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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1395187
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-25 
確定日 2022-12-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6880259号発明「リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6880259号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、4、5について訂正することを認める。 特許第6880259号の請求項1及び3〜5に係る特許を維持する。 特許第6880259号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6880259号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成30年10月3日に出願した特願2018−188211号の一部を令和2年1月31日に新たな特許出願としたものであって、令和3年5月7日にその特許権の設定登録がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年11月25日に特許異議申立人 猪狩 充(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、令和4年3月18日付けで取消理由が通知された。特許権者は、その指定期間内である同年5月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審において、同年7月4日付けで特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知書が通知され、申立人は、上記訂正の請求に対して、同年8月5日に意見書を提出した。さらに、当審において、同年9月12日付けで特許権者に審尋が通知され、これに対し、特許権者は同年11月10日に回答書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年5月20日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を、当該訂正請求書に添付した訂正した特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項1〜5について、以下の訂正事項1〜6の訂正を求めるものである。

(1) 訂正事項1
本件訂正前の請求項1に係る「である、ノンアルコール飲料」との記載を、「であり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料」(下線は訂正による追加箇所を示す。訂正事項3及び4も同様)に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)

(2) 訂正事項2
請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
本件訂正前の請求項3に係る「請求項1又は2に記載の飲料」との記載を、「請求項1に記載の飲料」に訂正する。

(4) 訂正事項4
本件訂正前の請求項4に係る「であるノンアルコール飲料」との記載を、「であり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料」に訂正する。

(5) 訂正事項5
本件訂正前の請求項1〜5に関し、明細書段落【0044】の【表4】の「K源」の行において、「クエン酸K」(2か所)を「−」に、「−」(2か所)を「クエン酸K」に訂正する。

(6) 訂正事項6
本件訂正前の請求項1〜5に関し、明細書段落【0046】の【表5】の「K源」の行において、「クエン酸K」(3か所)を「−」に、「−」(3か所)を「クエン酸K」に訂正する。

2 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1〜3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1〜3に対応する訂正後の請求項1〜3に係る本件の訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

3 訂正の目的の適否
(1) 訂正事項1は、請求項1の「ノンアルコール飲料」が「炭酸飲料」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3) 訂正事項3は、訂正事項2により請求項2を削除する訂正と整合させるために、訂正前に請求項1又は2の記載を引用する請求項3を、請求項1の記載のみを引用するものとする訂正であり、引用する請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものといえる。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(4) 訂正事項4は、請求項4の「ノンアルコール飲料」が「炭酸飲料」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(5) 訂正事項5及び6は、それぞれ、各実施例の結果をまとめて表示する表4及び表5において、各実施例の「カリウム(ppm)」の有無と、カリウムの由来原料である「K源」の有無に矛盾があり、その記載を整合させるものであるから(下記4(5)で詳述する。)、誤記の訂正を目的とするものといえる。
したがって、訂正事項5及び6は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

4 新規事項についての判断
(1) 訂正事項1について
請求項1の記載を引用する本件訂正前の請求項2及び本件訂正前の特許明細書の【0019】には、「飲料」が「炭酸飲料」であることが記載されているから、訂正事項1で追加する請求項1における限定は、本件訂正前の特許明細書及び特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであって、請求項の削除により、新たな技術的事項が導入されることはないから、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、記載を引用する請求項のうち一部の請求項を削除するものであるが、このことにより新たな技術的事項が導入されることはないから、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

(4) 訂正事項4について
本件訂正前の請求項2及び本件訂正前の特許明細書の【0019】には、「飲料」が「炭酸飲料」であることが記載されているから、訂正事項4で追加する請求項4における限定は、本件訂正前の特許明細書及び特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

(5) 訂正事項5及び6について
訂正事項5及び6について、本件特許出願時の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。)における表4及び表5には、それぞれ、


」及び


」と記載されているところ、「カリウム(ppm)」の有無と、カリウムの由来原料である「K源」の有無が整合していないことから、「カリウム(ppm)」の記載と「K源」の記載のどちらかの行に、誤記が存在するものと認められる。
ここで、当初明細書等の【0012】には、
「(カリウム)
本発明の飲料におけるカリウムの含有量は150〜1000ppmである。ある態様においては、当該飲料中のカリウムの含有量は150〜500ppm、又は150〜300ppmである。カリウム量が増加するにつれてリンゴ酸の後味のもたつきを軽減する効果が高まり、その量が一定以上となると軽減効果が十分に現れる。」と記載され、同【0032】には、実施例における試験方法の評価基準について、
「 1点:リンゴ酸の後味のもたつきが強い
2点:リンゴ酸の後味のもたつきが感じられる
3点:リンゴ酸の後味のもたつきをあまり感じない
4点:リンゴ酸の後味のもたつきをほとんど感じない
5点:リンゴ酸の後味のもたつきを感じず、スッキリとした後味」であることが記載されている。
そうすると、カリウム(K)の存在により、リンゴ酸の後味のもたつきが軽減され、カリウムの存在が評価点数の高さとして反映されるものといえるから、「点数」が高く、後切れが良くすっきりしているという「コメント」の実施例(実施例4−2、4−4、5−2、5−4及び5−6)はカリウムを含有し、「点数」が低く、後味にもたつきが残るという「コメント」の実施例(実施例4−1、4−3、5−1、5−3及び5−5)はカリウムを含有していないものと認められる。
そうしてみると、上記表4及び表5における「カリウム(ppm)」の欄には誤記はなく、「K源」の欄に誤記があって、訂正事項5及び6は、当該誤記を本来その意であることが当初明細書から明らかな記載に直すものといえる。そして、そのような訂正は、本件特許出願時の願書に最初に添付した特許請求の範囲又は明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。
したがって、訂正事項5及び6による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。

5 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
(1) 訂正事項1〜4について
前記3及び4で検討したとおり、訂正事項1〜4は、本件訂正前の特許明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲を減縮したものであり、発明の対象やカテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1〜4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。

(2) 訂正事項5及び6について
前記3及び4で検討したとおり、訂正事項5及び6は、当初明細書等に記載された事項の範囲内において、誤記の訂正をしたものであり、請求項1及び3〜5に関し、発明の対象やカテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5及び6による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。

なお、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は、特許異議の申立てがされていない請求項に係る同法第126条第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正に対して判断されるものであるところ、本件訂正前の請求項1〜5は、特許異議の申立てがされている請求項であるから、当該請求項に係る訂正は独立形式要件の判断を要しない。

6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕、4、5について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正した特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
リンゴ酸の含有量が500〜3000ppmであり、カリウムの含有量が150〜1000ppmであり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料であって、
pHが2.0〜6.0である、前記飲料(但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
チューハイテイスト飲料、又はノンアルコールカクテルである、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0であり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料を製造する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程
を含む、
前記方法(但し、前記飲料がホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む場合、及び前記飲料が、果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物である場合、及び前記飲料が牛乳と果汁とを含有する飲料である場合、及び前記飲料が豆乳と果汁とを含有する飲料である場合は除く)。
【請求項5】
リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0であるノンアルコール飲料におけるリンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程を含む、前記方法(但し、前記飲料がホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む場合、及び前記飲料が、果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物である場合、及び前記飲料が牛乳と果汁とを含有する飲料である場合、及び前記飲料が豆乳と果汁とを含有する飲料である場合は除く)。」

第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証〜甲第4号証を提出して、以下の申立ての理由1(理由1A及び1B)及び理由2(理由2A〜2F)を主張している。

(1) 理由1(特許異議申立書(別紙)(4)ウ(ア)〜(ウ))
(1A) 理由1A(新規性
本件訂正前の請求項1及び4に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(1B) 理由1B(進歩性
本件訂正前の請求項1、4及び5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項1、4及び5に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 理由2(特許異議申立書(別紙)(4)ウ(エ)〜(キ))
(2A) 理由2A(新規性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2B) 理由2B(進歩性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項1〜4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2C) 理由2C(進歩性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項1〜4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2D) 理由2D(進歩性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明並びに甲第2及び3号証に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項1〜4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2E) 理由2E(進歩性
本件訂正前の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明並びに甲第2及び4号証に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項3に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2F) 理由2F(進歩性
本件訂正前の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明並びに甲第2〜4号証に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正前の請求項3に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2012−152184号公報
甲第2号証:特開2009−112220号公報
甲第3号証:香川芳子監修, “七訂 食品成分表 2016 本表編”, 女子栄養大学出版部, 2016年4月1日, p. 184-185
甲第4号証:“No.12092 (2014.6.25) ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態調査 サントリー ノンアルコール飲料レポート2014”, [online], 2014年6月25日, SUNTORY, [令和3年11月25日印刷日], インターネット

(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。乙号証についても同様)

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜5に係る特許に対して、当審において令和4年3月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由A:(新規性)本件訂正前の請求項1及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。

理由B:(新規性)本件訂正前の請求項1及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲3を参照すれば、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。

理由C:(サポート要件)本件訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許請求の範囲に記載の「pHが2.0〜6.0」であることに関し、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

第5 当審における判断
当審合議体は、上記取消理由で通知した理由及び申立人の申し立てた理由によっては、本件請求項1及び3〜5に係る特許は取り消されるべきではないと判断する。
その理由は次のとおりである。

1 各甲号証の記載について(以下「・・・」は記載の省略を表す。)
(1) 甲1の記載
(1a) 「【請求項1】
実質的に脂質を含有しない液状の栄養組成物であって、
ミネラルとして少なくともカルシウムを含有するとともに、
平均分子量500〜1500のペプチドを3〜5重量%と、
アミロース含量が20%未満である澱粉を由来とするDE10〜20のデキストリン、またはアミロース含量が20%以上である澱粉を由来とするDE15〜20のデキストリンを計18〜27重量%と、
リンゴ酸、L−酒石酸、乳酸、コハク酸、リン酸、グルコン酸およびアジピン酸からなる群より選ばれた酸味料を計0.1〜0.5重量%とを含有することを特徴とする栄養組成物。
【請求項2】
pHが4〜5.5、1mLあたりの熱量が0.8〜1.2kcal、粘度が5mPa・s以下、浸透圧が550mOsm/L以下、かつ波長720nmの光線の透過率が60%T以上である請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
前記酸味料がリンゴ酸である請求項1または2に記載の栄養組成物。
・・・
【請求項8】
さらにナトリウム、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、ヨウ素、クロムおよびモリブデンのうち1種または2種以上のミネラルを含有する請求項1ないし7のいずれかに記載の栄養組成物。」

(1b) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、栄養補給を必要とする外科手術患者や低栄養状態の患者などに対して効率的に熱量、蛋白、糖質、ミネラル、およびビタミンの補給ができる液状の栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養不良の外科手術患者や低栄養状態の患者は、筋肉量の減少、術後創傷の回復遅延、免疫機能の低下などを招き、合併症発症率は通常の患者より高くなる。また、それゆえに入院期間の延長、医療費の増加、死亡率の上昇などの不利益が生じる。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の目的は、栄養不良の患者に対して栄養分や水分の補給及び電解質バランス維持が可能である、過剰な血糖上昇が起きない程度の炭水化物が含まれており術後の耐糖能が改善される、消化・吸収が速やかであり下痢等が発生しにくいといった医学的・栄養学的機能を備えることに加え、さらに風味が良く経口摂取しやすい液状の栄養剤(栄養組成物)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成すため鋭意研究を重ねた結果、ミネラルとしてカルシウムを含有する栄養組成物において、平均分子量500〜1500のペプチドを3〜5重量%、アミロース含量が20%未満である澱粉を由来とするDE10〜20のデキストリンまたはアミロース含量が20%以上である澱粉を由来とするDE15〜20のデキストリンを計18〜27重量%、リンゴ酸、L−酒石酸、乳酸、コハク酸、リン酸、グルコン酸およびアジピン酸からなる群より選ばれた酸味料を計0.1〜0.5重量%含有することで、澄明で清涼感を有し、冷蔵保存しても白濁を生じず、さらに風味が良好で経口摂取しやすい液状の栄養組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(1c) 「【0025】
本発明の栄養組成物で使用する酸味料は、食品に酸味の付与または調整、味の調和のために使用されるものの総称を指し、従来から食品に慣用される酸味料であれば特に限定されるものではない。このような酸味料としては、リンゴ酸、L−酒石酸、乳酸、コハク酸、リン酸、グルコン酸、アジピン酸などあるが、最も好ましくは爽快な酸味のあるリンゴ酸が挙げられ、これらの2種類以上を組み合わせ使用してもよい。また、クエン酸はカルシウムと反応し沈澱を生じることから好ましくない。
【0026】
本発明の栄養組成物で使用する酸味料の含有量は、0.1〜0.5重量%の範囲内である。酸味料の含有量が0.1重量%より少ないと、味覚に対して酸味を感じさせない。酸味料の含有量が0.5重量%より多いと、味覚に対して強烈な酸味を感じさせ、風味が良くないだけでなく、栄養組成物の加熱殺菌後の浸透圧が高くなる。」

(1d) 「【0034】
本発明の栄養組成物に配合するカルシウム以外のミネラルとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、ヨウ素、クロムおよびモリブデン等が挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されていても良いし、有機電解質成分として配合されていてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸(例えばグルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、無機塩基、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。また、微量元素については、微量元素蓄積性を有する微生物を高濃度の微量元素化合物を含有する培地内で培養して得られたものを用いても良い。
【0035】
ミネラルの含有量としては、栄養組成物100mLあたり、下記の範囲が適当である。ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
鉄 0.1〜55mg、好ましくは1〜10mg
銅 0.01〜10mg、好ましくは0.1〜6mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
マンガン 0.01〜11mg、好ましくは0.1〜4mg
セレン 0.1〜450μg、好ましくは1〜35μg
クロム 0.1〜40μg、好ましくは1〜35μg
ヨウ素 0.1〜3000μg、好ましくは1〜150μg
モリブデン 0.1〜320μg、好ましくは1〜25μg」

(1e) 「【0043】
このようにして得られた本発明の栄養組成物は、効率的に熱量、窒素源、糖質、ミネラル、およびビタミンを補給でき、澄明で清涼感を有し、さらに、冷蔵保存しても白濁しない澄明な液状のペプチド含有栄養組成物として、栄養補給を必要とする外科手術患者や低栄養状態の患者などが抵抗なく経口摂取できるものである。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
表1および2に示す原料および配合量で栄養組成物を調製法1の方法により調製した。
【0046】
【表1】

※1)Lacprodan(登録商標) DI−3065:アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社
※2)TK−16、松谷化学工業株式会社
【0047】
【表2】

【0048】
(調製法1)
約70℃の温水を撹拌しながら、ペプチド(Lacprodan DI−3065、平均分子量910ダルトン、乳清由来、アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社)およびデキストリン(TK−16、DE18、タピオカ澱粉由来、松谷化学工業株式会社)を少しずつ投入した。その後、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、グリセロリン酸カルシウム、塩化マグネシウム、リンゴ酸を投入した。クエン酸鉄、グルコン酸亜鉛、グルコン酸銅、およびスクラロースを砂糖と粉体混合して投入した。次に、約20℃まで冷却した後、パイナップルフレーバー、ビタミンミックス、およびアスコルビン酸ナトリウムを投入して撹拌保持した。さらに、水を加え、全量を12Lにして、150kg/cm2で高圧ホモジナイザー処理した。142℃、4秒でUHT殺菌処理を行った後、放冷して栄養組成物を得た。該組成物におけるペプチドの含有量は3.6重量%、デキストリンの含有量は20.8重量%、リンゴ酸の含有量は0.2重量%、砂糖の含有量は0.6%重量であった。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、デキストリンをパインデックス#2(DE11、タピオカ澱粉由来、松谷化学工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0050】
(実施例3)
実施例1において、デキストリンをサンデック(登録商標)#150(DE15、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0051】
(実施例4)
実施例1において、デキストリンをサンデック#185N(DE19、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0052】
(実施例5)
実施例1において、ペプチドをWE80BG(平均分子量570、乳清由来、日本新薬株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0053】
(実施例6)
実施例1において、デキストリンの含有量を20.4%、リンゴ酸の含有量を0.5%、砂糖の含有量を1%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0054】
(実施例7)
実施例1において、ペプチドの含有量を3%、デキストリンの含有量を26.4%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0055】
(実施例8)
実施例1において、デキストリンをサンデック#150(DE15、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)、デキストリンの含有量を23.3%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、デキストリンをパインデックス#1(DE8、タピオカ澱粉由来、松谷化学工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、デキストリンをサンデック#100(DE10、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0058】
(比較例3)
実施例1において、デキストリンをサンデック#250(DE25、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0059】
(比較例4)
実施例1において、ペプチドをCE90STL(平均分子量380、カゼイン由来、日本新薬株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0060】
(比較例5)
実施例1において、ペプチドをWE90F(平均分子量7400、乳清由来、日本新薬株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0061】
(比較例6)
実施例1において、ペプチドをWPI8855(乳清蛋白分離物、フォンテラジャパン株式会社)に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0062】
(比較例7)
実施例1において、リンゴ酸をクエン酸に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0063】
(比較例8)
実施例1において、リンゴ酸を含有しない以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0064】
(比較例9)
実施例1において、デキストリンをパインデックス#2(DE11、タピオカ澱粉由来、松谷化学工業株式会社)、デキストリンの含有量を20.4%、酸味料の含有量を0.8%、砂糖の含有量を1%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0065】
(比較例10)
実施例1において、ペプチドの含有量を3%、デキストリンの含有量を28.9%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0066】
(比較例11)
実施例1において、ペプチドの含有量を8.5%、デキストリンをサンデック#150(DE15、コーン澱粉由来、三和澱粉工業株式会社)、デキストリンの含有量を20.9%に変更した以外、実施例1と同じ調製法により栄養組成物を得た。
【0067】
(評価方法)
実施例1〜8と比較例1〜10の栄養組成物の加熱殺菌後、粘度はB型粘度計(RB−80L、東機産業株式会社)で測定した。浸透圧は、浸透圧計(3D−3、アドバンス社)、加熱殺菌後、凍結融解20回、および4℃、8週間保存後の720nmにおける透過率(%T)は、紫外可視分光光度計(V−650、日本分光株式会社)で測定した。
【0068】
官能評価は、パネル10名を用いて、以下の表3に示す基準で評価を行った。
【0069】
【表3】

測定した結果は、表5に示す。
【0070】
実施例1〜8の栄養組成物は、粘度が5mPa・s以下、浸透圧が550mOsm/L以下、凍結融解20回および4℃、8週間保存で720nmにおける透過率は60%T以上となり、白濁することなく澄明を維持し、風味も良好で、経口摂取しやすかった。
【0071】
比較例1の栄養組成物は、凍結融解20回および4℃、8週間保存で720nmにおける透過率が60%T未満となり、透明性が維持されなかった。
【0072】
比較例2の栄養組成物は、凍結融解20回および4℃、8週間保存で720nmにおける透過率が60%T未満となり、透明性が維持されなかった。
【0073】
比較例3の栄養組成物は、浸透圧が550mOsm/Lを超え、また風味が悪く経口摂取しにくかった。
【0074】
比較例4の栄養組成物は、浸透圧が550mOsm/Lを超え、また風味が悪く経口摂取しにくかった。
【0075】
比較例5の栄養組成物は、調製するとともに白濁した。
【0076】
比較例6の栄養組成物は、調製するとともに白濁した。
【0077】
比較例7の栄養組成物は、凍結融解20回および4℃、8週間保存時の720nmにおける透過率は60%T以下となり、かつクエン酸カルシウムの沈澱を生じた。また風味がやや悪く、やや経口摂取しにくかった。
【0078】
比較例8の栄養組成物は、pHが5.5を超え、また風味が悪く経口摂取しにくかった。
【0079】
比較例9の栄養組成物は、酸味が非常に強く、経口摂取しにくかった。
【0080】
比較例10の栄養組成物は、1mLあたりの熱量が1.2kcalを超え、粘度が5mPa・sを超え、浸透圧が550mOsm/Lを超え、かつ風味が悪く経口摂取しにくかった。
【0081】
比較例11の栄養組成物は、粘度が5mPa・sを超え、浸透圧が550mOsm/Lを超え、かつ風味が悪く経口摂取しにくかった。
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】



(2) 甲2の記載
(2a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロオリゴ糖とpH調整剤を含有し、無脂乳固形分が0.3〜8質量%であることを特徴とする、非発酵性酸性乳飲料。
【請求項2】
無脂乳固形分が、1〜5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の非発酵性酸性乳飲料。
【請求項3】
さらに1ppm〜10質量%の高甘味度甘味料を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の非発酵性酸性乳飲料。
【請求項4】
増粘率100%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の非発酵性酸性乳飲料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の非発酵性酸性乳飲料を含むことを特徴とする、食品組成物または医薬品組成物。」

(2b) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロオリゴ糖とpH調整剤を含有し、低カロリーで増粘性が低く、安定性が改善された非発酵性酸性乳飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳や乳酸菌飲料を含む酸性乳飲料は、酸味が強く、独特の風味があるため、殆どの商品にはショ糖などの甘味料が添加されている。しかしながら酸性乳飲料は、健康志向の消費者に好まれる商品であるため、ショ糖をはじめとする高カロリーの消化性糖質の配合は、出来るだけ低減することが望まれる。
【0003】
また乳成分は、酸性領域で不安定化するため、沈殿や分離など安定性に問題が生じ、商品の外観が損なわれるという問題がある。この現象を改善するため、食品添加物である増粘安定剤を配合する方法が良く知られている。しかしながら消費者の健康志向から、食品添加物の配合量は、出来るだけ低減されることが望まれており、さらに増粘安定剤の配合は、増粘やマスキングを引き起こし、味やのど越しを悪化させる。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、セロオリゴ糖とpH調整剤を含有し、低カロリーで増粘性が低く、安定性が改善された非発酵性酸性乳飲料を提供することを課題とする。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明は、難消化性であるセロオリゴ糖と、pH調整剤を配合することで、低カロリーで増粘性が低く、且つ、安定性が改善された非発酵性酸性乳飲料を提供することを可能とする。」

(2c) 「【0018】
本発明のpH調整剤とは、pHを制御する目的で配合される物質であれば、特に限定されるものではなく、酸、アルカリ、緩衝液、食品添加物に区分される後述の酸味料などが含まれる。ただし微生物はこれに含まれない。
ここで言う酸とは、例えば、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、蟻酸およびそれらの塩類などがあげられ、アルカリには、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム(重曹)などがあげられる。また、緩衝液としては、フタル酸緩衝液、フタル酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などがあげられる。
【0019】
本発明の無脂乳固形分とは、乳を構成する成分のうち、乳から水分と脂肪分を除いた値であり、その主たる成分は、タンパク質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどである。
本発明の非発酵性酸性乳飲料における、無脂乳固形分の含有量は0.3〜8質量%である。0.3質量%より少ないと乳の風味が感じられず、8質量%より多いと固形分が多すぎて、飲料としての口当たりに違和感を生じるからである。この範囲内であれば、特に限定されるものではないが、良好な風味を得るための、好ましい含有量は1〜5質量%、さらに好ましくは2〜4質量%である。
【0020】
本発明の非発酵性酸性乳飲料とは、乳成分(乳または、これと同等以上の無脂乳固形分を含む、乳等)を含有し、その製造方法に微生物による発酵工程を含まない酸性飲料のことである。つまり、発酵乳や乳酸菌飲料などの発酵飲食品は、これに含まれない。
ここで言う乳は、その由来や加工の有無を特に限定するものではないが、例えば、牛乳、「山羊、羊、馬、ラクダなどの動物から得られる乳」、人乳、「豆乳などの植物から得られる乳」などがあげられる。
【0021】
ここで言う乳等とは、その由来や加工の有無を特に限定するものではないが、脱脂乳、加工乳、乳飲料、乳製品(クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、濃縮乳、煉乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳など)、調整豆乳、豆乳飲料、大豆飲料、植物性粉末(大豆全粒粉、脱脂大豆粉など)、植物性たんぱく(大豆たんぱく、小麦たんぱくなど)、脱脂大豆などが含まれる。
【0022】
本発明の非発酵性酸性乳飲料のpHは、6未満であれば特に限定されるものではないが、保存・流通における変敗抑制と風味のバランスを考えると、好ましくはpH2.8〜5.2、特に好ましくはpH3.3〜4.4である。
・・・
【0024】
上述の条件を満たしていれば、非発酵性酸性乳飲料の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、「乳成分を含む飲料ベースに、pH調整剤などを添加して酸性にする方法」が一般的である。
・・・
【0027】
本発明の食品組成物とは、薬事法で規定される医薬品および医薬部外品と、食品衛生法で規定される食品添加物を除き、飲食に供されるものが全て含まれる。
本発明の食品組成物とは、一般に食品として供される組成物のことであり、例えば、「ゼリー、プリン、植物性発酵食品などのゲル状食品」、「アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、フローズンヨーグルトなどの冷菓」、「キャンディー、グミキャンディー、トローチ、錠菓、チョコレート、ビスケット、クッキー、米菓、和洋菓子、洋生菓子、スナック菓子、砂糖菓子、プリンなどの菓子類」、「マヨネーズ、ドレッシング、ソース類、たれ類などの調味料」、「フライ類、コロッケ、餃子、中華饅頭などの調理加工品」、「カレー、ハヤシ、ミートソース、シチュー、スープなどのレトルト食品」、「麺類、スープ、野菜加工品などのチルド食品や冷凍食品」、「ハンバーグ、ベーコン、ソーセージ、サラミソーセージ、ハム類などの畜産加工品」、「蒲鉾、ちくわ、魚肉ハム・ソーセージ、揚げ蒲鉾などの水練製品」、「パン、生麺、乾麺、マカロニ、スパゲッティ、中華饅頭の皮、ケーキミックス、プレミックス、ホワイトソース、餃子・春巻等の皮類などの小麦加工食品」、「カレー、ソース、スープ、佃煮、ジャムなどの缶詰類や瓶詰類」、「野菜ペースト、肉のミンチ、果実ペースト、魚介類のペースト等のペースト類」、「果汁・果肉飲料、野菜飲料、酸性乳飲料、乳飲料、殺菌乳酸菌飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶、抹茶、ココア飲料、ウーロン茶、煎茶、フルーツ牛乳、炭酸飲料、アルコール飲料などの嗜好飲料」、「豆乳、調製豆乳、豆乳飲料、発酵豆乳、大豆飲料などの豆乳類」、「牛乳、加工乳、低脂肪乳などの牛乳類」、「ホイップクリーム、練乳、バター、ヨーグルト、チーズなどの乳製品」、「マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどの油脂加工品」などがある。」

(2d) 「【0030】
本発明の非発酵性酸性乳飲料と、それを含有する食品組成物または医薬品組成物には、本発明の効果を妨げない限りにおいて、上記の成分以外に、後述の食品素材、食品添加物、医薬品、医薬品添加物などを適宜配合しても良い。
【0031】
ここで言う食品素材とは、一般に食品の原材料として使用される素材のことであり、薬事法で規定される医薬品および医薬部外品と、食品衛生法で規定される食品添加物を除き、飲食に供される全てのものが含まれる。
ここで言う食品添加物とは、食品の加工もしくは保存の目的で添加される物質のことである。
【0032】
食品添加物の例としては、厚生労働省の「指定添加物リスト」、「既存添加物名簿収載品目リスト」、「天然香料基原物質リスト」、「一般に食品として飲食に供させている物であって添加物として使用される品目リスト」などに収載される食品添加物や、JECFAなどの国際機関で安全性が確認されたもの、米国・欧州などの諸外国で使用が認可されている食品添加物などがあげられ、保存料・日持向上剤、酸化防止剤、甘味料、着色料・色素、乳化剤、増粘ゲル化剤、品質改良剤、調味料、酸味料、強化剤、香料、酵素などに分類される。
・・・
【0042】
調味料としては、例えば、グルタミン酸Na、核酸系調味料、アミノ酸系調味料、エキス系調味料、酵母エキス、グリシン、アラニンなどがあげられる。
酸味料としては、例えば、クエン酸およびその塩、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、グルコン酸液、グルコノデルタラクトンなどがあげられる。
強化剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ニコチン酸およびニコチン酸アミド、葉酸、パトテン酸Ca、グルコン酸Ca、乳酸Ca、天然Ca、ミルクCaなどがあげられる。」

(2e) 「【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例と比較例を示して、具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例で使用する原材料について、次の(1)〜(5)に示す。
・・・
【0061】
[実施例1]
表1の配合に従って、無脂乳固形分2.5%の、酸性乳飲料Aを製造した。
セロビオースとグラニュー糖を溶解させた、40℃の溶液に、脱脂粉乳(雪印乳業株式会社製)を加え、400rpmで8分間攪拌して溶解させた。
さらに攪拌を続けながら、25℃まで冷却し、50%乳酸とDL−リンゴ酸を少量の水に溶解したものを加える。さらにクエン酸Naを外割で添加してpH調整し、0.1質量%のヨーグルトフレーバー(富士香料化工株式会社製)を加え、5分間攪拌する。
【0062】
上記溶液を、高圧ホモジナイザー(APV Gaulin社製、「15MR−8TA」)を使用して、15MPaの圧力で均質化処理し、85℃で殺菌処理の後、容器に充填して酸性乳飲料Aとした。pHは3.6であった。
得られた酸性乳飲料Aの増粘率、安定性、食感評価(糊状感、のど越し)の結果を、表2に示した。比較例1に示す基準と比較して、増粘の兆候は見られず、安定性が改善され、食感も良好であった。
【0063】
[実施例2]
表1の配合に従って、実施例1と同様の方法で、無脂乳固形分2.5%の、酸性乳飲料Bを製造し、評価した結果を表2に示す。pHは3.6であった。
比較例1に示す基準と比較して、増粘の兆候は見られず、安定性が改善され、食感も良好であった。
【0064】
[実施例3]
表1の配合に従って、実施例1と同様の方法で、無脂乳固形分2.5%の、酸性乳飲料Cを製造し、評価した結果を表2に示す。pHは3.6であった。
比較例4に示す基準と比較して、増粘の兆候は見られず、安定性が改善され、食感も良好であった。
【0065】
[実施例4]
10℃で3週間保存した、実施例2の酸性乳飲料Bを40質量%と、100%リンゴ果汁(イオン株式会社製)を60質量%混合し、無脂乳固形分1%の果汁入り乳飲料Dを調製し、評価した結果を表3に示す。pHは3.8であった。
得られた果汁入り乳飲料Dの食感は、基準である比較例5と同等であった。
・・・
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、難消化性であるセロオリゴ糖と、pH調整剤を配合することで、低カロリーで増粘性が低く、且つ、安定性が改善された非発酵性酸性乳飲料を提供することが可能である。つまり外観に優れ、且つ、食感の良好な商品の提供が可能となる。」

(3) 甲3の記載
(3a) 「

」(184頁上部)

(4) 甲4の記載
(4a) 「I.ノンアルコール飲料市場について
2013年のノンアルコール飲料市場は、約4,090万ケース(対前年101%)と、3年前の2倍近い規模に成長しました。
お客様の嗜好の多様化を受け、引き続き好調なビールテイストだけでなく、カクテルテイストやチューハイテイスト、梅酒テイストなど、様々な種類のノンアルコール飲料が支持を獲得しています。ノンアルコール飲料市場の成長は今後も続き、2014年は約4,240万ケース(対前年104%)に拡大するものと推定されます。(図1)」

2 当審において通知した取消理由の判断
2−1 理由A(新規性)について
(1) 甲1に記載された発明
摘記(1a)及び(1e)、特に表1、4、5及び【0048】によると、甲1には、具体的な実験例として実施例1〜5、7及び8が記載されているところ、以下に示す甲1A発明、甲1A'発明、甲1B発明及び甲1B'発明が記載されている。
なお、甲1A発明及び甲1A'発明は、実施例1、2、5、7及び8に基づいて認定し、甲1B発明及び甲1B'発明は、実施例3及び4に基づいて認定している。

「12L中に、22.80gのグリセロリン酸カルシウム、ペプチド(乳清由来)、タピオカ澱粉由来デキストリン、24.00gのリンゴ酸、12.36gの塩化カリウムを含有し、pHが4.7、4.8又は4.9の栄養組成物。」(以下「甲1A発明」という。)

「12L中に、22.80gのグリセロリン酸カルシウム、ペプチド(乳清由来)、タピオカ澱粉由来デキストリン、24.00gのリンゴ酸、12.36gの塩化カリウムを含有する、pH4.7、4.8又は4.9の栄養組成物を製造する方法であって、温水を撹拌しながら、ペプチド、タピオカ澱粉由来デキストリンを少しずつ投入し、その後、塩化カリウム、グリセロリン酸カルシウム、リンゴ酸を投入し、次に、冷却した後、水を加え、全量を12Lにして高圧ホモジナイザー処理し、殺菌処理を行った後、放冷する工程を含む、前記方法。」(以下「甲1A'発明」という。)

「12L中に、22.80gのグリセロリン酸カルシウム、ペプチド(乳清由来)、コーン澱粉由来デキストリン、24.00gのリンゴ酸、及び12.36gの塩化カリウムを含有する、pH4.7又は4.9の栄養組成物。」(以下「甲1B発明」という。)

「12L中に、22.80gのグリセロリン酸カルシウム、ペプチド(乳清由来)、コーン澱粉由来デキストリン、24.00gのリンゴ酸、12.36gの塩化カリウムを含有する、pH4.7又は4.9の栄養組成物を製造する方法であって、温水を撹拌しながら、ペプチド、コーン澱粉由来デキストリンを少しずつ投入し、その後、塩化カリウム、グリセロリン酸カルシウム、リンゴ酸を投入し、次に、冷却した後、水を加え、全量を12Lにして高圧ホモジナイザー処理し、殺菌処理を行った後、放冷する工程を含む、前記方法。」(以下「甲1B'発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「リンゴ酸」は、栄養組成物12L中に24.00g含まれるから、甲1A発明のリンゴ酸の含有量は(24/12)×103=2000ppmと算出され、本件発明1の「リンゴ酸の含有量が500〜3000ppm」の範囲に含まれる。
また、甲1A発明の「塩化カリウム」は、栄養組成物12L中に12.36g含まれるから、その含有量は(12.36/12)×103=1030ppmと算出され、そのうちカリウムの含有量は(39.1/(39.1+35.45))×1030=540ppmであるから、本件発明1の「カリウムの含有量が150〜1000ppm」の範囲に含まれる。
そして、甲1A発明の「pH4.7、4.8又は4.9」は、本件発明1の「pHが2.0〜6.0」の範囲に含まれる。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、
「リンゴ酸の含有量が500〜3000ppmであり、カリウムの含有量が150〜1000ppmである、組成物であって、pHが2.0〜6.0である、前記組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「炭酸飲料であるノンアルコール飲料」であるのに対し、甲1A発明は、「栄養組成物」である点

相違点2:本件発明1は、「但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く」のに対し、甲1A発明は、そのような特定がされていない点

(イ) 検討
まず、相違点1について検討すると、摘記(1a)及び(1b)には、甲1A発明の「栄養組成物」は、経口摂取しやすい液状の栄養組成物であることが記載されており、液状の組成物を経口摂取する場合は、通常飲用されるから甲1A発明は飲料といえる。また、甲1A発明の組成からアルコールを含有せず、ノンアルコール飲料であることは明らかであるものの、甲1A発明の「栄養組成物」は、炭酸飲料ではないから、相違点1は実質的な相違点であり、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1A発明とはいえない。

(ウ) 本件発明1と甲1B発明との対比
本件発明1と甲1B発明とを対比すると、上記(ア)で示した一致点並びに相違点1及び2で、それぞれ同様に一致し、相違する。

(エ) 検討
相違点1は、上記(イ)と同様に、実質的な相違点であり、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1B発明とはいえない。

(オ) 小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

イ 本件発明4について
(ア) 本件発明4と甲1A'発明との対比
本件発明4の「リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0である組成物」について、「リンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、およびカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程」からすれば、当該組成物中には、リンゴ酸及びカリウムが、それぞれ、「500〜3000ppm」及び「150〜1000ppm」含まれていると認められるところ、本件発明4と甲1A'発明のリンゴ酸の含有量、カリウムの含有量、及びpHの対比については、上記ア(ア)と同様である。
甲1A'発明の「温水を撹拌しながら」「塩化カリウム」「リンゴ酸を投入し、次に、冷却した後、水を加え、全量を12Lにしてホモジナイザー処理」する工程は、本件発明4の「リンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、およびカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程」といえる。
そうすると、本件発明4と甲1A'発明とは、
「リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0である組成物を製造する方法であって、
当該組成物中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該組成物中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程
を含む、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:組成物が、本件発明4では、「炭酸飲料であるノンアルコール飲料」であるのに対し、甲1A'発明では、「栄養組成物」である点

相違点4:組成物が、本件発明4では、「但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く」のに対し、甲1A'発明は、そのような特定がされていない点

(イ) 検討
相違点3は、上記ア(イ)と同様に、実質的な相違点であり、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は甲1A'発明とはいえない。

(ウ) 本件発明4と甲1B'発明との対比
本件発明4と甲1B'発明とを対比すると、上記(ア)で示した一致点並びに相違点3及び4で、それぞれ同様に一致し、相違する。

(エ) 検討
相違点3は、上記(イ)と同様に、実質的な相違点であり、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は甲1B'発明とはいえない。

(オ) 小括
よって、本件発明4は、甲1に記載された発明ではない。

(3) まとめ
以上より、本件発明1及び4は、甲1に記載された発明ではない。

2−2 理由B(新規性)について
(1) 甲2に記載された発明
摘記(2e)の実施例1〜3によると、甲2には、以下に示す甲2発明及び甲2'発明が記載されている。

「セロビオースとグラニュー糖を溶解させた、40℃の溶液に、脱脂粉乳を加え、攪拌して溶解させ、さらに攪拌を続けながら、50%乳酸とDL−リンゴ酸を少量の水に溶解したものを加え、さらにクエン酸Naを外割で添加してpH調整し、ヨーグルトフレーバーを添加し攪拌した溶液を、高圧ホモジナイザーを使用して均質化処理し、殺菌処理の後、容器に充填して得られた、無脂乳固形分2.5%でpH3.6の酸性乳飲料であって、グラニュー糖、2.65質量%の脱脂粉乳、0.30質量%の50%乳酸、0.21質量%のDL−リンゴ酸、0.20質量%のセロオリゴ糖、0.1質量%のヨーグルトフレーバーを含む、酸性乳飲料。」(以下「甲2発明」という。)

「グラニュー糖、2.65質量%の脱脂粉乳、0.30質量%の50%乳酸、0.21質量%のDL−リンゴ酸、0.20質量%のセロオリゴ糖、0.1質量%のヨーグルトフレーバーを含み、無脂乳固形分2.5%でpH3.6の酸性乳飲料を製造する方法であって、セロビオースとグラニュー糖を溶解させた、40℃の溶液に、脱脂粉乳を加え、攪拌して溶解させ、さらに攪拌を続けながら、50%乳酸とDL−リンゴ酸を少量の水に溶解したものを加え、さらにクエン酸Naを外割で添加してpH調整し、ヨーグルトフレーバーを加え、攪拌した溶液を、高圧ホモジナイザーを使用して均質化処理し、殺菌処理の後、容器に充填する工程を含む、前記方法。」(以下「甲2'発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「0.21質量%のDL−リンゴ酸」は、約2100ppmのリンゴ酸の含有量に相当するから、本件発明1の「リンゴ酸の含有量が500〜3000ppm」の範囲に含まれる。
甲2発明の「pH3.6」は、本件発明1の「pHが2.0〜6.0」の範囲に含まれる。
また、甲2発明の「酸性乳飲料」は、「飲料」である点において、本件発明1の「ノンアルコール飲料」と一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「リンゴ酸の含有量が500〜3000ppmである、飲料であって、pHが2.0〜6.0である、前記飲料。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5:飲料が、本件発明1は、「炭酸飲料であるノンアルコール飲料」であるのに対し、甲2発明は、「酸性乳飲料」である点

相違点6:本件発明1は、「カリウムの含有量が150〜1000ppm」であるのに対し、甲2発明は、カリウムの含有量が特定されていない点

相違点7:飲料が、本件発明1は、「但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く」のに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点

(イ) 検討
まず、相違点5について検討すると、甲2発明の「酸性乳飲料」はその組成からアルコールを含有せず、ノンアルコール飲料であることは明らかであるものの、炭酸飲料ではないから、相違点5は実質的な相違点であり、相違点6及び7並びに甲3の脱脂粉乳に関する記載(摘記(3a))について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明とはいえない。

よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。

イ 本件発明4について
(ア) 本件発明4と甲2'発明との対比
甲2'発明のリンゴ酸の含有量及びpHについては、上記ア(ア)と同様である。
甲2'発明の「セロビオースとグラニュー糖を溶解させた、40℃の溶液に」「さらに攪拌を続けながら、50%乳酸とDL−リンゴ酸を少量の水に溶解したものを加え」る工程は、本件発明4の「リンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程」といえる。
そうすると、本件発明4と甲2'発明とは、
「リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0である飲料を製造する方法であって、
当該組成物中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、
を含む、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点8:飲料が、本件発明4は、「炭酸飲料であるノンアルコール飲料」であるのに対し、甲2'発明は、「酸性乳飲料」である点

相違点9:本件発明4は、「飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程」を含むのに対し、甲2'発明は、飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程を含まない点

相違点10:飲料が、本件発明4は、「但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く」のに対し、甲2'発明は、そのような特定がされていない点

(イ) 検討
相違点8は、上記ア(イ)と同様に、実質的な相違点であり、相違点9及び10について検討するまでもなく、本件発明4は甲2'発明とはいえない。

よって、本件発明4は、甲2に記載された発明ではない。

(3) 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書において、甲2には、摘記(2c)の【0027】に、非発酵性酸性乳飲料を含む食品組成物として炭酸飲料が記載されているから、炭酸飲料の点については、実質的な相違点ではない旨の主張をしている。
しかしながら、甲2発明は、甲2の請求項1に記載の非発酵性酸性乳飲料を具体的に実施した例である一方、甲2の【0027】に列挙されている炭酸飲料などは、当該酸性乳飲料を含む食品組成物であり、甲2発明の酸性乳飲料を炭酸飲料などの食品組成物にするためには、更にほかの成分を添加する必要がある(甲2の実施例4では(摘記(2e))、「果汁入り乳飲料D」を調製するために、酸性乳飲料に、リンゴ果汁を更に加えている。)。そして、甲2には、リンゴ酸及びカリウムの含有量並びにpHを保持した状態で、炭酸飲料などの食品組成物とすることについて記載はなく、上記【0027】には、「食品組成物」として、各種「ゲル状食品」、「冷菓」、「菓子類」、「調味料」、「調理加工品」、「レトルト食品」、「チルド食品や冷凍食品」、「畜産加工品」、「水練製品」、「小麦加工食品」、「缶詰類や瓶詰類」、「ペースト類」、「嗜好飲料」、「豆乳類」、「牛乳類」、「乳製品」及び「油脂加工品」が例示されるなか、その「嗜好飲料」について、「果汁・果肉飲料、野菜飲料、酸性乳飲料、乳飲料、殺菌乳酸菌飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶、抹茶、ココア飲料、ウーロン茶、煎茶、フルーツ牛乳、炭酸飲料、アルコール飲料」が並列的な例示として多数記載されているにすぎず、「酸性乳飲料」を「炭酸飲料」とする具体的な調製について、記載も示唆もない。
したがって、甲2発明及び甲2'発明において炭酸飲料とすることが、甲2に記載されているとはいえないし、甲2に記載されているに等しい事項であるともいえない。
よって申立人の主張は採用できない。

(4) まとめ
以上より、本件発明1及び4は、甲2に記載された発明ではない。

2−3 理由C(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲には、上記第3に示したとおり、請求項1及び3〜5の記載がある。

(3) 本件特許明細書の記載
(A) 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料を開発する際に、ノンアルコール飲料においてリンゴ酸の後味のもたつきが目立つことを見出した。
本発明の課題は、ノンアルコール飲料におけるリンゴ酸の後味のもたつきを軽減することである。」

(B) 「【0025】
(pH)
本発明の飲料のpHは特に限定されないが、例えば2.0〜6.0、又は2.0〜4.0である。」

(C) 「【実施例】
【0031】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試験方法)
後述する試験例において、アルコール含有飲料及びノンアルコール飲料を製造し、得られた飲料について、訓練された専門パネル3名がリンゴ酸の後味のもたつきを感じるかどうかの官能評価を行った。具体的には、リンゴ酸の後味のもたつきが強い場合を1点、リンゴ酸の後味のもたつきを感じず、スッキリとした後味が得られる場合を5点として、1〜5点の5段階で評価した。具体的な評価基準を以下に示す。
【0032】
1点:リンゴ酸の後味のもたつきが強い
2点:リンゴ酸の後味のもたつきが感じられる
3点:リンゴ酸の後味のもたつきをあまり感じない
4点:リンゴ酸の後味のもたつきをほとんど感じない
5点:リンゴ酸の後味のもたつきを感じず、スッキリとした後味
【0033】
各試験例においては、上記の評価に基づき各自が実施し、その後協議して評価点を決定した。なお、各パネラーは、評価基準となるサンプルを使用して後味とそれに対応する点数との関係を確認し、評価基準の共通認識が確立されてから評価試験を実施した。
【0034】
(試験例1)
リンゴ酸の濃度とアルコール濃度がリンゴ酸の後味のもたつきに与える影響について検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合して、アルコール飲料とノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。なお、リンゴ酸はDL−リンゴ酸(扶桑化学工業株式会社)を使用した(他の試験例でも同様である)。また、アルコール飲料においては、3%のアルコール度数になるように、エタノールを添加しアルコール度数を調整した。
【0035】
リンゴ酸の後味のもたつきは、リンゴ酸の濃度に依存して強くなることが明らかとなった。また、当該後味のもたつきは、アルコールが存在しない場合に顕著となり、アルコールが存在すると目立ちにくいことも明らかとなった。したがって、当該もたつきの問題は、ノンアルコール飲料に特有の問題である。
【0036】
【表1】

【0037】
(試験例2)
ノンアルコール飲料において、リンゴ酸の濃度とカリウムの濃度がリンゴ酸の後味のもたつきに与える影響について検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合して、種々のリンゴ酸濃度とカリウム濃度を有するノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。クエン酸カリウムとしては、クエン酸三カリウム(丸善薬品産業株式会社)を用いた(他の試験例でも同様である)。
【0038】
特定量以上の量のカリウムを加えると、リンゴ酸の味のもたつきが改善された。また、カリウムの含有量が多すぎる(1100ppm)と、リンゴ酸の味のもたつきは改善されるものの、カリウムに由来する後味が目立ち始めた。
【0039】
【表2】

【0040】
(試験例3)
カリウム源を変更して、リンゴ酸の後味に与える影響を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。塩化カリウムおよび炭酸カリウムは三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から入手した。
【0041】
カリウム源が変更されても、試験例2と同様の後味改善効果が認められた。
【0042】
【表3】

【0043】
(試験例4)
香料を飲料に添加して、リンゴ酸の後味を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。香料が添加されても、試験例2と同様に後味改善効果が認められた。
【0044】
【表4】

【0045】
(試験例5)
複数種類の果汁を飲料に添加して、リンゴ酸の後味を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。いずれの果汁が添加されても、試験例2と同様に後味改善効果が認められた。
【0046】
【表5】

【0047】
(試験例6)
飲料に炭酸を添加して、その効果を確認した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。炭酸の有無によらず、後味改善効果が認められた。なお、炭酸ガスを含有する飲料における炭酸ガス圧は、1.8kgf/cm2(20℃)であった。
【0048】
【表6】



(4) 甲号証及び乙号証の記載について
当審における取消理由の通知後に、特許権者が令和4年5月20日に提出した乙1及び同年11月10日に提出した乙3、並びに申立人が同年8月5日に提出した甲5には、以下の記載がある。

乙1:“ChemicalBook>製品カタログ>化学試薬>有機試薬>脂肪酸>DL−リンゴ酸”, [online], 2017, ChemicalBook Inc., [令和4年5月20日印刷日], インターネット

乙3:河野美香, “実験成績証明書”, サントリー株式会社スピリッツカンパニー, 2022年10月26日, p. 1-2
甲5:“化学物質等安全データシート”, 昭和化工株式会社, 2013年5月27日, p. 1-5

ア 乙1の記載
(1α) 「DL−リンゴ酸 物理性質
・・・
酸解離定数(Pka): 3.4(at25℃)
・・・
PH: 2.3(10g/l, H2O, 20℃)」

イ 乙3の記載
(3α) 「5.実験内容
本件特許明細書に記載の実施例2−3と3−5に対応する飲料を、以下の表に示した処方にしたがって、各原料を水と混合して調製した。使用したリンゴ酸は、DL−リンゴ酸(扶桑化学工業株式会社)であり、クエン酸カリウムは、クエン酸三カリウム(丸善薬品産業株式会社)であり、水は、純粋であった。



次いで、これらの飲料のpHを測定した。測定には、pHメーターF-71(HORIBA)を用い、25℃で測定を実施した。

6.実験結果
上記5項の実験結果を以下の表に示す。



ウ 甲5の記載
(5a) 「1.化学品等及び会社情報
・・・
製品名(化学名、商品名等) クエン酸三カリウム
・・・
9.物理的および化学的性質
・・・
pH: 7.9〜9.0」

(5) サポート要件の判断
ア 本件発明の解決すべき課題について
摘記(A)によると、本件発明の課題は、「ノンアルコール飲料におけるリンゴ酸の後味のもたつきを軽減すること」であると認められる。

イ 本件発明の一般的記載と具体的記載
本件特許明細書には、本件発明のpHの範囲に関し、「本発明の飲料のpHは特に限定されないが、例えば2.0〜6.0、又は2.0〜4.0である。」との一般的記載があり(摘記(B))、具体例である試験例2〜6の実施例では、特定量のカリウムを加えることにより、ノンアルコール飲料におけるリンゴ酸の後味のもたつきが軽減されたことが示されているものの、いずれの実施例も、具体的なpHの値が明示されていない(摘記(C))。

ウ 検討
本件特許明細書の各実施例において、主にpHの値を決定づけるのは、酸・塩基に該当するDL−リンゴ酸及びクエン酸Kであって、本件特許の出願時の技術常識といえる摘記(1α)及び(5a)によると、それぞれの水溶液pHは2.3と7.9〜9.0程度であり、DL−リンゴ酸の酸解離定数(Pka)が3.4であることから、上記実施例におけるpHの値は、最も広く考えたとしても2.3と7.9〜9.0の間であり、本件発明で特定するpHの範囲(2.0〜6.0)と重複する。また、本件特許明細書の上記一般的記載からすれば、本件発明が上記課題を解決することができることを示すための実施例は、一般的記載で示されるpHの範囲のものであると考えるのが合理的であるから、実施例においてpHの値が明記されていないことをもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、当業者が上記課題を解決できない範囲のものであるとまではいえない。そして、実際に、(3α)によって確認された実験結果によると、アルカリ成分が最も多い場合(実施例2−3:pH5.60)でも酸成分が最も多い場合(実施例2−5:pH3.73)でもpHが2.0〜6.0の範囲に含まれており、本件特許明細書に記載のいずれの実施例もpHが2.0〜6.0の範囲に含まれるものといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(6) 申立人の主張について
申立人は、令和4年8月5日に提出した意見書において、クエン酸カリウムであるクエン酸Kは、弱酸強塩基の塩であって、アルカリ性を示すことから、単純化したモデルによってその飲料のpHを予測することはできない旨の主張をしている。
しかしながら、上記(5)ウで示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が上記課題を解決できない範囲のものであるとまではいえないし、摘記(3α)によると、実施例のpHの値が具体的に示され、かつ、pHが2.0〜6.0の範囲に含まれることが確認されており、特許権者の主張は単なる予測のみに基づくものではないから、申立人の主張は採用できない。

(7) 小括
本件発明の特許請求の範囲の請求項1及び3〜5の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2−4 まとめ
したがって、取消理由通知に記載した理由A〜Cによっては、請求項1及び3〜5に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
当審における取消理由通知で通知した理由A(新規性)及び理由B(新規性)は、第4 1の特許異議の申立理由のうち、それぞれ、理由1A(新規性)及び理由2A(新規性)の一部を採用しており、以下の申立理由については採用していない。
(1) 理由1B(甲1を主引例とする進歩性欠如)
(2) 理由2A(甲2を主引例とする本件訂正前の請求項2及び3の新規性欠如)
(3) 理由2B〜2F(甲2を主引例とする進歩性欠如)
以下に、これらの採用しなかった申立理由についての本件発明1及び3〜5についての当審合議体の判断を述べる。

(1) 理由1B(進歩性)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、上記2 2−1(1)に示したとおり、甲1A発明、甲1A'発明、甲1B発明及び甲1B'発明が記載されている。

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
上記2 2−1(2)アに示したとおり、相違点1が実質的な相違点であり、本件発明1は甲1A発明及び甲1B発明ではないところ、甲1には、「栄養組成物」を、炭酸飲料とする記載も示唆もなく、そもそも栄養補給を必要とする外科手術患者や低栄養状態の患者対して「栄養組成物」を提供することを目的としているから(摘記(1b))、むしろ刺激性の炭酸飲料とすることに対して阻害要因があるといえ、甲1A発明又は甲1B発明を炭酸飲料とすることには、動機付けがなく、阻害要因がある。

よって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到したものではない。

(イ) 本件発明4について
上記2 2−1(2)イに示したとおり、相違点3が実質的な相違点であり、本件発明4は甲1A'発明及び甲1B'発明ではないところ、上記アと同様に、相違点3に係る本件発明4の特定事項は、甲1A'発明及び甲1B'発明から当業者が容易に想到するものではない。

よって、本件発明4は、相違点4について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到したものではない。

(ウ) 本件発明5について
a 本件発明5と甲1A'発明との対比
甲1A'発明のリンゴ酸の含有量、カリウムの含有量、pH、及び工程については、上記2 2−1(2)イ(ア)と同様である。
そうすると、本件発明5と甲1A'発明とは、
「リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0である組成物に関する方法であって、
当該組成物中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該組成物中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程を含む、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点11:組成物が、本件発明5では、「ノンアルコール飲料」であるのに対し、甲1A'発明では、「栄養組成物」である点

相違点12:組成物が、本件発明5では、「但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く」のに対し、甲1A'発明は、そのような特定がされていない点

相違点13:方法が、本件発明5では、特定の組成物における「リンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法」であるのに対し、甲1A'発明では、特定の組成物を「製造する方法」である点

b 検討
まず、相違点13について検討すると、上記(ア)で述べたように、甲1には、リンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減するという課題ではなく、医学的・栄養学的機能を備えることに加え、さらに風味が良く経口摂取しやすい液状の栄養剤(栄養組成物)を提供することが課題として記載されているところ、リンゴ酸が後味のもたつき由来となったり、特定のカリウム含有量とすることで当該もたつきが軽減されたりすることについて記載も示唆もない。
そうすると、甲1A'発明において、相違点13に係る本件発明5の特定事項に変更することには、動機付けがあるとはいえない。
よって、相違点11及び12について検討するまでもなく、本件発明5は甲1A'発明に基いて、当業者が容易に想到したものではない。

c 本件発明5と甲1B'発明との対比
本件発明5と甲1B'発明とを対比すると、上記aで示した一致点及び相違点11〜13で、それぞれ同様に一致し、相違する。

d 検討
相違点13に係る本件発明5の特定事項は、上記bと同様に、甲1B'発明において、当業者が容易に想到したものではないから、相違点11及び12について検討するまでもなく、本件発明5は甲1B'発明に基いて、当業者が容易に想到したものではない。

e 小括
よって、本件発明5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到したものではない

f 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書において、甲1に記載の「風味を良好とする方法」は、「リンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法」を含むものであって、両者は異質な効果をもたらすものではなく、本件発明5と甲1に記載の発明ではカリウム量が重複するから、甲1に記載の発明においても「リンゴ酸に由来する後味のもたつき」が軽減されているはずであり、本件発明5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものである旨の主張をしている。
しかしながら、甲1の実施例及び比較例によれば(摘記(1e))、「風味が悪く」なる原因は、特定のデキストリンやペプチドが含まれていたり(比較例3、4、10及び11)、リンゴ酸を含有しなかったり(比較例8)することであり、「リンゴ酸に由来する後味のもたつき」ではない。そうしてみれば、「リンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法」は、「風味を良好とする方法」に対して独立した官能効果を高める方法であり、本件発明5は、後味のもたつき由来を特定し、具体的材料組成の調整工程を特定したものであるから、特段の動機付けがない以上、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

よって申立人の主張は採用できない。

ウ 小括
本件発明1、4及び5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到したものではない。

(2) 理由2A(新規性)について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、上記2 2−2(1)に示したとおり、甲2発明が記載されている。

イ 対比・判断
本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、上記2 2−2(2)アに示したとおり、本件発明1が甲2発明であるとはいえないことに鑑みると、本件発明3も甲2発明であるとはいえない。

よって、本件発明3は、甲2に記載された発明ではない。

(3) 理由2B〜理由2F(進歩性)について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、上記2 2−2(1)に示したとおり、甲2発明及び甲2'発明が記載されている。

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1について
上記2 2−2(2)アに示したとおり、相違点5が実質的な相違点であり、本件発明1は甲2発明ではないところ、上記2 2−2(3)で示したとおり、甲2には、リンゴ酸及びカリウムの含有量並びにpHを保持した状態で、特定の「ヨーグルトフレーバーを含む、酸性乳飲料」を炭酸飲料とすることについて記載はない。また、摘記(2c)の【0027】には、「食品組成物」として、各種「ゲル状食品」、「冷菓」、「菓子類」、「調味料」、「調理加工品」、「レトルト食品」、「チルド食品や冷凍食品」、「畜産加工品」、「水練製品」、「小麦加工食品」、「缶詰類や瓶詰類」、「ペースト類」、「嗜好飲料」、「豆乳類」、「牛乳類」、「乳製品」及び「油脂加工品」が例示されるなか、その「嗜好飲料」について、「果汁・果肉飲料、野菜飲料、酸性乳飲料、乳飲料、殺菌乳酸菌飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶、抹茶、ココア飲料、ウーロン茶、煎茶、フルーツ牛乳、炭酸飲料、アルコール飲料」が並列的な例示として多数記載されているにすぎず、「酸性乳飲料」を「炭酸飲料」とする具体的な調製について、記載も示唆もない。
そして、リンゴ酸及びカリウムの含有量並びにpHを保持した状態で、「酸性乳飲料」を炭酸飲料とする技術常識も見当たらない。
そうすると、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の特定事項に変更する動機付けはないから、相違点6及び7並びに甲3の脱脂粉乳に関する記載(摘記(3a))について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、甲2発明及び甲2の記載事項、又は甲2発明並びに甲2及び3の記載事項のいずれに基いても、当業者が容易に想到したものではない。

(イ) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を更に限定するものである。
したがって、上記(ア)に示したとおり、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の特定事項に変更することは、当業者が容易に想到することではないから、相違点6及び7並びに甲3の脱脂粉乳に関する記載(摘記(3a))及び甲4の嗜好飲料の形態の記載(摘記(4a))について検討するまでもなく、本件発明3も、甲2発明、甲2発明及び甲2の記載事項、甲2発明並びに甲2及び3の記載事項、甲2発明並びに甲2及び4の記載事項、又は甲2発明及び甲2〜4の記載事項のいずれに基いても、当業者が容易に想到したものではない。

(ウ) 本件発明4について
上記2 2−2(2)イに示したとおり、相違点8が実質的な相違点であり、本件発明4は甲2'発明ではないところ、上記(ア)と同様に、甲2'発明において、相違点8に係る本件発明4の特定事項に変更することは、当業者が容易に想到することではないから、相違点9及び10並びに甲3の脱脂粉乳に関する記載(摘記(3a))について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2発明、甲2発明及び甲2の記載事項、又は甲2発明並びに甲2及び3の記載事項のいずれに基いても、当業者が容易に想到したものではない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、特許異議申立書において、上記2 2−2(3)で示した実質的な相違点ではないという主張以外に、本件訂正前の請求項2に係る発明(本件発明1に相当)が容易になし得たものとする具体的な主張はしていない。
そうすると、上記イ(ア)で示したとおり、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の特定事項に変更する動機付けがないことに変わりはないから、申立人の主張は採用できない。

エ 小括
本件発明1及び4は、甲2発明、甲2発明及び甲2の記載事項、又は甲2発明並びに甲2及び3の記載事項のいずれに基いても、当業者が容易に想到したものではない。また、本件発明3は、甲2発明、甲2発明及び甲2の記載事項、甲2発明並びに甲2及び3の記載事項、甲2発明並びに甲2及び4の記載事項、又は甲2発明及び甲2〜4の記載事項のいずれに基いても、当業者が容易に想到したものではない。

(4) まとめ
以上より、申立人が主張する理由1B及び理由2A〜Fによっては、請求項1及び3〜5に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1及び3〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項2に係る特許は、訂正の請求により削除されたから、請求項2に係る申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料及びその製造方法に関する。また、本発明は、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料における後味のもたつきを軽減する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴ酸は飲食品において酸味料として広く用いられている。また、リンゴ酸を別の目的で飲料に添加することも試みられている。たとえば、特許文献1では、リンゴ酸を水溶性ヘスペリジン特有の不快味を抑制するために用いている。
【0003】
また、リンゴ酸の添加量を増やした場合にリンゴ酸の酸味が残存することが知られており、これを抑制するための技術が開発されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−126849号公報
【特許文献2】特開2013−66440号公報
【特許文献3】特開2013−66437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料を開発する際に、ノンアルコール飲料においてリンゴ酸の後味のもたつきが目立つことを見出した。
本発明の課題は、ノンアルコール飲料におけるリンゴ酸の後味のもたつきを軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ノンアルコール飲料中でカリウムをリンゴ酸と組み合わせると、リンゴ酸の後味のもたつきを軽減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
1.リンゴ酸の含有量が500〜3000ppmであり、カリウムの含有量が150〜1000ppmである、ノンアルコール飲料。
2.pHが2.0〜6.0である、1に記載の飲料。
3.炭酸飲料である、1又は2に記載の飲料。
4.チューハイテイスト飲料、又はノンアルコールカクテルである、1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
5.リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料を製造する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程
を含む、前記方法。
6.リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料におけるリンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ノンアルコール飲料において目立つリンゴ酸の後味のもたつきを軽減することができる。ここで、「リンゴ酸の後味のもたつき」とは、飲用後に口の中にまとわり付き、後味として残存する渋みや収斂味のことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の飲料及び関連する方法について、以下に説明する。
なお、本明細書を通じて、単位ppmは重量/容量ppmを意味し、単位mg/Lと同義である。
【0010】
(リンゴ酸)
本発明の飲料におけるリンゴ酸の含有量は、500〜3000ppm、好ましくは500〜2000ppm、より好ましくは1000〜1500ppmである。
【0011】
本発明との関連で用いる「リンゴ酸」との用語は、2−ヒドロキシブタン二酸(2−hydroxybutanedioic acid)を意味し、これには、L−リンゴ酸、D−リンゴ酸、DL−リンゴ酸が含まれる。本発明の飲料は、L−リンゴ酸とD−リンゴ酸のいずれか一つだけを含有してもよいし、両方を含有してもよい。また、DL−リンゴ酸を含有してもよい。好ましいリンゴ酸は、L−リンゴ酸およびDL−リンゴ酸である。本発明の飲料がリンゴ酸の二種類の異性体を含有する場合には、本発明のリンゴ酸の含有量はそれらの総量を意味する。
リンゴ酸の含有量は、HPLC等の公知の方法により測定することができる。
【0012】
(カリウム)
本発明の飲料におけるカリウムの含有量は150〜1000ppmである。ある態様においては、当該飲料中のカリウムの含有量は150〜500ppm、又は150〜300ppmである。カリウム量が増加するにつれてリンゴ酸の後味のもたつきを軽減する効果が高まり、その量が一定以上となると軽減効果が十分に現れる。一方、カリウムが過剰に存在すると、カリウムに由来するぬめりが生じ、口当たりが悪くなることがある。
【0013】
カリウムは実際にはカリウムイオンの形態で存在することが多く、本発明における「カリウムの含有量」は、カリウムそのものの含有量とカリウムイオンの含有量との合計量を意味する。
【0014】
カリウムは、カリウム塩の形態で飲料に添加することができる。用いられるカリウム塩としては、塩化カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム、クエン酸一水素二カリウム、クエン酸二水素一カリウム)、炭酸カリウムなどが挙げられる。特に、塩化カリウム、クエン酸カリウム、炭酸カリウムが好ましい。
【0015】
本発明の飲料中のカリウムの含有量は、ICP発光分光分析装置を用いて公知の方法により測定することができる。あるいは、カリウムがカリウム塩の形態で飲料に添加される場合は、これを遊離体(フリー体)の量に換算した上で飲料中のカリウムの含有量を算出することもできる。
【0016】
(ノンアルコール飲料)
本発明の飲料はノンアルコール飲料であり、アルコールを含有しない。しかしながら、本発明のノンアルコール飲料は、極く微量のアルコールを含む飲料を除くものではない。たとえば、アルコール度数が四捨五入により0%となる飲料(アルコール度数が四捨五入により0,0%となる飲料、及び0.00%となる飲料を含む)は、本発明のノンアルコール飲料の範囲に含まれる。
【0017】
ノンアルコール飲料の例は、アルコール飲料に似た味を有するアルコールテイスト飲料である。アルコールテイスト飲料の例としては、チューハイテイスト飲料、ノンアルコールカクテルなどが例示されるが、これらに限定されない。ここで、チューハイテイスト飲料やノンアルコールカクテルとは、ノンアルコールでありながらモデルとなったチューハイ(一般的には、蒸留酒をジュースや茶などの別の飲料で希釈したアルコール飲料を意味する)やカクテルのような味を有し、甘味、厚み、および若干の苦味を含む酒らしい味わいを実現させた飲料のことを指す。
【0018】
なお、本明細書においては、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、必要に応じて飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
【0019】
(炭酸飲料)
本発明の飲料は、炭酸ガスを含む炭酸飲料であってもよい。炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料に付与することができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーター等のミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0020】
本発明の飲料が炭酸ガスを含有する場合、その炭酸ガス圧は、特に限定されないが、好ましくは0.7〜3.5kgf/cm2、より好ましくは0.8〜2.8kgf/cm2である。本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定することができる。例えば、試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特に断りがない限り、炭酸ガス圧は、20℃における炭酸ガス圧を意味する。
【0021】
(果汁又は野菜汁)
本発明の飲料は、果汁及び/又は野菜汁を含有してもよい。果汁は、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよい。また、透明果汁、混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、或いは、乾燥果実の果肉を破砕もしくは抽出した果汁を用いることもできる。野菜汁も、上記の果汁と同様の形態で用いることができる。
【0022】
果汁の種類は、特に限定されないが、例えば、柑橘類(オレンジ、うんしゅうみかん、グレープフルーツ、レモン、ライム、柚子、いよかん、なつみかん、はっさく、ポンカン、シイクワシャー、かぼす等)、仁果類(りんご、なし、など)、核果類(もも、梅、アンズ、スモモ、さくらんぼ、など)、しょうか類(ブドウ、カシス、ブルーベリー、など)、熱帯、亜熱帯性果実類(パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、ライチ、など)、果実的野菜(いちご、メロン、スイカ、など)の果汁が挙げられる。これらの果汁は、1種類を単独使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、野菜汁の種類は、例えば、トマト汁、コーン汁、かぼちゃ汁、ニンジン汁等が挙げられ、野菜汁は、1種類を単独使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、果汁と野菜汁を組み合わせてもよい。
【0023】
本発明の飲料における果汁の含有量は、特に限定されないが、典型的には、果汁率に換算して0.1〜50w/w%、又は0.5〜30w/w%である。
本発明では、飲料中の「果汁率」を飲料100g中に配合される果汁配合量(g)を用いて下記換算式によって計算することとする。また濃縮倍率を算出する際はJAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖質、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0024】
果汁率(w/w%)=<果汁配合量(g)>×<濃縮倍率>/100mL/<飲料の比重>×100
本発明の飲料における野菜汁の含有量は、特に限定されないが、典型的には、0.1〜50w/w%、又は0.5〜30w/w%である。ここで、野菜汁の含有量は、上記の果汁率に換算した果汁の含有量に準じて求める。
【0025】
(pH)
本発明の飲料のpHは特に限定されないが、例えば2.0〜6.0、又は2.0〜4.0である。
(他の成分)
本発明における飲料には、他にも、本発明の効果を損なわない限り、飲料に通常配合する添加剤、例えば、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
【0026】
(容器詰め飲料)
本発明の飲料は、容器詰めの形態で提供することができる。容器の形態には、缶等の金属容器、ペットボトル、紙パック、瓶、パウチなどが含まれるが、これらに限定されない。例えば、本発明の飲料を容器に充填した後にレトルト殺菌等の加熱殺菌を行う方法や、飲料を殺菌して容器に充填する方法を通じて、殺菌された容器詰め製品を製造することができる。
【0027】
(方法)
本発明は、別の側面ではリンゴ酸を含有するノンアルコール飲料の製造方法である。当該方法は、当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程を含む。
【0028】
飲料中のリンゴ酸の含有量、カリウム含有量を調整する方法は、当該飲料に関する上の記載から自明である。そのタイミングも限定されない。例えば、上記工程を同時に行ってもよいし、別々に行ってもよいし、工程の順番を入れ替えてもよい。最終的に得られた飲料が、上記の条件を満たせばよい。また、それらの含有量の好ましい範囲は、飲料に関して上記した通りである。また、追加される他の成分の具体例や量も、飲料に関して上記した通りである。
【0029】
本発明の製造方法は、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料におけるリンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減することができる。従って、当該製造方法は、別の側面では、リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料におけるリンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法である。
【0030】
(数値範囲)
明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0031】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試験方法)
後述する試験例において、アルコール含有飲料及びノンアルコール飲料を製造し、得られた飲料について、訓練された専門パネル3名がリンゴ酸の後味のもたつきを感じるかどうかの官能評価を行った。具体的には、リンゴ酸の後味のもたつきが強い場合を1点、リンゴ酸の後味のもたつきを感じず、スッキリとした後味が得られる場合を5点として、1〜5点の5段階で評価した。具体的な評価基準を以下に示す。
【0032】
1点:リンゴ酸の後味のもたつきが強い
2点:リンゴ酸の後味のもたつきが感じられる
3点:リンゴ酸の後味のもたつきをあまり感じない
4点:リンゴ酸の後味のもたつきをほとんど感じない
5点:リンゴ酸の後味のもたつきを感じず、スッキリとした後味
【0033】
各試験例においては、上記の評価に基づき各自が実施し、その後協議して評価点を決定した。なお、各パネラーは、評価基準となるサンプルを使用して後味とそれに対応する点数との関係を確認し、評価基準の共通認識が確立されてから評価試験を実施した。
【0034】
(試験例1)
リンゴ酸の濃度とアルコール濃度がリンゴ酸の後味のもたつきに与える影響について検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合して、アルコール飲料とノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。なお、リンゴ酸はDL−リンゴ酸(扶桑化学工業株式会社)を使用した(他の試験例でも同様である)。また、アルコール飲料においては、3%のアルコール度数になるように、エタノールを添加しアルコール度数を調整した。
【0035】
リンゴ酸の後味のもたつきは、リンゴ酸の濃度に依存して強くなることが明らかとなった。また、当該後味のもたつきは、アルコールが存在しない場合に顕著となり、アルコールが存在すると目立ちにくいことも明らかとなった。したがって、当該もたつきの問題は、ノンアルコール飲料に特有の問題である。
【0036】
【表1】

【0037】
(試験例2)
ノンアルコール飲料において、リンゴ酸の濃度とカリウムの濃度がリンゴ酸の後味のもたつきに与える影響について検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合して、種々のリンゴ酸濃度とカリウム濃度を有するノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。クエン酸カリウムとしては、クエン酸三カリウム(丸善薬品産業株式会社)を用いた(他の試験例でも同様である)。
【0038】
特定量以上の量のカリウムを加えると、リンゴ酸の味のもたつきが改善された。また、カリウムの含有量が多すぎる(1100ppm)と、リンゴ酸の味のもたつきは改善されるものの、カリウムに由来する後味が目立ち始めた。
【0039】
【表2】

【0040】
(試験例3)
カリウム源を変更して、リンゴ酸の後味に与える影響を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。塩化カリウムおよび炭酸カリウムは三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から入手した。
【0041】
カリウム源が変更されても、試験例2と同様の後味改善効果が認められた。
【0042】
【表3】

【0043】
(試験例4)
香料を飲料に添加して、リンゴ酸の後味を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。香料が添加されても、試験例2と同様に後味改善効果が認められた。
【0044】
【表4】

【0045】
(試験例5)
複数種類の果汁を飲料に添加して、リンゴ酸の後味を検討した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。いずれの果汁が添加されても、試験例2と同様に後味改善効果が認められた。
【0046】
【表5】

【0047】
(試験例6)
飲料に炭酸を添加して、その効果を確認した。具体的には、下記の表に示す原料を混合してノンアルコール飲料を製造し、官能評価を行った。炭酸の有無によらず、後味改善効果が認められた。なお、炭酸ガスを含有する飲料における炭酸ガス圧は、1.8kgf/cm2(20℃)であった。
【0048】
【表6】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ酸の含有量が500〜3000ppmであり、カリウムの含有量が150〜1000ppmであり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料であって、
pHが2.0〜6.0である、前記飲料(但し、ホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む飲料、及び果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物、及び牛乳と果汁とを含有する飲料、及び豆乳と果汁とを含有する飲料は除く)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
チューハイテイスト飲料、又はノンアルコールカクテルである、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0であり、そして炭酸飲料であるノンアルコール飲料を製造する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程
を含む、
前記方法(但し、前記飲料がホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む場合、及び前記飲料が、果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物である場合、及び前記飲料が牛乳と果汁とを含有する飲料である場合、及び前記飲料が豆乳と果汁とを含有する飲料である場合は除く)。
【請求項5】
リンゴ酸を含有し、pHが2.0〜6.0であるノンアルコール飲料におけるリンゴ酸に由来する後味のもたつきを軽減する方法であって、
当該飲料中のリンゴ酸の含有量を500〜3000ppmに調整する工程、および
当該飲料中のカリウムの含有量を150〜1000ppmに調整する工程を含む、前記方法(但し、前記飲料がホエータンパク質とカリウムベンゾエートとを含む場合、及び前記飲料が、果汁含有量が10重量%未満であり、リンゴ酸及びクエン酸を含有し、そして香料によりリンゴ風味が付与されたリンゴ風味食品組成物である場合、及び前記飲料が牛乳と果汁とを含有する飲料である場合、及び前記飲料が豆乳と果汁とを含有する飲料である場合は除く)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-12-01 
出願番号 P2020-014636
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 野田 定文
冨永 みどり
登録日 2021-05-07 
登録番号 6880259
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 リンゴ酸を含有するノンアルコール飲料  
代理人 宮前 徹  
代理人 梶田 剛  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  
代理人 梶田 剛  
代理人 中西 基晴  
代理人 中西 基晴  
代理人 宮前 徹  

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