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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1397157
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-13 
確定日 2023-02-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6857782号発明「アクリルゴム、ゴム組成物及びその架橋物、ゴムホース、並びにシール部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6857782号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3〜8〕、〔2、9〜14〕について訂正することを認める。 特許第6857782号の請求項1〜14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許異議申立の経緯
特許第6857782号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、令和2年8月6日を国際出願日(優先日:令和1年10月16日、日本国、9件)とする出願(特願2020−543233号)に係るものであって、令和3年3月24日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年4月14日である)。
その後、令和3年10月13日に、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して、特許異議申立人である西村充(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。

以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和3年12月20日付け 取消理由通知書
令和4年 3月 4日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 3月17日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 4月20日 意見書(申立人)
同年 8月 1日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月 7日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年11月 1日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年12月 6日 意見書(申立人)

なお、令和4年10月7日提出の訂正請求書による訂正請求がされたので、同年3月4日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
特許権者は、令和4年8月1日付け取消理由通知書において、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和4年10月7日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1〜14について訂正することを求めた(以下、当該訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。また、設定登録時の本件特許の明細書を「本件明細書」という。)。
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に「前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%である」とあるのを、
「前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%である」と訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜8も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に「前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、請求項1に記載のアクリルゴム」とあるのを、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、
前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、
アクリルゴム(ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く)。」と訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜8(訂正後の請求項9〜14)も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に「請求項1又は2に記載のアクリルゴム」とあるのを
「請求項1に記載のアクリルゴム」と訂正する。
(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜8も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4に「請求項1〜3のいずれか一項に記載のアクリルゴム」とあるのを
「請求項1又は3に記載のアクリルゴム」と訂正する。
(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜8も同様に訂正する。)


(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5に「請求項1〜4のいずれか一項に記載のアクリルゴム」とあるのを
「請求項1、3又は4に記載のアクリルゴム」と訂正する。
(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜8も同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
新たに請求項9を設け、「前記アルキルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として85〜99質量%である、請求項2に記載のアクリルゴム。」と記載する。

(7)訂正事項7
新たに請求項10を設け、「前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5〜10質量%である、請求項2又は9に記載のアクリルゴム。」と記載する。

(8)訂正事項8
新たに請求項11を設け、「請求項2、9又は10に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物。」と記載する。

(9)訂正事項9
新たに請求項12を設け、「請求項11に記載のゴム組成物の架橋物。」と記載する。

(10)訂正事項10
新たに請求項13を設け、「請求項12に記載の架橋物を含む、ゴムホース。」と記載する。

(11)訂正事項11
新たに請求項14を設け、「請求項12に記載の架橋物を含む、シール部品。」と記載する。

本件訂正前の請求項1〜8は、請求項2〜8が、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1〜8について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が「0.5〜2質量%」であるのを、「0.5〜1.1質量%」としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、実施例1−2、2−5、3−2、4−4、4−6、及び4−7には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が1.1質量%であるアクリルゴムが記載されている(【表1】〜【表4】)から、訂正事項1に係る事項は、本件明細書に記載された事項であって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。


(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が本件訂正前の請求項1を引用していたのを、本件訂正前の請求項1の記載を書き下して独立形式に書き換えると共に、「アクリルゴム」について「(ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く)」と、更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項2は、単に「アクリルゴム」から、「アニオン性乳化剤を含むアクリルゴム」を除くものであり、しかも、本件明細書にも、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムではないアクリルゴムが具体的に開示されている(【0067】〜【0085】)から、訂正事項2に係る事項は、本件明細書に記載された事項であって、訂正事項2は、新規事項の追加に該当しない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、請求項2を引用しないものとするものであり、引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1〜3のいずれか一項を引用するものであるところ、請求項2を引用しないものとするものであり、引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1〜4のいずれか一項を引用するものであるところ、請求項2を引用しないものとするものであり、引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、請求項2を引用するものについて新たに請求項9を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項4が請求項1〜3のいずれか一項を引用するものであるところ、請求項2を直接的又は間接的に引用するものについて新たに請求項10を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項5が請求項1〜4のいずれか一項を引用するものであるところ、請求項2を直接的又は間接的に引用するものについて、新たに請求項11を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項8は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項6が請求項5を引用するものであるところ、請求項2を間接的に引用する請求項5を引用するものにして新たに請求項12を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項9は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(10)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項7が請求項6を引用するものであるところ、請求項2を間接的に引用する請求項6を引用するものにして新たに請求項13を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項10は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

(11)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項8が請求項6を引用するものであるところ、請求項2を間接的に引用する請求項6を引用するものにして新たに請求項14を設けるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらない。
また、訂正事項11は、本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

3 独立特許要件の規定について
本件においては、本件訂正前の請求項1〜8について特許異議申立がされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 別の訂正単位とすることの求めについて
特許権者は、訂正後の請求項2及び9〜14については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているところ、訂正事項2及び6〜11に係る訂正後の請求項2及び9〜14についての訂正が認められるため、訂正後の請求項2及び9〜11のそれぞれは、一群の請求項である請求項1、3〜8と別の訂正単位とすることを認める。

5 小括
よって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜14に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明14」といい、これらをまとめて、「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%である、アクリルゴム。
【請求項2】
モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、
前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、アクリルゴム(ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く。)。
【請求項3】
前記アルキルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として85〜99質量%である、請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項4】
前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5〜10質量%である、請求項1又は3に記載のアクリルゴム。
【請求項5】
請求項1、3又は4に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム組成物の架橋物。
【請求項7】
請求項6に記載の架橋物を含む、ゴムホース。
【請求項8】
請求項6に記載の架橋物を含む、シール部品。
【請求項9】
前記アルキルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として85〜99質量%である、請求項2に記載のアクリルゴム。
【請求項10】
前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5〜10質量%である、請求項2又は9に記載のアクリルゴム。
【請求項11】
請求項2、9又は10に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のゴム組成物の架橋物。
【請求項13】
請求項12に記載の架橋物を含む、ゴムホース。
【請求項14】
請求項12に記載の架橋物を含む、シール部品。

第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(新規性
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲第1〜9号証それぞれに記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、申立理由1のうち、甲第1又は2号証を主引例とするものを「申立理由1A」といい、甲第3〜9号証を主引例とするものを「申立理由1B」という)。

(2)申立理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲第4〜9号証等における記載を参酌することにより、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1)申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:国際公開第2018/079787号
甲第2号証:国際公開第2018/079783号
甲第3号証:特開2019−116553号公報
甲第4号証:特開昭59−120608号公報
甲第5号証:特開昭50−119087号公報
甲第6号証:特開昭49−80155号公報
甲第7号証:国際公開第2018/101146号
甲第8号証:特開2001−98032号公報
甲第9号証:特開2001−131224号公報
(以下、甲第1号証〜甲第9号証をそれぞれ「甲1」〜「甲9」という。)

(2)特許権者が、令和4年3月4日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:知的財産高等裁判所 平成27年(行ケ)第10105号判決

(3)申立人が、令和4年4月20日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
参考文献1:国際公開第2018/079783号
なお、参考文献1は、甲2と同一文献である。

(4)特許権者が、令和4年10月7日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
乙第2号証:特許庁「進歩性判断における有利な効果に関する審査基準の点検について」

(5)申立人が、令和4年12月6日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
参考文献2:日本ゴム協会誌 古賀優夫「アクリル系ゴムの最近の動向」2005年、第78巻第2号、p69〜72
参考文献3:日本ゴム協会誌 水野裕介「微量金属によるゴムの劣化」1962年、第35巻第5号、p370〜377
参考文献4:工業化学雑誌 北条舒正「ポリビニルアルコール−銅錯体の生成」1970年、第73巻第8号、p1862〜1866

3 当審が通知した取消理由
(1)令和3年12月20日付け取消理由通知の理由
ア 取消理由1(新規性
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由A」という)。

イ 取消理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由B」という。)。

ウ 取消理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法113条4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由C」という)。

本件訂正前の請求項1〜8に係る発明が解決しようとする課題は、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供すること」にあると認められるところ、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明がアニオン系乳化剤を任意の量で含む場合であっても、ノニオン系乳化剤の含有量さえ「0.5〜2質量%」という発明特定事項を満たせば、上記課題を解決することができると認めるに足りる具体的な根拠を、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識から見出すことができない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識より、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないので、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(2)令和4年8月1日付け取消理由通知(決定の予告)の理由
令和4年8月1日付け取消理由通知(決定の予告)では、令和4年3月4日提出の訂正請求書による訂正請求を認めた上で、以下の取消理由を通知した。
ア 取消理由1(進歩性
令和4年3月4日に提出された訂正請求書により訂正された請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由D」という)。

第5 当審の判断
以下では、まず、甲1又は甲2を主引例とした、新規性又は進歩性に関する取消理由A、B、D、申立理由1A、及び申立理由2を併せて検討する(後記1)。
次に、取消理由C(サポート要件)について検討し(後記2)、最後に、甲3〜9を主引例とした新規性に関する申立理由1Bについて検討する(後記3)。
1 取消理由A、B、D、申立理由1A及び申立理由2について
(1)本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、アクリルゴム、ゴム組成物及びその架橋物、ゴムホース、並びにシール部品に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、アクリルゴムには、上述した耐熱性等に加えて、耐水性、耐銅害性等の従来あまり考慮されなかった特性も求められるようになっている。すなわち、アクリルゴムにおいては、水に触れたときの体積変化が小さい(耐水性に優れる)ことが望ましく、銅で形成された部材と共に用いられたときに銅による特性(例えば伸び)の変化が小さい(耐銅害性に優れる)ことが望ましい。
【0005】
本発明の一側面は、耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性に影響を与えることを見出した。すなわち、アクリルゴムのモノマー組成が同じであっても、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤がある程度含まれているとアクリルゴムの耐銅害性が向上する一方で、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が多すぎると耐水性が低下することが判明した。したがって、同じモノマー組成を有するアクリルゴムにおいて、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性を両立する(いずれか一方を過度に悪化させない)ためには、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を所定の範囲内とすることが重要である。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
・・・
【0021】
架橋席モノマーは、アルキルアクリレート及びエチレンと共重合可能であり、かつ架橋席(架橋点ともいう)を形成する官能基を有するモノマーである。架橋席モノマーは、重合性の炭素−炭素二重結合を有しており、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、メタアリル基、ビニル基、又はアルケニレン基を有している。上記官能基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基及び活性塩素基が挙げられる。架橋席モノマーは、これらの官能基の1種又は2種以上を有していてよい。
【0022】
一実施形態において、架橋席モノマーは、上記官能基として、好ましくはエポキシ基を有しており、より好ましくはグリシジル基を有している。エポキシ基を有する架橋席モノマーとしては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びメタアリルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0023】
他の一実施形態において、架橋席モノマーは、上記官能基として、好ましくはカルボキシル基を有している。架橋席モノマー中のカルボキシル基の数は、1つであってよく、2つであってよく、3つ以上であってもよい。カルボキシル基を有する架橋席モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びマレイン酸モノアルキルエステルが挙げられる。
・・・
【0032】
アクリルゴムは、上記のモノマーを乳化重合、懸濁重合などの公知の方法により共重合することにより得られ、より具体的には、例えば以下の方法により得られる。
まず、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むモノマー混合液と、ノニオン系乳化剤の水溶液とを反応容器内で混合して懸濁液を作製する。続いて、反応容器中を窒素ガスで置換した後、懸濁液を撹拌しながら、重合開始剤を懸濁液に加えて重合を開始させ、例えば40〜100℃で1〜24時間で重合を進行させる。得られた共重合体に凝固剤を添加し、共重合体を固化させた後、水による共重合体の洗浄、脱水及び乾燥の工程をこの順で実施し、アクリルゴムを得る。
【0033】
ノニオン系乳化剤は、エーテル型ノニオン系乳化剤、エステル型ノニオン系乳化剤、エーテルエステル型ノニオン系乳化剤、含窒素型ノニオン系乳化剤、及びポリビニルアルコール系乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよく、い。
【0034】
エーテル型ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンラウリルグリコール、及びポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。
【0035】
エステル型ノニオン系乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルは、例えばモノエステルであってよい。グリセリン脂肪酸エステルは、例えば、モノエステルであってよく、ジエステルであってもよい。
【0036】
エーテルエステル型ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、例えば、モノエステルであってよく、ジエステルであってもよい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、例えば、モノエステルであってよい。
【0037】
含窒素型ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエタノールアミド、及び脂肪酸ジエタノールアミドが挙げられる。
【0038】
ポリビニルアルコール系乳化剤は、完全けん化ポリビニルアルコールであってよく、部分けん化ポリビニルアルコールであってもよく、アクリルゴム中のポリビニルアルコール系乳化剤の含有量を後述するような範囲に調整しやすい観点から、好ましくは部分けん化ポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールにおけるけん化度は、アクリルゴム中のポリビニルアルコール系乳化剤の含有量を後述するような範囲に調整しやすい観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726「3.5 けん化度」に従って測定される値を意味する。
【0039】
ノニオン系乳化剤の添加量は、アクリルゴムを構成するモノマー全量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
・・・
【0045】
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を後述するような範囲に調整するためには、水の温度は、好ましくは10℃を超え、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、特に好ましくは60℃以下である。洗浄する時間は、例えば、5分間以上、10分間以上、又は20分間以上であってよく、1時間以下、50分間以下、又は40分間以下であってよい。
【0046】
以上のようにして得られるアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、アクリルゴムの全量を基準として、耐銅害性に優れる観点から0.5質量%以上であり、耐銅害性に更に優れる観点から、好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.1質量%以上である。アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、アクリルゴムの全量を基準として、耐水性に優れる観点から2質量%以下であり、耐水性に更に優れる観点から、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.6質量%以下、更に好ましくは1.4質量%以下、特に好ましくは1.3質量%以下である。
【0047】
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、アクリルゴムの全量を基準として、耐水性及び耐銅害性を両立できる観点から0.5〜2質量%であり、耐水性及び耐銅害性を更に両立しやすい観点から、好ましくは、0.5〜1.8質量%、0.5〜1.6質量%、0.5〜1.4質量%、0.5〜1.3質量%、0.6〜2質量%、0.6〜1.8質量%、0.6〜1.6質量%、0.6〜1.4質量%、0.6〜1.3質量%、0.8〜2質量%、0.8〜1.8質量%、0.8〜1.6質量%、0.8〜1.4質量%、0.8〜1.3質量%、1〜2質量%、1〜1.8質量%、1〜1.6質量%、1〜1.4質量%、1〜1.3質量%、1.1〜2質量%、1.1〜1.8質量%、1.1〜1.6質量%、1.1〜1.4質量%、又は1.1〜1.3質量%である。
・・・
【0051】
以上説明したアクリルゴムは、必要に応じてその他の成分と組み合わせてゴム組成物として用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記のアクリルゴム(及び必要に応じて用いられるその他の成分)を含有するゴム組成物である。アクリルゴムの含有量は、ゴム組成物の全量を基準として、例えば、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上であってよく、90質量%以下であってよい。
【0052】
ゴム組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、充填剤、滑剤、老化防止剤、界面活性剤、架橋剤、及び架橋促進剤が挙げられる。
・・・
【実施例】
【0066】
以下、実施例をよって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1−1〜1−3及び比較例1−1〜1−2>
内容積40リットルの耐圧反応容器に、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、及びグリシジルメタクリレートからなるモノマー混合液11kgと、ノニオン系乳化剤として部分けん化ポリビニルアルコールの4質量%水溶液(ポリビニルアルコールのけん化度:88モル%)17kgと、酢酸ナトリウム22gとを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。容器内上部の空気を窒素で置換後、攪拌を続行し、容器内を55℃に保持した後、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液(0.25質量%)2リットルを加えて、重合を開始させた。容器内温度を55℃に保ち、6時間後に反応を終了させた。得られた共重合体に、凝固剤としてホウ酸ナトリウム水溶液(3.5質量%)7リットルを添加して共重合体を固化させた。次いで、固化させた共重合体100質量部に対し、表1〜3に示す温度の純水450質量部を添加して、容器内で5分間撹拌した後、容器から水分を排出する工程を4回繰り返すことにより、水洗を行った。その後、脱水及び乾燥を行ってアクリルゴムを得た。
【0068】
得られたアクリルゴムに含まれるモノマー単位の組成を表1,2に示す。なお、マレイン酸モノブチルモノマー単位の含有量は、アクリルゴムをトルエンに溶解し、水酸化カリウムを用いた中和滴定により測定した。その他のモノマー単位の含有量は、核磁気共鳴スペクトルにより測定した。
【0069】
また、得られたアクリルゴム中のノニオン系乳化剤(ポリビニルアルコール)及び凝固剤の含有量、並びに、ムーニー粘度ML(1+4)100℃をそれぞれ測定した。結果を表1,2に示す。
【0070】
ノニオン系乳化剤の含有量は、熱分解GC−MSにより測定した。より具体的には、ダブルショット・パイロライザー(フロンティアラボ社製PY−2020D)によって、550℃でアクリルゴムの熱分解を行い、ガスクロマトグラフ質量分析(日本電子社製JMS−DX303、アジレントキャピラリカラムDB−5、キャリアガス:ヘリウム、注入口温度:280℃、昇温条件:70℃で2分間保持した後、12℃/分で280℃まで昇温)によって、ノニオン系乳化剤の分解物を絶対検量線法にて定量を行った。ホウ素の含有量は、ICP発光分光分析により測定した。ムーニー粘度ML(1+4)100℃は、JIS K6300に規定される方法に従って測定した。【0071】
続いて、得られた各アクリルゴムと以下に示す各成分とを表1,2に示す組成で用い、8インチオープンロールで混練を行ってゴム組成物を得た。
充填剤:カーボンブラック(東海カーボン社製 シーストSO)
滑剤a:ステアリン酸(花王社製 ルナックS−90)
滑剤b:ステアリルアミン(花王社製 ファーミン80)
老化防止剤:4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(アディバント社製 Naugard#445)
界面活性剤:ラウリル硫酸ナトリウム(花王社製 エマール0)
架橋剤a:1−(2−シアノエチル)−2−メチルイミダゾール(四国化成工業社製 CN−25)
架橋剤b:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(和歌山精化工業社製 BAPP)
架橋促進剤a:安息香酸アンモニウム(大内新興社製 バルノックAB)
架橋促進剤b:1,3−ジ−o−トリルグアニジン(大内新興社製 ノクセラーDT)
【0072】
得られたゴム組成物を厚さ2.4mmのシートに分出しした後、プレス加硫機を用いて、170℃、10MPaの圧力で20分間加熱及び加圧を行った。続いて、ギヤーオーブン内で170℃4時間の加熱を行い、ゴム組成物の架橋物を得た。
【0073】
(架橋物の物性の評価)
JIS K6251−2010に従って、架橋物の引張強度及び伸びを測定した。また、JIS K6253−2006に従って、タイプAデュロメータを用いて架橋物の硬度を測定した。
【0074】
(耐水性の評価)
JIS K6258−2010の「浸せき試験」に従って、架橋物を純水による浸せき試験に供し、試験前後の架橋物の体積変化率を以下の式に基づいて算出した。
体積変化率(%)=(試験後の体積−試験前の体積)/試験前の体積×100
【0075】
(耐銅害性の評価)
3号ダンベル状に成形した架橋物を試験片として用いた。エンジンオイル(EMGルブリカンツ合同会社製 モービル1 5W−30)と、銅紛(福田金属箔粉工業製 CE−1110)とを、エンジンオイル/銅粉=3/1(質量比)の割合で混合したスラリー5gを、試験片の標線間を完全に覆い隠すように刷毛を用いて塗り、室温で12時間乾燥させた。続いて、150℃のギヤーオーブンで試験片を500時間加熱することにより、耐銅害性試験を行った。その後、ヘラを用いて試験片から銅ペーストを剥がし、JIS K6251−2010に従って試験片の伸びを測定した。試験前後の伸び変化率(%)を以下の式に基づいて算出した。
伸び変化率(%)=(試験後の伸び−試験前の伸び)/試験前の伸び×100
【0076】
【表1】

【0077】
<実施例2−1〜2−7及び比較例2−1〜2−2>
グリシジルメタクリレートに代えて、マレイン酸モノブチルを用いた以外は、実施例1−1等と同様にしてアクリルゴムを得た。また、得られたアクリルゴムに含まれるモノマー単位の組成、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤及び凝固剤の含有量、並びに、アクリルゴムのムーニー粘度ML(1+4)100℃を、それぞれ実施例1−1等と同様に測定した。また、得られた各アクリルゴムと上記各成分とを表2に示す組成で用い、実施例1−1等と同様にして、ゴム組成物及びゴム組成物の架橋物を得た。得られた架橋物の各物性を実施例1−1等と同様に測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表1から分かるとおり、架橋席モノマーとしてエポキシ基を有する架橋席モノマーが用いられたアクリルゴムにおいて、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤(ポリビニルアルコール)の含有量が所定の範囲内であることにより、耐水性及び耐銅害性を両立できる。同様に、表2から分かるとおり、架橋席モノマーとしてカルボキシル基を有する架橋席モノマーが用いられたアクリルゴムにおいて、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤(ポリビニルアルコール)の含有量が所定の範囲内であることにより、耐水性及び耐銅害性を両立できる。
【0080】
<実施例3−1〜3−3及び比較例3−1〜3−2>
ノニオン系乳化剤として、部分けん化ポリビニルアルコールの4質量%水溶液に代えて、モノラウリン酸ソルビタンの4質量%水溶液を用い、凝固剤として、ホウ酸ナトリウム水溶液(3.5質量%)7リットルに代えて、塩化カルシウム水溶液(10質量%)16リットルを用いた以外は、実施例1−1等と同様にしてアクリルゴムを得た。
【0081】
<実施例4−1〜4−7及び比較例4−1〜4−2>
グリシジルメタクリレートに代えて、マレイン酸モノブチルを用いた以外は、実施例3−1等と同様にしてアクリルゴムを得た。
【0082】
上記の実施例3−1等及び実施例4−1等で得られたアクリルゴムに含まれるモノマー単位の組成、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤及び凝固剤の含有量、並びに、アクリルゴムのムーニー粘度ML(1+4)100℃を、それぞれ実施例1−1等と同様に測定した。また、得られた各アクリルゴムと上記各成分とを表3,4に示す組成で用い、実施例1−1等と同様にして、ゴム組成物及びゴム組成物の架橋物を得た。得られた架橋物の各物性を実施例1−1等と同様に測定した。これらの測定結果を表3,4に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
表3から分かるとおり、架橋席モノマーとしてエポキシ基を有する架橋席モノマーが用いられたアクリルゴムにおいて、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤(モノラウリン酸ソルビタン)の含有量が所定の範囲内であることにより、耐水性及び耐銅害性を両立できる。同様に、表4から分かるとおり、架橋席モノマーとしてカルボキシル基を有する架橋席モノマーが用いられたアクリルゴムにおいて、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤(モノラウリン酸ソルビタン)の含有量が所定の範囲内であることにより、耐水性及び耐銅害性を両立できる。」

(2)甲1の記載及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。

「[0001] 本発明は、アクリルゴムおよびゴム架橋物に関し、さらに詳しくは、引張強度が高く、耐圧縮性永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴム、ならびにこのアクリルゴムを用いたゴム架橋物に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、引張強度が高く、耐圧縮永久歪性、および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴム、ならびにこのアクリルゴムを用いたゴム架橋物を提供することを目的とする。
・・・
[0012] <アクリルゴム>
本発明のアクリルゴムは、分子中に、主成分(本発明においては、ゴム全単量体単位中50重量%以上有するものを言う。)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体の意。以下、(メタ)アクリル酸メチルなど同様。〕単位を含有するゴム状の重合体であって、アニオン性乳化剤の含有量が、10重量ppm以上、4,500重量ppm以下であるものである。
[0013] 本発明のアクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
[0014] (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
・・・
[0018] 本発明のアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位に加えて、必要に応じて、架橋性単量体単位を含有していてもよい。架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体;エポキシ基を有する単量体;ハロゲン原子を有する単量体;ジエン単量体;などが挙げられる。
・・・
[0019] α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることにより、アクリルゴムを、カルボキシル基を架橋点として持つカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができ、これにより、ゴム架橋物とした場合における、耐圧縮永久歪み性をより高めることができる。
[0020] 炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、およびケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸;などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルが好ましく、ブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル、または脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘキシルがさらに好ましく、フマル酸モノn−ブチルが特に好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
[0021] エポキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有エーテル;などが挙げられる。
・・・
[0034] また、本発明のアクリルゴムは、アニオン性乳化剤の含有量が、10重量ppm以上、4,500重量ppm以下であり、好ましくは500重量ppm以上、4,400重量ppm以下、より好ましくは4,300重量ppm以下、さらに好ましくは4,000重量ppm以下である。なお、本発明のアクリルゴムは、上記単量体を乳化重合することにより得られるものであるが、乳化重合に際しては、通常、乳化剤が用いられることとなる。そして、本発明においては、乳化作用に優れるという観点、乳化重合時における重合装置(たとえば、重合槽)への重合による凝集物の付着による汚れの発生を有効に防止することができるという観点、さらには、重合により得られる乳化重合液の凝固性を向上させ、これにより比較的少ない凝固剤量にて凝固を行うことができるという観点より、このような乳化剤として、アニオン性乳化剤を用いるものである。このような状況において、本発明者等は、アクリルゴム中に残留するアニオン性乳化剤に着目し、鋭意検討を行ったところ、アクリルゴム中におけるアニオン性乳化剤の残留量(含有量)を4,500重量ppm以下に抑えることにより、このようなアクリルゴムを用いて得られるゴム架橋物が、引張強度が高く、耐圧縮永久歪み性、および耐水性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。なお、アニオン性乳化剤の含有量は、たとえば、アクリルゴムに対し、GPC測定を行い、GPC測定により得られた測定チャート中の、アニオン性乳化剤に対応する分子量のピーク面積から求めることができる。アニオン性乳化剤の含有量は、4,500重量ppm以下とすればよいが、その下限は、10重量ppm以上であり、好ましくは500重量ppm以上である。アニオン性乳化剤の含有量を、好ましくは500重量ppm以上とすることにより、アクリルゴムに含有される架橋性基の種類によっては(たとえば、架橋性基がハロゲン原子である場合等)、引張強度をより高めることができるため、好ましい。
・・・
[0037]<アクリルゴムの製造方法>
・・・
[0038]<乳化重合工程>
上記製造方法における、乳化重合工程は、アニオン性乳化剤の存在下、アクリルゴムを形成するための単量体を乳化重合することで、乳化重合液を得る工程である。
・・・
[0040] また、乳化重合工程においては、乳化剤として、アニオン性乳化剤に加えて、アニオン性乳化剤以外の乳化剤、たとえば、ノニオン性乳化剤やカチオン性乳化剤を併用することが好ましい。
[0041] ノニオン性乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオシプロピレン共重合体等が挙げられる。これらのノニオン性乳化剤の中でも、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルが好ましい。なお、ノニオン性乳化剤としては、重量平均分子量が1万未満のものが好ましく、重量平均分子量が500〜8000のものがより好ましく、重量平均分子量が600〜5000がさらに好ましい。
・・・
[0053]<凝固工程>
・・・
[0058] また、本発明のアクリルゴムを製造する際には、凝固剤を添加して凝固させる前の乳化重合液に、アクリルゴムに配合する配合剤のうち一部の配合剤、具体的には、老化防止剤、滑剤およびエチレンオキシド系重合体のうち少なくともいずれかについては、予め含有させておくことが好ましい。すなわち、老化防止剤、滑剤およびエチレンオキシド系重合体のうち少なくともいずれかについては、乳化重合液中に既に配合された状態とし、これらを配合した乳化重合液に対し、凝固を行うことが好ましい。
・・・
[0066]<洗浄工程>
・・・
[0067] 洗浄方法としては、特に限定されないが、洗浄液として水を使用し、含水クラムとともに、添加した水を混合することにより水洗を行う方法が挙げられる。水洗時の温度としては、特に限定されないが、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜50℃であり、混合時間は1〜60分、より好ましくは2〜20分である。
[0068] また、水洗時に、含水クラムに対して添加する水の量としては、特に限定されないが、最終的に得られるアクリルゴム中のアニオン性乳化剤の残留量を効果的に低減することができるという観点より、含水クラム中に含まれる固形分(主として、アクリルゴム成分)100重量部に対して、水洗1回あたりの水の量が、好ましくは50〜9,800重量部、より好ましくは300〜1,800重量部である。
[0069] 水洗回数としては、特に限定されず、1回でもよいが、最終的に得られるアクリルゴム中のアニオン性乳化剤の残留量を低減するという観点より、好ましくは2〜10回、より好ましくは3〜8回である。
・・・
[0079] また、本発明のアクリルゴムは、アクリルゴム中に含まれるノニオン性乳化剤の残留量が、好ましくは20,000重量ppm以下であり、より好ましくは18,000重量ppm以下であり、さらに好ましくは15,000重量ppm以下、特に好ましくは13,000重量ppm以下である。ノニオン性乳化剤の残留量の下限は、特に限定されないが、好ましくは10重量ppm以上である。ノニオン性乳化剤の残留量を上記範囲とすることにより、本発明の作用効果、特に、引張強度、耐圧縮永久歪み性、および耐水性の向上効果をより高めることができる。なお、ノニオン性乳化剤の残留量は、たとえば、アクリルゴムに対し、GPC測定を行い、GPC測定により得られた測定チャート中の、ノニオン性乳化剤に対応する分子量のピーク面積から求めることができる。」


「実施例
[0104] 以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
・・・
[0106][アニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤の残留量]
アクリルゴムをテトラヒドロフランに溶解し、テトラヒドロフランを展開溶媒として、GPC測定を行うことにより、アクリルゴム中における、アニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤の残留量を測定した。具体的には、GPC測定により得られたチャートから、製造に使用したアニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤の分子量に対応するピークの積分値を求め、これらの積分値と、アクリルゴムのピークの積分値とを比較し、これらの積分値と対応する分子量から重量比率を求めることで、アニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤の残留量を算出した。
・・・
[0109][引張強度および伸び]
アクリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。得られたゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。次にこの試験片を用いて、JIS K6251に従い、常態での引張強度および伸びを測定した。
[0110][圧縮永久歪み]
アクリルゴム組成物を、金型を用いて、温度170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、直径29mm、高さ12.7mmの円柱型の一次架橋物を得て、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、円柱状のゴム架橋物を得た。そして、得られたゴム架橋物を用いて、JIS K6262に従い、ゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、175℃の環境下に70時間置いた後、圧縮永久歪み率を測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
[0111][耐水性]
アクリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物から、3cm×2cm×0.2cmの試験片に切り取り、JIS K6258に準拠して、得られた試験片を温度80℃に調整した蒸留水中に70時間浸漬させる浸漬試験を行い、浸漬前後の試験片の体積変化率を下記式にしたがって、測定した。浸漬前後の体積変化率が小さいほど、水に対する膨潤が抑制されており、耐水性に優れると判断できる。
浸漬前後の体積変化率(%)=(浸漬後の試験片の体積−浸漬前の試験片の体積)÷浸漬前の試験片の体積×100
[0112]〔製造例1〕
ホモミキサーを備えた混合容器に、純水46.294部、アクリル酸エチル49.3部、アクリル酸n−ブチル49.3部、フマル酸モノn−ブチル1.4部、アニオン性乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(商品名「エマール 2FG」、花王社製)0.624部、およびノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテル(商品名「エマルゲン 105」、重量平均分子量:約1500、花王社製)1.5部を仕込み、攪拌することで、単量体乳化液を得た。
[0113] 次いで、温度計、攪拌装置を備えた重合反応槽に、純水170.853部、および、上記にて得られた単量体乳化液2.97部を投入し、窒素気流下で温度12℃まで冷却した。次いで、重合反応槽中に、上記にて得られた単量体乳化液145.44部、還元剤としての硫酸第一鉄0.00033部、還元剤としてのアスコルビン酸ナトリウム0.264部、および、重合開始剤としての2.85重量%の過硫酸カリウム水溶液7.72部(過硫酸カリウムの量として0.22部)を3時間かけて連続的に滴下した。その後、重合反応槽内の温度を23℃に保った状態にて、1時間反応を継続し、重合転化率が95%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを添加して重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
[0114] そして、重合により得られた乳化重合液100部に対し、老化防止剤としての3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(商品名「Irganox 1076」、BASF社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計(すなわち、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、フマル酸モノn−ブチルの合計)100部に対して1部)、ポリエチレンオキシド(重量平均分子量(Mw)=10万)0.011部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.036部)、および滑剤としてのポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸(商品名「フォスファノール RL−210」、重量平均分子量:約500、東邦化学工業社製)0.075部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.25部)を混合することで混合液を得た。そして、得られた混合液を凝固槽に移し、この混合液100部に対して、工業用水60部を添加して、85℃に昇温した後、温度85℃にて、混合液を撹拌しながら、凝固剤としての硫酸ナトリウム3.3部(混合液に含まれる重合体100部に対して11部)を連続的に添加することにより、重合体を凝固させ、これによりアクリルゴム(A1)の含水クラムを得た。
[0115] 次いで、上記にて得られた含水クラムの固形分100部に対し、工業用水388部を添加し、凝固槽内で、室温、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの水洗を行った。なお、本製造例では、このような水洗を4回繰り返した。
[0116] 次いで、上記にて水洗を行った含水クラムの固形分100部に対し、工業用水388部および濃硫酸0.13部を混合してなる硫酸水溶液(pH=3)を添加し、凝固槽内で、室温、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの酸洗を行った。なお、酸洗後の含水クラムのpH(含水クラム中の水のpH)を測定したこところ、pH=3であった。次いで、酸洗を行った含水クラムの固形分100部に対し、純水388部を添加し、凝固槽内で、室温、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの純水洗浄を行い、純水洗浄を行った含水クラムを、熱風乾燥機にて110℃で1時間乾燥させることにより、固形状のアクリルゴム(A1)を得た。
[0117] 得られたアクリルゴム(A1)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33であり、アクリルゴム(A1)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A1)について、アクリルゴム(A1)中における、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、凝固剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0118]〔製造例2〕
アニオン性乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.624部から0.567部に、ノニオン性乳化剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.5部から1.4部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。そして、得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1と同様にして、固形状のアクリルゴム(A2)を得た。
[0119] 得られたアクリルゴム(A2)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は34であり、アクリルゴム(A2)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A2)について、アクリルゴム(A2)中における、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、凝固剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0120]〔製造例3〕
アニオン性乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.624部から0.283部に、ノニオン性乳化剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.5部から1.4部に、それぞれ変更するとともに、水洗回数を4回から8回に変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。そして、得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1と同様にして、固形状のアクリルゴム(A3)を得た。
[0121] 得られたアクリルゴム(A3)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は34であり、アクリルゴム(A3)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A3)について、アクリルゴム(A3)中における、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、凝固剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0122]〔製造例4〕
アニオン性乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.624部から0.709部に、ノニオン性乳化剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.5部から1.82部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。そして、得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1と同様にして、固形状のアクリルゴム(A4)を得た。
[0123] 得られたアクリルゴム(A4)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は31であり、アクリルゴム(A4)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A4)について、アクリルゴム(A4)中における、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、凝固剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0124]〔実施例1〕
バンバリーミキサーを用いて、製造例1で得られたアクリルゴム(A1)100部に、クレー(商品名「サティントンクレー5A」、竹原化学工業社製、焼成カオリン)30部、シリカ(商品名「カープレックス1120」、Evonik社製)15部、シリカ(商品名「カープレックス67」、Evonik社製)35部、ステアリン酸2部、エステル系ワックス(商品名「グレックG−8205」、大日本インキ化学社製)1部、4, 4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック CD」、大内新興化学工業社製)2部、および、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−503」、信越シリコーン社製、シランカップリング剤)1部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカーバメート(商品名「Diak#1」、デュポンダウエラストマー社製、脂肪族多価アミン化合物)0.6部、および1,3−ジ−o−トリルグアニジン(商品名「ノクセラーDT」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)2部を配合して、混練することにより、アクリルゴム組成物を得た。
[0125] そして、得られたアクリルゴム組成物を用いて、上記方法にしたがい、引張強度、伸び、圧縮永久歪み、および耐水性の各測定・評価を行った。結果を表1に示す。
[0126]〔実施例2〕
製造例1で得られたアクリルゴム(A1)に代えて、製造例2で得られたアクリルゴム(A2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に測定・評価を行った結果を表1に示す。
[0127]〔実施例3〕
製造例1で得られたアクリルゴム(A1)に代えて、製造例3で得られたアクリルゴム(A3)を使用した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に測定・評価を行った結果を表1に示す。
[0128]〔比較例1〕
製造例1で得られたアクリルゴム(A1)に代えて、製造例4で得られたアクリルゴム(A4)を使用した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に測定・評価を行った結果を表1に示す。
[0129]

(*1)単量体乳化液作製のための配合剤の添加量は、仕込み単量体100部に対する配合量で示した。
(*2)凝固前の乳化重合液に添加した配合剤の添加量は、乳化重合液100部 に対する配合量で示した。
(*3)凝固工程で使用した凝固剤の添加量は、乳化重合液に、老化防止剤、ポリエチレンオキシド、および滑剤を添加することにより得られた混合液100部に対する配合量で示した。

[0130]〔実施例1〜3、比較例1の評価〕
表1に示すように、アニオン性乳化剤の残留量(含有量)が、10重量ppm以上、4,500重量ppm以下であるアクリルゴムを用いて得られたゴム架橋物は、いずれも引張強度が高く、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたものであった(実施例1〜3)。
一方、アニオン性乳化剤の残留量(含有量)が、4,500重量ppm超であるアクリルゴムを用いて得られたゴム架橋物は、耐水性に劣るものであった(比較例1)。」


「[請求項1] アニオン性乳化剤の含有量が、10重量ppm以上、4,500重量ppm以下であるアクリルゴム。
[請求項2] ノニオン性乳化剤の含有量が、10重量ppm以上、20,000重量ppm以下である請求項1に記載のアクリルゴム。」

甲1摘記イの製造例1〜3に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「アクリルゴムであって、その組成はアクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であり、アクリルゴム中、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤)の残留量が最小で365重量ppm、最大で4276重量ppmであり、ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)の残留量が最小で11503重量ppm、最大で13500重量ppmであり、凝固剤の残留量が最小で2946重量ppm、最大で3089重量ppmであり、老化防止剤の残留量が最小で0.96重量%、最大で0.99重量%であり、滑剤の残留量が最小で0.23重量%、最大で0.26重量%である、アクリルゴム」(以下、「甲1発明A」という。)

(3)甲2の記載及び甲2に記載された発明
甲2には、以下の記載がある。

「[0001] 本発明は、アクリルゴムおよびゴム架橋物に関し、更に詳しくは、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴム、ならびにこのアクリルゴムを用いたゴム架橋物に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴム、ならびにこのアクリルゴムを用いたゴム架橋物を提供することを目的とする。
・・・
[0007] 本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、アクリルゴムに残留する凝固剤の量を特定量範囲とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
・・・
[0012]<アクリルゴム>
本発明のアクリルゴムは、分子中に、主成分(本発明においては、ゴム全単量体単位中50重量%以上有するものを言う。)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体の意。以下、(メタ)アクリル酸メチルなど同様。〕単位を含有するゴム状の重合体であって、凝固剤の残留量が、10重量ppm以上、10,000重量ppm以下であるものである。
[0013] 本発明のアクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
[0014] (メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
・・・
[0018] 本発明で用いるアクリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位に加えて、必要に応じて、架橋性単量体単位を含有していてもよい。架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体;エポキシ基を有する単量体;ハロゲン原子を有する単量体;ジエン単量体;などが挙げられる。
[0019] α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることにより、アクリルゴムを、カルボキシル基を架橋点として持つカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができ、これにより、ゴム架橋物とした場合における、耐圧縮永久歪み性をより高めることができる。
[0020] 炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、およびケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸;などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、ブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル、または脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルが好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘキシルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルがさらに好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
[0021] エポキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有エーテル;などが挙げられる。
・・・
[0034] また、本発明のアクリルゴムは、凝固剤の残留量が、10,000重量ppm以下であり、好ましくは7,000重量ppm以下、より好ましくは5,000重量ppm以下、さらに好ましくは3,500重量ppm以下であり、凝固剤の残留量の下限は、10重量ppm以上である。なお、本発明のアクリルゴムは、上記単量体を乳化重合することにより得られるものであるが、乳化重合により得られた乳化重合液を凝固する際に、通常、凝固剤が用いられることとなる。そのため、本発明のアクリルゴムのような乳化重合により得られるアクリルゴムには、不可避的に凝固剤が含まれることとなってしまう。これに対し、本発明によれば、アクリルゴム中における凝固剤の残留量を上記範囲とすることにより、ゴム架橋物とした場合における、耐圧縮永久歪み性および耐水性を優れたものとすることができるものである。なお、本発明のアクリルゴムにおいては、凝固剤の残留量は少ない方が好ましく、そのため、凝固時に用いる凝固剤の量を少なくすることで、アクリルゴム中の凝固剤の残留量を少なくする方法も考えられるが、凝固が不十分となり、アクリルゴムの回収率が悪化したり水洗を多くする必要があるため、安定的な生産という観点からは、アクリルゴム中の凝固剤の残留量は、好ましくは200重量ppm以上、より好ましくは500重量ppm以上である。凝固剤の残留量は、たとえば、アクリルゴムに対し、元素分析を行い、凝固剤に含まれる元素の含有量を測定することにより求めることができる。また、凝固剤の残留量を上記した量とする方法としては、特に限定されないが、後述するアクリルゴムの製造方法において、凝固剤の残留量を低減する方法として好ましい態様を適宜選択する方法や、このような態様を適宜組み合わせて用いる方法などが挙げられる。
・・・
[0037] また、本発明のアクリルゴムは、ゴム架橋物とした場合における耐水性をより高めることができるという観点より、アクリルゴム中に含まれる乳化剤の残留量が、22,000重量ppm以下であることが好ましく、20,000重量ppm以下であることがより好ましく、18,000重量ppm以下であることがさらに好ましく、17,000重量ppm以下であることが特に好ましい。乳化剤の残留量の下限は、特に限定されないが、好ましくは10重量ppm以上、より好ましくは200重量ppm以上、さらに好ましくは500重量ppm以上である。なお、本発明のアクリルゴムは、上記単量体を乳化重合することにより得られるものであるが、乳化重合に際しては、通常、乳化剤も用いられることとなる。そのため、本発明のアクリルゴムのような乳化重合により得られるアクリルゴムには、不可避的に乳化剤が含まれることとなってしまう。これに対し、本発明によれば、アクリルゴム中における乳化剤の残留量を上記範囲とすることにより、ゴム架橋物とした場合における、耐水性をより高めることができるものである。なお、乳化剤の残留量は、たとえば、アクリルゴムに対し、GPC測定を行い、GPC測定により得られた測定チャート中の、乳化剤に対応する分子量のピーク面積から求めることができる。また、乳化剤の残留量を上記した量とする方法としては、特に限定されないが、たとえば、後述するように、乳化剤として、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いるとともに、その添加量を後述する範囲とする方法などが挙げられる。
・・・
[0039]<アクリルゴムの製造方法>
・・・
[0040]<乳化重合工程>
・・・
[0042] 乳化剤としては、特に限定されず、たとえば、ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などの脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステルナトリウムなどの高級燐酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;などを挙げることができる。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。これらのノニオン性乳化剤の中でも、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルが好ましい。なお、ノニオン性乳化剤としては、重量平均分子量が1万未満のものが好ましく、重量平均分子量が500〜8000のものがより好ましく、重量平均分子量が600〜5000がさらに好ましい。また、これらのアニオン性乳化剤の中でも、高級燐酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル塩が好ましい。
[0043] これら乳化剤の中でも、ノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤が好ましく、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いることが好ましい。ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いることにより、乳化重合時における重合装置(たとえば、重合槽)へのポリマーなどの付着による汚れの発生を有効に抑制しつつ、後述する凝固工程において用いる凝固剤の使用量を低減することが可能となり、結果として、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤量を低減することができる。
[0044] また、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いることにより、乳化作用を高めることができるため、乳化剤自体の使用量をも低減することができ、結果として、最終的に得られるアクリルゴム中に含まれる乳化剤の残留量を低減することができ、これにより、得られるアクリルゴムの耐水性をより高めることができる。
・・・
[0054]
<凝固工程>
・・・
[0055] 凝固剤としては、特に限定されないが、たとえば、上述した1〜3価の金属塩を好適に用いることができる。凝固剤の使用量は、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤の残留量を上記範囲とするという観点より、乳化重合液中のアクリルゴム成分100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜40重量部、さらに好ましくは3〜20重量部、特に好ましくは3〜12重量部である。凝固剤が少なすぎると、凝固が不十分となり、アクリルゴムの収率が悪化してしまい、一方、多すぎると、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤の残留量が多くなりすぎてしまい、耐水性が悪化してしまう。
・・・
[0062] さらに、エチレンオキシド系重合体を凝固前の乳化重合液中に予め配合しておくことにより、乳化重合液の凝固性を向上させることができ、これにより、凝固工程における凝固剤量を低減させることができることから、最終的に得られるアクリルゴム中の残留量を低減でき、ゴム架橋物とした場合における、耐圧縮永久歪み性および耐水性をより高めることができる。エチレンオキシド系重合体しては、主鎖構造として、ポリエチレンオキシド構造を有する重合体であればよく、特に限定されないが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体などが挙げられ、この中でもポリエチレンオキシドが好適である。エチレンオキシド系重合体の配合量は、乳化重合液中のアクリルゴム成分100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部である。また、エチレンオキシド系重合体の重量平均分子量は1万から100万、好ましくは1万から20万、より好ましくは2万から12万である。
・・・
[0065]<洗浄工程>
・・・
[0066] 洗浄方法としては、特に限定されないが、洗浄液として水を使用し、含水クラムとともに、添加した水を混合することにより水洗を行う方法が挙げられる。水洗時の温度としては、特に限定されないが、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜50℃であり、混合時間は1〜60分、より好ましくは2〜30分である。
[0067] また、水洗時に、含水クラムに対して添加する水の量としては、特に限定されないが、最終的に得られるアクリルゴム中の凝固剤の残留量を効果的に低減することができるという観点より、含水クラム中に含まれる固形分(主として、アクリルゴム成分)100重量部に対して、水洗1回当たりの水の量が、好ましくは50〜9,800重量部、より好ましくは300〜1,800重量部である。
[0068] 水洗回数としては、特に限定されず、1回でもよいが、最終的に得られるアクリルゴム中の凝固剤の残留量を低減するという観点より、好ましくは2〜10回、より好ましくは3〜8回である。なお、最終的に得られるアクリルゴム中の凝固剤の残留量を低減するという観点からは、水洗回数が多い方が望ましいが、上記範囲を超えて洗浄を行っても、凝固剤の除去効果が小さい一方で、工程数が増加してしまうことにより生産性の低下の影響が大きくなってしまうため、水洗回数は上記範囲とすることが好ましい。」


「実施例
[0098] 以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
[0099][ムーニー粘度(ML1+4、100℃)]
アクリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)をJIS K6300に従って測定した。
[0100][凝固剤の残留量]
アクリルゴムに対して、(ICP−AES)を用いて、元素分析を行うことで、アクリルゴム中における、凝固剤の残留量を測定した。具体的には、元素分析により、使用した凝固剤に含まれる元素の含有割合を求め、求めた含有割合より、凝固剤の残留量を算出した。
[0101][乳化剤、老化防止剤、および滑剤の残留量]
アクリルゴムをテトラヒドロフランに溶解し、(テトラヒドロフラン)を展開溶媒として、GPC測定を行うことにより、アクリルゴム中における、乳化剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を測定した。具体的には、GPC測定により得られたチャートから、製造に使用した乳化剤、老化防止剤、および滑剤の分子量に対応するピークの積分値を求め、これらの積分値と、アクリルゴムのピークの積分値とを比較し、これらの積分値と対応する分子量から重量比率を求めることで、乳化剤、老化防止剤、および滑剤の残留量を算出した。
[0102][アクリルゴムの回収率]
重合に用いた単量体の重量(仕込み量)とその重合転化率から算出される乳化重合液中のアクリルゴムの重量に対する、凝固乾燥後の固形状のアクリルゴムの重量の比率を求め、これをアクリルゴムの回収率とした。
[0103][常態物性]
アクリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。得られたゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。次にこの試験片を用いて、JIS K6251に従い引張強度および伸びを測定した。
[0104][熱老化試験]
上記常態物性の評価に用いた試験片と同様にして作製した試験片を、ギヤー式オーブン中で、温度175℃の環境下に504時間置いた後、引張強度および伸びを測定し、得られた結果と、上記方法にしたがって測定した常態物性とを対比することにより、耐熱老化性の評価を行った。引張強度および伸びは、JIS K6251に従って測定した。
引張強度については、加熱後の試料の測定値が大きい方が耐熱性に優れる。伸びについては、熱老化させていない試料の測定値(常態物性の測定値)に対する 加熱後の試料の測定値の変化率である伸び変化率(百分率)が0に近い方が耐熱性に優れる。
[0105][圧縮永久歪み]
アクリルゴム組成物を、金型を用いて、温度170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、直径29mm、高さ12.7mmの円柱型の一次架橋物を得て、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、円柱状のゴム架橋物を得た。そして、得られたゴム架橋物を用いて、JIS K6262に従い、ゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、175℃の環境下に70時間置いた後、圧縮永久歪み率を測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
[0106][耐水性]
アクリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物から、3cm×2cm×0.2cmの試験片に切り取り、JIS K6258に準拠して、得られた試験片を温度80℃に調整した蒸留水中に70時間浸漬させる浸漬試験を行い、浸漬前後の試験片の体積変化率を下記式にしたがって、測定した。浸漬前後の体積変化率が小さいほど、水に対する膨潤が抑制されており、耐水性に優れると判断できる。
浸漬前後の体積変化率(%)=(浸漬後の試験片の体積−浸漬前の試験片の体積)÷浸漬前の試験片の体積×100
[0107]〔製造例1〕
ホモミキサーを備えた混合容器に、純水46.294部、アクリル酸エチル49.3部、アクリル酸n−ブチル49.3部、フマル酸モノn−ブチル1.4部、アニオン性界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウム(商品名「エマール 2FG」、花王社製)0.709部、およびノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテル(商品名「エマルゲン 105」、重量平均分子量:約1500、花王社製)1.82部を仕込み、攪拌することで、単量体乳化液を得た。
[0108] 次いで、温度計、攪拌装置を備えた重合反応槽に、純水170.853部、および、上記にて得られた単量体乳化液2.98部を投入し、窒素気流下で温度12℃まで冷却した。次いで、重合反応槽中に、上記にて得られた単量体乳化液145.85部、還元剤としての硫酸第一鉄0.00033部、還元剤としてのアスコルビン酸ナトリウム0.264部、および、重合開始剤としての2.85重量%の過硫酸カリウム水溶液7.72部(過硫酸カリウムの量として0.22部)を3時間かけて連続的に滴下した。その後、重合反応槽内の温度を23℃に保った状態にて、1時間反応を継続し、重合転化率が95%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを添加して重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
[0109] そして、重合により得られた乳化重合液100部に対し、老化防止剤としての3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(商品名「Irganox 1076」、BASF社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計(すなわち、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、フマル酸モノn−ブチルの合計)100部に対して1部)、ポリエチレンオキシド(重量平均分子量(Mw)=10万)0.011部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.039部)、および滑剤としてのポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸(商品名「フォスファノール RL−210」、重量平均分子量:約500、東邦化学工業社製)0.075部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.25部)を混合することで混合液を得た。そして、得られた混合液を凝固槽に移し、この混合液100部に対して、工業用水60部を添加して、85℃に昇温した後、温度85℃にて、混合液を撹拌しながら、凝固剤としての硫酸ナトリウム3.3部(混合液に含まれる重合体100部に対して11部)を連続的に添加することにより、重合体を凝固させ、これによりアクリルゴム(A1)の含水クラムを得た。
[0110] 次いで、上記にて得られた含水クラムの固形分100部に対し、工業用水194部を添加し、凝固槽内で、15℃、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの水洗を行った。なお、本製造例では、このような水洗を4回繰り返した。
[0111] 次いで、上記にて水洗を行った含水クラムの固形分100部に対し、工業用水194部および濃硫酸0.13部を混合してなる硫酸水溶液(pH=3)を添加し、凝固槽内で、15℃、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの酸洗を行った。なお、酸洗後の含水クラムのpH(含水クラム中の水のpH)を測定したこところ、pH=3であった。次いで、酸洗を行った含水クラムの固形分100部に対し、純水194部を添加し、凝固槽内で、15℃、5分間撹拌した後、凝固槽から水分を排出させることで、含水クラムの純水洗浄を行い、純水洗浄を行った含水クラムを、熱風乾燥機にて110℃で1時間乾燥させることにより、固形状のアクリルゴム(A1)を得た。
[0112] 得られたアクリルゴム(A1)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は31、アクリルゴム(A1)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A1)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A1)について、アクリルゴム(A1)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0113]〔製造例2〕
アニオン性界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.709部から0.624部に、ノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.82部から1.5部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。そして、得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1同様にして、固形状のアクリルゴム(A2)を得た。
[0114] 得られたアクリルゴム(A2)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A2)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A2)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A2)について、アクリルゴム(A2)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0115]〔製造例3〕
アニオン性界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.709部から0.567部に、ノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.82部から1.4部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。そして、得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1同様にして、固形状のアクリルゴム(A3)を得た。
[0116] 得られたアクリルゴム(A3)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は34、アクリルゴム(A3)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A3)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A3)について、アクリルゴム(A3)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0117]〔製造例4〕
アニオン性界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの使用量を0.709部から0.567部に、ノニオン性界面活性剤としてのポリオキシエチレンドデシルエーテルの使用量を1.82部から1.4部に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様にして、単量体乳化液を得た。
[0118] 次いで、温度計、攪拌装置を備えた重合反応槽に、純水179部、上記にて得られた単量体乳化液2.98部を投入し、窒素気流下で温度12℃まで冷却した。次いで、重合反応槽に、還元剤としての硫酸第一鉄0.00033部、還元剤としてのホルムアルデヒドスルホネートナトリウム0.264部、および重合開始剤としての過硫酸カリウム0.22部を一括で投入した後、重合反応槽中に、上記にて得られた単量体乳化液145.29部を3時間かけて連続的に滴下し、その後、重合反応槽内の温度を23℃に保った状態にて、1時間反応を継続し、重合転化率が90%に達したことを確認し、重合停止剤としてのハイドロキノンを添加して重合反応を停止し、乳化重合液を得た。
[0119] そして、上記にて得られた乳化重合液に対し、製造例1と同様にして、老化防止剤および滑剤を添加し、混合することで混合液を得て、得られた混合液に対して同様にして凝固操作を行うことで、アクリルゴム(A4)の含水クラムを得て、得られた含水クラムについて、同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A4)を得た。
[0120] 得られたアクリルゴム(A4)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は31、アクリルゴム(A4)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A4)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A4)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0121]〔製造例5〕
製造例3と同様にして得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1と同様にして、乳化重合液を得た。そして、得られた乳化重合液に対し、製造例1と同様にして、老化防止剤および滑剤を添加し、混合することで混合液を得て、得られた混合液に対して同様にして凝固操作を行うことで、アクリルゴム(A5)の含水クラムを得た。
[0122] 次いで、水洗の回数を4回から2回に変更した以外は、製造例1と同様にして、水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A5)を得た。得られたアクリルゴム(A5)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A5)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A5)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A5)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0123]〔製造例6〕
製造例3と同様にして得られた単量体乳化液を使用した以外は、製造例1と同様にして、乳化重合液を得た。そして、得られた乳化重合液に対し、製造例1と同様にして、老化防止剤および滑剤を添加し、混合することで混合液を得て、得られた混合液に対して同様にして凝固操作を行うことで、アクリルゴム(A6)の含水クラムを得た。
[0124] 次いで、水洗の回数を4回から1回に変更した以外は、製造例1と同様にして、水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A6)を得た。得られたアクリルゴム(A6)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は32、アクリルゴム(A6)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A6)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A6)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0125]〔製造例7〕
凝固操作を行う際に用いる凝固剤として、硫酸ナトリウム3.3部に代えて、硫酸マグネシウム3.3部を使用した以外は、製造例3と同様にして、アクリルゴム(A7)の含水クラムを得た。次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A7)を得た。
[0126] 得られたアクリルゴム(A7)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A7)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A7)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A7)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0127]〔製造例8〕
凝固操作を行う際に用いる凝固剤として、硫酸ナトリウム3.3部に代えて、塩化カルシウム3.3部を使用した以外は、製造例3と同様にして、アクリルゴム(A8)の含水クラムを得た。次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A8)を得た。
[0128] 得られたアクリルゴム(A8)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は35、アクリルゴム(A8)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A8)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A8)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0129]〔製造例9〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する老化防止剤として、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル0.3部に代えて、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−6−メチルフェノール(商品名「Irganox 1520L」、BASF社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して1部)を使用した以外は、製造例3と同様にして、アクリルゴム(A9)の含水クラムを得た。
[0130] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A9)を得た。得られたアクリルゴム(A9)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は34、アクリルゴム(A9)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A9)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A9)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0131]〔製造例10〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する老化防止剤として、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル0.3部に代えて、2−メルカプトベンズイミダゾール(商品名「ノクラック MB」、大内新興化学工業社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して1部)を使用した以外は、製造例3と同様にして、アクリルゴム(A10)の含水クラムを得た。
[0132] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A10)を得た。得られたアクリルゴム(A10)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A10)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A10)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A10)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0133]〔製造例11〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する老化防止剤として、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル0.3部に代えて、4, 4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック CD」、大内新興化学工業社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して1部)を使用した以外は、製造例3と同様にして、アクリルゴム(A11)の含水クラムを得た。
[0134] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A11)を得た。得られたアクリルゴム(A11)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は32、アクリルゴム(A11)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A11)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A11)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0135]〔製造例12〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する老化防止剤として、3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル0.3部に代えて、モノ(又はジ、又はトリ)(α−メチルベンジル)フェノール(商品名「ノクラック SP」、大内新興化学工業社製)0.3部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して1部)を使用した以外は、製造例1と同様にして、アクリルゴム(A12)の含水クラムを得た。
[0136] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A12)を得た。得られたアクリルゴム(A12)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は31、アクリルゴム(A12)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A12)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A12)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0137]〔製造例13〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する滑剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸0.075部に代えて、高級脂肪酸(商品名「MoldwizInt21G」、巴工業社製)0.075部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.25部)を使用した以外は、製造例1と同様にして、アクリルゴム(A13)の含水クラムを得た。
[0138] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A13)を得た。得られたアクリルゴム(A13)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A13)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A13)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A13)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0139]〔製造例14〕
重合により得られた乳化重合液100重量部に対して配合する滑剤として、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸0.075部に代えて、高級脂肪酸(商品名「MoldwizInt21G」、巴工業社製)0.075部(乳化重合液を製造する際に用いた仕込みの単量体の合計100部に対して0.25部)を使用するとともに、凝固操作を行う際に用いる凝固剤として、硫酸ナトリウム3.3部に代えて、塩化ナトリウム3.3部を使用した以外は、製造例12と同様にして、アクリルゴム(A13)の含水クラムを得た。
[0140] 次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A14)を得た。得られたアクリルゴム(A14)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A14)の回収率は100%であり、アクリルゴム(A14)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A14)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0141]〔製造例15〕
凝固操作を行う際に用いる凝固剤としての硫酸ナトリウムの使用量を3.3部から0.3部(混合液に含まれる重合体100部に対して1部)に変更した以外は、製造例13と同様にして、アクリルゴム(A15)の含水クラムを得た。次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A15)を得た。
[0142] 得られたアクリルゴム(A15)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A15)の回収率は42%であり、アクリルゴム(A15)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A15)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
[0143]〔製造例16〕
凝固操作を行う際に用いる凝固剤としての硫酸ナトリウムの使用量を3.3部から0.6部(混合液に含まれる重合体100部に対して2部)に変更した以外は、製造例13と同様にして、アクリルゴム(A16)の含水クラムを得た。次いで、得られた含水クラムについて、製造例1と同様にして、4回の水洗、酸洗、純水洗浄および乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴム(A16)を得た。
[0144] 得られたアクリルゴム(A16)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は33、アクリルゴム(A16)の回収率は63%であり、アクリルゴム(A16)の組成は、アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であった。また、アクリルゴム(A16)中における、凝固剤、界面活性剤、滑剤、および老化防止剤の残留量を、上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
・・・
[0147]〔実施例1〕
バンバリーミキサーを用いて、製造例1で得られたアクリルゴム(A1)100部に、クレー(商品名「サティントンクレー5A」、竹原化学工業社製、焼成カオリン)30部、シリカ(商品名「カープレックス1120」、Evonik社製)15部、シリカ(商品名「カープレックス67」、Evonik社製)35部、ステアリン酸2部、エステル系ワックス(商品名「グレックG−8205」、大日本インキ化学社製)1部、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラック CD」、大内新興化学工業社製)2部、および、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−503」、信越シリコーン社製、シランカップリング剤)1部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカーバメート(商品名「Diak#1」、デュポンダウエラストマー社製、脂肪族多価アミン化合物)0.6部、および1,3−ジ−o−トリルグアニジン(商品名「ノクセラーDT」、大内新興化学工業社製、架橋促進剤)2部を配合して、混練することにより、アクリルゴム組成物を得た。
[0148] そして、得られたアクリルゴム組成物を用いて、上記方法にしたがい、常態物性、熱老化試験、圧縮永久歪み、および耐水性の各測定・評価を行った。
結果を表2に示す。
[0149]〔実施例2〜16〕
製造例1で得られたアクリルゴム(A1)に代えて、製造例2〜16で得られたアクリルゴム(A2)〜(A16)をそれぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に測定・評価を行った結果を表2に示す。
・・・
[0151]
[表1]

(*1)単量体乳化液作製のための配合剤の添加量は、仕込み単量体100部に対する配合量で示した。
(*2)凝固前の乳化重合液に添加した配合剤の添加量は、乳化重合液100部に対する配合量で示した。
(*3)凝固工程で使用した凝固剤の添加量は、乳化重合液に、老化防止剤、ポリエチレンオキシド、および滑剤を添加することにより得られた混合液100部に対する配合量で示した。



「[請求項1] 凝固剤の残留量が、10重量ppm以上、10,000重量ppm以下であるアクリルゴム。
・・・
[請求項6] 乳化剤の残留量が、10重量ppm以上、22,000重量ppm以下である請求項1〜5のいずれかに記載のアクリルゴム。」

甲2摘記イの製造例1〜16に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「アクリルゴムであって、その組成はアクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であり、アクリルゴム中、凝固剤の残留量が最小で216重量ppm、最大で8000重量ppmであり、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤)の残留量が最小で3791重量ppm、最大で5120重量ppmであり、ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)の残留量が最小で12021重量ppm、最大で16380重量ppmであり、老化防止剤の残留量が最小で0.94重量%、最大で1重量%であり、滑剤の残留量が最小で0.21重量%、最大で0.27重量%である、アクリルゴム」(以下、「甲2発明A」という。)

(4) 甲3〜9の記載
甲3〜9には、以下の記載がある。
ア 甲3
「【請求項1】
カルボキシル基含有アクリルゴムと、
フッ素系界面活性剤とを含有し、
前記フッ素系界面活性剤がノニオン性フッ素系界面活性剤である、アクリルゴム組成物。」
「【実施例】
【0084】
・・・
【0088】
<カルボキシル基含有アクリルゴムの製造>
[製造例1]
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、メタクリル酸メチル10部、アクリル酸エチル4.5部、アクリル酸n−ブチル65部、アクリル酸2−メトキシエチル19部及びマレイン酸モノn−ブチル1.5部を仕込み、減圧脱気及び窒素置換を2度行って酸素を十分に除去した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.005部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム溶液で凝固させ、水洗、乾燥してアクリルゴムを得た。アクリルゴムの組成は、メタクリル酸メチル単位10重量%、アクリル酸エチル単位4.5重量%、アクリル酸n−ブチル単位65重量%、アクリル酸2−メトキシエチル単位19重量%及びマレイン酸モノn−ブチル単位1.5重量%であった。
【0089】
<アクリルゴム組成物の調製>
[実施例1]
バンバリーミキサーを用いて、製造例1で得られたアクリルゴム100部に、HAFカーボンブラック(商品名「シースト3」、東海カーボン社製、充填剤、「シースト」は登録商標)60部、ステアリン酸2部、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド系界面活性剤(商品名:サーフロンS−611、AGCセイミケミカル社製、ノニオン性フッ素系界面活性剤、「サーフロン」は登録商標)1部、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名:ノクラックCD、大内新興化学工業社製、老化防止剤、「ノクラック」は登録商標)2部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカーバメート(商品名:Diak#1、デュポンエラストマー社製、架橋剤)0.6部、および1,3−ジ−o−トリルグアニジン(商品名:ノクセラーDT、大内新興化学工業社製、架橋促進剤、「ノクセラー」は登録商標)2部を配合して、混練することにより、アクリルゴム組成物を得た。得られたアクリルゴム組成物を用いて上述した方法によりアクリルゴム架橋物の試験片を得て、ゴム架橋物における耐加水分解性、耐圧縮永久歪み性、及び架橋性ゴム組成物における低粘着性の各評価を行った。その結果を表1に示す。なお、比重は、フッ素系界面活性剤そのもの比重である。」

イ 甲4
「(A)一般式RCOOCH=CH2(但しRは炭素数1〜4のアルキル基)で表わされるカルボン酸ビニル0〜50重量%、
(B)エチレン0〜30重量%及び
(C)一般式CH2=CHCOOR1(但しR1は炭素数1−8のアルキル基)で表わされるアクリル酸アルキルエステル及び/又は一般式CH2=CHCOOR2OR3(但しR2は炭素数1−4のアルキレン基、R3は炭素数1−4のアルキル基)で表わされるアクリル酸アルコキシアルキルエステル10〜100重量%よりなるモノマーの合計100重量部及びこれに対して
(D) 一般式

(但しR4は炭素数1−4のアルキレン基、R5は炭素数1−4のアルキル基)で表わされるマレイン酸モノアルコキシアルキルエステル2〜15重量部の組成比よりなる共重合体エラストマーをゴム成分として含有する、良好な加硫特性を有するゴム組成物。」(特許請求の範囲)
「本発明の目的は加硫速度が大幅に改良され、後加硫が不要であるかまたは極めて短時間でよく、且つスコーチの傾向がなく、加工安定性及び貯蔵安定性にすぐれたゴム組成物を提供することにある。」(2頁右上欄9〜13行)
「実施例1
酢酸ビニル、エチレン、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、モノメトキシエチルマレイン酸を含むポリマーを通常の乳化重合法により調製した。
重合処方は次の通りである。



1)ナトリウムホルムアルデヒドスルホキサレート
2)硫酸第一鉄アンモニウム
3)t−ブチルハイドロパーオキサイド0.5%水溶液
130lオートクレーブに、ポリビニルアルコール(以下PVAとする)1.4kg、SFS86.4kg、酒石酸8.64g、モール塩4.32g、酢酸ナトリウム57.6gを水43.2kgに溶解して仕込み、次に攪拌しながら酢酸ビニル7.2kgおよびモノメトキシエチルマレイン酸1.35kgを加え乳化させる。その後、オートクレーブ内を完全に窒素ガスで置換した後エチレンガスを計量し、5.2kg圧入する。55℃に昇温した後、エチルアクリレート11.5kg、n−ブチルアクリレート10.1kg、モノメトキシエチルマレイン酸650gを混合した液とパーオキサイド(t−ブチルハイドロパーオキサイド)0.5%水溶液を別々の注入口より6〜10時間にわたって、加えて重合を進行させる。
得られた乳濁液は10%(NH4)2SO4水溶液を用いて凝固させた。単離させたポリマーを水で充分に洗浄した後乾燥させた。
これらのゴムに対して次に示す配合処方により、6インチロールにて、ロール温度40℃で混練りを行ない、170℃、20分のプレス加硫を行なって、15cm平方、厚さ2mmの加硫板を作製し、物性を測定した。
・・・

」(4頁右下欄1行〜5頁右上欄9行)

ウ 甲5
「ノニオン性アクリルゴムエマルジョンに無機中性塩を添加し加温することによりアクリルゴムを析出させ、次いで該アクリルゴムを所望なれば水洗し、次いで乾燥することを特徴とするアクリルゴムの製造方法」(特許請求の範囲)
「本発明は叙上の欠点を改良し、細かい均一な粒子のアクリルゴムを安定に得られるような製造方法の提供を目的とする。」(1頁右下欄19〜2頁左上欄1行)
「実施例3
実施例1と同様な重合容器に下記の組成の混合物を注加する。


上記混合物を撹拌しつゝ80℃に加温して窒素雰囲気中で4時間重合を行なう。重合後ポリオキシエチレンオクチルエステルを2部添加してノニオン性アクリルゴムエマルジョン(エマルジョンCとする)が得られる。
エマルジョンC100部に水200部を添加し、更に硝酸アンモニウムを5部添加する。75℃に加熱撹拌すればアクリルゴムの細かい粒子が生成する。この粒子を捕集して温水で4回洗滌し後85℃3時間の通風乾燥を行なう。」(4頁右上欄9行〜左下欄8行)

エ 甲6
「実施例1
エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸およびビニルベンジルクロライドを含むポリマーを標準乳濁重合法により調製した。使用した処方は、次の通りである:


1)アルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エチルホスフェート
2)重合したアルキルナフタリンスルホン酸
3)アセトン10mlに加えた触媒1.4ml
4)ナトリウムホルムアルデヒドスルホキサレート
5)5重量%水溶液
6)ナトリウムフェリックエチレンジアミンテトラ酢酸
7)5重量%水溶液
8)0.2重量%水溶液
GafacPE510を水200gに混合し、pHを6.5に調整した。エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸およびビニルベンジルクロライドを一緒に混合した。予めからにし窒素ガスで置換した容器に水2200gを入れた。Gafac溶液l/2を加え、次いでモノマー溶液190g、Daxad17および硫酸ナトリウムを加えた。反応器中の混合物を17℃に冷却し、ヒドロパーオキサイド、SFS、Saquestrene NaFeおよびNa2S2O4を加えて反応を開始した。重合温度を約20℃〜25℃に維持した。残りのモノマー溶液を7時間かけて反応器中に入れた。反応を開始してから3.5時間後に残りのGafac溶液1/2を加えた。全重合時間は10時間であった。ポリマーへのモノマー変換率は、95%以上であつた。25重量%のNaCl水溶液およびメタノールを用いて、乳濁液を凝固させた。単離したポリマーを水で洗浄し、乾燥させた。ポリマーは、生ポリマーのムーニー値(ML−4、212゜F)が約30のゴムであった。」(7頁左下欄2行〜8頁左上欄8行)

オ 甲7
「[0001] 本発明は、アクリル共重合体、およびその架橋物に関する。以下では、上記架橋物により構成される材料を「ゴム材料」または「架橋ゴム材料」ということがある。」
「[0033] 乳化重合による重合の場合には、通常の方法を用いればよく、重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤、重合停止剤等は一般的に使用される従来公知のものが使用できる。
[0034]本発明で用いられる乳化剤は特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられ、アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルまたはその塩、脂肪酸塩等があげられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。アニオン性乳化剤としてはドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミンを用いてもよい。」
「[0069][実施例1]
(アクリル共重合体Aの製造)
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水200重量部、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル1.7重量部、モノマーとしてアクリル酸エチル41.4重量部、アクリル酸n−ブチル45.4重量部、メタクリル酸n−ブチル11.8重量部、およびフマル酸モノエチル1.4重量部を仕込み、減圧による脱気および窒素置換を繰り返して酸素を十分除去した後、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部および過硫酸カリウム0.1重量部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続し、ヒドロキノン0.0075重量部を添加して重合を停止した。得られた乳化重合液を硫酸ナトリウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥してアクリル共重合体Aを得た。」

カ 甲8
「【請求項1】エチレン単量体単位0.1〜10重量%、架橋席モノマー単位0〜10重量%とアクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチル単量体単位99.9〜80重量%からなり、アクリル酸エチルとアクリル酸ブチルの合計に占めるアクリル酸エチルの割合が60〜100重量%であることを特徴とするアクリル系ゴム。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の課題を解決した、耐油性に優れ、更に耐寒性および耐熱性のバランスの優れたアクリル系ゴムおよびその組成物を提供するものである。」
「【0023】
【実施例】
・・・
実施例1〜3
内容積40リットルの耐圧反応容器に、表1に示した共重合体の組成比が得られるような割合でアクリル酸エチルとアクリル酸n−ブチルとの混合液11kg、部分けん化ポリビニルアルコール4重量%の水溶液17kg、酢酸ナトリウム22g、グリシジルメタクリレート120gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、圧力を5〜40kg/cm2に調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、別途注入口より、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液を圧入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応が終了した。生成した重合液にホウ酸ナトリウム水溶液を添加して重合体を固化し、脱水および乾燥を行って生ゴムとした。
・・・
【表1】



キ 甲9
「【請求項1】 エチレン単量体単位0.1〜5重量%未満、下記の一般式(1)で表されるマレイン酸モノアルキルエステル及び/または下記の一般式(2)で表されるマレイン酸モノアルコキシアルキルエステル単位1〜12重量%とアクリル酸アルキルエステル及び/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位98.9〜83重量%からなるアクリル系ゴムのラテックスからスクリュー押出機型の脱水・乾燥装置の中で凝固、脱水、洗浄及び乾燥を連続的に行うことにより乾燥ゴムを製造することを特徴とするアクリル系ゴムの製造方法。
【化1】

(式中のR1は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【化2】

(式中のR2は炭素数1〜4のアルキレン基、R3は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)」
「【0035】実施例1
内容積40リットルの耐圧反応容器に、表1に示した共重合体の組成比が得られるような割合でアクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル及びマレイン酸モノブチルとの混合液11.8Kg、部分けん化ポリビニルアルコール4重量%の水溶液17Kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、攪拌機であらかじめよく混合し、均一懸濁液を作製した。槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、圧力を20Kg/cm2に調整した。攪拌を続行し、槽内を55℃に保持した後、別途注入口よりt−ブチルヒドロペルオキシド水溶液を圧入して重合を開始させた。反応中槽内温度は55℃に保ち、6時間で反応が終了した。析出・乾燥は図1に示す装置を用い、固形分35重量%に調整した上記の重合後のラテックスを貯槽1よりその供給量を60L/hr、ホウ砂及び硫酸アンモニウムの混合水溶液(ホウ砂2重量%、硫酸アンモニウム2重量%)を貯槽3から40L/hrでそれぞれポンプ2及び4より供給した。供給開始と共に脱水・乾燥装置5のスクリュー回転数を徐々に150rpmまで上げ、ベント用ケーシングJ、Lのベント孔V1、V2に直結した真空ポンプを作動させ、圧力は300Torrに調整した。開始後10分で定常状態となり、ケーシングMの先端より、水分0.4重量%、色相は無色の共重合ポリマーが20Kg/hrで得られた。なお、ケーシングの温度は次のように設定し、また温度80℃の温水をケーシングFの圧入孔P及びケーシングCの圧入孔Qよりそれぞれ100L/hr、50L/hrで供給した。」

(5)甲1を主引例とした場合についての検討
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
a 甲1発明Aの「アクリルゴム」は、「アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%」という組成であるところ、上記「アクリル酸エチル単位」は、炭素数2のアルキル基を有するアルキルアクリレートであるアクリル酸エチルに由来する単位であり、上記「アクリル酸n−ブチル単位」は、炭素数4のアルキル基を有するアルキルアクリレートであるアクリル酸n−ブチルに由来する単位である。また、上記「フマル酸モノn−ブチル単位」は、フマル酸モノn−ブチルに由来する単位であるところ、これは、甲1において、架橋性単量体として挙げられた化合物であり(甲1摘記ア[0018]〜[0020])、カルボキシル基を有する。
そうすると、甲1発明Aの、「組成」が「アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であ」る、「アクリルゴム」は、本件発明1の、「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって」、「アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み」、「架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであ」る「アクリルゴム」に相当する。
b 甲1発明Aの「ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)」は、本件発明1の「ノニオン系乳化剤」に相当する。
c 上記a及びbより、本件発明1と甲1発明Aとは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中にノニオン系乳化剤を含む、アクリルゴム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
ノニオン系乳化剤の含有量に関し、本件発明1では「0.5〜1.1質量%」であるのに対して、甲1発明Aでは、「最小で11503重量ppm、最大で13500重量ppm」である点

(イ)相違点1についての判断
a 相違点1は、ノニオン系乳化剤の含有量に関するものであり、「0.5〜1.1質量%」と、「最小で11503重量ppm、最大で13500重量ppm」とは明らかに異なるから、相違点1は、実質的な相違点である。
b 次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得るものであったかについて検討する。
(a)甲1は、アニオン性乳化剤の含有量を、10重量ppm以上、4,500重量ppm以下とした上で、さらに、ノニオン性乳化剤の含有量を10重量ppm以上、20、000重量ppm以下としたアクリルゴムを開示するものであり(甲1摘記ウ請求項1、2)、甲1には、アクリルゴム中におけるアニオン性乳化剤の残留量(含有量)を4,500重量ppm以下に抑えることにより、ゴム架橋物が、引張強度が高く、耐圧縮永久歪み性、および耐水性に優れたものとなることを見出したこと(甲1摘記ア[0034])、アクリルゴム中に含まれるノニオン性乳化剤の残留量は、好ましくは20,000重量ppm以下であり、より好ましくは18,000重量ppm以下であり、さらに好ましくは15,000重量ppm以下、特に好ましくは13,000重量ppm以下であり、下限は、好ましくは10重量ppm以上であり(以下、「好ましくは20,000重量ppm以下であり、より好ましくは18,000重量ppm以下であり、さらに好ましくは15,000重量ppm以下、特に好ましくは13,000重量ppm以下であり、下限は、好ましくは10重量ppm以上」との範囲を、「甲1好適範囲」という。)、ノニオン性乳化剤の残留量を甲1好適範囲とすることにより、引張強度、耐圧縮永久歪み性、および耐水性の向上効果をより高めることができることが記載されている(甲1摘記ア[0079])。
すなわち、甲1には、アクリルゴム中のアニオン性乳化剤の残留量を10重量ppm以上、4,500重量ppm以下とした上で、ノニオン性乳化剤の残留量を甲1好適範囲とすることにより、引張強度、耐圧縮永久歪み性、および耐水性の向上効果をより高めることができることが記載されている。
しかしながら、甲1には、ノニオン性乳化剤の残留量を、甲1好適範囲のうち、特に「0.5〜1.1質量%」とすることについては記載も示唆もされておらず、当業者が、甲1発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の残留量を「0.5〜1.1質量%」とすることについて、動機付けられるとはいえない。
(b)これに対して、本件発明1は、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を「0.5〜1.1質量%」と特定するものであるところ、本件明細書には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量に関し、耐銅害性に優れる観点から0.5質量%以上であること、耐水性に優れる観点から2質量%以下であること、及び、耐水性及び耐銅害性を両立できる観点から0.5〜2質量%であることが記載されている(【0046】、【0047】)。 これらの記載からみれば、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」との数値範囲は、耐水性及び耐銅害性を両立できるという観点から決定されたものであり、耐水性及び耐銅害性を両立できるという技術的意義を有するものと理解できる
(c)そうすると、甲1に甲1好適範囲が記載されていたとしても、上記(a)のとおり、当業者が、甲1発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の含有量を、甲1好適範囲のうちの、特に「0.5〜1.1質量%」とすることについて、動機付けられたとはいえないし、上記(b)のとおり、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」との数値範囲は、耐水性及び耐銅害性を両立できるという技術的意義を有するものと理解できるところ、甲1には、耐銅害性については何ら記載がないことを合わせ考えれば、甲1発明Aにおいて、単に数値を最適化することにより、ノニオン性乳化剤の含有量を「0.5〜1.1質量%」とすることができるともいえない。
(d)したがって、相違点1に係る事項は、甲1発明A及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、甲2〜甲9の記載をみても、甲1発明Aにおいて、アクリルゴム中のノニオン性乳化剤の残留量を、特に「0.5〜1.1質量%」とすることについて、格別の動機付けを見出すことはできない。
よって、相違点1に係る事項は、甲1発明A及び甲1〜9の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)本件発明1の効果について
a 上記(イ)のとおり、相違点1に係る事項は、甲1発明A及び甲1〜9の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものではないから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないところ、甲1好適範囲は、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」なる数値範囲を包含するから、以下、念のため、本件発明1の効果が、甲1発明A及び甲1〜甲9の記載から予測をすることができたものであるかについて検討する。
b 本件発明1は、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができる。」という効果を奏するものであり(【0011】)、ここで、耐水性及び耐銅害性を両立するとは、いずれか一方を過度に悪化させない、ということを意味する(【0006】)。
実際、実施例及び比較例の結果を記載した表1〜4をみると、ノニオン系乳化剤の含有量が大きくなるにつれて耐水性は低下し、耐銅害性は向上する傾向がみてとれ、さらに、ノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜1.1質量%」の範囲にあるものは、耐水性及び耐銅害性のいずれかあるいは両方が、比較例のものほど悪化することはなく、両立されているものといえる。
c これに対して、甲1には、耐銅害性については記載も示唆もなく、耐水性と耐銅害性が両立できることについての記載も示唆もない。また、甲2〜甲9をみても、耐水性と耐銅害性の両立について、記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1の、耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができるという効果は、甲1発明A及び甲1〜甲9から、当業者が予測できたものではない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
さらに、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明Aとを対比する。
a 上記ア(ア)a及びbと同様の理由及び、甲1発明Aの「アクリル酸エチル単位」、及び「アクリル酸n−ブチル単位」は、それぞれ、エチルアクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位であることから、甲1発明Aの、「組成」が「アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%であ」る、「アクリルゴム」は、本件発明2の、「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって」、「アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み」、「架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであ」り、「アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む」「アクリルゴム」に相当する。
b 甲1発明Aの「ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)」は、本件発明2の「ノニオン系乳化剤」に相当し、甲1発明Aにおける、「ポリオキシエチレンドデシルエーテル」の含有量である、「最小で11503重量ppm、最大で13500重量ppm」は、それぞれ、略1.15重量%、1.35重量%と計算され、いずれの値も、本件発明2におけるアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量である「0.5〜2質量%」に包含される。
c そうすると、本件発明2と甲1発明Aとは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、
前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、アクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
アクリルゴムに関し、本件発明2では「アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲1発明Aでは、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤)の残留量が「最小で365重量ppm、最大で4276重量ppm」である点

(イ)相違点2についての判断
a 相違点2は、アクリルゴムから、アニオン性乳化剤を含むものを除くか否かに関するものであり、この点について、本件発明2と甲1発明Aとは明らかに異なるから、相違点2は、実質的な相違点である。
b 次に、相違点2に係る事項が、当業者が容易に想到し得るものであったかについて検討する。
(a)上記ア(イ)b(a)のとおり、甲1には、アクリルゴム中のアニオン性乳化剤の残留量を10重量ppm以上、4,500重量ppm以下とした上で、ノニオン性乳化剤の残留量を甲1好適範囲とすることが記載されているところ、アクリルゴムの製造方法としても、「乳化重合工程は、アニオン性乳化剤の存在下、アクリルゴムを形成するための単量体を乳化重合する」(甲1摘記ア[0038])と記載されていて、アニオン性乳化剤を使用せずにアクリルゴムを製造することについて記載も示唆もされておらず、製造されたアクリルゴムがアニオン性乳化剤を全く含まないようにすることについても記載も示唆もされていないから、甲1発明Aにおいて、アクリルゴムから、アニオン性乳化剤を含むものを除くことが動機付けられるとはいえない。
(b)むしろ、甲1の、「乳化作用に優れるという観点、乳化重合時における重合装置(たとえば、重合槽)への重合による凝集物の付着による汚れの発生を有効に防止することができるという観点、さらには、重合により得られる乳化剤重合液の凝固性を向上させ、これにより比較的少ない凝固剤量にて凝固を行うことができるという観点より、このような乳化剤として、アニオン性乳化剤を用いるものである。」(甲1摘記ア[0034])という記載及び「アニオン性乳化剤の残留量が500重量ppm以上とすることにより、アクリルゴムに含有される架橋性基の種類によっては(たとえば、架橋性基がハロゲン原子である場合等)、引張強度をより高めることができる」(甲1摘記ア[0034])との記載からみれば、甲1発明Aにおいて、アクリルゴムを、アニオン性乳化剤を含まないものとすることについては、阻害要因があるともいえる。
(c)したがって、相違点2に係る事項は、甲1発明A及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、甲2〜甲9をみても、甲1発明Aにおいて、アクリルゴムから、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除くことの動機付けとなるに足りる記載は見当たらない。
よって、相違点2に係る事項は、甲1発明A及び甲1〜甲9の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)本件発明2の効果について
本件発明2は、本件発明1と同様に、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができる。」という効果を奏するものである(【0011】)ところ、上記ア(ウ)と同様の理由により、上記効果は、甲1発明A及び甲1〜甲9の記載から、当業者が予測できたものではない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1に記載された発明ではない。
さらに、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明3〜14について
本件発明3〜8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明9〜14は、本件発明2を直接的又は間接的に引用するものであるから、これらの発明も、本件発明1及び2と同様に、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)甲2を主引例とした場合についての検討
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明Aとを対比する。
a 甲2発明Aの、「組成」が、「アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%」である「アクリルゴム」は、上記(5)ア(ア)aと同様の理由により、本件発明1の、「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって」、「アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み」、「架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであ」る「アクリルゴム」に相当する。
b 甲2発明Aの「ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)」は、本件発明1の「ノニオン系乳化剤」に相当する。
c 上記a及びbより、本件発明1と甲2発明Aとは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中にノニオン系乳化剤を含む、アクリルゴム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
ノニオン系乳化剤の含有量に関し、本件発明1では「0.5〜1.1質量%」であるのに対して、甲2発明Aでは、「最小で12021重量ppm、最大で16380重量ppm」である点。

(イ)相違点3についての判断
a 相違点3は、ノニオン系乳化剤の含有量に関するものであり、「0.5〜1.1質量%」と「最小で12021重量ppm、最大で16380重量ppm」とは明らかに異なるから、相違点3は実質的な相違点である。
b 次に、相違点3に係る事項が、当業者が容易に想到し得るものであったかについて検討する。
(a)甲2は、凝固剤の残留量を、10重量ppm以上、10,000重量ppm以下であるとした上で、乳化剤の残留量を、10重量ppm以上、22,000重量ppm以下としたアクリルゴムを開示する(甲2摘記ウ請求項1、6)。
そして甲2には、アクリルゴムに残留する凝固剤の量を特定量範囲とすることにより、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴムを提供するという目的を達成できること(甲2摘記ア[0006]、[0007]、[0034])、アクリルゴム中に含まれる乳化剤の残留量は、22,000重量ppm以下であることが好ましく、20,000重量ppm以下であることがより好ましく、18,000重量ppm以下であることがさらに好ましく、17,000重量ppm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは10重量ppm以上、より好ましくは200重量ppm以上、さらに好ましくは500重量ppm以上であり(以下、「22,000重量ppm以下であることが好ましく、20,000重量ppm以下であることがより好ましく、18,000重量ppm以下であることがさらに好ましく、17,000重量ppm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは10重量ppm以上、より好ましくは200重量ppm以上、さらに好ましくは500重量ppm以上」との範囲を、「甲2好適範囲」という。)、乳化剤の残留量を甲2好適範囲とすることにより、ゴム架橋物とした場合における耐水性をより高めることができることが記載されている(甲2摘記ア[0037])。
さらに、乳化剤としてノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤などを挙げることができ、中でも、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を組み合わせて用いることが好ましく、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いることにより、乳化重合時における重合装置(たとえば、重合槽)へのポリマーなどの付着による汚れの発生を有効に抑制しつつ、凝固工程において用いる凝固剤の使用量を低減することが可能となり、結果として、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤量を低減することができることや、乳化作用を高めることができるため、乳化剤自体の使用量をも低減することができ、結果として、最終的に得られるアクリルゴム中に含まれる乳化剤の残留量を低減することができ、得られるアクリルゴムの耐水性をより高めることができることが記載されている(甲2摘記ア[0043]、[0044])。
すなわち、甲2には、凝固剤の残留量を、10重量ppm以上、10,000重量ppm以下とした上で、アクリルゴム中の乳化剤の残留量を甲2好適範囲とすることにより、耐水性をより高めることができること、乳化剤として、ノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤などを挙げることができるが、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を組み合わせて用いることにより、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤量を低減することができ、乳化剤の残留量も低減することができるため好ましいことが記載されている。
しかしながら、甲2は、ノニオン性乳化剤に限らない、乳化剤全体の残留量の好ましい数値として甲2好適範囲を記載しているのであって、ノニオン性乳化剤の残留量がどの程度であれば好ましいかについての記載するものではなく、ましてや、甲2発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の含有量を、「0.5〜1.1質量%」とすることについては記載も示唆もされていないから、当業者が、甲2発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の残留量を「0.5〜1.1質量%」とすることについて動機付けられるとはいえない。
(b)これに対して、上記(5)ア(イ)b(b)のとおり、本件明細書の記載からみれば、本件発明1の、「0.5〜1.1質量%」との数値範囲は、耐水性及び耐銅害性を両立できるという技術的意義を有するものと理解できる。
(c)そうすると、上記(a)のとおり、当業者が、甲2発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の残留量を「0.5〜1.1質量%」とすることについて動機付けられるとはいえないし、上記(b)のとおり、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」との数値範囲は、耐水性及び耐銅害性を両立できるという技術的意義を有するものと理解できるところ、甲2には、耐銅害性については何ら記載がないことを合わせ考えれば、甲2発明Aにおいて、単に数値を最適化することにより、ノニオン性乳化剤の含有量を「0.5〜1.1質量%」とすることができるともいえない。
(d)したがって、相違点3に係る事項は、甲2発明A及び甲2の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、甲1、甲3〜甲9の記載をみても、甲2発明Aにおいて、アクリルゴム中のノニオン性乳化剤の残留量を、特に「0.5〜1.1質量%」とすることについて、格別の動機付けを見出すことはできない。
よって、相違点3に係る事項は、甲2発明A及び甲1〜9の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)本件発明1の効果について
a 上記(イ)のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないところ、上記(イ)b(a)のとおり、甲2には、乳化剤として、ノニオン性乳化剤が挙げられ、甲2好適範囲は、ノニオン性乳化剤に限らない、乳化剤全体の残留量ではあるものの、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」なる数値範囲を包含するから、以下、念のため、本件発明1の効果が、甲2発明A及び甲1〜甲9の記載から予測をすることができたものであるかについて検討する。
b 上記(5)ア(ウ)bのとおり、本件発明1は、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができる。」という効果を奏するものであり、ここで、耐水性及び耐銅害性を両立するとは、いずれか一方を過度に悪化させない、ということを意味する
c これに対して、甲2には、耐銅害性については記載も示唆もなく、耐水性と耐銅害性が両立できることについての記載も示唆もない。また、甲2〜甲9をみても、耐水性と耐銅害性の両立について、記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1の、耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができるという効果は、甲2発明A及び甲1〜甲9から、当業者が予測できたものではない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。
さらに、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲2発明Aとを対比する。
a 上記ア(ア)aと同様の理由及び甲2発明Aの「アクリル酸エチル単位」及び「アクリル酸n−ブチル単位」は、それぞれ、エチルアクリレート及びブチルアクリレートに由来する単位であることから、甲2発明Aの、「組成」が、「アクリル酸エチル単位49.3重量%、アクリル酸n−ブチル単位49.3重量%、フマル酸モノn−ブチル単位1.4重量%」である「アクリルゴム」は、本件発明2の、「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって」、「アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み」、「架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであ」り、「アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む」「アクリルゴム」に相当する。
b 甲2発明Aの「ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン性乳化剤)」は、本件発明2の「ノニオン系乳化剤」に相当する。
また、甲2発明Aにおける、「ポリオキシエチレンドデシルエーテル」の残留量である、最小で12021重量ppm、最大で16380重量ppmは、それぞれ、略1.20量%、1.64重量%と計算され、いずれの値も、本件発明2におけるアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量である「0.5〜2質量%」に包含される。
c そうすると、本件発明2と甲2発明Aとは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、
前記アクリルゴム中にノニオン系乳化剤を含み、前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、アクリルゴム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
アクリルゴムに関し、本件発明2では「アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲2発明Aでは、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤)の残留量が最小で3791重量ppm、最大で5120重量ppmである点。

(イ)相違点4についての判断
a 相違点4は、アクリルゴムから、アニオン性乳化剤を含むものを除くか否かに関するものであり、この点について、本件発明2と甲2発明Aとは明らかに異なるから、相違点4は、実質的な相違点である。
b 次に、相違点4に係る事項が、当業者が容易に想到し得るものであったかについて検討する。
(a)甲2は、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴムを提供することを目的の一つとして、アクリルゴムに残留する凝固剤の量を特定量範囲とすることにより、上記目的を達成できることを見出したものである(甲2摘記ア[0006]、[0007])ところ、上記ア(イ)b(a)のとおり、甲2には、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を組み合わせて用いることにより、最終的に得られるアクリルゴム中における凝固剤量を低減することができ、乳化剤の残留量も低減することができるため好ましいことが記載されており、実際全ての実施例において、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とが組み合わせて使用されている(甲2摘記イ)。
これらの記載からみれば、甲2の記載に接した当業者は、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴムを提供するという観点から、凝固剤を特定量範囲とすることが必要であること、及び、乳化剤としてノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を組み合わせて用いることにより、アクリルゴム中における凝固剤量を低減することができることを理解するといえるのであって、このような理解にたてば、甲2発明Aにおいて、アニオン性乳化剤を使用しないようにすることは何ら動機付けられない。
(b)したがって、相違点4に係る事項は、甲2発明A及び甲1の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
さらに、甲1及び甲3〜甲9をみても、甲2発明Aにおいて、アクリルゴムから、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除くことの動機付けとなるに足りる記載は見当たらないから、相違点4に係る事項は、甲2発明A及び甲1〜9の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)本件発明2の効果について
上記(5)イ(ウ)のとおり、本件発明2は、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供することができる。」という効果を奏するものであるところ、上記ア(ウ)のとおり、上記効果は、甲2発明A及び甲1〜甲9から、当業者が予測できたものではない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲2に記載された発明ではない。
さらに、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明3〜14について
本件発明3〜8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明9〜14は、本件発明2を直接的又は間接的に引用するから、これらの発明も、本件発明1及び2と同様に、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明及び甲1〜9の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)申立人の主張について
申立人は、令和4年12月7日に提出された意見書において、以下のとおり主張する。
ア 本件発明1に関し、甲1の記載全体をみると、アクリルゴム中に含まれるノニオン性乳化剤の残留量は、2.0000重量%以下、0.0010重量%以上が好ましいことが理解できるから、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%であるとすることは、甲1に記載されている事項と実質的に同一で相違しない(5頁21行〜6頁2行)。

イ 本件発明2に関し、甲2の各請求項には、乳化剤の種類を限定する旨の記載はなく、甲2の記載全体を見ると、「乳化剤としては特に限定されず」(【0042】)と記載されており、アニオン性乳化剤が必須成分であるとの限定はないことが読み取れるから、甲2に記載の発明は、「アニオン性乳化剤を含むアクリルゴム」および「アニオン性乳化剤を含まないアクリルゴム」を両方含む発明であることは明確であり、本件発明2のアクリルゴムと甲2に記載の発明のアクリルゴムは実質的に同一で相違しない(10頁28行〜11頁7行)。

ウ 本件明細書には、ノニオン性乳化剤の含有量の上限を1.1質量%とすることによって、本件発明1の課題である、耐水性と耐銅害性の両立が達成される旨の記載、または耐水性および耐銅害性が特に優れたアクリルゴムが得られる旨の記載はなく、そのように解すべき記載もない。
そして、本件発明1の範囲内である実施例1−1、2−2、3−2の耐水性と耐銅害性のバランスは、本件発明1の範囲外である実施例1−3、実施例2−3、実施例3−3に比べてそれぞれ悪くなっていることからみれば、「ノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%」とする限定は、何ら技術的意義を有さず、単に数値範囲の最適化または好適化したという設計変更にすぎず、当業者の通常の創作能力の範囲内の事項である(6頁29行〜8頁9行)。

エ 参考文献2〜4によれば、ゴムの耐銅害性を向上させようとすることは、古くから当業者にとって自明の課題であり、また、PVAを用いて銅錯体を形成することによりゴムの耐銅害性が向上することは、本件特許の優先日以前に当業者にとって容易に予測できる効果である。
本件明細書の実施例に記載のアクリルゴムは、ノニオン性乳化剤としてPVAを有しているのだから、ゴムに含まれる微量の銅は錯体を形成し、その結果耐銅害性が向上することは、当業者が予測可能な効果であった(8頁10行〜9頁17行)。

オ 本件発明2に関し、特許権者は、「ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いることは、甲2の請求項1で特定された凝固剤の残留量の範囲にまで低減させるための重要な手段である」旨を主張するが、甲2には、凝固剤の残留量を調整する手段として、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いる方法以外の方法も記載されており([0055]、[0062]、[0067]、[0068])、これらの方法によって、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いる方法以外の方法で凝固剤の残留量を特定の範囲に調整することは当業者にとって容易であるから、甲2に記載の発明において、アニオン性乳化剤を含まないアクリルゴムの様態にすることは、当業者にとって容易である(11頁29行〜12頁8行)。

上記主張ア〜オについて検討する。
主張アについて
本件発明1と甲1発明Aとが相違点1を有し、これが実質的な相違点であることは、上記(5)ア(イ)aのとおりである。
単に、甲1に、好適な範囲として一般的に記載された甲1好適範囲が、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」との数値範囲を包含するという理由のみをもって、相違点1が実質的な相違点でないということはできない。
なお、当業者が、甲1発明Aにおいて、ノニオン性乳化剤の含有量を、甲1好適範囲のうちの、特に「0.5〜1.1質量%」とすることについて、動機付けられたとはいえないことは、上記(5)ア(イ)bのとおりである。
よって、上記主張アは採用できない。

主張イについて
本件発明2と甲2発明Aとが相違点4を有し、これが実質的な相違点であることは、上記(6)イ(イ)aのとおりである。
確かに、甲2には、乳化剤の種類を限定するとか、アニオン性乳化剤が必須成分であるといった記載はないが、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除くことの記載もなく、アクリルゴムを製造する際にアニオン性乳化剤を使用しないことや、アクリルゴムがアニオン性乳化剤を含まないことの記載もないから、甲2に、「アニオン性乳化剤を含まないアクリルゴム」が記載されているということはできない。
よって、上記主張イは採用できない。

主張ウについて
本件明細書の記載によれば、本件発明1の「0.5〜1.1質量%」との数値範囲は、耐水性及び耐銅害性を両立できるという技術的意義を有するものと理解できることは、上記(5)ア(イ)b(b)のとおりであるから、申立人の、本件明細書には、ノニオン性乳化剤の含有量の上限を1.1質量%とすることによって、耐水性と耐銅害性の両立が達成される旨の記載や耐水性および耐銅害性が特に優れたアクリルゴムが得られる旨の記載がなく、そのように解すべき記載もないとの主張は理由がない。
申立人は、ノニオン系乳化剤の含有量が「0.5〜1.1質量%」である具体例と、当該含有量が「1.1質量%」を超えるが2質量%以下である具体例とを比較して、前者は後者よりも耐水性と耐銅害性のバランスが悪いとして、「0.5〜1.1質量%」なる限定は、技術的意義を有さないと主張する。
しかしながら、本件明細書の実施例及び比較例の結果を記載した表1〜4をみると、ノニオン系乳化剤の含有量が大きくなるにつれて耐水性は低下し、耐銅害性は向上する傾向がみてとれるところ、例えば、申立人が問題とする、実施例1−1(ノニオン性乳化剤の含有量0.5質量%)と1−3(ノニオン性乳化剤の含有量1.7質量%)を比較すれば、耐水性に関しては実施例1−1が実施例1−3より優れ、耐銅害性については、実施例1−3が実施例1−1より優れているし、実施例1−1の耐水性はノニオン性乳化剤の含有量が多すぎる比較例1−2ほど悪化していないし、実施例1−1の耐銅害性はノニオン性乳化剤の含有量が小さすぎる比較例1−1ほど悪化していないのだから、実施例1−1の耐水性と耐銅害性のバランスは、実施例1−3のものよりも悪いなどということはできず、むしろ、両実施例とも、耐水性と耐銅害性のバランスに優れていると理解できる。
よって、上記主張ウは採用できない。

主張エについて
(ア)申立人が提示する参考文献2〜4には、以下の記載がある。
a 参考文献2
「新規アクリル系ゴムの複合劣化性
・・・
また、耐銅害性は潤滑油に銅粉を分散させて加硫ゴム試験片に塗布・風乾後、耐熱老化性を評価する試験法である。潤滑油中には、使用時間が長くなるにつれ、金属の摩耗粉が浮遊し、この金属粉の触媒作用により劣化が促進される場合があるが、これらの金属の中でも銅粉による劣化が最も厳しいレベルにあることが知られている。」(71頁左欄下から10行〜72頁左欄4行)

b 参考文献3
(a)「この酸化劣化の中で最も特異性をもつものとしてゴム中の微量金属による劣化現象があげられる。すでに70年も前にこの劣化現象が発見されており、過去に多くの研究者により追求されて来たがいまだ不明な点が多く、わずか0.001%位のCu、Mnなどの金属がゴムに破壊的かつ致命的な影響を及ぼすことは非常に興味ある現象である。実際問題としてゴム絶縁電線の場合導体に銅線を使用する関係上これらの劣化現象をめぐる種々の問題が展開されている。」(370頁左欄4行〜12行)

(b)「1.2 微量金属による各種ゴムの劣化
1.2.1 微量金属による各種ゴムの劣化 各種原料ゴムおよび加硫ゴム中に微量金属およびその無機、有機塩が含有されているときの酸素吸収速度と劣化の関係については多数の文献によって紹介されている。
・・・
NRではFeよりもCu、Mnによる劣化の方が大きいが、SBRの場合にはFeによる劣化が大きく、加硫ゴムよりも原料ゴムにおいてその傾向が顕著である。
・・・
図1からも明らかな如くIIRは非常に酸化に対して安定であり多量のCu、Mn、・・・などの粉体または金属塩によってほとんど影響を受けない。」(371頁左欄2行〜372頁左下欄下から10行)

(c)「3 劣化防止法
3.1 劣化防止法
Cu、Mn、Feなどの微量金属による劣化は金属がゴム中でより溶解し易く、しかもイオン化し易い状態の時に重大な影響を及ぼすのであるから、これらの金属イオンを不活性化することにより防止することができると考えられる。事実、Phthalocyanine blueはCuを錯塩にして不活性化することによりゴムの顔料として使用されている如く、金属イオンをキレート、錯塩にすることによりイオン化し難くしゴムハイドロカーボンに働きかけないようにすれば良いといわれている。」(375頁左欄4〜14行)

c 参考文献4
「ポリビニルアルコール(以上PVAと略す)と銅、クロム、銀など重金属イオンが錯体を生成することは既に認められ、特に銅錯体については、岡村、斎藤らの興味深い研究がある。」(1862頁左欄4〜7行)

(イ)(ア)によれば、参考文献2には、アクリルゴムに関し、潤滑油中に浮遊する金属粉の触媒作用により劣化が促進される場合があり、中でも銅粉による劣化が最も厳しいレベルにあることが記載され、参考文献3には、NR、SBR、IIR等のゴムに関し、ゴム中の微量金属による劣化現象が知られていることが記載され、さらに、金属イオンをキレート、錯塩にすることによりイオン化し難くすることによって、劣化を防止できることが記載されている。
しかしながら、参考文献2は、アクリルゴムは金属粉の触媒作用により劣化が促進されると記載するのに対して、参考文献3は、Cu、Mn、Fe等の微量金属による劣化は金属がゴム中でより溶解し易く、しかもイオン化し易い状態の時に重大な影響を及ぼす(摘記(c))と記載されており、これらの記載に照らせば、両者における劣化の機序が共通するとただちに理解することはできない
かえって、参考文献3の摘記(b)によれば、金属による劣化の程度や有無は、NR、SBR、IIR間であっても、ゴムの種類により異なると理解されるから、参考文献2に記載されるアクリルゴムにおける銅による劣化の機序と、参考文献3に記載されるNR、SBR、IIR等のゴムにおける銅による劣化の機序は、必ずしも同一ではないと理解するのが普通である。
そうであれば、参考文献3に、金属イオンを錯塩にすることにより銅によるゴムの劣化を防止することが記載されていたとしても、当該手法により、銅によるアクリルゴムの劣化も防止することができると理解することはできず、たとえ、参考文献4に、ポリビニルアルコールと銅が錯体を生成することが記載されていたとしても、ポリビニルアルコールを用いて銅錯体を形成することによりアクリルゴムの耐銅害性が向上することは、当業者が予測できたということはできない。
また、仮に、参考文献2に記載された、金属粉の触媒作用によるアクリルゴムの劣化と、参考文献3に記載された微量金属による劣化とで、劣化の機序が共通する部分があったとしても、参考文献3には、フタロシアニンブルーにより銅を錯塩にして不活性化することが記載されているに過ぎず(摘記(c))、参考文献4には、単にポリビニルアルコールと銅などの重金属イオンが錯体を生成することが記載されるにとどまりゴム中の金属イオンの挙動や金属イオンによるゴムの劣化については何ら記載がないことからみれば、参考文献2〜4を併せ考えても、ポリビニルアルコールを使用することにより、銅などの金属粉によるアクリルゴムの劣化を防止することを予測できるとはいえない。
よって、上記主張エは、採用できない。

主張オについて
甲2の記載に接した当業者は、耐圧縮永久歪み性および耐水性に優れたゴム架橋物を与えるアクリルゴムを提供するという観点から、凝固剤を特定量範囲とすることが必要であること、及び、乳化剤としてノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を組み合わせて用いることにより、アクリルゴム中における凝固剤量を低減することができることを理解するといえることは、上記(6)イ(イ)bのとおりである。
申立人は、甲2には、凝固剤の残留量を調整する手段として、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いる方法以外の方法も記載されていると主張するが、申立人が指摘するいずれの箇所にも、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いる方法以外の方法により、凝固剤の残留量を、甲2が請求項1で規定する「10重量ppm以上、10,000重量ppm以下」の範囲にすることができるとまでは記載されていないから、当業者が、甲2で好ましいと記載され、実施例でも具体的に採用されている、ノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤とを組み合わせて用いる方法を採用せず、すなわち、アニオン性乳化剤を使用せず、凝固剤の残留量を、上記甲2規定の特定の範囲にまで低減することができると理解し、アニオン性乳化剤を使用しないことに想到するとはいえない。
したがって、甲2に上記申立人の指摘する記載があったとしても、甲2発明Aにおいて、アニオン性乳化剤を含まないアクリルゴムの様態にすることは、当業者にとって容易であるということはできない。
よって、上記主張オは採用できない。

(8)取消理由A、B、D、申立理由1A及び2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由A、B、D、申立理由1A及び2は、何れも理由がない。

2 取消理由C(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)本件発明の課題
本件明細書の【0005】の記載によれば、本件発明の課題が解決しようとする課題は、「耐水性及び耐銅害性を両立できるアクリルゴムを提供すること」にあると認められるところ、【0006】の記載によれば、「耐水性及び耐銅害性を両立できる」とは、いずれか一方を過度に悪化させないことを意味するものと解される。

(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
ア 本件明細書の【0006】、【0046】及び【0047】の記載には、本件発明の発明者が、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性に影響を与えることを見出したこと、アクリルゴムのモノマー組成が同じであっても、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤がある程度含まれているとアクリルゴムの耐銅害性が向上する一方で、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が多すぎると耐水性が低下することが判明したこと、同じモノマー組成を有するアクリルゴムにおいて、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性を両立する(いずれか一方を過度に悪化させない)ためには、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を所定の範囲内とすることが重要であること、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、アクリルゴムの全量を基準として、耐銅害性に優れる観点から0.5質量%以上であり耐水性に優れる観点から2質量%以下であること、耐水性及び耐銅害性を両立できる観点から0.5〜2質量%であることが記載されている。
そうすると、上記記載に接した当業者であれば、本件発明は、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性に影響を与えることを見出したことを踏まえたものであり、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤がある程度含まれているとアクリルゴムの耐銅害性が向上する一方で、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が多すぎると耐水性が低下するので、アクリルゴムの耐水性及び耐銅害性を両立するために、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を所定の範囲内とすることが重要であること、具体的には、耐銅害性に優れる観点から0.5質量%以上であり、耐水性に優れる観点から2質量%以下であることが好ましいことを理解する。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明の実施例をみると、アニオン性乳化剤を含まず、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5質量%以上、かつ、2質量%以下であるものは、耐水性と耐銅害性が両立していることがみてとれる。また、ノニオン系乳化剤の含有量が、0.5質量%以上、かつ2質量%以下のうちの、0.5質量%以上1.1質量%以下であるものについても、耐水性と耐銅害性が両立していることがみてとれる(表1〜表4)。

ウ 上記ア及びイによれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、また、0.5〜1.1質量%であれば、上記イの課題を解決することを理解するものといえるところ、請求項1及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項3〜8は「アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%」との特定を有し、請求項2及びこれを直接的又は間接的に引用する請求項9〜14は、「アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%」との特定を有するから、本件発明は、いずれも本件発明の課題を解決するものであることを理解するといえる。

(4)取消理由Cについてのまとめ
したがって、取消理由Cは、理由がない。

3 申立理由1B(甲3〜甲9を主引例とする新規性)について
(1)本件発明が甲3に記載された発明であるかの検討
ア 甲3に記載された発明
上記1(4)アで摘記した甲3の製造例1に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、メタクリル酸メチル10部、アクリル酸エチル4.5部、アクリル酸n−ブチル65部、アクリル酸2−メトキシエチル19部及びマレイン酸モノn−ブチル1.5部を仕込み、減圧脱気及び窒素置換を2度行って酸素を十分に除去した後、クメンハイドロパーオキサイド0.005部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率95%に達するまで反応させ、得られた乳化重合液を塩化カルシウム溶液で凝固させ、水洗、乾燥して得た、組成が、メタクリル酸メチル単位10重量%、アクリル酸エチル単位4.5重量%、アクリル酸n−ブチル単位65重量%、アクリル酸2−メトキシエチル単位19重量%及びマレイン酸モノn−ブチル単位1.5重量%であるアクリルゴム」
(以下、「甲3発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルは、いずれも,本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲3発明の、アクリル酸n−ブチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲3発明の「マレイン酸モノn−ブチル」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
本件発明1では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜1.1質量%」であるのに対して、甲3発明では、ノニオン系乳化剤を含有していない点。

(イ)本件発明2と甲3発明とを対比する。
上記(ア)と同様の検討及び、甲3発明のアクリル酸エチル及びアクリル酸n−ブチルは、それぞれ、エチルアクリレート及びブチルアクリレートに由来するものであることからみると、本件発明2と甲3発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含むアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
本件発明2では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜2質量%」であるのに対して、甲3発明では、ノニオン系乳化剤を含有していない点。

<相違点7>
本件発明2では、「ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲3発明では、アクリルゴム製造時に、アニオン性乳化剤であるラウリル硫酸ナトリウムを使用しており、アクリルゴムがアニオン性乳化剤を含むか不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲3発明とは、相違点5で相違する。
そして、甲3発明において、重合時にノニオン系乳化剤は使用されていないからアクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むと解すべき理由はなく、ましてやその含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲3発明とは、相違点6及び7で相違する。
そして、甲3発明において、重合時にノニオン系乳化剤は使用されていないからアクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むと解すべき理由はなく、ましてやその含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、少なくとも相違点6は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲3に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも甲3に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲3発明に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、本件発明において、ノニオン系乳化剤は、アクリルゴムとは分離可能な状態で存在しているのであるから、ノニオン系乳化剤とアクリルゴムとは、混合物である組成物を形成するものと認められ、本件発明でいう「ノニオン系乳化剤を含むアクリルゴム」とは、「ノニオン系乳化剤を含むアクリルゴム組成物」であると解するのが相当である、とした上で、本件発明のアクリルゴムは、甲3に記載されたアクリルゴム組成物と重複すると主張する(16頁6行〜17頁5行)。
上記主張について検討する。
申立人の主張は、甲3には、「カルボキシル基含有アクリルゴムと、フッ素系界面活性剤とを含有し、前記フッ素系界面活性剤がノニオン性フッ素系界面活性剤である、アクリルゴム組成物。」が記載され(【請求項1】)、具体的に、アクリルゴム組成物において、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド系界面活性剤(ノニオン性フッ素系界面活性剤)を、アクリルゴム100部に対して、1部配合することが記載される(実施例1)ところ、このようなアクリルゴム組成物は、本件発明のアクリルゴムに相当するという前提に立つものと解される。
しかしながら、本件明細書の「アクリルゴム」は「モノマーを乳化重合、懸濁重合などの公知の方法により共重合することにより得られる」ことの記載(【0032】)、「アクリルゴム」は、必要に応じてその他の成分と組み合わせてゴム組成物として用いられることの記載(【0051】)、及び、「固化させた共重合体は、最終的に得られるアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を調整するために、水で洗浄される。」(【0044】)との記載からみれば、本件明細書において、「アクリルゴム」と「アクリルゴム組成物」とは明確に区別されており、本件発明の、ノニオン系乳化剤を含むアクリルゴムとは、重合過程で使用されたノニオン性乳化剤が残留しているアクリルゴムを意味することは明らかである。
そうすると、本件発明でいう「ノニオン系乳化剤を含むアクリルゴム」とは、「ノニオン系乳化剤を含むアクリルゴム組成物」であると解することはできないから、上記主張は前提において誤りがあり、採用できない。

(2)本件発明が甲4に記載された発明であるかの検討
ア 甲4に記載された発明
上記1(4)イで摘記した実施例1に着目すると、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「オートクレーブに、ポリビニルアルコール1.4kg、SFS86.4kg、酒石酸8.64g、モール塩4.32g、酢酸ナトリウム57.6gを水43.2kgに溶解して仕込み、攪拌しながら酢酸ビニル7.2kgおよびモノメトキシエチルマレイン酸1.35kgを加え乳化した後、エチレンガス5.2kg圧入し、エチルアクリレート11.5kg、n−ブチルアクリレート10.1kg、モノメトキシエチルマレイン酸650gを混合した液とパーオキサイド(t−ブチルハイドロパーオキサイド)0.5%水溶液を6〜10時間にわたって加えて重合を進行させ、さらに、10%(NH4)2SO4水溶液を用いて凝固させ、単離させたポリマーを水で充分に洗浄した後乾燥させた、酢酸ビニル、エチレン、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、モノメトキシエチルマレイン酸を含むゴム。」(以下、「甲4発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の、ゴムに含まれる、エチルアクリレートは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲4発明の、n−ブチルアクリレートは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲4発明の「モノメトキシエチルマレイン酸」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーである、アクリルゴム」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点8>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明1では、「0.5〜1.1質量%」の含有量で含有するのに対して、甲4発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリビニルアルコールを使用しているが、アクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

(イ)本件発明2と甲4発明とを対比する。
上記(ア)と同様の検討及び、甲4発明のゴムはエチルアクリレート及びn−ブチルアクリレートを含むことから、本件発明2と甲4発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、アクリルゴム」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点9>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明2では、「0.5〜2質量%」の含有量で含有するのに対して、甲4発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリビニルアルコールを使用しているが、アクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲4発明とは、相違点8で相違する。
そして、甲4発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリビニルアルコールを使用しているから、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであっても、甲4発明において、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点8は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲4に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲4発明とは、相違点9で相違する。
そして、甲4発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリビニルアルコールを使用しているから、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであってもアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点9は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲4に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも甲4に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲4に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、本件明細書には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、洗浄に用いられる水の温度によって調整できることが記載されているところ、本件明細書の実施例における洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量からみれば、洗浄水が室温であると解される甲4の実施例において、アクリルゴム中のノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となっている蓋然性が高いと主張する(申立書17頁9行〜20頁4行)。
しかしながら、本件明細書の実施例に記載された洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量との関係が甲4の実施例にもそのままあてはまるとする合理的な根拠はないから、仮に甲4発明において、洗浄水が室温であったとしても、そのことにより、甲4発明のゴム中のノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となっている蓋然性が高いということはできない。
よって、上記主張は、採用できない。

(3)本件発明が甲5に記載された発明であるかの検討
ア 甲5に記載された発明
上記1(4)ウで摘記した甲5の実施例3に着目すると、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
「酢酸ビニル2部と、アクリルメチル3部と、アクリルブチル34部と、アクリル酸1部と、過硼酸ナトリウム 0.4部と、オクチルアリルスルフォン酸ナトリウム0.8部と、水60部の混合物を重合した後、ポリオキシエチレンオクチルエステルを2部添加したノニオン性アクリルゴムエマルジョン100部に、水200部を添加し、硝酸アンモニウムを5部添加し、75℃に加熱撹拌し、生成したアクリルゴムの細かい粒子を捕集して温水で4回洗滌し、通風乾燥したもの。」(以下、「甲5発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明のアクリルゴムに含まれる、アクリルメチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲5発明の、アクリルブチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲5発明の「アクリル酸」は、本件発明1の「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
甲5発明の「アクリルゴムの細かい粒子を捕集して温水で4回洗滌し、通風乾燥したもの」はアクリルゴムであるといえる。

そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明1では、「0.5〜1.1質量%」の含有量で含有するのに対して、甲5発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンオクチルエステルを使用しているが、アクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

(イ)本件発明2と甲5発明とを対比する。
上記(ア)と同様の検討により、本件発明2と甲5発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点11>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明2では、「0.5〜2質量%」の含有量で含有するのに対して、甲5発明では、アクリルゴム製造時にノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンオクチルエステルを使用しているが、アクリルゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

<相違点12>
本件発明2では、アクリルゴムが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含むのに対して、甲5発明では、アクリルブチルすなわちブチルアクリレートを含むものの、エチルアクリレートを含まない点。

<相違点13>
本件発明2では、「ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲5発明では、アクリルゴム製造時に、アニオン性乳化剤であるオクチルアリルスルフォン酸ナトリウムを使用しており、アクリルゴムがアニオン性乳化剤を含むか不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲5発明とは、相違点10で相違する。
そして、甲5発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンオクチルエステルを使用しているから、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであっても甲5発明において、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点10は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲5に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲5発明とは、相違11〜13で相違する。
そして、甲5発明では、アクリルゴム製造時に、ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンオクチルエステルを使用しているから、アクリルゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであっても甲5発明においてアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、少なくとも相違点11は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲5に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも甲5に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲5に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、本件明細書には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、洗浄に用いられる水の温度によって調整できることが記載されているところ、本件明細書の実施例において、洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量からみれば、甲5の、実施例3の温水で4回洗浄して得られたアクリルゴム中のノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となっている蓋然性が高いと主張する(申立書21頁20行〜23頁1行)。
しかしながら、本件明細書の実施例に記載された洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量との関係が甲5の実施例にもそのままあてはまるとする合理的な根拠はないから、仮に甲5発明において、洗浄水が室温であったとしても、そのことにより、甲5発明においてノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となっている蓋然性が高いなどということはできない。
よって、上記主張は、採用できない。

(4)本件発明が甲6に記載された発明であるかの検討
ア 甲6に記載された発明
上記1(4)エで摘記した甲6の実施例1に着目すると、甲6には、以下の発明が記載されていると認められる。
「予めからにし窒素ガスで置換した容器に水2200gを入れたものに、GafacPE510を水200gに混合しpHを6.5に調整したGafac溶液l/2を加え、次いで、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸およびビニルベンジルクロライドを混合したモノマー溶液190g、Daxad17および硫酸ナトリウムを加え、反応器中の混合物を17℃に冷却し、ヒドロパーオキサイド、SFS、Saquestrene NaFeおよびNa2S2O4を加えて反応を開始し、重合温度を約20℃〜25℃に維持し、残りのモノマー溶液を7時間かけて反応器中に入れ、反応を開始してから3.5時間後に残りのGafac溶液1/2を加え、全重合時間10時間で重合した乳濁液を、25重量%のNaCl水溶液およびメタノールを用いて、凝固させ、単離したポリマーを水で洗浄し、乾燥させて得たゴム。」(以下、「甲6発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の、ポリマーに含まれる、エチルアクリレートは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲6発明の、n−ブチルアクリレートは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲6発明の「メタクリル酸」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
甲6発明の、「ポリマーの乳濁液を凝固させ、単離して水で洗浄し、乾燥させたゴム」は、アクリルゴムであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点14>
本件発明1では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜1.1質量%」であるのに対して、甲6発明では、ノニオン系乳化剤を含まない点。

(イ)本件発明2と甲6発明とを対比する。
上記(ア)と同様の検討及び、甲6発明のゴムはエチルアクリレート及びn−ブチルアクリレートを含むことから、本件発明2と甲6発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含むアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点15>
本件発明2では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜2質量%」であるのに対して、甲6発明では、ノニオン系乳化剤を含まない点。

<相違点16>
本件発明2では、「ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲6発明では、ゴム製造時に、アニオン性乳化剤であるGafacPE510使用しており、ゴムがアニオン性乳化剤を含むか不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲6発明とは、相違点14で相違する。
そして、甲6発明において、ゴムがノニオン系乳化剤を含有すると解すべき理由はなく、ましてや、その含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点14は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲6に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲6発明とは、相違点15及び16で相違する。
そして、甲6発明において、ゴムがノニオン系乳化剤を含有すると解すべき理由はなく、ましてや、その含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、少なくとも相違点15は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲6に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも、甲6に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲6に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、甲6発明の「GafacPE510」がノニオン系乳化剤であるとした上で、本件明細書には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、洗浄に用いられる水の温度によって調整できることが記載されているところ、甲6実施例1のアクリルゴムも水洗(水による洗浄)は常温で行われたと解すべきであり、本件明細書の実施例に記載された、洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量からみれば、甲6のアクリルゴム中のノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となる蓋然性が高いと主張する(申立書24頁1行〜18行)。
しかしながら、「GafacPE510」は、アルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エチルホスフェートであり、アニオン性乳化剤であって、ノニオン系乳化剤ではないので、申立人の主張は前提において誤りがあり、採用できない。
仮に、「GafacPE510」がノニオン系乳化剤であったとしても、本件明細書の実施例に記載された洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量との関係が甲6の実施例にもそのままあてはまるとする合理的な根拠はないから、水洗が常温で行われたとしても、そのことにより、甲6発明においてノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%である蓋然性が高いなどということはできない。
よって、上記主張は、採用できない。

(5)本件発明が甲7に記載された発明であるかの検討
ア 甲7に記載された発明
上記1(4)オで摘記した甲7の実施例1に着目すると、甲7には以下の発明が記載されていると認められる。
「重合反応器に、水200重量部、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル1.7重量部、アクリル酸エチル41.4重量部、アクリル酸n−ブチル45.4重量部、メタクリル酸n−ブチル11.8重量部、およびフマル酸モノエチル1.4重量部を仕込み、酸素を十分除去した後、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部および過硫酸カリウム0.1重量部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続し、ヒドロキノン0.0075重量部を添加して重合を停止し、得られた乳化重合液を硫酸ナトリウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥してアクリル共重合体。」(以下、「甲7発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の、アクリル共重合体に含まれる、アクリル酸エチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲7発明の、アクリル酸n−ブチル及びメタクリル酸n−ブチルは、いずれも、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲7発明の「フマル酸モノエチル」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
甲7発明の、「乳化重合液を硫酸ナトリウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥してアクリル共重合体」は、上記1(4)オで摘記した[0001]に照らせば、アクリルゴムであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲7発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点17>
本件発明1では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜1.1質量%」であるのに対して、甲7発明では、ノニオン系乳化剤を含有しない点。

(イ)本件発明2と甲7発明とを対比する。
上記(ア)と同様の検討及び甲7発明のアクリル系共重合体がアクリル酸エチル、すなわちエチルアクリレートと、アクリル酸n−ブチル、すなわちn−ブチルアクリレートを含むことから、本件発明2と甲7発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含むアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点18>
本件発明2では、アクリルゴムはノニオン系乳化剤を含有し、その含有量が「0.5〜2質量%」であるのに対して、甲7発明では、ノニオン系乳化剤を含まない点。

<相違点19>
本件発明2では、「ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く」のに対して、甲7発明では、アクリル共重合体製造時に、アニオン性乳剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルであるアニオン乳化剤を使用しており、アクリル共重合体がアニオン性乳化剤を含むか不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲7発明とは、相違点17で相違する。
そして、甲7発明において、アクリル共重合体がノニオン系乳化剤を含有すると解すべき理由はなく、ましてや、その含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点17は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲7に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲7発明とは、相違点18及び19で相違する。
そして、甲7発明において、アクリル共重合体がノニオン系乳化剤を含有すると解すべき理由はなく、ましてや、その含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、少なくとも相違点18は実質的な相違点であり、本件発明2は甲7に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも、甲7に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲7に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、甲7発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルがノニオン系乳化剤に該当するとしたうえで、甲7発明も、水洗は常温で行われたと考えるのが自然であり、本件明細書の実施例の、洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量からみれば、甲7発明のアクリル共重合体中のノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となる蓋然性が高いと主張する(申立書24頁26行〜25頁15行)。
しかしながら、上記1(4)オで摘記した[0033]によれば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルはアニオン性乳化剤であるから、申立人の主張は前提において誤りがあり、採用できない。

(6)本件発明が甲8に記載された発明であるかの検討
ア 甲8に記載された発明
上記1(4)カで摘記した甲8の実施例2及び3に着目すると、甲8には、以下の発明が記載されていると認められる。
「耐圧反応容器に、アクリル酸エチルとアクリル酸n−ブチルとの混合液11kg、部分けん化ポリビニルアルコール4重量%の水溶液17kg、酢酸ナトリウム22g、グリシジルメタクリレート120gを投入して、均一懸濁液を作製し、槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液を圧入して重合を開始させ、生成した重合液にホウ酸ナトリウム水溶液を添加して重合体を固化し、脱水および乾燥を行った生ゴムであって、アクリル酸エチルとアクリル酸n−ブチルの内訳は、91%と9%又は、80%と20%である生ゴム。」(以下、「甲8発明」という。)
イ 対比
(ア)本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の、アクリル酸エチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲8発明の、アクリル酸n−ブチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲8発明の「グリシジルメタクリレート」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「エポキシ基を有する架橋席モノマー」に相当する。
甲8発明の、「生成した重合液にホウ酸ナトリウム水溶液を添加して重合体を固化し、脱水および乾燥を行った生ゴム」は、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル及びグリシジルメタクリレートの共重合体であるから、アクリルゴムであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲8発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点20>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明1では、「0.5〜1.1質量%」の含有量で含有するのに対して、甲8発明では、ゴム製造時にノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているが、ゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

(イ)本件発明2と甲8発明とを対比する。
甲8発明では重合時にアニオン性乳化剤を使用しないから、甲8発明の生ゴムはアニオン性乳化剤を含有しないと解される。
また、甲8発明の生ゴムは、アクリル酸エチル、すなわちエチルアクリレートと、アクリル酸n−ブチル、すなわち、ブチルアクリレートを含む。
これらのことと、上記(ア)と同様の検討から、本件発明2と甲8発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含み、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除くアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点21>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明2では、「0.5〜2質量%」の含有量で含有するのに対して、甲8発明では、ゴム製造時にノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているが、ゴムがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲8発明とは、相違点20で相違する。
そして、甲8発明では、ゴム製造時に、ノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているから、ゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであってもゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点20は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲8に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲8発明とは、相違点21で相違する。
そして、甲8発明では、ゴム製造時に、ノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているから、ゴム中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであってもゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点21は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲8に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも甲8に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲8に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、甲8には、アクリルゴムの製造において水洗することは具体的に記載されていないが、アクリルゴムを重合後に水洗を行うことは慣用技術であるから甲8においても当然水洗が行われており、当該水洗は常法により室温付近で行われているとした上で、本件明細書には、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量は、洗浄に用いられる水の温度によって調整できることが記載され、本件明細書の実施例における、洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量からみれば、甲8においても、ノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となる蓋然性が高いと主張する(申立書25頁27行〜27頁4行)。
しかしながら、本件明細書の実施例に記載された洗浄水温度とノニオン系乳化剤の含有量との関係が甲8の実施例にもそのままあてはまるとする合理的な根拠はないから、仮に甲8発明において、水洗が行われ、それが常温で行われていたとしても、そのことにより、甲8発明においてノニオン系界面活性剤の含有量は0.5〜2質量%となっている蓋然性が高いなどということはできない。
よって、上記主張は、採用できない。

(7)本件発明が甲9に記載された発明であるかの検討
ア 甲9に記載された発明
上記1(4)キで摘記した甲9の実施例1に着目すると、甲9には以下の発明が記載されていると認められる。
「耐圧反応容器に、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル及びマレイン酸モノブチルとの混合液11.8Kg、部分けん化ポリビニルアルコール4重量%の水溶液17Kg、酢酸ナトリウム22gを投入し、均一懸濁液を作製し、槽内上部の空気を窒素で置換後、エチレンを槽上部に圧入し、圧力を20Kg/cm2に調整し、t−ブチルヒドロペルオキシド水溶液を圧入して重合を開始させてラテックスを得、重合後のラテックスを固形分35重量%に調整して、脱水・乾燥装置に供給するとともに、ホウ砂及び硫酸アンモニウムの混合水溶液も当該装置に供給して得た、水分0.4重量%、色相は無色の共重合ポリマー」(以下、「甲9発明」という。)

イ 対比
(ア)本件発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明の、共重合ポリマーは、上記1(4)キで摘記した請求項1の記載に照らせば、アクリルゴムである。
また、当該共重合ポリマーに含まれる、アクリル酸エチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当し、甲9発明の、アクリル酸n−ブチルは、本件発明1の「モノマー単位」としての「炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート」に相当する。
甲9発明の「マレイン酸モノブチル」は、本件発明1の、「架橋席モノマー」であって、「カルボキシル基を有する架橋席モノマー」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲9発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであるアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点22>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明1では、「0.5〜1.1質量%」の含有量で含有するのに対して、甲9発明では、共重合ポリマー製造時にノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているが、共重合ポリマーがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

(イ)本件発明2と甲9発明とを対比する。
甲9発明では重合時にアニオン性乳化剤を使用しないから、甲9発明の共重合ポリマーはアニオン性乳化剤を含有しないと解される。
また、甲9発明の共重合ポリマーは、アクリル酸エチル、すなわちエチルアクリレートと、アクリル酸n−ブチル、すなわち、ブチルアクリレートを含む。
これらのことと、上記(ア)と同様の検討から、本件発明2と甲8発明とは、
「モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含み、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除くアクリルゴム」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点23>
アクリルゴム中のノニオン系乳化剤に関し、本件発明2では、「0.5〜2質量%」の含有量で含有するのに対して、甲9発明では、共重合ポリマー製造時にノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているが、共重合ポリマーがノニオン系乳化剤を含むかは不明である点。

ウ 検討
(ア)上記イ(ア)のとおり、本件発明1と甲9発明とは、相違点22で相違する。
そして、甲9発明では、共重合ポリマー製造時に、ノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているから、共重合ポリマー中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであっても共重合ポリマー中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜1.1質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点22は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲9に記載された発明ではない。
(イ)上記イ(イ)のとおり、本件発明2と甲9発明とは、相違点23で相違する。
そして、甲9発明では、共重合ポリマー製造時に、ノニオン系乳化剤である部分けん化ポリビニルアルコールを使用しているから、共重合ポリマー中にノニオン系乳化剤が残留しうるといえなくもないが、仮にそうであっても共重合ポリマー中のノニオン系乳化剤の含有量が、「0.5〜2質量%」であると解すべき理由はない。
よって、相違点23は実質的な相違点であり、本件発明2は、甲9に記載された発明ではない。

エ 本件発明3〜14について
本件発明3〜14は、本件発明1又は2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1及び2のいずれも甲9に記載された発明ではない以上、本件発明3〜14も、甲9に記載された発明ではない。

オ 申立人の主張について
申立人は、甲9は、本件特許と優先権基礎出願を同じくする特願2020−538863号(以下「別出願」という。)の審査過程において拒絶理由通知に引用された引用文献3であるところ、別出願では、請求項1において、ポリビニルアルコールの含有量が「0.5〜2質量%」から「0.7〜2質量%」に減縮された上で、引用文献3に関し、「ポリマーは80℃以上での温水で洗浄されていますので、そのポリビニルアルコールの含有量は、「0.7」質量%未満となるはずです。」と主張されており、この主張は、甲9の実施例1、すなわち、甲9発明では、ポリビニルアルコールの含有量が0.5質量%以上0.7%質量未満に成る蓋然性が高いことを自認したものに他ならないから、本件発明の「0.5〜2質量%」とのノニオン系乳化剤の含有量は、甲9発明のノニオン系乳化剤の含有量とは、少なくとも0.5質量%からそれより若干高い領域で重複していると考えるのが相当であると主張する(申立書28頁15行〜29頁3行)。
しかしながら、仮に別出願の審査過程において、申立人の主張するような経緯があったとしても、そもそもそのような別出願の経緯をそのまま本件についてもあてはめることは適当でない。
また、上記「ポリマーは80℃以上での温水で洗浄されていますので、そのポリビニルアルコールの含有量は、「0.7」質量%未満となるはずです。」との主張は、単に、ポリマーにおけるポリビニルアルコールの含有量が、「0.7」質量%未満となることを述べているにすぎず、「0.5質量%以上」となることまでも述べていると解することはできない。
したがって、本件発明の「0.5〜2質量%」とのノニオン系乳化剤の含有量は、甲9発明のノニオン系乳化剤の含有量とは、少なくとも0.5質量%からそれより若干高い領域で重複しているなどということはできない。
よって、上記主張は採用できない。

(8)申立理由1Bについてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1Bは、理由がない。

4 申立人のその他の主張について
申立人の主張する申立理由は、上記第4の1のとおりであって、そのうち進歩性に係るものは、第4の1(2)の申立理由2のとおり、甲1又は甲2を主引例とするものである。
しかしながら、申立書において、以下のとおり、甲4〜9をそれぞれ主引例とした場合の本件発明の進歩性についても主張するようにもみえるので、以下、念のため、それらの主張について検討する。
申立人の主張は、以下のとおりである。
(1)本件発明は、甲4で製造される共重合体エラストマー(アクリルゴム)から残留するノニオン系乳化剤等の重合反応・凝固反応副材料を水洗で特定領域に低減させるだけのものであり、特に10℃を超え90℃以下の室温を含む温度で水洗して達成できるものであるから、当業者にとって当たり前の行為であり、容易に想到できるものである。
さらに、甲4において、甲1又は甲2に記載された水洗条件を組み合わせることで、水洗温度等を適宜選択し、ノニオン乳化剤の含有量が本件発明の範囲になるように設定することは当業者が容易になし得たことである(申立書20頁8行〜21頁19行)。
(2)甲1及び甲2には、ノニオン系乳化剤の残留量について10重量ppm〜20,000ppmとの記載があり、各実施例には、残留量1.15〜1.35重量%のアクリルゴムが耐水性にも優れることが記載されているから、当業者であれば、甲5に甲1又は甲2を組み合わせることで、本件発明に容易に想到できる。
また、甲5において、甲1または甲2に記載の水洗条件を組み合わせることで水洗条件を適宜選択してノニオン性乳化剤の含有量を本件発明の範囲になるように設定することは、当業者が容易になし得たことである(申立書23頁2行〜22行)。
(3)アクリルゴムの水洗条件を適宜選定することは当業者の常套手段であるから、本件発明は、甲6と甲1又は甲2を組み合わせることで容易に想到しうるものである(申立書24頁17〜25行)。
(4)水洗条件を適宜調整することは極めて普通に行われていることであるから、甲7において、アクリルゴム中の乳化剤残留量を本件発明で特定した範囲に調整することは、当業者が容易になし得ることに過ぎない(申立書25頁16行〜19行)。
(5)甲1及び甲2に、ノニオン系乳化剤の含有量を0.001〜2重量%(実施例では1.15〜1.35重量%)にすればアクリルゴムの耐水性に優れることが記載され、甲4には、凝固後のアクリルゴムは水で十分に洗浄して乾燥したことが記載され、甲5には、ノニオン性アクリルゴムの水洗を温水で4回行うことも記載されているから、甲8に上記各甲号証の記載を組み合わせることで、当業者が本件発明に到達することは容易である。
さらに、本件明細書の実施例によれば、水洗温度が10℃を超え90℃未満(室温を含む)の範囲内であれば、殆どの場合、水洗したアクリルゴム中のノニオン系乳化剤の残留量が必然的に本件発明で特定した範囲内になると考えられるところ、甲1では、好ましい水洗温度が5〜60℃(実施例では室温)であること、好ましい水の量がゴム100重量部に対し50〜9800重量部(実施例では388重量部)であること、好ましい水洗回数が2〜10回(実施例では4回)であることが開示されているから、甲8に甲1、甲2又は甲4の記載を組み合わせることで、本件発明の残留量になる水洗条件にすることは、容易に想到し得る(申立書27頁7行〜27行)。
(6)甲9に、甲1、甲2又は甲4の記載を組み合わせることで、本件発明の残留量になる水洗条件にすることは、容易に想到し得る(申立書29頁7行〜12行)。

上記主張について検討する。
主張(1)について
確かに、本件明細書には、アクリルゴムの洗浄に用いられる水の温度について、「アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を後述するような範囲に調整するためには、水の温度は、好ましくは10℃を超え、・・・好ましくは90℃以下」と記載されている(【0045】)。
しかしながら、上記記載は、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を特定の範囲に調整するための好ましい水の温度を記載しているに過ぎず、このような温度の水を用いて洗浄しさえすれば、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を特定の範囲に調整することができることまでを述べたものではないし、洗浄に用いる水の温度が上記のとおりであれば、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が特定の範囲になると理解すべき合理的理由はない。
したがって、甲4発明において、10℃を超え90℃以下の室温を含む温度で水洗を行ったとしても、ゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が本件発明の範囲になると結論づけることはできない。
よって、主張(1)は、採用できない。

主張(2)について
甲5は、「細かい均一な粒子のアクリルゴムを安定に得られるような製造方法の提供を目的とする」(上記1(4)ウ)のであって、アクリルゴムの耐水性については何ら記載しておらず、甲5において耐水性を改良するという課題が存在したとみるべき格別の理由もないから、仮に、甲1及び甲2に、ノニオン系乳化剤残留量が特定のものである場合アクリルゴムが耐水性に優れることが記載されていたとしても、甲5発明において、これらを採用することの動機付けがあったとはいえない。
また、甲5発明において、仮に、甲5発明において、甲1又は甲2に記載の水洗条件を採用したとしても、その際のアクリルゴム中に残留するノニオン系乳化剤の含有量が本件発明と同程度になるとの合理的根拠はない。
よって、上記主張(2)は採用できない。

主張(3)について
アクリルゴムの水洗条件を適宜選定することは当業者の常套手段であるとしても、甲6発明に、甲1又は甲2の水洗条件を採用することの動機付けは何ら見いだせない。
また、上記3(4)のとおり、甲6発明では、重合においてノニオン系乳化剤は使用されていないから、仮に甲6発明に、甲1又は甲2の水洗条件を採用しても、ノニオン系乳化剤を含有するものが得られるとはいえないし、ましてやその含有量が、本件発明と同程度になるということはできない。
よって、上記主張(3)は採用できない。

主張(4)について
水洗条件を適宜調整することが普通に行われていることであったとしても、上記3(5)のとおり、甲7発明において、ノニオン系乳化剤は使用されていないから、甲7発明で水洗条件を調整しても、ノニオン系乳化剤を含有するものが得られるとはいえないし、ましてや、その含有量が本件発明と同程度になるということはできない。
よって、上記主張(4)は採用できない。

主張(5)について
甲8は、耐油性に優れ、更に耐寒性および耐熱性のバランスの優れたアクリル系ゴムおよびその組成物を提供することを課題としており(上記1(4)カで摘記した【0005】)、耐水性については何ら記載されていないし、甲8に耐水性を向上させるという課題が存在したと解すべき理由もないから、甲8に甲1又は甲2の水洗条件を採用することの動機付けがあったとはいえない。さらに、甲4及び甲5に、申立人の指摘するとおりの記載があったとしても、甲8発明において、これらの洗浄方法を採用することの動機付けがあるともいえない。
また、本件明細書に、アクリルゴムの洗浄に用いられる水の温度について、「アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量を後述するような範囲に調整するためには、水の温度は、好ましくは10℃を超え、・・・好ましくは90℃以下」との記載があったとしても、洗浄に用いる水の温度が上記のとおりであれば、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が特定の範囲になると理解すべき合理的理由がないことは上記「主張(1)について」で述べたとおりであるから、仮に、甲8発明において、甲1,2、4又は5の洗浄方法を採用したとしても、その結果、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が本件発明と同程度になるともいえない。
よって、主張(5)は、採用できない。

主張(6)について
甲9発明に、甲1、2又は4の水洗条件を採用することの動機付けは何ら見当たらない。
また、上記「主張(5)について」と同様の理由により、仮に甲9発明において、甲1,2、又は4の洗浄方法を採用したとしても、その結果、アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が本件発明と同程度になるともいえない。
よって、主張(6)は、採用できない。
したがって、上記申立人の主張は、いずれも採用できない。

第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜1.1質量%である、アクリルゴム。
【請求項2】
モノマー単位として、アルキルアクリレート及び架橋席モノマーを含むアクリルゴムであって、
前記アルキルアクリレートが、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種と、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種とを含み、
前記架橋席モノマーが、エポキシ基を有する架橋席モノマー又はカルボキシル基を有する架橋席モノマーであり、
前記アクリルゴム中のノニオン系乳化剤の含有量が0.5〜2質量%であり、
前記アルキルアクリレートが、エチルアクリレート及びブチルアクリレートを含む、アクリルゴム(ただし、アニオン性乳化剤を含むアクリルゴムを除く)。
【請求項3】
前記アルキルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として85〜99質量%である、請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項4】
前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5〜10質量%である、請求項1又は3に記載のアクリルゴム。
【請求項5】
請求項1、3又は4に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム組成物の架橋物。
【請求項7】
請求項6に記載の架橋物を含む、ゴムホース。
【請求項8】
請求項6に記載の架橋物を含む、シール部品。
【請求項9】
前記アルキルアクリレートの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として85〜99質量%である、請求項2に記載のアクリルゴム。
【請求項10】
前記架橋席モノマーの含有量が、前記モノマー単位全量を基準として0.5〜10質量%である、請求項2又は9に記載のアクリルゴム。
【請求項11】
請求項2、9又は10に記載のアクリルゴムを含有する、ゴム組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のゴム組成物の架橋物。
【請求項13】
請求項12に記載の架橋物を含む、ゴムホース。
【請求項14】
請求項12に記載の架橋物を含む、シール部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-02-09 
出願番号 P2020-543233
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 藤井 勲
海老原 えい子
登録日 2021-03-24 
登録番号 6857782
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 アクリルゴム、ゴム組成物及びその架橋物、ゴムホース、並びにシール部品  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  

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