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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1396143
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-06-24 
確定日 2023-03-02 
事件の表示 特願2020−155310「画像処理システム、画像処理装置、画像処理装置の制御方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月14日出願公開、特開2021− 5406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月11日に出願した特願2016−048340の一部を令和2年9月16日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和2年10月15日 :手続補正書の提出
令和3年 8月20日付け:拒絶理由通知
令和3年10月22日 :意見書・手続補正書の提出
令和4年 3月22日付け:拒絶査定
令和4年 6月24日 :審判請求書・手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1−13(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明13」という。)は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
画像処理装置と情報端末とを有する画像処理システムであって、
前記情報端末は、
BLE通信によって前記画像処理装置に認証に関する情報を送信する第1の送信手段と、
前記BLE通信によって前記画像処理装置から、Wi−Fi通信によって前記画像処理装置と通信するための接続情報を受信する第1の受信手段と、
前記Wi−Fi通信の確立に従って、印刷データを前記画像処理装置に前記Wi−Fi通信によって送信する第2の送信手段とを有し、 前記画像処理装置は、
前記BLE通信によって前記情報端末から前記認証に関する情報を受信する第2の受信手段と、
前記第2の受信手段が受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、前記BLE通信によって前記接続情報を前記情報端末に送信する第3の送信手段と、
前記第3の送信手段によって前記接続情報が前記情報端末に送信された後、前記Wi−Fi通信によって前記情報端末から前記印刷データを受信する第3の受信手段と、
前記第3の受信手段が前記印刷データを受信したことに従って、前記印刷データに基づく印刷を実行する印刷手段とを有することを特徴とする画像処理システム。
【請求項2】
前記第2の受信手段が受信した情報を用いた認証の成功に従って、ユーザを前記画像処理装置にログインさせるログイン手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の画像処理システム。
【請求項3】
前記接続情報はSSIDを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理システム。
【請求項4】
前記接続情報はSSID、及びIPアドレスを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理システム。
【請求項5】
前記第1の受信手段は、前記BLE通信によって前記画像処理装置から、Wi−Fi通信によって前記画像処理装置と通信するための接続情報を受信した後、前記Wi−Fi通信を開始する前に前記BLE通信を切断する切断手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像処理システム。
【請求項6】
前記情報端末は、
前記BLE通信で探索を行う探索手段と、
前記探索手段によって見つかった画像処理装置を表示する表示手段とをさらに有し、
前記第1の送信手段は、前記表示手段によって表示された画像処理装置から選択された画像処理装置に前記認証に関する情報を送信することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像処理システム。
【請求項7】
前記情報端末は、
前記表示手段によって表示された画像処理装置から選択された画像処理装置との距離がデータ送信可能な距離か否かを判定する判定手段と、
データ送信可能な距離ではないと前記判定手段が判定したことに基づいて、画像処理装置に近づくようユーザに促す通知を行う通知手段とをさらに有することを特徴とする請求項6に記載の画像処理システム。
【請求項8】
BLE通信によって情報端末から認証に関する情報を受信する第1の受信手段と、
前記第1の受信手段が受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、接続情報を前記情報端末に送信する送信手段と、
前記送信手段によって前記接続情報が前記情報端末に送信された後、Wi−Fi通信によって前記情報端末から印刷データを受信する第2の受信手段と、
前記第2の受信手段が前記印刷データを受信したことに従って、前記印刷データに基づく印刷を実行する印刷手段とを有する画像処理装置。
【請求項9】
前記第2の受信手段が受信した情報を用いた認証の成功に従って、ユーザを前記画像処理装置にログインさせるログイン手段をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記接続情報はSSIDを含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記接続情報はSSID、及びIPアドレスを含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の画像処理装置。
【請求項12】
BLE通信によって情報端末から認証に関する情報を受信する第1の受信工程と、
前記第1の受信工程で受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、接続情報を前記情報端末に送信する送信工程と、
前記送信工程で前記接続情報が前記情報端末に送信された後、Wi−Fi通信によって前記情報端末から印刷データを受信する第2の受信工程と、
前記第2の受信工程で前記印刷データを受信したことに従って、前記印刷データに基づく印刷を実行する印刷工程とを有する画像処理装置の制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載された制御方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし13に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2015−069458号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1、引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【0020】
[第1実施形態]
図1に示すように、本実施形態の通信システム1は、多機能周辺装置(以下「MFP」(Multi Function Peripheral の略)という)3と、携帯端末5と、AP(Access Pointの略)7とを備える。
【0021】
MFP3は、主な機能として、プリント(印刷)機能、スキャン(画像読取)機能、ファクシミリ機能、コピー機能などの各種機能を有している。MFP3は、CPU11、ROM12,RAM13、フラッシュメモリ14、表示部15、入力部16、NFC通信部17、無線LAN通信部18、通信回線接続部19、プリンタ部20、及びスキャナ部21を備えている。CPU11は、ROM12やフラッシュメモリ14に記憶される各種プログラムやデータに従って、MFP3が有している各種機能を実現する。」

「【0025】
NFC通信部17は、NFC規格に従う非接触通信(以下、この通信を「NFC通信」という)の通信方式で無線通信を行うためのインタフェースである。NFC通信は、10cm程度の短い距離を通信可能距離とする近距離無線通信である。なお、携帯端末5も、NFC通信部37を備えている。そのため、MFP3は、NFC通信部17を介して携帯端末5とNFC通信が可能である。MFP3と携帯端末5との間のNFC通信は、両者間の距離(具体的にはMFP3のNFC通信部17が備えるアンテナと携帯端末5のNFC通信部37が備えるアンテナとの距離)がNFC通信の通信可能距離内となるように両者を近接させると実行可能となる。
【0026】
本実施形態では、MFP3は据え置き型の装置であって基本的に一定の場所に設置されて使用される。一方、携帯端末5は、小型の可搬型の通信用端末であり、容易に持ち運び可能である。そのため、MFP3と携帯端末5とのNFC通信は、通常、携帯端末5をMFP3の所定の近接部位に近接させる(かざす)ことにより行われる。MFP3の近接部位とは、NFC通信部17が有するアンテナの直上の位置である。なお、以下の説明で、携帯端末5を含む、NFC通信が可能な各種の通信機器をMFP3に対して「かざす」という時は、通信機器とMFP3とが相互にNFC通信が可能となるように通信機器をMFP3の上記近接位置に近接させることを意味するものとする。
【0027】
無線LAN通信部18は、無線LANによる無線通信を行うためのインタフェースである。本実施形態では、無線LAN通信部18が行う通信は、IEEE802.11b/gの規格に準拠した無線LANによる無線通信である。本実施形態において、無線LAN通信部18は、AP7を介したインフラストラクチャモード、または、直接接続であるアドホックモードのいずれかにより、他の無線LAN通信が可能な機器との間で無線LAN通信が可能である。なお、携帯端末5も、無線LAN通信部38を備えている。そのため、MFP3は、無線LAN通信部18を介して携帯端末5との無線LAN通信が可能である。」

「【0029】
プリンタ部20は、プリント機能を実現するものであって、CPU11の制御の下、画像データに基づく画像を記録用紙にプリント(印刷)する。プリンタ部20によりプリントを実行させたい場合、ユーザは、入力部16を介してプリント実行のための所定の操作を行うことで実行できる。具体的には、液晶表示画面にプリントキーを表示させ、そのプリントキーをタッチパネルにてタップすることで、プリントさせることができる。」

「【0031】
MFP3は、セキュリティ関連の機能として、SFL(Secure Function Lock)機能を備えている。SFL機能は、ユーザ毎に、利用可能な機能と利用不可能な機能を予め設定しておき、MFP3にログイン中のユーザの機能設定内容に従って、利用可能な機能のみ実行可能とする(換言すれば、利用不可能な機能は実行しない)ようにする機能である。
【0032】
MFP3では、特定のSFL機能設定操作によって、SFL機能を有効(ON)又は無効(OFF)の何れかに設定可能である。例えば、予め決められた特定のユーザID(例えば管理者用のユーザID)によりログインしてSFL機能設定操作を行うことで、SFL機能を有効又は無効の何れかに設定できる。MFP3へのログインは、ユーザIDが記憶されていて且つNFC通信が可能なICカードや通信機器等のログイン用媒体をMFP3にかざすことで行うことができる。
【0033】
ログイン用媒体をMFP3にかざすと、ログイン用媒体とMFP3との間でNFC通信が行われ、ログイン用媒体に記憶されているユーザIDがMFP3へ送信される。MFP3には、当該MFP3にログイン可能なユーザを予め登録可能である。MFP3は、ログイン用媒体から送信されてきたユーザIDと、自身に登録されているユーザIDとを照合し、送信されてきたユーザIDが自身に登録されている場合に、送信されてきたユーザIDのログイン処理を行う。
【0034】
本実施形態では、携帯端末5もNFC通信が可能であって且つユーザIDが記憶されており、MFP3にはそのユーザIDも登録されている。そのため、携帯端末5をMFP3にかざすことで、携帯端末5のユーザIDにてMFP3へログインすることが可能である。
【0035】
MFP3において、SFL機能が無効(OFF)に設定されている場合は、あらゆるユーザが制限なくMFP3の各機能を利用することができる。一方、SFL機能が有効(ON)に設定されている場合は、MFP3にログインしているユーザ(ユーザID)に応じて、使用可能な機能が制限される場合がある。
【0036】
即ち、MFP3には、登録されているユーザ(ユーザID)毎に、一又は複数の特定の機能について、SFL機能の有効時にその機能を使用可能か否かが設定されている。具体的には、図2に示すように、MFP3が有する各種機能のうち、プリント機能及びスキャン機能について、登録されているユーザ毎に、SFL機能の有効時に使用可能(ON)又は使用不可能(OFF)の何れかであることが、ユーザ登録テーブルとして予め登録されている。このユーザ登録テーブルは、フラッシュメモリ14に記憶されており、SFL機能の有効時に適宜参照される。
【0037】
図2に示すユーザ登録テーブルは、パブリックのユーザIDに対してはプリント機能がOFF(つまりプリント機能を使用不可能)でスキャン機能がON(つまりスキャン機能は使用可能)に設定され、ユーザAのユーザIDに対してはプリント機能及びスキャン機能の何れもONに設定され、ユーザBのユーザIDに対してはプリント機能がONでスキャン機能がOFFに設定されている例を示している。
【0038】
そのため、例えばユーザAがログインした場合、そのログイン中はMFP3の各機能を制限なく使用できる。一方、例えばユーザBがログインした場合、そのログイン中は、MFP3の各機能のうち少なくともスキャン機能については使用できない。
【0039】
また、ユーザIDのうちパブリックとは、実質的に誰もログインしていない状態を示している。つまり、MFP3は、ログイン中のユーザを示すログインユーザ情報を常に保持・管理しており、誰もログインしていない状態では、ログインユーザ情報をパブリックに設定する。そのため、SFL機能が有効の場合であって、誰もログインしていない場合は、MFP3のログインユーザ情報はパブリックに設定された状態であるため、プリント機能は使用不可能となる。逆に言えば、SFL機能が有効にされていても、プリント機能以外の他の機能については、あらゆるユーザが制限なく使用可能である。
【0040】
ログインユーザ情報がパブリックである場合に、例えばユーザAがICカード等をかざすことでログインすると、ログインユーザ情報がユーザAに設定される。すると、そのユーザAのログイン中は、プリント機能を含む全ての機能が使用可能となる。また、ログインユーザ情報がパブリックである場合に、例えばユーザBがICカード等をかざすことでログインすると、ログインユーザ情報がユーザBに設定される。すると、そのユーザBのログイン中は、スキャン機能は使用できないものの、プリント機能は使用できるようになる。
【0041】
MFP3で実行可能なプリント機能及びスキャン機能について、説明を追加する。本実施形態では、携帯端末5をMFP3にかざすことで、携帯端末5に保存されている画像データをMFP3へ送信してプリントさせることもできる。以下、この方法でプリントさせることを「かざしてプリント」という。携帯端末5には、かざしてプリントを行うためのアプリ(以下「かざしてプリントアプリ」という)がインストールされている。
【0042】
携帯端末5においてこのかざしてプリントアプリを起動させ、MFP3で印刷させたい画像データを指定して、携帯端末5をMFP3にかざすと、まず、両者間でNFC通信(P2Pモードでの通信)が行われる。このNFC通信により、携帯端末5からMFP3へ、少なくともユーザID及びプリント指示を含むデータが送信される。また、MFP3から携帯端末5へ、無線LAN通信に必要な設定情報が送信される。
【0043】
携帯端末5とMFP3との間で必要なNFC通信が行われると、無線LAN通信にて、携帯端末5からMFP3へ画像データが送信される。MFP3は、携帯端末5から画像データを受信すると、その画像データの画像をプリントする。」

「【0110】
(5)上記実施形態では、本発明の近接無線通信方式の一例としてNFC通信を例示したが、近接無線通信方式としてNFC通信以外の他の無線通信方式を採用してもよい。」

「【図1】


【図2】



(2)上記(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「NFC通信部17、無線LAN通信部18、プリンタ部20と、セキュリティ関連の機能として、SFL(Secure Function Lock)機能を備えており、
SFL機能は、ユーザ毎に、利用可能な機能と利用不可能な機能を予め設定しておき、MFP3にログイン中のユーザの機能設定内容に従って、利用可能な機能のみ実行可能とする(換言すれば、利用不可能な機能は実行しない)ようにする機能であって、例えばユーザAがICカード等をかざすことでログインすると、ログインユーザ情報がユーザAに設定され、そのユーザAのログイン中は、プリント機能を含む全ての機能が使用可能となり、
携帯端末5をMFP3にかざすことで、携帯端末5に保存されている画像データをMFP3へ送信してプリントさせることもでき、
MFP3で印刷させたい画像データを指定して、携帯端末5をMFP3にかざすと、まず、両者間でNFC通信(P2Pモードでの通信)が行われ、
携帯端末5からMFP3へ、少なくともユーザID及びプリント指示を含むデータが送信され、
MFP3から携帯端末5へ、無線LAN通信に必要な設定情報が送信され、
無線LAN通信にて、携帯端末5から画像データを受信すると、その画像データの画像をプリントし、
近接無線通信方式としてNFC通信以外の他の無線通信方式を採用してもよい、
MFP3。」

2 周知文献
(1)周知技術が記載されている文献として新たに例示する特開2015−172868号公報には、以下の記載がある。

「【0024】
図1に本発明の実施形態に係る情報提供システム1(情報提供システム)を示す。情報提供システム1は、移動機10と、サーバ20(サーバ)と、ウェアラブルデバイス30(近距離通信デバイス)と、店舗システム40(情報提供装置)とを含んで構成される。移動機10とウェアラブルデバイス30とは近距離通信により互いに通信可能である。サーバ20と移動機10とは移動体通信(具体的には例えば、3G、LTE等の移動体通信)により互いに通信である。移動体通信により通信が行われる場合には、当該通信は基地局等の移動体通信網の設備が用いられる。ウェアラブルデバイス30と店舗システム40とは近距離通信(具体的には例えば、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)やNFC(Near field communication))により互いに通信可能である。店舗システム40とサーバ20とは有線通信等の近距離通信とは別の通信方法(例えば、インターネット等のバックボーン(Backbone)となる通信網を介した通信方法)により互いに通信可能である。なお、移動機10とウェアラブルデバイス30とは、一体となっていてもよい。また、通常、移動機10のユーザとウェアラブルデバイス30のユーザとは同一である。」

(2)上記(1)から近距離通信(近接無線通信)としてNFCと共に、BLEが本願出願前に周知であったと認められる。

第5 対比
1 本願発明8と引用発明とを比較すると、次のことがいえる。

(1)引用発明における「携帯端末5」は、本願発明8の「情報端末」に相当する。

(2)引用発明における「ユーザID」は、ログインに用いられることは明らかであるから、本願発明8の「認証に関する情報」に相当する。

(3)引用発明における「MFP3」は、「NFC通信」により「携帯端末5」から「ユーザID」を受信しているから、引用発明の「NFC通信部17」は、上記(1)、(2)を踏まえると、本願発明8の「BLE通信によって情報端末から認証に関する情報を受信する第1の受信手段」と、「情報端末から認証に関する情報を受信する第1の受信手段」である点で共通する構成を備えるといえる。

(4)引用発明は「例えばユーザAがICカード等(当審注:携帯端末を含む)をかざすことでログインすると、ログインユーザ情報がユーザAに設定され、そのユーザAのログイン中は、プリント機能を含む全ての機能が使用可能とな」るものであり、当該ログインは「携帯端末5からMFP3」へ送信された「ユーザID」に基づいて行われるのであるから、「MFP3」は「ログイン」したユーザAの「携帯端末5」に対して、「NFC通信」により「無線LAN通信に必要な設定情報」を送信しているということができる。そうすると、引用発明の「NFC通信部17」は、本願発明8の「前記第1の受信手段が受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、接続情報を前記情報端末に送信する送信手段」に相当する構成を備えるといえる。

(5)引用発明における「画像データ」は、「プリント」されるものであるから、本願発明8の「印刷データ」に相当する。

(6)引用発明において、「MFP3から携帯端末5へ、無線LAN通信に必要な設定情報が送信され」た後に、「無線LAN通信にて、携帯端末5から画像データを受信」していることは明らかであり、上記(5)を踏まえると、引用発明の「無線LAN通信部18」は、本願発明8の「前記送信手段によって前記接続情報が前記情報端末に送信された後、Wi−Fi通信によって前記情報端末から印刷データを受信する第2の受信手段」に相当する。

(7)引用発明における「プリンタ部20」は、受信した「画像データ」をプリントしているから、本願発明8の「前記第2の受信手段が前記印刷データを受信したことに従って、前記印刷データに基づく印刷を実行する印刷手段」に相当する。

(8)引用発明における「MFP3」は、「プリンタ部20」を有するから、本願発明8の「画像処理装置」に相当する。

2 一致点・相違点
以上のことから、本願発明8と引用発明との間には、次の一致点・相違点があるといえる。

[一致点]
「情報端末から認証に関する情報を受信する第1の受信手段と、
前記第1の受信手段が受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、接続情報を前記情報端末に送信する送信手段と、
前記送信手段によって前記接続情報が前記情報端末に送信された後、Wi−Fi通信によって前記情報端末から印刷データを受信する第2の受信手段と、
前記第2の受信手段が前記印刷データを受信したことに従って、前記印刷データに基づく印刷を実行する印刷手段とを有する画像処理装置。」

[相違点]
本願発明8において、「認証に関する情報」は「BLE通信」によって受信するのに対し、引用発明では、「NFC通信」である点。

第6 判断
1 相違点について
上記第4の2で述べたように、近距離通信としてNFCと共にBLEは本願の出願前に周知技術であった。
また、引用発明は「近接無線通信方式としてNFC通信以外の他の無線通信方式を採用してもよい」ものであるから、引用発明において「NFC通信」に代えて、同じ近距離通信である「BLE通信」を採用することは当業者にとって容易になし得たことである。
したがって、本願発明8は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

2 効果について
本願発明8の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「イ.また、引例1の段落〔0042〕には、携帯端末をMFPにかざすとNFC通信でユーザIDが送信されることが記載されています。そして、MFPから携帯端末に無線LAN通信に必要な設定情報が送信されることも記載されています。
ウ.しかし、無線LAN通信に必要な設定情報はどのタイミングで携帯端末に送信されるかは何ら記載されていません。段落〔0086〕の記載では、S430のタイミングで通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替えることが記載されているだけであり、
無線LAN通信に切り替えるための設定情報はどのタイミングで携帯端末に送信されているかは不明です。
エ.また、引例1のMFPは認証の成功に基づいて接続情報を携帯端末に送信するものではありません。
オ.上記のように通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替える処理が実行されるのは、ログインしているユーザに対してプリント機能の使用が許可されているかどうかに基づきます。本願請求項1の「認証」を引例1のログイン処理に当てはめるのであれば、ログイン処理が成功しても、プリント機能の使用が許可されていなければ、通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替えることはありません。逆にログイン処理が失敗(パブリックユーザとしてログイン)しても、プリント機能の使用が許可されていれば、通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替える処理は実行されます。
カ.つまり、引例1のMFPでは、通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替えるかどうかは、ログイン処理が成功したかどうかではなく、ログインしているユーザに対してプリント機能の使用が許可されているかどうかに基づくものです。よって、引例1には認証の成功に基づいて接続情報を携帯端末に送信することは何ら記載されていません。」と主張する。

しかしながら、請求人の主張する「通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替えるかどうかは、ログイン処理が成功したかどうかではなく、ログインしているユーザに対してプリント機能の使用が許可されているかどうかに基づくものです。」に関して、「ログインしているユーザに対してプリント機能の使用が許可されているかどうかに基づく」ことは、その前段階として「ログインが成功」していることは明らかであり、上記動作は、ログインが成功したことに基づいて当該ログインが成功したユーザに許可された機能の判定を行い、判定された機能に基づいて通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替えているといえる。
そうすると、「通信をNFC通信から無線LAN通信に切り替える」処理は、「ログインが成功したことに基づいて」行われるということができるから、上記第5の1(4)で述べたように、引用発明の「NFC通信部17」は、本願発明8の「前記第1の受信手段が受信した情報を用いた認証が成功したことに基づいて、接続情報を前記情報端末に送信する送信手段」に相当する構成を備えるといえる。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明8は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-12-06 
結審通知日 2022-12-13 
審決日 2023-01-13 
出願番号 P2020-155310
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中野 裕二
特許庁審判官 石井 則之
野崎 大進
発明の名称 画像処理システム、画像処理装置、画像処理装置の制御方法及びプログラム  
代理人 弁理士法人ひのき国際特許事務所  

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