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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1395207 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-03-18 |
確定日 | 2022-12-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6937956号発明「容器詰組成物及びその使用並びに容器詰加工食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6937956号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 特許第6937956号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6937956号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、令和3年5月20日(優先権主張:令和2年5月22日)を出願日とする特許出願であって、令和3年9月2日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和4年3月18日に特許異議申立人 松永 健太郎(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和4年7月22日付で取消理由が通知され、同年9月21日に特許権者 キッコーマン株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年同月30日付で特許異議申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定による訂正請求があった旨の通知を行ったところ、特許異議申立人より何ら応答がなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) (1) 訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及びしょうゆを含み、かつフェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である、容器詰組成物。」と記載されているのを、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及び10質量%以上であるしょうゆを含み、かつフェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である、容器詰組成物。」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし8についても同様に訂正する。 (2) 一群の請求項について 訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし8に対応する訂正後の請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ・訂正事項について 訂正事項による請求項1の訂正は、容器詰組成物におけるしょう油について、その割合が「10質量%以上である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、容器詰組成物におけるしょう油の割合については、明細書の段落【0051】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし8についても同様である。 3 訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1−8〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和4年9月21日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及び10質量%以上であるしょうゆを含み、かつフェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である、容器詰組成物。 【請求項2】 さらに0.1mg/g以上65mg/g未満のアラニンを含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記組成物は、前記動物肉に対する前記アラニンの含有量が0.5mg/g以上325mg/g未満である、請求項2に記載の組成物。 【請求項4】 前記組成物は、前記しょうゆに対する前記アラニンの含有量が1mg/g以上650mg/g未満である、請求項2〜3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 前記組成物は、前記動物肉の風味改善用組成物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項6】 前記組成物は、加熱殺菌に供された組成物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項7】 前記組成物は、前記動物肉に対する前記フェネチルアセテートの含有量が5ppb以上7,500ppb未満である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項8】 前記組成物は、前記しょうゆに対する前記フェネチルアセテートの含有量が10ppb以上15,000ppb未満である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし8)は、次のとおりである。 1 申立理由1(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由1の概略は次のとおりである。 (1) 申立理由1−1:フェネチルアセテート及びアラニンの含有量について 本件特許の請求項1−5及び7−8で特定される組成物は、加熱殺菌に供された組成物と、加熱殺菌に供されていない組成物の両方の態様を含むものである。また、これらの請求項は、フェネチルアセテート及び/又はアラニンの含有量を数値範囲で特定しているものである。 一方、フェネチルアセテート及びアラニンは、加熱殺菌により分解するものであるため(本件明細書【0033】及び【0039】)、加熱殺菌前後で組成物中のフェネチルアセテート及びアラニンの含有量は変動するものである。 すなわち、これらの請求項は、フェネチルアセテート及び/又はアラニンの含有量の数値範囲を二重に特定していることになり、発明の範囲が明確でない。 したがって、本件特許の請求項1−5及び7−8は明確でない。 (2) 申立理由1−2:動物肉由来のアラニンについて 本件特許の請求項2−4及びこれらを引用する請求項5−8は、アラニンの含有量を特定するものである。そして、本件明細書【0038】には、「ただし、アラニンの含有量には、動物肉に含まれるアラニンの量は含まれない。」との記載がある。 しかしながら、動物肉には、これらの請求項で特定しているアラニンの含有量と同程度のアラニンが含まれていることが技術常識である上、本件明細書の記載からは、供給源の如何を問わず、組成物中のアラニン含有量が風味改善作用に寄与すると理解され、動物肉に由来するアラニンも当然に風味改善作用に寄与すると解されるものである。逆に、本件明細書には、動物肉に由来するアラニンが当該作用に寄与しないと理解できる記載はなく、またそのような技術常識も存在しない。ゆえに、動物肉に含まれるアラニンの量を除外したアラニンの含有量の技術的意義が不明である。 また、食品中のアラニン含有量は、食品中にもともと存在する遊離アラニンのみならず、食品中のタンパク質(ポリペプチド)を酸加水分解して遊離アラニンに変換した後、これら遊離アラニンの総量を測定することで算出されるというのが技術常識である。加水分解を経た組成物中の遊離アラニンは、それが動物肉由来のアラニンであっても、それ以外の成分由来のアラニンであっても化合物としては同一であり、その由来を区別できるものではなく、等しくアラニン含有量の測定値に寄与するものである。測定原理上、当該アラニン含有量の測定値に寄与しているのが動物肉であるのか否かを判別することはできない。この点からも動物肉に含まれるアラニンの量を除外したアラニンの含有量の技術的意義が不明である。 2 申立理由2(新規性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3−1 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由3−2 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 5 申立理由3−3 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 6 申立理由3−4 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 7 申立理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 8 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由4及び5の概略は次のとおりである。 (1) 申立理由4−1及び申立理由5:動物肉の含有量について 本件発明が解決しようとする課題は、「肉類の種類に限らず、肉類に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じされるように肉類の風味を改善した組成物を提供すること」である。 一方、本件特許の請求項1−8に係る発明は、組成物が動物肉を含むことが特定されているものの、動物肉の含有量については一切特定がなされておらず、任意の含有量が許容されていると解されるものである。 そして、本件発明1で特定されるフェネチルアセテートの含有量(1ppb以上1500ppb未満)、及び本件発明2で特定されるアラニンの含有量(0.1mg/g以上65mg/g未満)は、動物肉を一様に20w/w%含む組成物において確認された結果に基づいて風味改善作用が認められる範囲として決定された範囲であると解される。 しかしながら、例えば、グラス臭、豚肉の不快臭、ブロイラー臭等の臭いは、動物肉の量に比例して強くなるものであるため、動物肉を20w/w%含む組成物で作用効果が認められるフェネチルアセテート及び/又はアラニンの含有量の範囲を、動物肉が任意の含有量で含まれる組成物にまで拡張できるとはいえない。 したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、実施可能要件を満たしていない。 (2) 申立理由4−2:動物肉の形態について 本件特許の請求項1−8に係る発明は、組成物が動物肉を含むことが特定されているものの、動物肉の形態については一切特定がなされておらず、任意の形態が許容されていると解されるものである。 本件明細書の発明の詳細な説明の実施例では、ひき肉(ミンチ肉)を使用してフェネチルアセテート及び/又はアラニンによる風味改善作用を確認したことが記載されているのみである。フェネチルアセテート及び/又はアラニンによる風味改善作用が発揮されるには、フェネチルアセテート及び/又はアラニンが動物肉に接触することが必要であると解されるところ、動物肉を切り刻んだり潰したりしたひき肉は、比表面積が大きく、フェネチルアセテート及び/又はアラニンと効率よく接触すると考えられる一方、ブロック肉(塊肉)等では比表面積が小さく、その内部までフェネチルアセテート及び/又はアラニンが浸透しないため、フェネチルアセテート及び/又はアラニンとの接触が不充分となり、充分な風味改善作用が発揮されないと解される。すなわち、本件発明は、課題を解決できない範囲を含んでいることが明らかである。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、実施可能要件を満たしていない。 9 証拠方法 ・甲第1号証:「ミートソーススパゲッティ〜★パスタ★★」、投稿者 ゆりさんママ、cookpad.com、投稿日2011年1月28日、更新日2011年1月29日、https://cookpad.com/recipe/1342682 ・甲第2号証:「バルサミコトマトのさっぱり豚そぼろ麺」、投稿者 ochikeron、cookpad.com、投稿日2010年1月4日、更新日2011年6月4日、https://cookpad.com/recipe/1002532 ・甲第3号証:「簡単 ランチに サバ缶とキャベツのパスタ」(合議体注:絵文字は省略した。以下同様。)、投稿者 mari*314、cookpad.com、投稿日2020年2月24日、更新日2020年3月15日、https://cookpad.com/recipe/6050537 ・甲第4号証:「大豆のバルサミコそぼろ」、投稿者 motchan、cookpad.com、投稿日2010年9月1日、更新日2010年9月1日、https://cookpad.com/recipe/1219326 ・甲第5号証:八訂 食品成分表2021資料編、女子栄養大学出版部、2021年2月20日初版第1刷発行、p.166-167、170-171 ・甲第6号証:日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル 「第4章アミノ酸」、文部科学省ホームページ、平成28年3月登録、p.143-155、https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibunn/1368931.htm ・甲第7号証:小泉武夫、角田潔和、山本多代子、鈴木明治、「酵母の生成する香気について(第9報)」、J.Brew.Soc.Japan、1979年、第74巻 第3号、p.173-178 ・甲第8号証:「たまねぎの重さは1個、1玉で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2021年8月23日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/tama.html#a18 ・甲第9号証:「にんじんの重さは1本・1個で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2021年3月12日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/ninjin.html#a05 ・甲第10号証:「調理の基礎|調味料の測り方 「少々」と「ひとつまみ」」、ナディア−プロの料理家のおいしいレシピホームページ、https://oceans-nadia.com/cooking_basics/11 ・甲第11号証:「計量スプーン・計量カップによる重量表[食品を計量スプーン・計量カップで量った場合、何グラムにあたるのか]」、みんなの知識ちょっと便利帳ホームページ、https://www.benricho.org/doryoko_cup_spoon/ ・甲第12号証:戸川英夫、竹沢泰平、「ワインの原料ブドウに関する研究(第2報)」、J.Brew.Soc.Japan、1978年、第73巻 第6号、p.469-472 ・甲第13号証:八訂 食品成分表2021資料編、女子栄養大学出版部、2021年2月20日初版第1刷発行、p.120-123、128-137、146-147、182-187 ・甲第14号証:八訂 食品成分表2021本表編、女子栄養大学出版部、2021年2月20日初版第1刷発行、p.28-29、264-265 ・甲第15号証:RAQUEL M.CALLEJON et.al "Defining the Typical Aroma of Sherry Vinegar:Sensory and Chemical Approach" J.Agric.Food Chem. American Chemical Society、2008年、Vol.56,No.17、pp.8086-8095 ・甲第16号証:「長ねぎ(白ネギ)の重さは1本で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2018年6月7日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/negi.html ・甲第17号証:「しょうがの重さは1個、ひとかけ(1片)で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2021年9月25日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/shouga.html ・甲第18号証:A.Caligiani et.al "Identification and quantification of the main organic components of vinegars by high resolution 1H NNR spectroscopy" Analytica Chimica Acta Elsevier B.V. 2006年12月19日、No.585、pp.110-119 ・甲第19号証:「キャベツの重さは1個・1玉で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2021年4月1日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/cabbage.html ・甲第20号証:「トマトの重さは1個で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、最終更新日2021年4月20日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/tomato.html ・甲第21号証:「しめじの重さは1本、1株、1パックで何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、公開日2020年6月7日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/simeji.html#a04 ・甲第22号証:「にんにくの重さは1個、1玉、1片で何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、公開日2020年12月22日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/ninniku.html#a05 ・甲第23号証:「とうがらしの重さは1本、1袋何グラム、大きさやカロリーは?」、生活知恵袋ホームページ、公開日2019年8月31日、https://www.seikatu-cb.com/omosa/touga.html ・甲第24号証:「油少々はどれくらい」、cookpad.com、https://cookpad.com/cooking_basics/5917 ・甲第25号証:特開2014−168458号公報 第5 令和4年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要 請求項1ないし8に係る特許に対して、当審が令和4年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。(なお、特許異議申立理由のうち、申立理由2、申立理由3−1、申立理由3−2、申立理由3−3のうち請求項1ないし7に係る部分、及び申立理由3−4は、取消理由に包含される。) 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−1 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−2 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−3 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−4 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 令和4年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断 以下のとおり、令和4年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由はいずれもその理由がないものと判断する。 (1) 取消理由1及び2−1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について ア 主な証拠の記載事項等 (ア) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「ミートソーススパゲッティ〜★パスタ★★」について、次の記載がある。 「 」 (イ) 甲第1号証に記載された発明 上記(ア)の記載からみて、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。 「牛豚ミンチ180g、玉ねぎ大2/3、人参半分、赤ワイン100cc、コショウ少々、塩小1/2、しょうゆ大2、ケチャップ大4、ウスターソース大4、ナツメグ少々、トマト水煮缶1缶(285g)を用い、 1.玉ねぎ、人参をみじん切りにし、フライパンに油をして、玉ねぎを半透明になるまで炒め、 2.人参を入れて、さらに玉ねぎが透明になるまで炒め、 3.ミンチを入れ、 4.ミンチがボロボロになったら、赤ワインを入れ、煮立て、 5.コショウ、塩、しょうゆ、ケチャップ、ウスターソース、ナツメグ、トマト水煮を加え 6.弱火で5分〜10分煮て、 得られたミートソースを冷まし、ラップに包み冷凍パックに入れた、冷凍パック入りミートソース。」(以下、「甲1発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「牛豚ミンチ」は、本件特許発明1の「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉」に相当する。 また、甲1発明の「冷凍パック入りミートソース」は、「ミートソース」すなわち「組成物」が「冷凍パック」すなわち「容器」に封入されたものであるといえるから、本件特許発明1の「容器詰組成物」に相当する。 してみると、両者は、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及びしょうゆを含む、容器詰組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点1−1) しょう油の割合に関し、本件特許発明1は「10質量%以上である」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 (相違点1−2) 容器詰組成物に関し、本件特許発明1は「フェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点1−1について 甲1発明のミートソースの材料について、甲第7号証ないし第11号証の記載を参考に各材料の比率を換算すると、概ね次のように算出される。 すると、甲1発明のしょう油の割合は、3重量(質量)%であるから、相違点1−1は実質的な相違点である。 よって、本件特許発明1は甲1発明ではない。 また、甲1発明において、しょう油の割合を3重量(質量)%から変更する動機もない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点1−1および1−2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、「動物肉の種類に限らず、動物肉に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように動物肉の風味を改善する」(【0018】)との格別の効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明2ないし8もまた、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 取消理由1及び2−1についてのまとめ 上記イのとおりであるから、取消理由1及び2−1はその理由がない。 (2) 取消理由2−2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 主な証拠の記載事項等 (ア) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「バルサミコトマトのさっぱり豚そぼろ麺」について、次の記載がある。 「 」 (イ) 甲第2号証に記載された発明 上記(ア)の記載からみて、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。 「豚挽き肉50g、トマト80g、長葱1/4本、生姜1/2片、酒大さじ1/2、砂糖小さじ1、醤油大さじ1/2、水25cc、バルサミコ酢小さじ2、片栗粉小さじ1/2、ごま油少々を用い、 1.長葱と生姜をみじん切りにするとともに、トマトは湯むきして1cm角に切り、 2.小鍋にごま油を熱し、長葱と生姜を香り良く炒め、豚挽き肉を加え、パラッとしてきたら、酒、砂糖、醤油を加えて炒り煮し、 3.水、バルサミコ酢を加えて煮立て、トマトを加え、火が通ったら倍量の水で溶いた片栗粉でとろみをつけた、 そぼろあん。」(以下、「甲2発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「豚挽き肉」は、本件特許発明1の「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉」に相当する。 そして、甲2発明の「そぼろあん」が本件特許発明1の「組成物」に相当することは自明である。 してみると、両者は、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及びしょうゆを含む、組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点2−1) しょう油の割合に関し、本件特許発明1は「10質量%以上である」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 (相違点2−2) 組成物に関し、本件特許発明1は「フェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 (相違点2−3) 本件特許発明1は「容器詰」である旨特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点2−1について 甲2発明のそぼろあんの材料について、甲第10号証、甲第11号証、甲第16号証、甲第17号証の記載を参考に各材料の比率を換算すると、概ね次のように算出される。 すると、甲2発明のしょう油の割合は、4.0重量(質量)%であるところ、甲2発明において、しょう油の割合を3重量(質量)%から変更する動機はない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点2−1および2−3に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、「動物肉の種類に限らず、動物肉に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように動物肉の風味を改善する」(【0018】)との格別の効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明2ないし8もまた、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 取消理由2−2についてのまとめ 上記イのとおりであるから、取消理由2−2はその理由がない。 (3) 取消理由2−3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 主な証拠の記載事項等 (ア) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、「簡単 ランチに サバ缶とキャベツのパスタ」について、次の記載がある。 「 」 (イ) 甲第3号証に記載された発明 上記(ア)の記載からみて、甲第3号証には次の発明が記載されていると認める。 「サバ缶1缶(150g)、キャベツ2〜3枚、トマト(角切り)1/2個、しめじ1/2袋、にんにく2片、鷹の爪1本、オリーブオイル大さじ4、白ワイン150cc、醤油小さじ1/2、塩少々、こしょう少々を用い、 1.フライパンににんにくのみじん切り、種を抜いた鷹の爪、オリーブオイルを入れ弱火にかけ、じっくり香りを出し、 2.サバ缶を汁ごと、しめじ、角切りにしたトマトを入れて軽く炒め、鷹の爪を取り出し、 3.ざく切りにしたキャベツを入れてサッと炒め、白ワインを入れて蓋をし、沸騰させてアルコール分を飛ばし、 4.塩、こしょう、醤油で味を整えた、 パスタソース。」(以下、「甲3発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「サバ缶」の中身は、本件特許発明1の「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉」に相当する。 そして、甲3発明の「パスタソース」が本件特許発明1の「組成物」に相当することは自明である。 してみると、両者は、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及びしょうゆを含む、組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点3−1) しょう油の割合に関し、本件特許発明1は「10質量%以上である」と特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。 (相違点3−2) 組成物に関し、本件特許発明1は「フェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である」と特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。 (相違点3−3) 本件特許発明1は「容器詰」である旨特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点3−1について 甲3発明のパスタソースの材料について、甲第10号証、甲第11号証、甲第19号証ないし甲第23号証の記載を参考に各材料の比率を換算すると、概ね次のように算出される。 すると、甲3発明のしょう油の割合は、0.43〜0.46重量(質量)%であるところ、甲3発明において、しょう油の割合を0.43〜0.46重量(質量)%から変更する動機はない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点3−1および3−3に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、「動物肉の種類に限らず、動物肉に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように動物肉の風味を改善する」(【0018】)との格別の効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明2ないし7もまた、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 取消理由2−3についてのまとめ 上記イのとおりであるから、取消理由2−3はその理由がない。 (4) 取消理由2−4(甲第4号証を主たる証拠とする進歩性)について ア 主な証拠の記載事項等 (ア) 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、「大豆のバルサミコそぼろ」について、次の記載がある。 「 」 (イ) 甲第4号証に記載された発明 上記(ア)の記載からみて、甲第4号証には次の発明が記載されていると認める。 「ひき肉100g、大豆(ドライパック缶)50g、オリーブオイル適量、バルサミコ大さじ1と1/2、醤油大さじ1、蜂蜜大さじ1、塩少々、胡椒少々を用い、 1.フライパンにオリーブオイルを引き、ボロボロになるまでひき肉を炒め、 2.大豆を加え、炒めながら軽く塩、胡椒を加え、 3.バルサミコ、醤油、蜂蜜を加え、汁気がなくなるまで炒めた 大豆のバルサミコそぼろ。」(以下、「甲4発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「ひき肉」は、本件特許発明1の「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉」に相当する。 そして、甲4発明の「大豆のバルサミコそぼろ」が本件特許発明1の「組成物」に相当することは自明である。 してみると、両者は、 「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及びしょうゆを含む、組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点4−1) しょう油の割合に関し、本件特許発明1は「10質量%以上である」と特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。 (相違点4−2) 組成物に関し、本件特許発明1は「フェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である」と特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。 (相違点4−3) 本件特許発明1は「容器詰」である旨特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 ・相違点4−1について 甲4発明の大豆のバルサミコそぼろの材料について、甲第10号証、甲第11号証及び甲第24号証の記載を参考に各材料の比率を換算すると、概ね次のように算出される。 すると、甲4発明のしょう油の割合は、8.4重量(質量)%であるところ、甲4発明において、しょう油の割合を8.4重量(質量)%から変更する動機はない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点4−1および4−3に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、「動物肉の種類に限らず、動物肉に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように動物肉の風味を改善する」(【0018】)との格別の効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。 そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明2ないし8もまた、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 取消理由2−4についてのまとめ 上記イのとおりであるから、取消理由2−4はその理由がない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由1、申立理由3−3のうち請求項8に係る部分、申立理由4及び申立理由5に関する点である。 以下、検討する。 (1) 申立理由1(明確性要件)について ア 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 イ 明確性についての判断 本件特許発明1は、「容器詰組成物」であって、「肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉」及び「10質量%以上であるしょうゆ」を含み、かつ「フェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である」と特定するものであるから、「容器詰組成物」の特定事項として明確である。 本件特許発明2ないし8も同様に判断される。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、フェネチルアセテート及びアラニンの含有量が加熱の前後でかわること、動物肉由来のアラニンの取扱いの点などをあげ、本件特許発明1ないし8は明確でない旨主張する。 しかし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0033】の記載からすれば、フェネチルアセテート及びアラニンの含有量は、加熱前における含有量(割合)を意味することは明らかであるし、また、動物由来のアラニンについては、本件特許発明の課題からみても、本件特許発明2ないし8で特定されるアラニンの含有量(割合)に含まれないものであることは当業者にとって自明である。 よって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用しない。 エ 申立理由1についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。 (2) 申立理由3−3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)のうち請求項8に係る部分について ア 本件特許発明8について 本件特許発明8は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て含むものである。 そして、上記1(3)イ(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む本件特許発明8もまた、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 申立理由3−3のうち請求項8に係る部分についてのまとめ 上記アのとおりであるから、申立理由3−3のうち請求項8に係る部分についても、その理由がない。 (3) 申立理由4(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ サポート要件についての判断 本件特許発明の課題(以下、単に「発明の課題」という。)は、「肉類の種類に限らず、肉類に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように肉類の風味を改善した組成物を提供すること」(【0012】)と認められるところ、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「肉類とともに、所定量のフェネチルアセテートを添加したものは、肉類の風味が改善した組成物になり得ることを見出すに至った」(【0014】)こと、「肉類だけではなく、魚介類についてもフェネチルアセテートは風味改善作用を有する」(【0015】)こと、「動物肉を含む調味液において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、動物肉の風味が改善された」(【0030】)こと、「フェネチルアセテートの含有量が多い場合、具体的には3,000ppb超過のフェネチルアセテートを含む場合、組成物に対して喫食時に所望としない花様の異質な香りを付与して好ましくない。そこで、フェネチルアセテートの含有量の上限は、組成物の全体量に対して、3,000ppbよりも少ない量の2,000ppb程度、具体的には1,500ppb未満である」(【0031】)ことが記載され、かつ、具体的な試験例における官能評価によりその効果の検証もなされている。 してみると、当業者であれば、「動物肉を含む組成物において、フェネチルアセテートを1ppb以上1500ppb未満含む」との要件を満たすことにより、本件特許発明の課題を解決するものと認識する。 そして、本件特許発明1ないし8はいずれも、上記の課題を解決するものと認識することができる事項を発明特定事項として含み、さらに限定するものである。 してみれば、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、動物肉の量や動物肉の形態と臭いや風味などとの関係の点をあげ、本件特許発明は、その発明の課題を解決できない範囲を含んでいる旨主張する。 しかしながら、フェネチルアセテートを所定の割合で添加することにより、風味を改善するとの定性的な効果は、上記イにおける検討のとおり示されている。 特許異議申立人の上記主張は、動物肉の量や形態の異なるものを比較することを前提とするものであり、定性的な効果の検討において適切であるとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用しない。 エ 申立理由4についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。 (4) 申立理由5(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1ないし8は「容器詰組成物」という物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 イ 実施可能要件についての判断 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、肉類の種類に限らず、肉類に特有の臭みを抑制し、肉のうま味が感じられるように肉類の風味を改善した組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする」(【0012】)ものであり、「肉類とともに、所定量のフェネチルアセテートを添加したものは、肉類の風味が改善した組成物になり得ることを見出すに至った」(【0014】)こと、「肉類だけではなく、魚介類についてもフェネチルアセテートは風味改善作用を有すること、フェネチルアセテートにアラニンを組み合わせて加えた場合には肉類、魚介類といった動物肉の風味改善作用が増強されることを見出した」(【0015】)こと、「動物肉を含む調味液において、1ppb以上のフェネチルアセテートを含む場合、動物肉の風味が改善された」(【0030】)こと、「フェネチルアセテートの含有量が多い場合、具体的には3,000ppb超過のフェネチルアセテートを含む場合、組成物に対して喫食時に所望としない花様の異質な香りを付与して好ましくない。そこで、フェネチルアセテートの含有量の上限は、組成物の全体量に対して、3,000ppbよりも少ない量の2,000ppb程度、具体的には1,500ppb未満である」(【0031】)こと、「動物肉とともにしょうゆを含む場合であっても、フェネチルアセテートを含むことにより、動物肉の風味を改善することができる」(【0042】)ことが記載されるとともに、これらの条件を満たす具体的な試験例も記載されている。 これらの記載を総合すれば、当業者ならば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を生産し、使用することができる程度に記載されているものといえる。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、動物肉の量や動物肉の形態と臭いや風味などとの関係の点をあげ、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張するが、動物肉の量や動物肉の形態については、上記(3)ウと同様に判断されるものであり、その実施において何ら影響するものではないことは、上記イの検討のとおりである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 エ 申立理由5についてのまとめ 上記イ及びウのとおりであるから、申立理由5は、その理由がない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 肉類及び魚介類からなる群から選ばれる少なくとも1種の動物肉及び10質量%以上であるしょうゆを含み、かつフェネチルアセテートの含有量が1ppb以上1,500ppb未満である、容器詰組成物。 【請求項2】 さらに0.1mg/g以上65mg/g未満のアラニンを含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記組成物は、前記動物肉に対する前記アラニンの含有量が0.5mg/g以上325mg/g未満である、請求項2に記載の組成物。 【請求項4】 前記組成物は、前記しょうゆに対する前記アラニンの含有量が1mg/g以上650mg/g未満である、請求項2〜3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 前記組成物は、前記動物肉の風味改善用組成物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項6】 前記組成物は、加熱殺菌に供された組成物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項7】 前記組成物は、前記動物肉に対する前記フェネチルアセテートの含有量が5ppb以上7,500ppb未満である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項8】 前記組成物は、前記しょうゆに対する前記フェネチルアセテートの含有量が10ppb以上15,000ppb未満である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-12-09 |
出願番号 | P2021-085253 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L) P 1 651・ 113- YAA (A23L) P 1 651・ 537- YAA (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
植前 充司 磯貝 香苗 |
登録日 | 2021-09-02 |
登録番号 | 6937956 |
権利者 | キッコーマン株式会社 |
発明の名称 | 容器詰組成物及びその使用並びに容器詰加工食品 |
代理人 | 森本 敏明 |
代理人 | 森本 敏明 |