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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1396764
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-09-24 
確定日 2023-04-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第6803102号発明「建物外構部分の地盤沈下抑制構造及びその施工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第6803102号(以下「本件特許」という。令和2年7月28日出願、令和2年12月2日登録、請求項の数は6である。)の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る特許を無効とすることを求める事案であって、その手続の経緯(無効理由に係る主張に関するもの。)は、以下のとおりである。

令和 3年 9月24日 :審判請求書の提出
令和 3年10月18日付け:手続補正指令書(方式)
令和 3年11月17日 :手続補正書(審判請求書)の提出
令和 4年 1月31日 :答弁書の提出
令和 4年 4月28日付け:審理事項通知
令和 4年 5月26日 :口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
令和 4年 6月13日 :口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
令和 4年 6月24日 :第1回口頭審理
令和 4年 7月 1日 :上申書(請求人)の提出
令和 4年 7月22日 :上申書(被請求人)の提出
令和 4年 8月 3日 :上申書2(請求人)の提出
令和 5年 1月31日 :上申書3(請求人)の提出

なお、請求人が提出した審判請求書、手続補正書(審判請求書)、口頭審理陳述要領書、上申書、上申書2、上申書3は、それぞれ請求書、請求書補正書、請求人要領書、請求人上申書、請求人上申書2、請求人上申書3といい、被請求人が提出した口頭審理陳述要領書、上申書は、それぞれ被請求人要領書、被請求人上申書ということがある。


第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、A〜F、(A)〜(G)の文節は請求人による。

「【請求項1】
A.建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層であって、
B.該発泡樹脂層の層厚を、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成した
C.ことを特徴とする建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項2】
D.前記発泡樹脂層の形成において、
該発泡樹脂層の下層面側を略水平面に形成したことを特徴とする請求項1記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項3】
E.前記発泡樹脂層の形成において、
建物外構の一部側又は建物周囲を連続して囲むように敷設して成ることを特徴とする請求項1、又は2記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項4】
F.前記発泡樹脂層が、
種類又は複数種類の発泡樹脂ブロックを互いに密に当接させて形成したことを特徴とする請求項1、2、又は3記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項5】
(A).建物の近接位置から建物離隔方向の所定領域の地表面を整地、又は根切りを行う第1工程、
(B).前記整地した面上、又は根切りした面上に調整層を形成する第2工程、
(C).該調整層の面上に建物の近接位置から建物離隔方向に向かって下り階段状となるように発泡樹脂層を形成する第3工程、
(D).該発泡樹脂層の上面に保護層を形成する第4工程、
(E).該保護層の上面を含む建物周囲の所定領域に盛土して仕上げを行う第5工程、
(F).から成ることを特徴とする建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。
【請求項6】
(G).前記発泡樹脂層の形成において、
発泡樹脂ブロックを密着状に並べかつ積層して形成したことを特徴とする請求項5記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、特許第6803102号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(請求書、請求書補正書、請求人要領書、請求人上申書、請求人上申書2参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証(枝番含む)を提出している。

〔無効理由〕
(1)無効理由1(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、目的とする効果を発生するために必要な構成が不明であるため、発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2(進歩性違反)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、当業者が、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明を適用することにより、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明の特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(審理事項通知書の2、参照。)

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:「土木研究所資料 発泡スチロールを用いた軽量盛土の設計・施工マニュアル」、建設省土木研究所 土質研究室 動土質研究室、平成4年3月、1〜8、17〜19、22、91〜92、その他頁
甲第1号証の2の1:同上、95〜96頁
甲第1号証の2の2:同上、32〜33頁
甲第1号証の3:同上、31〜33頁
甲第2号証:特開2007−327186号公報
甲第3号証:実願平1−2959号(実開平2−97432号)のマイクロフィルム
甲第4号証:「建築学用語辞典 第2版」、社団法人日本建築学会編、株式会社岩波書店、1999年9月8日、90頁
甲第5号証:特開2019−210715号公報
甲第6号証の1:特開2000−27199号公報
甲第6号証の2:特開2007−46398号公報
甲第6号証の3:特開2000−64327号公報
甲第6号証の4:特開2002−256559号公報
甲第6号証の5:特開2014−125730号公報
甲第6号証の6:特表2020−509259号公報
甲第7号証:「高分子辞典 第3版」、社団法人高分子学会編、株式会社朝倉書店、2005年6月30日、483、539、540頁

なお、「甲第1号証」等をその数字により「甲1」等ということがある。

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1
実施可能要件違反について(請求書3頁11〜末行、12頁3行〜16頁22行、22頁)
(ア)本特許明細書においては、盛土層の下層に敷設した発泡樹脂層を、上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように敷設することを特徴とする請求項1に係る発明によって、隣接する土粒子の相互間の引込み力を原因とする移動力を原因とする沈下現象を防止し得ることを説明している。
本特許明細書においては、前記効果を発揮するために必要な「上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように敷設」するという請求項1に関する具体的要件について、本特許明細書の発明の詳細な説明においては、全く説明されていない。
かくして、本特許明細書の発明の詳細な説明は、目的とする効果を発生するために必要な構成が不明であるが故に、本特許発明については、特許法第36条第4項第1号及び同第123条第1項第4号に基づく無効理由が成立する。

(イ)本特許明細書は、発明の効果につき、「このような圧縮沈下や圧密沈下の現象は、その特徴として盛土で形成した地盤の土粒子間の隙間が、自重や振動や雨水の浸透により縮小して土粒子が移動することによって発生する。そして、土粒子の下方移動によって隣接する土粒子はその移動した土粒子方向に引込み力が生じて、斜め下方へ移動することとなる。かかる移動力(引き込み力)が順次隣接する土粒子に作用して沈下現象が周辺部に広がる傾向にあり、これを効果的に防止することができる。」(段落[0023])と説明している。
上記の自重等を原因とする隣接する土粒子の引込み力による斜め下方への移動とは、上記原因によって、盛土自体の高さが低下し、盛土が水平方向に移動することに他ならない。
従って、前記説明によれば、このような高さの減少及び横方向への移動を発泡樹脂材料の敷設によって、効果的に防止することを必要不可欠としている。

(ウ)別紙図面1に示すように、断面矩形状のベースを有する直角三角形状の盛土のベースの底部からの頂部の高さ位置をL1とし、ベースの底部からの下側の高さ位置をL2とし、水平方向の幅をWとし、盛土の密度をρとする一方、各盛土の座標位置(x,y)において、盛土の自重を原因として、盛土自らを水平方向に移動させようとする単位長さ当たりの程度をK(x,y)とした場合には、別紙図面1の盛土全体における引込み力による水平方向への移動の程度については、

・・・○1の1
(但し、g:重力定数、ΔL=L1−L2)
という一般式を設定することができる。(当審注:○で囲んだ数字は「○数字」と表記する。)

(エ)K(x,y)について考察するに、L1−xΔL/W−yがy方向の積分の対象となり、1/ρ(W−x)2がx方向の積分の対象となることを考慮するならば、

が成立する。
但し、K(x,y)の単位がL−2である以上、kは、質量×L−4、即ちM・L−4を単位とする比例定数である。
従って、前記○1の1式については、


・・・○1の2
と算定することができる。

(オ)別紙図面2に示すように、盛土の下に請求項1のような下り階段状の発泡樹脂層を敷設し、かつ各下り階段状の水平方向の幅Wを各W/Nの幅とし、しかも下り階段状の段差につきΔLをN等分し、(ΔL/N)の大きさに設定した場合には、各盛土の単位については、


が成立する。
尚、別紙図面2においては、N=4の場合を示す。
しかしながら、これらの個別の盛土はN個存在し、かつ下側に敷設されている発泡樹脂層を介して順次水平方向への移動が蓄積する以上、盛土全体の移動の程度の合計値は、


・・・○2
であって、前記○1の2の式と同一であって、移動の程度に変化が生じていない。

(カ)発泡樹脂層を敷設した場合と敷設しない場合とが移動の程度が同程度であることは、別紙図面2とは別に、発泡樹脂層が表面に至っていない場合には、却って発泡樹脂層を敷設した場合の方が引込み力の程度が大きいことが推認され、引込み力による盛土の沈下を効果的に防止し得るという本特許明細書の作用効果の実現可能性については、多大な疑問が生ずるところである。
かくして、別紙図面1、2のような典型的な構成同士の対比に即するならば、本特許明細書は、前記発明の効果を発揮するような構成を客観的かつ具体的に明らかにしていない以上、請求項1に係る発明及び当該請求項1に従属している請求項2〜請求項6に係る各発明については、特許法第36条第4項第1号及び同第123条第1項第4号の無効理由が成立する。

(キ)22頁の図面1及び図面2は以下のとおり。
図面1




図面2




イ 斜め下方に移動させる引き込み力について(請求人要領書3頁5行〜4頁19行、29頁)
(ア)合議体は、前記移動の原因である引き込み力につき、
「土粒子単位でみると、土粒子同士は通常、係合または接触してその状態が安定しているところ、土粒子間の隙間が縮小して下方へ移動した土粒子が、隣接する土粒子に対して引き込み力、つまり係合による引っかける力または接触による摩擦力を作用させて、その隣接する土粒子は、下方へ移動するとともに、先に移動した土粒子側へも移動する」と説明している。
この説明によれば、以下の○1の作用が行われ、かつ○2の移動が行われていることに帰する。
○1.土粒子間の隙間が縮小し、特定の土粒子が下方に移動した場合には、隣接する土粒子に対する係合による引っかけ力、又は接触による摩擦力が作用する。
○2.前記の作用によって、隣接する土粒子は下方に移動すると共に、先に移動した土粒子の側にも移動する。
前記○1のような作用が行われ、かつ前記○2のような移動が行われていることは客観的事実であり、請求人においても当該事実を了解する。
但し、前記○2の移動は、隣接し合う土粒子が下方に移動し、かつ相互に接近し合う状態に該当する。

(イ)しかしながら、本特許明細書の段落[0023]は、「土粒子の下方移動によって隣接する土粒子はその移動した土粒子方向に引込み力が生じて、斜め下方へ移動することとなる。かかる移動力(引き込み力)が順次隣接する土粒子に作用して沈下現象が周辺部に広がる傾向にあ」ると説明している。
上記説明によれば、引き込み力によって、隣接し合う土粒子は盛土層にて斜め下方に移動し、かつ当該下方への移動を伴う沈下現象が周辺部に拡散している。
然るに、上記の斜め方向への移動及び沈下現象の拡散は、前記○2の相互に接近し合うような移動によって説明することは不可能である。

(ウ)具体的に説明するに、前記斜め方向への移動及び沈下を伴う拡散は、以下のプロセスによって実現している。
○3.相互に接触し合う粒子が振動又は雨水の浸透等を契機として、自重を原因として下方に移動する場合には、盛土層の下端の位置に近付くにしたがって、共に下方への移動が順次制約される。
○4.上記制約を原因として、隣接し合う粒子間の上下方向の距離が次第に縮小し、その結果、別紙図面3に示すように、隣接し合う土粒子は、相互に水平方向に排斥し合うことに帰する。
○5.然るに、盛土層において水平方向の一方側に建物が存在することを原因として、隣接し合う土粒子は、自重によって下方への移動に際し、建物Bの側ではなく、「建物外構部分」の側に水平方向の排斥力が作用し、ひいては斜め下方への移動を実現し、かつ沈下現象が周辺に拡散する。
かくして、前記斜め下方への移動及び下方への沈下現象は、前記○3、○4、○5のプロセスに立脚しており、合議体が説明している前記○1、○2の説明は、局所的な作用及び移動に終始している点において、極めて不十分である。

(エ)別紙図面3は以下のとおり。




ウ 請求人による積分計算は、「全体の移動」又は「塊の移動」に該当するか(請求人要領書4頁21行〜5頁6行)
(ア)合議体は、審判請求書の図面1に示す土粒子の移動状況につき、「盛土全体の移動」という理解を表明し、かつ図面2に示す土粒子の移動状況につき、「4つの盛土の塊の移動」という理解を表明している。
上記理解の根拠は不明であるが、おそらく図面1に即してy方向及びx方向への積分が行われていることに由来しているのであろう。
しかしながら、積分計算は、決して「全体の移動」又は「塊の移動」を裏付ける訳ではない。

(イ)具体的に説明するに、審判請求書の14頁の被積分式である

を設定したうえで、分子である

につき、y方向に積分しているのは、座標(x,y)における各粒子の下方へ作用する自重及び当該自重に伴う隣接し合う土粒子間の水平方向への排斥力が盛土層の上端からの距離

に比例することを前提とした上で、当該排斥力の蓄積を算定していることに帰する。
即ち、前記分子に対するy方向の積分は、図面1の座標位置xにおけるy軸方向の領域につき、剛体のような全体を1個の単位としているのではなく、自重を原因として隣接し合う各粒子間の排斥力の蓄積を算定しているのである。

エ 段落[0023]記載の効果の成否(上申書4頁7〜19行、5頁6〜11行)
本特許発明の発泡樹脂層においては、採用するプラスチックフォームを特に特定していない。
したがって、本特許図面2に示す発泡樹脂層4におけるプラスチックフォームとして、圧縮強さが小さく、かつ盛土よりも変形し易い軟質フォームを採用した場合には、別紙対比図面における下側の点線領域よりも本特許図面2の方が斜め下方に変形し易く、段落[0023]記載の斜め下方への移動力を防止する機能を発揮することができない場合を想定することができる。
このように、本特許発明の発泡樹脂材料が特定されておらず、極めて変形し易い軟質フォームをも採用可能であることを考慮した場合、段落[0023]規定の効果の根拠が不明である以上、本特許発明においては、どのような発泡樹脂層4を採用した場合に前記効果が発生し得るかが明らかにされねばならない。
然るに、本特許明細書は上記効果を発揮するために必要な発泡樹脂層の性状について何ら明らかにしていない。

オ 斜め下方への移動力の原因(請求人上申書7頁9行〜8頁19行)
(ア)上記イ(ウ)の点につき、被請求人は、乙別紙図1に即して、以下の如き事項を主張している。
a.現実の盛土には、色々な大きさ形状の粒子によって構成され、相互に影響し合う以上、前記図面3のように、同一径の2個のみを前提として論ずることには無理がある。
b.盛土の圧縮沈下の原因は、土粒子の隙間が徐々に小さくなることにあるが、前記図面3はこの点を無視している。

(イ)しかしながら、土粒子の排斥に関する請求人の立論は、前記aのように同径の2個を前提としているのではない。
即ち、最もシンプルに分かり易い図面として図面3を提示しているに過ぎず、現に被請求人自身水平方向への排斥し合う関係を否定していない以上、被請求人の主張こそ「無理がある」。
土粒子の大きさが異なり、かつ多数存在する場合においても、土粒子が下方に移行するにしたがって上下移行に限界が発生した場合には、上下方向の距離の短縮を原因として、土粒子相互間の水平方向の距離が大きくなる状態にて移行することは、前記図面3のような2個の場合と変わりはない。
その意味においても、前記aは失当かつ無意味である。

(ウ)前記bの「圧縮沈下」においては、土木及び建築分野における技術用語である「圧密沈下」をも包摂しているものと解される。
但し、たとえ前記bのように、圧縮沈下の原因が土粒子間の相互間の隙間が徐々に小さくなることが原因であるとしても、そのことは決して、前記図面3に示すように、隣接し合う土粒子が水平方向に排斥し合うことを否定する要因ではあり得ない。
具体的に説明するに、圧縮沈下に伴う土粒子間の隙間の減少は、自重に由来している以上、上下方向への隙間の減少であって、決して水平方向への隙間の減少を意味するのではない。
したがって、前記隙間の減少に伴って、隣接し合う土粒子は、上下方向に押圧し合うだけでなく、水平方向へも押圧し合い、その結果、段落[0023]記載のように斜め下方への移動力が発生しなければならない。

(2)無効理由2
ア 甲1発明
(ア)甲1は、以下の構成を記載している。
a.水族館用の建物の外側領域、即ち外構部分の盛土層の下層に発泡スチロールブロックを敷設してなる発泡樹脂層であって、
b.該発泡樹脂層の層厚を、建物地上部分から離れた所定位置から離隔方向に向かって上面側を上り階段状にして段階的に厚くなるように形成した領域及び平坦領域を形成し、更に上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成した
c.ことを特徴とする地盤沈下抑制構造であって、
d.前記発泡樹脂層の形成において、該発泡樹脂層を形成する発泡スチロールブロックの下層面側を水平面に形成したことを特徴としており、
e.前記発泡樹脂層の形成において、建物外構の一部側を囲むように敷設してなることを特徴としており、
f.1種類又は複数種類の発泡スチロールブロックを互いに密に当接して形成したことを特徴としている。
(請求書補正書6頁末行から7頁14行)

(イ)甲1は、以下の各工程を開示している。
(a).建物から離れた所定位置から、建物離隔方向の地表面を基盤層によって整地し、かつ当該基盤層の両側にて根切りを行う第1工程、
(b).前記整地した面上及び根切りした面上におけるレベリング層による調整層を形成する第2工程、
(c).当該調整層の面上に水族館用の建物から離隔方向に向かって上り階段状領域及び平坦領域を形成し、更に下り階段状となるように発泡スチロールブロックによる発泡樹脂層を形成する第3工程、
(d).当該発泡スチロールブロック層の上面に保護層を形成する第4工程、
(e).当該保護層の上面を含む水族館用の建物の周囲の所定領域に盛土して仕上げを行う第5工程、
(f).から成ることを特徴とする地盤沈下抑制構造の施工法であって、
(g).発泡スチロールブロックを密着状態に並べ、かつ積層して形成したことを特徴とする建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。
(請求書補正書9頁下から5行〜10頁11行)

(ウ)前記(ア)、(イ)記載の構成とは別に、甲1は、甲1の2の2に示すように、発泡スチロールブロックによる発泡樹脂層の層厚を、背面土圧を支える壁部に当接し、当該当接位置から、離隔方向に向かって上層面側を順次階段状にして段階的に薄くなるように形成した構成を開示している。
(請求書補正書10頁12〜16行)

イ 対比
(ア)aとAとは、建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材料を敷設することによって形成される発泡樹脂層である点において一致し、bとBとは、該発泡樹脂層の層厚を、建物から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成した点において一致し、cとCとは、建物外構部分の地盤沈下抑制構造である点において一致している。
そして、bにおいては、建物の地上位置から離れた所定の場所から、発泡樹脂層の層厚を、上層面側を、上り階段状にして段階的に厚くなるように形成し、更には平坦状に形成したうえで上面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成しているのに対して、Bにおいては、発泡樹脂層の層厚を、建物の地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状に段階的に薄くなるように形成している点において、双方は相違している。
即ち、bとBとは、下り階段状による段階的に薄くなるような形成領域の位置が、
i 建物の地上位置であるか、又は地下位置であるかの点、
ii 建物との間に上り階段状領域及び平坦領域による発泡樹脂層が介在しているか、若しくは当接位置又は近接位置であるかの点、
において相違している。
cとCとの間に、相違部分は存在しない。
(請求書補正書12頁13行〜13頁7行)

(イ)甲2発明においては、建物を含む建築構造物2の地下部分の全周囲における当接位置から離隔方向に向かって下側面を逆階段状に形成している軽量材5を敷設しており、
甲2発明の敷設状況を考慮した場合、bにおける発泡スチロールブロックの上面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成する位置を、bのように地上位置ではなく、しかも上り階段状領域及び平坦領域による発泡樹脂層が介在した状態ではなく、甲2発明のように、建物の地下部分の当接位置に置換することは、当業者が容易に採用し得る選択事項に過ぎない。
図4に示す甲2発明においては、軽量材5につき、上側面を平坦状とする逆階段状を形成しているが、甲1の2の2、即ち甲1と同一の技術文献の33頁の図4−12において、発泡スチロールブロックによる発泡樹脂層の厚さを、当接位置から離隔方向に向かって上面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成する構成を開示している以上、甲2発明の逆階段状に代えて、前記下り階段状を採用することは、当業者にとっては自明な置換事項に過ぎない。
(請求書補正書13頁8〜16行、14頁下から5行〜15頁2行)

(ウ)甲3は、構造物である擁壁本体1の近接位置から離れた離隔方向に向かって埋立用発泡体5を上側面を水平方向としたうえで下側面を上り階段状にして段階的に薄くなるように形成している。
このような甲3の形成状況を考慮するならば、基準位置を、甲2の当接位置から甲3の近接位置に置換することは、当業者が当然採用し得る選択事項に過ぎない。
何故ならば、近接位置と当接位置との相違は、設計上の微差に過ぎず、しかもその作用効果において然したる相違が存在しないからである。
(請求補正書15頁3〜12行)

(エ)かくして、bのBに対する相違点については、甲2発明及び甲3発明による構成への置換によってBと一致するように選択することが可能である以上、本特許発明1は、甲1発明をベースとして、甲2発明及び甲3発明を採用することによって当業者が容易に想到し得た発明であって、進歩性が成立する余地はない。
(請求書補正書15頁17〜21行)

ウ 動機付けについて
(ア)甲1の設計図において、水族館の近くの地表面よりも上にある「EPS」を、建物地下部分に当接又は近接するものとする動機付け
a 甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSが残存する場合
(a)前記残存の場合に、建物から8m以内の領域につきEPSを敷設し、かつ前記当接又は近接する動機付けが成立し、その根拠は以下の通りである。
i 甲1において、EPSブロックを盛土材料として使用する工法は、「盛土荷重低減および作用土圧の軽減」を主たる作用効果としている。
ii 甲1の設計図の工事領域のうち、水族館から8m以内の領域においても、厚さ約0.3mの盛土層が記載されているが、当該盛土層の下層もまた軟弱地盤であることに変わりはない。
iii このような場合、8m以内の領域の盛土層の下層であって、しかも水族館に当接又は近接する領域においてEPSブロックを敷設することによって、前記iの作用効果を発揮するという技術上のメリットは十分存在し、当該メリットとは正に、EPSを水族館の端部に当接又は近接するという動機付けの成立を裏付ける。
(b)8m以内の領域にてEPSを敷設する際、水族館に対する背面土圧を軽減するために、甲1の2の2の図4−12に示す階段状のEPSの敷設は、当業者が容易に選択することができる。
何故ならば、水族館の周囲の地盤が軟弱地盤であることを考慮するならば、地震を原因とする背面土圧による被害を抑制するために、前記階段状の敷設による技術的メリットについては、当業者が容易に察知し得るからである。
因みに、甲5は、「地震時に構造物1に掛かる背面土圧」(段落[0035])を抑制するために「発泡樹脂材を含む軽量盛土を構造物の背面に形成」する構成を開示している。
(c)前記図4−12においては、EPSを擁壁に当接している。
しかしながら、EPS等の発泡樹脂を建物地下部分に当接又は近接する構成は、甲2の図4に示す実施形態だけではない。
即ち、甲6の1〜甲6の6は背面土圧又は地震等を原因とする振動を抑制するために建物の地下部分に発泡樹脂層を当接又は近接することが周知であることを裏付けている。
(d)8m以内の領域におけるEPSを、甲1の2の2の図4−12に示すように階段状に敷設することについては、無効理由(2)として後記(エ)で後述する通りである。
b 「EPS施工範囲」におけるEPSが残存しない場合
(a)前記の残存しない場合において、水族館からの離隔領域の全領域において甲1の2の2の図4−12に示す階段状のEPSを敷設し、かつ前記当接又は近接する動機付けが成立し、かつその根拠は、以下の通りである。
i 水族館から「EPS施工範囲」に至る領域の全てが軟弱地盤であり、地震が発生した場合、水族館の地下における基礎部分に対し背面土圧が発生することは、十分予測し得るところである。
ii 既存の「EPS施工範囲」によるEPSの敷設では、前記背面土圧を抑制することができない。
iii このような場合、既存のEPSの敷設に代えて、甲1の2の2の階段状によるEPSの敷設に置換する技術的メリットは十分存在し、当該技術的メリットは正に、前記階段状による敷設の動機付けの成立を裏付ける。
(b)地震時における背面土圧を抑制するために、発泡樹脂層による軽量盛土の構成が公知であることは、甲5に即して前記a(b)において指摘した通りであり、EPS等の発泡樹脂層を建物の地下部分に当接する構成が周知であることは、前記a(c)において指摘した通りである。
(c)「EPS施工範囲」の全領域を甲1の2の2の階段状の敷設に置換することについては、後記(エ)で無効理由(3)として後述する通りである。
(請求人要領書13頁3行〜15頁下から5行)

(イ)甲1において、水族館から最も近い領域から水平方向に向かって上り階段状、平坦状、下り階段状としているEPSの層厚を建物(水族館)に最も近い位置から離隔方向に向かって上層側面を下り階段状にして段階的に異なる構成に変更する動機付け
a 既存の「EPS施工範囲」のうち、水族館に最も近い領域にある上り階段状の領域を単に平坦領域に置換した上で、離隔方向に向かって先端領域を下り階段状とするのであれば、動機付けは成立しない。
何故ならば、上り階段状の領域を単に平坦領域に置換するのであれば、当該平坦領域と水族館から8m以内の領域との間に段差が形成され、「EPS施工範囲」から水族館への交通が不可能となり、上記置換は全く無意味だからである。
b これに対し、平坦領域を地面の下側に埋設し、かつ水族館から8m以内の領域まで延長するのであれば、動機付けが成立し、その根拠は以下の通りである。
(a)平坦領域を地面の下側として前記延長を行った場合には、「EPS施工範囲」は全て地面の下側に配置されることによって、平坦な盛土層が形成され、水族館への交通が既存の「EPS施工範囲」が残存する場合に比し、改善されることを意味している。
(b)地面の下側にて離隔方向に向かって下り階段状を構成した場合には、離隔方向に沿って甲1の2の2の図4−12に示す場合と同様の下り階段状態が形成され、水族館に対する背面土圧の防止に寄与することができる。
(c)「EPS施工範囲」の領域が軟弱地盤であることを考慮するならば、前記階段状体の技術的メリットは極めて大きく、当該メリットは正に、動機付けの成立を裏付ける。
(請求人要領書15頁下から4行〜16頁18行)

(ウ)甲2の図4及び甲3の第1図並びに第2図に示す逆階段状を、甲1の「設計図」による「EPS施工範囲」に適用する動機付け、具体的には甲1における「EPS施工範囲」のEPSを設置する適用部位の範囲・効果と、甲2及び甲3記載の課題・効果の共通性、更には、甲1の前記「EPS」の適用位置に甲2、甲3の構成を積極的に適用する理由
a 「EPS施工範囲」の領域を変更せずに、しかも甲2の構造物2(建物2)に対する軽量材5の当接状態、及び甲3のEPSの近接状態を採用しないのであれば、甲2及び甲3の逆階段状体を採用する動機付けは存在しない。
何故ならば、このような適用の場合には、前記当接状態及び近接状態を前提とする甲2発明及び甲3発明の基本的技術思想に基づく技術的メリットが発揮されないからである。
b これに対し、EPSの敷設領域を「EPS施工範囲」から延長して、甲2の当接状態及び甲3の近接状態を水族館の地下部分に対して適用するのであれば、当該敷設には動機付けが存在し、その根拠は、以下の通りである。
(a)甲1の「EPS施工範囲」に甲2の当接状態及び甲3の近接状態による敷設を適用する場合には、「EPS施工範囲」によるEPSは、必然的に地面の下側に敷設されることに帰する。
(b)上記敷設によって、地震等を原因とする水族館に対する背面土圧等を原因とする地下振動を低減することができ、このような低減による技術的メリットは正に、動機付けの成立に他ならない。
(c)甲1の2の2の図4−12に示すように、背面土圧は、地面から下層となるにしたがって増加するが、当該増加に対応するには、図4−12に示すような階段状が適切であって、甲2及び甲3のような逆階段状は、下側となるにしたがって増大する背面土圧の抑制に不十分であることを考慮した場合、甲2、甲3の構成を適用した上で、更に甲1の2の2の階段状の構成に置換することについては、更に一層前記動機付けを裏付ける。
c 上記理由のうち、甲2及び甲3の適用部位・効果と、「EPS施工範囲」における「EPS」を設けた適用部位・効果の共通性に関し、以下の通り回答する。
(a)甲1の「EPS施工範囲」の領域を設ける適用部位及び甲2の軽量材5を設けている適用部位は、建物外構部分である点において共通している。
因みに、甲1のEPSの領域の上側には、須く盛土層(覆土)が敷設されている一方、甲2の図4においては、軽量材5の下層において、盛土層に代えて非液状化層G2が敷設されており、建物外構部分における敷設状態の「適用部位」が共通している。
(b)甲1のEPSの敷設は、「盛土荷重低減および作用土圧の軽減」を基本的な作用効果としている(2頁本文1行)。
同様に、甲2における軽量材5の敷設につき、「軽量材5を使用して地盤の比重を軽くすることで、その地盤重量の影響を小さくすることができる。」(段落[0018])ことを説明しており、双方は地盤による荷重圧力の低減を目的とする点において共通している。
(c)甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設につき、「建物の基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与えずに」施工が行われている(甲1の2の1の左欄の「工法採用の経緯」の部分)。
同様に、甲2において軽量材5を非液状化層G2に一部置換することによって、構造物2(建物2)における「杭3に与える損傷を低減することができる。」(段落[0018]の下から2行〜1行)という効果を実現しており、双方は既設建物の基礎に対する影響を極力低減する点において共通している。
(請求人要領書16頁19行〜17頁下から7行)

(エ)甲1の「EPS施工範囲」における「EPS」に、甲1〜甲3の構成をそのまま適用することと、本特許発明のような発泡樹脂層の構成との関係
a 「そのまま適用する」につき、「ストレートに適用する」という趣旨に解すると、甲1の「EPS施工範囲」における「EPS」の敷設を甲1〜甲3の構成を適用することによって、請求項1発明及び請求項5発明のような建物の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるような構成を当業者が容易に想到することができる。
上記想到容易性の根拠として、以下の無効理由(1)、(2)、(3)を説明する。
(a)無効理由(1)
i 甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設は、水族館の「基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与え」ないという効果を伴っているが、当該効果は正に、「盛土荷重低減および作用土圧の軽減」(甲1の2頁1−4の1行目)に由来している。
ii 甲1は、設計図の「EPS施工範囲」による敷設だけでなく、「重要構造物の近接施工を必要とする場合」にEPSの敷設が有効であることを説明しているが(2頁末行〜3頁1行)、甲1の4頁の表1−1の敷設の具体例のうち、7欄の工事における「既設構造物」として建物が掲載されている以上、「構造物」のうちには既設建物も包摂されている。
iii 甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設と前記(ウ)で説明した甲2及び甲3との共通事項を考慮した場合、甲2の軽量材5における当接状態、及び甲3のEPSにおける近接状態に基づく技術的メリット、更には甲1の2の2の図4−12に示す背面土圧抑制という更なる技術的メリットを斟酌することによって、本特許発明を当業者に容易に想到し得ることについては、既に請求書補正書において明らかにした通りである。
iV 甲6の1〜6のように、建物の地下部分に発泡樹脂を地盤の振動の抑制を目的として当接又は近接することが周知であることは、上記想到容易性を促進する要因であることを指摘する次第である。
(b)無効理由(2)
i 前記(ア)において指摘したように、甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSを残存した状態にて、水族館から8m以内の領域に、盛土層(覆土)の下側にEPSを敷設する技術上のメリットが存在し、かつ当該敷設には動機付けが成立する。
ii 「EPS施工範囲」領域の地盤が軟弱であることを考慮するならば、地震を原因とする背面土圧を抑制するために、甲1の2の2の図4−12に示すように、前記8m以内の領域にEPSを階段状に敷設することは、当業者が容易に想到し得る技術的選択に該当する。
尚、地震を原因とする背面土圧を避けるために、発泡樹脂層を含む軽量盛土を構造物の背面に当接する構成が公知であること(甲5)、及び建物の地下部分に防振対策などを目的として発泡樹脂層を当接又は近接することが周知であること(甲2の図4、及び甲6の1〜6)については、前記(ア)aの回答に即して既に説明した通りである。
iii かくして、当業者においては、「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設状態を残存した上で、別紙図面6(a)に示すように、水族館から8m以内の領域において、請求項1発明の階段状態及び請求項5発明による階段状態の構成を容易に想到することができる。
(c)無効理由(3)
i 「EPS施工範囲」の領域から水族館に至るまでの領域が全て軟弱地盤であることを考慮するならば、「EPS施工範囲」によるEPSの敷設では、水族館に対する地震等を原因とする背面土圧に十分対処することができない。
ii このような場合、「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設に代えて、水族館から「EPS施工範囲」に至る全領域につき、甲1の2の2による階段によるEPSの敷設を行い、かつ水族館に対する背面土圧に対処することは、当業者が容易に想到し得る技術上の選択事項であり、当該置換による技術的メリットを考慮するならば、当該置換には動機付けが成立する。
尚、地震に関する前記公知技術(甲5)及び建物地下部分に対する発泡樹脂層の当接又は近接に関する周知技術(甲2の図4、及び甲6の1〜6)は、上記置換においても当然斟酌資料に該当する。
iii かくして、「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設に代えて、別紙図面6(b)に示すように、甲1の2の2の階段状によるEPSの敷設を採用することについては、当業者が容易に想到し得ることに疑いの余地はない。
(請求人要領書17頁下から6行〜19頁26行)

(オ)別紙図面6の(a)及び(b)は以下のとおり。
「(a)



「(b)




第4 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張している(答弁書、被請求人要領書、被請求人上申書参照。)。

2 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1
ア 本特許にかかる請求項1〜6の構成によって奏される効果は、明細書及び図面の記載から十分に開示されており、これらの構成を具体的に実施することは、当業者であれば十分に理解又は予測可能な程度の記載内容である。
(答弁書2頁下から8行〜3頁1行)

イ 請求人は、独自の特定した別紙図面1を基に一般式として挙げている(○1の1)が、かかる式を用いることの客観的な文献や論証はなく、請求人が都合良く勝手に想定した式に過ぎず、到底納得できるものではないと言わざるを得ない。
(答弁書3頁2〜6行)

ウ また、請求人が上記数式の演算の前提として、各段の天面(階段で言えば踏み面)に各別に盛土を行った別紙図面2を用い、『別紙図2の場合は、発泡樹脂層の階段状の先端が盛土の表面に及んでおり、発泡樹脂層を完全に盛土の下方に敷設した場合に比し、発泡樹脂層が占める体積の割合が大きい以上、前記説明によれば、盛土は自重によって斜め下方向に移動し難い状況にある。』、『このような場合、発泡樹脂層を敷設した場合と敷設しない場合とが移動の程度が同程度であることは、別紙図面2とは別に、発泡樹脂層が表面に至っていない場合には、却って発泡樹脂層を敷設した場合の方が引込み力の程度が大きいことを推認させることにならざるを得ない。』、『このような推認に即するならば、引込み力による盛土の沈下を効果的に防止し得るという本特許明細書の作用効果の実現可能性については、多大な疑問が生ずるところである。』と主張しているが、そもそも推認を前提として本特許の作用効果を否定すること自体説得力に乏しく、甚だ妥当性に欠けるものである。
(答弁書3頁7〜21行)

エ 特許発明の効果は、本特許明細書の段落番号【0022】から【0024】において詳細に説明しており、かかる記載において土粒子の挙動については、通常の技術常識を有する当業者において、容易に理解できるものである。上記独断的な数式や比較自体誤りの図面をもって、否定できるものでない。
(答弁書3頁22〜末行)

(2)無効理由2
ア 本特許発明と甲1発明との相違点の検討
甲1で開示されているEPSブロック(以下、「EPS」略記)の積み上げ仕様は、一見すると建物(水族館)に隣接した盛土の施工であるが、むしろこれと独立した造成であると見るべきである。マウンドの丘頂部の高さは建物の基礎部分(又は入口付近)からかなりの高さに設定されており、その丘頂部付近の覆土下に積層されたEPSの上面は、建物の基礎部からはかなりの高さとなる。したがって、丘状である以上、上り斜面⇒平坦面⇒下り斜面の連なりは一体のものであり、かつ建物基礎とのマウンド高さ位置の相違からこれを下り斜面(覆土下の下り階段状)の部分だけを切り出して、高さ位置が全く異なる建物の基礎部を関わらせて、発泡樹脂層が下り階段状に構成されているとの主張には、甚だしく妥当性に欠け、全く動機付けとなるものではない。
(答弁書6頁下から3行〜7頁15行

イ 相違点の特定
要約すると、本特許発明と甲1発明との相違点は、以下である。
○1 建物との関わりを必須構成要件としている点
○2 建物地下部分の当接位置又は近接から離隔方向である点
○3 発泡樹脂層の上層面側を下り階段状のみである点
(答弁書7頁16〜20行)

ウ 甲1発明に対する本特許発明の相違点の置換容易性
上記相違点○3については、全く異なっており、これを甲2の明細書の記載や図面(特に図4)から置き換え可能であると予測することはできない。すなわち、甲2発明は、構造物2の周囲にすべり層4を如何に形成配置するかに主眼をおいており(【0019】参照。)、図4によれば、すべり層4の上面側に、建物から離隔方向に向かって下側面を上り階段状に軽量材5(記載は無いが、発泡樹脂材とするも技術常識の範囲。)を配置しているが、その軽量材5の上面を地表面に露出している点から、この面を下り階段状に形成することは、設計事項の範疇でもなく、または容易に想到できるものでもない。むしろ、図示するように発泡樹脂材を露出した状態で配置することは、紫外線の影響、及び浮力の影響を考慮すると考えられない施工であり、この軽量材5は発泡樹脂材単独であることは、かえって技術常識に反するものである。
(答弁書8頁6〜19行)

エ 甲3の発明について、
甲3発明は、傾斜地に盛土して平地を造成し、これに構築した擁壁の背面側に作用する土圧に着目し、これを課題とし擁壁の背面側と傾斜面との間に埋立用発泡体5(EPS)を配置することによって、従来例の問題点の解決(排水の確保)を、課題としたものである。したがって、甲3の公報の図1、図2、から明らかなように、積層した発泡樹脂ブロックの下面側は、傾斜面の斜面に対応させて下面側が上り階段状としているが、これは当然の仕様である。かかる擁壁の施工仕様をみれば、上面側を下り階段状に配置形成することは、到底選択枝に入るものではなく、容易想到でないことは明らかである。なお、明細書の記載には、その形態を選択することが可能であるとの示唆も無く、動機付けを立証することはできない。
したがって、甲3発明の構成要素をもって、上記相違点○3を置換可能とすることはできず、想到容易ではないことは明らかである。
(答弁書9頁7〜20行)

オ 小括
以上の記載から、本特許発明の請求項1においては、甲1発明をベース(これを主引用発明)として、甲2発明及び甲3発明(これらを副引用発明)とした場合、上記相違点について十分な論理付けがなされておらず、十分に進歩性を有するものである。
(答弁書10頁下から8〜5行)


第5 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲1(甲1の2の1、甲1の2の2、甲1の3を含む。)
甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
なお、甲1の2の1、甲1の2の2及び甲1の3は甲1の他の頁であるから、それらも含めて甲1として以下摘記する。
ア 「1−1 発泡スチロールによる軽量盛土工法の定義
発泡スチロールによる軽量盛土工法とは,大型の発泡スチロール(Expanded Poly-Styrol)ブロックを,盛土材料や裏込め材料として土構造物の材料として適用する工法で,材料の超軽量性,耐圧縮性,耐水性およびブロックを積み重ねた時の自立性などの特徴を有効に利用する工法の総称である。

1−2 設計・施工マニュアルの適用範囲
この設計・施工マニュアルは,超軽量材としての発泡スチロール材を盛土(主に軟弱地盤対策や地すべり対策),擁壁や橋台などの杭土圧構造物の裏込め(作用土圧軽減,軟弱地盤対策)などに使用する場合の設計に必要な事項を取りまとめたものである。
・・・
1−3 用語の定義
本マニュアルの中の用語は,以下のように定義する。
・発泡スチロール材
発泡スチロール材は、ポリスチレン樹脂に発泡材を加えたものを加熱軟化させると同時に,気体を発生させて発泡樹脂とさせたものである。緩衝材,保温材,断熱材として一般的に用いられているが,本マニュアルでは土木材料として使用するブロックあるいはブロック状に加工したものをいう。
・・・
・基盤層
発泡スチロールブロックの敷設に先だち,ブロック間の隙間の発生を防止し、基礎地盤に荷重を均一に伝達することを目的として,発泡スチロールブロックと基礎地盤の間に設ける層。一般に粗粒土,ソイルセメント,砕石層を転圧して施工する。
・レベリング層
基盤層の最上面あるいは段切り時の裏込め部上面など発泡スチロールブロック接地面の水平度を確保する層で,一般に敷砂によって不陸整正する。
・保護層(材)
発泡スチロールブロックをガソリン,紫外線などから保護するために設けるもので,コンクリート,ポリエチレンシート,遮水シート,鋼板などが使用される。
・・・



1−4 工法の利用分野
発泡スチロールブロックを盛土材料として用いた工法は,盛土荷重低減および作用土圧の軽減を目的とした土構造物,さらには自立壁や埋設管の基礎など,各種構造体としての適用が可能である。
主な適用分野について,表1−1に示す。
〔解説〕
発泡スチロールブロックは軽量性,自立性に優れており,軟弱地盤上の盛土,橋台や擁壁の裏込め自立壁等に使用した場合に発泡スチロールブロックの有効性が発揮される。また,施工の際に大型建設機械が必要としないことから,建設機械の支持力が確保できない場合,重要構造物の近接施工を必要とする場合,あるいは周辺環境への配慮を必要とする場合などに有効である。・・・
発泡スチロールの主な適用分野を,表1−1に示す。これらの用途に対して,本利用マニュアルで対象とするものは,直轄事業での利用頻度が多いと考えられる軟弱地盤上の盛土,橋台や擁壁の裏込め,地すべり地の盛土などであるが,これらの設計は従来から土構造物に対して行われる一般的な設計手法を準用してもよいと考えられる。
・・・


(1頁2行〜4頁)

イ 「3−1 一般
発泡スチロールによる軽量盛土工法の主要な材料としては、本体となる発泡スチロールブロック,ブロック相互を結合する緊結金具,保護材,被覆材,壁体,アンカー材などがある。

3−2 発泡スチロール
3−2−1 種類および形状
発泡スチロールは,製造法により型内発泡法と押出発泡法の2種類があり,これらの標準的なブロックの寸法は以下のとおりである。
型内発泡法 長さ2,000×幅1,000×厚さ500
押出発泡法 長さ2,000×幅1,000×厚さ100 (単位:mm)
〔解説〕
ここに示す発泡スチロールブロックの寸法は,現在,国内で土木用に使用されている標準的なものである。発泡スチロールブロックは,製造法によって厚さが異なり,押出発泡法の製品は,厚さが10cmなので,数枚重ね,結合したブロック体として使用することが多い。
・・・
3−2−3 圧縮特性
発泡スチロールの圧縮特性は,下記に示すことを考慮して決定する。
○1 試験方法
発泡スチロールの圧縮強さの試験方法は,発泡スチロールを主に工業材料としてとらえた場合、日本工業規格に試験方法が規定されている。また,土木分野では,発泡スチロールを盛土材料(盛土、基礎地盤材料)としてとらえる場合、土質工学会基準の土の一軸圧縮試験などが適用されることがある。各試験方法の内容と,試験条件を表3−2に示す。


○2 圧縮速度
発泡スチロールの圧縮強度は,JIS K 7220または土質工学会基準の土の一軸圧縮試験を適用した方法で試験を実施して決定する。
表3−3に発泡スチロールの種別に応じた圧縮特性を示している。


(7頁2行〜8頁の表3−3)

ウ 「3−3 その他の材料(図3−10)
発泡スチロールによる軽量盛土工法の施工に当たっては,下記に示すような部材を必要に応じて用いる。
・・・
○3 被覆土,シート類
積み上げた発泡スチロールブロックは,被覆土,被覆壁,被覆シート等により被覆保護しなけらばならない。
・・・
○5 基盤材
発泡スチロールブロック間の隙間をなくし積み上げ精度を上げることおよび,発泡スチロールブロックから地盤への応力伝達が均等にされるために,砕石,ソイルセメント,粗粒材などの基盤層を設ける。



(17頁1行〜18頁の図3−10)

エ 「4−2 軟弱地盤の盛土における発泡スチロールによる軽量盛土工法
4−2−1 概説
ここでは、軟弱地盤の安定と沈下および変形の防止のために,発泡スチロールを盛土材料として盛土本体に用いる場合に適用する。発泡スチロールを用いた軟弱地盤上の盛土とは,図4−3に示すような構造のものをいう。なお、ここでは主にのり面を持つ盛土本体について述べるが,壁体をもつ構造(擁壁,土留め構造)については,4−3で述べる。


(22頁1行〜図4−3)


オ 「3−2
設計図

」(頁不明)

カ 「3−1 新設公園のマウンド造成
(軟弱地盤)」
(表題)
a「工法採用の経緯」の欄
「当工事区域内はほぼ全域が埋立て間もない厚さ数十mの軟弱地盤である。ここに、建物の基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与えずに、起伏のある緑豊かな公園を造成するため、種々の対策が考えられた。
EPS工法は荷重増加がないという対策工の効果はもちろんのこと、竣工間近の短い工期を十分満足するものであった。」
b 「標準断面」の欄




c 「設計・施工フロー」の欄
「設計の基本的考え方は、下図に示したように、覆土荷重+EPS荷重により荷重の増加が生じないように置換厚を求めるものである。
(図は省略)
盛土高さは、0〜4.5mであり、覆土は建屋から18m以遠は高木植栽を考慮して厚さ0.9mとし、スロープから建屋周辺までは0.3mとする。いずれも覆土の下部(EPS上面)に0.2mの排水層(クラッシャーラン)を設ける。
なお、覆土と排水層の境界には目詰まり防止対策としてジオテキスタイル(不織布)を設置する。」
(95〜96頁)

キ 「4−3 擁壁,橋台背面の裏込め材としての発泡スチロール工法
4−3−1 概説
ここでは,主に擁壁,橋台などの抗土圧構造物の安定ならびに土圧軽減を目的として,構造物背面に発泡スチロールを裏込め材として用いる場合に適用する。
〔解説〕
従来,軟弱な地盤上での擁壁,橋台などでの抗土圧構造物の施工に際して,安定、沈下対策としては各種地盤改良や基礎補強工が行われてきた。これに対して,発泡スチロールを抗土圧構造物の裏込め材として使用することで,土圧や荷重の軽減が図られ駆体(当審注:「駆」は原文では旧字体。以下同様。)や基礎あるいは地盤処理工の規模の縮小が可能となる。
・・・
4−3−3 設計荷重
発泡スチロール工法を構造物背面の裏込めに採用する場合には,土圧および水圧、駆体自重,発泡スチロール自重,上載荷重,発泡スチロールの側圧、浮力ならびに地震力を考慮する。
発泡スチロール工法を橋台の裏込めに採用する場合には,土圧および水圧,駆体自重(上部工荷重を含む),発泡スチロール自重、上載荷重,発泡スチロールの側圧,浮力,衝撃荷重ならびに地震力を考慮する。
荷重の組み合わせは,対象としている構造物の使用状況を考慮して適宜選定する。
〔解説〕
荷重は「4−1 荷重」に準じて算定する。この他,構造物に特別な外力や偏圧が作用する場合には,これらを考慮しなければならない。
図4−11に示すように,発泡スチロールを逆台形形状に設置した場合,発泡スチロール背面に作用する土圧は発泡スチロール背面の勾配によって左右される。すなわち,背面勾配iが安定勾配であるか,それ以下である場合には背面土圧は零となる。安定勾配より急な場合には背面土圧が作用することになるが,この場合の土圧は試行くさび法等によって求めることができる。なお,標準的な安定勾配は表4−1,表4−2に示す値が参考になる。
また,図4−12に示すように,発泡スチロールを台形形状に設置した場合,土圧合力の作用位置が発泡スチロールのつま先点より背面側にあり,滑動や転倒に安定であれば発泡スチロールは自立し,構造物に土圧は作用しないと考えられる。」(31頁1〜末行)

ク 「発泡スチロールの側圧は,深さ方向に一様な分布とし,発泡スチロールの上載荷重の1/10とする。
浮力に関しては,それが作用しないように排水工を設ける。しかし,地形的あるいは構造物の使用目的によって浮力が作用する場合には,これを設計に取り入れて検討しなければならない。
地震の影響は,構造物の重要性や規模に応じて考慮するものとする。




(33頁)

ケ 上記カcの「盛土高さは、0〜0.4mであり、」及び上記アの「大型の発泡スチロール(Expanded Poly-Styrol)ブロック」との記載を踏まえ、上記カbの「標準断面」の欄の図から、次のことが看取できる。
a 盛土は、水族館建屋の端部から8000mm離れたところから上りのスロープが始まり、高さが4.5mになるまで続いたあと平坦になり、平坦面が続いたあと、水族館建屋の端部から60000mmから下りのスロープとなり10000mm続いていること。
b 上りのスロープ、平坦面及び下りのスロープにおいて、発泡スチロールブロックが、それぞれ上り階段状、平坦及び下り階段状に積み重ねられていること。

コ 上記キの「4−3 擁壁,橋台背面の裏込め材としての発泡スチロール工法
4−3−1 概説
ここでは,主に擁壁,橋台などの抗土圧構造物の安定ならびに土圧軽減を目的として,構造物背面に発泡スチロールを裏込め材として用いる場合に適用する。」との記載を踏まえると、図4−12において、逆T字型の構造物は擁壁であって、「EPS」は発泡スチロールであるから、図4−12から、発泡スチロールは、擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ね、下面は水平であること、が看取できる。

サ 上記アないしコからみて、甲1には、次の2発明(以下、それぞれ「甲1軽量盛土工法発明」及び「甲1擁壁発明」という。)が記載されているものと認める。

〔甲1軽量盛土工法発明〕
「埋め立て間もない厚さ数十mの軟弱地盤の区域に、新設公園のマウンド造成において、
発泡スチロールを盛土材料として盛土本体に用いる軽量盛土工法であって、
盛土は、水族館建屋の端部から8000mm離れたところから上りのスロープが始まり、高さが4.5mになるまで続いたあと平坦になり、平坦面が続いたあと、水族館建屋の端部から60000mmから下りのスロープとなり10000mm続いており、
上りのスロープ、平坦面及び下りのスロープにおいて、発泡スチロールブロックが、それぞれ上り階段状、平坦及び下り階段状に積み重ねられており、
水族館建屋周辺からスロープまでは覆土を0.3mとし、水族館建屋から18m以遠は、高木植栽を考慮して覆土を0.9mとし、
盛土の下部(EPS上面)に0.2mの排水層(クラッシャーラン)を設けており、
軟弱地盤の安定と沈下および変形を防止し、建物の基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与えず、荷重増加がないという対策工の効果を有する、
軽量盛土工法。」

〔甲1擁壁工法発明〕
「抗土圧構造物である擁壁の背面に発泡スチロールを裏込め材として用いた発泡スチロール工法であって、
発泡スチロールは、擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ね、下面は水平であって、台形形状に設置し、
土圧合力の作用位置が発泡スチロールのつま先点より背面側にあり,滑動や転倒に安定であれば発泡スチロールは自立し,擁壁に土圧は作用しない、
発泡スチロール工法。」

シ 上記アの「・基盤層
発泡スチロールブロックの敷設に先だち,ブロック間の隙間の発生を防止し、基礎地盤に荷重を均一に伝達することを目的として,発泡スチロールブロックと基礎地盤の間に設ける層。一般に粗粘土,ソイルセメント,砕石層を転圧して施工する。
・レベリング層
基盤層の最上面あるいは段切り時の裏込め部上面など発泡スチロールブロック接地面の水平度を確保する層で,一般に敷砂によって不陸整正する。
・保護層(材)
発泡スチロールブロックをガソリン,紫外線などから保護するために設けるもので,コンクリート,ポリエチレンシート,遮水シート,鋼板などが使用される。」との記載、
上記ウの「○3 被覆土,シート類
積み上げた発泡スチロールブロックは,被覆土,被覆壁,被覆シート等により被覆保護しなけらばならない。
・・・
○5 基盤材
発泡スチロールブロック間の隙間をなくし積み上げ精度を上げることおよび,発泡スチロールブロックから地盤への応力伝達が均等にされるために,砕石,ソイルセメント,粗粒材などの基盤層を設ける。」との記載を踏まえて、上記アの上側の図面、上記ウの図3−10の上側の図面、上記エの図4−3をみると、
次の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)が看取できる。
「軽量盛土工法において、地盤を掘削し、掘削面に粗粒土、ソイルセメント、砕石層を転圧して基盤層を施工し、また、発泡スチロールブロック上を被覆シートで被覆し、さらに被覆シートの上面を覆土で被覆した点。」

(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明の効果】
【0008】
本発明の杭基礎構造物の被害軽減構造によれば、すべり層を設ける場合に、中小規模地震で地盤変位が小さいときは、すべり層がすべることなく、非液状化層の地盤と略同等の地盤剛性を確保することができるため、杭基礎構造物に応力増加による負担を与えることがなくなる。そして、大規模地震で地盤変位が大きいときには、すべり層がすべり、構造物の根入れ部に過大な地盤抵抗(根入れ抵抗)が作用しなくなるため、杭基礎構造物に作用する応力の増加を抑制することができる。このように根入れ抵抗の上限を低く抑えることにより、杭基礎構造物に与える損傷を低減させることができる。しかも、広範囲に地盤改良したり、杭に大掛かりな補強を施したりする従来の対策工法が不要となる構造であることから、工費および工期を大幅に削減することができる。
また、本発明の杭基礎構造物の被害軽減構造によれば、置換材を使用して地盤の比重を軽くすることですべり面の地盤抵抗が小さくなり、すべり作用が発生しやすくなる。そのため、過大な根入れ抵抗によって杭基礎構造物に作用する応力を増加させることがなくなることから、根入れ抵抗の上限を低く抑えることができ、杭基礎構造物に与える損傷を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の杭基礎構造物の被害軽減構造の実施の形態について、図1及び図2に基づいて説明する。
図1は本発明の第一の実施の形態による杭の被害軽減構造を示す立断面図、図2は地盤変位の大きさに対する根入れ抵抗の変化を示すグラフである。
【0010】
図1に示すように、本第一の実施の形態による杭基礎構造物の被害軽減構造1は、例えば埋立地などの軟弱地盤上に構築される構造物2に適用されるものである。
本第一の実施の形態では、地下水位Wより下方が液状化層G1をなし、その上方が非液状化層G2をなしている。そして、非液状化層G2中に根入れ部2aを形成して構造物2が構築されている。構造物2は、主に液状化層G1中に打設され、その先端部が図示しない岩盤などの支持層に達する複数の杭3…(杭基礎構造物)によって支持されている。
また、非液状化層G2内には、構造物2の揺れや地震時の地盤変位による土圧を受けてすべり作用が生じたときに、最終的に地盤がすべることで破壊に至るすべり面を推定することができる。このときのすべり面を、本第一の実施の形態では受働すべり面Sとする。なお、この受働すべり面Sの角度や位置などは、地盤の種類、状態、地盤強度などの条件によって変わるものである。
【0011】
図1に示すように、構造物2の根入れ部2aと非液状化層G2の受働すべり面Sとの間の領域には、非液状化層G2より摩擦力が小さく、長期間、その摩擦力を小さな状態で維持させるすべり層4が形成されている。このすべり層4は、構造物2の根入れ部2aの周囲の略下端から地表に向けて広がるように所定角度の傾斜面を形成して連続して配置されている。さらに、すべり層4の層上端部4aは、根入れ部2aと後述する受働すべり面Sの上端部Saとの間に設けられている。
なお、すべり層4の位置や角度は、例えば解析手段などを用いて対象地盤で効果が発揮できるように設定することが好ましい。
【0012】
すべり層4に使用される材料としては、シート状のビニール材、プラスチック材、金属材、又はこれらの複合材などが採用される。なお、これらの材料は、長期間、摩擦が低い状態を保持できるものが好ましい。そして、これらの材料を用いたすべり層4は、受働すべり面Sですべり作用が発生する地盤変位よりも小さな地盤変位ですべり作用が発生することになる。
【0013】
次に、このように構成される杭3の被害軽減構造1の作用について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、大規模な地震により液状化層G1が液状化したときは、すべり層4が非液状化層G2より摩擦抵抗が小さいことから、このすべり層4を界面にして非液状化層G2の地盤がすべり、構造物2の根入れ部2aが受ける外力(土圧)を低減させることができる。これにより、根入れ部2aに作用する地盤抵抗も小さくすることができる。
【0014】
図2を用いてさらに具体的に説明する。図2は液状化時における地盤変位の大きさに対する構造物2の根入れ部2aの根入れ抵抗の変化を示したものであり、第1のグラフR1(図中の実線)はすべり層4を設けた場合、第2のグラフR2(図中の二点鎖線)はすべり層4を設けない場合の根入れ抵抗をなしている。これによると、両グラフR1、R2は、地盤変位が大きくなるにつれて根入れ抵抗が増え、所定の大きさの地盤変位となったときに根入れ抵抗が一定となっている。第1のグラフR1で根入れ抵抗が一定となるときの地盤変位の大きさは、第2のグラフR2の一定となるときの地盤変位の大きさより小さくなっている。
【0015】
そして、中小規模の地震などで影響される地盤変位の小さな範囲M1、つまり液状化層G1が液状化しない場合には、根入れ部2aは非液状化層G2と略同等の地盤抵抗(地盤剛性に相当)を受けることになる。つまり、液状化しない程度の小さな地盤変位では、非液状化層G2の地盤剛性によって根入れ部2aの根入れ抵抗が確保され、構造物2の揺れを抑えることができる。
また、液状化層G1が液状化するような地盤変位の大きな範囲M2では、すべり層4の作用により、根入れ部2aに作用する根入れ抵抗の最大値が低下することを確認できる。
【0016】
上述した本第一の実施の形態による杭基礎構造物の被害軽減構造では、中小規模地震で地盤変位が小さいときは、すべり層4がすべることなく、非液状化層G2の地盤と略同等の地盤剛性を確保することができるため、杭3に応力増加による負担を与えることがなくなる。そして、大規模地震で地盤変位が大きいときには、すべり層4がすべり、構造物2の根入れ部2aに過大な地盤抵抗(根入れ抵抗)が作用しなくなるため、杭に作用する応力の増加を抑制することができる。このように根入れ抵抗の上限を低く抑えることにより、杭3に与える損傷を低減させることができる。
また、広範囲に地盤改良したり、杭に大掛かりな補強を施したりする従来の対策工法が不要となる構造であることから、工費および工期を大幅に削減することができる。」

イ 「【0018】
次いで、図4は本発明の第三の実施の形態による杭の被害軽減構造を示す立断面図である。
図4に示すように、第三の実施の形態による被害軽減構造12は、構造物2の周囲であって、受働すべり面Sと根入れ部2aとの間の所定範囲の非液状化層G2を、軽量材5(置換材)で置換したものである。軽量材5は、非液状化層G2の地盤より比重が軽く、地盤剛性が高い材料が採用される。受働すべり面Sの地盤抵抗(摩擦抵抗)はこの受働すべり面Sより浅い領域の地盤の重量に影響されるため、軽量材5を使用して地盤の比重を軽くすることで、その地盤重量の影響を小さくすることができる。すなわち、受働すべり面Sの地盤抵抗が小さくなり、すべり作用が発生しやすくなる。そのため、第一及び第二の実施の形態と同様、過大な根入れ抵抗によって杭3に作用する応力を増加させることがなくなることから、根入れ抵抗の上限を低く抑えることができ、杭3に与える損傷を低減することができる。」

ウ 図1、図4は以下のとおり。
「【図1】



「【図4】



(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「本考案は上述の課題を達成するために、傾斜地に盛土をして平地とする場合に設ける擁壁において、擁壁本体1の内側の基礎部分1−2から傾斜地上端までの傾斜地盤3’を複数段階3’−1、3’−2、3’−3、・・・に分割し、各段階ごとに砕石4を盛り上げて水平面を構成し、この水平面上に敷設した透水板2と、この透水板2の上に積層載置して全体をほぼ水平面とした埋立用発泡体5(以下EPSという)とを設けたものである。」(明細書3頁3〜11行)

イ 第1図は以下のとおり。
「第1図



(4)甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「外構 exterior 建築物に対して,その周囲の空間や造成したものをいう.敷地内の*庭園,*サービスヤード,敷地外の*街路などとそれらの中に造成したもので,*都市景観上重要.」(90頁「外構」の項)

(5)甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0017】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の一実施の形態における構造物背面の軽量盛土構造に関して、図1,2を参照して説明する。尚、図1に示す軽量盛土構造は、構造物が橋台である場合を例に挙げている。
【0018】
[軽量盛土構造物、構造物]
軽量盛土構造物は、図1に示すように、構造物1の背面に形成された、軽量盛土構造2を含んでいる。上記構造物1は、基礎地盤(例えば粘性土)上に設置され、支持地盤(例えば砂質土)に達する複数の基礎杭11によって固定されている。構造物1は、その背面に背面土圧が掛かる構造物であればよく、例えば橋台やコンクリート擁壁、護岸等が挙げられるものの、特に限定されない。
【0019】
[軽量盛土構造]
図1に示すように、軽量盛土構造2は、EPS盛土工法によって施工されている。EPS盛土工法は、発泡樹脂で構成される発泡樹脂材4の上部に、最上部のコンクリート床版3が設けられ、複数段積層されてなる発泡樹脂材4の層間に、後述するように必要に応じて中間のコンクリート床版3が設けられている軽量盛土構造2を施工(製造)する方法である。
【0020】
上記軽量盛土構造2は、構造物1の背面と盛土(例えば砂質土)との間に形成された、コンクリート床版3と発泡樹脂材4とを備えている積層構造であり、裏込めと称される場合もある。軽量盛土構造2は、例えば、「EDO−EPS工法設計・施工基準書(案)」に定められている工法により施工される。軽量盛土構造2は、基礎地盤および/または構造物1の基礎上に施工され、その最上部に踏掛板5が設置され、その上に必要に応じて舗装が施される。
【0021】
具体的には、軽量盛土構造2は、例えば下記方法によって施工(製造)される。先ず、基礎地盤および/または構造物1の基礎上に発泡樹脂材4を設置し、発泡樹脂材4の高さ3m毎に、中間のコンクリート床版3を形成すると共に、構造物1とコンクリート床版3との間に緩衝材7を配置する。次いで、中間のコンクリート床版3の上に設置した最上部の発泡樹脂材4の上部に、最上部のコンクリート床版3を形成すると共に、構造物1とコンクリート床版3との間に緩衝材7を配置する。上記中間および最上部のコンクリート床版3は、鉄筋を格子状に設置した後、コンクリートを打設することによって形成する。さらに、最上部の緩衝材7上および最上部のコンクリート床版3上の一部に踏掛板5を設置し、その上に必要に応じて舗装を施す。これにより、軽量盛土構造2が施工される。
【0022】
若しくは、軽量盛土構造2は、例えば下記方法によって施工(製造)される。先ず、基礎地盤および/または構造物1の基礎上に発泡樹脂材4を設置する。次に、発泡樹脂材4の高さ3m毎に緩衝材7を配置し、当該緩衝材7を型枠として、中間のコンクリート床版3を形成する。これにより、構造物1とコンクリート床版3との間に緩衝材7が配置されることになる。次いで、中間のコンクリート床版3の上に設置した最上部の発泡樹脂材4の上部に緩衝材7を配置し、当該緩衝材7を型枠として、最上部のコンクリート床版3を形成する。上記中間および最上部のコンクリート床版3は、鉄筋を格子状に設置した後、コンクリートを打設することによって形成する。さらに、最上部の緩衝材7上および最上部のコンクリート床版3上の一部に踏掛板5を設置し、その上に必要に応じて舗装を施す。これにより、軽量盛土構造2が施工される。
【0023】
<発泡樹脂材>
発泡樹脂材4は、軽量盛土構造2の上載荷重や交通荷重等に耐え得る、軽量性、強度および柔軟性を有する材質で形成されていれば特に限定されないが、例えば、発泡ポリスチレン(EPS)であることが好ましい。発泡樹脂材4は、複数の発泡樹脂ブロックを積み上げてなる積層体であることが好ましい。これにより、発泡樹脂材4を簡易に施工することができる。
【0024】
尚、発泡樹脂材4は緩衝材としての機能も有しているので、地震時において、発泡樹脂材4が構造物1の背面に局所的に過大な荷重を掛けることはない。
【0025】
ところで、構造物1とコンクリート床版3との間に緩衝材7を配置する替わりに、地震時に構造物1および軽量盛土構造2が水平方向に移動(変位)しても互いに接触しないように、構造物1および軽量盛土構造2間に隙間を設けることも考えられる。しかしながら、そのような隙間を設けた場合には、軽量盛土構造2が耐圧性に劣るため好ましくない。」

イ 「【0035】
上記緩衝材7の水平方向(水平でかつ構造物1の背面に直交する方向)の長さは、コンクリート床版3の大きさや、構造物1の規模、想定される地震の規模等の種々の条件に応じて、或いは模型実験を実施して設定すればよい。即ち、緩衝材7の水平方向の長さは、地震時に構造物1に掛かる背面土圧がコンクリート床版3の部分と緩衝材7の部分とで同じになるように、設定すればよい。具体的には、緩衝材7の水平方向の長さは、例えば軽量盛土構造2の高さが3mである場合には、50mm以上、500mm以下であることが好ましく、50mm以上、300mm以下であることがより好ましく、また、例えば軽量盛土構造2の高さが10mである場合には、50mm以上、1000mm以下であることが好ましく、50mm以上、700mm以下であることがより好ましい。また、緩衝材7の水平方向の長さを、コンクリート床版の水平方向の長さ10m当たり50mm以上、500mm以下、好ましくは100mm以上、300mm以下となるような割合で設定することもできる。但し、緩衝材7は軽量であるので、コンクリート床版3の機能である不陸調整、荷重分散、発泡樹脂ブロックの固定、および浮力対策を損なわないように、水平方向の長さの上限は1000mmであることが好ましい。緩衝材7は、地震によってコンクリート床版3を含む軽量盛土構造2全体が水平方向に移動(変位)して緩衝材7に荷重が掛かったときに、想定される地震の規模にもよるが、水平方向に変形する(押し潰される)ことによって当該荷重を分散、吸収し、コンクリート床版3が構造物1の背面に局所的に過大な荷重を掛けることを軽減する。ここで、緩衝材7が水平方向に変形する(押し潰される)とは、水平方向の長さが3〜80%程度、好ましくは10〜60%程度薄くなることを指す。緩衝材7は好ましくは発泡樹脂等の材質で形成されているので、荷重を吸収しても完全に塑性変形せず、荷重が掛からなくなれば或る程度復元する(元の長さに戻ろうとする)。」

ウ 図1は以下のとおり。
「【図1】



(6)甲6の1
甲6の1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0013】図1は、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造を示したものである。同図でわかるように、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造は、構造物1の地下埋設部分2と周辺地盤3との間に相対変位吸収領域4を設けてある。
【0014】相対変位吸収領域4は、地下埋設部分2と周辺地盤3との間に緩衝材5を配置して構成してあり、地震時における地下埋設部分2と周辺地盤3との相対変位を吸収するようになっている。
【0015】緩衝材5は、材料自体に変形吸収能があるゴム、発泡スチロールや発泡ウレタンといった発泡体、アスファルト、シリコン、軟弱粘土等をはじめ、集合体として変形吸収能を発揮することが期待されるもの、例えば埋戻し土、飽和した緩い砂、軽量土、砂利、砕石などを用いることができる。
【0016】本実施形態に係る構造物の耐震補強構造を構築するにあたっては、構造物1の地下外壁周囲を掘り下げて中空空間を形成した後、該中空空間に緩衝材5を充填して相対変位吸収領域4を構築すればよい。
【0017】本実施形態に係る構造物の耐震補強構造においては、構造物1の地下埋設部分2と周辺地盤3との間に相対変位吸収領域4を設けてあり、地震時には、地下埋設部分2と周辺地盤3との相対変位が相対変形吸収領域4にて吸収されるとともに、相対変形吸収領域4を構成する緩衝材5のエネルギー吸収機能によって構造物1の地震による振動エネルギーが吸収される。
【0018】以上説明したように、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造によれば、相対変位吸収領域4によって地震時における地下埋設部分2と周辺地盤3との相対変位が吸収されるので、地震時における側方の周辺地盤3からの地震入力が小さくなり、その分、構造物1全体に入力する地震エネルギーが減少するとともに、周辺地盤3からの土圧が構造物1の地下埋設部分2に作用しなくなるので、構造物の地下埋設部分2の部材力が大幅に低減する。また、周辺地盤3が構造物1の地下埋設部分2を拘束しなくなるので、構造物1の固有周期が長周期化し、地震波の卓越周期から外れる、いわば免震効果も期待できる。
【0019】言い換えれば、構造物自体の構造断面を大きくしたり炭素繊維シート等で補強したりすることで構造物の耐震性能を向上させる従来の考え方とは異なり、相対変位吸収領域4を設けることで地震入力の低減を図り、結果的に構造物1の耐震性能を向上させることができる。」

イ 「【0026】また、本実施形態では、相対変位吸収領域4と周辺地盤3との境界を鉛直面としたが、必ずしも鉛直面とする必要はなく、例えば図4(a)に示すように、周辺地盤3に形成された法面32と構造物1の地下埋設部分2(地下外壁)との間を中空空間とし、これを相対変位吸収領域31としてもよいし、同図(b)に示すように、周辺地盤3に形成された法面32と構造物1の地下埋設部分2との間に緩衝材5を充填し、これを相対変位吸収領域33としてもよい。」

ウ 図1及び図4は以下のとおり。
「【図1】



「【図4】



(7)甲6の2
甲6の2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【実施例1】
【0023】
以下に、請求項1〜3に記載した発明に係る防振効果を有する合成地下壁、及び請求項4、5に記載した発明に係る防振効果を有する合成地下壁の構築方法、並びに請求項6に記載した発明に係る水平多軸回転式の地盤改良装置の実施例を、図面に基づいて説明する。本発明に係る防振効果を有する合成地下壁1は、図1に示すように、振動源である鉄道2(但し、工場、高速道路などでも良い。)の近傍に、静寂性が要求される音響ホールなどを備えた建物3を構築する際に好適に採用される。
【0024】
防振効果を有する合成地下壁1は、通例の合成地下壁と略同様の構成である。しかし、合成地下壁1を成す山留め壁4は、図1及び図2に示すように平面的に見て、防振材料5(図2を参照)が配合された層6(以下、単に背面側の層6と云う場合がある。)と、掘削側の防振材料5が配合されず(但し、強度や止水性が低下するので配合されていないことが好ましいが、強度や止水性を損なわない程度で配合されても良い。)、且つ設計強度を有する層7(以下、単に掘削側の層7と云う場合がある。)との二層構造改良体8が形成され、同改良体8にH形鋼(但し、角形鋼管、丸形鋼管、I型鋼などでも良い。)から成る芯材9が略等間隔に建て込まれた構成であり、この山留め壁4の芯材9より掘削側の改良体4a(図9を参照)が除去され、同芯材9と一体化するように建物3の地下躯体3aの側壁3bが構築されている。
【0025】
具体的には、山留め壁4の背面側の層6は防振材料5として既に公知である発泡材やゴムチップなどが配合され、鉄道2から伝達される地盤振動を吸収できる構成とされている(請求項2記載の発明)。そのため、鉄道2からの地盤振動は合成地下壁1を成す山留め壁4の背面側の層6で吸収され、建物3への伝達を防ぐことができる。つまり、合成地下壁1自身が防振効果を有する構成とすることで、従来のように山留め壁4の背面側に防振効果を有する地中連続壁を構築したり、防振材を配置しなくても簡単に防振構造とすることができ、コストの削減と施工期間の短縮に寄与できる。
【0026】
一方、山留め壁4の掘削側の層7は背面土圧などに十分耐え得るように、設計強度を満たす量のセメントが配合されたセメントミルクと掘削土壌とが混合攪拌されて成り、十分な強度と止水性を有する構成とされている。そのため、後で詳述するが、地下躯体3aを構築するために山留め壁4内の掘削地盤25(図8及び図9を参照)を掘削する際に、安全性が高く、地下水の浸水を確実に防ぐことができる。)」

イ 図1及び図2は以下のとおり。
「【図1】



「【図2】



(8)甲6の3
甲6の3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0018】(第1実施形態)
【0019】図1は、本実施形態に係る構造物の免震構造を示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係る構造物の免震構造は、構造物1の地下埋設部分である地下外壁2及び杭7と周辺地盤3との間に動土圧緩衝領域4を設け、該動土圧緩衝領域を、周辺地盤3からの土圧を支持する支持体5と、該支持体の内側に配置された動土圧緩衝材6とで構成してある。
【0020】支持体5は、図2の水平断面図でよくわかるように、地下外壁2及び杭7を取り囲むように設けてある。かかる支持体5は、常時の静土圧や中小地震時の動土圧に対してはこれを支持するとともに、一定規模以上の地震に対してはその動土圧によって破壊される程度の低強度となるよう、例えばモルタルやコンクリートからなる厚さ数cm程度の壁体で構成する。
【0021】一方、動土圧緩衝材6は、空気8とともにゴム、ビニール等で形成された袋体9内に充填された状態で支持体5の内側に配置してあり、支持体5が破壊されて動土圧が作用したとき、動土圧緩衝材6が袋体9内で流動する際の粘性減衰でその動土圧を吸収できるように構成する。

イ 「【0029】本実施形態に係る構造物の免震構造においては、構造物1の地下埋設部分である地下外壁2及び杭7と周辺地盤3との間に動土圧緩衝領域4を設けてあるが、かかる動土圧緩衝領域は、周辺地盤3からの土圧を支持する支持体5と、該支持体の内側に配置された動土圧緩衝材6とから構成してあるので、常時や中小地震の際には、その静土圧や比較的小さな動土圧がほとんど支持体5だけで支持され、動土圧緩衝材6へは土圧の作用が最小限にとどまるとともに、巨大地震の際には、大きな動土圧によって支持体5が破壊され、内側に配置された動土圧緩衝材6にその動土圧が袋体9を介して直接作用する。
【0030】したがって、常時や中小地震の際には、支持体5によって周辺地盤3の崩落や地盤沈下が防止される。また、巨大地震の際には、大きな動土圧が支持体5内側の動土圧緩衝材6に直接作用するが、その際、動土圧緩衝材6が袋体9内で自由に流動するとともに、それに伴って粘性減衰が発揮されるので、結局、周辺地盤3からの地震エネルギーは、繰り返し作用する動土圧を動土圧緩衝材6の粘性減衰に変化させる形で吸収されることとなり、構造物1への地震入力が低減するとともに、構造物1の振動がかかる動土圧緩衝材6によって粘性減衰の作用を受け、該振動は速やかに収斂する。」

ウ 「【0045】図7は、本実施形態に係る構造物の免震構造を示した鉛直断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る構造物の免震構造も上述の実施形態と同様、構造物1の地下埋設部分である地下外壁2及び杭7と周辺地盤3との間に動土圧緩衝領域22を設け、該動土圧緩衝領域を、周辺地盤3からの土圧を支持する支持体5と、該支持体の内側に配置された動土圧緩衝材21とで構成してあるが、本実施形態では、動土圧緩衝材21を発泡スチロール板で構成してあり、これを地下外壁2と支持体5との間に積層した点が上述の実施形態とは異なる。
【0046】ここで、動土圧緩衝材21は、支持体5が破壊されて動土圧が直接作用したとき、それが破砕することによってその動土圧を吸収できるように構成してある。なお、対象とする動土圧の大きさによって動土圧緩衝材21の厚みを適宜調整するとともに、場合によっては、同図のようにそのまま積み上げるのではなく、スペーサ等を適宜使用することによって、動土圧緩衝材21同士を上下方向に離隔配置することも考えられる。」

エ 図1、図2、図7は以下のとおり。
「【図1】



「【図2】




「【図7】



(9)甲6の4
甲6の4には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項5】図7、8に示すように、支持力の不足するような地盤上に建物(16)を造る場合、廃タイヤ(6)あるいは硬質発泡スチロール材質の縦壁(13)を用いる組み立て方式軽量盛土(10)、(14)の構造方式で構築する建物の床基礎(17)、(18)。このような床基礎(17)、(18)は、支持力不足の問題を解消するだけでなく、廃タイヤ(6)あるいは硬質発泡スチロール材質の縦壁(13)で組み立てた床基礎(17)、(18)はフレキシブル性であるため、建物に耐震効果をもたらすことも期待できる。」

イ 「【0007】
【発明の効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。組み立て方式軽量盛土は廃タイヤあるいは硬質発泡スチロール材質の縦壁と鉄筋コンクリート床版をPC鋼棒で拘束することによって構築される盛土であるため、軟弱地盤や地すべり傾斜地などにその軽量性が有効に働くほかに、施工は単純なため、従来の軽量盛土工法に比べ、工期は一段と短縮できる他に、工事費も大幅に縮減できる。特に廃タイヤを利用する場合、資源の有効利用や環境保全にもつながる。

ウ 図8は以下のとおり。
「【図8】



(10)甲6の5
甲6の5には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明の効果】
【0024】
本発明に係る戸建住宅の液状化による不同沈下防止工法および不同沈下防止構造によれば、通常時(地震未発生時)は、軟弱地盤により、戸建住宅を安定した状態で支持できることはもとより、地震時は、軟弱地盤のせん断強度が失われて前記柱状の浮力材(及び、べた基礎本体)が浮力として働くので、当該軟弱地盤(液状化地盤)により、戸建住宅を居住者の生活に支障を来たさない程度の鉛直沈下は許容する一方、不同沈下を防止し、あたかも静水中に浮かぶ船のような状態で支持することができる。
よって、不同沈下が防止された戸建住宅の床はフラットな状態を保持できるので、居住者は、液状化地盤上の戸建住宅に、地震発生後も生活に支障を来たすことなく居住できる。
また、居住者は、地震発生後の補修工事も戸建住宅に居ながら行うことができ、当該補修工事も、床をフラットにするジャッキアップ等が無用な簡易な工事を行えば足りるので、合理的、且つ経済的である。
すなわち、簡易かつ経済的に実施できる実効性の高い不同沈下対策工法(液状化対策工法)を実現することができる。
特に、本発明によれば、偏在荷重を有する戸建住宅であっても、浮函体として用いる柱状の浮力材を集中的に配置したり、該柱状の浮力材の体積を増減して期待される浮力を調整したりすることにより、簡易且つ迅速に戸建住宅の重心位置とほぼ一致するように建て込むことができるなど、従来技術にないフレキシブルな対応が可能な不同沈下防止工法を実現することができる。」

イ 「【実施例1】
【0027】
図1A、Bは、本発明に係る戸建住宅の液状化による不同沈下防止構造の実施例を示している。
この不同沈下防止構造は、軟弱地盤10上の戸建住宅1の(基礎2周辺及び/又は)基礎2直下に、当該軟弱地盤10の液状化時に浮力を発生する複数本の柱状の浮力材3が、所定の間隔をあけて戸建住宅1の重心位置とほぼ一致するように建て込まれ、前記戸建住宅1の基礎2と各柱状の浮力材3とが接合されて、軟弱地盤10の液状化時に前記各柱状の浮力材3が戸建住宅1へ浮力を与えて液状化した軟弱地盤10上に戸建住宅1がほぼ水平姿勢にバランスする構成とされている。
【0028】
本発明は、接地圧が小さい(1.0〜1.25t/m2程度)戸建住宅1を適用対象物としている。ちなみに本実施例1では、一例として、接地圧が1.02t/m2程度(建築面積が10m×10m=100m2、建物重量が1000kN)の偏在荷重がほとんど生じない戸建住宅1を想定している。
また、本実施例にかかる基礎2は、べた基礎で実施し、図1A中の符号2aは、べた基礎本体を示し、符号2bは、べた基礎の立ち上がり部を示している。
前記軟弱地盤10の領域は、地上から6m程度の深さで、少なくとも構築する戸建住宅1の敷地面積全域(本実施例では、12m×12m)とする。
【0029】
前記柱状の浮力材3は、本実施例1では、1本あたり外径20cm、高さ5m、体積0.157m3、肉厚8mm、重量0.32kNの硬質塩化ビニル製の中空パイプが用いられる。
ちなみに、前記柱状の浮力材3の外径その他の形態はもちろんこれに限定されず、要求される浮力の大きさ、設置部位等(例えば、軟弱地盤10の深さを超えない長さ)に応じて適宜設計変更される。経済性を勘案すると、柱状の浮力材3の外径は、15〜30cm程度、長さは、2〜6m程度が好ましい。
ただし、柱状の浮力材3の単位体積当たりの重量(密度)は、地震により液状化した軟弱地盤10の単位体積当たりの重量(密度)よりも小さくなるように設定する。ちなみに、本実施例1に係る柱状の浮力材3の密度(重量/体積)は、軟弱地盤10の密度が1.6t/m3程度(地盤性状に応じて若干変動する場合がある。)であるのに対し、0.208t/m3程度(約1/8程度)で実施している。
また、柱状の浮力材3の材質は、硬質塩化ビニル製のほか、発泡スチロール製、金属製でも同様に実施できる。
本実施例にかかる柱状の浮力材3は、密度を小さくするために中空パイプで実施しているが、発泡スチロールを中詰めたパイプで実施してもよい。
【0030】
ところで、本発明は、通常時(地震未発生時)の軟弱地盤10に負荷される重量、すなわち建物重量(建物荷重)の1/4〜1/1(同等)程度の重量を、浮函体等(本発明では柱状の浮力材3)でほぼ均等に負担することができれば、地震時にせん断強度が失われた軟弱地盤10(液状化地盤)上の建物(戸建住宅1)は、ほとんど鉛直沈下および不同沈下を起こすことなくバランスするという技術的思想に立脚している。」

ウ 「【実施例2】
【0036】
図3A、Bは、本発明に係る戸建住宅の液状化による不同沈下防止構造の異なる実施例を示している。この実施例2に係る前記不同沈下防止構造は、上記実施例1と比し、戸建住宅1の基礎2周辺にのみ前記柱状の浮力材3を設置したことが主に相違する。
なお、前記戸建住宅1、基礎2、柱状の浮力材3等の形態(大きさ、重量含む。)は、上記実施例1と同一なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0037】
すなわち、この不同沈下防止構造は、軟弱地盤10上の戸建住宅1(建物重量:1000kN)の基礎2の周辺に、当該軟弱地盤10の液状化時に浮力を発生する複数本(144本)の柱状の浮力材3が、所定の間隔をあけて戸建住宅1の重心位置とほぼ一致するように建て込まれ、前記戸建住宅1の基礎2と各柱状の浮力材3とが接合されて、軟弱地盤10の液状化時に前記各柱状の浮力材3が戸建住宅1へ浮力を与えて、液状化した軟弱地盤10上に戸建住宅1がほぼ水平姿勢にバランスする構成とされている。」

エ 図1及び図3は以下のとおり。
「【図1】



「【図3】



(11)甲6の6
甲6の6には、以下の事項が記載されている。
ア 「【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、表土に埋め込まれ、岩盤と接触している柱のセットを備え、柱は、表土との材料差異を伴う材料から形成される、地震波シールドを提供する。このようなシールドは、より大きな範囲の周波数を網羅し、先行技術の空の掘削孔の配列における阻止帯域の下限周波数よりも低減された下限周波数を有する阻止帯域を生成することにより、地震波を反射する。シールドは、幅広いゼロ周波数バンドギャップを有する。阻止帯域内の周波数を有する地震波はシールドを通過することができない。先行技術よりも大きい本発明の阻止帯域の帯域幅は、柱と岩盤との間の接触と、表土(しばしば柔らかい土)と柱における材料との間での材料パラメータ(例えば、密度、ヤング率、体積弾性率、および/またはせん断弾性率)の不一致とに起因する。さらに、阻止帯域の下限は、柱と岩盤との間の接触に起因して、0Hzに近づいて、ゼロ周波数バンドギャップを作り出す。この接触は、柱を岩盤に効果的にピン留めまたは締め付けする。
【0009】
阻止帯域の帯域幅の増加、ゼロに近い周波数バンドギャップ、および上限周波数の上昇により、本発明は低周波数の地震波の大きな帯域を反射させることができる。したがって、阻止帯域は、最も遠くまで進行し、建物に最も大きな損害をもたらす周波数を網羅する。阻止帯域は、建物のほとんどの共鳴周波数も網羅する。効果は波動物理学によってもたらされるため、柱の塑性、配置、および形は、所望の阻止帯域を生成するために、波動物理学に従って選択され得る。
【0010】
空の掘削孔の方法を用いて約1〜10Hzの周波数を網羅する阻止帯域を作り出すためには、穴は数メートルから数十メートルの直径を必要とする。地上に大きな穴を有することは、特に他の建物が近くにある領域では、明らかに実用的ではない。したがって、本発明は、先行技術の方法では達成できない実用的な手法で有用な阻止帯域を達成する。
【0011】
柱と表土との間の材料差異は、柱の材料の特性が表土の特性と異なるときに起こる。例えば、柱は、表土と異なる密度、ヤング率、せん断弾性率、または体積弾性率を有する可能性がある。2つ以上の特性が柱の材料と表土との間で異なる可能性がある。例えば、柱を形成する材料が、表土の材料と異なる密度および異なるヤング率を有する可能性がある。柱の材料は、剛体、液体、発泡体、またはゲルであり得る。
【0012】
材料差異は、表土より大きい密度を有する柱によって達成されてもよく、材料差異は、表土より大きいヤング率を有する柱によって達成されてもよく、材料差異は、表土より大きい体積弾性率を有する柱によって達成されてもよく、または、材料差異は、表土より大きいせん断弾性率を有する柱によって達成されてもよい。材料差異は、これらの条件のうちの2つ以上の組み合わせによって達成されてもよい。
【0013】
材料差異は、表土の密度の少なくとも1.1倍の密度を有する柱によって達成されてもよく、材料差異は、表土のヤング率の少なくとも10倍のヤング率を有する柱によって達成されてもよく、材料差異は、表土の体積弾性率の少なくとも10倍の体積弾性率を有する柱によって達成されてもよく、または、材料差異は、表土のせん断弾性率の少なくとも10倍のせん断弾性率を有する柱によって達成されてもよい。材料差異は、これらの条件のうちの2つ以上の組み合わせによって達成されてもよい。土のヤング率は153MPaであってもよく、岩盤のヤング率は30GPaであってもよい。
【0014】
柱は、表土より大きい密度を有し得る。柱は、表土の少なくとも1.1倍の密度であり得る。」

イ 「【0064】
本発明の実施形態が図1に示されており、地震波シールドが、保護される建物の周りに位置決めされている。2列の円筒形の柱1があり、柱は正方形の格子の点に配置されている。柱は建物2から離間されており、そのため建物は柱の上に位置していない。湾曲した矢印は、建物に近づいてくる地震波を示しており、地震波はシールドによって止められる。地震波は、表面レーリー波R、バルク圧力波P、およびせん断波Sから作られている。この実施形態では、表土は土3である。柱は、柱の下部が岩盤に埋め込まれるため、岩盤に留め付けられている。
【0065】
図2は、図1の実施形態と同様であるが、シールドを作る4列の柱1を有する、本発明の別の実施形態を示している。この図は、土3を通じて建物2に向かって進行するバルク圧力波P、せん断波S、およびレーリー(表面)波Rがシールドによってすべて止められることを示している。柱の下部は、岩盤4に埋め込まれているとして見られる。柱は、領域6をレーリー表面波R、バルク圧力波P、およびせん断波Sから保護する。」

ウ 図1、図2は以下のとおり。
「【図1】



「【図2】



2 無効理由1(実施可能要件)について
明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすためには、当業者において、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があること、または、その方法の使用をすることができる程度に記載があることを要する。
以下、この観点に立って、本件特許発明が、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、実施可能であるか否かについて検討する。

(1)特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層であって、
該発泡樹脂層の層厚を、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成したことを特徴とする建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項2】
前記発泡樹脂層の形成において、
該発泡樹脂層の下層面側を略水平面に形成したことを特徴とする請求項1記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項3】
前記発泡樹脂層の形成において、
建物外構の一部側又は建物周囲を連続して囲むように敷設して成ることを特徴とする請求項1、又は2記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項4】
前記発泡樹脂層が、
1種類又は複数種類の発泡樹脂ブロックを互いに密に当接させて形成したことを特徴とする請求項1、2、又は3記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造。
【請求項5】
建物の近接位置から建物離隔方向の所定領域の地表面を整地、又は根切りを行う第1工程、
前記整地した面上、又は根切りした面上に調整層を形成する第2工程、
該調整層の面上に建物の近接位置から建物離隔方向に向かって下り階段状となるように発泡樹脂層を形成する第3工程、
該発泡樹脂層の上面に保護層を形成する第4工程、
該保護層の上面を含む建物周囲の所定領域に盛土して仕上げを行う第5工程、
から成ることを特徴とする建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。
【請求項6】
前記発泡樹脂層の形成において、
発泡樹脂ブロックを密着状に並べかつ積層して形成したことを特徴とする請求項5記載の建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る発明(以下、「本発明」と称する。)は、建物の外構部分の地盤沈下を抑制する構造及びその施工法に関する。」

ウ 「【0011】
そこで、本願発明は、かかる課題に着目して成されたものであり、建物周囲を軽量かつ強度のある発泡樹脂材を用いることにより建物外構部分の地盤沈下抑制構造及びその工法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる建物外構部分の地盤沈下抑制構造は、次のように構成している。
【0013】
建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層であって、該発泡樹脂層の層厚が、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように敷設したことを特徴としている。
【0014】
なお、上記の層厚について、上層面側を下り階段状に段階的に薄くする発泡樹脂層の形成においては、下層面側を上り階段状に、又は略水平面状に形成してもよい。
【0015】
特に、前記発泡樹脂層の下層面側を略水平面状とし、かつ上層面側を建物から離隔方向に向かって下り階段状に形成することが施工上好ましいものである。」

エ 「【発明の効果】
【0022】
上記構成により本発明は、以下に列挙した効果を奏する。
すなわち、軽量部材である発泡樹脂層を建物の近接位置から連続的に、又は段階的にその厚さを変化させて盛土と置き換えているため、盛土圧による圧縮沈下及び圧密沈下を低減させることができる。また建物近接付近の沈下量を抑えることにより、順次周辺に伝達する傾向にある沈下現象の拡散を防止することができ、かつ沈下量の均一化も図ることができる。
【0023】
別言すると、このような圧縮沈下や圧密沈下の現象は、その特徴として盛土で形成した地盤の土粒子間の隙間が、自重や振動や雨水の浸透により縮小して土粒子が移動することによって発生する。そして、土粒子の下方移動によって隣接する土粒子はその移動した土粒子方向に引込み力が生じて、斜め下方へ移動することとなる。かかる移動力(引き込み力)が順次隣接する土粒子に作用して沈下現象が周辺部に広がる傾向にあり、これを効果的に防止することができる。
【0024】
さらに、この階段的な盛土との置換は、盛土の軽減と共に下地を保護する役目もある。例えば、降雨時に雨水が下地に浸透した場合、水は重力の関係から低い方に流れる。発泡樹脂層の階段的な形状は、水を外側に誘導することが可能となる。そのため、降雨による土粒子の動きに起因する圧縮沈下量を少なくする効果がある。また、逆階段形状は下方地盤で建物側の盛土量が極端に多いときに適用ができ、盛土量を調整することが可能となる。」

オ 「【0026】
以下に、本発明の実施例に係る建物外構部分の地盤沈下抑制構造(以下、「本構造」と称する。)、及びその施工法を図面に基づき詳細に説明する。
【0027】
まず、本構造1は、主に建物Bの周囲(又は外構部分)に施工した所定深さの盛土層6の下層に、建物Bの地下部分Uの当接位置、又は近接位置から建物離隔方向に向かって発泡樹脂材を連続して囲むように敷設して発泡樹脂層4を形成した構造を成している。なお、建物Bは、既存の建物の他に建築予定の計画建物も含む概念である。
【0028】
発泡樹脂層4は、図1に示すように、根切り部2の上面に1種又は複数種のサイズから成る直方体状の発泡樹脂ブロック41を上下左右に相互に密接させて敷設することにより形成している。本構造1で使用する発泡樹脂ブロック41は、難燃剤が添加されているポリスチレン樹脂を原料とした土木用発泡スチロール成形体を採用し、運搬と現場作業の容易性から、縦1000mm、横2000mm、厚さ500mmの長方形体を採用している。また敷設範囲の状況に合わせて適宜に切断した調整材を用いて密着性と安定性を確保している。
【0029】
なお、上記土木用の発泡樹脂ブロック41の材質としては、地盤の圧力に抵抗可能な程度に高い圧縮強度を示すものが好ましく、上記ポリスチレン系樹脂発泡体の他に、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体、等を用いてもよい。さらに、軽量性及び強度性などの確保の点からこれらの組合せとしてもよい。
【0030】
また、上記発泡樹脂層4は、図示するように、下層面側を略平坦面とする一方で、上層面側を複数個の発泡樹脂ブロック41を建物Bの地下部分Uの当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって層厚が段階的に薄くなるよう(いわば、下り階段状)に密に積み上げて形成している。
【0031】
発泡樹脂層4の下層側に形成する根切り部2は、元の地盤Gまで掘削して建物Bの地下部分Uの当接位置、又は近接位置まで形成している。この根切り部2の面積や深さは、建物周囲の地盤の状況を考慮して適宜に設計される。
【0032】
上記発泡樹脂層4と根切り部2の間には、調整層3を形成している。この調整層3は、根切り部2の掘削面を締め固めて平坦に整地した後に形成するものであって、発泡樹脂ブロック41の敷設面(又は載置面)を覆うようにポリプロピレン系織布の土木シート31で覆い、その上面に砕石32を敷き詰めて転圧し、さらにその上に調整砂33を所定の厚さに敷いて締め固を行っている。この調整層3は、その上面側に敷設する発泡樹脂ブロック41の支持基盤となって敷設後の安定性を確保すると共に、地盤内に残留している水分や有害物質の侵出を防止して発泡樹脂ブロック41の保護を図っている。
【0033】
さらに、発泡樹脂層4の上面側には、コンクリートを打設して発泡樹脂層4の上層面の全面を覆う保護層5を形成している。この保護層5の形成は、コンクリートのスランプ値(流動性を示す値)を調整して、階段状に配設した発泡樹脂ブロック41の上段部から下段部へ順次流すようにして形成している。このスランプ値は、現場の施工状況によって適宜設定される。本構造1の施工においては、スランプ値を12〜15cm程度に設定することが好ましい。
【0034】
そして、上記保護層5の上面を含む建物の外構の全面を、覆うように盛土を敷設して盛土層6を形成している。この盛土層6の上表面には、雨水を考慮して建物Bから離隔方向へ水勾配が付けられているのが一般的である。
【0035】
上記構成の本構造1は、建物Bの周囲を連続して囲うように発泡樹脂層4を形成しているが、その施工範囲はこれに限らず、図3に示すように建物Bの一部面側であってもよい。」

カ 「【0036】
本構造1は、以下の作用効果を奏する。
建物Bから離隔する方向に発泡樹脂層4を埋設しているため、発泡樹脂層4の厚さ分だけ盛土量が少なくなる。そのため、建物Bの地下部分Uの側壁側に作用する土圧、特に地下部の下方部に建物地下部分の側壁に集中する土圧を低下させる。また、この盛土圧による圧縮及び圧密により地盤Gの沈下量を軽減させて建物Bと地面との境界部に表れる段差を少なくすることかできる効果を奏すると共に、発泡樹脂層4の層厚を段階的に薄くしているためその軽減量を均等にすることができる。そのため、建物周囲の段差の解消はもとより、建物Bから離れた部分に関しても、盛土と元の地盤の境目付近でも同様な小さな沈下量となるため、段差を軽減することが可能となる。
【0037】
ひいては、建築Bに付随する、設備機器の配管部の損傷や設備配管及び電気配管、配線に対して影響が大幅に小さくなる。建物Bに対して外構部分が下がると設備配管部分に力が加わり破損するおそれが軽減されるため、建物維持の管理費用縮減が可能となる経済的効果も有する。」

(2)実施可能要件の検討
上記(1)の記載によれば、本件発明1の建物外構部分の地盤沈下抑制構造について、概略、
「建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層であって、該発泡樹脂層の層厚が、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように敷設したこと」(段落【0013】であって、
詳細には、
発泡樹脂層4の下層側であって、元の地盤Gまで掘削して建物Bの地下部分Uの当接位置、又は近接位置まで根切り部2を形成し(【0031】)、
上記発泡樹脂層4と根切り部2の間には、根切り部2の掘削面を締め固めて平坦に整地した後に調整層3を形成し(【0032】)、
根切り部2の上面に1種又は複数種のサイズから成る直方体状の発泡樹脂ブロック41を上下左右に相互に密接させて敷設することにより発泡樹脂層4を形成し(【0028】)、
上記発泡樹脂層4は、下層面側を略平坦面とする一方で、上層面側を複数個の発泡樹脂ブロック41を建物Bの地下部分Uの当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって層厚が段階的に薄くなるよう(いわば、下り階段状)に密に積み上げて形成し(【0030】)、
発泡樹脂層4の上面側には、コンクリートを打設して発泡樹脂層4の上層面の全面を覆う保護層5を形成し(【0033】)、
上記保護層5の上面を含む建物の外構の全面を、覆うように盛土を敷設して盛土層6を形成すること(【0034】)、が理解できるから、
当業者は、明細書の発明の詳細な説明に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の建物外構部分の地盤沈下抑制構造を実施することができるものと認められる。
そして、請求項2ないし6に係る発明に関する発明の詳細な説明の記載についても同様であるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。

(3)請求人の主張について
以下、請求人の主張について検討する。
ア 第3の3(1)ア及びウの主張について
請求人は、各盛土の座標位置(x,y)において、盛土の自重を原因として、盛土自らを水平方向に移動させようとする単位長さ当たりの程度をK(x,y)とした上で、別紙図面1の盛土全体における引込み力による水平方向への移動の程度について、

(以下「式1」という。)
という一般式を設定した上で、

(以下「式2」という。)
として検討している。
しかしながら、口頭陳述要領書や上申書の主張を参酌しても上記式2において「盛土の自重を原因として、盛土自らを水平方向に移動させようとする単位長さ当たりの程度」が表す物理的意味が不明であり、通常の物理法則や物理現象に照らしても理解することができない。そのため、式2を積分した式1についてもどのような物理量を算出するものか不明といわざるを得ない。
そして、上記式1は、盛土の挙動に関して計算を行うための式と考えられるところ、x方向に0からW、y方向にL1からL2で囲まれる全領域においてK(x,y)を積分することを表している。そのため、当該積分は、K(x,y)について盛土のない領域についても積分の対象となっており、計算過程においてもそのようにしているように理解できる(なお、xに関する積分計算に誤りがあるようである。)。
そうすると、請求人が仮定した「引込み力により盛土の沈下」に関する考察については、前提とした独自の理論において、数学的視点及び物理的視点から誤りがあるといわざるを得ず、それを基礎として縷々主張した内容には理由がないものといわざるを得ない。

イ 第3の3(1)イ、エ及びオの主張について
本件明細書の段落【0022】及び【0023】については、所定の位置の盛土が盛土圧により沈下する場合、盛土を構成する土粒子に存在する隙間の影響により水平方向にも力が伝播することで沈下領域が広がる現象について示すものであり、本件発明では、所定の領域が「盛土」でない「発泡樹脂材」に置換されたことにより、力の伝搬に関与する「隙間」の領域が減少して、力の伝播の影響が低減されるものと理解することが相当である。
また、その「発泡樹脂材」について、同段落【0029】に「なお、上記土木用の発泡樹脂ブロック41の材質としては、地盤の圧力に抵抗可能な程度に高い圧縮強度を示すものが好ましく、上記ポリスチレン系樹脂発泡体の他に、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体、等を用いてもよい。さらに、軽量性及び強度性などの確保の点からこれらの組合せとしてもよい。」と記載され、「地盤の圧力に抵抗可能な程度に高い圧縮強度を示すもの」として実施可能であるから、同段落【0022】及び【0023】の記載により、本件発明を実施するにあたり特段の困難性をもたらすものではなく、請求人の主張は採用できない。

(4)無効理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件明細書の特許請求の範囲の記載は、本件発明を実施することができる程度に記載されており、無効理由1には理由がない。

3 無効理由2(進歩性)について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1軽量盛土工法発明を対比する。
(ア)甲1軽量盛土工法発明の「新設公園のマウンド」、「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」と「覆土」、「発泡スチロールブロック」、「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」は、それぞれ本件発明1の「建物外構部分」、「盛土層」、「発泡樹脂材」、「盛土層の下層」又は「発泡樹脂層」に相当する。
甲1軽量盛土工法発明の「新設公園のマウンド造成において、盛土に発泡スチロールブロックを盛土材料として用いた軽量盛土工法」により「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」は、本件発明1の「建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層」に相当する。

(イ)本件発明1の「該発泡樹脂層の層厚を、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成したこと」と、甲1軽量盛土工法発明の「発泡スチロールブロックの積み重ねにおいて、発泡スチロールブロックを、橋台又は擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ね、下面は水平であ」ることとは、「該発泡樹脂層の層厚を、建物から離隔方向に向かって適宜の厚さに形成したこと」で共通する。

(ウ)甲1軽量盛土工法発明は、「軟弱地盤において、」「盛土荷重を低減する」ものであって、甲1の表1−1に、「用途」を「軟弱地盤上の盛土」にしたものにおいて、「工法のメリット」として「沈下の軽減」が挙げられていることからみて、甲1軽量盛土工法発明の「軽量盛土工法」により形成された「盛土」の構造は、本件発明1の「地盤沈下抑制構造」に相当する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、本件発明1と甲1軽量盛土工法発明とは、「建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層であって、
発泡樹脂層の層厚を、建物から離隔方向に向かって適宜の厚さに形成した、建物外構部分の地盤沈下抑制構造。」で一致しているものの、以下の点で相違している。
〔相違点1〕
発泡樹脂層の層厚について、本件発明1は、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成したのに対し、甲1軽量盛土工法発明は、発泡スチロールブロックを、橋台又は擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ねたものであって、水族館建屋から8000mm離れており、地下部分でもない点。

イ 判断
(ア)相違点1
上記相違点1について検討する。
甲1には、甲1軽量盛土工法発明に加えて、前記1(1)サに示した甲1擁壁工法発明が記載されており、甲1擁壁工法発明は、「抗土圧構造物である擁壁の背面に発泡スチロールを裏込め材として用い」、「発泡スチロールは、擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ね」る構成を備えているところ、該構成は、建物ではないものの、上記相違点1に係る本件発明1の構成とは、発泡樹脂層の層厚を、構造物の地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成することで共通している。
しかしながら、甲1軽量盛土工法発明は、「水族館建屋の端部から8000mm離れたところから上りのスロープが始ま」る「マウンド」の盛土材料に関するものであって、「軟弱地盤の安定と沈下および変形を防止し、」「荷重増加がないという対策工の効果を有する」ものであるのに対し、甲1擁壁工法発明は、抗土圧構造物である擁壁の背面に対して発泡スチロールを適用する発明であるから、水族館建屋の地下部分の当接位置又は近接位置に対して改良を行うことを前提としてない甲1軽量盛土工法発明の水族館建屋の地下部分の近接又は当接位置に、甲1擁壁工法発明の上記構成を適用する動機付けは存在しない。
よって、甲1軽量盛土工法発明に甲1擁壁工法発明の上記構成を適用することにより、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成することは、請求人が提示する他の証拠においても、記載も示唆もされていない。

(イ)請求人の主張について
以下、請求人の主張について検討する。
a 第3の3(2)ウ(ア)aの主張について
(a)請求人は、概略、甲1において、EPSブロックを盛土材料として使用する工法は、「盛土荷重低減及び作用土圧の軽減」を主たる作用効果としており、甲1の設計図の工事領域のうち、水族館から8m以内の領域においても、厚さ0.3mの盛土層が記載され、当該盛土層の下層もまた軟弱地盤であるから、8m以内の領域の盛土層の下層であって、水族館に当接又は近接する領域においてEPSブロックを敷設する動機付けは存在する旨、主張する。

(b)しかしながら、甲1においては、上記水族館から8m以内の領域の厚さ0.3mの層は単なる覆土に過ぎないし、また、該覆土が行われたことにより、何らかの課題を予測し、かつ改良を行っていないことから、該覆土がその下層の軟弱地盤に影響を与えるような盛土として認識されておらず、よって、上記水族館から8m以内の領域の地下にEPSブロックを敷設することを思いつくものではない。

(c)また、請求人は、甲5、甲6の1〜甲6の6を挙げて、構造物に掛かる背面土圧を抑制する課題や、発泡樹脂層を建物の地下部分に当接または近接することが周知であることを理由に、甲1の2の2の図4−12に示す階段状のEPSの敷設は、当業者が容易に選択することができる旨、及び後述の無効理由(2)のとおりである旨、主張する、

(d)しかしながら、甲1軽量盛土発明において、軟弱地盤の区域の新設公園のマウンド造成する際に、該マウンドと水族館建屋との関係における発泡スチロールによる改良が既に行われており、軟弱地盤の安定と沈下および変形を防止し、荷重増加がないという対策工の効果を有していることからみて、請求人が主張する上記課題が一般的なものであったとしても、甲1軽量盛土発明において、水族館建屋の地下において、上記課題を認識した上で、上記階段状のEPSブロックの敷設を行うことは、当業者が思いつくとは認められない。
しかも、甲1軽量盛土発明が、「建物の基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与え」ないものであることから、建物の基礎杭に対して、擁壁の背面に用いられる甲1の2の2の図4−12に示す階段状のEPSを敷設することは思いつくことではない。
なお、甲5、甲6の1〜3は擁壁や地下の壁体に対する発泡スチロールの配置であって、甲6の4〜6は、発泡スチロールにより形成された柱や壁体を地下に配置することが記載されているものの、建物基礎杭に対して発泡スチロールブロックを敷設するものではない。

b 第3の3(2)ウ(ア)bの主張について
(a)請求人は、概略、水族館から「EPS施工範囲」に至る領域の全てが軟弱地盤であり、地震時に水族館の地下における基礎部分に掛かる背面土圧の抑制するために、既存のEPSの敷設に代えて、甲1の2の2の階段状によるEPSの敷設に置換する動機付けは存在し、また甲5、甲6の1〜6の6の記載に即して、「EPS施工範囲」の全領域を甲1の2の2の階段状の敷設に置換する旨、及び後述する無効理由(3)のとおりである旨、主張する。

(b)甲2の2の2の階段状のEPSの敷設を適用することは、甲5や甲6の1〜6の6の記載、及び技術常識を参酌しても、上記a(d)で説示したとおり、当業者が思いつくものではない。
しかも、「EPS施工範囲」の全領域を甲2の2の2の階段状のEPSの敷設に置換すると、マウンドの形状に即して敷設した発泡スチロールの層厚全く別の層厚に替えることとなるから、当該置換は阻害要因が存在するものと言わざるを得ない。
よって、この主張についても、採用することはできない。

c 第3の3(2)ウ(イ)の主張について
(a)請求人は、概略、既存の「EPS施工範囲」のうち、水族館側から上り階段状、平坦状、下り階段状としているEPSの層厚について、水族館に最も近い領域にある上り階段状の領域を単に平坦領域に置換したのであれば、当該平坦領域と水族館から8m以内の領域との間に段差が形成されるが、平坦領域を地面の下側に埋設して延長を行った場合には、「EPS施工範囲」は全て地面の下側に配置されることによって、平坦な盛土層が形成され、地面の下側にて隔離方向に向かって下り階段状を構成した場合には、甲1の2の2の図4−12に示す場合と同様の下り階段状が形成される旨、主張する。

(b)しかしながら、甲1軽量盛土工法発明において、「EPS施工範囲」の平坦領域を地面に埋設して延長する動機付けは存在しないし、かつ、平坦領域を地面の下側に埋設したことにより、新設公園のマウンドの発泡スチロールの平坦領域が、該埋設により大きく下方に配置されることとなってしまい、甲1軽量盛り土工法発明の元々の造成の目的に反する構造になるから、阻害要因が存在すると言わざるを得ない。

d 第3の3(2)ウ(ウ)の主張について
(a)請求人は、概略、甲1の「EPS施工範囲」に、甲2の当接状態及び甲3の近接状態による敷設を適用する場合、EPSは必然的に地面の下側に敷設され、地震等を原因とする水族館に対する背面土圧等を原因とする地下振動を低減でき、地面から下層となるにしたがって増加する背面土圧に対応するには、甲1の2の2の図4−12に示す階段状が適切であるから、甲1に甲2、甲3の構成を適用した上で、更に甲1の2の2の階段状の構成に置換する旨、主張する。

(b)しかしながら、上記a(b)及び(d)で説示したとおり、甲1軽量盛土工法発明において、水族館建屋に接する位置にEPSブロックを敷設する動機付けは存在しないし、甲1の2の2の図4−12の階段状や甲2、甲3の構成を適用する動機付けも存在しないから、請求人の主張は採用できない。

d 第3の3(2)ウ(エ)aの主張について
(a)「(a)無効理由(1)」の主張は、概略、甲1の「EPS施工範囲」におけるEPSの敷設は、水族館の「基礎杭に軟弱地盤の側方流動の影響を与え」ないという効果を伴っているが、該効果は「盛土荷重の軽減及び作用土圧の軽減」に由来しており、また、甲1、甲2、甲3、甲5及び甲6の1〜甲6の6の記載からみて、本件発明1のように、建物の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって、上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるような構成を当業者が容易に想到することができる旨、主張する。

(b)しかしながら、上記a(b)及び(d)、c(b)で説示したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(c)また、「(a)無効理由(2)」及び「(b)無効理由(3)」の主張については、上記a(a)及び(c)の主張と同様のものであり、上記a(b)及び(d)で説示したとおり、採用することはできない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1軽量盛土工法発明や甲1擁壁工法発明、及び請求人の提出する他の証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし4
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲1軽量盛土工法発明や甲1擁壁工法発明、及び請求人の提出する他の証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明5
ア 対比
本件発明5と甲1軽量盛土工法発明を対比する。
(ア)甲1軽量盛土工法発明の「新設公園のマウンド」、「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」と「覆土」、「発泡スチロールブロック」、「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」は、それぞれ本件発明1の「建物外構部分」、「盛土層」、「発泡樹脂材」、「盛土層の下層」又は「発泡樹脂層」に相当する。
甲1軽量盛土工法発明の「新設公園のマウンド造成において、盛土に発泡スチロールブロックを盛土材料として用いた軽量盛土工法」により「積み重ねられ」た「発泡スチロールブロック」は、本件発明1の「建物外構部分の盛土層の下層に発泡樹脂材を敷設して成る発泡樹脂層」に相当する。

(イ)本件発明1の「該発泡樹脂層の層厚を、建物地下部分の当接位置又は近接位置から離隔方向に向かって上層面側を下り階段状にして段階的に薄くなるように形成したこと」と、甲1盛土発明の「発泡スチロールブロックの積み重ねにおいて、発泡スチロールブロックを、橋台又は擁壁から離れる方向に下り階段状にして段階的に薄くなるように積み重ね、下面は水平であ」ることとは、「該発泡樹脂層の層厚を、建物から離隔方向に向かって適宜の厚さに形成したこと」で共通する。

(ウ)甲1軽量盛土工法発明は、「軟弱地盤において、」「盛土荷重を低減する」ものであって、甲1の表1−1に、「用途」を「軟弱地盤上の盛土」にしたものにおいて、「工法のメリット」として「沈下の軽減」が挙げられていることからみて、甲1軽量盛土工法発明の軽量盛土工法により形成され盛土の構造は、本件発明1の 「地盤沈下抑制構造」に相当する。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、本件発明5と甲1軽量盛土工法発明とは、
「発泡樹脂層を形成する行程、
該発泡樹脂層の上面に保護層を形成する工程、
建物周囲の所定領域に盛土して仕上げを行う工程、
から成る建物外構部分の地盤沈下抑制構造の施工法。」
で一致するものの、以下の点で相違している。
〔相違点2〕
本件発明5は、
「建物の近接位置から建物離隔方向の所定領域の地表面を整地、又は根切りを行う第1工程、
前記整地した面上、又は根切りした面上に調整層を形成する第2工程、
該調整層の面上に建物の近接位置から建物離隔方向に向かって下り階段状となるように発泡樹脂層を形成する第3工程、
該発泡樹脂層の上面に保護層を形成する第4工程」から成り、
さらに、第5工程の仕上げの盛土の範囲が、保護層の上面を含むのに対し、
甲1軽量盛土工法発明は、上記の特定がない点。

イ 判断
上記相違点2について検討する。
甲1には、上記1(1)シに示した甲1技術事項が記載されており、甲1技術事項の「地盤を掘削し、掘削面に粗粒土,ソイルセメント,砕石層を転圧して基盤層を施工」することは、本件発明5の「第1工程の「所定領域の地表面を整地、又は根切りを行うこと」」及び「第2工程の「前記整地した面上、又は根切りした面上に調整層を形成する」」ことに相当し、甲1技術事項の「発泡スチロールブロック上を被覆シートで被覆し、さらに被覆シートの上面を覆土で被覆した」ことは、本件発明5の「第4工程の「該発泡樹脂層の上面に保護層を形成する」」こと、及び「第5工程の仕上げの盛土の範囲が、保護層の上面を含む」こと」に相当する。
しかしながら、甲1技術事項にも、第3工程における発泡樹脂層の形成について、建物の近接位置から建物離隔方向に向かって下り階段状となるように形成する構成を備えていない。
そして、発泡樹脂層を建物の近接位置から建物離隔方向に向かって下り階段状となるように形成することは、上記(1)で説示したとおり、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のことから、本件発明5は、甲1軽量盛土工法発明、甲1擁壁工法発明、甲1技術事項、及び請求人の提出する他の証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明6
本件発明6は、本件発明5の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(3)で検討した理由と同じ理由により、甲1軽量盛土工法発明、甲1擁壁工法発明、甲1技術事項、及び請求人の提出する他の証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由1及び2はいずれも理由がないものであるから、本件発明1ないし6に係る特許は、上記無効理由1及び2によって無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-02-06 
結審通知日 2023-02-09 
審決日 2023-03-02 
出願番号 P2020-127032
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E02D)
P 1 113・ 536- Y (E02D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 住田 秀弘
居島 一仁
登録日 2020-12-02 
登録番号 6803102
発明の名称 建物外構部分の地盤沈下抑制構造及びその施工法  
代理人 赤尾 直人  
代理人 細井 勇  
代理人 水野 博文  
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