mm/N、剛性D)を計測する。 (i)〜(iv)の手順により、製品の総合的なハンドフィール値の要素(滑らかさ、しなやかさ、ボリューム感)が各々数値化できる。測定は1サンプルについて、5回行い、平均化する。
【0017】
なお、試料台205はベースプレート201上に設置され、試料台205とベースプレート201の間には、力センサ202が配置されている。そして、力センサ202の検出値により、ブレード付きロータ204の押し込み圧力を制御する。又、ブレード付きロータ204はモータ209によって回転する。
又、振動解析してパラメータ化(TS値)するソフトウェアは、emtec measurement systemを用いる。本ソフトウェアには、各種アルゴリズム(例えば、Base Tissue、Facial、TP等)が備えられ、TS7、TS750、D(剛性)をソフトウェア上で自動的に取得し、これらTS7、TS750、Dおよび、坪量、厚さ、Ply数等から各種アルゴリズムの種類によって、HF(ハンドフィール)値が計算される。本発明では、HF値ではなく、TS7、TS750、Dのみを規定しており、上記測定条件を満たせば、アルゴリズムは何を使用しても良く、TS7、TS750、Dの値はアルゴリズムの種類によって変わることはない。
【0018】
図3は、TSAによる紙試料サンプルの振動周波数の解析結果の一例を示す。低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークAの強度をTS750とし、6500Hzを含む(6500Hzの前後の)スペクトルの極大ピークBの強度をTS7とする。極大ピークBは、通常、約6500Hzに位置する。
図4は、TSAによる紙試料サンプルの剛性Dの測定方法を示す。
紙試料サンプルの振動周波数は、紙の構造及びロータ4の回転数に依存し、振幅(スペクトルの強度)は、クレープの高さ等の紙の構造の高さに依存する。そして、スペクトルの最初のピーク(図3のA)であるTS750は滑らかさ、粗さを表す。一方、TS7が現れる周波数(5000〜8000Hzの範囲、通常は6500Hz近傍)は、ロータ4の共振周波数であり、水平振動となって紙表面を進むときに紙繊維による瞬間的な遮断とロータ4の振動に起因する。剛性Dは、紙の剛性(引張強度)に相関する。
TS7の値が低いほど、ふんわり感(表面ソフトネスおよびバルクソフトネス)に優れ、TS750の値が低いほど、滑らかさに優れる。又、Dの値が大きいほど、しなやかさに優れる。TS750、D及びTS7を規定することにより、従来は評価者の主観に負っていた衛生薄葉紙の柔らかさ(ふんわり感及び滑らかさ)を定量的に評価できる。」

カ 明細書段落【0024】
「【0024】
衛生薄葉紙は、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造することができる。」

キ 図1




(2) 甲1発明
前記(1)において摘記した記載事項及び図面の内容を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取ったトイレットティシューである衛生薄葉紙ロールであって、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74〜93m、巻直径が100〜130mmであり、
前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下であり、
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した前記積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、
TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が12〜27dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が13〜22dBV2rmsであり、
前記TS750の値を1とした時、前記積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したときのTS750の値が1.06〜2.30であり、
積層体にはエンボスが付与された、
衛生薄葉紙ロール。」

2 甲2
本件特許の出願前に発行された甲2には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0059】
「【0059】
(HF(ハンドフィール)値)
本発明のTSA(ティッシュソフトネス測定装置)によるHF値は、71以上83以下であることが好ましい。本願のようなダブルエンボス、高坪量、印刷、及び長尺のトイレットロールにおいて、HF値が71未満であると、触感が劣る場合がある。HF値が83を超えると、柔らかすぎて、印刷部分の強度が低くなる部分とエンボス部の強度が低くなる部分が相互に関わりあって、生産時に断紙しやすくなる場合がある。
HF値は、73以上81以下であることがより好ましく、76以上78以下であることが更に好ましい。
ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用したHF値は、装置のアルゴリズムをTPIIに設定し、直径が約113mmの円形に加工したサンプルを用いて測定する。これに用いられる測定装置については、例えば、特開2013−236904号公報に詳細に記載されている。ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用した測定方法については、上記の特許文献を参照することができる。
なお、HF値が算出される際、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が7dBV2rms以上30dBV2rms以上であることが好ましく、9dBV2rms以上25dBV2rms以上であることがより好ましく、11dBV2rms以上20dBV2rms以上であることが更に好ましい。また、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が6dBV2rms以上29dBV2rmsであることが好ましく、8dBV2rms以上24dBV2rmsであることがより好ましく、10dBV2rms以上19dBV2rmsであることが更に好ましい。また、前記TSAにより、前記試料台に設置した前記トイレットペーパー製品のサンプルに対し、前記ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、剛性(D)が1.8mm/N以上3.8mm/N以下であることが好ましく、2.1mm/N以上3.5mm/N以下であることがより好ましく、2.4mm/N以上3.2mm/N以下であることが更に好ましい。TS750、TS7、Dを上記の範囲にすることで、触感を良好にでき、生産時に断紙しにくくなる。」

3 甲3
本件特許の出願前に発行された甲3には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0030】及び【0031】
「【0030】
本発明のトイレットペーパーの巻外側トイレットペーパーの露出側表面のハンドフィール値(HF値)と、巻内側トイレットペーパーの露出側表面のハンドフィール値の平均は75.0以上であることが好ましく、78.0以上であることがより好ましい。なお、HF値の上限は特に限定されるものではないが、一般的に95.0以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、ハンドフィール値(HF値)は、ティシューソフトネスアナライザー(EmtecElectronicGmbH社製)を用いて、以下の測定方法によって測定することができる。
まず、ティシューソフトネスアナライザーのサンプル台に、直径112.8mmの円形にカットしたサンプルを設置する。このサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNの押し込み圧力をかけて上方から押し込む。その後、ブレード付きローターを回転数が2.0回転/秒となるように回転させ、その時の振動周波数を測定する。
また、直径112.8mmの円形にカットした別のサンプルに対し、ブレード付きローターを100mNと、60mNの圧力で押し込んだ際の上下方向の変形変位量を算出する。HF値は、振動周波数と変形変位量から算出される値であり、計算のアルゴリズムはTPIIを用いることができる。
HF値を算出する際は、巻外側トイレットペーパーの露出側表面と巻内側トイレットペーパーの露出側表面について測定をそれぞれ10回ずつ行い、得られた測定データからHampelidentifierの方法で異常値を除外する。そして、各表面のHF値の平均値から、トイレットペーパーのHF値の平均値を算出する。
なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。また、測定の際には、付属の説明書に従い標準サンプル(emetecref.2X(nn.n))で校正し、アルゴリズムをTPIIに設定する。計算ソフトウェアとしてはemetecmeasurementsystemver.3.22を使用する。」

(2) 明細書段落【0057】及び【0058】
「【0057】
上記エンボス工程の後には、巻外側トイレットペーパーと、巻内側トイレットペーパーを再度積層する工程を含む。この場合、エンボスの凸面(エンボスロールを押し当てた面とは反対側の面)が内側で向かい合うようにして貼り合せを行うことが好ましい。
【0058】
上記貼り合わせ工程では、1プライのトイレットペーパーウェブを2枚以上積層し、貼り合わせを行う。この工程では、例えば、原紙を重ねた後に製品の端部となる部分に幅狭のコンタクトエンボスを付与することによって貼り合わせることができる。その際、エンボスロールによって押し込まれた面を外側にして貼り合わせる方が、手触り感の観点から好ましい。」

4 甲4
本件特許の出願前に発行された甲4には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0034】
「【0034】
積層体は筋状エンボスを施すことによって各シート相互を結合するが、該筋状エンボスは、重ねられたシートの流れ方向に沿って直線状に設けられ、両端の少なくとも一方、あるいは中央部に設ける。流れ方向に沿って結合することによって、使用時に生じやすい切り離し位置のずれを抑止することができる。特に、両端部に設けた場合顕著である。」

5 甲5
本件特許の出願前に発行された甲5には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0042】〜【0045】
「【0042】
[柔らかさTS7、滑らかさTS750、剛性D]
トイレットペーパー1xのティッシュソフトネス測定装置TSA(emtec社製;Tissue Softness Analyzer)上のソフトウェアにて自動的に取得した、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が11dBV2rms以上25dBV2rms以下であり、13dBV2rms以上23dBV2rms以下であることが好ましく、15dBV2rms以上21dBV2rms以下であることがより好ましい。このTS7は、トイレットペーパー1xの柔らかさの指標であり、TS7が上記の範囲内のものとなることにより、トイレットペーパー1x及びシャワートイレ用トイレットロール1の柔らかさがバランスよく維持される。
【0043】
さらに、トイレットペーパー1xについて、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が16dBV2rms以上40dBV2rms以下であり、20dBV2rms以上36dBV2rms以下であることが好ましく、24dBV2rms以上32dBV2rms以下であることがより好ましい。このTS750は、トイレットペーパー1xの滑らかさの指標であり、TS750が上記の範囲内のものとなることにより、トイレットペーパー1x及びシャワートイレ用トイレットロール1の平滑さがバランスよく維持される。
【0044】
加えて、トイレットペーパー1xについて、ティッシュソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置したトイレットペーパー1xのサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、押し込み圧力100mNと600mNの間での上記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、剛性Dの測定値が2.2mm/N以上3.4mm/N以下であり、2.4mm/N以上3.2mm/N以下であることが好ましく、2.6mm/N以上3.0mm/N以下であることがより好ましい。Dが上記の範囲内のものとなることにより、トイレットペーパー1xのクッション性がバランスよく維持される。
【0045】
ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用したTS7、TS750及びDの測定方法や、これに用いられる測定装置については、例えば、特開2013−236904号公報に詳細に記載されている。ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用した各種測定方法については、上記の特許文献を参照されたい。なお、TS750、TS7、及びDについても、最外巻のトイレットペーパー1xの端縁1eから、シャワートイレ用トイレットロール1の巻長の20%に相当する位置のトイレットペーパー1xのサンプルを用い、測定面は、上記のエンボスパターンの深さとして採用した面と同じ面とする。」

6 甲6
本件特許の出願前に発行された甲6には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0052】〜【0055】
「【0052】
[柔らかさTS7、滑らかさTS750、剛性D]
トイレットペーパー1xのティッシュソフトネス測定装置TSA(emtec社製;Tissue Softness Analyzer)上のソフトウェアにて自動的に取得した、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が11dBV2rms以上25dBV2rms以下であることが好ましく、13dBV2rms以上23dBV2rms以下であることがより好ましく、15dBV2rms以上21dBV2rms以下であることが更に好ましい。このTS7は、トイレットペーパー1xの柔らかさの指標であり、TS7が上記の範囲のものとなることにより、トイレットペーパー1x及びシャワートイレ用トイレットロール1の柔らかさがバランスよく維持される。
【0053】
さらに、トイレットペーパー1xについて、ティッシュソフトネス測定装置TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が16dBV2rms以上40dBV2rms以下であることが好ましく、20dBV2rms以上36dBV2rms以下であることがより好ましく、24dBV2rms以上32dBV2rms以下であることが更に好ましい。このTS750は、トイレットペーパー1xの滑らかさの指標であり、TS750が上記の範囲のものとなることにより、トイレットペーパー1x及びシャワートイレ用トイレットロール1の平滑さがバランスよく維持される。
【0054】
加えて、トイレットペーパー1xについて、ティッシュソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置したトイレットペーパー1xのサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、押し込み圧力100mNと600mNの間での上記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、剛性Dの測定値が2.2mm/N以上3.4mm/N以下であることが好ましく、2.4mm/N以上3.2mm/N以下であることがより好ましく、2.6mm/N以上3.0mm/N以下であることが更に好ましい。Dが上記の範囲のものとなることにより、トイレットペーパー1xのクッション性がバランスよく維持される。
【0055】
ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用したTS7、TS750及びDの測定方法や、これに用いられる測定装置については、例えば、特開2013−236904号公報に詳細に記載されている。ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用した各種測定方法については、上記の特許文献を参照されたい。なお、TS750、TS7、及びDについても、トイレットロール1の最外巻のトイレットペーパー1xの端縁1eから、シャワートイレ用トイレットロール1の巻長の20%に相当する位置のトイレットペーパー1xのサンプルを用い、測定面は、上記のエンボスパターンの深さAとして採用した面と、同じ面とする。」

7 甲7
本件特許の出願前に発行された甲7には、以下の事項が記載されている。
(1) 明細書段落【0017】
「【0017】
図2は、トイレットロール10(トイレットペーパー10x)に設けられたシングルエンボス2を示す断面図である。なお、図2の例では、トイレットペーパー10xはシートを2プライに重ねてなり、図2の上部がロール表面10a側に対応する。トイレットペーパー10xのエンボスロール151を押し当てた面(図2の表面)に凹部2R、裏面に凸部2Pが現れるエンボス(シングルエンボス)2が形成される。
なお、図2(a)はエンボス深さが深い場合、図2(b)はエンボス深さが浅い場合である。」

(2) 明細書段落【0033】
「【0033】
ここで、図6に示すように、ティシューソフトネス測定装置TSA210は、紙試料(サンプル)206の上から、回転したブレード付きロータ204を押付けたときの各種センサで検知した振動データを、振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、紙のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであり、ドイツのエムテック(Emtec Electronic GmbH、日本代理店は日本ルフト株式会社)社製の商品名である。」

(3) 明細書段落【0035】、【0036】
「【0035】
なお、試料台205はベースプレート201上に設置され、試料台205とベースプレート201の間には、力センサ202が配置されている。そして、力センサ202の検出値により、ブレード付きロータ204の押し込み圧力を制御する。又、ブレード付きロータ204はモータ209によって回転する。
又、振動解析してパラメータ化(TS値)するソフトウェアは、emtec measurement systemを用いる。本ソフトウェアには、各種アルゴリズム(例えば、Base Tissue、Facial、TP等)が備えられ、TS7、TS750、D(剛性)をソフトウェア上で自動的に取得し、これらTS7、TS750、Dおよび、坪量、厚さ、Ply数等から各種アルゴリズムの種類によって、HF(ハンドフィール)値が計算される。本発明では、HF値ではなく、TS7、TS750、Dのみを規定しており、上記測定条件を満たせば、アルゴリズムは何を使用しても良く、TS7、TS750、Dの値はアルゴリズムの種類によって変わることはない。
図7は、TSAによる紙試料サンプルの剛性Dの測定方法を示す。
【0036】
上記したティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置したトイレットロールのロール外側の表面10aを上にした2プライのシート状サンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が好ましくは9〜32dBV2rms、より好ましくは12〜27dBV2rms、更に好ましくは14〜22dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が9〜30dBV2rms、より好ましくは12〜26dBV2rms、更に好ましくは14〜22dBV2rmsである。
TS750及びTS7を上記範囲にすることで、内巻と外巻の品質差がより確実に小さくなる。」

8 甲8
本件特許の出願前に発行された甲8には、以下の事項が記載されている。
(1) 1頁「概要」欄
「概要
ティシューのソフトネスは、ティシューの基本的な品質パラメーターであり、例えば、柔らかさ、平滑性、圧縮性、剛性(スチフネス)そして「しわくちゃになり易さ(クランプル能力)」などによって評価されています。これらのパラメーターを単独ですべて測定して、それぞれ得られた結果を複雑な関数を用いてひとつの値として表現し、多少信頼性のある方法で主観的な感覚によるソフトネスと相関付けています。しかし、この方法は大変高価であり、品質保証目的には適していません。
新製品ティシューソフトネス測定装置TSAは全ての関連する単独のパラメーターを同時に測定でき、ソフトネスパラメーター「手触り感handfeel(HF)値」を計算します。従来の官能審査員の主観的評価値との相関性は優れています。」

(2) 1頁「測定例」の図面




(3) 1頁「主な仕様」




9 甲9
本件特許の出願前に発行された甲9には、以下の事項が記載されている。
(1) 4頁8行及び図面
「トイレットペーパーは、ロールの外側が表なんです!



(2) 5頁19〜23行
「エンボス加工というのは、凸凹模様の金型にペーパーを挟み込むことで、ペーパーの表面を凸凹にすることを指します。

エンボス加工には様々な模様があって、一般的には凸凹が細かいほうが柔らかくなります。」

(3) 6頁1〜7行
「説明が長くなりましたが、トイレットペーパーの表裏は、エンボス加工によって生まれています。エンボス加工を施した凹面の方がより肌ざわりがいいので、凹面がロールの外側に来るように巻いています。

つまり、外側が表なのです!」

(4) 7頁4〜8行
「ダブルロールは、それぞれの凸面が内側になるように2枚のトイレットペーパーを重ねているため、その間に空気が入るのでふわっと感がアップします。




(5) 7頁10〜21行
「2枚を重ねるからといって、どちらも同じ紙というわけではありません。
・・・(中略)・・・
さらに、表と裏でエンボスの大きさ(面積)や凹凸の高さを変えて、どちらが肌に触れてもやわらかくなるように工夫しています。」

10 周知技術について
甲1の【0014】(前記1(1)オ参照)、甲3の【0057】及び【0058】(前記3(2)参照)、甲9の4頁〜7頁(前記9(1)〜(5))から、次の事項は本件特許出願前において周知の技術(以下「周知技術A」という。)であったと認められる。
<周知技術A>
「トイレットロールにおいて、ロール体とする際に、エンボスの凹面がロールの外面(外側表面)となるように捲回することによって、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせること。」


第5 当審の判断
案件に鑑み、取消理由4、2、3、1の順に検討する。
1 取消理由4
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って、本件発明が明確であるか否かについて検討する。

(2) 検討・判断
以下、上記判断基準に基づき検討・判断を行う。
ア 本件発明2の「紙質」について
(ア) 申立人の主張について
申立人は本件発明2の「紙質」について次の主張をしている。
「請求項2は、シートについて「紙質が異なる2枚のシート」(構成要件F)であることを規定している。そして、「紙質」に関して、本件特許明細書の【0112】には「『紙質』とは、紙の品質・性質をい」うと定義づけされている。
しかし、紙質に関する条件、特性、及び物性等の項目は多岐にわたるのだから、発明の作用・効果・課題解決との関係に鑑みても、これだけでは具体的に如何なる条件を異ならしめればよいのか明確ではない。よって、発明が不明確である。」(異議申立書82頁13〜20頁)

(イ) 判断
本件明細書の発明の詳細な説明に「紙質」について「「紙質」とは、紙の品質・性質をいい、シート11,12の紙質とは、シート11,12の紙としての品質・性質をいう。」(段落【0112】)と記載されており、具体的な内容として、「本実施形態に係る、紙質が互いに異なる2枚のシート11,12は、例えば、そのパルプ成分や添加薬品などの原材料の種類や量や、シート11,12に対する種々の処理・加工などのうちの少なくとも1つを互いに異ならせることによって得ることができる。」(段落【0113】)と記載されている。
また、「第2の実施形態では、トイレットペーパー13を、紙質が互いに異なる2枚のシート11,12を用いて形成することにより、ロール外側となるシート11の表面(トイレットペーパー13の外面)の質感と、ロール内側となるシート12の表面(トイレットペーパー13の内面)の質感と、を異ならせ、所望のTS7値およびその表裏差を得るものである。」(段落【0111】)とあることから、「2枚のシート」の各々のTS7値が請求項1に記載された数値範囲に含まれる「紙質」を有するものであると理解できる。
これらの記載から、「トイレットペーパー」の「2枚のシート」は互いに「TS7値」が所定の数値範囲に含まれるような品質・性質を有するもので構成され、具体的には出願時において知られた「そのパルプ成分や添加薬品などの原材料の種類や量や、シート11,12に対する種々の処理・加工など」のうちの少なくとも1つを互いが異なるものを表すものと理解できる。
そして、申立人の主張のように「紙質に関する条件、特性、及び物性等の項目は多岐にわたる」としても、本件発明2の「2枚のシート」は互いに「TS7値」が所定の数値範囲に含まれるような品質・性質を有する「シート」を選択するということが理解できるから、さらに具体的な限定をするまでもなく、申立人の主張は採用できない。

(ウ) 「紙質」についてのまとめ
前記(イ)のとおり、本件発明2における「紙質が異なる2枚のシート」は、前記で摘記した本件明細書の段落【0111】〜【0113】に記載される事項からみて、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。

イ 本件発明3の「エンボス加工の条件」について
(ア) 申立人の主張について
申立人は本件発明3の「エンボス加工の条件」について次の主張をしている。
「請求項3は、2枚のシートに対するエンボス加工について「エンボス加工の条件が異なる」(構成要件F)ことを規定している。
しかし、エンボス加工に関する条件については、多岐にわたるため、具体的に如何なる条件が異なるのか特定する必要がある。しかし、本件特許明細書を参酌して、発明の作用・効果・課題解決との関係に鑑みても、具体的に如何なる条件を異ならしめればよいのか記載がない。よって、発明が不明確である。」(異議申立書82頁25頁〜83頁2頁)

(イ) 判断
本件の明細書の発明の詳細な説明に「エンボス加工」について「エンボス加工とは、エンボス加工の対象となるシートの両面のうちの一方の表面にエンボス凸部を、他方の表面にエンボス凸部の裏側で構成されるエンボス凹部を形成する加工をいう。エンボス加工は公知の方法で行うことができる。例えば、エンボス加工は、ほぼ相補的な形状の雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとが噛み合う「マッチした」エンボスロールにより行われてもよく、または、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールの形状が同一でなく、両者が噛み合った際にシートにせん断力を与える、いわゆる「マッチしていない」エンボスロールにより行われてもよく、または、雄(凸)エンボススチールロールとプレーンラバーロールとにより、行われてもよい。」(段落【0035】)と記載され、「第3の実施形態に係るトイレットロール10は、トイレットペーパー13の両面の質感(特には、TS7値)を異ならせるための1つの手段として、トイレットペーパー13の全体(すなわち、シート11,12からなる積層シート)に対する一括的なエンボス加工を施すものである。」(段落【0132】)及び「本実施形態おいて、TS7値の制御手段の非限定的な例として、エンボス加工により形成されるエンボスのパターン、エンボス凸部の大きさ(直径等、mm)、エンボス凸部の密度(個/cm2)、エンボス凸部の高さ(mm)などを異ならせることが挙げられる。また、エンボス加工に用いられるエンボスロールの種類の選択(例えば、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとにより行われるのか、その際に、その噛み合わせはマッチしているかマッチしていないか、または、雄(凸)エンボススチールロールとプレーンラバーロールとにより行われるのか、といったロールの組み合わせ)や、エンボスロールの硬度、エンボス加工の圧力の変更等によって、TS7値を異ならせ制御することができる。」(段落【0134】)と記載されている。
そうすると、「エンボス加工の条件」には「エンボス加工により形成されるエンボスのパターン、エンボス凸部の大きさ(直径等、mm)、エンボス凸部の密度(個/cm2)、エンボス凸部の高さ(mm)などを異ならせること」や「エンボス加工に用いられるエンボスロールの種類の選択(例えば、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとにより行われるのか、その際に、その噛み合わせはマッチしているかマッチしていないか、または、雄(凸)エンボススチールロールとプレーンラバーロールとにより行われるのか、といったロールの組み合わせ)や、エンボスロールの硬度、エンボス加工の圧力の変更等」があり、請求項1に記載された数値範囲に含まれるように「TS7値を異ならせ制御することができる」ような「エンボス加工の条件」であると理解できる。
そして、申立人の主張のように「エンボス加工に関する条件については、多岐にわたる」としても、「エンボス加工」とは、「2枚のシート」が互いに「TS7値」が所定の数値範囲に含まれるように出願時の知られた上記の条件で加工することを意味すると理解でき、さらなる具体的な条件に限定するまでもないといえる。よって、申立人に主張は採用できない。

(ウ) 「エンボス加工」についてのまとめ
前記(イ)のとおり、本件発明3における「エンボス加工」は、前記で摘記した本件明細書の段落【0035】、【0132】及び【0134】に記載される事項からみて、明確に理解されるものであり、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確なものではない。

ウ 本件発明3の「前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成された」について
(ア) 申立人の主張について
申立人は本件発明3の「前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成された」について次の主張をしている。
「請求項3は、2枚のシートに関して「前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成された」(構成要件F)と記載されている。
しかし、かかる記載は、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合、すなわちプロダクト・バイ・プロセスクレームに該当する。しかし、請求項3にはかかる表現とすることについて「不可能・非実際的事情」があるとはいえない(最高裁判決(平成24年(受)1204号、同2658号)等参照)。」(異議申立書83頁7〜14頁)

(イ) 判断
a 物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されているか否かについて
本件発明3は「トイレットロール」という「物の発明」であるから、同発明の「前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成された」の記載が、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されているか否かについて検討する。
「エンボス」は、「紙・布・皮革などに浮き出しの模様をつけること。「−加工」」(広辞苑第6版)として広く知られるものである。
そして、「エンボス加工」について、本件明細書の段落【0035】に「エンボス加工とは、エンボス加工の対象となるシートの両面のうちの一方の表面にエンボス凸部を、他方の表面にエンボス凸部の裏側で構成されるエンボス凹部を形成する加工をいう。エンボス加工は公知の方法で行うことができる。例えば、エンボス加工は、ほぼ相補的な形状の雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールとが噛み合う「マッチした」エンボスロールにより行われてもよく、または、雄(凸)エンボスロールと雌(凹)エンボスロールの形状が同一でなく、両者が噛み合った際にシートにせん断力を与える、いわゆる「マッチしていない」エンボスロールにより行われてもよく、または、雄(凸)エンボススチールロールとプレーンラバーロールとにより、行われてもよい。」及び同段落【0107】に「ダブルエンボス加工を用いる例において、トイレットペーパー13の両面のTS7値(TS7外面およびTS7内面)の制御は、トイレットペーパー13を構成する2枚のシート11,12のそれぞれに対して施すエンボス加工の条件を異ならせることによって行うことができる。例えば、エンボスのパターン、エンボス凸部の大きさ(直径等、mm)、エンボス凸部の密度(個/cm2)、エンボス凸部の高さ(mm)、エンボス加工の圧力(gf/cm2)、エンボス加工の圧力を印加した後の紙厚および密度等を適切に設定することなどによって、使用者が使用時に触れることとなるシート11,12の表面の質感を異ならせることで、両面のTS7値を制御することができる。」と記載されている。
これらの記載から、「前記2枚のシートのそれぞれにエンボス加工の条件が異なるエンボスが紙面全域に形成された」とは、エンボスのパターン、エンボス凸部の大きさ(直径等、mm)、エンボス凸部の密度(個/cm2)、エンボス凸部の高さ(mm)、エンボス加工の圧力(gf/cm2)、エンボス加工の圧力を印加した後の紙厚および密度等の「エンボス加工の条件」が異なる「エンボス」という「エンボス」の構造又は特性が特定され、そうした「エンボス」が「2つのシートのそれぞれに」おいて「紙面全域に形成され」ているものと理解でき、「エンボス」の構造又は特性を特定するものであるから、前記記載は「トイレットペーパー」の製造方法が記載されている場合には該当しない。
そして、本件発明3が物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合に該当しない以上、申立人の主張する「不可能・非実際的事情」について検討するまでもない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3) 取消理由4のまとめ
申立人の主張について検討しても、本件発明2〜5は明確であり、特許法36条6項2号の規定に違反するものではない。
よって、本件発明2〜5に係る特許は、申立人が申し立てる申立理由4により、取り消されるべきものではない。

2 取消理由2
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2) 本件発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段について
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】から、紙管に対するトイレットペーパーの始端部の接着時に、トイレットペーパーの始端部へのピックアップ糊の浸透が促進され、ロール外周に対するトイレットペーパーの終端部の接着時に、ロール外周へのテールシール糊の浸透が促進されることにより、トイレットペーパーの始端部と紙管との間およびトイレットペーパーの終端部とロール外周との間において、接着に寄与する糊(接着剤)の量が低減して接着性が低下し、トイレットロールの使用開始前にトイレットペーパーが不用意にロール外周から剥がれてばらけたり、トイレットロールの使用終了前にトイレットペーパーが紙管から不用意に剥がれて離脱することと認められる。

イ 本件発明における課題を解決するための手段について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】から、「2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られたトイレットロールであって、トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であり、シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であり、ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台にトイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置したトイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であり、ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台にトイレットロールのロール内側となる面を上に向けて設置したトイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7内面は、30dBV2rms以上40dBV2rms以下であるトイレットロール」により、前記課題を解決し得ると認められる。

ウ 本件発明と本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項との対応関係について
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の「TS7外面」及び「TS7内面」について、次の記載がある。
「【0062】
TS7外面が13dBV2rms以上20dBV2rms以下であると、トイレットロール10のロール外側となるトイレットペーパー13の表面(以下、トイレットペーパーの外面とも称する)は、柔らかくて風合いに優れた面となる。TS7外面が13dBV2rms未満であると、トイレットペーパー13の外面にテールシール糊が付着した場合に、表面に構成繊維23f等が起毛するような組織構造に起因して、トイレットペーパー13の厚さ方向への糊の浸透が促進される。そのため、ロール外周に対するトイレットペーパー13の終端部15の接着時に、トイレットペーパー13の終端部15とロール外周との間(界面)において接着に寄与する糊(接着剤)の量が低減し、トイレットペーパー13の終端部15の接着性が低下する。TS7外面が20dBV2rmsより大きいと、値が大きくなるにつれ、トイレットペーパー13の外面の柔らかさが低減する。
【0063】
TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であると、トイレットロール10のロール内側となるトイレットペーパー13の表面(以下、トイレットペーパーの内面とも称する)は、適度に柔らかい風合いを有する一方で、テールシール糊やピックアップ糊が付着した場合のトイレットペーパー内部への糊の浸透速度が適度に抑制される。そのため、ロール外周に対するトイレットペーパー13の終端部15の接着や紙管14に対するトイレットペーパー13の始端部の接着において、接着に寄与する糊(接着剤)の量が確保されて、良好な接着性を得ることができる。TS7内面が30dBV2rms未満であると、トイレットペーパー13の内面は柔らかくなり風合いが向上するが、始端部や終端部15における接着性が低下する。TS7内面が40dBV2rmsより大きいと、トイレットペーパー13の表面は、柔らかさが低減して風合いが悪くなる。」

(3) 申立人の主張について
申立人は取消理由2及び取消理由3について次の主張をしており、両取消理由に共通する主張として、以下で判断する。
(主張A) 「請求項1の構成要件EであるTS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることについて、実施可能要件及びサポート要件を満たしてない。
本件特許発明の課題の一つに「トイレットペーパーの風合い」が挙げられているが、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下である場合には、この課題が解決できない蓋然性が高い。
TS7は柔らさの指標であり、値が低いほど柔らかさに優れることが技術常識であることは、既に述べたとおりである。かかる技術常識を有する当業者であれば、30dBV2rms以上40dBV2rms以下のシートが果たして柔らかさに優れるのかどうか、疑義を抱かざるを得ない。
例えば、甲第1号証の比較例1、6、8(表2)ではTS7(表面)が22.8dBV2rms24.0dBV2rmsであると柔らかさの評価が1−2点で評価としては不合格と評価されている。それにもかかわらず、本件特許明細書では、TS7内面が30.ldBV2rms〜37.3dBV2rmsの場合に風合い(柔らかさ)が優れている結果となっており(表1)、甲第1号証の実施例データと矛盾する。
本件特許の実施例、比較例においてTS7と風合い(柔らかさ)の関係を別のシートでグラフ化した(下のグラフ参照)。それによるとTS7が内面外面問わず17.3dBV2rms〜37.3dBV2rmsの範囲で評価がすべて○である。

TS7の原理からしてこの評価は疑問である。本件特許明細書の【0062】の「TS7外面が20dBV2rmsより大きいと、値が大きくなるにつれ、トイレットペーパー13の外面の柔らかさが低減する。」との記載から、少なくともTS7が20dBV2rmsの1.5倍以上の30dBV2rms以上の場合には、「○」にならないはずである。仮に「○」となればそれなりの理由が必要であるが、かかる作用機序について本件特許明細書に具体的な説明がなく、なぜ「○」となるのか、当業者は理解できない。」(異議申立書83頁27頁〜85頁8頁)

(主張B) 「本件特許発明1は、○1巻長(当審注:○で囲んだ数字を表す。以下同様。)、○2巻直径、○3坪量、○4TS7外面、及び○5TS7内面の数値範囲を限定し、さらに、○6TS7内面とTS7外面の大小関係も限定している。これにより、課題である1ロール当りの巻長が長く持ち運びや保管時の省スペース化が図られたものであるとともに、トイレットペーパーの風合いとトイレットペーパーの始端部や終端部の接着性との両方に優れたトイレットロールを実現するものである【0006】〜【0008】等)。そして、本件特許明細書の実施例では、官能評価(外面及び内面の風合い(柔らかさ)や、ピックアップ糊及びテールシール糊の接着性)によって評価している(表1等)。
しかし、本件特許明細書の実施例はわずか5例のみであり、そのデータが少なく、本件特許発明1の全範囲にわたってサポートされていないし、○1巻長、○2巻直径、○3坪量、○4TS7外面、及び○5TS7内面の数値範囲を限定し、さらに、○6TS7内面とTS7外面の大小関係といった条件について、実施例以外で、当該条件を満たすトイレットロールを過度の試行錯誤なく製造できない。
これに関して、例えば、甲第5号証及び甲第6号証には、以下の比較例データが開示されている。
・・・中略・・・
これらの比較例データは、本件特許発明1の構成要件A〜Dを全て充足しており、構成要件Eを充足しているか否かは明らかでない。しかし、肌ざわりがより良いエンボスの凹面がロールの外面となるように捲回することによって、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせることが周知技術(例えば、甲第1号証の【0014】、甲第3号証の【0057】、【0058】、甲第7号証の【0017】、甲第9号証の1頁〜7頁等)であること等も踏まえれば、これらの比較例データも、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りが良いこと、すなわち、TS7外面がTS7裏面よりも低い値である蓋然性が高く、構成要件Eも充足している蓋然性が高い。
これらのことからも、本件特許発明1については、TS7裏面が30〜40dBv2rmsであると風合いの課題が解決できていない発明が包含されている蓋然性が高い。
したがって、本件特許の請求項1に関して、上記の点においても、実施可能要件及びサポート要件を満たしてない。そして、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜5についても同様である。」(異議申立書85頁11行〜87頁3行)

(4) 検討・判断
ア 本件発明における課題を解決するための手段について
本件発明の課題及び課題を解決するための手段は、前記(2)ア及びイに示したとおりであり、課題を解決するための手段である「2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られたトイレットロールであって、トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であり、シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であり、ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台にトイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置したトイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であり、ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台にトイレットロールのロール内側となる面を上に向けて設置したトイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7内面は、30dBV2rms以上40dBV2rms以下であるトイレットロール」は、本件発明1に含まれている。
そして、本件発明2〜5のそれぞれは本件発明1の構成を限定するものであるから、同様に本件発明の課題を解決するための手段を含むものである。

イ 本件発明と本件明細書との対応関係について
前記(2)ウに示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の「TS7外面」がトイレットペーパーの終端部とロール外周との接着性の関係と「TS7内面」がトイレットペーパーの始端部と紙管との接着性の関係が示されており、「巻長」、「巻直径」、「坪量」に関する記載事項の数値範囲に関する記載からみて、本件明細書の発明の詳細な説明の全体からみて、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
そして、本件発明2〜5のそれぞれは本件発明1の構成を限定するものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の全体からみて、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

ウ 申立人の主張について
(ア) 主張Aについて
申立人は、「TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であること」について、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例及び比較例(以下「本件実施例等」という。)と甲1に記載された実施例及び比較例(以下「甲1実施例等」という。)とを比較し、本件特許発明の課題の一つに「トイレットペーパーの風合い」が挙げられているが、TS7内面が30dBpV2rms以上40dBV2rms以下である場合には、この課題が解決できない蓋然性が高い旨主張するが、本件実施例等と甲1実施例等は各々の複数の実施例において風合い等の項目を官能評価したものである。
そうすると、官能評価は評価者の主観的判断によるものであり、その評価結果は各文献に記載された実施例や比較例の間の相対的な評価として用いることはできるものの、他の条件で行った官能評価とは一義的に比較され得るといえないのが技術常識であるから、本件実施例等とは異なる甲1実施例等を根拠としてTS7内面の数値範囲が本件発明の課題を解決できないものであるとするに足る理由がない。
なお、本件発明について本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】に、本件発明が、1ロール当りの巻長が長く持ち運びや保管時の省スペース化が図られたものであるとともに、トイレットペーパーの風合いとトイレットペーパーの始端部や終端部の接着性との両方に優れたトイレットロールを提供することを目的とする旨の記載があり、また、前記(2)ウに示したように、本件発明のTS7外面が13dBV 2rms以上20dBV 2rms以下であると、トイレットロール10のロール外側となるトイレットペーパー13の表面は、柔らかくて風合いに優れた面となり、TS7外面が13dBV 2rms未満であると、トイレットペーパー13の終端部15の接着性が低下するものであり、TS7内面が30dBV 2rms以上40dBV 2rms以下であると、トイレットロール10のロール内側となるトイレットペーパー13の表面は、適度に柔らかい風合いを有する一方で、テールシール糊やピックアップ糊が付着した場合のトイレットペーパー内部への糊の浸透速度が適度に抑制され、接着に寄与する糊(接着剤)の量が確保されて、良好な接着性を得ることができ、前記目的の達成に貢献するものであり、実施例においても比較例と比べて、総合的にみて本件発明の目的を達成するものである。
よって、前記主張Aは前記アに示した判断を左右するものではなく、採用できない。

(イ) 主張Bについて
申立人は、「本件特許発明1は、○1巻長、○2巻直径、○3坪量、○4TS7外面、及び○5TS7内面の数値範囲を限定し、さらに、○6TS7内面とTS7外面の大小関係も限定し」ているが、「本件特許明細書の実施例はわずか5例のみであり、そのデータが少なく、本件特許発明1の全範囲にわたってサポートされていない」旨主張するが、前記イに示したとおりであり、前記主張Bは採用できない。

(5) 取消理由2のまとめ
申立人の主張について検討しても、本件発明1〜5は本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法36条6項1号の規定に違反するものではない。
よって、本件発明1〜5に係る特許は、申立人が申し立てる申立理由2により、取り消されるべきものではない。

3 取消理由3
(1) 実施可能要件についての検討・判断
本件発明1の構成要件A、B及びCについて、2プライのトイレットペーパーを紙管の周りにロール状に巻き取られた構造にしたり、適宜の巻長、巻直径やシート1枚当たりの坪量について数値範囲のものとして実施可能であることは、甲1等からも理解できる。
また、本件発明1の構成要件D及びEについて、TS7値が本件発明1の数値範囲のものは、甲1等に記載されているようにトイレットペーパーのシートにおいて実施可能なものであると理解できる。そのため、2枚のシートにおいてもTS7値が本件発明1の数値範囲に含まれるものを選択して構成することは当業者であれば適宜実施し得ることである。
そして、本件発明1のようにトイレットペーパーを構成するように実施し得るものである。
また、本件発明2〜5において限定された事項についても明細書の発明な詳細な説明の範囲から実施可能である。

(2) 申立人の主張について
取消理由3について申立人は、前記2(3)に示した主張A及びBを主張している。
ア 主張Aについて
前記2(4)ウ(ア)に示したとおり、本件実施例等や甲1実施例等で行っている官能評価は評価者の主観的判断によるものであり、その評価結果は各文献に記載された実施例や比較例の間の相対的な評価として用いることはできるものの、他の条件で行った官能評価とは一義的に比較され得るといえないのが技術常識であるから、本件実施例等とは異なる甲1実施例等を根拠として、本件実施例等において、TS7内面の数値範囲が本件発明の課題を解決できず、実施可能でないとするに足る理由がない。
また、本件実施例等において、実施例と比較例との風合いについて主張する点に関し、本件発明について本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】に、本件発明が、1ロール当りの巻長が長く持ち運びや保管時の省スペース化が図られたものであるとともに、トイレットペーパーの風合いとトイレットペーパーの始端部や終端部の接着性との両方に優れたトイレットロールを提供することを目的とする旨の記載があり、「風合い」と「接着性」の両方がバランス良く優れたトイレットロールであるものであり、実施例は比較例と比べて、総合的にみて本件発明の目的を達成し実施可能なものである。
よって、前記主張Aは前記(1)に示した判断を左右するものではなく、採用できない。

イ 主張Bについて
前記2(2)ウに示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の「TS7外面」がトイレットペーパーの終端部とロール外周との接着性の関係と「TS7内面」がトイレットペーパーの始端部と紙管との接着性の関係が示されており、「巻長」、「巻直径」、「坪量」に関する記載事項の数値範囲に関する記載からみて、本件明細書の発明の詳細な説明の全体からみて、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明を実施可能なものであり、5つの実施例により課題を解決するものとして理解でき、甲2〜9の記載事項によっても、本件発明の実施が不可能であることを示すものがあるともいえない。
よって、前記主張Bは前記(1)に示した判断を左右するものではなく、採用できない。

(3) 取消理由3のまとめ
申立人の主張について検討しても、本件発明1〜5は本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法36条4項1号の規定に違反するものではない。
よって、本件発明1〜5に係る特許は、申立人が申し立てる申立理由3により、取り消されるべきものではない。

4 取消理由1
(1) 本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「2枚の衛生薄葉紙」は本件発明1の「2枚のシート」に相当する。そして、甲1発明の「積層体」は、「2枚の衛生薄葉紙を重ね」るものであり、「トイレットティシューである衛生薄葉紙ロール」をなすから、本件発明1の「2プライのトイレットパーパー」に相当する。
そうすると、本件発明1の「2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られたトイレットロール」と甲1発明の「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取ったトイレットティシューである衛生薄葉紙ロール」は、「2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーがロール状に巻き取られたトイレットロール」である点で共通する。

(イ) 甲1発明の「当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74〜93m、巻直径が100〜130mmであ」ることは、本件発明1の「前記トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であ」ることに相当する。

(ウ) 甲1発明の「前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下であ」ることは、本件発明1の「前記シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であ」ることに相当する。

(エ) 甲1発明の「ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した前記積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した」、「6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が13〜22dBV2rmsであ」ることは、本件発明1の「ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に前記トイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であ」ることに相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点で一致し、相違点1及び2で相違する。
<一致点>
「2枚のシートが重ね合わされた2プライのトイレットペーパーがロール状に巻き取られたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長は33m以上100m以下、および巻直径は100mm以上134mm以下であり、
前記シート1枚当たりの坪量は13g/m2以上16g/m2以下であり、
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に前記トイレットロールのロール外側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7外面は、13dBV2rms以上20dBV2rms以下であるトイレットロール。」

<相違点1>
「2プライのトイレットペーパーがロール状に巻き取られ」る構成が、本件発明1は、「2プライのトイレットペーパーが紙管の周りにロール状に巻き取られ」るのに対し、甲1発明の「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体」は、紙管に「ロール状に巻き取」られるものか否かが不明である点。

<相違点2>
本件発明1の「トイレットロール」が、「前記ティシューソフトネス測定装置TSAにより、前記試料台に前記トイレットロールのロール内側となる面を上に向けて設置した前記トイレットペーパーの試料に対し、ブレード付ロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0毎秒で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したときに取得される、周波数6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7値)であるTS7内面は、前記TS7外面よりも大きく、30dBV2rms以上40dBV2rms以下である」のに対し、甲1発明の「衛生薄葉紙ロール」は、「積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したとき」の「低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)」が「前記TS750の値を1とした時、前記積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したときのTS750の値が1.06〜2.30」であるが、TS7が不明である点。

(2) 相違点についての検討・判断
相違点1及び2は関連するものであるから、まとめて検討する。
ア TS7外面及びTS7内面の技術的意義について
本件発明は、前記2(2)アに示したとおり、紙管に対するトイレットペーパーの始端部の接着性及びロール外周に対するトイレットペーパーの終端部の接着性を課題としたものである。
そして、前記2(2)ウに示したとおり、TS7外面が13dBV2rms以上20dBV2rms以下であると、トイレットロール10のロール外側となるトイレットペーパー13の表面は、柔らかくて風合いに優れた面となり、TS7外面が13dBV2rms未満であると、トイレットペーパー13の終端部15の接着性が低下するものであり、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であると、トイレットロール10のロール内側となるトイレットペーパー13の表面は、適度に柔らかい風合いを有する一方で、テールシール糊やピックアップ糊が付着した場合のトイレットペーパー内部への糊の浸透速度が適度に抑制され、接着に寄与する糊(接着剤)の量が確保されて、良好な接着性を得ることができるものである。

イ 検討・判断
甲1発明は「紙管」の有無が不明であることからみて、甲1において「紙管」と「積層体」の接着性について認識されておらず、同様に「衛生薄葉紙ロール」の外周における「積層体」の終端部の接着性についても認識されているとはいえない。
また、甲2〜9に、紙管に対するトイレットペーパーの始端部の接着性及びロール外周に対するトイレットペーパーの終端部の接着性についての課題を認識させる記載も示唆もない。
そして、甲2〜9には、ST7値についての記載があり、また、トイレットロールにおいて、ロール体とする際に、エンボスの凹面がロールの外面(外側表面)となるように捲回することによって、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせることが周知の技術(前記第4の10の周知技術Aを参照。)であるものの、紙管に対するトイレットペーパーの始端部の接着性及びロール外周に対するトイレットペーパーの終端部の接着性のそれぞれと、ST7値や周知技術Aが関係することについての記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明において、甲2〜9に記載されたST7値に関する技術や周知技術Aを適用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲1発明は、「TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が12〜27dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が13〜22dBV2rmsであり、前記TS750の値を1とした時、前記積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したときのTS750の値が1.06〜2.30で」あるが、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の段落【0051】及び【0052】に、TS750値は、試料の「滑らかさ・粗さ」の指標であり、TS750値が小さい程、試料は滑らかであると評価され、TS7値は、試料の「柔らかさ」の指標であり、TS7値が小さい程、試料23は柔らかいと評価されるものとされており、「滑らかさ・粗さ」と「柔らかさ」は異なる指標である以上、TS7値とTS750値は必ずも相関関係があるものとはいえず、甲2〜9にそのようなことを示す記載も示唆もなく、技術常識ともいえないから、甲1発明のTS750値に関する構成に基づいて、単にTS7値を適宜設計し得るものでない。

よって、甲1発明に、甲2〜9に記載された事項及び周知技術Aに基いて、相違点1及び2に係る本件発明の構成とすることはできない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、審判請求書で概ね次の主張をしている。
(主張C) 上記相違点2に関し、本件発明1のTS7内面がTS7外面よりも大きいことについて
・TS7及びTS750は、いずれもソフトネスに関する指標であるが、その中でも、特にTS7は柔らかさやふんわり感に関する指標であり、TS750は滑らかさに関する指標として、数値化されている。そして、TS7の数値が低いほど、柔らかさに優れる。また、TS750の数値が低いほど、滑らかさに優れるというものである。
・甲1発明は、積層体のロール外面(外側表面)のTS750(TS750t)を1とした時、ロール内面(内側裏面)のTS750(TS750b)が1.06〜2.30である。
・エンボス加工を施すこと等によって衛生薄葉紙の表裏差を発現させて、ロール体とする際に、肌ざわりがより良いエンボスの凹面がロールの外面(外側表面)となるように捲回することによって、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせることは、周知技術である(例えば、甲第1号証の【0014】、甲第3号証の【0057】、【0058】、甲第7号証の【0017】、図2、甲第9号証の1頁〜7頁等)。
以上のことに鑑みれば、TS750t(外面)がTS750b(内面)よりも低い値である甲l発明は、TS750と同じくソフトネスに関する指標であるTS7についても、TS7外面がTS7内面よりも低い値(すなわち、外面が内面よりも柔らかいこと)である蓋然性が高い。
仮にそうでなかったとしても、TS7及びTS750といったソフトネスに関する数値化手法を用いるまでもなく、エンボス条件等を適宜調整することによって、ロール外面(表面)が、ロール内面(裏面)よりも柔らかくなるように制御することは、当業者にとって容易に行い得る事項である。すなわち、エンボス条件等を適宜調整することによって、TS7外面の数値が、TS7内面の数値よりも低くなるように制御することも、当業者にとって容易に行い得る事項である。
したがって、TS7内面がTS7外面よりも大きいこと(本件特許発明1の構成要件Eの一部、相違点1の一部)は、甲1発明に係るトイレットロールにおいて充足されている蓋然性が高い。仮にそうでなくても、そうすることは当業者にとって容易に行い得る事項である。(異議申立書69頁1行〜70頁下から1行)

(主張D) 上記相違点2に関し、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることについて
・TS7の数値を30dBV2rms以上40dBV2rms以下程度とすることは設計事項程度である。例えば、甲第2号証には、触感を良好にでき、生産時に断紙しにくくする観点から、TS7の上限を29dBV2rmsとすることが好適であることが開示されている(甲第2号証の【0059】等)。
・トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせるという周知技術を踏まえると、TS7表面が13dBV2rms〜20dBV2rmsである甲1発明において、TS7表面よりも10dBV2rms(=30dBV2rms−20dBV2rms)程度上回るようにTS7内面を制御して、TS7内面が30dBV2rms以上となるようにして、表面が内面よりも柔らかくなるように制御することは、当業者にとって特段の困難性はない。
・本件特許明細書の表1には、わずか5例の実施例しか開示されておらず、表2には、わずか5例の比較例しか開示されていない。このことも考慮しても、TS7表面が13dBV2rms以上20dBV2rms以下であり、かつ、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であるという数値範囲に、臨界的意義の存在は見いだせない。つまり、これらの数値限定は、トイレットロールの外面が裏面よりも肌触りを良くさせるという周知技術を、公知のパラメータであるTS7という数値を使って適当な数値範囲で規定した程度の意義しかなく、特段の技術的意義はない。
以上のことに鑑みれば、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることは、甲1発明に係るトイレットロールが満たしている蓋然性が高い。
仮にそうでなかったとしても、TS7表面が13dBV2rms〜20dBV2rmsである甲1発明において、裏面よりも柔らかい表面とする観点から、TS7内面を30dBV2rms以上40dBV2rms以下の数値範囲とすることは、当業者にとって容易に行い得る事項である。
したがって、TS7内面が30dBV2rms以上40dBV2rms以下であることは、甲1発明に係るトイレットロールにおいて充足されている蓋然性が高い。仮にそうでなくても、そうすることは当業者にとって容易に行い得る事項である。(異議申立書71頁1行〜72頁下から9行)

しかしながら、前記イで検討したとおり、甲1発明に対して、紙管に対するトイレットペーパーの始端部の接着性及びロール外周に対するトイレットペーパーの終端部の接着性を改善する動機付けがなく、また、TS7値が周知の数値範囲であったとしても、前記の改善のためにTS7内面とTS7外面の値を選択するに足る技術が甲2〜9に記載も示唆もない以上、主張C及びDは前記イの判断を左右するものでない。
よって、主張C及びDは採用できない。

エ 本件発明1の進歩性についてのまとめ
本件発明1は、甲1発明及び甲2〜甲9に記載された事項及び周知技術Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件発明2〜5
本件発明2〜5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、本件特許発明2〜5は、上記1と同様の理由により、甲1発明及び甲2〜甲9及び周知技術Aに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 取消理由1のまとめ
よって、本件発明1〜5は、甲1発明及び甲2〜9に記載された事項及び周知技術Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜5に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-01-23 
出願番号 P2020-177356
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A47K)
P 1 651・ 536- Y (A47K)
P 1 651・ 537- Y (A47K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 西田 秀彦
居島 一仁
登録日 2022-01-11 
登録番号 7006754
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 トイレットロール  
代理人 弁理士法人谷・阿部特許事務所  

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