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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01G 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C01G |
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管理番号 | 1395166 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-04 |
確定日 | 2022-12-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6659894号発明「リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6659894号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕、〔10〜25〕について訂正することを認める。 特許第6659894号の請求項1、4、7〜10、12〜25に係る特許を維持する。 特許第6659894号の請求項2、3、5、6、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6659894号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜25に係る特許についての出願は、平成31年4月12日に出願され、令和2年2月10日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月4日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1〜25に係る特許について、令和2年9月4日に特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年12月9日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、令和3年2月8日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年4月14日に意見書(以下、「意見書1」という。)を提出した。そして、当審は、同年8月3日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、令和3年10月19日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、本件訂正請求に対して、申立人は、同年12月8日に意見書(以下、「意見書2」という。)を提出した。 なお、本件訂正請求がされたので、先の訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである(下線部は、訂正箇所を示す。)。 なお、以下に示す訂正事項1〜6に係る訂正前の請求項1〜9について、請求項2〜9は、直接的又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜9は、一群の請求項である。 また、訂正事項7〜10に係る訂正前の請求項10〜17、23〜25は、請求項11〜17、23〜25が直接又は間接的に請求項10を引用する関係にあり、さらに、訂正事項9、10に係る訂正前の請求項18〜25は、請求項19〜25が直接又は間接的に請求項18を引用する関係にあるところ、両関係は、請求項23〜25を介して、一体として特許請求の範囲の一部を形成するように連関しており、特許法施行規則第45条の4に定める関係にあるから、結局、訂正前の請求項10〜25は、一群の請求項を構成するものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下である、リチウム金属複合酸化物粉末。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。」 とあるのを、 「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下であり、 累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり、 下記組成式(I)−1で表され、 コア粒子と被覆物とを備え、 前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物(ただし、元素MはB、Nb及びPから選ばれる1種以上である。)を含む、リチウム金属複合酸化物粉末。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。 Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。)」 に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2〜9も同様に訂正する。なお、請求項2、3、5、6は、下記訂正事項2により、削除する。) (2)訂正事項2 請求項2、請求項3、請求項5、請求項6及び請求項11を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に、 「前記式(I)のmが0<m≦0.2である、請求項3に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 とあるのを、 「前記式(I)のm1が0<m1≦0.2である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に、 「さらに単粒子を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 とあるのを、 「さらに単粒子を含む、請求項1又は4に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8に、 「50%累積径(D50)が0.5μm以上10μm以下であり、さらに、下記式(A)の関係を満たす、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 とあるのを、 「下記式(A)の関係を満たす、請求項1,4及び7のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項9に、 「請求項1〜8のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載」 に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項10に、 「下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、 前記工程(b1)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b1−A)を備える。」 とあるのを、 「下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり、 前記工程(b1)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b1−A)を備える。」 に訂正する。(請求項10の記載を引用する請求項11〜25も同様に訂正する。なお、請求項11は、上記訂正事項2により削除する。) (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項12に、 「請求項10または11に記載」 とあるのを、 「請求項10に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項13に、 「請求項11又は12に記載」 とあるのを、 「請求項10又は12に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項14に、 「請求項11〜13のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12,13のいずれか1項に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項15に、 「請求項10〜14のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12〜14のいずれか1項に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項16に、 「請求項10〜15のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12〜15のいずれか1項に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項17に、 「請求項10〜16のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12〜16のいずれか1項に記載」 に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項18に、 「下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。」 とあるのを、 「下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。」 に訂正し、 「工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。」 とあるのを、 「工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。」に訂正する。(請求項18の記載を引用する請求項19〜25も同様に訂正する。) (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項24に、 「請求項10〜23のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12〜23のいずれか1項に記載」 に訂正し、 特許請求の範囲の請求項25に、 「請求項10〜24のいずれか1項に記載」 とあるのを、 「請求項10,12〜24のいずれか1項に記載」 に訂正する。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、Rの累積頻度分布曲線に関し、 「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下である、」 とあるのを、 「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下であり、 累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり、」 に訂正し、 リチウム金属複合酸化物粉末に関し、 「リチウム金属複合酸化物粉末」 とあるのを、 「下記組成式(I)−1で表され、 コア粒子と被覆物とを備え、 前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物(ただし、元素MはB、Nb及びPから選ばれる1種以上である。)を含む、リチウム金属複合酸化物粉末。」 及び、 「Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。)」 に訂正し、Rの累積頻度分布曲線におけるRの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)、累積粒度分布曲線における累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))、及びリチウム金属複合酸化物粉末が所定の被覆物を備え、組成式(I)―1で表されることを特定するものであるから、当該訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、上記訂正事項1の「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下であり、」に関しては、訂正前の請求項2に「前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」との記載があることに基づくものであり、上記訂正事項1の「累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり、」に関しては、本件明細書の段落【0057】に「前記50%累積径(D50)の下限値は、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。前記50%累積径(D50)の上限値は、8.0μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下がさらに好ましい。50%累積径(D50)の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.0μm以上8.0μm以下が好ましく、1.5μm以上6.0μm以下がより好ましく、2.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。」との記載があることに基づいて訂正したものである。 上記訂正事項1の「下記組成式(I)−1で表され、」と「Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。)」に関しては、本件明細書の段落【0038】に 「≪組成式(I)−1≫ 本願の効果を高める観点から、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、下記組成式(I)−1で表されることがさらに好ましい。Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。)」との記載があることに基づいて訂正したものである。 上記訂正事項1の「コア粒子と被覆物とを備え、前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物(ただし、元素MはB、Nb及びPから選ばれる1種以上である。)を含む、」に関しては、本件特許請求の範囲の請求項5に「コア粒子と被覆物とを備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」との記載があり、本件特許請求の範囲の請求項6に「前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物を含む請求項5に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。ただし、元素MはAl、Zr、B、Si、S、Nb、F及びPから選ばれる1種以上である。」との記載があり、さらに、本件明細書の段落【0048】に「≪被覆物≫ 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、コア粒子とコア粒子を被覆する被覆物とを備えることが好ましい。被覆物は、被覆層又は被覆粒子であることが好ましい。被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物を含むことが好ましい。元素MはAl、Zr、組成式(I)−1におけるM1から選ばれる1種以上であることが好ましく、Al、Zr、B、Nb及びPから選ばれる1種以上がより好ましく、B、Nb及びPから選ばれる1種以上がさらに好ましく、・・・」という記載及び本件明細書の【表1】、【表2】に記載された実施例において元素Mとして、B、Nb及びPが用いられていることに基づいて訂正したものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2、請求項3、請求項5、請求項6及び請求項11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項4が引用する請求項3の式(I)のmの値を特定したものであるところ、請求項3が削除され、請求項1において式(I)―1が新たに特定されたことにともなって、請求項1を引用して訂正後の請求項1の式(I)−1のm1の値を特定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正事項3は、本件明細書の段落【0038】に記載された「組成式(I)−1」のm1について、同じく段落【0039】の「本実施形態においては、0<m1≦0.2であることが好ましく」との記載があることに基づいて訂正したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。 なお、訂正後の請求項4では、「前記式(I)」と記載されているが、訂正後の請求項1を引用することにより、当該請求項1で新たに特定した「式(I)−1」のm1を特定していることは明らかであるから、訂正後の請求項4の当該「前記式(I)」は、「式(I)−1」の明らかな誤記であると認める。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項7が請求項1〜6の記載を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項2、3、5、6が削除されることにともなって、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項8が、「50%累積径(D50)が0.5μm以上10μm以下であり、さらに、下記式(A)の関係を満たす、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。」とあるのを、請求項8が引用する請求項1において「微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり」と特定されたことにともなって、請求項8の不要な記載を削除するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、訂正事項5は、請求項2、3、5、6が削除されることにともなって、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項9が請求項1〜8の記載を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項2、3、5、6が削除されることにともなって、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、訂正前の請求項10のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法に関し、「請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法」と訂正し、訂正前の請求項10の工程(b)に関して、「工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」とあるのを、「工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」に訂正し、同じく工程(b)に関して、「前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり、」に訂正するものであって、請求項10に係る発明が請求項1、4、7及び8に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法であることを特定し、上記工程(b)の元素MをB、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種に特定し、上記工程(b1)が、さらに上記工程(b1−1)であることを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、上記訂正事項7の「請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法」は、訂正前の請求項10のリチウム金属酸化物粉末の製造方法は、本件特許請求の範囲に記載されたリチウム金属複合酸化物粉末を製造する方法であることが明らかであることから、本件特許請求の範囲の記載に基づくものであり、上記訂正事項7の「工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」は、訂正事項1と同様であって、訂正前の請求項5、6の記載、本件明細書の段落【0048】の記載、並びに、【表1】及び【表2】の記載に基づくものであり、上記訂正事項7の「前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり、」の訂正は、訂正前の請求項11の「前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)である、請求項10に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。」との記載に基づくものである。 したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は、訂正前の請求項12〜17が、それぞれ請求項11を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項11が削除されたことにともなって、選択的に引用する請求項である請求項11を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (9)訂正事項9について 訂正事項9は、訂正前の請求項18のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法に関し、「請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法」と訂正し、訂正前の請求項18の工程(b)に関して、「工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」とあるのを、「工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」に訂正するものであって、請求項18に係る発明が請求項1、4、7及び8に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法であることを特定し、上記工程(b)の元素MをB、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種に特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、上記訂正事項9の「請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法」は、訂正前の請求項18のリチウム金属酸化物粉末の製造方法は、本件特許請求の範囲に記載されたリチウム金属複合酸化物粉末を製造する方法であることが明らかであることから、本件特許請求の範囲の記載に基づくものであり、上記訂正事項9の「工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、」は、訂正事項1と同様であって、訂正前の請求項5、6の記載、本件明細書の段落【0048】の記載、並びに、【表1】及び【表2】の記載に基づくものである。 したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。 (10)訂正事項10について 訂正事項10は、訂正前の請求項24、25が、それぞれ請求項11を引用するものであったところ、訂正事項2によって請求項11が削除されたことにともなって、選択的に引用する請求項である請求項11を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜10〕、〔11〜25〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求による訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1、4、7〜10、12〜25に係る発明(以下、各請求項に係る発明を項番に対応させて「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、4、7〜10、12〜25に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(下線部は、訂正箇所を示す)。 「【請求項1】 層状構造を有し、少なくともLiとNiと元素X(元素XはCo、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、In、V、B、Si、S、F及びPからなる群より選択される1種以上の元素)を含むリチウム金属複合酸化物粉末であって、 下記に定義するRの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値R(90)が1.7以上3.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下であり、 累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり、 下記組成式(I)−1で表され、 コア粒子と被覆物とを備え、 前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物(ただし、元素MはB、Nb及びPから選ばれる1種以上である。)を含む、リチウム金属複合酸化物粉末。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。 Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。) 【請求項2】 (削 除) 【請求項3】 (削 除) 【請求項4】 前記式(I)のm1が0<m1≦0.2である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 【請求項5】 (削 除) 【請求項6】 (削 除) 【請求項7】 さらに単粒子を含む、請求項1又は4に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 【請求項8】 粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、下記式(A)の関係を満たす、請求項1,4及び7のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 0.3≦(D90−D10)/D50≦3・・・(A) 【請求項9】 請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末を含有するリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項10】 下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり、 前記工程(b1)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b1−A)を備える。 【請求項11】 (削 除) 【請求項12】 前記工程(b1)において、前記原料化合物を−20℃以上300℃以下の温度に調整し、前記被覆原料溶液1と接触させる、請求項10に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項13】 前記工程(b1−1)において、前記被覆原料溶液1の噴霧液滴のザウター平均粒径D32が10μm以上500μm以下である、請求項10又は12に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項14】 前記工程(b1−1)において、前記原料化合物のメジアン径DP50と、前記被覆原料溶液1を噴霧する際の噴霧液滴のザウター平均粒径D32との比(DP50/D32)が、0.001以上10以下である、請求項10,12,13のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項15】 前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1を前記原料化合物と接触させる際の、前記被覆原料溶液1の温度が、−20℃以上300℃以下である、請求項10,12〜14のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項16】 前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1中の元素Mの濃度が、0.001mol/L以上100mol/L以下である、請求項10,12〜15のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項17】 前記工程(b1)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項10,12〜16のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項18】 下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記原料化合物を、前記元素Mとリチウムとを含む被覆原料溶液2に浸漬させて原料混合物を得る工程(b2)であって、 前記工程(b2)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b2−A)を備える。 【請求項19】 前記工程(b2)において、前記原料化合物に対する前記被覆原料溶液2の量が、重量基準で0.1倍以上10倍以下である、請求項18に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項20】 前記被覆原料溶液2の温度が−20℃以上80℃以下である、請求項18または19に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項21】 前記工程(b2)において、前記被覆原料溶液2に含まれるLiの濃度が、0.01mol/L以上10mol/L以下である、請求項18〜20のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項22】 前記工程(b2)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項18〜21のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項23】 前記工程(b)において、前記原料混合物に含まれるリチウムを含む化合物は、結晶構造中に含まれるLiを除くLiの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項10または18に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項24】 前記工程(b)において、前記原料化合物に含まれるLiを除く金属元素の総量(Ni+X)に対する、被覆原料に含まれる元素Mの割合(M/(Ni+X))は、モル比で0.0001以上0.05以下である、請求項10,12〜23のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項25】 前記原料化合物が、下記式(II)を満たす請求項10,12〜24のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 Li(Lip(Ni(1−q−r)CoqX1r)1−p)O2 ・・(II) (−0.1≦p≦0.2、0≦q≦0.4、0≦r≦0.4、1−q−r≧0.3、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)」 第4 特許異議の申立ての理由及び証拠方法について 特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証〜甲第5号証(以下、「甲1」〜「甲5」という。)を提出し、本件特許は、以下の「申立理由1〜3」により取り消すべきものである旨主張している。 1 申立ての理由 (1)申立理由1(新規性・進歩性欠如) ア 設定登録時の請求項1〜17、23〜25に係る発明は、甲1に記載された発明であって特許法第29条第1項3号に該当するか、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 イ 設定登録時の請求項1〜10、12、15、17〜20、22〜25に係る発明は、甲2に記載された発明であって特許法第29条第1項3号に該当するか、または、設定登録時の請求項1〜10、12、15〜25に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反・実施可能要件違反) 設定登録時の請求項1〜25に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、また、本件明細書の発明の詳細な記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)申立理由3(明確性要件違反) 設定登録時の請求項1〜25に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 証拠方法 甲1:特開2019―46716号公報 甲2:特開2013―137947号公報 甲3:特開2017―65975号公報 甲4:特開2018―106892号公報 甲5:特開2019―33016号公報 第5 取消理由通知に記載した取消理由について 当審が令和2年12月9日付け及び令和3年8月3日付けで通知した取消理由をまとめて整理すると、その概要は以下のとおりである。 1 取消理由1(サポート要件違反) (1)設定登録時の請求項1〜25に係る発明、及び先の訂正請求により訂正された請求項1〜10、12〜25に係る発明は、「自己放電量が少ないリチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法を提供すること」(本件明細書の段落【0006】)を発明が解決しようとする課題とするものである。 しかし、本件明細書に記載された実施例は、Bを含む被覆原料溶液を原料化合物に噴霧して、又はB、P若しくはNbを含む被覆原料溶液に原料化合物を浸漬して、これらの被覆原料溶液による処理により得られたリチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質とした例のみであるから、特定の組成式、被覆物の元素M、及びさらには特定の粒子径を前提とするものに限られると解される。また、同じく段落【0028】の記載によれば、R(10)の値も、発明の課題に係る自己放電に影響するものと認められる。 そうすると、Rの累積頻度分布曲線において、R(90)及びR(50) の値についてのみ特定したリチウム複合酸化物粉末について、発明の課題が解決できることを本件明細書の記載から当業者が認識することができない。 (2)設定登録時の請求項10、18に係る発明は、「工程(b)・・・少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程」と特定されているところ、本件明細書に記載された比較例4、5(段落【0240】〜【0243】)は、ホウ素を含む「被覆原料溶液1−C4に前記原料化合物A−2が噴霧状態とならないように流水で滴下」するものであって「溶液の滴下」は、上記「接触」に相当するものであり、得られた正極活物質は、自己放電率が高いから、当該発明は、上記発明の課題を達成することができない態様を含むものである。 2 取消理由2(明確性要件違反) 設定登録時の請求項1は、「Rの累積頻度分布曲線」について、「Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。」と特定されている。 しかし、上記各元素の物質量は、「リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。」とのみ記載され、物質量を求めるためのその他の具体的な測定条件が明らかであるとはいえず、当該物質量、ひいてはRの値が導出できるものではない。 また、「Rの累積頻度分布曲線」についても、技術的な意味を理解することができない。 よって、設定登録時の請求項1及び当該請求項1を引用する設定登録時の請求項2〜9に係る発明は、明確であるとはいえない。 3 取消理由3(実施可能要件違反) 設定登録時の請求項1〜25に係る発明は、上記1(1)に記載したように特定のリチウム金属複合酸化物粉末が開示されているのみであるから、実施例以外のリチウム金属複合酸化物粉末について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 4 取消理由4(新規性・進歩性欠如) (1)設定登録時の請求項10〜17、23〜25に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項10〜17、23〜25に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)設定登録時の請求項10、12、15〜25に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項10、12、15〜25に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 第6 当審の判断 1 取消理由についての判断 (1)取消理由1(サポート要件違反)について ア 「第5 1(1)」のサポート要件についての判断 (ア)サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下この観点に立って検討する。 (イ)本件特許請求の範囲の記載 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。 (ウ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に関する説明として次の記載がある。 ・「【0002】 リチウム二次電池用正極活物質には、リチウム金属複合酸化物粉末が用いられている。リチウム二次電池は、・・・更なる高容量化や長期耐久性が求められている。 【0003】 リチウム金属複合酸化物粉末については、これまで種々の検討がなされている。・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ・・・ 自己放電抑制の観点からは、さらなる改良の余地があった。 【0006】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、自己放電量が少ないリチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法を提供することを目的とする。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0007】 すなわち、本発明は、下記[1]〜[27]の発明を包含する。 [1]層状構造を有し、少なくともLiとNiと元素X(元素XはCo、M n、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、 Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、In、V、B、 Si、S、F及びPからなる群より選択される1種以上の元素)を含むリチ ウム金属複合酸化物粉末であって、下記に定義するRの累積頻度分布曲線に おいて、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が 90%となる点のRの値R(90)が1.7以上3.7以下であるリチウム 金属複合酸化物粉末。Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチ ウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和( Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子に ついて、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光 法により求める。 [2]前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、 前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1 .1以上3.3以下である、[1]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 [3]前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、 前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1 .5以上2.7以下である、[1]または[2]に記載のリチウム金属複合 酸化物粉末。 [4]下記式(I)を満たす[1]〜[3]のいずれか1つに記載のリチウ ム金属複合酸化物粉末。 Li[Lim(Ni(1−n)Xn)1−m]O2 ・・・(I) (−0.1≦m≦0.2、0<n≦0.7である。) [5]前記式(I)のmが0<m≦0.2である、[4]に記載のリチウム 金属複合酸化物粉末。 [6]コア粒子と被覆物とを備える、[1]〜[5]のいずれか1つに記載 のリチウム金属複合酸化物粉末。 [7]前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物を含む[6 ]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。ただし、元素MはAl、B、Si 、S、Nb、F及びPから選ばれる1種以上である。 [8]さらに単粒子を含む、[1]〜[7]のいずれか1つに記載のリチウ ム金属複合酸化物粉末。 [9]粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径 (D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D5 0)が0.5μm以上10μm以下であり、さらに、下記式(A)の関係 を満たす、[1]〜[8]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 0.3≦(D90−D10)/D50≦3・・・(A) [10][1]〜[9]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉 末を含有するリチウム二次電池用正極活物質。 [11]下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、リチウム金属複 合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化 合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少 なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料 混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理 する工程。 [12]前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化 合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1 )の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し 、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b1 −A)を備える、[11]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法 。 [13]前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧 して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)である、[12]に記載 のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [14]前記工程(b1)において、前記原料化合物を−20℃以上300 ℃以下の温度に調整し、前記被覆原料溶液1と接触させる、[12]または [13]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [15]前記工程(b1−1)において、前記被覆原料溶液1の噴霧液滴のザ ウター平均粒径D32が10μm以上500μm以下である、[13]又 は[14]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [16]前記工程(b1−1)において、前記原料化合物のメジアン径DP 50と、前記被覆原料溶液1を噴霧する際の噴霧液滴のザウター平均粒径D32との比(DP50/D32)が、0.001以上10以下である、[ 13]〜[15]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製 造方法。 [17]前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1を前記原料化合物 と接触させる際の、前記被覆原料溶液1の温度が、−20℃以上300℃以 下である、[12]〜[16]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸 化物粉末の製造方法。 [18]前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1中の元素Mの濃度 が、0.001mol/L以上100mol/L以下である、[12]〜[ 17]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [19]前記工程(b1)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの 物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下 である、[12]〜[18]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化 物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 [20]前記工程(b)は、前記原料化合物を、前記元素Mとリチウムとを 含む被覆原料溶液2に浸漬させて原料混合物を得る工程(b2)であって、 前記工程(b2)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれ る溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整 する工程(b2−A)を備える、[11]に記載のリチウム金属複合酸化物 粉末の製造方法。 [21]前記工程(b2)において、前記原料化合物に対する前記被覆原料 溶液2の量が、重量基準で0.1倍以上10倍以下である、[20]に記載 のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [22]前記被覆原料溶液2の温度が−20℃以上80℃以下である、[2 0]または[21]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [23]前記工程(b2)において、前記被覆原料溶液2に含まれるLiの 濃度が、0.01mol/L以上10mol/L以下である、[20]〜[ 22]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 [24]前記工程(b2)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの 物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下 である、[20]〜[23]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化 物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれ る前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 [25]前記工程(b)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの物 質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下で ある、[11]に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれ る前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 [26]前記工程(b)において、前記原料化合物に含まれるLiを除く金 属元素の総量(Ni+X)に対する、被覆原料に含まれる元素Mの割合(M /(Ni+X))は、モル比で0.0001以上0.05以下である、[1 1]〜[25]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造 方法。 [27]前記原料化合物が、下記式(II)を満たす[11]〜[26]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 Li[Lip(Ni(1−q−r)CoqX1r)1−p]O2 ・・(II) (−0.1≦p≦0.2、0≦q≦0.4、0≦r≦0.4、1−q−r≧ 0.3、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、 W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd 、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)」 ・「【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、自己放電量が抑制されたリチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法を提供することができる」 ・「【0012】 リチウム金属複合酸化物粉末の累積体積粒度は、レーザー回折散乱法によって測定される。具体的な測定方法は、まず、リチウム金属複合酸化物粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、リチウム金属複合酸化物粉末を分散させた分散液を得る。 次に、得られた分散液についてマイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3300EXII(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。 そして、得られた累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径の値が50%累積体積粒度(D50(μm))である。また、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が10%となる点の粒子径の値が10%累積体積粒度(D10(μm))である。また、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が90%となる点の粒子径の値が90%累積体積粒度(D90(μm))である。」 ・「【0013】 <リチウム金属複合酸化物粉末> 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は層状構造を有する。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、少なくともLiとNiと元素Xを含む。 元素XはCo、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、In、V、B、Si、S、F及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。」 ・「【0014】 ≪R≫ 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末においては、下記のようにRを定義する。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 【0015】 Rは、リチウム金属複合酸化物粒子の表面領域における、ニッケル原子と元素Xの物質量の合計に対する酸素原子の物質量である。ここで、「リチウム金属複合酸化物粒子の表面領域」とは、リチウム金属複合酸化物粒子の最表面から深さ方向に5nmの厚さの領域をいう。 【0016】 本実施形態において「Rの値が大きい」とは、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に酸素原子が過剰な表面領域が形成されていることを意味する。また、ニッケルや元素Xが欠損した表面領域が形成されていることを意味する。 リチウム金属複合酸化物が、コア粒子と被覆物を備える場合、「Rの値が大きい」とは、コア粒子の露出が少ないことを意味する。 【0017】 本実施形態において「Rの値が小さい」とは、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に酸素原子が過少な表面領域が形成されていることを意味する。また、ニッケルや元素Xが過剰に存在する表面領域が形成されていることを意味する。 リチウム金属複合酸化物が、コア粒子と被覆物を備える場合、「Rの値が小さい」とは、コア粒子の露出が多いことを意味する。 【0018】 上記に定義されるRの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)とする。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、R(90)が1.7以上3.7以下である。 【0019】 本実施形態におけるRの累積頻度分布曲線の求め方を以下に説明する。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。 日本電子社製の走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線(EDX)分光法(JSM−7900F)を用い、リチウム金属複合酸化物の一次粒子単位でのEDX面分析を50粒子実施する。具体的には、リチウム金属複合酸化物粉末について、5000倍の視野でSEM像を取得する。その視野内に含まれる粒子から、ランダムに10粒子を選択する。この操作を5視野実施し、50粒子の分析を実施する。 上記EDX面分析によれば、リチウム金属複合酸化物粒子の最表面から深さ方向に5nmの厚さの領域のRを測定できる。 リチウム金属複合酸化物が、コア粒子と被覆物を備える場合、EDX面分析によれば、被覆物のRを測定する。 【0020】 得られたEDXスペクトルから各粒子表面におけるNiと元素Xの物質量の総和(Ni+X)に対する物質量のモル量(O)の比(O/(Ni+X))を算出する。 この際の加速電圧は1100Vとする。 【0021】 さらに、算出した50粒子のRにより累積頻度分布曲線を作成する。Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)、10%となる点のRの値をR(10)、50%となる点のRの値をR(50)とする。 【0022】 リチウム金属複合酸化物粉末をリチウム二次電池用正極活物質として用いたとき、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面は電解液と接する。充電時、特に高温環境下においては、電解液と接触した際にリチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面から酸素が脱離する。脱離した酸素は、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子表面で電解液を酸化分解する。 【0023】 その際、酸素脱離に伴うリチウム金属複合酸化物粉末内での金属価数バランスの調整のため、充電状態のリチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi等の金属価数の低減に伴う自己放電が進行してしまう。 このような作用が生じるため、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面に存在する酸素原子数が過剰な場合、酸素原子の脱離、これによる電解液の酸化分解、さらにNi等の金属の価数低減が促進され自己放電が進行する。 【0024】 一方、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面に存在する酸素原子数が過少な場合、リチウム金属複合酸化物粉末の層状構造の形成が不十分となる。 層状構造の形成が不十分であると、充電時にリチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面の結晶構造に乱れが生じやすくなる。この場合、乱れた結晶はリチウムの脱離と挿入を阻害し、リチウム元素が有効に活用されず、電池容量が低くなる場合がある。また、結晶構造が乱れていると、リチウム金属複合酸化物の表面において、構成元素の欠損が生じやすく、自己放電が進行してしまう。 【0025】 本実施形態は、R(90)を特定の範囲とし、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面に存在する酸素原子量を制御している。 本実施形態において、R(90)は、1.9以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.1以上がさらに好ましい。また3.5以下が好ましく、3.2以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。 上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.9以上3.5以下が好ましく、2.0以上3.2以下がより好ましく、2.1以上3.0以下がさらに好ましい。 【0026】 R(90)が上記上限値以下であると、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に存在する酸素原子の割合が過剰なリチウム金属複合酸化物粒子が少ないことを意味する。この場合、充電時にリチウム金属複合酸化物粒子の表面から脱離する酸素が少なく、電解液の酸化分解に伴う自己放電が進行しにくくなる。 R(90)が上記下限値以上であると、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に規則的な層状構造が形成されていることを意味する。このため、構成元素の欠損やリチウムのトラップが生じにくくなり、自己放電が進行しにくくなる。 【0027】 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、R(10)が1.1以上3.3以下であることが好ましい。前記R(10)は1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましい。また3.0以下が好ましく、2.7以下がより好ましく、2.4以下がさらに好ましい。 上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.3以上3.0以下が好ましく、1.5以上2.7以下がより好ましく、1.7以上2.4以下がさらに好ましい。 【0028】 R(10)が上記範囲であると、酸素原子数が過少であるために、結晶構造に乱れが生じているリチウム金属複合酸化物粉末の存在量が少ないことを意味する。このような場合には、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に規則的な層状構造が形成されていることを意味する。このため、構成元素の欠損が生じにくくなり、自己放電が進行しにくくなる。 【0029】 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、R(50)が1.5以上2.7以下であることが好ましい。R(50)は1.7以上が好ましく、1.9以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。また2.6以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、1.4以下がさらに好ましい。 上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.7以上2.6以下が好ましく、1.9以上2.5以下がより好ましく、2.0以上2.4以下がさらに好ましい。 【0030】 R(50)が上記範囲であると、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面の酸素原子の存在量が適正に制御され、充電と放電に寄与しない不純物の形成量が少ないことを意味する。この不純物としては、例えばリチウムを含まない酸化物が挙げられる。不純物が少ないため、充電と放電時の抵抗を小さくできる。」 ・「【0038】 ≪組成式(I)−1≫ 本願の効果を高める観点から、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、下記組成式(I)−1で表されることがさらに好ましい。 Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2 ・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。)」 ・「【0048】 ≪被覆物≫ 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、コア粒子とコア粒子を被覆する被覆物とを備えることが好ましい。被覆物は、被覆層又は被覆粒子であることが好ましい。被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物を含むことが好ましい。元素MはAl、Zr、組成式(I)−1におけるM1から選ばれる1種以上であることが好ましく、Al、Zr、B、Nb及びPから選ばれる1種以上がより好ましく、B、Nb及びPから選ばれる1種以上がさらに好ましく、B及びPから選ばれる1種以上が特に好ましい。 【0049】 被覆物は、リチウム含有複合化合物を含むことが好ましい。電池の抵抗低減の観点から、前記リチウム含有複合化合物はリチウム含有複合酸化物であることがより好ましい。リチウム含有複合酸化物の例としては、リチウム−ホウ素−酸素化合物、リチウム−ニオブ−酸素化合物、リチウム−リン−酸素化合物が挙げられる。」 ・「【0053】 本実施形態において、リチウム金属複合酸化物粉末は単粒子を含むことが好ましい。 一次粒子は、二次粒子を構成するために凝集するため、粒子が大きく成長したものではなく、その粒子径は0.1μm以上0.5μm未満程度である。本明細書において、平均粒径が0.5μm未満のものを一次粒子とし、0.5μm以上のものを単粒子とする。 【0054】 また単粒子は微小な一次粒子や一次粒子が凝集して形成される二次粒子と比べて表面エネルギーが小さく、安定性に優れる。よって、単粒子表面では電解液の分解等の不可逆な反応が抑制され、自己放電が起こり難いリチウム金属複合酸化物粉末となると推察される。」 ・「【0056】 本実施形態リチウム金属複合酸化物粉末は、粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D50)が0.5μm以上10μm以下であり、さらに、下記式(A)の関係を満たすことが好ましい。 0.3≦(D90−D10)/D50≦3・・・(A) 【0057】 前記50%累積径(D50)の下限値は、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。前記50%累積径(D50)の上限値は、8.0μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下がさらに好ましい。50%累積径(D50)の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、1.0μm以上8.0μm以下が好ましく、1.5μm以上6.0μm以下がより好ましく、2.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。」 ・「【0060】 <リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法> 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法は、下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、リチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で加熱する工程。」 ・「0107】 [工程(b)] 工程(b)は、元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程である。 元素Mは、Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。 【0108】 工程(b)は、元素Mを含む被覆原料溶液1を原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であってもよい。 工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であってもよい。 工程(b)は、前記原料化合物を、前記元素Mとリチウムとを含む被覆原料溶液2に浸漬させて原料混合物を得る工程(b2)であってもよい。 ・・・ 【0109】 ・被覆原料 被覆原料はAl、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む被覆化合物を含有することが好ましい。被覆化合物は、例えば、Al2O3、H3BO3、HBO2、H2B4O7、HB5O8、B2O3、・・・Nb2O5、・・・H3PO4、H4P2O7、H3PO3、H3PO2、Li3PO4のうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、H3BO3、B2O3、Nb2O5、Li3PO4が好ましい。」 ・「【実施例】 【0175】 ・・・ 【0245】 【表1】 【0246】 【表2】 」 (エ)本件発明の課題について 本件発明の課題は、上記(ウ)の段落【0006】の記載によると、「自己放電量が少ないリチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法を提供する」ことであると認められる。 (オ)本件発明の課題を解決する手段に関する発明の詳細な説明の記載 上記エの課題を解決する手段に関する発明の詳細な説明の記載は次のよう なものである。 a 課題を解決するための手段として、[1]〜[27]の発明を包含す ることが記載されている(上記(ウ)の段落【0007】)。 b 本件明細書の発明の詳細な説明において、実施の形態に係るリチウム金属複合酸化物粉末は、少なくともLiとNiとCo、Mn等の元素Xを含む層状構造を有するものであることが記載されている(同段落【0012】、【0013】)。 c 上記リチウム金属複合酸化物粉末において、Rを「リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))」であると定義し、Rは、リチウム金属複合酸化物粒子の表面領域における、ニッケル原子と元素Xの物質量の合計に対する酸素原子の物質量の比であることを意味し、ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求めることが記載されている(同段落【0014】〜【0030】)。 そして、Rの累積頻度分布曲線を作成して、Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)、10%となる点のRの値をR(10)、50%となる点のRの値をR(50)とし、R(90)、R(10)及びR(50)を特定の範囲とし、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子の表面の酸素原子の存在量を適切に制御することで、自己放電が進行しにくくなるなどの作用を奏することが記載されていると認められる。 d また、上記リチウム金属複合酸化物粉末は、式(I)−1で表される組成であることが好ましく(同段落【0038】)、コア粒子とコア粒子を被覆する被覆物とを備え、被覆物は、LiとB、Nb及びPから選ばれる1種以上とのリチウム含有複合酸化物を含むことが好ましく(同段落【0048】、【0049】)、単粒子を含むことが好ましく(同段落【0053】)、並びに所定の粒度分布を示す式(A)の関係を満たすことが好ましいこと(同段落【0056】、【0057】)が、それぞれ記載されている。 e 発明の詳細な説明には、本実施の形態として、上記リチウム金属複合酸化物粉末を含有するリチウム二次電池用正極活物質とすることが記載されている(同段落【0059】)。 f 上記リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法としては、 「工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、リチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)Al、B、Si、S、Nb、F及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で加熱する工程。」を、工程(a)〜工程(c)の順で備えることが記載されている(同段落【0060】)。 上記工程(b)は、元素Mを含む被覆原料溶液1を原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であってもよく、工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であってもよく、上記工程(b)は、前記原料化合物を、前記元素Mとリチウムとを含む被覆原料溶液2に浸漬させて原料混合物を得る工程(b2)であってもよいことが記載されている(同段落【0107】〜【0109】)。 g 発明の詳細な説明の段落【0175】〜【0247】には、本件発明に関する具体的な実施例(及び比較例)について記載され(なお、実施例の記載については、表1、2のみ摘記している。)、実施例2、3は、Bを含む被覆原料溶液を原料化合物に噴霧し、実施例4〜6、9、実施例7、実施例8は、それぞれB、P、Nbを含む被覆原料溶液に原料化合物を浸漬する工程を備え、本件発明10、18で特定された工程により、リチウム金属複合酸化物粉末を得たことが記載されていると認められる。 上記の実施例2〜9で得られたリチウム金属複合酸化物粉末は、その製造工程からすると、上記 d で示したように、コア粒子とコア粒子を被覆するLiとB、Nb又はPからなる被覆物を備えると認められ、また、単粒子を含み、上記ウの表1、2によると、50%累積径(D50)は、1.0μm以上8.0μm以下であり、粒度分布は、式(A)を充足し、式(I)−1で表される組成であることも裏付けられているといえる。 そして、当該リチウム金属複合酸化物粉末は、所定のR(10)、R(50)及びR(90)の値の範囲を充足し、これを正極活物質として用いて作製したリチウム二次電池は、当該範囲を充足しない比較例の粉末を用いたものと比べて自己放電率が小さいことが確認できたことが記載されている。 (カ)本件発明と発明の詳細な説明との対比 a 本件発明1、4、7〜9 上記 (オ) a〜e、g のとおりであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、また、本件発明1は、発明の詳細な説明により、自己放電量が少ないリチウム金属複合酸化物粉末を得るという課題を解決できると当業者が認識することができる。また、リチウム金属複合酸化物粉末に係る本件発明4、7、8及びリチウム二次電池用正極活物質に係る本件発明9についても同様である。 b 本件発明10、12〜25 上記 (オ) f、g のとおりであるから、リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法に係る本件発明10、18は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件発明1、4、7及び8に係るリチウム金属複合酸化物粉末を製造することができ、上記課題を解決できると当業者が認識することができる。また、本件発明12〜17、19〜25についても同様である。 イ 「第5 1(2)」のサポート要件についての判断 本件発明10は、本件訂正請求による訂正により「前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり」と特定され、また、本件発明10、18は、本件発明1、4、7及び8を引用することで、当該発明に係るリチウム金属複合酸化物粉末を製造する方法であることが特定されたから、本件発明10、18の各工程(b)は、「比較例」における工程(b)を包含しないことは明らかとなった。本件発明10及び本件発明18に従属する本件発明12〜17、本件発明19〜25に係る製造方法も同様である。 ウ 申立人の主張について (ア)申立人は、リチウム金属複合酸化物粉末の粒子表面の酸素量を適切な範囲に制御することで自己放電を制御できるというメカニズムが事実であるのかは明らかでなく、R(90)の範囲は広範であり、実施例では、Li、Niに加えて、Mo及びCoを含有する例が開示されているのみであること、さらには、リチウム金属複合酸化物粉末の被覆物がどのような形態であるのかは明らかでないことを理由に、本件発明は、発明の課題を解決できると認識できる範囲ではない旨主張している(意見書1:2頁12行〜3頁1行、意見書2:1頁下から7行〜4頁15行)。 (イ)しかし、サポート要件の判断については、上記ア、イに記載したとおりであって、本件明細書では、実施例及び比較例として、共通する構成元素を有するリチウム金属複合酸化物粉末において、Rの値を比較検討して、所定範囲のR(90)等の値を規定することで自己放電が抑制できることが把握できるから、Rの値を規定することで同様の作用機序の基でリチウム金属複合酸化物全般において、当業者は本件発明の課題を解決できることを理解することができる。 また、本件発明のリチウム金属複合酸化物粉末におけるリチウム含有複合化物の存在については、本願明細書において、本件発明に係るリチウム金属複合酸化物粉末に係る被覆物及びその製造工程についての記載(段落【0049】、【0107】〜【0124】)などから、当業者であればLiと元素M(B、Nb又はP)とのリチウム含有複合化合物の被覆物が生成することを把握することができる。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由1には理由がない。 (2)取消理由2(明確性要件違反)について ア 本件発明1において特定された「R」及び「Rの累積頻度分布曲線」の定義については、本件明細書の発明の詳細な説明に次の記載がある。 ・「【0014】 ≪R≫ 本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末においては、下記のようにRを定義する。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 【0015】 Rは、リチウム金属複合酸化物粒子の表面領域における、ニッケル原子と元素Xの物質量の合計に対する酸素原子の物質量である。ここで、「リチウム金属複合酸化物粒子の表面領域」とは、リチウム金属複合酸化物粒子の最表面から深さ方向に5nmの厚さの領域をいう。 ・・・・・ 【0018】 上記に定義されるRの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)とする。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粉末は、R(90)が1.7以上3.7以下である。 【0019】 本実施形態におけるRの累積頻度分布曲線の求め方を以下に説明する。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。 日本電子社製の走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線(EDX)分光法(JSM−7900F)を用い、リチウム金属複合酸化物の一次粒子単位でのEDX面分析を50粒子実施する。具体的には、リチウム金属複合酸化物粉末について、5000倍の視野でSEM像を取得する。その視野内に含まれる粒子から、ランダムに10粒子を選択する。この操作を5視野実施し、50粒子の分析を実施する。 上記EDX面分析によれば、リチウム金属複合酸化物粒子の最表面から深さ方向に5nmの厚さの領域のRを測定できる。 リチウム金属複合酸化物が、コア粒子と被覆物を備える場合、EDX面分析によれば、被覆物のRを測定する。 【0020】 得られたEDXスペクトルから各粒子表面におけるNiと元素Xの物質量の総和(Ni+X)に対する物質量のモル量(O)の比(O/(Ni+X))を算出する。 この際の加速電圧は1100Vとする。 【0021】 さらに、算出した50粒子のRにより累積頻度分布曲線を作成する。Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)、10%となる点のRの値をR(10)、50%となる点のRの値をR(50)とする。」 本件明細書の発明の詳細な説明の【実施例】の欄にも同様な記載がある。 ・「【0176】 <走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線(EDX)分光測定> 日本電子社製の走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線(EDX)分光法(JSM−7900F)を用い、リチウム金属複合酸化物粉末の表面におけるRの累積頻度分布曲線を求めた。 ここで、RはNiと元素Xの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 【0177】 ≪Rの累積頻度分布曲線の求め方≫ リチウム金属複合酸化物の一次粒子単位でのEDX面分析を50粒子実施し、得られたEDXスペクトルから各粒子表面におけるRを算出した。尚、この際の加速電圧は1100Vとした。さらに、算出した50粒子の比Rにより累積頻度分布曲線を作成し、Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値をR(90)、10%となる点のRの値をR(10)、50%となる点のRの値をR(50)とした。 具体的には、リチウム金属複合酸化物粉末について、5000倍の視野でSEM像を取得した。その視野内に含まれる粒子から、ランダムに10粒子を選択した。この操作を5視野実施し、50粒子の分析を実施した。」 これらの記載は、特許権者が令和3年2月8日に提出した意見書の具体的な測定方法の説明とも合致するものである(意見書:6、7頁)。 そして、上記「Rの累積頻度分布曲線の求め方」には、具体的な測定装置名を記載した上で、1100Vの加速電圧でリチウム金属複合酸化物粒子の最表面から深さ方向に5nmの厚さの領域のRを求めて、50粒子によるRの累積頻度分布曲線を求めることが具体的に説明されていることから、本件発明1の「R」及び「Rの累積頻度分布曲線」の特定事項は明確であるといえる。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、本件発明に係るリチウム金属複合酸化物粒子の組成式(I)−1において、被覆物を有する元素MがB、Nb、Pから選ばれる1種以上であるところ、被覆物の元素Mに対応すると解される元素M1として、B、Si、S、F及びPからなる1種以上が挙げられ、両規定は整合しておらず、上記元素Mとして挙げられたNbは、元素X1であり、元素M1と元素X1とでは含有割合の範囲が大きく相違していることから、被覆物の規定と組成式(I)−1の規定との関係が整合していないため、本件発明は不明確である旨主張している(意見書2:4頁下から11行〜5頁21行)。 しかし、式(I)−1の記載自体は明確であり、また、元素M及びX1については、本件明細書の段落【0041】〜【0046】において説明され、実施例にも裏付けられており、被覆物を構成する元素Nbが元素M1に属する必要があるとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 (イ)また、申立人は、請求項1のRに関する記載と段落【0015】との記載が整合していないこと及び加速電圧が一定であっても測定対象により請求項1の規定は変化すること、並びに特許権者が令和3年2月8日に提出した意見書において、測定手順の説明や解析ソフトウェアの名称を追加しているが、これらを参照しても具体的な測定及び解析条件が明らかでなく、また、出願当初の明細書等に記載されたものでもないから、依然として本件発明は明確でない旨主張している(特許異議申立書:99頁下から6行〜100頁15行、意見書1:3頁最下行〜5頁5行、意見書2:5頁下から3行〜7頁2行)。 しかし、本件明細書には、具体的な測定装置、加速電圧及びリチウム金属酸化物粉末粒子の測定領域等が記載され、特許権者が追記したソフトウェアも市販されているものであることから、上記のとおり本件発明は明確であると理解でき、申立人は、上記の記載だけでは測定できないとの具体的な根拠を示していないことから、申立人の主張は採用できない。 (ウ)さらに、申立人は、本件発明4で「前記式(I)のm1が・・・」と規定しているが、引用する本件発明1に「式(I)」の記載がないから不明確である旨主張している(意見書2:7頁4行〜8行)。 しかし、本件明細書を参照すれば(段落【0038】、【0039】)、本件発明4の「式(I)」は、「式(I−1)」の誤記であることは明らかであるから、当該主張も採用できない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由2には理由がない。 (3)取消理由3(実施可能要件違反)について ア 上記(1)のとおり、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な発明に記載された発明であると認められるところ、実施例は、本件発明10、12〜25にしたがってリチウム金属複合酸化物粉末を製造したことが具体的に記載されており、実施例において本件発明に係るリチウム金属複合酸化物粉末は自己放電率が低いことが裏付けられているから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることがてきる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 イ 申立人の主張について 申立人は、本件発明に係るリチウム金属複合酸化物粉末において、R(90)等を制御する具体的な方法が開示されていないから、実施可能要件を充足するものではない旨主張している(意見書1:2頁7〜11行、3頁12〜24行)。 しかし、発明の詳細な説明には、リチウム金属複合酸化物粉末の製造方法について説明されており(【0060】〜【0133】)、実施例は、これらの記載に基づいて、リチウム金属複合酸化物粉末のRの値を所定範囲に制御できたことが記載されていると認められるから(実施例2〜9)、申立人の主張は採用できない。 ウ まとめ したがって、取消理由3には理由がない。 (4)取消理由4(新規性・進歩性欠如)について 本件訂正請求による訂正により、上記第2に記載したとおり、本件特許の請求項11は削除され、また、本件特許の請求項10、12〜25は、取消理由4の対象となっていない本件特許の請求項1を直接又は間接的に引用するものとなったから、本件発明10、12〜25は、甲1又は甲2に記載された発明であるといえないし、また、甲1又は甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 したがって、取消理由4には理由がない。 2 取消理由において採用しなかった申立理由についての判断 (1)申立理由1(甲1又は甲2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) ア 各証拠方法の記載事項 (ア)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 甲1には、下記の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 一次粒子および複数の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の少なく とも一方からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する、非水系電解質二次電池用正極活物質であって、 前記正極活物質は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1−x−y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、 前記被覆層は、ニオブとリチウムとを含む化合物を含有する、非水系電解質二次電池用正極活物質。 【請求項2】 前記被覆層に含まれるニオブの量が、前記非水系電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して、0.1原子%以上2.0原子%以下である、請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。 【請求項3】 前記ニオブとリチウムとを含む化合物は、LiNbO3及びLi3NbO4のうちの少なくとも一種からなるニオブ酸リチウムを含有する、請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。 ・・・・・ 【請求項4】 撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧することと、 前記噴霧後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理して、前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に、二オブとリチウムとを含む化合物を含有する被覆層を形成することと、を備え、 前記リチウム金属複合酸化物粉末は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1−x−y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表される、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。 【請求項5】 前記加熱処理は、300℃以上400℃以下の範囲で1時間以上加熱する、請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」 ・「【0037】 (組成式) リチウム金属複合酸化物粉末10は、層状の結晶構造を有することができ、例えば、一般式(1):LizNi1−x−y−tCoxAlyMtO2+α(ただし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、及び、Wから選択される1種以上の元素であり、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0≦t≦0.1、0.97≦z≦1.20、−0.1≦α≦0.1を満たす。)で表され、一般式(2):LizNi1−x−yCoxAlyO2(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表されることが好ましい。」 ・「【0049】 2.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法 図2は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(以下、「正極活物質の製造方法」ともいう。)の一例を示す図である。本実施形態に係る正極活物質の製造方法を用いることにより、上記の被覆層20を、リチウム金属複合酸化物粉末10の表面に均一に被覆させた正極活物質PAを、容易にかつ高い生産性で得ることができる。 【0050】 正極活物質の製造方法は、図2に示すように、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧すること(ステップS10)と、加熱処理すること(ステップS20)とを備える。以下、各ステップについて、説明する。 【0051】 (ステップS10) まず、撹拌されている状態のリチウム金属複合酸化物粉末に、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を含むアルコキシド溶液を噴霧する(ステップS10)。【0052】 リチウム金属複合酸化物粉末の撹拌には、一般的な攪拌機を使用することができ、例えば、転動流動装置やヘンシェルミキサーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で、リチウム金属複合酸化物粉末を十分に撹拌してやれば良い。 ・・・・・ 【0054】 アルコキシド溶液は、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を混合して得ることができる。アルコキシド溶液は、例えば、ニオブアルコキシドと、リチウムアルコキシド及びリチウムのうち少なくとも一種と、を有機溶媒に添加して調整することができる。 ・・・・・ 【0057】 有機溶媒としては、上記の化合物を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコールを用いることができ、炭素数が4以下の低級アルコールを用いることが好ましい。低級アルコールとしては、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどが挙げられ、エタノール、2−プロパノールが好ましい。また、有機溶媒としてアルコールを用いる場合、脱水したものが好ましい。 【0058】 アルコキシド溶液は、霧状態で、撹拌状態のリチウム金属複合酸化物粉末に噴霧される。アルコキシド溶液は、前記リチウム金属複合酸化物粉末100質量部に対して、好ましくは2質量部以上110質量部以下、より好ましくは30質量部以上60質量部以下で噴霧する。 【0059】 (加熱処理:ステップS20) 次いで、アルコキシド溶液を噴霧した後のリチウム金属複合酸化物粉末を加熱処理する(ステップS20)。ニオブとリチウムとを含むアルコキシド溶液をリチウム金属複合酸化物粉末に噴霧したのみの状態では、リチウム金属複合酸化物粉末の表面にカーボンが残り易くなり、正極の界面抵抗を増大させる要因となり得る。そのため、加熱処理をしてアルコキシド溶液中の金属アルコキシドを熱分解させる。 【0060】 加熱処理の温度は、例えば、250℃以上450℃以下の範囲とすることができ、300℃以上400℃以下の範囲が好ましく、350℃以上400℃以下の範囲がより好ましい。加熱処理の温度が上記範囲である場合、二次電池に用いられたときに、正極の界面抵抗が低減され、かつ、耐久性に優れる正極活物質を得ることができる。 【0061】 加熱処理の時間は、例えば、0.5時間以上とすることができ、1時間以上であることが好ましい。加熱時間の上限は特に限定されないが、例えば、12時間以下である。」 ・「【0091】 (実施例1) 母材として、ニッケルを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知の技術で得られたLi1.02Ni0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を用いた。母材の比表面積は、0.3m2/gであった。なお、リチウム金属複合酸化物粉末の組成はICP法により評価した。 【0092】 2.1gのLiと、99gのニオブペンタエトキシド(Nb(OC2H5)5)とを、977gの無水エタノールに溶解して、アルコキシド溶液を作製した。上記リチウム金属複合酸化物粉末1.5kgを、転動流動装置を用いて、十分に撹拌しながら、作製したアルコキシド溶液を、リチウム金属複合酸化物粉末表面に噴霧し表面処理を行なった。その後、酸素雰囲気下で、400℃で1時間加熱処理を行ない、正極活物質を得た。 【0093】 得られた正極活物質中の組成、及び、Nbの含有量をICP法により分析したところ、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムの原子数の合計に対して2.0原子%の組成であることを確認した。正極活物質の表面に被覆されたNbを含む化合物の形態をXRDで分析したところ、LiNbO3が形成されていることを確認した。また、得られた正極活物質を用いて、電池特性を評価した。正極活物質の組成及び評価結果を表1に示す。」 これらの記載から、甲1には、リチウム金属複合酸化物粉末と前記リチウム金属複合酸化物粉末の表面に形成される被覆層とを有する非水系電解質二次電池用正極活物質について、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「層状の結晶構造を有し、Li、Ni、Co、Al及びNbを含む非水系電解質二次電池用正極活物質であって、 リチウム金属複合酸化物粉末は、LiとNiとCoとAlを含有し、それぞれの金属の原子比がLi:Ni:Co:Al=z:(1−x−y):x:y(ただし、0.01≦x≦0.15、0<y≦0.05、0.97≦z≦1.20を満たす。)で表され、 リチウム金属複合酸化物粉末の表面に被覆層が形成され、 前記被覆層は、LiNbO3及びLi3NbO4のうちの少なくとも一種からなるニオブ酸リチウムを含有する、 非水系電解質二次電池用正極活物質。」 (イ)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 甲2には、下記の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極および前記負極の間に配されたセパレータと、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記正極活物質は、一次粒子で構成された二次粒子からなり、前記一次粒子の表面の一部がリチウム金属酸化物の層で被覆され、残りの一次粒子の表面が立方晶の金属酸化物の層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物であって、前記リチウム金属酸化物は、メタホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記リチウム金属酸化物の層の厚さは、0.5nm以上5nm以下であり、前記立方晶の金属酸化物は酸化ニッケルであり、前記立方晶の金属酸化物の層の厚さは、0.5nm以上10nm以下であり、前記リチウム金属酸化物の層の平均被覆率xは、0.85以上0.95未満であり、前記金属酸化物の層の被覆率yは、0.05以上0.15未満(x+y=1)であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。 【請求項2】 前記リチウムニッケル複合酸化物は、30nm以上300nm以下の平均一次粒子径を有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。 ・・・ 【請求項4】 リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記正極活物質は、一次粒子で構成された二次粒子からなり、前記一次粒子の表面の一部がリチウム金属酸化物の層で被覆され、残りの一次粒子の表面が立方晶の金属酸化物の層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物であって、 前記リチウム金属酸化物を水あるいは有機溶媒を用いて前記リチウムニッケル複合酸化物の表面に被着させる工程と、 前記リチウム金属酸化物を被着させたリチウムニッケル複合酸化物リチウムを加熱処理する加熱工程と、 前記加熱処理したリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する工程と、 前記水洗したリチウムニッケル複合酸化物を乾燥する乾燥工程と、を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」 ・「【実施例】 【0048】 (実施例1) (1)リチウムニッケル複合酸化物の作製 メタホウ酸リチウム1gを、水中に溶解した。得られた溶液中にリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.16Al0.04O2:NCA)100gを分散させた。次に、攪拌しながら過熱することにより、溶媒を完全に除去した。得られた混合物を、真空雰囲気において250℃で12時間加熱処理することにより、メタホウ酸リチウムで被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたメタホウ酸リチウムで被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を水中に分散させ、吸引濾過で水分を除去することにより、メタホウ酸リチウム層を一部溶解させたリチウムニッケル複合酸化物を得た。さらに、得られたメタホウ酸リチウム層を一部溶解させたリチウムニッケル複合酸化物を真空中150℃で5時間加熱し、メタホウ酸リチウムで被覆されていない表面を酸化することにより、少なくとも一つの一次粒子表面の一部をメタホウ酸リチウム層で被覆され、その残りの表面を酸化ニッケル層で被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を得た。このときのメタホウ酸リチウム層は4nm、酸化ニッケル層は5nmの厚さを有していた。また、このときのメタホウ酸リチウム層の平均被覆率は0.9、酸化ニッケル層の平均被覆率は0.1であった。」 ・「【0061】 (実施例8) リチウム金属酸化物をニオブ酸リチウムにしたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。このときのニオブ酸リチウム層は4nm、酸化ニッケル層は5nmの厚さを有していた。また、このときのメタホウ酸リチウム層の平均被覆率は0.9、酸化ニッケル層の平均被覆率は0.1であった。」 これらの記載から、甲2には、金属酸化物の層で被覆されたリチウム金属酸化物について、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「Li、Ni、Co及びAl並びにNb又はBを含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、 リチウムニッケル複合酸化物は、LiNi0.8Co0.16Al0.04O2で表され、 リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面の一部が、メタホウ酸リチウム又はニオブ酸リチウムで被覆された、 リチウムイオン二次電池用正極活物質。」 (ウ)甲3の記載事項 ・「【0102】 (メジアン径D50) 本発明の正極活物質は、メジアン径D50が1μm〜6μmの範囲である。メジアン径D50が1μm未満の場合には、正極活物質の充填性が大きく低下し、単位重量あたりの電池容量を高くすることができない。一方、メジアン径D50が6μmを超えると、充填性は大きく悪化しないものの、サイクル特性の低下や比表面積が低下して、電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して二次電池の出力特性が低下する。 【0103】 したがって、本発明の正極活物質を、メジアン径D50が1μm〜6μm、好ましくは2μm〜5.5μmとなるように調整すれば、この正極活物質を正極に用いた二次電池では、正極活物質が高充填されて質量あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高いサイクル特性、高い安全性、高出力などに優れた電池特性が得られる。 【0104】 (粒径分布) 本発明の正極活物質は、その粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下、好ましくは0.45以下である。粒径分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、メジアン径D50に対して粒径が非常に小さい微細粒子や、メジアン径D50に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。微細粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微細粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、安全性が低下するとともに、微細粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加による電池出力が低下する。 【0105】 したがって、正極活物質の粒径分布を前記指標〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下とすることで、微細粒子や粗大粒子の割合を少なくすることができ、この正極活物質を正極に用いた電池は、安全性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。なお、メジアン径D50や、D90、D10は、上述したニッケルマンガン含有複合水酸化物に用いられているものと同様のものであり、測定も同様にして行うことができる。 【0106】 前記指標は、小さいほど良好な電池特性が得られるが、ニッケルマンガン含有複合水酸化物と同様にその下限は0.1程度である。」 (エ)甲4の記載事項 ・「【請求項4】 粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、50%累積径(D50)が5μm以上20μm以下であり、さらに、下記式(B)の関係を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。 0.8≦(D90−D10)/D50≦1.5・・・(B)」 (オ)甲5の記載事項 ・「【0002】 層状型リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(NCM)や層状型リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物(NCA)等の層状型リチウム複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属原子層とが、酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を呈し、遷移金属の1原子あたりに1個のリチウム原子が含まれる、いわゆる層状岩塩構造を有している。かかる層状型リチウム複合酸化物は、高出力及び高容量のリチウムイオン二次電池を構成できる正極活物質として使用されている。」 イ 本件発明1について 本件発明1と甲1発明及び甲2発明とをそれぞれ対比する。 甲1発明の「リチウム金属複合酸化物粉末」及び甲2発明の「リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子」が、本件発明1の「コア粒子」に相当するから、甲1発明及び甲2発明は、コア粒子と被覆物とを備え、Li、Ni、Co及びAlを含み、さらに前者はNb、後者はNb又はBを含むリチウム金属複合酸化物粉末である点で、本件発明1と共通しているといえる。 しかし、本件発明1において、「Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。」と定義され、さらに「Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値R(90)が1.7以上3.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下」であることを発明特定事項とするのに対して、 甲1発明及び甲2発明は、これらの発明特定事項を有しているかは明らかでない点で、本件発明1と甲1発明及び甲2発明とは少なくとも相違している。 当該相違点について検討する。 本件発明1は、本件明細書(【0014】〜【0030】)によると、Rの値は、コア粒子と被覆物を備えるリチウム金属複合酸化物粒子において、粒子の表面の酸素の存在量を表す指標であり、本件発明1で特定するR(90)等の値を所定の範囲とすることで、粒子表面に存在する酸素原子量を制御して、自己放電が抑制されたリチウム金属酸化物粉末を提供するものであるものと認められる。 しかるに、甲1は、Bを、甲2は、B又はNbを、それぞれ含む被覆物を備える点で本件発明1と、粒子の構造が共通するものである。また、被覆物を形成する際に、甲1は、Nbを含む溶液をリチウム金属複合酸化物に噴霧する点(【請求項4】、【請求項5】、【0051】、【0092】)で、本件発明1に係るリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法(本件発明10、本件明細書の実施例2、3)と共通し、甲2発明は、B又はNbを含む溶液中にリチウムニッケル複合酸化物を分散させる点(【請求項4】、【0048】、【0061】)で、本件発明1に係るリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法(本件発明18、本件明細書の実施例4〜9)と共通している。 しかし、甲1発明及び甲2発明の製造方法は、本件発明の実施例にあるリチウム金属複合酸化物の組成やその他の具体的な製造条件が同一ではなく、 また、R(90)等の値を決定する粒子表面の酸素の存在量を所定の範囲に制御することは想定されていないことから、本件発明1と甲1及び甲2発明に係るリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法や粒子構造が類似するとしても、上記相違点に係るR(90)等の値を甲1発明又は甲2発明が充足するとはいえない。 また、甲1発明及び甲2発明において、上記相違点に係るR(90)等の値を、本件発明1で特定する範囲内に制御することが容易であるともいえない。 なお、甲3及び甲4は、本件発明8で特定する粒度分布に関する特定事項は、周知技術であること、また、甲5は、リチウム金属複合酸化物粉末が層状結晶構造を示すことは周知技術であることを、それぞれ開示する文献であって、甲1及び甲2と同様にRの値を制御することを示唆するものではない。 したがって、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1又は甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明4、7〜9について 本件発明4、7〜9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲1又は甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、イに記載の上記相違点について、甲1及び甲2に記載の複合酸化物粉末は、母材と被覆のそれぞれの酸化物組成を基にRの値を計算すると、上記相違点を充足する蓋然性が高い旨主張している(特許異議申立書:46頁下から2行〜49頁3行、71頁6行〜75頁13行、意見書1:6頁下から5行〜10頁下から2行)。 しかし、当該主張は、粒子の母材と被覆の微細構造及びそれぞれの酸化物組成が均質であることを前提としているところ、本件発明について、本件明細書の実施例(表2)をみると、被覆層のない比較例1を含め、各実施例及び比較例の酸化物粉末は、各製造条件によりRの累積頻度が変動することが見て取れるから、理想的な層状構造の複合酸化物粉末を仮定して計算したRの累積頻度分布を基にして、甲1及び甲2の実施例において製造されたリチウム金属複合酸化物粉末が上記相違点を充足しているとまではいえない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求項1、4、7〜10、12〜25に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に請求項1、4、7〜10、12〜25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項2、3、5、6、11は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、請求項2、3、5、6、11に係る特許に対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 層状構造を有し、少なくともLiとNiと元素X(元素XはCo、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、In、V、B、Si、S、F及びPからなる群より選択される1種以上の元素)を含むリチウム金属複合酸化物粉末であって、 下記に定義するRの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が90%となる点のRの値R(90)が1.7以上3.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が50%となる点のRの値R(50)が1.7以上2.7以下であり、 前記Rの累積頻度分布曲線において、全体を100%としたときに、前記Rの小さい側からの累積頻度が10%となる点のRの値R(10)が1.1以上3.3以下であり、 累積粒度分布曲線において、全体を100%としたときに、微小粒子側からの累積体積が50%となる点の粒子径(D50(μm))が1.0μm以上8.0μm以下であり、 下記組成式(I)−1で表され、 コア粒子と被覆物とを備え、 前記被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合化合物(ただし、元素MはB、Nb及びPから選ばれる1種以上である。)を含む、リチウム金属複合酸化物粉末。 Rとは、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるリチウム金属複合酸化物一粒子における、ニッケルと元素Xとの物質量の総和(Ni+X)に対する酸素の物質量(O)の比(O/(Ni+X))である。 ニッケル、元素X及び酸素の物質量は、リチウム金属複合酸化物一粒子について、加速電圧を1100Vとしたエネルギー分散型X線(EDX)分光法により求める。 Li[Lim1(Ni(1−n12−n13−n14)Con12X1n13M1n14)1−m1]O2・・・(I)−1 (−0.1≦m1≦0.2、0≦n12≦0.4、0≦n13≦0.4、0≦n14≦0.05、0<n12+n13+n14≦0.7、X1はMn、Fe、Cu、Ti、M、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、A、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上であり、M1はB、Si、S、F及びPからなる群から選ばれる1種以上である。) 【請求項2】 (削 除) 【請求項3】 (削 除) 【請求項4】 前記式(I)のm1が0<m1≦0.2である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 【請求項5】 (削 除) 【請求項6】 (削 除) 【請求項7】 さらに単粒子を含む、請求項1又は4に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 【請求項8】 粒度分布測定値から求めた10%累積径(D10)、50%累積径(D50)および90%累積径(D90)において、下記式(A)の関係を満たす、請求項1,4及び7のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末。 0.3≦(D90−D10)/D50≦3・・・(A) 【請求項9】 請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末を含有するリチウム二次電池用正極活物質。 【請求項10】 下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記元素Mを含む被覆原料溶液1を前記原料化合物に接触させ、原料混合物を得る工程(b1)であって、前記工程(b1)は、前記原料化合物に前記被覆原料溶液1を噴霧して接触させ、原料混合物を得る工程(b1−1)であり、 前記工程(b1)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b1−A)を備える。 【請求項11】 (削 除) 【請求項12】 前記工程(b1)において、前記原料化合物を−20℃以上300℃以下の温度に調整し、前記被覆原料溶液1と接触させる、請求項10に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項13】 前記工程(b1−1)において、前記被覆原料溶液1の噴霧液滴のザウター平均粒径D32が10μm以上500μm以下である、請求項10又は12に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項14】 前記工程(b1−1)において、前記原料化合物のメジアン径DP50と、前記被覆原料溶液1を噴霧する際の噴霧液滴のザウター平均粒径D32との比(DP50/D32)が、0.001以上10以下である、請求項10,12,13のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項15】 前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1を前記原料化合物と接触させる際の、前記被覆原料溶液1の温度が、−20℃以上300℃以下である、請求項10,12〜14のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項16】 前記工程(b1)において、前記被覆原料溶液1中の元素Mの濃度が、0.001mol/L以上100mol/L以下である、請求項10,12〜15のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項17】 前記工程(b1)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項10,12〜16のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項18】 下記工程(a)〜工程(c)を以下の順で備える、請求項1,4,7及び8のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 工程(a)少なくともNiを含有する前駆体と、Liを含有するリチウム化合物を混合して焼成し、原料化合物を得る工程。 工程(b)B、Nb及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素Mを含む被覆原料と、前記原料化合物を接触させ、原料混合物を得る工程。 工程(c)前記原料混合物を200℃以上から600℃以下の温度で熱処理する工程。 ただし、前記工程(b)は、前記原料化合物を、前記元素Mとリチウムとを含む被覆原料溶液2に浸漬させて原料混合物を得る工程(b2)であって、 前記工程(b2)の後、前記工程(c)の前に、前記原料混合物中に含まれる溶媒を除去し、前記原料混合物中の溶媒の含有率を30質量%以下に調整する工程(b2−A)を備える。 【請求項19】 前記工程(b2)において、前記原料化合物に対する前記被覆原料溶液2の量が、重量基準で0.1倍以上10倍以下である、請求項18に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項20】 前記被覆原料溶液2の温度が−20℃以上80℃以下である、請求項18または19に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項21】 前記工程(b2)において、前記被覆原料溶液2に含まれるLiの濃度が、0.01mol/L以上10mol/L以下である、請求項18〜20のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項22】 前記工程(b2)において、前記原料混合物に含まれるリチウムの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項18〜21のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項23】 前記工程(b)において、前記原料混合物に含まれるリチウムを含む化合物は、結晶構造中に含まれるLiを除くLiの物質量に対する、元素Mの物質量の比(M/Li)が、0.1以上50以下である、請求項10または18に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 ただし、原料混合物に含まれるリチウムの物質量とは、原料混合物に含まれる前記原料化合物の結晶構造中に含まれるリチウムを除いた量とする。 【請求項24】 前記工程(b)において、前記原料化合物に含まれるLiを除く金属元素の総量(Ni+X)に対する、被覆原料に含まれる元素Mの割合(M/(Ni+X))は、モル比で0.0001以上0.05以下である、請求項10,12〜23のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 【請求項25】 前記原料化合物が、下記式(II)を満たす請求項10,12〜24のいずれか1項に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法。 Li(Lip(Ni(1−q−r)CoqX1r)1−p)O2・・(II) (−0.1≦p≦0.2、0≦q≦0.4、0≦r≦0.4、1−q−r≧0.3、X1はMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Cr、Ga、Ge、Pd、Ag、Cd、InおよびVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-12-13 |
出願番号 | P2019-076526 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C01G)
P 1 651・ 853- YAA (C01G) P 1 651・ 536- YAA (C01G) P 1 651・ 851- YAA (C01G) P 1 651・ 537- YAA (C01G) P 1 651・ 121- YAA (C01G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 金 公彦 |
登録日 | 2020-02-10 |
登録番号 | 6659894 |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | リチウム金属複合酸化物粉末、リチウム二次電池用正極活物質、及びリチウム金属複合酸化物粉末の製造方法 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |