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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 判示事項別分類コード:131 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1394702
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-12-22 
確定日 2023-03-07 
事件の表示 特願2020−555286「薄膜圧電共振器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月25日国際公開、WO2019/141073、令和 3年 3月11日国内公表、特表2021−508999、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年1月19日(CN)中華人民共和国、2018年1月19日(CN)中華人民共和国、2018年2月5日(CN)中華人民共和国、2018年2月5日(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 6月30日 :翻訳文提出
令和3年 3月24日付け:拒絶理由通知書
令和3年 6月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 8月16日付け:拒絶査定(原査定)
令和3年12月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年10月31日付け:拒絶理由通知書
令和5年 1月13日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
本願請求項1、3〜6に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。さらに、本願請求項1、3〜6に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項1、3、5に係る発明は、以下の引用文献Bに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。さらに、本願請求項1、3、5に係る発明は、以下の引用文献Bに記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項2、7に係る発明は、以下の引用文献A〜Dに記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2006−245979号公報
B.特開2007−325269号公報
C.国際公開第2009/028027号(周知技術を示す文献)
D.特開2006−352854号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
令和4年10月31日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、3〜6に係る発明は、以下の引用文献1〜5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006−245979号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.国際公開第2009/028027号(拒絶査定時の引用文献C)
3.特開2006−352854号公報(拒絶査定時の引用文献D)
4.特開2008−042871号公報(当審において新たに引用した文献)
5.米国特許出願公開2012/0182090号明細書(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明5」という。)は、令和5年1月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1〜5は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
上部電極と圧電層と下部電極との積層構造と、基板とを有する薄膜圧電共振器であって、前記下部電極と基板との間に反射界面が設けられ、前記積層構造の外郭は、1本の曲線と少なくとも1本の直線とを結ぶ閉じた線形状であり、
前記曲線は、凸型又は凹型の線形状であり、
前記直線は、2本以上であり、隣接する直線同士のなす角度は、0度より大きく180度より小さく、
前記下部電極、圧電層及び上部電極の少なくとも一層にバンプ又は欠落部が設けられ、前記バンプ又は欠落部の数が少なくとも1つであり、
前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行であることを特徴とする、
薄膜圧電共振器。
【請求項2】
前記反射界面は、下部電極と基板との間の空洞であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜圧電共振器。
【請求項3】
前記反射界面は、高音響インピーダンス材料と低音響インピーダンス材料とを交互にして形成されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜圧電共振器。
【請求項4】
前記圧電層は、圧電特性を有する材料を用いてなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜圧電共振器。
【請求項5】
前記圧電特性を有する材料は、AlN、AlScN、ZnO、PZT、LiNO3又はLiTaO3であることを特徴とする請求項4に記載の薄膜圧電共振器。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。以下、同様。)。

「【0003】
これらのニーズを満たす能力を持つフィルタ素子の中には音響共振器から作られる種類のものが存在する。これらの音響共振器から作られるフィルタ素子として、圧電シート中のバルク縦音波を利用する薄膜圧電共振器がある。単純な構成の1つにおいては、圧電シートが2つの金属電極に挟まれた形になっている。このサンドイッチ構造は、その外周を支持することにより空気中に置かれる。電圧の印加により2つの電極の間に電界が作られると、圧電シートは電気的エネルギーの一部を音波という形の機械的エネルギーへと変換する。音波は電界と同方向で縦に伝搬されて電極/空気間の界面で反射するか、或は電界を横切る方向に伝わり、電極又はその構造体の端部の様々な断絶部において反射する。このとき、前記サンドイッチ構造が複数積み重ねられた積層構造であっても、支持される場所が空気中でなく複数の音響インピーダンスの異なる層により構成された音響ミラー層であっても同様である。」

「【0015】
以下、本発明を図面を用いて説明する。図1(a)は、本発明の薄膜圧電共振器の一実施形態を示す薄膜圧電共振器10の模式的断面図である。本発明の薄膜圧電共振器の一実施形態は、図1に示すように、第1の面及び第2の面を有する圧電シート12と、前記第1の面上の導電性の層から成る第1の電極11と、前記第2の面上の導電性の層から成る第2の電極13とを有する。両面に電極を有する圧電シート12は通常空洞14を有する基板上に形成され、両面に電極を有する圧電シート12の一部は、空気と接している。さらに、前記第1の電極11の一部は前記圧電シート12を挟んで前記第2の電極13の少なくとも一部分に重なり合って圧電振動領域15を形成している。即ち圧電振動領域15とは、圧電シート12の両面に電極11、13が存在し、電圧を印加することにより、圧電シート12の厚み方向に共振の発生する領域であり、シートの厚み方向から見て、前記第1の電極11と第2の電極13が重なり合っている領域である。ただし、前記第1の電極11または第2の電極13への配線等は実質的に含まない。特に、本発明では、圧電シート12の厚み方向から見た前記圧電振動領域15の形が、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなることを特徴とする。」

「【0017】
図1(b)は、前記薄膜圧電共振器の圧電シートの厚み方向から見た前記圧電振動領域15の形(以下圧電振動領域の形という)を示す模式的平面図である。圧電振動領域15の形は、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなっており、特に、図1(b)では、圧電振動領域が直角二等辺三角形となっている。長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形としては、直角二等辺三角形の他に、図2に示すように、二等辺三角形(図2a)、正三角形(図2b)、扇形(図2c)などが挙げられる。前記圧電振動領域15の形を、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形とすることにより、横モードにより不規則な成分を含まない吸収及び/又は伝送スペクトルを有する薄膜圧電共振器の作製が可能となる。」

「【0020】
本発明の薄膜圧電共振器では、構成部品の制限は特にないが、圧電シートの材料としては、酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)が挙げられる。特に窒化アルミニウム(AlN)は、音速が大きく周波数変動/膜圧変動が小さいため量産性に優れ、温度係数についてもZnOの半分以下となるなどの点で好ましい。」

「【0023】
基板の空洞としては、基板に凹部を形成したものでもよいし、基板の裏面からエッチング等により、空間を形成したものでもよい。また、空洞部を図5に示すように音響インピーダンスの異なる材料層51が交互に重ねられたものに置き換えてもよい。電極層と圧電シートによるサンドイッチ構造部についてもこれらが複数重ねられたものでもよい。」

「【図1】


上記【図1】(a)より、第1の電極11が空洞14に接していることが見て取れる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「第1の面及び第2の面を有する圧電シート12と、前記第1の面上の導電性の層から成る第1の電極11と、前記第2の面上の導電性の層から成る第2の電極13とを有し、
両面に電極を有する圧電シート12は空洞14を有する基板上に形成され、両面に電極を有する圧電シート12の一部は、空気と接しており(【0015】)、
第1の電極11が空洞14に接しており(【図1】(a))、
前記第1の電極11の一部は前記圧電シート12を挟んで前記第2の電極13の少なくとも一部分に重なり合って圧電振動領域15を形成しており、
圧電振動領域15とは、圧電シート12の両面に電極11、13が存在し、電圧を印加することにより、圧電シート12の厚み方向に共振の発生する領域であり、シートの厚み方向から見て、前記第1の電極11と第2の電極13が重なり合っている領域であり、
圧電シート12の厚み方向から見た前記圧電振動領域15の形が、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなり(【0015】)、
長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形としては、直角二等辺三角形の他に、二等辺三角形、正三角形、扇形などが挙げられ、
前記圧電振動領域15の形を、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形とすることにより、横モードにより不規則な成分を含まない吸収及び/又は伝送スペクトルを有する薄膜圧電共振器の作製が可能となり(【0017】)、
圧電シートの材料としては、酸化亜鉛(ZnO)や窒化アルミニウム(AlN)が挙げられ(【0020】)、
基板の空洞としては、基板に凹部を形成したものでもよいし、基板の裏面からエッチング等により、空間を形成したものでもよく、
空洞部を音響インピーダンスの異なる材料層51が交互に重ねられたものに置き換えてもよく(【0023】)、
音波は電界と同方向で縦に伝搬されて電極/空気間の界面で反射する(【0003】)
薄膜圧電共振器。」

2.引用文献2〜5について
(1)引用文献2
当審拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0035] 以下、本発明の実施の形態にかかる圧電薄膜共振子、その圧電薄膜共振子を用いたフィルタ、そのフィルタを用いたデュプレクサおよび、そのフィルタまたはそのデュプレクサを用いた通信機について、図面を参照しながら説明する。

[0036] (実施の形態1)
図1Aは、本発明の実施の形態1に係るFBAR1aの構成を示す平面図であり、図1Bは、図1AのA−A'断面の断面図である。基板11には、空隙12が形成されている。基板11上に空隙12を覆うように下部電極13(第1電極)が形成されている。下部電極13上には、圧電膜14が形成されている。圧電膜14上には上部電極15a(第2電極)が形成されている。共振領域20では、所定の高周波電圧印加時には上部電極15aと下部電極13との間の圧電膜14で上部電極15a面の法線方向に伝搬する弾性波が生じる。共振領域20において、下部電極13、圧電膜14および上部電極15aは、それぞれ厚さが均一に形成されており、共振領域20における圧電膜14の音響特性が一様である。共振領域20の基板11には、空隙12が形成されている。非共振領域21は、上部電極15aと下部電極13が対向していない領域であり、電圧印加時に上部電極15aと下部電極13の間の圧電膜14で弾性波が生じない。

[0037] 図1Bに示すように、共振領域20と非共振領域21との境界(共振領域の端部)より一定の距離内側に入った上部電極15a部分には、電気的不連続部18aが形成されている。電気的不連続部18aは、上部電極15aと絶縁されている。」

「[0039] 図1Bに示すように、電気的不連続部18aは、上部電極15aと接する絶縁部17aと、上部電極15aと同種の金属の擬似電極16aとを有する。擬似電極16aは、絶縁部17aに囲まれ、上部電極15aと絶縁されている。擬似電極16aが上部電極15aと同種の金属で形成されることにより、擬似電極16a下の圧電膜14に加わる圧力が、上部電極15a下の圧電膜14に加わる圧力と同じになり、圧電膜14の音響特性が上部電極15a下と擬似電極16a下とで同じになる。」

「[0043] 電気的不連続部18aには、高周波電圧が印加されないので、電気的不連続部18a下の圧電膜14に波は生じない。図2に示すように、電気的不連続部18a下の圧電膜14において、両側から伝搬した横方向の波22、23が互いに打ち消しあう。従って、横方向の波が低減され、横モードの波に起因するスプリアスを低減することができる。」

上記記載から、引用文献2には次の技術が記載されているものと認められる。

「圧電薄膜共振子において、
基板11には、空隙12が形成されており、
基板11上に空隙12を覆うように下部電極13(第1電極)が形成されており、
下部電極13上には、圧電膜14が形成されており、
圧電膜14上には上部電極15a(第2電極)が形成されており、
共振領域20では、所定の高周波電圧印加時には上部電極15aと下部電極13との間の圧電膜14で上部電極15a面の法線方向に伝搬する弾性波が生じ、
非共振領域21は、上部電極15aと下部電極13が対向していない領域であり、電圧印加時に上部電極15aと下部電極13の間の圧電膜14で弾性波が生じず、
共振領域20と非共振領域21との境界(共振領域の端部)より一定の距離内側に入った上部電極15a部分には、電気的不連続部18aが形成されており、
電気的不連続部18aは、上部電極15aと接する絶縁部17aと、上部電極15aと同種の金属の擬似電極16aとを有し、
電気的不連続部18a下の圧電膜14において、両側から伝搬した横方向の波22、23が互いに打ち消しあい、
横方向の波が低減され、横モードの波に起因するスプリアスを低減することができること。」

(2)引用文献3
当審拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0030】
図1は本発明の薄膜圧電共振器の一実施形態を示し、図1(a)はその模式的平面図であり、図1(b)は図1(a)のX−X断面図である。本発明の薄膜圧電共振器は、圧電薄膜(圧電層)2と、該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極8および上部電極10とからなる。前記圧電薄膜2の前記下部電極8と前記上部電極10に挟まれた部分の外形が円形である。ただし、上部電極および下部電極を外部回路に接続するために形成されている導電性の薄膜(接続導体という)は、これらの形状には含めないものとする。また、接続導体と上部電極または下部電極との境界は、上部電極または下部電極の他の部分の外形の線を延長することにより求められる。
【0031】
本発明の薄膜圧電共振器では、特に、該円形の中心を通りかつ長さが直径の1/50の直線を含む領域40には、前記上部電極が形成されていないことを特徴とする。図2に該円形の中心を通りかつ長さが直径の1/50の直線を含む領域40のいくつかの実施形態を示す。図2において、直線の長さや領域40の大きさは、わかりやすくするために模式的に示してあり、実際の長さや大きさを示したものではない。直線50は、前記圧電薄膜2の前記下部電極8と前記上部電極10に挟まれた部分の外形形状である円の中心を通り、かつ長さが直径の1/50である。領域40は、この直線50を含む領域であり、任意に決定することができ、その大きさや形は特に限定されるものではない。ただ、この領域40が大きすぎると、振動領域が狭くなり、薄膜圧電共振器のインピーダンスに影響を与える。圧電共振器を用いてフィルタを構成する場合、接続するシステムとのマッチングから共振器には最適なインピーダンスが存在する。しかし、振動領域を狭くした場合、共振器のインピーダンスが大きくなり、所望のインピーダンスにするためには、共振器の外形寸法を大きくしなければならないので、領域40の大きさは設計に応じて適切な大きさとすればよい。また、領域40の形も特に限定されるものではない。図2に示したように様々な形とすることができる。」

「【0033】
本発明では、このように、上部電極の内側に領域40を形成することにより、高いQ値を損なうことなく横音響モードによるノイズの発生を抑制した、優れた薄膜圧電共振器が得られる。」

上記記載から、引用文献3には次の技術が記載されているものと認められる。

「薄膜圧電共振器は、圧電薄膜(圧電層)2と、該圧電薄膜を挟むように形成された下部電極8および上部電極10とからなり、
前記圧電薄膜2の前記下部電極8と前記上部電極10に挟まれた部分の外形が円形であり、
該円形の中心を通りかつ長さが直径の1/50の直線を含む領域40には、前記上部電極が形成されておらず、
上部電極の内側に領域40を形成することにより、高いQ値を損なうことなく横音響モードによるノイズの発生を抑制した、優れた薄膜圧電共振器が得られること。」

(3)引用文献4
当審拒絶理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0022】
<1 第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る圧電薄膜共振子(FBAR;Film Bulk Acoustic Resonator)1の概略構成を示す斜視図である。また、図2は、図1のII-IIの切断線における圧電薄膜共振子1の断面を示す断面図である。図1及び図2には、説明の便宜上、左右方向をX軸方向、前後方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とするXYZ直交座標系が定義されている。この点は、後述する各図においても同様である。圧電薄膜共振子1は、圧電体薄膜14に励振される厚み縦振動による電気的な応答を利用した共振子となっている。」

「【0023】
図1及び図2に示すように、圧電薄膜共振子1は、支持基板11の上に、接着層12、下面電極13、圧電体薄膜14及び上面電極15をこの順序で積層した構造を有している。圧電薄膜共振子1において、圧電体薄膜14の大きさは支持基板11より小さくなっており、下面電極13の一部は露出した状態となっている。」

「【0027】
圧電体薄膜14の励振領域141に対向する支持基板11の所定の領域には、陥没(凹部又は掘り込み)111が形成されている。陥没111は、圧電体薄膜14の励振領域141の下方にキャビティ(空洞)を形成し、圧電体薄膜14の励振領域141を支持基板11から離隔させ、励振領域141に励振された振動が支持基板11と干渉しないようにする役割を果たしている。」

「【0047】
<2 第2実施形態>
図9は、本発明の第2実施形態に係る圧電薄膜共振子2の概略構成を示す斜視図である。圧電薄膜共振子2も、圧電体薄膜24に励振される厚み縦振動による電気的な応答を利用した共振子となっている。
【0048】
図9に示すように、圧電薄膜共振子2は、支持基板21の上に、接着層22、下面電極23、圧電体薄膜24及び上面電極25をこの順序で積層した構造を有している。第2実施形態の圧電薄膜共振子2は、第1実施形態の圧電薄膜共振子1と類似の構造を有しており、圧電薄膜共振子2の支持基板21、接着層22、下面電極23、圧電体薄膜24及び上面電極25は、下面電極23及び上面電極25のパターンを除いては、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、下面電極13、圧電体薄膜14及び上面電極15と同様のものとなっている。なお、以下では、圧電薄膜共振子1と同様の点についての重複説明は省略し、圧電薄膜共振子1とは異なる上面電極25及び下面電極23のパターンについて特に説明する。」

「【0058】
<3 第3実施形態>
図14は、本発明の第3実施形態に係る圧電薄膜共振子3の概略構成を示す斜視図である。また、図15は、図14のXV-XVの切断線における圧電薄膜共振子3の断面を示す断面図である。圧電薄膜共振子3も、圧電体薄膜34に励振される厚み縦振動による電気的な応答を利用した共振子となっている。
【0059】
図14及び図15に示すように、圧電薄膜共振子3は、支持基板31の上に、接着層32、下面電極33、圧電体薄膜34及び上面電極35をこの順序で積層した構造を有している。第3実施形態の圧電薄膜共振子3は、第2実施形態の圧電薄膜共振子2と類似の構造を有しており、圧電薄膜共振子3の支持基板31、接着層32、下面電極33、圧電体薄膜34及び上面電極35は、上面電極35の駆動部351が加重部分351Wを有することを除いては、それぞれ、圧電薄膜共振子2の支持基板21、接着層22、下面電極23、圧電体薄膜24及び上面電極25と同様のものとなっている。なお、以下では、圧電薄膜共振子2と同様の点についての重複説明は省略し、圧電薄膜共振子2とは異なる加重部分351Wについて特に説明する。」

「【0062】
圧電薄膜共振子3では、下面電極33は、略均一な膜厚の導電体薄膜となっているが、上面電極35は、略均一な膜厚の導電体薄膜の上に、駆動部351の長手方向に伸びる一対の対辺である長辺351Lの内側に沿う領域RG31に導電体薄膜をさらに重ねた構造を有している。図16においてハッチングを付された加重部分351Wは、上面電極35の膜厚を領域RG31において不可避的な変動を超えて部分的に厚くすることにより形成されている。
【0063】
加重部分351Wは、膜厚が略均一となっている駆動部351の中央部よりも単位面積あたりの質量が大きくなっており、領域RG31において弾性波のカットオフ周波数を低下させる役割を果たしている。圧電薄膜共振子3では、このカットオフ周波数の低下により、駆動部351及び331が圧電体薄膜34を挟んで対向する対向領域341において励振された振動の振動エネルギーが対向領域341から漏洩することを防止し、圧電体薄膜34の輪郭形状に依存する副共振を抑制している。」

「【0068】
なお、図15には、上面電極35の駆動部351に加重部分351Wを配置する例を示したが、上面電極35の駆動部351に代えて下面電極33の駆動部331に加重部分を配置してもよいし、上面電極35の駆動部351及び下面電極33の駆動部331の両方に加重部分を配置してもよい。また、駆動部351の膜厚を部分的に厚くすることにより加重部分351Wを形成すれば、加重部分351Wを容易に形成することができるが、このことは、駆動部351の膜厚を部分的に厚くすることに代えて、又は、駆動部351の膜厚を部分的に厚くすることに加えて、駆動部351の比重を部分的に大きくすることにより、加重部分351Wを形成することを妨げるものではない。」

上記記載から、特に「第3実施形態の圧電薄膜共振子3」に注目すると、「第3実施形態の圧電薄膜共振子3は、第2実施形態の圧電薄膜共振子2と類似の構造を有しており、圧電薄膜共振子3の支持基板31、接着層32、下面電極33、圧電体薄膜34及び上面電極35は、上面電極35の駆動部351が加重部分351Wを有することを除いては、それぞれ、圧電薄膜共振子2の支持基板21、接着層22、下面電極23、圧電体薄膜24及び上面電極25と同様のものとなっている」(【0059】参照)とあり、「第2実施形態の圧電薄膜共振子2は、第1実施形態の圧電薄膜共振子1と類似の構造を有しており、圧電薄膜共振子2の支持基板21、接着層22、下面電極23、圧電体薄膜24及び上面電極25は、下面電極23及び上面電極25のパターンを除いては、それぞれ、圧電薄膜共振子1の支持基板11、接着層12、下面電極13、圧電体薄膜14及び上面電極15と同様のものとなっている」(【0048】)とあることから、第1実施形態(段落【0022】〜【0046】)及び第2実施形態(段落【0047】〜【0057】)の構成を踏まえた第3実施形態として、引用文献4には、次の技術が記載されていると認められる。

「圧電薄膜共振子3は、支持基板31の上に、接着層32、下面電極33、圧電体薄膜34及び上面電極35をこの順序で積層した構造を有しており、
圧電体薄膜34の励振領域341に対向する支持基板31の所定の領域には、陥没(凹部又は掘り込み)が形成されており、
陥没は、圧電体薄膜34の励振領域341の下方にキャビティ(空洞)を形成し、圧電体薄膜34の励振領域341を支持基板31から離隔させ、励振領域341に励振された振動が支持基板31と干渉しないようにする役割を果たしており、
圧電薄膜共振子3では、下面電極33は、略均一な膜厚の導電体薄膜となっているが、上面電極35は、略均一な膜厚の導電体薄膜の上に、駆動部351の長手方向に伸びる一対の対辺である長辺351Lの内側に沿う領域RG31に導電体薄膜をさらに重ねた構造を有しており、
加重部分351Wは、上面電極35の膜厚を領域RG31において不可避的な変動を超えて部分的に厚くすることにより形成されており、
加重部分351Wは、膜厚が略均一となっている駆動部351の中央部よりも単位面積あたりの質量が大きくなっており、領域RG31において弾性波のカットオフ周波数を低下させる役割を果たしており、
圧電薄膜共振子3では、このカットオフ周波数の低下により、駆動部351及び331が圧電体薄膜34を挟んで対向する対向領域341において励振された振動の振動エネルギーが対向領域341から漏洩することを防止し、圧電体薄膜34の輪郭形状に依存する副共振を抑制しており、
上面電極35の駆動部351に代えて下面電極33の駆動部331に加重部分を配置してもよいし、上面電極35の駆動部351及び下面電極33の駆動部331の両方に加重部分を配置してもよいこと。」

(4)引用文献5
当審拒絶理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[0048] Referring to FIG. 1A, an acoustic wave resonator 100A is shown according to one embodiment of the present invention. The acoustic wave resonator 100A includes a substrate 110, an acoustic isolator 120 formed in or on the substrate 110, a first (bottom) electrode 130 formed on the acoustic isolator 120, a piezoelectric (PZ) layer 140 formed on the first electrode 130, and a second (top) electrode 150 formed on the piezoelectric layer 140.」
(当審訳:[0048]図1Aを参照すると、本発明の一実施形態にしたがって示される弾性波共振器100aが設けられている。弾性波共振器100Aは、基板110と、基板110の中又は上に形成された音響アイソレータ120、音響絶縁体120上に形成された第1の(下部)電極130、第1電極130上に形成された圧電(PZ)層140と、この圧電層140上に形成された第2(上部)電極150とを備えている。)

「[0049] The acoustic isolator 120 has a perimeter 125 defining a first edge 122 and an opposite, second edge 124. The acoustic isolator 120 can be an air cavity or an acoustic mirror. Alternatively, the acoustic isolator 120 can be defined by a dielectric layer 127 formed on the substrate 110.」
(当審訳:[0049]音響的絶縁装置120は、第1の端部122と、反対側の第2縁部124を画定する周囲125とを有している。音響アイソレータ120は、空気空洞又は音響ミラーとすることができる。あるいは、音響アイソレータ120は基板110上に形成された誘電体層127によって画定することができる。)

「[0052] As shown in FIG. 1A, the acoustic wave resonator 100A also includes a gasket 160A configured to establish a continuous boundary condition surrounding the perimeter 155 of the top electrode 150 so as to provide energy trapping of Lamb modes within the acoustic wave resonator 100A. The gasket 160A is formed on the PZ layer 140 and surrounds the perimeter 155 of the top electrode 150. Further, the gasket 160A is aligned inside the perimeter 125 of the acoustic isolator 120 in the horizontal direction. In this example, the gasket 160A is in contact with the perimeter 155 of the top electrode 150. As shown in FIG. 2 below, the gasket may be separated from the perimeter of the top electrode by a gap (a third distance), D3. The gap D3 is in a range from about 0 to 20 μm, and is preferred to be as small as possible.」
(当審訳:[0052]図1Aに示すように、弾性波共振器100A内のLambモードのエネルギー閉じ込めを提供するように、弾性波共振器100Aも上部電極150の外周155を取り囲む連続した境界条件を確立するように構成されたガスケット160Aを備えている。ガスケット160Aは、PZ層140上に形成され、上部電極150の外周155の外側を取り囲んでいる。また、ガスケット160Aは、水平方向に、音響アイソレータ120の周囲部125の内部に配置されている。この実施形態では、ガスケット160Aは、上部電極150の外周部155と接触している。以下、図2に示すように、ガスケットは、ギャップ(第3距離)、D3によって上部電極の周囲から分離することができる。間隔D3は、約0〜20nmの範囲にあり、可能な限り小さいことが好ましい。)

「[0053] The gasket 160A has dimensions characterized with a width, W, and a height, H. The gasket width W is preferred to be less than the first and second lateral distances D1 and D2, so that the gasket 160A is inside the first and second edges 122 and 124 of the acoustic isolator 120 in the horizontal direction. In this exemplary embodiment shown in FIG. 1A, the gasket height H is larger than a thickness of the top electrode 150. In other embodiments, the gasket height H may be equal to or less than a thickness of the top electrode 150. The dimensions of the gasket 160A are selected to improve the electrical properties as measured on the acoustic wave resonator 100A (or on filters made with the resonator). This may be determined by experimentation, Finite Element Modeling analysis, or other analytical solutions to determine the width W and the height H of the gasket 160A.」
(当審訳:[0053]ガスケット160Aは、幅Wで特徴付けられる大きさを有し、第1及び第2の横距離D1およびD2より短いことが好ましい高さ、ガスケット幅W、ガスケット160Aは、音響アイソレータ120の第1および第2端縁122と124の水平方向の内側にある。図1Aに示す本実施例では、ガスケットの高さHは、上部電極150の厚さよりも大きい。他の実施形態では、ガスケットの高さHは、上部電極150の厚さ未満であってもよい。ガスケット160Aの寸法は、弾性波共振器100A(または共振器で作られたフィルタ)で測定される電気特性を改善するように選択される。これは、ガスケット160Aの幅Wおよび高さHを決定するために、実験、有限要素モデリング解析、または他の解析解によって決定され得る。)

「[0055] In one embodiment, the substrate 110 is formed of silicon (Si) and the PZ layer 140 is formed of a piezoelectric material, such as, aluminum nitride (AlN), zinc oxide, or PZT. Alternatively, other piezoelectric materials may be used for the PZ layer 140. The bottom and top electrodes 130 and 150 are formed of an electrical conductive material such as tungsten (W) or molybdenum (Mo). The gasket 160A may be formed of a dielectric material including silicon oxide, silicon carbide, silicon nitride, or aluminum nitride, or formed of a metal material same as or substantially different from that of the bottom and top electrodes 130 and 150, e.g., W or Mo. For a metal gasket, the distance of the gap D3 can not be zero.」
(当審訳:[0055]一実施形態では、基板110は、シリコン(Si)により形成されており、PZ層140は、圧電物質、望ましくは、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛、PZT等で形成されている。あるいは、他の圧電材料は、PZ層140に使用することができる。下部および上部電極130および150は、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)などのような導電性材料で形成されている。ガスケット160Aは、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を含む誘電体材料、または、底部及び上部電極130及び150と同じ金属材料、例えば、W又はMo、あるいは異なる金属材料で形成することができる。金属ガスケットの場合、間隙D3の距離はゼロになることができない。)

上記記載から、引用文献5には次の技術が記載されているものと認められる。

「弾性波共振器100Aは、基板110と、基板110の中又は上に形成された音響アイソレータ120、音響絶縁体120上に形成された第1の(下部)電極130、第1電極130上に形成された圧電(PZ)層140と、この圧電層140上に形成された第2(上部)電極150とを備えており、
音響アイソレータ120は、空気空洞又は音響ミラーとすることができ、
弾性波共振器100Aも上部電極150の外周155を取り囲む連続した境界条件を確立するように構成されたガスケット160Aを備えており、
ガスケット160Aは、PZ層140上に形成され、上部電極150の外周155の外側を取り囲んでおり、
ガスケット160Aは、上部電極150の外周部155と接触しており、
ガスケットは、ギャップ(第3距離)、D3によって上部電極の周囲から分離することができ、
ガスケットの高さHは、上部電極150の厚さよりも大きく、
ガスケットの高さHは、上部電極150の厚さ未満であってもよく、
基板110は、シリコン(Si)により形成されており、PZ層140は、圧電物質、望ましくは、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛、PZT等で形成されており、
下部および上部電極130および150は、タングステン(W)またはモリブデン(Mo)などのような導電性材料で形成されており、
ガスケット160Aは、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を含む誘電体材料、または、底部及び上部電極130及び150と同じ金属材料、例えば、W又はMo、あるいは異なる金属材料で形成することができること。」

3.引用文献Bについて
原査定に引用された引用文献Bには、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0021】
図1に、本発明の例示的な態様による電気共振子構造100の断面図を示す。図示の例では、構造100はFBAR構造である。共振子構造100は、第1の電極102と接触する第1の表面と、第2の電極103と接触する第2の表面とを有する圧電材料の層101を備えている。電極102、103は、導電性材料を含み、層101の厚みの方向であるz方向での電界の振動を提供する。より詳細には、この例示的な態様では、z軸は、共振子のTE(縦方向)モードの軸である。
【0022】
圧電層101および電極102、103は、シリコンもしくは別の半導体材料または別の適切な材料であってよい基板105の選択的なエッチングによって形成された空洞104にわたされて架設されている。したがって、共振子100は、圧電層を介して電気的に接続されていてよい機械的共振子もしくは力学的共振子である。別の共振子100に接続した場合に得られる共振子のアレイは、電気フィルタとして機能できる。FBARを機械的に共振させるようにする別の架設形式も可能である。例えば、米国特許第6107721号に開示されているように、共振子100を、基板内もしくは基板上に設けられた不整合音響ブラッグ反射体(図示せず)上に配置することができる。この開示内容全体は、具体的には、参照により本開示に組み込まれる。」

「【0039】
図3に、本発明の例示的な態様による電極300の上面図を示す。電極300は、上述の電極103、205の1つであってよく、よって、上述のFBAR100またはSBAR200の構成要素であっってよい。
【0040】
電極300は、少なくとも2つの曲線辺を備えている。この態様では、第1の曲線辺301は、第2の曲線辺302に隣接している。この態様では、2つの曲線辺が設けられているが、2つ以上の曲線辺を有する別の幾何学形状とすることも可能である。曲線辺の弧の長さが同じであれば、凹状の辺が面積の対周長比を効果的に減少させることは理解されるであろう。これは、よって、非生産的であり、共振子のQ値に対して有害であり得る。そのため、例示的な態様による曲線辺は、凸状であって凹状でない。
【0041】
有利には、曲線辺301、302が面積の対周長比を増大させ、これにより、寄生モードに対するエネルギー損失を低下させ、所定の形状に加工された辺を備えている共振子のQ値が向上する。」

「【0043】
図示の態様では、2つの直線辺が設けられている。しかし、本教示により、さらに多い直線辺が設けられていてもよいが、直線辺は1つなくてはならない。その数に関わらず、直線辺は、平行でなく、隣接する辺がなす角度が直角になることを回避し、さらに他の有理角(例えば、30°、45°、60°等)を回避するように選択される。一般的に言えば、2つの直線辺は、pおよびqを整数として、mod pπ/qの角度を形成しないようになっている。」

上記記載から、引用文献Bには次の技術が記載されているものと認められる。

「共振子構造100は、第1の電極102と接触する第1の表面と、第2の電極103と接触する第2の表面とを有する圧電材料の層101を備えており、
圧電層101および電極102、103は、シリコンもしくは別の半導体材料または別の適切な材料であってよい基板105の選択的なエッチングによって形成された空洞104にわたされて架設されており、
電極300は、上述の電極103、205の1つであってよく、
電極300は、少なくとも2つの曲線辺を備えており、
この態様では、第1の曲線辺301は、第2の曲線辺302に隣接しており、
この態様では、2つの曲線辺が設けられているが、2つ以上の曲線辺を有する別の幾何学形状とすることも可能であり、
曲線辺301、302が面積の対周長比を増大させ、これにより、寄生モードに対するエネルギー損失を低下させ、所定の形状に加工された辺を備えている共振子のQ値が向上し、
さらに多い直線辺が設けられていてもよいが、直線辺は1つなくてはならず、
その数に関わらず、直線辺は、平行でなく、隣接する辺がなす角度が直角になることを回避し、さらに他の有理角(例えば、30°、45°、60°等)を回避するように選択されること。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 「上部電極と圧電層と下部電極との積層構造と、基板とを有する薄膜圧電共振器であって、」について

(ア) 引用発明は、「第1の面及び第2の面を有する圧電シート12と、前記第1の面上の導電性の層から成る第1の電極11と、前記第2の面上の導電性の層から成る第2の電極13とを有」することから、引用発明の「第2の電極13」、「圧電シート12」及び「第1の電極11」は、それぞれ本願発明1の「上部電極」、「圧電層」及び「下部電極」に相当する。
そして、引用発明は、「圧電シート12の両面に電極11、13が存在し、」「シートの厚み方向から見て、前記第1の電極11と第2の電極13が重なり合っている領域」があることから、引用発明の「第1の電極11」、「圧電シート12」及び「第2の電極13」は、積層されているといえる。したがって、引用発明の「第2の電極13」と「圧電シート12」と「第1の電極11」との積層されている構造は、本願発明1の「上部電極と圧電層と下部電極との積層構造」に相当する。

(イ) 引用発明の「基板」は、本願発明1の「基板」に相当する。

(ウ)引用発明の「薄膜圧電共振器」は、前記(ア)及び(イ)を踏まえると、「第2の電極13」と「圧電シート12」と「第1の電極11」との積層されている構造と、「基板」とを有するから、後述する相違点を除き、本願発明1の「上部電極と圧電層と下部電極との積層構造と、基板とを有する薄膜圧電共振器」に相当する。

イ 「前記下部電極と基板との間に反射界面が設けられ、」について

引用発明においては、「両面に電極を有する圧電シート12は空洞14を有する基板上に形成され、両面に電極を有する圧電シート12の一部は、空気と接しており、」「第1の電極11が空洞14に接しており、」「音波は電界と同方向で縦に伝搬されて電極/空気間の界面で反射する」ことから、引用発明の「第1の電極11が空洞14に接」する部分は、本願発明1の「反射界面」に相当する。
そして、引用発明においては、「両面に電極を有する圧電シート12は空洞14を有する基板上に形成され」ることから、引用発明の「第1の電極11が空洞14に接」する部分は、「第1の電極11」と「基板」との間に設けられている。
したがって、引用発明の「第1の電極11」と「基板」との間に「第1の電極11が空洞14に接」する部分が設けられる構造は、本願発明1の「前記下部電極と基板との間に反射界面が設けられ」る構造に相当する。

ウ 「前記積層構造の外郭は、1本の曲線と少なくとも1本の直線とを結ぶ閉じた線形状であり、」について

引用発明においては、「圧電振動領域15とは、圧電シート12の両面に電極11、13が存在し、電圧を印加することにより、圧電シート12の厚み方向に共振の発生する領域であり、シートの厚み方向から見て、前記第1の電極11と第2の電極13が重なり合っている領域であ」ることから、引用発明の「圧電振動領域15」の外郭は、前記ア(ア)を踏まえると、本願発明1の「前記積層構造の外郭」に相当する。
そして、引用発明においては、「圧電シート12の厚み方向から見た前記圧電振動領域15の形が、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなり、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形としては、直角二等辺三角形の他に、二等辺三角形、正三角形、扇形などが挙げられ」、引用発明の「扇形」は、本願発明1の「1本の曲線と少なくとも1本の直線とを結ぶ閉じた線形状」に相当する。
したがって、引用発明の「圧電振動領域15」の外郭として、「前記圧電振動領域15の形が、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなり、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からなる形としては、」「扇形」「が挙げられ」る構造は、本願発明1の「前記積層構造の外郭は、1本の曲線と少なくとも1本の直線とを結ぶ閉じた線形状であ」る構造に相当する。

エ 「前記曲線は、凸型又は凹型の線形状であり、」について

引用発明の「扇形」の曲線部分は、本願発明1の「凸型又は凹型の線形状」に相当する。

オ 「前記直線は、2本以上であり、」について

引用発明においては、「圧電シート12の厚み方向から見た前記圧電振動領域15の形が、長さの等しい2つの直線を含む3つの辺からな」ることから、引用発明は、本願発明1と「前記直線は、2本以上であ」る点で一致する。

カ 「隣接する直線同士のなす角度は、0度より大きく180度より小さく、」について

引用発明においては、「隣接する直線同士のなす角度」は、扇型の中心角にあたると言えるから、0度より大きいことは自明であるが、「180度より小さ」い点は特定されていない。

キ 「前記下部電極、圧電層及び上部電極の少なくとも一層にバンプ又は欠落部が設けられ、前記バンプ又は欠落部の数が少なくとも1つであり、」について

引用発明においては、「前記下部電極、圧電層及び上部電極の少なくとも一層にバンプ又は欠落部が設けられ、前記バンプ又は欠落部の数が少なくとも1つであ」る点は特定されていない。

ク 「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」について

引用発明においては、「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」点は特定されていない。

ケ 「薄膜圧電共振器」について

前記ア(ウ)で示したとおりである。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは、
「上部電極と圧電層と下部電極との積層構造と、基板とを有する薄膜圧電共振器であって、前記下部電極と基板との間に反射界面が設けられ、前記積層構造の外郭は、1本の曲線と少なくとも1本の直線とを結ぶ閉じた線形状であり、
前記曲線は、凸型又は凹型の線形状であり、
前記直線は、2本以上であり、隣接する直線同士のなす角度は、0度より大きい、
ことを特徴とする薄膜圧電共振器。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、「隣接する直線同士のなす角度は、0度より大きく180度より小さ」いのに対し、引用発明は隣接する直線同士のなす角度が180度より小さいことは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記下部電極、圧電層及び上部電極の少なくとも一層にバンプ又は欠落部が設けられ、前記バンプ又は欠落部の数が少なくとも1つである」のに対し、引用発明はそのような構成は特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」のに対し、引用発明はそのような構成は特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討すると、相違点3に係る本願発明1の「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」という構成は、上記引用文献1〜5には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2〜5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2〜5について
本願発明2〜5も、本願発明1の「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2〜5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和5年1月13日付けの補正により、補正後の請求項1〜5は、「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」という技術的事項を有するものとなった。当該「前記直線は、3本以上であり、そのうち少なくとも2本の直線が互いに平行である」は、原査定における引用文献A、C、D(当審拒絶理由における引用文献1、2、3)には記載されておらず、また、引用文献Bにも記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1〜5は、引用文献A及びBに記載された発明と同一でなく、また、当業者であっても、原査定における引用文献A〜Dに基づいて容易に発明できたものでもない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-02-20 
出願番号 P2020-555286
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
P 1 8・ 131- WY (H03H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 土居 仁士
赤穂 美香
発明の名称 薄膜圧電共振器  
代理人 桜田 圭  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  
代理人 美恵 英樹  
代理人 弁理士法人前田特許事務所  

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