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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1395200
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-09 
確定日 2022-12-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6920423号発明「光学積層体ならびにこれを有する画像表示装置の前面板、画像表示装置、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6920423号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。 特許第6920423号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6920423号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成30年(2018年)4月4日(優先権主張 平成29年(2017年)4月11日、同年12月28日)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年7月28日に特許権の設定登録がされ、同年8月18日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立ては、本件特許の全ての請求項に係る特許を対象としたものであって、その手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年2月 9日 :特許異議申立人奥村安記子(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
同年5月24日付け:取消理由の通知
同年7月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年9月14日 :申立人による意見書の提出

第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
令和4年7月28日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6920423号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜8について訂正することを求める。」というものであって、その訂正(以下「本件訂正」という)の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

【訂正事項1】
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「該衝撃吸収層が、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有する」と記載されているのを、
「該衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である」に訂正する(請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2〜8も同様に訂正する)。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2〜8が、それぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた、「該衝撃吸収層が、25℃において」「tanδの極大値を有する」周波数範囲につきその範囲を狭めるとともに、「該tanδの極大値」の下限値を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無(なお、この段落イ限りにおいて、下線は注目すべき箇所を示す)
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)の【0020】には「衝撃吸収層は、25℃において、102〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有することが好ましく、・・・103〜5×107Hzの範囲にtanδの極大値を有することが特に好ましい。」と記載され、【0021】には「衝撃吸収層の、25℃において101〜1015Hz(好ましくは102〜1012Hz、・・・特に好ましくは103〜5×107Hz)の範囲内にあるtanδの極大値は、衝撃吸収の観点から、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。」と記載されている。よって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を更に限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正の請求が認められたから、本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1〜8を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
厚みが120μm以下の薄ガラスと、前記薄ガラスの一方の側に配置される、厚み5μm以上40μm以下の衝撃吸収層とを有し、該衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である光学積層体。
【請求項2】
前記衝撃吸収層の貯蔵弾性率が0.1MPa以上1000MPa未満である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記衝撃吸収層が、メタクリル酸メチルとアクリル酸n−ブチルとのブロック共重合体、並びに、イソプレン及び/又はブテンとスチレンとのブロック共重合体から選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の光学積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学積層体を有する、画像表示装置の前面板。
【請求項5】
請求項4に記載の前面板と、画像表示素子とを有する画像表示装置。
【請求項6】
前記画像表示素子が、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス表示素子、インセルタッチパネル表示素子、又はオンセルタッチパネル表示素子である、請求項5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
請求項4に記載の前面板を有する抵抗膜式タッチパネル。
【請求項8】
請求項4に記載の前面板を有する静電容量式タッチパネル。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和4年5月24日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性
本件発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
請求項1に「衝撃吸収層が、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有する」と記載され、本件明細書等の【0020】に「衝撃の振動数は通常、104Hz程度を中心とした一定の振動数幅の範囲にある」とされるところ、引用文献4(【0006】)を参照すると、tanδの極大値を示す振動数よりも高周波域の振動エネルギーは吸収できないこと、tanδの値が小さいとエネルギー吸収性に乏しいことが技術常識であり、本件発明1〜8に記載されたtanδの極大値の範囲は、本件発明の解決しようとする課題を解決できないものを含むものとなっている。
よって、請求項1〜8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2003−29644号公報(申立人の甲第2号証(以下「甲2」という。他も同様。))
引用文献2:特開2013−37207号公報(甲1)
引用文献3:国際公開第2016/093133号(甲4)
引用文献4:特開2002−188061号公報(甲3;周知技術を示す文献)

2 当審の判断
(1)取消理由1(進歩性)について
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には次の事項が記載されている。なお、この箇所以降の下線は理解の便のため、当審で付したものである。以下同じ。
「【0014】表示パネル10の表面には、透明粘着材20が密着され、さらにその外側に保護パネル30が密着積層されている。すなわち、表示パネル10と保護パネル30とは、透明粘着材20を介して密着されている。透明粘着材20は一層で形成するか、あるいは複数層に形成されていてもよい。
【0015】透明粘着材20は、粘弾性を有する比較的軟質な素材からなる。該透明粘着材の厚みと周波数分散で測定した動的粘弾性特性の関係は下記式の範囲にあるものが好ましい。
【0016】
K=d×2πf×√(ρ/3G’)≧0.5
d :透明粘着材の厚み(m)
f :tanδピーク値の周波数(Hz)
ρ :透明粘着材の密度(kg/m3)
G’:tanδピーク値の貯蔵弾性率(Pa)」
「【0020】上記のRDAIIで20℃を基準温度として温度−時間換算のマスターカーブを作成し、周波数f値はf(Hz)=ω/2πにより算出し、それぞれ貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”及びG”/G’=tanδを読みとる。」
「【0025】保護パネル30は、表示パネル10の表面を保護する役目をもつもので、透明粘着材20と同様、透明性を有し、表示パネル10に表示される文字、図形等を明瞭に目視できるものである必要がある。例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂及びガラスのいずれかから選択することができる。
【0026】保護パネル30は、板状体を単数層の他、複数層によって構成してもよいし、また、フィルム又はシートによって構成してもよい。また、画像表示装置の特性等に応じて、保護パネル30に反射防止、近赤外線カット、色調補正、電磁波カット、表面硬度向上、ガスバリヤー、タッチパネルのいずれか一つ以上の機能を付与することができる。保護パネル30の厚みとしては、PDP等の表示画面の大きさにもよるが、表示画面が32〜100インチの場合、1.0〜10.0mmとすればよい。」
「【0032】
【実施例】<実施例1>ポリカーボネート(PC)製の厚さ2.0mmの保護パネル(100mm×100mm)に、アクリル酸エステル共重合体を金属化合物で架橋させてなる厚さ2.0mmの透明粘着材(シート)をロール圧着した後、画像表示パネル用の厚さ3.0mmのフロートガラス製パネル(100mm×100mm)に透明粘着材(シート)が密着するように、真空下、面圧0.1MPa(パスカル) でプレスすることによってサンプル片を得た。」
「【0041】
【表1】


「【図1】



イ 引用文献1に記載された発明
上記アの記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「表示画面が32〜100インチの場合、厚みを1.0〜10.0mmとした、ガラスを選択することができる保護パネル30と、前記保護パネル30の一方の側に配置される、厚み2.0mmの透明粘着材20とを有し、該透明粘着材20が、20℃において104Hzにtanδのピーク値を有する画像表示装置用積層板。」

ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
引用発明1の「ガラスを選択することができる保護パネル30」と、本件発明1の「薄ガラス」とは、「パネル」という限りで一致する。
引用発明1の「透明粘着材20」、「画像表示装置用積層板」は、本件発明1の「衝撃吸収層」、「光学積層体」にそれぞれ相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。

【一致点】
パネルと、前記パネルの一方の側に配置される衝撃吸収層とを有する光学積層体。

【相違点1−1】
「パネル」に関して、本件発明1では「薄ガラス」であるのに対して、引用発明1では「ガラスを選択することができる保護パネル30」である点。
【相違点1−2】
パネルと衝撃吸収層の厚みが、本件発明1ではそれぞれ120μm以下、5μm以上40μm以下であるのに対して、引用発明1の保護パネル30と透明粘着材20の厚みは、それぞれ1.0〜10.0mm、2.0mmである点。
【相違点1−3】
本件発明1が「衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である」のに対して、引用発明1が「透明粘着材20が、20℃において104Hzにtanδのピーク値を有する」点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1−3について検討する。
引用文献2には、「衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である」ことについて、記載も示唆もない。

また、引用文献3には、「23℃における周波数1.0×104〜1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有することを特徴とする衝撃吸収シート。」(【請求項1】)が記載されている。しかし、「25℃」におけるtanδの極大値については記載されていない。
仮に、引用文献3の「23℃」におけるtanδの極大値が「25℃」におけるtanδの極大値と実質上同一とみなせるとしても、引用発明1に引用文献3に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえない。
つまり、引用発明1は、「耐衝撃性、視認性に優れた画像表示装置、画像表示装置用積層板及び画像表示装置のパネルに用いる透明粘着シートを提供すること」(【0007】)を課題とするものであり、ここでいう「耐衝撃性」は、【0039】の耐衝撃試験方法で評価していることを踏まえると、衝撃が加わった場合であっても表示パネルを破壊から守るための耐衝撃性であると理解できる。他方、引用文献3に記載されたものは、「携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する粘着シートの基材として好適に用いられる、耐衝撃性に優れた衝撃吸収シートを提供すること」([0006])を課題とし、ここでいう「耐衝撃性」は、[0076]記載の方法で耐落下衝撃性の判定を行っていることを踏まえると、衝撃が加わった場合であっても粘着シートが剥がれることがない耐衝撃性であると理解できる。そうすると、引用発明1と引用文献3に記載された事項とは、耐衝撃性という一般的な課題が共通するものの、具体的な課題が異なり、粘着シートの衝撃に対する作用、機能も異なる。そのため、引用発明1において、表示パネルを破壊から守るために、透明粘着材20に対して引用文献3に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえない。

さらに、引用文献4には、「損失正接が極大値を示す振動数は少なくとも103Hz以上」であり、「損失正接の極大値が1以上」のものであり、「25℃下で振動数10−2Hz〜80Hzまでの損失正接を測定」し、「次に、10℃、0℃、−10℃、−20℃下で同様に測定」を行い、「10−2Hzから106Hz域の損失正接のマスターカーブ」を得て、「このマスターカーブから損失正接の極大値の振動数を読みとった」粘着剤層が記載されている(【0008】、【0021】)。しかし、「25℃において103〜1012Hzの範囲」におけるtanδの極大値については記載されていない。
仮に、引用文献4の損失正接の極大値が「25℃において103〜1012Hzの範囲」におけるtanδの極大値と実質上同一とみなせるとしても、引用発明1に引用文献4に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえない。
つまり、引用文献4に記載されたものは、「両面粘着シートで部品を固定した電子機器が落下したときに、その衝撃によって部品が脱落しにくい、耐衝撃性に優れる両面粘着シートを提供する」(【0003】)ことを課題とし、ここでいう「耐衝撃性」は、【0022】記載の落下衝撃試験で評価していることを踏まえると、衝撃が加わった場合であっても粘着シートで接着固定された保護板が脱落することがない耐衝撃性であると理解できる。そうすると、引用発明1と引用文献4に記載された事項とは、耐衝撃性という一般的な課題が共通するものの、具体的な課題において異なり、粘着シートの衝撃に対する作用、機能も異なる。そのため、引用発明1において、表示パネルを破壊から守るために、透明粘着材20に対して引用文献4に記載された事項を採用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、引用発明1に、相違点1−3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、引用発明1及び引用文献2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明2〜8について
本件発明2〜8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものであるから、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)取消理由2(サポート要件)について
ア 発明の詳細な説明の記載
本件発明が解決しようとする課題に関して、本件特許の発明の詳細な説明には、「より高い耐衝撃性を有する光学積層体、ならびに、これを有する画像表示装置の前面板、画像表示装置、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネルを提供することを課題とする。」(【0006】)と記載されている。
上記課題を解決する手段に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光学積層体の好ましい実施形態について説明する。
[光学積層体]
本発明の光学積層体は、厚みが120μm以下の薄ガラスと、薄ガラスの一方の側に配置される、厚み5μm以上(好ましくは厚み10μm超え)の衝撃吸収層とを備える。より詳細には、本発明の光学積層体を画像表示装置の前面板として用いた際に、薄ガラス表面のうち非視認側(画像表示素子が配置される側)の面上に、上記衝撃吸収層を備える。上記衝撃吸収層は、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有する。
本発明の光学積層体は、薄ガラスを備えるため、硬度が高い。また、薄ガラスの一方の面上に、所定の厚みを有し、所定の特性を有する衝撃吸収層を備えるため、薄ガラスが破損し難く、より高い耐衝撃性を実現できる。
・・・」
「【0014】
薄ガラスの厚みは120μm以下であり、100μm以下が好ましい。・・・」
「【0019】
<衝撃吸収層>
本発明の光学積層体が備える衝撃吸収層は、光学積層体を画像表示装置の前面板として用いた際に、表示内容の視認性を確保できる透明性を有し、かつ、前面板への押さえ付けや衝突等に由来する薄ガラスの破損を効果的に防ぐ。本発明に用いる衝撃吸収層は厚みが5μm以上であり、薄ガラスに負荷される衝撃を十分に緩和する観点からは10μm以上が好ましく、10μm超えがより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。また、衝撃吸収層の厚みは薄ガラスに負荷が加わった際の変形を防ぐ観点からは100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。
【0020】
また、衝撃吸収層は、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有する。本発明の光学積層体を、例えば、タッチパネル等の前面板として用いる場合、指圧やスタイラスペンによっては通常、薄ガラスに割れは生じない。他方、コンクリート等への落下、硬い物体による打撃等の、より強い衝撃が加わった場合には、薄ガラスには割れが生じやすい。このように硬い物体との衝突等の衝撃が生じた場合、この衝撃の振動数は通常、104Hz程度を中心とした一定の振動数幅の範囲にある。本発明に用いる衝撃吸収層は、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有し、このような衝撃から薄ガラスを効果的に保護することができる。衝撃吸収層は、25℃において、102〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有することが好ましく、102〜1010Hzの範囲にtanδの極大値を有することがより好ましく、102〜108Hzの範囲にtanδの極大値を有することがさらに好ましく、103〜5×107Hzの範囲にtanδの極大値を有することが特に好ましい。この場合、25℃において、101〜1015Hz(好ましくは102〜1012Hz、より好ましくは102〜1010Hz、さらに好ましくは102〜108Hz、特に好ましくは103〜5×107Hz)の範囲にtanδの極大値を少なくとも1つ有していればよく、上記の範囲にtanδの極大値を2つ以上有していてもよい。また、上記範囲以外の周波数の範囲に更にtanδの極大値を有していてもよく、この極大値が最大値であってもよい。
【0021】
衝撃吸収層の、25℃において101〜1015Hz(好ましくは102〜1012Hz、より好ましくは102〜1010Hz、さらに好ましくは102〜108Hz、特に好ましくは103〜5×107Hz)の範囲内にあるtanδの極大値は、衝撃吸収の観点から、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。また、硬度の観点から、この極大値は、3.0以下であることが好ましい。」
「【0073】
<実施例1>
薄ガラス(縦8cm、横8cm、厚み100μm)の表面上に、CU層形成用組成物CU−1を塗布し、乾燥させてCU層を形成した。
塗布および乾燥の方法は、具体的には、次の通りとした。特開2006−122889号公報の実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法により、搬送速度30m/分の条件で、CU層形成用組成物を乾燥後の膜厚が20μmになるように塗布した。次いで、雰囲気温度60℃で150秒間乾燥させ、実施例1の光学積層体を作製した。
【0074】
<実施例2、4、5及び8>
CU層形成用組成物CU−1に代えてCU層形成用組成物CU−2、CU−3、CU−4、及びCU−5を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2、4、5及び8の光学積層体を作製した。
【0075】
<実施例3>
薄ガラスの厚みを50μmとした以外は、実施例2と同様にして、実施例3の光学積層体を作製した。
【0076】
<実施例6>
CU層形成用組成物の膜厚を5μmとした以外は、実施例5と同様にして、実施例6の光学積層体を作製した。
【0077】
<実施例7>
CU層形成用組成物の膜厚を40μmとした以外は、実施例5と同様にして、実施例7の光学積層体を作製した。
【0078】
<実施例9>
CU層形成用組成物CU−1に代えてCU層形成用組成物CU−6を使用し、CU層形成用組成物の膜厚を40μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例9の光学積層体を作製した。
【0079】
<実施例10>
−CU層シートの作製−
上記で調製したCU層形成用組成物CU−2を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製、商品名:SP−PET3811)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布した。雰囲気温度60℃で150秒間加熱し、CU層CU−2を形成した。このCU層CU−2と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した別の剥離シート(リンテック社製、商品名:SP−PET3801)の剥離処理面とを貼り合わせて、剥離シート/CU層CU−2/剥離シートの順に積層された、Cu層シートCU
−2を作製した。
【0080】
−光学積層体の作製−
薄ガラス(厚み100μm)の表面上に、CU層形成用組成物CU−9をスポイトを用いて線状に塗布した。次いで、上記薄ガラスとCu層シートCU−2とを、上記接着剤組成物を介して、貼り合わせた。この貼り合わせは、ラミネータを用いてロール間で行った。
その後、得られた積層体のCu層シートCU−2側から紫外光を照射して(照射強度50mw/cm2、照射時間30秒)、CU層形成用組成物CU−9を半硬化させた。紫外光照射は高圧水銀ランプを使用した。次いで、80℃の温度下で60分間、オーブン内で積層体を加熱し、CU層形成用組成物CU−9を完全硬化させて、実施例10の光学積層体を作製した。CU−9の層は接着層として存在し、その厚みは5μmであった。
【0081】
<実施例11>
薄ガラス(厚み100μm)の表面上に、上記で作製したCU層シートCU−2を、厚み20μmの粘着剤(綜研化学社製、商品名:SK−2057)を介して、ゴムローラーで2kgの荷重を掛けながら貼り合わせることで、実施例11の光学積層体を作製した。
【0082】
<実施例12>
薄ガラス(縦8cm、横8cm、厚み100μm)の表面上に、CU層形成用組成物CU−11を塗布し、乾燥させてCU層を形成した。
塗布および硬化の方法は、具体的には、次の通りとした。特開2006−122889号公報の実施例1に記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度30m/分の条件でCU層形成用組成物を乾燥後の膜厚が20μmになるように塗布した。次いで、雰囲気温度60℃で150秒間乾燥した。その後、更に窒素パージ下、酸素濃度約0.1体積%で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照度300mW/cm2、照射量600mJ/cm2の紫外線を照射して、塗布したCU層形成用硬化性組成物を硬化させて実施例12の光学積層体を作製した。
【0083】
<実施例13、14>
CU層形成用組成物CU−11に代えてCU層形成用組成物CU−12、CU−13を使用した以外は、実施例12と同様にして、実施例13、14の光学積層体を作製した。」
「【0092】
[試験例] 衝撃吸収性試験
ガラス板(Corning社製、商品名:イーグル XG、厚み0.4mm、縦10cm、横10cm)と、上記で作製した各光学積層体(実施例1〜11、比較例1〜7)ないし薄ガラス(比較例8)とを、CU層の、薄ガラス側とは反対側の面がガラス板と向かい合うようにして、厚み20μmの粘着剤(綜研化学社製、商品名:SK−2057)を介して、ゴムローラーで2kgの荷重を掛けながら貼り合わせた。ステンレスからなる基台の上に、上記の光学積層体を貼り合わせたガラス板を、厚さ20mm、幅5mmのテフロン(登録商標)製スペーサー(10cm四方のスペーサーから、中央部9cm四方を打ち抜いた形状のスペーサー)がガラス板とステンレス基台の間に挟まるように設置した。次いで、鉄球(直径3.2cm、質量130g)を、所定高さから落下させ、上記の光学積層体ないし薄ガラスの、薄ガラスに鉄球が接触するように衝突させた。その後、薄ガラスを観察し、ひびや割れなどが観察されなかった高さの中で一番高い値を耐衝撃高さ(cm)とした。
結果を下記表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
上記表2に示されるように、衝撃吸収層がtanδの極大値を101〜1015Hzの範囲に有しない場合、衝撃吸収層の厚みを厚くしても、光学積層体は衝撃吸収性に劣る結果となり、いずれも、衝撃吸収層を設けていない薄ガラスそのものと同等のひび割れやすさであった(比較例1〜6、8)。
また、衝撃吸収層がtanδの極大値を101〜1015Hzの範囲に有していても、衝撃吸収層の厚さが十分でないと、やはり衝撃吸収性に劣る結果となった(比較例7)。
これに対し、衝撃吸収層がtanδの極大値を101〜1015Hzの範囲に有し、かつ衝撃吸収層の厚さも5μm以上を確保した光学積層体は、いずれも衝撃吸収性に優れる結果となった(実施例1〜14)。」

イ 判断
(ア)上記アの記載によると、上記課題を解決するための手段は、厚みが120μm以下の薄ガラスと(【0011】、【0014】)、前記薄ガラスの一方の側に配置される、厚み5μm以上40μm以下の衝撃吸収層とを有し(【0011】、【0019】、【0077】、【0078】)、該衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し(【0020】)、該tanδの極大値が0.1以上である(【0021】)光学積層体である。
そして、本件発明は、いずれも、これらの構成要件を包含するものであるから、当業者は、本件発明により、上記課題を解決することができると認識するものであるといえる。

(イ)当審が令和4年5月24日付けで特許権者に通知した取消理由2は、本件発明1の「衝撃吸収層が、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有する」との特定では、本件発明の解決しようとする課題を解決できないものを含むものとなっているとするものである。
この点、本件明細書等(【0020】)には、「硬い物体との衝突等の衝撃が生じた場合、この衝撃の振動数は通常、104Hz程度を中心とした一定の振動数幅の範囲にあ」り、これを踏まえて「衝撃吸収層は、25℃において101〜1015Hzの範囲にtanδの極大値を有し、このような衝撃から薄ガラスを効果的に保護すること」が可能となったことが記載されるとともに、tanδの極大値における周波数の好ましい範囲の下限として「103」Hzが、tanδの極大値の好ましい範囲として「0.1以上であること」が、それぞれ記載されている。そして、tanδの極大値における周波数が3.1×103Hzである実施例8や、tanδの極大値が0.1である実施例9が、本件発明の解決しようとする課題を解決する実施例として開示されている(【0093】)。また、衝撃の振動数は、必ずしも104Hzを中心とした範囲に厳密に制約されるものでない。よって、tanδの極大値の範囲の下限が104Hzに近づき、極大値が0.1以上であることで、衝撃吸収層が所定の衝撃から薄ガラスを保護できることが理解できる。
したがって、本件訂正により、所定の衝撃吸収能力が得られることが明らかになったから、サポート要件に係る取消理由は解消した。

ウ 小括
よって、本件発明1〜8は、発明の詳細な説明に記載したものである。

第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由中、取消理由通知に採用しなかった申立理由は、以下のとおりである。

1 特許異議申立理由の概要
本件発明1〜8は、甲1に記載された発明及び甲2〜甲4の記載事項と技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 当審の判断
本件発明1と甲1(引用文献2。特に、【0001】、【0009】、【0012】、【0025】、【0026】を参照。)には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「厚みが20μm〜200μmのガラス10と、ガラス10の片側に配置された樹脂層30とを備え、ガラス10と樹脂層30との間に、接着層20を備え、上記接着層の厚みは、好ましくは3μm〜50μmである、表示装置用保護基板100。」

本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。

【相違点2】
本件発明1では、「該衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である」のに対して、甲1発明では、接着層の25℃におけるtanδの極大値について特定されていない点。

相違点2について検討する。
甲1には、「接着層の25℃における引っ張り弾性率は、好ましくは1×108Pa以上であり、・・・このような範囲であれば、耐衝撃性に優れる表示装置用保護基板を得ることができる。」(【0026】)と記載されている。
しかし、甲1には、耐衝撃性が優れるように、接着層が25℃においてtanδの極大値を有する周波数範囲やその極大値を設定することについて記載も示唆もない。
また、甲1の、剛球落下やペン落下に対して優れた耐衝撃性を有する実施例6、7(【0052】、【0053】、【0058】、【0059】)を参照すると、「接着剤組成物(ダイセル社製セロキサイド(商品名)80部、東亜合成社製アロンオキセタン(商品名)20部、および開始剤(ADEKA社製、商品名「SP−170」)3部の混合物)」を硬化させて、「厚みは10μmであ」る接着層を得たことが記載されている(【0052】)。これは、本件特許明細書の比較例3の接着層(【0066】〜【0071】、【0079】、【0080】、【0086】、【0093】)と事実上等価といえる。そのため、甲1の実施例6、7における接着層は、本件特許明細書の比較例3の接着層と同様に、25℃においてtanδの極大値を有する周波数は、9.1×10−1Hz程度であるから、甲1には、このような接着層によって本件発明のような衝撃吸収性を生じせしめることが開示されているとはいえない。甲1では、表示装置用保護基板が特定の樹脂により形成された樹脂層を備えることにより、剛球落下やペン落下に対する優れた耐衝撃性を奏しようとすることが想定されていると理解できる(【0059】)。
したがって、甲1発明において、剛球落下やペン落下に対する優れた耐衝撃性を実現するために、接着層に対してtanδに係るパラメータを設計しようとする動機付けは見いだせない。そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明2〜8も同様に、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが120μm以下の薄ガラスと、前記薄ガラスの一方の側に配置される、厚み5μm以上40μm以下の衝撃吸収層とを有し、該衝撃吸収層が、25℃において103〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を有し、該tanδの極大値が0.1以上である光学積層体。
【請求項2】
前記衝撃吸収層の貯蔵弾性率が0.1MPa以上1000MPa未満である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記衝撃吸収層が、メタクリル酸メチルとアクリル酸n−ブチルとのブロック共重合体、並びに、イソプレン及び/又はブテンとスチレンとのブロック共重合体から選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の光学積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学積層体を有する、画像表示装置の前面板。
【請求項5】
請求項4に記載の前面板と、画像表示素子とを有する画像表示装置。
【請求項6】
前記画像表示素子が、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス表示素子、インセルタッチパネル表示素子、又はオンセルタッチパネル表示素子である、請求項5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
請求項4に記載の前面板を有する抵抗膜式タッチパネル。
【請求項8】
請求項4に記載の前面板を有する静電容量式タッチパネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-12-02 
出願番号 P2019-512463
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 久保 克彦
當間 庸裕
登録日 2021-07-28 
登録番号 6920423
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 光学積層体ならびにこれを有する画像表示装置の前面板、画像表示装置、抵抗膜式タッチパネルおよび静電容量式タッチパネル  
代理人 弁理士法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 弁理士法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  

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