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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B |
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管理番号 | 1395253 |
総通号数 | 15 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-11-08 |
確定日 | 2023-02-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7064065号発明「セラミック焼結体、基板、及び、セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7064065号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7064065号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)6月21日(優先権主張 令和2年6月22日)を国際出願日とする出願であって、令和4年4月25日にその特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月8日に、請求項1〜8に係る特許について、特許異議申立人青木 眞理(以下、「申立人」という。)により、甲第1〜2号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 主成分としてセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体であって、 前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であり、 前記酸化物粒子は、YAG(3Y2O3・5Al2O3)及びYAP(Y2O3・Al2O3)を含む、セラミック焼結体。 【請求項2】 前記YAP(Y2O3・Al2O3)に対する前記YAG(3Y2O3・5Al2O3)の質量比が0.2以上である、請求項1に記載のセラミック焼結体。 【請求項3】 前記平均粒径が5μm以下である、請求項1又は2に記載のセラミック焼結体。 【請求項4】 主成分としてセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体であって、 前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であり、 前記平均粒径が2.5μm以下である、セラミック焼結体。 【請求項5】 前記酸化物粒子は、希土類元素、前記希土類元素とは異なる遷移元素、アルカリ土類金属元素、及びアルミニウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種を構成元素として含有する酸化物を含む、請求項4に記載のセラミック焼結体。 【請求項6】 前記酸化物粒子は、YAG(3Y2O3・5Al2O3)及びYAP(Y2O3・Al2O3)を含む、請求項4又は5に記載のセラミック焼結体。 【請求項7】 請求項1〜6のいずれか一項に記載のセラミック焼結体で構成されるセラミック板と、前記セラミック板に取り付けられる金属部と、を備える基板。 【請求項8】 窒化アルミニウムを含むセラミック粒子と焼結助剤とを含む混合物を加熱して焼成しセラミック焼結体を得る工程を有し、 前記焼結助剤は希土類元素を構成元素とする酸化物と酸化アルミニウムとを含んでおり、 前記工程において、前記混合物を、1760〜1840℃の温度範囲で1〜7時間焼成することによって前記焼結助剤の凝集を抑制して、前記セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について 本件特許明細書の段落【0015】、【0042】、【0046】〜【0049】には、本件発明1に係る「セラミック焼結体」の「セラミック粒子」として窒化アルミニウム粒子が記載されており、このことからみれば、前記「セラミック粒子」は窒化アルミニウム粒子であるといえる。 ところが、本件発明1においては前記「セラミック粒子」が窒化アルミニウム粒子であることが特定されていないし、本件特許の優先日当時の技術常識からみても、前記「セラミック粒子」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を本件発明1まで拡張ないし一般化することはできないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないのであり、本件発明2〜7について検討しても事情は同じであるので、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。 2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について 前記1に記載したのと同様の理由により、本件発明1に係る「セラミック焼結体」の「セラミック粒子」がどのようなものを指すのかが不明確であるから、本件発明1は明確でないのであり、本件発明2〜7について検討しても事情は同じであるので、特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない。 3 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について (1)本件発明1及び3〜6は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1及び3〜6に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明1〜8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2001−354479号公報 甲第2号証:特開2012−111671号公報 第4 特許異議申立理由についての当審の判断 1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 (2)本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には、以下のア〜イの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。 ア「【0001】 本開示は、セラミック焼結体、基板、及び、セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、モーター等の産業機器、及び電気自動車等の製品には、大電力制御用のパワーモジュールが用いられている。このようなパワーモジュールには、半導体素子から発生する熱を効率的に拡散するとともに、漏れ電流を抑制するため、セラミック板を備える回路基板等が用いられている。このようなセラミック板に用いられるセラミック焼結体は、通常、セラミック原料粉末を所定形状に成形してセラミック成形体とした後に、セラミック成形体を焼結することで製造される。 【0003】 セラミック焼結体としては、窒化物、炭化物、硼化物、又は珪化物等で構成されるものが知られている。例えば、特許文献1では、焼結助剤として酸化物換算で3〜20質量部のZr,Tiの群から選択される窒化物を用いて、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率と機械的強度を高くする技術が提案されている。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 今後、パワーモジュールは、高電圧で利用されるうえに、その用途によっては高度な信頼性も有することも求められる。このため、安定的に電気絶縁性を高めることが可能な技術が必要であると考えられる。そこで、本開示では、電気絶縁性を十分に高くすることが可能なセラミック焼結体を提供する。また、そのようなセラミック焼結体を有することによって優れた絶縁信頼性を有する基板を提供する。また、セラミック焼結体の絶縁信頼性を向上することが可能な方法を提供する。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本開示は、一つの側面において、主成分としてセラミック粒子と、副成分としてセラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体であって、酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下である、セラミック焼結体を提供する。このようなセラミック焼結体は、酸化物粒子の凝集が十分に抑制されている。したがって、酸化物粒子による短絡の発生が抑制され優れた電気絶縁性を有する。 【0007】 酸化物粒子は、希土類元素、希土類元素とは異なる遷移元素、アルカリ土類金属元素、及びアルミニウム元素からなる群より選ばれる少なくとも一種を構成元素として含有する酸化物を含んでもよい。このような酸化物は凝集し難いため、電気絶縁性を一層向上することができる。 ・・・ 【発明の効果】 【0012】 本開示によれば、電気絶縁性を十分に高くすることが可能なセラミック焼結体を提供することができる。また、そのようなセラミック焼結体を有することによって優れた絶縁信頼性を有する基板を提供することができる。また、セラミック焼結体の絶縁信頼性を向上することが可能な方法を提供することができる。 ・・・ 【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、場合により図面を参照して、本開示の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。 【0015】 本実施形態のセラミック焼結体は、主成分としてセラミック粒子と、副成分として主成分中に分散し、セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含む。主成分であるセラミック粒子は、窒化物、炭化物、硼化物、酸化物及び珪化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよい。窒化物としては、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si3N4)が挙げられる。酸化物としては、酸化アルミニウム(Al2O3)等が挙げられる。セラミック粒子は、優れた電気絶縁性と高い熱伝導率とを両立する観点から、構成元素としてアルミニウムを有するセラミックで構成されていてよく、例えば窒化アルミニウム粒子であってもよい。」 イ「【実施例】 【0039】 以下、実施例及び比較例を挙げて本開示の内容をさらに具体的に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。 【0040】 [実施例1] (セラミック焼結体の作製) 窒化アルミニウム粉末(平均粒径(メジアン径):1.2μm)と、酸化イットリウム粉末(平均粒径(メジアン径):0.6μm)と、酸化アルミニウム粉末(平均粒径(メジアン径):0.25μm)とを、97:1.5:1.5の質量比で配合し、ボールミルを用いて混合して混合粉末を得た。混合粉末100質量部に対し、セルロースエーテル系バインダー(信越化学工業株式会社製、商品名:メトローズ)を6質量部、グリセリン(花王株式会社製、商品名:エキセパール)を5質量部、及びイオン交換水を10質量部添加して、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合し、成形原料を得た。この成形原料を、ドクターブレード法によって成形し、シート状の成形体(厚み:1.4mm)を作製した。 【0041】 この成形体に、離型剤として窒化ホウ素粉を塗布した。同じ手順で作製した15枚の成形体を積層し、空気中において570℃で5時間加熱して脱脂した。次に、脱脂した積層体を加熱炉に入れて、窒素ガス雰囲気中(大気圧)、1800℃まで昇温した。その後、積層体を1800℃で4時間加熱した後、加熱炉内で放冷した。このようにして、セラミック焼結体を得た。 【0042】 (副成分の組成分析) 得られたセラミック焼結体を、約20℃の水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度:10質量%)に24時間浸漬し、主成分である窒化アルミニウム粒子を加水分解反応によって溶解した。残存した粒状の副成分を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。 ・・・ 【0046】 [実施例2] 酸化イットリウム粉末として、平均粒径(メジアン径)が0.6μmのものに代えて、1.0μmのものを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミック焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、セラミック焼結体に含まれる副成分の組成分析及び粒度分布測定を行った。組成分析の結果、実施例1と同様に副成分は焼結助剤に由来する酸化物粒子であることが確認された。粒度分布の測定結果から求めた平均粒径D、5D、5D以上の粒径を有する粒子の個数基準の比率、及びD90は、表1に示すとおりであった。 【0047】 [実施例3] 酸化イットリウム粉末に代えて、酸化セリウム粉末(平均粒径(メジアン径):0.7μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミック焼結体を作製した。窒化アルミニウム粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化アルミニウム粉末との配合比(質量比)は、97:1.5:1.5とした。そして、実施例1と同様にして、セラミック焼結体に含まれる副成分の組成分析及び粒度分布測定を行った。組成分析の結果、実施例1と同様に副成分は焼結助剤に由来する酸化物粒子であることが確認された。粒度分布の測定結果から求めた平均粒径D、5D、5D以上の粒径を有する粒子の個数基準の比率、及びD90は、表1に示すとおりであった。 【0048】 [実施例4] 1800℃での保持時間を6時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミック焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、セラミック焼結体に含まれる副成分の組成分析及び粒度分布測定を行った。組成分析の結果、実施例1と同様に副成分は焼結助剤に由来する酸化物粒子であることが確認された。YAPに対するYAGの質量比は実施例1よりも小さかった。図5に、個数基準の粒度分布の測定結果を示す。この測定結果から求めた平均粒径D、5D、5D以上の粒径を有する粒子の個数基準の比率、及びD90を表1に併せて示した。 【0049】 [実施例5] 1800℃での保持時間を5時間にしたこと以外は、実施例1と同様にしてセラミック焼結体を作製した。そして、実施例1と同様にして、セラミック焼結体に含まれる副成分の組成分析及び粒度分布測定を行った。組成分析の結果、実施例1と同様に副成分は焼結助剤に由来する酸化物粒子であることが確認された。図6に、個数基準の粒度分布の測定結果を示す。この測定結果から求めた平均粒径D、5D、5D以上の粒径を有する粒子の個数基準の比率、及びD90を表1に併せて示した。」 (3)サポート要件について ア 前記(2)アの記載によれば、本件発明は、セラミック焼結体に関するものであって、近年、モーター等の産業機器、及び電気自動車等の製品には、大電力制御用のパワーモジュールが用いられており、このようなパワーモジュールには、半導体素子から発生する熱を効率的に拡散するとともに、漏れ電流を抑制するため、セラミック板を備える回路基板等が用いられており、このようなセラミック板に用いられるセラミック焼結体は、通常、セラミック原料粉末を所定形状に成形してセラミック成形体とした後に、セラミック成形体を焼結することで製造されるのであるが、そのようなセラミック焼結体としては、窒化物、炭化物、硼化物、又は珪化物等で構成されるものが知られている。 そして、前記セラミック焼結体は、今後、パワーモジュールが高電圧で利用される上に、その用途によっては高度な信頼性も有することが求められることから、安定的に電気絶縁性を高めることが可能な技術が必要である、という課題(以下、「本件課題」という。)を有するものである。 そこで、本件発明は、主成分として、セラミック粒子と、副成分としてセラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体であって、酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であるセラミック焼結体を提供するものであり、このようなセラミック焼結体は、酸化物粒子の凝集が十分に抑制されているので、酸化物粒子による短絡の発生が抑制され優れた電気絶縁性を有するものであり、これにより、電気絶縁性を十分に高くすることが可能なセラミック焼結体を提供することができ、本件課題を解決できるものである。 そして、主成分であるセラミック粒子は、窒化物、炭化物、硼化物、酸化物及び珪化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよく、窒化物としては、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si3N4)が挙げられ、酸化物としては、酸化アルミニウム(Al2O3)等が挙げられるものであり、セラミック粒子は、優れた電気絶縁性と高い熱伝導率とを両立する観点から、構成元素としてアルミニウムを有するセラミックで構成されていてよく、例えば窒化アルミニウム粒子であってもよいものであり、前記(2)イの実施例1〜5には、主成分であるセラミック粒子を窒化アルミニウム粒子とした例が記載されている。 イ 前記アによれば、本件発明に係るセラミック焼結体は、主成分として、セラミック粒子と、副成分としてセラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体において、酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する酸化物粒子の個数基準の比率を15%以下とすることにより、酸化物粒子の凝集を十分に抑制し、酸化物粒子による短絡の発生が抑制され優れた電気絶縁性を有するものとすることで、本件課題を解決するものである。 そして、このときの主成分としてのセラミック粒子は、窒化物、炭化物、硼化物、酸化物及び珪化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでいてよいものであるが、前記(2)ア(段落【0003】)の記載によれば、これは、従来知られたセラミック焼成体において通常用いられる材料をいうものにすぎず、前記(2)ア(段落【0015】)や(2)イの実施例1〜5に記載された窒化アルミニウム粒子は、このうちの好ましいセラミック粒子の例として挙げられたものにすぎない。 ウ 前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、主成分として、通常用いられるセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体において、酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する酸化物粒子の個数基準の比率を15%以下とすることで、本件課題を解決するものであることを理解することができる。 エ そして、主成分として、通常用いられるセラミック粒子と、副成分としてセラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体において、酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する酸化物粒子の個数基準の比率を15%以下とすることは、本件発明1における、「主成分としてセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体であって、前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」る、との発明特定事項にほかならない。 このことと、前記ウによれば、当業者は、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された発明で、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するというべきであって、同請求項2〜7について検討しても事情は同じである。 (4)申立人の主張について 本件発明1においては、「セラミック粒子」が窒化アルミニウム粒子に特定されていないが、前記(2)ア(段落【0006】)に記載されているとおり、「セラミック焼結体」において、副成分として「セラミック粒子」とは異なる「酸化物粒子」が存在する場合に、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下」として、「酸化物粒子」の凝集を抑制することによって、「酸化物粒子」による短絡の発生を抑制し優れた電気絶縁性をもたらすものである。 そして、副成分としての「酸化物粒子」の凝集を抑制し、「酸化物粒子」による短絡の発生を抑制するという作用が、主成分が窒化アルミニウム粒子でなければ成り立たないことを裏付ける証拠はなく、むしろ、そのほかの窒化物、炭化物、硼化物、珪化物等を主成分とした場合であっても、副成分としての「酸化物粒子」の凝集が抑制されれば、「酸化物粒子」による短絡の発生を抑制できるのであるから、本件発明1において「セラミック粒子」が窒化アルミニウム粒子に特定されていないからといって、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしていないとまではいえないので、前記第3の1の申立人の主張は採用できない。 (5)小括 したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の1の特許異議申立理由は理由がない。 2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について (1)明確性要件の判断手法 請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 (2)明確性要件について 前記1(3)イに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1における「セラミック粒子」は、窒化物、炭化物、硼化物、酸化物及び珪化物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む「セラミック粒子」であることを理解することができるから、本件発明1において「セラミック粒子」が窒化アルミニウム粒子に特定されていないとしても、前記「セラミック粒子」が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するというべきであり、同請求項2〜7について検討しても事情は同じであるから、前記第3の2の申立人の主張は採用できない。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。 3 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について (1)甲各号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (ア)甲第1号証には、以下のa〜gの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 窒化アルミニウム結晶組織にYAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であり、かつ熱伝導率が188W/m・K以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。 【請求項2】 窒化アルミニウム粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素を添加した原料混合体を成形し、得られた成形体を温度400〜500℃で脱脂処理し、得られた脱脂成形体を1700〜2000℃の焼結温度で加熱焼結した後に、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下に制御することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。」 b「【0009】一方原料粉末として平均粒径が0.5μm以上のAlN粉末を使用する場合は、その原料粉末単独では焼結性が良好でないため、ホットプレス法以外には助剤無添加では緻密な焼結体を得ることが困難であり、量産性が低い欠点があった。そこで常圧焼結法によって効率的に焼結体を量産しようとする場合には、焼結体の緻密化およびAlN原料粉末中の不純物酸素がAlN結晶粒子内へ固溶することを防止するために、焼結助剤として、酸化イットウリム(Y2O3)などの希土類酸化物や酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物等を添加することが一般に行なわれている。 【0010】これらの焼結助剤は、AlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応してイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG,3Y2O3・5Al2O3)、イットリア−アルミナ化合物(YAL,Y2O3・Al2O3)、イットリア−アルミナー金属化合物(YAM,2Y2O3・Al2O3)などから成る液相を形成し、焼結体の緻密化を達成するとともに、この不純物酸素を粒界相として固定し、高熱伝導率化も達成するものと考えられている。またこれらの液相は焼結後においてAlN結晶粒の粒界部にガラス質または結晶質として凝固して粒界相を形成し、この粒界相がAlN結晶粒を相互に強固に結合せしめAlN焼結体全体の強度を高めると考えられている。 【0011】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら従来の製造方法においては、原料粉末の平均粒径、焼結助剤の種類および添加量、脱脂焼結条件等を厳正に管理した場合においても、焼結体の強度が不足して製品歩留りが低下したり、所定の熱伝導率が得られず、AlNの最大利用特性である優れた放熱特性が損われる場合が多かった。 【0012】本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、高強度で熱伝導率が高く放熱特性が優れた窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。 【0013】 【課題を解決するための手段】本願発明者らは上記目的を達成するため、まず焼結体の強度や熱伝導率が低下する原因を実験により解明することを試みた。・・・ 【0014】すなわち本発明者らは加熱焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度の大小が、最終的に製造される焼結体の品質特性に大きな影響を及ぼすことを突き止めた。 【0015】すなわち、従来の製造方法においては、成形体を所定の焼結温度で一定時間加熱保持して緻密化焼結を実施した後に、焼成炉の加熱用電源をOFFとし焼結体を炉冷していたため、焼成炉の形式によって差はあるが、焼結体の冷却速度が毎時400〜800℃程度と極めて大きな値となっており、焼結体の窒化アルミニウム結晶組織が粗雑になる大きな原因であることが確認された。そしてX線回折図や走査型電子顕微鏡写真等で焼結体の破面を観察したところ、図2に示すように、直径Dbが5〜10μm程度の粗大な酸化物粒界相5や直径Dpが50〜100μm程度の粗大な気孔6がAlN結晶粒7の粒界部に多数形成されていることが判明した。 【0016】これらの粒界相5は、焼結助剤として添加したY2O3などの希土類化合物が焼結時に窒化アルミニウム原料粉末表面のアルミニウム酸化物と反応して生成した液相(成分:YAG,YAL,YAMなど)が冷却時に凝集偏析して形成されたものである。また粗大な粒界相5の周辺には液相がなくなった気孔6が形成され、上記粒界相5および気孔6は共に窒化アルミニウム焼結体の熱伝導を妨げる抵抗として作用するとともに、気孔6は未焼結部となりAlN結晶粒7相互の接合強度が低下し、焼結体全体としての強度が低下してしまうことが判明した。 【0017】一方、焼成炉の加熱装置に対する通電量を制御して焼結直後の焼結体の冷却速度を、従来の炉冷による冷却速度より低く設定して得られた焼結体の結晶組織を観察し、また焼結体の各種特性を測定した。その結果、図1に示すようにいずれも窒化アルミニウム結晶組織の粒界相5aの直径Dbが小さく、液相の凝集偏析がなく、微細な粒界相が均一に分布した結晶組織が得られた。また気孔6aについても直径Dpが小さく、凝集が少ない均一分布を有する組織が得られ、高い熱伝導率および高強度を共に備えるAlN焼結体が得られた。 【0018】本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。・・・」 c「【0022】本発明方法において使用され、焼結体の主成分となる窒化アルミニウム(AlN)粉末としては、焼結性および熱伝導性を考慮して不純物酸素含有量が7重量%以下、好ましくは3重量%以下に抑制され、平均粒径が0.05〜5μm程度、好ましくは3μm以下のものを使用する。 【0023】希土類元素は焼結助剤として窒化アルミニウム原料粉末に添加される。焼結助剤の具体例としては希土類元素(Y,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Gdなど)の酸化物、窒化物、もしくは焼結操作によりこれらの化合物となる物質(炭酸塩等)が単独で、または2種以上混合して使用され、特に酸化イットリウム(Y2O3)が好ましい。これらの焼結助剤は、窒化アルミニウムの原料粉末表面のアルミニウム酸化物相と反応して複合酸化物(Al5Y3O12,AlYO3,Al2Y4O9など)の液相を形成し、この液相が焼結体の高密度化(緻密化)をもたらす。例えばY2O3を焼結助剤として用いた場合、アルミン酸イットリウムが生成し液相焼結が進行すると考えられる。・・・」 d「【0029】次に上記窒化アルミニウム焼結体を製造する場合の概略工程について説明する。すなわち窒化アルミニウムに所定量の焼結助剤、有機バインダ等の必要な添加剤を加えて原料混合体を調製し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。・・・ 【0030】上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中、例えば窒素ガス雰囲気中で温度400〜500℃で1〜2時間加熱して、予め添加していた有機バインダを充分に除去する。 【0031】次に脱脂処理された成形体は、焼成容器内に収容して焼成炉内において多段に積層され、この配置状態で複数の成形体は一括して所定温度で焼結される。焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700〜2000℃に2〜10時間程度加熱して実施される。焼結雰囲気は、窒素ガス雰囲気、または窒素ガスを含む還元性雰囲気で行なう。・・・」 e「【0035】 【実施例】次に下記の実施例を参照して本発明に係る窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法による効果をより具体的に説明する。 【0036】実施例1〜3 不純物として酸素を1.0重量%含有し、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末に対して、焼結助剤としてのY2O3(酸化イットリウム)を5重量%添加し、エチルアルコール中で30時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体を調製した。次に乾燥して得た原料粉末混合体をプレス成形機の成形用金型内に充填して1200kg/cm2の加圧力にて圧縮成形して円板状放熱板の成形体を多数調製し、引き続き各成形体を空気中で温度375℃で2時間加熱して脱脂処理した。 【0037】次に前記工程で脱脂処理した複数の成形体を、図3に示すように2個ずつまとめて高純度AlN製焼成容器3内に収容し、この4個の焼成容器3をN2ガスを封入した焼成炉内に2段に積層配置した。そして焼成炉1内の温度を1815℃まで高めた状態で4時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼成炉に付設した加熱装置への通電量を減少させて焼成炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度がそれぞれ100℃/hr(実施例1)、50℃/hr(実施例2)、25℃/hr(実施例3)、となるように調整して焼結体を冷却した。その結果、それぞれ直径100mm、厚さ3.0mmである実施例1〜3に係るAlNセラミックス焼結体を8個ずつ調製した。 ・・・ 【0040】そして得られた実施例1〜3および比較例1〜2に係る各窒化アルミニウム焼結体の特性を評価するため、各焼結体表面部をX線解折法によって分析し、さらに各焼結体の破面を走査型電子顕微鏡によって観察することによって、粒界相の最大径、気孔の最大径を測定するとともに、窒化アルミニウム結晶組織における粒界相の凝集の有無および気孔の凝集の有無を観察した。さらに各焼結体の熱伝導率および曲げ強度の平均値を測定し、下記表1右欄に示す結果を得た。 【0041】 【表1】 【0042】表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜3に係る窒化アルミニウム焼結体においては、比較例1〜2と比較して緻密化焼結完了直後における焼結体の冷却速度を従来法より低く設定しているため、結晶組織内において液相の凝集偏析が少なく、また気孔の凝集もなかった。また焼結体を顕微鏡観察したところ、結晶組織はいずれも図1に示すように粒界相5aの最大径Dbが1μm未満と小さく、また気孔6aの最大径Dpも1μm未満と微小であった。そして微細な粒界相が均一に分布した結晶組織であるため、高密度(高強度)で高熱伝導度を有する放熱性の高い焼結体が得られた。」 f「【図面の簡単な説明】 ・・・ 【図2】従来の窒化アルミニウム焼結体の結晶組織を模式的に示す図。」 g「【図2】 」 (イ)前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、窒化アルミニウム結晶組織にYAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であり、かつ熱伝導率が188W/m・K以上である「窒化アルミニウム焼結体」、及び、窒化アルミニウム粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素を添加した原料混合体を成形し、得られた成形体を温度400〜500℃で脱脂処理し、得られた脱脂成形体を1700〜2000℃の焼結温度で加熱焼結した後に、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下に制御する「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」が記載されている。 そして、前記(ア)cの記載によれば、前記「窒化アルミニウム焼結体」及び「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」においては、焼結体の主成分となる窒化アルミニウム(AlN)粉末として、焼結性および熱伝導性を考慮して不純物酸素含有量が7重量%以下、好ましくは3重量%以下に抑制され、平均粒径が0.05〜5μm程度、好ましくは3μm以下のものが使用され、また、希土類元素が焼結助剤として窒化アルミニウム原料粉末に添加され、焼結助剤の具体例としては希土類元素(Y,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Gdなど)の酸化物、窒化物、もしくは焼結操作によりこれらの化合物となる物質(炭酸塩等)が単独で、または2種以上混合して使用され、特に酸化イットリウム(Y2O3)が好ましいものである。 更に、前記(ア)dの記載によれば、前記「窒化アルミニウム焼結体」及び「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」においては、焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700〜2000℃に2〜10時間程度加熱して実施されるものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、 「窒化アルミニウム結晶組織にYAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む粒界相が形成され、粒界相の最大径が1μm以下であり、かつ熱伝導率が188W/m・K以上である、窒化アルミニウム焼結体であって、 焼結体の主成分となる窒化アルミニウム(AlN)粉末として、焼結性および熱伝導性を考慮して不純物酸素含有量が7重量%以下、好ましくは3重量%以下に抑制され、平均粒径が0.05〜5μm程度、好ましくは3μm以下のものが使用され、 希土類元素が焼結助剤として窒化アルミニウム原料粉末に添加され、焼結助剤の具体例としては希土類元素(Y,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Gdなど)の酸化物、窒化物、もしくは焼結操作によりこれらの化合物となる物質(炭酸塩等)が単独で、または2種以上混合して使用され、特に酸化イットリウム(Y2O3)が好ましいものであり、 焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700〜2000℃に2〜10時間程度加熱して実施される、窒化アルミニウム焼結体。」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 また、甲第1号証には、 「窒化アルミニウム粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素を添加した原料混合体を成形し、得られた成形体を温度400〜500℃で脱脂処理し、得られた脱脂成形体を1700〜2000℃の焼結温度で加熱焼結した後に、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下に制御する、窒化アルミニウム焼結体の製造方法であって、 焼結体の主成分となる窒化アルミニウム(AlN)粉末として、焼結性および熱伝導性を考慮して不純物酸素含有量が7重量%以下、好ましくは3重量%以下に抑制され、平均粒径が0.05〜5μm程度、好ましくは3μm以下のものが使用され、 希土類元素が焼結助剤として窒化アルミニウム原料粉末に添加され、焼結助剤の具体例としては希土類元素(Y,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Gdなど)の酸化物、窒化物、もしくは焼結操作によりこれらの化合物となる物質(炭酸塩等)が単独で、または2種以上混合して使用され、特に酸化イットリウム(Y2O3)が好ましいものであり、 焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700〜2000℃に2〜10時間程度加熱して実施される、窒化アルミニウム焼結体の製造方法。」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、以下の(ア)〜(ウ)の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 焼結助剤として酸化イットリウムを使用して窒化アルミニウム粉末を焼成することにより得られた窒化アルミニウム焼結体を、1750℃を超える温度下で処理する工程を含む該窒化アルミニウム焼結体の加工物の製造において、上記処理に供する窒化アルミニウム焼結体として、粒界相にYAG(3Y2O3・5Al2O3)結晶相とYAP(Y2O3・Al2O3)結晶相が共存し、且つ、上記YAG結晶相、YAP結晶相に対するYAM(2Y2O3・Al2O3)結晶相の存在割合が、窒化アルミニウム(100)面に対するYAG結晶相(211)面、YAP結晶相(220)面及びYAM結晶相(210)面のX線回折パターンの強度比の合計の10%以下である窒化アルミニウム焼結体を使用することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の加工物の製造方法。」 (イ)「【0006】 ところが、前記焼結助剤として酸化イットリウムを使用した窒化アルミニウム基板は、高い熱伝導性を達成することができる一方、これを上記ポストファイア法による高温度の熱処理に供した場合、得られる加工物において反り等の変形が起こり易いという問題を有する。 【0007】 そして、かかる変形は、高度な平坦性が要求される近年の電子部品搭載用基板に適用する場合に問題となる場合が多い。そのため、窒化アルミニウム焼結体の熱処理後の加工物において、歩留りの低下や、後工程で変形を補正するための手間が増大し、生産性の低下に繋がるという問題を有していた。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 従って、本発明の目的は、焼結助剤として酸化イットリウムを使用して得られた窒化アルミニウム焼結体を、前記ポストファイア法などのように、高温下、特に、1750℃を超える温度下で処理して加工物を製造する場合において、熱処理時の熱変形が極めて小さく抑制され、外観、寸法精度が共に良好であると共に、該窒化アルミニウム焼結体自体も良好な熱伝導特性を有する加工物を製造することができる方法を提供するものである。」 (ウ)「【0070】 実施例1 (窒化アルミニウム焼結体の製造) 内容積が10(リットル:l)のナイロン製ポットにビッカース硬さ1200でボール径10mmのアルミナ製ボールを見掛け充填率で40%入れ、次いで、窒化アルミニウム粉末(酸素濃度0.8質量%)100質量部に対して、酸化イットリウムを3質量部、表面活性剤としてソルビタントリオレート2質量部、溶媒としてトルエン21質量部、エタノール12.25質量部、ブタノール1.75質量部を添加して、一回目のボールミル混合を16時間行なった後、この混合物に結合剤としてポリビニルブチラール8質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3.5部、溶媒としてトルエン27質量部、エタノール15.75質量部、ブタノール2.25質量部を入れて二回目のボールミル混合を18時間行ない、白色の泥しょう(以下スラリーという)を得た。得られたスラリーは、目開き10μmのフィルターでろ過した後、脱溶媒し、粘度を20000〜30000cpsに調整した。その後、ドクターブレード法によりシート成形を行ない、室温で1時間、60℃で2時間、100℃で1時間乾燥して幅200mm、厚さ1.5mmのグリーンシートを作製した。さらに、打ち抜きプレス加工機により、140×120mmのグリーン体に加工した。 このようにして得られたグリーン体を、空気中で530℃の温度で4時間脱脂処理し、残炭率が400ppmの脱脂体を得た。その後、上記脱脂体を窒化硼素製の焼成容器にいれて、窒素雰囲気中で1740℃、5時間焼成した。得られた焼結体の物性を表1に示す。 【0071】 (高温加工処理) 上記方法によって得られた窒化アルミニウム焼結体基板に対して、高温加工処理として、ポストファイア法によるペースト層焼き付けを行った。 【0072】 平均粒径3.0μmのタングステン粉末100質量部と平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末5質量部とエチルセルロース2質量部とテルピネオール10質量部を混練してタングステンペーストを調整した。次いで、平均粒径1.5μmの窒化アルミニウム粉末100質量部と酸化イットリウム5質量部とエチルセルロース10質量部とテルピネオール40質量部を混練して窒化アルミニウムペーストを調整した。窒化アルミニウム焼結体基板上に上記タングステンペーストをスクリーン印刷した後、その上に上記窒化アルミニウムペーストをスクリーン印刷して絶縁パターンを形成した。このとき、パターンユニットが該窒化アルミニウム焼結体基板上に縦横夫々10個ずつ、格子状に配置されるようにパターン形成を行った。 【0073】 上記方法によってパターンが形成された窒化アルミニウム焼結体基板を空気中で200℃、2時間で脱脂処理を行った後、窒素雰囲気下で1800℃、8時間の焼成を行った。得られたメタライズド基板に無電解めっき処理を施した後、該めっき体を切断し、100個のパターンユニットを得た。上記高温処理工程によって得られたパターンユニットの反り検査を行い、反りが3μm/mm以下のユニットを合格とし、その合格数の割合を「反り合格率」として表1に併せて示した。 【0074】 (実施例2) 実施例1において、酸化イットリウムの添加量を2.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得、評価を行った。得られた焼結体の物性及び高温処理によって得られた加工物の合格率を表1に示す。 【0075】 (実施例3) 実施例1において、酸化イットリウムの添加量を3.5質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得、評価を行った。得られた焼結体の物性及び高温処理によって得られた加工物の合格率を表1に示す。 【0076】 (実施例4) 実施例1において、用いた窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を0.6質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得、評価を行った。得られた焼結体の物性及び高温処理によって得られた加工物の合格率を表1に示す。 【0077】 (実施例5) 実施例1において、用いた窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を1.3質量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得、評価を行った。得られた焼結体の物性及び高温処理によって得られた加工物の合格率を表1に示す。 ・・・ 【0082】 【表1】 」 (2)対比・判断 ア 本件発明1〜3及び7について (ア)本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「窒化アルミニウム(AlN)粉末」及び「窒化アルミニウム焼結体」は、それぞれ、本件発明1における「主成分として」の「セラミック粒子」及び「セラミック焼結体」に相当する。 また、甲1発明1において「粒界相」に含まれる「YAG,YAMおよびYAL」は、前記(1)ア(ア)b(段落【0010】)の記載によれば、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG,3Y2O3・5Al2O3)、イットリア−アルミナ化合物(YAL,Y2O3・Al2O3)、イットリア−アルミナ−金属化合物(YAM,2Y2O3・Al2O3)のことであって、これらは、前記セラミック粒子とは異なる酸化物といえるから、前記「粒界相」は、本件発明1における「副成分として」の「前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子」に相当する。 すると、本件発明1と甲1発明1とは、 「主成分としてセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「セラミック焼結体」において、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」るのに対して、甲1発明1は、「粒界相の最大径が1μm以下であ」る点。 ・相違点2:本件発明1は、「セラミック焼結体」の「前記酸化物粒子」が、「YAG(3Y2O3・5Al2O3)及びYAP(Y2O3・Al2O3)を含む」のに対して、甲1発明1は、「酸化物粒子」が「YAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む」点。 (イ)始めに、前記(ア)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、前記(1)ア(ア)a、e(段落【0042】)の記載によれば、甲第1号証には、窒化アルミニウム結晶組織に形成された、YAG,YAMおよびYALの少なくとも一種を含む「酸化物粒子」の最大径が1μm以下と微細であることや、当該微細な「酸化物粒子」が均一に分布した結晶組織であるため、高密度(高強度)で高熱伝導度を有する放熱性の高い焼結体が得られたことが記載されているにすぎず、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」ることをうかがわせる記載はないから、前記相違点1は実質的な相違点である。 そうすると、前記(ア)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明1であるとはいえないのであり、本件発明3について検討しても事情は同じである。 (ウ)次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲第2号証にも、「セラミック焼結体」において、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」るものとすることは記載も示唆もされていないから、当業者は、甲1発明1に係る「セラミック焼結体」を、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」るものとするには至らない。 してみれば、甲1発明1において前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないから、前記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2〜3及び7について検討しても事情は同じである。 イ 本件発明4〜7について (ア)前記ア(ア)と同様にして本件発明4と甲1発明1とを対比すると、本件発明4と甲1発明1とは、 「主成分としてセラミック粒子と、副成分として前記セラミック粒子とは異なる酸化物粒子と、を含むセラミック焼結体。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1’:本件発明4は、「セラミック焼結体」において、「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」るのに対して、甲1発明1は、「粒界相の最大径が1μm以下であ」る点。 ・相違点2’:本件発明4は、「セラミック焼結体」において、「酸化物粒子」の「前記平均粒径が2.5μm以下である」のに対して、甲1発明1は、「酸化物粒子」の「最大径が1μm以下であ」る点。 (イ)そして、前記(ア)の相違点1’は、前記ア(ア)の相違点1と同じものであるから、前記ア(イ)及び(ウ)に記載したのと同様の理由により、前記(ア)の相違点2’について検討するまでもなく、本件発明4が甲1発明1であるとはいえないし、本件発明4は、甲1発明1及び甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであり、本件発明5〜7について検討しても事情は同じである。 ウ 本件発明8について (ア)本件発明8と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2において、「窒化アルミニウム粉末に対して、粒界相形成成分として希土類元素を添加した原料混合体を成形し、得られた成形体を温度400〜500℃で脱脂処理し、得られた脱脂成形体を1700〜2000℃の焼結温度で加熱焼結」することは、本件発明8における、「窒化アルミニウムを含むセラミック粒子と焼結助剤とを含む混合物を加熱して焼成しセラミック焼結体を得る工程」に相当し、甲1発明2において、「焼結操作は、窒素ガスなどの非酸化性雰囲気で成形体を温度1700〜2000℃に2〜10時間程度加熱して実施される」ことは、本件発明8において、「前記工程において、前記混合物を、1760〜1840℃の温度範囲で1〜7時間焼成する」ことを満たし、甲1発明2における「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」は、本件発明8における「方法」に相当する。 また、甲1発明2において、「希土類元素が焼結助剤として窒化アルミニウム原料粉末に添加され、焼結助剤の具体例としては希土類元素(Y,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Gdなど)の酸化物、窒化物、もしくは焼結操作によりこれらの化合物となる物質(炭酸塩等)が単独で、または2種以上混合して使用され、特に酸化イットリウム(Y2O3)が好ましいものである」ことは、本件発明8において、「前記焼結助剤は希土類元素を構成元素とする酸化物」「を含」むことに相当する。 すると、本件発明8と甲1発明2とは、 「窒化アルミニウムを含むセラミック粒子と焼結助剤とを含む混合物を加熱して焼成しセラミック焼結体を得る工程を有し、 前記焼結助剤は希土類元素を構成元素とする酸化物を含んでおり、 前記工程において、前記混合物を、1760〜1840℃の温度範囲で1〜7時間焼成する、方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点3:本件発明8は、「焼結助剤」が「酸化アルミニウム」を含むのに対して、甲1発明2は、「焼結助剤」が「酸化アルミニウム」を含まない点。 ・相違点4:本件発明8は、「前記焼結助剤の凝集を抑制して、前記セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする方法」に係るものであるのに対して、甲1発明2は「窒化アルミニウム焼結体の製造方法」に係るものである点。 (イ)始めに、前記(ア)の相違点3の容易想到性から検討すると、前記(1)ア(ア)b(段落【0009】〜【0017】)の記載によれば、甲1発明2は、従来、常圧焼結法によって効率的に焼結体を量産しようとする場合には、焼結体の緻密化およびAlN原料粉末中の不純物酸素がAlN結晶粒子内へ固溶することを防止するために、焼結助剤として、酸化イットウリム(Y2O3)などの希土類酸化物を添加することが一般に行なわれており、これらの焼結助剤は、AlN原料粉末に含まれる不純物酸素と反応してイットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG,3Y2O3・5Al2O3)、イットリア−アルミナ化合物(YAL,Y2O3・Al2O3)、イットリア−アルミナー金属化合物(YAM,2Y2O3・Al2O3)などから成る液相を形成するのであるが、前記従来の製造方法は、原料粉末の平均粒径、焼結助剤の種類および添加量、脱脂焼結条件等を厳正に管理した場合においても、焼結体の強度が不足して製品歩留りが低下したり、所定の熱伝導率が得られず、AlNの最大利用特性である優れた放熱特性が損われる場合が多かった、という課題(以下、「甲1課題」という。)を有するものである。 すなわち、従来、加熱焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度は毎時400〜800℃程度と極めて大きな値であり、このとき、直径が5〜10μm程度の粗大な酸化物粒界相や、直径が50〜100μm程度の粗大な気孔がAlN結晶粒の粒界部に多数形成されるのであり、前記酸化物粒界相は、焼結助剤として添加したY2O3などの希土類化合物が焼結時に窒化アルミニウム原料粉末表面のアルミニウム酸化物と反応して生成した液相(成分:YAG,YAL,YAMなど)が冷却時に凝集偏析して形成されたものであり、また、粗大な粒界相の周辺には液相がなくなった気孔が形成されるものであり、前記酸化物粒界相及び気孔は、共に窒化アルミニウム焼結体の熱伝導を妨げる抵抗として作用するとともに、気孔は未焼結部となりAlN結晶粒相互の接合強度が低下し、焼結体全体としての強度が低下することが原因となって、甲1課題が生じていたものである。 そして、甲1発明2は、焼結直後の焼結体の冷却速度を、従来の冷却速度より低く設定することにより、酸化物粒界相の直径が小さく、前記液相の凝集偏析がなく、微細な酸化物粒界相が均一に分布した結晶組織が得られ、また、気孔の直径が小さく、凝集が少ない均一分布を有する組織が得られることにより、高い熱伝導率及び高強度を共に備えるAlN焼結体とすることで、甲1課題を解決するものであり、このことは、前記(1)ア(ア)e(段落【0041】、【0042】)の記載によっても裏付けられるものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲1発明2は、焼結助剤として添加したY2O3などの希土類化合物が、焼結時に、不純物酸素と反応して形成した液相の凝集偏析をなくすることで、甲1課題を解決するものといえ、前記不純物酸素は、窒化アルミニウム原料粉末表面のアルミニウム酸化物として含まれるものであり、更に前記アルミニウム酸化物は酸化アルミニウムと言い換えられるものである。 そして、甲1発明2においては、不純物酸素含有量が7重量%以下、好ましくは3重量%以下に抑制されるものであるから、甲1発明2は、酸化アルミニウムの含有量を、窒化アルミニウム原料の不純物として含まれ得る程度の量に抑制することを前提とするものといえ、そのような甲1発明2において、Y2O3などの希土類化合物と共に更に酸化アルミニウムを焼結助剤として添加することは、酸化アルミニウムの含有量を不純物として含まれ得る程度の量に抑制する、という前記前提を破却することとなるから、そもそも想定されることではない。 そうすると、甲1発明2における焼結助剤を酸化アルミニウムを含むものとすることは、甲第2号証に記載された事項に関わらず、当業者が容易に想到し得ることではないから、甲1発明2において前記相違点3に係る本件発明8の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないので、前記(ア)の相違点4について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明2及び甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)申立人の主張について ア 申立人の新規性、進歩性欠如についての主張は、概略、以下のとおりである。 (ア)甲第1号証の段落【0015】の記載によれば、酸化物粒界相の直径Dbは5〜10μmであるため、仮に直径Dbを10μmと仮定すると、【図2】の記載から、8個の酸化物粒界相の平均粒径は約7μmであり、5Dである35μmの粒子径はゼロであるため、甲第1号証には、平均粒径Dの5倍以上の個数基準の比率が15%以下である酸化物粒子が記載されている(特許異議申立書10ページ7行〜12行)。 本件発明1の「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」る、との発明特定事項は、凝集した酸化物粒子の比率を低減することを特定しているにすぎず、電気絶縁性を高くするという自明な課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎないから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書14ページ3行〜12行)。 (イ)甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項2、段落【0036】に、希土類元素を酸化物として添加することが記載されており、本件発明8の「前記焼結助剤は希土類元素を構成元素とする酸化物と酸化アルミニウムとを含んでおり」、との発明特定事項が記載されている(特許異議申立書12ページ下から3行〜最終行)。 本件発明8において、「前記焼結助剤の凝集を抑制して、前記セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする」ことは、周知技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものではないから、本件発明8は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書16ページ3行〜12行)。 イ 以下、前記アの主張について検討する。 (ア)前記(1)ア(ア)b(段落【0015】)の記載によれば、甲第1号証には、従来の製造方法においては、焼結体の冷却速度が毎時400〜800℃程度と極めて大きな値となっており、焼結体の窒化アルミニウム結晶組織が粗雑になる大きな原因であること、そのような焼結体の破面を観察したところ、直径が5〜10μm程度の粗大な酸化物粒界相や直径が50〜100μm程度の粗大な気孔がAlN結晶粒の粒界部に多数形成されていることが判明したことが記載されているが、同f、gの記載によれば、【図2】は、そのような従来の窒化アルミニウム焼結体の結晶組織を模式的に示す図にすぎない。 すると、図2に記載された粒界相の大きさや数は、模式的に示されたものにすぎないから、図2から、粒界相の大きさや数を読み取ることはできないので、前記段落【0015】及び図2に、従来の焼結体において、平均粒径Dの5倍以上の粒径を有する粒子がゼロとなっていることが記載も示唆もされているとはいえないし、甲第1号証に、平均粒径Dの5倍以上の個数基準の比率が15%以下である酸化物粒子が記載されているともいえない。 そして、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、本件発明1の「前記酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率が15%以下であ」る、との発明特定事項が記載も示唆もされていないことは、前記(2)ア(イ)、(ウ)に記載したとおりであるし、「酸化物粒子の平均粒径をDとしたときに、5D以上の粒径を有する前記酸化物粒子の個数基準の比率」を調節することで電気絶縁性を高くすることが周知技術であることを示す証拠もないから、前記ア(ア)の本件発明1の発明特定事項が、電気絶縁性を高くするという自明な課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎないということもできない。 したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないので、前記ア(ア)の主張は採用できない。 (イ)前記(1)ア(ア)a(請求項2)、e(段落【0036】)の記載をみても、甲第1号証には、焼結助剤が酸化アルミニウムを含むことが記載も示唆もされるものではない。 そして、甲1発明2における焼結助剤を酸化アルミニウムを含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではないことは、前記(2)ウ(ウ)に記載したとおりであるから、仮に、「前記焼結助剤の凝集を抑制して、前記セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする」ことが、周知技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものではないとしても、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに変わりはないので、前記ア(イ)の主張も採用できない。 ウ したがって、申立人の前記アの主張はいずれも採用できない。 (4)小括 よって、本件発明1及び3〜6が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1〜8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、前記第3の3の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1〜8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-02-07 |
出願番号 | P2022-515581 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C04B)
P 1 651・ 537- Y (C04B) P 1 651・ 121- Y (C04B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
原 和秀 金 公彦 |
登録日 | 2022-04-25 |
登録番号 | 7064065 |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | セラミック焼結体、基板、及び、セラミック焼結体の電気絶縁性を高くする方法 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 中塚 岳 |