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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1396300 |
総通号数 | 16 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-10-26 |
確定日 | 2023-04-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7060155号発明「艶消物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7060155号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7060155号の請求項1〜12に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年8月31日に出願した特願2021−141630号(優先権主張 令和2年9月14日)の一部を、令和3年12月22日に新たな特許出願としたものであって、令和4年4月18日に特許権の設定登録がされ、同年4月26日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜12に係る特許に対し、令和4年10月26日に、特許異議申立人松永健太郎(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 表面の少なくとも一部に、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である表面形状を有し、艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。 【請求項2】 表面の少なくとも一部に、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である表面形状と、装飾層と、を有し、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。 【請求項3】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、100.00μm以下である請求項1又は2に記載の艶消物品。 【請求項4】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、3.00μm以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項5】 前記表面形状の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、2.00μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項6】 艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記艶消層の表面が、不規則なシワにより構成される凹凸形状を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項7】 前記不規則なシワが、複数の線条突起部により形成する複数の凸部と、前記複数の線条突起部により囲まれて形成する凹部とにより構成される、請求項6に記載の艶消物品。 【請求項8】 前記艶消層が、樹脂及びシワ形成安定剤を含む樹脂組成物の硬化物により構成され、前記シワ形成安定剤が前記艶消層の厚さの100%以下及び30μm以下のいずれか小さい方を上限とする平均粒子径を有し、前記シワ形成安定剤を、前記樹脂100質量部に対して0.5質量部以上で含むものである請求項6又は7に記載の艶消物品。 【請求項9】 基材を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の艶消物品。 【請求項10】 前記基材がシート状である請求項9に記載の艶消物品。 【請求項11】 艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記艶消層が、前記基材の一方の面の全面にわたって設けられる請求項10に記載の艶消物品。 【請求項12】 JIS K7361−1:1997に準拠して測定した全光線透過率が、20%以下である請求項1〜11のいずれか1項に記載の艶消物品。」 第3 申立理由の概要 申立人は、以下の甲第1号証〜甲第9号証(以下、それぞれ、「甲1」〜「甲9」ともいう。)を提出して、以下の申立理由により請求項1〜12に係る特許を取り消すべきである旨主張する。 1 証拠方法 甲1:株式会社キーエンス、「表面粗さ測定入門 面粗さ編」、[online]、令和4年8月22日検索、URL: https://www.nsfellows.com/files/user/site/hyoumenarasa.pdf 甲2:株式会社キーエンス、「粗さ入門.com」、[online]、令和4年10月21日検索、URL: https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/ 甲3:韓国公開特許第10−2020−0025050号公報 甲4:甲3の訳文 甲5:特開2015−205505号公報 甲6:BASF SE、「Soft touch matt coatings with high scratch resistance via optimized coating formulation & alternative curing methods」、2017年10月26日 甲7:甲6の訳文 甲8:EUROPEAN COATINGS JOURNAL 05-2018、TECHNICAL PAPER、「THE HEART OF THE MATTER」、2018年5月、20〜26ページ 甲9:甲8の訳文 2 申立理由 (1)申立理由1(サポート要件違反) 本件発明1〜12は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜12に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2−1(甲3を主引用文献とする進歩性欠如) 本件発明1〜12は、甲3に記載された発明及び技術常識(甲6、甲8参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜12に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜12に係る特許は、取り消されるべきものである。 (3)申立理由2−2(甲5を主引用文献とする進歩性欠如) 本件発明1〜12は、甲5に記載された発明及び技術常識(甲6、甲8参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜12に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜12に係る特許は、取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 甲号証の記載事項等 (1)甲3について ア 記載事項 甲3には、以下の事項が記載されていると認められる(甲4参照。下線は当審が付与。以下同様。)。 「[0009] 本発明の目的は、床材の低光沢を実現し、同時に表面に疎水性を導入し、表面粗さを制御することにより耐汚染性を改善する一方、ノンスリップ性が向上された床材を提供することにある。」 「[0011] そこで、本発明は、1つの実施形態では、 [0012] 発泡層、基材層及びアクリル樹脂組成物の硬化層を含み、 [0013] 前記硬化層は、表面には点を中心部と、前記中心部から周辺部に延在する放射状の屈曲構造のデンドライト状を含み、 [0014] 表面粗度(Rz)が平均5μm〜40μmであり、 [0015] 平均静的水接触角(static water contact angle)80゜〜120゜の間の床材を提供する。」 「[0047] 本発明に係る床材、家庭や事務室などで使用される室内用床材として、発泡層、基材層及び硬化層を含む。ここで、前記硬化層は、アクリル樹脂組成物の硬化層として床材の最外層に位置し、その表面には一定の表面粗さと形態を有する微細な屈曲構造を有する。具体的に、前記屈曲構造は、硬化層表面に存在する任意の一点を中心とし、該中心部から周辺部に延出して中心部から周辺部に行くほど高さが低くなる放射状の凹凸がランダムに分散された構造を有する。例えば、前記放射状屈曲構造は、硬化層表面の任意の一点を中心とする樹状構造(arborescence structure)やデンドライト構造(dendrite structure)がランダムに分散された構造を含むことができる。」 「[0056] 別の例として、本発明に係る床材は、硬化層表面に形成された放射状溝の構造を介して表面に入射される光の散乱を誘導することで硬化層に艶消し剤をごく少量を含むか、または場合によっては含まなくても、顕著に低い光沢を具現することができる。具体的に、前記床材は、光沢計(Gloss Meter)を用いた60°光沢度(グロス60°条件)を測定し、表面光沢度が5未満であり、より具体的には、上限が4.5以下、4以下、3.5以下、3以下、2.5以下又は2.3以下であり、下限が0.1超、0.5超、1超、または1.1超または2またはそれ以上であり得る。例えば、前記床材の平均の表面光沢度は、0.1〜4.8、0.1〜4.5、0.1〜4、0.1〜3.5、0.1〜3、0.1〜2.8、0.1〜2.4、0.5〜1.8、3.2〜4.7、0.1〜0.4、0.5〜4、0.5〜3 1〜2.5、1〜2.2、1.7〜2.9、0.8℃〜1.9、1.3〜2.2、1.2〜1.7、1.8〜2.2、1.3〜2.4であってもよい。」 「[0060] 一方、本発明に係る床材は発泡層、基材層及び硬化層以外に別途の層をさらに含むことができる。具体的に、前記床材は、発泡層と基材層との間に印刷層と寸法安定層のうちいずれか一つ以上をさらに含むことができる。例えば、前記床材は、発泡層、印刷層、基材層及び硬化層とが順次積層された構造を有するか、または発泡層、寸法安定層、印刷層、基材層及び硬化層が順次積層された構造を有することができる。」 イ 甲3発明 上記ア(特に、[0056]、[0060])を総合すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明という。)が記載されていると認められる。 「発泡層、印刷層、基材層及び硬化層がこの順で積層され、硬化層表面に放射状溝の構造が形成され、硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満である床材。」 (2)甲5について ア 記載事項 甲5には、以下の事項が記載されている。 「【0008】 本発明は、低艶感に優れ、且つ、表面に斜光が入射しても光の乱反射が抑制され、斜めから見た際に表面が白く見え難く、表現する意匠が視認可能であり、意匠性に優れたシートを提供することを目的とする。」 「【0013】 以下、本発明のシートについて詳細に説明する。なお、本発明のシートにおいて、表面とは、いわゆる「おもて面」であり、本発明のシートが被着材等に積層して用いられる際に、被着材と接触する面とは反対側の面であり、積層後に視認される面である。また、本明細書では、本発明のシートについて、上記表面の方向を「おもて」又は「上」と称し、その反対側を「裏」又は「下」と称する場合がある。 【0014】 [シート] 本発明のシートは、JIS B0633:2001に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.7μm以下である。上記Raが0.7μmを超えると、シート表面で入射光が乱反射し易くなり、正反射角±5°での反射率を、正反射角での反射率の50%以下に調整することが困難となり、表面に斜光が入射すると光が乱反射して斜めから見た際にシート表面の特定の箇所が白く見えてしまい、シートが本来表現する意匠が視認できない。上記Raは、0.6μm以下が好ましい。 なお、本明細書において、後述する体質顔料、樹脂ビーズ、エンボス賦型等により表面の算術平均粗さRaを0.7μm以下に調整することによりシートの表面に形成された、意匠性に寄与し、触感を付与する凹凸形状を、単に「凹凸形状」と示し、後述するダクによる凹凸形状を表す「凹凸形状(ダク)」;視覚的に凹凸として認識される、「視覚凹部」、「視覚的凹凸感」;「艶調整層による凸形状」とは区別される。 ・・・ 【0016】 本発明のシートは、表面に上述の凹凸形状を備えるものであるが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、図1のように木目板導管溝等の他のエンボス形状が賦型されていてもよい。図1は、本発明のシートの一例を示す断面図である。図1に例示する本発明のシート1は、表面に上述の体質顔料等により形成された凹凸形状を備える平面部9を備えており、平面部9の間に木目板導管溝10が賦型されている。上記他のエンボス形状としては、木目板導管溝に限定されず、例えば、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等が挙げられる。」 「【0019】 本発明のシートは、表面の60°グロスが10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。本発明のシートの表面の60°グロスを上述の範囲とすることにより、低艶感により優れたシートとすることができる。なお、本明細書において、上記60°グロスは、JIS Z−8741に準拠した方法により、光沢度測定器(株式会社村上色彩技術研究所製 商品名:GMX−202)を用いて測定される値である。」 「【0021】 [シートの層構成] 本発明のシートは、表面の算術平均粗さRa(JIS B0633:2001)が0.7μm以下であれば、その具体的構成(層構成)については限定されない。例えば、本発明のシートが化粧シートである場合、基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層、プライマー層及び表面保護層を順に積層してなるシートが挙げられる。」 イ 甲5発明 上記ア(特に、【0016】、【0019】、【0021】)を総合すると、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。 「基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層、プライマー層及び表面保護層を順に積層してなり、表面に凹凸形状を備え、表面の60°グロスが10以下である化粧シート。」 2 申立理由 事案に鑑み、まず、申立理由2−1、2−2から検討し、その後、申立理由1を検討する。 (1)申立理由2−1(甲3発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、後者の「硬化層」は、硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満であるから、前者の「艶消層」に相当し、以下同様に、「放射状溝の構造」は「表面形状」に、「60°光沢度(グロス60°条件)」は「60°グロス値」に、「床材」は「艶消物品」に、それぞれ相当する。 後者の「硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満である」ことは、前者の「前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である」ことに相当する。 後者の「硬化層表面」は、前者の「表面の少なくとも一部」の「表面」に相当するから、後者の「硬化層が」「積層され、硬化層表面に放射状溝の構造が形成され」ることは、前者の「表面の少なくとも一部に、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である表面形状を有し、艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され」ることと、「表面の少なくとも一部に、表面形状を有し、艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され」るという点で共通する。 そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点1−1> 「表面の少なくとも一部に、表面形状を有し、艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。」 <相違点1−1> 表面形状について、本件発明1では、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲3発明では、そのように特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 甲3だけでなく、甲1、2、5、6、8にも、床材や床材と技術的に関連する化粧シート等の表面がISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下であることについて、何ら記載も示唆もなく、他に、該下線部が、技術常識や周知技術であることを認めるに足る証拠もない。 したがって、甲3発明において、相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(特に、32〜34ページ参照。)において、(a)本件の明細書の実施例1と比較例3を比較すると、材料は一致しており、実施例1では、「エキシマ光を照射する前に波長395nmの紫外線を照射する」点(以下「前処理技術」という。)でのみ相違し、該前処理技術により、相違点1−1に係る本件発明1の構成としていると推認できるところ、甲6、8で示されるように、上記前処理技術は技術常識であり、甲3発明の製造に該技術常識を適用すると、相違点1−1に係る本件発明1の構成となる蓋然性が高いこと、(b)本件の審査段階で拒絶理由に引用された引用文献1(特開2019−124908号公報)を参照すれば、甲3発明において、相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであることから、本件発明1は、甲3発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。 しかしながら、上記(a)については、本件の明細書の実施例1と、材料や製造の各工程の加工条件等が同じになれば、結果として同じ特性のものとなる蓋然性は高くなるとも考えられるが、甲3をみる限り、甲3発明の材料や上記前処理技術以外の製造工程が本件の明細書の実施例1と同じとは認められないから、甲3発明の製造に上記前処理技術を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成となるとはいえない。 上記(b)について、引用文献1には、積層フィルムの防眩性表面のクルトシス(Rku)やスキューネス(RSk)の数値範囲(【0072】、【0073】参照。)が開示されており、その数値範囲は、相違点1−1に係る本件発明1の構成と一部重なるが、開示された積層フィルムは、液晶ディスプレイの偏光板等の用いるものであり、甲3発明とは、属する技術分野が異なり、技術的な関連性はないから、甲3発明に引用文献1に記載の上記数値範囲を適用する動機付けがあるとは認められない。 以上によれば、申立人の上記主張は、当を得たものとはいえず、採用できない。 (エ)小括 以上によれば、本件発明1は、甲3発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と甲3発明とを対比すると、後者の「印刷層」は、前者の「装飾層」に相当する。 そして、上記ア(ア)を踏まえると、本件発明2と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点1−2> 「表面の少なくとも一部に、表面形状と、装飾層と、を有し、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。」 <相違点1−2> 表面形状について、本件発明2では、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲3発明では、そのように特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 相違点1−2は、実質的に相違点1−1と同じであるので、上記ア(イ)〜(エ)で説示したのと同様の理由により、本件発明2も、甲3発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明3〜12について 本件発明3〜12は、本件発明1、2のいずれかの発明の全ての構成を含み、かつ、更なる限定を加えたものであるから、上記ア(イ)〜(エ)及びイ(イ)で説示したのと同様の理由により、甲3発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ まとめ したがって、申立理由2−1は成り立たない。 (2)申立理由2−2(甲5発明を主引用発明とする進歩性欠如) ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲5発明とを対比すると、後者の「表面保護層」は、表面の60°グロスが10以下であるから、前者の「艶消層」に相当し、以下同様に、「凹凸形状」は「表面形状」に、「60°グロス」は「60°グロス値」に、「化粧シート」は「艶消物品」に、それぞれ相当する。 後者の「表面保護層を」「積層してな」ることは、前者の「艶消層を備え」ることに相当する。 後者の「表面」は、表面保護層の表面でもあるから、後者の「表面に凹凸形状を備え」ることは、前者の「前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され」ることに相当し、後者の「表面の60°グロスが10以下である」ことは、前者の「前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である」に相当する。 また、後者の「表面に凹凸形状を備え」ることは、前者の「表面の少なくとも一部に、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である表面形状を有す」ることと、「表面の少なくとも一部に、表面形状を有」するという点で共通する。 そうすると、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点2−1> 「表面の少なくとも一部に、表面形状を有し、艶消層を備え、前記表面形状が前記艶消層の表面により形成され、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。」 <相違点2−1> 表面形状について、本件発明1では、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲5発明では、そのように特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 相違点2−1は、実質的に相違点1−1と同じであるので、上記(1)ア(イ)〜(エ)で説示したのと同様の理由により、本件発明1は、甲5発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と甲5発明とを対比すると、後者の「絵柄模様層」は、前者の「装飾層」に相当する。 上記ア(ア)を踏まえると、本件発明2と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点2−2> 「表面の少なくとも一部に、表面形状と、装飾層と、を有し、前記表面形状の60°グロス値が、10.0以下である艶消物品。」 <相違点2−2> 表面形状について、本件発明2では、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲5発明では、そのように特定されていない点。 (イ)相違点についての判断 相違点2−2は、実質的に相違点1−1と同じであるので、上記(1)ア(イ)〜(エ)で説示したのと同様に理由により、本件発明2も、甲5発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明3〜12について 本件発明3〜12は、本件発明1、2のいずれかの発明の全ての構成を含み、かつ、更なる限定を加えたものであるから、上記(1)ア(イ)〜(エ)及び上記ア(イ)、イ(イ)で説示したのと同様の理由により、甲5発明及び技術常識(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ まとめ したがって、申立理由2−2は成り立たない。 (3)申立理由1(サポート要件) 申立人は、特許異議申立書(特に、26〜31ページ参照。)において、発明の詳細な説明には、表1において、Ssk、Sku、RSm、Rz、Raの5つのパラメータについて、請求項1〜5の記載で特定される範囲の全てを満たす実施例1〜6のみが優れた質感とさらさらとした感触であることが開示されており、上記5つのパラメータについて、上記範囲の全てを満たすものが「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつさらさらした触感に優れる艶消物品を提供すること」(【0008】)との課題を解決できるものであると認められるところ、請求項1の記載では、SskとSkuのみの範囲が特定されているのにすぎず、本件発明1は、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件発明2〜12も同様である旨主張する。 しかしながら、請求項1には、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、SskとSkuについて、請求項1の上記記載を満たすものとして、表1に実施例1〜6が開示されているとともに、請求項1の上記記載を満たさないものとして、表1〜3に比較例1〜7が開示され、また、表1〜3には、実施例1〜6は、質感とさらさらとした感触がともにA評価であるのに対し、比較例1〜7は、質感とさらさらとした感触の少なくとも一方がB又はC評価であることも開示されていることから、当業者であれば、表1〜3の記載等を参照して、請求項1の上記記載を満たすものは、上記課題を解決できるものであると認識できるのは明らかである。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、請求項1の上記記載と同様の記載が請求項2にあること等を勘案すると、本件発明2〜12も、発明の詳細な説明に記載されたものである。 以上より、申立人の上記主張は、当を得たものでなく、採用をすることはできない。 よって、申立理由1は成り立たない。 第5 むすび 以上によれば、特許異議の申立理由及び証拠によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-03-30 |
出願番号 | P2021-208113 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 八木 誠 |
登録日 | 2022-04-18 |
登録番号 | 7060155 |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 艶消物品 |
代理人 | 弁理士法人大谷特許事務所 |