ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B23K 審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) B23K 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 B23K |
---|---|
管理番号 | 1395226 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-06-14 |
確定日 | 2023-01-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6982450号発明「保護ガラス汚れ検知システム及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6982450号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〜9〕について訂正することを認める。 特許第6982450号の請求項1〜2、7〜8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6982450号の請求項1〜10に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年9月28日を出願日とするものであって、令和3年11月24日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月17日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 6月14日 :特許異議申立人安孫子勉(以下「申立人」と いう。)による請求項1〜2、7〜8に係る 特許に対する特許異議の申立て 令和4年 8月24日付け:取消理由通知書 令和4年10月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和4年11月22日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正 1 本件訂正の内容について 令和4年10月4日提出の訂正請求書により、特許権者は、特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を求めているところ、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付して示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記散乱光検出器よりの検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知して、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路と、」 とあるのを、 「前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知して、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路と、」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7に 「(b)前記散乱光検出器よりの検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知する工程と、」 とあるのを、 「(b)前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知する工程と、」 に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8〜9も同様に訂正する。)。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1〜6は、請求項2〜6が本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、また、本件訂正前の請求項7〜9は、請求項8〜9が本件訂正前の請求項7の記載を引用する関係にあって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1〜6〕、〔7〜9〕について請求されたものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、独立特許要件の可否について (1)訂正事項1 ア 訂正の目的の適否 訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1〜6についての訂正は、「汚れ検知回路」を(ア)「前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存」するとともに、(イ)「前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」すると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1〜6についての訂正は、以下の(ア)〜(エ)のとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。 (ア)上記ア(ア)に関し、本件明細書等の段落【0036】には、「汚れ検知回路33は、ADコンバータ31よりの検出値Xと時間データとを保存するメモリ33a・・・を有している。」と記載されている(なお、摘記箇所の下線は当審にて付した、以下同様。)。 (イ)上記ア(イ)のうち、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知」する点に関し、本件明細書等の段落【0036】〜【0037】には、「汚れ検知回路33は、・・・メモリ33aよりの検出値Xおよび時間データに基づいて、検出値Xの変化量ΔX(微分値)を計算する演算部33b・・・を有している。・・・ 汚れ検知回路33は、さらに、演算部33bよりの検出値変化量ΔXに基づいて、正常(汚れ付着無し)かスパッタ付着か金属ヒューム付着かを判定する汚れ判定部33c・・・を有している。」と記載され、段落【0052】〜【0062】には図4について、「ステップ109において、演算部33bにより、メモリ33aよりの検出値Xおよび時間データに基づいて、検出値Xの変化量ΔX(微分値)が計算される。・・・ステップ111において、汚れ判定部33cにより、演算部33bよりの検出値X(散乱光量)の変化量ΔXに基づいて、保護ガラス25の状態が、正常(汚れ付着無し)かスパッタ付着か金属ヒューム付着かが判定される。」と記載されるように、本件明細書等には「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知」することが記載されている。 (ウ)上記ア(イ)のうち、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの時期を検知」する点、及び「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの程度を検知」する点に関し、本件明細書等の段落【0007】〜【0009】には、発明が解決しようとする課題について、以下の記載がある。 「しかしながら、従来の汚れ検知システムは、基本的には汚れの量に応じて、散乱光の強度が高くなることを利用して、保護ガラスの汚れを検知するようにしていたため、何時、どのような種類の汚れが、どの程度付着したかを問題とはしていなかった。・・・すなわち、従来の汚れ検知システムでは、何時、どのような種類の汚れが、どの程度付着したか判らず、そのため、清掃で済むのか、新品に交換する必要があるのか判断できない欠点があった。」 このことから、本件明細書等において開示される発明は、従来の汚れ検知システムが散乱光の強度のみを考慮していたことから、どのような汚れが、何時、どの程度付着したかわからなかったものを、解決しようとしたものであることと解される。 そして、本件明細書等の段落【0039】には、「NC装置23では、メモリ33aよりの検出値Xおよび時間データに基づいて、後述するように、図6に示すようなグラフ等のロギングデータ表示や、汚れ判定部33cよりの判定結果に基づいて、汚れ状態結果の表示や、保護ガラス交換判定部33dよりの判定結果に基づいて、交換判定結果の表示を行うようになっている。」と記載されている。 また、スパッタ付着の状態に関して、本件明細書等の段落【0070】〜【0072】には、「ステップ203においてスパッタ付着信号が出力された場合、ステップ205において、交換判定部33dでは、メモリ33aよりの検出値Xが、アラーム値より大きいか否かが判定され、検出値Xがアラーム値より大きい場合、ステップ207において、交換判定部33dでは、保護ガラス25の交換と判定し、保護ガラス交換の判定信号をNC装置23へ出力する。・・・交換判定部33dからNC装置23へ保護ガラス交換の判定信号が送られると、ステップ209において、NC装置23は、そのモニター23a上に、交換判定結果表示として保護ガラス交換との表示を行う。」と記載されるとともに、段落【0075】〜【0077】には、「ステップ211において、交換判定部33dでは、検出値Xが、交換ワーニング値より大きいか否かが判定され、検出値Xが、交換ワーニング値より大きい場合、ステップ213において、交換判定部33dでは、注意を要する程度の汚れと判定し、オペレータに保護ガラス25の交換判断を促すための交換ワーニング判定信号をNC装置23へ出力する。・・・交換判定部33dからNC装置23へ交換ワーニング判定信号が送られると、ステップ215において、NC装置23は、そのモニター23a上に、交換判定結果表示として、例えば、汚れ注意等の交換ワーニング表示を行う。」と記載されている。 さらに、ヒューム付着の状態に関して、本件明細書等の段落【0086】〜【0088】には、「ステップ223において金属ヒューム付着信号が出力された場合、ステップ225において、交換判定部33dでは、メモリ33aよりの検出値Xが、アラーム値より大きいか否かが判定され、検出値Xがアラーム値より大きい場合、ステップ227において、交換判定部33dでは、保護ガラス25の清掃と判定し、保護ガラス清掃の判定信号を出力する。・・・交換判定部33dからNC装置23へ保護ガラス清掃の判定信号が送られると、ステップ229において、NC装置23は、そのモニター23a上に、交換判定結果表示として保護ガラス清掃との表示を行う。」と記載されるとともに、段落【0091】〜【0092】には、「ステップ225において検出値Xがアラーム値より小さい場合、交換判定部33dでは、注意を要する程度の汚れと判定し、ステップ231において、交換判定部33dでは、オペレータに保護ガラス25の清掃判断を促すための清掃ワーニング判定信号をNC装置23へ出力する。交換判定部33dからNC装置23へ清掃ワーニング判定信号が送られると、ステップ233において、NC装置23は、そのモニター23a上に、交換判定結果表示として、例えば、金属ヒューム汚れ注意等の清掃ワーニング表示を行う。」と記載されている。 ここで、段落【0039】に示される本件明細書等の図6は、以下のとおりであって、メモリに保存される「時間データ」を経過時間として「検出値」とともに表示することで、アラーム値や交換ワーニング値を超える検出値が何時発生したか、また、スパッタ付着や金属ヒューム付着がどの経過時間でどの程度発生したかを、NC装置23のモニター23a上にロギングデータとして表示可能にしたものであることが理解でき、当該表示は「検出値」と「時間データ」とから「保護ガラスの汚れの時期及び程度」を検知していることから可能になったものであるといえる。 「【図6】 」 さらにいえば、「保護ガラスの汚れの程度」に関しては、本件明細書等の段落【0052】〜【0054】には、「ステップ109において、演算部33bにより、メモリ33aよりの検出値Xおよび時間データに基づいて、検出値Xの変化量ΔX(微分値)が計算される。・・・検出値X(散乱光量)の変化量ΔXにより、保護ガラス25に付着した汚れの種類や程度等が判断できるためである。」とも記載されている。 してみると、本件明細書等には「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの時期を検知」すること、及び「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知」することが記載されている。 (エ)よって、訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1〜6についての訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1〜6についての訂正は、上記アのとおり、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に特定されていた「汚れ検知回路」を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 エ 独立特許要件の可否 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜2、7〜8に対してされているので、訂正事項1に係る訂正を認める要件として、請求項1〜2に対しては、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 他方、請求項3〜6に対しては上記独立特許要件が課されるところ、訂正後の請求項3〜6に係る発明は、下記第5のとおり、令和4年8月24日付けで通知された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことのできない訂正後の請求項1又は2に係る発明の発明特定事項を全て有するものであるから、訂正後の請求項1又は2に係る発明と同様に上記取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては特許を受けることができないものであるとはいえないし、他に訂正後の請求項3〜6に係る発明が特許を受けることができないものであるという理由も発見しない。 よって、訂正後の請求項3〜6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的の適否 訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項7〜9についての訂正は、「(b)検知する工程」を(ア)「前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存」し、(イ)「前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項7〜9についての訂正は、上記(1)イと同様の理由により、本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項7〜9についての訂正は、上記アのとおり、訂正前の特許請求の範囲の請求項7に特定されていた「(b)検知する工程」を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 エ 独立特許要件の可否 特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜2、7〜8に対してされているので、訂正事項2に係る訂正を認める要件として、請求項7〜8に対しては、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 他方、請求項9に対しては上記独立特許要件が課されるところ、訂正後の請求項9に係る発明は、下記第5のとおり、令和4年8月24日付けで通知された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことのできない訂正後の請求項7又は8に係る発明の発明特定事項を全て有するものであるから、訂正後の請求項7又は8に係る発明と同様に上記取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては特許を受けることができないものであるとはいえないし、他に訂正後の請求項9に係る発明が特許を受けることができないものであるという理由も発見しない。 よって、訂正後の請求項9に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 (3)申立人の主張について 訂正事項1〜2に関して、申立人は、令和4年11月22日に提出した意見書(以下「申立人意見書」という。)の3のアにおいて、本件訂正の内容のうち、「散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存」することと、「前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類を検知」することについては、本件明細書等に記載した事項の範囲内といえるが、「前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの時期、程度を検知」することについては、本件明細書等に記載した事項の範囲内といえない旨を主張する(申立人意見書第2〜3ページ)。 しかしながら、「前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの時期、程度を検知」することに関して、訂正事項1に係る特許請求の範囲の請求項1〜6についての訂正は、上記(1)イ(ウ)のとおり本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項7〜9についての訂正は、上記(2)イのとおり本件明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであるから、新規事項の追加に該当しない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)小括 上記(1)及び(2)のとおり、訂正事項1及び2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〜9〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下「本件特許発明1」等といい、また、総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知システムであって、 前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出するための散乱光検出器と、 前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知して、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路と、を有することを特徴とする保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項2】 前記保護ガラス汚れ検知システムが、さらに、前記汚れ検知回路よりの判定結果に基づいて、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1に記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項3】 前記汚れ検知回路が、前記散乱光検出器よりの検出値を微分した変化量を求め、その変化量および前記検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知することを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項4】 前記汚れ検知回路が、前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するメモリと、前記メモリよりの検出値および時間データに基づいて、前記検出値の微分値からなる変化量を計算する演算部と、前記演算部よりの検出値変化量に基づいて、汚れ付着無しの正常状態かスパッタ付着状態か金属ヒューム付着状態かを判定する汚れ判定部と、前記汚れ判定部よりの判定結果および前記メモリよりの検出値に基づいて、前記保護ガラスの交換か前記保護ガラスの清掃か前記保護ガラスの継続使用かを判定する保護ガラスの交換判定部と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項5】 前記汚れ判定部は、前記演算部よりの検出値変化量を所定の判定閾値と比較し、前記検出値変化量が前記判定閾値より大きい場合、スパッタ付着状態と判定し、前記検出値変化量が前記判定閾値より小さい場合、金属ヒューム付着状態と判定することを特徴とする請求項4に記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項6】 前記保護ガラスが、前記集光レンズと前記被加工物との間に設けられ、前記散乱光検出器が、前記保護ガラスの端面からの散乱光を受光することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項7】 レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知方法であって、 (a)散乱光検出器により、前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出する工程と、 (b)前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知する工程と、 (c)前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度から前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する工程と、を有することを特徴とする保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項8】 前記保護ガラス汚れ検知方法が、さらに、(d)前記保護ガラスの交換や清掃の必要の判定結果に基づいて、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する工程を有することを特徴とする請求項7に記載の保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項9】 前記工程(b)が、前記散乱光検出器よりの検出値を微分した変化量を求め、その変化量および前記検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知することを特徴とする請求項7および8のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項10】 レーザ加工ヘッドに搭載される保護ガラスの汚れを検出する汚れ検出システムであって、 前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出する散乱光検出器と、 前記散乱光検出器の出力値に基づいて、前記保護ガラスの汚れの種類を検出する汚れ種類検出回路と、を有し、 前記汚れ種類検出回路は、所定時間内における、前記散乱光検出器の出力値の変動量に基づいて汚れの原因がスパッタであるか金属ヒュームであるかを識別する汚れ検出システム。」 第4 取消理由通知書に記載した取消しの理由の概要 本件特許の請求項1〜2、7〜8に係る特許に対して、当審合議体が令和4年8月24日付け取消理由通知書で特許権者に通知した取消しの理由の概要は、以下のとおりである。 1 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1〜2、7〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜2、7〜8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下「取消理由1」という。)。 2 取消理由2(進歩性) 本件特許の請求項1〜2、7〜8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1発明及び下記甲第3号証に記載された技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。)に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜2、7〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「取消理由2」という。)。 記 <引用文献等一覧> 甲第1号証:特許第4651001号公報(以下「甲1」という。) 甲第3号証:特開2006−324557号公報(以下「甲3」という。) 第5 当審合議体の判断 当審合議体は、本件特許発明1〜2、7〜8に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 取消理由1(新規性)について (1)本件特許発明1 ア 本件特許発明1の認定 本件特許発明1は、上記第3の【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 イ 甲1発明1 (ア)甲1に記載された事項 取消理由通知書で引用された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、工作物を熱加工する機械、例えばレーザ加工機械の加工ヘッドの光学素子を監視する装置に関し、ここでこの監視は、当該の光学素子において散乱光を検出し、また付加的な光学素子において基準としての散乱光を検出することによって行われる。 【背景技術】 【0002】 本発明に枠内において光学素子とは、加工ヘッドの窓、集束レンズまたは保護ガラスのことであると理解されたい。 【0003】 第1光学素子における基準の測定と、汚染された第2光学素子における測定とによって保護ガラスの汚染を監視することがDE 195 07 401 A1により公知になっている。 【0004】 熱溶接または切断のための機械,例えばレーザ加工機械を用いて工作物を加工する際には、工作物の加工領域におけるスパッタおよび煙が問題である。このスパッタおよび煙は、この機械の加工ヘッドに設けられた光学素子の、工作物側を向いた光学系表面に堆積し、またこの光学素子を汚染することがある。スパッタは光学系表面に焼き付くことがある。煙はこの光学系表面に堆積し、所定の程度までは光学系表面から取り除いて元のようにすることも可能である。堆積または光学系表面の損傷は、レーザビームの吸収を高める。この結果、光学素子の熱負荷が増大する。これにより、最終的には加工領域に供給されるレーザ出力が著しく低下してしまうことになる。例えばスパッタによる汚染がひどい場合、レーザビームの吸収が高まることによって、光学素子が破損してしまうことがある。 【0005】 このため、光学素子におけるスパッタまたは煙を早期に検出して、工作物の加工領域において一定の熱出力を保証し、また光学素子の破損を阻止することが必要である。ここでこれは、熱加工機械を適時に遮断するか、または光学素子の清浄ないしは交換を指示することによって行うことができる。 【0006】 本発明は、加工レーザビームの複数の部分ビームが散乱することによって発生する、保護ガラスにおける散乱光を測定しようとするものである。 ・・・ 【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 基準のために付加的な光学素子を使用するのと共に、対数による散乱光測定を使用することによって、つぎのような利点が得られる。すなわち、 対数による散乱光検出によって、5ディケード(100dB)を上回る範囲で散乱光信号を検出して評価することができる。これにより、W〜KW範囲のレーザ出力において、また汚染の程度が大きく相違したり、例えば反射および溶接の炎などの外乱量が「加算」される際に信号を確実に検出することができる。 【0011】 清浄な保護ガラス(例えば、ビーム路の隣接する別の光学素子とすることも可能である。例えば、集束レンズ)を付加的に使用し、これが測定信号の基準に利用される。この付加的な光学素子は、汚染された光学素子と同様にすべての部分ビーム(レーザビーム、反射レーザビーム、溶接の炎…)に曝される。この付加的な光学素子における信号もフォトダイオードによって検出され、対数で評価される。 【0012】 有利であるのは、上記の機械の加工ヘッドに挿入/取り外し可能なカセットまたはドロア(Schublade)を設けて光学素子を保持することであり、ここでは検出器もこのカセットに取り付けることができる。これにより、光学素子および/または対応する監視のための素子の交換が格段に容易になる。光学素子と検出器との間の、カセットにおける結合孔は、ガラスプラグによって閉じられており、汚れまたは塵埃の微粒子の侵入が阻止される。 【0013】 制御されたレーザビームの輝度を評価する電子回路も上記のカセットに取り付けることができる。このような取り付けは、測定方法の外乱に対する弱さを低減するという点でも有利である。このような配置構成によって、配線の長さを短くすることも可能である。上記の電子回路は、補正データ/特性曲線に対する記憶装置を有することもできる。 【0014】 光学素子、検出器および信号評価のための電子回路は、モジュールユニットを構成することができる。このモジュールユニットは、コンポーネントとしてカセットの横またはカセット内に収容され、ひいては較正可能なモジュールとして、加工ヘッドから取り外す、ないしはこれに取り付けることができる。このモジュールを挿入すると、コネクタ接続により、所要の電気的または機械的なコンタクトが自動的に行われる。 【0015】 本発明の有利な実施例を図面に概略的に示し、この図面の図1に基づいて以下詳しく説明する。 【0016】 図1からわかるように、光学系表面2の汚染を監視する装置1は、2つの光学素子を含んでいる。すなわち、第1および第2の保護ガラス3ないしは4と、3つのガラスプラグ5〜7と、散乱光を検出する3つのセンサ15,16および19とを含んでいる。これらの光学素子は、純粋な保護ガラス、またはレンズないしはこれに類似するともことも可能である。本発明を実践に移行するためには保護ガラス3および4は、図示しない「ドロア」に保持され、ユーザによって簡単に交換可能である。 【0017】 集束されたレーザビーム8は、詳しく図示していないレーザ加工機械の加工ヘッドを出発し、加工のため、同様に図示していない工作物に当たる。この工作物を加工する際、第2保護ガラスが汚染される。この汚染の結果、加工ビームが弱まってしまい、この工作物の加工結果が悪くなってしまう。汚染にもかかわらず工作物の加工が継続されると、この加工ヘッドの他のコンポーネントは大きな負荷に曝されることになってしまう。 【0018】 散乱光の輝度は、汚染に対する尺度として、後置接続された電子回路によって評価することができ、これによって限界値を上回った際に工作物の加工を中断して、第2保護ガラス4を交換するか、または浄化が必要なことを表示する。 【0019】 汚染はスパッタまたは煙によって発生する。ここではスパッタ9が発生することがあり、これは第2保護ガラス4の光学系表面2に堆積し、一部が光学系表面2に焼き付いている。スパッタ9によって散乱光10が発生し、これはもっぱら保護ガラスエッジ11において出射する。煙12も光学系表面2に堆積することがあり、これによって散乱光13はもっぱら、第1保護ガラス3と第2保護ガラス4との間の光学系中間スペースに入射する。 【0020】 汚染を監視するため、散乱光値が保護ガラスエッジ11および光学系中間スペース14において検出される。このためにこれらの部分ビームは、小さなガラスプラグ6および7を介してフォトダイオード15および16にそれぞれ案内される。ここで重要であるのは、ガラスプラグと保護ガラスとの間に約0.2mmの間隙が残されており、プラグまたは保護ガラスエッジの傷つきが回避される。フォトダイオード15および16ならびに評価回路も、図示しないホルダ(ドロア)に組み込まれている。 【0021】 保護ガラスの監視を実行および評価するため、散乱光10および13を検出するのに加えて、清浄な第1保護ガラス3において、この第1保護ガラス3に入力結合される散乱光17を検出する。ここでは実際の保護ガラス(第2保護ガラス4)と、第2保護ガラス4の上の領域と、付加的な保護ガラス(第1保護ガラス3)とが監視されるのである。 【0022】 ここではセンサを用い、合わせて相異なる4つの個所で散乱光を検出する。すなわち、 1. 第1保護ガラス3の保護ガラスエッジ18において(基準); 2. 第2保護ガラス4の保護ガラスエッジ11において(スパッタ監視); 3. 第2保護ガラス4の上の第1保護ガラス3と第2保護ガラス4との間で(煙監視); 4. コリメーションレンズにおいて(加工ヘッドへのファイバー入力結合が、過大な散乱光値になることを監視) 検出するのである。 【0023】 これらの4重の測定によって、保護ガラス汚染度、汚染の種類(スパッタ,煙)および汚染部へのファイバー入力結合の範囲を監視することができる。 【0024】 汚染度、レーザ出力、外乱光および反射に応じて、レベルは、種々異なって大きく増大する。フォトダイオード15および16によって、ならびに第1保護ガラス3における散乱光17に対してフォトダイオード19によって形成された信号は、これらの信号を対数化する手段20〜22によって相応に処理される。フォトダイオード電流信号は対数で検出され、電圧に変換される。これらの対数化された信号は、差分形成により、例えばマイクロコントローラ23で評価される。コリメーションレンズについての散乱光測定およびその評価は、同じ原理で行われる(図示されていない)。 ・・・ 【0029】 保護ガラスの汚染度の表示は、保護ガラスカセットの光バーグラフ表示器を介して行うことができる。択一的には、評価した信号をレーザ制御部に通知して、レーザの操作プログラムにおいて表示する。 【0030】 【図1】レーザ加工機械の保護ガラスの光学系表面における汚染を監視する装置の原理図である。 【符号の説明】 【0031】 1 監視装置 2 光学系表面 3 第1保護ガラス 4 第2保護ガラス 5〜7 ガラスプラグ 8 レーザビーム 9 スパッタ 10 散乱光 11 保護ガラスエッジ 12 煙 13 散乱光 14 中間スペース 15,16,19 ダイオード 17 散乱光 18 保護ガラスエッジ 20〜22 対数化器 23 コントローラ」 「【図1】 」 (イ)甲1の記載から理解できること 上記(ア)の記載から、甲1には以下の事項が記載されていることが理解できる。 a 段落【0011】、【0016】〜【0019】の記載から、甲1に記載された監視装置1は、レーザ加工機械において、レーザビーム8を集束させて工作物に当てるための集束レンズを、レーザ加工により工作物から飛んでくるスパッタ9又は煙12による汚染から保護するための第2の保護ガラス4の汚染を監視するものであることがわかる。 b 段落【0019】〜【0020】の記載、及び図1から、甲1に記載された監視装置1は、第2の保護ガラス4に堆積したスパッタ9又は煙12による汚染によって生じる保護ガラスエッジ11又は第1保護ガラス3と第2保護ガラス4との間の光学系中間スペースの散乱光10,13を検出するためのフォトダイオード15,16を有することがわかる。 c 段落【0018】、【0020】〜【0024】の記載、及び図1から、甲1に記載された監視装置1は、フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値から第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度を監視して、第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要を評価するマイクロコントローラ23を有することがわかる。 (ウ)甲1発明1の認定 上記(ア)及び(イ)の記載から、甲1には、本件特許発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、次の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 「レーザ加工機械において、レーザビーム8を集束させて工作物に当てるための集束レンズを、レーザ加工により工作物から飛んでくるスパッタ9又は煙12による汚染から保護するための第2の保護ガラス4の汚染を監視する監視装置1であって、 第2の保護ガラス4に堆積したスパッタ9又は煙12による汚染によって生じる散乱光10,13を検出するためのフォトダイオード15,16と、 フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値から第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度を監視して、第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要を評価するマイクロコントローラ23と、を有する監視装置1。」 ウ 本件特許発明1と甲1発明1との対比 (ア)本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、以下の相当関係を有する。 a 甲1発明1における「監視装置1」は、その機能及び構造からみて、本件特許発明1における「保護ガラス汚れ検知システム」に相当し、以下同様に、「レーザ加工機械」は「レーザ加工機」に、「レーザビーム8」は「レーザ光」に、「工作物」は「被加工物」に、「集束レンズ」は「集光レンズ」に、「スパッタ9又は煙12による汚染」は「汚れ」に、「第2の保護ガラス4」は「保護ガラス」に、それぞれ相当する。 してみると、甲1発明1における「レーザ加工機械において、レーザビーム8を集束させて工作物に当てるための集束レンズを、レーザ加工により工作物から飛んでくるスパッタ9又は煙12による汚染から保護するための第2の保護ガラス4の汚染を監視する監視装置1」である点は、本件特許発明1における「レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知システム」である点で共通する。 b 甲1発明1における「散乱光10,13」及び「フォトダイオード15,16」は、その作用・機能からみて、本件特許発明1における「散乱光」及び「散乱光検出器」に、それぞれ相当する。してみると、甲1発明1における「第2の保護ガラス4に堆積したスパッタ9又は煙12による汚染によって生じる散乱光10,13を検出するためのフォトダイオード15,16」は、本件特許発明1における「保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出するための散乱光検出器」に相当する。 c 甲1発明1における「フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値」は、その特性からみて、本件特許発明1における「散乱光検出器よりの検出値」に相当し、以下同様に、「第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ、煙)」は「保護ガラスの汚れの種類」に、「第2の保護ガラス4の汚染度」は「保護ガラスの汚れの程度」に、それぞれ相当する。してみると、甲1発明1における「フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値から第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度を監視」する点は、「散乱光検出器よりの検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、程度を検知」する限りにおいて、本件特許発明1における「散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」する点と共通する。 また、甲1発明1における「第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要を評価するマイクロコントローラ23」は、その作用・機能からみて、本件特許発明1における「保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路」に相当する。 (イ)上記(ア)からみて、本件特許発明1と甲1発明1とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。 <一致点> 「レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知システムであって、 前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出するための散乱光検出器と、 前記散乱光検出器よりの検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、程度を検知して、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路と、を有する保護ガラス汚れ検知システム。」 <相違点1> 本件特許発明1においては、「散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存する」のに対し、甲1発明1においては、「散乱光検出器よりの検出値」に相当する「フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値」を「時間データ」と共に「保存」しているか、不明である点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」するのに対し、甲1発明1においては、「検出値」に相当する「散乱光の輝度、散乱光値」から、「保護ガラスの汚れの種類」に相当する「第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)」、「保護ガラスの汚れの程度」に相当する「第2の保護ガラス4の汚染度」を検知(監視)するものの、「検出値および時間データ」から「保護ガラスの汚れの種類、時期、程度」を検知(監視)しているとはいえない点。 エ 小括 上記ウのとおり、本件特許発明1と甲1発明1との間には、相違点が存在することから、本件特許発明1は甲1発明1であるとはいえない。 (2)本件特許発明2 ア 本件特許発明2の認定 本件特許発明2は、上記第3の【請求項2】に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 イ 甲1発明2の認定 甲1には、上記(1)イ(ウ)にて認定した甲1発明1のほか、上記(1)イ(ア)にて摘記した段落【0029】の記載からみて、次の技術的事項も記載されているといえる。 「マイクロコントローラ23よりの判定結果に基づいて、第2の保護ガラスの交換や浄化の必要を表示する光バーグラフ表示器を有すること。」(以下、甲1発明1と当該技術的事項とをあわせて「甲1発明2」という。) ウ 本件特許発明2と甲1発明2との対比 本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると、上記(1)ウ(ア)の相当関係のほか、甲1発明2における「マイクロコントローラ23よりの判定結果に基づいて、第2の保護ガラスの交換や浄化の必要を表示する光バーグラフ表示器を有する」点は、本件特許発明2における「汚れ検知回路よりの判定結果に基づいて、保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する表示手段を有する」点に相当するといえる。 しかしながら、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであることから、本件特許発明2と甲1発明2との間には、上記(1)ウ(イ)に示した相違点1〜2が存在する。 エ 小括 上記ウのとおり、本件特許発明2と甲1発明2との間には、相違点が存在することから、本件特許発明2は甲1発明2であるとはいえない。 (3)本件特許発明7 ア 本件特許発明7の認定 本件特許発明7は、上記第3の【請求項7】に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 イ 甲1発明7の認定 甲1には、上記(1)イ(ア)及び(イ)の事項からみて、本件特許発明7の発明特定事項に合わせて整理すると、次の発明(以下「甲1発明7」という。)が記載されているといえる。 「レーザ加工機械において、レーザビーム8を集束させて工作物に当てるための集束レンズを、レーザ加工により工作物から飛んでくるスパッタ9又は煙12による汚染から保護するための第2の保護ガラス4の汚染を監視する監視装置1による方法であって、 (a)フォトダイオード15,16により、第2の保護ガラス4に堆積したスパッタ9又は煙12による汚染によって生じる散乱光10,13を検出する工程と、 (b)フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値から第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度を監視する工程と、 (c)汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度から第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要を評価する工程と、を有する監視装置1による方法。」 ウ 本件特許発明7と甲1発明7との対比 本件特許発明7と甲1発明7とを対比すると、実質的に上記(1)ウ(ア)の相当関係を有するものの、「(b)検知する工程」に関して、実質的に上記(1)ウ(イ)に示した相違点1〜2と同様の相違点が存在する。 エ 小括 上記ウのとおり、本件特許発明7と甲1発明7との間には、相違点が存在することから、本件特許発明7は甲1発明7であるとはいえない。 (4) 本件特許発明8 ア 本件特許発明8の認定 本件特許発明8は、本件訂正により、上記第3の【請求項8】に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 イ 甲1発明8 甲1には、上記(3)イにて認定した甲1発明7のほか、上記(1)イ(ア)にて摘記した段落【0029】の記載からみて、次の技術的事項も記載されているといえる。 「(d)第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要の評価結果に基づいて、第2の保護ガラスの交換や浄化の必要を表示する工程を有すること。」(以下、甲1発明7と当該技術的事項とをあわせて「甲1発明8」という。) ウ 本件特許発明8と甲1発明8との対比 本件特許発明8と甲1発明8とを対比すると、甲1発明8における「第2の保護ガラス4の交換や浄化の必要の評価結果に基づいて、第2の保護ガラスの交換や浄化の必要を表示する工程を有する」点は、本件特許発明8における「前記保護ガラスの交換や清掃の必要の判定結果に基づいて、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する工程を有する」点に相当する、といえる。 しかしながら、本件特許発明8は、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであることから、本件特許発明8と甲1発明8との間には、少なくとも上記(3)ウと同様に、実質的に上記(1)ウ(イ)に示した相違点1〜2と同様の相違点が存在する。 エ 小括 上記ウのとおり、本件特許発明8と甲1発明8との間には、相違点が存在することから、本件特許発明8は甲1発明8であるとはいえない。 (5)取消理由1のまとめ 上記(1)〜(4)のとおり、本件特許発明1〜2、7〜8は、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、取消理由1により請求項1〜2、7〜8に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由2(進歩性)について (1)本件特許発明1 ア 本件特許発明1と甲1発明1との対比 上記1(1)アにて認定した本件特許発明1と、上記1(1)イ(ウ)で認定した甲1発明1とを対比すると、上記1(1)ウ(イ)にて示した一致点及び以下の相違点1〜2(再掲)が存在する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存する」のに対し、甲1発明1においては、「散乱光検出器よりの検出値」に相当する「フォトダイオード15,16にて検知される散乱光の輝度、散乱光値」を「時間データ」と共に「保存」しているか、不明である点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」するのに対し、甲1発明1においては、「検出値」に相当する「散乱光の輝度、散乱光値」から、「保護ガラスの汚れの種類」に相当する「第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)」、「保護ガラスの汚れの程度」に相当する「第2の保護ガラス4の汚染度」を検知(監視)するものの、「検出値および時間データ」から「保護ガラスの汚れの種類、時期、程度」を検知(監視)しているとはいえない点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2から検討する。 (ア)相違点2に関して、本件特許発明1においては、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知する」と発明が特定され、特に、本件特許発明1は「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点を発明特定事項として含むものである。 この点に関し、本件特許発明が解決しようとする課題は「従来の汚れ検知システムでは、何時、どのような種類の汚れが、どの程度付着したか判らず、そのため、清掃で済むのか、新品に交換する必要があるのか判断できない欠点があった」(段落【0009】)ことであり、本件特許発明は「保護ガラスに付着した汚れの種類等を明確に判定して、保護ガラスの交換や清掃や継続使用等の適切な対処を行うことができるようにする保護ガラス汚れ検知システム及び方法を提供すること」(段落【0010】)を目的とするものである。 そして、本件明細書等の段落【0052】〜【0055】に以下のとおり記載されるように、本件特許発明は、検出値Xおよび時間データに基づいて、保護ガラス25に付着した汚れの種類がスパッタなのか、金属ヒュームなのかを判断可能としたものである。 「【0052】 そして、ステップ109において、演算部33bにより、メモリ33aよりの検出値Xおよび時間データに基づいて、検出値Xの変化量ΔX(微分値)が計算される。 【0053】 すなわち、所定期間(例えば、100msec〜200msec)における検出値X(散乱光量)の変化量ΔX(微分値)が計算される。 【0054】 これは、検出値X(散乱光量)の変化量ΔXにより、保護ガラス25に付着した汚れの種類や程度等が判断できるためである。 【0055】 すなわち、図6(a)に示すように、保護ガラス25にスパッタが付着した場合は、検出値Xは急激に高くなり、一方、図6(b)に示すように、保護ガラス25に金属ヒュームが付着した場合は、検出値Xが緩やかに高くなる。よって、検出値Xの変化量ΔXである微分波形を求めることにより、保護ガラス25に付着した汚れが何かを判断することができる。」 (イ)一方、本件特許発明1における「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点に関して、甲1発明1は「散乱光の輝度、散乱光値から第2の保護ガラス4の汚染の種類(スパッタ,煙)、汚染度を監視」するもの、いいかえれば「検出値から保護ガラスの汚れの種類を検知」することに相当するものではあるが、「検出値および時間データ」から検知するものであるとはいえない。 すなわち、甲1発明1においては、「汚染の種類(スパッタ,煙)」は、上記1(1)イ(ア)にて摘記した段落【0019】〜【0024】及び図1からわかるように、「スパッタ」及び「煙」(本件特許発明1における「金属ヒューム」に相当)を、 a スパッタ監視:第2保護ガラス4の保護ガラスエッジ11において、散乱光10を、ガラスプラグ7を介してフォトダイオード16で検出し、対数化手段22にて処理のうえ、マイクロコントローラ23にて評価。 b 煙監視:第2保護ガラス4の上の第1保護ガラス3と第2保護ガラス4との間の中間スペース14において、散乱光13を、ガラスプラグ6を介してフォトダイオード15で検出し、対数化手段21にて処理のうえ、マイクロコントローラ23にて評価。 するものである。すなわち、第2保護ガラス4の保護ガラスエッジ11又は第1保護ガラス3と第2保護ガラス4との間の中間スペース14という異なる位置に設けられたセンサであるフォトダイオード15、16からの検出値をそれぞれ処理することで、スパッタか煙かの汚れの種類を検知するものであるから、その種類の検知に「時間データ」を必要としないことは明らかである。 (ウ)また、取消理由通知書で引用された甲3には、以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本願発明は、レーザ装置の不具合診断方法および不具合障修理方法並びにこれらの方法を実現するプログラムに係り、特に光学部品の劣化等に起因するレーザ装置の不具合を自動的に診断および修理する方法に関する。ここで、レーザ装置とは、医療分野で患部の治療や手術等に用いられるレーザ治療装置や工業分野で素材の加工等に用いられるレーザ加工装置等のように、レーザビームを使用して治療、加工等を実施する装置を広く表す用語として用いるものとする。また、不具合とは、レーザ装置内の光学部品等の構成部品に発生する故障や劣化等で、当該構成部品が本来予定されている機能を実行できなくなっている事象全体を表す用語として用いるものとする。 ・・・ 【0036】 推論制御ユニット57は、散乱光計測器54から出力される散乱光強度信号や出力光強度計測器56から出力される出力光強度信号をはじめとして、各種センサから動作データに係る各種信号を入力する。また、推論制御ユニット57は、これらの動作データに基づいて、光学部品に発生している不具合の程度を予測し、予測される不具合の程度に応じて必要とされる保守作業を判定する。判定の結果、光学部品51に不具合が発生していて光学部品51を修理する必要がある場合には、自動修復ユニット58に制御信号を出力する。自動修復ユニット58は、制御信号に応じて、光学部品51を修理するように動作する。 ・・・ 【0038】 散乱光の発生が上述のどの要因に基づいていても、レーザ発振に関与する光学部品の表面状態が変化すると、レーザビームに損失が生じるとともに、最悪の場合にはレーザ発振が停止する。また、上述の要因に基づいて膜特性が変化してレーザビームの吸収率が増大すると、当該劣化部分が発熱源となって光学部品が焼損する可能性がある。このような光学部品の劣化については、その進行に伴って散乱光が増加することが予想されるので、光学部品近傍の散乱光を計測することで、光学部品の劣化の進行程度を予測することが可能となる。 【0039】 次に、光学部品の不具合の程度に係る予測方法について説明する。第1の予測方法によれば、レーザ装置の所定の運転環境下において予測される散乱光強度等の動作データの経時変化を示すデータを参照することで不具合の程度を予測する。図5は、光学部品から発生する散乱光の経時変化を示す図である。出荷時において強度S1の散乱光を発生する光学部品に対して同一強度のレーザビームを継続的に照射した場合に、時間が経過するにつれて光学部品の劣化の進行に起因する表面状態の変化により、当該光学部品から発生する散乱光の強度は増大する。散乱光の強度がS2までは正常状態にあると判定されるが、散乱光の強度がS3を超えると故障が発生していると判定される。なお、このような基準となる強度S2,S3等は、例えば実験データに基づいて定められる。 ・・・ 【0043】 本願発明では、レーザ装置の運転環境を規定する動作パラメータをユーザが任意に設定できるシステムを想定しており、設定された動作パラメータにより規定されるレーザ装置の運転環境下において予測される当該動作データの経時変化を示すデータを、上記のように検索または生成するものとする。なお、動作データの経時変化データを用いることで、検出された動作データに基づいて予測される不具合の程度の確からしさを当該光学部品の使用時間に基づいて検証することが可能であり、突発的な要因に基づく誤った予測を防止することができる。 ・・・ 【0055】 レーザ装置の運転環境が設定されると、レーザ装置が動作中であるか否かを判定する(ステップS2)。レーザ装置が動作中でない場合には、この判定ステップを繰り返す。すなわち、レーザ装置が動作中であると判定されるまで、次の工程に移行するのを待機する。レーザ装置が動作中であると判定されると、レーザ装置内に取り付けられた各種のセンサから取得する動作データをメモリ10に蓄積する(ステップS3)。 【0056】 レーザ装置に係る動作データが記憶されると、MPU9は、メモリ10に蓄積された散乱光強度等の動作データを基にして、経時変化データを参照すること、あるいはファジイ推論を実行することにより、光学部品の不具合の程度を予測する。・・・」 「【図5】 」 これらの記載事項から、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。 「レーザ加工装置において、光学部品51の不具合を検知する装置であって、 光学部品の不具合によって生じる散乱光を検出するための散乱光計測器54と、 散乱光計測器54よりの検出値及び時間データから光学部品の不具合の時期、程度を検知する推論制御ユニット57と、を有すること。」 しかしながら、甲3には、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については記載も示唆もない。 (エ)してみると、仮に、異なる位置に設けられたセンサのそれぞれの検出値のみに基づき汚れの種類を検知する甲1発明1に、そもそも汚れの種類を検知することのない甲3記載の技術を適用したとしても、上記相違点2に係る本件特許発明1のうち、特に「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については、当業者といえども容易に想到し得たことということはできない。 ウ 小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 (2)本件特許発明2 上記1(2)アにて認定した本件特許発明2と、上記1(2)イにて認定した甲1発明2とを対比すると、上記1(2)ウのとおり、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであることから、本件特許発明2と甲1発明2との間には、上記(1)アに示した相違点1〜2が存在する。 そして、本件特許発明1が上記(1)イ、ウのとおり、甲1発明1及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできない以上、本件特許発明2についても同様に、甲1発明2及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 (3)本件特許発明7 上記1(3)アにて認定した本件特許発明7と、上記1(3)イにて認定した甲1発明7とを対比すると、上記1(3)ウのとおり、「(b)検知する工程」に関して、実質的に上記(1)アに示した相違点1〜2と同様の相違点が存在する。 そして、同様の相違点を有する本件特許発明1が上記(1)イ、ウのとおり、甲1発明1及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできない以上、本件特許発明7についても同様に、甲1発明7及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 (4) 本件特許発明8 上記1(4)アにて認定した本件特許発明8と、上記1(4)イにて認定した甲1発明8とを対比すると、上記1(4)ウのとおり、本件特許発明8は、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであることから、本件特許発明8と甲1発明8との間には、少なくとも上記(3)と同様に、実質的に上記(1)アに示した相違点1〜2と同様の相違点が存在する。 そして、本件特許発明7が上記(3)のとおり、甲1発明1及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできない以上、本件特許発明8についても同様に、甲1発明8及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。 (5)申立人の主張について 申立人は、申立人意見書の3のイの(イ−2)において、「検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」に関して、以下の旨を主張する。 ア 甲3の段落【0039】、【0043】、【0056】の記載から、甲3記載の技術は、動作データの経時変化データに基づいて光学部品の不具合の程度を予測可能なことがわかる。 イ 甲1には、前記フォトダイオード15、16、19で検出された散乱光の輝度に基づいて、前記第2保護ガラス4の汚染度と汚染の種類の時期を検出する発明が記載されている。 ウ そうすると、本件特許発明1のうち「検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知」については、当業者であれば甲1及び甲3に記載されている事項から容易に導き出すことができる。 しかしながら、上記(1)〜(4)において、上記アの甲3の記載、及び上記イの甲1に記載されている発明の内容を含めて本件特許発明1の容易想到性を既に検討しており、上記相違点2に係る本件特許発明1のうち、特に「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については、当業者といえども甲1及び甲3に記載されている事項から、容易に想到し得たことということはできない。 (6)取消理由2のまとめ 上記(1)〜(4)のとおり、本件特許発明1〜2、7〜8は、甲1及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであり、特許法第29条第2項の規定に違反していないから、取消理由2により請求項1〜2、7〜8に係る特許を取り消すことはできない。 第6 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立ての理由について 1 申立書における申立ての理由 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許発明1〜2、7〜8に対して、甲1及び甲3とともに以下の証拠を挙げ、上記第1の1にて検討した取消理由1(新規性)のほか、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載の発明若しくは周知技術を適用して、本件特許発明1〜2、7〜8を想到することは、当業者にとって容易であるとして、特許法第29条第2項違反(同法第113条第1項第2号)を理由として、特許異議の申立てをしている。 <証拠方法> 甲第1号証:特許第4651001号公報(甲1) 甲第2号証:特表2001−509889号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2006−324557号公報(甲3) 甲第4号証:MTA(Manufacturing Technologies Association)Newsページ, 「Inclusion of RFID lens enhances TRUMPF LensLine sensor system」(以下「甲4」という。) 甲第5号証:TruServices Journal 01|13, P.14(以下「甲5」という。) <取消理由通知にて採用しなかった申立ての理由> (1)本件特許発明1、7に対して ア 甲1に記載の発明に、甲2記載の発明を適用して、本件特許発明1、7を想到することは、当業者にとって容易である(申立書19〜20、24〜25ページ)。 イ 甲1に記載の発明に、甲2〜3記載の周知技術を適用して、本件特許発明1、7を想到することは、当業者にとって容易である(申立書20〜21、25ページ)。 (2)本件特許発明2、8に対して ア 甲1に記載の発明に、甲2記載の発明を適用して、本件特許発明2、8を想到することは、当業者にとって容易である(申立書22、26ページ)。 イ 甲1に記載の発明に、甲2〜3記載の周知技術、及び、甲4〜5記載の周知技術を適用して、本件特許発明2、8を想到することは、当業者にとって容易である(申立書22〜23、26ページ)。 ここで、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであることから、以下では、まず、本件特許発明1及び7について、上記第5の2の取消理由2の判断において検討していない甲2記載の技術的事項、及び、甲2〜3の記載から特定できる周知技術から、上記第5の2(1)イにて検討した「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点を導き出すことができるかを確認のうえ、甲1発明1又は甲1発明7に適用することで本件特許発明1又は本件特許発明7を想到し得たかについて判断し、そのうえで、本件特許発明2及び8について、検討する。 2 甲2記載の技術的事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 (1)「1.機械加工レーザービーム、又は機械加工レーザービームと同軸である他の放射線が保護ガラス(3)を通過するように配置されているレーザー機械加工システムにおいてレーザー光学素子と加工物の間に配置される保護ガラス(3)の状態を検査するための方法において、保護ガラス(3)上に固定された塵埃粒子によって保護ガラス(3)の縁(9)に散乱された放射線を感知するために保護ガラス(3)の縁(9)と接続して光検出器(8)を配置することを特徴とする方法。 ・・・ 3. 機械加工レーザービーム、又は機械加工レーザービームと同軸である他の放射線が保護ガラス(3)を通過するように配置されているレーザー機械加工システムにおいてレーザー光学素子と加工物の間に配置される保護ガラス(3)の状態を検査するための装置において、保護ガラス(3)上に固定された塵埃粒子(5)によって散乱された放射線を感知するための光検出器(8)を含み、それが保護ガラス(3)の縁(9)に到達していることを特徴とする装置。」(特許請求の範囲、請求項1、3) (2)「本発明は機械加工レーザービーム、又は他の実質的に同軸の放射線が加工物に焦点を合わせる前に保護ガラスを通過するように配置されているレーザー機械加工システムにおいてレーザー光学素子と加工物の間に配置される保護ガラスの状態を検査するための方法及び装置に関する。」(第4ページ第4〜7行) (3)「機械加工工程中、かかる保護ガラスは加工物から取れた粒子によって段々と汚くなり、ガラスを通過するレーザービームの効果が損われ、結果として機械加工工程も損われる。入射レーザー放射線の幾らかはガラス表面上に収集された塵埃粒子によって吸収及び散乱される。散乱された放射線の一部は保護ガラス壁によって収集され、ガラスプレートの周囲部分に向けられる。ガラス表面上の塵埃粒子が多くなると、入射レーザービームの散乱が大きくなる。」(第4ページ第13〜18行) (4)「図1において、加工物2上に入射レーザー放射線を集中するレンズ1によって表された焦点合わせ光学配置が概略的に示されている。それは溶接システム、SE9403349−5に示されたものの如き彫刻システム、切断システム又は他のレーザー機械加工システムであることができる。全てのかかる機械加工システムにおいて塵埃粒子は機械加工工程中に加工物から生成される。かかる粒子が焦点合わせ光学素子に入ることを防ぐために、保護ガラス3は加工物2と焦点合わせレンズ1の間に与えられる。」(第5ページ18〜24行) (5)「図2は図1のものと同じ配置を示すが、入射レーザー放射線6を散乱する塵埃粒子又は他の混入物に関して保護ガラス3の状態を検査するための手段を含む。図においてガラス表面上に固定された粒子5がどのようにして散乱光7を発生するかが示されている。この散乱光は保護ガラスの壁に部分的に収集され、保護ガラス装置の外周、即ち図の縁側9に向けられる。」(第6ページ第4〜8行) (6)「光検出器8は縁上の散乱光(その光は保護ガラス上の塵埃層の徴候である)が検出されるように縁9に向けられた感光性表面を伴って位置される。光検出器は保護ガラス表面上の粒子によって散乱される放射線の量を検出する。検出信号があるレベルに到達すると、それは保護ガラスを交換する時期であることを表示することができる。」(第6ページ第9〜13行) (7)「散乱され検出された光が基準レベルの100倍のレベルに到達したとき、保護ガラスはなお使用されるが、明らかに汚れている。散乱光が基準レベルの1000倍のレベルに到達したとき、保護ガラスは極めて汚れているので交換されるべきである。」(第6ページ第22〜25行) (8)図2 「 」 上記(1)〜(8)から、甲2には以下の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。 「レーザ機械加工システムにおいて、入射レーザビーム6を集光させて加工物2に照射するためのレンズ1を、レーザ加工により加工物2から飛んでくる粒子5から防ぐための保護ガラス3の汚れの状態を検査するための装置又は方法であって、 保護ガラス3に付着した粒子5によって生じる散乱光7を検出するための光検出器8と、 光検出器8よりの検出値から保護ガラス3の汚れが基準の100倍のレベルに達したときを検知して、保護ガラス3の交換の必要を判定する回路と、を有すること。」 他方、甲2には、「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については記載も示唆もない。 3 甲2〜3から導き出すことのできる周知技術について 「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」事項については、上記2で検討したとおり甲2に記載も示唆もないほか、上記第5の2(1)イ(ウ)のとおり、甲3にも記載も示唆もないことから、当該事項については、甲2〜3から周知技術であった、ということはできない。 4 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、上記第5の2(1)アに示した相違点1〜2が存在するところ、特に相違点2のうち「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については、上記2のとおり甲2に記載も示唆もなく、甲1発明1に甲2記載の技術的事項を適用したとしても、本特許発明1に至らないことから、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明1及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 また、申立人は、「保護ガラスの汚れの時期を検知する技術、すなわち、光学部品の劣化の時期を検知する技術」は、甲2及び甲3にも記載されている周知技術である旨の主張(申立書21ページ)をするが、上記3で検討したとおり、相違点2のうち「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」事項は甲2及び甲3に記載も示唆もされていないことから、当該周知技術は上記相違点2を充足しておらず、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲2〜3に記載の周知技術に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 5 本件特許発明7について 本件特許発明7と甲1発明7とを対比すると、上記相違点1〜2と同等の相違点が存在するところ、特に相違点2のうち「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」点については、上記2のとおり甲2に記載も示唆もなく、甲1発明7に甲2記載の技術的事項を適用したとしても、本特許発明7に至らないことから、本件特許発明7は、他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明7及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 また、申立人は、「保護ガラスの汚れの時期を検知する技術、すなわち、光学部品の劣化の時期を検知する技術」は、甲2及び甲3にも記載されている周知技術である旨の主張(申立書21ページ)をするが、上記3で検討したとおり、相違点2のうち「検出値および時間データから保護ガラスの汚れの種類を検知する」事項は甲2及び甲3に記載も示唆もされていないことから、当該周知技術は上記相違点2を充足しておらず、本件特許発明7は、甲1発明7及び甲2〜3に記載の周知技術に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 6 本件特許発明2、8について 本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであり、本件特許発明8は、本件特許発明7の発明特定事項を全て有するものであることから、甲4〜5記載の技術的事項を検討するまでもなく、上記4及び5と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 7 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立ての理由についてのまとめ 上記2〜6のとおり、本件特許発明1〜2、7〜8は、上記1の申立ての理由に示された証拠から容易想到ということはできないものであって、特許法第29条第2項の規定に違反しておらず、請求項1〜2、7〜8に係る特許を取り消すことができない。 第7 むすび 以上のとおり、本件の請求項1〜2、7〜8に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由、又は、特許異議申立書に記載された申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。 また、本件の請求項1〜2、7〜8に係る特許を取り消すべき他の理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知システムであって、 前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出するための散乱光検出器と、 前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するとともに、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知して、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する汚れ検知回路と、を有することを特徴とする保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項2】 前記保護ガラス汚れ検知システムが、さらに、前記汚れ検知回路よりの判定結果に基づいて、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1に記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項3】 前記汚れ検知回路が、前記散乱光検出器よりの検出値を微分した変化量を求め、その変化量および前記検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知することを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項4】 前記汚れ検知回路が、前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存するメモリと、前記メモリよりの検出値および時間データに基づいて、前記検出値の微分値からなる変化量を計算する演算部と、前記演算部よりの検出値変化量に基づいて、汚れ付着無しの正常状態かスパッタ付着状態か金属ヒューム付着状態かを判定する汚れ判定部と、前記汚れ判定部よりの判定結果および前記メモリよりの検出値に基づいて、前記保護ガラスの交換か前記保護ガラスの清掃か前記保護ガラスの継続使用かを判定する保護ガラスの交換判定部と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項5】 前記汚れ判定部は、前記演算部よりの検出値変化量を所定の判定閾値と比較し、前記検出値変化量が前記判定閾値より大きい場合、スパッタ付着状態と判定し、前記検出値変化量が前記判定閾値より小さい場合、金属ヒューム付着状態と判定することを特徴とする請求項4に記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項6】 前記保護ガラスが、前記集光レンズと前記被加工物との間に設けられ、前記散乱光検出器が、前記保護ガラスの端面からの散乱光を受光することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知システム。 【請求項7】 レーザ加工機において、レーザ光を集光させて被加工物に照射するための集光レンズを、レーザ加工により前記被加工物から飛んでくる汚れから保護するための保護ガラスの汚れを検知する保護ガラス汚れ検知方法であって、 (a)散乱光検出器により、前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出する工程と、 (b)前記散乱光検出器よりの検出値を時間データと共に保存し、前記検出値および時間データから前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知する工程と、 (c)前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度から前記保護ガラスの交換や清掃の必要を判定する工程と、を有することを特徴とする保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項8】 前記保護ガラス汚れ検知方法が、さらに、(d)前記保護ガラスの交換や清掃の必要の判定結果に基づいて、前記保護ガラスの交換や清掃の必要を表示する工程を有することを特徴とする請求項7に記載の保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項9】 前記工程(b)が、前記散乱光検出器よりの検出値を微分した変化量を求め、その変化量および前記検出値から前記保護ガラスの汚れの種類、時期、程度を検知することを特徴とする請求項7および8のいずれかに記載の保護ガラス汚れ検知方法。 【請求項10】 レーザ加工ヘッドに搭載される保護ガラスの汚れを検出する汚れ検出システムであって、 前記保護ガラスに付着した汚れによって生じる散乱光を検出する散乱光検出器と、 前記散乱光検出器の出力値に基づいて、前記保護ガラスの汚れの種類を検出する汚れ種類検出回路と、を有し、 前記汚れ種類検出回路は、所定時間内における、前記散乱光検出器の出力値の変動量に基づいて汚れの原因がスパッタであるか金属ヒュームであるかを識別する汚れ検出システム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-12-28 |
出願番号 | P2017-187986 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(B23K)
P 1 652・ 841- YAA (B23K) P 1 652・ 121- YAA (B23K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
見目 省二 |
特許庁審判官 |
鈴木 貴雄 田々井 正吾 |
登録日 | 2021-11-24 |
登録番号 | 6982450 |
権利者 | 株式会社アマダ |
発明の名称 | 保護ガラス汚れ検知システム及び方法 |
代理人 | 高橋 俊一 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 廣▼瀬 文雄 |
代理人 | ▲廣▼瀬 文雄 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 高松 俊雄 |
代理人 | 伊藤 正和 |
代理人 | 高松 俊雄 |
代理人 | 高橋 俊一 |
代理人 | 伊藤 正和 |