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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1396198
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-08-29 
確定日 2023-03-16 
事件の表示 特願2020−198464「電子コンテンツのデータ構造」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月25日出願公開、特開2021− 28853〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月17日に出願された特願2017−28488号の一部を令和2年11月30日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年11月30日 :上申書の提出
令和 3年10月29日付け:拒絶理由通知
令和 4年 1月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月10日付け:拒絶査定
同年 8月29日 :審判請求書の提出

第2 本願の請求項1に記載されたもの
本願の請求項1に記載されたもの(以下、これを便宜上「本願発明」という)は、令和4年1月7日付提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。(記号A−Dは分説するために当審にて付した。以下、これらを「構成A」−「構成D」という。)

「【請求項1】
A 記憶部を備え表示画像を生成するコンピュータに用いられ、前記記憶部に記憶される電子コンテンツのデータ構造であって、
B1 表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築するとともに、視点に対応するビュースクリーンに前記形状モデルを射影することにより、前記オブジェクトの像の位置および形状を表す処理に用いられる、
B 前記オブジェクトの3次元モデルのデータと、
C0 前記3次元空間において前記オブジェクトを所定の基準視点から見たときの像を表す基準画像と前記基準視点とを対応づけた
C 基準画像データであって、
C1 前記ビュースクリーンに前記オブジェクトの像の位置及び形状を表した後、当該像を構成する画素の値を、前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイントと、当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則で、前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する処理に用いられる
C 基準画像データと、
D を対応づけたこと
A を特徴とする電子コンテンツのデータ構造。」

第3 原査定の理由
令和4年5月10日付け拒絶査定の理由の概要は以下の事項を含むものである。

1.(発明該当性)この出願の請求項1に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。



請求項1には、オブジェクトの3次元モデルのデータと基準画像のデータとを対応付けた電子コンテンツのデータ構造が、表示画像を生成するコンピュータに用いられるものであって、オブジェクトの3次元モデルのデータと基準画像のデータのそれぞれがどのように用いられるかについて記載されていると認められる。
しかし、上記記載においては、他のプログラムによりコンピュータで処理が実行される際に、オブジェクトの3次元モデルのデータと基準画像のデータをそれぞれ用いて処理が行われることを規定しているにすぎず、データ構造によってコンピュータの処理が規定されているとはいえない。
よって、当該データ構造は、コンピュータによる情報処理を規定しているとはいえないから、プログラムに準ずるデータ構造ではない。
・・・
したがって、請求項1に係る電子コンテンツのデータ構造は、プログラムに準ずるデータ構造ではなく、全体としてみて、人為的な取決めに止まるから、自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく、特許法第2条第1項において定義された「発明」に該当しない。

第4 判断
1.本願発明の「データ構造」の発明特定事項について
(1)「電子コンテンツのデータ構造」の構成
ア 本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」は、「記憶部を備え表示画像を生成するコンピュータに用いられ」、「前記記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」(構成A)である。
イ そして、当該「データ構造」は、「オブジェクトの3次元モデルのデータ」(構成B)と、「基準画像データ」(構成C)とを「対応づけたこと」(構成D)からなる。
ウ また、本願発明の構成Cの「基準画像データ」は、構成C0に特定されるように、「前記3次元空間において前記オブジェクトを所定の基準視点から見たときの像を表す基準画像と前記基準視点とを対応づけた」ものである。

(2)「電子コンテンツのデータ構造」に関連する、コンピュータによる情報処理
ア 本願発明の「オブジェクトの3次元モデルのデータ」は、「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築するとともに、視点に対応するビュースクリーンに前記形状モデルを射影することにより、前記オブジェクトの像の位置および形状を表す処理に用いられる」(構成B1)ものである。
そうすると、本願発明の「オブジェクトの3次元モデルのデータ」に関連する情報処理は、「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築する」という処理と、「視点に対応するビュースクリーンに前記形状モデルを射影することにより、前記オブジェクトの像の位置および形状を表す処理」という処理に関連する情報処理である。

イ また、本願発明の「基準画像データ」は、「前記ビュースクリーンに前記オブジェクトの像の位置及び形状を表した後」、「当該像を構成する画素の値を」、「前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイント」と、「当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則」で、「前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する」「処理に用いられる」(構成C1)ものである。
そうすると、本願発明の「基準画像データ」に関連する情報処理は、「ビュースクリーンに」「オブジェクトの像の位置及び形状を表した後」の「当該像を構成する画素の値を」、「前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイント」と、「当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則」で「前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する」という情報処理である。

2.発明該当性についての判断
(1)「電子コンテンツのデータ構造」について
ア まず、上記1.(1)ウに関して、構成Cの「基準画像データ」が構成C0の「前記3次元空間において前記オブジェクトを所定の基準視点から見たときの像を表す基準画像と前記基準視点とを対応づけた」ものであるという事項について検討する。
本願発明においては、上記「オブジェクトを所定の基準視点から見たときの像を表す基準画像」と「基準視点」を「対応づけ」るために用いられる何らかのデータの「データ構造」(または「データ構造」を有するデータ)、すなわち上記2つのデータ要素間の関係を特定するために用いられるデータの「データ構造」(または「データ構造」を有するデータ)、が特定されているわけではないし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても、そのようなデータの「データ構造」(または「データ構造」を有するデータ)が記載されているわけでもない。
そうすると、構成Cの「基準画像データ」が「基準画像」と「基準視点とを対応づけた」とは、所定の「基準視点」というデータに関連する所定の「基準画像」が存在しており、当該「基準画像」に関連するデータを「基準画像データ」と称している、という以上の事項を見いだすことはできない。

イ 次に、上記1.(1)イに関して、構成Aの「記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」が構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と構成Cの「基準画像データ」とを構成Dのように「対応づけたこと」からなるという事項について検討する。
構成Dの「対応づけたこと」とは、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と構成Cの「基準画像データ」を「対応づけ」るために用いられる何らかのデータの「データ構造」(または「データ構造」を有するデータ)を特定するものではないし、当該「データ構造」を用いた「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と「基準画像データ」を「対応づけ」るための具体的な情報処理を特定するものでもない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても、そのような対応づけに用いられる何らのデータの「データ構造」(または「データ構造」を有するデータ)や、当該「データ構造」を用いて「対応づけ」を行うための具体的な情報処理が記載されているわけでもない。
そうすると、構成Aの「記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」が構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と構成Cの「基準画像データ」とを構成Dのように「対応づけたこと」とは、所定の「オブジェクトの3次元モデルのデータ」とこれに関連する所定の「基準画像データ」が記憶部に存在していることのみをもって、「対応づけた」と称している、という以上の事項を見いだすことはできない。

ウ 上記ア、イから、本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」とは、所定の「基準視点」というデータに関連して所定の「基準画像」が存在しており、当該「基準画像」に関連するデータを構成Cの「基準画像データ」と称していること、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」とこれに関連する構成Cの「基準画像データ」が記憶部に記憶されていることのみをもって、「記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」と称しているにすぎない。

(2)「コンピュータによる情報処理」について
本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」に関連する情報処理は、上記1.(2)のとおりである。すなわち、
(i)構成B1の情報処理である、「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築する」という処理と、「視点に対応するビュースクリーンに」「前記形状モデルを射影することにより」「前記オブジェクトの像の位置および形状を表す」という処理に関連する情報処理と、
(ii)構成C1の情報処理である、「ビュースクリーンに」「オブジェクトの像の位置及び形状を表した後」の「当該像を構成する画素の値を」、「前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイント」と、「当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則」で「前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する」という情報処理である。
そうすると、本願発明において、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」、構成Cの「基準画像データ」という、2種類のデータ要素間の関係により定められる情報処理とは、2種類のデータをともに用いて行う、上記(i)と(ii)を合わせた情報処理、
すなわち、「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築する」処理と、「視点に対応するビュースクリーンに」「前記形状モデルを射影することにより」「前記オブジェクトの像の位置および形状を表す」処理を行い、その後に、「当該像を構成する画素の値を」、「前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイント」と、「当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則」で「前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する」
という情報処理である。

(3) 「プログラムに準ずるデータ構造」であるかどうかの判断
上記(1)ウのとおり、本願発明の構成Aの「電子コンテンツのデータ構造」とは、所定の「基準視点」というデータに関連して所定の「基準画像」が存在しており、当該「基準画像」に関連するデータを構成Cの「基準画像データ」と称していること、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」とこれに関連する構成Cの「基準画像データ」が記憶部に記憶されていることのみをもって、「記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」と称しているにすぎない。
また、本願発明における「処理」とは、上記(2)のとおり、構成B1、構成C1を合わせた情報処理を行うものであり、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と構成Cの「基準画像データ」は、構成Bのデータと構成Cのデータのデータ間の関係が、構成B1と構成C1の処理を合わせた情報処理の手順を定めるものではなく、単に構成Bのデータと構成Cのデータが、ともに構成B1と構成C1の処理を合わせた情報処理において用いられていることが特定されているにすぎず、
結局、本願発明においては、構成B1と構成C1を合わせた情報処理がコンピュータ上で実行される際に、これらの情報処理を実行するためのプログラムにおいて用いられる構成Bと構成Cの2種類のデータがあること、これらのデータが記憶部に記憶されていることのみをもって、これらのデータを構成A、Dにおいて特定される「対応付けられた」「記憶部に記憶される」「電子コンテンツのデータ構造」と称しているにすぎない。

そして、このような「電子コンテンツのデータ構造」は、コンピュータに対する指令が一の結果を得るように組み合わされたプログラムに類似する性質を有していない、すなわち、何ら電子計算機による処理を規定するものではない。
したがって、本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」は、特許法第2条第4項に規定された「プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう)その他電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの」ということはできない。

(4) 小括
以上のことから、本願発明は、全体としてみて、「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と「基準画像データ」を対応づけたことにおける「データ構造」に基づく情報処理を具体的に特定するものではなく、情報処理において「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と「基準画像データ」のそれぞれのデータが用いられているという事項を特定したにすぎないものであり、「人為的な取決め」を記載したにとどまるものであって、特許法第2条柱書きにおける「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法第29条第1項柱書きに規定する「発明」に該当しない。

3.審判請求書の主張について
請求人は、令和4年8月29日の審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」において、以下のとおり主張している。
「(1)本願発明の説明
本願請求項1に係る発明は、「表示画像を生成するコンピュータに用いられ、記憶部に記憶される電子コンテンツのデータ構造であって」、「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と「前記オブジェクトを所定の基準視点から見たときの像を表す基準画像と前記基準視点とを対応づけた基準画像データ」と、を対応づけたことを特徴とします。以下、この特徴を(a)とします。特徴(a)において「オブジェクトの3次元モデルのデータ」は、「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築するとともに、視点に対応するビュースクリーンに前記形状モデルを射影することにより、前記オブジェクトの像の位置および形状を表す処理」に用いられ、「基準画像データ」は、「前記ビュースクリーンに前記オブジェクトの像の位置及び形状を表した後、当該像を構成する画素の値を、前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイントと、当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則で、前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する処理」に用いられます。以下、この特徴を(b)とします。
(中略)
特徴(a)と(b)(中略)を含むデータ構造により、表示とは別のタイミングで時間をかけて高品質な基準画像を生成しておき、表示時にはこの高品質な画像から値を引いてくることにより、時間をかけることなく高品質な画像を提示できる、という格段の効果を奏するものです(本願明細書0071段落)。

(2)「発明」に該当する理由
まず本出願人は前回意見書において、本願請求項のデータ構造がコンピュータの処理を規定している旨を、具体的に記載箇所を挙げて主張しました。これに対し審査官殿は本拒絶査定において、本出願人の当該主張をそのまま引用しつつ、拒絶理由と同じ文面を再掲し、コンピュータの処理が規定されているとはいえないから、本データ構造はプログラムに準じないとされます。しかしながらこの査定理由は、審査基準の「第IX部 審査の進め方」第2節各論の拒絶査定に係る、「意見書において争点とされている事項については、それに対する審査官の判断を明確にする」との基準に則していないものと思料いたします。コンピュータの処理が規定されていると主張する記載箇所のそれぞれについて、なぜ規定されているとはいえないのかを明確にしないことは、前回の拒絶理由において、同各論に記載される、「出願人に意見を述べる機会を与える一方で、明細書等を補正して拒絶理由を解消する機会を与え、同時に意見書を資料として審査官に再考をするきっかけを与えて特許出願手続の適正妥当な運用を図ることにある」という拒絶理由通知の趣旨にも悖るものと思料いたします。
前回の拒絶理由で示唆された「特許・実用新案審査ハンドブック」附属書B第1章 コンピュータソフトウエア関連発明審査基準の事例2−8によれば、発明に該当するとされる事例上の請求項3、4と、発明に該当しないとされる事例上の請求項1、2との差は、「前記画像データの前記表示部による表示後、」「前記他のコンテンツデータを前記制御部が前記記憶部から取得する処理に用いられる」あるいは「前記次コンテンツIDが示す本体IDを有する他のコンテンツデータを前記制御部が前記記憶部から取得する処理に用いられる」という記載の有無にあります。同審査基準の「説明」によれば、当該記載の情報処理が、データ要素間の関係によって可能となるため、データ構造が情報処理を規定している、とされます。
一方、上記「(1)本願発明の説明」に記載した本願請求項1のデータ構造における特徴(a)、(b)のうち、仮に特徴(a)に、データ要素間の関係により定まる情報処理が含まれないとしても、特徴(b)には明らかに当該情報処理が含まれます。(中略)
上記審査基準の事例2−8に係る情報処理の手順は次のとおりです。
「本体ID」→「画像データ」取得→表示→「次コンテンツID」→(次に表示すべき)「画像データ」取得→表示
このうち鉤括弧で示したデータがデータ構造において対応づけられることにより、この手順での処理が可能になります。換言すれば、「本体ID」やその「画像データ」が「次コンテンツID」に対応づけられていなければ、次に表示すべき画像データを取得できず、その画像も表示されない、ということになります。このような関係性が、「データ要素間の関係によって情報処理が可能になるため、データ構造が情報処理を規定している」との認定に繋がるものと思料いたします。
一方、本願請求項1の記載に係る情報処理の手順を極力平易に表すと次のようになります。
「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と視点→オブジェクトの像の位置、形状を表す→「基準視点」、視点、「基準画像」→オブジェクトの像を構成する画素値を決定
このうち鉤括弧で示したデータがデータ構造において対応づけられることにより、この手順での処理が可能になります。つまり「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と、「基準画像」および「基準視点」を対応づけた基準画像データとが対応づけられていなければ、例えばオブジェクトの像の位置や形状を2次元で表すことはできても、それを構成する画素値、つまり色を決定することができず、ひいてはコンピュータが表示画像を生成することはできません。あるいは「基準画像」が、位置や形状を表す際に用いた「オブジェクトの3次元モデルのデータ」とは別のオブジェクトを基準視点から見たときの像を表すものであれば、当然、「同じ像を表す画素」は存在せず、この場合もコンピュータが表示画像を生成することはできません。
またこれらの処理手順において、「オブジェクトの3次元モデルのデータ」は厳密には、オブジェクトの像の位置や形状をビュースクリーンに表すのに用いられるのみならず、画素値を決定する段階でも用いられます。すなわちコンピュータは、「オブジェクトの3次元モデルのデータ」を用いて「3次元空間の形状モデルを構築」することにより、「オブジェクトの表面上のポイント」と「視点および基準視点」との3次元空間における位置関係を取得したうえで、それに基づく規則で、基準画像の画素値を用いて像を構成する画素の値を決定します。つまり請求項1・・・に記載のデータ構造は、連鎖的な処理の順序を規定することに加え、各段階でデータ要素を有機的に活用して表示画像を生成することを可能にします。基準画像データにオブジェクトの3次元モデルのデータが対応づけられていなければ、基準画像における「同じ像を表す画素」は特定できず、最終的にはオブジェクトの像の色を決定できません。したがって、拒絶査定における「オブジェクトの3次元モデルのデータと基準画像のデータをそれぞれ用いて処理が行われることを規定しているにすぎない」との認定は、到底承服できるものではありません。
また上記の手順のとおり、表示画像の生成という使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が、ソフトウェア(プログラムに準ずるデータ構造)とハードウエア資源(記憶部を備えるコンピュータ)とが協働した具体的手段又は具体的手順によって実現されていることは明らかです。
少なくとも以上の理由から、本願請求項1・・・に記載の電子コンテンツのデータ構造が「発明」に該当することは明らかです。」

上記主張について検討する。
上記2.(1)において示したように、本願発明の構成Dにおける「対応づけたこと」というのは、構成Bの「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と、構成Cの「基準画像データ」の2種類のデータが記憶部に存在することを特定するにすぎない。
また、上記2.(2)において示したように、本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」に関連する情報処理、すなわち、構成Bと構成Cの2種類のデータ要素間の関係により定められる情報処理とは、構成Bと構成Cの2種類のデータを用いて、構成B1と構成C1における「表示対象のオブジェクトが存在する3次元空間の形状モデルを構築するとともに、視点に対応するビュースクリーンに前記形状モデルを射影することにより、前記オブジェクトの像の位置および形状を表す処理」と、「前記ビュースクリーンに前記オブジェクトの像の位置及び形状を表した後、当該像を構成する画素の値を、前記3次元空間において当該画素で表される前記オブジェクトの表面上のポイントと、当該3次元空間における前記視点および前記基準視点との位置関係に基づく規則で、前記基準画像の同じ像を表す画素の値を用いて決定する処理」、すなわち、請求人が主張する、
「オブジェクトの3次元モデルのデータ」と視点→オブジェクトの像の位置、形状を表す→「基準視点」、視点、「基準画像」→オブジェクトの像を構成する画素値を決定
という一連の情報処理を行うということにすぎず、構成Bのデータと構成Cのデータが、上記一連の情報処理の手順を定めるものではない。

ここで、上記2.(1)イにおいて示したように、構成Bと構成Cとを対応づけるために用いられるデータ構造、すなわちデータ要素間の関係を特定するために用いられるデータ構造、が本願発明において特定されているわけではないし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を見ても、そのようなデータ構造を有するデータが存在するわけでもない。

そうすると、上記2.(3)のとおり、本願発明では、構成B1及び構成C1からなる情報処理がコンピュータ上で実行される際に、これらの情報処理を実行するためのプログラムにおいて、構成Bと構成Cがそれぞれ用いられるという事項を特定することのみをもって、これら2種類のデータ要素間の関係を「データ構造」と称しているにすぎない。
このような本件発明の「データ構造」は、コンピュータにおいて実行される処理を規定するものではない。

結局、本件発明の「電子コンテンツのデータ構造」は、コンピュータに対する指令が一の結果を得るように組み合わされたプログラムに類似する性質を有するものではない、すなわち、何ら電子計算機による処理を規定するものではない、ということができ、特許法第2条第4項に規定された「プログラム」または「プログラムに準ずるもの」ということはできない。

したがって、請求人の審判請求書による上記主張は、採用することができない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明の「電子コンテンツのデータ構造」は、全体としてみて、「データ構造」に基づく情報処理を具体的に特定するものではなく、所定の情報処理において特定の2つのデータが用いられるという「人為的な取り決め」を記載したにとどまるものであって、特許法第2条第1項における「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」に該当しない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
したがって、本願はその他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-01-13 
結審通知日 2023-01-17 
審決日 2023-01-30 
出願番号 P2020-198464
審決分類 P 1 8・ 1- Z (G06T)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 畑中 高行
特許庁審判官 五十嵐 努
川崎 優
発明の名称 電子コンテンツのデータ構造  
代理人 森下 賢樹  
代理人 青木 武司  
代理人 三木 友由  
代理人 村田 雄祐  

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