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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1394308
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-15 
確定日 2023-02-08 
事件の表示 特願2018−196587「抗微生物性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月17日出願公開、特開2019−6832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年10月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年12月29日 英国(GB)、2011年12月29日 英国(GB))を国際出願日とする特願2014−549531号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成28年11月14日に新たな特許出願とした特願2016−221376号の一部を、同規定により平成30年10月18日に新たな特許出願としたものであって、令和元年11月8日付けで拒絶理由が通知され、令和2年2月18日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、同年6月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年12月3日、令和3年3月1日及び同年4月28日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
令和2年10月15日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を削除して補正前の請求項2を新たな請求項1とし、それに伴い、補正前の請求項3〜26をそれぞれ請求項2〜25に繰り上げるとともに引用する請求項の項番を整理する補正からなるものである(補正前の請求項2と補正後の請求項1は同一である。)。
したがって、本件補正は、請求項の削除を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第3〜5項の規定に適合する。
よって、本願の請求項1〜25に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜25に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
(i)式(A):
【化1】

[式中、R1およびR2はそれぞれ独立して、直鎖状非置換の中断されていないC8〜12アルキル基であり、X−は塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、スルホナート、サッカリナート、カルボナート、またはバイカルボナートである]
の少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物、および
式(B)の化合物:
【化2】

[式中、mは8から18であり、X−は塩化物、臭化物、フッ化物、ヨウ化物、スルホナート、サッカリナート、カルボナート、またはバイカルボナートである]
または塩化ベンゼトニウムである少なくとも1種のベンザルコニウム化合物
を含む第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分、
(ii)親水性重合体、
(iii)極性溶媒、
(iv)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤、および
(v)キレート剤を含み、
前記重合体が、
(1)ジアリルジメチルアンモニウムハライドである単量体;
(2)アクリル酸および/もしくはメチルアクリル酸から選択される酸性単量体;ならびに/または
(3)メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニルイミダゾール、アクリルアミド、もしくはメタクリルアミドまたはそれらの混合物から選択される中性単量体
を含み、
4以上のpHを有する、抗微生物性組成物。」

第3 拒絶査定の理由の概要
令和2年6月5日付け拒絶査定の拒絶の理由は、「この出願については、令和元年11月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由2は次のとおりである。

「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・・・
●理由2について
(1)
・請求項1−15,18−25
・引用文献1
・備考
・・・
(2)
・請求項16,17
・引用文献1,2
・備考
・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2003−096493号公報
2.特表2004−509138号公報」

第4 当審の判断
当審は、上記拒絶査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物及び周知の技術的事項を示す文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用され本願優先日前に頒布された「特開2003−96493号公報」(原査定の引用文献1。以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審合議体が追加。以下同様。

(1a)「【請求項1】 (a)重量平均分子量が1,000〜6,000,000であって、4級アンモニウム基及び3級アミノ基より選ばれた少なくとも1個の基を有するモノマー単位をその比率が全モノマー単位に対して10〜100モル%含む重合体、(b)分子量が1,000未満であって、4級アンモニウム基を有する殺菌性化合物、及び(c)界面活性剤を含有し、界面活性剤として(cA)陰イオン界面活性剤を含有する場合、(cA)/(b)が質量比率で、1.0を越えない硬質表面用殺菌防汚洗浄剤。
【請求項2】 (b)が下記式(1)〜(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の殺菌性化合物である請求項1記載の硬質表面用殺菌防汚洗浄剤。
【化1】

〔式中、R1及びR6は、それぞれ独立して炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基であり、R3及びR4は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。Xは芳香環又は−COO−、−CONH−、−OCO−、−NHCO−から選ばれるエステル基あるいはアミド基であり、R2は、Xがエステル基又はアミド基である場合には水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基であり、Xが芳香環の場合には、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基又は−(O−R11)k−である。ここでR11はエチレン基又はプロピレン基であり、kは平均1〜10の数である。R5は炭素数1〜3のアルキレン基である。R7〜R10はこれらの内1つ以上が炭素数8〜18のアルキル基であり、残りが炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。また、mは0又は1の数である。さらにY−は、陰イオンである。〕」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硬質表面の殺菌、及び防汚性、すなわち汚れの付着の防止、及び付着した汚れを容易に除去することを可能にする硬質表面用の殺菌防汚洗浄剤に関し、住居内全般、特に台所や浴室、トイレ、洗面台などの、壁や床、器具、機器などに使用した際に、殺菌並びに汚れの付着防止及び易洗浄を可能にする硬質表面用殺菌防汚洗浄剤に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、家庭で使用でき、トイレ、浴室、台所まわりなどの硬質表面の洗浄において、優れた洗浄力のみならず殺菌性と防汚性の両方を満足できる水準で付与できる剤を提供することにある。」

(1c)「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の(a)成分は、4級アンモニウム基及び/又は3級アミノ基を有するモノマー単位(以下、モノマー単位Aとする)を10〜100モル%含有する重合体である。
・・・
【0012】4級アンモニウム基を有するモノマーAの好ましい例として、即ち、モノマー単位Aが由来する例として、下記式(4)の化合物を挙げることができる。
【0013】
【化4】

・・・
【0016】これらの中でもアクリロイル(又はメタクリロイル)アミノアルキル(炭素数1〜5)−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、アクリロイル(又はメタクリロイル)オキシアルキル(炭素数1〜5)−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、N−(ω−アルケニル(炭素数3〜10))−N,N,N−トリアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩、N,N−ジ(ω−アルケニル(炭素数3〜10))−N,N−ジアルキル(炭素数1〜3)4級アンモニウム塩が好ましく、特にジアリルジメチルアンモニウム塩が良好である。
・・・
【0021】本発明の(a)成分は、モノマー単位A(複数種であってもよい)からなる重合体のみならず、モノマー単位A(複数種であってもよい)と他のモノマー単位(以下、モノマー単位Bとする)とから構成された重合体であってもよい。・・・この場合、モノマー単位Aとモノマー単位B(複数種であってもよい)との配列様式は、ブロック、交互、周期、統計(ランダムを含む)、グラフト型の何れであってもよい。
【0022】モノマー単位Aとモノマー単位Bとから構成される重合体は、例えば、それぞれの前駆体モノマーを共重合することによって得ることができる。この場合、モノマー単位Bとしては、下記のモノマー群(i)〜(v)から選ばれるモノマー由来のモノマー単位が好ましく、(i)〜(iii)又は(v)記載のモノマー由来のモノマー単位がより好ましく、特に防汚効果の点から(i)、(ii)又は(v)のモノマー由来のモノマー単位が最も好ましい。
【0023】(i)アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸、スチレンスルホン酸塩、スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはその塩、リン酸モノ−ω−メタクリロイルオキシアルキル(炭素数1〜12)から選ばれる陰イオン基含有化合物
(ii)アクリル(又はメタクリル)アミド、N,N−ジメチルアクリル(又はメタクリル)アミド、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドンから選ばれるアミド基含有化合物」

(1d)「【0032】本発明の(b)成分は、分子量が1000未満、好ましくは500以下の少なくとも1つの4級アンモニウム基を有する殺菌性化合物である。・・・
・・・
【0038】より好ましい(b)成分は上記一般式(1)又は(3)の化合物であり、最も好ましくは下記の一般式の化合物である。
【0039】
【化7】



(1e)「【0042】本発明の硬質表面用殺菌防汚洗浄剤は、更に(c)として(b)成分以外の界面活性剤〔以下、(c)成分という〕を含有する。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0043】非イオン界面活性剤としては、下記式(c1)〜式(c3)の化合物が挙げられる。
Rc1−O(EO)nH (c1)
〔式中、Rc1は平均炭素数10〜20、好ましくは10〜18の一級の直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基又は二級のアルキル基である。EOはエチレンオキサイドであり、nは平均付加モル数として5〜20である。〕
Rc2−O(EO)p/(PO)qH (c2)
・・・
Rc3−(ORc4)xGy (c3)
〔式中、Rc3は直鎖又は分岐鎖の炭素数8〜18のアルキル基もしくはアルケニル基又は炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルフェニル基、Rc4は炭素数2〜4のアルキレン基、Gは炭素数5又は6の還元糖に由来する残基好ましくはグルコース残基であり、xは平均値0〜6の数、yは平均値1〜10の数を示す。〕。
【0044】両性界面活性剤としては下記一般式(c4)で表されるアミンオキシド及び一般式(c5)で表されるベタインを挙げることができる。
【0045】
【化8】

・・・
【0050】本発明では特に前記式(c3)、(c4)及び(c5)から選ばれる界面活性剤の一種以上を配合することが、防汚効果を損なうことなく優れた洗浄性を得る上で好ましい。・・・」

(1f)「【0053】本発明では、任意成分の成分として、有機汚れに対する洗浄力向上の目的で水溶性溶剤[以下(d)成分とする]を配合することが好ましく、[1]炭素数1〜5の1価アルコール、[2]炭素数4〜12の多価アルコール、[3]下記の一般式(d1)で表される化合物、[4]下記の一般式(d2)で表される化合物及び[5]下記の一般式(d3)で表される化合物から選ばれる一種以上が好ましい。」

(1g)「【0062】本発明では無機汚れを溶解し、洗浄力及び殺菌効果を向上させる目的で、さらに(e)成分として、キレート剤を配合することが好ましい。キレート剤としては(1)トリポリリン酸、・・・、(2)エチレンジアミン四酢酸、・・・、(3)アミノトリメチレンホスホン酸、・・・、(4)アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるモノマーの単一重合体又は共重合体、・・・、(5)クエン酸、・・・、(6)・・・、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミンジコハク酸又はこれらの塩が好ましく、特に(2)、(3)、(5)の化合物が好ましい。」

(1h)「【0064】本発明は、pHを調整する場合にpH調整剤を使用してもよい。・・・
【0065】本発明の硬表面用殺菌防汚洗浄剤は、上記のpH調整剤により、20℃におけるpHが2〜12になるように調整することが好ましく、特にpH3〜11になるようにすることが防汚効果の点から好ましい。
【0066】本発明では使用時の付着性を持たせ使いやすさ向上の目的で、水溶性高分子の1種以上を添加することが出来る。・・・
・・・
【0069】本発明の殺菌防汚洗浄剤の使用時の形態は、特に問わないが、(a)成分、(b)成分及び任意成分を含有し残部が水の液体組成物であることが好ましく、オートクリーナーとして用いる場合は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステル、脂肪酸、又は塩等の凝固剤を用いて固体状もしくはゲル状の組成物としてもよい。水の含有量は液体組成物又はゲル状組成物の場合は好ましくは10〜98質量%、より好ましくは20〜95質量%である。固体状組成物の場合は好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。」

(1i)「【0070】
【実施例】実施例1
表1、2に示す組成の殺菌防汚洗浄剤を調製し、その防汚性及び殺菌性について下記の方法で評価した。結果を表1、2に示す。
【0071】<防汚性の評価>
(1)易洗浄性
・・・
【0072】(2)汚れ付着防止性
市販の便器(C730B、東陶機器(株)製)を用い、汚れの付きにくさの評価を行った。即ち殺菌防汚洗浄剤で便器を洗浄し、1週間放置した際の汚れの付きにくさを、以下の基準を基に肉眼で測定した。
(評価基準)
◎:汚れが付いていない。
○:汚れが僅かに付いている。
△:汚れが少し付いている。
×:汚れがかなり付いている。
【0073】<殺菌性評価>
・・・
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】表1、2中の成分は次の通りである。
・重合体A:マーコート100[塩化ジアリルジメチルアンモニウムのホモポリマー(Calgon社製、重量平均分子量40万、ゲルパーミエーションクロマトグラムで測定、ポリエチレングリコールを標準として使用)]
・重合体B:マーコート550[塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリルアミド(モル比30/70)共重合体(Calgon社製、重量平均分子量500万、ゲルパーミエーションクロマトグラムにより測定、ポリエチレングリコールを標準として使用)]
・重合体C:マーコート280、Calgon社製、塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸の共重合体
・重合体D:アクリル酸3.59g、水280g、35%塩酸水溶液32mlの溶液にN,N−ジメチルアミノプロピルメタクリル酸アミド76.41gを冷却下添加し中和した溶液を70℃まで加熱し、窒素雰囲気下で重合開始剤(和光純薬製V−50)を滴下した。熟成後冷却し、有効分18%の重合体を得た。重量平均分子量40万、モノマー(a)/〔モノマー(a)+モノマー(b)〕=0.9(モル比)
・殺菌性化合物A:サニゾールC[ココアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(花王(株)製)]
・殺菌性化合物B:コータミンD10P[ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(花王(株)製)]
・殺菌性化合物C:塩化ベンゼトニウム[和光試薬、下記構造のカチオン化合物]
【0079】
【化11】

【0080】・殺菌性化合物D:塩化オクチルジメチルベンザルコニウム
・AO:アンヒトール20N[ラウリルジメチルアミンオキシド(花王(株)製)]
・AG:アルキルグルコシド(直鎖アルキル基の炭素数が12と14の混合物、糖平均縮合度1.2[縮合度1と2の混合物])
・ベタイン:N−ラウロイルアミノプロピル−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン
・ES:EO平均付加モル数が2.2モルのポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸
・EDTA−4Na:エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩
・pH調整剤:塩酸及び/又は水酸化ナトリウム(何れも水溶液で用いる)。」

(2)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特開平5−311196号公報」(以下、「文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】 炭素数8〜10のアルキル基を少なくとも2つ有する第四級アンモニウム塩と、非イオン系界面活性剤を含むことを特徴とする殺菌洗浄剤。
【請求項2】 炭素数8〜10のアルキル基を少なくとも2つ有する第四級アンモニウム塩と、非イオン系界面活性剤と、グリコール系溶剤とを含むことを特徴とする殺菌洗浄剤。」

(2b)「【0005】
【発明が解決しようとする問題点】しかし、次亜塩素酸ソーダはその水溶液が酸化性が強いため、金属製部品と接触すると、これを腐食させたり、或は刺激臭があり、しかもそのミストを吸い込んだ場合、気管障害を起こすなどの危険性があり、また酸と混合した場合有毒な塩素ガスを発生するなど取り扱いに細心の注意を必要とする。
【0006】また、次亜塩素酸ソーダを従来洗浄剤として使用されているカチオン、アニオン乃至非イオン系界面活性剤と混合すると、有効塩素が分解してしまうところから洗浄剤と混合して使用することができず、このため洗浄とカビ除去を別々に行なわなければならない等の難点がある。」

(2c)「【0011】ここで、炭素数8〜10のアルキル基を少なくとも2つ有する第四級アンモニウム塩は殺菌成分として加えられ、これら第四級アンモニウム塩としては、例えばジデシルジメチルアンモニウムクロライド、デシルオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0012】また、非イオン系界面活性剤は洗浄主成分として加えられ、これら非イオン系界面活性剤としては、例えばやし脂肪酸等の脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルラウリル等のアルキルジメチルアミンオキサイド、アルキル基の炭素数10〜14、エチレンオキサイド付加モル数6〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数8〜12、エチレンオキサイド付加モル数5〜15のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、その他プルロニックタイプの非イオン系界面活性剤等を挙げることができる。
【0013】更に、グリコール系溶剤は湯垢や石鹸かすを落す洗浄成分乃至泡切れの助剤として加えられ、これらグリコール系溶剤としては、例えばエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル等を挙げることができる。
【0014】その他、本願第1、第2発明の殺菌洗浄剤中には殺菌成分の可溶剤としてエチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、殺菌助剤として塩化ベンザルコニウム等のアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、同様に殺菌助剤としてポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩等を加えるようにしてもよい。
【0015】この発明によれば殺菌成分として加える上記第四級アンモニウム塩は非常に低濃度でカビに対して殺菌効果を有し、しかも非イオン系界面活性剤と共存しても非イオン系界面活性剤の洗浄効果を損なうことがない。」

(2d)「【0035】実施例2
1.ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
デシルオクチルアンモニウムクロライド
塩化ベンザルコニウム
エチルアルコールの混合物製剤 0.4 重量%
2.エチルジグリコール 5.0 重量%
3.ラウリルジメチルアミンオキサイド 1.2 重量%
4.1:1型やし脂肪酸ジエタノールアミド 3.0 重量%
5.純水 残
合計 100.0 重量%
【0036】試験内容
1)試験方法(審決注:以下原文では丸数字を<>で示す。)
<5>洋式便器の便蓋、<6>洋式便器の便座、<7>洗面台周辺について、実施例1と同様に殺菌洗浄前にアガースタンプ法によりそれぞれ各菌種について5回付着菌を採取し、採取された付着菌について所定の条件下でそれぞれ培養した後、上記の基準で評価を行なった。
【0037】上記<5>〜<7>の場所について実施例2の殺菌洗浄剤をスポンジに取り、こすり洗いした後、水拭きし、その後乾燥させてから上記同様に付着菌を採取し、所定の条件下でそれぞれ培養した後、上記の評価を行なった。付着菌測定結果以上それぞれ5回で採取した付着菌の平均した評価は以下の通りである。」

(3)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特開2008−266375号公報」(以下、「文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
(A)下記の化学式(1)で表されるアミンオキシドおよび/または下記の化学式(2)で表されるカルボベタイン型両性界面活性剤
(化1)
R1−NR2R3→O
(式中、R1は、炭素数が8〜15で直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、R2及びR3は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
(化2)
R4−CONH−R5−N+R6R7−CH2COO−
(式中、R4は、炭素数が8〜15で直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、R5は、炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R6及びR7は、炭素数1〜3のアルキル基を示す。)、
(B)アルキルグルコシド、脂肪酸アルカノールアミドおよび脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の非イオン界面活性剤、
(C)カチオン界面活性剤、
(D)有機酸およびその塩、
(E)水を含有し、且つ原液のpH(JIS Z−8802:1984「pH測定方法」)が25℃で6.0〜8.0であることを特徴とする硬質表面用洗浄剤組成物。
【請求項2】
(B)非イオン界面活性剤が下記の化学式(3)で表されるアルキルグルコシドであることを特徴とする請求項1記載の硬質表面用洗浄剤組成物。
(化3)
R8(OR9)xGy
(式中、R8は、炭素数が7〜12で直鎖または分岐鎖のアルキル又はアルケニル基を示し、炭素数が7〜12の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニル基またはアルキル部の炭素数が7〜12で直鎖または分岐鎖のアルキルフェニル基を示し、R9は、炭素数1〜4のアルキレン基を示し、xは、0〜2であり、Gは炭素数5〜6の還元糖に由来する残基であり、yは、1〜10を示す。)
【請求項3】
(C)カチオン界面活性剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびジデシルジメチルアンモニウムクロライドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1および2記載の硬質表面用洗浄剤組成物。」

(3b)「【0001】
本発明は洗浄力、除菌力に優れ、被洗浄物の材質に損傷を与えにくいとともに、環境負荷が低減された硬質表面用洗浄剤組成物に関する。」

(3c)「【0032】
本発明に用いられる(C)成分のカチオン界面活性剤は、除菌性能を向上させる目的で配合され、例えば、第4級アンモニウム塩、およびビグアナイド系カチオン界面活性剤が挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩である塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウムが容易に入手でき且つ他成分との相溶性の点から好ましい。
これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。」

(3d)「【実施例】
【0039】
以下本発明の硬質表面用洗浄剤組成物について、実施例と比較例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
表1〜6に示す、実施例1〜26及び比較例1〜6の硬質表面用洗浄剤組成物(以下、供試組成物という)を調整し、各種試験に用いた。なお、表中の各成分の有効成分量(質量%)については後記する。また、成分(A)〜(E)及び任意成分の和は、100質量%となっている。
そして、得られた各種供試組成物について、pH、洗浄力、材質に対する影響、貯蔵安定性及び除菌性能の各試験項目について、以下の試験方法と判定基準により評価し、その結果を後記の表1〜6に併せて示した。
・・・
【0042】
2.洗浄力試験1:トイレモデル汚れ
[トイレモデル汚れの調製]
ラノリン0.5gをクロロホルム5mlに溶解させ、さらにエタノール495mlを加えて希釈し、エタノール溶液を調製した。塩化第2鉄10gを水500mlに溶解させ、上記エタノール溶液に加えたものを、あらかじめサンドペーパー(Nippon Coated Abrasive社製:No.120)を縦横10往復、円を書くように20周させて表面を粗した磁器タイル(INAX社製:SPKC−100/L00:白色:10cm×10cm)に、1mlの量だけ塗布した。さらに、これを145℃で1時間焼成した後、室温にて放冷してテストピースとした。
[試験方法]
上記テストピースに、各組成物の原液5ミリリットルを滴下し、ウォッシャビリティーテスター(テスター産業社製)を用いて、スポンジ(4cm×8cm)を15往復させて洗浄力試験を行った。・・・
・・・
【0049】
なお、表1〜表6において用いた各種成分とその有効成分量(%)の詳細は、下記のとおりであり、表中の数値は、有効純分100%に換算して示したものである。
・・・
【0052】
・カチオン界面活性剤1:
C12〜14ジメチルベンジルアンモニウムクロライド;商品名:カチオンG50(三洋化成工業社製、有効成分量50質量%)
・カチオン界面活性剤2:
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド;商品名:Bardac−2280(ロンザジャパン社製、有効成分量80質量%)
・・・
【0055】
【表2】

・・・
【0057】
【表4】



(4)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特表2010−533691号公報」(以下、「文献4」という。)には、次の事項が記載されている。

(4a)「【請求項1】
(i)界面活性特性を備えた抗菌剤と、(ii)式(H3C)[SiO(CH3)2]nSi(CH3)3および(H3C)[SiO(CH3)H]nSi(CH3)3を有するシロキサンならびにこれらの混合物(式中、nは1〜24である。)から選択されたシロキサンと、(iii)極性溶媒とを含み、(i)と(ii)の比が約100:1〜約5:1である、抗菌組成物。
・・・
【請求項7】
界面活性特性を備えた抗菌剤が第四級アンモニウム化合物である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
第四級アンモニウム化合物が式R1R2R3R4N+X−を有する、請求項7に記載の組成物・・・
・・・
【請求項20】
第四級アンモニウム化合物が、ベンジルジメチル−n−テトラデシル−アンモニウムクロリド、ベンジルジメチル−n−ドデシル−アンモニウムクロリド、n−ドデシル−n−テトラデシルジメチル−アンモニウムクロリド、およびベンジル−C12〜C16−アルキル−ジメチル−アンモニウムクロリド、ベンジル−ココアルキル−ジメチル−アンモニウムクロリド、ジ−n−デシルメチルアンモニウムクロリド、Maquat A、およびこれらの混合物から選択される、請求項8に記載の組成物。」

(4b)「【0001】
本発明は、抗菌組成物と、この抗菌組成物を含む配合物とに関する。
・・・
【0007】
例えば多くの抗菌剤は、微生物に対して有毒であり、したがってこの抗菌剤が接触した微生物を破壊する。このタイプの抗菌剤の例には、次亜塩素酸塩(漂白剤)、フェノールおよびその化合物、アルセネン、および銅、スズ、およびヒ素の塩が含まれる。しかしそのような薬剤は、典型的には、ヒトおよび動物に対して、ならびに微生物に対して、非常に有毒である。その結果、これらの抗菌剤は取扱いが危険であり、したがって、これらの抗菌剤を安全に取り扱うためには、専門家による取扱い、処理、および装置が必要である。したがって、このタイプの抗菌剤を含む組成物の製造および処分には、問題がある。特に、指定された目的で確実に使用することが困難な消費者材料での、このタイプの抗菌剤を含有する組成物の使用に関連した問題も、存在する可能性がある。
・・・
【0009】
抗菌剤が環境に進入すると、この抗菌剤は、影響を及ぼすことを意図しない生命体の健康に、影響を及ぼす可能性がある。さらに抗菌剤は、しばしば非常に安定であり、長期にわたって環境問題を引き起こす可能性がある。
【0010】
一般に使用されるその他の知られている抗菌剤には、銀や銅、またはスズなどの重金属の有機および無機塩が含まれる。これらの塩は、有毒なリンセートを生成し、環境に問題を引き起こす可能性がある。例えば、そのような塩のリンセートは、水生生物に対して有毒である。この場合も、毒性化合物が環境に進入すると、容易には破壊されず、永続的な問題を引き起こす可能性がある。
【0011】
現在使用されているその他の抗菌剤は、抗生物質タイプの化合物を含む。抗生物質は、例えば、有害な微生物の増殖が破壊または阻害されるよう選択的に希釈した溶液によって、微生物の生化学的性質を破壊する。抗生物質は効果的であるが、この抗生物質の使用対象となる種の耐性菌の発生を、選択的に可能にすると現在考えられている。次いで耐性菌は、知られている抗生物質の使用によって、妨げられずに再生可能である。このように、より広い環境で抗生物質材料を広くかつ非制御下で使用することによって、その医療状況での制御された使用とは対照的に、著しく長期にわたる危険性が生ずる可能性があるという懸念が増大しつつある。
【0012】
微生物管理の別の方法は、次亜塩素酸塩または過酸化水素などの過酸化物をベースにすることができる家庭用漂白剤など、材料での酸化剤の使用である。これらの材料は、滅菌および洗浄のため湿潤環境で有効である。しかし材料は、長期にわたる受動的な抗菌制御および衛生化をもたらさない。「受動制御」とは、乾燥環境にあっても、基質が持ついくつかの性質によって基質が独力で微生物感染に対抗することを意味し、したがって、制御されている微生物で有効な清浄化レジームを必要としない。
【0013】
別の方法では、微生物細胞の細胞溶解(破裂)剤として働く、第四級アンモニウム化合物などの材料が使用される。この方法では、第四級アンモニウム化合物での消毒に対して高度の「生存性」を有する回復力あるコロニーが発生する可能性があるので、すべての微生物株に対して有効とは限らないという欠点があり、使用中に交換する必要がある。さらにこれらの材料は、水溶性が高く、したがって容易に洗い落とされ、または材料に接触している湿潤材料を容易に汚染する可能性がある。」

(4c)「【0032】
・・・抗菌特性を有する第四級アンモニウム化合物の例は、当業者に周知である。
・・・
【0039】
・・・このタイプの化合物の例には、ジデシルジメチルアンモニウムクロリドおよびジオクチルジメチルアンモニウムクロリドが含まれる。
【0040】
・・・このタイプの化合物の例には、下記の構造式を有する塩化ベンザルコニウムが含まれ、
・・・
【0044】
例えば、1種または複数のアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、ジデシルジメチルアンモニウムクロリドなどの式(CH3)2(A)2N+X−の1種または複数の化合物との混合物を使用してもよい。
【0045】
典型的には、第四級アンモニウム化合物の混合物を使用する。」

(4d)「【0053】
特に好ましい第四級アンモニウム化合物には、ベンジルジメチル−n−テトラデシル−アンモニウムクロリド、ベンジルジメチル−n−ドデシル−アンモニウムクロリド、n−ドデシル−n−テトラデシルジメチル−アンモニウムクロリド、およびベンジル−C12〜C16−アルキル−ジメチル−アンモニウムクロリド、ベンジル−ココアルキル−ジメチル−アンモニウムクロリド、ジ−n−デシルメチルアンモニウムクロリドが含まれる。
【0054】
適切な混合物の例は、Mason Quats社のMaquat(登録商標)A(オクチルデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、およびアルキル(C14 50%、C12 40%、C16 10%)ジメチルベンジルアンモニウムクロリドを活性成分として(例えば、それぞれ3.0%、1.5%、1.5%、および4.0%の量で、90.0%の不活性成分と共に)含む組成物)である。
【0055】
別の適切な混合物はMaquat(登録商標)615 5RTUであり、これは、オクチルデシルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、およびアルキル(C14 50%、C12 40%、C16 10%)ジメチルベンジルアンモニウムクロリドを(例えば、それぞれ0.01050%、0.00525%、0.00525%、および0.01400%の量で、99.96500%の不活性成分と共に)含む混合物である。
【0056】
別の適切な混合物は、オクチルデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、およびアルキル(C14 50%、C12 40%、C16 10%)ジメチルベンジルアンモニウムクロリド(それぞれ0.0399%、0.01995%、0.01995%、0.05320%であり、99.867%の不活性成分と共に含む)である。」

(5)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特開平3−157316号公報」(以下、「文献5」という。)には、次の事項が記載されている。

(5a)「つぎに、第四級窒素含有水溶性ポリマーとしては・・・ジアリル第四級アンモニウム塩の重合物、・・・などを挙げることができ、・・・
・・・
これら第四級窒素含有ポリマーの具体例としては、・・・マーコート100、280、550(メルク社製)、・・・に代表されるジメチルジアリルアンモニウムクロライド誘導体、・・・などが挙げられる。」(3ページ左上欄9行〜左下欄18行)

(6)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「国際公開第2008/018186号」(以下、「文献6」という。)には、次の事項が記載されている。

(6a)「[0012] 本発明の(B)成分は、・・・。・・・特にカチオン性を有する水溶性高分子化合物としては、アミノ基、アミン基、第4級アンモニウム基から選ばれる1種以上のカチオン性基を有する水溶性高分子化合物が好ましい。
・・・
[0017] (B)成分の水溶性高分子は、・・・
(B)成分の例としては、マーコート(MERQUAT)100(ナルコ(NALCO)社製)、・・・等の塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、マーコート(MERQUAT)550、・・・等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、マーコート(MERQUAT)280(ナルコ(NALCO)社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、・・・等が挙げられる・・・」

(7)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特開2010−6803号公報」(以下、「文献7」という。)には、次の事項が記載されている。

(7a)「【0015】
〔(A):水溶性カチオン性ポリマー〕
・・・水溶性カチオン性ポリマーとは、カチオン基又はカチオン基にイオン化され得る基を有する水溶性のポリマーをいい、全体としてカチオン性となる両性ポリマーも含まれる。すなわち、水溶性カチオン性ポリマーとしては、ポリマー鎖の側鎖にアミノ基又はアンモニウム基を含むか、又はジアリル4級アンモニウム塩を構成単位として含む水溶性のもの、例えば・・・ジアリル4級アンモニウム塩の重合体又は共重合体、・・・等が挙げられる。
【0016】
ジアリル4級アンモニウム塩の重合体又は共重合体の具体例としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド重合体(ポリクオタニウム−6、例えばマーコート100;Nalco社)、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド/アクリル酸共重合体(ポリクオタニウム−22、例えばマーコート280、同295;Nalco社)、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド/アクリルアミド共重合体(ポリクオタニウム−7、例えばマーコート550;Nalco社)・・・等が挙げられる。」

(8)本願優先日当時の周知の技術的事項を示す、「特開2011−12219号公報」(以下、「文献8」という。)には、次の事項が記載されている。

(8a)「【0041】
表中の成分は以下のものである。
・・・
・非イオン界面活性剤E:アンヒトール20N(ラウリルジメチルアミンオキシド、花王(株)製)」

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、上記(1a)の請求項1を引用する請求項2に係る発明(引用する請求項の記載を書き下して示す。以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明:
「(a)重量平均分子量が1,000〜6,000,000であって、4級アンモニウム基及び3級アミノ基より選ばれた少なくとも1個の基を有するモノマー単位をその比率が全モノマー単位に対して10〜100モル%含む重合体、
(b)分子量が1,000未満であって、下記式(1)〜(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の4級アンモニウム基を有する殺菌性化合物、

〔式中、R1及びR6は、それぞれ独立して炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基であり、R3及びR4は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。Xは芳香環又は−COO−、−CONH−、−OCO−、−NHCO−から選ばれるエステル基あるいはアミド基であり、R2は、Xがエステル基又はアミド基である場合には水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基であり、Xが芳香環の場合には、水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキレン基又は−(O−R11)k−である。ここでR11はエチレン基又はプロピレン基であり、kは平均1〜10の数である。R5は炭素数1〜3のアルキレン基である。R7〜R10はこれらの内1つ以上が炭素数8〜18のアルキル基であり、残りが炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。また、mは0又は1の数である。さらにY−は、陰イオンである。〕、及び
(c)界面活性剤を含有し、界面活性剤として(cA)陰イオン界面活性剤を含有する場合、(cA)/(b)が質量比率で、1.0を越えない硬質表面用殺菌防汚洗浄剤。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の(a)成分について
引用発明の「(a)重量平均分子量が1,000〜6,000,000であって、4級アンモニウム基及び3級アミノ基より選ばれた少なくとも1個の基を有するモノマー単位をその比率が全モノマー単位に対して10〜100モル%含む重合体」と、本願発明の「(1)ジアリルジメチルアンモニウムハライドである単量体;(2)アクリル酸および/もしくはメチルアクリル酸から選択される酸性単量体;ならびに/または(3)メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニルイミダゾール、アクリルアミド、もしくはメタクリルアミドまたはそれらの混合物から選択される中性単量体」を含む「(ii)親水性重合体」とは、「(ii)重合体」である限りにおいて共通する。

(2)引用発明の(b)成分について
本願明細書には、本願発明の抗微生物成分(i)について、【0028】に「抗微生物成分(i)は、(a)抗微生物特性を有する少なくとも1種、好ましくは少なくとも2種の第四級アンモニウム化合物、および場合によっては(b)1種または複数の追加の抗微生物剤を含むことができる。」と記載され、抗微生物性について、【0022】〜【0023】に「「抗微生物性」という用語は、微生物(microbe、microorganism)を殺滅するおよび/またはその増殖を抑制する化合物または組成物を意味する。「殺微生物性」という用語は、微生物を殺滅する化合物または組成物を指すのに使用される。本発明の組成物は、抗微生物性および/または殺微生物性である。微生物(microorganismまたはmicrobe)は顕微鏡下でしか見えない(小さすぎて肉眼では見えない)有機体である。微生物の例としては、細菌、真菌、酵母、カビ、マイコバクテリウム、藻、芽胞、古細菌および原生生物が挙げられる。微生物は、一般に単一細胞または単細胞有機体である。しかし、本明細書では、「微生物」という用語はウイルスも包含する。」と記載されている。
そうすると、引用発明の(b)成分の殺菌性化合物は、本願明細書でいうところの抗微生物特性を有する第四級アンモニウム化合物に該当するといえる。
したがって、引用発明の「(b)分子量が1,000未満であって、下記式(1)〜(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の4級アンモニウム基を有する殺菌性化合物(式(1)〜(3)及び式説明は省略)」と、本願発明の「(i)式(A):(式(A)及び式の説明は省略)の少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物、および式(B)の化合物:(式(B)及び式の説明は省略)または塩化ベンゼトニウムである少なくとも1種のベンザルコニウム化合物を含む第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分」とは、「(i)第四級アンモニウム成分(a)である抗微生物成分」である限りにおいて共通する。

(3)引用発明の(c)成分について
引用発明の「(c)界面活性剤を含有し、界面活性剤として(cA)陰イオン界面活性剤を含有する場合、(cA)/(b)が質量比率で、1.0を越えない」と、本願発明の「(iv)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤」とは、「(iv)少なくとも1種の界面活性剤」である限りにおいて共通する。

(4)引用発明の「硬質表面用殺菌防汚洗浄剤」について
本願発明の「抗微生物性組成物」について、本願明細書には、【0015】〜【0017】に「本発明の組成物は、特に硬質表面での使用に適している。本発明のいくつかの組成物は硬質表面を清浄するのに適しており、・・・。本発明の組成物は様々な用途に使用することができ、特に硬質表面での使用に適している。・・・本明細書では、清浄という用語は、泥、石鹸かす、水あかなどの汚れの除去を意味する。」と記載されている。そして「抗微生物性」については、上記(2)のとおりの記載がある。
したがって、引用発明の「硬質表面用殺菌防汚洗浄剤」は、本願発明の「抗微生物性組成物」に該当する。

(5)よって、両発明は、次の一致点及び相違点1〜5を有する。

一致点:
「(i)第四級アンモニウム成分(a)である抗微生物成分、
(ii)重合体、および
(iv)少なくとも1種の界面活性剤、
を含む、抗微生物性組成物。」である点。

相違点1:
「(i)第四級アンモニウム成分(a)である抗微生物成分」が、
本願発明は、「(i)式(A):(式(A)及び式の説明は省略)の少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物、および式(B)の化合物:(式(B)及び式の説明は省略)または塩化ベンゼトニウムである少なくとも1種のベンザルコニウム化合物を含む第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分」であるのに対し、
引用発明は、「(b)分子量が1,000未満であって、下記式(1)〜(3)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種の4級アンモニウム基を有する殺菌性化合物(式(1)〜(3)及び式説明は省略)」である点。

相違点2:
「(ii)重合体」が、
本願発明は、「(ii)親水性重合体」、「前記重合体が、(1)ジアリルジメチルアンモニウムハライドである単量体;(2)アクリル酸および/もしくはメチルアクリル酸から選択される酸性単量体;ならびに/または(3)メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニルイミダゾール、アクリルアミド、もしくはメタクリルアミドまたはそれらの混合物から選択される中性単量体」を含む重合体であるのに対し、
引用発明は、「(a)重量平均分子量が1,000〜6,000,000であって、4級アンモニウム基及び3級アミノ基より選ばれた少なくとも1個の基を有するモノマー単位をその比率が全モノマー単位に対して10〜100モル%含む重合体」である点。

相違点3:
「(iv)少なくとも1種の界面活性剤」について、
本願発明は、「(iv)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤」であると特定しているのに対し、
引用発明は、「(c)界面活性剤を含有し、界面活性剤として(cA)陰イオン界面活性剤を含有する場合、(cA)/(b)が質量比率で、1.0を越えない」とされ、界面活性剤が非イオン界面活性剤であるとは特定していない点。

相違点4:
本願発明は、さらに「(iii)極性溶媒」及び「(v)キレート剤」を含むと特定しているのに対し、
引用発明は、それらを含むとは特定していない点。

相違点5:
本願発明は、「抗微生物性組成物」が「4以上のpHを有する」と特定しているのに対し、
引用発明は、「硬質表面用殺菌防汚洗浄剤」のpHについて特定していない点。

4 判断
(1)相違点1について
ア 刊行物1には、引用発明の(b)成分の式(1)〜(3)で表される化合物について、上記(1d)【0038】〜【0039】に、最も好ましい化合物として、式(1)又は式(3)をさらに特定した

の3種類の化合物が示されているところ、1番目の化合物は、本願発明の式(B)の化合物において、mが8から16であり、X−が塩化物であるベンザルコニウム化合物に該当し、2番目の化合物は、本願発明の塩化ベンゼトニウムを含むものであり、3番目の化合物は、本願発明の式(A)の化合物において、R1及びR2がそれぞれ独立して、直鎖状非置換の中断されていないC8〜12アルキル基であり、X−が塩化物である第四級アンモニウム化合物に該当する。

イ そして、上記(1i)の実施例1において、殺菌防汚洗浄剤に配合されている殺菌性化合物A〜Dは、それぞれ上記アで好ましいとされる化合物の具体例にあたり、次に示すとおり、本願発明の第四級アンモニウム成分(a)に該当するものである。
すなわち、刊行物1の「殺菌性化合物B」のジデシルジメチルアンモニウムクロリドは、引用発明の(b)成分における式(3)の化合物の具体例であり、本願発明の式(A)の化合物において、R1及びR2が、直鎖状非置換の中断されていないC10アルキル基であり、X−が塩化物である第四級アンモニウム化合物に該当する。
また、刊行物1の「殺菌性化合物A」のココアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドは、引用発明の(b)成分における式(1)の化合物の具体例であり、本願発明の式(B)の化合物において、mが8から16であり、X−が塩化物であるベンザルコニウム化合物に、同「殺菌性化合物C」の塩化ベンゼトニウムは、同式(1)の化合物の具体例であり、本願発明の塩化ベンゼトニウムであるベンザルコニウム化合物に、同「殺菌性化合物D」の塩化オクチルジメチルベンザルコニウムは、同式(1)の化合物の具体例であり、本願発明の式(B)の化合物において、mが8であり、X−が塩化物であるベンザルコニウム化合物に、それぞれ該当する。
そして、刊行物1の上記(1i)の実施例1では、これら殺菌性化合物A〜Dのうちの1種類ずつが配合されている配合例1〜8、10〜14及び16〜20に加え、これら殺菌性化合物A〜Dのうちの2種類が配合されている配合例9及び15の殺菌防汚洗浄剤の態様も具体的に示されている。

ウ ここで、刊行物1は、上記(1b)のとおり、トイレ、浴室、台所まわりなどの硬質表面用の殺菌防汚洗浄剤に関するものであるところ、このような硬質表面用の殺菌洗浄剤に関して、文献2に、殺菌成分としてジデシルジメチルアンモニウムクロライドのような第四級アンモニウム塩を単独で、またその殺菌助剤としての塩化ベンザルコニウム等と組合せて使用することが記載され(上記(2a)、(2c)、(2d)参照)、文献3に、第四級アンモニウム塩である塩化ジデシルジメチルアンモニウム及び塩化ベンザルコニウムは容易に入手できるものであること、この2種をそれぞれ単独で用いたり組み合わせて用いたりすることが記載されている(上記(3a)、(3c)、(3d)参照)。
また、文献4に、界面活性特性を備えた抗菌剤として、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド及びベンザルコニウムハロゲン化物は当業者に周知であること、この2種の混合物を使用してもよく、典型的には第四級アンモニウム化合物の混合物を使用することや、この2種の混合物を含む製剤が市販されていることが記載されている(上記(4a)、(4c)、(4d)参照)。
すなわち、引用発明の(b)成分である式(1)の化合物と式(3)の化合物は、いずれも当業者が容易に入手できる周知の殺菌剤であり、これらを組み合わせて用いることも、本願優先日当時に周知又は技術常識として知られていたことである。

エ したがって、引用発明における(b)成分として、最も好ましいものとされ、実施例で具体的に配合されている「殺菌性化合物A〜D」について、それらから2種類を配合する態様が示されていること、本願発明の式(A)に該当する化合物であって、引用発明の式(3)の具体例である「殺菌性化合物B」に対して、本願発明の式(B)又は塩化ベンゼトニウムであるベンザルコニウム化合物に該当する化合物であって、引用発明の式(1)の具体例である「殺菌性化合物A、C又はD」を、殺菌助剤としてなど組み合わせて使用することが本願優先日当時に周知又は技術常識であったことから、「殺菌性化合物B」と「殺菌性化合物A、C又はD」とを組み合わせて、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、刊行物1及び文献2〜4に示される本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
ア 刊行物1には、引用発明の(a)成分のうち、4級アンモニウム基を有するモノマー単位(以下「モノマー単位A」ともいう。)の好ましい例として、上記(1c)【0012】〜【0013】に、式(4)の化合物が示され、上記(1c)【0016】に、特にジアリルジメチルアンモニウム塩が良好であると記載されているところ、これは、本願発明の(1)ジアリルジメチルアンモニウムハライドである単量体に該当する。
また、刊行物1の上記(1c)【0021】に、引用発明の(a)成分は、モノマー単位Aと他のモノマー単位(以下「モノマー単位B」ともいう。)とから構成された重合体であってもよいことが記載され、上記(1c)【0022】〜【0023】に、モノマー単位Bの好ましい例が挙げられているところ、(i)のアクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩は、本願発明の(2)アクリル酸および/もしくはメチルアクリル酸から選択される酸性単量体に該当し、(ii)のアクリル(又はメタクリル)アミド、N−ビニル−2−ピロリドンは、本願発明の(3)メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、N−ビニルピロリドン(NVP)、N−ビニルイミダゾール、アクリルアミド、もしくはメタクリルアミドまたはそれらの混合物から選択される中性単量体に該当する。

イ そして、上記(1i)の実施例1の配合例1〜16の殺菌防汚洗浄剤に配合されている重合体A〜Cは、それぞれ上記アの好ましいモノマー単位Aからなる重合体又はモノマー単位Aとモノマー単位Bとからなる重合体の具体例にあたり、次に示すとおり、本願発明の重合体に該当するものである。
すなわち、重合体Aの塩化ジアリルジメチルアンモニウムのホモポリマー(製品名:マーコート100)は、本願発明の(1)の単量体を含む重合体に、重合体Bの塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリルアミドの共重合体(製品名:マーコート550)は、本願発明の(1)の単量体と(3)の中性単量体とを含む重合体に、そして、重合体Cの塩化ジアリルジメチルアンモニウムとアクリル酸の共重合体(製品名:マーコート280)は、本願発明の(1)の単量体と(2)の酸性単量体とを含む重合体に、それぞれ該当する。
さらに、刊行物1の上記(1i)の実施例1において、殺菌性化合物を2種類配合した具体例(配合例9及び15)では、本願発明の(1)の単量体と(2)の酸性単量体との共重合体である重合体Cを配合している。

ウ ここで、刊行物1の(a)成分の重合体は、4級アンモニウム基又は3級アミノ基を有するモノマー単位を含むものであるところ、そのようなモノマー単位を含む重合体は水溶性重合体であり、良好であるとされるジアリルジメチルアンモニウム塩を含む実施例で具体的に使用されている重合体A〜Cは、いずれも水溶性重合体であることは、文献5〜7に記載されているとおり(上記(5a)、(6a)、(7a)参照)、本願優先日当時に周知又は技術常識として知られていたことである。

エ したがって、引用発明において(a)成分として、4級アンモニウム基を有するモノマー単位として、良好であるとされる塩化ジアリルジメチルアンモニウムを含み、実施例1の配合例1〜16で多用されている重合体A〜Cのいずれかを採用すること、特に殺菌性化合物を2種類配合した配合例9及び15で具体的に使用されている重合体Cを採用し、親水性重合体と特定して、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、刊行物1及び文献5〜7に示される本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点3について
ア 刊行物1には、引用発明の(c)成分の界面活性剤について、上記(1e)【0042】に、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤であってよいことが記載されている。

イ そして、上記(1i)の実施例1の配合例1〜2、4〜5、7及び9〜20では、殺菌防汚洗浄剤に、(c)成分として、上記(1e)【0043】に示される、非イオン界面活性剤である一般式(c3)の化合物にあたるアルキルグルコシド(直鎖アルキル基の炭素数が12と14の混合物)(AG)が配合されているところ、殺菌性化合物を2種類配合した配合例9及び15では、非イオン界面活性剤に分類されるアルキルグルコシド(AG)を配合している。

ウ したがって、引用発明において、(c)成分について大部分の実施例において使用されている非イオン界面活性剤に特定して、相違点3に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、刊行物1の記載から、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(4)相違点4について
ア 引用発明の硬質表面用殺菌防汚洗浄剤は、上記(1h)【0069】に記載されているとおり、残部が水の液体組成物とすることが好ましいものであり、上記(1i)の実施例1の配合例1〜20では、すべてイオン交換水が用いられている。
また、刊行物1には、上記(1f)に、有機汚れに対する洗浄力向上の目的で1価アルコールや多価アルコールなどの水溶性溶剤を配合することが好ましいことが記載され、上記(1i)の実施例1の配合例1〜10、13〜20では、エタノール及び/又はプロピレングリコールが配合されている。
そして、本願明細書【0102】に「適切な極性溶媒としては、水、アルコール、グリコールエーテル、およびそれらの混合物が挙げられる」と記載されているとおり、水や一価又は多価アルコールは、本願発明の極性溶媒に該当する。

イ 刊行物1には、上記(1g)に、無機汚れを溶解し、洗浄力及び殺菌効果を向上させる目的で、エチレンジアミン四酢酸やグルタミン酸二酢酸などのキレート剤を配合することが好ましいことが記載され、上記(1i)の実施例1の配合例1〜3、9〜10、12、14〜17、19〜10では、EDTA−4Naが配合されている。

ウ さらに、刊行物1の上記(1i)の実施例1において、殺菌性化合物を2種類配合した配合例9及び15では、エタノールやさらにプロピレングリコールを配合し、EDTA−4Naを配合し、残部をイオン交換水として調製したことが示されている。

エ したがって、引用発明の硬質表面用殺菌防汚洗浄剤について、多数の実施例において使用されている水やキレート剤を配合して、相違点4に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、刊行物1の記載から、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(5)相違点5について
刊行物1の上記(1h)【0065】には、硬質表面用殺菌防汚洗浄剤は、防汚効果の点から、20℃におけるpHが3〜11になるようにすることが好ましいと記載されている。
そして、上記(1i)の実施例1でもその範囲内に調製されているところ、その多くはpH7であり、殺菌性化合物を2種類配合した配合例9及び15もpH7である。
したがって、引用発明の硬質表面用殺菌防汚洗浄剤のpHを多くの実施例と同様に7程度として、相違点5に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、刊行物1の記載から、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(6)相違点1〜5について
以上の相違点の有機的関係を総合的に判断しても、引用発明の(b)成分の式(1)の化合物と式(3)の化合物とを組み合わせて用いることが、本願優先日当時の周知の技術的事項であったことから、引用発明において、実施例で殺菌性化合物を2種類配合している配合例9又は15を参照し、(b)成分の殺菌性化合物を「殺菌性化合物B」と、「殺菌性化合物A、C又はD」の組合せとし、(a)成分として「重合体C」、(c)成分として「AG(アルキルグルコシド)」を配合し、さらに水やキレート剤を配合した上で、pH7程度の殺菌防汚洗浄剤として、相違点1〜5に係る本願発明の構成をすべて備えたものとすることも、当業者が刊行物1及び本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得ることである。

(7)本願発明の効果について
ア 本願明細書の効果に関する記載について
(ア)本願明細書には、本願発明の効果に関して、次のように記載されている。

a 「【0139】
使用中に、本発明の組成物は有利な抗微生物効果を示すことが明らかになった。例えば、このような組成物は、最初に表面に適用されると抗微生物効果を示し(いわゆる「湿式殺滅」)、表面における新たな微生物コロニーの形成を制御、低減または防止する(いわゆる「乾式殺滅」)という点で残留抗微生物効果も示すことができる。
【0140】
また、本発明の組成物は水で洗浄することおよび拭くことに対して抵抗を示す。これによって、本発明の組成物は、処理された表面をその後拭き、かつ/または水で洗浄もしくはすすいだときでさえ残留抗微生物効果をもたらすことになる。
【0141】
本発明の組成物は残留抗微生物効果をもたらし、本明細書に記載される残留有効性試験を受けた後でさえ抗微生物効果をもたらす。すなわち、これらの組成物は、非孔質ステンレス鋼、ガラスまたはプラスチックの基材において3回摩耗サイクル試験を受けたとき微生物の低減を実現し、典型的には24時間にわたって3log以上の低減を実現する。これは、本発明の組成物を表面に適用してから24時間後、(本発明の組成物または別の抗微生物剤をさらに追加することなく)微生物が表面に適用された場合、それらの微生物の少なくとも3logの低減が達成されることを意味する。
【0142】
本発明の利点は、広範囲の微生物が表面に接着および付着するのを防止し、したがってバイオフィルムを形成するのを防止することが可能であるということである。大きな多数のコロニーの形成も実質的に防止される。したがって、コロニーの増殖能力が実質的に低減され、またはさらには妨げられる。本発明は、したがって微生物の制御において全般的である。」

b 「【0143】
典型的には、本発明の組成物は哺乳動物への毒性が高い構成成分を含有する必要がない。抗微生物性組成物において使用される抗微生物剤は、典型的には周知であり、広く理解され、試験された抗微生物剤である。公知の抗微生物剤の有効性は本発明の製剤において増幅される。したがって、毒性の低い抗微生物剤が抗微生物性組成物中で使用されうる。逆に、衛生処理(sanitization)の公知技術では、多くの「新規」抗微生物剤に、「より強力」で、毒性がより高く、かつ/またはほとんど試験が行われていない物質が使用される。
【0144】
本発明の抗微生物性組成物は、残留性の高い残渣もしくはすすぎ液を生成する物質、または重金属およびそれらの塩を含有する製品を含有しない。したがって、長期危険のリスクが大いに低減される。
【0145】
本発明の抗微生物性組成物は、制御対象の微生物の生化学的生殖経路に干渉しない。したがって、耐性増強のリスクおよび耐性株の発生は少ない。
【0146】
本発明の抗微生物性組成物は、使用中に抗微生物効果をもたらすだけでなく、組成物に対して保存効果も示すので二重の効果を示すことができる。これによって、典型的には、追加の保存剤を本発明の製剤に含める必要がなくなる。
【0147】
本発明の組成物は、適用される表面にグリース感を通常与えない。」

(イ)上記記載の効果について検討する。
a 刊行物1には、上記(1i)の実施例1で、殺菌防汚洗浄剤の汚れ付着防止性について、市販の便器を用い、殺菌防汚洗浄剤で便器を洗浄し、1週間放置した際の汚れの付きにくさを評価したことが記載されている。
すなわち、殺菌防汚洗浄剤の残留効果を確認した結果が示されているといえる。
そして、本願発明の(i)の第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分に対応する(b)成分、本願発明の(ii)親水性重合体に対応する(a)成分、本願発明の(iii)極性溶媒に対応する(d)成分及び水、本願発明の(iv)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤に対応する(c)成分、及び本願発明の(v)キレート剤に対応する(e)成分の全てを含む配合例1〜20に対し、これらの何れかを含まない比較配合例1〜7では、汚れ付着防止性に劣っていたことが示されている。
したがって、上記(ア)aに記載の残留抗微生物性に関する効果は、当業者が引用発明及び本願優先日当時の技術常識から予測し得る範囲内のことである。

b 引用発明は、本願発明の第四級アンモニウム化合物(a)に該当する殺菌性化合物を用いており、また、重金属、抗生物質、保存剤、グリース感を与える物質などを配合していない。
そして、上記文献2及び4にも記載されているとおり(上記(2b)、(4b)参照)、引用発明の組成から、上記(ア)bに記載の毒性や耐性株の発生がないなどの効果は、当業者が予測し得る範囲内のことである。

イ 実施例に示される効果について
(ア)本願明細書には、実施例に関して、【0166】〜【0182】に、実験的残留有効性試験についての記載があり、【0183】以降に、実施例1〜6が示されている。

(イ)そこで、実施例の記載について検討する。
a (i)の第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分に関して、表に「Quats」と記載され、実施例1では、「Quatブレンド濃縮物− RSH008/100A 適切なサイズの容器に、脱イオン水(760.00g)を添加し、続いてDDQ(Acticide DDQ40)(200.00g)を添加し、混合物を磁気撹拌器で10分間撹拌させた。次いで、BAC(Acticide BAC50M)(40.00g)を添加し、さらに30分間撹拌させた。」と記載されている。実施例2〜6でも、Quatブレンド(DDACとBACの4:1ブレンド)のように記載されているか、他の実施例と同様に調製したと記載されている。
本願明細書には、「Quats」又は「Quat」、「Acticide DDQ40」、「Acticide BAC50M」について説明した記載はないが、「Quats」又は「Quat」については、(i)の第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分を意味すると解釈できるとしても、商品名と解される「Acticide DDQ40」や「Acticide BAC50M」がどのようなものかは不明である。

b (ii)親水性重合体に関して、実施例1〜6では、全て「Mirapol Surf S110」が用いられている。
この重合体については、本願明細書【0137】に「重合体はDMAEMA、MAPTAおよびメチルアクリル酸を含むことが好ましく、その市販例は商標名Mirapol Surf−S 110で販売されている。」と記載されており、DMAEMAは、本願発明の(3)の中性単量体の一つである「メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)」であり、メチルアクリル酸は(2)の酸性単量体であるが、MAPTAは、(1)〜(3)のいずれにも該当しない。
そうすると、(ii)親水性重合体に関しては、(2)及び(3)の単量体を含むものの、(1)〜(3)のいずれでもない単量体を必ず含む重合体に限られている。
(なお、MAPTAは、【0069】〜【0073】に、カチオン単量体の例として、本願発明の(1)ジアリルジメチルアンモニウムハライドとともに「塩化メタクリル−アミド(プロピル)−トリメチルアンモニウムとも呼ばれるMAPTAC」として記載されているものである。)

c (iii)極性溶媒に関して、特に説明はないが、調製に用いられた脱イオン水が該当することは理解できる。
しかしながら、実施例4の【表6】の説明として、【0204】に「これらの結果から、特に組成物が香料を含有する場合に、水に加えて極性溶媒を使用すると、組成物の安定性を改善する助けとなりうることがわかる。」と記載されているものの、表6にだけ記載されている「IPA」と「Dowanol」が香料であるのか極性溶媒であるかの説明はない。

d また、例えば表2に、「微生物学的結果 シュードモナス属(Pseudo)(745−12)」について、「1.65(0.29)」「該当なし」と記載されているが、【0166】〜【0182】に記載の、実験的残留有効性試験の結果を示したものであるという記載はない。
【0182】には、「試験された組成物は、この試験の終わりにlog 3以上の細菌の低減を示した場合、試験に合格し、残留抗微生物効果をもたらしたとみなされた。」と記載されているが、表2に示された数値がlog値であるかは不明であり、括弧で示された数値の意味も不明である。
表3〜7についても同様である。

e 以上のとおり、実施例の記載は明らかでないことが多く、本願発明を実施した結果を示したものとはいえず、したがって本願発明の効果を示したものともいえないから、本願発明が引用発明及び本願優先日当時の技術常識からは予測もし得ない、顕著な効果を奏するものとはいえない。

(ウ)仮に、「Acticide DDQ40」及び「Acticide BAC50M」を、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド及び塩化ベンザルコニウムと解し、微生物学的結果が、上記【0166】〜【0182】の実験的残留有効性試験の結果得られたlog値を示したものと解釈したとしても、実施例は全て、本願発明の式(A)の化合物と式(B)の化合物を併用したものとなる。
それに対し、刊行物1の上記(1i)の実施例1には、配合例9又は配合例15として、本願発明の(ii)〜(v)の全てを満たし、本願発明の(i)の第四級アンモニウム成分(a)を含む抗微生物成分のうち、式(B)の化合物のみを複数含有したものが示されている。
本願明細書には、式(B)の化合物のみを配合した場合と比較した結果は示されていないうえ、残留抗微生物効果に関しては、本願明細書の実施例1、2の結果から重合体の配合の有無に大きく影響を受けることが理解できるところ、刊行物1の上記(1i)の実施例1でも、重合体を含まない比較配合例2、5〜6では、汚れ付着防止効果が優れていないことが示されている。
したがって、本願発明の実施例であると解釈したとしても、本願発明が引用発明及び本願優先日当時の技術常識からは予測もし得ない、顕著な効果を奏するものとはいえない。

(8)小括
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張の検討
(1)令和2年2月18日提出の意見書及び審判請求書の主張について
ア 審判請求人は、次の旨を主張する。
(ア)本願発明の組成物は、最初に表面に適用した際には抗微生物効果をもたらし(所謂「湿式殺滅」)、表面における新たな微生物のコロニーの形成を適用後の期間にわたって制御、低減又は防止する残留抗微生物効果をもたらす(所謂「乾式殺滅」)ものである。
(イ)式(A)に該当する化合物と、式(B)又は塩化ベンゼトニウムに該当する化合物を組み合わせて使用することによって、顕著に、残留抗微生物効果が改善される。
(ウ)キレート剤の使用によって、調合物の透明性を改善する。
(エ)高いpHの組成物については、重合体とキレートの両方の存在が、残留抗微生物効果をもたらすのに必須である。
(オ)非イオン性界面活性剤は、組成物の洗浄特性を改善することができ、含まないと、不透明である。
(カ)刊行物1の上記(1d)【0038】の「より好ましい(b)成分は上記一般式(1)又は(3)の化合物であり、最も好ましくは下記の一般式の化合物である。」との記載から、(b)成分の殺菌性化合物として、これら両方を使用することを教示しているわけではない。

イ 上記主張について検討する。
(ア)については、上記4(7)ア(イ)で述べたとおり、刊行物1でも、残留効果を確認している。
(イ)については、上記4(7)イ(ウ)で述べたとおりである。
(ウ)〜(オ)については、本願明細書に、実施例の考察として、【0200】に「本発明者らは、本明細書に記載されるタイプの重合体を用いて調合すると、単量体の化学的性質によっても、より高いpH(>4.5)において清澄性の問題を引き起こすことがありうることを見出した。界面活性剤、キレートおよびこれら構成成分の量の選択により、組成物の清澄性が改善されうる。」こと、【0208】に「製剤Sharp 11Bは界面活性剤を全く含有せず、その結果不透明な溶液であった。」ことが記載されているとおり、特定の製剤の結果を示したにすぎない。また、非イオン界面活性剤は洗浄特性を有するものである。
そして、(カ)については、上記4(1)で述べたとおりである。
また、文献4に記載されているように、第四級アンモニウム化合物は水溶性が高く容易に洗い落とされることが知られているのだから(上記(4b)参照)、親水性重合体と併用することで、併用しない場合に比べて残留効果が高まることは当業者が予測し得ることであるし、文献2〜3に記載されているように、第四級アンモニウム化合物と非イオン界面活性剤を併用することで、洗浄と殺菌を同時に達成できることも既に知られたことである(上記(2b)、(3b)参照)。
したがって、審判請求人の予測し得ない顕著な効果に関する上記主張はいずれも採用できない。

(2)令和3年4月28日提出の上申書の主張について
審判請求人は、上記上申書において、本願発明の(iv)非イオン性界面活性剤を、アルコールアルキルオキシラートとアミンオキシドの組合せに限定する補正案を提示している。
そして、本願発明が解決しようとする課題は、残留抗微生物効果をもたらし、あわせて効果的な洗浄力ももたらす抗微生物性組成物を提供することであり、第四級アンモニウム化合物及び重合体と組み合わせて、非イオン性界面活性剤を使用することによって、効果的な抗微生物効果及び効果的な洗浄力の両方をもたらすことを見出したものであると主張する
しかしながら、刊行物1には、上記(1e)【0043】に、非イオン界面活性剤として式(c1)のアルコールアルキルオキシラートを採用できることが記載されている。ここで、同【0050】には、式(c3)、(c4)及び(c5)から選ばれる界面活性剤の一種以上を配合することが好ましいことが記載されているが、式(c1)を用いてよいことが記載されていることに変わりはない。
そして、刊行物1の上記(1i)の実施例1では、殺菌性化合物を2種類配合した配合例9及び15において、界面活性剤として、式(c3)のアルキルグルコシドと、式(c4)のアミンオキシド(AO:ラウリルジメチルアミンオキシド)とを併用している。
したがって、引用発明において、(c)成分の界面活性剤として、アルコールアルキルオキシラートとアミンオキシドと組み合わせて用いることは、当業者が適宜なし得たことである。(なお、刊行物1では、アミンオキシドは両性界面活性剤とされているが(上記(1e)【0044】〜【0045】参照)、上記文献8に示されるとおり、アミンオキシドは非イオン界面活性剤にも分類されるものである(上記(8a)参照)。)
そして、効果について検討しても、本願明細書には、アルコールアルキルオキシラートとアミンオキシドを組み合わせることによって、他の組み合わせに比べて優れた効果を奏することについて記載したところはないから、引用発明及び本願優先日当時の技術常識から予測し得ない、顕著な効果を奏するものともいえない。
よって、審判請求人の補正案に基づいた上記主張も採用できない。

6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び本願優先日当時の周知の技術的事項に基いて、この出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 木村 敏康
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-08-30 
結審通知日 2022-09-05 
審決日 2022-09-22 
出願番号 P2018-196587
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 木村 敏康
特許庁審判官 瀬良 聡機
関 美祝
発明の名称 抗微生物性組成物  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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