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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02J
管理番号 1394932
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-06 
確定日 2023-03-07 
事件の表示 特願2019−530807「無線充電のための異物質検出方法及びそのための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日国際公開、WO2018/106072、令和 2年 1月23日国内公表、特表2020−502972、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)12月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年12月8日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 7月 2日付け:拒絶理由通知書
令和3年10月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月 7日付け:拒絶査定
令和4年 4月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年12月7日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

理由3(進歩性
この出願の請求項1〜10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1〜3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2015−46990号公報
2.特開2012−16171号公報
3.国際公開第2014/203346号

第3 本願発明
本願の請求項1〜7に係る発明(以下「本願発明1」〜「本願発明7」という。)は、令和4年4月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、本願発明1及び2は、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
無線電力送信機における異物質検出方法であって、
充電領域に配置された物体を感知して、品質因子値が最大であるピーク周波数を測定する段階と、
基準ピーク周波数が含まれた異物質検出状態パケットを無線電力受信機から受信する段階と、
前記基準ピーク周波数に基づいて異物質を検出するための周波数を決定する段階と、
前記ピーク周波数と前記決定された周波数を比較して異物質の存在有無を判断する段階と、
を含み、
前記異物質を検出するための周波数を決定する段階は、
前記基準ピーク周波数と許容誤差を合わせた値を前記異物質を検出するための周波数に決定する段階であり、
前記ピーク周波数が前記異物質を検出するための周波数より大きければ、前記異物質が存在すると判断し、
前記許容誤差は、前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値または前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値である、
異物質検出方法。
【請求項2】
無線電力送信機における異物質検出方法であって、
充電領域に配置された物体を感知して、品質因子値が最大であるピーク周波数を測定する段階と、
基準ピーク周波数が含まれた異物質検出状態パケットを無線電力受信機から受信する段階と、
前記基準ピーク周波数に基づいて異物質を検出するための周波数を決定する段階と、
前記ピーク周波数と前記決定された周波数を比較して異物質の存在有無を判断する段階と、
を含み、
前記異物質を検出するための周波数を決定する段階は、
前記基準ピーク周波数と許容誤差を合わせた値を前記異物質を検出するための周波数に決定する段階であり、
前記ピーク周波数が前記異物質を検出するための周波数より大きければ、前記異物質が存在すると判断し、
前記許容誤差は、前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値と前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値の大きい値である、異物質検出方法。」

なお、本願発明3及び4は、本願発明1または2を減縮した発明であり、本願発明5及び6はそれぞれ、本願発明2及び1に対応する装置の発明であり、本願発明7は、本願発明5または6を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1及び引用発明
原査定の拒絶の理由3に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は強調のため当審にて付与。以下同様。)。

「【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術は、上述の問題点を解消するためになされたものであり、その第1の側面は、受電装置に磁界を介して電力を供給する給電部と、上記給電部の電気特性値を測定して測定値を生成する測定部と、上記受電装置に設定された設定値を受信する受信部と、上記設定値と上記設定値とに基づいて上記磁界内の異物を検知する異物検知部と具備する給電装置、および、その制御方法である。これにより、受電装置に設定された設定値と測定値とに基づいて磁界内の異物が検知されるという作用をもたらす。」

「【0029】
給電装置100は、受電装置400および401に対して、磁界を介して電気的に非接触で電力を供給するものである。このような非接触給電により、ユーザは、AC(Alternating Current)アダプタ等への端子接続を行わなくとも、給電装置100に受電装置401や401を置くなどの容易な操作で充電を行うことができる。このような充電方式は、ユーザの負担を軽減させる。」

「【0032】
給電装置100は、電源が投入されると受電装置400が給電装置100の給電面に配置されたか否かを検知する。受電装置400が置かれたか否かは、給電面の抵抗値や重量の変化などから検知される。」

「【0037】
[給電装置の構成例]
図2は、第1の実施の形態における給電装置100の一構成例を示すブロック図である。この給電装置100は、共振回路110、給電制御部120、通信部130、測定部140および異物検知部160を備える。」

「【0046】
通信部130は、受電装置400との間でデータを送受信するものである。通信部130は、例えば、給電コイル112を介して、負荷変調方式により交流信号に重畳されたデータを受電装置400との間で送受信する。受電装置400から受信する受信データには、設定値として閾値を示すデータが含まれる。この閾値は、受電装置400に加えて、異物が磁界内にあるときにおける、共振回路110のQ値である。受電装置400の種類により導体の量は異なるため、閾値は、その量に基づいて予め受電装置400において設定される。Q値の定義や測定方法については、後述する。通信部130は、受信した閾値を異物検知部160に供給する。」

「【0053】
上式においてQtotalは、非接触給電システム全体のQ値である。また、kは、1次側のコイルと2次側のコイルとの電磁結合の度合いを示す結合係数であり、1次側および2次側のそれぞれのコイルの位置関係などにより変動する。Q1は、1次側のQ値(すなわち、共振回路110のQ値)であり、Q2は2次側のQ値である。式1および式2より、コイル間効率Emaxは、結合係数kと、1次側および2次側のそれぞれのQ値とから、理論的に一意に求められる。また、式1および式2は、結合係数k、Q1およびQ2のそれぞれの値が大きいほど、コイル間効率Emaxは高くなることを示す。このため、結合係数kが低くても、給電側のQ1や受電側のQ2が高ければ、高効率での電力伝送を行うことができる。
【0054】
また、Q1は、給電装置100が供給する磁界内に、金属片などの異物があると変動する。これは、磁界内の磁力線が金属片を通過して金属片に渦電流が発生するためである。この渦電流の発生により、等価回路上は、金属片と給電コイル112とが電磁的に結合して、給電コイル112に抵抗負荷がついたように見える。このため、給電コイル112を含む共振回路110のQ値(Q1)は低下する。したがって、共振回路110のQ値から、給電装置100は、異物の有無を検知することができる。
【0055】
測定部140は、共振回路110のQ値を測定するものである。測定部140は、テスト信号が送信されている間において、共振回路110のQ値を測定する。具体的には、測定部140は、コンデンサ111の両端のうち給電制御部120側の電圧V1と、コンデンサ111の両端のうち給電コイル112側の電圧V2とを測定する。V1およびV2の単位は、例えば、ボルト(V)である。そして、測定部140は、V1およびV2から、次の式を使用して共振回路110のQ値(Q1)を求める。測定部140は、測定したQ値を測定値として異物検知部160に供給する。
Q1=V2/V1=2πfL/rs ・・・式3」

「【0058】
異物検知部160は、閾値とQ値の測定値とから、磁界内の異物を検知するものである。異物検知部160は、その閾値と測定値とを比較し、測定値が閾値以下である場合には異物があると判断し、そうでない場合には異物がないと判断する。異物検知部160は、検知結果を給電制御部120に供給する。
【0059】
なお、異物検知部160は、閾値とQ値とを直接比較しているが、この構成に限定されない。閾値は、予め受電装置400に設定された値であるが、製品ばらつきや、コイルの位置ずれなどの原因により、設定時の閾値が適切な閾値からずれてしまうおそれがある。そこで、異物検知部160は、受信した閾値を、それより少し低い値に調整してから測定値と比較してもよい。閾値の調整は、閾値から所定値を減算したり、1未満の所定の係数を閾値に乗算したりすることにより行われる。
【0060】
また、異物検知部160は、閾値とQ値との比較結果から異物を検知しているが、この構成に限定されない。異物検知部160は、共振回路110におけるQ値以外の電気特性値と、閾値とを比較して、その比較結果から異物を検知してもよい。例えば、測定部140がQ値の代わりに共振回路110のインダクタンスを測定し、異物検知部160が、そのインダクタンスと閾値との比較結果から異物を検知してもよい。異物の材質によっては、インダクタンスの変化の方が、Q値の変化よりも大きいこともあるため、異物検知部160は、インダクタンスと閾値との比較から、そのような異物を検知することができる。
【0061】
また、測定部140がQ値の代わりに共振回路110の共振周波数を測定し、異物検知部160が、その測定値と閾値との比較結果から異物を検知してもよい。」

「【0069】
なお、検知対象サイズに対応するQ値を閾値として設定しているが、異物を検知することができる閾値を、受電装置内の導体の量に基づいて設定することができるのであれば、この設定方法に限定されない。例えば、異物がない状態で受電装置を設置した場合のQ値を求め、そのQ値から所定値を減算した値を閾値として設定してもよい。あるいは、異物がない状態で受電装置を設置した場合のQ値に、1未満の所定の係数を乗算した値を閾値として設定してもよい。」

「【0074】
ここで、共振周波数は、給電装置100内の部品品質のばらつき、給電コイルおよび受電コイルの位置関係、給電コイルや受電コイルと筐体に含有される金属との間の位置関係のばらつき、異物の位置やサイズなどにより変動する。そこで、異物がなく、各種の位置関係にずれがないなどの理想的な状態における共振周波数を設計値として、その設計値を含む一定の範囲の周波数帯域内で周波数スイープを行って、実際の共振周波数を探索する必要がある。」

「【0080】
図5は、第1の実施の形態における測定部140の一構成例を示すブロック図である。この測定部140は、バッファ回路141および142と、整流部143および144と、A/D変換部145と、Q値取得部146とを備える。」

「【0084】
Q値取得部146は、直流信号の電圧からQ値を求めるものである。Q値取得部146は、整流部143からの直流信号の電圧を電圧V1とし、整流部144からの直流信号の電圧を電圧V2として、式3を使用してQ値を算出してメモリ(不図示)などに保持する。Q値取得部146は、テスト信号の周波数が変更されるたびに、Q値を算出する。例えば、n個の周波数について周波数スイープが行われると、n個のQ値が算出される。
【0085】
ただし、前述したように、過渡応答によって、周波数を変更してから一定期間の間は振幅が一定レベルにならない。このため、この一定期間を経過してから次に周波数が変更されるまでの測定期間においてQ値取得部146は、Q値の算出を行う。
【0086】
Q値取得部146は、n個のQ値を算出すると、それらのQ値のうち最大値を選択し、その最大値を測定値として異物検知部160に供給する。」

「【0088】
図6は、第1の実施の形態におけるQ値と交流周波数との関係の一例を示すグラフである。同図の縦軸は、給電(1次)側のQ値であり、横軸は、テスト信号の交流周波数である。同図に示すように、給電装置100は、n個の交流周波数のそれぞれについて、周波数スイープを行い、Q値をn回測定する。Q値は、交流周波数が、共振周波数fpに略一致するときに最大となる。給電装置100は、この共振周波数fpのときの測定値Qpと、閾値とを比較し、その比較結果から異物を検知する。」

「【0101】
[給電装置の動作例]
図9は、第1の実施の形態における給電装置100の動作の一例を示すフローチャートである。この動作は、例えば、受電装置400が給電面に設置されたことを給電装置100が検知したときに開始する。
【0102】
給電装置100は、まず、Q値を測定するQ値測定処理を実行する(ステップS910)。そして、給電装置100は、受電装置400が通信可能な最小限の電力量W1を磁界を介して給電する(ステップS901)。
【0103】
そして、給電装置100は、受電装置400から、閾値を示すデータを受信する(ステップS902)。給電装置100は、測定したQ値と閾値とを比較し、Q値が閾値より高い(すなわち、異物がない)か否かを判断する(ステップS903)。
【0104】
Q値が閾値より高い場合には(ステップS903:Yes)、給電装置100は、電力量W1より高い電力量W2の電力を給電する(ステップS904)。一方、Q値が閾値以下である場合には(ステップS903:No)、給電装置100は、給電を停止する(ステップS905)。ステップS904またはS905の後、給電装置100は動作を停止する。」

「【図2】



「【図9】



したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 給電装置の制御方法であって(【0007】)、
給電装置100は、受電装置400に対して、磁界を介して電気的に非接触で電力を供給するものであり(【0029】)、
給電装置100は、電源が投入されると受電装置400が給電装置100の給電面に配置されたか否かを検知し、受電装置400が置かれたか否かは、給電面の抵抗値や重量の変化などから検知され(【0032】)、
給電装置100は、共振回路110、給電制御部120、通信部130、測定部140および異物検知部160を備え(【0037】)、
通信部130は、負荷変調方式により交流信号に重畳されたデータを受電装置400との間で送受信し、受電装置400から受信する受信データには、設定値として閾値を示すデータが含まれ、この閾値は、受電装置400に加えて、異物が磁界内にあるときにおける、共振回路110のQ値であり、通信部130は、受信した閾値を異物検知部160に供給し(【0046】)、
異物がない状態で受電装置を設置した場合のQ値を求め、そのQ値から所定値を減算した値を閾値として設定してもよく(【0069】)、
Q1は、1次側のQ値(すなわち、共振回路110のQ値)であり(【0053】)、
Q1は、給電装置100が供給する磁界内に、金属片などの異物があると変動し(【0054】)、
測定部140は、共振回路110のQ値を測定するものであり(【0055】)、
測定部140は、バッファ回路141および142と、整流部143および144と、A/D変換部145と、Q値取得部146とを備え(【0080】)、
Q値取得部146は、Q値を算出し、n個の周波数について周波数スイープが行われると、n個のQ値が算出され(【0084】)、
Q値取得部146は、n個のQ値を算出すると、それらのQ値のうち最大値を選択し、その最大値を測定値として異物検知部160に供給し(【0086】)、
Q値は、交流周波数が、共振周波数fpに略一致するときに最大となり(【0088】)、
異物検知部160は、閾値と測定値とを比較し、測定値が閾値以下である場合には異物があると判断し、そうでない場合には異物がないと判断し(【0058】)、
閾値は、予め受電装置400に設定された値であるが、製品ばらつきや、コイルの位置ずれなどの原因により、設定時の閾値が適切な閾値からずれてしまうおそれがあり、異物検知部160は、受信した閾値を、それより少し低い値に調整してから測定値と比較し、閾値の調整は、閾値から所定値を減算し(【0059】)、
測定部140がQ値の代わりに共振回路110の共振周波数を測定し、異物検知部160が、その測定値と閾値との比較結果から異物を検知してもよく(【0061】)、
給電装置100の動作は、受電装置400が給電面に設置されたことを給電装置100が検知したときに開始し(【0101】)、
給電装置100は、まず、Q値を測定するQ値測定処理を実行し、給電装置100は、受電装置400が通信可能な最小限の電力量W1を磁界を介して給電し(【0102】)、
給電装置100は、受電装置400から、閾値を示すデータを受信し、給電装置100は、測定したQ値と閾値とを比較し、Q値が閾値より高い(すなわち、異物がない)か否かを判断し(【0103】)、
Q値が閾値より高い場合には、給電装置100は、電力量W1より高い電力量W2の電力を給電し、一方、Q値が閾値以下である場合には、給電装置100は、給電を停止する(【0104】)
給電装置の制御方法」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由3に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【0011】
送電装置100は、少なくとも1個の送電コイル110と、異物の有無を判断する異物検出部300とを備える。受電装置200は、少なくとも1個の受電コイル210を備える。送電コイル110と受電コイル210との間には、異物が存在しうる。異物とは、送電コイル110と受電コイル210との間に存在する電力伝送効率を劣化しうる物体であれば良く、主に金属であって、磁性体を含んでも良い。異物検出部300は、図1では送電装置100に備えられるが、受電装置200に備えられても良く、送電装置100又は受電装置200とは別個の装置であっても良い。」

「【0027】
図4は、送電コイル110と受電コイル210との間の異物の有無、異物の位置に応じた、第1反射率の周波数特性の模式図である。第1状態の「異物なし」、第2状態の「異物あり(1)」、第3状態の「異物あり(2)」のそれぞれの状態に応じた、第1反射率の周波数特性及び第1ピーキング周波数を示す。
【0028】
図4に示すとおり、送電コイル110と受電コイル210との間に異物が存在する場合、第1ピーキング周波数が高くシフトする。異物が送電コイル110に近いほど、第1ピーキング周波数はより高くシフトする。第1ピーキング周波数のシフト量は、送電コイル110と異物との間の距離に反比例し、異物の大きさに正比例する。
【0029】
第1ピーキング周波数のシフト量が送電コイル110と異物との間の距離に反比例するため、異物検出部300は、通常(異物なし)時の第1ピーキング周波数と、異物検出時の第1ピーキング周波数との差分から、異物の有無を検出できる。また、第1ピーキング周波数との差分から異物への影響度を推測することが可能となる。異物の大きさが自明である場合はこの差分から異物の位置を特定できる。なお、異物検出部300は、図示しない記憶部を内蔵しており、通常(異物なし)時の第1ピーキング周波数を記憶する。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由3に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

「[0120] また、本願発明者が検討したところによれば、非接触給電システムにおいて送電中に送電範囲に異物が侵入した場合、異物が金属であれば共振周波数が高い方にずれる傾向があり、異物が非金属系のプラスチック等に覆われたICカード等であれば共振周波数が低い方にずれる傾向がある。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 「無線電力送信機における異物質検出方法であって」について

(ア)引用発明の「給電装置100」は、「受電装置400」に対して「非接触で電力を供給する」ものであるから、本願発明1の「無線電力送信機」に相当する。
(イ)引用発明の「金属片などの異物」は、本願発明1の「異物質」に相当する。
(ウ)引用発明の「給電装置100」は、「異物がある」または「異物がない」を判断するものであるから、「異物」を検出するものである。
(エ)したがって、引用発明の「給電装置の制御方法」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「無線電力送信機における異物質検出方法」に相当する。

イ 「充電領域に配置された物体を感知して、品質因子値が最大であるピーク周波数を測定する段階と」について

(ア)引用発明の「給電面」は、本願発明1の「充電領域」に相当する。
(イ)引用発明における「受電装置400」の「給電面」の配置(設置)の検知は、「給電面の抵抗値や重量の変化など」によるものであるから、該検知は、「給電面」に物体が配置されたことを感知するものといえる。そうすると、本願発明1と引用発明は、「充電領域に配置された物体を感知」する点で一致する。
(ウ)引用発明の「Q値」は、本願発明1の「品質因子値」に相当する。
(エ)引用発明の「給電装置100」は、「給電面」に「受電装置400」が配置されたことを検知すると、「測定部140」が「周波数スイープ」を行って「n個」の「共振回路110のQ値」を算出し、それらのうち「最大値を測定値」とし、該「最大値」は「交流周波数が、共振周波数fpに略一致するとき」である。そうすると、引用発明の「共振周波数fp」は、本願発明1の「品質因子値が最大であるピーク周波数」に相当する。
(オ)前記(エ)を踏まえると、引用発明の「測定値」である「Q値」の「最大値」は、「共振周波数fp」に関する「測定値」といえるから、本願発明1において「測定」される「品質因子値が最大であるピーク周波数」とは、「品質因子値が最大であるピーク周波数に関する値」である点で共通するといえる。
(カ)したがって、前記(ア)〜(オ)によれば、本願発明1と引用発明は、「充電領域に配置された物体を感知して、品質因子値が最大であるピーク周波数に関する値を測定する段階」を有する点で共通するといえる。

ウ 「基準ピーク周波数が含まれた異物質検出状態パケットを無線電力受信機から受信する段階と」について

(ア)引用発明の「閾値」は、「受電装置400に加えて、異物が磁界内にあるときにおける、共振回路110のQ値」または「異物がない状態で受電装置を設置した場合のQ値を求め、そのQ値から所定値を減算した」「Q値」である。また、前記「閾値」は、「測定したQ値」との比較のための基準の値といえる。そうすると、引用発明の「閾値」は、本願発明1の「基準ピーク周波数」とは「基準値」である点で共通するといえる。
(イ)引用発明の「受電装置400」は、前記ア(ア)を踏まえると、本願発明1の「無線電力受信機」に相当し、引用発明は、該「受電装置400」から前記(ア)の「閾値」を示すデータを含む「受信データ」を受信するものである。そして、送受信される通信データをパケットと称することは技術常識であるから、引用発明の前記「受信データ」は、本願発明1の「異物質検出状態パケット」とは「基準値が含まれたパケット」である点で共通する。
(ウ)したがって、前記(ア)及び(イ)によれば、本願発明1と引用発明は、「基準値が含まれたパケットを無線電力受信機から受信する段階」を有する点で共通する。

エ 「前記基準ピーク周波数に基づいて異物質を検出するための周波数を決定する段階と」について

(ア)引用発明の「少し低い値」は、受信した「閾値」を「調整」したものであるから、前記ウ(ア)も踏まえると、該「少し低い値」は、「閾値」に基づくQ値である。また、前記「少し低い値」は、「測定したQ値」の「最大値」と比較され、その比較結果により異物を検出するから、異物を検出するための値といえる。そうすると、引用発明の前記「少し低い値」と本願発明1の「前記基準ピーク周波数に基づ」く「異物質を検出するための周波数」は、「前記基準値に基づく異物質を検出するための値」である点で共通する。
(イ)また、前記(ア)の「少し低い値」に「調整」することは、「少し低い値」を決定することといえる。
(ウ)したがって、前記(ア)及び(イ)によれば、本願発明1と引用発明は、「前記基準値に基づいて異物質を検出するための値を決定する段階」を有する点で共通するといえる。

オ 「前記ピーク周波数と前記決定された周波数を比較して異物質の存在有無を判断する段階と、を含み」について

引用発明は、前記エ(ア)のとおり、「測定したQ値」の「最大値」と「少し低い値」を「比較」し、その比較結果により「異物」の有無を判断する。
したがって、前記イ(オ)及びエも踏まえると、本願発明1と引用発明は、「前記ピーク周波数に関する値と前記決定された異物質を検出するための値を比較して異物質の存在有無を判断する段階と、を含」む点で共通する。

カ 「前記異物質を検出するための周波数を決定する段階は」について

前記エのとおり、本願発明1と引用発明は、「前記異物質を検出するための値を決定する段階」を有する点で共通する。

キ 「前記基準ピーク周波数と許容誤差を合わせた値を前記異物質を検出するための周波数に決定する段階であり」について

(ア)引用発明の「閾値」から減算する「所定値」は、「製品ばらつきや、コイルの位置ずれなどの原因により、設定時の閾値が適切な閾値からずれてしまうおそれ」を考慮するためのものであるから、該「所定値」は、設定された「閾値」(前記ウ(ア)のとおりQ値である。)と適切な閾値との許容差と解される。そうすると、引用発明の前記「所定値」は、本願発明1の基準ピーク周波数の「許容誤差」とは、「基準値の許容差」である点で共通するといえる。
(イ)前記(ア)を踏まえると、引用発明の「閾値」から「所定値」を「減算」した「少し低い値」は、本願発明1の「前記基準ピーク周波数と許容誤差を合わせた値」とは、「前記基準値と基準値の許容差から算出した値」である点で共通するといえる。
(ウ)したがって、前記エ(ア)も踏まえると、本願発明1と引用発明は、「前記基準値と基準値の許容差から算出した値を前記異物質を検出するための値に決定する段階」を有する点で共通する。

ク 「前記ピーク周波数が前記異物質を検出するための周波数より大きければ、前記異物質が存在すると判断し」について

引用発明は、「測定したQ値」の「最大値」が前記「少し低い値」「以下」である場合に、「異物がある」と判断するものであるから、本願発明1の「前記ピーク周波数が前記異物質を検出するための周波数より大きければ、前記異物質が存在すると判断」する構成を有しない。

ケ 「前記許容誤差は、前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値または前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値である」について

(ア)前記キ(ア)のとおり、引用発明の「所定値」は、「製品ばらつきや、コイルの位置ずれなどの原因」による「設定時の閾値」と「適切な閾値」のずれを考慮するためのものであり、「閾値」の変化量といえる。
他方で、前記「閾値」はQ値であるから、前記「所定値」は、本願発明1の「最大ピーク周波数変化量」に対応するものではない。
(イ)したがって、引用発明は、本願発明1の「前記許容誤差は、前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値または前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値である」ことを示すものではない。

コ 前記ア〜ケによれば、本願発明1と引用発明は、以下の点において一致及び相違する。

<一致点>
無線電力送信機における異物質検出方法であって、
充電領域に配置された物体を感知して、品質因子値が最大であるピーク周波数に関する値を測定する段階と、
基準値が含まれたパケットを無線電力受信機から受信する段階と、
前記基準値に基づいて異物質を検出するための値を決定する段階と、
前記ピーク周波数に関する測定値と前記決定された異物質を検出するための値を比較して異物質の存在有無を判断する段階と、
を含み、
前記異物質を検出するための値を決定する段階は、
前記基準値と基準値の許容差から算出した値を前記異物質を検出するための値に決定する段階である、
異物質検出方法。

<相違点>
[相違点1]
「測定」される「品質因子値が最大であるピーク周波数に関する値」が、本願発明1は、「品質因子値が最大であるピーク周波数」であるのに対し、引用発明は、「Q値」の「最大値」である点。

[相違点2]
「基準値」について、本願発明1は、「基準ピーク周波数」であるのに対し、引用発明の「閾値」は、「受電装置400に加えて、異物が磁界内にあるときにおける、共振回路110のQ値」または「異物がない状態で受電装置を設置した場合のQ値を求め、そのQ値から所定値を減算した」「Q値」である点。
これに付随して、無線電力受信機から受信する「基準値が含まれたパケット」は、本願発明1は、「基準ピーク周波数が含まれた異物質検出状態パケット」であるのに対し、引用発明は、前記「閾値」を示すデータが含まれた「受信データ」である点。

[相違点3]
「異物質を検出するための値」が、本願発明1は「異物質を検出するための周波数」であるのに対し、引用発明は、「少し低い値」であるQ値である点。
また、「基準値の許容差」が、本願発明1は、「基準ピーク周波数」の「許容誤差」であって、具体的には「無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値」または「無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値」であるのに対し、引用発明は、Q値である「閾値」の許容差である「所定値」であって、「製品ばらつきや、コイルの位置ずれなどの原因」による適切な閾値からのずれを考慮したものである点。
さらに、本願発明1の前記「異物質を検出するための周波数」は、前記「基準ピーク周波数」と前記「許容誤差」を「合わせた」値であるのに対し、引用発明の前記「少し低い値」は、前記「閾値」から前記「所定値」を「減算」した値である点。

[相違点4]
相違点2及び3に関連して、「異物質の存在有無を判断する」ための「比較」が、本願発明1は、測定した「ピーク周波数」と「異物質を検出するための周波数」の比較であるのに対し、引用発明は、測定した「Q値」の「最大値」とQ値である「少し低い値」の比較である点。
さらに、前記「異物質の存在有無」の「判断」が、本願発明1は、測定した「ピーク周波数」が「異物質を検出するための周波数」より「大き」ければ、異物質が存在すると判断するのに対し、引用発明は、測定した「Q値」の「最大値」が、前記「少し低い値」「以下」のときに、異物が存在すると判断する点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、相違点3について検討する。

イ 引用発明は、「異物を検出するための値」として、「閾値」を調整した「少し低い値」の「Q値」を用いるものであるが、引用発明は、「測定部140がQ値の代わりに共振回路110の共振周波数を測定し、異物検知部160が、その測定値と閾値との比較結果から異物を検知してもよ」いものである。そして、その場合において、「異物が磁界内にあるときにおける、共振回路110の」共振周波数、または、「異物がない状態で受電装置を設置した場合の」共振回路110の共振周波数から何らかの調整をした共振周波数の値を「閾値」に用い、それを調整した値を「異物を検出するための値」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

ウ そこで、引用発明を、前記イのとおり、「共振周波数」を「閾値」に用いる構成とする場合に、「異物を検出するための値」として、「無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値」を前記「閾値」に「合わせる」こと、及び、「無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値」を前記「閾値」に「合わせる」ことについて、以下のエ及びオで検討する。

エ(ア)引用発明の「所定値」、すなわち「閾値」(Q値)の許容差は、「コイルの位置ずれ」を考慮したものである。

(イ)この「コイルの位置ずれ」は、「受電装置400」が最大の電力を受信可能な位置から移動した位置に配置されることによる、「給電装置100」と「受電装置400」それぞれの「コイル」の「位置ずれ」であることは明らかであるから、前記「所定値」は、「受電装置400」の移動によるQ値の変化量ともいえる。
そして、前記イのとおり、引用発明を、「閾値」に「共振周波数」を用いる場合に、前記「所定値」を「共振周波数」の変化量とすべきことは明白である。

(ウ)他方で、引用発明において、「コイルの位置ずれ」により、「給電装置100」の「共振回路110の共振周波数」が高くなることは特定されておらず、また、技術常識に照らして自明な事項であるともいえない。
このことは、引用発明を、「閾値」に「共振周波数」を用いる構成にするときに、前記(イ)のとおり「共振周波数」の変化量とする「所定値」を、該「閾値」に合わせて(加算して)「異物を検出するための値」とする合理的な理由がないことを意味する。

(エ)したがって、引用発明を、「異物を検出するための値」として、「無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値」を「閾値」に「合わせる」構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

オ(ア)引用発明における「所定値」は、「製品ばらつき」を考慮したものでもある。

(イ)しかしながら、引用発明の前記「製品ばらつき」は、段落【0074】に記載されているように「給電装置100内の部品品質のばらつき」のことであると解され、「給電装置100」の「種類」による「ばらつき」ではない。

(ウ)そして、引用文献1には、「給電装置100」の「種類」による「閾値」のずれを考慮すべき点についての記載も示唆もなく、引用文献2及び3にも記載も示唆もなく、本願優先日前における周知技術であるともいえないから、引用発明において、「給電装置100」の「種類」を考慮した「無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値」を導入することが、当業者において容易であるとはいえない。

カ 前記エ及びオに示したとおりであるから、引用発明を、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

キ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者といえども、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、「基準ピーク周波数」に合わせる「許容誤差」を、「前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値と前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値の大きい値」とするものである。
そして、本願発明2は、本願発明1の「許容誤差」は「前記無線電力受信機の移動による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第1許容誤差値」または「前記無線電力送信機の種類による最大ピーク周波数変化量に基づいて予め決定された第2許容誤差値」であるとの事項に、「第1許容誤差値」と「第2許容誤差値」の「大きい値」との条件を付したものといえるから、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。
したがって、本願発明2は、本願発明1と同様の理由により、当業者といえども、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明3及び4について
本願発明3及び4は、本願発明1または本願発明2を減縮したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者といえども、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明5〜7について
本願発明5及び6は、本願発明2及び1を異物質検出装置の観点で表現したものであり、いずれも前記相違点3に係る本願発明1の構成に対応する構成を備えるものであり、また、本願発明7は、該本願発明6または7を減縮したものであるから、本願発明5〜7は、本願発明1と同様の理由により、当業者といえども、引用発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 小括
よって、本願発明1〜7は、当業者といえども、引用文献1〜3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由3を維持することはできない。

なお、原査定において、請求項4及び9に係る発明の「一時中断」との事項、請求項8〜10に係る発明の「前記無線電力送信機」との事項は明確でなく、特許法第36条第6項第2号明確性)の拒絶理由がある旨の付記がなされているが、令和4年4月6日にされた手続補正により、本願発明1〜7は、前記「一時中断」及び「前記無線電力送信機」との事項を有しないものとなったから、付記された前記拒絶理由は解消された。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2023-02-20 
出願番号 P2019-530807
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H02J)
P 1 8・ 121- WY (H02J)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 土居 仁士
特許庁審判官 寺谷 大亮
衣鳩 文彦
発明の名称 無線充電のための異物質検出方法及びそのための装置  
代理人 金山 賢教  
代理人 市川 祐輔  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 飯野 陽一  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 安藤 健司  
代理人 重森 一輝  
代理人 小野 誠  
代理人 市川 英彦  
代理人 櫻田 芳恵  

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