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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1394019 |
総通号数 | 14 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-09 |
確定日 | 2023-02-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7011422号発明「スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7011422号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7011422号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成29年8月9日の出願であって、令和4年1月18日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年8月9日に特許異議申立人 川端 隼輔(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。また、総称として「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、 発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含み、 (I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体: ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。 【請求項2】 スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、 発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含み、 (I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体: ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。 【請求項3】 グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上、5.0重量部以下含む、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項4】 発泡剤として更に、ジメチルエーテル、塩化エチル、および、塩化メチルからなる群の少なくとも1種をスチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上15重量部以下含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項5】 前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の少なくとも1種がイソブタンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項6】 前記ハイドロフルオロオレフィンが、テトラフルオロプロペンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項7】 厚みが10mm以上150mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項8】 見掛け密度が20kg/m3以上60kg/m3以下、独立気泡率が90%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。 【請求項9】 臭素系難燃剤をスチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5.0重量部以下含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年8月9日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由4(甲第2号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 5 申立理由5(甲第5号証に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた甲第5号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時にその出願人と上記特許出願の出願人とが同一でもないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 6 申立理由6(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の(1)ないし(3)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)製造から7日経過後の発泡体1kgあたりのハイドロフルオロオレフィンの残存量について、本件特許発明1及び2に規定される範囲の上限(0.80mol)付近においては対応する実施例が示されておらず、例えば、発泡体1kgあたりのハイドロフルオロオレフィンの残存量が0.60mol〜0.80mol程度の範囲についても、実施例3などと同様の効果を奏するか否か不明であるから、本件特許発明1及び2に規定される数値範囲の全範囲において所期の課題を解決できることが示されておらず、本件特許発明1及び2には、所期の課題を解決できない態様が含まれている。 (2)製造から7日経過後の発泡体1kgあたりの炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量について、本件特許発明1及び2に規定される範囲の上限(0.90mol)付近においては対応する実施例が示されておらず、例えば、発泡体1kgあたりのハイドロフルオロオレフィンの残存量が0.70mol〜0.90mol程度の範囲についても、実施例1などと同様の効果を奏するか否か不明であるから、本件特許発明1及び2に規定される数値範囲の全範囲において所期の課題を解決できることが示されておらず、本件特許発明1及び2には、所期の課題を解決できない態様が含まれている。 (3)本件特許明細書の実施例に記載され、本件特許発明の課題が解決できることが示されているのは、ハイドロフルオロオレフィンのうち、「HFO-1234ze」のみである。そして、例えば、HCFO−1233zd等の塩素を含むハイドロクロロフルオロオレフィン等とは、断熱性、成形性等の観点からその性質が大きく異なるから、このような他のハイドロフルオロオレフィンを発泡剤として用いた場合にまで、上記課題を解決することができるとは言えない。 7 証拠方法 ・甲第1号証:欧州特許公開第2706086号公報 ・甲第2号証:国際公開第2016/168041号 ・甲第3号証:特表2018−513252号公報 ・甲第4号証:国際公開第2017/086176号 ・甲第5号証:特開2019−26756号公報(特願2017−148449号) 以下、「甲1」等という。 第4 当審の判断 1 主な証拠の記載事項等 (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「発泡剤としてハイドロフルオロオレフィンを使用してスチレンポリマーを押出成形することにより低密度の発泡ボードを製造する方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものであり、甲1は外国語の文献のため、該当箇所の訳文のみを摘記した。 ・「特許請求の範囲 1.密度が20〜45kg/m3の範囲の発泡ボードを製造する方法であって、 a.1種のスチレンポリマーから、またはスチレンポリマーの混合物からポリマー溶融物を生成するステップ、 b.前記ポリマー溶融物に対し、0〜5重量%のIR吸収剤と、前記ポリマー溶融物に対し、0〜10重量%の難燃剤としての有機ブロム化合物と、場合によっては、核生成剤または可塑剤などの他の添加物を投入するステップ、 c.発泡性溶融物を形成するために、前記ステップ(a)および(b)で生成されたポリマー溶融物100重量部当たり1〜12重量部の発泡剤混合物を投入するステップであって、前記発泡剤混合物が、5〜70重量%の1種または複数種のハイドロフルオロオレフィンと、95〜30重量%の1種または複数種の共発泡剤とからなる、ステップ、 d.前記発泡性溶融物を、発泡させながら、より低い圧力の領域に押し出して押出発泡体とするステップ、を包含する方法。 2.共発泡剤として、エタノール、アセトン、二酸化炭素、アルカン、シクロアルカン、フルオロクロロアルカン、ギ酸メチル、水、またはそれらの混合物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 3.ステップ(c)において、発泡剤混合物として、 それぞれ前記ステップ(a)および(b)で生成されたポリマー溶融物100重量部に対し、 (1)0.5〜10重量部のハイドロフルオロオレフィン、 (2)0.5〜10重量部のエタノール、アセトン、二酸化炭素、またはそれらの混合物、 (3)0〜2重量部のC1−C5アルカンまたはシクロアルカン、 が投入されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。 4.ステップ(c)において、発泡剤混合物として、 それぞれ前記ステップ(a)および(b)で生成されたポリマー溶融物100重量部に対し、 (1)3〜5.5重量部のハイドロフルオロオレフィン、 (2)1.5〜3.5重量部のエタノール、アセトン、二酸化炭素、またはそれらの混合物、 (3)0.1〜1.0重量部のC1−C5アルカンまたはシクロアルカンが投入されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 5.ハイドロフルオロオレフィンとして、HFO−1243zf、(シス/トランス)−HFO−1234ze、HFO−1234yf、および(E/Z)−HFO−1225ye、HFO−1345zfc、HFO−1336mzz−Z、HFO−1447fz、HFO−1438mzz−E、またはそれらの混合物が使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 6.IR吸収剤として、前記ポリマー溶融物に対し、0.1〜2重量%のグラファイトが使用されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 7.難燃剤として、前記ポリマー溶融物に対し、ブロム含有量が60〜80重量%の有機ブロム化合物が0.5〜5重量%使用されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。」 ・「[0001]本発明は、発泡剤成分としてハイドロフルオロオレフィン(HFO)を使用して押出成形することにより、密度が20〜45kg/m3の発泡ボードを製造する方法に関する。 [0002]押出ポリスチレン発泡体(XPS)は、主に建物や建物部分を絶縁するために使用される。この用途の場合、発泡ボードは、可能な限り低い熱伝導性を有する必要がある。それと同時に、ボードが低密度を有し、現行の防火規定を満たすことが望ましい。 [0003]先ごろ、環境保全上の理由から、XPSボードの製造のために、発泡剤(HFO)として特に低いGWP値(Global Warming Potential)を有する部分フルオロ化アルケンが開発された。発泡剤という用語は一群の物質全体を含み、そのうちのいくつかをポリマーフォーム製造における発泡剤として使用することができる。これらの発泡剤は、ガス状の状態で低い熱伝導性を有し、良好な断熱特性の発泡ボードの製造を可能にすることを特徴とする。ハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含有する発泡剤混合物と、押出発泡体を製造するためのその使用は、例えばWO2008/121778、WO2008/121779、およびWO2008/130919に記載される。 [0004]発泡剤としての可能性のあるこれらの新たな群は、GWP値が低いにもかかわらず、フッ素含有炭化水素が、社会では批判的に捉えられる。すべての評価基準に関して、新開発された物質として最終判断することもまだ可能でない。そのため環境の観点から、これらの物質の使用を可能な限り少なくすることも引き続き望ましい。しかしそれと同時に、省エネ要求が高まりつつある中で、可能な限り良好な断熱特性を達成することも重要である。 ・・・(略)・・・ [0007]本発明の課題は、上記の欠点を除去すること、および熱伝導性が低い低泡密度のスチレンポリマー押出発泡体を製造する方法を提供することである。押出発泡体は、さらにDIN4102(B2試験)およびEN ISO11925−2(火災クラスE) に準拠した火災試験に合格しなければならない。」 ・「[0041]ステップ(d)は、同様に、発泡されるべきポリマー材料が溶融状態にある温度で実行される。温度は一般的には80〜170℃、特に好ましくは100〜140℃である。ステップ(d)において発泡剤含有ポリマー溶融物を圧力がより低い領域に移すことによって、発泡剤がガス状状態に変わる。ポリマー溶融物は、体積が大きく増大することによって膨張および発泡する。 [0042]ノズルの圧力は、ノズル内での早期の発泡を回避するために十分な高さに選択される必要があり、そのために少なくとも50bar、好ましくは60〜180bar、特に好ましくは80〜140barの圧力が適している。」 ・「[0052] ・・・(略)・・・ 実施例 使用物質: [0053] PS ポリスチレン グラファイト 粒度分布d50:4〜5.5μm、d90:<12μmのグラファイト HBCD ポリスチレン中でHBCD46重量%の難燃バッチ PBr ブロム含有高分子難燃剤(Emerald(登録商標)3000、Chemtura)38重量%の難燃バッチ HFO1234ze HFO1336mzz−Z [0054]DIN4102に準拠して発泡ボードの火災試験B2を行った。DIN EN13501−5に準拠して火災クラスEに分類した。 [0055]DIN52612に準拠して10℃で押出発泡ボードの熱伝導性(WLF)を測定した。 発泡ボードの製造 [0056]2軸スクリュー押出機と単軸スクリュー冷却押出機とからなるタンデム型の設備で発泡ボードを製造した。このためにポリスチレン、難燃剤バッチ、および場合によってはグラファイトを2軸スクリュー押出機に供給し、200℃で溶かした。発泡剤を混合物として一緒に2軸スクリュー押出機に注入した。続いて、発泡剤含有溶融物を単軸スクリュー冷却押出機にて110〜135℃の発泡温度に冷却し、300mm幅のスロットノズルを通して押し出し、2つのプレートからなる較正器間で発泡させた。 [0057]添加剤、発泡剤組成物、および実施例と比較実験の特徴を表1にまとめる。 難燃剤分量は、ポリスチレンと、場合によっては添加剤とからなるポリマー溶融物100部に対し、追加的に定量添加した重量部である。 比較実験V1〜V4および実施例1〜9 [0058]比較実験V1〜V4および実施例1〜9において、ポリスチレンに対し、46重量%のHBCD難燃バッチ3.3重量%を使用した。 [0059]比較実験1は、HFOを使用しない実験を示す。それに対応して、発泡ボードの熱伝導性が高い。 [0060]比較実験3および4は、WO2010/088320の実験11および13に対応する。 [0061]驚くべきごとに、少量のHFOが、熱伝導性の不釣り合いに大きい低下をもたらすことがわかった。実施例2と比較例2の比較は、HFO2.7%を1−ブタン0.8%と交換することによって、同等の熱伝導性を有する発泡ボードがもたらされることを示す。 実施例10〜13 [0062]実施例10〜13において、それぞれポリスチレンに対し、それぞれブロム含有高分子難燃剤38重量%の難燃バッチ5.0重量%を使用した。 実施例14 [0063]実施例14において、それぞれポリスチレンに対し、グラファイト0.25重量%、および46重量%のHBCD難燃バッチ4.0重量%を使用した。」 ・「 」 イ 甲1に記載された発明 甲1には、請求項3及び7に記載されている方法で得られる押出発泡体について整理すると、以下の発明が記載されていると認める。 「(a)1種のスチレンポリマーから、またはスチレンポリマーの混合物からポリマー溶融物を生成するステップ、(b)前記ポリマー溶融物に対し、0〜5重量%のIR吸収剤と、前記ポリマー溶融物に対し、0.5〜5重量%の難燃剤としてのブロム含有量が60〜80重量%の有機ブロム化合物とを投入するステップ、(c)発泡性溶融物を形成するために、前記ステップ(a)および(b)で生成されたポリマー溶融物100重量部当たり1〜12重量部の発泡剤混合物を投入するステップであって、前記発泡剤混合物が、(1)0.5〜10重量部のハイドロフルオロオレフィン、(2)0.5〜10重量部のエタノール、アセトン、二酸化炭素、またはそれらの混合物、(3)0〜2重量部のC1−C5アルカンまたはシクロアルカン、とからなるステップ、(d)前記発泡性溶融物を、発泡させながら、より低い圧力の領域に押し出して押出発泡体とするステップ、を包含する方法によって得られる、密度が20〜45kg/m3の範囲の発泡ボード。」(以下、「甲1発明」という。) (2)甲2に記載された事項等 ア 甲2に記載された事項 甲2には、「垂直方向に伸長された気泡を有する断熱発泡体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものであり、甲2は外国語の文献のため、訳文である甲3の記載を援用して摘記した。 ・「【請求項1】 押出ポリマー発泡体であって、前記発泡体がポリマーマトリックスの中にある気泡を画定する前記ポリマーマトリックスを含み、前記発泡体が、 (a)前記ポリマーマトリックスが、スチレンアクリロニトリルコポリマー、及び前記ポリマーマトリックス中に分散された、発泡体の重量に基づいて0.1〜10重量パーセントの赤外線減衰剤を含むことと、 (b)前記気泡が、 i.150マイクロメートル以下の、前記発泡体の垂直方向の平均サイズ、 ii.1を超える、垂直方向の平均気泡サイズの、押出方向の平均気泡サイズに対する比率、 iii.1.1を超える、気泡異方性比、となるようなASTM D−3576によって測定される、前記発泡体の垂直、水平、及び押出方向の平均サイズを有することと、 (c)ASTM D1621に準拠して測定される圧縮強度値と共に、0.7以下のP比を有することと、 (d)ガスクロマトグラフィーによって測定される、前記気泡中の、発泡体1キログラム当たり0.2モル未満の炭化水素発泡剤を有することと、 (e)ASTM D1622によって測定される、1立方メートル当たり20〜48キログラムの密度を有することと、 (f)EN13164の切断技術によって測定される25年熱伝導率に関して、フッ素化発泡剤を使用しない場合、0.030ワット/メートルケルビン以下、フッ素化発泡剤を含有する場合、0.029ワット/メートルケルビン未満の平均25年熱伝導率を有することと、を特徴とする押出ポリマー発泡体。 ・・・(略)・・・ 【請求項4】 前記気泡中に、フッ素化発泡剤を含有することをさらに特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の押出ポリマー発泡体。 ・・・(略)・・・ 【請求項7】 前記ポリマーマトリックスが、前記ポリマーマトリックス中のポリマーの総重量に基づいて、90重量パーセントを超えるスチレンアクリロニトリルコポリマーを含み、前記赤外線減衰剤がカーボンブラック及びグラファイトからなる群から選択され、前記発泡体の前記P比が0.60以下であり、前記気泡がフッ素化発泡剤を含み、前記発泡体の前記25年熱伝導率が0.027ワット/メートルケルビン以下であることをさらに特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の押出ポリマー発泡体。 【請求項8】 請求項1に記載の押出ポリマー発泡体を調製する方法であって、 (a)スチレンアクリロニトリルコポリマー、発泡性ポリマー混合物重量に基づいて0.1〜10重量パーセントの赤外線減衰剤、及び発泡剤の総モル数に基づいて20モルパーセント未満の炭化水素を含む発泡剤、を含む発泡性ポリマー混合物を提供すること、及び前記発泡剤の膨張を防止する初期圧力で前記発泡性ポリマー混合物を提供することと、 (b)前記発泡性ポリマー混合物を、6メガパスカルを超えるダイ圧力、及び摂氏110〜135度の範囲の発泡温度で、ダイを通して、前記初期圧力未満の圧力領域に押出することと、 (c)膨張が4〜12の範囲の垂直ブローアップ比、及び1〜2の範囲の押出ブローアップ比を達成するように、前記発泡性ポリマー混合物の前記膨張を制御しながら、前記発泡性ポリマー混合物をポリマー発泡体に膨張させることを含む、方法。」(特許請求の範囲) ・「【0010】 上記の背景の項で引用した参考文献から、当該技術分野で知られているものとは対照的に、本発明は、驚くべきことに予想外にも、垂直方向に通る0.030W/m*K以下、さらに0.028W/m*K以下の長期熱伝導率を有する断熱性XPS発泡体を提供し、同時に発泡体の垂直方向に伸長された気泡配向を有する。これは、垂直方向の気泡の配向を平坦化することにより、発泡体を通る熱伝導率がより低くなるという従来技術の教示とは正反対である。このような熱伝導率の値は、本発明の発泡体で達成可能であると同時に、垂直方向に200キロパスカル以上の圧縮強度を実現する。」(甲2の3ページ2〜10行) ・「【0025】 ポリマーマトリックスのポリマーは、ポリスチレンとSANコポリマーとのブレンドを含むことができる。例えば、ポリマーマトリックスのポリマーは、ポリスチレンとSANコポリマーとのブレンドからなることができる。しかし、一般に、例えばポリマー難燃剤のようなさらに別のポリマー、及び/またはポリマーマトリックスに含めるための添加剤を配合するために使用されるポリマーの最大5パーセント、さらには10パーセントが存在し得る。」(甲2の7ページ11〜15行) ・「【0046】 望ましくは、発泡体は、発泡体の気泡中のガス成分としてフッ素化発泡剤を含有する。望ましくは、フッ素化発泡剤の量は0.05モル以上、好ましくは0.1モル以上であり、0.2モル以上であってもよく、同時に一般に、発泡体1キログラムあたり1.2モル未満であり、1.0モル以下、さらには0.8モル以下である。ガスクロマトグラフによって気泡ガス中のフッ素化発泡剤の量を測定する。」(甲2の12ページ12〜16行) ・「【実施例】 【0059】 フッ素フリー発泡剤 ポリマー樹脂100重量部に基づく重量部に関して、4重量部の二酸化炭素、0.9重量部の水、及び1重量部のイソブタンからなるフッ素フリーの発泡剤組成物を用いて、比較例(Comp Ex)CE1及びCE2ならびに実施例(Exs)1〜4を調製。二酸化炭素、水、及び炭化水素発泡剤の総モルパーセントは、発泡剤の総モル数に基づいて、それぞれ57.5、31.6、及び10.9モルパーセントである。 【0060】 発泡剤組成物と赤外線減衰剤とを、熱軟化したSANコポリマー樹脂に押し出し機で混合して発泡性ポリマー混合物を形成する。赤外線減衰剤は、特定の実施例に関して表1に特定された濃度のカーボンブラック(Thermax(商標)N990、ThermaxはCancarbの商標である)及びグラファイト(Ultra Fine Graphite UF−1、AMG Mining AG、Kropfmuehlから入手可能)から選択される。スチレン系ポリマー中の濃縮物としてカーボンブラックとグラファイトを押し出し機に供給する。全濃縮物重量に基づいて、カーボンブラックは、スチレン系ポリマー中の60重量%のカーボンブラックであり、グラファイトは、スチレン系ポリマー中の30重量%のグラファイトである。 【0061】 SANコポリマー樹脂は、2つのSAN樹脂の50/50重量乾燥ブレンドである、SAN A及びSAN B。SAN Aは、全コポリマー重量で15重量%の共重合アクリロニトリルを含み、12.3dg/10分のMFRを有する。SAN Bは、全コポリマー体重量に基づいて15重量%の共重合アクリロニトリルを含有し、5.9dg/10分のMFRを有する。 【0062】 210℃及び約17メガパスカルの圧力で発泡性ポリマー混合物を調製して、発泡剤の膨張を妨げる圧力で押出可能な発泡性ポリマー混合物を提供するようにする。 【0063】 発泡性ポリマー混合物を、開口高さ(ダイゲート高さ)を有するダイを通して、ダイ圧力及び発泡温度で、ダイ圧力より低い圧力の雰囲気中に押し出す。平行成形板を使用して押し出された発泡性ポリマー混合物の垂直方向の膨張を制限することによって垂直ブローアップ比(VBUR)を制御することと、膨張した発泡体の押出方向ライン速度を制御するプルローラの速度を調節することによって押出ブローアップ比(EBUR)を制御することによって、ダイを出た後に発泡性ポリマー混合物を発泡体に膨張させる。ダイゲート高さ、ダイ圧力、発泡温度、ダイから出た後の圧力降下及びブローアップ比の具体例については、表1に示す。」(甲2の16ページ1〜30行) ・「【0070】 フッ素含有発泡剤 以下の本明細書に記載のフッ素化成分を含む発泡剤を使用することを除いて、フッ素フリー実施例及び比較例と同様の方法で、比較例3及び4ならびに実施例5〜9を調製する。さもなければ、表1の代わりに表2に与えられた特性を有するフッ素を含有しない実施例及び比較例について記載したのと同様の方法で発泡体を調製する。同様に、比較例2、C4及び実施例5〜9の発泡体特性を表2に示す。 ・・・(略)・・・ 【0072】 ポリマー樹脂100重量部に基づく重量部に関して、1.2重量部の水、0.6重量部のイソブタン、0.4重量部のエタノール、及び5.5重量部の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)からなる発泡剤組成物を用いて、実施例9を調製。二酸化炭素、水、炭化水素、エタノール、及びフルオロオレフィン発泡剤の総モルパーセント(モル%)は、発泡剤の総モル数に基づいて、それぞれ0.0、50.4、7.6、6.4及び35.6モル%である。 【0073】 表2のデータは、表1のデータ同様に、本発明で発見されたP比と25年熱伝導率との相関、ならびにフッ素化発泡剤を使用して本発明の発泡体を調製する際の垂直及び押出ブローアップ比の影響を明らかにする。 ・・・(略)・・・ 【0076】 実施例5、6及び9は、異なる濃度の赤外線減衰剤としてグラファイトを含み、フッ素化発泡剤を含む発泡剤を使用する本発明の発泡体及び方法を実証する。実施例7及び8は、2つの異なる濃度の赤外線減衰剤としてカーボンブラックを含み、フッ素化発泡剤を含む発泡剤を使用する本発明の発泡体及び方法を実証する。これらの実施例は、本発明の方法を用いて、0.029W/m*K未満の25年熱伝導率値を本発明の発泡体で実現する能力を例示する。単位「pph」は、全ポリマー100重量に基づく重量部を意味し、単位「mm」は、ミリメートルを意味する。」(甲2の18ページ16行〜19ページ29行) 「 」(甲2の20ページのTable2) イ 甲2に記載された発明 甲2には、実施例9の発泡体について整理すると、以下の発明が記載されていると認める。 「ポリマー樹脂100重量部に基づく重量部に関して、1.2重量部の水、0.6重量部のイソブタン、0.4重量部のエタノール、及び5.5重量部の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)からなる発泡剤組成物と、ポリマー樹脂100重量部に基づく0.9重量部の赤外線減衰剤としてのグラファイトとを、熱軟化したSANコポリマー樹脂に押し出し機で混合して発泡性ポリマー混合物を形成し、発泡性ポリマー混合物を、開口高さ(ダイゲート高さ)を有するダイを通して、ダイ圧力5.6MPa及び発泡温度117℃で、ダイ圧力より低い圧力の雰囲気中に押し出すことにより、得られる発泡体。」(以下、「甲2発明」という。) (3)甲5に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項等 ア 甲5に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項 甲5に係る特許出願(特願2017−148449号)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「甲5先願明細書等」という。)には、「ポリスチレン系樹脂押出発泡板」に関して、おおむね次のとおり記載されている。 ・「【請求項1】 ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤及び難燃剤を含有する発泡性樹脂溶融物を押出発泡することにより得られる、厚さ10〜150mm、見掛け密度20〜50kg/m3のポリスチレン系樹脂押出発泡板において、 該物理発泡剤が1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び/又は1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなるハロゲン化プロペンと炭素数3〜5の飽和炭化水素とを含み、 該押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.5mol以下であり、 該押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.2mol以上0.6mol以下であり、 該押出発泡板の円換算平均気泡径が0.05〜0.3mmであり、 下記(1)式から算出される押出発泡板の円換算気泡径の変動係数(Cv)が40%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。 Cv(%)=({Σ(Di−Dav)2/(n−1)}1/2)/Dav)×100 ・・・(1) 但し、(1)式において、Diは個々の円換算気泡径、Davは円換算平均気泡径である。 【請求項2】 前記ハロゲン化プロペンの含有量が、前記押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.3mol未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板。」 ・「【0022】 本発明の押出発泡板においては、押出発泡板中の前記ハロゲン化プロペンの含有量は、ポリスチレン系樹脂押出発泡板1kgに対して、0.1mol以上0.5mol以下であることを要する。該含有量が少なすぎると、所望される長期断熱性が得られないおそれがある。一方、該含有量が多すぎると、コストが高くなるおそれがある。かかる観点から、ハロゲン化プロペンの含有量の下限は、押出発泡板1kgに対して、0.12molであることが好ましく、0.15molであることがより好ましく、さらに好ましくは0.17molである。該含有量の上限は、押出発泡板1kgに対して、0.45molであることが好ましく、0.3mol未満であることがより好ましく、さらに好ましくは0.26mol/kg未満である。製造後5日経過後における押出発泡板中のハロゲン化プロペンの含有量がポリスチレン系樹脂押出発泡板1kgに対して0.12mol以上0.45mol以下であることが好ましい。該含有量の下限は0.15molであることがより好ましく、0.17molであることが更に好ましく、その上限は0.3mol未満であることがより好ましく、0.26mol未満であることが更に好ましい。また、前記と同じ理由で、製造後30日経過後における押出発泡板中のハロゲン化プロペンの含有量がポリスチレン系樹脂押出発泡板1kgに対して0.12mol以上0.40mol以下であることが好ましい。該含有量の下限は0.15molであることがより好ましく、0.17molであることが更に好ましく、その上限は0.28molであることがより好ましく、0.25molであることが更に好ましい。」 ・「【0031】 該難燃剤含有量は、難燃性を向上させるとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制するうえで、基材樹脂100重量部当たり1〜10重量部が好ましく、1.5〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。」 イ 甲5先願明細書等に記載された発明 甲5先願明細書等に記載された事項を、請求項1のポリスチレン系樹脂押出発泡板について整理すると、甲5先願明細書等には、以下の発明が記載されていると認める。 「ポリスチレン系樹脂、物理発泡剤及び難燃剤を含有する発泡性樹脂溶融物を押出発泡することにより得られる、厚さ10〜150mm、見掛け密度20〜50kg/m3のポリスチレン系樹脂押出発泡板において、 該物理発泡剤が1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び/又は1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなるハロゲン化プロペンと炭素数3〜5の飽和炭化水素とを含み、 該押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.5mol以下であり、 該押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.2mol以上0.6mol以下であり、 該押出発泡板の円換算平均気泡径が0.05〜0.3mmであり、 下記(1)式から算出される押出発泡板の円換算気泡径の変動係数(Cv)が40%未満であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板。 Cv(%)=({Σ(Di−Dav)2/(n−1)}1/2)/Dav)×100 ・・・(1) 但し、(1)式において、Diは個々の円換算気泡径、Davは円換算平均気泡径である。」(以下、「甲5先願発明」という。) 2 申立理由1及び2(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「1種のスチレンポリマー」又は「スチレンポリマーの混合物」は、本件特許発明1の「スチレン系樹脂」に相当する。 甲1発明の「ポリマー溶融物に対し、0.5〜5重量%の難燃剤としてのブロム含有量が60〜80重量%の有機ブロム化合物」は、本件特許発明1の「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤」に相当する。 甲1発明の「発泡ボード」は、1種のスチレンポリマーから、またはスチレンポリマーの混合物から得られる押出発泡体であることから、本件特許発明1の「スチレン系樹脂押出発泡体」に相当する。 甲1発明の「発泡剤混合物が、0.5〜10重量部のハイドロフルオロオレフィン、0.5〜10重量部のエタノール、アセトン、二酸化炭素、またはそれらの混合物、0〜2重量部のC1−C5アルカンまたはシクロアルカン、とからなる」ことは、本件特許発明1の「発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」むことに相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、 発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で一応相違する。 <相違点1−1> 本件特許発明1は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 そこで、相違点1−1について検討する。 甲1には、「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」についての記載はなく、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり」、かつ、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」ることを示す証拠もない。 そうすると、相違点1−1は、実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証に記載されているハイドロフルオロオレフィンの押出発泡体1kgに対する配合量の範囲は、本件特許明細書の実施例に記載のハイドロフルオロオレフィンの配合量と重複していること、甲第1号証に記載されている押出温度は、本件特許明細書の実施例に記載されている押出温度と同等であること、甲第1号証に記載されているノズル圧力は、本件特許明細書の実施例に記載されている発泡圧力と略同等またはそれ以上であること、本件特許発明の実施例(表1)の記載から、製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの減少量は、本件特許発明において示される範囲内においては、0.02mol程度であると認定されていること(特許異議申立書30ページ3〜23行)、を根拠として、「甲第1号証に記載の押出発泡板中のハイドロフルオロオレフィンの残存量(製造から7日後)は、本件特許発明1の「(I)スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量(押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下)」と重複している」(特許異議申立書30ページ27〜31ページ2行)と主張している。 しかしながら、甲1には、[0041]において「温度は一般的には80〜170℃、特に好ましくは100〜140℃」と記載され、[0042]において「ノズル圧力は、・・・少なくとも50bar」と記載されているが、甲1における押出温度及び発泡圧力が、本件特許発明における押出温度及び発泡圧力と同等であることをもって、直ちに、甲1における製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの減少量が、本件特許発明と同等であるということはできない。 したがって、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であ」る蓋然性が高いとはいえず、上記主張は採用することができない。 さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」についても、上記と同様の主張をしているが(特許異議申立書32ページ2行〜33ページ2行)、上記と同様の理由により、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であ」る蓋然性が高いとはいえず、上記主張は採用することができない。 また、甲1には、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「優れた断熱性及び難燃性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得る」(【0008】)である、という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 イ まとめ したがって、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2について ア 対比・判断 本件特許発明2と甲1発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、 発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で一応相違する。 <相違点1−2> 本件特許発明2は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。 そこで、相違点1−2について検討する。 甲1には、「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」についての記載はなく、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」ることを示す証拠もない。 そうすると、相違点1−2は、実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記(1)アと同様の根拠を基に、甲第1号証には、製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの押出発泡体1kgあたりの残存量(添加量−減少量)が0.02〜0.86程度であること、及び甲1号証の実施例2、3、5、7、8、9、10、12、13において、製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの押出発泡体1kgあたりの残存量が0.41mol以上0.80mol以下の範囲であることが実質的に記載されていることから、「甲第1号証に記載の押出発泡板中のハイドロフルオロオレフィンの残存量(製造から7日後)は、本件特許発明2の「(I)スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量(押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下)」と重複している」(特許異議申立書34ページ4〜26行)と主張している。 しかしながら、上記(1)アで述べたとおり、甲1における押出温度及び発泡圧力が、本件特許発明における押出温度及び発泡圧力と同等であることをもって、直ちに、甲1における製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの減少量が、本件特許発明と同等であるということはできないし、さらに、甲1の実施例には、具体的な発泡圧力について記載されていないため、甲1の上記実施例における押出温度が、本件特許発明における押出温度と同等であることをもって、直ちに、甲1の上記実施例における製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの減少量が、本件特許発明と同等であるということもできない。 したがって、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であ」る蓋然性が高いとはいえず、上記主張は採用することができない。 さらに、特許異議申立人は、特許異議申立書において、、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」についても、上記と同様の主張をしているが(特許異議申立書35ページ1〜24行)、上記と同様の理由により、甲1発明の「発泡ボード」における「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であ」る蓋然性が高いとはいえず、上記主張は採用することができない。 また、甲1には、甲1発明において、相違点1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1発明において、相違点1−2に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明2の奏する「優れた断熱性及び難燃性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得る」(【0008】)である、という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明2の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 イ まとめ したがって、本件特許発明2は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明3ないし9について 本件特許発明3ないし9は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(1)ア及び上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1及び2は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明3ないし9は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)申立理由1及び2についてのむすび したがって、申立理由1及び2によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3及び4(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明の「熱軟化したSANコポリマー樹脂」は、本件特許発明1の「スチレン系樹脂」に相当する。 甲2発明の「発泡体」は、SANコポリマー樹脂を用い、押し出して得られていることから、本件特許発明1の「スチレン系樹脂押出発泡体」に相当する。 甲2発明の「ポリマー樹脂100重量部に基づく重量部に関して、1.2重量部の水、0.6重量部のイソブタン、0.4重量部のエタノール、及び5.5重量部の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)からなる発泡剤組成物」は、本件特許発明1の「炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「発泡剤」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で一応相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明1は、「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含む」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。 <相違点2−2> 本件特許発明1は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点2−2について検討すると、上記2(1)アの相違点1−1と同旨であるから、上記2(1)アと同様に判断される。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2について ア 対比・判断 本件特許発明2と甲2発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2−3> 本件特許発明2は、「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含む」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。 <相違点2−4> 本件特許発明2は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点2−4について検討すると、上記2(2)アの相違点1−2と同旨であるから、上記2(2)アと同様に判断される。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明に並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明3ないし9について 本件特許発明3ないし9は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(1)ア及び上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1及び2は、甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明3ないし9は甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)申立理由3及び4についてのむすび したがって、申立理由3及び4によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由5(甲第5号証に基づく拡大先願) (1)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲5先願発明を対比する。 甲5先願発明の「ポリスチレン系樹脂押出発泡板」は、本件特許発明1の「ポリスチレン系樹脂押出発泡体」に相当する。 甲5先願発明の「物理発泡剤が1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び/又は1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなるハロゲン化プロペンと炭素数3〜5の飽和炭化水素とを含み」は、本件特許発明1の「発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含み」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点5−1> 本件特許発明1は、「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含む」と特定されているのに対し、甲5先願発明は、難燃剤の配合量についての特定がない点。 <相違点5−2> 本件特許発明1は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲5先願発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点5−2について検討する。 甲5先願明細書等には、「押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.5mol以下である」こと、及び「押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.2mol以上0.6mol以下であ」ることが記載されているものの、甲5先願発明の「ポリスチレン系樹脂押出発泡板」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下であり」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.35mol以下であり」、かつ、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」ることは記載されていない。 そうすると、相違点5−2は、実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲5先願明細書等には、「製造後5日経過後の押出発泡板中のハロゲン化プロペンの含有量が、押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.5以下であることが記載されている」こと、「本件特許発明の実施例(表1)の記載から、製造から7日後のハイドロフルオロオレフィンの減少量は、本件特許発明において示される範囲内においては、0.02mol程度である」ことを根拠として、甲5先願発明の7日経過後のハロゲン化プロペンの残存量は、本件特許発明1の「(I)スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量(押出発泡体1kgあたり0.48mol以上0.80mol以下)」と重複している」(特許異議申立書55ページ19行〜56ページ11行)と主張しており、甲5先願発明の7日経過後のハロゲン化プロペンの残存量についても、上記と同様の主張をしている(特許異議申立書56ページ21行〜57ページ13行)。 しかしながら、仮に、甲5先願発明における「押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量」及び「押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量」が、製造から7日後と同等であるとしても、「押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量」及び「押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量」のそれぞれの範囲が、本件特許発明1の範囲外を含むものであるから、甲5先願発明が、「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」の特定事項を同時に満足するとまではいえず、上記主張は採用することができない。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲5先願発明と同一であるとはいえない。 (2)本件特許発明2について ア 対比・判断 本件特許発明2と甲5先願発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「難燃剤を含むスチレン系樹脂押出発泡体であって、発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素とハイドロフルオロオレフィンを含」む「スチレン系樹脂押出発泡体」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点5−3> 本件特許発明2は、「スチレン系樹脂100重量部に対して0.5重量部以上8.0重量部以下の難燃剤を含む」と特定されているのに対し、甲5先願発明は、難燃剤の配合量についての特定がない点。 <相違点5−4> 本件特許発明2は、「(I)前記スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり、 (II)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり、 (III)前記スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」り、「ここで、前記ハイドロフルオロオレフィンの残存量および前記炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量は、 前記スチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から7日後に、以下の設備および手順にて評価した: a)使用機器;ガスクロマトグラフ b)使用カラム;G−Column c)測定条件; ・注入口温度:65℃ ・カラム温度:80℃ ・検出器温度:100℃ ・キャリーガス:高純度ヘリウム ・キャリーガス流量:30mL/分 ・検出器:TCD ・電流:120mA d)測定手順; 密閉可能なガラス容器に、前記スチレン系樹脂押出発泡体から切り出した試験片を入れ、真空ポンプにより前記ガラス容器の空気抜きを行い、その後、前記ガラス容器を170℃で10分間加熱し、前記試験片中の前記発泡剤を前記ガラス容器内に取り出し、前記ガラス容器が常温に戻った後、前記ガラス容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLの前記発泡剤を含む混合気体を取り出し、前記a)〜c)の使用機器および測定条件にて評価した。」と特定されているのに対し、甲5先願発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点5−4について検討する。 甲5先願明細書等には、「押出発泡板中の該ハロゲン化プロペンの含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.1mol以上0.5mol以下である」こと、及び「押出発泡板中の該炭素数3〜5の飽和炭化水素の含有量が、該押出発泡板1kgに対して0.2mol以上0.6mol以下であ」ることが記載されているものの、甲5先願発明の「ポリスチレン系樹脂押出発泡板」における「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量が該押出発泡体1kgあたり0.41mol以上0.80mol以下であり」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量が該押出発泡体1kgあたり0.05mol以上0.21mol以下であり」、かつ、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が該押出発泡体1kgあたり0.46mol以上0.90mol以下であ」ることを示す証拠もない。 そうすると、相違点5−4は、実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記(1)アと同様の主張をしているが、上記(1)アと同様の理由により、上記主張は採用することができない。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲5先願発明と同一であるとはいえない。 (3)本件特許発明3ないし9について 本件特許発明3ないし9は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(1)ア及び上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1及び2は、甲5先願発明と同一ではないから、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て含む発明である本件特許発明3ないし9は甲5先願発明と同一であるとはいえない。 (4)申立理由5についてのむすび したがって、申立理由5によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由6(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「優れた断熱性及び難燃性を有し、更に、外観美麗で、且つ、使用に適した十分な厚みのスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得る」ことである。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】、【0017】ないし【0023】、【0026】ないし【0033】、【0037】ないし【0040】、【0044】ないし【0046】、【0061】、【0062】及び【0074】には、本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0026】ないし【0030】には、「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」、及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」の条件を満たすことの技術的意味が具体的に記載されている。 さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0085】ないし【0116】には、本件特許発明に係る「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」、及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」の条件をいずれも満足する「スチレン系樹脂押出発泡体」は、熱伝導性判定、JIS燃焼性及び発泡体外観のいずれもが良好であるのに対し、本件特許発明に係る「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」、及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」の条件のいずれかを満足しない「スチレン系樹脂押出発泡体」は、熱伝導性判定、JIS燃焼性及び発泡体外観のいずれかが悪化することを確認する記載もある。 そうすると、当業者は、本件特許発明に係る「スチレン系樹脂押出発泡体中のハイドロフルオロオレフィン残存量」、「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量」、及び「スチレン系樹脂押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量」の条件をいずれも満足する「スチレン系樹脂押出発泡体」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし9は、上記「スチレン系樹脂押出発泡体」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人の主張について 上記第3 6における特許異議申立人の主張(1)ないし(3)について検討する。 上記(1)の点について検討すると、特許異議申立人は、製造から7日経過後の発泡体1kgあたりのハイドロフルオロオレフィンの残存量が0.60mol〜0.80mol程度の範囲において、発明の課題を解決しない具体的な技術的根拠を示しておらず、上記範囲において発明の課題を解決できないことについて何ら立証されていない。 上記(2)の点について検討すると、特許異議申立人は、製造から7日経過後の発泡体1kgあたりの炭素数3〜5の飽和炭化水素の残存量とハイドロフルオロオレフィンの残存量との合計量が0.70mol〜0.90mol程度の範囲において、発明の課題を解決しない具体的な技術的根拠を示しておらず、上記範囲において発明の課題を解決できないことについて何ら立証されていない。 上記(3)の点について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明の【0017】には、「本発明で用いるハイドロフルオロオレフィンとしては、特に制限はない」こと、及び、「本発明で用いるハイドロフルオロオレフィンは、塩素化されたハイドロクロロフルオロオレフィンでも良い。」と記載されているところ、HFO−1234ze以外のハイドロフルオロオレフィンを発泡剤として用いた場合に、発明の課題を解決しない具体的な技術的根拠を示しておらず、HFO−1234ze以外のハイドロフルオロオレフィンを用いた場合に、発明の課題を解決できないことについて何ら立証されていない。 したがって、上記(1)ないし(3)の主張はいずれもその理由がない。 (4)申立理由6についてのむすび したがって、申立理由6によっては、本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-01-23 |
出願番号 | P2017-154540 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J) P 1 651・ 537- Y (C08J) P 1 651・ 161- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 ▲吉▼澤 英一 |
登録日 | 2022-01-18 |
登録番号 | 7011422 |
権利者 | 株式会社カネカ |
発明の名称 | スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法 |
代理人 | 弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |