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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1396309
総通号数 16 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-02 
確定日 2023-04-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7081042号発明「紙製バリア材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7081042号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7081042号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)3月17日(優先権主張 平成31年3月18日)を国際出願日とする出願であって、令和4年5月27日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜3に係る特許について、同年12月2日に特許異議申立人亀崎伸宏(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり、
前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下であることを特徴とする紙製バリア材料。
【請求項2】
少なくとも一方の最表面に熱可塑性樹脂層を備えることを特徴とする請求項1に記載の紙製バリア材料。
【請求項3】
前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJIS P8151:2004に基づいて、ソフトバッキング使用、クランプ圧1MPaの条件で測定した表面粗さが、3.5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の紙製バリア材料。」

第3 申立理由の概要
申立人による申立理由の概要、及び申立人が提出した証拠は以下のとおりである。

1 申立理由1(新規性
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性
本件発明1〜3は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明と、甲第4号証〜甲第9号証に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件
本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5 証拠方法
甲第1号証 特開2013−256013号公報
甲第2号証 特開2003−251917号公報
甲第3号証 特開平11−129381号公報
甲第4号証 特開2005−36378号公報
甲第5号証 特開2016−873号公報
甲第6号証 特開2008−238612号公報
甲第7号証 増補版印刷辞典、(財)印刷局朝陽会、昭和62年6月30日、第151頁
甲第8号証 「JISP8117:1998 紙及び板紙−透気度試験方法− ガーレー試験機法」、日本工業標準調査会、1998年
甲第9号証 高橋浩司(当審注:「高」は正しくは異字体のはしごだか。)、「日本からの提案による初のISO紙パルプ試験規格 −透気度試験方法/王研法−」、日本印刷学会誌、第52巻、第3号(2015)、第245〜249頁
(以下、各甲号証を証拠番号にしたがって、「甲1」などという。)

第4 甲号証の記載
1 甲1
甲1に記載されている事項(特に、【特許請求の範囲】、段落【0013】〜【0014】、【0025】の記載を参照。)を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「紙基材上に水蒸気バリア層、水溶性高分子を含有するガスバリア層をこの順に設け、前記紙基材の前記水蒸気バリア層、前記ガスバリア層を設けた面の反対面に塗工層を設けた紙製バリア包装材料。」

2 甲2
甲2に記載されている事項(特に、【請求項1】、【請求項2】、段落【0037】、【0050】〜【0052】、【0069】、【0074】、【0077】の記載を参照。)を総合し、特に比較例1の実験結果に注目すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「紙基材からなる支持体の片面に、インク受理層、その上に光沢発現層を有し、前記支持体の前記インク受理層とは反対面に、ガスバリア性を有する裏塗り層を有し、
前記支持体と前記インク受理層及び前記光沢発現層のみからなるシートのJIS P8117で規定される透気抵抗度が65秒であるインクジェット記録シート。」

3 甲3
甲3に記載されている事項(特に、【請求項1】、【0011】、【0014】〜【0015】の記載を参照。)を総合すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「紙製材料の片面に下塗り層を設け、この下塗り層上に無機層状化合物とポリビニルアルコール(PVA)からなる被覆層を塗布形成したガスバリア性紙製材料。」

4 甲4
甲4に記載されている事項(特に、【請求項1】、【請求項2】、【0007】、【0009】、【0012】、【0037】の記載を参照。)を総合すると、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4技術」という。)が記載されていると認められる。
(甲4技術)
「紙状基材と、その少なくとも一面上に少なくとも1層の塗工層とを設けてなる塗工紙において、塗工紙のJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に基づく王研式透気度を8000秒以下、なかでも、5000秒以下が好ましく、より好ましくは3000秒以下、さらに好ましくは2000秒以下にすることで、電子写真方式でのペーパーブリスター及びトナーブリスターを所期のレベルにすることが出来ること。」

第5 当審の判断
1 申立理由1について(新規性
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明における「紙基材」は本件発明1における「紙基材」に相当し、甲1発明における「水溶性高分子を含有するガスバリア層」は本件発明1における「ガスバリア層」に相当する。
甲1発明における「水蒸気バリア層」は、甲1の段落【0013】に「紙基材上に、耐水性の良好な樹脂を含有する水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に設けた場合、水蒸気バリア層が紙基材中の水分などのガスバリア層への影響(劣化)を防止することができる。」と記載され、また、本件特許明細書の段落【0016】に「目止め層は、ガスバリア層を設ける際のガスバリア層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることにより、ガスバリア性の低下を防ぐものである。目止め層は、上記性能を発揮できるものであれば特に制限されない」と記載されていることを踏まえると、本件発明1における「目止め層」に相当するといえる。
甲1発明における「塗工層」は、甲1の段落【0025】に「印刷物の外観を高めるために、一般的に印刷用塗工紙に使用される技術にて塗工層を設ける」と記載され、「塗工紙」が「顔料」を含むことが技術常識であることを踏まえると、本件発明1における「顔料塗工層」に相当するといえる。
甲1発明における「紙基材上に水蒸気バリア層、水溶性高分子を含有するガスバリア層をこの順に設け、前記紙基材の前記水蒸気バリア層、前記ガスバリア層を設けた面の反対面に塗工層を設けた」との事項は、本件発明1における「ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり」との事項に相当し、甲1発明における「紙製バリア包装材料」は本件発明1における「紙製バリア材料」に相当する。

以上の対比を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、
「ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなる紙製バリア材料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1−1)
本件発明1は、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である」のに対して、甲1発明は、紙基材と塗工層のみからなる状態での透気抵抗度が不明である点。

イ 判断
相違点1−1について検討する。
甲1発明における「塗工層」は、甲1の段落【0025】の記載によれば、「印刷物の外観を高めるために、一般的に印刷用塗工紙に使用される技術にて」設けるものであり、印刷用塗工紙は、紙基材に顔料を含む塗工層のみを塗工した積層体であるところ、印刷用塗工紙において、JAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は、塗工層の塗工量、層の坪量、塗工層の成分などに応じて種々の値を取り得るものであり、必ずしも「2500秒以下」の値となるものではない(必要ならば、甲4の段落【0085】【表1】に示された実施例6、実施例11、及び比較例1を参照されたい。)。
よって、相違点1−1は実質的な相違点といえ、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、「本件特許発明1および本件特許発明2と甲1発明の層構成は同一であり、また、そこから抜き出した構成、すなわち当該透気抵抗度に係る前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体についての構成も同一です。同一の構成からは、同一の性質を有する材料を得られるのが当該技術分野における技術常識であり、甲1発明における透気抵抗度についても2500秒以下であることについては一定の蓋然性があり」、「甲第4号証の実施例にもありますように、多くの塗工紙の透気抵抗度が2500秒以下であるところ、甲1発明の紙製バリア包装材料のうち、当該透気抵抗度が2500秒以下である紙製バリア包装材料を排除することはできず、それが含まれる蓋然性が高い」と主張する。
しかしながら、甲1には、甲1発明における「塗工層」の塗工量、層の坪量、塗工層の成分などが具体的に示されておらず、上記イで説示したとおり、印刷用塗工紙において、JAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は、塗工層の塗工量、層の坪量、塗工層の成分などに応じて種々の値を取り得るものであるから、申立人の上記主張は採用することができない。

(2) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、さらに限定を加えたものであり、甲1発明とは、少なくとも実質的な相違点である相違点1−1で相違するから、甲1に記載された発明ではない。

(3) まとめ
したがって、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1によって取り消すことはできない。

2 申立理由2について(進歩性
(1) 甲1発明を主引用発明とした場合
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1発明とは、上記1(1)アで示した相違点1−1で相違し、その余の点で一致する。

(イ) 判断
甲1発明は、「塗工層」を備えており、この層は「印刷物の外観を高めるために」(甲1の段落【0025】)設けられるものである。
一方、甲4には、上記「第4」4のとおり、「紙状基材と、その少なくとも一面上に少なくとも1層の塗工層とを設けてなる塗工紙において、塗工紙のJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に基づく王研式透気度を8000秒以下、なかでも、5000秒以下が好ましく、より好ましくは3000秒以下、さらに好ましくは2000秒以下にすることで、電子写真方式でのペーパーブリスター及びトナーブリスターを所期のレベルにすることが出来ること」(甲4技術)が記載されている。
しかるに、甲1には、「塗工層」に印刷を行う際に、ペーパーブリスターやトナーブリスターが生じるという課題は記載されておらず、甲1の記載に接した当業者にとって自明の課題ともいえないから、甲4技術を甲1発明に適用する動機付けはない。
また、甲2には、上記「第4」2のとおり、「前記支持体と前記インク受理層及び前記光沢発現層のみからなるシートのJIS P8117で規定される透気抵抗度が65秒である」構成を備えた「インクジェット記録シート」である甲2発明が記載されている。さらに、甲8及び甲9には、甲2発明のJIS P8117で規定されるガーレー試験機法による透気抵抗度と、本件発明1のJAPAN TAPPI No.5−2:2000の王研法によるものとの間に相関関係があるとされる。
しかしながら、甲2発明はインクジェット記録シートの発明であって、紙製バリア包装材料の発明である甲1発明とは技術分野が異なり、甲2の段落【0025】には、「透気抵抗度は高い方がガスバリア性の観点では好ましい」と記載されていること、及び、甲2発明が備える「透気抵抗度が65秒である」構成も、甲2に示された比較例のものであって、甲2の記載全体をみても、この比較例における透気抵抗度に特段の技術的意義は見いだせないことから、甲2発明を甲1発明に適用する動機付けはない。
よって、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ) 小括
以上のとおり、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 甲2発明を主引用発明とした場合
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明における「紙基材からなる支持体」は本件発明1における「紙基材」に相当する。
甲2発明における「インク受理層」及び「光沢発現層」は、甲2の段落【0037】の「本発明に用いられるインク受理層および/または光沢発現層は、少なくとも白色顔料と必要に応じバインダーから構成される。」との記載を参酌すると、それぞれが「顔料」を含むものである。そうすると、甲2発明における「インク受理層」と「光沢発現層」とを合わせたものは、本件発明1における「顔料塗工層」に相当するといえる。
甲2発明における「紙基材からなる支持体の片面に、インク受理層、その上に光沢発現層を有し、前記支持体の前記インク受理層とは反対面に、ガスバリア性を有する裏塗り層を有し」との事項と、本件発明1における「ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり」との事項とは、「紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり」との事項である限りにおいて一致する。
甲2発明における「インクジェット記録シート」と本件発明1における「紙製バリア材料」とは、「顔料塗工層を備えた紙基材」である限りにおいて一致する。

以上の対比を総合すると、本件発明1と甲2発明とは、
「紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなる顔料塗工層を備えた紙基材。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2−1)
本件発明1は、「紙製バリア材料」であるのに対して、甲2発明は、「インクジェット記録シート」である点。

(相違点2−2)
本件発明1は、「ガスバリア層/目止め層」/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなるのに対して、甲2発明は、紙基材からなる支持体の「インク受理層とは反対面に、ガスバリア性を有する裏塗り層」を有している点。

(相違点2−3)
本件発明1は、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である」のに対して、甲2発明は、「前記支持体と前記インク受理層及び前記光沢発現層のみからなるシートのJIS P8117で規定される透気抵抗度が65秒である」点。

(イ) 判断
事案に鑑み、相違点2−1及び相違点2−2についてまとめて検討する。
甲1発明、甲3発明は、それぞれ紙製バリア包装材料、ガスバリア性紙製材料であり、インクジェット記録シートである甲2発明において、そのインクジェット記録シート自体を、甲1発明の製バリア包装材料や甲3発明のガスバリア性紙製材料に置き換える動機はない。
また、甲1発明における「水蒸気バリア層」は、「包装される各種製品を水蒸気による劣化から守るために重要である」(甲1の段落【0003】)ことから設けられたものであり、甲3発明は、「紙製基材の防湿性等のバリア性を向上させることにより、・・・内容物を個包装したり、外箱の外側をプラスチックフィルムで密封包装しないでも、十分なバリア性を有するガスバリア性紙製材料およびそれを用いた容器を提供すること」(甲3の段落【0004】)を課題とし、甲3にも、実施例として、水蒸気透過度が非常に低いもの(段落【0022】〜【0023】の実施例1及び2)が記載されているのに対し、甲2発明は、キャスト時の「水蒸気の抜けが良好である」(甲2の段落【0027】)ことを要するものであるから、甲2発明に、耐水性を付与する技術に係る甲1発明及び甲3発明を適用する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。
よって、相違点2−1及び相違点2−2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲2発明、甲1発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ) 小括
以上のとおり、相違点2−1及び相違点2−2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲2発明、甲1発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に想到できたものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲2発明、甲1発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 甲3発明を主引用発明とした場合
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明における「紙製材料」は本件発明1における「紙基材」に相当する。
甲3発明における「下塗り層」は、甲3の段落【0011】に「下塗り層2は、被覆層3を設ける際、被覆層3を形成する成分が、紙製基材1に浸透するのを防止するとともに、被覆層をが強固に密着させ、バリア性を発揮するようにする。」(なお、「被覆層をが」は「被覆層を」の誤記と認める。)と記載され、また、本件特許明細書の段落【0016】に「目止め層は、ガスバリア層を設ける際のガスバリア層用塗工液の紙基材への沈み込みを抑えることにより、ガスバリア性の低下を防ぐものである。目止め層は、上記性能を発揮できるものであれば特に制限されない」と記載されていることを踏まえると、本件発明1における「目止め層」に相当するといえる。
甲3発明における「無機層状化合物とポリビニルアルコール(PVA)からなる被覆層」は、甲3の段落【0015】の「特にポリビニルアルコール(PVA)を本発明のガスバリア性積層体のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れる。」との記載を参酌すると、本件発明1における「ガスバリア層」に相当するといえる。
甲3発明における「紙製材料の片面に下塗り層を設け、この下塗り層上に無機層状化合物とポリビニルアルコール(PVA)からなる被覆層を塗布形成した」との事項と、本件発明1における「ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり」との事項とは、「ガスバリア層/目止め層/紙基材がこの順に積層されてなり」との事項である限りにおいて一致する。
甲3発明における「ガスバリア性紙製材料」は本件発明1における「紙製バリア材料」に相当する。

以上の対比を総合すると、本件発明1と甲3発明とは、
「ガスバリア層/目止め層/紙基材がこの順に積層されてなる紙製バリア材料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3−1)
本件発明1は、「顔料塗工層」を有し、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である」のに対して、甲3発明は、「顔料塗工層」を有しない点。

(イ) 判断
相違点3−1について検討する。
甲4には、上記「第4」4のとおり、「紙状基材と、その少なくとも一面上に少なくとも1層の塗工層とを設けてなる塗工紙において、塗工紙のJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に基づく王研式透気度を8000秒以下、なかでも、5000秒以下が好ましく、より好ましくは3000秒以下、さらに好ましくは2000秒以下にすることで、電子写真方式でのペーパーブリスター及びトナーブリスターを所期のレベルにすることが出来ること」(甲4技術)が記載されている。
また、甲2には、上記「第4」2のとおり、「前記支持体と前記インク受理層及び前記光沢発現層のみからなるシートのJIS P8117で規定される透気抵抗度が65秒である」構成を備えた「インクジェット記録シート」である甲2発明が記載されている。さらに、甲8及び甲9には、甲2発明のJIS P8117で規定されるガーレー試験機法による透気抵抗度と、本件発明1のJAPAN TAPPI No.5−2:2000の王研法によるものとの間に相関関係があるとされる。
しかしながら、甲3には、紙製材料の下塗り層を設けた面と反対側の面に「顔料塗工層」を設けることについての記載はなく、「顔料塗工層」を設けることを前提とした、甲2発明及び甲4技術を、甲3発明に適用する動機付けはない。
また、仮に甲3発明において、甲1発明における「塗工層」や甲2発明における「インク受理層」のように、紙製材料の下塗り層を設けた面と反対側の面に、印刷に適した「顔料塗工層」を設けることが、当業者が適宜採用し得た設計的事項であったとしても、甲3には、ペーパーブリスターやトナーブリスターが生じるという課題は記載されておらず、甲3の記載に接した当業者にとって自明の課題ともいえないから、甲4技術を甲3発明に適用する動機付けはなく、甲3発明はガスバリア性紙製材料の発明であるから、前記(1)ア(イ)で甲1発明について説示したのと同様に、甲2発明を甲3発明に適用する動機付けもない。

よって、相違点3−1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に想到できたものではない。

(ウ) 小括
以上のとおり、相違点3−1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明1は、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) まとめ
したがって、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由2によって取り消すことはできない。

3 申立理由3について(実施可能要件
(1)実施可能要件について
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。
そこで、本件発明が、上記要件に適合するか、以下検討する。

(2)実施可能要件についての判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0035】
(顔料塗工層用塗工液の調製)
下記配合からなる配合物を撹拌分散して、顔料塗工層用塗工液1〜6を調製した。
<顔料塗工層用塗工液1>
重質炭酸カルシウム(ファイマテック社製:FMT−90)100.0部
酸化澱粉(敷島スターチ社製:マーメイドM210) 4.5部
スチレン・ブタジエン系共重合ラテックス
(日本ゼオン社製:PNT8110) 8.5部
水 60.8部
【0036】
<顔料塗工層用塗工液2>
重質炭酸カルシウム(ファイマテック社製:FMT−90) 20.0部
微粒カオリン(KaMin社製:ハイドラグロス) 80.0部
酸化澱粉(敷島スターチ社製:マーメイドM210) 4.5部
スチレン・ブタジエン系共重合ラテックス
(日本ゼオン社製:PNT8110) 8.5部
水 60.8部
【0037】
<顔料塗工層用塗工液3>
重質炭酸カルシウム(ファイマテック社製:FMT−90) 90.0部
合成非晶質シリカ
(DSL.ジャパン株式会社:BS−308N) 10.0部
酸化澱粉(敷島スターチ社製:マーメイドM210) 4.5部
スチレン・ブタジエン系共重合ラテックス
(日本ゼオン社製:PNT8110) 9.5部
水 60.8部」
「【0040】
<顔料塗工層用塗工液6>
微粒カオリン(KaMin社製:ハイドラグロス) 100.0部
酸化澱粉(敷島スターチ社製:マーメイドM210) 2.0部
スチレン・ブタジエン系共重合ラテックス
(日本ゼオン社製:PNT8110) 20.0部
水 60.0部」
「【0044】
[実施例1]
紙基材(坪量280g/m2の紙器原紙、3層品)の片面に、顔料塗工層用塗工液1を乾燥重量で塗工量6.0g/m2となるようにブレード法で塗工、乾燥を行い、積層体を得た。この積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は1600秒であった。
・・・
【0045】
[実施例2]
顔料塗工層用塗工液1を乾燥重量で塗工量12.0g/m2となるようにブレード法で塗工、乾燥を行い、積層体を得た以外は、実施例1と同様にして、紙製バリア材料を得た。この積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は2100秒であった。
[実施例3]
顔料塗工層用塗工液1に替えて顔料塗工層用塗工液2を使用し、乾燥重量で塗工量5.0g/m2となるようにブレード法で塗工、乾燥を行い、積層体を得た以外は、実施例1と同様にして、紙製バリア材料を得た。この積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は2300秒であった。
[実施例4]
顔料塗工層用塗工液1に替えて顔料塗工層用塗工液3を使用し、乾燥重量で塗工量6.0g/m2となるようにブレード法で塗工、乾燥を行い、積層体を得た以外は、実施例1と同様にして、紙製バリア材料を得た。この積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は1100秒であった。
【0046】
[実施例5]
紙基材(坪量42g/m2、1層品)を用い、顔料塗工層用塗工液6を乾燥重量で6.0g/m2となるようブレード法で塗工、乾燥を行い、積層体を得た。この積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度は400秒であった。」

イ 上記アのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】〜【0037】、【0040】、及び【0044】〜【0046】には、実施例1〜5として、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である紙製バリア材料」を作成する方法が具体的に記載されており、当業者において、これらの記載に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明に係る物を作り、使用することができるものである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

ウ 申立人は、「本件中において、紙基材と顔料塗工層のみからなる積層体の透気抵抗度の制御方法に関しては一切記載も示唆もされていません。また実施例を参照してみてもそのような記載は一切見られません。ここで、透気抵抗度は顔料塗工層の塗工量、層の坪量、塗工層の成分など多くの要因が関わっていることが予測できます。しかしながら、発明の詳細な説明において、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である紙製バリア材料」を作成する方法が具体的に開示されておらず、本件特許発明1を実施するに際し、当該透気抵抗度を有する前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体を作成するために、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があります。」と主張する。
しかしながら、上記イで説示したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である紙製バリア材料」を作成する方法が具体的に記載されており、当業者において、これらの記載に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明に係る物を作り、使用することができるものであるから、申立人の上記主張は採用することができない。

(3) まとめ
したがって、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由3によって取り消すことはできない。

4 申立理由4について(サポート要件)
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、本件発明が、上記要件に適合するか、以下検討する。

(2)サポート要件についての判断
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】〜【0006】を参照すると、本件発明は、紙製バリア材料にヒートシール加工を行う際に、紙製バリア材料の紙基材内部の水分が加熱されて水蒸気となるが、顔料塗工層のバリア性が高いと、水蒸気が紙製バリア材料内部から抜け出せず、水蒸気の急激な膨張による層内、層間での破壊が生じることがあることから、加熱時に水蒸気の膨張による破壊が起こりにくい紙製バリア材料を提供することを、その解決しようとする課題とするものである。
上記課題を解決するための手段として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】には、ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり、前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下であることが記載されており、本件発明の課題解決原理は、同段落【0008】の記載を参照すると、紙基材と顔料塗工層のみからなる積層体の透気抵抗度が低く、気体が抜けやすいことにより、ヒートシール加工等で急激に加熱され、紙基材内部の水分が加熱されて水蒸気となっても、水蒸気の急激な膨張による層内、層間での破壊が抑制されるというものである。

イ 本件特許の請求項1には、「ガスバリア層/目止め層/紙基材/顔料塗工層がこの順に積層されてなり、前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下である」と記載されており、本件発明1では、紙基材と顔料塗工層のみからなる積層体の透気抵抗度が2500秒以下と低く、気体が抜けやすいものであって、本件発明の課題解決原理に従い、加熱時に水蒸気の膨張による破壊が起こりにくいものであるから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明1の構成をすべて含み、さらに構成を付加したものである本件発明2及び3についても同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1〜3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

ウ 申立人は、「紙製バリア材料の層内、層間における破壊について、甲第4号証の明細書中段落0004に「・・・」と記載されていますように、層間強度を高める方法と発生する水蒸気を逃がして蒸気圧を低下させる方法が提案されています。前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体の透気抵抗度が2500秒以下でありさえすれば、層間における破壊を完全に防止することができるわけではなく、例えば、層間強度を高めるなどの他の手段も必要であることは、当業者であれば、当然に予測できます。例えば、積層体の透気抵抗度が2500秒以下であっても層間強度が一定以上に低い場合は層間における破壊が当然に生じ得ます。したがいまして、前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体の透気抵抗度が2500秒以下であるあらゆる紙製バリア材料を含む本件特許発明1が、層間破壊にかかる本件特許発明の課題を解決できるとは言えません。」と主張する。
しかしながら、上記イで説示したとおり、本件発明1は、「前記紙基材と前記顔料塗工層のみからなる積層体のJAPAN TAPPI No.5−2:2000に基づいて測定した透気抵抗度が2500秒以下」と低く、気体が抜けやすいものとして、本件発明の課題解決原理に従い、加熱時に水蒸気の膨張による破壊が起こりにくくしたものであって、層間強度を高めることにより、加熱時に水蒸気の膨張による破壊が起こりにくくしたものではなく、本件発明の課題解決原理からみて、本件発明において、ヒートシール加工等で急激に加熱された際に、顔料塗工層を介した水蒸気の放出が行われずに、層間破壊が生じる程、きわめて低い層間強度とされることは、そもそも想定されていないというべきであるから、申立人の上記主張は採用することができない。

(3) まとめ
したがって、本件特許の請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由4によって取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-03-29 
出願番号 P2021-507359
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 田合 弘幸
一ノ瀬 覚
登録日 2022-05-27 
登録番号 7081042
権利者 日本製紙株式会社 ジュウジョウ サーマル オーユー
発明の名称 紙製バリア材料  
代理人 中村 理弘  
代理人 中村 理弘  
代理人 山田 泰之  
代理人 山田 泰之  

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