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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05K
管理番号 1394030
総通号数 14 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-05 
確定日 2023-01-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第7047493号発明「セラミックス基板の製造方法及び回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7047493号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7047493号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年3月13日(優先権主張 平成29年3月16日)に出願され、令和4年3月28日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年10月5日に特許異議申立人 青木眞理(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第7047493号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
表面に回路層が形成されるセラミックス基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板が複数個形成し得る大きさのセラミックス板の表面に沿って線状にブレークラインを形成するブレークライン形成工程と、前記ブレークラインを形成した前記セラミックス板を前記ブレークラインで分割して個々のセラミックス基板とする分割工程とを有し、
前記ブレークライン形成工程は、空気中でブレークラインを形成しており、前記セラミックス板の表面に沿って線状に加工用レーザ光を照射して前記ブレークラインを形成した後、該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して前記ブレークラインの表面を酸化することを特徴とするセラミックス基板の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはYAGレーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス板は窒化アルミニウムからなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が230J/cm2以上380J/cm2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス板は窒化珪素からなり、前記加工用レーザ及び前記酸化用レーザはCO2レーザであり、前記酸化用レーザ光は、前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が250J/cm2以上425J/cm2以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミックス基板の製造方法に加えて、前記分割工程の前のセラミックス板の一方の面に、前記ブレークラインにより区画された領域ごとに回路層を積層状態に接合する回路層接合工程を有することを特徴とする回路基板の製造方法。」


第3 申立理由の概要
1.実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号
異議申立人は、請求項1ないし5に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

2.サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号
異議申立人は、請求項1ないし5に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

3.明確性違反(特許法第36条第6項第2号
異議申立人は、請求項1ないし5に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

4.進歩性違反(特許法第29条第2項
異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
<証拠方法>
甲第1号証 特開2000−159576号公報
甲第2号証 国際公開第2009/154295号
甲第3号証 「ナノ秒パルスレーザ加工が材料表面近傍に及ぼす影響」栗田恒雄他2名、2003年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集、p399
甲第4号証 特開2009−22978号公報
甲第5号証 特開平9−168877号公報
甲第6号証 特開昭63−100087号公報


第4 申立理由についての判断
1.実施可能要件違反について
(1)異議申立人の主張
異議申立人の主張の概要は以下「ア.」「イ.」のとおりである。
ア.本件特許明細書に記載が一切ないため、発明の詳細な説明から「酸化」とはどのようなものを指すのか、どの程度酸化しているのか、酸化の程度の測定方法はどのようなものかが不明瞭である。とすれば、どのようにすれば本件請求項1に入る程度でセラミックス基板の製造方法を使用することができるのか、どの程度酸化が進んでいることで発明の効果として挙げているブレークラインヘのメッキの付着が抑制できるのかが発明の詳細な説明からは不明瞭である。(特許異議申立書7ページ3行ないし下から2行)

イ.本件発明1の「酸化用レーザ光」に関して、本件特許明細書の段落【0012】【0014】に「ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させることが可能」と記載され、ブレークラインを加工しないことが記載されている。その一方で、段落【0027】には、「1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度では、ブレークライン31が形成されていないセラミックス板30に照射されると、セラミックス板30をわずかに加工することができる程度の積算エネルギ密度である。」と記載され、「酸化用レーザ光」には、セラミックス板をわずかに加工することも含まれる。そうすると、どのようにすれば本件発明1に入る程度で、1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度の酸化用レーザ光を用いてブレークラインを加工せずにセラミックス基板の製造方法を使用することができるのか、発明の詳細な説明からは不明瞭である。(特許異議申立書7ページ下から1行ないし8ページ18行)

(2)当審の判断
ア.上記「(1)ア.」に関して、本件特許明細書には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
・「その後に積算エネルギ密度の小さい酸化用レーザ光をこの変性層に照射することにより、変性層の金属を酸化させる。このため、その後にめっき処理を施した場合でも、ブレークラインの表面にめっきが付着することはない。」(【0008】参照)
・「加工用レーザ光L2の照射によってブレークライン31の表面に形成された変性層の金属を酸化させることができる。このため、回路層12、放熱層13を接合した後に回路層12に無電解めっき処理する場合に、変性層にめっきが付着することがない。」(【0028】参照)
上記記載によれば、本件発明において「酸化」とは、発明の詳細な説明を参照すれば、無電解めっき処理する場合に、変性層にめっきが付着することがない程度に酸化させることを意味しているといえ、「酸化」の程度が当業者が実施できる程度に記載されていないとはいえない。また、「酸化」がどのようなものか、どのように測定できるかは、当業者にとって技術常識といえ、適宜実施できる事項である。したがって、本件発明1に関して発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

イ.また、上記「(1)イ.」に関して、段落【0027】には異議申立人が引用した箇所も含めて以下のように記載されている。(下線は当審で付した。)
「・・・つまり、酸化用レーザ光L1においても、ブレークライン31が形成されていない状態でのセラミックス板30の表面で1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度である。実際には、酸化用レーザ光L1を照射する際には、加工用レーザ光L2によってブレークライン31が形成された後に、そのブレークライン31にレーザ光L1を照射するので、ブレークライン31の溝の表面における積算エネルギ密度は、前述のものより小さくなる。1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度では、ブレークライン31が形成されていないセラミックス板30に照射されると、セラミックス板30をわずかに加工することができる程度の積算エネルギ密度である。」
上記記載は、1×106J/cm2以上5×107J/cm2以下の積算エネルギ密度では、ブレークライン31が形成されていないセラミックス板30に照射されると、セラミックス板30をわずかに加工することができる程度の積算エネルギ密度になる。しかしながら、実際には、酸化用レーザ光L1を照射する際には、加工用レーザ光L2によってブレークライン31が形成された後に、そのブレークライン31にレーザ光L1を照射するので、ブレークライン31の溝の表面における積算エネルギ密度は、ブレークライン31が形成されていない場合より小さくなり、セラミックス板30を加工することができない程度の積算エネルギ密度になることを意味していることは明らかである。そうしてみると、「ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させることが可能」との記載と何ら矛盾することはなく、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

ウ.したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし5について、本件発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1ないし5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

2.サポート要件違反について
(1)異議申立人の主張(特許異議申立書8ページ19行ないし10ページ8行)
異議申立人は以下「ア.」「イ.」のように主張をしている。

ア.本件発明1は、「加工用レーザ光」と「酸化用レーザ光」とを用いているところ、酸化用レーザ光の照射において「ブレークラインを加工せず」の限定がない。そのため、酸化用レーザ光の照射において、ブレークラインを加工した上でブレークラインの表面を酸化する場合を含んでいる。他方、本件特許明細書の段落【0012】【0014】によれば、「酸化用レーザ光」はブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させるものである。
このように、本件発明の詳細な説明では酸化用レーザ光の照射においてブレークラインを加工していないにも関わらず、本件発明1では酸化用レーザ光の照射においてブレークラインを加工しないという特定をしていない。出願時の技術常識を鑑みても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、このような構成についてまで拡張ないし一般化することはできない。その結果、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ.本件特許明細書の段落【0036】【0037】には、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度は、480(J/cm2)の加工用レーザ光に対して、100J/cm2以上も小さい試料しか記載されていない。酸化用レーザ光が加工用レーザ光と比較してどの程度小さいのか上記構成Cの記載からは不明である。
また、本件特許明細書の段落【0037】の表2に記載のように、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度の絶対値が230J/cm2以上のものしか実施されていないのに、構成Cでは積算エネルギ密度の値に関し限定されていないし、積算エネルギ密度の下限が設定されていない。
このように、発明の詳細な説明では酸化用レーザ光の積算エネルギ密度の絶対値を規定しているにも関わらず、構成Cでは酸化用レーザ光の積算エネルギ密度について特定をしていない。出願時の技術常識を鑑みても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、このような構成Cについてまで拡張ないし一般化することはできない。その結果、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)当審の判断
ア.上記「(1)ア.」に関して検討する。本件発明1の「酸化用レーザ光」とは、文言どおり酸化を行うためのレーザ光と解釈でき、加工を行う加工用レーザ光ではない。そしてこのように理解しても、本件発明の詳細な説明の段落【0012】【0014】に「ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させる」と記載されていることと何ら矛盾しない。したがって、「酸化用レーザ光」と記載されている請求項1ないし4、及び従属項である請求項5に関し、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化しているとはいえない。

イ.また、上記「(1)イ.」に関して、本件発明1は、本件発明の詳細な説明の段落【0006】に記載されているように「レーザ加工により、セラミックス板に変性層のないブレークラインを形成し、絶縁性に優れたセラミックス基板を精度良く製造することを目的」とし、段落【0008】に記載されているように「ブレークラインの表面に金属が析出して変性層が形成されるが、その後に積算エネルギ密度の小さい酸化用レーザ光をこの変性層に照射することにより、変性層の金属を酸化させ」、「その後にめっき処理を施した場合でも、ブレークラインの表面にめっきが付着」しないことにより前記目的を達成するものである。そうしてみると、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度の絶対値が実施例に示された特定の値となることが必ず必要であるとはいえず、変性層に照射することにより、新たに変性層を生じることなく、変性層の金属を酸化させ、その後にめっき処理を施した場合でも、ブレークラインの表面にめっきが付着しないように設定されれば足りる。したがって、酸化用レーザ光の積算エネルギ密度の絶対値が実施例に示された特定の値であることが、本件発明1に特定されていなくても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を超えて、拡張ないし一般化しているものとはいえない。

ウ. したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし5は、本件発明の詳細な説明の記載に記載されたものである。

3.明確性違反について
(1)異議申立人の主張(特許異議申立書10ページ10ないし19行)
特許異議申立書において異議申立人は以下のように主張している。
・本件発明1の構成Cに記載の「酸化」とはどのようなものを指すのか、どの程度酸化しているか、酸化の程度の測定方法が不明瞭である。したがって、本件発明1に記載の「酸化用レーザ光」とはその用途を酸化させることに特化しているにも関わらず、酸化に関する定義がなく、酸化用と限定することに実質的な意味をなさないものである。
・本件発明1の構成Cにおいて、酸化用レーザ光を用いてブレークラインを加工するものなのか、ブレークラインを加工しないのか、不明瞭である。なお、「酸化用レーザ光」は、本件特許明細書の段落【0012】、【0014】に記載のように「プレークラインを加工せず」の限定を入れるべきである。

(2)当審の判断
「酸化」がどのようなものか、その意味や測定方法は当業者にとって技術常識といえる。また、「酸化」の程度が特許請求の範囲に直接定義されていないことをもって不明瞭であるとの異議申立人の主張についても、上記「1.(2)」において検討したように、本件発明の詳細な説明を見れば、無電解めっき処理する場合に、変性層にめっきが付着することがない程度に酸化させることを意味していると理解できるから、不明瞭であるとはいえない。
「酸化用レーザ光を用いてブレークラインを加工するものなのか、ブレークラインを加工しないのか、不明瞭である」との主張についても、上記「2.(2)」において検討したように、「酸化用レーザ光」とは、文言どおり酸化を行うためのレーザ光と理解でき、加工を行う加工用レーザ光ではない。本件発明の詳細な説明の記載を参酌しても、段落【0012】【0014】に「ブレークラインを加工せず、確実にブレークラインの表面を酸化させる」と記載されていることと何ら矛盾しない。
したがって、本件発明1の記載及び本件発明1を引用する本件発明2ないし5に係る発明は明確である。

4.進歩性違反について
(1)異議申立人の主張(特許異議申立書14ページ下から6行ないし19ページ11行)

・本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明1は、甲1発明及び甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明1は、甲1発明及び甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明2は、甲1発明及び周知技術(甲第3号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明3は、甲1発明及び周知技術(甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明4は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・本件発明5は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲各号証の記載について
ア.甲第1号証の記載事項と甲1発明
(ア)甲第1号証には「窒化アルミニウム基板の製造方法」について以下の記載がある。(下線は当審で付した。)

「【請求項1】 焼結助剤を含む窒化アルミニウム基板の少なくとも1部分にレーザー加工法により加工する工程と、該基板を1000〜1800℃の温度で加熱する工程と、該レーザー加工法を施した場所を切断する工程を具備することを特徴とする窒化アルミニウム基板の製造方法。」

「【0007】この場合、所定の寸法に基板を分割する方法としては、高密度エネルギー加工法が利用される。高密度エネルギー法としては、例えばレーザー法や電子ビーム法があり、電子ビーム法より装置が簡単かつ安価なレーザー法が好ましい。
【0008】レーザー法は、基板の予定した部分に直接レーザー光を照射して複数の穴、または孔及び/又は溝(今後これらを加工部と呼称する)を形成し、そしてメッキ工程後加工部に沿って基板を切断する方法である。」

「【0012】
【課題を解決するための手段】高密度加工法によって加工された部分(複数の穴または孔及び/または溝)を有する窒化アルミニウム基板において、加工された基板を1000℃〜1800℃の温度で加熱することによりその加工部付近に再凝固層を有し、その再凝固層がアルミニウムの酸化物、窒化物または、酸窒化物からなる群及び/または該窒化アルミニウム基板の焼結助剤からなる群から選ばれて構成された化合物に本発明に係わる窒化アルミニウム基板の特徴がある。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明に係わる窒化アルミニウム基板は、高密度エネルギー加工により加工部を形成する加工工程及び切断工程によって製造されるが、特に、加工工程について説明する。
【0014】窒化アルミニウム基板を所定の寸法に切断するのに先立って、その表面に施す高密度エネルギー加工例えばレーザー加工により金属アルミニウムが形成されるのは、上記の通りである。しかし、これに続く1000℃〜1800℃の熱処理工程により金属アルミニウムが消滅して、しかもアルミニウムの酸化物、窒化物または酸窒化物からなる群及び/または窒化アルミニウムの焼結助剤の酸化物、窒化物または酸窒化物からなる群から選定した少なくとも1種類の化合物から再凝固層が形成される事実が判明した。この場合、窒化アルミニウムの焼結助剤としては例えばイットリウム及びカルシウムなどがある。」

(イ)【請求項1】によると、「窒化アルミニウム基板の少なくとも1部分にレーザー加工法により加工する工程と、該基板を1000〜1800℃の温度で加熱する工程と、該レーザー加工法を施した場所を切断する工程を具備する」「窒化アルミニウム基板の製造方法」が記載されている。
ここで、「窒化アルミニウム基板の少なくとも1部分にレーザー加工法により」行う加工とは、段落【0008】によれば、「基板」「に直接レーザー光を照射して」「溝を形成」するものである。
また、「該基板を1000〜1800℃の温度で加熱する工程」とは、段落【0012】【0014】によれば、1000〜1800℃の熱処理工程により加工部(溝)付近において金属アルミニウムが消滅しアルミニウムの酸化物から再凝固層が形成される工程といえる。

(ウ)したがって、甲第1号証の記載を総合勘案すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「窒化アルミニウム基板の少なくとも1部分にレーザー加工法により基板に直接レーザー光を照射して溝を形成する工程と、
該基板を1000〜1800℃の温度で加熱し、溝付近において金属アルミニウムが消滅しアルミニウムの酸化物から再凝固層が形成される工程と、
該レーザー加工法を施した場所を切断する工程、
を具備する窒化アルミニウム基板の製造方法。」

イ.甲第2号証の記載事項と甲2技術
(ア)甲第2号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「[0003]また、セラミックス回路基板を量産する技術として、前記セラミックス基板が多数切り出せる大きさのセラミックス集合基板の一面或いは両面に、活性金属ろう付け法や直接接合法などによりCu板等の金属板を接合し、エッチング加工等で金属回路板を形成したり、金属放熱板を形成し、次いで所定のセラミックス回路基板の大きさに分割し個々の回路基板を得る方法が知られている。前記個々のセラミックス回路基板への分割は、セラミックス集合基板の表面にレーザ加工等でスクライブ(刻み込み)を形成しておき、このスクライブに曲げ力を作用させることで行われる。
・・・・
[0009]ところで、上述したようにセラミックス集合基板の一面にはCuやAl等の金属回路板を、他面には同じくCuやAl等の金属放熱板を設け、多数個取りのセラミックス回路基板を構成することが行われる。ここで、金属回路板と金属放熱板はスクライブラインで区画された一基板領域のほぼ全面にろう付け等で接合される。ところが、YAGレーザやCO2レーザ照射によるスクライブ加工は、比較的深い断続孔に加工するため、熱影響部が広く、前記基板が窒化ケイ素の場合、表面が酸化されたり前記レーザの熱エネルギーにより生成したSiや遊離珪酸(SiO2など)を含む酸化物成分や焼結助剤成分等の溶融・分解飛散物が孔の周囲にまで飛び散って付着することが多い。・・・」

(イ)上記記載によれば、甲第2号証には次のような技術事項(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
「セラミックス回路基板の分割は、セラミックス集合基板の表面にレーザ加工等でスクライブ(刻み込み)を形成しておき、このスクライブに曲げ力を作用させることで行われるところ、YAGレーザやCO2レーザ照射によるスクライブ加工は、比較的深い断続孔に加工するため、熱影響部が広く、前記基板が窒化ケイ素の場合、表面が酸化されたり前記レーザの熱エネルギーにより生成したSiや遊離珪酸(SiO2など)を含む酸化物成分が付着する。」

ウ.甲第3号証の記載事項と甲3技術
(ア)甲第3号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「2.実験機器及び実験方法
波長1.06μmで1パルス当たりのエネルギーが1.3mJのレーザパルスを毎秒1000回照射する照射条件で加工を行った。集光には焦点距離100mmのレンズを用いた。寸法5×10×17mmに加工したセラミック試料の5×10mmの面にレーザ加工を行った。セラミックはSiC、Si3N4、AlN及びAl2O3の4種を用いた。試料がセットされている数値制御ステージを移動させることにより加工材料の10mmの辺に対して垂直にレーザを走査した。10mmの辺に対して平行に5μm移動した後同様の走査を行うことにより面全体の加工を行った。」

「3.2 レーザ加工表面の元素分布
レーザ加工後の表面に対してEPMAを行った。SiC、Si3N4、AlNについて測定を行った結果、レーザ加工前の表面と比較して酸素の濃度が高くなっていることから表面に酸化層が形成されていることが分かる。またこの部分では窒素又は炭素の濃度が低くなっており、SiC、Si3N4ではSiO2、AlNではAl2O3が形成されていることが推測される。Fig.1で示したSiCを加工する際に発生した球状の粉末は、レーザ加工で発生したSiO2層に再びレーザが照射され溶融、蒸発して再凝固すること、またはパルス照射で急激に蒸発したSiCが酸化し再凝固することによって発生したものと考えられる.一方Si3N4の加工くずの色はSiCと異なり茶褐色となっている。CeO2はガラスの発色剤として用いられており2)、薄い黄色を示すことが知られている。Si3N4には重量濃度で数%のCeが含まれているため、加工くずの色彩が変化したと考えられる。」

(イ)上記記載によれば、甲第3号証には次のような技術事項(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
「AlNのセラミック試料の5×10mmの面に、波長1.06μmで1パルス当たりのエネルギーが1.3mJのレーザパルスを毎秒1000回照射する照射条件で加工を行ったところ、表面に酸化層が形成され、Al2O3が形成されたと推測される。」

エ.甲第4号証の記載事項と甲4技術
(ア)甲第4号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0001】
本発明は、例えば各種シート材料、回路基板、半導体ウエハ、ガラス基板、セラミック基板、金属基板、半導体レーザー等の発光あるいは受光素子基板、MEMS基板、半導体パッケージ、布、皮、紙などの被加工物を、レーザー光を用いて、例えばハーフカット加工等の形状加工をするレーザー加工方法及びレーザー加工品に関する。」

「【0017】
本実施の形態に係るレーザー加工方法は、被加工物に対し、レーザー光を用いて所定の深さ位置まで精度良く形状加工を行う方法であり、例えばハーフカット加工、マーキング、溝加工、又はスクライビング加工などに適用可能である。」

「【0026】
また、レーザー加工は、レーザー光3を同一領域に対し複数回走査して行ってもよい。この場合、各走査毎に加工条件を種々変更してもよく、同1条件で行ってもよい。」

「【0044】
【表2】



(イ)上記【表2】によれば、実施例2においてレーザ光の積算エネルギ密度を1回目と比較して、2回目の方を小さくしていることが見てとれる。したがって、上記記載によれば甲第4号証には次のような技術事項(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。
「セラミック基板をレーザー光を用いて溝加工するものであって、レーザー加工はレーザー光を同一領域に対し2回走査して行い、レーザ光の積算エネルギ密度は1回目と比較して、2回目の方を小さくすること。」

オ.甲第5号証の記載事項と甲5技術
(ア)甲第5号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は電子関連機器等に用いられる配線基板への穴抜き加工、溝加工、外形カット等をレーザビームの走査により行う配線基板の加工方法および加工装置に関するものである。」

「【0057】レーザビーム4の照射においては、炭酸ガスレーザによるレーザビーム4を、ピーク出力5.6kW、パルス幅50μs、パルス周波数300Hzで発振させ、また、集光レンズ3保護用のアシストガス6として乾燥エアーを10l/分の流量で内側ノズル12内に供給し、外側ノズル11内を吸引ポンプにより負圧とした。」

(イ)上記記載によれば甲第5号証には次のような技術事項(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。
「電子関連機器等に用いられる配線基板へ溝加工をレーザビームの走査により行う配線基板の加工方法において、集光レンズ保護用のアシストガスとして乾燥エアーを10l/分の流量で内側ノズル内に供給すること。」

カ.甲第6号証の記載事項と甲6技術
(ア)甲第6号証には以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「(産業上の利用分野)
本発明は、断熱特性の優れたセラミック構造体およびその製造方法に関する。」(1ページ左下欄下から5ないし3行)

「このことは、酸化雰囲気中において試料1つまり窒化珪素(Si3N4)系セラミック母材の表面にレーザビームを照射した際、照射部のSi3N4粒子の一部が昇華してフリーの珪素(Si)粒子ができ、このSi粒子が容易に酸化珪素(SiO2)となる一方、Si3N4粒子粒界部にある上記酸化物系焼結助剤である酸化マグネシウム(MgO)等が上記レーザビームの照射により活性化されて若干ながら溶融状態となっており、・・・」(3ページ右下欄9ないし17行)

(イ)上記記載によれば甲第6号証には次のような技術事項(以下、「甲6技術」という。)が記載されている。
「断熱特性の優れたセラミック構造体およびその製造方法に関し、酸化雰囲気中において窒化珪素(Si3N4)系セラミック母材の表面にレーザビームを照射した際、照射部のSi3N4粒子の一部が昇華してフリーの珪素(Si)粒子ができ、このSi粒子が容易に酸化珪素(SiO2)となること。」

(3)当審の判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
・甲1発明の「窒化アルミニウム」は「セラミックス」といえるから、甲1発明の「窒化アルミニウム基板」は本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。また、甲第1号証の段落【0009】の「電子部品として必要な電気伝導層としてメッキ層で基板を被覆する」との記載によれば、基板上にメッキ層を被着させ電子部品の回路とすることがが想定されているといえるから、甲1発明の「窒化アルミニウム基板の製造方法」は本件発明1の「表面に回路層が形成されるセラミックス基板の製造方法」に相当する。

・甲1発明の「溝」は窒化アルミニウム基板を切断する部分であり、切断することにより複数の窒化アルミニウム基板が形成されるから、本件発明1の「前記セラミックス基板が複数個形成し得る大きさのセラミックス板の表面に沿っ」た「線状」の「ブレークライン」に相当する。

・甲1発明の「該レーザー加工法を施した場所」は「溝」であり、当該「溝」でを切断することにより、個々の窒化アルミニウム基板とするものといえるから、甲1発明の「該レーザー加工法を施した場所を切断する工程」は、本件発明1の「前記ブレークラインを形成した前記セラミックス板を前記ブレークラインで分割して個々のセラミックス基板とする分割工程」に相当する。

・本件発明1は「空気中でブレークラインを形成して」しているのに対して、甲1発明は当該事項について明らかではない点で相違する。

・甲1発明の「窒化アルミニウム基板の少なくとも1部分にレーザー加工法により基板に直接レーザー光を照射して溝を形成する」ことが、本件発明1の「前記セラミックス板の表面に沿って線状に加工用レーザ光を照射して前記ブレークラインを形成」することに相当する。

・甲1発明では「溝を形成する工程」に続いて、「該基板を1000〜1800℃の温度で加熱し、溝付近において金属アルミニウムが消滅しアルミニウムの酸化物から再凝固層が形成される工程」を有するのに対して、本件発明1では「前記ブレークラインを形成した後」、「該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して前記ブレークラインの表面を酸化」している。したがって、甲1発明と本件発明1とは「表面を酸化」している点では共通するが、本件発明1では「該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して」行うのに対して、甲1発明は「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」することにより行っている点で相違している。

そうしてみると、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「表面に回路層が形成されるセラミックス基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板が複数個形成し得る大きさのセラミックス板の表面に沿って線状にブレークラインを形成するブレークライン形成工程と、前記ブレークラインを形成した前記セラミックス板を前記ブレークラインで分割して個々のセラミックス基板とする分割工程とを有し、
前記ブレークライン形成工程は、前記セラミックス板の表面に沿って線状に加工用レーザ光を照射して前記ブレークラインを形成した後、表面を酸化することを特徴とするセラミックス基板の製造方法。」

(相違点1)本件発明1は「空気中でブレークラインを形成して」いるのに対して、引用発明1では、当該事項が明らかではない点。

(相違点2)本件発明1は「該ブレークラインの表面に前記加工用レーザ光よりも前記セラミックス板上の積算エネルギ密度が小さい酸化用レーザ光を照射して前記ブレークラインの表面を酸化」しているのに対して、甲1発明は「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」することにより酸化している点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点2について先に検討する。
上記「4.(2)イ.」で検討したように、甲2技術は本件優先日前に公知である。そこで、当該甲2技術を甲1発明に適用することを検討すると、甲1発明において酸化のために「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」する工程は、「直接レーザー光を照射して溝を形成する工程」の後にアルミニウムの酸化のためだけに行われる工程であり、溝を形成する工程ではない。これに対して甲2技術における表面の酸化は、レーザーでスクライブ加工するときに付随的に起きる現象であり、甲1発明の「直接レーザー光を照射して溝を形成する工程」に対応する事項である。そうしてみると、甲2技術を甲1発明の「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」する構成に替えて適用することはできない。

次に甲1発明に甲3技術(上記「4.(2)ウ.」参照)を適用することについて検討する。甲1発明の「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」する工程はレーザ加工により生じた金属アルミニウムを酸化するために行われる工程であるのに対して、甲3技術はAlNのセラミック試料に対してレーザにより表面に酸化層を形成する技術であり、対象が異なっているから適用は困難である。
また、仮に適用できたとしても、甲3技術はセラミック試料の5×10mmの全面に酸化層を形成する技術であるから、ブレークラインに酸化用レーザ光を照射する本件発明1の構成とはならない。
したがって、相違点2は甲1発明に甲3技術を適用することによって容易に想到できたものとはいえない。

また、甲第4号証、甲第5号証にはレーザ光により酸化を行う技術は記載されていない。

最後に、甲1発明に甲6技術(上記「4.(2)カ.」参照)を適用することについて検討する。甲1発明の「基板を1000〜1800℃の温度で加熱」する工程はレーザ加工により生じた金属アルミニウムを酸化するために行われる工程であるのに対して、甲6技術は窒化珪素(Si3N4)系セラミック母材の表面にレーザビームを照射した際に酸化珪素(SiO2)が形成される技術であり、対象が異なっているから適用は困難である。
また、仮に適用できたとしても、甲6技術はセラミック母材の表面の全面に酸化層を形成する技術であるから、ブレークラインに酸化用レーザ光を照射する本件発明1の構成とはならない。

以上より、相違点2は甲1発明に甲2技術ないし甲6技術を適用することによって容易に想到できたものとはいえないから、本件発明1は相違点1について検討するまでもなく、甲1発明、甲2技術ないし甲6技術から当業者が容易に想到できたものということはできない。

イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明1と同じ理由により当業者が容易に発明できたものということはできない。


第5 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-01-05 
出願番号 P2018-045194
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H05K)
P 1 651・ 537- Y (H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 齋藤 正貴
山本 章裕
登録日 2022-03-28 
登録番号 7047493
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 セラミックス基板の製造方法及び回路基板の製造方法  
代理人 青山 正和  

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