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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12G 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C12G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G |
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管理番号 | 1395239 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-09-07 |
確定日 | 2023-02-14 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第7033500号発明「アルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7033500号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7033500号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、 平成30年 5月29日に出願され、 令和 4年 3月 2日にその特許権の設定登録がされ、 令和 4年 3月10日に特許掲載公報が発行された。 その後、当該特許に対し、 令和 4年 9月 7日に副島朋子(以下、「特許異議申立人1」という。)が、 令和 4年 9月 8日に新井誠一(以下、「特許異議申立人2」という。)が、それぞれ、全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申し立てを行い、 令和 4年11月 4日付けで取消理由が通知され、 令和 5年 1月 6日に特許権者による意見書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 特許第7033500号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリンを含有するアルコール飲料。 【請求項2】 15〜50ppmのリモネンを含有する、請求項1に記載のアルコール飲料。 【請求項3】 アルコール含有量が1〜15v/v%である、請求項1または2に記載のアルコール飲料。 【請求項4】 p−クレゾール/エリオシトリンの重量比が0.0060以下となるようにp−クレゾールを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のアルコール飲料。 【請求項5】 柑橘類の果汁を含有しないか、又は柑橘類果汁の配合量がストレート果汁換算で5%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の飲料。 【請求項6】 10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する方法であって、 飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む、上記方法。 第3 特許異議申立理由の概要 1.特許異議申立人1の異議申立理由 特許異議申立人1は、本件特許に対する異議申立理由として、下記(1)〜(4)を主張し、(5)の証拠方法を提出した。 (1)申立理由1−1(甲第1−1号証で特定される公然実施) 本件特許の請求項1、3、5ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、甲第1−1号証で特定される公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、5ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由1−2(甲第1−1号証で特定される公然実施発明に基づく進歩性) 本件特許の請求項1、3、5ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、甲第1−1号証で特定される公然実施をされた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、5ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由1−3(甲第1−2号証の1で特定される公然実施) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、甲第1−2号証の1で特定される公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由1−4(甲第1−2号証の1で特定される公然実施発明に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、甲第1−2号証の1で特定される公然実施をされた発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)証拠方法 甲第1−1号証:「タカラCANチューハイ「直搾り」リニューアル新発売 基本フレーバー全8種の味わい・デザインを一新」宝酒造株式会社ウェブサイト、2010年3月5日掲載、URL:https://www.takarashuzo.co.jp/news/2010/09-s-051.html 甲第1−2号証の1:「「収穫後24時間以内搾汁」・「アサヒフレッシュキープ製法」徹底的に新鮮!「アサヒもぎたて」登場〜アサヒビールのRTD史上最大規模「50万人サンプリング」実施〜」アサヒビール株式会社ウェブサイト、2016年2月18日掲載、URL:https://www.asahibeer.co.jp/news/2016/0218.html 甲第1−2号証の2:「飲みやすさ想像以上!アサヒ もぎたて新鮮レモンのレビューです。」インターネットウェブサイト、2016年7月5日掲載、URL:bookspublisies.com/monomaga/お酒/アサヒ-もぎたて新鮮レモン 甲第1−2号証の3:「コダワリの女のひとりごと 4月5日新発売『アサヒもぎたて』プレス発表会に行って来ました♪」インターネットウェブサイト、2016年4月6日掲載、URL:https:.//blog.goo.ne.jp/fuekitty/e/b153287540384a3ba0b5f4e23b3f9623 甲第1−3号証:Terence Radford,Kaoru Kawashima,Paul K.Friedel,Lary E.Pope,and Maurizio A.Gianturco,“Distribution of volatile compounds between the pulp and serum of some fruits juices”,J.Agric.Food Chem.1974,Vol.22,No.6,1066-1070 甲第1−4号証:Siqiong Zhong,Jingnan Ren,Dewen Chen,Siyi Pan,Kexing Wang,Shuzhen Yang,Gang Fan,“Free and Bound Volatile Compounds in Juice and Peel of Eureka Lemon”,Food Science and Technology Research,20(1),167-174,2014 甲第1−5号証:Filiz Ucan,Erdal Agcam,Asiye Akyildiz,“Bioactive compounds and quality parameters of natural cloudy lemon juices”,J.Food Sci Technol(March 2016) 53(3):1465-1474 甲第1−6号証:Yoshiaki MIYAKE,Kanefumi YAMAMOTO,Toshihiko OSAWA,“Isolation of Eriocitrin(Eriodictyol 7-rutinoside)from Lemon Fruit(Citrus limon BURM.F.)and Its Antioxidative Activity”,Food Sci.Technol.Int.Tokyo.3(1),84-89,1997 甲第1−7号証の1:Segawa,M.,Mizutani,K.,Suzuki,T.,Wada,K.,Nishizuka,T.,Higuchi,S.,Nishitani,I.,and Ito,Y.,“8.New Technologies for development of citrus-based ready-to-drink(RTD) alcoholic beverages that maintain freshness”,2017 ASBC Annual Meeting,June 4-7,Technical Session 3:Analytical Flavors,Monday,June 05,2017,8:30-10:15 a.m.,URL:https://www.asbcnet.org/events/archives/2017ASBCMMeeting/proceedings/Pages/8.aspx 甲第1−7号証の2:Mutsumi Sagawa,Kohei Mizutani,Tamami Suzuki,Kanako Wada,Taichi Nishizuka,Seiichi Higuchi,Itsuo Nishitani and Yoshinori Ito(Asahi Breweries,Ltd.,Development Laboratories for Alcoholic Beverages),“New Technologies for development of citrus-based ready-to-drink(RTD) alcoholic beverages that maintain freshness”,2017 ASBC Annual Meeting,June 4-7,URL:https://www.asbcnet.org/events/archives/2017ASBCMeeting/proceedings/2017proceedings/8_Segawa.pdf なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1−1」のようにいう。 2.特許異議申立人2の異議申立理由 特許異議申立人2は、本件特許に対する異議申立理由として、下記(1)〜(9)を主張し、(10)の証拠方法を提出した。 (1)申立理由2−1(甲第2−1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2−1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2−2(甲第2−2号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2−2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由2−3(甲第2−2号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2−2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由2−4(甲第2−3号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2−3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由2−5(甲第2−8号証の1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2−8号証の1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (6)申立理由2−6(サポート要件1 アルコール含有量下限値について) 本件特許の請求項1ないし6の記載は、次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・「ピリピリとした後味の刺激の強さ」に関して、アルコール含有量0v/v%ではリモネンの含有量が増えても「±」となっているのであるから、その課題が存在していない。一方で、アルコール含有量5v/v%以上となる場合に、「ピリピリとした後味の刺激の強さ」が「+」となることが示されているのであるから、アルコール含有量の下限値は5v/v%以上とする必要がある。 (7)申立理由2−7(サポート要件2 エリオシトリン含有量下限値について) 本件特許の請求項1ないし6の記載は、次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許明細書の実験結果からすると、アルコール含有量10v/v%以上において、エリオシトリンを10ppm以上で含有することが必要であり、アルコール含有量5v/v%以上10v/v%未満において、エリオシトリンを7ppm以上で含有する必要がある。このため、あらゆるアルコール含有量において、エリオシトリンの下限値を5ppmと設定している本件特許発明は課題を解決し得ない態様を含んでいる。 (8)申立理由2−8(サポート要件3 p−クレゾールについて) 本件特許の請求項1ないし6の記載は、次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・p−クレゾールを含有する態様では、「ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供する」態様を提供できていない。p−クレゾールが含まれることを除外していない本件特許発明は課題を解決しない態様を含んでいる。 (9)申立理由2−9(サポート要件4 果汁の含有について) 本件特許の請求項1ないし6の記載は、次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・実施例で示されているのは、果汁を含有していないもののみであり、果汁を含有する態様まで一般化することはできない。よって、果汁を含有する態様を除外していない本件特許発明は効果を確認できない態様を含んでいる。 (10)証拠方法 甲第2−1号証:J.Agric.Food Chem.2003,51,4978-4983 甲第2−2号証:国際公開第2006/009252号 甲第2−3号証:国際公開第2016/114276号 甲第2−4号証:特開2001−61461号公報 甲第2−5号証の1:レモンチェッロとエルダーフラワーカクテル、https://cookpad.com/recipe/4731210 甲第2−5号証の2:すだちでレモンチェッロのサワーカクテル レシピ・作り方、https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1230013452/ 甲第2−6号証:特開2012−239427号公報 甲第2−7号証の1:Takara Gokujo Lemon Sour、記録番号(ID♯):5639925 甲第2−7号証の2:Kirin Honshibori、記録番号(ID♯):3974311 甲第2−7号証の3:Sapporo Chelate Lemon、記録番号(ID♯):4324061 甲第2−7号証の4:Shunka Shibori、記録番号(ID♯):276115 甲第2−7号証の5:Suntory Kokushibori、記録番号(ID♯):4754959 甲第2−8号証の1:特開2017−86059号公報 甲第2−8号証の2:特開2017−169532号公報 甲第2−8号証の3:特開2017−169541号公報 甲第2−8号証の4:特開2017−169542号公報 甲第2−8号証の5:特開2017−189143号公報 甲第2−8号証の6:特開2017−184691号公報 甲第2−8号証の7:特開2017−176107号公報 甲第2−8号証の8:特開2017−176108号公報 甲第2−8号証の9:特開2016−96756号公報 甲第2−9号証:Phytochemistry 62(2003)1283-1289 甲第2−10号証の1:国際公開第2019/131996号 甲第2−10号証の2:特開2017−184657号公報 甲第2−11号証:商品情報、https://products.suntory.co.jp/rtd/ingredient.html なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲2−1」のようにいう。 第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要 当審が令和4年11月4日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりであり、取消理由1(甲2−1に基づく進歩性)は、申立理由2−1(甲2−1に基づく進歩性)、取消理由2(サポート要件、果汁の含有について)は、申立理由2−9(サポート要件、果汁の含有について)、と同じである。 1 取消理由1(甲2−1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし3、5ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2−1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 取消理由2(サポート要件、果汁の含有について) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 第5 令和4年11月4日付けで特許権者に通知した取消理由についての当審の判断 当審は以下に述べるように、令和4年11月4日付で特許権者に通知した取消理由1及び取消理由2は、いずれもその理由がないと判断する。 1 取消理由1(甲2−1に基づく進歩性)について (1)甲2−1に記載された発明 甲2−1の記載、特に、リモンチェッロのサンプルNo.5からみて、甲2−1には次の発明(以下、「甲2−1発明A」、「甲2−1発明B」という。)が記載されていると認められる。 <甲2−1発明A> 「レモンの皮を95%エチルアルコールに2〜7日間注入し、エッセンシャルオイルやその他の皮の成分の抽出が行われ、これを砂糖シロップで希釈して得られた、リモネン含有量が553.0mg/L、エリオシトリン含有量が65.9mg/L、エタノール含有量が30v/v%であるリモンチェッロ飲料。」 <甲2−1発明B> 「リモネン含有量が553.0mg/L、エリオシトリン含有量が65.9mg/L、エタノール含有量が30v/v%であるリモンチェッロ飲料の飲用方法。」 (2)本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲2−1発明Aとを対比する。 甲2−1発明Aにおける「エタノール含有量が30v/v%であるリモンチェッロ飲料」は、本件特許発明1における「アルコール飲料」に相当する。 また、甲2−1発明Aの「mg/L」は本件特許発明1の「ppm」と同じ単位である。 そうすると、本件特許発明1と甲2−1発明Aの一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンとエリオシトリンを含有するアルコール飲料。」 <相違点2−1A> 本件特許発明1においては、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmであるのに対して、甲2−1発明Aにおいては、リモネンが553.0ppm、エリオシトリンが65.9ppmである点。 上記相違点2−1Aについて検討する。甲2−1発明Aのリモンチェッロはエタノール濃度が30v/v%程度のアルコール飲料であって、直接飲用されるか、または、適宜希釈されて飲用に供されるものであるが、甲2−1において、当該リモンチェッロを、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲になるように希釈されたアルコール飲料にすることについて、きっかけないし示唆となる記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−1発明Aにおいて、相違点2−1Aに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲2−1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2、3及び5についての対比・判断 本件特許発明2、3及び5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、甲2−1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明6についての対比・判断 本件特許発明6と甲2−1発明Bとを対比する。 甲2−1発明Bのリモンチェッロ飲料はエタノール濃度が30v/v%程度のアルコール飲料であるから、適宜希釈されて飲用されるものである。よって、甲2−1発明Bのリモンチェッロ飲料の飲用方法は、水で希釈するという工程を含む。 甲2−1発明Bの「リモンチェッロ飲料を」水で希釈する「飲用方法」は、水で希釈することにより、刺激成分が希釈されて刺激が抑制される構成を備えている。 したがって、甲2−1発明Bの「リモンチェッリ飲料を」水で希釈する「飲用方法」は、本件特許発明6の「味の刺激を抑制する方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明6と甲2−1発明Bとの一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンを含有するアルコール飲料において、味の刺激を抑制する方法であって、飲料中にエリオシトリンを含有させることを含む、上記方法。」 <相違点2−1B−1> 本件特許発明6においては、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmであるのに対して、甲2−1発明Bにおいては、リモネンを553.0ppm、エリオシトリンを65.9ppm含有するリモンチェッロ飲料を水で希釈した後のリモネンとエリオシトリンの含有量が特定されていない点。 <相違点2−1B−2> 本件特許発明6においては、「ピリピリとした後」味の刺激を抑制するとの特定を有するのに対し、甲2−1発明Bにはそのような特定はない点。 上記相違点2−1B−1について検討する。 甲2−1発明Bのリモンチェッロ飲料はエタノール濃度が30v/v%程度のアルコール飲料であって、直接飲用されるか、適宜希釈されて飲用されるものであるが、甲2−1において、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmとなる範囲で希釈して飲用することについて、きっかけないし示唆となる記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和し、飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−1発明Bにおいて、相違点2−1B−1に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲2−1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)取消理由1(甲2−1に基づく進歩性)についてのまとめ 取消理由1(甲2−1に基づく進歩性)は、その理由がない。 2.取消理由2(サポート要件、果汁の含有について) について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下に検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明者らは、アルコール飲料にリモネンを配合すると、リモネンとアルコールとによってピリピリとした味の刺激が特に強くなることを見出した。すなわち、柑橘類などの香味成分には独特のピリピリとした後味が感じられるものがあり、また、アルコール(エタノール)には、それ自体、刺激を有するものであるが、リモネンとアルコールが共存する場合、柑橘類の香味成分に起因するピリピリとした刺激が特に強く感じられることを見出した。 【0007】 しかし、これらのピリピリとした後味の刺激を低減するため柑橘類に由来する香味成分を単に除去すると、飲食品の香味に大きな影響を与えてしまい、その結果、飲食品自体の美味しさや柑橘系果実らしさが損なわれてしまう。 【0008】 このような状況に鑑み、本発明は、柑橘系果実の香味を有する飲食品の中でも、特にアルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、柑橘類の香味成分であるリモネンとアルコールとが共存した場合に特に強く感じられる後味の刺激について、それをマスキングする方法を鋭意研究した結果、特定の濃度のエリオシトリンを含有させることにより、上記課題が解決できることを見出した。」 「【0026】 本発明に係るアルコール飲料に柑橘果汁を配合する場合、その配合量は特に制限されないが、ストレート果汁換算で0.01〜30%とすることが好ましく、20%以下、10%以下、さらには5%以下としてもよい。果汁の種類も、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよい。また、混濁果汁であっても、透明果汁であってもよい。」 「【実施例】 【0042】 以下、具体的な実験例を示しつつ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。 【0043】 実験1:リモネンを含有するアルコール飲料の製造と評価 下表に基づいて、アルコール含有量が0〜15v/v%の飲料を製造した。具体的には、アルコール(ニュートラルスピリッツ、アルコール含有量:59v/v%)、リモネン(ナカライテスク、D−リモネン)を純水に順次添加して、容器詰飲料を製造した。」 「【0048】 実験2:リモネンを含有するアルコール飲料の製造と評価 実験1と同様にして、下表の配合で柑橘系アルコール飲料を調製した。ただし、本実験においては、エリオシトリン(富士フイルム和光純薬)をさらに添加して、容器詰飲料を製造した。」 「【0054】 実験3:リモネンを含有するアルコール飲料の製造と評価 実験2と同様にして、下表の配合でアルコール飲料を調製した(アルコール含有量:10v/v%、リモネン濃度:15ppm)。ただし、本実験においては、p−クレゾール(ナカライテスク)をさらに添加して、容器詰飲料を製造した。」 (4)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0006】〜【0008】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、柑橘系果実の香味を有するアルコール含有飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供すること」及び「アルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制する方法を提供すること」であり、「リモネンとアルコールが共存する場合、柑橘類の香味成分に起因するピリピリとした刺激が特に強く感じられる」が、「それをマスキングする方法を鋭意研究した結果、特定の濃度のエリオシトリンを含有させる」ことにより、上記発明の課題を解決しようとするものである。 本件特許の発明の詳細な説明の【0026】によると、柑橘系果実の香味を有するアルコール飲料は、柑橘果汁が配合されていてもよく、柑橘果汁を配合する場合、その配合量はストレート果汁換算で0.01〜30%とすることが好ましく、20%以下、10%以下、さらには5%以下としてもよいこと、果汁の種類も、果実を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁、あるいは濃縮した濃縮果汁のいずれの形態であってもよく、また、混濁果汁であっても、透明果汁であってもよいこと、が説明されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0042】〜【0059】の各試験例において、柑橘系果実の香味を有するアルコール含有飲料におけるピリピリとした味の刺激が、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppm含有させることによって緩和されることが示されている。 そうすると、当業者は、アルコール飲料において、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmを含有させることにより、発明の課題を解決することができると認識できる。 したがって、本件特許発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (5)取消理由2(サポート要件、柑橘類について)についてのまとめ 取消理由2(サポート要件、果汁の含有について)は、その理由がない。 3.令和4年11月4日付けで特許権者に通知した取消理由についてのまとめ 取消理由1(甲2−1に基づく進歩性)、取消理由2(サポート要件、果汁の含有について)は、いずれもその理由がない。 第6 取消理由において採用しなかった申立理由についての当審の判断 以下に記載するように、それ以外の特許異議申立人1及び特許異議申立人2の申立理由についても、いずれもその理由がないと判断する。 以下順に、申立理由1−1ないし1−4、申立理由2−2ないし申立理由2−8を検討する。 1 申立理由1−1(甲1−1で特定される公然実施)及び申立理由1−2(甲第1−1号証で特定される公然実施発明に基づく進歩性)について (1)甲1−1で特定される公然実施発明 甲1−1に記載された事項から、次の発明(以下、「甲1−1公然実施発明A」、「甲1−1公然実施発明B」という。)が本件特許の出願日前に日本国内又は外国において公然実施されたことが理解できる。 <甲1−1公然実施発明A> 「アルコール分6%であり、果汁を搾ってから濃縮や透明化処理など果汁に余計な手を加えないストレート混濁果汁を使用して、レモン果汁が3%含有されているタカラCANチューハイ直搾りなる飲料」 <甲1−1公然実施発明B> 「甲1−1公然実施発明Aを飲用する方法。」 (2)甲1−3ないし甲1−6に記載された事項 ア 甲1−3に記載された事項 甲1−3の第1069頁右欄には、下記のとおり、レモン果汁の残渣と液体成分との間の揮発性香気成分の割合分布について、リモネンについては残渣に93.4%、液体成分に6.6%の割合で分布していたことが記載されている。 ![]() イ 甲1−4に記載された事項 甲1−4の第170頁Table1には、下記のとおり、ユーレカレモンの果汁中における酵素で加水分解された遊離及び結合した揮発性物質について開示があり、果汁中におけるリモネン(d−limonene)濃度について、遊離のものが80±0.7(mg/L)であり、結合性のものが検出さなかったことが記載されている。 ![]() ウ 甲1−5に記載された事項 甲1−5の1466頁左欄から右欄、第1469頁のTable1には、下記のとおり、地元の市場(トルコ・アダナ)から購入したレモンをシトラス抽出機で抽出したレモン果汁を低温殺菌、濃縮、及び保存したレモン混濁果汁と、レモン透明果汁のエリオシトリン濃度が、それぞれ、53.9±13.7mg/L、42.5±6.7mg/Lであったことが記載されている。 ![]() エ 甲1−6に記載された事項 甲1−6の第88頁左欄Table5には、下記のとおり、レモンにおけるエリオシトリンの含有量がレモン果皮で1540ppm、レモン果汁で216ppmであることが記載されている。 ![]() また、甲1−6の第88頁右欄Table6には、下記のとおり、レモン果汁のエリオシトリン含有量が、ユーレカ種で174ppm、リスボン種で208ppmであったことが記載されている。 ![]() (3)本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲1−1公然実施発明Aとを対比する。 甲1−1公然実施発明Aの「アルコール分6%」の「タカラCANチューハイ直搾りなる飲料」は本件特許発明1の「アルコール飲料」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1−1公然実施発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「アルコール飲料。」 <相違点1−1A> 本件特許発明1においては、「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリンを含有する」との特定を有するのに対し、甲1−1公然実施発明Aにおいては当該特定がない点。 相違点1−1Aについて検討する。 甲1−1公然実施発明Aにおいては「果汁を搾ってから濃縮や透明化処理など果汁に余計な手を加えないストレート混濁」「レモン」「果汁が3%」含有されているが、甲1−1公然実施発明Aにおいて使用されるレモンの産地及び種別については不明である。 上記(2)の甲1−3ないし甲1−6の各々に記載されるレモン果汁中のリモネン濃度とエリオシトリン濃度は、レモン種や産地が不明なもの、ユーレカ種、リスボン種と、測定対象のレモンがそれぞれ異なるものに対する値であって、甲1−3ないし甲1−6の記載を参酌しても、使用したレモンの産地、種類が不明な甲1−1公然実施発明Aのレモン果汁3%に含まれるリモネンとエリオシトリンの量を求めることはできない。 また、レモンに含まれるリモネンとエリオシトリンの含有量は、レモンの産地、種類によらない数値であって、レモン果汁3%であれば「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリン」の数値範囲を満たす、という事情も存在しない。 したがって、本件特許発明1は甲1−1公然実施発明Aと相違点1−1Aの点で相違し、本件特許発明1は甲1−1公然実施発明Aではない。 さらに、甲1−1公然実施発明Aにおいて、「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリンを含有する」ように調整することについて、その契機は存在せず、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲1−1公然実施発明Aにおいて、相違点1−1Aに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲1−1公然実施発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明3及び5についての対比・判断 本件特許発明3及び5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、本件特許発明3及び5は甲1−1公然実施発明Aではなく、また、甲1−1公然実施発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件特許発明6についての対比・判断 本件特許発明6と甲1−1公然実施発明Bとを対比する。 甲1−1公然実施発明Bの「アルコール分6%」の「タカラCANチューハイ直搾りなる飲料」は本件特許発明6の「アルコール飲料」に相当する。 そうすると、本件特許発明6と甲1−1公然実施発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「アルコール飲料における方法。」 <相違点1−1B> 本件特許発明6においては、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネンを含有」させ「ピリピリとした後味の刺激を抑制する方法であって、飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む」との特定を有するのに対し、甲1−1公然実施発明Bにおいては当該特定がない点。 本件特許発明6は、相違点1−1Bの点で甲1−1公然実施発明Bと相違するから、甲1−1公然実施発明Bではない。 次に、上記相違点1−1Bについて検討する。 上記(3)にて検討したとおりの理由によって、甲1−1公然実施発明Bにおいても、アルコール飲料中のリモネンとエリオシトリンの量を求めることはできない。 本件特許発明6における「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、「飲料中に5〜25ppmのエリオシトリン」が含有されているようにするか、少なくとも、「エリオシトリン」が「5〜25ppm」の状態であることが必要である。 甲1−1には、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整したとの開示はなく、かつ、アルコール飲料に「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有された状態でもないから、甲1−1公然実施発明Bにおいては、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲1−1には、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することについて、きっかけないし示唆となる記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲1−1公然実施発明Bにおいて、相違点1−1Bに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲1−1公然実施発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由1−1(甲1−1で特定される公然実施)及び申立理由1−2(甲1−1で特定される公然実施発明に基づく進歩性)についてのまとめ 申立理由1−1(甲1−1で特定される公然実施)及び申立理由1−2(甲1−1で特定される公然実施に基づく進歩性)はいずれもその理由がない。 2 申立理由1−3(甲1−2の1で特定される公然実施)及び申立理由1−4(甲1−2の1で特定される公然実施発明に基づく進歩性)について (1)甲1−2の1で特定される公然実施発明 甲1−2の1に記載された事項から、次の発明(以下、「甲1−2公然実施発明A」、「甲1−2公然実施発明B」という。)が本件特許の出願日前に日本国内又は外国において公然実施されたことが理解できる。 <甲1−2公然実施発明A> 「アルコール分9%であり、収穫後24時間以内に搾汁された果汁のみを使用して、レモン果汁が3%含有されているアサヒもぎたて新鮮レモンなる飲料。」 <甲1−2公然実施発明B> 「甲1−2公然実施発明Aを飲用する方法。」 (2)甲1−3ないし甲1−6に記載された事項 前記1(2)のとおりである。 (3)本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲1−2公然実施発明Aとを対比する。 甲1−2公然実施発明Aの「アルコール分9%」の「アサヒもぎたて新鮮レモンなる飲料」は本件特許発明1の「アルコール飲料」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1−2公然実施発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「アルコール飲料。」 <相違点1−2A> 本件特許発明1においては、「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリンを含有する」との特定を有するのに対し、甲1−2公然実施発明Aにおいては当該特定がない点。 相違点1−2Aについて検討する。 甲1−2公然実施発明Aにおいては「収穫後24時間以内に搾汁された果汁のみ」の「レモン」「果汁が3%」含有されているが、甲1−2公然実施発明Aにおいて使用されるレモンの産地及び種別については不明である。 上記(2)の甲1−3ないし甲1−6の各々に記載されるレモン果汁中のリモネン濃度とエリオシトリン濃度は、レモン種や産地が不明なもの、ユーレカ種、リスボン種と、測定対象のレモンがそれぞれ異なるものに対する値であって、甲1−3ないし甲1−6の記載を参酌しても、使用したレモンの産地、種類が不明な甲1−2公然実施発明Aのレモン果汁3%に含まれるリモネンとエリオシトリンの量を求めることはできない。 また、レモンに含まれるリモネンとエリオシトリンの含有量は、レモンの産地、種類によらない数値であって、レモン果汁3%であれば「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリン」の数値範囲を満たす、という事情も存在しない。 したがって、本件特許発明1は甲1−2公然実施発明Aと相違点1−2Aの点で相違し、本件特許発明1は甲1−2公然実施発明Aではない。 さらに、甲1−2公然実施発明Aにおいて、「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリンを含有する」ように調整することについて、その契機は存在せず、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲1−2公然実施発明Aにおいて、相違点1−2Aに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲1−2公然実施発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明2ないし5についての対比・判断 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、本件特許発明2ないし5は甲1−2公然実施発明Aではなく、また、甲1−2公然実施発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件特許発明6についての対比・判断 本件特許発明6と甲1−2公然実施発明Bとを対比する。 甲1−2公然実施発明Bの「アルコール分9%」の「アサヒもぎたて新鮮レモンなる飲料」は本件特許発明1の「アルコール飲料」に相当する。 そうすると、本件特許発明6と甲1−2公然実施発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「アルコール飲料における方法。」 <相違点1−2B> 本件特許発明6においては、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネンを含有」させ「ピリピリとした後味の刺激を抑制する方法であって、飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む」との特定を有するのに対し、甲1−2公然実施発明Bにおいては当該特定がない点。 本件特許発明6は、相違点1−2Bの点で甲1−2公然実施発明Bと相違するから、甲1−2公然実施発明Bではない。 次に、上記相違点1−2Bについて検討する。 上記(3)にて検討したとおりの理由によって、甲1−2公然実施発明Bにおいても、アルコール飲料中のリモネンとエリオシトリンの量を求めることができない。 本件特許発明6における「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、「飲料中に5〜25ppmのエリオシトリン」が含有されているようにするか、少なくとも、エリオシトリンが5〜25ppmの状態であることが必要である。 甲1−2には、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整したとの開示はなく、かつ、アルコール飲料に「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有された状態でもないから、甲1−2公然実施発明Bにおいては、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲1−2には、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することについて、きっかけないし示唆となる記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲1−1公然実施発明Bにおいて、相違点1−2Bに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲1−1公然実施発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない (6)申立理由1−3(甲1−2の1で特定される公然実施)及び申立理由1−4(甲1−2の1で特定される公然実施発明に基づく進歩性)についてのまとめ 申立理由1−3(甲1−2の1で特定される公然実施)及び申立理由1−4(甲1−2の1で特定される公然実施に基づく進歩性)はいずれもその理由がない。 3 申立理由2−2(甲2−2に基づく新規性)及び申立理由2−3(甲2−2に基づく進歩性)について (1)甲2−2に記載された発明 甲2−2の[0046]実施例4〜[0049]から、甲2−2には次の発明(以下、「甲2−2発明A1」、「甲2−2発明B1」という。)が記載されていると認められる。 <甲2−2発明A1> 「エリオシトリンを10ppm含有し、レモン果汁10%を含有する、市販チューハイB」 <甲2−2発明B1> 「甲2−2発明A1を飲用する方法。」 また、甲2−2の[0041]、[0049][表2]、[0066]実施例7〜[0071][表8]から、甲2−2には次の発明(以下、甲2−2発明A2、甲2−2発明B2)も記載されていると認められる。 <甲2−2発明A2> 「生のレモン果実を凍結し、凍結したまま微粉砕して凍結微粉砕物とし、凍結微粉砕物を40%原料用アルコールに2日間浸漬し、得られた浸漬液を珪藻土を用いてろ過して固形分を除いて得たアルコール40%のレモン凍結微粉砕浸漬酒を25ml使用し、原料用アルコール8.7ml、糖類9.8g、酸味料0.8g、炭酸水約210mlを混合して全量250mlとした、エリオシトリンを10ppm含有する微粉砕RTDを、50℃で6日間の強制劣化加速試験により、リモネン含有量を117ppmにした凍結微粉砕RTD」 <甲2−2発明B2> 「甲2−2発明A2を飲用する方法。」 (2)甲2−9に記載された事項 甲2−9の1285頁Table2には、下記のとおり、レモン果汁中に111.07mg/Lのリモネンが含まれることが記載されている。 ![]() (3)本件特許発明1についての対比・判断 ア 本件特許発明1と甲2−2発明A1との対比・判断 本件特許発明1と甲2−2発明A1とを対比する。 甲2−2発明A1における「市販チューハイB」は、本件特許発明1における「アルコール飲料」に相当する。 甲2−2発明A1には「エリオシトリンを10ppm含有」し、さらに「レモン果汁10%」を含有している。 ここで、前記第6 1(2)ウの甲1−5、エの甲1−6から、レモン果汁にはエリオシトリンが含有されていることが理解されるが、甲2−2発明A1において使用されたレモン種、産地等が特定されていないため、甲2−2発明A1の飲料全体に含有されるエリオシトリンの濃度を特定することはできない。 また、レモンに含まれるリモネンの含有量が、レモンの産地、種類によらず、レモン果汁10%であれば、レモン果汁由来のエリオシトリンが15ppm未満である(先のエリオシトリン10ppmとあわせて25ppm以下)という事情も存在しない。 よって、甲2−2発明A1の「エリオシトリンを10ppm含有」し、さらに「レモン果汁10%」を含有する構成は、本件特許発明1の「エリオシトリンを含有」する構成に相当する。 同様に、前記第6 1(2)イの甲1−4、前記(1)甲2−9から、レモン果汁にはリモネンが所定量含有されていることが理解されるが、甲2−2発明A1において使用されたレモン種、産地等が特定されていないため、甲2−2発明A1の飲料全体に含有されるリモネンの濃度を特定することはできない。 また、レモンに含まれるリモネンの含有量が、レモンの産地、種類によらず、レモン果汁10%であれば、レモン果汁由来のリモネンが10〜60ppmである、という事情も存在しない。 よって、甲2−2発明A1における「レモン果汁10%」を含有する構成は、本件特許発明1における「リモネン」を「含有」する構成に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2−2発明A1との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンとエリオシトリンを含有するアルコール飲料。」 <相違点2−2A−1> 本件特許発明1においては、「10〜60ppm」のリモネンと「5〜25ppm」のエリオシトリンを含有するとの特定を有しているのに対し、甲2−2発明A1においては、リモネンの含有量及びエリオシトリンの含有量の特定がない点。 上記相違点2−2A―1について検討する。 甲2−2発明A1において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」になるように調整することについて、その契機は存在しない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−2発明A1において、相違点2−2A―1に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲2−2発明A1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明1と甲2−2発明A2との対比・判断 本件特許発明1と甲2−2発明A2とを対比する。 甲2−2発明A2における「50℃で6日間の強制劣化加速試験」した後の「凍結微粉砕RTD」は、本件特許発明1における「アルコール飲料」に相当する。 甲2−2発明A2における「リモネン含有量が117ppm」である構成は、本件特許発明1の「リモネン」「を含有する」構成に相当する。 甲2−2発明A2のアルコール飲料においては、50℃で6日間の強制劣化試験をする前にはエリオシトリンが10ppm含有されているが、50℃で6日間の強制劣化試験後にエリオシトリンの含有量を測定していないから、強制劣化試験後に飲料中にエリオシトリンが残っているのかどうかは明らかではない。 そうすると、本件特許発明1と甲2−2発明A2との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンを含有するアルコール飲料。」 <相違点2−2A―2> 本件特許発明1においては、「10〜60ppmのリモネンと5〜25ppmのエリオシトリン」を含有すると特定されているのに対し、甲2−2発明A2においてはそのような特定がない点。 本件特許発明1は相違点2−2A―2で相違するから、甲2−2発明A2ではない。 次に、上記相違点2−2A―2について検討する。 甲2−2発明A2のアルコール飲料においては、50℃6日間の強制劣化試験を経たものであり、製造直後ではリモネンが2737ppmも含有されていたものが、50℃6日間の強制劣化試験を経て117ppmにまで低減している。甲2−2発明A2において、飲料をさらに劣化させたり、長期保管したりすることで、リモネンの含有量を10〜60ppmにすることを当業者に想起させるはきっかけは存在せず、また、甲2−2においてそのような示唆もない。 また、甲2−2A2発明では、アルコール飲料の製造直後のリモネンは2737ppm、エリオシトリンは10ppmであったところ、これを、リモネンは10〜60ppmとし、かつ、エリオシトリンを5〜25ppmに調整する契機もない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−2発明A2において、相違点2−2A−2に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲2−2発明A2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明2ないし5についての対比・判断 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、甲2−2発明A1ないし甲2−2発明A2ではなく、甲2−2発明A1ないし甲2−2発明A2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5) 本件特許発明6についての対比・判断 ア 本件特許発明6と甲2−2発明B1との対比・判断 本件特許発明6と甲2−2発明B1とを対比する。 甲2−2発明B1における「市販チューハイB」は、本件特許発明6における「アルコール飲料」に相当する。 甲2−2発明B1には「エリオシトリンを10ppm含有」し、さらに「レモン果汁10%」を含有している。 ここで、前記第6 1(2)ウの甲1−5、エの甲1−6から、レモン果汁にはエリオシトリンが含有されていることが理解されるが、甲2−2発明A1において使用されたレモン種、産地等が特定されていないため、甲2−2発明B1の飲料全体に含有されるエリオシトリンの濃度は少なくとも10ppm以上ではあるが、具体的な濃度を特定することはできない。また、レモンに含まれるリモネンの含有量が、レモンの産地、種類によらず、レモン果汁10%であれば、レモン果汁由来のエリオシトリンが15ppm未満である(エリオシトリン10ppmとあわせて25ppm以下)という事情も存在しない。 よって、甲2−2発明B1の「エリオシトリンを10ppm含有」し、さらに「レモン果汁10%」を含有する構成は、本件特許発明6の「エリオシトリンを含有」する構成に相当する。 同様に、前記第6 1(2)イの甲1−4、前記(1)甲2−9から、レモン果汁にはリモネンが所定量含有されていることが理解されるが、甲2−2発明B1において使用されたレモン種、産地等が特定されていないため、甲2−2発明B1の飲料全体に含有されるリモネンの濃度を具体的に特定することはできない。また、レモンに含まれるリモネンの含有量が、レモンの産地、種類によらず、レモン果汁10%であれば、レモン果汁由来のリモネンが10〜60ppmである、という事情も存在しない。 よって、甲2−2発明B1における「レモン果汁10%」を含有する構成は、本件特許発明1における「リモネン」を「含有」する構成に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2−2発明B1との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンを含有するアルコール飲料において、飲料中にエリオシトリンを含有させることを含む、方法。」 <相違点2−2B−1> 本件特許発明6においては、「10〜60ppmの」リモネンを含有するアルコール飲料において「ピリピリとした後味の刺激を抑制する方法」であって、飲料中に「5〜25ppmの」エリオシトリンを含有させるとの特定を有するのに対し、甲2−2発明B1においては当該特定がない点。 本件特許発明6は、相違点2−2B−1の点で甲2−2発明B1と相違するから、甲2−2発明B1ではない。 次に上記相違点2−2B−1を検討する。 本件特許発明6における「アルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、アルコール飲料中に「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有されているように調整するか、少なくとも、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」の状態であることが必要である。 甲2−2には、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネン」と5〜25ppmのエリオシトリンとなるように調整したとの開示はなく、かつ、アルコール飲料に「10〜60ppmのリモネン」と5〜25ppmのエリオシトリンが含有された状態にあるものでもないから、甲2−2発明B1において、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲2−2には、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することについて、きっかけないし示唆となる記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−2発明B1において、相違点2−2B−1に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲2−2発明B1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件特許発明6と甲2−2発明B2との対比・判断 本件特許発明6と甲2−2発明B2とを対比する。 甲2−2発明B2における「50℃で6日間の強制劣化加速試験」した後の「凍結微粉砕RTD」は、本件特許発明6における「アルコール飲料」に相当する。 甲2−2発明B2における「リモネン含有量が117ppm」である構成は、本件特許発明6の「リモネン」「を含有する」構成に相当する。 甲2−2発明B2のアルコール飲料においては、50℃で6日間の強制劣化試験をする前にはエリオシトリンが10ppm含有されているが、50℃で6日間の強制劣化試験後にエリオシトリンの含有量を測定していないから、強制劣化試験後に飲料中にエリオシトリンが残っているのかどうかは明らかではない。 そうすると、本件特許発明1と甲2−2発明B2との一致点、相違点は次のとおりである。 <一致点> 「リモネンを含有するアルコール飲料における方法。」 <相違点2−2B−2> 本件特許発明6においては、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネンを含有」し「ピリピリとした後味の刺激を抑制する方法であって、飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む」との特定を有するのに対して、甲2−2発明B2においてはそのような特定がない点。 本件特許発明6は相違点2−2B−2の点で、甲2−2発明B2と相違するから、甲2−2発明B2ではない。 次に、上記相違点2−2B−2について検討する。 本件特許発明6における「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、「飲料中に5〜25ppmのエリオシトリン」が含有されているようにするか、少なくとも、エリオシトリンが5〜25ppmの状態であることが必要である。 甲2−2には、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整したとの開示はなく、かつ、アルコール飲料に「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有された状態でもないから、甲2−2発明B2において、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲2−2には、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することを示唆する記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−2発明B2において、相違点2−2B−2に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲2−2発明B2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由2−2(甲2−2に基づく新規性)及び申立理由2−3(甲2−2に基づく進歩性)について 申立理由2−2(甲2−2に基づく新規性)及び申立理由2−3(甲2−2に基づく進歩性)は、その理由がない。 4 申立理由2−4(甲2−3に基づく進歩性)について (1)甲2−3に記載された発明 甲2−3の[0034][表1]から甲2−3には次の発明(以下、「甲2−3発明A」、「甲2−3発明B」という。)が記載されていると認められる。 <甲2−3発明A> 「9.6〜23.7ppmのエリオシトリンを含有する香酸柑橘類果汁含有飲料」 <甲2−3発明B> 「甲2−3発明Aを飲用する方法。」 (2)本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲2−3発明Aとを対比する。 甲2−3発明Aの「香酸柑橘類果汁含有飲料」は、本件特許発明1の「飲料」に相当する。 また、甲2−3発明Aの「9.6〜23.7ppmのエリオシトリン」は本件特許発明1の「5〜25ppmのエリオシトリン」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2−3発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「5〜25ppmのエリオシトリンを含有する飲料。」 <相違点2−3A―1> 本件特許発明1においては、「10〜60ppmのリモネン」を含有するとの特定を有するのに対し、甲2−3発明Aにおいては当該特定がない点。 <相違点2−3A―2> 本件特許発明1は「アルコール」飲料であるの対して、甲2−3発明Aにおいて当該特定はない点。 相違点2−3A―1について検討する。 甲2−3にはリモネンについての記載はなく、甲2−3発明Aにおいてリモネンの含有量を調整することについて、その契機がない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−3発明Aにおいて、相違点2−3A―1に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2−3発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし5についての対比・判断 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、本件特許発明2ないし5は甲2−3発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明6についての対比・判断 本件特許発明6と甲2−3発明Bとを対比する。 甲2−3発明Bの「香酸柑橘類果汁含有飲料」は、本件特許発明6の「飲料」に相当する。 また、甲2−3発明Bの「9.6〜23.7ppmのエリオシトリン」は本件特許発明6の「5〜25ppmのエリオシトリン」に相当する。 そうすると、本件特許発明6と甲2−3発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む、方法。」 <相違点2−3B> 本件特許発明6においては、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」方法との特定を有するのに対し、甲2−3発明Bにおいては当該特定がない点。 本件特許発明6は、相違点2−3Bの点で甲2−3発明Bと相違するから、甲2−3発明Bではない。 次に、上記相違点2−3Bについて検討する。 本件特許発明6における「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整するか、すくなくとも、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」の状態であることが必要である。 甲2−3には、アルコール飲料において「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整したとの開示はなく、かつ、アルコール飲料に「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有された状態でもないから、甲2−3発明Bにおいて、「10〜60ppmのリモネンを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲2−3には、アルコール飲料において、「10〜60ppmのリモネン」と「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することを示唆する記載はない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−3発明Bにおいて、相違点2−3Bに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲2−3発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由2−4(甲2−3に基づく進歩性)についてのまとめ 申立理由2−4(甲2−3に基づく進歩性)は、その理由がない。 5 申立理由2−5(甲2−8の1に基づく進歩性)について (1)甲2−8の1に記載された発明 甲2−8の1の【0065】〜【0067】【表5】実施例7−L−3及び実施例7−L−4から、甲2−8には次の発明(以下、「甲2−8発明A」、「甲2−8発明B」という。)が記載されていると認められる。 <甲2−8発明A> 「10〜50ppmのリモネンを含有する香酸柑橘類果汁含有飲料」 <甲2−8発明B> 「甲2−8発明Aを飲用する方法。」 (2)本件特許発明1についての対比・判断 本件特許発明1と甲2−8発明Aとを対比する。 甲2−8発明Aの「香酸柑橘類果汁含有飲料」は、本件特許発明1の「飲料」に相当する。 また、甲2−8発明Aの「10〜50ppmのリモネン」は本件特許発明1の「10〜60ppmのエリオシトリン」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2−8発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「10〜60ppmのリモネンを含有する飲料。」 <相違点2−8A−1> 本件特許発明1においては、「5〜25ppmのエリオシトリン」を含有するとの特定を有するのに対し、甲2−8発明Aにおいては当該特定がない点。 <相違点2−8A―2> 本件特許発明1は「アルコール」飲料であるの対して、甲2−8発明Aにおいて当該特定はない点。 相違点2−8A―1について検討する。 甲2−8の1にはエリオシトリンに関する記載はなく、甲2−8発明Aにおいてエリオシトリンの含有量を調整することについて、その契機がない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明1は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−8発明Aにおいて、相違点2−8A―1に係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2−8発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし5についての対比・判断 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1についての対比・判断と同様に、本件特許発明2ないし5は甲2−8発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件特許発明6についての対比・判断 本件特許発明6と甲2−8発明Bとを対比する。 甲2−8発明Bの「香酸柑橘類果汁含有飲料」は、本件特許発明6の「飲料」に相当する。 また、甲2−8発明Bの「10〜50ppmのリモネン」は本件特許発明6の「10〜60ppmのリモネン」に相当する。 そうすると、本件特許発明6と甲2−8発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「10〜60ppmのリモネンを含有する飲料における方法。」 <相違点2−8B> 本件特許発明6においては、「アルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する方法であって、飲料中に5〜25ppmのエリオシトリンを含有させることを含む」との特定を有するのに対し、甲2−8発明Bにおいては当該特定がない点。 本件特許発明6は、相違点2−8Bの点で甲2−8発明Bと相違するから、甲2−8発明Bではない。 次に、上記相違点2−8Bについて検討する。 本件特許発明6における「アルコール飲料においてピリピリとした後味の刺激を抑制する」ことは、「飲料中に5〜25ppmのエリオシトリン」が含有されているようにするか、少なくとも、エリオシトリンが「5〜25ppm」の状態であることが必要である。 甲2−8の1には、「アルコール飲料において」「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整したとの開示はなく、かつ、「アルコール飲料に」10〜60ppmのリモネンと「5〜25ppmのエリオシトリン」が含有された状態でもないから、甲2−8発明Bは、「アルコール飲料において、ピリピリとした後味の刺激を抑制」をしていない。 さらに、甲2−8の1には、10〜60ppmのリモネンを含有する「アルコール飲料において」、「5〜25ppmのエリオシトリン」となるように調整することを示唆する記載もない。 また、特許異議申立人1及び2が提出したいずれの証拠においても、アルコール飲料において、リモネンを10〜60ppm、エリオシトリンを5〜25ppmとすることについての開示はない。 本件特許発明6は、リモネンが10〜60ppm、エリオシトリンが5〜25ppmの範囲とすることにより、アルコールを含有するアルコール飲料において、ピリピリとした味の刺激を緩和した飲みやすい飲料を提供するという顕著な効果を有している。 したがって、甲2−8発明Bにおいて、相違点2−8Bに係る発明特定事項を満たすものとすることは、当業者といえども容易になし得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明6は、甲2−8発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由2−5(甲2−8の1に基づく進歩性)について 申立理由2−5(甲2−8の1に基づく進歩性)は、その理由がない。 6 申立理由2−6(サポート要件1、アルコール含有量下限値について)、申立理由2−7(サポート要件2 エリオシトリン含有量下限値について) 、申立理由2−8(サポート要件3 p−クレゾールについて) について 前記第5 2(4)にて検討したとおり、本件特許発明1ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 第3 2(6)〜(8)の特許異議申立人2の主張について検討すると、本件特許明細書にはリモネンを含有するアルコール飲料であればピリピリとして後味の刺激があることが当業者において理解されるように記載されているから、アルコール含有量が5%未満では発明の課題が存在しないという異議申立人の主張は採用し得ない。 また、本件特許明細書に開示された実施例からみて、p−クレゾールを含有する飲料では発明の課題を解決しないというものでもない。 よって、これらの異議申立人の主張は採用し得ない。 第7 むすび 上記第5、第6のとおり、本件特許発明1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできず、また、他に取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-02-03 |
出願番号 | P2018-102487 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G) P 1 651・ 537- Y (C12G) P 1 651・ 112- Y (C12G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 磯貝 香苗 |
登録日 | 2022-03-02 |
登録番号 | 7033500 |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | アルコール飲料 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 中村 充利 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 梶田 剛 |
代理人 | 山本 修 |