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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1397003
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-06-22 
確定日 2023-04-13 
事件の表示 特願2020− 78370「異方導電性フィルム及び接続構造体」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月27日出願公開、特開2020−129550〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月28日(優先権主張 平成25年11月19日、平成26年9月22日)に出願した特願2014−219793号の一部を平成29年3月28日に新たな特許出願とした特願2017−63281号の一部を平成30年7月17日に新たな特許出願とした特願2018−134336号の一部を令和2年4月27日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 9月14日 手続補正書の提出
令和 3年 6月21日付け 拒絶理由通知書
令和 3年10月28日 意見書、手続補正書の提出
令和 4年 3月15日付け 拒絶査定
令和 4年 6月22日 審判請求書、手続補正書の提出


第2 令和4年6月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月22日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)
「絶縁接着剤層と、該絶縁接着剤層に格子状に配置された導電粒子を含む異方導電性フィルムであって、
導電粒子の形状が略球状であり、
任意の導電粒子と、該導電粒子に隣接する導電粒子との中心間距離につき、任意の導電粒子と最も短い距離を第1中心間距離とし、その次に短い距離を第2中心間距離とした場合に、
第1中心間距離及び第2中心間距離が、それぞれ導電粒子の粒子径の1.5〜5倍であり、
任意の導電粒子P0と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離にある導電粒子P1と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離又は第2中心間距離にある導電粒子P2で形成される鋭角三角形について、導電粒子P0、P1を通る直線の方向を第1配列方向とし、導電粒子P1、P2を通る直線の方向を第2配列方向とし、導電粒子P0、P2を通る直線の方向を第3配列方向とした場合に、第1配列方向、第2配列方向及び第3配列方向のうち、少なくとも2つの配列方向が異方導電性フィルムの長手方向に対して傾いており、任意の導電粒子の配置位置から第1配列方向に連続して10個及び第2配列方向に連続して10個の領域を抜き出した場合に、その領域中の100個の配置位置中に75個以上の導電粒子を存在させる異方導電性フィルム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年10月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「絶縁接着剤層と、該絶縁接着剤層に格子状に配置された導電粒子を含む異方導電性フィルムであって、
任意の導電粒子と、該導電粒子に隣接する導電粒子との中心間距離につき、任意の導電粒子と最も短い距離を第1中心間距離とし、その次に短い距離を第2中心間距離とした場合に、
第1中心間距離及び第2中心間距離が、それぞれ導電粒子の粒子径の1.5〜5倍であり、
任意の導電粒子P0と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離にある導電粒子P1と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離又は第2中心間距離にある導電粒子P2で形成される鋭角三角形について、導電粒子P0、P1を通る直線の方向を第1配列方向とし、導電粒子P1、P2を通る直線の方向を第2配列方向とし、導電粒子P0、P2を通る直線の方向を第3配列方向とした場合に、第1配列方向、第2配列方向及び第3配列方向のうち、少なくとも2つの配列方向が異方導電性フィルムの長手方向に対して傾いており、任意の導電粒子の配置位置から第1配列方向に連続して10個及び第2配列方向に連続して10個の領域を抜き出した場合に、その領域中の100個の配置位置中に75個以上の導電粒子を存在させる異方導電性フィルム。」

2 補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「導電粒子」について、「導電粒子の形状が略球状であり」という限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明とは、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(3)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定(令和4年3月15日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前(優先日前)に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2007−80522号公報(平成19年3月29日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)

「【0007】
本発明の目的は、端子間の接続抵抗のばらつきを抑えることができる異方導電性フィルム、さらには、異方導電性フィルムを使用した電子・電機機器を提供することである。」

「【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2には、本実施形態の異方導電性フィルム1が示されている。
図1は、異方導電性フィルム1の平面図であり、図2は、異方導電性フィルム1の断面を模式的に示した図である。
まず、異方導電性フィルム1の概要について説明する。
異方導電性フィルム1は、絶縁性接着剤フィルム11と、
この絶縁性接着剤フィルム11に固定された導電性粒子12と、
を有する。
導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11を平面視した状態で、複数列に配列され、
各列は、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向に対し、傾斜するとともに、前記各列の傾斜角度は、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向と略直交する方向に対し、15°以下である。」

「【0023】
導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11の表面に沿って多数列配列されている。
絶縁性接着剤フィルム11に固着された導電性粒子12の一部は、一次粒子となっており、残りは、凝集した二次凝集粒子である。すなわち、導電性粒子12は、球状体であってもよく、球状体が凝集したものであってもよい。
導電性粒子12の各列は、互いに平行に配置されており、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向(X軸方向)に沿って並んでいる。
また、導電性粒子12の各列は、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向(図1のX軸方向)に対し、傾斜している。」

「【0025】
本実施形態では、導電性粒子12の配列の各列の配列ピッチDは、各列における隣接する導電性粒子12のピッチdよりも小さく、配列ピッチDと、ピッチdとは異なっている。
ここで、D/dは、1/5以上であることが好ましい。
なかでも、D/dは、1/3以上、2以下とすることが好ましい。
D/dを2を超えるものとした場合には、面方向に隣接する端子31間、端子41間の間隔や、各列における導電性粒子12のピッチdにもよるが、導電性粒子12の各列の配列ピッチDが広くなってしまい、端子31,41上に存在する導電性粒子12の数が少なくなってしまう可能性がある。この場合には、安定した接続抵抗を得ることが困難となる可能性がある。
一方で、D/dを1/5未満とした場合には、導電性粒子12の各列の配列ピッチDが小さくなるとともに、各列における導電性粒子12のピッチdが大きくなる。この場合には、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向に沿って、導電性粒子12が密に配置する可能性がある。そのため、面方向に隣接する端子31間、端子41間での短絡が起こりやすくなる。
また、面方向に隣接する端子31間、端子41間の短絡を防止するために、導電性粒子12の各列の配列ピッチDを広くとってしまうと、各列における導電性粒子12間のピッチdが非常に広くなってしまうため、端子31,41上に存在する導電性粒子12の数が少なくなってしまう可能性がある。
なお、D/dは、1/5以上であればよいが、D/dを1/3以上とすることでこのような課題を確実に解決することが可能となる。
例えば、本実施形態では、各列の配列ピッチDは、30μmであり、各列における導電性粒子12のピッチdは、39μmである。
なお、配列ピッチDは、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向に隣接する各列の導電性粒子12の略中心間を結んだ距離である。また、ピッチdは各列における導電性粒子12の略中心間を結んだ距離である。」

「【0027】
また、隣接する各列間において、導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向(X軸方向)に沿って隣接している。すなわち、X軸方向に沿って延び、X軸と略平行に、所定の間隔で配置される複数の第一の軸X1と、この第一の軸X1に対して傾斜して所定の角度(75°以上、90°未満)で交差し、所定の間隔で配置される複数の第二の軸Y1とで形成される格子を想定した場合に、この格子の各交点に導電性粒子12が配置されており、導電性粒子12は、千鳥格子状に配列されていない。
このように導電性粒子12を配列させることで、より確実に上下の端子31,41間の接続抵抗のばらつきを抑えることができる。
また、導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11の一方の表面側に固着しており、図2に示すように、複数の導電性粒子12のうち、一部の導電性粒子12が絶縁性接着剤フィルム11の表面から突出して配置されている。他の一部の導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11内部に埋没している。
絶縁性接着剤フィルム11の表面から露出している導電性粒子12は、球状の外周面の略全面が、露出するように絶縁性接着剤フィルム11に固着されていてもよく、また、導電性粒子12の球状の外周面の一部が、絶縁性接着剤フィルム11に埋没するように固着されていてもよい。
なお、ここでは、一部の導電性粒子12は、絶縁性接着剤フィルム11内部に埋没しているとしたが、全ての導電性粒子12が絶縁性接着剤フィルム11から露出するように配置されていてもよい。
【0028】
ここで、導電性粒子12の径は、5μm以下、なかでも3μm以下であることが好ましい。」

「【0044】
さらに、導電性粒子12の各列の配列ピッチを小さくし、各列の導電性粒子12のピッチを大きくした場合には、絶縁性接着剤フィルム11の長手方向に対して、導電性粒子12が密に配置することとなるので、端子31,41を接続した際に、面方向に隣接する端子31間、端子41間での短絡が起こりやすくなる。
また、面方向に隣接する端子31間、端子41間の短絡を防止するために、導電性粒子12の各列の配列ピッチDを広くとってしまうと、各列における導電性粒子12間のピッチdが非常に広くなってしまうため、端子31,41上に存在する導電性粒子12の数が少なくなってしまう可能性がある。
これに対し、本実施形態では、各列間の配列ピッチをD、前記各列における導電性粒子12のピッチをdとし、D/dを、1/5以上としているため、このような課題を解決することが可能となる。」

「【0046】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、導電性粒子12の各列の配列ピッチDは、各列における隣接する導電性粒子12のピッチdよりも小さいとしたが、これに限定されるものではない。
例えば、導電性粒子12の各列の配列ピッチDは、前記各列における導電性粒子12間のピッチdよりも大きくてもよい。
異方導電性フィルムを用いて、端子間を接続する際には、異方導電性フィルムの長手方向に沿って、面方向に隣接する端子31、面方向に隣接する端子41が配置されることとなる。
導電性粒子12の各列の配列ピッチDを、各列における導電性粒子12間ピッチdよりも大きくする構成を採用すれば、導電性粒子12の配列ピッチD(異方導電性フィルムの長手方向に沿った寸法)が広くなる。そのため、異方導電性フィルムにより、上下の端子31,34を接続する際に、面方向に隣接する端子31間、端子41間に、導電性粒子12が集まったとしても、導電性粒子12同士の接触を防止することができ、端子31間、端子41間の短絡の発生を防止できる。
また、各列における導電性粒子12のピッチdは、導電性粒子12の各列の配列ピッチDよりも小さく、各列における導電性粒子12間の間隔は小さくなる。そのため、異方導電性フィルムにより、上下の端子31,41を接続する際に、上下の端子31,41間に存在する導電性粒子12の数を確保することができる。これにより、通電容量を確実に確保することができる。
【0047】
さらに、前記実施形態では、導電性粒子12の各列において、導電性粒子12は、間隔をあけて配置されていたが、これにかぎらず、例えば、各列における導電性粒子同士を接触させて配置してもよい。
このように各列における導電性粒子同士を接触させて配置することで、より多数の導電性粒子を上下の端子間に配置することが可能となる。
【0048】
さらに、前記実施形態では、導電性粒子12の一次粒子の径を、5μm以下としたが、これに限られるものではない。
また、前記実施形態では、導電性粒子12の配列ピッチDは、接続すべき端子41,31の幅寸法Wよりも広いとしたが、これに限らず、導電性粒子12の配列ピッチDを端子の幅Wよりも狭くしてもよい。
接続すべき端子の幅Wより導電性粒子12の列の配列ピッチDを狭くすることで、端子41,31上に確実に導電性粒子12を存在させることができる。これにより、確実に通電容量を確保することが可能となる。」

【図1】

(「第1導電性粒子」等は当合議体が追加した。)

(イ)図1において、左から2列目且つ上から2番目において「12」の番号が付された導電性粒子を第1導電性粒子、当該第1導電性粒子の右側に隣接する導電性粒子を第2導電性粒子、当該第1導電性粒子の下側に隣接する導電性粒子を第3導電性粒子と呼称し、【0025】と【0027】の記載を参酌すると、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 第1導電性粒子と、該第1導電性粒子に隣接する導電性粒子との略中心間を結んだ距離につき、第1導電性粒子に最も近接している第2導電性粒子との距離は配列ピッチDである30μmであり、その次に短い距離で近接している第3導電性粒子との距離は導電性粒子のピッチdである39μmである。
b 第1導電性粒子、第2導電性粒子及び第3導電性粒子で形成される鋭角三角形について、第1導電性粒子、第2導電性粒子を通る直線の方向は第一の軸X1の方向であり、第2導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第三の軸の方向であり、第1導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第二の軸Y1の方向であり、第三の軸の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して傾いており、第二の軸Y1の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して75°以上90°未満である。

(ウ)引用発明
上記(ア)、(イ)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「絶縁性接着剤フィルム11と、該絶縁性接着剤フィルム11に、複数の第一の軸X1と複数の第二の軸Y1とで形成される格子の各交点に配置された導電性粒子12を有する異方導電性フィルム1であって、
導電性粒子12は球状体であり、
第1導電性粒子と、該第1導電性粒子に隣接する導電性粒子との略中心間を結んだ距離につき、第1導電性粒子に最も近接している第2導電性粒子との距離は配列ピッチDである30μmであり、その次に短い距離で近接している第3導電性粒子との距離は導電性粒子のピッチdである39μmであり、
配列ピッチDである30μm及び導電性粒子のピッチdである39μmが、それぞれ導電性粒子の粒子径(5μm)の6〜7.8倍であり、
第1導電性粒子と、第1導電性粒子と配列ピッチDである30μmにある第2導電性粒子と、第1導電性粒子と導電性粒子のピッチdである39μmにある第3導電性粒子で形成される鋭角三角形について、第1導電性粒子、第2導電性粒子を通る直線の方向は第一の軸X1の方向であり、第2導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第三の軸の方向であり、第1導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第二の軸Y1の方向であり、第三の軸の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して傾いており、第二の軸Y1の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して75°以上90°未満であり、
第一の軸X1と第二の軸Y1とで形成される格子の各交点に導電性粒子12が配置されている
異方導電性フィルム1。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前(優先日前)に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011−231136号公報(平成23年11月17日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。)

「【0001】
本発明は、微細パターンの電気的接続において、微小面積の電極の電気的接続性に優れると共に、微細な配線間の絶縁破壊(ショート)が起こりにくく、絶縁層を介して圧痕観察した際に明瞭な圧痕が観察可能な異方導電性接着フィルム及びその製造方法に関する。」

「【0008】
本発明が解決しようとする課題は、微細パターンの電気的接続において、微小面積の電極の電気的接続性に優れると共に、微細な配線間の絶縁破壊(ショート)が起こりにくく、絶縁層を介して圧痕観察した際に明瞭な圧痕が観察可能な異方導電性接着フィルム及びその製造方法を提供することである。」

「【0023】
導電粒子の中心間距離の平均は、導電粒子の平均粒径の1.5倍以上5倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.55倍以上4.6倍以下、更に好ましくは1.6倍以上4.3倍以下、更に好ましくは1.65倍以上4.0以下である。該中心間距離の平均を導電粒子の平均粒径の1.5倍以上にすることで、面方向の絶縁性、即ち、隣接する電極間の絶縁性を高レベルで維持できる。また、該中心間距離の平均を導電粒子の平均粒径の5倍以下にすることで、厚さ方向の導電性、即ち接続電極間の電気的接続性を維持できる導電粒子密度を良好に得ることができ、異方導電性接着フィルムとしての高い性能が発揮される。」

(4)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「絶縁性接着剤フィルム11」は本件補正発明の「絶縁接着剤層」に相当し、以下同様に
「複数の第一の軸X1と複数の第二の軸Y1とで形成される格子の各交点に配置された」という事項は「格子状に配置された」という事項に、
「導電性粒子12」は「導電粒子」に、
「有する」という事項は「含む」という事項に、
「異方導電性フィルム1」は「異方導電性フィルム」に、
「導電性粒子12は球状体」という事項は「導電粒子の形状が略球状」という事項に、
「第1導電性粒子」は「任意の導電粒子」及び「任意の導電粒子P0」に、
「略中心間を結んだ距離」は「中心間距離」に、それぞれ相当する。

引用発明の「第1導電性粒子に最も近接している第2導電性粒子との距離は配列ピッチDである30μmであり」という事項は本件補正発明の「任意の導電粒子と最も短い距離を第1中心間距離とし」という事項に相当し、同様に「その次に短い距離で近接している第3導電性粒子との距離は導電性粒子のピッチdである39μmであり」という事項は「その次に短い距離を第2中心間距離とした場合に」という事項に相当する。

引用発明の「導電性粒子の粒子径(5μm以下)の6〜7.8倍以上であり」という事項と本件補正発明の「導電粒子の粒子径の1.5〜5倍であり」という事項とは、「導電粒子の粒子径の所定倍であり」という点で共通する。

引用発明の「第2の導電性粒子」、「第3の導電性粒子」は、本件補正発明の「導電粒子P1」、「導電粒子P2」にそれぞれ相当する。

引用発明の「第1導電性粒子、第2導電性粒子を通る直線の方向は第一の軸X1の方向であり」という事項は、本件補正発明の「導電粒子P0、P1を通る直線の方向を第1配列方向とし」という事項に相当し、以下同様に、
「第2導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第三の軸の方向であり」という事項は「導電粒子P1、P2を通る直線の方向を第2配列方向とし」という事項に、
「第1導電性粒子、第3導電性粒子を通る直線の方向は第二の軸Y1の方向であり」という事項は「導電粒子P0、P2を通る直線の方向を第3配列方向とした場合に」という事項に、
「第三の軸の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して傾いており、第二の軸Y1の方向は異方導電性フィルム11の長手方向(X軸方向)に対して75°以上90°未満であり」という事項は「第1配列方向、第2配列方向及び第3配列方向のうち、少なくとも2つの配列方向が異方導電性フィルムの長手方向に対して傾いており」という事項に、それぞれ相当する。

イ 一致点及び相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 絶縁接着剤層と、該絶縁接着剤層に格子状に配置された導電粒子を含む異方導電性フィルムであって、
導電粒子の形状が略球状であり、
任意の導電粒子と、該導電粒子に隣接する導電粒子との中心間距離につき、任意の導電粒子と最も短い距離を第1中心間距離とし、その次に短い距離を第2中心間距離とした場合に、
第1中心間距離及び第2中心間距離が、それぞれ導電粒子の粒子径の所定倍であり、
任意の導電粒子P0と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離にある導電粒子P1と、任意の導電粒子P0と第1中心間距離又は第2中心間距離にある導電粒子P2で形成される鋭角三角形について、導電粒子P0、P1を通る直線の方向を第1配列方向とし、導電粒子P1、P2を通る直線の方向を第2配列方向とし、導電粒子P0、P2を通る直線の方向を第3配列方向とした場合に、第1配列方向、第2配列方向及び第3配列方向のうち、少なくとも2つの配列方向が異方導電性フィルムの長手方向に対して傾いている、
異方導電性フィルム。」

<相違点1>
本件補正発明では、第1中心間距離及び第2中心間距離が、それぞれ導電粒子の粒子径の「1.5〜5倍」であるのに対し、引用発明では「6〜7.8倍」である点
<相違点2>
本件補正発明では、「任意の導電粒子の配置位置から第1配列方向に連続して10個及び第2配列方向に連続して10個の領域を抜き出した場合に、その領域中の100個の配置位置中に75個以上の導電粒子を存在させる」ものであるのに対し、引用発明では「第一の軸X1と第二の軸Y1とで形成される格子の各交点に導電性粒子12が配置されている」ものである点

(5)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
異方導電性フィルムにおいて、隣接する電極間の絶縁性を維持するために導電粒子の中心間距離を導電粒子の粒子径の1.5倍以上とし、電極間の導電性を維持するために導電粒子の中心間距離を導電粒子の粒子径の5倍以下とすることは、従来より広く知られており、例えば引用文献2にも開示されている(以下、「周知技術」という)。
そして、上記(3)ア(ア)で摘記した引用文献1の【0044】には、配列ピッチDを小さくすると、面方向に隣接する端子間での短絡が起こりやすくなり、当該短絡を防止するために配列ピッチDを広くとってしまうと導電性粒子12の数が少なくなってしまうことが記載されており、同【0046】〜【0048】には、配列ピッチDと導電性粒子のピッチdを本発明の目的が達成できる範囲で変形し得ることも記載されているから、引用発明において、必要な絶縁性を維持しつつ、電極間の導電性も維持するために、引用発明における配列ピッチD及び導電性粒子のピッチdとして、それぞれ導電性粒子の粒子径の6〜7.8倍とすることに代えて周知技術を採用し、それぞれ導電性粒子の粒子径の1.5〜5倍とすることで、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明では、第一の軸X1と第二の軸Y1とで形成される格子の各交点に存在する導電性粒子12の数について、具体的な範囲を定めて規定されていない。しかし、引用文献の【0025】によれば、導電性粒子21が密に配置されると短絡が起こりやすくなるが、短絡を防止するために配列ピッチを広くとってしまうと端子31、41上に存在する導電性粒子12の数が少なくなってしまい安定した接続抵抗を得ることが困難となるという課題を解決するために、配列ピッチD(第二の軸Y1の軸間距離)を30μm、導電性粒子のピッチd(第一の軸X1の軸間距離)を39μmとしているから、引用発明では、第一の軸X1と第二の軸Y1とで形成される格子の全ての交点に導電性粒子12が配置されていると理解することが自然である。そうすると引用発明は、100個の格子の交点には原則として100個の導電性粒子12が存在する発明であるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮に、第一の軸X1と第二の軸Y1とで形成される格子の交点の一部には導電性粒子12が存在していないとしても、短絡を防止できる配列ピッチD及び導電性粒子のピッチdに設定されている引用発明において、導電性粒子12の数が少なくなってしまい安定した接続抵抗を得ることが困難となるという課題を解決するためには、格子の交点に存在する導電性粒子12の数は多いほど好ましいことは当業者にとって明らかである。また、本件補正発明において、領域中の100個の配置位置中に存在させる導電粒子の数の下限値を75個とした点に臨界的意義は認められない。したがって、引用発明における100個の格子の交点に、できるだけ多くの導電性粒子12を存在させるようにして、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年6月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜22に係る発明は、令和3年10月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜22に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願(優先日)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2等に記載された従来より広く知られている事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1〜2及びその記載事項並びに引用発明は、上記第2の[理由]2(3)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「導電粒子の形状が略球状であり」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、上記第2の[理由]2(4)イにおける相違点1及び相違点2となる。
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(5)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、「導電粒子の形状が略球状であり」との発明特定事項が削除された本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 請求人の主張について
請求人は審判請求書において次の主張をしている。
(1)相違点1について
短絡を防止すると共にファインピッチに対応可能とするために必要な「導電粒子中心間距離の具体的な範囲」は、当業者に自明な事項であると解することは妥当とは言えません。
相違点1が当業者に自明な事項ではないと解されることから、引用文献1に記載された発明において、短絡を防止すると同時にファインピッチに対応可能とするために、相違点1の構成を採用することは、引用文献2及び引用文献9(合議体注:本審決における引用文献2)の記載を参照したとしても当業者が容易になし得たものとは認められません。(審判請求書の4A(2)(ロ)(ハ))
(2)相違点2について
引用文献9は、導電粒子間距離の変動係数に着目しており、厳格な配列形状の定義はなされていません。このように、引用文献2及び引用文献9には、ファインピッチの異方導電性接続を安定させ、産業利用性に貢献するために、導電粒子の規則配列における欠損を所定の範囲内で制御するという技術思想はありません。従って、本願請求項1に係る発明について、引用文献1に記載された発明において、相違点2の構成を採用するために、引用文献1に引用文献2及び引用文献9を組み合わせるという動機付けは存在しないというべきです。(審判請求書の4A(3)(ハ))

主張(1)について検討する。
請求人が主張するように、異方導電性フィルムにおける「導電粒子中心間距離の具体的な範囲」が当業者に自明な事項でないとしても、上記第2の[理由]2(5)アで検討したとおり、異方導電性フィルムにおいて、隣接する電極間の絶縁性を維持するために導電粒子の中心間距離を導電粒子の粒子径の1.5倍以上とし、電極間の導電性を維持するために導電粒子の中心間距離を導電粒子の粒子径の5倍以下とすることは、引用文献2等に開示されているように従来より広く知られている周知技術であり、引用発明において当該周知技術を採用する動機付けもあることから、引用発明における配列ピッチD及び導電性粒子のピッチdとして当該周知技術を採用し、相違点1に係る本件発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たものである。したがって、請求人の主張(1)を採用することはできない。

主張(2)について検討する。
上記第2の[理由]2(5)イで検討したとおりである。また、本審決及び令和4年3月15日付け拒絶査定において、相違点2に関し、引用発明に、拒絶査定時の引用文献2及び9等に記載されている事項を適用する旨の判断は示していない。したがって、請求人の主張(2)を採用することはできない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-02-08 
結審通知日 2023-02-14 
審決日 2023-02-27 
出願番号 P2020-078370
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小川 恭司
内田 博之
発明の名称 異方導電性フィルム及び接続構造体  
代理人 弁理士法人田治米国際特許事務所  

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