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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01M
管理番号 1395269
総通号数 15 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-11-25 
確定日 2023-02-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7075466号発明「振動機械の異常診断装置および異常診断方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7075466号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7075466号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和2年11月17日に出願され、令和4年5月17日にその特許権の設定登録がされ、同月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜6に係る特許に対し、同年11月25日に特許異議申立人 大塚匡子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1〜6の記載は、次のとおりである(なお、請求項1及び4の分説は当審において付与した。)。

「 【請求項1】
A 振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
B 前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
C 前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
D 前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え、
E 前記記憶部は、複数の基準データを記憶しており、
F 前記診断部は、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、
G 振動機械の異常診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記比較を所定の周波数帯域ごとの平均値、実効値、最小値、または最大値で行う、請求項1に記載の振動機械の異常診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、前記基準データのピーク値と、前記診断データのピーク値との間で比較を行う、請求項1に記載の振動機械の異常診断装置。
【請求項4】
A 振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
B 前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
C 前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
D 前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え、
H 前記診断部は、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、
G 振動機械の異常診断装置。
【請求項5】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含み、
前記診断では、前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する、振動機械の異常診断方法。
【請求項6】
振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを準備し、
前記振動機械の振動データを経時的に取得し、
経時的に取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとし、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する
ことを含み、
前記準備では、複数の前記基準データを準備し、
前記診断では、前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する、振動機械の異常診断方法。」

第3 特許異議の申立について

1 申立理由の概要
申立人は、証拠として下記2に示す甲第1号証〜甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由により、請求項1〜6に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

申立理由(進歩性
・請求項1〜3及び6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項4及び5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開昭63−6423号公報
甲第2号証:特開平10−26580号公報
甲第3号証:国際公開第2018/138862号

なお、特許異議申立書では、甲第3号証写しとして国際公開第2018/138862号の再公表特許公報を添付しているが、特許異議申立書25頁の5の証拠方法の記載から、甲第3号証は「国際公開第2018/138862号」であると判断した。

第4 各甲号証の記載
申立人が提出した各甲号証(甲1〜3)の記載は、次のとおりである。

1 甲1について

(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下、同様)。

(甲1ア)1頁左下欄4行〜16行
「2.特許請求の範囲
発電所における各主機からの発生音をそれぞれ周波数スペクトル分析する高速フーリエ変換器と、前記各主機対応に設けられてその正常音の周波数スペクトルを主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分毎に記憶するメモリと、前記高速フーリエ変換器を介して得られる各主機の所定運転状態における発生音周波数スペクトルと該運転状態に応じて前記メモリから読み出される正常音周波数スペクトルとを比較する比較器とを備え、該比較偏差が予め決められた所定値を超えたときは異常が発生したものとみなして警報を発することを特徴とする発電所主機の発生音監視方式。」

(甲1イ)1頁左下欄18行〜右下欄2行
「[産業上の利用分野]
この発明は、水力または火力発電所における水車、タービン、発電機等の各主機から発せられる音(発生音)によってこれらの監視を行なう監視方式に関する。」

(甲1ウ)1頁右下欄16行〜2頁左上欄9行
「[作用]
各主機毎の正常音の周波数スペクトルを主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分に対応させて上記メモリに予め格納しておき、上記比較器によりこの記憶された正常音周波数スペクトルと上記FFTを介して得られる主機毎の発生音周波数スペクトルとを比較し、両者の偏差が予め定められた設定値を超えたときは異常が発生したものとみなして警報を発する。つまり、各主機の状態をその発生音から判別し得るようにして、総合的な判定を可能にするものである。これは、保守員が巡回点検の際に、まず音が正常か否かを調べることからも充分に妥当性をもつものと云うことができる。」

(甲1エ)2頁左上欄10行〜3頁左上欄4行
「[実施例]
第1図はこの発明の実施例を示す構成図、第2図は周波数スペクトルの一例を示すグラフ、第3図は第1図における比較器の偏差出力と設定値との関係を示す参照図である。なお、第1図において、11は高速フーリエ変換器(FFTアナライザ)、12〜14は正常音スペクトルメモリ、15、16は比較器である。
こゝでは水力発電所を想定し、例えば発電機および水車の各々の監視を行なうものとすると、これらの各主機には図示されない騒音計等の発生音検出器が取り付けられる。第1図のS1〜S3はこれらの騒音計からの出力信号を示しており、それぞれスイッチSW1〜SW3を介してFFTアナライザ11に導入され、こゝで良く知られている如き周波数スペクトル分析が行なわれる。
一方、メモリ12〜14には各主機の正常音の周波数スペクトルデータが無負荷、全負荷等の運転状態区分に応じてそれぞれ複数種類ずつ格納されており、或る主機に関してどの周波数スペクトルデータを取り出すかを、信号S4〜S6によって決めるようにしている。こゝに、信号S4は主機の回転速度を示す信号、S5は発電機出力信号、S6は有効落差信号であるが、この他に温度信号を利用することができる。また、その他に主機の運転状態を表わす信号があれば、これを利用しても良いことは云う迄もない。なお、有効落差信号S6は、火力発電所では蒸気圧力信号に置き換えられる。
こゝで、主機始動時に信号S1を監視する例について説明する。
このとき、図示されない制御装置によってスイッチSW1が閉じられる。したがって、信号S1がFFTアナライザ11によって周波数スペクトル分析され、その結果が比較器15に導かれる。一方、スイッチSW1の閉成によって正常音スペクトルメモリ12が選択され、こゝからはその時点の回転速度信号S4に応じた区分の正常音スペクトルデータが比較器15に与えられる。なお、FFTアナライザ11、メモリ12からは、例えば第2図に示されるような周波数毎の音圧パターンデータが出力される。このため、両者の音圧データは比較器15において周波数毎に比較され、その偏差が第3図の実線の如く取り出され、後続の比較器16にて第3図の点線の如く設定された設定値SEと比較される。その結果、偏差が設定値SEよりも小さく、したがって現時点で取り込んだ音のレベルが正常値とみなせる場合は、演算を終了して次のデータ(S2、S3)の取り込みを行ない、上述と同様の演算、判定を行なう。一方、比較器16の偏差入力が予め設定された設定値SEを超えた場合は、比較器16からは異常であることを示すアラーム信号が出力される。なお、このアラームを出すに当たっては、
イ)偏差入力の設定値超過が複数回生じたときにのみ、アラーム信号を出力する。
口)偏差入力の設定値超過が相隣る複数の周波数領域で生じたときにのみ、アラーム信号を出力する。
ハ)上記イ)、口)の出力のAND/ORによってアラーム信号を出力する。
などの操作をすることにより、誤動作によるアラームの発生を極力回避することが望ましい。
その後、対象とする主機の回転速度が上昇し、定格回転速度に達して系統へ同期併入された後は、回転速度信号S4にかわって発電機出力信号S5が取り込まれ、負荷の度合に応じた監視が上記と同様に行なわれる。
以上では主として信号S1について説明したが、信号S2、S3についても同様に行なわれることは云う迄もない。ただし、例えば主機始動時などにおいて、信号S1、S2、S3を時系列的に処理することが困難な場合には、信号S1、S2、S3毎に第1図の監視装置を設けることにより、対処することができる。」

(甲1オ)第1図


(甲1カ)第2図


(甲1キ)第3図

(2)甲1に記載された発明

ア (甲1イ)「この発明は、水力または火力発電所における水車、タービン、発電機等の各主機から発せられる音(発生音)によってこれらの監視を行なう監視方式に関する。」との記載、及び第1図の監視装置1は、FFTアナライザ11、正常音スペクトルメモリ12〜14、比較器15、16を含むことが見て取れることから、甲1に記載の「監視装置1」は、「水力又は火力発電所における水車、タービン、発電機等の各主機からの発生音によってこれらの監視を行なう監視装置1であって、監視装置1は、FFTアナライザ11、正常音スペクトルメモリ12〜14、比較器15、16を含む」ことが読み取れる。

イ (甲1エ)「こゝでは水力発電所を想定し、例えば発電機および水車の各々の監視を行なうものとすると、これらの各主機には・・・騒音計・・・が取り付けられる。第1図のS1〜S3はこれらの騒音計からの出力信号を示しており、それぞれスイッチSW1〜SW3を介してFFTアナライザ11に導入され、・・・周波数スペクトル分析が行なわれる。
・・・
こゝで、主機始動時に信号S1を監視する例について説明する。
このとき、・・・制御装置によってスイッチSW1が閉じられる。したがって、信号S1がFFTアナライザ11によって周波数スペクトル分析され、その結果が比較器15に導かれる。・・・なお、FFTアナライザ11・・・からは、例えば第2図に示されるような周波数毎の音圧パターンデータが出力される。」との記載から、甲1に記載の「FFTアナライザ11」は、「スイッチSW1により選択された監視対象とする主機に取り付けられた騒音計からの、当該主機における現時点での発生音出力データS1を導入し、導入した発生音出力データS1に対し、周波数スペクトル分析して周波数スペクトルデータを出力する」ことが読み取れる。

ウ (甲1ウ)「各主機毎の正常音の周波数スペクトルを主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分に対応させて上記メモリに予め格納しておき、」との記載、及び(甲1エ)「こゝでは水力発電所を想定し、例えば発電機および水車の各々の監視を行なうもの・・・
一方、メモリ12〜14には各主機の正常音の周波数スペクトルデータが無負荷、全負荷等の運転状態区分に応じてそれぞれ複数種類ずつ格納されており、或る主機に関してどの周波数スペクトルデータを取り出すかを、信号S4〜S6によって決めるようにしている。こゝに、信号S4は主機の回転速度を示す信号、S5は発電機出力信号、S6は有効落差信号である・・・
こゝで、主機始動時に信号S1を監視する例について説明する。
・・・一方、スイッチSW1の閉成によって正常音スペクトルメモリ12が選択され、ここからはその時点の回転速度信号S4に応じた区分の正常音スペクトルデータが比較器15に与えられる。なお、・・・メモリ12からは、例えば第2図に示されるような周波数毎の音圧パターンデータが出力される。」との記載から、甲1に記載の「正常音スペクトルメモリ12〜14」は、「各主機にそれぞれ対応し、対応する主機における正常音データに対して周波数スペクトル分析した正常音周波数スペクトルデータを、主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分に応じて複数種類ずつ格納しており、ある主機に関してどの正常音周波数スペクトルデータを取り出すかは、当該ある主機における現時点での運転状態区分を示す入力信号S4〜S6によって決められ、S4は主機回転速度信号、S5は発電機出力信号、S6は有効落差信号であり、スイッチSW1により選択された監視対象とする前記主機に対応する正常音スペクトルメモリ12から、当該主機における現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータを出力する」ことが読み取れる。

エ (甲1エ)「こゝでは水力発電所を想定し、例えば発電機および水車の各々の監視を行なうものとする・・・
こゝで、主機始動時に信号S1を監視する例について説明する。
・・・したがって、信号S1がFFTアナライザ11によって周波数スペクトル分析され、その結果が比較器15に導かれる。一方、スイッチSW1の閉成によって正常音スペクトルメモリ12が選択され、こゝからはその時点の回転速度信号S4に応じた区分の正常音スペクトルデータが比較器15に与えられる。なお、FFTアナライザ11、メモリ12からは、例えば第2図に示されるような周波数毎の音圧パターンデータが出力される。このため、両者の音圧データは比較器15において周波数毎に比較され、その偏差が第3図の実線の如く取り出され」るとの記載から、甲1に記載の「比較器15」は、「FFTアナライザ11からの周波数スペクトルデータと、正常音スペクトルメモリ12からの正常音周波数スペクトルデータとを入力し、その両者の音圧データを周波数毎に比較し、その偏差を出力する」ことが読み取れる。

オ (甲1エ)「こゝでは水力発電所を想定し、例えば発電機および水車の各々の監視を行なうものとする・・・
こゝで、主機始動時に信号S1を監視する例について説明する。
・・・両者の音圧データは比較器15において周波数毎に比較され、その偏差が第3図の実線の如く取り出され、後続の比較器16にて第3図の点線の如く設定された設定値SEと比較される。その結果、偏差が設定値SEよりも小さく、したがって現時点で取り込んだ音のレベルが正常値とみなせる場合は、演算を終了して次のデータ(S2、S3)の取り込みを行ない、上述と同様の演算、判定を行なう。一方、比較器16の偏差入力が予め設定された設定値SEを超えた場合は、比較器16からは異常であることを示すアラーム信号が出力される。」との記載、及び第3図の設定値SEは、周波数毎に設定していることが見て取れることから、甲1に記載の「比較器16」は、「比較器15からの偏差を、周波数毎に予め設定された設定値SEと比較し、偏差が設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力する」ことが読み取れる。

カ (甲1エ)「その後、対象とする主機の回転速度が上昇し、定格回転速度に達して系統へ同期併入された後は、回転速度信号S4にかわって発電機出力信号S5が取り込まれ、負荷の度合に応じた監視が上記と同様に行なわれる。」との記載から、甲1に記載の「監視装置1」は、「ある主機に対して運転状態に応じて逐次、監視を行っている」ことが読み取れる。

キ 前記ア〜カを含む前記(1)の記載を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「水力又は火力発電所における水車、タービン、発電機等の各主機からの発生音によってこれらの監視を行なう監視装置1であって、
FFTアナライザ11、正常音スペクトルメモリ12〜14、比較器15、16を含み、
FFTアナライザ11は、スイッチSW1より選択された監視対象とする主機に取り付けられた騒音計からの、当該主機における現時点での発生音出力データS1を導入し、導入した発生音出力データS1に対し、周波数スペクトル分析して周波数スペクトルデータを出力し、
正常音スペクトルメモリ12〜14は、各主機にそれぞれ対応し、対応する主機における正常音データに対して周波数スペクトル分析した正常音周波数スペクトルデータを、主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分に応じて複数種類ずつ格納しており、ある主機に関してどの正常音周波数スペクトルデータを取り出すかは、当該ある主機における現時点での運転状態区分を示す入力信号S4〜S6によって決められ、S4は主機回転速度信号、S5は発電機出力信号、S6は有効落差信号であり、スイッチSW1により選択された監視対象とする主機に対応する正常音スペクトルメモリ12は、当該主機における現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータを出力し、
比較器15は、FFTアナライザ11からの周波数スペクトルデータと、正常音スペクトルメモリ12からの正常音周波数スペクトルデータとが入力され、その両者の音圧データを周波数毎に比較し、その偏差を出力し、
比較器16は、比較器15からの偏差を、周波数毎に予め設定された設定値SEと比較し、偏差が設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力するものであり、
ある主機に対して運転状態に応じて逐次、監視を行っている、監視装置1。」

2 甲2について

(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。

(甲2ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱延粗圧延機あるいは厚板や形鋼圧延機、その関連設備などのように、短時間に加速およびまたは減速を行う変速型回転機械設備に発生する異常を、振動を利用して診断する方法および装置に関するものである。」

(甲2イ)
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、測定した振動および回転信号を利用して変速型回転機械設備の診断を行う方法において、測定した時系列振動データに短時間フーリエ変換を施して時々刻々の振動スペクトルを求め、さらに各時刻毎の振動スペクトルのオーバーオール値を算出すると共に、振動測定と同一タイミングで測定した該回転機械設備の回転を表す回転信号から回転機械設備の回転数を求めて、振動スペクトルの時刻との対応づけをし、予め定めた1つまたは複数の回転数における判定基準値と比較して、振動スペクトルのオーバーオール値のうち、各々対応するいくつかの時刻における値が大きい場合に、回転機械設備に異常が発生したと判定することを特徴とする。」

(甲2ウ)
「【0025】
【発明の実施の形態】以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例の概略を示すブロック図である。図1において、1は振動信号、2はアナログ信号処理アンプ、3はA/D変換器、4はスペクトル解析部、5は回転パルス信号、6は周波数/電圧変換アンプ、7はA/D変換器、8はオーバーオールパラメータ算出部、9は正常/異常判定部、10はスペクトルパラメータ算出部、11は異常原因判定部である。
【0026】本実施例では、図示しない診断対象設備の振動をやはり図示しない振動センサにより検出する。以下、振動センサは加速度検出型であるとして記述する。検出した振動信号1をアナログ信号処理アンプ2により電圧信号に変換する。併せてこのとき、診断したい異常項目が偏心やアンバランスのように低周波振動に異常の兆候が現れる場合には、振動加速度信号を積分して振動速度信号に変換することも妨げない。また、診断したい異常項目がころがり軸受やすべり軸受のように高周波振動に異常の兆候が現れる場合には、振動加速度信号に含まれる数kHzないし数十kHzの範囲に分布する軸受の固有振動数帯域の成分のみをハイパスフィルタあるいはバンドパスフィルタにより通過させた後、エンベロープユニットを通過させることによりフィルタリングした振動加速度信号のエンベロープ波形を抽出する。
【0027】A/D変換器3によりそれまでアナログだった信号をデジタル信号に変換する。したがってこれ以降の処理はデジタル信号処理となる。なおA/D変換すなわちサンプリングは異常の特徴周波数の中の最高周波数(例えば式(2)のfo)の5倍ないし20倍程度のサンプリング周波数により行う。また、積分やフィルタリングなどの信号処理は、A/D変換後のデジタル信号で行うことも許される。
【0028】スペクトル解析部4においてデジタル化された振動データについて、式(3)に示した短時間フーリエ変換を施し、振動スペクトルの時間−周波数分布を求める。振動スペクトル分布はx軸に時間、y軸に振動周波数をとり、スペクトルの強度を3次元のz軸方向の値や等高線、色分布等により表示する。
【0029】一方、振動信号1の検出と同一タイミングで、図示しない回転軸の回転速度に応じた基本周波数を有するパルス波形や正弦波波形で出力される回転パルス信号5に関して、パルス発生周波数すなわち回転数の高低を電圧の高低に変換する周波数/電圧変換アンプ6を通過させ、さらにA/D変換器7によりデジタル信号に変換する。ここで、サンプリング周波数は振動信号の場合と同じであることが望ましい。また、回転数は発電機の原理を利用して最初から電圧の高低として検出してもよいし、回転に同期したパルスをA/D変換後に周波数/電圧変換して回転数を表す信号としても構わない。
【0030】スペクトル解析部4で求めた振動スペクトル分布について、オーバーオールパラメータ算出部8において、例えば2乗平均値などで表される各時刻毎の振動スペクトルのオーバーオール値を求める。オーバーオール値を求める周波数範囲は、解析した全周波数範囲でも、ある限られた周波数範囲でも構わない。このとき、変速型回転機械設備の急激な回転数変化に起因する時々刻々のオーバーオール値のばらつきを押える目的で、オーバーオール値の時系列データにスムージング処理を施すことも妨げない。スムージング処理の方法としては移動平均法などがある。
【0031】正常/異常判定部9において、各オーバーオール値を算出した時刻と同時刻の回転数に応じて予め定めた判定基準値と比較して、オーバーオール値が基準値より大きい場合に、その設備を異常と判定する。判定基準値を設定する回転数は1点(1つの回転数)であっても複数点であってもよい。そして、異常の判定はオーバーオール値が1点でも対応する基準値を上回っている場合に行ってもよいし、全点数を含む複数点で上回っている場合に行ってもよい。また、判定の段階は、例えば正常と異常の2段階でもよいし、正常と注意と異常の3段階などとしても構わない。」

(甲2エ)図1


(2)甲2に記載された技術的事項
前記(1)の記載を総合すると、甲2には、次の技術的事項(以下「甲2技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「 短時間に加速およびまたは減速を行う変速型回転機械設備に発生する異常を、振動を利用して診断する装置であって、
診断対象設備の振動を振動センサにより検出し、検出した振動信号1をA/D変換器3によりデジタル信号に変換し、
スペクトル解析部4においてデジタル化された振動データについて、短時間フーリエ変換を施し、振動スペクトルの時間−周波数分布を求め、
スペクトル解析部4で求めた振動スペクトル分布について、オーバーオールパラメータ算出部8において、例えば2乗平均値などで表される各時刻毎の振動スペクトルのオーバーオール値を求め、
正常/異常判定部9において、各オーバーオール値を算出した時刻と同時刻の回転数に応じて予め定めた判定基準値と比較して、オーバーオール値が基準値より大きい場合に、その設備を異常と判定するものであり、
判定基準値を設定する回転数は1点(1つの回転数)であっても複数点であってもよく、異常の判定はオーバーオール値が1点でも対応する基準値を上回っている場合に行ってもよいし、全点数を含む複数点で上回っている場合に行ってもよい、
装置。」

3 甲3について

(1)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。

(甲3ア)
「[0001] 本発明は、状態判定対象が予定される状態(正常な状態)にあるか、予定される状態から逸脱した状態(異常な状態)にあるかを判定する状態判定システムに関する。」

(甲3イ)
「[0009] 本発明に係る状態判定システムは、状態判定対象の動作に伴い生じる波形を画像化する画像化手段と、前記状態判定対象の基準状態における前記波形の画像の複数を基準画像として蓄積する基準画像蓄積手段と、状態判定を行うときに得られる前記波形の画像を検査画像として前記検査画像のデータと前記基準画像の複数のデータを比較し、前記検査画像のデータと前記基準画像のデータの間の相違を等級分けする照合手段と、前記照合手段で算出された等級に基づき前記相違が有意でないときに基準状態であると、有意であるときに基準状態ではないと判定する判定手段を有する。」

(甲3ウ)
「[0023] 本発明に係る装置機器異常検知システムの実施形態を説明する。
この装置機器異常検知システムは、モータなどの回転装置の複数が設置された工場において、回転装置を状態判定対象10とし、これらの異常を遠隔で検知するものである。この実施形態において複数の状態判定対象10は、通信ライン9に接続されたPLC5による一括制御が行われているが、専用のコントローラによる制御としてもよい。
[0024] 状態判定対象10には、動作により変化する状態量として振動を検出するセンサ1が設置されている。この実施形態では、センサ1として、一対の軸振動センサが使用されている。一対のセンサ1a、1bの一方(第一センサ1a)は状態判定対象10の軸振動垂直成分を検出する方向に設置され、軸振動水平成分を検出する方向に他方(第二センサ1b)が設置されている。
[0025] なお、センサ1は、状態判定対象10の動作に伴い生じる波形の画像を生成するために必要となる、状態判定対象10の動作状態により変化する状態量を検出できるものであれば制限はない。圧力センサ、加速度センサ、回転数センサ、音センサ、トルクセンサ、負荷電流センサなどを使用してもよい。また、単一で使用してもよく、二つを対として、或いは複数を一組として使用してもよい。対として、或いは複数を一組として使用する場合は、異なる種類の組み合わせであってもよい。例えば、第一センサ1aと第二センサ1bの組み合わせとして、圧力センサと振動センサの組み合わせ、或いは、加速度センサと音声センサの組み合わせを採用してもよい。
[0026] センサ1はセンサコントローラ2に接続されている。センサコントローラ2は、通信ライン9を介し、検索エンジンサーバ3、ストレージサーバ4に接続されている。検索エンジンサーバ3は本発明の判定手段に相当し、センサ1により得られた振動のデータは、センサコントローラ2においてセンサ信号波形画像データに変換され、通信ライン9を介して検索エンジンサーバ3に送信され、後述の判定処理が行われる
[0027]<センサコントローラ>
センサコントローラ2は、図2に示すように、第一データ変換手段21a、第二データ変換手段21b、画像データ送信手段22、通信手段23、記憶手段24、モード判別手段25および基準画像生成スイッチ26を備える。
[0028] 第一データ変換手段21aは、第一センサ1aと共に本発明の画像化手段を構成し、第一センサ1aを介して得られる振動データを、振幅の経時変化を示す波形の画像データ(センサ信号波形画像データ)に変換し、その1フレーム期間のデータ(以下、「フレーム画像データ」とする)を抽出し画像データ送信手段22に引き渡す。同様に、第二データ変換手段21bは、第二センサ1bと共に本発明の画像化手段を構成し、第二センサ1bを介して得られる振動データをセンサ信号波形画像データに変換し、フレーム画像データを画像データ送信手段22に引き渡す。なお、1フレーム期間は、本発明の所定の期間に相当するものであるが、検出対象や検出条件に応じて適宜設定されるものでよい。
[0029] 画像データ送信手段22は、モード判別手段25から出力されるモードデータに応じて、以下の処理を行う。まず、モードデータがオンラインモードを示すときは、センサコントローラ2に付与された機器Noおよび第一センサ1aに付与されたセンサ種別データを含むセンサNoに、第一データ変換手段21aから引き渡されたフレーム画像データを付与し、通信手段23に引き渡す。また、センサコントローラ2に付与された機器Noおよび第二センサ1bに付与されたセンサ種別データを含むセンサNoに、第二データ変換手段21bから引き渡されたフレーム画像データを付与し、通信手段23に引き渡す。
[0030] なお、オンラインモードにおいて、通信手段23に引き渡されるフレーム画像データで構成される波形画像が、本発明の検査画像に相当するものとなる。
[0031] 一方、モードデータが基準画像生成モードを示すときは、基準画像であることを示す識別子に、第一データ変換手段21aまたは第二データ変換手段21bから引き渡されたフレーム画像データの一つ或いは両方を付与し、通信手段23に引き渡す。
[0032] 基準画像は、状態判定対象10の異常の有無を判別するための基準となるものであればよく、例えば、状態判定対象10と同じ機種であって故障した装置の動作時に得られたデータを採用してもよく、或いは、状態判定対象10が正常に動作しているときに得られたデータを採用してもよい。
[0033] 通信手段23は、画像データ送信手段22から引き渡されたデータを、通信ライン9を介して、検索エンジンサーバ3およびストレージサーバ4に送信する。また、後述する状態判定により状態判定対象10が異常状態であると判定され、判定装置6から送信された異常状態データを受けた場合、その異常状態データを記憶手段24に引き渡す。
[0034] 記憶手段24は、センサコントローラ2に付与される機器Noと、第一センサ1aおよび第二センサ1bに付与されるセンサ種別データを含むセンサNoと、更に、状態判定対象10に適合する基準画像Noを記憶し、これを画像データ送信手段22に引き渡す。また、通信手段23から異常状態データの引き渡しがあった場合は、これを記憶する。
[0035] なお、記憶手段24に記憶される機器No、センサ種別データを含むセンサNoおよび基準画像Noの入力方法は、センサコントローラ2の形状や設置状態に適した公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、センサコントローラ2と非接触でデータの授受を行う別体の端末装置を使用して設定することとしてもよい。
[0036] モード判別手段25は、基準画像生成スイッチ26の操作により選択されたモードに応じたモードデータを画像データ送信手段22に出力する。この実施形態では、基準画像生成スイッチ26は常時OFFとされ、ONの状態とすることで基準画像生成モードを選択するものとなっている。そして、基準画像生成スイッチ26がONとされたとき、基準画像生成モードであることを示すモードデータを画像データ送信手段22に出力する。一方、常時(基準画像生成スイッチ26がOFFの状態)は、オンラインモードであることを示すモードデータを画像送信手段22に出力する。
[0037]<検索エンジンサーバ>
検索エンジンサーバ3は、図3に示すように、通信手段31および照合手段32を備える。
[0038] 通信手段31は、センサコントローラ2から送信されたデータを、照合手段32に引き渡す。また、照合手段32の要求に合致するデータを、通信ライン9を介しストレージサーバ4から取得し、これを照合手段32に引き渡す。更に、照合手段32から引き渡された、後述する類似度の数値が書き込まれたフレーム画像データを、通信ライン9を介し判定装置6に引き渡す。
[0039] 照合手段32は、検査画像データと基準画像データの照合を行う。まず、通信手段31から引き渡されたデータに含まれる機器Noデータ、センサ種別データを含むセンサNoデータおよび基準画像Noに基づき、複数の基準画像の中から一つの画像Noを決定する。そして、通信手段31に、基準画像のデータ取得要求を出力する。また、通信手段31から引き渡されたデータに含まれるフレーム画像データを、検査画像データとして、照合処理が終了するまで、一時的に記憶する。
[0040] データ取得要求を受けた通信手段31は、既述のように、その要求に合致するデータ、すなわち、基準画像データを、通信ライン9を介しストレージサーバ4から取得し、これを照合手段32に引き渡す。
[0041] 通信手段31から基準画像のデータの引き渡しを受けた照合手段32は、通信手段31から引き渡されたデータに含まれるフレーム画像データを検査画像データとし、各手法に基づき検査画像データと基準画像のデータの照合を行う。
[0042] 画像の照合は、各手法に基づき二者間の画像データから抽出されたパターン要素、特徴などを照合することにより行うことができる。また、画像データは位置や方向などのパラメータを持っており、画像の照合では、それらのパラメータ空間内での配置をパターンとして照合する。
[0043] この実施形態では、画像の照合方法として、テンプレートマッチングが採用されている。なお、基準画像データのことを状態判定対象10のテンプレートと呼ぶ。
[0044] テンプレートマッチングの手法では、検査画像データの中において、基準画像データと類似した部分を検出していく。具体的には、基準画像データを検査画像データ上で順次ずらしながら、重なった領域の類似度(もしくは相違度)を計算する。類似度の計算値が小さい程、テンプレートである基準画像データに重なる部分の画像が似ていることを示す。また、完全に一致している場合には、計算結果値は0になり、0に近い小さな値ほど類似していることになる。
[0045] 検査画像データの任意の位置において、類似度の場合は上記計算の値がある程度以上小さくなったならば、この位置を検出位置として特定する。
[0046] この実施形態では、類似度の計算方法として相互相関法が採用されているが、公知の方法であるため、詳細な計算式などの説明は省略する。
[0047] 計算結果値として得られた所定の類似度の数値は、検査画像として記憶しているフレーム画像データにおいて特定された位置に書き込み加工される。そして、通信手段31に、次の基準画像のデータ取得要求を出力する。
[0048] なお、この実施例では、類似度の数値自体が等級として扱われているが、所定の数値範囲で等級を定義してもよい。
[0049] 通信手段31から、次の基準画像のデータの引き渡しを受けた照合手段32は、複数の基準画像の全てについての照合処理が終わるまで、上記の照合を繰り返す。そして、全ての基準画像についての照合処理が終了したら、複数の基準画像の各々の類似度の数値が書き込まれたフレーム画像データは、通信手段31を介して判定装置6に引き渡される。
[0050] 画像の照合方法には、上記パターンマッチングの他、一次元的な弾性マッチング手法であるDPマッチングや、特徴を頂点として特徴間の関係を辺とするグラフをつくり、グラフ間の対応づけを行うことにより、特徴集合間を照合するグラフマッチングなどがある。使用状況等に応じて、これらの手法を採用してもよい。
[0051] 複数の基準画像の各々の類似度の数値が書き込まれたフレーム画像データの引き渡しを受けた判定装置6では、類似度の数値に基づき、内部に備える判定手段61により、状態判定対象10の状態判定を行う。
[0052] 判定手段61では、まず、フレーム画像データに書き込まれた類似度の中に、所定の閾値以上となるものが含まれているとき、検査画像と基準画像の相違は有意で有ると判定する。また、全ての類似度が前記閾値以下であれば、検査画像と基準画像の相違は有意でないと判定する。
[0053] 異常状態であるかどうかの判定は、基準画像の性質による。例えば、状態判定対象10となる装置の故障状態のデータを取得できる場合は、その故障状態に得られる波形画像を基準画像とすることができ、この場合、検査画像と基準画像の相違が有意ではなく基準状態であるとする判定が、状態判定対象10の異常状態を意味することになる。
[0054] 一方、状態判定対象10となる装置の故障状態のデータを取得できない場合は、正常状態に得られる波形画像を基準画像とすることができ、この場合、検査画像と基準画像の相違が有意であり基準状態ではないとする判定が、状態判定対象10の異常状態を意味することになる。」

(甲3エ)図1


(甲3オ)図2


(甲3カ)図3


(2)甲3に記載された技術的事項
前記(1)の記載を総合すると、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

「回転装置を状態判定対象10とし、状態判定対象10の異常を遠隔で検知する装置機器異常検知システムであって、
状態判定対象10には、振動を検出するセンサ1として、第一センサ1a及び第二センサ1bが設置され、
センサ1はセンサコントローラ2に接続され、センサコントローラ2は、通信ライン9を介し、検索エンジンサーバ3、ストレージサーバ4及び判定装置6に接続され、
センサコントローラ2は、第一データ変換手段21a、第二データ変換手段21b、画像データ送信手段22、通信手段23、記憶手段24、モード判別手段25及び基準画像生成スイッチ26を備え、
第一データ変換手段21aは、第一センサ1aを介して得られる振動データを、センサ信号波形画像データに変換し、その1フレーム期間のフレーム画像データを抽出し画像データ送信手段22に引き渡し、同様に、第二データ変換手段21bは、第二センサ1bを介して得られる振動データをセンサ信号波形画像データに変換し、その1フレーム期間のフレーム画像データを抽出し画像データ送信手段22に引き渡し、
画像データ送信手段22は、モード判別手段25から出力されるモードデータがオンラインモードを示すときは、センサコントローラ2に付与された機器No及び第一センサ1aに付与されたセンサ種別データを含むセンサNoに、第一データ変換手段21aから引き渡されたフレーム画像データを付与し、通信手段23に引き渡し、また、センサコントローラ2に付与された機器No及び第二センサ1bに付与されたセンサ種別データを含むセンサNoに、第二データ変換手段21bから引き渡されたフレーム画像データを付与し、通信手段23に引き渡し、
一方、モード判別手段25から出力されるモードデータが基準画像生成モードを示すときは、基準画像であることを示す識別子に、第一データ変換手段21a又は第二データ変換手段21bから引き渡されたフレーム画像データの一つ或いは両方を付与し、通信手段23に引き渡し、
基準画像は、状態判定対象10が正常に動作しているときに得られたデータを採用し、
通信手段23は、画像データ送信手段22から引き渡されたデータを、通信ライン9を介して、検索エンジンサーバ3及びストレージサーバ4に送信し、
検索エンジンサーバ3は、通信手段31及び照合手段32を備え、
通信手段31は、センサコントローラ2から送信されたデータを、照合手段32に引き渡し、
照合手段32は、通信手段31から引き渡されたデータに含まれる機器Noデータ、センサ種別データを含むセンサNoデータ及び基準画像Noに基づき、複数の基準画像の中から一つの画像Noを決定し、そして、通信手段31に、基準画像のデータ取得要求を出力し、
データ取得要求を受けた通信手段31は、その要求に合致する基準画像データを、通信ライン9を介しストレージサーバ4から取得し、これを照合手段32に引き渡し、
通信手段31から基準画像のデータの引き渡しを受けた照合手段32は、通信手段31から引き渡されたデータに含まれるフレーム画像データを検査画像データとし、検査画像データと基準画像のデータの照合を行い、
画像の照合方法として、テンプレートマッチングが採用され、テンプレートマッチングの手法では、基準画像データを検査画像データ上で順次ずらしながら、重なった領域の類似度を計算し、類似度の計算値が小さい程、テンプレートである基準画像データに重なる部分の画像が似ていることを示し、
検査画像データの任意の位置において、上記計算の値がある程度以上小さくなったならば、この位置を検出位置として特定し、
計算結果値として得られた所定の類似度の数値は、検査画像として記憶しているフレーム画像データにおいて特定された位置に書き込み加工され、そして、通信手段31に、次の基準画像のデータ取得要求を出力し、
通信手段31から、次の基準画像のデータの引き渡しを受けた照合手段32は、複数の基準画像の全てについての照合処理が終わるまで、上記の照合を繰り返し、そして、全ての基準画像についての照合処理が終了したら、複数の基準画像の各々の類似度の数値が書き込まれたフレーム画像データは、通信手段31を介して判定装置6に引き渡され、
複数の基準画像の各々の類似度の数値が書き込まれたフレーム画像データの引き渡しを受けた判定装置6では、フレーム画像データに書き込まれた類似度の中に、所定の閾値以上となるものが含まれているとき、検査画像と基準画像の相違は有意である(状態判定対象10が異常状態である)と判定し、また、全ての類似度が前記閾値以下であれば、検査画像と基準画像の相違は有意でない(状態判定対象10が異常状態でない)と判定する、
装置機器異常検知システム。」

第5 当審の判断

1 本件発明1について

(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 構成A
甲1発明の「発電機等の」「主機」、「正常音データ」、「周波数スペクトル分析」、「正常音周波数スペクトルデータ」及び「正常音スペクトルメモリ12」は、それぞれ、本件発明1の「振動機械」、「振動データ」、「フーリエ変換」、「基準データ」及び「記憶部」に相当するから、甲1発明の「発電機等の」「主機」「における正常音データに対して周波数スペクトル分析した正常音周波数スペクトルデータを」「格納」する「正常音スペクトルメモリ12」は、本件発明1の「振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部」に相当する。

イ 構成B
(ア)甲1発明の「発生音の出力データS1」及び「FFTアナライザ11」は、本件発明1の「振動データ」及び「取得部」に相当するから、甲1発明の「当該主機における発生音出力データS1を導入」する「FFTアナライザ11」は、本件発明1の「前記振動機械の振動データを」「取得する取得部」に相当する。
(イ)また、甲1発明は、「ある主機に対して運転状態に応じて逐次、監視を行っている」ことから、「FFTアナライザ11」へ「主機における現時点での発生音出力データS1」を「逐次」、「導入」していることは明らかである。
(ウ)すると、甲1発明の「当該主機における」「発生音出力データS1を」「逐次」、「導入」する「FFTアナライザ11」は、本件発明1の「前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部」に相当する。

ウ 構成C
甲1発明の「周波数スペクトルデータ」及び「FFTアナライザ11」は、本件発明1の「診断データ」及び「変換部」に相当するから、甲1発明の「導入した発生音出力データS1に対し、周波数スペクトル分析して周波数スペクトルデータを出力」する「FFTアナライザ11」は、本件発明1の「前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部」に相当する。

エ 構成D
(ア)甲1発明の「正常音周波数スペクトルデータ」の「音圧データ」、「周波数スペクトルデータ」の「音圧データ」、「設定値SEを超えた場合」、「異常であることを示すアラーム信号を出力する」こと、及び「比較器15、16」は、それぞれ、本件発明1の「基準データのスペクトル値」、「診断データのスペクトル値」、「所定以上異なる場合」、「異常と診断する」こと、及び「診断部」に相当するから、甲1発明の「現時点での」「周波数スペクトルデータと」、「現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータと」を「比較し、その」「偏差が設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力する」「比較器15、16」は、本件発明1の「前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部」に相当する。
(イ)また、甲1発明は、「ある主機に対して運転状態に応じて逐次、監視を行っている」ことから、「現時点での」「周波数スペクトルデータと」、「現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータと」を、「運転状態に応じて逐次」「比較」していることは明らかである。
(ウ)すると、甲1発明の「現時点での」「周波数スペクトルデータと」、「現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータと」を、「運転状態に応じて逐次」「比較し、その」「偏差が設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力する」「比較器15、16」は、本件発明1の「前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部」に相当する。

オ 構成E
甲1発明の「正常音スペクトルメモリ12」が、「正常音周波数スペクトルデータを、主機回転速度、発電機出力等の運転状態区分に応じて複数種類ずつ格納して」いることは、本件発明1の「前記記憶部は、複数の基準データを記憶して」いることに相当する。

カ 構成G
甲1発明の「発電機等の」「主機」が「異常であることを示すアラーム信号を出力する」「監視装置1」は、本件発明1の「振動機械の異常診断装置」に相当する。

(2)一致点・相違点
すると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備え、
前記記憶部は、複数の基準データを記憶している、振動機械の異常診断装置。」

(相違点1)
診断部は、本件発明1では、「前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行い複数の比較結果を取得し、前記複数の比較結果のうち一つでも異常でない診断結果が得られた場合には全体結果として異常でないと診断する」のに対し、甲1発明では、「現時点での」「周波数スペクトルデータと」、「正常音スペクトルメモリ12」に「運転状態区分に応じて複数種類ずつ格納して」ある「正常音周波数スペクトルデータ」中から、「現時点での運転状態区分に応じ」て選択した「正常音周波数スペクトルデータと」を「比較し、その」「偏差が設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力する」点。

(3)判断
前記相違点1について検討する。

甲2技術的事項は、ある時刻において算出した1つのオーバーオール値(診断データ)と、当該オーバーオール値を算出した時刻と同時刻における1つの基準値(基準データ)とを比較するものであって、1つのオーバーオール値と複数の基準値のそれぞれとを比較するものではないから、甲2技術的事項は、前記相違点1に係る本件発明1の「前記複数の基準データのそれぞれに対して前記診断データとの比較を行」うという構成を備えていない。
また、前記相違点1に係る本件発明1の構成が、本件出願時における周知技術といえる証拠もない。
よって、前記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。

(4)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を減縮した発明であり、前記相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、本件発明2及び3は、本件発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲2技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本件発明4について

(1)対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。
構成A、B、C、D及びGについて、上記1(1)を参照のこと。

(2)一致点・相違点
すると、本件発明4と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「振動機械の振動データをフーリエ変換した基準データを記憶する記憶部と、
前記振動機械の振動データを経時的に取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記振動データをフーリエ変換して診断データとする変換部と、
前記基準データのスペクトル値と前記診断データのスペクトル値とを経時的に比較して前記基準データから前記診断データが所定以上異なる場合に異常と診断する診断部と
を備える、振動機械の異常診断装置。」

(相違点2)
診断部は、本件発明4では、「前記基準データの波形画像と前記診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する」のに対し、甲1発明では、「現時点での」「周波数スペクトルデータと」、「現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータと」を「周波数毎に比較し、その」周波数毎の「偏差が」、「周波数毎」の「設定値SEを超えた場合は、異常であることを示すアラーム信号を出力する」点。

(3)判断
前記相違点2について検討する。

甲3技術的事項は、テンプレートマッチングの手法により、フレーム画像データにおいて特定された位置に書き込まれた基準画像との類似度が、閾値以上となるとき、状態判定対象10が異常状態であると判定するものであるから、基準画像(基準データの波形画像)とフレーム画像データ(診断データの波形画像)との類似度(一致度)を計算(評価)し、類似度が閾値以上(一致度が所定以下)である場合に異常と判定(診断)するものと理解することもできる。
しかし、甲3技術的事項において、フレーム画像データの波形画像は、センサ信号波形画像データであって、フーリエ変換した波形画像ではないから、甲3技術的事項は、前記相違点2に係る本件発明4の「フーリエ変換した」「基準データの波形画像と」「フーリエ変換した」「診断データの波形画像との一致度を評価し、前記一致度が所定以下である場合に異常と診断する」という構成を備えていない。
そして、仮に、甲1発明において、前記理解に基づき甲3技術的事項のテンプレートマッチングの手法を適用すると、「現時点での」「周波数スペクトルデータ」の波形画像と、「現時点での運転状態区分に応じた正常音周波数スペクトルデータ」の波形画像との類似度を計算し、類似度が一定(1つ)の閾値以上である場合に異常と判定するという構成が想定される。
しかし、この想定される構成では、甲1発明における「設定値SE」(閾値)が「周波数毎」(複数)にあるという構成を得られず、甲1発明と比べて精度の高い判定ができないことから、甲1発明には、甲3技術的事項の適用を妨げる阻害要因があるといえる。
また、前記相違点2に係る本件発明4の構成が、本件出願時における周知技術といえる証拠もない。
よって、前記相違点2に係る本件発明4の構成は、甲1発明及び甲3技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。

(4)小括
したがって、本件発明4は、甲1発明及び甲3技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4に対応する振動機械の異常診断方法の発明であり、前記相違点2に係る本件発明4の構成に対応する構成を備えるものである。
よって、本件発明5は、本件発明4と同じ理由により、甲1発明及び甲3技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に対応する振動機械の異常診断方法の発明であり、前記相違点1に係る本件発明1の構成に対応する構成を備えるものである。
よって、本件発明6は、本件発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲2技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-02-01 
出願番号 P2020-191191
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
▲高▼見 重雄
登録日 2022-05-17 
登録番号 7075466
権利者 株式会社酉島製作所
発明の名称 振動機械の異常診断装置および異常診断方法  
代理人 山崎 敏行  
代理人 松谷 道子  

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