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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
管理番号 1395244
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-10-19 
確定日 2023-02-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第7058379号発明「炭素質材料及びその製造方法、並びに浄水用フィルター及び浄水器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7058379号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7058379号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜15に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月25日(優先権主張 2020年(令和2年)6月30日(JP)日本国 優先権主張 2020年(令和2年)6月30日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和4年4月13日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1〜15に係る特許に対して、令和4年10月19日に特許異議申立人後藤奈美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1〜15の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積が750m2/g以上1000m2/g以下であり、窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積に対する前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が80%以上であり、且つ、前記BET比表面積と窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔直径が1.614nm以下である、炭素質材料。
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)
【請求項2】
ベンゼン吸着量が20重量%以上28重量%以下である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
前記HK法により算出された全細孔容積が0.400mL/g以下である、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積が0.250mL/g以上0.350mL/g以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
ベンゼン吸着量が20重量%以上28重量%以下であり、
窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積と炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積とを用いて、下記式により得られる平均細孔直径が1.300〜1.600nmである、炭素質材料。
D=4000×V/S
(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)
【請求項6】
炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積が0.400mL/g以下である、請求項5に記載の炭素質材料。
【請求項7】
炭酸ガス吸着DFT法により算出された0.4〜0.7nmの範囲の細孔の細孔容積が0.140〜0.175mL/gである、請求項5または6に記載の炭素質材料。
【請求項8】
前記炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積に対する0.4〜0.7nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が0.535以下である、請求項5〜7のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項9】
前記BET比表面積が1000m2/g以下である、請求項5〜8のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項10】
植物系の炭素質前駆体に由来する、請求項1〜9のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項11】
植物系の炭素質前駆体がヤシ殻である、請求項10に記載の炭素質材料。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法であって、炭素質材料の原料をアルカリ洗浄すること、及び、その後に流動炉を用いた賦活を行うことを含む、炭素質材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭素質材料と繊維状バインダーを含む浄水用フィルターであって、前記繊維状バインダーのCSF値が10〜150mLであり、炭素質材料100質量部に対して、繊維状バインダーを4〜10質量部含む、浄水用フィルター。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の炭素質材料を含む、浄水器。
【請求項15】
請求項13に記載の浄水用フィルターを含む、浄水器。」

3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証〜甲第6号証を提出し、本件発明1〜15は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

(1)甲第1号証を主たる証拠とした申立理由
本件発明1、3、4、14は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件発明1、3、4、14は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件発明2、5〜9は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件発明10、11は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、本件発明13、15は、甲第1号証に記載された発明と甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)甲第2号証を主たる証拠とした申立理由
本件発明1、3、4、10、11、14は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件発明1、3、4、10、11、14は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件発明2、5〜9は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件発明12は、甲第2号証に記載された発明と甲第4号証に記載された技術的事項に基いて、本件発明13、15は、甲第2号証に記載された発明と甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2019/244903号
甲第2号証 国際公開第2018/181778号
甲第3号証 特開2016−19980号公報
甲第4号証 特開2000−281325号公報
甲第5号証 国際公開第2017/199717号
甲第6号証 鷲尾一裕,“粉体表面物性測定技術 ガス吸着法〜水銀圧入
法”,日本画像学会誌,第46巻,第6号,2007年12
月13日, p.482-488

4 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「[0009] 本発明は、上記問題を解決し、高い空塔速度(SV)での通水処理においても、高い総トリハロメタンろ過能力を有する活性炭及びその製造方法を提供することを主な目的とする。」
イ 「[0022] 本発明において、特定の細孔径範囲の細孔容積は、QSDFT法によって算出されるものである。QSDFT法(急冷固体密度汎関数法)とは、幾何学的・化学的に不規則なミクロポーラス・メソポーラスな炭素の細孔径解析を対象とした、約0.5nm〜約40nmまでの細孔径分布の計算ができる解析手法である。QSDFT法では、細孔表面の粗さと不均一性による影響が明瞭に考慮されているため、細孔径分布解析の正確さが大幅に向上した手法である。本発明においては、Quantachrome社製「AUTOSORB−1−MP」を用いて窒素吸着等温線の測定、及びQSDFT法による細孔径分布解析をおこなう。77Kの温度において測定した窒素の脱着等温線に対し、Calculation modelとしてN2 at 77K on carbon[slit pore,QSDFT equilibrium model]を適用して細孔径分布を計算することで、特定の細孔径範囲の細孔容積を算出することができる。」
ウ 「[0043] 本発明の活性炭の形態は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。フィルター加工して用いる場合の加工性や浄水器で使用する場合の吸着速度の観点から繊維状活性炭とすることがより好ましい。繊維状活性炭の平均繊維径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは5〜20μm程度が挙げられる。なお、本発明の繊維状活性炭の平均繊維径は、画像処理繊維径測定装置(JIS K 1477に準拠)により測定した値である。また、粒状活性炭及び粉末状活性炭の粒径としては、レーザー回折/散乱式法で測定した積算体積百分率D50が0.01〜5mmが挙げられる。」
エ 「実施例
・・・
[0061] (3)細孔容積(cc/g)、比表面積(m2/g)、繊維状活性炭の繊維径(μm)
細孔物性値は、Quantachrome社製「AUTOSORB−1−MP」を用いて77Kにおける窒素吸着等温線より測定した。比表面積はBET法によって相対圧0.1の測定点から計算した。全細孔容積及び表1に記載した各細孔径範囲における細孔容積は、測定した窒素脱着等温線に対し、Calculation modelとしてN2 at 77K on carbon[slit pore,QSDFT equilibrium model]を適用して細孔径分布を計算することで、解析した。具体的に、表1に記載した各細孔径範囲における細孔容積は、図1〜11に示した細孔径分布を示すグラフの読み取り値又は該読み取り値から計算される値である。より具体的に、細孔径0.65nm以下の細孔容積は、細孔径分布図の横軸Pore Widthが0.65nmにおけるCumulative Pore Volume(cc/g)の読み取り値である。同様にして、細孔径0.8nm以下の細孔容積、細孔径1.0nm以下の細孔容積A、細孔径1.5nm以下の細孔容積、細孔径2.0nm以下の細孔容積、細孔径2.5nm以下の細孔容積、細孔径3.0nm以下の細孔容積、細孔径3.5nm以下の細孔容積を得た。細孔径3.0nm以上3.5nm以下の範囲の細孔容積Bは、上記細孔径3.5nm以下の細孔容積から上記細孔径3.0nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。2.0nm以上3.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cは、上記細孔径3.0nm以下の細孔容積から上記細孔径2.0nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。細孔径3.5nm以上の細孔容積は、QSDFT法により得られる全細孔容積から上記細孔径3.5nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。1.0nm以上1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径1.5nm以下の細孔容積から上記細孔径1.0nm以下の細孔容積Aを減ずることで計算した。1.0nm以上2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径2.0nm以下の細孔容積から上記細孔径1.0nm以下の細孔容積Aを減ずることで計算した。0.65nm以上0.8nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径0.8nm以下の細孔容積から上記細孔径0.65nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径1.0nm以下の細孔容積Aから上記細孔径0.65nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。0.8nm以上1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径1.5nm以下の細孔容積から上記細孔径0.8nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。1.5nm以上2.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積は、上記細孔径2.5nm以下の細孔容積から上記細孔径1.5nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。細孔径2.0nm以上の細孔容積は、QSDFT法により得られる全細孔容積から上記細孔径2.0nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。細孔径2.5nm以上の細孔容積は、QSDFT法により得られる全細孔容積から上記細孔径2.5nm以下の細孔容積を減ずることで計算した。
・・・
[0065](実施例1)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対してトリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)(金属種Fe)0.9質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、鉄(Fe)の含有量は0.11質量%であった。
[0066] 得られた活性炭前駆体を、CO2濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例1の活性炭を得た。得られた活性炭は、1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Aが0.350cc/g、3.0nm以上3.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Bが0.012cc/g、鉄の含有量は0.184質量%、平均繊維径は13.9μmであった。
・・・
[0089] 得られた活性炭の物性を表1及び表2に示す。また、図1〜12に、実施例1〜5、比較例1〜7の活性炭のQSDFT法によって算出される細孔径分布図を示す。
[0090]
[表1]


オ 「[図1]



(2)甲第2号証の記載事項
ア 「[0007] そこで本発明は、直径2nm以下のミクロ孔の中でも、直径1nm以下の極小サイズのミクロ孔の割合を高めた活性炭を効率良く製造する方法を提供することを主な目的とする。」
イ 「[0013][1.製造対象(活性炭)]
[1−1.活性炭の表面構造]
以下において、細孔容積とは、QSDFT法(急冷固体密度汎関数法)によって算出される細孔容積をいう。QSDFT法とは、幾何学的・化学的に不規則なミクロポーラス・メソポーラスな炭素の細孔径解析を対象とした、約0.5nm〜約40nmまでの細孔径分布の計算ができる解析手法である。QSDFT法では、細孔表面の粗さと不均一性による影響が明瞭に考慮されているため、細孔径分布解析の正確さが大幅に向上した手法である。本発明においては、Quantachrome社製「AUTOSORB−1−MP」を用いて窒素吸着等温線の測定、及びQSDFT法による細孔径分布解析をおこなう。77Kの温度において測定した窒素の脱着等温線に対し、Calculation modelとしてN2 at 77K on carbon[slit pore,QSDFT equilibrium model]を適用して細孔径分布を計算することで、特定の細孔径範囲の細孔容積を算出することができる。」
ウ 「[0023][1−3.活性炭の形態]
本発明の製造方法によって製造される活性炭の形態は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。フィルター加工等して用いる場合の加工性、又は浄水器等で使用する場合吸着速度の観点から、繊維状である繊維状活性炭とすることがより好ましい。なお、本発明において、吸着速度は、例えばトリハロメタンの通水吸着試験等により評価することができる。繊維状活性炭の平均繊維径としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは5〜20μm程度が挙げられる。なお、本発明における平均繊維径は、画像処理繊維径測定装置(JIS K 1477に準拠)により測定した値である。また、粒状活性炭及び粉末状活性炭の粒径としては、レーザー回折/散乱式法で測定した積算体積百分率D50が0.01〜5mmが挙げられる。」
エ 「[0029] 活性炭前駆体の原料種の例としては、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の硬化性樹脂等が挙げられ、該有機質材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等が挙げられる。また、オガ屑、木材チップ、木材、ピート、木炭、ヤシ殻、石炭、オイル、炭素質物質(石油コークス、石炭コークス、石油ピッチ、石炭ピッチ、コールタールピッチ、及びこれらの複合物など)、合成樹脂(フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、フラン樹脂など)、セルロース系繊維(紙、綿繊維など)、及びこれらの複合物(紙−フェノール樹脂積層板など)、フラーレンなどが挙げられる。これらの中でも、炭素化時の理論炭素化収率の点で、ピッチであることが好ましく、石炭ピッチであることがより好ましい。活性炭前駆体の形態の例としては、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。」
オ 「実施例
・・・
[0057](4)比表面積(m2/g)及び細孔容積(cc/g)
比表面積はBET法によって相対圧0.1の測定点から計算した。
細孔物性値は、Quantachrome社製「AUTOSORB−1−MP」を用いて77Kにおける窒素吸着等温線より測定した。全細孔容積及び下記各表に記載した各細孔径範囲における細孔容積は、測定した窒素脱着等温線に対し、Calculation modelとしてN2 at 77K on carbon[slit pore,QSDFT equilibrium model]を適用して細孔径分布を計算することで、解析した。具体的に、下記各表に記載した各細孔径における細孔容積は、窒素吸脱着等温線から得られる細孔径分布図の読み取り値である。より具体的に、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは、細孔径分布図の横軸Pore Widthが1.0nmにおけるCumulative Pore Volume(cc/g)の読み取り値である。同様にして、細孔径1.5nm以下の細孔容積、細孔径2.0nm以下の細孔(つまりミクロ細孔)容積Cを得た。
細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bを、QSDFT解析により得られる全細孔容積Aで除することで計算した。ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は、細孔径2.0nm以下の細孔容積Cを、QSDFT解析により与えられる全細孔容積Aで除し百分率で表した。メソ細孔容積率(%)は、100%からミクロ細孔容積率(%)を減ずることで計算した。
・・・
[0060](実施例1)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対して金属成分としてトリスアセチルアセトナトイットリウム(CAS番号:15554−47−9)0.5質量部を添加し混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、イットリウムの含有量は0.10質量%であった。
[0061] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で32分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例1の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積871m2/g、全細孔容積Aは0.336cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は100%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.305cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.907であった。
・・・
[0067](実施例7)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対してアセチルアセトンマグネシウム(II)(CAS番号:14024−56−7)2.3質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、マグネシウムの含有量は0.18質量%であった。
[0068] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例7の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積981m2/g、全細孔容積Aは0.395cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は95%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.331cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.838であった。
・・・
[0070](実施例9) 有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対して安息香酸マンガン(CAS番号:636−13−5)1.7質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、マンガンの含有量は0.20質量%であった。
[0071] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例9の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積953m2/g、全細孔容積Aは0.367cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は100%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.345cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.941であった。
・・・
[0075](実施例12)
賦活時間を25分とした以外は実施例11と同様にし、実施例12の活性炭を得た。得られた活性炭は、比表面積758m2/g、全細孔容積Aは0.304cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は97%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.256cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.841であった。
・・・
[0077](実施例14)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対してビス(2,4−ペンタンジオナト)バナジウム(IV)オキシド(CAS番号:3153−26−2)1.3質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、バナジウムの含有量は0.18質量%であった。
[0078] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で15分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例14の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積863m2/g、全細孔容積Aは0.332cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は100%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.305cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.918であった。
・・・
[0080](実施例16)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対してアセチルアセトナトジルコニウム(CAS番号:17501−44−9)0.8質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、ジルコニウムの含有量は0.19質量%であった。
[0081] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例16の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積790m2/g、全細孔容積Aは0.317cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は97%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.259cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.817であった。
・・・
[0083](実施例18)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状ピッチ100質量部に対してアセチルアセトナトセリウム(CAS番号:15653−01−7)0.8質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、セリウムの含有量は0.14質量%であった。
[0084] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例18の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積821m2/g、全細孔容積Aは0.341cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は92%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.276cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.808であった。
・・・
[0087](実施例21)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状ピッチ100質量部に対して(2,4−ペンタンジオナト)モリブデン(VI)ジオキシド(CAS番号:17524−05−9)0.8質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、モリブデンの含有量は0.23質量%であった。
[0088] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例21の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積784m2/g、全細孔容積Aは0.313cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は98%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.269cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.861であった。
・・・
[0091](実施例24)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状ピッチ100質量部に対してアセチルアセトナトコバルト(CAS番号:21679−46−9)1.5質量部を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1〜30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、コバルトの含有量は0.21質量%であった。
[0092] 得られた活性炭前駆体10gを賦活炉(容積0.044m3)に仕込み、CO2濃度が100容量%、温度約20℃の導入ガスを約15L/min(0℃1気圧換算)の流量で賦活炉内へ導入した。賦活炉内の雰囲気温度950℃で25分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例25の活性炭を得た。賦活処理の間、導入ガスの組成は変更しなかった。得られた活性炭は、比表面積844m2/g、全細孔容積Aは0.357cc/g、ミクロ細孔容積率({C/A}×100)は89%、細孔径1.0nm以下の細孔容積Bは0.315cc/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積比(B/A)は0.882であった。
・・・
[0113] 実施例1〜27及び比較例1〜11の製造方法で得られた活性炭の製造条件及び物性値を、表1〜表5に示す。また、実施例1〜27及び比較例1〜10の製造方法における賦活時間に対する比表面積の増加傾向を線形近似で示したグラフを図1〜図5に示す。
[0114][表1]

[0115]
[表2]

[0116][表3]



5 申立理由に対する判断
(1)甲第1号証を主たる証拠とする申立理由について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記4(1)エ[0061]によれば、表1の比表面積は窒素吸着等温線からBET法によって計算されたものであり、細孔容積は窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算されたものであることが記載されている。
甲第1号証には、上記4(1)エ[0089]によれば、表1には得られた活性炭の物性が記載されていること、また、同[0090]表1の実施例1によれば、比表面積が「987.5」m2/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積Aが「0.350」cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が「0.374」cc/gであることが記載されている。
以上を踏まえつつ、上記4(1)の記載事項を、実施例1の「活性炭」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「窒素吸着等温線からBET法によって計算されたBET比表面積が987.5m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.350cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.374cc/gである、活性炭。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「計算」、「BET比表面積が987.5m2/g」及び「活性炭」は、それぞれ、本件発明1の「算出」、「BET比表面積が750m2/g以上1000m2/g以下」及び「炭素質材料」に相当する。
すると、両者は、
「窒素吸着等温線からBET法によって算出したBET比表面積が750m2/g以上1000m2/g以下である、炭素質材料。」の点
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点A−1)
本件発明1では、「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積に対する前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が80%以上」であるのに対して、甲1発明では、「窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.350cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.374cc/g」である点
(相違点A−2)
本件発明1では、「BET比表面積」と「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.614nm以下」であるのに対して、甲1発明では、「BET比表面積が987.5m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.350cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.374cc/g」である点

(イ)相違点についての検討
a 相違点A−1について検討する。
本件発明1の細孔容積の算出方法(HK法)と甲1発明の細孔容積の算出方法(QSDFT法)は異なるものであるところ、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(後記参考文献を参照した。)。
したがって、本件発明1と甲1発明では、細孔容積の評価方法が異なっているため、相違点A−1に係る数値を対比し、異同を判断できない。
そうすると、当該相違点A−1は、実質的なものである。
しかも、炭素質材料において、「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積に対する前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が80%以上」とすることは、甲第3号証〜甲第6号証のいずれにも記載されていないため、甲1発明において、相違点A−1の本件発明1の構成とすることが容易想到の事項といえない。

・参考文献:金子克美ら,“新しいIUPAC勧告と気体吸着によるナノ
細孔体の細孔構造評価”,Accounts of Materials & Surfac
e Research,第5巻,第2号,2020年, p.25-32(第2
8頁右欄第17〜21行には「細孔径分布はどうかというと
、半経験的な方法であるスリット細孔に対するHorvat
h−Kawazoe(HK)法と円筒型細孔に対するSai
to−Foley(SF)法は細孔径を過小評価することが
知られている」、及び、第29頁左欄第8〜19行には「新
IUPACでは均一なカーボン細孔壁ではなく、カーボン細
孔壁に不均一構造性を考慮したQuenched soli
d DFT(QSDFT)法があることを紹介している1
4)。著者の一人(金子)の研究経験から言えばQSDF
T法には、NLDFT法からの細孔径分布の不合理性がより
少なく、多くのナノ細孔性カーボンの細孔径分布を相当よく
表していると言える。図2にはナノ細孔性グラフェンコロイ
ドの窒素吸着等温線から求めた細孔径分布を示す。QS−D
FT法とNL−DFT法の場合も、解析条件や細孔モデルに
よっても細孔径分布が変わってくる」と記載されている。)

b 申立人の主張についての検討
申立人は、上記相違点A−1に係る細孔容積に関して、本件発明1では、HK法により算出された値を使用しているのに対して、甲第1号証では、QSDFT法により算出された値を使用している点で異なるとした上で、両者は、それぞれの細孔容積の算出に際し、計算方法(式)が異なるのであって、算出された細孔容積の値には実質的な差異はないことを前提に、相違点A−1が実質的なものではない旨主張する(特許異議申立書第8頁第12行〜第9頁第5行)。
しかしながら、上記aで検討したとおり、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識であるから、異なる方法で算出された細孔容積の値間の差異は実質的なものであるといえる。
したがって、申立人の当該主張は、技術常識に基かないことを前提としたものであるから、採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で検討したとおり、本件発明1と甲1発明は、少なくとも相違点A−1で相違し、また、当該相違点A−1の本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものでもないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明と同一であるとも、甲1発明及び甲第2号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

ウ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明と同一、又は、同発明及び甲第2号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

エ 本件発明5について
(ア)甲1発明との対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると、上記イ(ア)と同様に対比されるから、両者は、
「炭素質材料。」の点
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点B−1)
本件発明5では、「ベンゼン吸着量が20重量%以上28重量%以下」であるのに対して、甲1発明では、そのようなことが特定されていない点
(相違点B−2)
本件発明5では、「窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積」と「炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.300〜1.600nm」であるのに対して、甲1発明では、「窒素吸着等温線からBET法によって計算されたBET比表面積が987.5m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.350cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.374cc/g」である点

(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、相違点B−2から検討する。
本件発明5の細孔容積の算出方法(炭酸ガス吸着DFT法)と甲1発明の細孔容積の算出方法(QSDFT法)は異なるものであるところ、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(上記イ(イ)a参照)。
したがって、本件発明5と甲1発明では、細孔容積の評価方法が異なっているため、相違点B−2に係る数値を対比し、異同を判断できない。
そうすると、当該相違点B−2は、実質的なものである。
しかも、炭素質材料において、「窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積」と「炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.300〜1.600nm」とすることは、甲第3号証〜甲第6号証のいずれにも記載されていないため、甲1発明において、相違点B−2の本件発明5の構成とすることが容易想到の事項といえない。

b 申立人の主張についての検討
申立人は、上記相違点B−2に係る細孔容積に関して、本件発明5では、炭酸ガス吸着DFT法により算出された値を使用しているのに対して、甲第1号証では、QSDFT法により算出された値を使用している点で異なるとした上で、両者は、それぞれの細孔容積の算出に際し、計算方法(式)が異なるのであって、算出された細孔容積の値には実質的な差異はないことを前提に、相違点B−2が実質的なものではない旨主張する(特許異議申立書第11頁下から1行〜第12頁第16行及び第12頁下から9行)。
しかしながら、上記aで検討したとおり、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識であるから、異なる方法で算出された細孔容積の値間の差異は実質的なものであるといえる。
したがって、申立人の当該主張は、技術常識に基かないことを前提としたものであるから、採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で検討したとおり、本件発明5と甲1発明は、少なくとも相違点B−2で相違し、また、当該相違点B−2の本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るものでもないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明と同一であるとも、甲1発明及び甲第2号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

オ 本件発明6〜9について
本件発明6〜9は、本件発明5を引用するものであって、本件発明5の特定事項の全てを含むものであるから、上記エに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

カ 本件発明10〜15について
本件発明10〜15は、本件発明1又は5を引用するものであって、本件発明1又は5の特定事項の全てを含むものであるから、上記イ又はエに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証〜甲第6号証に記載された技術的事項、並びに、周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

キ まとめ
以上、検討したとおり、甲第1号証を主たる証拠とした申立理由に理由はない。

(2)甲第2号証を主たる証拠とする申立理由について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、上記4(2)オ[0057]によれば、表1の比表面積は窒素吸着等温線からBET法によって計算されたものであり、細孔容積は窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算されたものであることが記載されている。
甲第2号証には、上記4(2)オ[0113]によれば、表1には得られた活性炭の物性が記載されていること、また、同[0114]表1の実施例1によれば、比表面積が「871」m2/g、細孔径1.0nm以下の細孔容積が「0.305」cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が「0.336」cc/gであることが記載されている。
以上を踏まえつつ、上記4(2)の記載事項を、実施例1の「活性炭」に注目して整理すると、甲第2号証には、
「窒素吸着等温線からBET法によって計算されたBET比表面積が871m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.305cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.336cc/gである、活性炭。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「計算」、「BET比表面積が871m2/g」及び「活性炭」は、それぞれ、本件発明1の「算出」、「BET比表面積が750m2/g以上1000m2/g以下」及び「炭素質材料」に相当する。
すると、両者は、
「窒素吸着等温線からBET法によって算出したBET比表面積が750m2/g以上1000m2/g以下である、炭素質材料。」の点
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点C−1)
本件発明1では、「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積に対する前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が80%以上」であるのに対して、甲2発明では、「窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.305cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.336cc/g」である点
(相違点C−2)
本件発明1では、「BET比表面積」と「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.614nm以下」であるのに対して、甲2発明では、「BET比表面積が871m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.305cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.336cc/g」である点

(イ)相違点についての検討
a 相違点C−1について検討する。
本件発明1の細孔容積の算出方法(HK法)と甲2発明の細孔容積の算出方法(QSDFT法)は異なるものであるところ、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(上記(1)イ(イ)a参照)。
したがって、本件発明1と甲2発明では、細孔容積の評価方法が異なっているため、当該数値を対比し、異同を判断できない。
そうすると、当該相違点C−1は、実質的なものである。
しかも、炭素質材料において、「窒素吸着等温線からHK法により算出された全細孔容積に対する前記HK法により算出された0.3875〜0.9125nmの範囲の細孔の細孔容積の割合が80%以上」とすることは、甲第3号証〜甲第6号証のいずれにも記載されていないため、甲2発明において、相違点C−1の本件発明1の構成とすることが容易想到の事項といえない。

b 申立人の主張についての検討
申立人は、上記相違点C−1に係る細孔容積に関して、QSDFT法により算出された値を、本件発明1のHK法により算出された値と等価なものであることを前提に、相違点C−1が実質的なものではない旨主張していると解される(特許異議申立書第9頁第16行〜第10頁第4行)。
しかしながら、上記aで検討したとおり、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識であるから、異なる方法で算出された細孔容積の値間の差異は実質的なものであるといえる。
したがって、申立人の当該主張は、技術常識に基かないことを前提としたものであるから、採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で検討したとおり、本件発明1と甲2発明は、少なくとも相違点C−1で相違し、また、当該相違点C−1の本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものでもないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明と同一であるとも、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

ウ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明と同一、又は、同発明並びに甲第1号証及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

エ 本件発明5について
(ア)甲2発明との対比
本件発明5と甲2発明とを対比すると、上記イ(ア)と同様に対比されるから、両者は、
「炭素質材料。」の点
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点D−1)
本件発明5では、「ベンゼン吸着量が20重量%以上28重量%以下」であるのに対して、甲2発明では、そのようなことが特定されていない点
(相違点D−2)
本件発明5では、「窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積」と「炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.300〜1.600nm」であるのに対して、甲2発明では、「窒素吸着等温線からBET法によって計算されたBET比表面積が871m2/gであり、窒素吸着等温線からQSDFT法を適用して計算された細孔径1.0nm以下の細孔容積が0.305cc/g、細孔径2.0nm以下の細孔容積が0.336cc/g」である点

(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、相違点D−2から検討する。
本件発明5の細孔容積の算出方法(炭酸ガス吸着DFT法)と甲2発明の細孔容積の算出方法(QSDFT法)は異なるものであるところ、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識である(上記(1)イ(イ)a参照)。
したがって、本件発明5と甲2発明では、細孔容積の評価方法が異なっているため、当該数値を対比し、異同を判断できない。
そうすると、当該相違点D−2は、実質的なものである。
しかも、炭素質材料において、「窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積」と「炭酸ガス吸着DFT法により算出された全細孔容積」とを用いて、式「D=4000×V/S」「(式中、D:平均細孔直径(nm),V:全細孔容積(mL/g),S:比表面積(m2/g)を表す)」により得られる「平均細孔直径が1.300〜1.600nm」とすることは、甲第3号証〜甲第6号証のいずれにも記載されていないため、甲2発明において、相違点D−2の本件発明5の構成とすることが容易想到の事項といえない。

b 申立人の主張についての検討
申立人は、上記相違点D−2に係る細孔容積に関して、QSDFT法により算出された値を、本件発明1のHK法により算出された値と等価なものであることを前提に、相違点D−2が実質的なものではない旨主張していると解される(特許異議申立書第13頁第2〜15行)。
しかしながら、上記aで検討したとおり、算出方法の違いによって喩え同一の細孔分布を有する活性炭であっても算出された数値が異なることは、当業者にとって技術常識であるから、異なる方法で算出された細孔容積の値間の差異は実質的なものであるといえる。
したがって、申立人の当該主張は、技術常識に基かないことを前提としたものであるから、採用できない。

(ウ)小括
上記(イ)で検討したとおり、本件発明5と甲2発明は、少なくとも相違点D−2で相違し、また、当該相違点D−2の本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るものでもないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は甲2発明と同一であるとも、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるともいえない。

オ 本件発明6〜9について
本件発明6〜9は、本件発明5を引用するものであって、本件発明5の特定事項の全てを含むものであるから、上記エに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第1号証及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

カ 本件発明10〜15について
本件発明10〜15は、本件発明1又は5を引用するものであって、本件発明1又は5の特定事項の全てを含むものであるから、上記イ又はエに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第1号証及び甲第3号証〜甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

キ まとめ
以上、検討したとおり、甲第2号証を主たる証拠とした申立理由に理由はない。

6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-02-07 
出願番号 P2022-506767
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B01J)
P 1 651・ 121- Y (B01J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 金 公彦
原 和秀
登録日 2022-04-13 
登録番号 7058379
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 炭素質材料及びその製造方法、並びに浄水用フィルター及び浄水器  
代理人 宇佐美 綾  
代理人 小谷 昌崇  

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