• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1395670
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-30 
確定日 2023-03-29 
事件の表示 特願2019−192394「治療用タンパク質の連続的な精製」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月 5日出願公開、特開2020− 33364〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成26年3月3日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 平成25年3月8日、平成25年7月19日 いずれも米国)とする特願2015−561502号の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて令和元年10月23日に新たな特許出願としたものであって、同年11月6日に手続補正書が提出され、令和2年11月26日付け拒絶理由通知に対して令和3年3月8日に意見書および手続補正書が提出され、同年3月31日付けで拒絶査定がなされ、同年7月30日に拒絶査定不服審判が請求され、令和4年7月6日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年10月7日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1〜15に係る発明は、令和4年10月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるものである。


第2 当審拒絶理由の概要
令和4年7月6日付けで当審より通知した拒絶理由は、令和3年3月8日付け手続補正書でした補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。


第3 当審の判断
1.令和4年10月7日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明
令和4年10月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、請求項1は次の発明に特定された。
「【請求項1】
組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを含む原薬を製造するための方法であって、
(a) 組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−A分泌細胞を液体培養培地を含む潅流型バイオリアクター中で、細胞が組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを培地中に分泌できるような条件下で培養すること;ここで、培地の細胞を少なくとも90%含まない容量は、連続的にあるいは定期的に潅流型バイオリアクターから抜き出され、定期的向流クロマトグラフィーシステム(PCCS)に送り込まれる;
(b) PCCS中の疎水性相互作用あるいはアニオン交換樹脂を用いて培地から組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを捕獲すること;ならびに、
(c) さらに、原薬を得るために、疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行することによって、組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを精製すること
を含む;方法。」

2.特許法第17条の2第3項に規定する要件について
(1)補正事項
本件補正は、請求項1において、組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−A分泌細胞を培養した培養物から、組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを精製して、組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを含む原薬を製造するための方法として、
「(b) PCCS中の疎水性相互作用あるいはアニオン交換樹脂を用いて培地から組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを捕獲すること;ならびに、
(c) さらに、原薬を得るために、疎水性相互作用クロマトグラフィーを実行することによって、組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aを精製すること」を特定する補正事項を含むものである。

(2)捕獲に用いられるPCCS中に疎水性相互作用(樹脂)があることについて
本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、上記(b)に特定される事項のうち、PCCS中のアニオン交換樹脂を用いて培地から組換え治療用タンパク質を捕獲することについては記載されていると認められる(例えば、段落【0007】)。
しかし、以下に述べるとおり、上記(b)に特定される事項のうち、PCCS中の疎水性相互作用(樹脂)を用いて培地から組換えアルファ−ガラクトシダーゼ−Aのような治療用タンパク質を捕獲することについては記載されているとは認められない。
当初明細書等には、「捕獲」、「疎水性相互作用樹脂」、「疎水性相互作用クロマトグラフィー」について、
「【0044】
「捕獲すること」という用語は、液体培養培地または希釈済み液体培養培地中に存在する1つまたはそれ以上の他の成分由来の組換え治療用タンパク質(例えば、哺乳類細胞中に存在するまたは哺乳類細胞から分泌される培養培地タンパク質または1つもしくはそれ以上の他の成分(例えば、DNA、RNAまたは他のタンパク質))を部分的に精製または単離し(例えば、少なくともまたは約5重量%、例えば、少なくとももしくは約10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、または少なくとももしくは約95重量%の純度)、濃縮し、安定化するために実行される、工程を意味する。典型的には、捕獲することは、(例えば、アフィニティークロマトグラフィーの使用によって)組換え治療用タンパク質を結合させる樹脂を用いて、実行される。液体培養培地または希釈済み液体培養培地から組換え治療用タンパク質を捕獲する非限定的な方法は、本明細書で記述されており、他の方法も当技術分野で公知である。組換え治療用タンパク質は、少なくとも1つのクロマトグラフィーカラムおよび/またはクロマトグラフィー膜(例えば、本明細書で記述された任意のクロマトグラフィーカラムおよび/またはクロマトグラフィー膜)を用いて、液体培養培地から捕獲することができる。
【0045】
「精製すること」という用語は、組換え治療用タンパク質(例えば、哺乳類細胞中に存在するまたは哺乳類細胞から分泌される液体培養培地タンパク質または1つもしくはそれ以上の他の成分(例えば、DNA、RNA、他のタンパク質、内毒素、ウイルス等))を含有する、流体中に存在する1つまたはそれ以上の他の不純物(例えば、かさ高い不純物)または成分から組換え治療用タンパク質を単離するために実行される、工程を意味する。例えば、精製することは、最初にある捕獲する工程の最中または後に実行することができる。精製は、組換え治療用タンパク質または夾雑物のいずれかに結合する樹脂、膜または任意の他の固体担体を用いて(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アニオン交換もしくはカチオン交換クロマトグラフィー、または分子ふるいクロマトグラフィーの使用によって)、実行することができる。組換え治療用タンパク質は、少なくとも1つのクロマトグラフィーカラムおよび/またはクロマトグラフィー膜(例えば、本明細書で記述された任意のクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフィー膜)を用いて、組換え治療用タンパク質を含有する流体から精製することができる。」、
「【0071】
第1のMCCS内に存在するクロマトグラフィーカラム(複数可)および/またはクロマトグラフィー膜(複数可)は、本明細書で記述されているまたは当技術分野で公知になっている、例示的な任意の樹脂のうち1つまたはそれ以上を収容することができる。例えば、第1のMCCS内に存在するクロマトグラフィーカラム(複数可)および/またはクロマトグラフィー膜(複数可)のうち1つまたはそれ以上の中に収容された樹脂は、捕獲機構(例えば、タンパク質A結合式捕獲機構、タンパク質G結合式捕獲機構、抗体結合式もしくは抗体フラグメント結合式捕獲機構、基質結合式捕獲機構、補因子結合式捕獲機構、アプタマー結合式捕獲機構および/またはタグ結合式捕獲機構)を利用する、樹脂であってよい。第1のMCCSのクロマトグラフィーカラム(複数可)および/またはクロマトグラフィー膜(複数可)のうち1つまたはそれ以上の中に収容された樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、分子ふるい樹脂もしくは疎水性相互作用樹脂、またはこれらの任意の組合せであってよい。組換え治療用タンパク質を精製するために使用され得る樹脂のさらなる例は当技術分野で公知であり、第1のMCCS内に存在するクロマトグラフィーカラム(複数可)および/またはクロマトグラフィー膜(複数可)のうち1つまたはそれ以上の中に収容され得る。第1のMCCS内に存在するクロマトグラフィーカラム(複数可)および/またはクロマトグラフィー膜は、同じ樹脂および/または異なる樹脂(例えば、組換えタンパク質精製における使用のために本明細書で記述されているまたは当技術分野で公知になっている、任意の樹脂)を含有し得る。」、
「【0121】
捕獲する単位動作は、例えば捕獲機構を利用する少なくとも1つのクロマトグラフィーカラムおよび/またはクロマトグラフィー樹脂を含む、1つまたはそれ以上のMCCS(例えば、第1のMCCSおよび/または第2のMCCS)を用いて、実行することができる。捕獲機構の非限定的な例には、タンパク質A結合式捕獲機構、抗体結合式または抗体フラグメント結合式捕獲機構、基質結合式捕獲機構、アプタマー結合式捕獲機構、タグ結合式捕獲機構(例えば、ポリHisタグに基づいた捕獲機構)および補因子結合式捕獲機構が挙げられる。捕獲することは、カチオン交換もしくはアニオン交換クロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーを実行するために使用され得る樹脂を用いて、実行することもできる。組換え治療用タンパク質を捕捉するために使用され得る非限定的な樹脂は、本明細書で記述されている。組換え治療用タンパク質を捕捉するために使用され得る樹脂のさらなる例は、当技術分野で公知である。」、
などの記載があり、(PCCSに限定されない)捕獲において任意のクロマトグラフィーが使用されることや、精製に用いられる各種のクロマトグラフィーの一つとして疎水性相互作用クロマトグラフィーが示され、MCCS内で使用されるクロマトグラフィーの一つとして疎水性相作用(樹脂)が例示されていると認められるものの、PCCS中に疎水性相互作用(樹脂)があることや、PCCS中の疎水性相互作用(樹脂)を用いて培地から組換え治療用タンパク質を捕獲することが記載されているとはいえない。

(3)上記(b)の捕獲に上記(c)の精製を組み合わせることについて
当初明細書等には、上記(b)に特定されるPCCSによる捕獲に次いで、(c)に特定される疎水性相互作用クロマトグラフィーによる精製を行うことについて記載されているとは認められない。
当初明細書等の段落【0045】、【0071】などには、組換え治療用タンパク質の精製に任意の各種クロマトグラフィーを用いることに関する広範な記載はあるものの、上記(b)の捕獲と上記(c)の精製を組み合わせることは記載も示唆もされていない。
なお、当初明細書等の実施例1には、
「【0200】
組換えタンパク質の連続的な捕獲を達成するために、図2に示されているように単一のPCCSを直接バイオリアクターに接続した。バイオリアクター/ATFからの収穫物を、ぜん動ポンプ(Masterflex,Cole−Parmer,Vernon Hills,IL)を用いて小さいサージ容器として役立つ2−Lの使い捨て式バッグ(Hyclone,Logan,UT)にポンプで送った。バイオリアクターとサージバッグの間に追加の無菌バリヤとして0.2−μmフィルター(Millipack 40,Millipore,Billerica,MA)を加えた。XK16(商標)、1.6−cm×6−cm(GE Healthcare)カラム内のMabSelect SuRe(GE Healthcare,Piscataway,NJ)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)培地を用いて、それぞれ組換え治療用抗体および組換え治療用ヒト酵素を捕獲した。各々のカラムの操作は平衡化、装填、洗浄、溶離、および再生工程からなっていた。ベンチスケールの単一PCCSのエンジニアリングでは閉じた操作ができなかったので、アジ化ナトリウムをインラインでプロセス流に添加した。」
「【0213】
下流
この研究の目的は、捕獲カラム性能指針の一貫性、全カラムおよびサイクル中の捕獲溶出液のCQA、ならびに長期の期間にわたる単一のPCCSハードウェアおよび制御計画のロバストネスを決定することであった。HIC捕獲カラムの結合能力が低い(1g/L樹脂)ことを考えると、カラムを装填するために必要とされる時間は残りのプロセス工程(洗浄、溶離、再生、等)の合わせた時間より短かった。この結果、単一のPCCSは収穫物を連続的に処理するために3つのカラムの代わりに4つのカラムを必要とした。従って、単一の4−カラムPCCSを開発し、組換えヒト酵素を連続的に捕獲するために使用した。」、
と記載され「疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)培地」の用語が使用されているが、実施例1に記載された方法が具体的にどのようなものであるかその記載からは明確でないので、実施例1に示された方法が、上記(b)に特定されるPCCSによる捕獲に次いで、上記(c)に特定される疎水性相互作用クロマトグラフィーによる精製を組み合わせた、請求項1に記載された方法を具体化したものであるとは認められない。

(4)小活
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正ではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は令和4年10月7日付け意見書において、段落【0044】、【0045】の記載を示し、本件補正は本願の出願当初明細書に記載されていた事項であると主張している。
そこで検討すると、段落【0044】、【0045】の記載は、それぞれ当初明細書等における「捕獲すること」、「精製すること」という用語を定義ないし説明するものであり、本件補正に係る上記(b)、(c)に特定される、PCCS中に疎水性相互作用(樹脂)があることや、上記(b)の捕獲と上記(c)の精製を組み合わせることについては記載されていない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。


第4 むすび
以上のとおり、令和4年10月7日付け手続補正書でした請求項1に係る補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 福井 悟
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-10-27 
結審通知日 2022-11-01 
審決日 2022-11-15 
出願番号 P2019-192394
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (C07K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 福井 悟
特許庁審判官 上條 肇
宮岡 真衣
発明の名称 治療用タンパク質の連続的な精製  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ