• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C09K
管理番号 1397168
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-07 
確定日 2023-02-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6884898号発明「研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6884898号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜27〕について訂正することを認める。 特許第6884898号の請求項9、11〜12、15、17〜18及び20〜25に係る特許を維持する。 特許第6884898号の請求項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6884898号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜27に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月20日(優先権主張 令和2年1月22日)の出願であって、令和3年5月14日に特許権の設定登録がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行されたものであって、同年12月7日に、その請求項1〜27に係る発明の特許に対し、藤井正剛(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 2月17日付け 取消理由通知
同年 4月22日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 5月11日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 6月14日 意見書(特許異議申立人)
同年 7月14日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月 7日 上申書(特許権者)
同年 9月14日付け 通知書
同年10月 4日 上申書(特許権者)
同年10月12日付け 通知書
同年11月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年11月24日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、特許異議申立人は、令和4年11月24日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に応答しなかった。
また、令和4年4月22日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年11月16日付けの訂正請求による訂正(以下「第2訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6884898号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜27について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜27からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項9の「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含む研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項9の「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり、けん化度が80〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項10を削除する。

(11)訂正事項11
訂正前の請求項11の「単結晶シリコン基板の研磨用である請求項1〜10のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項11の「単結晶シリコン基板の研磨用である請求項9記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の請求項12の「側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05モル%以上である、請求項1、3〜9及び11のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項12の「炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.2〜10モル%である、請求項9記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(13)訂正事項13
訂正前の請求項13を削除する。

(14)訂正事項14
訂正前の請求項14を削除する。

(15)訂正事項15
訂正前の請求項15の「ビニルアルコール系樹脂(A)が、けん化度が80〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sである請求項1、3〜9及び11〜12のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項15の「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、けん化度が85〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜250mPa・sであり、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.5〜10モル%であり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(16)訂正事項16
訂正前の請求項16を削除する。

(17)訂正事項17
訂正前の請求項17の「さらに、pH調整剤を含む、請求項1〜16のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項17の「さらに、pH調整剤を含む、請求項9、11、12、15のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(18)訂正事項18
訂正前の請求項18の「砥粒及びpH調整剤を含む研磨用組成物であって、砥粒がシリカを含み、pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項18の「pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項17記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(19)訂正事項19
訂正前の請求項19を削除する。

(20)訂正事項20
訂正前の請求項20の「さらに、界面活性剤を含む、請求項1〜19のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項20の「さらに、界面活性剤を含む、請求項9、11、12、15、17、18のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(21)訂正事項21
訂正前の請求項21の「さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項1〜20のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項21の「さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項9、11、12、15、17、18、20のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(22)訂正事項22
訂正前の請求項22の「さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項1〜21のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項22の「さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項9、11、12、15、17、18、20、21のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(23)訂正事項23
訂正前の請求項23の「さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項1〜22のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項23の「さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜22のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(24)訂正事項24
訂正前の請求項24の「さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項1〜23のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載を、
訂正後の請求項24の「さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜23のいずれかに記載の研磨用組成物。」との記載に訂正する。

(25)訂正事項25
訂正前の請求項25の「研磨対象物の表面を、請求項1〜24のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。」との記載を、
訂正後の請求項25の「研磨対象物の表面を、請求項9、11、12、15、17、18、20〜24のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。」との記載に訂正する。

(26)訂正事項26
訂正前の請求項26を削除する。

(14)訂正事項27
訂正前の請求項27を削除する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27について
訂正事項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27は、訂正前の請求項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27を削除する訂正である。
してみると、訂正事項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項9について
訂正事項9は、本件特許明細書の段落0050の「ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合は、…0.05モル%以上、…10モル%以下」との記載を根拠に、訂正後の請求項9に「ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり」という発明特定事項を追加して減縮し、
同段落0053の「ビニルアルコール系樹脂(A)のけん化度は、…好ましくは80モル%以上」との記載、同段落0054の「ビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度の上限は、…99.9モル%以下」との記載、及び同段落0055の「例えば、80〜99.9モル%」との記載を根拠に、訂正後の請求項9に「けん化度が80〜99.9モル%であり」という発明特定事項を追加して減縮し、
同段落0059の「ビニルアルコール系樹脂(A)の20℃における4%水溶液粘度は、…300mPa・s以下」との記載、同段落0060の「ビニルアルコール系樹脂(A)の20℃における4%水溶液粘度の下限値は、…1mPa・s以上」との記載、及び同段落0061の「例えば、1〜300mPa・s」との記載を根拠に、訂正後の請求項9に「20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり」という発明特定事項を追加して減縮し、
同段落0106〜0107の「組成物は、砥粒を含んでいてもよい。…砥粒の中でも、…シリカ(例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ)が特に好ましい。」との記載を根拠に、訂正後の請求項9に「さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む」という発明特定事項を追加して減縮するものであるから、
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項9は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項11、17及び20〜25について
訂正事項11は、訂正前の請求項11の「請求項1〜10のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8及び10を引用するものを削除するものであり、
訂正事項17は、訂正前の請求項17の「請求項1〜16のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14及び16を引用するものを削除するものであり、
訂正事項20は、訂正前の請求項20の「請求項1〜19のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであり、
訂正事項21は、訂正前の請求項21の「請求項1〜20のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであり、
訂正事項22は、訂正前の請求項22の「請求項1〜21のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであり、
訂正事項23は、訂正前の請求項23の「請求項1〜22のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであり、
訂正事項24は、訂正前の請求項24の「請求項1〜23のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであり、
訂正事項25は、訂正前の請求項25の「請求項1〜24のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8、10、13〜14、16及び19を引用するものを削除するものであるから、
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項11、17及び20〜25は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項11、17及び20〜25は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項12について
訂正事項12は、本件特許明細書の段落0050の「ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合は、…0.2モル%以上、…10モル%以下」との記載を根拠に、訂正前の請求項12の「0.05モル%以上である」との記載部分を、訂正後の請求項12で「0.2〜10モル%である」に限定して減縮するとともに、
訂正前の請求項12の「請求項1、3〜9及び11のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜8及び10〜11を引用するものを削除するものであるから、
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項12は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項15について
訂正事項15は、訂正前の請求項9を引用する請求項15の記載を「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的として独立形式での記載に改めるとともに、
本件特許明細書の段落0053の「ビニルアルコール系樹脂(A)のけん化度は、…85モル%以上」との記載を根拠に、訂正前の請求項15の「けん化度が80〜99.9モル%であり」との記載部分を、訂正後の請求項15の「けん化度が85〜99.9モル%であり」に限定して減縮し、
同段落0059の「ビニルアルコール系樹脂(A)の20℃における4%水溶液粘度は、…250mPa・s以下」との記載を根拠に、訂正前の請求項15の「20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり」との記載部分を、訂正後の請求項15の「20℃における4%水溶液粘度が1〜250mPa・sであり」に限定して減縮し、
同段落0050の「ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合は、…特に好ましくは0.5モル%以上、…10モル%以下」との記載を根拠に、訂正後の請求項15に「側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.5〜10モル%であ」るという発明特定事項を追加して減縮するものであるから、
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項15は「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」及び「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項18について
訂正事項18は、訂正前の請求項18の「請求項1〜17のいずれかに記載」という択一的な引用記載のうち、請求項1〜16を引用するものを削除して、請求項17を引用するもののみに限定するとともに、
訂正後の請求項9又は15を引用する請求項17の記載が、請求項9又は15の「さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む」という事項と、請求項17の「さらに、pH調整剤を含む」という事項を有するものに減縮されたことにともない、訂正前の請求項18の「砥粒及びpH調整剤を含む研磨用組成物であって、砥粒がシリカを含み、」との重複記載を削除するものであるから、
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項18は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項18は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(7)一群の請求項について
訂正事項1〜27に係る訂正前の請求項1〜27について、その請求項25は直接又は間接的に請求項1〜24を引用し、その請求項25を直接又は間接的に引用する請求項26〜27は間接的に請求項1〜3及び9〜10を引用するものであって、引用関係が一体として特許請求の範囲の全部を形成するように連関しているから、訂正前の請求項1〜27に対応する訂正後の請求項1〜27は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜27による第2訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜27〕について訂正を認める。

第3 本件発明
第2訂正により訂正された請求項1〜27に係る発明(以下「本1発明」〜「本27発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜27に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり、けん化度が80〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項10】(削除)
【請求項11】単結晶シリコン基板の研磨用である請求項9記載の研磨用組成物。
【請求項12】炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.2〜10モル%である、請求項9記載の研磨用組成物。
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、けん化度が85〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜250mPa・sであり、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.5〜10モル%であり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項16】(削除)
【請求項17】さらに、pH調整剤を含む、請求項9、11、12、15のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項18】pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項17記載の研磨用組成物。
【請求項19】(削除)
【請求項20】さらに、界面活性剤を含む、請求項9、11、12、15、17、18のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項21】さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項9、11、12、15、17、18、20のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項22】さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項9、11、12、15、17、18、20、21のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項23】さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜22のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項24】さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜23のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項25】研磨対象物の表面を、請求項9、11、12、15、17、18、20〜24のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。
【請求項26】(削除)
【請求項27】(削除) 」

第4 取消理由通知の概要
1.先に通知した取消理由
令和4年7月14日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由は、次の理由1〜2及び6〜7の取消理由からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項3、6、10〜15及び17〜27に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
甲第5号証:国際公開第2017/150118号
甲第14号証:特開2012−216723号公報
甲第16号証:特開2016−213216号公報
よって、本件特許の請求項3、6、10〜15及び17〜27に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許の請求項3、6〜7、9〜15及び17〜27に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第5号証:国際公開第2017/150118号
甲第14号証:特開2012−216723号公報
甲第15号証:「Nichigo G−PolymerTM series」、日本合成、2017年8月31日改訂
甲第16号証:特開2016−213216号公報
参考例A:特開2019−195020号公報
参考例B:国際公開第2014/084091号
参考例C:国際公開第2018/043504号
参考例D:特開2009−94233号公報
参考例E:特開2016−172708号公報
よって、本件特許の請求項3、6〜7、9〜15及び17〜27に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由6〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
3(3)請求項10のケン化度の数値範囲について
3(4)請求項3の炭素数3以上の側鎖基について
3(5)請求項10の相反する物性の樹脂(B)の併用について
3(6)請求項3、9、12、15及び19の広範な数値範囲について
よって、本件特許の請求項1〜27に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由7〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
1(1)請求項27の「条件(A)」の明確性
1(2)請求項3、9、12及び15の「側鎖基の割合」の明確性
1(3)請求項26の従属関係の整合性
1(4)請求項10の類似の性質又は機能を有しない選択肢の明確性
よって、本件特許の請求項3、9及び10並びにその従属項に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由7(明確性要件)について
(1)請求項27の「条件(A)」の明確性
上記〔理由7〕で1(1)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項27に記載された「(A)26nm以上のLLS欠陥数が、直径300mmあたり700個以下」という発明特定事項は、その「研磨前の単結晶シリコン基板の表面状態」や「スラリーの流量」や「研磨布」等の研磨や洗浄の条件によって特許請求の範囲の属否が左右される性質のものであるから不明確である。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項27が削除されたので、当該1(1)の点に理由はない。

(2)請求項3、9、12及び15の「側鎖基の割合」の明確性
上記〔理由7〕で1(2)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項3、9、12及び15に記載された「側鎖基の割合」に関する発明特定事項は、その割合を「炭素数3以上の側鎖基」のみで計算するのか、あるいは「炭素数3未満の側鎖基」を含めて計算するのか、特許請求の範囲の記載において明確に定義されていないので不明確である。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項3が削除され、訂正後の請求項9、12及び15の関連記載は「炭素数3以上の側鎖基の割合」に訂正され、当該「側鎖基の割合」を「炭素数3以上の側鎖基」のみで計算することが明確になったので、当該1(2)の点に理由はない。

(3)請求項26の従属関係の整合性
上記〔理由7〕で1(3)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項25を直接的に引用する請求項26の「研磨工程において、希釈工程で得られた希釈液で研磨する、請求項25記載の研磨物の製造方法」との記載は、請求項26の「希釈液で研磨する」工程が、請求項25の「研磨用組成物で研磨する工程」に含まれる一態様なのか、請求項25の工程とは別の工程を含むことを意味するのか不明確である。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項26が削除されたので、当該1(3)の点に理由はない。

(4)請求項10の類似の性質又は機能を有しない選択肢の明確性
上記〔理由7〕で1(4)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項10に記載された「ケン化度90モル%超…のビニルアルコール系樹脂(B1)」と「ケン化度90モル%以下のビニルアルコール系樹脂(B2)」から「選択された少なくとも1種のビニルアルコール系樹脂(B)」という発明特定事項は、相互に真逆の性質であるため「発明特定事項が選択肢で表現されており、その選択肢同士が類似の性質又は機能を有しないため、発明が不明確となる場合」に該当し、特許を受けようとする発明が明確ではない。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項10が削除されたので、当該1(4)の点に理由はない。

2.理由1(新規性)について
上記〔理由1〕は、訂正前の請求項3、6、10〜15及び17〜27に係る発明についてのみ通知され、訂正前の請求項9及びその従属項に係る発明に対しては通知されていない。
そして、第2訂正による訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎として、さらに減縮したものである。
したがって、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明について、上記〔理由1〕の取消理由は該当しない。

3.理由2(進歩性)について
(1)訂正前の請求項9に係る発明に対する指摘について
第2訂正による訂正後の請求項9及び15及びその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎として、減縮されているところ、取消理由通知(決定の予告)の第38頁では『甲第5号証の段落0052(摘記5b)の「非VA単位の例としては…アルキルビニルエーテル単位…等が挙げられる。」との記載にある「アルキルビニルエーテル単位」は、炭素原子数が3のアルキル基を有するもののみを意味するものではなく、参考例Bの段落0022(摘記B1)の「ポリビニルアルコール系樹脂は…他の単量体が共重合されていてもよい。…例えば、…ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;…アルキルビニルエーテル類…等が挙げられる。」との記載にあるように、研磨組成物に用いられる「ポリビニルアルコール系樹脂」を構成する「単量体」として「ジアセトンアクリルアミド等のアミド類」などが「アルキルビニルエーテル類」と同程度に有用であることが知られているから、本9発明に進歩性はない。』との指摘がなされている。

(2)甲第5号証及び参考例Bの記載事項
ア 甲第5号証(国際公開第2017/150118号)には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1及び4〜6
「[請求項1]砥粒と、水溶性高分子と、アニオン性界面活性剤と、塩基性化合物と、水と、を含み、
前記アニオン性界面活性剤がオキシアルキレン単位を有し、
前記アニオン性界面活性剤の前記オキシアルキレン単位の平均付加モル数が3を超えて25以下である、研磨用組成物。…
[請求項4]前記水溶性高分子が、窒素原子を含有するポリマー、セルロース誘導体およびビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマーからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
[請求項5]研磨対象物が単結晶シリコン基板である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
[請求項6]請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。」

摘記5b:段落0052〜0057
「[0052]ビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマーとは、一分子中にビニルアルコール単位(−CH2−CH(OH)−により表される構造部分;以下「VA単位」ともいう。)および非ビニルアルコール単位(ビニルアルコール以外のモノマーに由来する構成単位、以下「非VA単位」ともいう。)を含む共重合体である。すなわち、一分子のポリマーのうち一部分はVA単位により構成され、他の一部分は非VA単位により構成されてなる共重合体である。非VA単位の例としては、特に制限されず、ビニルピロリドンに由来する構成単位、エチレンに由来する構成単位、アルキルビニルエーテル単位、ポリビニルアルコールとアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位等が挙げられる。
[0053]これらの中でも、非VA単位としては、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位(アルキルビニルエーテル単位)、炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位(モノカルボン酸ビニルエステル単位)、および、ポリビニルアルコールと炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位からなる群から選択されると好ましい。
[0054]炭素原子数1以下10以上のアルキル基を有するビニルエーテル単位の例としては、プロピルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、2−エチルヘキシルビニルエーテル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位の例としては、プロパン酸ビニル単位、ブタン酸ビニル単位、ペンタン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
[0055]ビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマーは、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。なお、VA単位と非VA単位との含有比率(モル比)は特に制限されず、例えば、VA単位:非VA単位(モル比)は、99:1〜1:99であると好ましく、95:5〜50:50であるとより好ましく、95:5〜80:20であると特に好ましい。
[0056]ビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマーの例として、例えば、ビニルアルコール単位およびビニルピロリドン単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびエチレン単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびメチルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびn−プロピルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびi−プロピルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびn−ブチルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびi−ブチルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位およびt−ブチルビニルエーテル単位を有する共重合体、ビニルアルコール単位および2−エチルヘキシルビニルエーテル単位を有する共重合体、ポリビニルアルコール単位の一部をn−ブチルアルデヒドでアセタール化したポリマー等が挙げられる。
[0057]上記ポリビニルアルコールおよびビニルアルコールに由来する構成単位を含むポリマー(VA単位および非VA単位を含む共重合体)は、その側鎖に親水性の官能基を有する変性ポリビニルアルコールであってもよい。かような官能基としては、例えば、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩が挙げられる。」

摘記5c:段落0140〜0141、0144〜0145及び0161
「[0140] <実施例5および比較例6〜7>…
[0141]…・水溶性高分子(ポリビニルアルコール・ポリビニルピロリドン ランダム共重合体(PVA−PVP;PVA:PVP(モル比)=90:10)、重量平均分子量:1.5万)…
[0144] <実施例7および比較例9>
表4に示される組成となるように添加した材料の種類および添加量を変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例7および比較例9の研磨用組成物をそれぞれ調製した。使用した材料は、以下の通りである。
[0145]
・砥粒(コロイダルシリカ、平均一次粒子径:24nm、平均二次粒子径:46nm)
・水溶性高分子(ビニルアルコール単位とn−プロピルビニルエーテル単位とを85:15(モル比)で有するランダム共重合体(疎水変性PVA)、重量平均分子量:1.6万)
・塩基性化合物(アンモニア水(29質量%))
・界面活性剤
各研磨用組成物の特徴を表4にまとめる。…
[0161][表4]



イ 参考例B(国際公開第2014/084091号)には、次の記載がある。
摘記B1:段落0014〜0017及び0022
「[0014]以下に、本発明にかかる研磨組成物について説明する。
本実施形態の研磨組成物は、以下のA〜C成分を含むものである。
A:下記一般式(1)で表される単量体とビニルエステル系単量体との共重合体であって、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂B:有機酸
C:pH2.0以上の溶液中で表面のゼータ電位がマイナスであり且つ等電点を持たないように表面が化学修飾された砥粒
【0015】【化2】

(但し、式中、R1〜R6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または連結基を示し、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基を示す。)を示す。)
[0016](A)ポリビニルアルコール系樹脂
本実施形態の研磨組成物は、前記一般式(1)で表される単量体とビニルエステル系単量体との共重合体であって、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を含む。
前記側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、被研磨物に対する親水性を有するため、被研磨物表面に残留砥粒や研磨カス等が付着しにくくなる。同時に、前記C成分の砥粒と併存している場合にも、砥粒が凝集することを抑制する。
[0017]本実施形態のポリビニルアルコール系樹脂の原料であるビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。
中でも、酢酸ビニルが、安価で入手しやすいため好ましい。…
[0022]尚、本実施形態のポリビニルアルコール系樹脂は、前記一般式(1)で表される単量体および前記ビニルエステル系単量体以外の、他の単量体が共重合されていてもよい。
これらの他の単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン;1,4−ジアセトキシ−2−ブテン;ビニレンカーボネート等が挙げられる。」

(3)甲第5号証に記載された発明
摘記5cの記載からみて、甲第5号証には、実施例7の具体例として、
『砥粒(コロイダルシリカ、平均一次粒子径:24nm、平均二次粒子径:46nm)0.169wt%、
水溶性高分子〔ビニルアルコール単位とn−プロピルビニルエーテル単位とを85:15(モル比)で有するランダム共重合体(疎水変性PVA)、重量平均分子量:1.6万〕0.0025質量%、
塩基性化合物(アンモニア)0.005質量%、及び
界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム)0.0002質量%を含む、
研磨用組成物。』についての発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
本9発明と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「水溶性高分子〔ビニルアルコール単位とn−プロピルビニルエーテル単位とを85:15(モル比)で有するランダム共重合体(疎水変性PVA)、重量平均分子量:1.6万〕」は、
その「水溶性高分子」が、本9発明の「水溶性高分子」に相当し、
その「n−プロピルビニルエーテル単位」に由来する側鎖基が、本9発明の「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」と異なる「炭素数3以上の側鎖基」に相当し、
その「ビニルアルコール単位」を有する「ランダム共重合体(疎水変性PVA)」が、本9発明の「ビニルアルコール系樹脂(A)」に相当し、
その「ビニルアルコール単位とn−プロピルビニルエーテル単位とを85:15(モル比)で有する」が、
けん化により生じる「ビニルアルコール単位」が85モル%であるから、本9発明の「けん化度が80〜99.9モル%であり」に相当し、
炭素数3以上の側鎖基である「n−プロピルビニルエーテル単位」が15モル%であるから、本9発明の「炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり」に相当しない。
甲5発明の「砥粒(コロイダルシリカ、平均一次粒子径:24nm、平均二次粒子径:46nm)」は、本9発明の「さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む」に相当する。
甲5発明の「研磨用組成物」は、本9発明の「研磨用組成物」に相当する。

してみると、本9発明と甲5発明は『水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、けん化度が80〜99.9モル%であり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(α)〜(γ)の3つの点において相違する。

(α)炭素数3以上の側鎖基として、本9発明は「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を少なくとも含むのに対して、甲5発明は「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を含むものではない点

(β)ビニルアルコール系樹脂(A)において、重合成分(モノマー)換算での炭素数3以上の側鎖基の割合が、本9発明は「0.05〜10モル%」であるのに対して、甲5発明は、換算すると「15モル%」である点

(γ)ビニルアルコール系樹脂(A)において、20℃における4%水溶液粘度が、本9発明は「1〜300mPa・s」であるのに対して、甲5発明は、当該粘度の値が不明な点

(5)判断
上記(α)の相違点について検討する。
甲第5号証には、本9発明の「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」について示唆を含めて記載がない。
そして、参考例Bの段落0022(摘記B1)に「本実施形態のポリビニルアルコール系樹脂は、前記一般式(1)で表される単量体および前記ビニルエステル系単量体以外の、他の単量体が共重合されていてもよい。これらの他の単量体としては、例えば、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン;1,4−ジアセトキシ−2−ブテン;ビニレンカーボネート等が挙げられる。」との記載があるものの、当該「ジアセトンアクリルアミド」を共重合体の単量体(モノマー)として実際に使用した記載がなく、参考例Bに記載の発明において、任意成分として列挙される「他の単量体」の中から、特に「ジアセトンアクリルアミド」に着目して、これを甲5発明に組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
そして、本9発明は、炭素数3以上の側鎖基として「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を少なくとも含むことにより、本件特許明細書の段落0209の表1に記載されるとおりの効果〔変性に使用したモノマーとして、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)を用いた実施例1のものにおいて、その評価結果が、LLS欠陥数“C”、ヘイズ“C”、AFM粗さ“A”となり、DAAMを用いない場合のもの(実施例8〜11及び20〜22、比較例1〜3、及び参考例1〜3のもの)の評価結果に比して、予測できない効果〕を奏するに至ったものである。
以上総括するに、本9発明と甲5発明は、上記(α)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第5号証及び参考例Bに記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(β)及び(γ)の相違点について検討するまでもなく、上記(α)の相違点に係る構成を相当することが当業者にとって容易であるとはいえない。また、本9発明は、上記(α)の相違点に係る構成を具備することにより、格別の効果を奏するものである。
したがって、本9発明は、甲5発明、並びに甲第5号証及び参考例Bに記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(6)本11〜12発明について
本11〜12発明は、本9発明を直接的に引用し、さらに限定したものであるから、本9発明の進歩性が、甲第5号証及び参考例Bによって否定できない以上、その進歩性を否定することはできない。
したがって、本11〜12発明は、甲5発明、並びに甲第5号証及び参考例Bに記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(7)本15発明について
本15発明は、本9発明と同様に、第2訂正により、訂正前の請求項9に係る発明を基礎として、さらに減縮したものであって、けん化度の範囲を本9発明の「80〜99.9モル%」より狭い「85〜99.9モル%」とし、20℃における4%水溶液粘度の範囲を本9発明の「1〜300mPa・s」より狭い「1〜250mPa・s」とし、炭素数3以上の側鎖基の割合を本9発明の「0.05〜10モル%」より狭い「0.5〜10モル%」とした以外は、同じ内容のものである。
したがって、上記(5)に示した理由と同様の理由により、本15発明は、甲5発明、並びに甲第5号証及び参考例Bに記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(8)本17〜18及び本20〜25発明について
本17〜18及び本20〜25発明は、本9又は本15発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本9及び本15発明の進歩性が、甲第5号証及び参考例Bによって否定できない以上、その進歩性を否定することはできない。
したがって、本17〜18及び本20〜25発明は、甲5発明、並びに甲第5号証及び参考例Bに記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(9)理由2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、第2訂正による訂正後の本9、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明の進歩性を否定することはできない。よって、上記〔理由2〕の点に理由はない。

4.理由6(サポート要件)について
(1)請求項10のケン化度の数値範囲について
上記〔理由7〕で3(3)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項10に記載された「ケン化度90モル%超」及び「ケン化度97モル%以上」並びに「ケン化度90モル%以下」及び「ケン化度80モル%以上」という広範な「ケン化度」の数値範囲について、当該数値範囲が発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項10が削除されたので、当該3(3)の点に理由はない。

(2)請求項3の炭素数3以上の側鎖基について
上記〔理由7〕で3(4)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項3の「水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含む研磨用組成物であって、側鎖基が、C7−30脂肪酸−ビニルエステル由来の基、C11−30アルキルビニルエーテル由来の基、ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基、及びアセトアセチル基から選択される少なくとも1種を含み」との記載にある「側鎖基」の全てが、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項3が削除されたので、当該3(4)の点に理由はない。

(3)請求項10の相反する物性の樹脂(B)の併用について
上記〔理由7〕で3(5)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項10の記載は、相互に相反する物性(ケン化度及び粘度)の樹脂を併用した場合に、上記課題を解決できることを裏付ける「試験結果」についての記載が存在せず、そのような試験結果がなくとも上記課題を解決できると当業者が認識できる「作用機序」の合理的な説明がなく、そのような「試験結果」や「作用機序」についての記載が発明の詳細な説明になくとも、課題を解決できるといえる本願出願時の「技術常識」の存在も見当たらないので、本件特許の請求項10及びその従属項に記載された範囲のもの全てが、サポート要件を満たし得る程度に、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。』というものであるところ、第2訂正により、訂正前の請求項10が削除されたので、当該3(5)の点に理由はない。

(4)請求項3、9、12、15及び19の広範な数値範囲について
ア 〔理由7〕の3(6)で指摘した記載不備
上記〔理由7〕で3(6)の記載不備として指摘した点は、具体的には『本件特許の請求項3、9、12及び15の側鎖基の割合の記載、同請求項3の20℃における4%水溶液粘度の数値範囲の記載、同請求項15のけん化度及び20℃における4%水溶液粘度の数値範囲の記載、並びに同請求項19の水溶性高分子と界面活性剤の割合の数値範囲の記載について、これら広範な数値範囲のもの全てにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件特許の請求項3、9、12、15及び19並びにその従属項に記載された範囲のもの全てが、サポート要件を満たし得る程度に、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。』というものである。

イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

摘示あ:発明が解決しようとする課題に関して
「【0006】本発明の目的は、新規な研磨用組成物を提供することにある。
【0007】また、本発明の他の目的は、研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面において微小欠陥の数を低減しうる研磨用組成物を提供することにある。
【0008】また、本発明の他の目的は、前記研磨後の表面のヘイズが小さい研磨用組成物を提供することにある。
【0009】また、本発明の他の目的は、前記研磨後の表面のAFM粗さ(AFMによって測定される粗さ)が小さい研磨用組成物を提供することにある。
【0010】本発明のさらに他の目的は、このような研磨用組成物を用いた研磨物の製造方法を提供することにある。」

摘示い:合成例1〜7(ジアセトンアクリルアミドを用いた水溶性高分子)
「【0188】(水溶性高分子)
(合成例1)
撹拌機、温度計、滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたフラスコ中に、酢酸ビニル2000部、メタノール604部、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)8.2部を仕込み、系内の窒素置換を行った後、内温が60℃になるまで昇温した。昇温後、2,2−アゾビスイソブチロニトリル1.2部をメタノール100部に溶解した溶液を添加し重合を開始した。フラスコ内に窒素流通を続けながら、ジアセトンアクリルアミド127.8部をメタノール80部に溶解した溶液を、重合開始直後から一定速度で滴下した。重合終了時に重合停止剤としてm−ジニトロベンゼンを添加し重合を停止した。重合終了時の収率は73.8%であった。
得られた反応混合物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルを留去し、ジアセトンアクリルアミド−酢酸ビニル共重合体の50%メタノール溶液を得た。この溶液500部にメタノール70部、イオン交換水2部及び水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液15部を加えてよく混合し、45℃で鹸化反応を行った。得られたゲル状物を粉砕し、メタノールでよく洗浄した後に乾燥し、PVA系樹脂(DA−PVA1)を得た。得られたDA−PVA1の4%水溶液粘度は20.5mPa・s、鹸化度は98.6モル%であった。また、DA−PVA1中のジアセトン単位含有量は4.6モル%であった。
【0189】(合成例2〜7)
重合時の仕込み配合比やケン化条件を表1又は表2記載の変性度やケン化度のPVA系樹脂が得られるように変更した以外は合成例1と同様にして、表1又は表2記載のDA−PVA2〜DA−PVA7を得た。」

摘示う:欠陥数、ヘイズ、及びAFM粗さの評価基準
「【0204】<微小欠陥検査>
(26nm以上のLLS欠陥数)
洗浄後のシリコンウエハの表面を、KLAテンコール社製のウエハ欠陥検査装置、商品名「SP3」を用いて、直径300mmあたりの26nm以上のLLS欠陥数を検査した。その結果を、以下の4段階で評価した。なお、LLS欠陥数は、直径300mmのシリコンウエハ表面の外周3mmを除外して測定した。
A:検出数100個以下
B:検出数100個超300個以下
C:検出数300個超700個以下
D:検出数700個超
【0205】(19nm以上のLLS欠陥数)
洗浄後のシリコンウエハの表面を、KLAテンコール社製のウエハ欠陥検査装置、商品名「SP5」を用いて、直径300mmあたりの19nm以上のLLS欠陥数を検査した。その結果を、以下の4段階で評価した。なお、LLS欠陥数は、直径300mmのシリコンウエハ表面の外周3mmを除外して測定した。
A:検出数250個以下
B:検出数250個超550個以下
C:検出数550個超850個以下
D:検出数850個超
【0206】<ヘイズ測定>
洗浄後のシリコンウエハ表面をKLAテンコール社製のウエハ検査装置、商品名「SP3」を用いて、DWOモードでヘイズ(ppm)を測定した。その測定結果を以下の4段階で評価した。
A:0.10ppm未満
B:0.10ppm以上0.20ppm未満
C:0.20ppm以上0.30ppm未満
D:0.30ppm以上
【0207】<AFM粗さ測定>
洗浄後のシリコンウエハ表面を原子間力顕微鏡(AFM)により評価した。座標(0mm,0mm)、(75mm,0mm)、(145mm,0mm)の3点の観察を行い、視野は30×30μm2とした。粗さパラメータはX方向とY方向で傾き補正を行った後、
二乗平均平方根高さ(Sq)を算出し3点の平均を評価指針とした。その結果を以下の3段階で表1に示した。
A:0.028nm未満
B:0.028nm以上0.030nm未満
C:0.030nm以上」

摘示え:実施例1〜7
「【0192】(実施例1)
砥粒として平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを1%の濃度で含む水溶液に、塩基性化合物としてのアンモニア(NH3)を29%の濃度で含むアンモニア水を加えてpH10.0に調整したコロイダルシリカ分散液を用意した。このコロイダルシリカ分散液に、前記DA−PVA1を液全量において100ppmとなるよう添加し、組成物(研磨液)を得た。なお、組成物中のシリカの含有量は、1%であった。
【0193】(実施例2〜7)
表1に記載の水溶性高分子を使用し、また、EOPOと記載した例については、コロイダルシリカ分散液に、EO−PO構造を有する共重合体(和光純薬工業製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.))を液全量において10ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。…
【0208】実施例1〜11、実施例20〜22、比較例1〜3及び参考例1〜3について、評価結果を表1に示す。
【0209】【表1】

【0210】表1が示すように、実施例1〜11及び20〜22では、26nm以上のLLS欠陥数が低減された。
また、実施例1〜11及び20〜22では、ヘイズが小さかった。
また、実施例1〜11及び20〜22では、AFM粗さが小さかった。」

摘示お:実施例12〜19
「【0211】(実施例12〜19)
表2に記載の水溶性高分子を使用し、また、EOPOと記載した例については、コロイダルシリカ分散液に、EO−PO構造を有する共重合体(和光純薬工業製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(160E.O.)(30P.O.))を液全量において10ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にして、組成物を得た。評価結果を表2に示す。…
【0213】【表2】



ウ 本9、12及び15発明の解決しようとする課題
第2訂正により、訂正前の請求項3及び19が削除されているところ、本件特許の請求項9、12及び15並びにその従属項に係る発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落0006〜0010の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて『研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面において微小欠陥の数を低減し、前記研磨後の表面のヘイズが小さく、前記研磨後の表面のAFM粗さ(AMFによって測定される粗さ)が小さい新規な研磨用組成物、及びこのような新規な研磨用組成物を用いた研磨物の製造方法の提供』にあるものと認められる。

エ 判断
(ア)サポート要件の判断手法
第2訂正による訂正後の特許請求の範囲の記載は、上記第3に示したとおりであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記イに示したとおりの記載があるところ、以下において、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する。

(イ)請求項3、9、12及び15の側鎖基の割合について
a 第2訂正により、請求項3は削除されたところ、訂正後の請求項9の記載は『水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり、けん化度が80〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。』というものである。また、同請求項12及び15における「側鎖基の割合」は、それぞれ「0.2〜10モル%」及び「0.5〜10モル%」である。

b これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落0192(摘示い)の記載、及び段落0209(摘示え)の表1の記載にあるように、実施例1として、炭素数3以上の側鎖基としてジアセトンアクリルアミド(DAAM)のみを、モノマー換算で4.6モル%含み、けん化度が98.6モルであり、20℃における4%水溶液粘度が20.5mPa・sであるビニルアルコール系樹脂を水溶性高分子として含み、砥粒として平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを1%の濃度で含む研磨用組成物の具体例が記載され、その段落0204〜0207(摘示う)に記載の基準での評価結果が、LLS欠陥数“C”、ヘイズ“C”、AFM粗さ“A”となることが記載されている。

c してみると、本件特許の発明の詳細な説明には、訂正後の請求項9、12及び15に係る発明の発明特定事項の全てを満たす実施例1のものが記載され、当該実施例1のものが、研磨後の表面において微小欠陥の数を低減し(段落0204に記載の26nm以上のLLS欠陥数の評価基準において「D:検出数700個超」よりも低減された「C:検出数300個超700個以下」の評価)、研磨後の表面のヘイズが小さく(段落0206に記載のヘイズの評価基準において「D:0.30ppm以上」よりも小さい「C:0.20ppm以上0.30ppm未満」の評価)、研磨後の表面のAMFによって測定される粗さが小さい(段落0207の評価基準において「c:0.030nm以上」よりも小さい「A:0.028nm未満」の評価)、新規な研磨用組成物の提供という、本9、本12及び本15発明の課題を解決できることが裏付けられているといえる。

d そして、本9発明の「炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%」という数値範囲、本12発明の「0.2〜10モル%」という数値範囲、及び本15発明の「0.5〜10モル%」という数値範囲の全範囲において、本9、本12及び本15発明の課題を解決できると認識できるか否かについて検討するに、本件特許明細書の段落0213(摘示お)の表2には、DAAMの変性度が、0.8モル%の実施例12と、6.7モル%の実施例14の試験結果が示されているので、これら発明の数値範囲の全範囲において、上記課題を解決できると当業者は類推できるといえるものであり、このような類推をすることに合理性がないとすべき技術常識の存在や技術的な根拠は見当たらない。

e したがって、当該3(6)の側鎖基の割合の記載に関する点に理由はない。

(ウ)請求項3及び15の20℃における4%水溶液粘度について
a 第2訂正により、請求項3は削除されたところ、訂正後の請求項9には『20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり』という数値範囲の発明特定事項が追加され、訂正後の請求項15における「20℃における4%水溶液粘度」の数値範囲は「1〜250mPa・s」に減縮されている。

b そして、上記(イ)cに示したように、本件特許の発明の詳細な説明には、訂正後の請求項9及び15に係る発明の発明特定事項の全てを満たす実施例1のものが記載され、当該実施例1のものが、本9及び本15発明の課題を解決できることが裏付けられているといえる。

c また、本9発明の「20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・s」という数値範囲、及び本15発明の「1〜250mPa・s」という数値範囲の全範囲において、本9及び本15発明の課題を解決できると認識できるか否かについて検討するに、本件特許明細書の段落0209(摘示エ)の表1には、4%水溶液粘度が、6.8mPa・sの実施例4と、149.1mPa・sの実施例6の試験結果が示されているので、これら発明の数値範囲の全範囲において、上記課題を解決できると当業者は類推できるといえるものであり、このような類推をすることに合理性がないとすべき技術常識の存在や技術的な根拠は見当たらない。

d したがって、当該3(6)の20℃における4%水溶液粘度の記載に関する点に理由はない。

(エ)請求項19の水溶性高分子と界面活性剤の割合の数値範囲について
a 当該(6)の「請求項19」との記載は「請求項22」の誤記であることが明らかなところ、第2訂正による訂正後の請求項22の記載は『さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項9、11、12、15、17、18、20、21のいずれかに記載の研磨用組成物』というものである。

b これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落0193(摘示い)の記載、及び段落0209(摘示え)の表1の記載にあるように、実施例4、5及び7として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(EOPO)を、液全量において10ppm(水溶性高分子と界面活性剤の質量比の割合で1:0.1)となるように添加した研磨用組成物の具体例が記載され、その段落0204〜0207(摘示う)に記載の基準での評価結果が、LLS欠陥数“A”、ヘイズ“A”、AFM粗さ“A”となることが記載されている。

c そして、界面活性剤を全く含まない実施例1のものが、上記(イ)bに示したように、LLS欠陥数、ヘイズ、AFM粗さの点で優れた評価結果にあることから、本22発明の解決しようとする課題は、界面活性剤の使用量によらず、専ら「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を水溶性高分子に含ませることで解決できるものと認識できるので、本22発明の「水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200」という数値範囲の全範囲において、上記課題を解決できると当業者は類推できるといえるものであり、このような類推をすることに合理性がないとすべき技術常識の存在や技術的な根拠は見当たらない。

d したがって、当該3(6)の水溶性高分子と界面活性剤の割合の記載に関する点に理由はない。

オ 3(6)で指摘したサポート要件の記載不備のまとめ
以上総括するに、第2訂正により、訂正後の請求項3は削除されたところ、訂正後の請求項9、12、15及び22に記載の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、当該3(6)の点に理由はない。

5.令和4年7月14日付の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)について
特許異議申立人が主張する申立理由1(新規性)は、本件特許発明1〜6、8、10〜27は、甲1〜5、11、14、16に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである(特許異議申立書の第111頁)。
そして、第2訂正による訂正後の請求項9及び15及びその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎として、さらに減縮したものである。
してみると、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明について、申立理由1(新規性)の申立は存在しない。

(2)申立理由2(進歩性)について
ア 申立理由2の概要(本9発明関連)
特許異議申立人が主張する申立理由2(進歩性)は、本件特許発明1〜27は、甲1〜5、11、14、16に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものであって(特許異議申立書の第112頁)、証拠として、次の甲第1〜16号証を提示している(なお、甲第10号証及び甲第13号証については、その公知日が不明である。)。

甲第1号証:特開2015−84379号公報
甲第2号証:特開2011−171689号公報
甲第3号証:国際公開第2015/053207号
甲第4号証:特開2015−76494号公報
甲第5号証:国際公開第2017/150118号
甲第6号証:特開2015−159259号公報
甲第7号証:特開2019−102658号公報
甲第8号証:特開2019−169694号公報
甲第9号証:「クラレポバール」、株式会社クラレ、2019年9月改訂、4頁、12〜15頁、18〜19頁、23頁
甲第10号証:“顆粒品(Jシリーズ)”、日本酢ビ・ポバール株式会社、出力日:2021年10月28日
<URL:https://j-vp.co.jp/product/pva/pdf/pva01_1.pdf>
甲第11号証:特開2014−216464号公報
甲第12号証:特開2019−112727号公報
甲第13号証:“ゴーセノール 一般銘柄”、三菱ケミカル株式会社、出力日:2021年11月25日
<URL:https://www.gohsenol.com/doc/gnrl/gnrl_01.shtml>
甲第14号証:特開2012−216723号公報
甲第15号証:「Nichigo G−PolymerTM series」、日本合成、2017年8月31日改訂
甲第16号証:特開2016−213216号公報

そして、第2訂正による訂正後の請求項9及び15及びその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎として、さらに減縮したものであるところ、訂正前の請求項9に係る発明に対して、特許異議申立人が主張する具体的な理由は『(A−6)本件特許発明7及び9 甲1〜16には、ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を側鎖基として含むビニルアルコール系樹脂の記載はない。しかし、本件明細書の実施例において、ジアセトンアクリルアミドとビニルアルコールとの特定モル比の共重合体又は、ジアセトンアクリルアミドとキサデシルビニルエーテル〔当審注:ヘキサデシルビニルエーテルの誤記と思われる。〕とビニルアルコールとの特定モル比の共重合体を用いたものは、そうでないものと比較して、26nm以上のLLS欠陥数が優れた結果となっておらず…周知のビニルアルコール系樹脂に対して何ら優れた効果を奏するものではなく、先行技術に対する貢献は認められない。本件特許発明7及び9について、進歩性を認めるにたりる効果の存在は認められない。従って、本件特許発明7及び9は、進歩性を欠如する。』というものである(特許異議申立書の第96頁)。

しかしながら、甲第1〜16号証の何れを主引用例として、訂正前の請求項9を基礎とする発明(本9及び本15発明)の進歩性を否定すべきとしているのか、特許異議申立書において明らかにされておらず、上記第1に示したように、令和4年11月24日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、特許異議申立人は、指定した期間内に応答をしていないところ、訂正前の請求項3に係る発明に対して、甲第3号証及び甲第5号証を主引用例とした理由が申し立てられていることから、以下、甲第3号証及び甲第5号証を主引用例とした場合の進歩性の有無について、それぞれ検討する。

イ 甲第3号証及び甲第5号証の記載事項
(ア)甲第5号証には、上記3.(2)アに示したとおりの記載がある。

(イ)甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1
「[請求項1]分子中に、式(1)で表される構造単位70〜99mol%及び式(2)で表される構造単位1〜30mol%を有する水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤。
[−CH2CH(OH)−] (1)
[−CH2CH(X)−] (2)
〔式(2)中、Xは炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルエーテル基、炭素数6〜10のアリール基、式(3)若しくは式(4)で表される有機基、炭素数1〜10のアルキル基を有するウレタンアルキル基、炭素数3以上のアルキレン基を有するアルキレンオキシド基、水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。〕
−C(=O)O−(CH2)m−R1 (3)
〔式(3)中、R1は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基、mは0〜3の整数を表す。〕
−C(=O)NH−(CH2)n−R2 (4)
〔式(4)中、R2は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基、nは0〜3の整数を表す。〕」

摘記3b:段落0049、0053〜0054、0062、0064〜0065及び0067
「[0049]製造例1
≪酢酸ビニルとアルキルビニルエーテル共重合体の合成≫
攪拌翼、還流冷却管、温度計、各種導入管を備えた3Lの4つ口フラスコを用意し、初期モノマーとして酢酸ビニル(日本酢ビ・ポバール社製、以下「VAc」という)375部及びn−プロピルビニルエーテル(日本カーバイド社製、以下「NPVE」という)250部、重合溶剤としてメタノールを250部を仕込み、攪拌混合した。さらに窒素導入管から10ml/minの流量にて窒素を吹き込みつつ、40minかけて混合液を60℃に昇温した。
昇温を確認後、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(和光純薬工業製、商品名「V−65」)2.0部をメタノール50部に溶解した初期開始剤の溶液を一括で加え、重合を開始した。
重合の開始と共に、滴下モノマーとしてVAc450部をモノマー導入管から6時間かけて滴下しながら重合した。一方で、2−メルカプトエタノール(以下、「MTG」という)4.0部をメタノール150部に溶解した連鎖移動剤溶液、及びV−65の8.0部をメタノール120部に溶解した滴下開始剤の溶液も、重合開始共にそれぞれの導入管から6時間かけて滴下した。
6時間重合させた後、フラスコを室温まで冷却し、4−メトキシフェノールを0.3部加えて重合を停止し、共重合体1Aを得た。この共重合体1Aの数平均分子量はMn=10,000であり、重合収率は85%であった。共重合体1Aに含まれる残モノマーは、真空ポンプをフラスコに繋いで、減圧下、50℃で加熱することでメタノールと共に除去した。
≪水溶性高分子の合成(共重合体の鹸化)≫
フラスコから共重合体1Aを抜出さずに、引き続き鹸化反応を行った。窒素導入管から10ml/minの流量にて窒素を吹き込みつつ、30minかけて混合液を60℃に昇温した。昇温を確認後、水酸化ナトリウム3.9部をメタノール75部に溶かしたアルカリ溶液を一括で加えて鹸化反応を開始した。4時間後、温度を下げて反応を停止した。溶剤をロータリーエバポレーターにてカット後、60℃で一晩真空乾燥して、黄褐色固体の水溶性高分子1Bを得た。
水溶性高分子1Bについて1H−NMRで組成を測定したところ、ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体であり、鹸化率は98.0mol%であった。…
[0053]製造例5…n−ブチルビニルエーテル…
[0054]製造例6…2−エチルヘキシルビニルエーテル…
[0062]実施例1
水溶性高分子1Bの濃度が15質量%となるように水を加え、半導体用濡れ剤を調整した。得られた半導体用濡れ剤について、耐エッチング性、濡れ性、ウェーハ外観及び耐アルカリ性の評価を行った。得られた結果について表1に示した。
また、アンモニア水を加えてpHを10.0に調整したコロイダルシリカ分散液(1次粒子系30〜50nm、シリカ固形分10%)10.0g、上記半導体用濡れ剤を0.1g添加して、研磨剤用組成物を得た。得られた研磨剤用組成物についてシリカ分散性を評価し、表1に結果を示した。…
[0064][表1]

[0065]表1に示された水溶性高分子の詳細は以下の通り。
PVA105:完全鹸化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「クラレポバールPVA105」、鹸化度98.5mol%、重合度500)
PVA505:低鹸化ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「クラレポバールPVA505」、鹸化度73.5mol%、重合度500)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(和光純薬工業社製、重量平均分子量90,000)
PVP K30:ポリビニルピロリドン(東京化成工業社製)…
[0067]本発明の半導体用濡れ剤は、研磨後のウェーハ表面への吸着性に優れるため、該半導体用濡れ剤を含む研磨用組成物を用いることにより、研磨後のウェーハ表面の平滑性を高め、かつ、COPを抑制することが可能となる。さらに、シリカの分散性も良好であることから、シリコンウェーハの仕上げ研磨用組成物として特に有用である。」

ウ 甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明
(ア)甲3発明
摘記3bの「製造例1…初期モノマーとして酢酸ビニル(日本酢ビ・ポバール社製、以下「VAc」という)375部及びn−プロピルビニルエーテル(日本カーバイド社製、以下「NPVE」という)250部、重合溶剤としてメタノールを250部を仕込み、…重合の開始と共に、滴下モノマーとしてVAc450部をモノマー導入管から6時間かけて滴下しながら重合した。…重合を停止し、共重合体1Aを得た。…フラスコから共重合体1Aを抜出さずに、引き続き鹸化反応を行った。…黄褐色固体の水溶性高分子1Bを得た。…ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体であり、鹸化率は98.0mol%であった。…実施例1 水溶性高分子1Bの濃度が15質量%となるように水を加え、半導体用濡れ剤を調整した。…また、アンモニア水を加えてpHを10.0に調整したコロイダルシリカ分散液(1次粒子系30〜50nm、シリカ固形分10%)10.0g、上記半導体用濡れ剤を0.1g添加して、研磨剤用組成物を得た。」との記載からみて、甲第3号証には、実施例1の具体例として、
『酢酸ビニル(VAc)及びn−プロピルビニルエーテル(NPVE)を重合し、鹸化反応を行って得られた、ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体からなる水溶性高分子1B(鹸化率は98.0mol%)の濃度が15質量%の半導体用濡れ剤0.1gを、コロイダルシリカ分散液(1次粒子系30〜50nm、シリカ固形分10%)10.0gに添加してなる、研磨剤用組成物。』についての発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲5発明
甲第5号証には、3.(3)に示したとおりの「甲5発明」が記載されているといえる。

エ 甲第3号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本9発明と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「酢酸ビニル(VAc)及びn−プロピルビニルエーテル(NPVE)を重合し、鹸化反応を行って得られた、ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%の共重合体からなる水溶性高分子1B(鹸化率は98.0mol%)」は、
その「水溶性高分子1B」が、本9発明の「水溶性高分子」に相当し、
その「n−プロピルビニルエーテル(NPVE)」に由来する側鎖基が、本9発明の「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」と異なる「炭素数3以上の側鎖基」に相当し、
その「ポリビニルアルコール/NPVE」の「共重合体」が、本9発明の「ビニルアルコール系樹脂(A)」に相当し、
その「ポリビニルアルコール/NPVE=77/23mol%」のモノマー割合は、
けん化により生じる「ビニルアルコール」の単位が77モル%であるから、本9発明の「けん化度が80〜99.9モル%であり」に相当せず、
炭素数3以上の側鎖基である「n−プロピルビニルエーテル(NPVE)」の単位が23モル%であるから、本9発明の「炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり」に相当しない。
甲3発明の「コロイダルシリカ分散液(1次粒子系30〜50nm、シリカ固形分10%)10.0gに添加してなる」は、本9発明の「さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む」に相当する。
甲3発明の「研磨剤用組成物」は、本9発明の「研磨用組成物」に相当する。

してみると、本9発明と甲3発明は『水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。』という点において一致し、次の(δ)〜(η)の4つの点において相違する。

(δ)炭素数3以上の側鎖基として、本9発明は「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を少なくとも含むのに対して、甲3発明は「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を含むものではない点

(ε)ビニルアルコール系樹脂(A)において、重合成分(モノマー)換算での炭素数3以上の側鎖基の割合が、本9発明は「0.05〜10モル%」であるのに対して、甲3発明は「23モル%」である点

(ζ)ビニルアルコール系樹脂(A)において、けん化度が、本9発明は「80〜99.9モル%」であるのに対して、甲3発明は「77モル%」である点

(η)ビニルアルコール系樹脂(A)において、20℃における4%水溶液粘度が、本9発明は「1〜300mPa・s」であるのに対して、甲3発明は、当該粘度の値が不明な点

(イ)判断
上記(δ)の相違点について検討する。
甲第1〜16号証には、本9発明の「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」について示唆を含めて記載がない。
そして、本9発明は、炭素数3以上の側鎖基として「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」を少なくとも含むことにより、本件特許明細書の段落0209の表1に記載されるとおりの効果を奏するに至ったものである。
この点に関して、特許異議申立人は、上記アに示したように『本件明細書の実施例において、ジアセトンアクリルアミドとビニルアルコールとの特定モル比の共重合体又は、ジアセトンアクリルアミドとキサデシルビニルエーテルとビニルアルコールとの特定モル比の共重合体を用いたものは、そうでないものと比較して、26nm以上のLLS欠陥数が優れた結果となっておらず…周知のビニルアルコール系樹脂に対して何ら優れた効果を奏するものではなく、先行技術に対する貢献は認められない。』と主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落0209(摘示え)の表1において、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)を用いていない実施例8〜11及び20〜22と全く同一の組成を有する研磨剤組成物が、本件特許の優先日前において「先行技術」として知られていたといえる根拠がないので、26nm以上のLLS欠陥数の評価が、本9発明の具体例に相当する実施例1のもので“C”であり、DAAMを用いていない実施例22で“A”であることを根拠に、実施例1のものが「先行技術に対する貢献」を有していないと結論づけることに合理性があるとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
そして、当該「表1」の実施例1〜7のものは、いずれも、26nm以上のLLS欠陥数の評価が、従来技術に相当する比較例1〜3及び参考例1〜3の“D”の評価よりも優れた“A”〜“C”の評価にあるという点で、格別の効果を奏するものといえる。
以上総括するに、本9発明と甲3発明は、上記(δ)の実質的な相違点を有するものであり、この相違点は、甲第1〜16号証に記載の技術事項をどのように組み合わせても導き出し得るものではないから、上記(ε)〜(η)の相違点について検討するまでもなく、上記(δ)の相違点に係る構成を相当することが当業者にとって容易であるとはいえない。また、本9発明は、上記(δ)の相違点に係る構成を具備することにより、格別の効果を奏するものである。
したがって、本9発明は、甲3発明及び甲第1〜16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(ウ)本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明について
上記3.(6)〜(8)に示したように、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明は、実質的に本9発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本9発明の進歩性が、甲第1〜16号証によって否定できない以上、その進歩性を否定することはできない。
したがって、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明は、甲3発明及び甲第1〜16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

オ 甲第5号証を主引用例とした場合の検討
本9発明と甲5発明とを対比すると、上記3.(4)に示したとおりの(α)〜(γ)の3つの点において相違する。
そして、甲第1〜16号証には、本9発明の「ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基」について示唆を含めて記載がない。
してみると、上記エ(イ)において示した理由と同様の理由により、本9発明は、甲5発明及び甲第1〜16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。
また、上記3.(6)〜(8)において示したように、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明は、実質的に本9発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本9発明の進歩性が、甲第1〜16号証によって否定できない以上、その進歩性を否定することはできず、上記エ(ウ)において示した理由と同様の理由により、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明は、甲5発明及び甲第1〜16号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当しない。

(3)申立理由3(サポート要件)について
ア 申立理由3の概要
特許異議申立人が主張する申立理由3(サポート要件)は、本件特許発明1〜3、9〜10は、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり、本件特許発明1〜3、9〜10で規定する範囲にまで拡張ないし一般化できないため、サポート要件を充足せず、本件特許発明4〜8、11〜27についても、同様の記載不備(サポート要件違反)が存在し、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであって(特許異議申立書の第110及び112頁)、具体的には、以下の(B−2)〜(B−7)の点を主張している。

イ (B−2)コロイダルシリカの粒子径や濃度など
特許異議申立人が主張する(B−2)の記載不備の内容は『本件明細書の実施例において、前記課題が解決できるものとして記載されているのは、平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを用いたものに限られている。…砥粒としてダイヤモンドを含む態様、粒子径が大きい砥粒を含む態様、さらには砥粒濃度が1質量%を超える態様を包含する本件特許発明1〜3、9〜10の全範囲において、前記課題を解決できるとは到底認められない。』というものである。
しかしながら、第2訂正により、訂正前の請求項1〜3及び10が削除されたところ、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明の解決しようとする課題は、上記4.(4)ウに示したとおりの 『研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面において微小欠陥の数を低減し、前記研磨後の表面のヘイズが小さく、前記研磨後の表面のAFM粗さ(AMFによって測定される粗さ)が小さい新規な研磨用組成物、及びこのような新規な研磨用組成物を用いた研磨物の製造方法の提供』にあるものであって、その課題を解決するための手段として、ビニルアルコール系樹脂(A)を構成する重合成分(モノマー)の種類や割合、けん化度、20℃における4%水溶液粘度などを工夫することで、当該課題を解決するに至ったものと認識されるものである。
すなわち、本9及び本15発明は、砥粒としての「シリカ」の「平均一次粒子径」に着目して、その粒子径の範囲を好適化することで、上記課題を解決するという技術思想に立脚したものではないから、当該(B−2)で主張される点は、本件特許の特許請求の範囲の記載が、課題を解決できると認識できる範囲にあるか否かと関係がない。
そして、上記4.(4)エ(イ)b〜cに示したように、本件特許の発明の詳細な説明には、訂正後の請求項9及び15に係る発明の発明特定事項の全てを満たす実施例1のものが記載され、当該実施例1の試験結果により、本9及び本15発明の課題を解決できることが裏付けられているので、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項の記載が、サポート要件に違反するとはいえない。
したがって、当該(B−2)の点に、理由はない。

ウ (B−3)ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基の割合
特許異議申立人が主張する(B−3)の記載不備の内容は『本件明細書実施例において、前記課題が解決できるものとして記載されているも…は、ジアセトン(メタ)アクリルアミドが3.4〜4.6mol%共重合されたビニルアルコール系樹脂を含むものに限られ…本件特許発明1〜2、9においては、ジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基の割合を何ら特定していない。』というものである。
しかしながら、第2訂正により、訂正前の請求項1〜2が削除されたところ、訂正前の請求項9について、上記4.(2)及び(4)エ(イ)dに示した理由と同様の理由により、本9発明の「炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%」という数値範囲の全範囲において、上記課題を解決できると当業者は認識できるといえるから、当該(B−3)で主張される点によっては、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項の記載が、サポート要件に違反するとはいえない。
したがって、当該(B−3)の点に、理由はない。

エ (B−4)本件特許発明2、10で特定される「ケン化度」
特許異議申立人が主張する(B−4)の記載不備の内容は『本件明細書の実施例において、前記課題が解決できるものとして記載されているもののうち、本件特許発明2、10で特定される「ケン化度…」を含むものは、けん化度87.8モル%以上のものに限られている。』というものである。
しかしながら、第2訂正により、訂正前の請求項2及び10が削除されたので、当該(B−4)で主張される点によっては、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項の記載が、サポート要件に違反するとはいえない。
したがって、当該(B−4)の点に、理由はない。

オ (B−5)ビニルアルコール系樹脂の濃度など
特許異議申立人が主張する(B−5)の記載不備の内容は『本件明細書の実施例において、前記課題が解決できるものとして記載されているのは、ビニルアルコール系樹脂の含有量が100ppmであり、塩基性化合物としてアンモニアを用い、pH10.0に調整したコロイダルシリカ分散液を用いたものに限られ…研磨用組成物において、ビニルアルコール系樹脂の濃度が1ppm〜1000ppmである態様や、塩基性化合物を含まない態様、研磨用組成物が酸性である態様を包含する本件特許発明1〜3、9〜10の全範囲において、前記課題を解決できるとは到底認められない。』というものである。
しかしながら、第2訂正により、訂正前の請求項1〜3及び10が削除されたところ、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明の解決しようとする課題は、上記4.(4)ウに示したとおりのものであって、上記4.(4)エ(イ)b〜cに示したように、本件特許の発明の詳細な説明には、訂正後の請求項9及び15に係る発明の発明特定事項の全てを満たす実施例1のものが記載され、当該実施例1の試験結果により、本9及び本15発明の課題を解決できることが裏付けられているから、当該(B−5)で主張される点によっては、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項の記載が、サポート要件に違反するとはいえない。
したがって、当該(B−5)の点に、理由はない。

カ (B−6)単結晶シリコン基板以外の基板
特許異議申立人が主張する(B−6)の記載不備の内容は『本件明細書の実施例において、前記課題が解決できると認識できるもののは、単結晶シリコン基板の研磨に用いられた態様のみであり、単結晶シリコン基板以外の基板に対して、前記課題を解決できるとは認められない。』というものである。
しかしながら、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明の解決しようとする課題は、上記4.(4)ウに示したとおりのものであって、その課題を解決するための手段に「基板」の種類は含まれていないから、当該(B−6)で主張される点は、本件特許の特許請求の範囲の記載が、課題を解決できると認識できる範囲にあるか否かと関係がない。
したがって、当該(B−6)の点に、理由はない。

キ (B−7)仕上げ研磨後のLLS欠陥数
特許異議申立人が主張する(B−7)の記載不備の内容は『本件特許発明1〜2は、…研磨前の単結晶シリコン基板の表面状態、及び、スラリー流量等の研磨に必須の条件が特定されていない。…仕上げ研磨後のLLS欠陥数は、その研磨前の単結晶シリコン基板の表面状態や、スラリー流量、研磨布等の研磨条件の影響を受けることは明らかであるから、そのような特定のない条件下すべてにおいて、本件特許発明1〜2が、前記課題を解決できるものと認識することはできない。』というものである。
しかしながら、第2訂正により、訂正前の請求項1〜2が削除されたので、当該(B−7)で主張される点によっては、訂正後の請求項1〜2及びその従属項の記載が、サポート要件に違反するとはいえない。
したがって、当該(B−7)の点に、理由はない。

(4)申立理由4(明確性要件)について
特許異議申立人が主張する申立理由4(明確性要件)は、本件特許発明1〜2は、その研磨前の単結晶シリコン基板の表面状態や、スラリー流量、研磨布等の研磨条件によって特許請求の範囲の属否が左右され、発明の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確と言わざるを得ないから、本件特許発明1〜2並びにその構成要件を含む本件特許発明4〜8及び11〜27は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものである(特許異議申立書の第111〜112頁)。
そして、第2訂正による訂正後の請求項9及び15及びその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎としたものである。
してみると、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明について、申立理由4(明確性要件)の申立は存在しない。

(5)申立理由5(実施可能要件)について
特許異議申立人が主張する申立理由5(実施可能要件)は、本件特許発明1〜2は、その研磨前の単結晶シリコン基板の表面状態や、スラリー流量、研磨布等の研磨条件の影響を受けることが明らかであり、当業者は、本件特許発明1〜2を実施するにあたって過度の試行錯誤を要するから、本件特許発明1〜2並びにその構成要件を含む本件特許発明4〜8及び11〜27は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものである(特許異議申立書の第111〜112頁)。
そして、第2訂正による訂正後の請求項9及び15及びその従属項に係る発明は、いずれも訂正前の請求項9に係る発明を基礎としたものである。
してみると、訂正後の請求項9及び15並びにその従属項に係る発明について、申立理由5(実施可能要件)の申立は存在しない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本9、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本9、本11〜12、本15、本17〜18及び本20〜25発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項1〜8、10、13〜14、16、19及び26〜27に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.05〜10モル%であり、けん化度が80〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜300mPa・sであり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
単結晶シリコン基板の研磨用である請求項9記載の研磨用組成物。
【請求項12】
炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.2〜10モル%である、請求項9記載の研磨用組成物。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、炭素数3以上の側鎖基を有するビニルアルコール系樹脂(A)を少なくとも含み、炭素数3以上の側鎖基が、少なくともジアセトン(メタ)アクリルアミド由来の基を含み、ビニルアルコール系樹脂(A)において、けん化度が85〜99.9モル%であり、20℃における4%水溶液粘度が1〜250mPa・sであり、炭素数3以上の側鎖基の割合が、重合成分(モノマー)換算で、0.5〜10モル%であり、さらに砥粒を含み、砥粒がシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
さらに、pH調整剤を含む、請求項9、11、12、15のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項18】
pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項17記載の研磨用組成物。
【請求項19】
(削除)
【請求項20】
さらに、界面活性剤を含む、請求項9、11、12、15、17、18のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項21】
さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項9、11、12、15、17、18、20のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項22】
さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項9、11、12、15、17、18、20、21のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項23】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜22のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項24】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項9、11、12、15、17、18、20〜23のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項25】
研磨対象物の表面を、請求項9、11、12、15、17、18、20〜24のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。
【請求項26】
(削除)
【請求項27】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-02-08 
出願番号 P2020-027612
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 851- YAA (C09K)
P 1 651・ 857- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
木村 敏康
登録日 2021-05-14 
登録番号 6884898
権利者 日本酢ビ・ポバール株式会社
発明の名称 研磨用組成物  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ