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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1394020
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-17 
確定日 2023-02-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第7021449号発明「フッ素ポリマーを含有するコーティング用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7021449号の請求項1〜18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7021449号の請求項1〜18に係る特許(以下、「本件特許」ともいう。)についての出願は、令和3年1月6日(優先権主張 令和2年1月8日(以下「本件優先日」という。)(JP)日本国)の出願であって、令和4年2月8日に特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜18に係る特許に対し、同年8月17日に特許異議申立人である所 智恵子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜18に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された以下のとおりのものである(請求項1〜18に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明18」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)。

「【請求項1】
フッ素ポリマー及び非プロトン性溶媒を含有するコーティング用組成物であって、
前記フッ素ポリマーが、式(1):
【化1】

[式中、R1〜R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含み、
前記フッ素ポリマーは、前記非プロトン性溶媒に溶解し、
前記非プロトン性溶媒に溶解した前記フッ素ポリマーの濃度がコーティング用組成物全質量に対して20質量%以上である、
組成物 、但し、発光素子封止用樹脂組成物を除く。
【請求項2】
前記フッ素ポリマーがフルオロオレフィン単位をさらに含む、請求項1に記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
前記フルオロオレフィン単位が含フッ素パーハロオレフィン単位、フッ化ビニリデン単位、トリフルオロエチレン単位、ペンタフルオロプロピレン単位、及び1,1,1,2−テトラフルオロ−2−プロピレン単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
前記含フッ素パーハロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
前記フルオロオレフィン単位が、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
前記フッ素ポリマーが、
式(M1):
【化2】

[式中、R1〜R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体の非プロトン性溶媒中での重合体、或いは
前記式(M1)で表される単量体とフルオロオレフィンとの非プロトン性溶媒中での重合体である、
請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項7】
前記フルオロオレフィンが含フッ素パーハロオレフィン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、及び1,1,1,2−テトラフルオロ−2−プロピレンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載のコーティング用組成物。
【請求項8】
前記含フッ素パーハロオレフィンが、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項7に記載のコーティング用組成物。
【請求項9】
前記フルオロオレフィンが、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載のコーティング用組成物。
【請求項10】
前記式(M1)で表される単量体が非プロトン性溶媒中で重合した重合反応液、及び/又は、前記式(M1)で表される単量体とフルオロオレフィンが非プロトン性溶媒中で重合した重合反応液を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項11】
前記非プロトン性溶媒に溶解した前記フッ素ポリマーの含有量が、コーティング剤全質量に対して、20質量%以上且つ65質量%以下である請求項1〜10のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項12】
前記非プロトン性溶媒が、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ環状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、及び少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒である請求項1〜11のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項13】
前記非プロトン性溶媒が、ハイドロフルオロエーテルの少なくとも1種である請求項1〜11のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項14】
10nm以上の平均膜厚を有する膜の形成用である請求項1〜13のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項15】
250N/mm2以上且つ1000N/mm2以下の押込み硬さを有する膜の形成用である請求項1〜14のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項16】
2.5GPa以上且つ10GPa以下の押込み弾性率を有する膜の形成用である請求項1〜15のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項17】
90%以上の全光線透過率を有する膜の形成用である請求項1〜16のいずれかに記載のコーティング用組成物。
【請求項18】
前記フッ素ポリマーのガラス転移温度が110℃以上である請求項1〜17のいずれかに記載のコーティング用組成物。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 甲号証の一覧
申立人が提示した甲号証は、次のとおりである。以下、申立人の提示した甲第1号証を「甲1」、甲第2号証の1を「甲2の1」などという。
甲1:Frantisek Mikes et al.,Synthesis and Characterization of an Amorphous Perfluoropolymer:Poly(perfluoro−2−methylene−4−methyl−1,3−dioxolane),Macromolecules,2005,Vol.38,No.10,p.4237〜4245
甲2の1:特公昭43−29154号公報
甲2の2:米国特許第3308107号明細書(甲2の1の優先基礎出願)
甲3:国際公開第2005/095471号
甲4:特開2020−122068号公報

2 申立理由1(新規性欠如)
本件特許発明1〜18は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」ともいう。)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由2(進歩性欠如)
本件特許発明1〜18は、甲1発明と甲2の1及び/又は甲3に開示される周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第4 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
1 甲号証の記載
各甲号証には、以下の記載がある。

(1)甲1の記載(日本語訳は、申立人が提出した翻訳文に基づく。)
ア「

」(第4237頁要約部)
(日本語訳:
要約:全フッ素化モノマー、ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PFMMD)を様々な方法で合成した。モノマーは、開始剤としてペルフルオロジベンゾイルパーオキシド及び/又はペルフルオロジ−tert−ブチルパーオキシドを使用するフリーラジカル機構によって、バルク及び/又は溶液中で重合した。得られたポリマー(ポリ(PFMMD))は、無色透明であった。しかし、雰囲気に曝露されたポリマーロッドは、濁った。ポリマー溶液をクロロホルムに沈殿させることによって、ポリマーを精製した場合、これらは長期間空気に曝露されても濁ることなく、透明なままであり、高い紫外可視光透過率を有する。精製ポリマーのガラス転移温度は、130〜134℃であった。NMR測定は、精製ポリマーが主として、ビニル付加ポリマーの構造を有することを示している。それにもかかわらず、我々は初期状態のポリマーが開環重合によって形成された構造単位を含有していると推測する。ポリ(PFMMD)サンプルの分子量は、連鎖移動剤として、四塩化炭素、四臭化炭素、及び塩化スルフリルを使用して、制御することができる。このような制御因子の存在における重合は、非分解性連鎖移動によって特性決定した。ポリ(PFMMD)の固有粘度は、ヘキサフルオロベンゼン中で決定された。ヘキサフルオロベンゼンは、ポリ(PFMMD)にとって熱力学的に良好な溶媒である。ポリ(PFMMD)の分子量は、固有粘度及び動的光散乱法(dynamic light scattering:DLS)によって特性決定した。400〜1550nmのポリ (PFMMD)の屈折率は、1.3360〜1.3270であった。ポリ(PFMMD)の材料分散は、市販のポリ(1,1,2,4,4,5,5,6,7,7−デカフルオロ−3−オキサ−1,6−ヘプタジエン)(Cytop)よりも優れている。)
イ「


」(第4237頁右欄下から第7〜4行)
(日本語訳:
実験部分
材料.ヘキサフルオロプロピレンオキシド(1)、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)、クロロペンタフルオロベンゼン(CPFB)、及びFluorinert FC−75(FC−75)をSyn.Quest,Inc.から購入した。)
ウ「

」(第4238頁右欄下から第10〜6行)
(日本語訳:
フルオロカルボニル4の脱カルボニル化は、無水ビス(2−エトキシエチル)エーテル中でも実施された18(スキーム2)。分解生成物はGC−MS及び19F NMRによって分析された。それは、4、PFMMD、及びペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)の混合物からなることが見出された。)
エ「

」(第4239頁左欄)
(日本語訳:



オ「

」(第4239頁左欄)
(日本語訳:


カ「

」(第4240頁右欄下から第11〜5行)
(日本語訳:
PFMMDの重合は、バルク及び/又は溶液で実施した。バルクにおける重合は、60℃で24時間実施し、高い変換を得るために、重合温度は、徐々に110℃に上昇した。単離したポリマーは、HFBに溶解し、次いでクロロホルムに沈殿させ、真空で乾燥させた。)
キ「

」(第4241頁左欄)
(日本語訳:


ク「


」(第4241頁左欄下から第13〜9行)
(日本語訳:
バルクで調製された精製ポリ(PFMMD)の固有粘度[η]、ガラス転移温度(Tg)、及びハギンズ係数(k’)は、表1に要約される。5及び/又はHFBの溶液中で調製されたポリマーの固有粘度[η]、ガラス転移温度(Tg)、及びハギンズ係数(k’)は、表2に列挙される。)
ケ「



」(第4241頁右欄下から第29〜24行)
(日本語訳:
ポリ(PFMMD)は周囲温度で、HFB、Fluorinert FC−75溶媒、並びに50wt%超の第1の成分を含有するHFB及びCPFBの2成分混合物に可溶である。65℃でポリ(PFMMD)はまたCPFBに可溶である。)
コ「

」(第4242頁)
(日本語訳:


サ「


」(第4243頁右欄下から第13〜11行)
(日本語訳:
HFBはkD(eq 4)の正の値16に基づいて、ポリ(PFMMD)にとって熱力学的に良好な溶媒である(表1及び表2)。)
シ「


」(第4244頁左欄第11〜13行)
(日本語訳:
HFBがポリ(PFMMD)にとって良好な溶媒であるという我々の知見に基づいて、RHデータからポリ (PFMMD)の分子量を推定した。)
ス「


」(第4244頁右欄第8〜14行)
(日本語訳:
バルク並びにペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン及び/又はヘキサフルオロベンゼンとの混合物におけるPFMMDの重合は、ペルフルオロジベンゾイルパーオキシド及び/又はペルフルオロジ−tert−ブチルパーオキシドを開始剤として使用するフリーラジカル機構によって実施した。重合により、高い紫外可視光透過率を有する無色透明のポリマーが得られた。)
セ「


」(第4244頁右欄下から第5〜4行)
(日本語訳:
ヘキサフルオロベンゼンはポリ(PFMMD)にとって、熱力学的に良好な溶媒である。)

(2)甲2の1の記載
ア「

」(第2頁右欄下から第8〜1行)
イ「

」(第3頁左欄第7〜14行)
ウ「


」(第3頁左欄第15〜23行)

(3)甲3の記載
ア「請求の範囲
[1] 下式(a)で表される化合物の環化重合により形成した単位を含む重合体。
CF2=CFCRF1RF2OCF2CF=CF2 (a)
ただし、RF1およびRF2は、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基を示す。
[2] 重合体中の全単位に対する式(a)で表される化合物の環化重合により形成した単位の割合が25〜100モル%である、請求項1に記載の重合体。
[3] 重合体中の全単位に対する式(a)で表される化合物の環化重合により形成した単位の割合が100モル%である、請求項1または2に記載の重合体。
[4] 式(a)で表される化合物の環化重合により形成した単位の少なくとも一部が下式(A1)で表される単位である、請求項1、2または3に記載の重合体。
[化1]

・・・
[9] 請求項1〜5のいずれかに記載の重合体を有機溶媒に溶解させた溶液組成物。」
イ「発明の効果
[0011] 本発明によれば、環化重合反応により得た新しい単位を含む新規な含フッ素重合体が提供される。本発明の含フッ素重合体は、非晶質性でガラス転移点が高く、撥水性、撥油性、透明性、耐光性、耐薬品性、離型性、低屈折率性、耐熱性等に優れるため、光学材料、電子材料、オイルシール剤等として有用である。また本発明の含フッ素重合体は、溶媒に溶解させて溶液組成物とすることができる。」
ウ「[0025] 本発明の重合体(A)は、単位(A)の1種または2種以上(以下、1種類以上という。)からなる重合体であってもよく、単位(A)の1種以上と単位(A)以外の他の単位(以下、単に他の単位という。)の1種以上とからなる重合体であってもよい。本発明の重合体が、後者の重合体である場合、各単位の並び方としては、ブロック状、グラフト状、およびランダム状が挙げられる。
[0026] 重合体(A)中の全単位に対する単位(A)の割合は、重合体(A)の用途に応じて適宜変更することができ、25〜100モル%が好ましく、50〜100モル%が特に好ましく、100モル%がとりわけ好ましい。単位(A)が該好ましい割合である重合体(A)は、有用な非晶質性の重合体となりうる。また重合体(A)中の全単位に対する他の単位の割合は、0〜75モル%が好ましく、0〜50モル%が特に好ましい。
[0027] 重合体(A)が他の単位を含む場合の他の単位としては、特に限定されず、下記単位(B)、下記単位(C1)、下記単位(C2)、下記単位(C3)等が挙げられる。
−CY1Y2−CY3Y4− (B)
・・・
[0033] 単位(B)の具体例としては、下記の単位が挙げられる。
−CH2−CH2−、−CH2−CH(CH3)−、−CH2−CF2−、−CF2−CFCl−、−CF2−CF2−、−CF2−CF(CF3)−、−CF2−CF(OCF3)−、−CF2−CF(OCF2CF2CF3)−。
[0034][化8]

・・・」
エ「[0059] 本発明の重合体(A)は、光ファイバー材料(光ファイバーのコア材料およびクラッド材料。)、光導波路材料(光導路材料のコア材料およびクラッド材料。)、ペリクル材料、レンズ材料(眼鏡レンズ、光学レンズ、光学セル等)等の光学材料;素子(発光素子、太陽電池素子等)封止材料、層間絶縁膜(半導体素子用、液晶表示体用、多層配線板用等)、バッファーコート膜、パッシベーション膜、α線遮蔽膜、素子封止材、高密度実装基板用層間絶縁膜、高周波素子(たとえば、RF回路素子、GaAs素子、InP素子等。)保護膜、ディスプレイ(PDP、LCD、CRT、LCD等)表面保護膜等の電子材料;通気性布帛、モーター流体軸受装置における軸受部分等のオイルシール剤、注射器表面、水素吸蔵合金表面、バイオセンサー用測定チップ表面等のその他材料、として有用である。
[0060] このうち、本発明の重合体(A)は短波長光に対する透過性に優れ低屈折率の膜を形成することから、特に光ファイバー材料、光導波路材料、ペリクル材料、レンズ材料等、として有用である。
[0061] 重合体(A)を前記用途に用いる場合には、重合体(A)を有機溶媒に溶解をさせた溶液組成物として用いてもよい。溶液組成物中に含まれる重合体(A)の量は、用途に応じて適宜調整され、溶液組成物に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%が特に好ましい。
[0062] 有機溶媒としては、含フッ素有機溶媒が好ましい。含フッ素有機溶媒としては、下記の化合物が挙げられる。
ペルフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のポリフルオロ芳香族化合物;ペルフルオロ(トリブチルアミン)、ペルフルオロ(トリプロピルアミン)等のポリフルオロ(トリアルキルアミン)化合物;ペルフルオロデカリン、ペルフルオロシクロヘキサン等のポリフルオロシクロアルカン化合物;ペルフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物;ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカン、2H,3H−ペルフルオロペンタン、1H−ペルフルオロヘキサン等のポリフルオロアルカン類;メチル(ペルフルオロイソプロピル)エーテル、メチル(ペルフルオロブチル)エーテル、メチル(ペルフルオロヘキシルメチル)エーテル、メチル(ペルフルオロオクチル)エーテル、エチル(ペルフルオロブチル)エーテル等のポリフルオロエーテル類。
[0063] 本発明の溶液組成物を処理した基材表面には撥水撥油性、離型性または接着性等の性質が付与される。また溶液組成物から形成された被膜を基材表面から剥離する方法で重合体(A)の膜を形成させてもよい。該膜の膜厚は、用途に応じて変更され、通常は0.001〜1000μmである。重合体(A)から形成される膜は、透明性、耐光性、耐薬品性、および低屈折率性等の性質を有することから、これらの性質を要求される種々の用途に用いうる。
[0064] 基材表面への塗布の方法としては、ロールコート法、キャスト法、ディップ法、スピンコート法、水上コート法、ダイコート法、ラングミュア・プロジェクト法等が挙げられる。」

(4)甲4の記載
ア「【先行技術文献】
・・・
【0007】
・・・
【非特許文献1】Macromolecules、2005、38、4237−4245」
イ「【0067】
(比較例1)パーフルオロ(4−メチル−2−メチレン−1,3−ジオキソラン)樹脂の製造
以下、非特許文献1に準拠してフッ素樹脂を製造した。SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド0.476g(0.00113モル)、単量体としてパーフルオロ(4−メチル−2−メチレン−1,3−ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、重合溶媒としてヘキサフルオロベンゼン230gを入れ、攪拌下55℃で24時間保持することでラジカル溶液重合を行ったところ樹脂が溶解した粘稠な液が得られた。室温まで冷却し、粘度調整のため樹脂溶液をヘキサフルオロベンゼン1000gで希釈して樹脂希釈溶液を作成した。バット中にヘキサン3Lを加え、前記の樹脂希釈溶液をシリンジで前記ヘキサン中に押し出すことで樹脂を析出させ、パーフルオロ(4−メチル−2−メチレン−1,3−ジオキソラン)樹脂を得た(収率:68%)。」

2 甲1発明の認定
(1)甲1には、モノマーであるペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PFMMD)を、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン及び/又はヘキサフルオロベンゼンの溶液中で重合して、ポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))を調製することが記載されている(前記1(1)の摘記ア、カ、ク、コ、ス参照)。
(2)甲1の表2には、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン又はヘキサフルオロベンゼンの溶液中で調製されたポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)の特性が開示されており、サンプルは、モノマー/溶媒混合物38/62(w/w)、重合温度60℃、重合時間24時間、開始剤−ペルフルオロジベンゾイルパーオキシドの重合反応条件で調製されたこと、重合収率は50〜80%の範囲であったことも記載されている(前記1(1)の摘記コ参照)。ここで、重合反応直後の反応系は、生成したポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)と、溶媒であるペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン又はヘキサフルオロベンゼンを含有するといえる。
(3)前記1(1)の摘記エ、キより、モノマーであるペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PFMMD)は、

の化学構造をとり、ポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))は、

の化学構造をとることがわかる。
(4)前記1(1)の摘記イにおける「ヘキサフルオロベンゼン(HFB)」との記載より、HFBはヘキサフルオロベンゼンの略称であることがわかる。
(5)前記1(1)の摘記ウにおける「ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)」との記載及び前記1(1)の摘記オより、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソランは、

の化学構造をとることがわかる。
(6)そうすると、甲1の表2で特性が開示されるポリマーの調製時における、ポリマー生成直後(重合反応直後)の反応系として、甲1から次の発明(以下、「甲1発明」という。)が認定できる。
<甲1発明>
「ポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))と、溶媒であるペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)を含有する組成物であって、
前記ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))は、

の化学構造をとり、
ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)の溶液中、モノマー/溶媒混合物38/62(w/w)、重合温度60℃、重合時間24時間、開始剤−ペルフルオロジベンゾイルパーオキシドの重合反応条件で調製され、重合収率50〜80%の範囲で得られたものである、
組成物。」

3 本件特許発明1について
(1)対比
ア 甲1発明の「ポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))」は、本件特許発明1の「フッ素ポリマー」に相当する。
イ 甲1発明の「溶媒であるペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)」は、本件特許発明1の「非プロトン性溶媒」に相当する。
ウ 甲1発明の「ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))」は、「

の化学構造をと」るので、本件特許発明1の「前記フッ素ポリマーが、式(1):
【化1】

[式中、R1〜R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含み」を充足する。
エ 甲1には、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))が「発光素子封止用樹脂組成物」として使用される旨の記載はなく、甲1発明の組成物は、「発光素子封止用樹脂組成物」とはいえない。

(2)一致点及び相違点
そうすると、甲1発明と本件特許発明1は、
「フッ素ポリマー及び非プロトン性溶媒を含有する組成物であって、
前記フッ素ポリマーが、式(1):
【化1】

[式中、R1〜R4はそれぞれ独立して、フッ素原子、フルオロアルキル基、又はフルオロアルコキシ基である。]
で表される単量体単位を主成分として含む、
組成物 、但し、発光素子封止用樹脂組成物を除く。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1の組成物は、「コーティング用」組成物であるのに対し、甲1発明の組成物は、「コーティング用」と特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1では、「前記フッ素ポリマーは、前記非プロトン性溶媒に溶解し、前記非プロトン性溶媒に溶解した前記フッ素ポリマーの濃度がコーティング用組成物全質量に対して20質量%以上である」のに対し、甲1発明では、「ポリマーであるポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))」が「溶媒であるペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)」に「溶解」し、溶媒に溶解したポリマーの濃度が組成物全質量に対して「20質量%以上」であるか不明である点。

(3)相違点2の検討
新規性
甲1には、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)の溶液中で重合、生成したポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))が、溶媒に溶解した状態で存在することを示す記載はない。もっとも、溶媒がヘキサフルオロベンゼン(HFB)の場合に関し、甲1には、ポリ(PFMMD)は周囲温度でヘキサフルオロベンゼン(HFB)に可溶であり、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)はポリ(PFMMD)にとって熱力学的に良好な溶媒である旨の記載がある(前記1(1)の摘記ア、ケ、サ、シ、セ参照)。しかしながら、ヘキサフルオロベンゼン(HFB)に対するポリ(PFMMD)の具体的な溶解度は不明であり、甲1発明の重合反応条件で重合、生成したポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))のうち、固体として析出した状態をとるものと、溶媒であるヘキサフルオロベンゼン(HFB)に溶解した状態をとるものの比率は明らかでない。また、溶媒がペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)の場合も、溶媒に対するポリ(PFMMD)の具体的な溶解度は不明であり、甲1発明の重合反応条件で重合、生成したポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))のうち、固体として析出した状態をとるものと、溶媒に溶解した状態をとるものの比率は明らかでない。
そのため、甲1発明の「モノマー/溶媒混合物38/62(w/w)」、「重合収率50〜80%」といった重合反応条件から、生成したポリマーの組成物中に占める質量割合を算出できたとしても、そのうち溶媒に溶解したポリマーの割合は不明であるから、甲1発明において、「・・・ポリマーは、・・・溶媒に溶解し、・・・溶媒に溶解した・・・ポリマーの濃度が・・・組成物全質量に対して20質量%以上である」かは明らかでない。
したがって、前記相違点2は、実質的な相違点である。

なお、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))の溶解度について、甲4の比較例1には、非特許文献1に準拠して、フッ素樹脂であるパーフルオロ(4−メチル−2−メチレン−1,3−ジオキソラン)樹脂を製造したこと、より具体的には、開始剤としてビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド0.476g(0.00113モル)、単量体としてパーフルオロ(4−メチル−2−メチレン−1,3−ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、重合溶媒としてヘキサフルオロベンゼン230gを入れ、攪拌下55℃で24時間保持することでラジカル溶液重合を行ったところ樹脂が溶解した粘稠な液が得られたこと、さらに室温まで冷却し、粘度調整のため樹脂溶液をヘキサフルオロベンゼン1000gで希釈して樹脂希釈溶液を作成したことが記載されており、ここでいう「非特許文献1」は甲1であることが把握できる(前記1(4)の摘記ア、イ参照)。しかしながら、甲4は、本件優先日より後の令和2年8月13日に公開されたものであり、仮に本件優先日と甲4の公開日との前後関係を問わず、甲4の前記記載を参酌したとしても、溶媒がヘキサフルオロベンゼン(HFB)の場合における、反応系中の開始剤の濃度が、甲1発明では0.098wt%、0.44wt%、1.66wt%のいずれかである(前記1(1)の摘記コにおけるサンプル番号92〜94参照)のに対し、甲4の比較例1では、{0.476/(0.476+140.0+230)}×100=0.128wt%と異なっている。また、重合温度が、甲1発明では60℃である(前記1(1)の摘記コ参照)のに対し、甲4の比較例1では55℃と異なっている。このように、具体的な重合反応条件が両者で異なるため、甲4の比較例1は、甲1発明の組成物を忠実に再現したものとはいえない。そのため、甲4の前記記載を参酌したとしても、甲1発明の組成物において、溶媒がヘキサフルオロベンゼン(HFB)の場合に、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))が「溶媒に溶解した」状態で存在し、その濃度が「組成物全質量に対して20質量%以上である」ことが証明されたとはいえない。

進歩性
甲1には、「PFMMDの重合は、バルク及び/又は溶液で実施した。・・・単離したポリマーは、HFBに溶解し、次いでクロロホルムに沈殿させ、真空で乾燥させた。」(前記1(1)の摘記カ参照)と記載されるように、甲1では、甲1発明の組成物からポリマーを単離し、最終的に固体の状態でポリマーを得ている。また、甲1には、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))を、「組成物全質量に対して20質量%以上である」濃度で、「溶媒に溶解した」組成物の形態とすることや、そのような形態で使用することについて、記載も示唆もされておらず、そのような形態とする動機付けも存在しない。
甲2の1には、パフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)のホモポリマーは、パフルオロ(アルキルフラン)および2,8−ジクロロ−ヘキサフルオロブテン−2のようなフッ素化有機溶媒に溶解し、このような溶液は接着剤、ペイントおよび浸潰塗装剤として有用である旨が記載されている(前記1(2)の摘記イ参照)。しかしながら、ここで挙げられるフッ素化有機溶媒は、「パフルオロ(アルキルフラン)」、「2,8−ジクロロ−ヘキサフルオロブテン−2」であり、甲1発明の溶媒である「ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)」とは異なる。また、甲2の1の前記記載を参酌しても、「パフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)のホモポリマー」の「パフルオロ(アルキルフラン)および2,8−ジクロロ−ヘキサフルオロブテン−2のようなフッ素化有機溶媒」に対する具体的な溶解度は、依然として不明である。そうすると、甲1発明において、仮に溶媒を「ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)」から「パフルオロ(アルキルフラン)」あるいは「2,8−ジクロロ−ヘキサフルオロブテン−2」に置換したとしても、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))を、「組成物全質量に対して20質量%以上である」濃度で、「溶媒に溶解した」組成物の形態とすることができるとはいえない。
甲3には、所定の含フッ素重合体(A)を含フッ素有機溶媒に溶解させた溶液組成物が記載されており、該溶液組成物を基材に塗布、表面処理すること、前記含フッ素重合体(A)は、必須の単位(A)の他に、

等の他の単位(B)を含んでもよいこと、重合体(A)中の全単位に対する他の単位の割合は、0〜50モル%が特に好ましいことも記載されている(前記1(3)の摘記ア〜エ参照)。しかしながら、甲3に開示される含フッ素重合体(A)は、必須の単位(A)が主成分であり、単位(B)をはじめとする他の単位は、主成分ではない。また、甲3の段落[0061]には、「溶液組成物中に含まれる重合体(A)の量は、用途に応じて適宜調整され、溶液組成物に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%が特に好ましい。」と記載されており(前記1(3)の摘記エ参照)、溶液組成物を「20質量%以上」のような高ポリマー濃度とすることについては、甲3に記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、甲2の1及び甲3の記載に基づいても、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))を、「組成物全質量に対して20質量%以上である」濃度で、「溶媒に溶解した」組成物の形態とすることは、当業者が容易になし得ることではない。

なお、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))の溶解度について、甲4の比較例1には、上記アのとおりの事項が記載されている。しかしながら、甲4は、本件優先日より後の令和2年8月13日に公開されたものであり、本件優先日前の時点では公知ではないから、甲1発明の組成物において、溶媒がヘキサフルオロベンゼン(HFB)の場合に、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))の溶解度が「組成物全質量に対して20質量%以上である」ことは、本件優先日前の時点で公知であったとはいえず、当業者は、技術常識に基づけば、その溶解度は低いと認識するものと認められる。
そうすると、当業者は、甲1発明の組成物において、ポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))を、「組成物全質量に対して20質量%以上である」濃度で、「溶媒に溶解した」組成物の形態とすることや、そのような形態で使用することは不可能であると認識するのであって、そのようにすることを動機付けられることはないと認められる。

(4)申立人の主張の検討
申立人は、特許異議申立書において、「甲第1号証に開示された事項」として、以下の旨を主張する。
「表2には、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)及び/又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)の溶液中で調製されたポリ(PFMMD)の特性が開示されており、重合条件が「モノマー/溶媒混合物38/62(w/w)、重合温度60℃、重合時間24時間、重合収率は、50〜80%の範囲であった」ことも開示されている。
ここで、モノマーの質量38に対して、重合収率が50〜80%の範囲であることから、ポリマーの質量は19〜30.4となる。溶媒の質量は62であるから、ポリマーと溶媒との組成物の質量は81〜92.4(19+62〜30.4+62)であり、組成物に対するポリマーの含有量は、23質量%〜33質量%(19/81〜30.4/92.4)である。
そして、ポリ(PFMMD)は、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)及び/又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)の溶液中で重合しており、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)及び/又はHFBに溶解している。なお、甲第1号証には、単離したポリマーが、HFBに溶解すること、ポリ(PFMMD)が周囲温度で、HFB、Fluorinert FC−75溶媒に可溶であること、HFBがポリ(PFMMD)にとって熱力学的に良好な溶媒であることも開示されている。この点、後記甲第4号証において、ポリ(PFMMD)がヘキサフルオロベンゼンに溶解していることが確認されている。」(第21頁第5〜22行)
申立人の前記主張は、ペルフルオロ−2−ヒドロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン(5)及び/又はヘキサフルオロベンゼン(HFB)の溶液中で重合、生成したポリ(ペルフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(ポリ(PFMMD))の全量が、溶媒に溶解した状態で存在することを前提としたものである。しかしながら、そのような前提が成り立たないことは、前記(3)アで検討したとおりである。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、前記<相違点1>について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に対して新規性進歩性を有するものである。

4 本件特許発明2〜18について
本件特許発明2〜18は、いずれも本件特許発明1に直接又は間接的に従属し、本件特許発明1に発明特定事項をさらに追加したものである。
したがって、本件特許発明2〜18は、前記3と同様の理由により、甲1発明に対して新規性進歩性を有するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-01-25 
出願番号 P2021-000986
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
田澤 俊樹
登録日 2022-02-08 
登録番号 7021449
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 フッ素ポリマーを含有するコーティング用組成物  
代理人 弁理士法人三枝国際特許事務所  

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